【艦これ】木曾「腕試し?」【ss】 (21)
超短いssです。
作者はss初心者なので誤字、脱字や指摘したいところがあればぜひお願いします。
後駄文注意。
「何だそれ?」
今朝唐突に司令室へ呼ばれ、出された提案。
「ちょっと遠くにさ、ちょっと特殊な重巡ネ級が出現する場所があるんだよ。何回倒しても、気付いたらまた住み着いてる。しかも、必ず一体しかいないんだ」
「そのネ級の何が不思議かってね、体が緑っぽくて、通常体よりちょっとだけ小さい。そして、魚雷は使わない」
「そいつが出る海域はかなり複雑に入り組んでいてね。他の艦はそうそう入ってはこれないんだ」
「なるほどな」
つまり、一対一でネ級と戦うことができる、というわけだ。外的要因に左右されず、己の力を試すことができる。確かに、実力を量るには丁度いいだろう。
「木曾も改二になったし、実力も付いてると思うんだ。やってみないか?」
「多摩もやったことあるにゃ。中々手強かったにゃ」
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何処からか出てきた多摩姉さんがそう言った。多摩姉さんは提督とケッコンカッコカリをし、既にレベル155に到達している。そんな多摩姉さんが手強いと言うのだから、よほど強いのだろう。
「答えは勿論木曾に任せるが、どうだ?」
「……わかった。やってみるよ」
数日後。
「ここで合ってるのか?」
「勿論にゃ」
実行を決めた後、対重巡ネ級用の訓練をした。普段なら周りの味方と連携して戦うが、今回は一人。厳しい戦いになるのは分かりきっていた。多摩姉さんの経験を元に、姉さん達の協力を受けながら、着々と準備を進めていった。
「木曾。お前にこれをやるクマ」
球磨姉さんから渡されたのは、発煙筒だった。
「危なくなったら使うクマ。姉ちゃんが助けてやるクマ」
「レベル一桁の球磨姉に何ができるのさ」
「壁にしかならないわね」
「クマー……」
「ありがとう。それじゃあ行ってくるぜ」
何故かしょげてる球磨姉さんは置いといて、前に進む。
気がつけば姉さん達の姿は見えなくなり、辺りに霧が立ち込めているのだと察した。十分ほど進むと、霧の晴れた場所があり、そこに今回の標的がいた。
重巡ネ級。
岩の上で佇んでいたネ級と目が合った。と同時に、大きく回避行動をとった。
次の瞬間、それまで立っていた位置に砲撃が飛ぶ。
ゴオォォォンと大きな音を立ち、反射的に体がちぢこまってしまった。あわてて視線をネ級に戻すと、そこにいるはずの敵がいなかった。
木曾の背後に立っていたのだ。
「速えな!……だが!」
既に発射準備を終えていた魚雷を振り向き様に放つ。この程度なら、まだ予想の範疇だ。至近距離で爆発した魚雷の被害を抑えるため、放つと同時にネ級から離れ、攻撃の成果を確かめる。
全くの、無傷だった。
「効いてねえ!?」
何もなかったかのように歩き出す。愕然とした。魚雷の効き目が薄いことは多摩姉さんから聞いていた。だが、ここまでとは思わなかった。
思考する時間等与えないというふうに、素早い動きでこちらに向かってくる。反応が一瞬遅れた木曾は、回避行動を取るよりも速く放たれた砲撃を食らってしまった。
「がはっ!!」
下は水なため、倒れ込んでも痛みはない。だが、一撃をまともに受けた体は、直ぐに立ち上がることができなかった。
続けて飛んでくる攻撃に木曾はあえて足を閉じ、手で体を押してネ級に近づいた。放物線を描いて宙を舞う砲弾は、近くの相手に当てるのは難しい。魚雷を撃つには絶好のチャンスだが、攻撃する気は起きなかった。
名前ミスりました。
「くそっ!強いな!」
あの後、自ら近づいてきた木曾に虚を突かれたらしく、ネ級が硬直した隙を狙って逃げ出した。幸いにも提督が言っていた『複雑に入り組んでいる』空間に入り込むことができ、現在木曾は大きな岩の後ろで息を潜めていた。
魚雷の効果が薄いとなると、戦況は一気に厳しくなる。重雷装巡洋艦である木曾は、魚雷に特化しているといっても過言ではない。念のため砲も持ってきてはいるが、魚雷と比べると天と地ほどに威力に差があった。
まだ荒い息を殺し、体を縮こませる。あのネ級は耳がいいらしく、少しの音にも反応する。こちらに振り向き、気付かれたか、と思えば、すぐにまたうろうろと歩き出した。
