バレンタイン――海神島の場合 (25)
二月十四日 海神島――近藤家
咲良「ほら剣司、さっさと支度しなよ。遅れるわよ?」
剣司「分かってるって。そう急がせないで、ちょっとは余裕持たせてくれよ」
咲良「そう言うならちゃんと準備済ませてから寝ればいいでしょうが。誰よ? 朝になって慌てて準備始めたのは」
剣司「……返す言葉もございません」
咲良「よろしい。――行ってらっしゃい」
剣司「おう、行ってきます」ガラッ
ピシャッ
咲良「……さて、と。あたしも準備しましょうかねぇ」
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喫茶『楽園』海神島店
一騎「」トントン…
カランカラン…
操「おはよ一騎! ……あれ? 真矢は?」
甲洋「遠見なら今日は休みだよ、来主」
一騎「今日は休みにしてほしいって、珍しく遠見から頼まれたんだ」
操「ふぅん……まぁいいや。一騎カレーちょうだい!」
一騎「まだ昼には早いぞ? まぁいいけど」
操「いいじゃないか。いつ食べても美味しいんだから。……ね、そういえばさ」ニコニコ
一騎「どうした?」
操「今日はどうして三時閉店なの? いつもより早いけど」
一騎「ああ。今日はほら、バレンタインってやつだろ? チョコ作るの手伝ってほしいって頼まれてさ」
操「? 何それ?」
甲洋「一騎、来主はバレンタインなんて知らないよ。そこから教えないと」
一騎「あ、そうか、そうだよな。……ええと、バレンタインっていうのは、なんていうんだろうな、こう…」
甲洋「女の子が好きな男の子にチョコレートを渡すんだよ。最近じゃ知っている人への感謝のために渡すこともあるみたいだけど」
操「へぇー。…何でチョコなの?」
一騎「それは……さぁ。俺は知らないよ」
甲洋「俺も知らない。まぁ理由なんていいんじゃないか別に。誰かに贈り物をするのは、別に悪いことじゃないし」
一騎「そうだな。…ほら、カレー」トンッ
操「おー、ありがとう。いっただきます!」
近藤家――キッチン
咲良「さて、練習用のチョコよし、その他必要そうなモノもよし、と」
ピンポーン!
咲良「……人も来た、と」スタスタ
ガラガラッ
咲良「ほい、いらっしゃい」
真矢「うん。お邪魔します」
里奈「お、お邪魔しまーす」
美三香「お邪魔します、近藤先生! …の奥さん!」
咲良「ミカミカ、別に先生だったときの呼び方でいいわよ。ま、上がって上がって。準備は多少したから」
咲良「しかしまぁ、あたしに教わらなくてもいいのに。それこそ一騎とか御門とかいるじゃないの」
里奈「い、いやぁ。さすがに女子として男の子に教わるわけには、ねぇ?」
真矢「一騎くんたちにあげるのに一騎くんに教わるんじゃ驚かせられないよ」
咲良「なるほどねぇ、で、消去法的にあたしにお鉢が回った、と」
真矢「そう言わないで咲良、ううん、咲良センセイ」
咲良「……ふぅ。ま、いいわ。ウチのに作るついでだしね。さ、やろっか。そんなに時間もかからない簡単なのしか教えられないけど」
真矢、里奈、美三香「「「はーいっ!」」」
喫茶『楽園』海神島店
カランカラン…
甲洋「ありがとうございました。―― 一騎、看板下げてくる」
一騎「ああ。片付けは俺だけで十分終わるし、ショコラの散歩、行ってこいよ」
甲洋「そうか。……それじゃ、行ってくるから。後は頼む」
ショコラ「わうっ!」
一騎「ああ。行ってらっしゃい」
カランカラン…
一騎「さてと……そろそろ来るかな」
カランカラン…
美羽「こんにちは、一騎お兄ちゃん」
一騎「入れ違いか。……ええと、いらっしゃい、美羽ちゃん」
美羽「それじゃあ、お願いします」
一騎「ああ。でもいいのか? 特に手とか出さなくて」
美羽「はい。その、こういうの初めてだから、見ていろいろとアドバイスをくれる人がいる方がいいな、って思っただけですし、一騎お兄ちゃんの手を借りたら、私が作ったことにはならないって思うんです」
一騎「そうか。…きっと、遠見先生も遠見も、喜ぶよ」ガサゴソ
美羽「? 一騎お兄ちゃんも作るの?」
一騎「総士と遠見にさ。二人とも俺にとって大切な人だし、な」
