老将「…まぁ、座れや」 (35)

酒場

ガヤガヤ

荒らくれ者「おらァ、飲むぞゴラァ!ガハハハ」

兵士「うぃ~」

少年兵「………」オドオド

少年兵(うわぁ……ボクと同じくらいの歳の子もいるって聞いてたけど)オドオド

老将「………」グビグビ

少年兵(酔っ払いのオッサンや荒らくれ者だらけじゃないか……)オドオド

兵士「おい」

少年兵(うぅ……それにボク酒なんて飲めないし…怖いなぁ…)オドオド

老将「………」グビグビ

兵士「おい、そこのメスガキ」

少年兵(それにパパともはぐれちゃったし……)

少年兵(どうしy)

兵士「聞いてんのか、このクソガキが!!」ドガッ

少年兵「…うわぁっ!?」ドサッ

兵士「お嬢ちゃん、軍人は上官に呼ばれたら直ぐに大きな声で返事しねぇとダメだぜ?ん?」グイッ

少年兵「痛いっ…!」

兵士「で、お嬢ちゃんの所属と階級は?」

少年兵「は、放して下さい…」

兵士「だかr」

老将「やめんか、軍人が子供に手を挙げるもんじゃない」ガシッ

兵士「な、何なんだアンタは…!」

少年兵「…うわっ」ドサッ

老将「子供に乱暴するような一兵卒に語る言葉はない、さっさとその子から放れなさい」グイッ

兵士「く、強ぇぇ…何モンだ爺さん…」

老将「今言ったはずだ…子供に乱暴する一兵卒に語ることはないと」ヒョイ、ブン

兵士「うおっ!?」ドシーン

少年兵(…え?何だ、今の……)ボーゼン

老将「さ、君はこっちへおいで…」

少年兵「え、あ、えと」

老将「早く」

少年兵「は、はい!」



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酒場 裏の小部屋


少年兵「え、えっとここは…?」

老将「見て解らんか?酒場の裏だよ」

少年兵「あ、そうですよね……」

少年兵「そ、それよりさっきは助けて頂いてありがとうございました!」

老将「フフ、いいさ…ワシが勝手に正義感に駆られてやった事だ……気にするな」

少年兵「それでもあr」

老将「いいって言っただろうが…それより何か飲むか?お嬢ちゃんにはジュースがいいかな?」

少年兵「あ、あのボク、お嬢ちゃんじゃありません…」

老将「おぉ、これはすまなかった…あんまりにも可愛らしいからつい、な……君は男の子だったか、そうかそうか、ハッハッハ…」

少年兵「い、いえ…」

老将「それでりんごジュースでいいか?酒は飲めんだろう?」

少年兵「えぇ、でも奢って貰うなんて悪いですよ…」

老将「気にするな、ワシが奢りたいだけだ」

少年兵「で、でも」

老将「ここはワシを立ててくれんか?」

少年兵「う…解りました……それじゃお言葉に甘えて」

老将「おう、マスター」

マスター「あいよ、てかまたアンタか…懲りないねぇ」

老将「表は煩いからな、ワシのような年寄りにはここが丁度いいんだよ」

マスター「そうかい…んでそちらのお嬢ちゃんは?」

老将「ワシもお嬢ちゃんだと思ってたがな、どうやら違うらしいぞ」

マスター「わざとだよ、さっきの話聞いてたから解っとるわ」

少年兵「初めまして…ボクはジェンと言います、よろしく」

マスター「おう、初めまして」

