そだちカーブ (44)

化物語のssです。

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良く晴れた日に

私と阿良々木がキャッチボールをしている

なぜだ?

もし誰かいたとしても

聞いてもだれも答えてくれないだろうし

聞ける人なんていないし

自分しか知らないことを自分も知らなかったら

どうしたらいいのだろう


暦「早く投げてくれないか」

私はボールの縫い目を見つめていた

遠くで子供達の声が聞こえる

あの子達はキャッチボールをしたことがあるだろうか?

私は少なくとも記憶のなかには無い

子供なら絵日記の宿題のように思い出せるだろう

というか書いた記憶がない。絵日記

昔書いたら嘘しかかけなかっただろうな


暦「老倉ぁ」

もちろん私は無視をしていたい

だか、ボールをぶつけてやりたい気持ちもある。あいつに

・・・結構遠いなあいつは

どのくらい力を込めればどこまで届くかわからない

何回も失敗した

力んだボールはいくつも地面を叩いた

あいつがバッターだったらデッドボールを投げて

目の前から消し去ってやるのに

ぶつけてやるからとっとと前に進め

こうなると、いつも思う

根拠の無い自信が、いつも自信になっていると


暦「おーい」


足を踏み出し

少し前を思い出す

それ以上は無理だから

今日は

どうしよう

なにもしたくない

瞬きすることで精一杯だ

バイトにまた落ちたからなのか

未だに友人がいないからなのか

それとも日曜日にこんな遅くまで寝てしまったからだろうか

やること1個もないからなのか

違う、全部違う

阿良々木の家にいるからだ

なぜ私なんかがこの家にいるのかは阿良々木にでも聞いてほしい

ともかくもいる

どこにも行くところはない

ゴロゴロしている

もう一度、目を閉じて1人ならば嬉しい

1人だ。嬉しい

目を閉じる前から実はそうなのだけれど

いまこの家には誰もいないはずで

自分の家ではない家で留守番(自主的にだが)をすることは

結構きついものがある

下手に動くことはできない

いや動いていいんだけれど、無理だ

何かに触ったら怒られそうだし

盗みを働いているみたいに思われたら

・・・いや思われないのだろう

例えば私が居間でテレビをみていて

だれかが帰ってきたら・・・つらい

昼間から何やっているんだろうって

・・・これは思われるかな

可哀相な子と思われるているだろうと

勝手に意識して動けなくなる

よくあることだ

それなら勉強だ、勉強。それならまだ普通に見える

うん。そうなんだ勉強って。ずっと前から思いついてる

それを私が実行しないのは

勉強道具を阿良々木の部屋に置いてきたからだ

資格の参考書を置いてきてしまった

いきたくない

すごくいきたくない

でも仕方が無い。私の人生はそんなものだ

よくあることだ

行こう。それで

阿良々木の部屋に入っているときに

誰かに見られたら窓から飛び降りよう

裸足でもいい

私がこの部屋に勝手に入ったことは

誰にも気付かれたくないし、自分の記憶からも消し去りたい

どうしたら部屋の物にまったく影響を与えずに

物を持ち出せるか、エントロピーはそのままにしたい

だからこの後の私の行動は無かったことにしたい

私は

グローブを見つけた

野球の

ただバットもボールもない

この後の私は

懐かしい匂いを嗅いでみる

感触を確かめる

噛んでみる

顔を覆ってみる

などを行い

その暗い視界の中で

なにをしたいのだ


阿良々木「老倉?」


窓から足を出した時点で腕を掴まれて

視界は更に暗くなっていく

ねえ、阿良々木。私に勉強を教えてなんて

違う。グローブで顔を覆う理由にならない

理由なんてあるか


暦「なあ老倉?どうしたんだ?」


どうもこうもない


暦「グローブ?なんでだ?ピッチャーか?」


暦も大分混乱しているようだ。私のほうが混乱しているが

私は人に可哀相とか心配されることが

一番嫌いだ

これが間違っていることは分かっている

暦「なあ喋ってくれよ」

暦「サインか?サインがいるのか?」


落ち着け阿良々木

まあ、阿良々木から見たら部屋に入ってきた

