【ラブライブ!】矢澤にこのクリスマス事情 (52)
クリスマスには間に合いませんでした・・・が、せっかく書いたので
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今日は12月24日、クリスマスイブ。
校内は今日を楽しく過ごす会話で溢れてる。
まったく、イブなんてロクなもんじゃないわ。
放課後の喧騒の中、世間様の楽しそうな空気から逃れるように、私は部室へ駆け込む。
部員の居ないアイドル研究部。
私が、私らしくいられる唯一の場所。
「違うわね。」
誰に言うでもない独り言が出てくる。
この部室は、私のリアルな現状を突きつける懺悔を受け止める場所。
一年と数ヶ月前に、私は一人ぼっちになった。
意識の違い、目線の違い、志の違い。
言い方は違えども、結局は私に長たる度量が無かったって話よ。
それ以来、私の日常は部室で時間を潰して、妹たちの待つ家に帰るという繰り返し。
そして今日も、イブの浮ついた空気をネットで振り払うと、帰路につく。
下校途中によく寄るスーパーに着くと、店内はクリスマス一色。
よくもまあ、よそ様の宗教行事を一大イベントにしたものね。
とかいう私も、それに釣られる内の一人な訳だけど。
帰宅直前、ママからのメールで今日も遅くなるらしい。
ママが遅いのはいつもの事。
でも、そのせいでクリスマスが妹たちの重荷にならないようにしたい。
普段より少し豪華な夕ご飯の材料をかごに入れていく。
ケーキは、きっとママが買ってきてくれるから、明日のお楽しみね。
レジの近くで、ふと目についたのは大きい靴を模した、お菓子の詰め合わせ。
こんな子供だましな物でも、あれば妹たちも喜んでくれるのかな・・・。
そう思って手を伸ばそうとしたとき、少し離れた所で同様に手を伸ばそうとしている人に気付いて目が合う。
「っ、希!」
「に、にこっち・・・。」
伸ばした手を思わず引っ込める。
ぐ・・・、よりによってコイツに見られるなんて。
突然の事に、思わずパニックになりかける。
「に、にこっちも夕ご飯の買い物なの?」
馴れ馴れしく怪しい関西弁で、茶化してく・・・こない?
「マ、お母さんが遅くなるから私がやらなきゃだし。アンタも?」
「あ、うん。私、1人暮らしだから・・・。」
ん?
なんかいつもとキャラが違う
。
普段の人をおちょくる様な態度が一転、なんか妙にモジモジしててちょっと可愛いじゃない・・・。
「・・・じゃあ、行くね・・・。」
そう言って、希は踵を返す。
「ち、ちょっと待ちなさい!」
足早に去ろうとしてる希が立ち止まる。
「どうせ帰っても1人なんでしょ。だったらウチでご飯食べていきなさいよ!」
「でも・・・。」
「一人増えるくらいどうって事ないわ。それと、あんたキャラ変わってるわよ。」
すると、希の顔が一気に赤くなる。
「ま、理由が必要なら、部活の事で便宜を図ってくれたお礼、って事でどう?」
「・・・うん。行く・・・。」
どうしてこんな提案をしたのか、自分でもよく解らない。
クラスも違うし、友達だなんて思ったこともない。
ただ、あまりにも普段と違う眼をした彼女を放っておけなかった。
「ただいまー。」
家に帰ると、奥からドタドタと足音が響いてくる。
「おかえり、おねえちゃん!」
「おかえりなさい、おねえさま。」
私の大事な妹たちが、可愛くお出迎えしてくれる。
うん、癒される・・・。
「さ、今日はお客様がいるのよ。恥ずかしがり屋さんだから仲良くしてあげてニコ。」
って、希が中々入ってこない。
ちょっと何やってんのよ。
外を覗くと、入り口の横で希がモジモジしてた。
「にこっちのあほぉ。あんなん言われたら余計入りにくいわ。」
今日だけで希の印象が大分変ったわね・・・。
「ウチもなんか手伝おうか?」
私が料理に取りかかろうとすると、希が台所へやってくる。
「いいわよ。台所狭いし、良かったら妹たちの相手をしてもらえると助かる。」
希も初めての家で手持ち無沙汰なんでしょ。
調理に取り掛かってしばらくすると、居間から談笑の声が聞こえてくる。
「のぞみおねえちゃんおっぱい大きいねー。」
「あ、あの・・・、何を食べたら、その、大きくなるんでしょうか?」
ぐぬぬ・・・。
あんなの反則なのよっ!