マスター「俺は見ての通りこの店のマスターやってるモンだ、よろしくな」

ジェン「はい、よろしくお願いします」

マスター「で、ジェンはりんごジュースだったね、爺さんはいつものでいいか?」

老将「解ってるじゃないか、いつものだ」

マスター「あいよ」

老将「さて、ジェンは何で軍に入ったんだ?」

ジェン「えっと、それは……」

老将「…あ、もしかして聞かれたくない事だったか?」

ジェン「い、いえ…大丈夫です…話します」

老将「そうか、なら聞こうか…」

ジェン「はい、あの…結論から言えばアルムヘーヴェル軍の打倒と、行き場がないから、なんですけど…」

老将「お前ンとこの村も焼き討ちにあったのか…」

ジェン「はい、もしかして貴方も…」

老将「あぁ、ワシも本当は5年振りに故郷の村に帰るところだったんだが、アルムヘーヴェルの焼き討ちにあっちまってな……アンタの気持ちは解る」

ジェン「そ、そうだったんですか……」

老将「おう、それでアンタは軍に入ってアルムヘーヴェルに復讐をしたい、って訳か…」

ジェン「はい……村で生き残ったのはボクと父と姉だけで…」

老将「そうか……そんで、その生き残った親父さんと姉貴はどうしたんだ?」

ジェン「父は元々軍の一指揮官で姉も軍に入りました…」

老将「なるほどね…じゃあお前さんはアルムヘーヴェルが恨めしいか?」

ジェン「えぇ、当然です…ボクは」

老将「ワシもな、若い頃は恨みによって戦争をしていた時期があったんだがな……戦争ってそういうモンじゃねぇんだって事にある時気付いたんだよ」

ジェン「………」

マスター「おっと、お話中悪いけど注文のりんごジュースだよ、どうぞ」コトン

ジェン「あ、ありがとうございます」

マスター「いえいえ…ほら、爺さんも『いつもの』どうぞ」コトン

老将「お、すまねぇな…」

マスター「はいはい、どうぞごゆっくり~」

老将「あ~、やっぱり『いつもの』は最高だなぁ…ジェンも飲むか?」グビグビ

ジェン「だからボクは未成年だし、酒は飲めませんって…」

老将「連れねぇなぁ…まぁ、ワシはアンタぐらいの時には既に飲んでたんだけどなぁ……最近のガキは酒飲めねぇのかねぇ…」

ジェン「え、えっと…」

老将「冗談だよ、ガキの頃から酒飲んでたのは本当だがな」

ジェン「ははは……ところでここのりんごジュース美味しいですね」

マスター「おっ、そうだろ?君は違いが解ってるねぇ!」

老将「ここのりんごジュースは東国のブランドアップルを使ってるからな、そりゃ旨い訳だ」

ジェン「ブランドアップルなんて初めて聞きましたよ、そんなりんごがあるんですか?」

マスター「あぁ、ウチで使ってるりんごはt」

老将「はい、ストップ!うんちくは結構だ」

マスター「いやいや、せっかくだからウチのりんごジュースについてジェンに語って上げようと思ったのに…」

老将「こいつがうんちくを始めたら夜が明けてしまうからなぁ…」

ジェン「はは……」

なぜか大河ドラマ新選組!の土方と鉄之助を思い出した

支援、頼むぞ

いいね

>>6
新選組の土方さんと鉄之助か…
見てなかったから解らないなぁ…でも歴史は好きだよ、戦国史が俺の大好物だ

>>7
頑張ります

>>8
ありがとうございます!

