神「新しい単語を考えているが、いいのが思いつかない」 (17)

天界にて、神は悩んでいた。

神「う~む……」

天使「どうされました、神様?」

神「実はな……」

神「ある意味を持つ新しい単語を生み出そうとしているのだが、いいのが思いつかんのだ」

天使「そういう時は一度悩むのをやめて、天国動物園に行ってみたらどうです?」

天使「実は私はあそこの常連なのですが、なかなか楽しい施設ですよ」

神「そうだな……いい気分転換になるかもしれんな」

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天国動物園――


文字通り天界にある動物園であり、地上での命を終えた動物たちが飼育されている。



絶滅動物や希少動物も当たり前のように見られるので、天界の住人の人気は高い。

園長「これはこれは神様! 我が動物園へおいで下さるとは光栄の極み」

神「うむ、久しぶりだな」

園長「本日は思う存分、動物たちの様子を楽しんで下さいませ」

神「そうさせてもらうつもりだ」

園長「ところで……」

神「なんだ?」

園長「この動物園もだいぶ設備が老朽化して参りましたので、ぜひとも予算の追加を……」

神「……考えておこう」

天界の頂点である神にとっても、天国動物園は楽しいものであった。



神「おお、これはゾウだな、なかなかの迫力だ。あちらにはマンモスもおる」

神「こっちにいるのはウサギか。可愛らしいものではないか」

神「あれはキリンか……ふむ、長い首をしておる」



しかし、悩みを解決する糸口になるには至らなかった。

そんな時、事故が起こった。



ドガシャーンッ!


ワァァァッ! キャァァァッ!



「大変だっ! 檻が壊れて動物が外に飛び出したぞっ!」

「みんな逃げろーっ!」





神「な、なんだと!?」

「お、おいっ! あの二頭の動物……神様を狙ってるぞっ!」



ドドドドドッ! ドドドドドッ!



神「え、私!?」



二頭の動物が神めがけて襲いかかってきた。

神「う、うわぁぁぁぁぁっ!」スタタタタッ




ドドドドドッ! ドドドドドッ!




必死に逃げる神、二頭は執拗に神を追いかける。

神「ひいいいっ、まだこっち来るっ! しつこいぃぃぃ!」タタタタタッ



ドドドドドッ! ドドドドドッ!



神ならば、力ずくでどうにかしろと思われるかもしれないが、

天界は地上に比べて非常にデリケートであるため、それこそよほどの事態でもない限り、

神は天界で力を行使することを自戒している。



ようするに、この局面で神にできることは、逃げることしかないのである。

神を追いかける二頭の獣――



一頭は肉食獣。背面はやや黒みを帯びた黄色で、黒い横縞を持つ。

もう一頭は草食獣。首に長いたてがみを持ち、大きな蹄が特徴だ。



ドドドドドッ! ドドドドドッ!



神「あやつら……なんという名前だったっけ?」タタタタタッ

神「いや……そんなこと考えてるヒマはないぃぃぃぃぃ!」タタタタタッ

一時間以上追いかけっこを続け、どうにか神は逃げ切ることに成功した。





神「ハァ、ハァ、ハァ……神の足をなめるでないわ」

神「まったく……ひどい目にあった……」

園長「申し訳ございませんでした、神様!」

神「魂に安楽を与えるための天界で、あのような事故を起こしてはならぬ」

神「予算は増やしてやるから、以後気をつけるのだぞ」

園長「ははーっ!」




一瞬、予算欲しさにわざと動物を逃がしたんじゃないだろうな、と邪推した神であったが、

それを口にするのはやめておいた。

天使「お帰りなさいませ、神様」

天使「天国動物園はいかがでした?」

神「いやはや、ひどい目にあった」ハァ…

神「今日の出来事は……きっと当分の間、私の心に傷として残るであろう……」

神「――ん? ちょっと待て!」

神「おぬし、たしか動物園の常連といっておったな」

神「今から私がいう特徴を持つ二頭の動物の名を、教えてくれんか」

そして――

神「決まった……! 新しい単語ができた……!」

神「ひどい目にあって、心がひどく傷つき、後々にまで心身に悪影響を及ぼすこと――」

神「これを“トラウマ”と名づけよう!」







                                     おわり

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