しばらくすると、また妹たちの笑い声が聞こえてくる。
お節介焼の希だからなんだろうか。
私がこうしてご飯を作ってる間、普段のあの子たちは割と静かに待っている。
やっぱりあの子たちなりに、気を使わせてるのよね。
楽しそうな話し声が嬉しくもあり、羨ましくもあった。
「わあっ、ご飯が豪華ー!」
ここあが大はしゃぎする。
普段の夕ご飯は、なるべく安くて栄養が取れそうなモノしか作らないから。
「あったり前じゃない!今日はクリスマスイブよ!」
「にこっちがこんなに家庭的だなんて意外やね~」
「ぬぁんでよ!・・・あ、やっぱりいいわ。それ以上は言わないで。」
「学校でのおねえさまは違うのですか?」
こころが恐ろしい事を聞いてくる。
「それはねぇ~。」
しかも、希の眼がいつもの獲物を見つけた猛禽類の眼になってる!
「ほ、ほら!早く食べないと冷たくなっちゃうニコ♪」
話を変えなきゃ!
「・・・にこっちは良いお姉さんなんやね。」
コッソリと希が耳打ちしてくる。
「あ、当ったり前じゃない。スーパーアイドルにこにーに隙はないのよ。」
希はフフっと笑うと、料理に手を伸ばした。
料理の片づけは、押し切られて半分希に手伝ってもらった。
流石に泊まるとかいう話にはならないので、希を見送りに外へ出る。
「はあ~!こんなに楽しかったご飯は久しぶり。」
ま、楽しんでもらえたなら結構な事だわ。
「ウチのパパとママは、転勤族なんよ。今までずっと転勤ばかりしてた。」
突然希が身の上話を始める。
「だから、せめて高校の3年間だけは、一つの学校に居たくて、それで我儘言って一人暮らししてたんよ。」
「ちゃんと一人暮らし出来るだけ立派よ。」
「ふふ。ありがと。それでね、去年のクリスマスは、もう本当に寂しかった。」
誰も居ない1人暮らしか・・・。
改めて思い返せば、いくらママの帰りが遅くたって、必ず帰ってくる。
家に帰れば、妹たちも待ってる。
こんな当たり前がなくなると思えば、1人暮らしも考え物かも知れない。
「だからね、こころちゃんと、ここあちゃんに、いっぱい元気分けてもらった!」
「こんな家庭で良かったら、いつでもいらっしゃい。ま、次は食事代金頂くけどね。」
「お金で買えるなら、それも良いかも。」
「ちょ、冗談よ。ていうか、生徒会長様はどうなのよ。」
何で今日の希はこんなに湿っぽいのよ。
「あ、エリチはね、妹さんと二人暮らしなんよ。」
「二人?親は?」
「ご両親は仕事でロシアを離れられないんやって。」
「そう・・・。」
あのお堅い生徒会長も案外苦労人なのね。
「クリスマスは妹さんと過ごすって言ってたから、邪魔するのもアレやん?」
「ウチは邪魔しても良いのね。」
「そこは、場の流れかな?」
思いっきりテンパってたくせに・・・とは言わないでおこう。
「・・・あんまり妹さん達を待たせたら悪いから、この辺で、ウチ行くね。」
「そ、あの子たちも喜んでたし、ありがと。」
ふふっと笑うと、希が思い出したように、今までとは違う笑顔を向けてくる。
「にこっち。今更だけど、諦めたらいかんよ。」
言わんとすることはすぐに解った。
「カードが言ってるってヤツ?」
「うん。」
「まぁ、あんまり期待しないで待ってるわ。」
「そうやね。」
「どっちなのよ。」
それには答えず、希はじゃあねと帰って行った。
しばらく見送って踵を返す。
「ホント今更。どうなるっていうのよ・・・。」
妹たちとお風呂に入って、寝支度をする。
私は1人部屋で寝てるけど、妹たちはママと一緒。
ただ、ママはまだ帰ってきていないから、私が一緒に添い寝をする。
横になると、途端に眠くなってくる。
ちょっと疲れたかな。
軽く目を閉じると、さっきの話が思い出される。
希も、あの絢瀬絵里も、私が見えている部分だけが人間じゃないのね。
だからって、今後仲良くできるとは限らないけど・・・。
ママ、遅いな。
・・・。
ん・・・。
頭を撫でられてる?
