響「765プロでいちばん頭がいいのは」 (33)

春香「突然どうしたの響ちゃん」

響「ふと気になったんだ。誰なのかなって」

春香「少なくともお前ではないと思うよ」

響「春香も気にならないか?」

春香「え、まあ」

春香「今のは聞こえてなかったのかな」

響「春香は誰だと思う?」

春香「イメージだと律子さんとか?あ、でもプロデューサーさんも眼鏡だしなかなか」

響「はあ…」

響「はあ、春香、違うぞ。そうだけどそうじゃない」

響「あってるけど全然駄目だぞ。はあ……」

春香「えっと、どういうこと?」

春香「うぜえ」

響「自分の言ってる頭の良さっていうのはな、例えば学校の成績とかそういうのじゃなくて」

響「柔軟な発想力?とかとっさの判断力?とか、そういうのだぞ」

春香「そういうのなんだ」

響「うん!」

響「そういう点では亜美真美なんかも頭が良いと思うんだ」

春香「なるほどね。確かにそうかも」

春香「つまり頭の回転ってことだね」

響「え、うん……?」

響「……?」

春香「響ちゃん」

響「なに?」

春香「頭はぐるぐる回らないよ?」

響「春香は誰がいちばんだと思う?」

春香「あーもう」

響「っていうか自分だと思わない?」

春香「微塵も思わないよ」

響「でも、でも!自分って、家にたくさん家族がいるでしょ?」

春香「はい」

響「だから、何かアクシデントが起こったりすることも日常茶飯事で」

響「そういうのに対する対応力?は、かなりのものだと思うんだ!」

春香「はい」

響「だろ!?そう思うだろ!?」

春香「毛ほども思わないよ」

響「例えば家を飛び出したいぬ美を探し出したり!」

響「家を飛び出したネコ吉を探し出したり!」

響「家を這い出したワニ子を探し出したり!」

響「家を飛び立ったオウ助はまだ見つかりません」

春香「はい」

響「便座のふたを開けたら中でハム蔵が溺れてたり!」

響「あ、もちろん助けたぞ!」

響「自分ものっぴきならない状況だったから先に用をすませたけど」

響「ちゃんと助けたに決まってる!」

春香「そうなんだ」

春香「馬鹿なの?」

響「ふたを開けたところで気付いて、便座に腰をおろして、それでまあ」

響「水を流したあとにギリギリ思い出したぞ」

春香「ぎりぎりアウトだったんだ」

響「ハム蔵はなんとか抜け出してきたんだけど」

響「なんでかその日以来、毎日カレーを食べたがるんだよね」

響「なんでだろ?」

春香「響ちゃんちのスカトロ事情に興味はないよ」

春香「馬鹿野郎」


千早「春香、あまりそういうことを言うものではないわ」

千早「たとえ我那覇さんが、周囲が哀れみを禁じえないほどの残念な頭脳の持ち主で」

千早「その上『家族』と呼ぶまでに愛情を注いでるペットたちに自分の糞尿をぶちまけて興奮を覚える性癖を持っていたとしても」

千早「そのことを公衆の面前で指摘してのけるようでは春香の品性までもが疑われてしまうわ」

響「自分、断固としてそんな変態じゃないぞ!」

響「強いて言うならハム蔵が変態だ!」

千早「それなら我那覇さんは、嬉々として変態を頭上に掲げている変態ということになるわ」

千早「それでもいいの?」

響「うーん……ハム蔵はどう思う?」

ヂュィッ!ヂュヂュィッ!

響「そうかー」

春香「響ちゃんよちはハム蔵と千早ちゃんの方が頭がよさそうだ」

×春香「響ちゃんよちはハム蔵と千早ちゃんの方が頭がよさそうだ」
○春香「響ちゃんの知性は鼠や板にも劣っているようだね」


千早「ところで何の話をしていたの?」

春香「えっと。何だっけ」

春香「ずいぶん遠くに来てしまった気がする」

響「うちの事務所でいちばん頭がいいのは誰なのか、だよ」

響「もちろん、それは自分だぞっていうのを前提で話してたんだけどね」

春香「あー確かそんなのだったね」

千早「なるほど」

千早「我那覇さんは、完璧超人だものね」

響「そうそう!千早はわかってるなぁ!」

千早「我那覇さんは、何でもできる完璧超人だもの」

千早「頭だって良いに決まってるわ。当然よ」

響「千早ぁ、いくら本当のことでもあんまり言われると照れるぞ…」

千早「そんな何でもできて美人で聡明で完璧な一本糞の我那覇さんにお願いがあるの」

響「ん、何?」

春香「千早ちゃんもなんだかんだ口汚いよね」

千早「私、一本那覇さんですら解くことができないほどひねくれた問題というものを見てみたいわ」

千早「どうかその何でもできる自慢の頭脳で、自分自身にすら解けない難問というものを作ってみてほしいの」

響「そんなの簡単だぞ!自分完璧だからな!」

響「うーん……難問難問……」


春香「終わったね」

千早「そうね」

千早「その難問を作れるにせよ作れないにせよ、それは我那覇さんが完璧でないことを証明する形になるわ」

千早「おそらく、その事実に気付いた瞬間に彼女の自我は崩壊」

千早「行き場を失った力場が周囲の全てを巻き込んだ大爆発を引き起こすでしょう」

千早「世界は滅亡するわ。文明なんて初めからなかったみたいに、跡形もなく」

春香「千早ちゃん、本当にこれでよかったのかな?」

春香「私たち、他にもっと…」

千早「春香」

千早「振り返っては駄目よ」

千早「過去を後悔して、現在を否定して、未来を諦めて…」

千早「そんなのは馬鹿がすることだわ」

千早「私たちは十分な反省を重ねた上で、すでに決断してしまったの」

千早「今さら後戻りなんてできない」

春香「千早ちゃん……」

千早「……」

千早「……最も、そこで思考を停止させてしまうのも愚か者だわ」

千早「目的を果たすためには、常に頭を働かせていなければいけない」

千早「春香、あなたみたいにね」

春香「千早ちゃん……!」

千早「春香」

春香「千早ちゃん!」

千早「春香」

春香「千早ちゃん!」

千早「…春香!」

春香「千早ちゃん!」

千早「春香!」

春香「千早ちゃん!」

そして時が流れる

しかし10年経とうと20年経とうと、春香と千早の二人が想定していた世界の崩壊は起こらなかった

我那覇響はいつまでも自分の完璧さを信じ続け、とうとう死の瞬間まで、自身を超える難問の作成に全力を注いでいたのである

果たして765プロでいちばん頭がいいのは誰であったのだろうか

今となってはもはや知る由もない

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