※前作、サムエル「二千年後まで、さようなら」のミカサ視点みたいな話
※色々テキトーな自己流設定
※継承者捏造してる
※今さらだけどネタバレ注意
旧本部の庭で会わされた少女は、どこかエレンに似ていた。
肩についたボサボサの黒髪と、見る者を射抜くような灰色の瞳。
まさか。
ミカサ 「え、エレン……?その子って……」
エレン 「ああ、俺の子だ」ドヤッ
ミカサ 「……憲兵さーん!ここに誘拐犯がむぐっ」モゴモゴ
エレン 「冗談だよ!つーかお前、俺を牢屋行きにして後悔しねえのか!?」
ミカサ 「あなたの過ちを受け入れるのも、家族のつとめ」プハッ
エレン 「なんでそんな所だけ物分かりいいんだよ!」
少女 「……」
ミカサ 「エレン、わたしはあなたを信じてる。だから正直に吐いて」
エレン 「吐いて、つってる時点でまるっきり信用してねえ!「おい」
いつの間にかいた兵長は、
わたしたちの永遠に続きそうな言い争いを、たった一言で黙らせた。
リヴァイ「こいつはさらわれてきたガキじゃねえ、さるお偉いさんのご令嬢だ。
名前はイリーナ。年は…」
イリーナ「8つ」
エレン 「そ、そうか……それで、その……イリーナお嬢様、はなんでこんな辺鄙な所に?」カチコチ
リヴァイ「様はいらねえ。何、お前らに任務を与えようと思ってな」
エレミカ「「任務?」」
リヴァイ「エレン。お前、戦線を外れて暇だろ?……寿命が近いお前でもできる仕事だ」
後半は聞こえないように小さな声で、告げる。
リヴァイ「今日一日、こいつの相手をしてやれ」
エレン 「は?相手……って」
リヴァイ「てめえの脳みそは無知性巨人より働きが悪いらしいな。子守をしろ、と言ってるんだ」
エレミカ「「子守!?」」
イリーナ「……」じーっ
リヴァイ「日が暮れたら迎えに来る。それまでせいぜいこいつを楽しませろ」
ミカサ 「ま、待ってください!どうしてわたし達が……」
リヴァイ「じゃあな」
ミカサ 「リヴァイ兵長!」
わたしの声を無視して、兵長はずんずんと庭園を進んでいく。
門の向こうにその背中が消えると、エレンは「はぁ~っ」と頭を抱えた。
エレン 「……ま、兵長だからな。諦めよう」
ミカサ 「そうと決まれば……」
イリーナ「……!」ビクッ
わたしは、後ずさったイリーナの前に立ってしゃがみこむ。
ミカサ 「はじめまして、イリーナ。わたしはミカサ」
イリーナ「……ミカサ」
ミカサ 「そして、こっちがエレン」
イリーナ「……エレン」
ミカサ 「そう。リヴァイのおじさんが帰ってくるまで、わたし達と遊ぼう」にっこり
イリーナ「う、うん」
頷いたイリーナは、胸に抱いた人形に視線を落とした。
エレン 「あ、それリヴァイ人形だろ!?」
イリーナ「!」ビクーッ
エレン 「ローゼの玩具屋で100個限定だったやつ!!すげーな!オレも買えなかったのに!!」
イリーナ「……お父さん、くれた」
エレン 「そっか!いいお父さんだな!」ワシャワシャ
イリーナ「うん……」アトズサリ
ミカサ (わたしでも分かる。エレンは子供の扱いがまるで分かってない)
◆◆◆◆
エレン 「……ん?」グリグリ
エレン 「んんん?」グリグリ
イリーナ「……」スッ
ミカサ 「よくできました。器用なのね、イリーナは」ナデナデ
エレン 「おーい、オレのはなんでワイヤーになっちまうんだ?」グチャァ…
ミカサ 「本当に技巧の試験は合格したの?」ハァ
イリーナ「……わたしの、あげる」
エレン 「えっ?い、いいのか?」
イリーナ「うん……」
お昼まで時間があるので、とりあえず庭で遊ぶことにした。
イリーナはずっと無表情で、あまり口もきかない。
ミカサ (よく見ると、口角がちょっとだけ上がってる。
ということは……少しは、楽しいと思ってくれているのだろうか)
ミカサ (分からない……子供がこんなに難しいなんて)ズーン
軽く落ちこんでるわたしを尻目に、エレンは花冠をのせてもらって
デレデレと鼻の下を伸ばしている。
……決めた。体にちょっとでも触れたらその時点で憲兵団に通報しよう。
ぐぅぅぅ~っ、ぎゅるるるる
ミカイレ「「!?」」
エレン 「……」ぐきゅるるるる
イリーナ「おなか、すいたの?」
エレン 「……はい」しょんぼり
ミカサ 「エレン。そういうのは、はっきり言ってもらわないと分からない」
エレン 「じゃあ……正直花とかつまんないんで、早く昼メシにしたいです……」グゴゴゴゴ(注:腹の音)
ミカサ (本当にはっきり言った!)ガーン
イリーナ「わかった」コクリ
ミカサ (8歳児より聞き分けのないエレンっていったい……)
【厨房】
ミカサ 「イリーナ、お皿を出して」トントントントントン
イリーナ「うん……ミカサ、上手」カチャカチャ
エレン 「……」ムッ
エレン 「おいイリーナ!見ろ、オレの方がすげえぞ!!