美羽「そうですか…きっと二人とも喜びますよ」ニコリ
一騎「そうだと嬉しいよ」ニコリ
近藤家――キッチン
咲良「それじゃ、後は冷やせば終わりよ。お疲れ」
里奈「お、お疲れさまです」
真矢「……やっぱり疲れるねぇ、料理って」グデー
咲良「何言ってるんだか。ちょっと溶かして混ぜて冷やしただけでしょうが。そんなんじゃあんた、お嫁にいけないよ」
真矢「いいもーん、お母さんいるし、『楽園』に行けば一騎くんもいるし。それに、あたしは別に、そんな、結婚なんて…」
咲良「…あんた、いい加減に一騎に告ったりしないの?」
真矢「……だから、一騎くんはそういうのじゃないってば」
咲良「そうやって予防線みたいなの張るの、やめておけばいいのに…まぁあんたのことだからとやかく言わないけど」
美三香「お疲れさまでーす! お茶菓子買ってきましたー!」タタッ
咲良「お、あんがと、ミカミカ。あんたの作ったの、そろそろいい感じだと思うわよ。…にしても、よかったの? 何も工夫とかしないで溶かして型に入れたやつで」
美三香「いやぁ、あたしが手を加えると味が変になっちゃわないか心配で…それに、下手に手を出しても零央ちゃんには通じないと思って」エヘヘ
咲良「なるほどねぇ。大変ね、本職相手じゃ」
美三香「まだ見習いって本人は言ってますけどね」
咲良「ま、その点あたしは特にこだわりもないヤツが相手でよかったわ」
里奈「確かに。変にうるさいとそれはそれで苦労しそうですね」
咲良「鏑木はその点問題なし、ってわけ?」
里奈「ちょっ…別にあたしはこれ鏑木にあげよーってわけじゃないですよ! …その、お祖母ちゃんとか、お世話になってる人にあげるんですから。鏑木は、そのついでというか」
咲良「あーはいはい。そういうことにしといてあげる。…さ、テキトウにお茶でもして休みましょ」
アルヴィス
史彦「――では、これにて今日の会議を終了する。解散」
ガヤガヤ…
史彦「…ふぅ」ドサッ
千鶴「お疲れ様です。お茶、どうぞ」コトッ
史彦「ああ、ありがとうございます」
千鶴「お茶請けには少し雰囲気が違うかもしれませんが…よければ、どうぞ」スッ
史彦「? おや、チョコレートですか。……そうか、今日はバレンタインというやつでしたね」
千鶴「はい。日ごろの感謝をお伝えしたくて、その」メソラシ
史彦「ではありがたくいただきましょう。……ほう、そんなに甘くないんですね」
千鶴「甘いモノはそれほど得意ではないと、以前におっしゃってましたから」
史彦「なるほど…お心遣い、痛み入りますよ、千鶴さん。ありがとう」フッ
千鶴「いえ、そう言っていただけると、嬉しいです」ニコリ
遠見家
真矢「た、ただいまぁ…」ガチャ
美羽「お帰り、真矢お姉ちゃん!」タタッ
真矢「あ、美羽ちゃん。もう帰ってたの? 今日はどこか出かけるって言ってたけど…」
美羽「うん。…あのね、真矢お姉ちゃん。はい、これ」スッ
真矢「へ? 美羽ちゃん、これ……」
美羽「今日は好きな人にチョコをあげる日でしょ? だから、大好きなお姉ちゃんと千鶴ママに」
真矢「そっか……ありがとう、美羽ちゃん。さっそくいただくね?」
美羽「うん。私の手作りなんだ! 一騎お兄ちゃんにちゃんと見てもらいながら作ったの」
真矢「そうなの? 一騎くん、そんなこと一言も言ってなかったけど…」
美羽「内緒にしてもらったもん。こういうのって、内緒で驚かせた方がいいんでしょ?」
真矢「なるほどねぇ。……うん、うん! すっごくおいしいよ美羽ちゃん!」
美羽「本当?」
真矢「うん。あたし驚いちゃった。美羽ちゃんと同じくらいのときはこういうのあたし全然で……」タハハ
美羽「そっか…ママも、おいしいって言ってくれるかな」
真矢「……うん。お姉ちゃん、きっと今頃美羽ちゃんのチョコ見て、すごいすごい、って美羽ちゃんのお父さんと喜んでるよ」
美羽「…そっか。そうだよね! ありがとう、お姉ちゃん」ニコリ
真矢「」ニコリ
真矢「あ、そうだ。ごめんね、ちょっと出かけてくるから。お母さん帰ってきたら、ちょっと遅くなるかもって言っておいて」
美羽「うん。行ってらっしゃい」
ガラガラッ! ピシャン!