そのうち見つかるだろう。いつまでも隠れている訳にはいかない。魚雷が効かないとはいえ、全く使えないということではない。ネ級は耳がいい。大きな音を出せば、注意はそちらに釘付けになるだろう。囮の役目くらいは果たせるはずだ。
後は、砲撃の威力次第。
「やってみるしかないか」
奇襲は成功した。
進行方向とは反対の方向に魚雷を発射。音につられてこちらに寄って来たネ級に砲撃をかまし、今度は結果を見ずにその場から離れる。こちらの攻撃など大したものではない。一撃二撃で倒せる敵じゃないのだ。息を整え、再び魚雷を発射。これを繰り返す。
だがここで、問題が発生した。
「反応しねぇ、慣れやがった!?」
最初よりも反応が薄い。振り向きはするが、向かってくることはなくなった。砲撃自体は効いたようで、集中的に攻撃した部分が、大きくひしゃげていた。発射口が曲がっているので、狙いがつけにくいのか、反撃してくることは殆ど無かった。
どうする。頭の中で自分に問いながら、既に答えは出ていた。
待つのではなく、自分から行けばいいのだ。
魚雷にまだ反応はするので、その間に近づいて攻撃、は現実的ではある。だが、先ほどと比べ危険が桁違いになる。逃げるのが遅れれば、まともに食らう可能性があるのだ。
「……何もやらないよりましだ」
息を軽く吐き、発煙筒を岩の上に置く。まだ使う必要はないからだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
走る。ひたすら走る。何度か攻撃を加え、ネ級の装備もぼろぼろになっているのに、そのスピードは最初から変わっていない。
攻撃は今回も成功し、相手に大きくダメージを与えた。こちらの被害は、出会い頭に受けた一撃のみ。木曾側が優勢なのは明らかだった。
再び魚雷を飛ばす。もはやあまり気にしていないようだが、反射的にそちらを見る。そこから木曾に気づく。それまでの時間で、一気にネ級に近づき砲を構えた。
その瞬間、ネ級が振り向く。先程より早い反応。咄嗟に後ろに飛び、距離を開けるも。
狙いすましたような一撃。まともに食らった木曾の体は簡単に吹き飛び、突き出ている岩に叩きつけられた。
「がっ!?」
衝撃で一瞬意識が飛ぶ。その間にもう一撃、今度は外れたものの、立ち上がろうとした木曾の足を強烈な波が襲った。体がぐらつき、再び倒れこんでしまったが、無理矢理手で地面を押しネ級と向かい合う。
殺られる。そう感じた木曾は、すべての神経を回避に費やし大きく前転した。
「くそっ!!」
幸いにも木曾の前方、つまりネ級の背後は開けた海。ネ級の脇を通ると木曾は走りだした。
「……」
ネ級から数百メートルほど距離を置いた場所で、木曾は一人考えていた。
撤退か、続行かを。
相手は格が違う。魚雷が通用せず、奇襲にも素早く反応し、同じ作戦はすぐに見透かされる。これまでに出会ったどんな敵よりも強く感じた。
ここに来て木曾は、仲間と協力することの重要性を改めて思い知らされたと感じた。一人で戦うということは、全てを自分だけでカバーしなければならない。あらゆる事態に対し、独りで向かわなければならないのだ。一人じゃなければ、補い合うことができる。役割を分担できる。それがどれだけ大切か、それがわかっただけでも、ここまで戦った収穫はあったといってもいい。
そう。無理に戦う必要などどこにもない。倒せなかったからといって、何か問題があるわけではないのだ。撤退しよう。姉さん達には悪いが、木曾は十分に戦った。
『それでいいのか』、そんな声が聞こえた気がした。
誰かが来たわけではない。もちろん木曾が口にしたわけでもない。木曾の本心、心からの言葉であった。
ネ級との戦いの中で、木曾の深海悽艦に対する印象が変わってきていた。
これまでは単なる敵、としか認識していなかった。だが木曾はここまで戦ってきたネ級に、別の感情を抱いた。
好敵手。
仲良くしようと思った訳ではない。ただ、相手にも相手なりの考えがあって、その上でここにいる。木曾には目の前の相手が、これまで出会ったどの深海悽艦よりも手強く、崇高な敵に見えた。
それと同時に絶対に負けたくない、という気持ちもあった。あちらも満身創痍だ。でも、撤退はしない。ならばこちらも、撤退する訳にはいかない。したくない。言ってみれば意地だ。その意地が、木曾にもう一度戦う気力を与えた。
「よし……行くか」
側に落ちていた発煙筒を手に取る。まだ使えるようだ。それを確認し、木曾はネ級に向かって走り出した。