それではゆっくりですが続きを投下していきます

老将「さて、それでアンタの親父さんが指揮官やってるのは解ったが、姉貴は一兵卒か?」

ジェン「いえ、ボクも姉も父のコネでそれなりの地位は保証されてるので、部隊長くらいにはなれると思います…」

老将「そうか……女で兵卒は厳しいからなぁ…ワシの戦友にはいたけどな、女で兵卒やってた奴」

ジェン「え、そうなんですか?」

老将「あぁ、30年前に戦死しちまっちがな………」グビッ

ジェン「…………」

老将「ワシは所謂成り上がりでな、その戦友ーーーーーアイリスっていうんだが、あいつとワシは同じ兵卒から始まって二人で大出世を遂げたんだ…」グビッ

ジェン「………」

老将「アンタも聞いた事はあるだろう、エイネリアの大乱…」

ジェン「はい……このエイネリア王国のある将軍が起こした大陸全土を巻き込んだ大戦、ですよね…」

老将「…あぁ、そうだ…ワシが起こした大戦だ」

ジェン「えっ?」

マスター「おい……もうその話は止めないか……」

老将「いいんだ、ワシはこうやって次の世代にあれを語り継ぐ事しか出来ねぇ老いぼれなんだ、気にしないでくれ」

老将「なぁ、小僧……聞きたいか」

ジェン「……はい」

老将「よし、なら聞かせてやる……」

すいません、明日があるので今日はもう寝ます、お休みなさい
続きは明日投下します

エイネリア王国 某所

青年「え?俺が軍に?」

父「あぁ、お前は遊んでばかりいるが本をよく読んでいるだろう……」

青年「そうだが、何故?」

父「知っているぞ……お前の読んでいる本は大抵が兵法書や軍記などだということをな」

青年「………」

父「お前は私が言わずとも軍人になり、そして何れは一軍を率いる将となるに違いない」

青年「………」

母「………」

母「ねぇ、ライゼル?」

青年(以下ライゼル)「…何だよ」

母「私はねぇ、時折貴方にかつてエイネリアを北の大国ブレッセルの侵略から救った軍師・ルシェットの面影を感じるのよ…」

ライゼル「………」

母「貴方はよく他国の戦争や政治を見て私にその批評だとか、理想的な戦略の練り方なんかを聞かせてくれるでしょ?」

ライゼル「…あぁ」

母「それを聞いていて思ったんだけど、貴方の言う戦略通りにしている国は戦に勝ち、繁栄し、領土を拡げているけれど、そうでない国は滅びたり、他国に合併されたりしている」