必殺、超高速玉ねぎ切り!!」トントントントンブ゙チィッ「いっでぇぇぇ!!」
ミカサ 「だめエレン、こらえて!」
あわてて止めたが、すでに遅く。
エレンのぱっくり裂けた指先から、シュゥゥ…と蒸気がたちのぼる。
イリーナ「エレン?…だいじょうぶ?」
ミカサ 「こ、これは手品!エレンは手品が得意なの!すごいでしょう!」アワアワ
イリーナ「……すごいね」
よかった。なんとかごまかせた。
エレン 「お前のだけブリオッシュで包んでやるよ」ギュッギュッ
イリーナ「……ありがとう」
ミカサ 「……」
椅子を踏み台にしてお手伝いするイリーナと、
サンドイッチを作るエレンの後ろ姿が、親子みたいに見える。
ミカサ (わたしも、兵士じゃなかったら)
ミカサ (いまごろは、これくらいの子供がいたのだろうか)
15か6で結婚して――夫は優しい人がいい――小さな畑のついた、家に住む。
子供は、3人くらいほしい。明るい陽ざしの差しこむ台所で、一緒にお菓子を焼いたりなんかして。
エレン 「……ミカサ?」
ミカサ 「……」はっ
ミカサ 「ごめんなさい、すこし考え事をしていた。……お昼は外で食べよう。
きっと、ピクニックみたいで楽しい」
イリーナ「……」じっ
今日はここまで。
おお、続き来てた
期待です
エレン 「うっめぇ!!何だこれ、卵か!?本当に卵なのか!?」バクバク
イリーナ「おいしい。エレンはうるさい」モグモグ
エレン 「うるさっ…」ガーン
ミカサ 「エレン、口の周りを汚して食べない」フキフキ
エレン 「やめろよ!もうガキじゃねえんだから!」
イリーナ「……よごさなきゃいい」
ミカサ 「そのとおり。文句があるなら綺麗に食べる」
エレン 「くっそぉ…」
ベチャッ
イリーナ「……あ」
白いワンピースに盛大なケチャップ染みがつく。
たしかあれは、エレンがふざけて作った20cmタワーサンドイッチ?とかいうものだ……。
イリーナ「……洗ってくる」スクッ
ミカサ 「待って、わたしも一緒に行くから」スッ、ギロッ
エレン 「?」(なんでオレ睨まれたんだ?)
