博士「ワープ装置が完成したぞ!」 (10)
ある小さな研究所にて、博士が叫んだ。
「ワープ装置が完成したぞ!」
「おめでとうございます!」
博士のこれまでの不遇な人生を知っている助手は、心から祝福の言葉を贈った。
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「博士、私はこのワープ装置の開発には携わってなかったので、
どういう原理のものか教えていただけますか」
こう助手が質問すると、
「まあ待ちなさい。まずは私の古い友人に手紙を送ることにしよう」
博士は手紙を書き始めた。
博士の旧友である大富豪は、すぐさま駆けつけてきた。
「ようこそ」
「ワープ装置ができたというのは本当かね!?」
「ああ、本当さ」
「よし、すぐに体験させてくれ!」
この大富豪は最新アイテムやテクノロジーといったものを、
いの一番に体験しないと気が済まない性格をしていた。
この性格があるからこそ、生き馬の目を抜くような社会で大成功を収められたのだ。
博士が準備のため別室に移動したので、助手と大富豪は二人きりになる。
「今日はお一人で来られたんですか?」
「もちろんだ。こんな珍しい体験は、ぜひとも一人占めしたいからね」
「あなたは今やこの国で一番の影響力を持つ人間といっても過言ではありません。
お供もつけずに一人で来て大丈夫なんですか?」
「多分、今頃私の屋敷や会社は大騒ぎになっているだろうな」
「ええっ!? よく抜け出してこれましたね」
「姿と気配を消すことができるこのマントのおかげさ。
手紙も消去したし、私がここに来ていることを知る者は、誰もいないよ」
大富豪は得意げに、自社の製品であるマントを見せびらかした。
彼もまた、発明で身を立てた人間なのである。
そこへ博士がやってきた。
「ワープ装置の準備が完了したよ」
「おおっ、さっそく体験させてくれたまえ!」
大富豪はまるで子供のような表情になった。
ワープ装置は、人間よりも一回り大きいカプセル、といった形状をしていた。
「この中に入ってくれたまえ」
「うむ」
「外からこのスイッチを押せば、ワープは完了する。準備はいいかい?」
「いつでもいいとも!」
「では、スイッチオン」
博士がボタンを押すと、大富豪の体はワープ装置から消失した。
「よし、ワープ成功だ」
助手が尋ねる。
「ところで、あの人はどこにワープしたんです?」
「体は跡形もなく分解されたから、無事あの世へワープできたんじゃないかな」
助手は、かつてあの大富豪は博士の功績を横取りして巨万の富を得たことを、ふと思い出した。
― 終 ―
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