『お祭りの国・a』 – birthday and carnival・a –


険しい山道を一台の車が行く。

それは黄色くて小さな、実にぼろぼろで今にも自壊しそうな車だった。

車はぶびびびびびびび、と嫌な音をたてながら走る。
時たま、ぷんっ！ぱすんっ！とエンジンの不良点火を繰り返しながら、白や黒の煙を吐き出し進んでいった。


そのぼろの黄色い車には旅人が二人。


一人は金髪碧眼の、少し背の低いハンサムな男で、助手席に座っている。

車を運転するもう一人は上品なジャケットを着た、長い黒髪の妙齢の女性。

ハンサムな男が言う。

相棒「師匠、本当にこの道で合ってるんですか？」

師匠、と呼ばれた女性が答える

師匠「北の方に進めば国があるらしいとの事でしたが、見当たりませんね」

相棒「やっぱり道を間違えたんですよ……。他の旅人から聞いたレンガの城壁の国も、青い石壁の国も見えて来ません」

師匠「そのようですね」

淡々と答える女性。

相棒「今からでも引き返しませんか？他の道があるかもしれません」

師匠「このまま道なりに進みます」

男の提案を却下し、女性は淡々と車の運転を続ける。

相棒「……師匠。車の窓が欠けているの直しましょうよ。隙間風がつらいんですよ」

車の窓ガラスが欠けていて、テープで申し訳程度に補修されている。
そこからびゅうびゅうと車内に風が吹き込んでいた。

師匠「そのうちにね」

またも男の提案を却下し、女性は運転を続けた。


すると、山間に両側を崖に挟まれた一本の谷が見えてきた。


相棒「師匠、あの谷間の道に行きましょうよ！あそこで昼食にしませんか？あそこなら風が吹いていないかもしれない」

よほど隙間風がこたえるのか、ほとんど懇願に近いかたちで男が提案する。

師匠「そうですね。そろそろお昼を食べる時間です」

男はようやく自分の提案が受諾され、安堵の表情を浮かべた。

ぶびびびびびびび、と音をたてて車は崖の狭間の道に進む。