【洗い場】
ザー…ジャブジャブ、キュッ
ミカサ 「ああ……これは内地で洗ってもらわないとだめかもしれない」ザバー…
イリーナ「それ」
ミカサ 「?」
イリーナ「お母さん、誕生日にくれた服」
ミカサ 「そうだったの。だったらなおさら綺麗にしないと」ジャブジャブ
>>10
ありがと
好きに書いてるから期待には添えないかもしらんけど
イリーナ「……」
桶で洗うわたしの隣で、イリーナは少しだけ暗い顔をした。
ミカサ 「……これは、わたしの勘なのだけど。
もしかして、お母さんとは一緒に暮らしていないの?」バシャッ…
イリーナ「うん」
ミカサ 「そう……あ、ごめんなさい。無神経だった」ギューッ
イリーナ「お母さんと、お兄ちゃん二人は、べつのおうち。聖キュクロの日だけ、ごはん食べるの」
ミカサ (離婚か……あまり触れない方がいい話題かもしれない)
イリーナ「わたしが生まれたから、お母さん、出ていった」ギュー
リヴァイ人形をますます強い力で抱えこむ。
よく見ると、人形の方も少し汚れていた。
ミカサ 「お父さんは優しい?」フキフキ
イリーナ「うん。朝はいっしょに走ってくれるし、かくとうとか、おしえてくれる」
ミカサ 「はい、取れた……格闘?」
イリーナ「うん」
アニのお父さんの話を思い出した。娘を鍛える父なんて少数派だと思っていたけど、
偉い人でもそうなのか。
ミカサ 「エレンは蹴り技が得意。今度教わるといい」
イリーナ「ほんと?」キラキラ
そこで初めて、彼女の目が輝いた。
格闘となると嬉しそうにするのは、アニもそうだったなと思い返す。
エレン 「おーい、いつまで洗濯……あれ、なんで下着だkぶほっ!?」ゲシッ
イリーナ「……」きょとん
ミカサ 「変態」ゲシッゲシッ
エレン 「悪かったって!もう見てない!見てないから蹴るないだだだ!!」ギリギリギリ
◆◆◆◆
ワンピースが乾くまで、ジャケットを羽織らせることにした。
そうすると、ボサボサの髪が気になってくる。
ミカサ 「髪、とかしてあげよう」スッ
イリーナ「……とかしてるよ」
ミカサ 「わたしのは一味違う。取り出したるはこの香油」ジャーン
ミカサ 「これを髪になじませて……」ヌリヌリ
イリーナ「花の香りがする……お父さんがこんなの使ってるの、見たことない」
エレン 「?お偉いさんなんだろ?」
イリーナ「身なりはぜんぜんかまわない人。いつもうっすらヒゲが生えてるし、
お風呂もきらいで、入らない」
エレン 「はあ……んなだらしねー人でも偉くなれんのか。世も末だなおい」
ミカサ 「ふふ、このボサボサの髪はお父さんゆずりなのね」シュッシュッ
イリーナ「……うん。そう」ふっ
ミカサ (あ、今ちょっとだけ笑った)
ミカサ 「はい、完成。どう?」
イリーナ「……きれい」ツヤツヤ
エレン 「なあ、どうせならちょっと結んでやったら?」
イリーナ「このままでいい。ありがとう」
ミカサ (やっぱり、女の子がほしいかもしれない。こうやって遊べるし)ナデナデ
◆◆◆◆
洗濯を終えた私たちは、望遠鏡を持って塔の展望台へ上った。
エレン 「見ろイリーナ、あれがウトガルド城。あっちがユミル港だ」
イリーナ「あれは?」
エレン 「んん?……あー、あれはレノール山脈だな。マリアを奪還した後に発見されたんだ」
イリーナ「エレンはなんでも知ってるね」
エレン 「パラディの地名なら全部分かるぜ!」ドヤァ
ミカサ 「……新しいのはほとんど、ハンジ団長が名づけたからでしょ」
エレン 「」
イリーナ「あ、すごいおっきい樹が見える。あれはなに?」
ミカサ 「巨大樹の森。私たちもよく遊びに行った」
イリーナ「……わたしも行ってみたい」
エレン 「つまんねえぞ?デッケえ樹がブワーッて生えてるだけだかんな。
奥の方行くとリヴァイ班の慰霊碑があっけど、そんぐらいだろ?」
ミカサ 「静かでいいところよ。エレンは風情が分からないから」
それと、リヴァイ班の慰霊碑にはもっときちんと参るべきだと思う。
エレン 「お前ちょいちょい心にグサッと来ること言うよな……」
イリーナ「……」
イリーナ「二人は、愛しあっているの?」
エレン 「ブフーッ!!」
突然の質問に、エレンはコーヒーを鼻から吹いた。それはライナーの専売特許よ。
エレン 「おま、どこでんなクサい表現覚えてきたんだ?」
ミカサ 「そうね。子供のころはそうなればいいと思っていたけど……」
イリーナ「?」
ミカサ 「あなたも大人になれば分かる。愛というのはいろいろな形があるもの」ポンポン
エレン 「つまり、オレたちは愛し合っているんだ」スクッ
イリーナ「???分からない…」
ガラッ
エレン 「えっ、あ、うわっ!!」
ミカサ 「エレン!!」
脆くなっていた手すりが崩れる。宙に浮きかけたエレンの腕を、つかんだのは。
イリーナ「そのまま、じっとしていて」ギュッ
エレン 「イリー、ナ……?」
ヒュォォォ…
イリーナ「……」グイッ、ドサッ
イリーナはそのまま、あっさりとエレンを引き上げた。
ずっと表情の読めなかった唇が、そこで初めてゆるむ。
イリーナ「……ここで死んでしまったら、みんながこまるから」
エレン 「おま、なに……言って」
イリーナ「わたしが食べるまで、エレンは死んじゃだめ」
――今、この子はなんと言ったの?
