ヨウ「全員ぶちのめす」 (196)
メレメレ島
ヨウ「で、俺はどこ行きゃいいんだ」
ハウ「えーとwww分かんなーいwwww」
ヨウ「誰だ貴様。ポケモンバトルしろ」
ハウ「いーよーwwwww」
~野生のハウが飛び出してきた~
▼ヨウのクロスチョップがハウの両肩に食い込む!
▼ハウは怯んで攻撃できない!
ハウ「あいてーッwwww何すんだよwwww」
ヨウ「死ね」
▼ヨウのクロスチョップ! ハウの肩甲骨が砕けた
▼ハウは怯んで攻撃できない!
ハウ「怯んでってかwww普通に痛いよーwww痛いよーwww」
ヨウ「目障りだ。消え失せろ餓鬼」
▼ヨウの逆水平! ハウは昏倒した!
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ママ「ヨウ、ちょっと変な人がいらしてるわよ」
ヨウ「何? 不審者だと?」
▼ヨウはハウの死体をベッドの下に隠し、下の階へ降りていった!
ククイ「やあヨウ君。ぼくはねーえっとねー何てんだっけー、えっとねー」
ヨウ「この全裸白衣が。女性の前で裸体を晒すとは、中々の度胸ではある」
ククイ「ちょっと、君にポケモン研究所へ来てもらいたいん――――」
ヨウ「黙れ。貴様のような不審者はテロリストの手先に決まっている」
~ポケモン博士のククイが飛び出してきた~
▼ヨウの回し蹴り! ククイのこめかみにクリーンヒット!
▼ククイはこんらんした!
▼ククイはわけもわからず自分を攻撃した!
ククイ「おぼごごごご。あうあうあうあうああうう」
ヨウ「もはや言語もまともに話せなくなったか。ただの獣に成り下がったようだな」
ククイ「あがう! うご! おんぎゃ!」
ママ「ちょっとヨウ! ククイ博士にいきなり何てことしてるの! 謝りなさい!」
ヨウ「やかましい! 女子供が口を挟む場ではないわ! ふんぬッ」
▼ヨウのマッハパンチ(秒速515000km)! ククイの首は吹っ飛んだ!
ククイ「……」
ママ「ギャーッ!」
ヨウ「フン、口ほどにもない」
ママ「わ、私はあなたをそんな子供に育てた覚えはありません!」
ヨウ「なに? 家族の命を守った俺を、『そんな子供』と侮辱したな?」
ママ「侮辱ではありません! 失望よ! 普通の子なら見ず知らずであっても、他人を殺めることは罪だと知っている! されど、あなたは躊躇なくククイ博士を殺害した!」
ヨウ「だからぁ……家族を守るためと言っているだろう? ではなんだ、ママは家に残虐なロケット団が来たとしても、笑顔で迎え入れて茶を振る舞うのか」
ママ「そうではありません! 人間の道徳や倫理について説いているのです!」
ヨウ「……いかなる人間であろうとも、俺の道を否定する者は、殺さねばならん」
ヨウ「許せ」
~ヨウのママが勝負をしかけられた!~
ママ「ちょ……ヨウ! その構えは何なの!?」
ヨウ「ホワタァ!」
▼ヨウのダストシュート! ママの顔面にヘドロがヒット……!
ニャース「ヴニャア……」
▼ニャースが身代わりとなって攻撃を受けた!
ママ「にゃあああああああああああっす!」
ニャース「ヴォエ……にゃあ……(ママさんよ……オレァあんたの愛をこれまで一身に受けて、育ってきた。これはその、ささやかな恩返しだぜ……)」
▼ニャースは死んだ
▼ママの攻撃力がぐーんと上がった!
ママ「しねしねしねしねしねしねしねしね」
ヨウ「ママは昔からそうだ。怒ると見境がなくなり、語彙力もサル並みに落ちる」
ママ「ニャースの仇! ヨウ! 貴様を地獄へ叩き落とすのに、一秒もかからん!」
ヨウ「この親ありて、この子あり。……ったく、鏡を見ているようで嫌になるぜ」
▼ママのかわらわり! しかし、攻撃は当たらなかった!
ヨウ「トロいんだよ、クソババアが」
▼ヨウの地球投げ! ママの首があらぬ方向へ、へし折れた!
ヨウ「くそ……肉親を殺っちまうとは。流石の俺もちと後味の悪いものを感じる……」
ヨウ「だが、進まねばならん。俺は必ず四人のしまキングを始末して、クリスタルを手に入れるのだ。カロスで売買するためにな」
▼母を殺したヨウは、ハウオリシティへ向かった!
リーリエ「ヨウさん!」
ヨウ「誰だ貴様。気安く俺の名を呼ぶな小娘が」
リーリエ「私はリーリエといいます! さっき、あなた……」
ヨウ「それ以上言うと、殺すぞ」
リーリエ「い、いえ! そうではなくて、あなたの武者ぶりに惚れちゃいまして」
リーリエ「ヨウさんと行動を共にしたら、ほしぐもちゃんも安全かなって」
ヨウ「ほしぐも……?」
コスモッグ「ふごおおおおおお」
ヨウ「フム……貸してみろ」
リーリエ「え」
リーリエ「なんですか、その金剛力士像みたいな構えは……。まさか、ほしぐもちゃんを!」
ヨウ「ククク……案ずるな。少し『ひねる(遊ぶ)』だけだ。殺しはせんよ」
リーリエ「やめでーッ! ほしぐもちゃんを殺さないでええええーーーーッ!」
コスモッグ「ふご?」
ヨウ「ちょうど腹が減っていたところだ。ランチになってもらうぞ」
▼ヨウのかみくだく! ヨウはコスモッグを口に入れ、グチャグチャ咀嚼した!
▼効果はばつぐんだ!
コスモッグ「うぐッゲッガッああっああっあああああああ」
リーリエ「いやああああーーーーッ! ぼじぐもぢゃんがあ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
ヨウ「ふむ、これはなかなか。干しブドウに近い食感」
リーリエ「ぶざげんなよデメえええあああああおおおおおお!」
▼リーリエの人格が崩壊した!
ヨウ「リーリエといったか。コスモッグの礼だ。今回ばかりは見逃してやる」
リーリエ「テメェ……テメェ……覚えていろよ。私は絶対にテメェを許さねぇ!」
ヨウ「そうかそうか。勝手にほざくがよい。貴様ごときに敗れるほど俺はヤワでない」
ヨウ「もし貴様がその気なら、俺はいつでも決闘(バトル)してやるが、昼飯を馳走してくれた恩人をいきなり殺すのも、少し気が引ける」
リーリエ「お、オメェが勝手に喰いやがったんだろうが! 忘れたとはいわせねーぞ!」
ヨウ「もう構ってはおられんな。さらばだ、コスモッグの少女」
▼ヨウはリーリエに別れを告げ、次の島へ行くため港へ向かった!
イリマ「ちょっと困るな~。君たち、スカル団の人間だろう?」
したっぱA「そうだYO! で、それがどうかしたのかYO!」
したっぱB「お前のケツに手を突っ込んで、そのまま肝臓を引きずりだして、レバ刺しにして食ってやんYO! おら、ケツ向けろやゴラ!」
ヨウ「邪魔だ、どけ」
▼ヨウのつっぱり! したっぱAの肋骨が砕けた! したっぱAは海に転落した!
したっぱB「バトルも始めてないのに、ヘヴィな技をお見舞いすんなYO!」
ヨウ「貴様、レバ刺しが喰いたいと申しておったな。用意してやろう」
▼ヨウのばかぢから! ヨウは馬鹿力でイリマの腹を引き裂いた!
イリマ「えっ」
ヨウ「ほら、喰え。散々欲していた人間の肝臓よ。いらんのか?」
したっぱB「怖いYO……こいつ、人間をとっくに辞めてるYO……」
ヨウ「人がせっかく用意してやったものを断るとは。死ぬ覚悟はできているようだな」
したっぱB「待ってYO! 俺が悪かったYO! 食べるから、見逃してくれYO!」
ヨウ「やかましいッ! 失せろチンピラがッ!」
▼ヨウのかわらわり! したっぱBの頭蓋骨はV字型に変形した!
イリマ「ぐほッ……君は……何をしたか分かっているのか……」
ヨウ「目障りな三人を消した。それだけだが」
イリマ「いいや、違うね……。僕はメレメレ島のキャプテンだったんだ。それを、君は殺した。殺してしまった……。クリスタルの試練を君に与えることは……できない」
ヨウ「クリスタル? そうだ、この島にもクリスタルはあるのだったな」
イリマ「僕だけが知っている……クリスタルの場所……」
ヨウ「貴様の案内はいらん。俺が自力で見つける。それゆえ、今は安心して眠れ」
イリマ「いやだ……死にたくない……」
▼ヨウのふみつけ! イリマの頭は柘榴のように飛び散った!
リーリエ「外道が……。ヨウ、テメェの首は必ず私が獲る。そして、獲った首をリリィタウンの門に吊るし、今まで殺された人々の復讐を果たすんだ!」
ヨウ「先ほどの小娘が物陰から覗いているな。ま、気が向いた時に消せばよいか」
▼ヨウは茂みの洞窟を発見した!
ヨウ「薄暗い洞窟だ。それにジメジメしている。ふん、ここを管理するキャプテンも、同じように陰湿な心を持っているのだろうよ」
ヨウ「奥に光が見える。あそこから、クリスタルの間へと通じているのやもしれぬ」
ヨウ「本来ならば、穴を一々見て回るような試練を課されるのだろうが、俺は知らん。試練など受けないのだからな」
したっぱC「ヨヨヨー! 仲間が殺されたみたいだし、お前を止めに来たYO!」
したっぱD「これ以上、罪のない人々を殺したら、俺らだまっちゃいないYO!」
ヨウ「どけ、我が覇道を阻むか」
▼ヨウのドレインパンチ! したっぱCは体中の血液を吸い取られた!
したっぱC「」
したっぱD「ザッケンナコラー! いけ、スリープ」
ヨウ「黙れィ!」バチーンドグワッシャ
▼ヨウのめざましビンタ! 飛び出したしたっぱDの眼球が壁に当たって潰れた!
ヨウ「金はどこにあるかな」
▼ヨウは賞金として352円盗んだ!
デカグース「ぬしゃあッ!」
ヨウ「黙れ」ペチコーン
デカグース「」チーン
ヨウ「これが……ノーマルのZクリスタル!」
ファファファーンファーンファーン
テレレレッテテテ テレレレッテテテ テッテッテ テーテーテーテ テーンテテテンッ!
~試練達成~
リーリエ「おやおや」
ヨウ「なんだ貴様、まだいたのか」
リーリエ「ぬしポケモンを一撃だなんて、意外とやりますね」
ヨウ「当然だ。こんな序盤の序盤で躓くわけがなかろう」
リーリエ「ふふふ……そうですよね」
リーリエ「だからこそ、殺しがいがある」
ヨウ「む?」
リーリエ「テメェがほしぐもちゃんにしたこと、私はずっと忘れないからな」
▼ヨウはハラの待つ、リリィタウンへと向かった!
ハラ「よく来ましたな、殺人鬼」
ヨウ「殺人鬼とは聞こえが悪い。無駄な木を伐採していただけですよ」
ハラ「ほほう、わしの孫も無駄な木と申すか。大した度胸じゃ」ピキピキ
ヨウ「実際そうでしょう、戦って負けた方が弱い。なるほど、確かに俺とハウの実力は拮抗していたかもしれない、けど、勝ったのは俺だ」
ヨウ「ハウより俺の方が強かった。ハウは雑草で、俺はそれを刈り取っただけのこと」
ハラ「……もうよい」
ヨウ「もちろんしまキングであるあなたは、雑草よりも強いですよね? そうだ、例えるなら、ただのマラサダとスパイスの効いたマラサダ……」
ハラ「もうよいわ!」
ハラ「挑むなら早くこい! わしは皆を守る、これ以上お前に殺されずに済むよう、島を守り抜く、それだけじゃ!」
ヨウ「よろしい、腹をくくったみたいですね。ハラだけに」
ハラ「洒落のつもりか貴様ああああッ!」
~しまキングのハラが勝負をしかけてきた!~
ハラ「ゆけッ! マンキー!」
マンキー「マンッ!」
ヨウ「あれだけ抜かしてマンキーとは、俺も侮られたものだな」
ハラ「マンキー、からてチョップ! 金的も目潰しもかまわん!」
マンキー「キンッ!? メツッ!?」オロオロ
ハラ「なにをまごついておる! これはわしらだけではない。アローラ地方の人間を殺人鬼の凶刃から守るための、いわゆるわしらにとっての大試練なのじゃ!」
マンキー「マン……マンッ!」
ヨウ「はい、1ターン消費。ハラ、貴様の取った行動は『励ます』だ」
▼ヨウのアクロバット! ヨウの持つ鉈がマンキーの身体を切り刻む!
マンキー「」ドサッ
ハラ「おお、マンキー! 的確な指示を与えられなかったわしを許せ……」
ヨウ「さて、次はどんな獲物を出してくるんだ? ハラさんよ」
ハラ「……おや? もしかして、わしのポケモン あと一匹?」
ヨウ「ぶつぶつ呟くな老害。さっさと決着つけようぜ」
ハラ「よかろう。ゆけ、マケンカニ!」
ヨウ「おい、少し待て」
ヨウ「あと一つ、腰にモンスターボールがついてんぞ」
ハラ「……ぬっ?」
ヨウ「どうやら、マクノシタの存在を忘れていたみたいだな」
ヨウ「ついにボケたか? ま、そちらの方が始末するのに手間取らないんだが」
ハラ「ば、バカを言え! ちゃんと覚えておるわ! 頼むぞ、マクノシタ」
マクノシタ「マク……」
ヨウ「どうやらマクノシタ、貴様に忘れられて相当落ち込んでいるみたいだぞ」
ハラ「これは違うのじゃ、わしは少し焦っていてな、それから」
ヨウ「俺が引導を渡してやらないとな!」
▼ヨウのエアスラッシュ! マクノシタはかわす間もなく、真っ二つに切断された!
ヨウ「マクノシタの刺身、いっちょうあがりって感じだな」
ハラ「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙レダマレダマレダマレダマレダマレ」
ヨウ「ふむ……なぜメレメレ島の人間は頭に血が上るとチンパンジー並みの語彙力になってしまうのか。実に興味深い」
ハラ「わしの最後の砦、マケンカニ! 小童を何としてもここで食い止めろ!」
マケンカニ「マケンゾーッ!」
ヨウ「健気な忠誠心よの、ハラ。理性では敗北を悟っていながら、なお俺に立ち向かうとは。忠犬ハラ公。いい加減そろそろ休んではどうだ」
ドゥインドゥインシャキーン
▼相手のマケンカニはZパワーを身体にまとった!
ハラ「全力無双激烈拳! 町ごと打ち砕け!」
マケンカニ「あたたたたたたったたたたたたったたた」
▼パンチの波動がいくつもヨウへ襲いかかる!
ヨウ「なんだと!? この技は、まさかZクリスタルを……!」
ハラ「ワッハッハー! くたばりやがれケツの青いクソガキがァーーーーッ!!!!」
▼ヨウは数十メートルも吹き飛ばされた―――――――
▼かのように見えた
ヨウ「まったく、貴様は単純な男だ」
ハラ「なにッ!? 生きておるじゃと!?」
ヨウ「咄嗟に身代わりを使った。あれがなけりゃ、今頃お陀仏だったろうよ」
ヨウ「だが、俺は生きている。貴様がZ技を使ってくれたおかげでな。あれは予備動作が長いから、技の内容を知らずとも対応できる」
シュパンッ
▼ヨウのエアスラッシュ! マケンカニは死んだ!
ハラ「マケンカニィ!」
▼ヨウはハラに近づいてゆく
ハラ「わ、わしに何をする気だ」
ハラ「勝敗はこれで決したはずじゃろう!?」
ヨウ「いいや、まだだね。ハラ、貴様が死ぬまでは」
ハラ「バカな!」
ヨウ「敗将を許すほど、俺は情け深くないんだ。ほら、さっさと首を差し出せ」
ヨウ「せめて、痛くないように斬りおとしてやるからよ」
ハラ「誰でもいい……頼みますぞ、この悪魔を……誰か……倒してくだされ……!」
ドシュ
▼ヨウはハラからカクトウZと賞金をうばった!
ヨウ「これで二つ目、か。メレメレ島も案外簡単に制覇できたな」
ヨウ「あとは船に乗り、次のアーカラ島へノルマン征服と洒落込むか」
ヨウ「その前にマラサダショップで腹ごしらえしておこう。道中、長引きそうだしな」
▼ヨウはマラサダショップに入店した!
マラサダ店員A「来たぞ……あの子だ」ヒソヒソ
マラサダ店員B「ええっ! イリマキャプテンを殺した謎多きシリアルキラーのこと? まさかぁ……。でも、ちょっと殺戮に愉悦を感じてそうな表情をしているわね」ヒソヒソ
ヨウ「おい店員、俺を見ながら何をひそひそと話している。言いたいことがあるなら、直接本人に伝えてはどうだ」
マラサダ店員A「い、いえ、そのですね。将軍がとてもお強い方だと話しておりまして」
マラサダ店員B「そうですそうです! さぁ豪傑、どちらのマラサダをご注文に?」
ヨウ「ほぉ……。それでは大きなマラサダを二つ、テイクアウトで頼む」
マラサダ店員A「大きなマラサダですね! 分かりました!」
ヨウ「おう、できるだけ早く頼むぞ」ヒュパッ
▼ヨウのれんぞくぎり! マラサダ店員の首が二つ転がり落ちた!
ヨウ「陰口を叩く者には成敗を。俺を侮辱した罰として、マラサダはタダでもらってゆくぞ」
▼ヨウは血のついたマラサダをほおばりながら、船でアーカラ島へ揺られていった!
ヨウ「海……」
ヨウ「おいリーリエ、もっとスピード出せんのか。キャモメにも負けているぞ」
リーリエ「うるせーッ! そんなことしたら、ヨットが爆発して私もろとも海の藻屑になっちまうだろーがよーッ! もうちと考えてからもの言えやこのダボッ!」
ヨウ「フン。それにしても、なぜ俺についてくる。ヨットを運転する役目まで買って」
リーリエ「そりゃもちろん、テメェを殺す機会を狙ってるからに決まってんだろうが」
ヨウ「哀れな女よ。せっかくの島巡りを楽しみもせず、復讐だけに気を取られている」
リーリエ「ほしぐもちゃんを殺したりしなけりゃ、私もテメェなんぞ放っておいたさ。このクソガキが!」
ヨウ「キャラの変わりっぷりに感服するよ。ところで、アーカラ島ってどんな場所なんだ? ……って、自分の目で確かめるのが島巡りの醍醐味だったな」
ヨウ「わくわくするよな、リーリエ! 血沸き肉躍る激戦の舞台が、待ち構えているんだからよォ!」
リーリエ「ゆ、る、さ、な、い……!」ギリッ
▼ヨウとリーリエはアーカラ島に着いた!
ヨウ「運転ご苦労だった。マラサダを分けてやる。持って帰れ」
リーリエ「随分と余裕ぶっこいてんな、んん?」
▼リーリエはアーミーナイフの尖ってる部分をヨウの首筋に押し当てた!
リーリエ「私がポケモンを持ってないからといって、テメェに対抗する策がないとでも思ったか? 大外れだな、このマヌケがァ~!」
ヨウ「いいぜ。そのナイフ、使ってみろよ。ただし貴様が手を動かすと同時に、俺は貴様の顔面へマッハパンチ(秒速5150000km)を叩きこむ。それでも良いなら、な」
▼ヨウの目があやしいひかりを帯びる! リーリエの攻撃意志がぐーんと下がった!
リーリエ「うぬっ……私に脅迫は通用しないぞ。エーテルパラダイスからほしぐもちゃんを連れて脱走してきた身、もはやまともな道は歩けねぇ」
ヨウ「それでは、ナイフを下げたのは何故かね?」
リーリエ「これは、私がまだ実力不足だということを悟ったからだ。背後から暗殺だなんて、失敗する確率は高い。もっと鍛錬を積んでから、テメェに挑むとするぜ! クッ……!」
ヨウ「フム、賢い判断だ」
▼リーリエは悔しそうに逃げて行った!
???「あっはっは! 愉快だねぇ! うん! 実に愉快!」パンパンパン
ヨウ「ぬっ!? 貴様は何者だ。いつからそこに立っていた!?」
???「いやぁ、面白いものを見せてもらったよ」パパンガパン
ヨウ「その拍手をやめろ! 何者かと問うている!」
ライチ「あたしかい? 初めまして、あたしはライチ」
マオ「はい! 後ろから毎度どーも! あたしはマオ! キャプテンしてまっす!! 名前知らないけど、今の武者ぶり良かったよ! デュフフ! なんかいいかんじ!」ヒョコッ
ヨウ「おう、ボスといきなりご対面か。ちょうどいい。ここで貴様らが死ねば、俺は遠慮なくクリスタルをGETできる」
▼ヨウ、制圧の構えに入る!
ライチ「まぁ待ちな。アーカラ島のキャプテンはマオの他にもいるから、そいつらに当たってからでも早くはないんじゃない?」
マオ「そうそう! 例えばスイレン! あの子のヨワシは強いよ~!」
ヨウ「おいライチとやら、教育不足だな。そこのマオとかいう小娘、さっそく絶大なネタバレをだらしない口から漏らしているぞ」
ライチ・マオ「「なッ!」」
ヨウ「ま、そのネタバレに免じて討ち取る順番を後に回してやる。感謝しておけ」スタスタ
マオ「ふぅ……ようやく行きましたね。あ~も~生きた心地しなかったですよ~!」
ライチ「あれがハラを討った、ヨウか。ふぅん、なかなか良い目つきをしてるじゃないか」
▼ヨウはブティックに寄った!
店員「コブラポケモンタンクトップですね! 6800円になります!」
ヨウ「なに? 6800円? ツケで頼む」
店員「え? ツケだって? ナメてんのですか?」
ヨウ「いえね。俺の後に友人がブティックに寄るんで、そいつにツケて頂きたい」
店員「……あんたみたいな、おっかない顔の人間に友達なんているんですかね」
ヨウ「人を見かけで判断するのはよろしくないな。俺レベルのポケモントレーナーになれば、世界のどこにでも金を払うツル……友人がいるのだよ」
店員「ふぅん」
~10分後~
リーリエ「スポーツタンクトップで」
店員「コブラポケモンタンクトップと合わせて、19300円となります」
リーリエ「は? コブラポケモンタンクトップは買っていませんけど」
店員「は? あなた、前に来たお客様のお友達では……?」
リーリエ「は?」
店員「は?」
▼ブティックを後にしたヨウは4番道路を進んで、オハナタウンに辿り着いた!
ミルタンク「み~!? る~!? も~!?」
▼ミルタンクのききかいひ! ミルタンク達はヨウから逃げ出した!
農夫「ミルタンクが怯えておる……。やっこさん、あんたの服から血の匂いがする」
ヨウ「やたら鼻の良い農夫だ。そこをどきな。俺は乳牛と戯れ(狩猟)にきたんだ」
農夫「別にいいがね。あんまり危害を加えないでくださいよ」
ヨウ「安心しろ。乳首を少し拝借するだけだ。二つほどな」ニタァリ
農夫「……」ゾッ
マオ「あっ! 島巡りの人だ! まいどどーもー!」
ヨウ「貴様はライチと共にいたキャプテンか。また会ったな。わざわざ首を差し出しに来るとは、なかなか良心的ではないか。アーカラ島のキャプテンは」
マオ「オハナ牧場のモーモーミルク! コクがあって、ホワイトソースとか作ると形容しがたい味になるの! そうだ、島巡りさんに良いこと教えてあげるね!」
▼ヨウのライドギアにガブリアスが登録された!
マオ「ガブリアスはね、地面に埋まっていて見えない道具を見つけてくれるッス!」
ヨウ「嘘をつけ。こんなものいらん」
▼ヨウはライドギアを地面に思い切り叩きつけた!
マオ「……そうだよね。島巡りさんにはこんなものいらないよね」グスン
ヨウ「うむ、まったくもって無駄なことを聞いた。俺が貴様に要求するのはただ一つ。他のキャプテンの居場所だ。さっさと教えねば、右腕を鉈で斬りおとすぞ」
マオ「5番道路を抜けたところの『せせらぎの丘』に、あたしの友達スイレンがいるよ。よろしくね。それじゃ……頑張って」ダダッ
農夫「かわいそうに。マオちゃんはやっこさんのことを想って、ライドギアを登録してくれたのだ。それを無下に突き放すとは、酷いことをするもんだ」
ヨウ「本当に俺のことを想っているなら、今頃とっくにクリスタルを渡しているはずさ。それを試練などと面倒な茶番をこしらえやがって。あの女は癪に障る」
▼5番道路を歩くヨウ。その行く先に何やら人影が……
???「オマエ……本気でそれか……?」
リーリエ「そ、そうだよ! 私は本気でいつも楽しんでるよ! がんばリーリエ! ふんばリーリエ! ぷんすか! むー!」
???「フッ……。楽しむ、か……」クスッ
???「だが、持てる力を出し尽くしてから言うんだな」
▼ヨウはリーリエの背後に忍び寄り、首を絞める真似をした!
ヨウ「アローラ! リーリエ、貴様にも打ち解ける仲間がいたのか」
▼リーリエの瞳に憎悪の炎がたぎる!
リーリエ「こ、こいつだ! こいつがほしぐもちゃんを喰った張本人! ヨウ!」
???「ヨウ………?」
ヨウ「誰だ貴様」ギャンッ
???「ほう……その野獣の如き研ぎ澄まされた視線。嫌いじゃない」
グラジオ「オレはグラジオ」
グラジオ「相棒のヌルを鍛えるため、戦い続けている!」
リーリエ「そして、今からにい……グラジオがテメェを完膚なきまでに叩き潰す。私は原型もとどめていない肉塊に蝋燭を突き刺して、人間燈を演出してやるわけよケヒヒ」
グラジオ「何も言わずオレたちの相手をしてもらおう。これはコスモッグの弔い合戦だ」
ヨウ「よかろう。リーリエもろとも粉砕してやる。いつでもかかってこい」
グラジオ「では、参るッ!」
~スカル団のグラジオが勝負をしかけてきた!~
グラジオ「ぬううううッ俺の、左腕が、疼きよるわッ!」ググググ
▼グラジオの左腕が疼きはじめた!
グラジオ「ゆけっ! ズバット!」
▼グラジオはズバットを繰り出した!
ズバット「ズバーン」
ヨウ「あれだけ大口を叩きながら、出してくるポケモンはヌルでなくズバット。拍子抜けにもほどがある! 遠慮なく斬り裂かせてもらうぞ」
ヨウ「ふんぬッ! 肉壁はどけェい!」
▼ヨウのふいうち! ズバットを掴み、ケツから頭にかけて鉈で貫き通した!
ズバット「ごばッ……ゴぼっげっつがふふりr」バタバタ
▼ズバットの翼が力なく垂れた! 一撃必殺! ズバットは死んだ!
グラジオ「ふいうちで一撃とは、なかなかやるな。ううッ左腕が!」
▼グラジオの左腕は、まだ疼いている! ぐちゅぐちゅ疼いている!
ヨウ「どうした、グラジオさんよ。相棒のヌルはいつまで寝ぼけてる。はよ出しな」
リーリエ「頑張って! ズバットが抜かれても、ヌルがいる! グラジオなやれる! リーリエ信じてますから、ほしぐもちゃんの仇を討ってくれるって!」
グラジオ「言われずとも、やってやる。オレと同じ、作られた存在・ヌル。今こそ真の力を解き放つ時だ。神よ、オレとヌルに力を!」
▼グラジオは左腕を天に突き上げた!
▼グラジオのポケットから、モンスターボールが一人でに飛び出す!
タイプ:ヌル「うろおおおおん」ズシン
グラジオ「オレとヌルの絆をとくと見よ! ヌル……」
ヨウ「くるかッ!?」
グラジオ「ヨウへ向かってたいあたりだ!」
▼両前足を振り上げて突進してくるタイプ:ヌル!
ヨウ「たいあたりだと、なまっちょろいわ!」
▼ヨウは闘牛士の要領でヒラリと突進を回避! すれ違いざまに鉈を尻尾へ斬りつける!
▼ヌルの尻尾が落ちた! ヨウはそれを拾い上げ、スルメの如く齧り出した!
グラジオ「グッ……憎い奴だ。当てつけるように咀嚼してやがる」
リーリエ「うぷ、あの光景を見ると未だにほしぐもちゃんの死にざまが、おえっ」
グラジオ「ヌル、痛みに負けるな! オレとオマエの絆は、この程度の苦境で壊れるものではないはずだ! もう一度、あの外道へたいあたりをぶちかませ!」
ヨウ「何度やっても無駄なんだよ。その技、すでに見切ったんでな」
▼タイプ:ヌルのたいあたり! ヨウはかわし、再び斬りつける!
▼今度は後ろ足を正確にとらえ、タイプ:ヌルは突進できなくなった!
グラジオ「ヌル!」
タイプ:ヌル「グ……グオオ」
グラジオ「待っていろ、かいふくのくすりで傷を治してやる」ダッ
ヨウ「なにを言っている。今は俺のターンだぞ」
グラジオ「やっ……やめろおおおおーーーーーーッ!!!!!!!!!!」
▼ヨウのドリルくちばし! 回転する鉈がヌルの頭蓋に穴を開け、そのまま脳をひっかき回し、気管へと突き抜けた!
タイプ:ヌル「フーッフーッ」
グラジオ「ヌル!」
ヨウ「勝負はついた。賞金をもらうぞ」
▼ヨウは愕然と跪くグラジオのポケットから、720円を奪い取った!