美羽「……ママ、エミリー。私のお供えしたチョコ、届いたよね? 届くと、いいな」
御門家――玄関
美三香「――零央ちゃーん!」タタッ
零央「美三香!」
美三香「ごめん、待った?」
零央「いや。…どうしたんだ、用事って」
美三香「ええと…ほら、今日ってバレンタインでしょ? だからこれ、零央ちゃんに!」
零央「! そ、そうか……ありがとな、美三香。なんつーか、嬉しいよ」
美三香「って言っても、普通のチョコを溶かして型に入れただけだけどね。零央ちゃんみたいに作れたらいいんだけど…」エヘヘ
零央「何言ってんだよ! 美三香がわざわざ作ってくれた。それだけで十分すぎるくらいだ!」
美三香「そう? ……でも、そっか。零央ちゃんが喜んでくれるなら、それでいいや」ニコニコ
零央「おう! お返し、楽しみにしててくれよ」
美三香「うん!」
鏑木家――玄関
里奈「……」
里奈「…別にこれはついで、そうついでなんだから!」
ピンポーン!
香奈恵『あら、里奈ちゃん』
里奈「あ、ど、どうも…鏑木、いますか?」
香奈恵『ふふっ、ちょっと待ってて。――彗! お客さんよ、出て』
ガチャ
彗「はい…って、里奈さん!? どうしたんですか?」
里奈「」ズカズカ
彗「?」
里奈「はい、これ!」ズイッ
彗「へ?」
里奈「いーから! 黙って受け取る!」
彗「は、はい!」ウケトリ
里奈「じゃ、あたしはこれで!」タタッ
彗「へ? え、ええ?」
里奈「誰かにもらったこと言ったら、怒るからね! いい!?」
彗「は、はい! 誰にも言いません!」
里奈「……じゃね、お返し、ちゃんとしなさいよ?」
スタスタ…
彗「…行っちゃった。何だろう、これ――!」ガサゴソ
彗「こ、これって…そっか、そうだ。今日は……」
香奈恵「彗? 里奈ちゃん、もう帰っちゃったの?」
彗「! う、うん。今度の生徒会のことで連絡があったみたいで…お、俺、資料作らないと!」タタッ
香奈恵「え? ちょっと、彗!? ……珍しいわね、あんなに慌てるなんて」
近藤家――キッチン
剣司「ただいまぁ…うわ、何だこの甘い匂い」
咲良「ああ、お帰り。ほら、今日はバレンタインでしょ? あたしに手伝ってくれーって皆が来たのよ」
剣司「ああ、なるほど…にしてもすごいな、部屋中が甘ったるい匂いで胸焼けしそうだ」
咲良「言っとくけど、今からあんたもその甘ったるい匂いの元を食べるんだからね。ほら」
剣司「お、ありがとう。…何度もらっても、いいもんだなぁ」
咲良「昔のあんたには縁のない代物だものねぇ」クスクス
剣司「それは言うなよ…いいんだよ、今、こうして美人の奥さんにもらってんだから」
咲良「あらら、言うわねぇ。ちゃんとお返ししなさいよ?」
剣司「分かってるって。……いつも、ありがとな、咲良。これからもよろしく頼むよ」
咲良「……ふふっ、あんたもね」
真壁家
ガラガラッ
一騎「ただいま…総士?」スタスタ
総士「……お帰り、一騎」
一騎「ああ。父さんは? まだ帰ってないのか?」
総士「まだだよ。今日も遅いと思う」
一騎「そうか。…そうだ、これ」ガサゴソ
総士「何これ?」
一騎「今日は大切な人にチョコをあげる日なんだよ。好きだろ、チョコ」
総士「ふぅん。ありがとう、一騎」
一騎「あ、でも食べるのは夕飯の後でな。腹がいっぱいになっちゃ困るし」
総士「うん。分かった」
ピンポーン!