エレン 「ま、まさか……イリーナ、お前が」
イリーナ「そう。わたしが、"進撃の巨人"になるの」
そこで、私はやっと気がついた。
エレン。
……女性形は、エレナ。
エレナ。Elena。ちがう。マリアとローゼでは訛りが違う。
マリアでは、エレナでいい。
だけど、ローゼでは……
ミカサ 「あなたは……はじめから「イリーナ!」
そこで、下から声がかかった。
リヴァイ兵長の隣で、叫んでいる男の人。ボサボサの黒髪に、うすらひげ。
ミカサ (あ、そういえばあの人……イリーナにそっくりな顔をしている)
イリーナ「お父さん!」
ナイル 「待ってろ、今そっちに行く!」
黒いコートを翻して、中へ走りこんでいくナイル総統を、
兵長は「チッ」と軽い舌打ちをした後に追いかけた。
◆◆◆◆
居心地の悪い沈黙が、この場を支配している。
エレンはそれに耐え切れないのか、頭を整理したいのか、外へ出て行ってしまった。
私は不安をごまかすために、また暖炉に薪をくべる。
ゴォッ…
リヴァイ「そのへんにしておけ。部屋が蒸し暑くて仕方ねえ」
ミカサ 「……」チラッ
イリーナ「すぅ……すぅ……」ムニャムニャ
父親の膝の上で、安心したみたいに眠っている女の子。
この子が、その大きな顎でエレンを咀嚼する光景を想像して、
私はブンブンと頭を振った。
ナイル 「アッカーマン、イェーガー…その、今日は本当に助かった」
ミカサ 「いえ……子守は初めてでしたが、楽しい経験でした」
リヴァイ「ハンジは反対したんだがな。"食う"時に感情が邪魔をしては困る、と」
ナイル 「可愛がっていた家畜を潰す時、子供は泣くだろう。あれだ」
ミカサ 「……なら、どうして」
ナイル 「俺はむしろ、この子がエレンを食ったことを覚えていない方が辛いと思った。
そう考えているうちに、イリーナの方から"ユミルの英雄に会いたい"と
頼まれた」
ミカサ 「あの……一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
リヴァイ「なんだ」
ミカサ 「この子の名前は……その」
ナイル 「俺がつけた。"エレンを継ぐ者"という意味だ」
ミカサ 「はじめから巨人にするつもりで……!」ワナワナ
ナイル 「俺は、総統になるべきはエルヴィンだと思っていた」
ミカサ 「……?」
ナイル 「ところが、あいつが死んだせいで、辞令を受けたのは俺だった。ちょうどその日……
マーレの戦艦隊が、パラディ上陸を目指してやってきた」
ナイル 「すぐに、"超大型"と"進撃"を鎮圧に向かわせた。そこでの働きのおかげで超大型……
アルレルトへの"団長殺し"という風当たりが弱まったのは、お前も知ってのとおりだ」
ミカサ 「……」
ナイル 「壁内では開戦を望む声が高まった。いや、もはや総力戦は避けられなかった。
重すぎる決断は俺に委ねられた。執務室で頭をかきむしって考える俺に、
扉をぶち破ってきたハンジが言ったんだ。
エルディア人を一つにまとめるには、"カリスマ"が必要だとな」
ナイル 「民衆が望むのは、完全な勝利。民衆が支配者へ求めるのは、悪魔となる覚悟だ」フーッ
ナイル 「マーレに向けて宣戦布告をした日、この子が生まれた。1000人の兵を潰す代わりに
栄誉を受けたアルレルトと同じだ。私はイリーナを"巨人候補生"にすることで、
"腰抜けの総統"と嘲笑われる不名誉を回避した」
リヴァイ「代わりに嫁さんが子供連れて出てったがな」
ミカサ 「兵長は……その」
リヴァイ「ああ、お前はつまり"超大型"の継承者はいるのか?と聞きたいのか」
なんて察しのいい人だろう。はっきり口に出されると、気まずい。
リヴァイ「確かに、俺とハンジの間には5つになるガキが一人いる」
ミカサ 「だったら……」
リヴァイ「継承の頃には13歳だ。ちょうどいい。だが、それを決めるのは俺じゃない」