タイプ:ヌル「イタイ……イタイ……」
グラジオ「どこが痛いんだ? 言ってみろ、すぐに治してやる。ほら、ポケモンセンターもすぐそこにある。ちょっとの我慢だ、ちょっと我慢すれば楽になるからな」
タイプ:ヌル「」
グラジオ「ヌル? おい、ヌル。どうしたんだよ、なぁ! ヌル! 答えろよ! オレたち、エーテルパラダイスでずっと一緒だったろ? これからもずっと一緒にいようって……。ヌル……ヌルよぉ、帰ってきてくれよぉ……ううっ」
リーリエ「ねぇ、兄様……」
グラジオ「フッ」
グラジオ「何してやがる、オレ」
グラジオ「人間を辞めたヤツと戦うんだ。そりゃ、ヌルが死んでもおかしくない」
ヨウ「ポケモンバトルは戦士のどちらかが死ぬまで、答えは出ない。グラジオ、リーリエ。今回ばかりは許してやる、とっとと失せな、負け犬ども」
グラジオ「ヨウ、オマエは人間じゃない。悪魔だ。悪魔は最後に必ず、神に滅ぼされる運命にある。イスカリオテのユダがそうであったように。死までの残り少ない時間をせいぜい楽しむがいい」
▼グラジオとリーリエは逃げ去った!
▼ヨウはせせらぎの丘についた
ヨウ「静かな場所だ。む、湖もあるのか。血の匂いを洗い落とすにもってこいだな」
ヨウ「おや、桟橋に蒼い髪の少女が立っているぞ」
スイレン「はい、私、スイレンでございます。アーカラ島のキャプテンをしております。どうぞよろしく」
ヨウ「島巡りのヨウだ。よろしく頼むぞ」
スイレン「あっそうそう、ちょいと聞いてくださいな。私、釣りが大好きで赤いギャラドスとか釣ったことあるんですよ。その大きさ分かります? インド象より大きいですよ」
ヨウ「おお、そうか。クリスタルの場所はどこだね」
スイレン「でね、でね、ヨウさんはどんな魚を釣ったことがあります? カイオーガ? グラードン? デオキシス? あっこれ魚じゃないですよね、うふふ」
ヨウ「クリスタルの場所はどこだ」
スイレン「いずれにしても、伝説ポケモンの威風堂々たる姿は圧巻ですよね。ちなみに、カイオーガの尾ヒレはオボンの実みたいな味が……」
▼ヨウはスイレンの胸倉を掴んで引き寄せた!
ヨウ「いつまで話している。俺は冗長な話が大の苦手なんだ。早くクリスタルの場所へ連れていけ」
スイレン「ひっ! ま、待って! ヨウさんの釣りをなさりたい気持ち、スイレンにはよーく分かります! けれど、まだその時ではない。一回落ち着きましょう。針の無い竿で釣りをしながら時節を待つ、太公望のようにね!」
ヨウ「落ち着かないッ! 釣りもしたくないッ! 石をよこせ! バカッ!」
▼ヨウはスイレンの頬にスタンガンを当てた! 効果はばつぐんだ!
▼スイレンは地面に倒れ伏した!
スイレン「うう、すみません、つい趣味の話を持ち出してしまいました」
ヨウ「そうだ。最初から従順に場所を教えれば良いのだ。ったく、貴様のせいで無駄な電力を消費してしまっただろうが。スタンガンに謝れ、小娘」
スイレン「うぐう、ずびばぜんでじだ……」ポロポロ
▼スイレンはヨウの持つスタンガンに土下座して非礼を詫びた!
スイレン「時にヨウ将軍、ぐすっ、よろしければお助けください」
ヨウ「どうした、聞いてやる」
スイレン「さぁさ、ぐすっ、こちらへどうぞ。私に、ぐすっ、ついてきてください」
▼スイレンとヨウは、少し離れた湖へ歩いていった!
スイレン「ほら、あそこをご覧ください!」
▼湖の中央に、何やら怪しげな水しぶきが立っている!
スイレン「なんとダイナミックな水しぶき! もしかすると、とんでもないポケモンが待ち構えているかも……」
ヨウ「俺に漁師をやれというのか」
スイレン「いや、まだ魚とはわからないんですけど……。とにかく、あの水しぶきの原因を調べてほしいんです。ほら、ライドギアにラプラスを登録してあげますから」
ヨウ「いらん。自力で泳ぐ。それに、ライドギアはもう捨てた」ザブン
スイレン「えぇ……」
~5分後~
ヨワシ「ビチッビチビチッ」
スイレン「あらまあ、小さなヨワシがあんな大きな水しぶきをあげるんですね」
ヨウ「おい、これはどういうことだ」
スイレン「はい?」
ヨウ「貴様がとんでもないポケモンというから、わざわざ寒中遊泳を実施したんだぞ。その結果がヨワシ一匹。俺をおちょくっているのか?」
スイレン「ま、まさかあ。私はいつだって本気ですよ。スイレン、本気ビーム! しゅびびびびびび」
ヨウ「やかましい」ビリビリッ
スイレン「すみません、謝りますからスタンガンだけはやめて……」ガタガタ
???「バシャバシャッ!」
スイレン「あら、なんでしょう? あちらから、さらに激しい水しぶきの音が聞こえます。ポケモンか人か、確かめに行きましょう」ダッシュ
ヨウ「あの小娘、散々俺を振り回しやがって。ただじゃ済まさん」
▼スイレンとヨウは、さらに離れた湖へ足を運んだ!
▼空に暗雲が低く立ち込め、雨の香りが忍び寄ってくる!
スイレン「ほら、あちらです。まるで間欠泉みたいでしょう?」
ヨウ「ふむ、言われてみれば間欠泉に見えなくもない」
スイレン「えーっと、お名前なんでしたっけ?」
ヨウ「貴様は人の名前も覚えられんのか。脳の容積いくつだ。この北京原人が」
スイレン「ああ! ヨウさんでしたね! 素敵なお名前ですね~」
ヨウ「お世辞を並べたってもう遅いぞカス」
スイレン「それにしても、素晴らしい水しぶきですねぇ! カプ・コケコみたいなすごいポケモンでしょうか? それとも、活きのいい海パン野郎でしょうか?」
ヨウ「島の守り神と海パン野郎を同列に考えるな阿呆が」ザブン
▼ヨウはヨワシを鷲掴みにして、スイレンのもとへ放り投げた!
スイレン「あらまあ、活きのいい海パンガールではなかったのですね」
ヨウ「またハメやがったな、小娘のくせに……」
???「バシャバシシャャッ!!」
スイレン「あらあら、なんでしょう? あちらからさらに激しい水音が聞こえます」ダダダダダッ
ヨウ「こらッ! 逃げるな! 待ちやがれ、殴り飛ばしてやるッ!」
▼スイレンとヨウはせせらぎの丘の最奥部へやってきた!
スイレン「せせらぎの丘……奥にはあの伝説ポケモン、海の化身と伝えられるカイオーガがいるんですよ。ちなみに私、一回釣り上げたことがあります」
ヨウ「貴様の釣り談義には飽き飽きだ。で、カイオーガがどうしたって?」
スイレン「い、いえ冗談ですよ……。雄牛の構えなんか見せないでください」
スイレン「もうすぐ、海辺ですね」
ヨウ「海? 俺は湖だと思っていたが海だったのか?」
スイレン「そうですね……。例えばカスピ海も内陸にあるくせに、『海』とか名乗っちゃっているでしょう? 海か湖か、塩分の有無で論争の火種になるんですよ」
▼雨が降ってきた!
スイレン「そうでした、雨が降っていると水タイプの技は威力が1500倍になります」
ヨウ「1500倍!?」
スイレン「あっ言い間違えました。1.5倍です。失礼、うふふ」
▼ヨウはスイレンの右腕をへし折った! 効果はばつぐんだ!
スイレン「あああーーッ!? いったあああーい!!!!!」
ヨウ「いい加減にしろ」
▼ヨウはスイレンの鳩尾にストレートを叩きこんだ! 効果はばつぐんだ!
▼ヨウはスイレンが吐きかけた吐瀉物を、無理やりスイレンの口に押し戻した! 効果はばつぐんだ!
スイレン「げほッげほッ! ヨウさん、私につられてここまで来ましたね、げほッ」
▼試練開始! ヨウは知らぬ間にキャプテンゲートを通り抜けていた!
ヨウ「ぬぬッ!」
スイレン「そう、キャプテンゲートを越えたということは、試練に挑むということ!」
スイレン「ははは! かかりましたねェーーッ! あなたの相手は海のドン! その圧倒的な力に怯えながら、アンボイナの毒針に刺された小魚のようにジワジワと死んでいただきますよ~ッ!」
ヨウ「貴様ァ!」
スイレン「私を殺してもかまいませんよ、どうせヨウさんも後を追うことになりますからね! ざまあ見なさい、ハラさんを殺した大罪人が!」
ヨウ「からかいおって、今度こそは許さんッ!」
▼ヨウはスイレンの髪を掴むと、水中に突っ込んだ!
スイレン「がぼッ! がぼッ! んんんんーーーーーーーーーッ!」
▼スイレンはしばらくもがいていたが、じきに動かなくなった……
ヨウ「生贄也! いでよ、主ポケモンとやら!」
▼雨にくわえて、雷も鳴り出した!
▼雷の閃光が辺りを白く照らした刹那、その蒼い怪魚は全貌をヨウの前に現した!
ヨワシ「ギョエー!!」
ヨウ「ヨワシ、あの小魚が集まった、群体か! 面白い!」
~ぬしのヨワシがスイレンの仇を取らんと飛び出してきた!~
ヨウ「デケェな。スイレンがカイオーガと誤認したのも頷ける」
ヨウ「だが、俺には俎板の上で寝転んでいる刺身待ちの小魚にしか見えんな」
ヨウ「ゆくぞッ! この雄牛の構えで、貴様の眉間を確実に貫いてみせよう!」
▼ヨウは鉈の切っ先をヨワシを向けながら、頭の向かって右側に構えた!
▼ヨウの殺傷力と観察力がぐーんと上がった!
ヨワシ「ギョエーッ! ギョエーッ!」
▼ヨワシのハイドロポンプ! 雨天決行! これにより、ハイドロポンプの威力は1.5倍! 何重にも重なった鉄板でさえ、撃ち抜くであろう!
ヨウ「だが受け流す! ところてんのように!」ヌルン
▼ヨウはハイドロポンプを華麗にかわした! その勢いでヨワシへ駆け出す!
ヨワシ「ギョエーッ! ギョギョッ!」
▼異変を察知したヨワシは仲間を呼んだ! ママンボウ降臨!
ヨウ「マンボウがどうした! 飛び跳ねれば死ぬ弱者を呼び、何とするか! 切り捌いてくれる!」
▼ヨウのつじぎり! ヨワシの身体に赤い線が走り、ドウッと大量の血が噴き出す!
ヨウ「ククク、クジラの解体をしているみたいだぜ。楽しいったらありゃしねぇ」
ママンボウ「ママーン」
▼ママンボウの癒しの波動! ヨワシの切り傷がふさがった!
▼間髪入れずヨワシのハイドロポンプ! 強烈な鉄砲水は見事直撃し、ヨウは数十メートルも吹き飛ばされた!
ヨウ「クソマンボウめ、小癪な真似を! よろしい、そこまで殺されたいか」
▼ヨウのしんそく! 息もつかせぬスピードでママンボウに肉薄したヨウは、鉈を振るってその全身をズタズタに斬り刻んだ!
ヨウ「ふはははは! 俺にかかれば、どんなポケモンもこのザマよ! さぁヨワシ、おねむの時間だよ。こっちへ泳いでくるんだ。すぐツナ缶にしてあげる」
ヨワシ「ギョ」ゾワッ
ヨウ「おいおい……。何を下がっている? こっちに来て一緒に遊ぼうじゃないか。そうだ、相撲を取ろう。俺は相撲が大好きなんだ。早く脊髄を抜き取り合いたいんだ」
ヨワシ「ギョオ……」
▼ヨワシのつぶらなひとみ! ヨウの殺意がぐーんと上がった!
ヨウ「だから怖がるなって、痛いのは一瞬だ。貴様もスイレンのもとへ行きたいだろう。親切な俺が特別に手伝いをしてやるから」
▼ヨウのれんぞくぎり! ヨワシは忽ち真っ二つに切断され、噴水のように血を振りまきながら湖へ落下した!
ヨウ「特に抵抗もなく死によったか。まったく、何の面白味もない勝負だった」
▼ヨワシを始末したヨウは、岸辺で浮かんでいるスイレンの死体からクリスタルを抜き取った!
ヨウ「これが水タイプのZクリスタル……。クク、サファイアとして出品すれば高く値がつくな」
ファファファーンファーンファーン
テレレレッテテテ テレレレッテテテ テッテッテ テーテーテーテ テーンテテテンッ!
~試練達成~
ヨウ「お、スイレンの奴こんな物も持っているぞ」ガサゴソ
▼ヨウはボロの釣竿を奪い取った!
ヨウ「いや、別にこれはいらんな。ガラクタだ」
▼ヨウはボロの釣竿を投げ捨てた!
ヨウ「しかし、今日は色々なことがあった。ポケモンセンターに戻って一息つくか」
▼ヨウは5番道路のポケモンセンターに入った!
~ポケモンセンター・カフェスペース~
老人「ご注文は?」
ヨウ「なんでもいい。コーラでも麦茶でもいいから、できるものをよこせ」
老人「……お金を払ってくださるなら、誰でもお客様だけどね。飲み物を飲んだら、早く出て行ってほしいね。あんたの背後に見えるんだ。怨念っていうのかね……無念の魂が」
ヨウ「貴様は霊媒師か何かか? 笑わせるな」ゴキュッ
ウソッキ―「ウソァア!」ボギョギョ
▼翌朝、ヨウはウソッキーの顔面を抉り取った
▼というのも、ウソッキーが次の目的地であるロイヤルドームへ続く道に立ちふさがっていたからだ。この世は弱肉強食、強きが弱きをくじくのが当然!
少年「う、うわああ。この人なんだかおかしいよ。狂ってるよ!」
ヨウ「狂っている? 俺は道にウソッキーがいたんで、頭を撫でてやろうとしただけだ。それが、思わず顔面を抉り取ってしまった。よくある朝の光景ではないか」
少年「ひいい……これあげますんで許してください!」
▼ヨウはしんぴのしずくを手に入れた!
ヨウ「いらん」
▼しんぴのしずくを捨てた!
~ロイヤルドーム付近~
▼背の低い少女とスカル団のしたっぱが、何やら話し合っていた!
したっぱE「ええ~、ホントにやるんスか?」
???「わらわは見たのじゃ。奴は確かにスイレンを殺した。じき、ロイヤルドームにも訪れるじゃろう。そこが狙い目じゃ! 島を守るため、一芝居うってくれぬか」
バンバドロ「ムヒン!」
したっぱF「やっぱり怖いッスよ~。だってスイレンと言えば、カイオーガをフィッシングしたスーパーガールじゃないッスか。それでも敵わなかったなんて……」
???「気をしっかり持て! ほら、来たぞ! 皆の者、配置に着くのじゃ!」
したっぱE「うえ~巻き込まれたッス~」
――――――
バンバドロ「ムヒヒウン!」
ヨウ「バンバドロが、助けを求めている?」
???「これこれ、そこのポケモントレーナー。ちと、手を貸してくれぬか?」
ヨウ「誰だ? 声は聞こえるが、はてな、どこからなのかが分からない」キョロキョロ
???「こっちじゃ」
ヨウ「ハッ! なんだ、年端もいかぬガキじゃないか。どうした、風船でも飛ばしちまったのかい? 残念だが、力になれないな」
したっぱE「ヨヨヨー! け、けつ向けんなよ! よよ!」ガタガタ
したっぱF「ってユー! 俺らの仲間をメレメレで殺した噂の島巡りじゃないッスカ!」
???「……(覇気に圧され、腰が抜けておる。ちとまずいのう)」
???「こやつら、ポケモン泥棒だが、おぬしの知り合いなのか?」
ヨウ「いいや、知らんな。みんな同じ顔をしているんで、覚えるのも面倒だ。貴様は路傍の石ころに一々名前をつけて、その形状や色まで記憶するか? しないだろう」
したっぱE「そりゃないだろー!」
したっぱF「そ、そうだ! ユーは俺らの仲間を、それだけでなく罪もない一般人でさえも容赦なく殺しているらしいじゃないッスカ!」
ヨウ「目障りだ。早くどけ、俺はヴェラ火山公園に行かねばならぬ」
ハプウ「わらわはハプウ」ズイッ
ヨウ「バブウ?」
ハプウ「ハ・プ・ウじゃ。しっかし、都会は凄いのう。ポケモン泥棒(殺人鬼も)が堂々と町をうろついておるとは……」
ヨウ「それは同意する。イスラム教では、窃盗の罪を犯した者には手や足を切断する刑が科されるそうだ。俺も、それに倣いたい」
ハプウ「ふむう。では、おぬし一人に任せるぞ。やれるか、島巡り」
ヨウ「もちろんだとも」
したっぱE「メレメレで仲間がしくじって……」
したっぱF「沢山の人が土の下に埋められて……」
したっぱE・F「悲劇の連鎖、ここで食い止める! 負けるもんでスカ!」バァーン
~スカル団のしたっぱが勝負をしかけてきた!~
したっぱE「いけっ! スリープ!」
したっぱF「いけっ! スリープ!」
ヨウ「手と足、だけで良いのだな? ハプウ」
ハプウ「あ? ああ、おぬしに奴らを止められるならな」
ヨウ「朝飯前さ。朝飯どころか昨日の晩飯、昼飯、朝飯、その前の日の晩飯、昼飯、朝飯、その前の日の晩飯、昼飯、朝飯」
したっぱE「何をぶつぶつ呟いてるッスカァ! スリープ、催眠術ッス!」
したっぱF「同じくスリープ、催眠術ッス!」
スリープA・B「「スリスリスリスリスリ」」
ヨウ「催眠術程度で俺をどうこうできると思うか。おめでたい頭だな」
▼ヨウは跳躍し、催眠術を回避した! スリープの脇腹を掴み、したっぱ達の方へ向ける!
したっぱE「ほわぁ~」バタン
したっぱF「うっほ……」ドテン
▼スカル団のしたっぱ達は眠りこけてしまった!
▼ヨウはすかさずしたっぱ達の首を一刀のもと斬り落とし、ハプウに捧げた!
ヨウ「斬ってきたぞ。首実検をしてくれ給え」
ハプウ「う、うむ……たしかに、盗人らの首だ。よくやった、褒めてつかわす」タラーリ
ハプウ(ぐぬう、やはりしたっぱ程度では勝てぬか。二人で一斉にかかれば、さしもの魔人も陥ちると踏んでおったが、まだ詰めが甘いようだ……)
ハプウ「ところで島巡り、おぬしの名前は何というのじゃ?」
ヨウ「ヨウ。人は俺をそう呼ぶ」
ハプウ「ヨウか。中国人みたいな名前じゃな。でも、素敵じゃぞ!」
ハプウ「それに何といっても、心根のよい闘い方じゃ! 敵対した者の息の根を必ず止めてきよる! これならば、双方恨みっこナシだからのう!」
ヨウ「俺は闘い方にこだわったことはない。立ち塞がる者は誰であろうと斬り伏せる。それ以外に、何があるというのだ」
ハプウ「……そうそう、この奥にロイヤルドームがあるのは知っておるな?」
ヨウ「ああ。今の実力を見るために、寄ってみようかと考えてる」
ハプウ「ちょうど良かった! わらわもそこへ行く予定だったのじゃ! どうじゃ、一緒に戦ってみぬか? バンバドロも血に飢えとるようじゃからのー」
バンバドロ「ムッホヒヒイン!!」
~ロイヤルドーム~
グラジオ「やはり、何かあればロイヤルドームに来てしまうよな」
リーリエ「兄様は本当にバトルロイヤルがお好きなんですね」
グラジオ「フッ、オレの心はからっぽさ……。バトルロイヤルで孤独を埋めるしかないのさ。リーリエ、オマエにはまだ分からん感情だ。気にするな」
リーリエ「そうですね。行こう、兄様!」
▼グラジオとリーリエがロイヤルドームへ入っていくのを、ヨウは見逃さなかった!
ヨウ「ハプウ。どうやら今回のバロツロイヤル、面白くなりそうだぞ」
ハプウ「バトルロイヤルじゃ」
ヨウ「珍客には珍客を。ま、ちょうどいい。あの兄妹には消えてもらうか」
ヨウ「よう、お二人さん。ハネムーンの途中かい?」
グラジオ・リーリエ「「ヨウ!」」
リーリエ「……と、誰です?」
ハプウ「ハプウじゃ。別に覚えんでもいい」
ヨウ「貴様らもバトルロイヤルに参加するのか?」
グラジオ「四人のトレーナーがそれぞれポケモンを繰り出し、それぞれが敵同士、誰から倒しても構わない。最高に燃えるだろうが」
リーリエ「その調子からすると、ヨウも出場するみてぇだな。ケケケ! テメェにゃ散々苦しめられてきたが、ここいらで決着をつけるとしようぜ! ヘッヘア!」
グラジオ「興奮するな、リーリエ。で、ハプウさんは? 参加するか?」
ハプウ「そうじゃな。もともと誘ったのがわらわじゃ」
グラジオ「ならば良し。ハプウさん、ちょっとこっちに来てくれ」
ハプウ「なんじゃ?」
グラジオ「……ひとつだけ、ヨウを倒す策がある。ぜひ聞いてほしい」
ハプウ「倒す? じゃと?」
グラジオ「ああ、そうだ。知らないのか? ヨウは行く島々でキャプテンを皆殺しにしているんだぞ。そんなの……ない!」
リーリエ「で!? 作戦てあんだよ! 早く聞かせろよ!」
グラジオ「シッ、声が大きい。ハプウさん、それからリーリエ。妙なことを聞くが、ヘビーボンバーを覚えるポケモンは持っているか」
ハプウ「バンバドロがいるぞよ」
リーリエ「持ってるけど、それがどうかしたの? 兄様の考えがさっぱり分からないぜ!」
ハプウ「ん? 待てよ。ヘビーボンバーとは……そうか! おぬし、中々の鬼畜じゃな。クールなフリして、よくもそんな策が思いつくものじゃ」ワハハ
グラジオ「誉め言葉として受け取っておこう。けど、この作戦はタイミングと担当する箇所が重要なんだ。一歩間違えれば、アンタらのポケモンも潰れ死ぬぞ」
リーリエ「潰れ死ぬゥ!?」
ハプウ「しッ! 声が大きい。小僧に聞こえるじゃろうが。わしら三人だけの秘密にしておくんじゃ。少なくとも、この場にいる以上は」
リーリエ「そ、そうですね。お口にチャックですね。リーリエ、チャックします」
グラジオ「よし、いいだろう。そろそろ戻るぞ」
ハプウ「これでわらわ達の勝利は確実じゃな!」
グラジオ「確実とは言えないが……島を守るためなら、どんなに血生臭い戦法でも喜んでやり遂げるさ」
ここはロイヤルドーム・バトルロイヤル会場です!
満員となったスタジアムは、熱気に包まれています!
さぁ、これから選手の登場となります!
おおっと、緑コーナーから出てきたのは……
ヨウ「俺だ。こんなところ、さっさと切り抜けて次行くぞ」
ヨウ選手だァーッ! お、なんだ? 右手に持っているのは鉈か? おやおや? ヨウ選手、未だポケモンを見せる気配がなァーいッ!
ヨウ「もう見せているが? こいつはヒトツキ、俺の相棒だ」
いや……それ……誰がどう見ても鉈でしょう? しかも刃渡り50cm! 危険だ、あまりに危険すぎます! 誰か! 誰かヨウ選手を連れ出して!
ヨウ「ヒトツキだ。解説者、貴様の目は節穴みたいだな。ヒトツキが鉈に見えるとは」
グラジオ「その通り、彼の手持ちはヒトツキのみ」
あ、靑コーナーから出てきたグラジオ選手! ヨウ選手の擁護をしながらクロバットを召喚だァーーーッ! これでいいのか!? もう訳が分かりません!
グラジオ「ヨウ、今オマエに出て行かれたら、こっちが困るんだよ」
ヨウ「フン。貴様、何を企んでいる?」
グラジオ「教えるはずが無いだろう。これはバロッ……バトルロイヤルだぞ」
気を取り直して、黄色コーナー! 可憐なポケモントレーナー、リーリエ選手の入場です! お、おお? リーリエ選手、途方もなく巨大な緑色のポケモンを召喚! なんだこれはァーーーーッ! 竹か!? 竹なのか!? 不気味に揺れるそれは、まるで竹の中から生まれた光輝く、かぐや姫……。
リーリエ「かぐやちゃん、頑張りましょう!」
グラジオ「前から気になっていたが、オマエどこでそいつを手に入れたんだ?」
リーリエ「私も分からない。道端に生えてたのを引っこ抜いてきただけだから。でも安心してください、兄様。この娘はあなたの期待を裏切らないはずです! 頑張リーリエ!」
最後は赤コーナー! ハプウ選手の入場です! 恐ろしいほどの威圧感! まるで数千頭のバンギラスを前にしているかのようだ! 彼女たった一人で、どうしてここまでの覇気を放つことができるのでしょう! ヨウ選手の異様な雰囲気とは異なり、こちらは純粋な強者のオーラを放っています!
グラジオ(三人とも、俺が合図をするから順番にヘビーボンバーを繰り出すんだぞ)ウィンク
リーリエ(まかせて、兄様が『ヘビーボンバー』の『ン』の字を言った時に、クソッタレヨウの脚へ向けてヘビーボンバーを命令すればいいんでしょう?)
ハプウ(わらわは『ビ』が合図で、ヨウの胴体へか……しかし、うまく行くかのう。こんな付け焼刃の作戦で)
ヨウ(三人が何かしでかしてくることは分かる。およそ、ヘビーボンバーで押し潰そうだの、陳腐な案で同盟を結んだのだろう。いや笑止笑止、なんと勇敢な鼠輩であることよ)
それでは、バトルスタートです!
グラジオ「クロバット、ヨウの頭にヘビーボンバー!」
ハプウ「バンバドロ、ヨウの身体にヘビーボンバー!」
リーリエ「かぐやちゃん、ヨウの脚にヘビーボンバー!」
ヨウ「やはりか……。クロバットがヘビーボンバーを覚えるとは、聞いたこともないが」
▼ともあれ、素早さに勝るクロバットが最初に、彗星のごとく紫色の尾を引いて落ちてきた!
▼しかし頭上からの攻撃を予測していたヨウは、身体を半回転させて軽々と回避! クロバットは強かに顔を打ち付けた!
ヨウ「グラジオの野郎、まさか避けられるとは思うまい。予想外の事態が起きた時、人は本性を見せるという、グラジオ、貴様のドス黒い心を見せてみろ」
ハプウ「バンバドロが落ちるぞよ! クロバットを移動させるのじゃ!」
グラジオ「ダメだ、間に合わない!」
バンバドロ「ムヒイイン!」
グジャッ
▼920kgのバンバドロによる、ヘビーボンバー! これにはクロバットもたまらない!
リーリエ「待って! まだテッカグヤがーー!」
ハプウ「……悪夢じゃ」
ズズウウン……
▼バンバドロの上に重さ999.9kgのテッカグヤが垂直落下! 合計して2トンの重圧! ロイヤルドームの床が轟音と共に抜けてしまった!
▼バンバドロのじきゅうりょく! バンバドロの防御力が上がった!
リーリエ「防御力上げてる場合じゃねぇ! 作戦失敗してんじゃねーか!」
~試合後~
ヨウ「知恵を絞って編み出した作戦があっさり見破られる気分はどうだ?」
グラジオ「クッ……どこでオレはミスッたんだ」
ヨウ「最初からさ。最初から貴様の考えなど見え透いていたんだよ。それと、『潰れ死ぬ』という言葉が耳に入ったからだな。リーリエのおかげだ、褒めてやれ」
リーリエ「テメェに神の呪いがありますように。もう二度と鉈を振るうことができませんように! 島の守り神さま、耳あらば聞け! 私の願いを!」
ヨウ「ハプウ。見たか、これが俺の力よ。ポケモンになど頼らぬ、己が頭脳と筋肉で戦う猛者の実力よ! いいか、グラジオやリーリエにも言うが二度と俺に関わるな。貴様らには愛着があるから殺しはせぬが、これっきりだぞ」
ハプウ「……だそうじゃが」
グラジオ「フッ、もう終わりさ。アローラは悪鬼羅刹の手に落ちた。かくなる上はリーリエ、一緒に死のう。ポニの大峡谷で、飛び降りて死のう。これ以上、アローラが蹂躙される姿をオレは見たくない。死のう。死ぬべきなんだ、死死死死死死死死死死死死死死死」
リーリエ「兄様が壊れちゃった……」ガクッ
▼グラジオは廃人になった!
???「結果はともあれ、燃えるような試合だった」
ヨウ「誰だッ!?」
???「次は俺の試練で燃えて燃えて、燃え尽きてください」
ヨウ「名を名乗れ。戦士たるもの、自己紹介も無しに話はできぬぞ」
カキ「……炎のキャプテン、カキ!!!!!」
カキ「7番道路の先にあるヴェラ火山公園。その頂で待っている!」
カキ「島巡りをやり遂げるなら、最高の装備で登ってこい!」
ヨウ「鉈一本では、俺に勝ち目はないと申すか」
カキ「無い! 髪の毛一本ほども、勝ち目はない! 正直、お前のバトルを見て落胆している。鉈を振るうかと思えば、ただ避けるだけ。燃えるはずがない! 例えるとするなら、そうだな。湿った藁に火種を置いて、一生懸命火を起こそうとしてるようなもの!」
ヨウ「よく分からんが、そこまで大口を叩くからには相応の試練だろうな」
カキ「当然だ! 生きて帰れると思うなよ、俺はスイレンやマオとは違いなまっちょろくはないのだ! せいぜい讃美歌でも歌っておけ! ま、お前は地獄行きだと思うがな!」
▼カキは去っていった!