あぁ、気持ちいいなぁ。
もっと撫でて欲しい。
心地いい微睡の中で、薄っすらと隣にいる人に気付く。
「ママ・・・?」
「あら、起こしちゃった?ただいま。」
「ん。おかえりなさい。・・・ご飯は?」
「ええ、頂いたわ。今日も美味しかった。」
「そう・・・、良かった・・・。」
なんだかすごく眠い。
せっかくママが傍にいるのに・・・。
「ママ・・・。」
「いいのよ。おやすみなさい。」
そこですぅっと意識が途切れた。
ふと目が覚める。
辺りは薄明るくて、もう朝。
そこで、誰かと一緒に布団に入っていることに気付く。
あ、ママだ!
そっか、妹たちに添い寝してて、そのままママの布団で寝ちゃったんだ。
ずいぶん久しぶりだけど、ママと一緒に寝れた事が少し嬉しい。
「ママ・・・。」
そう言って身を寄せる。
普段は妹たちの手前、あんまりママに甘えることは出来ない。
今だけ、この一瞬だけでも、私だけのママを独り占めしたい。
すると、ふわっと頭を撫でられる感覚がする。
「おはよう、にこ。」
そう言うや否や、ママに優しく抱きしめられる。
瞬間、体が熱くなる感じがした。
クリスマスプレゼントなんて要らないって思ってた。
ママに迷惑をかけたくないから、大人になったフリをして我慢しなきゃって。
でも、このくらいのプレゼントなら貰っても良いよね。
妹たちが目を覚まして、この一時が終わるまで。
朝から気分が良いと、登校の足も軽やかになる。
今日が終業式っていうのもあるかな。
そんな感じでウキウキ歩いていると、道の途中で否応なしにテンション下がる人物と鉢合わせる。
絢瀬絵里と希。
「おや?にこっちやん。おはよう。」
にこやかに挨拶する希と、対照的にツンとすましている絢瀬絵里。
下手に出る義理もないので、私はふんっと鼻を鳴らすと校舎へ向かう。
「・・・って感じだったわね。たった一年前まで。」
「あの頃の私達って、お互いの立場からツンツンしっぱなしだったわよね。」
「二人ともめんどくさい人って訳ね。」
「そんなこと言って、真姫ちゃんも相当やん?」
「まあまあ、めんどくさい同士仲良くしようよ。」
「穂乃果・・・あまり人の事を言えないのでは。」
「あ、じゃあ、ことりもめんどくさい人仲間に入ろうかなぁ。」
「μ'sは、めんどくさい人の集まりにゃ。」
「みんな、ご飯炊けたよぉ。あれ?どうしたの?」
そう。
一年前には予想もしなかったクリスマスが繰り広げられている。
でも、こんなのも悪くない。
今はこの楽しさを満喫しなきゃ、勿体ない。
来年のクリスマスには一体どうなってる事やら。
ほんと、クリスマスなんて、ロクなもんじゃないわ。
「あ、にこちゃん今、絶対寒い事考えてるにゃ!」
「ぬぁんでよっ!」
以上になります。
クリスマスネタはやっぱり時期を外してはダメですね・・・。
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