ギィッ…
リヴァイ「頭は冷えたか?」
エレン 「はい……あの」
リヴァイ「俺たちはそろそろ帰る。馬車を待たせているからな」スッ
ナイル 「ほら、しっかり掴まれ」
イリーナ「んー……」ムニャムニャ
娘を人間兵器にする書類へサインしたのと同じ手で、娘を可愛がれるものなのか。
『何かを変えることのできる人がいるとすれば、その人はきっと』
『大事なものを捨て去ることができる人だ』
ミカサ 「総統閣下は、"変える人"になりたかったのですか」
言ってから、あまりに不躾な質問だと気づく。
「すみません」と頭を下げた私に「師団長でいい」と付け加えた後で。
ナイル 「誰だって、そうだろう。ただ厄介なのは、決断を迫られるのはいつも唐突で、
容赦がないということだけだ」
今日はここまで
ハンジ 「どうする?もう宣戦布告しちゃったけど」
リヴァイ「マーレは中東連合との擦り合わせに忙しいらしい...まあ、しばらく開戦は様子見か」
ハンジ 「いまいち締まらない宣戦布告になっちゃったねえ。その間にこっちもやることは一杯だよ。兵器開発に徴兵制の運用に鉱山の開発に」
リヴァイ「で、どうするんだ総統様」
ナイル 「......」
◆機器
◆◆◆◆
エレン 「...なあ、帰らないのか」
ミカサ 「今日は泊まりたい。駄目?」
エレン 「ジャンが怒るぞ」
ミカサ 「そのジャンが許可していると言ったら?」
エレン 「チッ...分かったよ、今日だけな」
【夜.地下室】
ミカサ 「......」ゴロン
ミカサ 「エレン、まだ起きてる?」
エレン 「...起きてるよ」
ミカサ 「ふふ、こうやってベッドを並べて寝るのなんて、子供の頃以来ね」
エレン 「ああ、訓練兵のときは男女別だったしな」
ミカサ 「......」
エレン 「......」モゾモゾ
ミカサ 「...ジャンと、子供ができたらなんて名前をつけたいか、話した」
エレン 「あー、訓練兵の時も男子でやったな。誰が一番早く結婚するかとか、家はどこに持ちたいとか...ちなみに一番早く結婚するって言われてたのはフランツ、彼女なしならコニーだったな」
ミカサ 「一番遅いのは?」
エレン 「オレ。満場一致で」
ミカサ 「わかる気がする」
エレン 「...で、なんの話だっけ。ああ、子供の名前な」
ミカサ 「ジャンは、息子なら、マルコ...とつけたいと」
エレン 「女だったらどうすんだよ」ハハハ
ミカサ 「マルタ、にすればいいと思う。
ミカサ 「でも困った。個人的にはイアンというのも捨てがたい」
エレン 「ハンネスってのは?」
ミカサ 「酒は人を堕落させる」キッパリ
エレン 「あっ、はははは......!ハンネスさん散々な言われようだな!」
ミカサ 「今日は、気づかされたことがある。幸せなことは、想像しているだけで楽しい」
エレン 「......」
エレン 「オレは...こういうこと言うと怒るかもしれないけど、イリーナに食べられるんなら、いいと思う」
ミカサ 「!」
エレン 「あいつはきっと、オレより上手に巨人を操れる。今、何をすべきか...それがちゃんと分かる子だから」
エレン 「それが分かっていないから、オレはいつも感情が先に走って...」
エレン 「沢山の人と......別れた」
目を伏せたエレンは、背中を向けて「ミカサ」と優しい声音で呼んだ。
エレン 「お前がすべき事は、もうちゃんと分かってるな?」
ミカサ 「...うん」
エレン 「忘れるな。オレはいつでも、お前の幸福を願ってる。お前を愛している」
ミカサ 「うん...」
その二日後、私はレベリオ収容区へ向けて出発した。エレンの祖父母がいると聞いてはいたが、それを思い出したのは全てが終わったあとだった。
◆◆◆◆
切ります
ドォォーーン…ゴォォ…ヒュルルル
ドォォーーーン!!!