リーリエ「なに、あの人……」
ハプウ「危険な匂いがするのう。あれがキャプテンとは、俄かに信じられぬわ」
ヨウ「……間違いない、奴は俺と同類だ」
ハプウ「同類じゃと?」
ヨウ「殺戮に愉悦を感じている、ということだ」
ヨウ「では、そろそろゆく。じゃあな、二人とも。二度と絡んでくるなよ、忠告したからな」
▼ヨウはロイヤルドームを出て行った!
▼ヨウはスーパー・めがやすに立ち寄った!
ヨウ「おい、レジ打ちの店員」
めがやす店員「どういたしましたか?」
ヨウ「ここで販売している中で『一番良い装備』を欲しいのだが。分かるか」
めがやす店員「フム、豪傑に見合った武器と言えばこれでしょうか? 青龍偃月刀。これは一種の矛みたいなものですがね。岩タイプポケモンでもバッサバッサ斬れるんですよ」
ヨウ「ほほう、中々の逸品だ。して、相談があるのだが」
めがやす店員「なんでしょう? 値切りは一切受け付けませんが……」
ヨウ「いや、少し斬れ味を試してみたかったのだよ」バッサ
めがやす店員「ぷべら!」ブシャア
ヨウ「斬れ味も抜群だな。よし、これにしよう。礼を言うぞ」
▼ヨウは青龍偃月刀を手に入れた!
~ヴェラ国立公園・頂上~
カキ「……ついに来たか。カキです」ゴゴゴゴゴ
ヨウ「ヨウです」ゴゴゴゴゴ
カキ「アローラに古くから伝わる踊りを、ガラガラと共に学んでおります」
ヨウ「そうか、それは良かったな。で、まだなのか」
カキ「カキの試練……これまでとは一風異なる内容ですが、もちろん挑みますね?」
ヨウ「カキ、見えるか。スーパーで購入した青龍偃月刀だ。これが意味するところは、鏖殺(おうさつ)! 血は滾ったか? ではゆくぞ」
▼ヨウの瞳が怪しげに紅く光る!
カキ「すでに帰りの馬の腱を斬っていたか……。では、試練開始と参りましょう!」
▼カキの瞳も紅く光り輝いた!
~試練開始~
カキ「カキの試練は観察力を求める!」
カキ「一度目の踊りと二度目の踊り、どこが違うのか答えてもらうぞ! もし間違えたりしてみろ、お前の血肉はガラガラの糧となる!」
カキ「では、ダンス始めィ!」
▼三匹のガラガラが骨を振って踊りだす!
ヘーイwwwヘッヘーイwwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwwヘッヘェーイ!!!!
カキ「今の踊りの形、よーく覚えておけ」パチパチパチ
ヨウ「ああ、覚えたさ」
ヘーイwwwヘッヘーイwwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwwヘッヘェーイ!!!!
カキ「先ほどの踊りとどこが違うだろうか」パチパチパチ
ヨウ「……真ん中のガラガラが、上を向いているな」
カキ「な、なんということだ! 見事、見事なり! おいでませ、ガラガラ!」
ガラガラ「ヘッヘェーイ!!!!wwwww」ピョーン
ヨウ「ゆけ、偃月刀!」ジャンッ!
▼偃月刀の斬り下げ! 首のないガラガラの身体が、たたらを踏んでうつぶせに倒れた!
カキ「なるほど、流石にスイレンのヨワシを突破してきただけはある」
カキ「だが二問目だ! 勝ったつもりでいるなよ」
ヨウ「まだあるのか。俺は先を急いでいるとっととクリスタルをよこせ。遊びはこれで終いだぞ。分かったな?」
カキ「遊びだと? カキの試練を遊びとほざきよったな! こちらは本気だぞ!」
ヘーイwwwヘッヘーイwwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwwヘッヘェーイ!!!!
カキ「今の形、覚えておけ!」
ヨウ「退屈だ。早くクリスタルと金を持ってこい」
ヘーイwwwヘッヘーイwwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwwヘッヘェーイ!!!!
▼右下に爽やかな笑顔を見せる山男が、ドアップで映っている!
カキ「な、なんということだ! 来い、山男! 奴を潰せ!」
山男のダイチ「アローラー!!!!wwww」ピョーン
ヨウ「破ァ!」
山男のダイチ「むんッ!」
▼ヨウは偃月刀を力の限り斬り上げた! しかし意外や意外、山男のダイチも自身の持つピッケルで応戦してきたのである! 偃月刀とピッケルが噛みあうこと50合!
ヨウ「クッ……! やりおるわ!」
山男のダイチ「アローラー! せっかくの試練だし、エンジョイしないとネ!」
▼偃月刀を縦に振り下ろして斬り裂こうとするも、山男はピッケルで打ち払い、そのまま水平斬りを放ってきた! ポケモンで言うところのエアスラッシュ!
ヨウ「ぐわッ!」
▼ヨウの脇腹から血が流れだす! 負けじと、ヨウも山男の左足を地に縫い付ける!
山男のダイチ「あいたッ!」
ヨウ「おおおおおッ!」
▼一瞬の隙をついて、ヨウは偃月刀を勢いよく振り上げた! 山男の上半身がボテッと地面に転がり落ちる!
カキ「次で最後の踊りとなるが、だいぶ息が上がっているようだな。いい気味だ」
ヨウ「貴様が言うところの『燃える闘い』ってのはこれかい? フッ、失望したよ。あまりにくだらないんでな。本物の闘いに比べれば、児戯に等しい」
カキ「好きなようにほざけ。どっちみち、次でお前は確実に終了。カプ・コケコに祈りを捧げてはどうだ? 助けに来るかもしれないぞ。ただし、コケコは俺の味方だが」
ヨウ「おとなしくホノオZを渡せば、何もせず退いてやるのに。賢者なら身の保全を図り、宝石を差し出すと俺は思うがね」
カキ「生憎だが、俺は賢者ではない。キャプテンだ! 挑戦者に試練を与え、さらなる高みへ導くのが俺の使命! それに、好きなんだよ。お前みたいな、生意気な若僧を叩き潰すのが。気持ち良くて仕方ないんだ」
ヨウ「ぐ……ぐぬッ……!」
カキ「では、最後の踊りだ。始めェ!」
ヘーイwwwヘッヘーイwwwwヘッヘーイ(ヘーイww)wwww……
ヨウ「もう我慢ならぬ! その腐ったダンスをやめんかゴラァーッ!」
ヘッヘーイ(ヘーイww)wwwwwヘッヘェーイ!!!!
▼そこには、目を血走らせた少年に首を絞められているカキの姿が!
カキ「お、ま、え……」
ヨウ「ハアッハアッ、フゥウウオオオオ!」
カキ「お、れ、を、たすけろ、ぬし、ポケモン!」
▼ぬしポケモンはどうする?
①飛ぶ出す
②見過ごす
???「どくどく~!!」
~ぬしのエンニュートがカキを救うため、勝負をしかけてきた!~
ヨウ「そこを動くな、ぬしポケモン」
エンニュート「どくッ!?」
ヨウ「もし動けば、カキを殺す。それは嫌だろう? ずっと鍛えてくれた主人を失うのは、貴様も辛いだろう?」
エンニュート「どく……」
ヨウ「取引だ。今すぐホノオZと金を持ってこい。金はありったけだ、少なかったらカキの命はない。三分間待つ。急いでカキの家へ行き、二つを俺に献上しろ」
カキ「だ、め、だ……。し、たがっちゃ、いけない! お、れ、ごと、はじけるほのおで、焼き払う、んだ!」
▼カキは最後の力を振り絞って、喉が張り裂けんばかりに叫んだ!
カキ「エンニュート! 俺ごと島巡りを燃やし尽くせ! 命令だ、従うんだ!」
エンニュート「どく……どくどくッ!」フルフル
カキ「嫌でもやれ! 元凶を断つにはこれしかない! 俺が抑えているから、今のうちにはじけるほのおだ! やれ、やるんだ!」
ヨウ「諦めな、奴は従えまいよ。今に背を向けて逃げ去るだろうさ。自分の撫で肩にかかった、責任の重さに押しつぶされてね」
エンニュート「……」
エンニュート「どくッ!」ゴオ
▼ぬしのエンニュートのはじけるほのお! 炎がカキの全身だけでなく、ヨウまでも包み込む! 熱さに耐えきれず、ヨウはカキから手を放してしまった!
ヨウ「まさか、本当に炎を放つなんて。イカレてやがる……。貴様らイカレてやがる!」
カキ「ぐッううう、エンニュート、よく決断してくれた」
ヨウ「あづい! あづい! 誰か水を、消火器を持ってこい!」
▼ヨウとカキは炎に身を焦がしながら、その場で転げまわった!
カキ「ざまぁみろ、最期のダンスは俺とお前、二人で完成させる! カキのアツアツダンス体験プログラム、楽しんでいただけましたかな!? あっつゥ!」
ヨウ「そうだ、スイレンからミズZを奪っていたのだった!」
▼ヨウのスーパーアクアトルネード! ヨウのやけどは治まった!
▼人肉の焦げる匂いが辺りに漂う
▼もはや炭にしか見えないカキの死体を、エンニュートは抱き上げた!
カキ「」
エンニュート「……」
▼エンニュートはカキの死体を抱えたまま、頂上の際まで歩き、そのまま崖下へ飛び降りた! 予想外の行動にヨウも驚きを隠せない!
ヨウ「まさか、逃げたのではあるまいな!?」
▼駆け寄って下を覗くと、血だまりとそこに沈む黒いトカゲの死体があった!
ヨウ「主を失ったポケモンは生きてゆけない、か」
ヨウ「フッ、くだらん」
ヨウ「メレメレ島のヨウ! 敵将カキを討ち取ったりィ!」
ファファファーンファーンファーン
テレレレッテテテ テレレレッテテテ テッテッテ テーテーテーテ テーンテテテンッ!
~試練達成~
ヨウ「あの世で踊り続けるんだな。炎に生き、炎に死せる男。カキよ」
▼ヴェラ公園をあとにしたヨウは、次なる戦地・シェードジャングルへ向かっていた!
ヨウ「キャプテン・マオとの対戦か。ま、カキがなまっちょろいと言うくらいなら楽勝だな」
???「ちょ、そこのあなた! 止まりなさい!」
▼金と青を基調とした、珍妙な髪型の男が話しかけてきた!
アクロマ「いや、失敬! 私はアクロマと申します。モンスターの潜在能力について研究をしておりまして、あなたに着目したわけですよ!」
ヨウ「何?」
アクロマ「あいや豪傑、そう疑い召されますな。あなたには潜在能力を引き出す『絆』が備わっております!」
ヨウ「絆だと?」
アクロマ「ええ、誰との絆と申しますと怨霊との絆、あなたの背後には怨霊がついておりまする。ええ、ほんとスッゴイ量の怨霊。ウフフ」
ヨウ「結局、何が言いたいのだ。不審者として始末するぞ」
アクロマ「ああ、端的にまとめますとですね。あなたに興味があります」
ヨウ「は?」
アクロマ「学術的な興味ですよ。とりあえず、これを差し上げましょう」
▼ヨウは技マシン43「ニトロチャージ」を手に入れた!」
アクロマ「炎をまとって何やかんやする技ですね。このまま身体のデータをとらせていただければ本望なのですが……」
ヨウ「断る!」
アクロマ「そう仰ると思いましたよ。残念ですが、今回は引き揚げるとしますか。ニトロチャージ、使ってくださいよ!」
▼アクロマは走り去っていった!
ヨウ「フムン。ニトロチャージねぇ」
~シェードジャングル~
マオ「まいど! マオの試練の場・シェードジャングルへようこそ!」
ヨウ「随分と嬉しそうだな」
マオ「それは嬉しいよ! 久々のチャレンジャーだもん! それにいつ見てもあなた……」ジーッ
ヨウ「どうした」
マオ「ううん、なんでもないよ/// 素材の良さが光ってるねってこと!」
ヨウ「素材だと? 何のことだ?」
マオ「よし! この話はやめやめ! じゃ、手伝って……じゃなくて、試練にチャレンジしちゃいましょ!」
ヨウ「おい、俺は急いでいるのだ。クリスタルと金目の物を寄こせ」
マオ「ジャングルの息遣い……そこから感じ取れる本日のオススメは……」
マオ「決めました! マオの特別料理、名付けてマオスペシャル!」
ヨウ「料理はどうでもいい。何故俺の命令に従わぬ」
マオ「今回、あなたに集めてほしいのは4つ! マゴの実、小さなキノコ、ふっかつそう、きせきのタネ、です!」
ヨウ「無視しやがって……」ブチッ
ヨウ「しかし、釣りにダンスに今度はママゴト。アーカラ島のキャプテンはどうなっているんだ?」
マオ「マオの試練、始め!」
~試練開始~
ヨウ「で、どうすればいいんだ?」
マオ「人に聞かない! 自分の頭で考えて! ほとんどは地面に埋まってるよ、じゃあどうすればいいか……マンキーでもない限り分かるよね!」
ヨウ「臭いで場所を突き止め、土を掘って見つけろ。そうだろう?」
マオ「そゆこと! やっぱり歴戦の猛者は違うね~!」
ヨウ「面倒だ」
▼ヨウのマグニチュード! マグニチュード10!
ズズウン……ズズゥン……ズズゥン
マオ「きゃああ! ちょっと、何してるの!」
ヨウ「地球を軽めに殴っただけだが。ほら見ろ、食材が剥き出しになっておるぞ」
マオ「これじゃあ、試練の意味がないよ……」
ヨウ「獣まがいのことなどやっていられるか。これが一番効率的だ。ついてこい、マオ」
マオ「う、うん……しっかり集めてね!」
▼ヨウは材料袋に小さなキノコを入れた! 大きなキノコが襲い掛かってきた!
ヨウ「やめろ」
▼パラセクトを輪切りにした! パラセクトは倒れた! それでもヨウは偃月刀で斬り刻み続ける!
マオ「ねえ止めなよ。もうパラセクト、死んでるよ……」
ヨウ「身の程を知らぬ馬骨には、八つ裂きの刑が相応しい」
▼ヨウは材料袋にマゴの実を入れた!
マオ「おめでとう! マゴの実は大きいほど曲がって、曲がるほどに甘くておいしくなってね……」
ヨウ「うるせぇな。傍らでそうペラペラ話されるとイラつくんだよ。下顎切り取ってやろうか?」
マオ「ご、ごめんなさい」
▼ヨウは材料袋にふっかつそうを入れた!
マオ「……どうしてヨウ君は、そんなに乱暴なの?」
ヨウ「乱暴ではない。覇道だ。全ての敵を恐怖と暴力によって支配する」
マオ「あたし、分かってるよ!」
ヨウ「なにが」
マオ「本当は、ヨウ君が他人想いの善い人だって知ってるから! 無理してるだけなんだよね、辛いよね。苦しいなら、あたしに全部打ち明けてよ! 相談に乗るから!」
ヨウ「フン。俺の母親でもないくせに、知った風な口を利くな」
▼ヨウは材料袋にきせきのタネを入れた!
マオ「良いきせきのタネだね! 栄養たっぷり、まさにジャングルの奇跡!」
ヨウ「わかったわかった、いつクリスタルをくれるんだ。あと金もな」
マオ「材料を全部集めたみたいだから、入り口に戻るよ! レッツ、クッキング!」
~入り口~
マオ「よーし! 材料を集めたみたいだから、あとはスイレンとカキが……」
ヨウ「彼らは来ない。俺がすでに消した。ひどい死に様だったぞ」
マオ「……そう、なんだ。まぁいいよ、別にそこまで仲良くなかったし。ってか、ぶっちゃけ調理器具が欲しかっただけだし……。ヨウ君、少し待ってて。代わりになりそうなものを取ってくるから」
▼一時間後。マオが泣き腫らした目をしばたたかせながら、釘バットと水とラムパルドの頭蓋骨を持ってきた!
マオ「さぁヨウさん! ぬしポケモンを呼び出す料理を作ろう!」
スイレン(頑張りましょー!)
カキ(気が進まないが……仕方ない、手伝ってやろう)
マオ「うう……どうして。どうしてなの、ヨウ君」
ヨウ「メソメソするな、腐ってもキャプテンだろうが」
▼マオは地面にピンク色の食布を敷いた!
マオ「まず材料を確認します!」
ヨウ「せんでいい、見りゃ分かる。とっとと始めろ」
マオ「はい、スイレン! ひっくり返したラムパルドの頭蓋骨においしいみずを注いでね!」
スイレン(はい! おまかせください)
ヨウ「スイレンはいないぞ」
マオ「……材料をブッ込んで! カキ! 釘バットを貸してね!」
カキ(うむ)
ヨウ「カキもいないぞ」
マオ「……ううッ。うぐううう~~~~」
ヨウ「よし、釘バットで素材を叩けばいいのだな」
▼Aボタンを連打して材料を叩いてください
▼ドシンドシンズシンズシン
ヨウ「おい、叩いたぞ」
マオ「くだいて!」グスッ
▼ガッゴッバキャッ
ヨウ「くだいたぞ」
マオ「すりつぶして!」
▼シュッシュシュッ
ヨウ「すりつぶしたぞ」
マオ「ドロドロにして!」
▼ドゥロッドゥロッネチャ
ヨウ「なぁ、マオ。なぜ俺がここまでママゴトにつきあってやってるか、分かるか?」
マオ「どうせ、クリスタルとか金がどうのとか。そんなことでしょ?」
ヨウ「それは違うな。贖罪だ、スイレンとカキに対してのな」
マオ「贖罪?」
ヨウ「俺は今まで沢山の人間を殺してきた。島キングの孫であるハウに始まり、ククイ博士、実母、イリマ、島キング、スカル団の人間、マラサダショップの店員、スーパーめがやすのレジ打ち。そして貴様の友人、スイレンとカキ。さすがの俺も、罪の意識ってもんが芽生えたのよ」
ヨウ「それゆえ、一度くらいは真面目に試練をやり遂げて、罪を償いたいってわけだ」
マオ「あたしの友達は帰ってこないよ」
ヨウ「そうだな、本当にすまない。心の底から殺さなければと後悔している」
ヨウ「せめて、この料理を彼らへの弔いとしたい」
▼辺りに独特な匂いが漂いはじめた……
▼マオは涙を拭くと、太陽のように明るい笑顔を見せた!
マオ「ヨウ君にも、ひとかけらの良心がまだ残ってたんだね」
マオ「あなたを最初に見た時、島クイーン・ライチさんを前にしても怯まない強靭な精神力に驚いたの。頼もしい人だなぁって思って。それからずっと、あなたを助けたい、支えになりたい一心で追いかけてた」
ヨウ「俺を支えたいとは殊勝な心がけだ。そこまでの想いがあるならば、特別に貴様を連れて行ってやってもいい。一人旅、というのも寂しいからな」
マオ「ホント!? ホントに!? 連れてってくれるの!?」
ヨウ「その代わり、クサZを渡してもらう。できるな? 俺の大切な大切なマオ……」
マオ「大切だなんて! そんなの、卑怯だよ……///」
▼マオは少し躊躇した素振りを見せたが、緑色のクリスタルをヨウの手に乗せた!
ヨウ「クク……」
ヨウ「これで、シェードジャングルの試練も終わりだ。よくやった、貴様が英断を下したおかげで、俺も罪を増やさずにライチへ挑める」
マオ「ヨウ君……」
ヨウ「なんだ?」
マオ「うしろ!」
ヨウ「ぬしポケモンか!」
???「しゃらんしゃらんら!」
~ぬしのラランテスがマオの心を取り戻すため、勝負をしかけてきた!~
ヨウ「マオ、貴様は下がっていろ! 俺が片をつける!」ジャン
ラランテス「しゃらんら!」
ポワルン「ぽわーん」
▼ラランテスは仲間を呼んだ! ポワルンが降臨! ポワルンのにほんばれ! 薄暗いシェードジャングルに強烈な日光が差し込んだ!
ヨウ「ぐわッ! 眩しい! ラランテスとポワルンの姿がよく見えん!」
マオ「ヨウ君! 上からシザークロスが来るッ! 気を付けて!」
ヨウ「恩に着るぞ、マオ!」
▼ラランテスのシザークロス! ヨウは手首を翻し、あえて回避せず偃月刀を当てにいった! 衝撃波が走り抜け、ヨウの帽子を吹き飛ばす!
▼一瞬の膠着状態にポワルンの火炎放射が割り込む! 両雄、炎を避けるために飛び退いてお互い距離を取った! ラランテスの身体が若草色に輝き始める!
ヨウ「マオ! あれはなんだ!?」
マオ「たぶん、ソーラーブレードね! でもご安心を、ソーラーブレードは大きすぎて縦にしか斬ることはできないわ!」
ヨウ「ラランテスの延長線上にいなければ、回避は可能ということだな!」
マオ「うん! 頑張って、ヨウ君!」
ヨウ「今度はこちらからゆくぞ。まずはポワルン、貴様からだッ!」
▼ヨウのやつあたり! ヨウは日ごろのイラつきを刃に乗せて、偃月刀を振り回した!
▼ヨウの心にわだかまる闇は深い! ゆえに、そのダメージは攻撃特化ハチマキ持ちガブリアスのげきりんを遥かに凌ぐ威力!
ポワルン「ギャース!」
▼ラランテスは隣のポワルンが肉粉になったことを、まだ知らない!
ラランテス「しゃらんらーッ!」
マオ「ヨウ君、くるよ! 横へ逃げて!」
ヨウ「いちいち報告するな、集中が途切れる」
▼ラランテスのソーラーブレード! ラランテスは両手の鎌を地面に突き刺し、座り込んで天を仰いだ! そして砲台よろしく、高威力の破壊光線を放ったのである!
▼光線が振り下ろされてきた!
マオ「やられる! やられてしまう!」
ヨウ「少し落ち着け、貴様はそれでもキャプテンか? ギリギリまで待ってから」
ヨウ「跳ぶッ!」
ラランテス「しゃらッ!?」
▼光線を易々とかわしたヨウは、青龍偃月刀を上段に構え……
ヨウ「これで、試練完了だ!」ブゥン
▼ラランテスは自らの傷を癒す技・光合成を持っていた。にも、かかわらず何故使わなかったのか。使う暇さえ与えられなかったのだ。ヨウの圧倒的武力の前には。
▼化け物に魅せられたマオの心を取り戻すため、黄金の精神を宿したラランテスは必死に闘った。しかし、両者の間に広がる大きな戦力の差を埋めるまでには至らなかった。
ファファファーンファーンファーン
テレレレッテテテ テレレレッテテテ テッテッテ テーテーテーテ テーンテテテンッ!
~試練達成~
マオ「あれ? ラランテス全然料理を食べてないよ」
ヨウ「そりゃそうだ。食べる前に俺が誅したからな」
マオ「ならヨウ君食べて! ほら、カキもスイレンも食べて食べて!」
ヨウ「言っただろう。二人は死に、九泉の下にいる。俺についてくるつもりなら、腹をくくれ。人やポケモンの命を、自らの手で断つ。その覚悟を決めよ」パクパク
マオ「どうかな? おいしい? 気に入ってくれたら嬉しいけど……」モジモジ
ヨウ「うむ、実に良い味だ。ピリッと辛みが利いているのもよい」
ヨウ「よし、貴様は給仕係だ。朝、昼、晩、俺に料理を提供しろ。それから酒を注ぐ酒姫にもなれ。貴様はキャプテンではない。ただの汚らしい給仕係だ。いいな?」
マオ「ヨウ君と一緒に旅ができるなら、どんな仕事だってしてみせるよ!///」ニカッ
バンバドロ「ムヒヒウン!」
ハプウ「おっ、なんだか甘い香りが漂っておるのう」
マオ「ハプウさん! マオのスペシャルメニューだよ!」
ヨウ「貴様はハプウ! バトルロイヤルの雪辱を晴らしにきたか?」
ハプウ「おぬしも短気じゃな。マオの試練を達成したおぬしに、わらわからプレゼントじゃ。必ず攻撃が当たる、スマートホーンの技マシンじゃぞ」
ヨウ「スマートフォン?」
ハプウ「ス・マー・ト……ああもう、その耳どうにかならんのか!」
▼ヨウは技マシン67『スマートホーン』を手に入れた!
ハプウ「そうじゃ、おぬしに行ってもらいたい施設がある。空間研究所、という何やら空間や次元に関する研究を続けておる施設じゃ。たぶんアーカラ島にあったはずじゃ」
ヨウ「珍しいな。敵対した貴様が俺に情報を与えるとは」
ハプウ「敵の成長を見守るのも、たまには良かろう。十分にモンスターとして育ち切ったおぬしを撃破する。これほど痛快なことはない」
ハプウ「それと、隣のお嬢さん。悪いことは言わん、この男から離れなされ。さもなくば、おぬしは最悪の運命へ舵をきることとなる」
マオ「これはあたしが決めた道だよ。最悪の運命になるなんて思えないな! ヨウ君も乱暴だけど、根っからの悪人や狂人じゃないみたいだし!」
ヨウ「そういうことだ。どいてもらおうか、ハプウとおつきの駄馬」
バンバドロ「ムフン! ブルルッ!」
~空間研究所前~
リーリエ「いけ! 兄様! はねるです……!」
グラジオ「ヴォエエエエ、ヴォエエエエエエ」ピョンピョン
マオ「ねぇねぇヨウ君! 変な人たちがいるよ! 絡まれないようスルーしていこうよ」
ヨウ「心配するな、あれは俺の知り合いだ。ま、貴様は後ろで話を聞いておればいい」
リーリエ「兄様……あなた、傷ついてばっかりだったでしょ」
グラジオ「ヴォゴッゲェボッ」
リーリエ「ですから戦士への憧れはなかったのですが、兄様やハプウさんたちが未来の扉を開けているようで、なんだかステキだなって……」
ヨウ「カカカ、酷いザマだな。リーリエさんよ」
リーリエ「あッ……!」
ヨウ「ククイ博士は既に他界、おまけに頼みの綱であった兄も発狂。悲劇のヒロインを気取るにゃ、もってこいの材料じゃあないか。なぁ、マオ?」
マオ「う、うん。そうだね、アハハ……」
リーリエ「オイ」キッ
マオ「は、はい」
リーリエ「どういう経緯でコイツの仲間になった? このアバズレが。ニラみたいな色の髪しやがって。どうなんだ、ええ?」
マオ「えっと、それは、その……」オロオロ
ヨウ「これは俺とマオの話だ。関係のない貴様の如き鼠輩が口を出すことではない」
リーリエ「グッ……。ヨウ、ちょいとテメェご機嫌みたいだな。装備も変えて、女も連れて……。すっかり王様気取りじゃねぇか。笑えるぜ。ヘッ笑っちまうよなァ~!」
グラジオ「ゲへへへへへ」
ヨウ「どういう意味だ」
リーリエ「テメェより強い人間なんざ、この世にゴマンといるんだよ。自分が最強だと思い上がるなってこった」クルッスタスタ
▼リーリエは哄笑しながら立ち去った!
マオ「あの、かばってくれてありがとう……。やっぱりヨウ君は優しいね///」
ヨウ「俺より強い人間が他にいるだと……? リーリエの野郎、何が言いたいんだ」
マオ「ね、ねね。もうあの人のことは忘れて研究所に入ろうよ! そうそう、それからあとでブティックにも寄りたいな~!」
▼ヨウのめざましビンタ! マオの頬を強くひっぱたいた!
ヨウ「あまり調子に乗るなよ雌犬。これはデートでもなんでもない。貴様はあくまで俺の給仕係であり、その範疇を越えてはならぬ。よいな?」
マオ「分かったよ……ごめんなさい」
ヨウ「ごめんなさい? 『すみません』だろうが! 言葉を改めろ!」ギュウウ
▼ヨウは餅のようなマオの頬を千切れんばかりにつねった!
マオ「いぎぎぎぎ! すみませんすみません! ヨウく……」
ヨウ「ヨウ君? ご主人様と呼べ。悪いのは誰だ? オイ……誰だって聞いてんだよ」
マオ「あたしが悪いんです! 叱ってください、ご主人様ぁ!」
~空間研究所内~
マオ「わぁー! ひろいー! まさしく機械のシェードジャングル!」
ヨウ「走るな。連れている俺までバカだと思われる」
マオ「あ、誰かキレイな女の人がこっちにやってくるよ!」
ヨウ「誰だ貴様」
バーネット「私はバーネット、ここ空間研究所の所長よ。リーリエから話は聞いたわ、あなたがヨウですってね」
ヨウ「いかにも、俺は島巡りのヨウだ。こんな狭苦しい場所に来る予定はなかったのだが、隣のマオがせがむんで、仕方なく来た次第よ」
マオ「ヨウ君だって、少し興味を示してたじゃない!」
ヨウ「ちと煩いぞ、マオ。試しに死んでみるか?」
バーネット「私の夫、ククイを殺めた張本人……。なるほど、噂に違いはなかったようね」ギリッ
ヨウ「何か言ったか?」
バーネット「……三ヶ月前、浜辺で倒れているリーリエを見つけたのよね。バッグの中のコスモッグもイカれてたし」
バーネット「ん? ところでハウはいないの?」
マオ「ハウ君はマイペースだからね。けど素材の良さは一番! ハラさんみたいな大物、島キングにだってなれるよ!」
ヨウ(フッ、滑稽だな。死者の話題で盛り上がるというのは)
バーネット「アローラの謎……それは、ウルトラホール!」
ヨウ・マオ「「ウルトラホール?」」
バーネット「アローラでは、ごく稀に空に穴が開くとされています」
バーネット「そして、その先には未知の空間があるらしいの」
バーネット「なぜ未知の空間があると推測されているのか、それはウルトラホールから怖いポケモンがやってきたとの伝承が残されてるから」
マオ「へー」
ヨウ「笑止千万! 根も葉もない御伽噺よ。ムーを読み過ぎた女の末路だな」
バーネット「確かに根拠としては貧弱だけど、無視できないのよね。これまでのポケモン図鑑にも、別世界に関する説明は幾つか散見できるし」
マオ「怖いポケモン?」
バーネット「野生のポケモンは人を襲うこともあるでしょ。ウルトラホールから来た輩はもっと激しかったそうよ。ヨウ、あなたみたいにね」
ヨウ「一緒にするな。俺はむやみに人を殺したりしない」
バーネット「どの口がほざくのかしらね。ま、ウルトラホールの謎について解明できたら、きっと学会に衝撃を与えること間違いなしだわ」
バーネット「ククイの悲願を叶えるためにも、ここは私が踏ん張らないとね!」
ヨウ「ふーん、貴様のしたいことは分かった。帰るぞ、マオ」
マオ「えッ? そんな早くどうして」
ヨウ「くだらん話で時間を潰した。ブティックに寄ってやるからついてこい」ザッ
マオ「でもウルトラホールって気になる……」
ヨウ「いちいち俺に意見するんじゃないッ!」ギュウウウウ
マオ「ぎゃーッ! また頬を……痛いよー!」
バーネット「ククイも酷い子を選んだものね。あれも一種のモンスターってとこかしら」
~カンタイシティ・ブティック~
マオ「見て見て! グリーンのフリルドットタンクトップ! ずっと欲しかったんだー! わぁ、ニーハイにサングラスもある!」
ヨウ「買う服を決めろ。ただし、一つだけだ。何万も払える金なぞ持っていない」
マオ「あたし、ずっとシェードジャングルで挑戦者の相手をしてたから、こういうキラキラした場所に来たことなかったの! 連れて来てくれたのは、ヨウ君が初めてだよ!」
ヨウ「解せん」
マオ「え、何が解せんの?」
ヨウ「女はなぜそこまで衣装に気を遣うのか、さっぱり分からん。どうせすぐ島クイーン・ライチとの闘いが始まる。血と泥で汚れてしまうのに」
マオ「だってほら、料理作る時でも手は洗うでしょ? 汚い手で野菜や木の実を掴んだりしないでしょ? 普段から身だしなみに気を遣う。基本中の基本だと思うけどなー」
ヨウ「戦士の自覚が足りんな。よし、俺が現実に引き戻してやろう」
▼ヨウはマオに何か黒い鉄の塊を渡した!