居候がグローブをかぶっていて

そいつが一言も喋らなかったら怖いだろうな


育「阿良々木」

暦「なっ何だ?」

育「・・・ボールはないの?」


今日始めて出た言葉だ

これも間違っていることは分かっている

落ち着け、大丈夫と自分に言い聞かせる

全部間違ってるから大丈夫だよと

駅前のスポーツショップにいる

そう、順調に間違っている


育「どのボールがいい?」

暦「そうだなあ」

育「これは?」

暦「それは硬式だから。痛いな」


痛いのはいやだ


育「高い」

暦「いや、どんなのが欲しいんだよ?」

育「いや・・・」

何も要らないのだけれど

ここに欲しい物はないって言ったらもっと訳が分からなくなる

私がすごく良いボールを求めている人にみたいになってしまう

こんな羽目に・・・阿良々木が


育「何でボールがないの?」

暦「いっぱいあるだろ?」

育「違う」


なんで阿良々木はグローブは持っているのにボールは持っていないんだよ

と聞いてみたくなって、すぐにやめた


暦「そりゃあ・・・僕のボールはどこかにいったんだよ」


伝わって欲しくない意図は伝わり易く、そうでないときは全く伝わらない

育「大変ね」

暦「大変じゃないけどさ」

暦「昔、失くしたからな」

育「そうなんだ」


もういいよ

昔から私達は友人がいたことなんて、ほぼ無いのだから

私はボールのコーナーから遠ざかって、もう帰りたい

帰って勉強でもしようよと言えたらいいのに


育「グローブも色々な種類があるんだ」

暦「ポジションによって違うんだよ」

育「ポジション」


キャッチャーとかピッチャーとかそういうやつか

阿良々木の家で見たグローブはどれだった?

暦「別にキャッチボールするだけなら安いやつでいいんじゃないか?」

育「キャッチボール?」

暦「・・・老倉はしたことあるか?」

育「何を?」

暦「キャッチボールをだよ」

育「・・・阿良々木は誰とキャッチボールをしていた?」


本当にどうでもいいことで私と阿良々木は哀しい気持ちを

引き出しあってどうすんだと思って虚しくなる

そして思い余って

グローブとボールを買ってしまった

お金無いのに

暦「いいグローブだと僕は思うよ」

育「ああ・・・そう」


訳の分からないフォローをしてくるのだから


育「どんな風に?」

暦「ええっと」


答えられるのか?答えられないだろう


暦「いっいい球が投げれそうだ」

育「いい球?良い球って私やったことないって」

暦「えっ僕は野球に興味があるのかと思ってたのだけれど」

育「別に」


駄目だ

暦「それなら何でグローブ買ったんだ?」


だから駄目なんだ


育「・・・」

暦「えっと・・・それじゃあ帰るか?」


私がグローブを買った理由をお前が知る必要は無いもの


育「阿良々木」

暦「なんだ?」

育「お前は私に色々買わせて使わせてもくれないのか?」

暦「えっ?急になんだ」

育「悪いのか?」

暦「買ったばかりのグローブってすごく固いんだぞ?」

育「それが?」

こういったやり取りがあり、私と阿良々木は広場に向かった

軟式用というボールを買ったが

始めて握ったボールは思ったより重くも軽くもなかった

意外とうまく投げれるのではないかと想像する

育「ボールは?」

暦「ボール?」

育「どう持つ?」

暦「ええっとこうだ」

育「ありがとう」

暦「あっああ」

育「投げるから、下がってくれない?」

どんなに力を込めたかはわからないが

阿良々木のグローブにボールは入らなかった

阿良々木を越えて逸れる


育「初めてやったんだよ」

暦「知っているって」


阿良々木がボールを追いかける

私も少し追いかけてみて

後ろ姿に・・・罪悪感を感じるな


育「ジャンプすれば」

暦「とれねーよ」

わざとではないのだけれど


暦「力が入りすぎじゃないのか?」

育「ああそう」


次はワンバウンドして、これも受け取られることは無かった

また阿良々木が走る

キャッチボールってこんな感じなのかな

暦「そんな顔するなって」

暦「大丈夫だ老倉。きっとうまくいくさ」


うるさいって

阿良々木の顔を目掛けて投げた球はグローブに入ったようだ


やったぁー!