ミカサ 「……っ、!」グラグラ
地響き。轟音。それがとめどなく襲いかかる。
巨人と対峙する時とは質の違う恐怖が、足元から背筋を伝ってくる。
バサバサ…
モブ兵 「鳩だ!分隊長、軍鳩が来ました!」
ミカサ 「左足に信書管がついているはず。外して」
モブ兵 「はい!」カサッ
鳩を捕まえた兵士が、小さな紙を渡す。
ミカサ 「この鳩は、"フロイデンベルク"……シガンシナ衛生班の鳩ね」ペラッ
ということは、これを放ったのはサムエルか。
内容は、かなり深刻。マーレの攻撃で調査兵団の補給班が入れず、物資が不足しているらしい。
モブ兵 「よくやったぞ、フロー。あの砲撃の中を飛んでくるとはな」ヨシヨシ
ミカサ (一刻も早く、レベリオ収容区の解放を終えなくては……
私たちがシガンシナへ向けて動けば、マーレ軍も撤退するはず)グシャッ
戦車兵 「アッカーマン分隊長、指示を!」
突撃兵 「いつでも行けます!」
ミカサ 「作戦は続行する…超大型の突撃でマーレ軍の前衛を破壊して。
遊撃隊は右翼から、固定砲班は左翼の塹壕からそれぞれ攻撃行動に入れ!」
全員 「「「了解!!」」」
わたしの号令で、兵士たちは一斉に動き出す。
手のひらにじっとりと汗がにじんだ。彼らの生死を握るのはわたし……。
いや、指揮官が弱みを見せてはいけない。
自分にそう言い聞かせて、なんとか持ちこたえる。
アルミン「ミカサ、ここは頼んだよ」
ミカサ 「分かった……死なないで」
アルミン「安心して。大丈夫だから」
アルミンはにっこりと頷いて、小さな立体起動で飛び出した。
アルミン「始祖ユミルよ、エルディアに勝利を……!!」
空中に舞い上がった彼は、『ガリッ』と親指のあたりを噛みちぎる。
――カッ!!
超大型 『グォォォォォ……』ブワアッ
超大型 『グォアッ、ガアアッ!!』ズシーン、ズシーン…
グググ…
飛行艦をつかんだアルミンは、それをバキッと真っ二つにへし折った。
そのまま手を払って、敵軍の装甲車をなぎ払う。
モブ兵 「すっげえ!!アルレルト隊長がやってくれたぜ!!」
モブ兵 「いっけえええ、隊長!マーレの奴らをぶっ潰せえ!!」
ワーワー
ドーン…ズシィィン……
◆◆◆◆
戦闘は、超大型を投入した瞬間に終わった。
瓦礫の中にはためく自由の翼。その向こうで、収容区の人々が集まっている。
ミカサ 「みなさん、安心してください。私はあなた方の同胞で……」
サシャ 「危ない!!」バッ
――ガツンッ!