マオ「なにこれ……」
ヨウ「ベレッタM92。鋼タイプのポケモンだ。引き金を引けば、自動的に口から弾を発射する。護身用に持っておけ」
マオ「あ、ありがとう。けど、どこで買ったのこれ?」
ヨウ「スーパーめがやすで、青龍偃月刀のついでに買っておいた」
マオ「……」
ヨウとマオはディグダトンネルに着いた!
▼目が慣れるまでは、手探りでしか進めない! すると、闇の中から聞き覚えのある声が!
ライチ「こっちは中々だね」
ヨウ「その声は……ライチか」
ライチ「トンネルの中じゃ、ポケモンのディグダがてんこもり暴れててさ」
ディグダ「ディディ! ディディディ!」
ライチ「ほら、こんな風にね。並みのトレーナーじゃ通れないよ」
ヨウ「俺が並みの戦士でないことは、知っているだろう?」
ライチ「それはどうかな、Zクリスタルを見せてごらん。マオの試練を突破したことは分かるけどさ。マオ、あんたヨウについていくんだね」
マオ「え”ッ!? 見えるんですか、こんな暗いのに!?」
ライチ「あんたがいなくなったら、シェードジャングルのポケモンを誰が守るんだ。キャプテンの責務を放り投げて、他の島に逃避行かい? いい度胸じゃないか」
ヨウ「その言葉、そっくりそのまま貴様に返そう。マオは今、拳銃を持っている。ある程度遠くからでも、貴様を撃ち殺すことができる」ゴゴゴゴゴ
マオ「待ってよ、あたしはそんなことしないよ!」
ディグダ「ディグゥ」
ライチ「おやおや、ディグダが逃げちまったみたいだね。コニコシティの店で待つ。あんたとのバトル、楽しみにしてるよ」
▼しばらく奥へ進むと、白い制服を身にまとった二人組の男女が話し合っていた!
マオ「ヨウ君、あれボーイスカウトかな? どっちにしても怪しい雰囲気だね。不用意に近づかない方がいいかも!」
ヨウ「そうだな。一旦隠れて、殺めるべきか否かを査定するとしよう」
白い服の女「ふう……ライチさんの指揮のおかげで、ようやく一段落ね」
白い服の男「ですね! おっ、アローラー!」
▼白い服の男はヨウとマオに気が付き、笑顔で手を振ってきた!
マオ「アローラー! ほらほら、ヨウ君も挨拶して!」
ヨウ「いらん。それより、貴様らの素性をお聞かせ願おうか。怪しければ斬る」ジャン
エーテル財団A「俺達はエーテル財団です。主に、ポケモンの保護をしています」
ヨウ「ポケモンの保護? なるほど、動物の愛護団体のようなものか。で、そんなお偉いさん方がなぜディグダの穴にいる」
エーテル財団B「こんなにディグダが暴れたのは、スカル団の仕業らしいの」
ヨウ「スカル団? 聞き覚えがあるような、ないような……」
エーテル財団B「あッ、スカル団というのはポケモンやトレーナーに迷惑をかけては喜ぶ、ろくでもないごろつきのことね」
エーテル財団A「俺が昔飼ってたキングラーも、スカル団の奴らにミソを抜かれて打ち殺されました。本当に許せない……」
ヨウ「おい、そこの貴様」
エーテル財団A「どうしましたか、そんな怖い顔して……」
ヨウ「貴様の顔面が気に喰わん。失せろ」ザンッ
エーテル財団A「」チーン
マオ・エーテル財団B「」ガクブル
ヨウ「久しぶりに人を斬った。良い気分だ……全身に力がみなぎってくる。これで血しぶきがあれば最高なのだが」ペロリ
エーテル財団B「キャ~! ひとごろし~!!!!!」ダッシュ
ヨウ「逃がすかッ! 我が剣技の糧となれッ!}ドスゥ
エーテル財団B「あ……ああ……」バタ
ヨウ「もっと、もっとだ! 血の巡った、新鮮な肉を連れてこい! うおおおおおッ!」ブゥンブゥン
マオ「ヨウ君、落ち着いて! 落ち着いてったら! 撃つよ! 撃つ!」
▼マオは拳銃を構え、トリガーに人差し指をかけた! 少しでも動かせば、ヨウのこめかみに風穴が開く!
ヨウ「ヌゥ!」ピタッ
マオ「そう、そのまま偃月刀を降ろして」
ヨウ「降ろさぬ、と言えば?」
マオ「撃つ!」グッ
ヨウ「……フッ。なかなか、凄みのある表情をするではないか。やはり、人は武器を持つと性格が変わる」ゴト
マオ「ヨウ君、襲われてもいないのに、どうしてエーテル財団の人を殺したの?」
ヨウ「発作だ。貴様のような常人には分からないだろうがな。時々、人を殺したくなる『波』が押し寄せてくるのさ」
ヨウ「一種の中毒だよ。例えばこんな風に暴力を振るいたくなるのも」
▼ヨウのみねうち! 偃月刀の峰でマオの太ももを激しく叩いた!
マオ「あああッ!! 痛いッ!!!」
ヨウ「苦悶に歪む人間の顔を眺めたくてな……。悪意はないんだ、許せ」
▼ヨウは拾った拳銃の銃口を、マオへ突きつけた!
ヨウ「ついてこい、貴様はまだ殺さん。大事な給仕係に死なれては困る」
マオ「はいぃ……」ゾクッ
▼エーテル財団の罪無き二人に手をかけたヨウは、マオに枷をつけて歩き出した!
ヨウ「そろそろ、出口だな」
マオ「ヨウ君……もう反省しましたからぁ……この手枷を外して……」
ヨウ「まだだ。洞窟の中は暗い、行動が見えない以上、拳銃を触らせるわけにはいかない。貴様には獅子の勇気がある。さっき、俺に拳銃を向けた行為がそれだ」
マオ「もうわけわかんない……あッ、また誰か人がいるよ!」
▼スカル団の男女が話し合っている!
したっぱG「ああ、参ったぜ。ドンチャン騒ぎしてたらよ、ディグダに囲まれふくろだたきよ」
したっぱH「うわダッセ、マジありえないんですけどー。てかウケるー」
したっぱG「わかる? ふくろだたき。ふくろで叩くことじゃないぜ?」
したっぱH「うわその説明チョー神ってるわー」
したっぱG「だからよ、俺もふくろだたきしたいわけ」
したっぱG「そんな気分の俺の前に現れる、クソガキ二名様ご来店。俺チョー感謝感激雨あられ。ちょっと来いよユー!」
マオ「うっそ、バレてる!?」
ヨウ「シメてくる。少し待ってな」
マオ「え、ええ!? また殺すつもりでしょ! 下手なことしないでよ!」
ヨウ「せいッ」
▼ヨウのマッハパンチ! スカル団のしたっぱ達は、瞬時に吹き飛んだ!
ヨウ「バイバーイ」
マオ「また殺した……!」
ヨウ「そろそろコニコシティだ。俺も貴様も、疲れてイラついているのかもしれん。ライチ戦の前に宿で休むぞ」
マオ「何も返す言葉が見つからないよ」ハァ
~コニコシティ~
▼満天の星空の下、二人は石畳の大通りを奥へ歩いていった!
ヨウ「欲しいものはあるか。せっかくの貴重な休みだぞ」
マオ「いらない。なんだか、旅を楽しむ気分じゃない」
ヨウ「あれほど俺と旅に出たいと言っていたのは、貴様だろう」
マオ「最初はそうだったよ。でも……ヨウ君が人を殺しているのを実際に見て、こんな手枷も嵌められて、怖くなっちゃった」
ヨウ「結局、お姫様気分で同行したと。フン、面倒な女だ。これでは給仕係どころか、立派なお荷物を背負わされたようなもの。覚悟がなければ立ち去れ!」
マオ「ごめん……。なんだか気分が悪くなっちゃった。休んでもいい?」
ヨウ「おお、勝手に休むといい。ただし、俺は貴様を置いていく。貧弱な女と旅はできぬ」
マオ「貧弱って、仮にも私はキャプテンやってたんだよ?」
ヨウ「だからどうした。キャプテン=屈強という方程式は成り立たぬぞ。もし貴様が屈強であると主張するなら、休みたいなど絶対に言うな」
マオ「うう……休みたい……。休みたいよぉ……」
ヨウ「よろしい。貴様は軟弱者だ。疾く去ね」
▼ヨウはマオの背中を蹴り飛ばした!
~ライチの店~
ヨウ「まさか、あんな簡単に給仕係を手放してしまうとはな。俺も反省すべきだ」カランカラン
ダイノーズ「ダノノー!」
▼ポケモンは手紙を持っているようだ……
ようへ らいちです
このこは だいのーず
いつも るすばんしてもらってるの
まちあわせは めもりあるひるの おく
いのちのいせきに きてね よろしく
ヨウ「ぬんッ!!」ビリッ
▼ヨウはライチからの果たし状をビリビリに破り捨てた!
ヨウ「コニコシティに来いと伝えながら、さらに命の遺跡へ行けだと? 何様だと思ってやがる」
ヨウ「待っておれよ、ライチ! 島クイーンの座から引きずり下ろしてやるッ!」ダッ
▼ヨウは青龍偃月刀を小脇に抱え、夜のコニコシティを猛然と駆けだした!
マオ「ヨウ君……」ジーッ
ヨウ「急がねば! 急いで命の遺跡へ行かねば!」ドドドドド
エーテル財団C「支部長! ヤドンがスカル団に囚われてしまいました!」
ヤドン「やん」
ザオボー「な、なんとかしなさい! 代表になんてお叱りを受けるァ、たまったもんじゃありません!」
したっぱI「ヘイユー! アンタからポケモン勝負するッスカ!? やるッスカ!?」
したっぱJ「俺ら二人で一人をいじめんの大好き! 飛ばしていくッスカ!」
ヨウ「どけ」ザンッ
▼ヨウの薙ぎ払い! したっぱIとしたっぱJの首が血を噴いて夜空に舞う!
ザオボー「あ、ありがとうございました。イイものをお見せしますのでこちらに……」
ヨウ「うおおお! ライチ、許さんッ!!!!」ドドドドド
エーテル財団C「声届きませんよ、支部長」
ザオボー「……残念だ。再びどこかで相見えた時、声をかけるとしよう」
~命の遺跡前~
???「あんたね……グラジオが言ってた狂人」
???「なんにも感じない、ふつーのコに見えるけどねえ」
▼音もなく忍び寄る影! 振り向けば、派手な衣装の女性が立っていた!
ヨウ(この俺が、背後を取られた!?)
プルメリ「あたいはプルメリ」
プルメリ「スカル団を束ねている、姉御ってところ」ザッザッ
プルメリ「あんたも知っている通り、連中どうしようもないバカでねえ」
プルメリ「でもさあ、バカだからこそカワイイってこと、あるじゃあない?」
ヨウ「俺を引き留めるな。小うるさいハエにつきあう暇はない」
プルメリ「分かる? カワイイあいつらを嬲り殺すあんたが、死ぬほど許せないのよ」
▼ヨウの薙ぎ払い! しかし、プルメリは刃の動きを予測し、しゃがみ込んで回避した!
▼返す刀で襲いかかるヨウの鳩尾に、プルメリの拳がめり込む!
ヨウ「カハッ!」
プルメリ「あんたの旅はここで終わりだ。行ってきな、ゴルバット!」
~スカル団幹部のプルメリが勝負をしかけてきた!~
ゴルバット「ゴルゴルッ」バッサバッサ
ヨウ「巨大なコウモリか。矛を使わずとも対処できるわ」
▼ヨウのダストシュート! 近くにあったゴミやヘドロをかき集めて、ゴルバットの大きな口めがけて蹴り上げた!
ゴルバット「ゴックン!」
プルメリ「ゴルバット、あんた何飲んだのさ! 吐き出せ、飲んだ物を吐き出すんだ!」
ゴルバット「ゴルァ……」
▼ゴルバットは血泡を吹きながら、地面に墜落した!
プルメリ「これだから、あんたって奴は嫌いなんだ!」
ヨウ「貴様のゴルバットが無能だったゆえの悲劇である。責任転嫁とは見苦しい。幹部の器とは到底思えんな。動物園の猿山に登り、チンパンジーの頭でもやっているといい」
プルメリ「クソッ! ……行きな、ヤトウモリ!」
ヤトウモリ「モリンッ」
ヨウ「ゴルバットよりも弱いポケモンをなぜ? もしや、逃げる時間稼ぎのためか」
プルメリ「ヤトウモリで抑えられるとは、思ってないさ。けど、この隙に!」
ヨウ「逃げるな、雑魚が」
▼ヨウはマオから奪った拳銃の引き金を引いた! 弾は見事プルメリの背中を貫いた!
プルメリ「……ハンッ。たいしたもんだよ」
プルメリ「ただし……また連中を痛めつけたら……次こそは本気で……」ガクッ
ヨウ「貴様に『次』はない」
▼プルメリの死骸を近くの茂みに埋めたヨウは、命の遺跡へ向けて歩き出した!
ヨウ「おう、リーリエではないか。何度目の再会だ? 数えるのも面倒だ」
リーリエ「チッ! テメェもしつこいな。私はほしぐもちゃんのために来たんだよ」
ヨウ「ほしぐも?」
コスモッグ「ピュイ!」
リーリエ「二代目だ。初代はテメェに食い殺されちまったからな。今度こそ、私はほしぐもちゃんを幸せにしてあげるんだ」
リーリエ「アーカラの守り神。カプ・テテフ。私はほしぐもちゃん(二代目)の導きによって、命の神殿に来た。何らかの関連性があるってのは分かるけど、そっから先がサッパリ。ほしぐもちゃんにとって神殿とは、島の守り神とは……」
ヨウ「そろそろいいだろう」
リーリエ「あッ!」
▼ヨウはコスモッグをつまんで、口に放り込んだ!
コスモッグ「ピュイ! ピューイ!」
ヨウ「んむ、うまい。コスモッグの体液が口の中に広がって消えてゆく」グッチャグッチャ
リーリエ「あ”あ”あ”あ”あ”!!!!! まだやりやがっだなあ”あ”あ”あ”!!!!!」
▼リーリエはショックのあまり気絶した!
▼ヨウはリーリエを茂みの中に隠した!
ライチ「おや、ヨウじゃないか。悪いね、遅くなって。カプ・テテフに呼ばれ、遺跡を綺麗にしていたのさ」
ヨウ「ご苦労なことだ。さぞ、カプなんちゃらも喜んでいることだろうよ」
ライチ「ヨウ……アローラの人を、ポケモンを知ってくれてありがとう」ニコ
ヨウ「いいから始めろ。俺は貴様に対し烈火の如き怒りの感情を抱いている! 店で待つと申した言葉は嘘であったのか!? 俺は、騙されるのが一番嫌いなんだッ!!!!」
ライチ「だから言ったじゃないか。カプ・テテフに呼ばれて行かなくちゃならなくなったって」
ヨウ「うぬーーッ! 挙句の果てに言い訳とは! アーカラの人間ほどドス黒いヘドロのような精神を持ち合わせた人間はおるまい! ならばよし、正々堂々討伐せん! 構えよ、貴様のモンスターボールを!」
ライチ「マオ、近くに隠れてるのは分かってるよ。見ただろう? ヨウはこんな男だ。それでもあんたは、キャプテンの座を捨てて去るのかい?」
ヨウ「マオだと!? どこにいる!? 出てこい!」キョロキョロ
マオ(あたしは、キャプテンになった時から決めたの。一度した決断を覆すような真似は絶対にしない。自分を裏切るようなことはしないって)チャキ
ライチ「……そうか。それがあんたの決断か。さてと、アーカラで一番ハードなポケモン勝負、ガツンと行くよ!」
ヨウ「望むところだ。貴様の全力、しかと打ち砕いてやろう!」
~島クイーンのライチが勝負をしかけてきた!~
▼ライチが先鋒として繰り出してきたのは、強力な磁力を持つノズパスであった!
ライチ「ノズパス、ヨウの頭にいわなだれ!」
ノズパス「ズッ……ズッ……」
▼ヨウの頭めがけて、夜空から無数の隕石が降りそそぐ!
ヨウ「小手先の技にやられるほど、この俺が未熟だと思ったか!」
▼反復横跳びの要領で全弾避け切ったヨウは、偃月刀を下段に構え、韋駄天の如き速さで踏み込んだ!
▼動きの遅いコンパスポケモンには、斬撃をかわす手立てがない!
ヨウ「よしッ! まずは一匹、仕留めたり!」
▼股下からノズパスの身体を真っ二つに切断――――
ガツン
ヨウ「……は?」
ノズパス「ズッ……ズズッ……」ググッ
▼どういうわけか、偃月刀の刃が鼻の辺りで止まってしまったのである!
ヨウ「刃が通らないッ……! 馬鹿な!」
ライチ「知らなかった? ノズパスの特性・がんじょう。飛んで火にいる夏の虫、とはまさしくあんたのことだね」フッ
ライチ「さあ、もう一回いわなだれ! 今度こそ挑戦者を押し潰してやんな!」
ヨウ「……いわなだれか。恩に着るぜ、ライチさんよ。俺の勝ちだッ! ぬん!」
▼ヨウは先端に刺さった敵ごと偃月刀を持ち上げた! 直後、燃え盛る岩弾が地を穿つ!
ライチ「ノズパス!」
ノズパス「ギャッ! アアッ!」ゴッゴッガッゴッ
▼なんということだ! ヨウを殺しにかかったノズパスが、皮肉にも身を守る傘として使われているではないか!
ノズパス「」チーン
ヨウ「これで終わり、ではないだろうな」
ライチ「もちろんさ。負けるビジョンがまったく見えないね」
ライチ「行きなッ! 次鋒ガントル!」
ガントル「ズッ……ズッ……」ズシィン
▼無造作に合わさった岩の塊が、土煙をあげて降り立つ!
ヨウ「また漬物石を出しおって! 骨のありそうな武将はいないのか!」
ライチ「ずつき!」
ガントル「ズズズズズズズ」ウィーンガシャグルングルン
▼ガントルは両脚を本体に収納し、背中のブースターを最大限まで吹かした! 回転しながら迫る姿は、巨大ロケットと喩えても相違ない!
ヨウ「貴様の全力と俺の全力どちらが上か、いざ勝負と参らん!」バッ
▼ヨウは服を脱ぎ棄て、偃月刀もかなぐり捨て、両手を大の字に広げた! この少年、ガントル砲を素手で受け止める気らしい!
マオ「やめて、ヨウ君! そんなことしたら、良くて骨折悪くて死! どちらに転んでも悲劇しか起こらないよ!」
ヨウ「ジャングルで料理しか作ってこなかった田舎娘は黙ってろ! 俺は金剛石のごとく硬い意志を、ガントルから感じ取った! ならば、アローラの武将たるもの応えねばなるまい! 正々堂々、真っ向から打ち砕く!」
▼ヨウは腰を低くかがめ、全身の筋肉を引き締めた! 右足を一歩下げ、受け止める体勢に入る! ガントルの勢いは止まらない!
▼主のために敵へ特攻する忠義の士、圧倒的な武を誇る冷徹な怪物! 両者が衝突する刹那、ライチはヨウが拳を握りしめたのをはっきりと見た!
ヨウ「マッハパンチ!」ヒュンッ
▼星空や遺跡の門や茂みが白い光に包まれた! 直後、凄まじい爆風と轟音が戦地を縦横無尽に駆け巡る!
ヨウ「これで……どうだッ!」ハァハァ
ガントル「フム」シュウウウ
ヨウ「生きている……だとッ?……」
ライチ「ガントルの特性・がんじょう! ヨウ、あんたよく頑張ったよ。けどもう終わりさ。見たところ、全力を使い果たしたって感じだしね」
ヨウ「グッ」
▼脚を使って着実に近寄るガントル! 一方、ヨウは疲れて動けない!
ヨウ「俺としたことが、迂闊だった……。まさか、ガントルの特性が『がんじょう』だとは……」
ライチ「ガントル! がんせきふうじ! ヨウを岩の下に封印しろ!」
ガントル「ズズズウ」
ヨウ(ここまでかッ!)ギュッ
ガァン!
▼目を閉じたヨウの耳に、聞きなれぬ音が飛び込んできた!
▼静寂
▼静寂
ライチ「な……なんてこと」
ライチ「マオ!!!!!!!!」
ヨウ「マオだと!?」バッ
ライチ「あんた……ついに撃ったね! あたしのガントルを、撃ちやがったね!!」
▼マオが構える拳銃の銃口から、青紫色の硝煙が漏れている!
マオ「あたしは自分の心に従ったまで。ライチさん、敗れるのはあなただよ!」
ヨウ「ナイスアシストだ、マオ! 貴様のおかげで風向きが変わったぞ!」
マオ「ヨウ君、あたしは信じてるよ。あなたがきっとアーカラの大試練を乗り越えるって!」
ヨウ「おうともさ! ライチ、最後の駒を出せ!」
▼追撃をかけようとしたヨウは、ライチが異様な覇気をまとっているのを感じ、はたと足を止めた!
ライチ「ククク……アハハハハハ。ハッハッハァ!」
ヨウ「気が触れたか」
ライチ「すまないね。あまりに愉快なんで、つい笑っちまったよ。あんたはここで死ぬ。抵抗もできずに、一瞬で勝負はつく」
ヨウ「底なしの自信だな。今追い詰められているのは、貴様なのだぞ?」
ライチ「出てきな! あたしの相棒、ルガルガン!」
ルガルガン「ウォーーン!!」
▼逆立った白い体毛、返り血を浴びたかのように真っ赤な身体。無邪気なイワンコの面影は露と消え、血走った目で獲物を探している!
マオ「イワンコの進化形……のはずだけど、雰囲気が怖いなあ……」
マオ「首に巻いてる縞々のスカーフも気になるし。ヨウ君勝てるのかな……」
▼そんなマオの呟きが聞こえるはずもなく。ヨウはノズパスのついた偃月刀を右脇に挟み、左手を突き出した!
ヨウ「いざ、尋常に勝負!」
▼何も答えず、ルガルガンは中指を突き立てた! やれるものならやってみろ、ヘナチン野郎! そう告げているのだ!
ヨウ「自らの力量も計れん愚か者がッ! 命、渡してもらうぞ!」ダッ
▼先にしかけたのはヨウ! 防御の構えを取るルガルガン!
ヨウ(まずノズパスで相手を怯ませ、その隙に格闘戦へ持ち込む! 岩ポケモンとて至近距離からマッハパンチを打たれればひとたまりもあるまい!)
▼ノズパスがルガルガンの両手首と衝突した! しかし飢狼、まったく怯まない! それどころか死角よりパンチを放ってきたのである!
ヨウ「うおッ!」
▼ヨウは間一髪かわしたが、左頬に掠り傷を負ってしまった!
ライチ「驚いたかい? 『よるのすがた』はカウンターを得意とするんだ」
ヨウ「マオ、援護頼むぞ。俺は近接攻撃しかできん。貴様の銃なら、ルガルガンの目や金玉を撃てる」
ライチ「無駄だ。次の一手であんたは100%戦闘不能になる。100%ね」
▼睨み合うヨウとルガルガン。先にしかけたのはルガルガンの方だ! 首に巻くこだわりスカーフのおかげで、その素早さは130族を越える!
ライチ「ルガルガン、ストーンエッジ!」
ルガルガン「ウォーン!」
▼足元から次々に飛び出してくる鋸のように鋭い岩の刃! 得物でそれを弾くも、やたら当たってくるので、徐々にヨウの動きが鈍ってゆく!
▼こは敵わじと感じたか、ヨウは命の神殿へ駆け込んでいった! 一定距離対象から離れれば、ストーンエッジは絶対に当たらない! ライチの声が遠くで聞こえる!
ライチ「ルガルガン、再びストーンエッジ!」
ヨウ「遅い! もう射程圏外だわ!」
ライチ「し・か・し?」
ガキィン!
▼地面から突き出した何本もの石刃が、ついにヨウの身体をとらえた!
ヨウ「ブフッ……」
▼姿こそ見ていないものの、ライチは自身の勝利を確信した!
ライチ「やりぃ! 特性・ノーガードは全技の命中率が100%になるのさ。たとえ敵が火の中水の中草の中森の中にいたとしてもねぇ!」
ライチ「ストーンエッジの命中率は80%と低い。けどね、ノーガードさえありゃ最強の一撃必殺技だ! もうワロストーンエッジとは呼ばせないよ!」
▼ヨウは倒れた!
ライチ「さて、ヨウを始末したところで。マオ、あんたの処分についてだが」
マオ「……そんな、嘘だよ」
ライチ「あたしや他のキャプテンを裏切り、加えてガントルまで撃った。万死に値する罪だね。よし、ハノハリゾートに10年晒し首といこう」
マオ「あたしが丹精込めて育てたラランテスをわずか数秒で討ち取るヨウ君が、簡単に負けるわけない!」
ライチ「返事がないところを見ると、本気でくたばったらしいね」
マオ「ヨウ君! 大丈夫なんでしょ!? ねぇ、そうだよね!?」
▼その時、誠に不可思議なことが起こった。マオの呼びかけに応じて無傷の豪傑が、虹色の光を放ちながら命の遺跡より現れたのだ!
ヨウ「大丈夫だ、問題ない」ブワアッ
ライチ「あんだって、ストーンエッジは確かに当たったはず……!」
ヨウ「どうやら、天は俺に味方したらしい」
▼ヨウの背後からヌウッとデスカーンが現れた!
▼デスカーンの特殊効果発動! ルガルガンの特性がノーガードからミイラになった!
ルガルガン「ウォ!? ウォ!?」
ヨウ「これで、ストーンエッジの命中率が80%に落ちたわけだ。どうする、島クイーンさんよ」
ヨウ「そのスカーフ。こだわりなんちゃらとかいうアイテムだろう。爆発的な脚力を得る代わりに、一つの技しか使えない」
ライチ(マズいね……。あの坊や、ちゃんとスカーフの意味を知っていたのか)
ライチ「スカーフなんぞ、こうしてくれるわァ!」ビリビリグシャグシャ
▼ライチはルガルガンからこだわりスカーフを取り上げ、粉々に引き裂いて踏んづけた!
ルガルガン「ギャーーーーースッ!!!!」ガビーン
▼ルガルガンの戦意がぐーーーんと下がった!
ヨウ「決着の時だ、ライチ!」
ライチ「ぐぬぬ……ルガルガン、『アレ』を決めるよ!」
ライチ「あたしらのZ技、ワールズエンド……」
ルガルガン「ウォウ! ウガウガン!」
▼ルガルガンは勝手にZ技を発動した!
ドゥインドゥインシャキーン
▼相手のルガルガンはZパワーを身体にまとった!
マオ「まずい! 岩タイプのZ技は広範囲なことで悪名高いよ! 止めなくちゃ!」
ルガルガン「ウォーーーーン!!!」
▼ルガルガンは夜空へ高く飛び跳ねた!
▼ライチのポケモンになってから苦節10年、やっと自分の意志で攻撃をすることができた! 誰にも邪魔はさせない、まずは勝負をしかけてきた青洟小僧を始末する!