育「やったぁー・・・」

思ったより大きい声を出したつもりが

想像以上に小さい

暦「すごいじゃないか老倉」


うるさいって


暦「もう一回投げようぜ」

育「そう?」


阿良々木がさっきから返してくる球を

受け取ることはできる

ゆっくりの下手投げだから

放物線を描いて帰ってくる

私はずっと渾身の上投げだ

暦「老倉の球って自然とカーブになるんだな」

育「才能があるってこと?」

暦「クセがあるってことだ」

育「そう」

育「直したほうがいい?」

暦「いいだろう」


どっちの意味だろう?

兎に角、阿良々木は

真直ぐ投げる投げ方を教えてくれないんだ

暦「そろそろ休憩にしないか?」

育「いいけど」

暦「水を買ってくるからさ」

育「買ってくれば」

暦「おう」


小さくなる後ろ姿にボールを投げたくなったが

我慢だ。当たらないから

もっと上手くなったらやってみよう

阿良々木のグローブに目を落とす

改めて感触を確かめている

暦「ほら」

育「いいって」


頼んだ訳じゃあないのに私の分まで買ってくるな

だったら私も買いに行ったよ


暦「いや、こんなに飲めねーよ」

育「いくら?」

暦「いいって」


阿良々木は勝手にグローブにペットボトルを入れる

冷たさが解らない


暦「やっぱり買ったばかりのグローブって使いにくいだろ?」

育「いや別に」

暦「僕のグローブ使っていいぜ」

育「なんで?」


阿良々木は私のグローブは着けて、私は阿良々木のグローブを着けたままになった

暦「魔球投げてくれよ」

育「魔球?」

暦「魔球って知らないか?消える魔球とかさ」

育「阿良々木は投げれるの?」

暦「何回か練習したことはある」


なんでそんなことするんだ阿良々木

育「・・・阿良々木」

暦「ん?うわ!」


隙を突いて適当に握って投げたボールは

草むらに消えた

ずっと見ていたのに

そこに無いのはなぜだ

消えた魔球と言いたくてやめた


暦「どこ行った?」

育「そこらへんだと思うけど」


2人で草むらを見ている

暦「悪かったよ」

育「何で!?」


悪かったのは私だろ


暦「いや無茶言ったからさ」

育「だったら最初から言うなよ」

暦「そうだな、悪かった」


育「阿良々木は昔、野球をやっていたの?」

暦「いや、でも練習はしていたな」

暦「ボールをひたすら壁当てしててさ」

育「壁当て?」

暦「壁にボールを当てて返ってきたボールを取るだけだ」

育「何が楽しいの?」

暦「楽しくなかったな・・・あった」

ボールが見つかって良かった

公園というか広場には人がある程度いて

私は色々なことを考えた

阿良々木が楽しくなかったと言ったことと

私の全てがうまくいった場合の可能性を想像する

もっとうまく話せていたらとか

昔からこんなことをしていたらどうだっただろうとか

そもそも最初の一言からちゃんと話せていたら

これからはどうだろうか等を

どうして間違えはすぐ分かるのに

合っているとはすぐ思えないのか

とりあえずグローブが音をたてる

声は大きくしないと届かない距離になっている

疲れるな


育「野球って何人でやるものなの?」

暦「1チーム9人だけどな」

育「無理だね」

暦「無理だな」

暦「そんなに知り合いいないからな」

育「私のほうがもっといない」


大きな声でそんなことを張り合っても仕方ないけれど

それに、私は私達がそんなでもかまいはしない

暦「サイン決めようぜ、僕が出すからさ」

育「何言ってるの?」

暦「サインってあれだよ、ストレートとかカーブとかフォークを投げるサインだ」

暦「キャッチャーが出す球種を決めるサイン」

育「いや、やらないし」

暦「おっおう」

育「・・・阿良々木はキャッチャーがやりたかったんだ?」