ミカサ 「!?サシャ!!腕から血が……」
サシャ 「ううっ…だいじょうぶ、ですよ……これくらい」ボタボタ
わたしに当たるはずだった石は、割って入ったサシャに傷をつけた。
石の飛んできた方角を見ると、一人の少年が荒い息をついて私たちを睨みつけている。
少年 「よくも俺たちの故郷を壊してくれたな、悪魔の末裔め!!」
少女 「出てけ、悪魔!!」ビュンッ
腕章をつけた戦士候補生らしき子供たちが、次々に石を拾っては投げる。
ミカサ 「や、やめて……落ち着いて!私たちは、あなたがたを解放するために……」
女性 「解放ですって?私たちの祖先がどれだけの悪行を重ねたか知ってるの?」
男性 「さすが、島の悪魔どもは考えることが違うな!」
老人 「わしらは善良なるエルディア人として、マーレのため働いてきた……その報いがこれとは」ヤレヤレ
住人たちは皆、私たちに憎しみのこもった瞳を向ける。泣いている人もいた。
ミカサ 「ど、どうして……」
アルミン「……ミカサ、シガンシナへ帰ろう。休息が必要だ。彼らにも……僕たちにも」
◆◆◆◆
シガンシナへ帰る艦の中、私たちはずっと無言だった。
腕の手当てをしたサシャすら黙っている。
甲板に出たところで、シガンシナを包囲していたマーレ軍が撤退したと鳩が知らせてきた。
サシャ 「……よかった」ホッ
ミカサ 「腕の怪我は内緒で…本当にいいの?」
サシャ 「はい…」
サシャ 「……」
手すりにつかまったサシャが、静かに海を見つめる。
彼女はよく、こんな風に思いつめたみたいな表情をするようになった。
ミカサ (いっそ、私みたいに身勝手に生きられたらよかったのに)
だけどコニーは、自分だけ生きることを良しとしない人だから。
部下が撤退するのを見届けて、巨人の顎に噛み砕かれた。
コニー 『なあミカサ、お前……やっぱ、兵士向いてねえと思うわ』
ミカサ 『どうして?』
コニー 『こういう事言うとお前、怒るだろうけどさ。お前、エレンの事以外どうでもいいだろ。
ぶっちゃけ、人類みんな滅んでも、エレンが生きてりゃノーカンって部分あるだろ』
ミカサ 『それは……』
コニー 『もしエレンと天秤にかかるのが俺たちだったら、お前はどうすんだ』
ミカサ 『!』
コニー 『ほら、すぐ答えらんねえ。きっとお前は大事な所でエレンを選ぶ。
それで仲間の誰かが死んでも、たぶんその時しか悲しまねえ。お前はそういう女だ』
コニー 『自由の翼は、お前には重すぎるんだ』
それが、コニーと交わした最後の会話だった。
ザザーン…
サシャ 「あ、パラディ島が見えてきましたよ!」
ミカサ 「見て、陽ざしが当たって……島がバラの花みたい」
サシャ 「おおー…情緒的ですねえ」ウットリ
サシャ 「……」
サシャ 「私……"あれ"が終わったら、サムエルに求婚しようと思うんです」
ミカサ 「……そう。それがいい。コニーが言っていたのだけど……あなたは、一人では生きられないから」
サシャ 「心配かけましたね」
ミカサ 「あなたはそろそろ、自由に飛べない翼を折っても、許されると思う」
ボー…
汽笛が短く鳴った。
港で整列する兵士たちが、一斉に帽子を振る。
ジャン 「ああ、くそっ。鳩を放ったのに、入れ違いになりやがった」
髪をかきむしって悪態をつくジャンが、「さっさと下りろ!」と甲板の私たちに手を振る。
艦を留めて、タラップを下りる私に、ジャンは急いで走ってきた。
ジャン 「落ち着いて聞けよ。……継承の日どりが決まった」
ミカサ 「……っ、」
ジャン 「いいか、今回ばかりはお前のワガママなんか聞いてらんねえぞ。もし――「わかってる」
ミカサ 「分かっている……いいえ、ずっと前から、本当は分かっていた……」
何か言いたげなサシャに背を向けて、歩き出す。
一足先に戻っていたアルミンと合流して、シガンシナへ報告に行かなくては。
バタバタ…
ふと見上げた空に、鳩が飛んでいた。あれが入れ違いになった鳩だろうか。
銀色の信書管をつけた鳩は、着陸を求めて旋回している。
それが一瞬だけ、緑のマントをはためかせたエレンに見えた。
ミカサ (動悸はおさまった。頭も十分すぎるほど冷えている。全て、異常なし)
ミカサ (私は飛べる)
ミカサ (飛べる。飛べる。――まだ、飛べる)
【終】
とりあえずこれで終わり
書きたいのだけ書くと色々粗がヤバい
こんなんでも読んでくれた人には感謝しかないです
ありがとう
このSSまとめへのコメント
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