ライゼル「………」

母「貴方の見立てが狂った事は一度としてないのは、貴方がルシェットに匹敵する逸材である証だと思うの、そうよね、お父さん?」

父「母さんの言う通りだ、お前なら軍師・ルシェットの様にこの乱れた世を正す事ができるさ」

ライゼル「……俺が…ルシェットの様に……」

母「そうよ、何より貴方自身がそれを解っているはずよ」

ライゼル「母さん…」

父「お前の手で大陸の民を救うんだ…お前なら出来る…だから」

ライゼル「解ったよ、俺も昔から一軍を率いる将に憧れてた…その夢を叶えるのは今なんだよな…」

父「そうだ、よく言った!」ギュツ

母「さすが私達の一人息子よ!」ギュツ

ライゼル「父さん、母さん…今まで働きもせず遊び呆けてすまなかった…」ギュツ

ライゼル「だが、俺はようやくやる気になったよ…エイネリアと大陸の民の為に戦うよ!」ギュツ

父「あぁ!」ギュツ

母「うぅ、こんな立派に成長して母さん嬉しいよ…」ギュツ


老将「まぁ、そうしてワシは軍に入った訳だが…配属されて1月程経った頃だ」グビッ

ジェン「………」

老将「ワシと同じくらいの歳の若い女がな、ワシがいた部隊に来たんだ」

ジェン「その人が……」

老将「あぁ、そうだ…ワシの戦友のアイリスだ」

ジェン「ふぅん、なるほど…それでアイリスさんはどこの出身なんですか?それに貴方ーーーライゼルさんも」

ライゼル「…まぁ、その辺も含めて話すから黙って聞いてな」

すんません、昨日用事があってですな……

取り敢えずゆっくり続き投下します

エイネリア王国 シンティア支部 兵舎


女兵士「………」

ライゼル「………」

女兵士「………」

ライゼル「何だよ…何で黙ったまま俺を睨むんだ…」

女兵士「…何で貴方が私の部屋にいるのよ?」

ライゼル「……は?」

女兵士「キミ、部屋間違えてるんじゃないの?」

ライゼル「んな訳あるか、ここは俺の部屋だ」

ライゼル「部屋間違えてるのはお前の方だろうが……」

女兵士「…いやいや、そんな筈は……」

上官「おうおう、どした、何揉めてやがるんだ?」

ライゼル「あっ、上官さん…こんばんは」

上官「おう、こんばんは」

上官「それで?何で揉めてんの?」

女兵士「こいつ勝手に私の部屋に入って、我が物顔で自分の部屋だとか寝言を言ってるんです!上官さんからも何とか言ってやって下さい!」

ライゼル「いやいや、寝言言ってんのはお前の方だろうが……ここは間違いなく俺の部屋だっての」

上官「あぁ、そういう事…」

女兵士「えっ?」

上官「いや、悪いけど近々戦があるからさ、普段より兵士が多くて同じ部屋に二人とかにしないと部屋が足りないんだよ…」

ライゼル「つまり…」

女兵士「……」

上官「そう、この部屋は君達二人で使って貰う事になった…明後日には三人目も来る予定だ」

ライゼル「なん……だと……」

女兵士「さ、三人目……」

上官「そんじゃまたな、夕飯の時間には遅れんなよ」ノシノシ

女兵士「………」

ライゼル「………」

女兵士「………」

ライゼル「何だ、お前は黙って人を睨み付ける癖でもあるのか」

女兵士「そんな癖ないわよ……ただ貴殿の顔どこかで見た事あるような気がして…」

ライゼル「気のせいっしょ」

女兵士「そうかなぁ…気のせいで済ましていいのかなぁ…」