マオ「ダメ、止めらんない! 周りの岩を吸収してる! 早く逃げなきゃ! ライチさんや遺跡ごとフィールドを押しつぶすつもりだよ!」
ヨウ「焦るな、マオ。貴様の持ち味は何だ? いかなる状況においても常に笑顔を振りまく、異常なまでの陽気さだろう。落ち着け、慌てるな」
マオ「ライチさん、ライチさん! 早く逃げて! あたし達死んじゃう!」
ライチ「ルガルガン、あんた……」
▼ワ - ル ズ エ ン ド フ ォ - ル
▼ルガルガンのZ技によって、命の遺跡は跡形もなく埋もれた。草木のない、ハゲた岩山が蒼い月光を受けて粛々と立つばかり。もちろん、ライチも遺跡と運命を共にした。
ライチ「」
▼島クイーンとしては、あまりにあっけない最期であった。そして――――
ルガルガン「グウ……ガウ!」
ヨウ「しぶといな。てっきりZ技で力を使い果たしたと思っていたが。化け物かよ」
マオ「ヨウ君も人のこと言えないよ! まさかあの大岩を斬り抜けるなんて」
▼マオがヨウの袖をひいた
マオ「ヨウ君! ライチさんのお墓、作ってあげて」
ヨウ「理由を聞こう」
マオ「たとえ敵で逝ったとしても……。あたし、ライチさんには小さい頃からお世話になってきたんだよ。だから、だから……」ウルッ
ヨウ「貴様で選んだ運命だろう、何をめそめそと泣く必要がある。だが……墓については賛成だ。一度だけであるが、俺を冥土まで飛ばした女。この大岩を彼女のモニュメントとし、知略と勇猛を称えん」
▼ヨウは大岩に『島女王・茘枝之墓』と彫り、ノズパスとガントルの亡骸を近くに埋めた!
ヨウ「身体を動かしたら腹が減ったな。おいマオ、ここでメシ作れるか」
マオ「うん、まかせて! こんなこともあろうかと、ごはん炊いてきたんだ!」
▼マオは茂みの中から、漆塗りの米櫃を抱えてきた!
▼米櫃の蓋を取る! 熱い湯気やほのかなレーズンの香りが、鼻の奥まで染み込む!
ヨウ「おお、米か!」パアッ
マオ「ご飯がそんなに恋しい?」
ヨウ「そりゃそうだ! カントーからアローラに引っ越して、一度も米なんぞ見たことがない! 感謝する!」
ヨウ「あとは、米に合う肉を手に入れるだけだな!」
▼ヨウはルガルガンを一瞥し、ペロリと舌で唇をなめた!
ルガルガン「ガウッ!」
▼近寄ると、ルガルガンは体毛を逆立てた! まだ戦意は完全に失っていない様子!
▼ヨウはマオの手枷を外し、拳銃を返した!
ヨウ「不自由な思いをさせてすまなかった。この拳銃は返す。貴様が今持っているものと合わせて二丁か。よーし、それでルガルガンを仕留めろ」
マオ「え、ええ~!?」
ヨウ「ただし、一発だ。一発で脳天を撃ち抜け。奴は手負い、動きも鈍い。それくらいできねば、俺は貴様を見捨てる!」
マオ「そういう問題じゃなくて! どうしてあたしが抵抗もできないポケモンを殺さなくちゃいけないの!? それも、ライチさんの……」
ヨウ「これはアーカラ島のキャプテン・マオを殺す大試練でもある。あのルガルガンは、今までの貴様だ。奴を斃して、生まれ変わるんだ。新しい戦士・マオに!」
マオ「……いや、いや! あの子はイワンコの時からずっと遊んできたのに……!」
ヨウ「やれ! やっちまえ! ブチ殺せ! 貴様の心に眠る獣を解放しろ!」
ルガルガン「グルル……」
マオ『イワンコー! マオスペシャルできたよー!』
イワンコ『きゃうんきゃうーん!』ガツガツムシャムシャ
ライチ『マオ、いつもありがとね。イワンコのお世話してもらって』
マオ『ううん、あたしも喜んでもらえて本当に嬉しいよ! まいどっす!』
イワンコ『きゃんきゃん』クルクル
ライチ『あはは、よほどマオの料理が気に入ったみたいだねぇ』フフッ
ルガルガン「マ、オ……」
マオ「……ッ!」
ヨウ「どうした、早く撃て」
ルガルガン「ウウ……。マ、オ……」
マオ「……ごめんなさい!」
ガァン!
ドサッ
ヨウ「酌をしろ。今宵は宴ぞ」
マオ「うん、動かないでね」
▼ヨウの夜光杯に、とくとくとミックスオレが注がれていく!
ヨウ「いつまでしょげ暮れている。貴様は二つの意味で偉大な選択をしたのだ」
ヨウ「まず一つ。幼き頃からの友であったルガルガンを自らの手で殺すことにより、俺に対して不動の忠誠を誓ったこと」
ヨウ「二つ。主を失い深手を負い、苦しみ抜いていた哀れな狼の魂を救ったこと」
▼ヨウはルガルガンのレバ刺しを頬張った!
▼パチパチと、火の爆ぜる音だけが夜闇に溶けてゆく!
ヨウ「今頃、飢狼は一匹の犬となりて天国へ走っているだろうさ。飼い主と会うために」
マオ「もしこの世に天国があるのだとしたら……。あたしのしたことは正しかったんだよね? 苦しむルガルガンを天国に送ってあげた、それは正しいことなんだよね?」
ヨウ「いいや、俺も貴様も大罪人さ。特に俺は沢山の人間やポケモンを殺めた。茨の道へ舵を切ってしまった。貴様もついさっき、俺と同じ道へ足を一歩、踏み入れた」
▼擂り鉢に乾燥したアゴジムシをひとつかみ放り、杵ですり潰すマオ!
マオ「やだなぁ、あたしとヨウ君は全然違うよ。あたしはただの料理人だからね! それに、人も殺してないしね!」
ヨウ「差別化を図っても無駄だぞ。近々、貴様も暗殺者としての修行をすることになるのだから」
マオ「……はい! できたよ! マオヘルシースペシャル! マラサダをベースに、粉末状のアゴジムシ、ルガルガンのキモ、イアの実、豆腐の味噌漬けが入ってまっす! まいどっす!」
ヨウ「うまそうじゃないか」パクッ
~ハノハリゾート~
▼ヨウとマオはハノハリゾートで休むことにした! 明日に備えるのと、そろそろシャワーの一つや二つ浴びたいと思っていたからである!
マオ「ヨウ君! あそこになんか、ポケマメを両目にくっつけたみたいな人がいるよー!」
ヨウ「余計なものを見るな。因縁つけられて面倒事に巻き込まれるぞ」
マオ「でもすごいね~。あんな恰好してて恥ずかしくないのかな~?」
ヨウ「マオ、こっちを向け。俺達が関わる相手じゃない」
ザオボー「お待ちしておりました」
ヨウ・マオ「……」スッ
▼ヨウの腕を掴んで引き戻す不審な男!
ザオボー「いやいやいや、これは失礼。初対面なのに挨拶が遅れました。ハハッ」
ヨウ「一体なんなのだ。貴様はホテルの従業員か? なんだ、泊まる前に手荷物検査でもせねばならんか」
ザオボー「まぁお待ちを、まず私の自己紹介を聞いてくださいませ。ね? ね?」
ヨウ「いいぜ、嫌でも手荷物検査するって気なら、こちらにも考えがある」
▼ヨウは人差し指でザオボーの右目を突き刺した!
ザオボー「あうぐッ! うぐぐ……!」
マオ「ちょ、何してんの!」
ザオボー「いえ、おかまいなく……この少年のおかげで、代表に罰されず済みました。私は恩があるのです。ぜひとも『イイもの』を見せて、この恩を返したい!」
▼ザオボーはヨウのズボンにしがみついた!
マオ「怖いよこの人……。ヨウ君、目の治療費を払ってどっか行こう」
ヨウ「その『イイもの』とは何だ。酒の肴に、話だけでも聞いてやる」
ザオボー「エーテルパラダイスッ!!!!!!!!!」
ヨウ「エーテル……?」
マオ「パラダイス……!?」
ザオボー「アローラの海に浮かぶ、ポケモンの楽園! ポケモンを保護するための、人口の島! 最近はポケモンの多頭飼いで生活が立ち行かなくなるトレーナーも多いですからね。そんな無責任なゴミクズ共からポケモンを押収……保護しておるのです!」
ヨウ「ふぅん」
ザオボー「私が約束を守る大人だと証明するため、エーテルパラダイスに来ていただけますよね!? 嫌だと言っても連れて行きますよ!」ギンッ
ヨウ「いらん。なんちゃらパラダイスとやらが存在するか、まだ俺は信じていない。あったとしても、なぜ俺が貴様の偽善事業に付き合わねばならんのだ」
ザオボー「偽善ではありません! では考えて見なさい。スモーキー・マウンテンの路地裏で、寒さと飢えに震えて死を待つイーブイのことを! ファヴェーラでゴミを漁る、コカイン中毒のサーナイトの気持ちを!」
ヨウ「わけがわからん。聞くだけ無駄だったようだ」
ザオボー「お待ちなさい! ヤドンをスカル団の手から救って下さったでしょう! 今度は私を助けると思って、エーテルパラダイスにいらっしゃってください!」
ヨウ「どけ、叩っ斬るぞ」
▼ヨウはチェックインしに歩き出したが、一方マオは石像のごとく立ち止まっている!
ヨウ「マオ、どうした。ついてこい。もう構う必要もなかろう」
マオ「やっぱりあたし、エーテルパラダイスに行くよ」
ヨウ「あァ?」
マオ「キャプテンをやってるとね、色々な噂を耳にするんだ。それこそ、ポケモンを捨てたり虐待するトレーナーのこと」
マオ「ザオボーさんは変人だと思うけど、この人が言ってることは本当だよ」
ヨウ「だから、ホイホイ訪ねるのか? 戦士としては安直な考えだぞ」
マオ「ポケモンを保護する施設なんて、そうそう見学できないよ。たぶん、あたし達の常識がまるごと、ひっくり返されると思う!」
ザオボー「ええ、ええ、お越しください。エーテルパラダイスは素晴らしいですよ。クルーザー停めてるんで、行きましょう。彼の気が変わらんうちにね」アセアセ
マオ「はーい!」
ヨウ「チッ……余計な道草を食ってしまうとはな」
ヨウ「まぁよい。退屈であれば、島ごと破壊するまでだ」
~アーカラ島・港~
ザオボー「こちらです」
マオ「でっかい鉄の塊が浮いてるのってすごいねー!」
ヨウ「フン、土星だって水に浮く。何がすごいものか」
マオ「ポケモンが支えてるからって、ヨウ君知ってた? 海藻ポケモン・コンブオー! なんちて」
ヨウ「そうか、凄いな」
マオ「ぜんぜん凄いなんて思ってないよねー。せっかくのボケ潰さないでよー!」
ザオボー「行きましょう。サメハダーの群れが来るといけない」
ヨウ「クルーザーにシャワー室はないか? 血と汗を洗い流したい」
ザオボー「残念ですが、ないですね。そんなモンは。何様ですかあなた」
ヨウ「ほほう……サメハダーの餌になる覚悟は既にできているようだな」ドドドド
ザオボー「おおん? まさかヤる気? こんなところで?」ドドドド
マオ「まーまーまー! 二人とも落ち着いて! 喧嘩するのはまた後でね!」
▼ヨウはクルーザーに乗った!
~エーテルパラダイス~
南の海にぽっかりと浮かぶ、錨型の孤島。
三日月を背に悠然と立つ白いビルは、何物も寄せ付けない堅牢な要塞のごとし。
クルーザーは音もなく船着き場へと滑り込み、動きを止めた。
床から天井に至るまで白一色の内装は、かえって不気味に感じる。
本当に、ポケモンがここで暮らしているのだろうか?
ザオボー「さあさ、お二人様。エーテルパラダイスでございますよ」
マオ「すごーい! ホントにあったんだー!」
ザオボー「凄いでしょう? 来た人はみんな口を揃えて『すごい』とおっしゃいます」
ヨウ「おい、あれはなんだ」
▼円柱状の建物に入っていくウソッキーとヤングース! 壁が無いので、外から内の様子が丸見えだ!
ザオボー「あれはエレベーターです。彼らは一階? 二階でしたっけ。よく分かりませんが、どっかの保護区に放たれます」
ザオボー「エーテルパラダイスはポケモンを守るため、最新の技術をつぎこんでおるわけなのです。そこんじょそこらの、すぐ客を閉じ込めてしまうようなエレベーターとはわけが違うのです!」
ザオボー「地下では、新しいモンスターボールも開発しております! それこそ、メスだけGETできるボールやGETしたポケモンの性格を好き勝手に操作できるボール、などなど」
マオ「へぇー、後で試してみよっかな」
ザオボー「もっとも、ここではモンスターボールは使用禁止ですがね」
▼眼鏡をかけた優しそうな女性がエレベーターから降りてきた!
???「ザオボーさん」
ザオボー「ちょっとちょっと、私のことは名前でなく肩書きで呼びなさい。ザオボー支部長、もしくはザオボー将軍と。地位を知らしめてやりたいのです」
???「はい、支部長……」
ザオボー「フッ、それでよい。私はアーカラ島でのポケモン保護について、代表にこれでもかというほどアッピールして参ります。私の背後にひざまづく……あっ来ていただいているお客様を案内しながら代表のもとへお連れなさい」
▼ザオボーはエレベーターに乗り、上の階へ上がっていった!
???「ふぅ……」
ビッケ「ようこそ。ヨウさん、マオさん。私はビッケです」ニコ
ヨウ「うむ」
マオ「アローラー! ってどうしてあたし達のこと知ってるんですか!?」
ビッケ「ええ、アーカラでのこと職員に教わりました。マオさんは島のキャプテンで、森のポケモンにご飯を振る舞ったりしてらっしゃるそうね。で、ヨウさんは……」
ヨウ「語るほどの経歴もない、しがない豪傑だ。さっさと用を済ませろ」
ビッケ「ヨウ、だけに?」
ヨウ「ヌ?」ジロッ
ビッケ「そ、それでは上のエントランスに参りますね」
~エントランス~
ビッケ「こちら、エントランスとなります」
マオ「うわー! 入口なのに、もう活気にあふれてるね!」
ヤレユータン「ウキィン」フリッフリッ
ピカチュウ「ピッカァ!」バチバチバチッ
キュウコン「コーン」ヒュゴオオオオ
ビッケ「この先にある受付で、ポケモンを元気にできますよ」
ヨウ「……」
ヨウ「ビッケとやら、少し待っててくれないか。ポケモンを元気にしてくる」
マオ「ヨウ君? ヨウくーん、あなたポケモン持ってないでしょ」
ヨウ「そう小言を吐くな。俺には俺のやり方がある」
▼ヨウはカウンターの前に立つと、血と脂で汚れた青龍偃月刀を乱暴に置いた!
ヨウ「俺のポケモンだ。元気にしろ」
エーテル職員D「はい?」
ヨウ「もう一度言うぞ。俺のポケモンだ、元気にしろ」
エーテル職員D「あの……これ太刀ですよね? ポケモンじゃあないですよ」
ヨウ「ヒトツキだ。磨け」
エーテルD「いや、あの、ヒトツキって言われましても姿形が違い過ぎやしませんかね」
▼ヨウのとびひざげり! エーテル職員Dは痙攣しながら崩れ落ちた!
ヨウ「使えない奴だ。素直に元気にすればよいものを」
▼テンテンテテテン! ヨウの青龍偃月刀はすっかり元気になった!
ヨウ「すまぬ、遅くなった」
マオ「人殴ったりしてない?」
ヨウ「ははは、邪推するな。格式のある場所で、俺が誰かを殴るとでも?」
ビッケ「じゃ、行きましょうか」
ビッケ「ヨウさん、マオさん。島巡りで試練をこなし、チャンピオンを目指すということは、お二人は11歳なんですね」
マオ「年齢なんか忘れちゃったわ、ヨウ君はどう?」
ヨウ「11歳になれば、貴族の娘だろうが乞食の息子だろうが誰でも島巡りに挑める。俺はすぐ挑んだから、まぁ、11歳なんだろう。たぶんな」
ビッケ「そう……ですよね」
ビッケ「みなさんぐらいになれば、自分の考えで行動しますよね」
ヨウ「貴様は違うのか?」
ビッケ「そうですね……社会人はネジですよ。共同体に属し、上司からの指示に従い、まるで機械のように無味乾燥な日々を送る。時々、自分が何者か忘れてしまいますね」
ビッケ「……ごめんなさいね、変なこと聞いてしまって。ヨウさん、マオさん。上の保護区に参りましょうか。代表がいらっしゃいますよ」
▼エレベーターは緑豊かな保護区へと到着した!
マオ「植物園みたいね! シェードジャングル思い出すなー」
ビッケ「ここではスカル団に襲われたポケモンをかくまったり、サニーゴなど絶滅危惧種のポケモンに住処を与えています」
ビッケ「ほら、あそこをご覧ください」
▼ドヒドイデが、サニーゴの身体にかじりつき、中の内臓を溶かしてすすっている!
サニーゴ「ぐわああああ!」
ドヒドイデ「ごきゅッごきゅッ」
ヨウ「ちっとも保護できてないではないか」
ビッケ「ドヒドイデ。12本の足で海底を這う。ドヒドイデの這った後には、サニーゴのカスが散らばっている」
マオ「うわぁ……弱肉強食ってヤツ? あたし好きじゃないな、その説明」
ヨウ「実際にサニーゴが襲われる瞬間を見た以上、エーテル財団が全てのポケモンを守ることができるか、怪しくなってきたな」
サニーゴ「うわあああああああああああ」
ビッケ「自然のバランスもありますし、人がどこまで関われるのか難しい問題ではありますね。今後の課題と言ったところです」
マオ「エーテル財団って……すごいねぇ……」ホッ
サニーゴ「ぎゃあああああああああああああ」
ヨウ「セリフは一人前だが、それに行動が伴わない。無能の集まりだな」
マオ「ねね、じゃあどうしてエーテル財団はアローラ地方に来たんですか?」
ビッケ「さぁ……代表は何をお考えなのか分かりにくい方ですから。常軌を逸してるんですよ。もちろん、いい意味でね」
ヨウ「要するに、頭のネジがすっ飛んでるってことだろう」
マオ「どこに行けば、代表と会えるんですか?」
ビッケ「ルザミーネでしたら、保護区のどっかしらにいらっしゃいますよ。ぜひお会いになってみてはいかがでしょうか」
▼ビッケは保護区の見回りをしに、立ち去った!
ニャース「にゃおーん」
ベトベター「ベチャッ」
スターミー「ドルルルゥン!?」
???「愛おしいポケモン達……。わたくしが守ってあげます。深い、深い、愛で……」
マオ「変な髪型の人がいる! もしかして、あの人がルザミーネさんなのかな?」
ヨウ「いちいち俺に同意を求めるな。本人に直接聞けばよかろう」
???「おや……」
ビッケ「どうやら、会えたみたいね。ちょっと失礼しますね」
▼金髪の美女とビッケが何やら話し込んでいる!
ルザミーネ「ヨウ君にマオさんね。エーテル財団の島へようこそ。わたくし、代表のルザミーネと申します。お会いできて嬉しいの」
ルザミーネ「あなた達のように、島巡りでポケモンと知り合う人もいれば、身勝手な理由でポケモンを痛めつけたり、外国へ売り飛ばしたりする残念な人達もいる……」
ルザミーネ「ですから、わたくしが哀れなポケモン達の母となり、愛情を注ぎこむのです。アローラから遠く離れた世界にいるポケモンさえも、わたくしが愛してあげるの。そう、深く深く。この世のどんな海溝よりもよりも深く……」
ヨウ「なるほど、狂った母性か」
マオ「ルザミーネさん、まだ若いのにすごいよね。しっかりしてる!」
ルザミーネ「オホホ! お世辞はおやめなさい。わたくし、とっくに40越えてますのよ」
マオ「えッ! おばさん!」
ルザミーネ「ウフフ! それにしてもマオさん、あなたのファッションちょっと原始的じゃないかしら。まさに土人ってカンジ? 今度、ぴったりの服を選んであげますわ」
マオ「え、ええ? ルザミーネさんみたいなキラキラしてる服、あたしには似合わないよ。ヨウ君、あたしがこんなの着たら、似合うかな?」チラッ
ヨウ「化粧でアンチエイジングだと? この、女狐が……!」ギリリ
マオ「あ~、ちょっとお取込み中みたいです」
ルザミーネ「……」
ルザミーネ(わたくし、気づいておりましたわ。あなたが只者でないことぐらい)
ルザミーネ(背負っている巨大な矛、血まみれの洋服。どうやら、わたくしの思想とは真逆の道を歩んでこられたらしいですわね)
ルザミーネ「安心なさい! 全てわたくしに任せればいいの。子供は大人の言う通りに生きる。子供の領分をわきまえる。それが幸せへの近道です」
ヨウ「幸せだと? 笑わせる。最初から人並みの幸せなぞ諦めておるわ。ルザミーネ、俺は飼い殺しされる豚になるより、自らの意思で闘い死にゆく獅子の生き方を選ぶ」
ルザミーネ「ヨウ……あなた、何者ですの?」
▼睨み合う獅子と女狐! その時、保護区全体がぐらぐらと激しく揺れ出した!
ビッケ「今の揺れ……地下からでしょうか」
マオ「みんな、あれを見て!」
マオ「空間に変な穴が、開いてるよッ!」
▼突如として現れた、空間の裂け目! 周囲に稲妻を放ちながら、大きくなったり小さくなったりと、収縮を繰り返している!
マオ「あッ! なんか変なのが出てくる!」
ヨウ「なんだあれは……!」
▼裂け目からジンワリと染み出してきた謎の生命体! 外見こそクラゲだが、体長は人間よりも遥かに大きい! まだ見たこともないポケモン! ポケモンと呼べるかも怪しい!
ルザミーネ「あなたが……別世界の……?」
???「じぇるるっぷ……」
マオ「ハイ、撤退撤退! 明らかに普通じゃない! 有害な電波とか出てそうだよ!」
ヨウ「待て、もう少しだけ観察させろ。場合によっては、ここで屠らん」
???「じぇるるっぷ……!」
ルザミーネ「かわいそうに、怯えているのね。わたくしが包み込んであげる」
ヨウ「その必要はない。俺が何も感じなくさせてやる」スタスタ
▼ヨウはクラゲの目の前へ歩み寄った!
ヨウ「アローラー。これより、害獣を駆除します」
???「じゅるっぷ!?」
ヨウ「オラァ!」ブゥン
▼ヨウのからみつく! 自慢の腕力を活かして、?????の柔らかい身体を締め上げる! 武器を使わずとも、ヨウは闘えるのだ!
???「じぇる……るぶふぉ!!!!!!!」ブチュ
▼?????の頭と思しき部分が破裂し、新緑色の体液が辺りに散らばった!
マオ「きゃああ! もっとマシな倒し方ないの!?」
ヨウ「敵に憐れみを与えるな。この世界に迷い込んだのも、俺に倒されたのも、全て敵の不注意から来るもの。すなわち、自業自得。ルザミーネ、貴様はポケモンを保護するのではなかったのか? かわいそうにと口だけ言いながら、何もできなかったではないか」
ルザミーネ「……やはり、あのコが必要ね。連れ去られたあのコが……」
ヨウ「何の話だ」
ルザミーネ(今分かりましたわ。わたくしの敵はスカル団ではない。ヨウ、あなたよ。あなたの進撃を食い止めるためなら、わたくしどんな手でも打ちますわ)
ルザミーネ(たとえ、あのコを亡きものにしても……ね)ククク
マオ「ルザミーネさーん? もしもしー?」
ルザミーネ「今のはきっとウルトラビースト。ウルトラホールと言われる定かでない次元の生命体……。そう! ウルトラビーストも、愛してあげなければ!」
ルザミーネ(そして、ヨウを討つステキな駒に育てあげてみせますわ……)
マオ「もしもーし、大丈夫ー?」
ビッケ「気にしないで。いつもの発作だから。代表、時々こうなるんですよ」
ルザミーネ「お二人とも……感謝いたしますわ! わたくしのなすべきことが、はっきりとしました。ヨウ、島巡りの途中でしたよね。次の島までお送りしますわ。ビッケ」
ビッケ「あっ、はい……!」
ルザミーネ「わたくしは、保護している愛しいポケモン達が無事か確認します。あと地下で何があったのか、ザオボーにも問いたださないとね。それと……」
ルザミーネ「わたくしのエーテル財団でウルトラビーストも調練できるよう準備を進めなければなりませぬ」
ビッケ「ではヨウさん、マオさん。ウラウラ島へお送り致しますね」
ヨウ「俺はいい。特訓も兼ねて、泳いでウラウラ島まで行く。マオを頼むぞ」
マオ「え、ええええ!? 泳いでくの!?」
ビッケ「本当に、それでよろしいのですか?」
ヨウ「よろしい。早くマオを送っていけ。そうだ、ルザミーネ。トイレを探しておるのだが、どこにある」
ルザミーネ「トイレなら突きあたりにありますわよ。それでは、ごきげんよう」
▼マオとビッケを乗せたエレベーターが下がっていった!
ヨウ「ゆくとするかな、用を足しに」
ルザミーネ「お待ちなさい」
ヨウ「なんだ」
ルザミーネ「一度だけ見逃しました。けれど、次にわたくしの前でポケモンを殺したら、エーテル財団全勢力をあげてあなたを排除します」
~その後~
ルザミーネ「愛しい愛しいポケモンちゃ~ん、お怪我はないでちゅか~」ルンルン
サニーゴ「」
ニャース「」
ピカチュウ「」
スターミー「」
イワンコ「」
ベトベター「」
ルザミーネ「なッ……なんですのッ!? これは!?」
ルザミーネ「全員……殺されているッ!!!!!!」
ルザミーネ「ヨウ……まさか、まさかトイレへ行くと言いながら! わたくしのポケモンちゃん達を……! 一匹一匹……!!!!」ガクッ
ルザミーネ「くそったれえええええ!!!!!」
ルザミーネ「この恨み……晴らさでおくべきか! すぐに精兵5000を差し向け、首をビルの門にかけてやるゥ!」
エーテル財団E「お待ちください、代表! たった一人の少年にどうして5000も必要です。それより、この問題を何としても表に出さないことです! ご心中お察しします。されど、ポケモンをみすみす殺されたことが発覚しては、エーテル財団の沽券にかかわります! ご辛抱を、ご辛抱を!」
ルザミーネ「ええい、諫言する暇があるならウルトラビーストを早く捕獲しなさい!」
▼ヨウはクルーザーの影を追って、夜明けの海を泳いでいた!
▼水平線の彼方から、銀色の曙光が差し込んでくる! 月は舞台を太陽へ譲り、ゆっくりと海の底で長い眠りにつく! ふと、近くでネオラントの群れが飛び跳ねた!
ヨウ「衝動を抑えきれず、ついやってしまった」
ヨウ「ルザミーネは報復に来るだろうか」
ヨウ「スカル団にエーテル財団。どちらも俺の覇道にまったく関係のない組織だが、一応注意だけでもしておこう」
▼クルーザーの船尾にマオが立っている! 彼女も泳ぐヨウの存在に気づいたらしい!
マオ「ヨウくーん! 急いで急いで! 船に引き揚げられないよ!」
マオ「ビッケさん、網ありますー? いえ、ヨウ君が追ってきてるんで」
ビッケ「あらあら~。これは大変ですね。そーれッ!」
▼ビッケが投げた網は、明後日の方向へ飛んでいった!
ビッケ「ごめんね、私は漁師ではないから。網を投げたことないんです」
マオ「こんな時、スイレンがいたらな……」
▼こうして、ヨウとマオはウラウラ島に到着した!
~マリエシティ~
マオ「おいしょっと! ウラウラ島にとうちゃーく!」
ヨウ「随分と機嫌がいいな」
マオ「あたし、アーカラ島の他にメレメレ島しか行ったことなかったんだもの。こう見ると、ウラウラ島って雰囲気違うね!」ダッ
ヨウ「待て待て、あまり離れるな」
▼マオはポケモンセンターの前まで走っていった!
マオ「ヨウ君、いきなりだけどポケモンバトルしない?」
ヨウ「ポケモンバトル?」
▼拳銃を両腰のホルダーから引き抜くマオ! 草タイプのキャプテンはアーカラ島とエーテルパラダイスで卒業したらしい!
マオ「あたしも本気でいくよ。もうアーカラ島、出ちゃったからね」
ヨウ「その意気やよし。新たなマオの門出祝い、つきあってやろう」
▼ヨウも青龍偃月刀の石突で、ドンッと硬い石畳を突いた!
マオ「じゃあ……いくね!」カチリ
~アーカラ島キャプテンのマオが勝負をしかけてきた!~
朝陽を受けて荘厳な輝きを帯びる、金色の五重塔!
彼が見下ろすマリエシティの港で、二人の武将が得物を構えて対峙していた!
ヨウ「……いつまで睨み合っているつもりだ」
一人はアローラ地方に引っ越してきたヨウ。大太刀を片手に、数えきれないほどの首級を挙げてきた、豪傑中の豪傑である!
マオ「それはお互い様だよね」
もう一人は、アーカラ島キャプテンのマオ。未だ鋼タイプへの転向に慣れていない様子だが、彼女もただならぬ殺気を放つ猛者!
ヨウ「たった拳銃二丁で、俺をどうこうできると思っていたのか。雑魚が」
マオ「ヨウ君も、いつまでその『へんちくりん』なポーズとってるの?」アハハ
偃月刀を上に掲げ、さながら歌舞伎役者のようにじりじりと接近するヨウ!
応じるかのごとく、マオも腕を交差して弾を発射する体勢に入る!
一瞬、静寂が戦場に訪れた。
攻撃を外せば、自分がやられることは必定。
武器を握る手に汗がにじむ。
そして。
キャモメ「キャー」
ヨウ「そこだッ! ぬおおおッ!」
▼ヨウはキッと眦を裂き、雄叫びをあげながら偃月刀を振り下ろした!
マオ「いっけえええ、あたしの跳弾!」バキューンバキューン
偃月刀の刃が、マオの身体を斜めにとらえた! 焼けるような激痛が全身を駆け巡る!
だが、その痛みはヨウの方も同じであった!
拳銃から放たれた弾丸が床で跳ね飛び、奇妙にねじれながらヨウの左肩に着弾したのだ!
それでも弾の威力は衰えず、肺や胃をメチャクチャに引っ掻き回した!
たまらず、ヨウは右膝をつく!
ヨウ「うがあああ! ぬっぐ……」ガクッ
ヨウ「まだだ……。一撃で終われるか!」グググ
立ち上がろうとしたヨウの額に、冷たい何かが押し当てられた!