暦「そんな訳じゃあない」


そんな訳じゃなかったらなんなのだ

嫌がらせに私は阿良々木が投げる前にグーとかパーとかやってみる

その表情に私と阿良々木はもっと距離をとる

もっと聞こえないはずだ


育「私は1人でいるよ」

育「1人でちゃんとする」

育「それでもちゃんとするし、約束する。前にも言った?」

育「募金とか、献血とかボランティアとかもやって」

育「困っている人を助けたり」

育「目付きが悪い人だとか、変な人が来たって思われても構わない」

育「笑えばいいよ。気にしない」

育「嘘じゃない」

育「そんなことができてもどうだって話で」

育「わかる?阿良々木」

育「もうグローブは噛んだりしない」


聞こえていない

わからなくていい

私が言ったことは全て間違っていると思っていい


遠くの阿良々木の表情が嫌いだ

暦「今日はありが


言い終える前に投げる

今日、何度もやったが今度も

思い切り力を込めたボールは取れないくらい高く

もちろん取られなくて

阿良々木を走らせる


暦「なにやってんだ老倉」

育「阿良々木が下手なんじゃない?」


無理を言って

駆け寄らないから追いつかない


育「阿良々木とキャッチボールなんて考えられない」

育「どんなに昔から今を想像したって同じ」

育「ずっと前から知っていたことを分かっていたら」

育「ずっと前からグローブを持ってたことは知っていたけどね」

育「全然使ってなかった」

育「なんで嫌なんだろう」

育「お前が1人でも私が1人でもどうでもいいのに」

遠くで阿良々木の口が動いた


暦「もしかして僕のために今日は付き合ってくれたのか?」





育「えっ?なに?」


きこえたい

なら死んでしまえ

私達は互いに言ったことは聞こえない

今度はお弁当でも作って

・・・今度はないだろうな

阿良々木が近づいてきたら

育「さっき何か言った?」

暦「ああ・・・いや」

育「阿良々木もちゃんと投げない?」

暦「いいのか?」

育「ピッチャーやりたかったんでしょ?」

暦「何で?」

育「グローブがね」

暦「・・・大丈夫だよ僕は。老倉、疲れただろ?今日はもう少し投げたら家に帰ろう」

暦「また、いつか今度やろうぜ」

わかるまでに

わかることがあるだろう

わからないことがわかるまでの時間が

どれくらい重要かな

間違えもずっと繰り返せるものだと思っていた

繰り返し続けていけるものなどなにもないとわかるまでは

残ったグローブはずっと持っていることになるだろう

使わないだろうけど

昔を思い出すには恰好のものだ

それがどんな思い出であれ

阿良々木が持っていたピッチャー用のグローブで

阿良々木のサインを待つ

阿良々木がサインを出す

全くわからない

目が悪くなったな

めがねでも買おう

それでも頷いてやる

阿良々木も頷いた

どんなサインをだしているのか

どんなサインを受け取ったのか

互いにわからないだろうに

もう手も疲れて

これで最後にしようと思う

これが最後にしようと思う

もうこの世のどこにも親と遊んだ記憶がないくらいの私だ

魔球を投げてやる。お前が望むなら

私が子供のうちにボールを投げる

色々な記憶が現れては消える

それが取捨選択さえできないのなら

思い出はグシャグシャになりながら

子供の内の思いは放り投げてしまって

できるのなら

子供の内の思いは誰かに預けておくのがいい

思い切り投げたボールは少し曲がりながら

軽い音を立ててグローブに収まる

変化の最高点での変化量は0だ

そんなことを一瞬思い、同時に

良い球を投げられるのだなと

私は思った

これで終りです。ありがとうございました。

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