海の向こうには何が有るのだろうか。
ふと、そんなことを考える。
眼下の敵を砲撃や魚雷で打倒してゆく先には、何があるのだろう。
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「ねぇ、睦月ちゃん。海の向こうって何があるのかな?」
うだる様な夏。生ぬるい風が汗ばむ服を通り、下着を通って肌に纏わりつく。
「えー……そりゃあ島にゃしぃー……あー……ラムネでも何でもいいから冷えたの飲みたぁーい……」
どうやら、熱さに頭をやられてしまったようだ。
仕方ないのでかけなしのお金で酒保へ行き、キンキンに冷えたラムネを2本買う。
それを部屋へ持っていくと睦月は「おお、ありがとう!」などとほざきながらラムネを生き生きと開け、飲み干す。
「……私は沈んだ人たちがいると思うな。吹雪ちゃん」
「沈んだ人?」
「うん。先輩たちの中には……同期でも後輩の中でも轟沈した人もいるしねー」
あっけらかんと言うが、先月この鎮守府もつい一人犠牲を出してしまっている。
敵の設置してある機雷に触れ、運悪く身体が吹き飛ばされたらしい。
「……もし、海の向こうへいけるなら私は……ううん、何でもないよ」
どうにも歯切れ悪いが、次は演習だ。
こんなクソ暑い日にやるなんて、おかしいと私は思った。
演習には私を含めて、空母が3と駆逐艦が3の編成であった。
敵も同様の編成で有り、どうやら今回は敵機動部隊の迎撃だと理解。
対空攻撃はやや苦手だが、やらねば明日は我が身だ。戦場で死ぬ。
さて、結果は。我が艦隊の勝利(なんとS勝利だ!)である。
これらは先輩方のおかげであると思ってもいいだろう。
「お疲れ様でした、吹雪さん」
「赤城先輩!お疲れ様です」
凛々しいながらも少し茶目っ気がある先輩は食事量が半端ないおかげで、常にエンゲル指数が大変な事になってるとか。
自覚しているかどうかは知らぬが、主力なので無碍には扱えぬのだろう。
「先輩、先輩は海の向こうには何があると……思いますか」
手にはやかんと安そうな湯呑茶碗。茶碗を渡され、麦茶が注がれる。
この季節だからだろうか透き通って美味しそう。
「吹雪さん。海の向こうには海しかありませんよ」
「はぁ……」
いや、それは当たり前だろうと言いかけた時、思わぬ言葉を吐きかけられる。
「その向こうが見たいがために、私は戦っているのかもしれませんね」
「特型駆逐艦!夜戦だよ!や・せ・ん!」
夜にテンションが高いのは修学旅行ではしゃぐ男子くらいだと思っていたが、そんなのが今でもここにいるとは。
私達は今、南東のとある海域の小島で休んでいる。
偵察なんて言うが、何気に重要な任務なのである。
電探に反応は無い。
「敵影、確認されず!」
交代で見張りをする。今の時間は私と川内さんだ。
「ちぇー、なんだよー!偵察より派手にしたいのにさー!」
夜の海は昼の海と比べると不気味に見える。
もしかすると、夜と言うこの異様で当たり前な時間がそうさせているのかもしれない。
「ねぇー何か話そうよー」
子供みたく言う夜戦バカもとい、川内お嬢様はどうやら話相手を所望してらっしゃる。
なので、あの質問をぶつけてみる事にしよう。
「川内さんは、海の向こうって何があると思います?」
うーん、と考えると「月、かな」と答えた。
「月、ですか?」
「月があるから夜戦出来る訳だし、太陽があるから夜戦出来る!そうでしょ?」
見た目に似合わずファンシーな発言に思わず笑みをこぼしてしまう。
「あー!馬鹿にしたねー!仮にも私、先輩だよー!先輩!」
「……っぷ、く、くふふふふふ……す、すみません、先輩……くふふぅ……」
そんな私を見ながら、どこか拗ねた感じで私と彼女は交代まで職務を全うした。
数日考えては見たが、頭にふと浮かんだ疑問がここまで引きずられるとは思いもしなかった。
夕立は赤城先輩とほぼ同じ答えであったし、那珂ちゃんさんは「もう答え出てるんじゃないのかな?」と丸投げに言われる。
神通さんに至っては、何呆けた事を言っているのですか、少しは訓練して下さいなんて言われ彼女には哲学的答えを二度と投げかけまいと誓った。
長門秘書艦には少々聞きづらい。
こうなれば、司令官に問いかける見ると言うのも一興かもしれぬ。
執務室とかかれた部屋に入る。
「失礼します、吹雪です」
入れ、と無機質な声で言われ入室。
歩くたびに少し軋む床やどこか威厳を感じる壁や家具。
何の用かと言われ、数日前に浮かんだ疑問をぶつける。
「海の向こう、それは――」
その答えはどこかありきたりな様でそうではない、と感じた。
海の向こう側に居るもの。
敵。仲間。月。
それらを言うのだと私はひそかに勝手に落胆していたがどうやらこの人は違ったみたいである。
「―彼女達が待っている、ですか」
終わりでち
イベが辛すぎて、アーナキソ
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