ヨウ「マオ、その深手で立てるとは……何たる精神力だ」
マオ「この勝負、あたしの勝ちみたいだね」ゴボッ
ヨウ「……そうかな?」
▼ヨウのはっけい! ヨウはマオの斬り傷に手を突っ込み、これまたグチャグチャと縦に横に、気力の続く限り動かし続けた!
マオ「ぎゃあああ! いたたた!! 痛い! 痛いよ!」
▼血みどろの戦いがここに展開した! マオの心臓を握り潰そうとするヨウ、拳銃を落としてしまい悶え苦しむマオ!
ヨウ「フヌーッフヌーッ」
マオ「参った! 参りました! だからやめて! もうやめて!」
マオ「ふうッふうッ、はあッはあッ! ヨウ君、頭おかしいんじゃないの!?」
ヨウ「練習試合であろうと、勝負を挑まれたからには全力で応える。マオ、貴様には素質がある。まさか跳弾の動きを読んで、見事ターゲットに当てるとはな。とんだ実力だ」
▼ヨウはマオの腰回りに手を伸ばし、ゴソゴソやりはじめた!
マオ「ヨ、ヨウ君ダメだよ! 白昼堂々こんなところで///」
ヨウ「賞金をよこせ。俺は勝者だ。財布の場所を知らんか」
マオ「……」
▼マオのアームハンマー! ヨウの鼻から血が噴き出した!
ヨウ「やりおるわ」ゴシゴシ
マオ「ポケモンセンターに行って治してもらおう!」プンスカ
▼マオはポケモンセンターへ、胸を押さえながら入った!
ヨウ「あの女、使えるな。よし、任せてもよかろう」
ヨウ「キャプテン同士の対決……。見物だ」
マオ「ライフル?」
ヨウ「うむ。マリエシティの土産屋で買ってきた。取っておけ、高級品だぞ。それと、戦闘における役割分担を決めようと思ってな」
ヨウ「知っての通り、俺は完全に物理特化型だ。それも近接物理。相手の懐に飛び込み、一気に猛攻をしかけるタイプ。対照的に貴様の装備は拳銃二丁、薄汚れた洋服。これしかない。もちろん敵の攻撃を回避する技術もない」
マオ「がーん! さすがにショック」
ヨウ「ゆえに俺は決めた。貴様を給仕係&スナイパーに任命する。俺が敵の近くで矛を振るうから、貴様は遠くから相手の頭部を狙え」
マオ「あたし、狙撃なんてしたことないよ」
ヨウ「案ずるな。茂みに隠れ、照準を合わせ、引き金を引く。これだけでよいのだ」
ヨウ「シェードジャングルでポケモンとかくれんぼしただろう? あれと同じようなもの。見つかれば死ぬが、居場所がバレなければ逆に殺り放題だ」
▼マオはライフルを手に入れた!
マオ「なんだか、どんどんポケモンから離れてってる気がする」
ヨウ「元々こんなものだ。ポケモン図鑑を見てみろ、サニーゴのカスがどうだの飼い主の背骨をへし折るだの、喰うだの殺すだの物騒なことしか書いていない」
ヨウ「これは図鑑の作成者が『残虐な説明書いてる俺カッケェ!』とエクスタシー状態に入っているのではない。本来あるべき姿に戻しただけなのだよ」
マオ「ヨウ君……悟ってるね。アハハ」
ヨウ「この世は弱肉強食だ。強者が弱者を完全なる善意で保護するなどありえない。そこには必ず義務に適った行為を推奨する非道徳的な感情が存在する。そうやって偽善を施す輩は、いずれ自然に淘汰される。きっとな」
▼奇妙な演説を終えたヨウは、カフェのカウンターに置いてあるポケマメをボリボリかじった!
マリエ庭園~
マオ「わあー、異国情緒に溢れてるね! アローラ―! マリエ庭園!」
ヨウ「観光ガイドによれば、マリエ庭園には茶屋があるらしい」
マオ「へェー、行ってみたいなー!」
ヨウ「そうだな。たまには茶屋で美しい庭園を眺めるのもいいだろう」
マオ「ヨウ君!」
ヨウ「どうした」
マオ「手……出してもらえるかな?」
▼マオは差し出したヨウの手を取り、連れだって歩き出した!
マオ「こうやって二人だけで、のんびり観光できるの嬉しい///」
ヨウ「ああ」
マオ「ヨウ君がチャンピオンになったら、いっぱいいっぱいご飯作ってあげるからね」
ヨウ「ああ、そうだな」
マオ「ヨウ君、何考えてるの?」
ヨウ「アローラを手中に収めた後のことをな。玉座に腰かけるのがゴールではない。むしろ、それはスタートだ。どのようにクセの強いアローラ地方を統治してゆくか、考えねばならん」
マオ「ヨウ君は色々と重く捉え過ぎなんだよ。アローラ云々は、その時になってからゆっくり話し合えばいいじゃん! あたしも手伝うよ!」
ヨウ「王朝政治の何たるやを知らぬ貴様ごときが、宰相として俺の政治を補佐すると? 笑わせるな、貴様は今まで通り給仕か肉便器を務めておれ」
マオ「ひ、ひっどーい!」
ヨウ「酷くて結構。この話はやめだ。ちょうど、茶屋についたところだしな」
マオ「あッ、バーネット博士ー! アローラ―! 毎度どーも、マオでっす!」
バーネット「おうッ! あなた達、空間研究所で会った時よりイイ顔してるじゃない」
ヨウ「貴様、なぜここにいる。アーカラ島で引きこもり生活を送るのではないのか」
バーネット「研究の一環よ。ウルトラホールが出現する場所は不特定と推測したの。だから、今回はマリエ庭園に張り込んでるってわけ」
マオ「そうそう! そのウルトラホール、ついに開きましたよ!」
バーネット「なんですって!?」
マオ「で、ウルトラビーストもホントにいたんです!」
バーネット「それで、どこにホールが開いたの!?」
マオ「エーテルパラダイスです!」
バーネット「エーテル……? 聞いたことない場所ね。すぐ空間研究所に戻って、調査を開始しなきゃ! 茶店で道草食ってる場合じゃなかったわ!」
▼バーネットは急いで港へ駆けていった!
マオ「忙しい人ね。バーネットさんて」
ヨウ「忙しいのは俺達もだ。ところでマオ、折り入って話がある」
マオ「なに?」
ヨウ「しばらく、貴様と別れて行動したい」
マオ「えッ」
ヨウ「ウラウラ島の代表的なキャプテンは二人。マーマネとアセロラだ。だが、これまでのように一人一人潰していくとなると、手間がかかる。できるだけ効率的にクリスタルを集めたい」
ヨウ「そこでマオ、貴様にはアセロラを担当してもらう」
マオ「は……はあ?」
ヨウ「ゴーストポケモンの使い手なので銃器は不利だと考えるか? なに、本人を狙えばよいのだ。決して無理な話ではないぞ」
マオ「キャプテン同士が戦うなんて、聞いたことないよ!」
▼ヨウはマオに詰め寄った!
ヨウ「貴様、ウラウラ島に来て生まれ変わったのではなかったのか。必ず成功させろ。暗殺を達成せぬ内は俺に会うな。分かったな!?」
▼ヨウはマオに重要な任務を授け、10番道路へ向かった!
マオ「とりあえず、茶屋で一息つこっかな」
マオ「アローラー! アイスクリームとお茶くださーい!」ガララ
???「おお、君がヨウかね」
▼マリエシティを練り歩くヨウの前に、真っ黒く日焼けした四角い顔の老人が現れた!
ヨウ「ご老人、どこから俺の情報を抜き取った」
ナリヤ「やあやあ、はじめましテールナー! わたしはナリヤ・オーキドードリオ。リージョンフォームを調べておルンパッパ! ポケモン研究家でストライク!」
ヨウ「なんだこいつ……」
ナリヤ「君ガントル! ヨウだね! ククイくんから聞いておるヨーテリー!」
ヨウ「俺はガントルではない。あまりナメた態度を取ると、目ん玉くり抜くぞ」
ナリヤ「ソーナンスウパーじゃソーナンスウパーじゃ、ククイシツブテくんの代わリングマニャース、ロトムクホーク! を渡ソーナノウツドントルネロス思っテッポウオナマコブシ。ホーホーレジロック!」ポーイ
ロトム図鑑「よろしくお願いしますロ! ロトム図鑑ロト!」
ヨウ「ポケモン図鑑、のようだな」
ナリヤ「ロトム、図鑑の中は気持ちいいカイリキー!?」
ロトム図鑑「いいロトよぶふぁ!? くぁwせdrftgyふじこlp!!!!???」
▼ヨウはロトム図鑑を片手で握りつぶした! まるで、レモンの果汁を唐揚げにかける時のように!
ナリヤ「ロ、ロトムになんてことしてくれるんじゃ!」
ヨウ「俺はポケモンなど捕まえないし、記録もしない。戦士の本分は敵に打ち克つことである。そこいらのコレクターと一緒にするな、ゴミが」
ナリヤ「カロスの発明少年に電話しなくては!」ピポパ
シトロン「もしもし、シトロンです! ナリヤ博士、どうなされましたか」
ナリヤ「緊急事態じゃ! ロトム図鑑が一人の少年に壊された。それも、無残に潰されて! どうする、シトロンくん!」
シトロン「よし、今度はそいつをスクラップにしてやりましょう! 至急新たな兵器を開発しますので、とりあえず僕の口座に開発費をお振込みください!」
ナリヤ「何を言っておる。まずは落ち着いて状況を整理するんじゃ」
シトロン「この、腰抜けジジイめ……! いいから黙って全部オレに投資しろッ!!」
ツーツー
ナリヤ「ふむ……」
ナリヤ「どうじゃ。君一人の行動で、沢山の人がこのように苦しむ」
ヨウ「遠く離れた地方に住む猿が苦しんだところで、何の痛痒も感じんね」
ナリヤ「君は、噂に違わぬ悪魔だな。もうポケモンギャグも満足に飛ばせんよ」
ナリヤ「わたしはマリエ図書館にいます。何かあれば、すぐ会いに来ておくれ。別に来なくてもいいがね。できれば会いたくない、二度と」
▼時間が無かったので、ヨウは図書館をスルーした!
▼10番道路、ホクラニ岳に続くバス停の前で、何やら地面を掘り返している覆面男が二人! おそらくスカル団の一味であろう!
ヨウ「……」ニカッ
したっぱI「なんだよ? バス停持って帰るんだよ」
したっぱJ「あー! こいつバス停を横取りかよ、ぶっとばすぞ!」
ヨウ「ああ、そうだとも」
▼ヨウはバス停を地面から引っこ抜き、力任せに振り回した!
ヨウ「ぶっ飛ばされるのは貴様らの方だ。役立たずのチンピラ共め」ヒュンヒュン
したっぱI「うおー俺が戦えば負けるわけないのによヴガファア!!!」メキャッ
したっぱJ「どうでもいいがバス停の重さゴローニャと同じく(ry!!!!!」ボグゥ
▼背骨の折れた死体が宙に舞った!
したっぱJ「グゥ……なんかしらけたわ……屋敷に帰るわ……」ガクッ
ヨウ「歯ごたえがない。あまりに無さすぎる。昨今のテロリストはこんなものなのか?」
ヨウ「ライチのように、俺を苦戦させるトレーナーがいないものか」ハァ
~ホクラニ岳・天文台~
マーレイン「マー氏wwwついにできましたぞwww島巡りの身体を貫く逆茂木www」
マーマネ「逆茂木とはwww意外なところを突きますなwwwされど、島巡りのポケモンも強靱ですぞwwwあっという間に壊されてしまうのではありませんかなwww」
マーレイン「ご安心召されよwwwチタン合金製の逆茂木ですぞwww」
マーマネ「さすがマー氏www無駄に凝ってますなwwwブヒィwww」
マーレイン「ま、拙者は鋼タイプのエキスパートですからなwwwヌカコポォwww」
マーマネ「そういえば拙者も先ほど実装しましたぞwww射程距離500km、弾速マッハ12の電磁砲wwwここまでくると目視は不可能ですなwww」
マーレイン「ピョピョピョwww我ら二人がコンビを組めば、打ち破れぬ敵などござりませんなwww」
マーマネ「ですなwww」
ダグドリオ「「「www」」」
▼ホクラニ岳中腹地点で、バスが急停止した!
ヨウ「おい、運転手。なぜアクセルを踏まん」
運転手「お客様……これ以上は私としても無理でございます。あまりに恐ろしゅうて、足がすっかり動きませぬ。まるで、悪い魔法使いに石化呪文をかけられたかのごとく」
ヨウ「バカを言え、ただの山であろうが。踏め、アクセルを!」
▼運転手はカタカタ小刻みに震え出した! もちろんヨウの峻厳な性格を恐れるのではない。ホクラニ岳の頂上にあるもの。それに対し極端な恐れを抱いているのだ!
運転手「だ、だだだダメです。私には娘が二人います。彼らはあどけない表情で、私の帰りを待っているのです。単刀直入に言います。私は死にたくない」
ヨウ「ハッ! 死にたくない? バスを進めねば、今ここで貴様の首を刎ねる」
運転手「なんですと!?」
ヨウ「行くも地獄、帰るも地獄。ならば、少しでも希望がある選択をするしかあるまい」
▼ヨウは運転手の首筋に、偃月刀の刃を押し当てた!
運転手「なんということだ……。ホウ、スイ。先立つおとうさんを許しておくれ」ブゥン
ヨウ「クハハハハ! それでよいそれでよい! 突き進め、目的地まで突き進むのだ!」
▼ヨウの説得により、バスは運転を再開した!
マーレイン「マー氏www座標21°08′N 157°02′W地点に不可解な物体を確認しましたぞwww火器管制レーダーを作動してくだされwwwブフォwww」
マーマネ「了解しましたぞwww」
▼天文台へ向かってくる物体が敵だった場合、即座にミサイルで撃破せねばならない! ミサイルを誘導できるよう、電波を発しておく必要がある!
マーマネ「レーダーに映りましたぞwwwどうやらバスのようですなwww」
マーレイン「敵味方識別装置は何と申しておりますかなwww」
マーマネ「うーむwww難しいでござるなwww電波の返信がないので敵だと思われるが、見るからに貧弱なバスwww二次レーダーに切り替えてみますぞwww」
マーレイン「いやwwwその必要はないですなwwwよく考えれば、民間企業のバスに特殊な電波を受け取る機能が備わっているとは思えませんぞwww」
マーマネ「然らばwww遠慮なく目標を破壊して構わないということですかなwww」
マーレイン「そーですなwww」
▼天文台の前にあるコンクリートの道路が、激しい振動と共にめくれ上がった!
▼中から怪しく黒光るレールガンの細い筒が顔を覗かせる!
マーマネ「これでおしまいですなwwwブヒィwww」
ヨウ「ぬぬッ!」
▼ヨウの目に、侵入者を防がんと立ち並ぶ逆茂木の柵が入った!
運転手「あれァ、きっとアカンやつですよ……。よく戦国ドラマでもあるじゃないですか、襲撃してきた騎馬隊の馬を尖った逆茂木でグサー」
ヨウ「気にするな、突っ込め」
運転手「ふぁ!? あんた正気ですか!? 突っ込んだら死ぬと私が伝えたばっかりでしょう!」
ヨウ「大丈夫だ、バスが爆発する前に脱出するのでな」
運転手「じゃ、じゃあ! あたしゃどうなるんですかい、大将!」
ヨウ「知らねぇな、勝手に死ね」
運転手「そんな! ブレーキを踏んでやるッ!」キキーッ
▼バスが急停止した!
ヨウ「ふざけた真似をするな。これは作戦だ。あえて柵に刺さったフリをするのだ」ブォン
▼バスが急発進した!
運転手「うわーッ! ぶつかるーッ! 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
▼勢いよくバスは逆茂木に突撃した! 運転席が真っ赤に血で染まる!
▼直後、天文台のレールガンから放たれた電磁伝導体が蒼い稲妻をバチバチ煌めかせ、バスに命中! 山も割れんほどの爆音が一帯に響き渡る!
▼間一髪、爆発を逃れたヨウは回転受け身を取り、瞬時に跳ね起きた! 再び電磁砲の第二射! ヨウの足元を正確に穿ち、吹き飛ばす!
▼しかし流石、歴戦の勇者! 吹き飛ばされながらもヨウは、弾の発射地点を見抜いていた!
ヨウ「ホクラニ岳の頂上にある天文台……。信じがたいが、あれは天文台の皮をかぶった軍事施設だ。油断できぬぞ」ババッ
▼電磁砲の猛攻が一旦止んだ! その隙に逆茂木の林を匍匐前進で掻いくぐるヨウ!
ヨウ「匍匐前進については、俺も覚えがある。幼少期のあだ名が『白いゴキブリモンキー』であったほどだからな」ザザザザ
▼ビーム砲、機関銃、バズーカ砲、短距離弾道ミサイル。マーマネとマーレインはありとあらゆる手でヨウを仕留めんとしてきたが、どれも逆茂木に阻まれるか、動きを読まれかわされてしまう!
▼半分ほど進んだところで、ヨウは雲一つない青空に無数の砲弾がばら撒かれるのを認めた!
ヨウ「阿呆が! ついに焼夷弾で一掃しに来たようだな! 爆破が始まる前に本拠地へ乗り込んでやるよ!」
~ホクラニ岳・天文台~
マーレイン「怯まず向かってきますぞwww」
マーマネ「余計な手出しは控えてほしいですなwww計画通りでござるよwww」
マーレイン「ふむwwwマー氏www一体何を放ったのでござるwwwグフォwww」
マーマネ「それはショーをご覧になってからのお楽しみwwwピギィイイwww」
▼高さ500m、天文台の砲台から発射された数千もの『それ』は、不気味な微笑みを浮かべながら、スパークを放ちつつ地上へ落ちていった!
ヨウ「様子が変だ。焼夷弾が全て俺に向かって落ちてくる。ホーミング性能がついているのかもしれん。しかし、ただ焼きつくすだけなら、いくらでも対処できる」
▼マーレインの仕掛けた逆茂木トラップを無事抜け出したヨウは、空を仰いで瞠目した!
ヨウ「マルマイン!? まさか、普通の弾でないとはッ! 不覚なり!」
マルマイン「マルルルルッ! アッ!」ヒュウウウウ
▼青龍偃月刀で斬っても、次から次へとマルマインが降りかかり、10万ボルト級の電気を解き放ち果ててゆく! それはさながら、自らの命を犠牲にして菌を抹殺する白血球のようだ! 異常な攻撃方法だが、破壊力も尋常でない!
ヨウ「くそがああああああッ!!!」
▼豪傑の眼球が破裂し、髪は燃え盛り、股から血の混じった尿が虹を描いて飛び散る!
ヨウ「あがッあがああ……」ビクンビクン
▼ヨウはポケットから『げんきのかたまり』を取り出し、無理やり喉の奥へ押し込んだ!
ヨウ「ハアッ!」
ヨウ「マルマインの絨毯爆撃、少しだけ効いたぞ。キャプテン・マーマネ」
~ホクラニ岳・天文台~
マーレイン「プランAが抜かれてしまいましたぞwww」
マーマネ「どうしますwwwマー氏wwwこれでは我らwww殺されてしまいますぞwwwそれがしwwwそろそろコミュ障になる準備を始めねばなりませんかなwww」
マーレイン「こうなったらwww最終兵器を持ち出さざるを得ませんなwww」
マーマネ「もしやwww『アレ』に乗るのでござるかwww」
マーレイン「そうですぞwww」
~格納庫~
マーマネ「マー氏www」
マーレイン「なんですかなwwwマー氏www」
マーマネ「そなたのように勇敢な戦友を持ちwwwそれがしwww嬉しかったですぞwww三途の川を渡ってもwww二人の絆は永遠でござるwwwブヒィwww」
マーレイン「何を申しておりますかなwww拙者とマー氏で乗り越えられなかった障害はなかったでござるwww今回も同じですなwww」
マーレイン「それにwwwマー氏は重すぎて三途の川は渡れないでござるよwww」
マーマネ「いいこと申しますなwwwではww行きますぞwww出撃準備オーケーwwwいざwwwシンクロでござるwww」
▼マーマネとマーレインはシンクロナイズした! 二人の記憶が瞬きする内に行きかい、共有される! 電気のキャプテン・マーマネ、鋼のキャプテン・マーレイン。最終決戦が今、始まろうとしていた!
クワガノン「ヤッテキマッシャー!!!!」
▼ヨウは天文台の扉をためつすがめつ眺めた! もし取っ手に爆弾がしかけられていたら、手首が吹っ飛んでしまうからである!
ヨウ「……見る限り、普通のドアだがな。奴め、何を仕込んでおるか分からん」
▼細長いドアノブを握りしめ、一気に扉をひらく! その時!
クワガノン「ヤッテキマッシャー!!!!」グワッシャーン
ヨウ「なにッ!?」
▼脚に四角い鶯色の物体を抱えたクワガタが、ガチガチ顎を鳴らして頭上を飛び去っていった! ヨウは突風と天文台の瓦礫に気を取られ、身動きがとれない!
ヨウ「主ポケモン……キャプテン・マーマネ!」
マーマネ「え……見えてるの?」
▼ヨウは一応カマをかけてみたが、見事引っかかってくれたようだ。間違いなく、クワガノンの中にマーマネがいる!
ヨウ「主とキャプテンがおでましとは、これぞ一石二鳥。絨毯爆撃の借り、今こそ返させてもらう。クワガノン、そこを動くな!」
マーマネ「呼び出した主ポケモンに己の強さを示す……これが試練の基本形……。そこでぼくは考えたよ。自分が主ポケモンに乗ってしまえばいいのではないかと」
マーマネ「そして育ててみたのが、このクワガノン……。イッシュとアローラの科学技術を総結集して育て上げた、殺戮マシーン……」
マーマネ「そもそも、天文台では宇宙の音も調べている……。人には聞こえなくても、ポケモンには聞こえる音……。集めた音を電気信号として、ポケモンの脳幹、大脳皮質に指令として直接送り込む……。他にも、集めた音で天文台のセキュリティも作った……。ま、これはマー氏っじゃないマーさんの発明だけど……」
ヨウ「遺言はそれだけか」
マーレイン「マー氏!wwwちと話し過ぎですぞwww相手が聞いているからいいものの、下手したらやられてましたぞwww」ヒソヒソ
マーマネ「ちなみに……マシンは初めて使うから、人体実験におつきあいください」
マーレイン「昔はククイとも冒険し、鍛えたトレーナーの腕前……存分に披露させてもらう! マーマネ、左旋回ですぞッ! 左腕を振り上げてくだされ!」
マーマネ「うん!」サッ
ヨウ「始めるぞ」
~主ポケモンのクワガノン及び搭乗員であるマーマネ&マーレインが勝負をしかけてきた!~
▼透明な羽を羽ばたかせながら旋回するクワガノン! 翼を持たぬヨウには、空を飛ぶ敵を攻撃する手段が少ない!
マーマネ・マーレイン「「クワガノン、電磁波!!」」
▼シンクロする二人の動き! 歯噛みするヨウを嘲笑うかのように、クワガノンは対象の筋肉を麻痺させる電磁波を放つ! 意外にも、ヨウは避けずわざと電磁波を両脚に食らった! ヨウの顔が苦痛に歪む!
マーマネ・マーレイン「「目標、電磁波により動作が停止しました」」
ヨウ「フッ、言葉も思考も共有とは、脳への負担がかなりのもであろう」
▼ヨウの言葉通り、マーマネとマーレインの鼻や目からは血が流れていた! しかし、クワガノンを停止させることはない! キャプテンの誇りと意地が、緊急脱出ボタンを押すのを留めているのだ!
マーマネ・マーレイン「「島巡り、なぜ動かない」」
ヨウ「脚が麻痺してるからに決まってるだろ。撃ちたきゃ撃て、負けたよ。貴様らの寿命を削ってまで、戦うことを選ぶ精神力にね」
マーマネ・マーレイン「「どう思いますかな、マー氏」」
マーマネ・マーレイン「「攻撃を続けますぞ。クワガノン、電磁砲」」
▼クワガノンの口がわずかに開き、研究の集大成・レールガンが露わになる!
▼天地を照らす、蒼白い稲光!
ヨウ「グッ……!」
マーマネ(うひょーwwwこれでwww一人撃破ですなwww)
マーレイン(聞こえてますぞwwwまwwwこれで大金が入れば新たな兵器を製造できますなwwwピョピョピョwww)
マーマネ・マーレイン「「3、2、1、GO!!!」」
ズシン
マーマネ・マーレイン「「おっと? おおっと?」」
▼機械オタクは二人して青ざめた! それもそのはず、ヨウに向けて撃ったはずの電磁砲が、自分達の方へ跳ね返っていたのだから!
ヨウ「知りたいか? マジックのタネ」サッ
▼ヨウが掲げる偃月刀の刃は、トゲデマルの皮を繋げて作った刀袋に包まれていた!
ヨウ「トゲデマルの特性は『避雷針』……。電気タイプの技を全て吸収するわけさ。マルマインの時は数の暴力で押し切られたが、クワガノン、貴様の電磁砲なぞ屁でもないわ」
ヨウ「そして、溜めたエネルギーをそちらへ返却する。クワガノンの特性はふゆう、避雷針ではない。よって、吸収できず大ダメージを受けたわけよ」
ヨウ「さあ、好きなだけ電磁砲なりスパークなり撃つがいい。反撃の準備はできている」
▼トゲデマルの刀袋にマーマネらの注意を向けつつも、ヨウはポケットからこっそり『麻痺治し』を取り出し、両脚にかけていた!
マーレイン(マー氏www次は物理技をしかけてやりましょうぞwww特殊攻撃では全て防がれてしまうゆえwww格闘戦にもちこむべきですなwww)
マーマネ(それがいいかもしれませんなwwwマー氏www鋼タイプキャプテンの真髄www小童に見せてやりなされwww)
ヨウ「反応がないようだが、どうした? トゲデマルを乱獲されて、言葉も出ないか。言葉が出ないならクリスタルを出せ。ガシャポンのように、口から投げてこい。キャプテンの首というオマケもつけてな」
▼クワガノンに掴まれていたデンジムシが、逆茂木トラップに放り投げられた! 四本の脚が身体に収納され、代わりに緑青色のゴツゴツと角ばった腕が現れる!
マーレイン「モード変更www機械オタクの永遠のロマンでござるwww今回はクワガノンとメタグロスをくっつけてみましたぞwww」
ヨウ「誰だか知らんが、マッドサイエンティストが他に乗っているようだな。理想のためなら、ポケモンを改造しても構わない化け物が」
マーレイン「化け物はおぬしの方ですなwwwクワガノンwwはめつのパンチ!www」
▼クワガノンは前足とノコギリのような顎を振り上げ、猛然と突進してきた!
マーレイン(必ず先制できる威力140のスカイアッパーwwwたとえ耐えても、2ターン後に死を迎えるお茶目な特殊効果つきwwwくらえーいwww)
ヨウ「ポケモンに教える技まで改造するとは、徹底しておるな。だが」
ヨウ「当たらねば、問題ではない」ザッ
▼ヨウもまた、改造兵器クワガノンへ向けて疾走を開始! 右手に握るは重さ125斤の青龍偃月刀! ポケモンに非ざる両者が交錯する! 鳴り響く甲高い金属音! 立ち昇る土煙! 倒れたのは―――
クワガノン「クワァ……!」ドサッブルブルブルブル
~クワガノン内部~
▼揺れ動く機体! あちらこちらから白い煙幕が噴き出す! 操縦席では、二人のオタクが脱出口を探ろうと右往左往走りまわっていた!
マーマネ「シンクロナイズが効かなくなりましたぞwwwこれはまずいですなwww急いで緊急脱出ボタンを押さねばwww」
マーレイン「いやそれがwwwさっきから押しているのでござるがwwwまったく応答なしなのでござるよwwwデュフォwww詰んだみたいですぞwww」
▼クワガノンの脇腹を蹴破り、ヨウが操縦席へ踏み込んできた!
マーマネ「あわわわわわwwwww」
マーレイン「はわわわわわwwwww」
ヨウ「特殊で攻撃すれば刀袋に吸収され、物理で挑めば勝ち目はない。最初から決まっていたのだよ、貴様らの運命は」
ヨウ「さて、クリスタルの在り処を教えろ。俺は慈悲深い。もし教えたならば、命だけは勘弁してやる。賢い選択を選ぶのだ。ホクラニ岳のエンジニアよ」
マーレイン「マー氏www!!!」
マーマネ「マー氏www!!!」
マーレイン「ナイスキャプテンですな!www勝負に負けてもwwwクワガノンの改造かつ運用に成功したことは大きいですぞwww」
マーマネ「ありがとwwwおめでとwwwマーマネの試練達成ですぞwwwクリスタルを受け取ってくだされwww」
ヨウ「あ? ああ……」
ファファファーンファーンファーン
テレレレッテテテ テレレレッテテテ テッテッテ テーテーテーテ テーンテテテンッ!
~試練達成~
マーマネ「フゥーwwwやっと闘いが終わったでござるwww天文台に帰ってロボティクス講座のビデオを最初から150巻まで一気に観たい気分ですなwww」
マーレイン「まずその前に、ブッ壊れた天文台を建て直さねばなりませんぞwww」
マーマネ「あwww」
マーレイン「しかしwwwマーマネをキャプテンに選んで良かったwww」
ヨウ「キャプテンは島キングが任命するものではないのか」
マーレイン「ウラウラ島は事情がやや特殊wwwなのですぞwww色々と子供が絡んではならぬ闇の……大人の事情があるんでござるwww」
マーマネ「見事な戦っぷりでしたぞwww島巡りwww」
マーレイン「そうだwwwお使いを頼まれてくれますかなwwwククイくんの忘れ物なんだがwwwグピwww」
▼ヨウは『はかせのふくめん』とハガネZを手に入れた!