それは、いまだそこにいた。
ネ級に魚雷を放つ。当たったところで、どうにもならないことは分かっていた。でも、これが大事であった。
注意がこちらに向いた。この瞬間、手にした発煙筒に火をつける。その煙は高く登って、姉さん達の目にも入っただろう。普通に進んで十分でこれたのだ。全力なら半分もかからないはずだ。
「最終ラウンドだ」
姉さん達が来るまでに、倒すことができれば木曾の勝ち。無理ならこちらの負けだ。それを理解したのかは知らないが木曾と同時にネ級も動き出した。
どちらも先ほどより速い動き。なるほど、これがネ級の全力なのだろう。もうぼろぼろなはずなのに、全くそれを見せない。それは、弱さを見せまいとするネ級のプライドであった。
すぐに木曾の目の前に立ち塞がり、既に半分壊れた砲を構える。しかし回避に徹した木曾が避けられないスピードではなく、放たれた攻撃は水面に落ち、大きな水しぶきを上げた。
その間に、木曾はネ級に大きく距離を詰めていた。魚雷は効かない。砲もまともに飛ばない。それは相手も同じだ。
「あぁぁぁああああ!!!!!」
僅かな体力を絞り出し、大きくジャンプしてネ級に突っ込む。そのままの勢いで残った魚雷を飛ばす。全てネ級に当たり、その体が一瞬ぐらつく。だが、すぐに立ち上がり、こちらを睨んだ。
手を伸ばせば触れる位置で、木曾とネ級は向かい合った。同時に攻撃。発射口が曲がっていても、この距離なら外さない。直撃したはずなのに、痛みはなかった。弾薬が尽きるまでお互いに打ち続ける。たった数秒が、もの凄く長く感じる。
負けたくない。負けたくない。疾うに限界など超えている。最後に勝負を決めるのは、勝利への執念だ。もはや真っ白になった頭の片隅でそう思いながら、木曾は残る砲を打ち続けた。
「暇クマー」
「じゃあ帰ればいいにゃ」
「にしても木曾遅いねー」
「そろそろ足が疲れてきたわ」
多摩達は木曾を待っていた。この腕試しに挑戦できるのは一人だけだからだ。一応皆木曾の勝利を応援していたが、唯一挑戦した経験のある多摩だけは、勝利よりも無事な帰還を願っていた。
「多摩は薄情な奴クマ。木曾では勝てないと思ってるクマ」
「うるさいにゃ。そんな簡単なもんじゃないにゃ」
「ねぇ、あれ!」
球磨と問答をしていると、何かを見つけた北上が空を指差している。
煙が登っていた。
「発煙筒の……!」
「急ぐにゃ!」
多摩の号令で木曾の捜索を始める。比較的近くで戦っていたためすぐに見つかった。荒い息でふらふらしており、目も焦点が合っていなかった。多摩達に遅れて気付き、かすれた声を出した。
「あ……姉さん……」
「木曾!大丈夫かクマ!?姉ちゃんが今助けるクマ!」
「それより……あいつは……?」
「くたばってるわ」
大井が指を差した先に、重巡ネ級の亡骸があった。魚雷がなかったネ級は、木曾よりも先に弾が尽き、最後は木曾にされるがままになっていた。そして、最後まで逃げなかった。
「そうか……勝ったか……」
木曾は涙を流していた。自分でも全く気づかぬ内にだ。敬うべき相手、好敵手と言っても差し支えない存在が逝った。勝利を勝ち取った喜びより、その悲しみが上回っていた。
あれから暫く経ち、木曾はもう一度あの場所に来た。他の艦娘がまたネ級を倒し、ちょうど居なくなったタイミングを見計らい、墓参りをしようと思ったのだ。あのあと、姉さん達に頼んでネ級の墓を作った。敵を埋葬するなど、普通ならあり得ないだろう。だが、姉さん達は文句を言わずに手伝ってくれた。
「久しぶりだな」
この戦いを経験し、木曾はさらに強くなった。レベルが上がったとか、装備が良くなった、だけではない。感情を持たないただの敵、そう思っていた深海悽艦にも、それらなりの意思があり、意地があり、信念も、誇りだってある。そう気付き、木曾の深海悽艦に対する見解が変わった。前より真摯に向き合うようになったのだ。戦士として一皮むけた木曾は、そうさせてくれたネ級に感謝していた。
「全部お前のおかげだ……また来るよ」
姉さん達が帰りを待っている。生まれ変わったらまた会おう。仲間ではなく、敵対者として。そう言い残し、木曾はその場を離れた。
一応終わりです。
もしかして誰も見てない……?
今日はもう時間ないので明日には依頼出してきます。
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