ライゼル「いいんだよ、気のせいだ」

ライゼル「それより名を聞いてなかったな…まぁ、名乗れよ」

女兵士「何偉そうにしてるのよ…」

ライゼル「気にしたら負けさ…さ、早く名乗りな」

女兵士「はぁ…私はアイリス、シンティア出身の都会っ娘よ」

ライゼル「アイリス、ね…よろしく」

アイリス「いや、アンタも名乗れよ!」

ライゼル「仕方ないなぁ…俺はライゼル」

ライゼル「シンティアの南西にある小さな村出身の田舎っ子だ」

アイリス「ふふっ、そちは面白い男だな」

ライゼル「そうか?…毎回アンタだの貴殿だのそちだの呼び方を変えるお前さんのセンスも面白いと思うぞ?」

アイリス「あっ…やっぱりそうなってた?」

ライゼル「何だ、自分で言っといて気付いてなかったのか」

アイリス「まぁ、ね……気付いたらいつもそうなのよ」

ライゼル「つまり、癖と」

アイリス「まぁ、そうなるね」

アイリス「それより今日の夕飯何だろ、お腹空いたわー」

ライゼル「そういやここは何で俺らみたいな末端にも美味しい料理が提供されるんだろうな…気にならないか?」

アイリス「そう言えばそうだ…普通私達兵卒なんかにこんな料理振る舞う余裕なんてない筈だよね」

ライゼル「…だろ?この国は余程裕福なのか、それとも何か裏があるのか」

アイリス「私は後者だと思うけどね、その裏っていうのが具体的に何かは解らないけど」

ライゼル「何れ俺らが出世して、少なくともこのシンティアを任せられるくらいになれば解るかもしれないな」

アイリス「出世ねぇ…」

ライゼル「さ、俺は夕飯の時間までちょっと寝るからさ、夕飯時には起こしてくれや」

アイリス「はいはーい」

ライゼル「」Zzzzz……

アイリス「しまった……釣られてはいって言ってしまった…」

食堂

ガヤガヤ

ライゼル「いや、起こしてくれてありがとうな」モグモグ

アイリス「はいはい、どういたしまして…」モグモグ

アイリス「それにしても日に日に兵士増えて来てるわね…」モグモグ

ライゼル「そうだなぁ、上官さんも言ってたが近く戦があるらしいからな…」モグモグ

アイリス「戦ねぇ…」モグモグ

アイリス・ライゼル「あー、俺も(私も)大軍を率いて祖国の為に戦いたいなぁ…」

アイリス「えっ?」

ライゼル「ふっ、ハモったな」

アイリス「うぅ……」

ライゼル「まぁ、いいじゃないか…何れ俺達二人で大出世してさ、一緒に大軍を率いてアルムヘーヴェルやブレッセルと戦おうぜ?」

アイリス「はいはい…まぁ、アナタが出世できるような器があればの話ね…」

ライゼル「ちぇっ、可愛くねぇな…」

大浴場


ライゼル「………いよいよ戦か」

ライゼル(見たこと、聞いたこと、読んだことならあっても自ら戦場に立った事はない…)

ライゼル(しかし……)

ライゼル(敵の総大将の首を挙げれば出世の道が拓けるチャンスだ…)

ライゼル(今はそれを匹夫の勇だとか馬鹿にしてる場合ではない…)

ライゼル(匹夫の勇だろうと何だろうと、敵の総大将の首となれば俺は出世できる…)

ライゼル(俺は兵卒ではなくエイネリアの一軍を率いる将になり、何れエイネリア軍の参謀になる為にここに来たんだ…)

ライゼル(その足掛かりになるなら今は匹夫にでもなって見せよう…)