マーレイン「内側が汗とよだれで黄ばんじゃってますがwwwご愛敬ですぞwww」
ヨウ「死人の覆面……デスマスク」
マーレイン「はっ?www」
▼電気と鋼のキャプテンに別れを告げたヨウはグッと背伸びをすると、遠くにそびえる峻険な山をじっと眺めた!
ヨウ「ラナキラマウンテン。過去に島巡りをこなした者は山頂で神々と闘い、帝王の座を勝ち得たという。俺もその列伝に名を連ねたい」
ヨウ「楽な道ではないだろう。力押しの戦法が最後まで通用するかも疑わしい。だが、俺は決して諦めぬ」
ヨウ「玉座に腰かけるのは俺だ。待っていろ、ポケモンリーグ!」
▼バッグを開き、クリスタルの数を確かめる!
ヨウ「ノーマル、格闘、水、炎、草、岩、電気、鋼。半分近く揃ってきたな。まだ取りこぼしはない……はずだ」
ヨウ「あとはマオ、貴様に任せたぞ。アセロラからクリスタルを剥ぎ取ってこい」
▼ヨウがマーマネとマーレインを撃破した頃、マオは未だマリエシティをほっつき歩いていた! 怪物(ヨウ)の監視から逃れ、やっと自由に街を観光できるからだ!
マオ「アイスおいしかったなー! 今度メニューに追加しよっと!」
マオ「ヨウ君は頼れる人なんだけど、一緒にいると息がつまる時あるんだよね。あたしはみんなでワイワイ遊ぶのが好きだから、覇道? なんてのはちんぷんかんぷん!」
マオ「でもまぁ、スナイパーライフル貰っちゃったし。なんか責任重大……」ズーン
▼図書館の前に来ると、マオは見覚えのある人物を見出した!
リーリエ「ぐお~、どうして自動ドアじゃねーんだよクソ! 思いっきり額をぶつけちまっただろうが、慰謝料払わんかいヴォケ! 何が手動で開けてくださいだ!」ガンガンッ
マオ「うわ~、やってるなぁ~。空間研究所にいた人だよね、あれ」
リーリエ「おい、そこのアマ!」
マオ(無視して行こう……)
リーリエ「クソ色に日焼けしてるテメェだよ、ヴォイ!」
マオ「あの~、どこかでお会いしましたっけ?」アハハ
リーリエ「知るか! けどよ、テメェのヘラヘラした笑顔が気にいらねぇんだ! 私が道に迷って、しかもブティックで爆買いしちまったの笑ってんだろ! 最後の一着とか店員が勧めっからよ、ついつい買っちまったんだよ私はァ!」ボカッボカッ
マオ「あいたッ! ちょ、殴らないで! あたし店員じゃないし!」
リーリエ「るっせェ! これが殴らないでなんだってんだバーカ!! テメェ、ヨウの女だろ!? ならついでに奴の居場所を吐けやボケナスがァ~!!!」ボゴッボゴッ
ハプウ「これこれ、そこら辺にしておかんか」
バンバドロ「ヒヒウン!!」
リーリエ「ひえッ!?」
ハプウ「わらわはハプウ。リーリエ、久しいのう。兄は元気か」
リーリエ「んなモン、とっくの昔に壊れちまったぜ……!」ググッ
ハプウ「で、そちらは」
マオ「まいどどーもー! アーカラ島キャプテンのマオでっす! ヨウ君と一緒に、島巡りしてまっす! よろしくー!」
▼ハプウは眉を上げ、舐めるようにマオの姿を見た!
ハプウ「ほお……あの島巡り、キャプテンをも従わせよったか。そら恐ろしい坊主じゃ」
マオ「あたしが自分でついていったんです!」
ハプウ「だから、凄いと申したのじゃよ。キャプテンを魅了し、おそらく島クイーンも斃し、ウラウラ島まで来た。油断できない相手よの」
リーリエ「チッ、どうせ下半身に魅了されて同行したんだろ。きったねぇ雌犬め」
ハプウ「先ほどはバンバドロが驚かせてすまなかったな。ああでもしなければ、おぬしらの喧嘩を止めることはできなかったのじゃ」
バンバドロ「ムヒ!」
リーリエ「別に構わねーよ。こっちだって頭に血がのぼってたしな」
ハプウ「ところでリーリエ。おぬし、島巡りではないようだが何を?」
リーリエ「ちょいと訳があってな、遺跡を調べてる」
ハプウ「ほう、感心じゃ。遺跡はアレじゃろ? どこかに行きたい時はバンバドロを貸してやろう」
ハプウ「わらわのバンバドロは健脚&力自慢で有名でな。グラードンを何個か背中に乗せられるとか、よくわからん噂が流れるほどじゃ。いるかの?」
バンバドロ「バルルッブッフウウウウン!!!」シュポー
リーリエ「恩に着るぜ」
ハプウ「では行くぞ、バンバドロ」
バンバドロ「バフン!」ズシンズシン
リーリエ「って渡さねーのかよ!」
マオ「残念だったね、でもきっと次があるよ! ファイト!」ニコッ
リーリエ「あァ~? なんでテメェに、このリーリエ様が励まされなきゃなんねーんだよクソカスがッ! 死にたいのかオイコラァ~!? 図書館行くぞ、テメェも来い!」
▼リーリエはマオの左耳を真っ赤になるまでつねった!
マオ「ぎゃ~! 絶対前より凶暴化してる~! どうしてあたしまで~!」
~マリエ図書館~
リーリエ「探しているのは古書だ。小さい頃、バーネット博士に教わった伝説が書かれた本。なんでも、アローラの伝説ポケモンは異世界からやってきているそうじゃねーか」
▼マオの脳内に、エーテルパラダイスで遭遇したウルトラビーストのことがフラッシュバックする! リーリエはマオの表情の変化に気づかず、二階へ上っていった!
リーリエ「一般の図書館では、お目にかかれねーかもしれねえ。あったとしても、借用は不可。六ヶ月以上の猶予を持ち、貸出申請をしなくちゃなんねーからな。私達みたいにいきなり見せろってのも、普通ならキチガイのすることだ」
~数分後~
リーリエ「ダックソ!!!! 見っかんねー!!! 誰だ借りてやがんのは!!! チクショー!! 呪ってやるー!!! 訴訟だヴォゲがーッ!!!」
マオ「静かに静かに! ここ図書館だよ!? 暴れちゃだめだよ!」
▼リーリエを背後から羽交い絞めにするマオ! すると左隅で本を物色していた少女が、こちらへ歩み寄り、一冊の本を差し出した!
???「これでしょ、ひらひらのおねえちゃん」
リーリエ「それです! それを早く私に―――」
???「読ませてあげる!」ニッ
リーリエ「え? ええ……分かりました」
リーリエ(チッ……とっとと渡せってんだ面倒くさい)
???「じゃ、そこの席について!」
マオ「どういうつもりなのかな、あの子?」
リーリエ「私に聞くんじゃねぇよ」
リーリエ「マオ、テメェが読め。これ以上、私は声帯を使いたくない」
▼リーリエは本をマオに投げてよこした!
マオ(あたし、こんな場所で何してるんだろ……)
マオ「ええと……アローラの光。読ませてもらいます」
マオ「昔々、あるところに空があった」
リーリエ「それは知ってる!」
マオ「突然、空に穴が開いて、一匹の獣が落ちてきました」
リーリエ「どういう理屈だ、コラ!」
マオ「……落ちてきた獣は太陽を喰らう獣と呼ばれ、島の守り神を従えました」
リーリエ「太陽を喰らう? ベッタベタなネタだな!」
マオ「……太陽を喰らいし獣はアローラ王朝を明るく照らし、自然の恵みをもたらしました。ここにアローラ王朝は空前絶後の繁栄を迎えました」
リーリエ「ギャハーッ! 明るく照らすってLEDかっつーのー!!」
マオ「ちょっと、黙っててもらえないかな!?」
マオ「アローラの王朝は祭壇にて太陽・月と二つの笛を吹き、その音色を捧げ太陽の獣・ソルガレオに感謝の気持ちを表した」
???「おとうさんの本、おもしろいでしょ!」
マオ「え? おとうさんってこれ、相当古い本のはずだけど」
リーリエ「頭がイカれちまってんのかな」
アセロラ「うん、おとうさん! アセロラ、大昔すごかった一族の娘なの」
マオ「アセロラ!?」ガタッ
リーリエ「ん、どした」
マオ(まさか……こんな近くにターゲットがいたなんて。どうしよう、殺っちゃう? いや、ダメダメ。すっかりヨウ君に毒されてる)
アセロラ「図書館に置いておかないと、ポケモン達にボロボロにされるしね! 他にもアローラの伝説を教えてあげるよ」
リーリエ「はい……すごく嬉しいです」
マオ「リーリエ! 実はね、あたし……」
リーリエ「テメェはどっかに失せろ。私はアセロラさんの話をこのまま聞く。試練するなり観光するなり勝手にしやがれ」
▼マオは図書館から追い出された!
~1時間後~
▼アセロラが図書館から出てきた!
マオ「あのッ! アセロラさん!」
アセロラ「えーっと、あなたはリーリエちゃんと一緒にいた、アーカラ島の……」
マオ「マオです!」
アセロラ「うん、そのマオちゃんがどうしたの? リーリエちゃんならまだ中にいるよ。守り神について調べるんだーって熱くなってた」
マオ「いいえ、守り神のことじゃなくて! 試練について聞きたいんです!」
アセロラ「試練? マオちゃんはキャプテンだよねー? 島巡りする必要ないとアセロラは思うんだけどー」
マオ「あたしも自分の実力が試したくなったの! だから、アーカラ島を出て島巡りを始めたんです! 試練、受けさせてもらえます?」
アセロラ「……」
アセロラ「まずさ、ポケットの拳銃と背負ってるライフル出しなよ」
▼緊張の面持ちで銃器を地面に置く!
アセロラ「手、出して」
▼意外や意外、アセロラはマオの手に紫色のクリスタルを握らせた!
アセロラ「はい、クリスタルあげる。偽物じゃなくて本物だよ。マオちゃんだったら、試練なくてもクリスタルを持つに値すると、アセロラ思うなー」
~マリエシティ・港~
マオ「信じられない……試練もなしにZクリスタルを渡すなんて」
▼マオはゴーストZを、水平線の彼方へ沈みゆく太陽にかざした! 黄昏色に焼ける落日、一瞬だけスイレンとカキの影が見えたような気がした!
マオ「ま、いっか! これでヨウ君の依頼もこなせたし! 今日はもう遅いから、どこかに泊まって明日ヨウ君に会いに行こ!」
ドンッ!
マオ「きゃッ!」
バッシャーン!
▼伸びをした瞬間、何者かが彼女の背中を突き飛ばしたのである! 派手な飛沫を上げてマオは頭から海の中へ落ちた!
マオ「ぶはッ! げほッげほッ! なに!? 誰!?」キョロキョロ
▼辺りを見渡しても、人っ子一人いない。ススキのように伸びた自分の影が、ゆらゆらと落ち着く場所なく不安げに揺れているのみ。ヤミカラスが数羽、飛び立つ。
マオ「誰……? 変なイタズラならやめてよ……」
▼不気味に感じたマオが踵を返すと、ちょうど曲がり角の場所に小柄な少女が紫色の髪を揺らして立っていた。
マオ「アセロラさん!?」
アセロラ「『元』キャプテン、裏切りの代償を払うがいい」
▼アセロラの幻影は木っ端微塵に弾け飛んだ。
ミミッキュ「キュッ! キュウウ!」
アセロラ「ホントにミミッキュはイタズラっ子さんだねー」ナデナデ
ミミッキュ「キュウ~///」
アセロラ「マオちゃん、もう二度と日の目を拝めないね!」
▼アセロラは顔と身体の前でそれぞれ一回ずつ腕を交差させると、両手を広げて珍妙なポーズを取った! Z技を発動させる際のポーズである!
アセロラ「むげんあんやへのいざないー! あのクリスタル、ちょっと細工がしてあってね。アセロラ以外Z技使えなくしてあるの」
ミミッキュ「キュ?」
アセロラ「って、ミミッキュに言っても分からないか」
ミミッキュ「キュ~ン」スリスリ
アセロラ「あ~ミミッキュかわいい~。マオちゃんブチ殺して、もっともっと遊ぼう? じゃ、アセロラは他の島巡りさんと会いに出かけてくるね~」
ミミッキュ「キュ!!」
▼その頃、ミミッキュの遠隔攻撃下にあるマオは旅館へ逃げ込んでいた!
マオ「落ち着くのよ、マオ。あたしはキャプテンを務めたできる子。すっごいできる子。ええっと、アセロラに話しかけてそれからクリスタルをもらって、ええと、海に突き落とされて……」
▼考えれば考えるほど、思考が絡まってくる! 布団にくるまっても、どこから敵が攻撃をしかけるか分からず不安なままだ! 天井を突き破ってくるか? それとも床下から畳を抜けてのかげうちか? はたまた直接、脳を溶かしにかかってくるか!?
▼時計の針が刻む音。カチッカチッ。再びヤミカラスの羽ばたき。窓の向こうは真っ暗。時折、呻くような断末魔が聞こえる。
マオ「そうだ、ライフルを取り出して……!」ガチャ
マオ「さあ、どっからでもどうぞ! マオは逃げも隠れもしないから!」
シーン
マオ「こい!」
シーン
マオ「アセロラ! 一度目はクリスタルを貰って逃がしちゃったけど、二度目はないよ! これがあなたの試練だったのね!」
コンコン
マオ「だれ!?」
コンコン
マオ「だれだってんの!!」
スイレン「マオ? マオですか?」
マオ「スイレン!? あなた、死んだはずじゃ……」
スイレン「いいえ、死んでません。すんでのところで、活きの良い海パン野郎に命を救われました。マオ、あなたキャプテンをやめたんですね」
マオ「それがどうしたの」
スイレン「部屋に入れてください。一度、私とマオで胸襟を開いて話し合いましょう」
マオ「あなたがスイレンなら、その証拠を聞かせて」
スイレン「……」
マオ「ほら見なさい、あなたはスイレンじゃないわ!」
スイレン「……よく、三人で料理作りましたよね。私がおいしい水を持ってきて、カキがふといホネときちょうなホネを持ってきて……楽しかった」
マオ「そうだね」
スイレン「覚えてますか? マオにホウとスイを初めて合わせた時のこと」
マオ「ええ。二人とも顔を真っ赤にして恥ずかしがってた。それであたしが料理を振る舞ったらおいしいって言ってくれて。それ以来の付き合いよね」
スイレン「そうですそうです。これで私をスイレンと認めてくれましたか―――」
▼マオはスイレンのいる扉へ向けて、拳銃を撃った!
マオ「残念だけど、あたしはヨウ君を信じる。本物のスイレンなら、カキも一緒に連れて来てるはずだよ。死人が生き返ることなんて、ないんだ」
スイレン「お前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄に堕ちるべきだお前は地獄へ堕ちるべきだお前は地獄へ堕ちるべきだお前は地獄へ堕ちるべきだ」
▼翌朝、旅館の女将から情報を貰ったマオは14番道路へ向かった! 厚い暗雲が空を覆い、絹糸のような雨が天と地を繋ぐ!
マオ「よし」チャッ
▼マオはヨウから貰ったライフルをグッと握りしめ、薄暗い浜辺を壁に沿って歩いた!
マオ「できるだけ、アセロラには見つかりたくないな。これはれっきとした狙撃……暗殺だもの。幸いなことに昨夜から攻撃もないし、集中でそうね」
▼銃の先端にサイレンサーを取り付ける! もし狙撃に失敗した場合、発砲音で大体の居場所を探られてしまうからだ!
▼雨足がますます強くなる! 滝行でもしているかのようだ! 案の定、試練の門には誰も立っていない! アセロラはこの先・スーパーメガやす跡地にいる!
マオ「絶対にクリスタルを持って帰るんだ。あたしはキャプテンのみんなを裏切った。だから、だから……舵を切った方へ全力で進むしかないの!」
▼稲妻が一閃、マオの横顔を強く照らす。彼女の表情は決意に満ちていた! どうやら、完全に帰りの馬の腱を斬ったようだ!
マオ「慎重に……まずアセロラが何処に隠れたか把握しなくちゃ」
▼階段を上りきると、そこには荒れ果てたスーパーが佇んでいた! 窓ガラスは割れており、非常口のの誘導灯が不規則に点滅を繰り返している。外壁は苔や羊歯に覆われ、かつて賑わったスーパーの名残は微塵も見られない。だが、この中にアセロラはいる!
マオ「試練開始といくよ!」
▼フェンスの陰に隠れて、マオはスコープを覗き込んだ!
▼店内は思ったより明るい。レジの辺りを眺める。すると……!
ガコンガコンウィーン
▼突如、ベルトコンベアーが動き出した! 誰がスイッチを入れたわけでなし、一人でに稼働を始めたのである! マオの背筋に冷たいものが走った!
マオ「……撃っちゃだめ、撃ったらあたしの存在がバレちゃう」
マオ「いや……もうバレてる? バレてるからあえてベルトコンベアーを動かし、『監視されているのはお前の方だ』と意思表示を示しているの?」
▼そのままスコープを覗いていると、照準線の中央に黒い毬のようなものが飛び込んできた!
マオ「あ!」
ゴース「ヨ捌ハワ鴎涯Vン\N・B?\レサニ・ソw_池・忍? ・ァ」
マオ「こいつが動かしてたのね、天誅ッ!」
▼マオの狙撃! ゴースは眉間を撃ち抜かれて消滅した!
マオ「聞こえて……ないよね?」
▼マオの問いに答えるが如く、今度は左壁側のショッピングカートが暴れ出す!
マオ「ちょっと場所を変えなきゃ……ここだとまだ不安があるわ」
▼ショッピングカートが縦横無尽に走り出す!
ゴースト「限或鋳カ1・愆m玄d\欄」
マオ「せいッ!」
ゴースト「」
▼宙に浮くピカチュウとマリルの人形!
ゲンガー「躍+撝0・・}芭灯遏慧Cワカ>?オヌM・GfサYス^N曚麈C v」
マオ「たあッ!」
ゲンガー「」
▼このように、マオは前座とも呼べるゴーストポケモンらを次々とスナイプしていった! 弾を放つごとにチマチマ場所を変え、最終的に跡地の屋根で落ち着いた!
マオ「よし……ここなら出てきたところを撃てる」
▼スコープを覗き込む! 折しも、アセロラがピカチュウに似た物体を引き連れ、跡地から颯爽と出てきた! グリップを握るマオの手に汗がにじむ!
マオ(いけ……いけ……今だ、引き金を……)
マオ(って、どっちを撃てばいいの!? アセロラを撃てば隣にいるキモいポケモンに居場所がバレるし、キモイやつを撃てばアセロラにバレちゃう!)
▼選択肢は二つに一つである。アセロラを撃つか、ミミッキュを撃つか。マオはミミッキュの真の実力を知らない。それゆえ
マオ(決めた! アセロラを撃つ!)カチリ
ピスッ
▼マオ、アセロラ。天はどちらのキャプテンに与したもうたか。
アセロラ「マオちゃーん、元気ー?」
マオ「……!」ゾワッ
▼アセロラであった。
アセロラ「マオちゃん、試練受けてくれたんだね。ありがとう」ニッ
アセロラ「今のはマオちゃんが悪いんじゃないよ。ミミッキュが有能過ぎただけなの」
アセロラ「こんなこともあろうかと、ミミッキュは跡地に入る前からアセロラの幻を用意してたんだよねー」
▼追い詰めたつもりが、結果的に背後を取られる展開となった。アセロラの瞳から、光が消える。恐怖と緊張で動けないマオの首に華奢な手をかける。
アセロラ「さて」
アセロラ「詰み、だね」
アセロラ「ねぇ、いつまでスコープ覗いてるの?」
アセロラ「諦めて死んじゃえば?」
▼スコープの中にいるミミッキュが、こちらを見据えてきた。頭上に紫色のエネルギー球が形成される。これまで吸い取ってきた命や怨念、憎悪、殺意を複雑に織り交ぜた混沌たるシャドーボール。
アセロラ「あれを喰らえば、マオちゃんも吹き飛ぶかな? 実験してみようよ」
▼マオの首を絞める力が強くなった。
マオ「ぐッ……くうッ……!」
▼マオの背中に馬乗りになるアセロラ!
アセロラ「イリマさんも、ハラさんも、スイレンちゃんも、カキくんも、ライチさんも、みんなみーんなマオちゃんのせいで死んだ」
▼一方、マオは引き金にかけた指をこっそり放し、腰へ伸ばしていく!
アセロラ「自覚ある? 自分がどれだけの罪を犯したか、分かってる?」
マオ「や……め……て……」
アセロラ「やめない」カッ
▼アセロラの白目が血で赤く染まった! 呪いだ! 死後、絶対に魂が救われぬよう彼女はマオに呪いをかけているのである!
マオ「ごめんなさい……謝るから……ゆ、る、し、て……」ハァハァ
アセロラ「懺悔しても遅い。ならば何故、他のキャプテンを裏切った。どうして悪魔へ魂を売った。アセロラは修羅だ。そして、お前が救われることは未来永劫、無い」
▼腰のホルダーから拳銃を引き抜くマオ! まだアセロラは気づかない!
アセロラ「ミミッキュ、この罪人を無間地獄へと誘え」
ミミッキュ「キュッ!」
▼ミミッキュのシャドーボール!
パァン!
▼雨音に紛れて、銃声が反響する!
アセロラ「かはッ……!」
マオ「どちらが地獄行きですって? 当てが外れたね、アセロラ。あたしはまだ、地獄へ堕ちるには経験が無さすぎるもの」
▼ミミッキュがシャドーボールを放つ直前、マオはアセロラの下顎に近距離から拳銃を発砲したのだ!
マオ「どっせい!!!」ブゥン
▼さらに、マオは起き上がると豪速で迫るシャドーボールめがけて、アセロラの死体を放り投げた!
ドガァン!!
▼エネルギー弾に衝突したアセロラは、今度こそ粉々に弾け飛んだ! 素早くスナイパーライフルへ持ち替え、ミミッキュへ弾丸をお見舞いするマオ!
マオ「今夜の料理はあなたに決定ね! ピカチュウ!」
▼しかし、マオの狙撃を受けても偽ピカチュウは倒れない! 首の部分がコテンと折れただけである! ミミッキュの化けの皮が剥がれた!
ミミッキュ「キュ! キュウウッ!」ゴオッ
▼ミミッキュのあやしいかぜ! マオのSAN値がぐーんと下がった! このままでは混乱してしまう! スコープの照準線が歪んで見える!
マオ「どこだっけ……どこにいるんだっけ!」
▼マオは完全にミミッキュを見失ってしまった!
ミミッキュ「……キュッ! キュッ!」トタトタ
▼マオが狂気と戦うさなか、ミミッキュは死に物狂いで階段を下りていた! 化けの皮が剥がれた以上、あと一回のミスで自分は死ぬ! ゴーストタイプのポケモンにも、死の恐怖は存在するのだ!
ミミッキュ「ジャマッ! コレジャマッ!」ババッ
▼折れた着ぐるみを脱ぎ捨て、裸一貫で14番道路の浜辺へ躍り出る! 走り出したミミッキュの行く手を阻む肥満児あり! 名をポケモンコレクターのキヨシという!
キヨシ「珍しいポケモンが欲しいッ! ぼくは珍ポケ中毒者なんだッ!」
ミミッキュ「キュ!?」
キヨシ「しっかし、ぼくもついてるなァ! 散歩してたらいきなり雨が降ってきて、犬のクソでも踏んだような気分だったのに! 見たこともないポケモンを拾っちまうなんてなァ! ぼかぁ、世界で一番の幸せ者だァ!!!! ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
ミミッキュ「ミタナァーーーーーッ!!!!!」ピカーン
キヨシ「は!?」
▼ミミッキュの剣の舞&シャドークロ―! 肥満児の上半身が瞬く間に蒸発した!
マオ「よーし、追い詰めたわ! 観念なさい!」
▼豚男との戦闘が仇となった! シャドークロ―で肉を抉る音を聞きつけ、マオに追い付かれてしまったのだ! もはや、ミミッキュは袋の鼠であった!
マオ「そうだ、アセロラの死体から剥ぎ取ったZクリスタルを使おう! このポケモン、アセロラのお付きだったわ。推測するに、ゴーストタイプね」
マオ「ゴーストにはゴーストを! くらえ、あたしの全力を!」キュインキュインシャキーン
???「ちょいと待ちな、島巡りのお嬢さんよ……」
▼ドスの利いた低い嗄れ声に、マオはポーズを取ったまま凍りついた!
マオ「誰……?」
グズマ「残念だが、そのポケモンは既にこのグズマ様が予約済みだ。ガキはおとなしく手を引きな。痛い目に遭うぜ」
▼崖の上から飛び降りてきたのは、白髪の青年であった! 金で縁取られたサングラス、猛禽類の如き鋭い眼光、両腕に刻まれた藍色の刺青、どれを取っても表社会で活躍している人間とは思えない! 早い話、ギャングである!
グズマ「ブッ壊してもブッ壊しても手を緩めなくて嫌われるグズマがここにいるぜ」
マオ「何が言いたいの」
グズマ「おいクソガキ、あんたが壊してるポケモン……ミミッキュか。そいつぁ元々、オレらスカル団の獲物だと言ってんだ」
マオ「スカル団!?」
グズマ「ほう、名を聞いてポッポ肌が立ったようだな。その通り、泣く子も黙るグズマ来々とはオレ様のことよ!」ワッハッハ
マオ「ミミッキュを捕まえて、どうする気?」
グズマ「そうだな~、こうでもすっかなァ!!!」グワシャ
▼グズマのであいがしら! マオの顔面に左ストレートがめり込む!
マオ「うげぇ!」
グズマ「せっかくだ、ミミッキュのついでにあんたも壊れてもらうぜェ! グズマ様の人間解体ワークショップ、参加者募集中と洒落込むかッ!!!」
~翌日~
▼二日ぶりにヨウはマリエ庭園の石畳を踏みしめた! マーマネ・マーレインキャプテンとの激戦を繰り広げ、ようやく戻ってきたのだ!
ヨウ「マオは来るだろうか。奴の実力ならば、そろそろアセロラの首と共にクリスタルを献上しようと現れてもおかしくないのだが」
したっぱK「あ! あいつヨウだぞ! スカル団内で懸賞首にかけられてる!」
したっぱL「プルメリ姉貴をブッ殺した史上最低のマザーファッカー! この場でキルって出世街道まっしぐらッスカ!!」
ヨウ「雑魚共が……俺に絡むんじゃない。ゆくゆくはアローラを治める王となる男だぞ」
したっぱK「おいおいおいヨウさんよお!」
したっぱL「アローラのキングになるって? なにトチくるってんだ! ユーのしてることはただの殺人! いい加減認めないッスカねぇ~!」
ヨウ「1ターンだ」
したっぱK「はあ?」キョトン
ヨウ「まとめてかかってくるといい。貴様ら如き蛆虫未満の下郎、一撃でマリエ庭園の藻屑にしてくれるわ」ニコッ
したっぱK「マジかよ」ヒィ
したっぱL「や、やっちまうぞ」ブルッ
グズマ「一撃! う~ん、良い響きだよなァ! スパッと戦を終わらせることができてよォ。けど、それってつまんなくね?」
▼スカル団の長・グズマが悠々と架け橋を渡ってきた! 彼が押している車椅子には、片腕と両耳を失った少女が座っていた。
ヨウ「マオ!」
マオ「ヨウ君……? どこにいるの、見えないよ……!」
ヨウ「バカな、目はしっかり開いておるではないか!」
グズマ「ヘッ、義眼だよ。昨日な、こいつに出会ったんだ。キャプテンを仕留めた後みたいでな、オレの仕事を取ろうとしたんで粛清してやったのさ」
ヨウ「貴様! 名は何と申す!」
グズマ「グズマ、だ……」
したっぱK「ボスだ!」
したっぱL「ボスのおでましだ! ボスなら何かしらやってくれると期待してたッス!」
グズマ「ブッ壊してもブッ壊しても手を緩めなくて嫌われるグズマがここにいるぜ」
グズマ「やあ、皆の衆! スカル団ボス・グズマと、連続殺人犯・ヨウのカード! どうだい、よだれもののスペシャルマッチだろう」ワハハハハ
グズマ「なあ、ヨウさんよ」
グズマ「オレは人の目を見りゃ分かる。あんたとオレはお互い、殺しに魅せられた者同士。アローラに残る古臭い風習、島キングやキャプテンなんてなまっちょろい連中に変わる、新しいものが欲しくなるよなあ」
ヨウ「話が長い。俺は冗長な話が嫌いだ。あと一分で終わらせろ」
グズマ「だがよ、アローラの王はいけないぜ。最強の戦士はもう決まってんだからよ」
ヨウ「最強の戦士とは、一人で成るものではない。格上の武将を討つため、どの戦術が最適格かを信頼できる軍師と分析し、やっと辿り着いた答え。その時ベストの策を選べる武将と軍師の連携こそが『最強の戦士』であると!」
ヨウ「今のアローラ地方は混沌としている。質の良い戦士と軍師が各島に分散し、連携が取れない状況でいる。ならば俺がアローラの王となり、全ての島を一つにまとめ、彼らが出会える『場』を設けねばなるまい!!」
グズマ「何をほざいてんだ、テメェは……!」
ヨウ「グズマ! 貴様も戦士であるなら口だけでなく自慢の連携を見せるがよい! 俺は頭の中に軍師を一人、飼っておるぞ! 貴様はどうだ! 軍師はおるのか!?」
グズマ「なんだ、島巡りがゴチャゴチャ喚きやがって! ケツの青いガキが! ペンキ塗りたてみてェに青いニュービ―がよ!」
ヨウ「確かに、俺はアローラ地方に来て間もない。だが日々、発見や体験や大冒険を楽しんでいる。俺と共に旅している青龍偃月刀もさぞ、喜びに震えているだろう」
グズマ「それがどうした、オレ様はグズマだぞ! スカル団の長なんだぞ! 最強なんだぞ!」
グズマ「だいたい、島巡りなんかしてなんになんだよ!」
ヨウ「ナンナンやかましい。島巡りの先にあるのは、玉座だけよ」
グズマ「ヘッくだらねぇ、死体を積み上げて作った玉座に座っても空しいだけだぜ」
グズマ「さて、ヨウさんよ。まずはあんたを壊す前に、あんたが大事にしているものを壊す! 破壊という言葉が人の形をしているのが、このオレ様、グズマだぜえ!」
~スカル団ボスのグズマが勝負をしかけてきた!~
したっぱK「やっちまえ、ボス!」
したっぱL「生意気なチビガキにスカル団の恐ろしさを植え付けてやるッスカ」
▼ヨウのしんそく! 地面を蹴る音と共にヨウの姿が煙の如く消え、刃の暴風がしたっぱ達の命をたちまち刈り取る! グズマの額に青筋がくっきり浮かんだ!