一騎「? 誰だ、夕飯時に……」
ガラガラ
真矢「あ、一騎くん。こんばんは」
一騎「遠見? どうかしたのか?」
真矢「えっと、一騎くんと総士くんに渡したいモノがあって」
一騎「? ええと、そうか。じゃあ、上がってくれ」
真矢「うん。お邪魔します」
総士「真矢、こんばんは」
真矢「うん。こんばんは、総士くん。…また、背伸びたね」
総士「うん。もう少しで百五十センチになる」
真矢「そっかぁ。……ホント、そっくりだなぁ」
一騎「そりゃ総士だからな。……それで、渡したいモノって?」
真矢「あ、うん。……えっとね、その、一騎くんや一騎くんの作るモノよく食べてる総士くんにはそんなにかもしれないけど…」ガサゴソ
一騎「?」
真矢「今日ってほら、バレンタインってやつだし。一応、あたしなりに用意してみたりして…」スッ
一騎「あ、遠見もなのか?」
真矢「へ? あたしも?」
一騎「実はさ、俺も用意してたんだ。遠見に」ガサゴソ
真矢「ええ! そんなぁ、ダメだよ一騎くん。一騎くんが用意しちゃったらあたし敵わないもん」
一騎「いや、そんなこと言われても…ほら、大切な人に渡す日だって言うし、遠見も総士も、俺にとって大切だからちゃんと渡したいと思ってさ」
真矢「それは! …まぁ、嬉しいけどー」
総士「大丈夫だよ、真矢。仮に一騎のチョコがおいしいとしても、真矢のチョコも僕は嬉しい」
真矢「…総士くんはいい子だねぇ。皆城くんにその気の利いた言葉を聞かせたいよ」
総士「? 皆城は僕だけど」
一騎「はは、そういうことじゃないよ。…まぁとにかく、ほら、遠見。受け取ってくれ。俺も遠見の、ありがたくもらうから」
真矢「うん…あの、ごめんね? おいしくなかったら」
一騎「そんなことないって……たぶん」
総士「大丈夫だよ、真矢。僕はどんな味でも真矢のチョコ、ちゃんと食べるから」
真矢「うーん…そんな風に言われると複雑……ま、いいや。それじゃね、一騎くん、総士くん」
一騎「せっかくだし、遠見も一緒に夕飯どうだ? 美羽ちゃんとか遠見先生も一緒に、さ」
真矢「え、いいの?」
一騎「今日は鍋にするつもりだったんだ。材料は、少し増やせば問題ないし」
総士「それがいいよ、そうしよう、真矢」
真矢「……そういうことなら、お言葉に甘えて。じゃああたしお母さんたち呼んでくるね!」タタッ
一騎「ああ。…遠見!」
真矢「うん?」
一騎「チョコありがとな! 遠見にもらえて、俺、すごく嬉しかったよ」ニコリ
真矢「……うん。あたしも、嬉しかったよ、一騎くん」ニコリ
おしまい
ふくふくした剣司を見ると鼻のデカイ人を思い出す(マジェプリファン並みの感想)同じ平井絵でもファフナーとマジェプリはだいぶ違いますが
新作でまたいなくなる人が出るのか心配で仕方がない
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