ライゼル「…よし!!」

ライゼル「上がるか…これ以上長湯すると逆上せてくる」

お久しぶりです
少し忙しくて一週間近く来れなくてごめんなさい
今少しだけ時間があるので続き書いて行きます

自室


ライゼル「ただいまー、起きてるか?」ガチャ

アイリス「んー、今寝ようとしてたとこ」

アイリス「というか、お前大分長風呂してたわね…逆上せないの?」

ライゼル「まぁ、あと5分長く入ってたら逆上せてたかもな」

ライゼル「さて、俺も明日があるし早めに寝ますかねぇ…」ゴロン

アイリス「そうね、なら消灯するわよ…」

ライゼル「おう、頼ん」Zzzzz……

アイリス「………」

アイリス「早すぎ……」

翌日


上官「おーい、テメーラ起きやがれ」ガチャ

ライゼル「」Zzzzz……

アイリス「…何だとぉ…うるせぇんだよ…この、チビ…が…」Zzzzz……

上官「チ、チビ!?」

アイリス「…青二才が、出しゃばってんじゃ、ねぇよ…」Zzzzz……

ライゼル「」Zzzzz……

上官「いや、確かに上から青二才ってあだ名で呼ばれてるけどさ、出しゃばってねーし…」

ライゼル「」Zzzzz……

アイリス「黙れ、このドM野郎…」Zzzzz……

上官「な、何でそれを知ってるんだ……」

上官「というか、これ寝言だよな…」

上官「…しかし、俺の上から付けられたあだ名と誰も知らないはずの性癖を暴くとは…」

上官「何て恐ろしい寝言だ…」

アイリス「…うるせぇ、この変態ドM青二才チビ」Zzzzz……

上官「」

10分後


アイリス「すいません、本当にすいません!」ペコペコ

上官「いや、もういいよ…悪気があった訳じゃないようだし」

ライゼル「悪気がないってのもまた問題なんですがねぇ…しかしまさか上官さんがd」

上官「言わないでくれよ!」

アイリス「上官さん、本当にすいません!」ペコペコ

上官「いや、もういいけどさ…頼むから俺がドMだって事は秘密にしておいてくれないか?」

アイリス「はい、口が裂けても言いません!」

ライゼル「アイリスが黙ってても俺がバラしたら一緒なんですけどね」ニヤリ

上官「やめて」

ライゼル「はいはい、解りましたからさっさと朝食食べに行きますよ」

上官「はぁ…それじゃ行こうか」

老将「…てな訳でな、その日の朝食は…」

ジェン「………」チラッ

マスター「…ふぅ、爺さん」

老将「何だ、ウンチク青年」

マスター「ちょっ、誰がウn…じゃなくて!」

マスター「爺さんこそ俺のウn…ゴホンゴホン、より長話になってるぜ」

老将「そんな訳ある…のか?ジェン?」

ジェン「え、えぇっと、ボクはマスターさんのウンチクを聞いた事ないので…はは」

マスター「おや、聞きたいn」

老将「ワシが聞きたくないからやめてくれ」

マスター「ちぇっ…いいじゃないかちょっとぐらい…」

老将「さぁて、少年…もう今日は遅いし、この話の続きが聞きたけりゃ明日もここに来い」

老将「今度はアイリスの形見やらワシが昔使ってた采配やら武具やら、思い出の品を持ってきてやるよ」

ジェン「えっ、い、いいんですか? そんな大事な物を見せて貰って…」

老将「おう、解ったら今日はもう帰れ」

ジェン「はい、その、今日はありがとうございます」

老将「気にするな、それじゃあな」

マスター「それじゃ、明日もまたおいで、夜道は危ないから気をつけて帰るんだよ」

ジェン「はい、ありがとうございます、また明日も来ます」ガチャ、カランカラン

老将「おう、待ってるぞ」

ジェン「それじゃ、これにて失礼」バタン

一時間前 シンティア城下街

姉「……うーん、どれにしようか…」

武器屋の老女「おやおや、こんな若い娘が来るなんて珍しいねぇ…」

姉「あ、こんばんは…店主さん、ですよね…」

老女「そうだよ…それよりお嬢ちゃん幾つだね」

姉「あ、えっと、先月17になったばかりです…」

老女「…大変だねぇ、その若さで軍人かい……何だか死んだ妹を思い出すよ」

姉「貴女の妹さんも……軍人だったんですか?」

老女「あぁ、そうだよ……もうあの子が戦死して30年になるのかねぇ…」

姉「……」

老女「…ふっ、昔はよく妹の愛剣の手入れをしたりしたねぇ…」

姉「おばさんは妹思いなんですね…」

老女「あぁ…そうだ、ちょっとそこで待ってな…お嬢ちゃんに渡したい物がある」

姉「えっ?」

老女「いいから、そこで待ってるんだよ…ちょっと部屋から持ってくるから」

老女「…ふぅ、あったあった、これだ
」つ薄汚れた書物

姉「こ、これは?」

老女「妹がお前さんに渡せ、と言ってたものさ」

姉「えっ、えっと…妹さんが私に…?」

老女「…あぁ、だが勿論、妹はお嬢ちゃんが生まれる前に死んだからお嬢ちゃんの事を知っている訳ではない」