グズマ「小うるさい外野を最初に始末したってか? それはタブーだぜ、ヨウさんよ。戦争でも言うじゃねぇか。非戦闘員である水夫を斬るべからずってな」ピクピク
ヨウ「水夫であろうが野次馬であろうが、戦場にいる者はみな敵か味方のどちらかだ。俺は敵を斬った。とやかく言われる筋合いはないぞ、グズマよ!」
グズマ「いくぜ、グソクムシャ。ハンティングの時間だ」
▼跳躍してヨウの水平斬りを避けたグズマは、ズボンの中をまさぐり、モンスターボールを取り出した! ごてごてと装飾の施されたボール!
グソクムシャ「ギギーッ!」
ヨウ「二足歩行の虫が相手か。お手並み拝見と参るッ!」
グソクムシャ「……ギッ」ババッ
▼グソクムシャのききかいひ! こは敵わじと思うたか、グソクムシャは傷を負っていないにもかかわらず、グズマの持つボールへ帰ろうとした!
グズマ「テメェが戻ってきてどうすんだ!」
▼グズマはモンスターボールを踏み割った!
グソクムシャ「ムシャ!? ムシャムシャ!?」
▼戸惑う装甲ポケモンの肩を叩き、隣に立つグズマ! その右手には、まだマオの血したたるマチェーテが握られている!
グズマ「心配するな、オレも戦ってやっからよ。あの高飛車なババアにスカル団も少しはデキるギャングだってこと、教えてやろうぜ」
グソクムシャ「ムシャ……!」シャッ
ヨウ(ポケモンの目つきが変わった。グズマめ、たった1ターンで逃げ腰だったポケモンの士気を上げるとは。将の素質は申し分ないようだが)
グズマ「1ターンだ! ヨウさんよ、1ターンであんたをスクラップにする!」
ヨウ「やれるものならやってみろ。ゆくぞッ!」ダッ
▼睨み合いの応酬から先に抜け出したのはヨウ! 脳天めがけて刀を振り下ろすと見せかけ、瞬時にグソクムシャの右脚へ足払いをかける! 飛び散る火花! 鎧のような殻に亀裂が走る! だが怪虫は倒れない! 足払いは完全な不発に終わった!
グズマ「グソクムシャアッ! シェルブレードで急所を切り刻め! オレモ行く!」
グソクムシャ「シャアッ!」ジャコン
▼籠手を模した二つの腕から鋭く尖った、剣のような殻が飛び出す! これは薄い殻を何年もかけて重ねた代物で、ちょっとやそっとの衝撃ではヒビ一つ入らない!
グズマ(運命の時が来たようだぜ、ルザミーネ代表)
グズマ(思えば不思議な縁だよな。スカル団と敵対するエーテル財団が手を組んで、たった一人の少年を始末しにかかるなんてなァ)
グズマ(だが、実際に戦ってみると痛いほど伝わんだよ。こいつが何を欲して生きているのか。オレは今まで自分こそが破壊の権化だと自負してきた。けどよ……こいつは破壊って言葉じゃ収まり切らねえ……! なんなんだ、こいつは!?)
▼仰向けに倒れる若武者を、グズマは血走った目で覗き込んだ!
グズマ「テメェがいると、スカル団の狩場が無くなんだよ」
グソクムシャ「ムシャッ」
ヨウ「ごもっとも、貴様は『狩られる側』だからな」
グズマ「最後に聞く。テメェは何モンだ? どんな人生を歩んできた?」
ヨウ「特に喋ることなどない。喰いたい時に喰い、殺したい時に殺す。そこに支配欲、権力欲を固めて完成したのが俺だ」
グズマ「……野獣みてぇだな。理性のない獣だよ、テメェは」
ヨウ「だったらなんだ」
グズマ「テメェみたいなのを野放しにするわけにゃいかねえ。やれ、グソクムシャ」
ドシュッ
▼雄敵、ここにあり。すっかりヨウを屠った気でいたグズマは、観衆へ向かって万歳三唱をしていた。それゆえ、グソクムシャの身に起こった悲劇が分からなかったのである。
ヨウ「ありがたいありがたい。俺のことをそんなにも大事に思ってくれていたのか」
グズマ「……あ?」
▼凍り付くグズマ。追い打ちをかけるがごとく、グソクムシャの死骸が無造作に放り投げられる。脳天に折れたシェルブレードが突き刺さったまま。
グズマ「どういうことだ、これは」
ヨウ「遊びよ遊び。わざと万事休したフリをして、エサばらまいてやったのさ。よく考えてみろ、無傷の俺が何もできず負けると思うか? 何かしら最後にしかけてくると考えなかったのか。こうも愚かな金魚が頭では、スカル団も先行きが心配だ」
グズマ「……テメェ!」
▼グズマと互いの武器を打ち合わせて数十合、なるほどグズマは確かに有能な剣術使いである。ヨウも何度か肝の冷える思いをした。けれども、ヨウの体力は無尽蔵。グズマが疲れを見せても、豪傑は涼しい顔で技を繰り出してくるのである!
グズマ「戦えば戦うほどッ、キレが増してやがる! やべえ! グレイトッ!」ゼエゼエ
ヨウ「そろそろ諦めてはいかがかな。貴様も疲れたろう、休んでもよいのだぞ」
グズマ「グズマ……グズマ……グズマァ!! なにやってるんだああ!!」
グズマ「自慢のポケモン達にもっと破壊させてやれよお!! なに一撃でブッ倒されてんだよお!! そんな体たらくで、ボスって名乗れんのかよおお!!!」
ヨウ「フム、これから本気を出すわけか。面白い」
グズマ「ヨウ、だったか! 壊しがいのあるヤツとして、胸に刻んでおくぞ! オレに本気を出させるなよ……? どけェい!!!! オレは帰る!!!!」ゼエゼエ
▼グズマが退散した後。
ヨウ「マオ!」
▼ヨウは満身創痍の少女を、二度と離すまいと強く抱きしめた!
ヨウ「キャプテンとはいえ年端もゆかぬ女児。貴様を単独行動させるべきではなかった。全ての責任は俺にある。ぐッ……くそッ……」
マオ「……ヨウ君でも、泣くんだね。あと、痛い」
ヨウ「痛いか痛いか、申し訳ない。つい熱くなってしまってな」
マオ「クリスタル、取ってきたよ」
ヨウ「なに、クリスタルをか!?」
▼血と脂にまみれたクリスタルをマオは差し出した!
マオ「グズマの奴に取られたくないから、襲われる寸前に飲み込んだの。ちょっと汚いかもしれないけど、ヨウ君の欲しがってたクリスタルよ」
ヨウ「汚いだと? 何を言う、これは貴様の勇気が勝ち得た玉璽。誰がこれを無下に扱うことができよう。誠によくやってくれた! 貴様は俺の宝だ!」
▼再び抱きしめようとするヨウを押しとどめ、マオは弱々しく問うた。
マオ「ヨウ君……ウラウラ島のキャプテンはこれでおしまい……?」ハァハァ
ヨウ「うむ、そうだ。島キングを討ち、ポニ島へゆく」
マオ「あたしも、連れてって、くれるよね……?」ハァハァ
ヨウ「貴様はマリエシティに残ってもらう。その怪我でついてこられても、かえって邪魔になるだけ。そうだろう?」
マオ「そんな……あたし、ヨウ君のために全てを捨ててきたのに……」ゴフッ
ヨウ「私欲に流された者に、成功した人物はいない。俺と旅をしたい気持ちは痛いほど分かる。だが、今は静かにポケモンセンターで身体を休める時だ」
マオ「あたしがいなくてもご飯作れるの? あたしのマオスペシャル、食べられないよ? それでもいいの?」ゲホッゲホッ
ヨウ「片輪にされて、どうやって料理をするというのだ。両目の光を失い、手足はそれぞれ一本ずつ。耳もろくに聞こえない。そんな状態で、どうやって敵を狙撃するつもりだ」
ヨウ「必ず戻る。達者で暮らせ」
マオ「待って、もう行っちゃうの!? やだ、あたしを置いてかないで!!」
ヨウ「しばしの別れ。急流、たとい二つに分かれども再び何処で相見えるであろう」
▼ヨウは近くにいた少年に声をかけた!
ヨウ「申し訳ないが、この少女をポケモンセンターまで運んでやってくれないか」
ミツル「え? は? はい、ポケモンセンターまでですね、承知しました!」
リーリエ「ケケケッ! イイ男っぷりじゃあねぇか、ヨウ」
ヨウ「リーリエ貴様、ウラウラ島までついてくるとは、しつこい雌馬め」
リーリエ「大事なほしぐもちゃんを二匹も失った気持ち、テメェには一生わからねぇだろうよ。グラジオ兄様もヒキガエルのようになっちまった。ヨウ、テメェのせいでな!」
ヨウ「だから、それは貴様ら兄妹が弱かったから……このくだり、何回やらせるつもりだ。喧嘩をふっかけては闘いもせず去っていく。こっちもイライラする」
リーリエ「そうそう! テメェ、マーレインぶちのめしたんだろ? だったらロイヤルマスクの覆面持ってるよな。私が博士に返しとくから寄こせ」
ヨウ「この汚れた覆面、ククイの物だったのか。ほれ、返すぞ。仏壇にでも供えるかい? なんなら俺が念仏唱えてもいいぜ。般若心経なら覚えがある」
リーリエ「ペッ! 余計なお世話だね! 噂に聞きゃ、アセロラさんもクソビッチのせいで爆死したみてーじゃねーか。ソルガレオ・ルナアーラに関わる貴重な人材だったのによ……。これもまとめて、後で落とし前つけてもらうぜ」
ヨウ「今でもいいが」
リーリエ「あ? あんだって? ゴラ、はっきり言えや」
ヨウ「今から決闘(バトル)を始めてもかまわない。スカル団のボスがメインディッシュとすれば、貴様はデザートのパンナコッタみたいなもの」
リーリエ「……どうする、かぐやちゃん」
テツカグヤ「ヤメトケ」
▼ボールから蚊のように震えた声が聞こえる! ボールを通してでも、ヨウの絶大な力はウルトラビーストに十分伝わったらしい!
ヨウ「どうだ答えろ。決闘するか、しないのか」
リーリエ「……クソッ! 私は買い出しに行ってくるぜッ!」
▼リーリエは背を向けて、一目散に逃げだした! 日々強くなり続けるヨウ大将軍に、さしものテツカグヤも恐れをなしたのである!
リーリエ「やべえ! やべえよアイツ! どんどんデカくなりやがるッ!」ダダダダ
ヨウ「……さて、行くか」
~12番道路~
ゲート管理員「ハイ、クリスタル確認しますねー」
ヨウ「死ね」ベギョッ
ゲート管理員「アブゲァ!?」
ヨウ「よし、通れるようになったな。時間がないのだ。言い訳はせん」ガラガラ
ハプウ「おーい、ヨウ」
ヨウ「む? 誰だ貴様。俺を呼び止めるからには、ちゃんとした用件があるのだろうな」
ハプウ「ハプウじゃハプウ。シェードジャングルでスマートホーンをおぬしに渡したハプウじゃ。覚えてないかの」
ヨウ「知らん。バブウもスマートフォンも記憶にない。これで済んだか?」
ハプウ「突っ込む気も起きんわ。ここから先、地面が色々とヤバいことになっておる」
ハプウ「それゆえ、バンバドロに乗れるようにした方がよい。バンバドロは全身が蹄鉄みたいなモンでの。どんな悪路でもズンズン進む」
ヨウ「ほう、例えばグラードンがホクラニ岳を噴火させて、12番道路がマグマに覆われても同じこと言えるのか?」
ハプウ「そういうのを屁理屈っていうんじゃ。つべこべゴネんと、はよ乗らんかい! ライドギア見せ! 登録しちゃる!」
ヨウ「無用の長物だったので破壊した。俺の足だけで歩く。そもそも、バンバドロ一頭を養うだけで相当の糧秣が必要となる。いらんいらん」
ハプウ「まあまあ、つれないのうおぬしは。いいからバンバドロを連れてゆけ! よろしく頼むぞ! しぶいポケマメが好きじゃ!」
▼ハプウはバンバドロを置いて、マリエシティへ帰っていった!
ヨウ「ふむ……」ジロ
バンバドロ「ムホッ!」
ヨウ「こいつは使えるな」ニヤ
~十分後~
ジュワー
バンバドロ「」
ヨウ「なぜこの使い道を思いつかなかったのだろう。剥いだ皮は衣服になるし、骨はいざという時のサバイバルナイフにも使える。感謝するぞ、ハプウ」ブチッグチャグチャ
~カプの村~
ヨウ「ここがラナキラマウンテン登山口……。この頂上に、雌雄を決すべき強者が待ち構えているというのか」
▼カプの村は寒村である。商業施設や娯楽施設はほとんど存在しない。あるとすれば、エーテル財団が営むハウスがポツンと寂しげに立つのみ。
ヨウ「フムン、さびれた外装のわりに中は結構清潔ではないか」
ヨウ「受付に誰もいないのが気になるな。おい、猿! 客人だ! もてなせ!」ガンガン
ヤレユータン「ボー……」
▼しばらくカウンターを叩いていると、左側のドアから子供が二人飛び出してきた!
子供A「知らないやつだ!」
子供B「ポケモンしょうぶ! ね!」
ヨウ「はあ?」
子供A「アセロラねーちゃんの留守をまもるー!」
ヨウ「アセロラは死んだ。いつまで待っても、帰ってこない」
子供B「うそつけー! ぽけもんしょうぶだー!」
ヨウ「聞き分けのない子供だ……ふんッ」
▼ヨウは、子供達の小枝のように細い腕をねじ伏せた!
子供A「コイツ! コイツ! 放せよお! うえーんうえーん!」
子供B「ごめんなさいごめんなさーい! ひいーん!」
ヨウ「大した度胸だ。俺を将軍と知っての暴挙か」グニイイイ
子供A「知らないよーお! ぼくたち、知らない人だからッ! うえーん!」
ヤングース「きゅう!」ススッ
子供B「あ! ヤングース来ちゃだめ! 来ちゃだめー!」
ヨウ「フム」
ゴギャッ
子供A「あ”あ”あ”-ん!!! ぼぐのうでがあああああ!!!」
子供B「いぎゃああああいいいいあいあああいああああ!!!!」
ヨウ「客人への不遜な態度。腕だけで免じてやる」
ヤングース「きゅきゅ……」
子供A「お前なんか! お前なんか! アセロラねーちゃんにはぜっーーったい! 勝てっこないんだからな!」
子供B「アセロラねーちゃんはとっても強いんだよ! 絶対いいつけてやるー!」
ヨウ「ハッ、口寄せでもするか。亡者が出てきたところで、何度でも返り討ちにしてやるわ。俺はアセロラよりも強いのでな」
ヨウ「ところで質問したいのだが、カウンター席にいるヤレユータン。なぜあんなにも萎れておるのだ? こちらがいくら声をかけても、返事すらせず虚空を見つめるばかり」
子供A「相棒のナゲツケサルが、スカル団の奴らにさらわれちゃったんだよ!!!」
子供B「ポケモンを返してほしければ、あたち達二人でポータウンに来いって……」
子供A「お前のせいで戦えなくなっちゃったよー!!! うえーん! うえーん!」
子供B「ヤレユータンがかわいそうだよー!!! えーんえーん!!!」
ヨウ「ポータウン? スカル団はそこを根城としているのか?」
子供A「アセロラねーちゃんが言ってた。ポータウンに近づくなって」
子供B「お願い! この際だれでもいい! ナゲツケサルを取り返してきてよ!!」
ヨウ「なるほどね、貴様らの話は理解した。行ってやろう、ポータウンに。邪魔なスカル団を一掃するいい機会だ」
子供A「ええっ! ありがとう!!!」
ヨウ「よし」
ヤングース「きゅ?」
ヨウ「こいつをもらってゆくぞ」ブシッグショ
ヤングース「きゅがああばばば」
▼ヨウはヤングースの股を引き裂き、保存食としてバッグに放り込んだ!
~15番道路~
▼うだるような熱気が立ち込める、雨上がりの散歩道! バッグに入った生肉を若干心配しながら、ヨウは目を細めて注意深く浜辺を観察した!
ヨウ「エーテルハウスにいた小童の話によれば、ここいらに浴衣を着た傑物がいるらしいが……。もしや、あれだろうか」
▼白い浴衣を着た男が一人、水平線の彼方を眺めている。風が吹くたびに、首に巻いたマフラーと浴衣の袖がかすかにそよぐ。ヨウは下唇を噛みしめ、グッと両手を握った。そうでもしなければ、きっと気圧されてしまっただろうから。
浴衣の男「人生は、与えられたカードでの真剣勝負……」
浴衣の男「やれやれ……今日はどんな日かな? こんな寂れた場所に人が来るとはね」
▼男は優雅な動きで振り向くと、ニヒルな笑みを口元に浮かべた!
浴衣の男「まあいい、さっそく勝負をしようか。少年」
ヨウ「勝負?」
ギーマ「わたし、ギーマが投げるコインがどうなるか当てるがいい。表か裏か、それともどちらでもない、か」
ヨウ「賭博師、俺におふざけは通じぬぞ」
ギーマ「ふざけてなぞいないさ。これはれっきとした勝負。武士が誇りのため戦うのと変わりない。ギャンブラーにも誇りはある。さ、答えたまえ」
ヨウ「どちらでもない」
ギーマ「いいだろう」
▼ギーマはコインを投げ、左手の甲に乗せた! すぐさま右手で結果を隠す!
ギーマ「なぜどちらでもないと?」
ヨウ「決まってるだろう。貴様ごとコインを粉々にするからだ」
ギーマ「なんだと?」
▼ダンッと椰子の木より高く跳躍したヨウは、太陽を背に偃月刀を構え、息もつかせぬ速さでギーマへ百連突きを繰り出した! 賭博師の白い浴衣が朱に染まる!
ヨウ「ほら、こうすれば表か裏かなど分かるまい」
ギーマ「……すごいね。上空を舞うエアームドにコインを取らせるつもりだったのに」
ギーマ「きみは、わたしに勝利した」
▼イッシュ四天王・ギーマは虫の息であった!
ヨウ「貴様が傑物だと近所の少年少女から聞いた。だが、とんだ期待外れだったよ。どうせ勝利の報酬も、サメハダーのライドギアをやるとかそんな物だろう?」
ギーマ「おせっかいながら……説明しようか……。Bボタンのジェットで……」
ヨウ「だから、いらんわ!!!!」グシャッ
▼ヨウはギーマの端正な顔を思い切り踏みつけた!
ギーマ「じゃ、もう一つ。16番道路をさらに越えると、ポータウンという町がある。スカル団がたむろしているから、迂闊に近づかない方がいい」
ヨウ「それも聞いた。普通のことしか話せんのか、イカサマ野郎」グイグイ
▼白髪混じりの髪をグイグイ引っ張るヨウ!
ヨウ「よし、ギーマ。貴様の傷を治してやる。ただし、俺の足となれ。よいな?」
ギーマ「足……? どういう意味だ」
ヨウ「ま、それは16番道路に到着してから教えてやる。とりあえずついてこい」
▼16番道路についたヨウは、茂みからリヤカーを引っ張ってきた!
ヨウ「貴様、これを引け」
ギーマ「腐ってもイッシュ四天王であるわたしに、ロバのような真似をしろと?」
ヨウ「敗者だろう、当然の義務だ」
▼こうして、ギーマがヨウの乗ったリヤカーを汗水垂らして引く、という奇妙な構図ができあがったのである!
ギーマ「ウンウン」
ヨウ「遅いぞ! 牛! 遅いぞ、牛! 肉にされたいか!」ビシバシ
ギーマ「ぐッ……屈辱だ……!」
少女「ねえねえ、おばあちゃん! あの人変だねー! こんな暑いのに浴衣着て、リヤカーなんか押してるよー!」
少女の母「しッ! 見ちゃいけません! こっち来なさい!」
▼ヨウを乗せたリヤカーは桃色に咲き乱れるヒースの花畑を横目に、17番道路へ抜け出した! 舗装された道に、雨の子供達がピチピチと楽しげに飛び跳ねる!
ヨウ「ギーマ、雨が降ってきたぞ。傘はあるか」
ギーマ「当ててみな、わたしが傘を持っているかどうか。どっちに賭ける?」
ヨウ「そうやって何でも貴様の土俵に持ち込むな。俺は傘の有無について質問をしたのだ。誰も賭けるなどとは言っておらん」
ギーマ「最近の子供はノリが悪いねぇ……。ま、近くに交番がある。もし傘を貸してもらえなかったら、晴れるまでそこで落ち着くとしようか」
▼ギーマは交番前にリヤカーを停めた!
ヨウ「よし、入るぞ」
ギーマ「おっと、待ちたまえ。交番へ入る前に少し、わたしと賭けをしないか?」
ヨウ「くどい! 敗戦の将が余計な口を挟むな!」
ギーマ「そう、今のわたしは無様な敗北者……。それ以上でもそれ以下でもない。だがね、勝負師ってのは敗れても取り乱さず、ただ次の勝利をひたすら求めるものさ」
ヨウ「リベンジを果たしたいと」
ギーマ「そのとおり。これからわたし達は交番へ入るわけだが、ちゃんと中に警察官がいるか、それとも荒れ果ててポケモンの巣窟になっているか。当ててみないかね?」
ヨウ「たわけたことを。交番とあるからには、人がいるのは当然であろう」
ギーマ「きみは警察官がいる方を選ぶのだね。わたしはポケモンの巣窟に賭けよう」
ヨウ「何を賭ける」
ギーマ「そうだな……。互いの命でも賭けるか。あいや、冗談だよハハハ」
ヨウ「そうだ、単に命を奪るだけではつまらない。生涯、俺の足として仕えろ。俺がアローラの王になるその時まで、貴様にはずっとリヤカーを曳き続けてもらう。土砂降りの雨だろうが、カンカン照りの日だろうが関係なく」
ギーマ「仰せのままに。では、わたしが勝った暁には自由になる権利を頂こう」
ヨウ「好きにしろ。獣の声ひとつ聞こえないのに、ポケモンが巣くっておるなどありえない。やめるなら今のうちだぞ、ギーマ」
ギーマ「失敬な。わたしはどんな勝負でも、自分から降りたりはしないぜ」フッ
ギーマ「さて……始めるとしようか」
▼ヨウとギーマは扉のドアノブへ手をかけ、同時に開け放った!
ニャース「ニャオー!」
ヨウ「ぬうッ!?」
▼ヨウは開いた口が塞がらないといった様子で数歩、後ずさった! 文字通り荒廃した部屋のいたる所に、数え切れないほど多くのニャースが蠢いていたからだ!
ギーマ「勝った者が全てを手に入れ、負けた者には何も残らない」ニヤリ
ヨウ「な、なな……!? そんな、こんなことが……!!」
ギーマ「わたしは捨てられたニャースを集めて、ここの交番に預けているのさ」
ヨウ「イ、イカサマではないかッ!!! あらかじめ飼っておいただと!?」
ギーマ「ギャンブルってのは、常に与えられたカードだけで戦うモンじゃない」
ギーマ「時には有利になるよう、カードを切っておくことも重要なのさ」
ヨウ「ふぬううう……!」フシューフシュー
ギーマ「それでは少年、また会う日までごきげんよう」
▼ギーマは芸者のごとく優雅に袖を翻すと、もと来た道を早足で戻り始めた! もちろんヨウがそれを黙って見ているはずがない! 抑え切れぬ憤怒の情に顔を赤黒く染め上げ、くわっと口を耳まで裂く! 毘沙門天、ここに顕現せり!
ヨウ「待て、そんなイカサマ認められんぞ! 死んでも逃すものか。せっかく鎖に繋いだ下僕を、簡単に手放してなるものか!」
▼ヨウのこうそくいどう! 飛び込み時の水泳選手さながら身体を低く折り曲げたヨウは、怒涛の勢いで駆け出した! そのスピードはまさに超音速。濛々と砂が巻き上がり、近くの木々は根こそぎ倒れてゆく!
ギーマ「おお、速い速い。追い付かれそうだな……頼むぜ、キリキザン」
キリキザン「ザシャアアッ!」
▼ギーマと入れ替わりに飛び出してきたキリキザン! 三日月を思わせる黄色い兜の前立てを殺意の光に煌めかせ、捕捉した標的めがけ風に逆らい走り出す!
ヨウ「ポケモンに頼るでないわ、軟弱者がァ!」
▼ヨウとキリキザンが衝突する刹那、勇敢なとうじんポケモンは一歩手前で急停止、地球を抱きしめるように銀色の両腕を目いっぱい広げた! 掌に宿る漆黒のエネルギー!
ヨウ「ぬう!?」
▼キリキザンの悪の波動! ゼロ距離からの発動である! 稀代の大将軍も予期せぬ特殊攻撃に対処する暇がなかった! 空高く打ち上げられるヨウ!
▼頭から落ちたヨウに、キリキザンのローキックが迫る! 転がって間一髪蹴りをかわすと、ヨウは敵将の足首を掴み、畑を耕すが如く地面に勢いよく叩きつけた! 背中を強く打ち付け、キリキザンは声も出ない! マウントポジションを得たヨウの猛攻が始まる!
ヨウ「もうギーマはよい。その代わり、貴様がリヤカーを曳け」
キリキザン「キリリッ……!」キッ
ヨウ「なんだその反抗的な目つきは! ポケモンが人間様に歯向かっていいと思っておるのか! このやろう! このやろうめッ!」ガンガン
▼キリキザンの顔面を、ヨウは殴り続ける! 兜の前立てが折れた! 左目の周りに青紫色の痣が浮かんだ! 口元は醜く腫れ、頬骨にヒビが入った! もはや、治療しても元の顔に戻ることは叶わぬであろう!
▼しかし、キリキザンの瞳には炎が燃えていた! 必ずギーマのもとへ帰参するという闘志の炎! 殴り続けるヨウの手首をガッチリつかみ、押し戻す!
ヨウ「ポケモンごときが……膂力で俺に勝っているだと……!?」グググ
キリキザン「グオオオオッ!!!」
▼最後の力を振り絞り、キリキザンはヨウを突き飛ばした! しりもちをついたヨウの耳に、遠ざかっていく足音が潮騒のごとく響いていた!
ヨウ「奴はどこへ逃げた……。足音の方向からしてギーマとは正反対のようだが」
ヨウ「ポータウンへ落ちのびたとあれば好都合。スカル団もろとも粉砕してやる」
▼ヨウは立ち上がってズボンの泥を払うと、憎悪のこもった目でポータウンを睨んだ!
▼緑豊かな遊歩道の先に悠然と立ちはだかる、巨大な鼠色の壁。それがポータウンの城門であった! 厳めしい顔つきの団員が左右につき、侵入を図る敵兵がいないか周囲に目を光らせている! 守衛の数が想像より少なかったので、ヨウは拍子抜けしてしまった!
ヨウ「もっと厳重な警備が敷かれているかと思ったが……。さてはポータウンの領主め、救いようのない阿呆だな?」
▼ヨウは守衛に手を挙げて軽く挨拶した!
したっぱM「なんだよ、スカル団に入りてぇのかよ?」
したっぱN「待って、それZリング?」
したっぱM「な、なんだってー!? まじめに懸賞首!? マジッスカ!?」
したっぱN「ははーん、分かったよ。スカル団を潰しに乗り込んできたんだね」
したっぱM「望むところだぜ、こちとらプルメリ姉貴もボスもボッコボコにされてんだ! スカル団のため、アローラのため、ユーにバトルを挑むッス!」
ヨウ「勝手に話が進んでくれて助かる」
ドスゥバキッズズウウウン
したっぱM「レベルが違い過ぎて……笑っちまうぜ……」ガクッ
したっぱN「島巡りで鍛え過ぎだよ……あんた……」バタッ
ヨウ「勝手に話が進み、勝手に敵が死んでいった。順風満帆、幸先がいいぞ」
???「あんちゃん」
▼ヨウに声をかけたのは、黒いジャケットを着た初老の男である! 目つきの悪さにヨウはギーマと同じ圧力を感じた! この男の前で、冗談は恐らく通じないだろう!
???「なんだか入りたそうだけどいいのかい? 中に進むなら覚悟が必要だぜ」
ヨウ「覚悟」
???「そう。スカル団として生きるにしろ、スカル団と戦うにしろ、あるのかい」
???「命を自分の選択に差し出す覚悟ってやつ」
ヨウ「……ある」
???「ま、いろいろあるわな。おじさんもわけありでね。扉、開けてもらえるしさ」
ヨウ「ありがたい。ところで、ここにキリキザンが一匹逃げてこなかったか?」
???「さあな、キリキザンなんてポケモン、初めて聞いた」
ヨウ「そうか、ご協力感謝する」ザッ
???「どうしても行くのかい」
ヨウ「スカル団は俺にとって邪魔な存在だ。きっちりケジメをつけねばならん」
???「……まあ、ホネくらいは拾ってやるよ」
ヨウ「必要ない。ホネとなるのは敵方ゆえ」
▼ヨウは男に礼を告げ、ギャングの根城へ踏み込んだのだった!
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