老女「ただ、昔から私にはちょっと不思議な能力があってね」

姉「…能力……というと、おばさんはエルフォーネの…?」

老女「本場の、ではないけどね…呪術師をやっているよ」

老女「…それよりもエルフォーネの呪術文化について知ってるって事はやっぱりお嬢ちゃん、ただの軍人ではないねぇ…見込み通りだ」

姉「…は、はぁ…ちなみにその不思議な能力ーーーー呪術ってのは何が使えるんですか?」

老女「大したものではないがね、人間の放つ霊力の波長からその人の素質だとか将来性だとかを何となく感知できるんだよ」

老女「そんでちょっと話は逸れたが私は妹からそれを見るべき人が何れ現れたら渡してくれ、と頼まれたんだよ」

姉「…私に、これを……」

老女「あぁ、それは妹の遺志と、この国の真実が綴ってある…しかし今までお前さんほどそれを読むに相応しい者は見た事…いや、感知した事もない」

姉「…あ、あの…よく解らないですけど…ありがとうございます」

老女「ふっ、こちらこそありがとうよ…ようやく妹の遺志を伝えられる者に会えたんだから」

姉「…いえいえ…今日はありがとうございました…その、また来ますね…」

老女「あぁ、待ってるよ…それと夜道は危ないから気をつけて帰るんだよ」

姉「はい、ではまた…」

自宅 

ジェン「ただいま」ガチャ

姉「おかえり、ジェン」

父「おう、お帰り」

父「俺もエリナもついさっき帰ってきたばかりだから、夕飯はもう少し待ってくれ」

ジェン「うん…」

姉(エリナ)「ごめんね、すぐ作るから」

ジェン「ありがとう、じゃあ夕飯できるまでお風呂に入ってくるね」

浴室

ジェン「………」ジャァー

ジェン「………」鏡チラッ

甲冑を着た女「……」

ジェン「うわぁっ!? だ、誰だ!」

甲冑女「申し訳ございません…」

ジェン「え、え?? 誰!? 何!??」

甲冑女「私は…護れませんでした…」

ジェン「え、え??」

甲冑女「どうか…生きて、エイネリアを…御守りなさいませ…」

ジェン「え、何だ!? エイネリアを、守るって…どういう事だよ!?」

甲冑女「私は…いつも傍で、御守り致しております…」スゥッ

ジェン「ちょ、おい!」

ジェン「消えた……」

父「なるほど……」モグモグ

エリナ「ふぅん…アンタって霊感あったっけ」モグモグ

ジェン「いや、なかったと思うけど…」モグモグ

エリナ「そう……ともかくエイネリアを守れ、か…まさかアルム(ヘーヴェル)の凶行は何か大きな戦の前触れだったりするのかな…」

ジェン「うーん…今のアルムは経済的に弱っていてとてもエイネリアと戦を始められるほどの余力はないはず…」

エリナ「アンタねぇ…だからこそ、よ…」

ジェン「えっ?」

エリナ「国力が低下している状態のアルムが何故エイネリアで焼き討ちをしているか…今反撃されてはマズいのにこんな行動に出たのは何か裏があるはずよ」

ジェン「な、なるほど…さすが姉ちゃん」

エリナ「アンタが馬鹿なだけよ、もう…ね、父さん?」

父「………」モグモグ

エリナ「父さん?」

父「……何だ?」

エリナ「えぇっと、父さんはどう思う?件の霊の言葉とアルムの関係について」

父「……うーん、そうだな…これはお前達が首を突っ込んでいい話ではないだろうな」

ジェン「…父さん…何か知ってるの?」

父「さぁな…」モグモグ

父「ただ、一つだけ言っておくが…あまり余計な詮索はするな」

エリナ自室

エリナ(さっきのお父さん…何だったんだろう)

エリナ(多分……何か重大な事を知ってるようだけど)

エリナ(一体……)チラッ

エリナ(……ん? これは…)

エリナ(あのお婆さんから渡された書物…表紙が汚れててタイトルがよく読めないけど…)つエイネ…

エリナ(えーっと…エ…リ…戦記?)

エリナ(でもエイネリアの紋章が刻まれているから…恐らくエイネリア戦記、と書かれているんだろう)

エリナ(あのお婆さんの妹の遺志と…)

エリナ(あのお婆さんの言うことを信じれば、この国の真実が綴られている…らしい)

エリナ(…………)ペラッ

エリナ(………!)ペラッ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー

謎の女「はぁ…はぁ、まだ、よ…」

謎の女「全軍、突撃ィッーーーーーーーーーー!」

兵士達「うおおお!!」

ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーー

謎の女「くっ…まさかここまで追い込まれるとは…」

敵兵「止まれ、そこの女!」

謎の女「……チッ」

敵兵A「その方…エイネリアの軍神、アイリス・リナ・レオンディ殿とお見受け致す!」

敵兵A「これも運命…悪く思うなよ!」ブンッ

アイリス「ふんっ!」キイイイイン!

敵兵A「ぐおっ…」

敵兵B「まだまだっ!」ヒュン

アイリス「くっ…!」スッ

敵兵C「甘いっ!」シュッ、グサッ

アイリス「あっ…!ぐ……」ヨロッ

エイネリア兵A「アイリス様!」

エイネリア兵B「どけぇっ!」ズンッ

敵兵B、C「かはっ…」ドサッ

アイリス「…く…うっ…」ドサッ

エイネリア兵達「アイリス様!!」

アイリス「う…うぅ…申し訳ありません…国王陛下…」

エイネリア兵達「お気を確かに!」

アイリス「私は…守れなかった…貴方を、祖国を……」

エイネリア兵A「おい!早く止血しろ!」

エイネリア兵B「了解!」

アイリス「……あとは…王太子陛下は、ライゼルが守って…」

エイネリア兵B「アイリス様…しっかりなさいませ!」

アイリス「…ライゼル………」

ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー

アイリス「なぁ、ライゼル…貴方にとって芸術って何?」

ライゼル「は…?」

アイリス「唐突で悪いけど、教えてくれ」

ライゼル「えらくいきなりだな…まぁ、構わんが…何故?」

アイリス「話せば長くなるが…聞いてくれる?」

ライゼル「………」

ライゼル「…まぁ、座れや」

アイリス「…それじゃ、失礼」

ライゼル「で……今、丁度暇してたところだ…その長話とやら、聞かせてくれ」

アイリス「あぁ……まずは何故芸術について聞いたのか、だけど…」

アイリス「私は武人故に、今まで自分が女であるのを意識しないようにしてきた」

アイリス「当然自分の中の女を抑え、女である事を否定して武人として生きてきたが…」

アイリス「そんな私には唯一、何もかも忘れられる時間があった…それが芸術だ」

ライゼル「……ほう」

アイリス「画家だった母は生前、まだ幼かった私に絵や音楽を教えてくれた」

アイリス「あるとき、そんな幼少期を思いだして母の作品や母と私で手掛けた作品を観ていたんだが……」

アイリス「そうしている内にまた作品を創りたくなって、気付けば駄作を量産していた」

ライゼル「………駄作ねぇ」

アイリス「でも、何かを描く事で抑えている内に解らなくなった自分の本心が滲み出てきて、私はそれを作品にぶつけた…」

アイリス「私はそんな、武と女の呪縛から解放される一時…ありのままでいられる時間に惹かれ、時間を見つけては作品に向かうようになったんだ」

ライゼル「……あぁ、だからここ一年ほど晩酌の相手をしてくれなくなったのか」

アイリス「すまん、私にとって大事な時間なんだ…」

ライゼル「そうか……」

アイリス「…私はお前のありのままを知りたい、知りたくて堪らない」

ライゼル「俺の本性を知りたい、か……お前も物好きだな」

アイリス「物好きとは失礼な!…とは言っても、否定できない…」

ライゼル「だろ?…俺のありのままなんて知っても面白くないぞ?」

ライゼル「幼少期から謀と謀略を愛していた変態だぞ?」

アイリス「謀も謀略も同じだっての…」

ライゼル「まぁ、とにかく…俺の本性はただの謀略キチガイだから」

アイリス「なるほど、その言葉にも裏がある訳ね」

ライゼル「うむ、そう解釈するのも良し」

アイリス「うぅ…アンタは隙がないからつまらないわ…」

ライゼル「22にもなって隙がありまくるアイリスは可愛いな」

アイリス「“まだ”22なのに油断も隙もないお前は異常だ!」

ワーワーワー

アイリス「ゴホッ、ケホッ……」ポタポタ

エイネリア兵B「血が止まらん!!」

エイネリア兵A「それでも止めろ!!」

アイリス「……結局、あの男は」ポタポタ

ライゼル『俺は生き様が芸術だ』

アイリス「生き様が芸術……か」ポタポタ

エイネリア兵A「ア、アイリス様!?」

アイリス「私の芸術………」

アイリス「忠義を………ぅ…」

アイリス「」

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