「この憎き世界に復讐を!」 (24)
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「あ………あああ………」
これで2度目だ。
「うああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
石造りの街中を、馬車が進んでいる光景も、隣でいつも元気120%な無駄にうるさい青いのが喚いているのも。
しかし、前回とは確実に違った点がある。
「カズマさん!!なんかおかしいんですけど!?なんかこれおかしいんですけど!!!」
これが前回と一緒ならば、俺の身体を揺さぶりながらひたすら泣き喚く駄女神……なのだが、そこにはやけに顔立ちが整った――
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この世界に来て二度目の冬、出歩くのも億劫なこの季節に俺は屋敷にこもりせっせと作業に励んでいた。
「カズマカズマ、何を作っているのですか?」
「ああ、めぐみんか。
これはな、Zippoといって、前に作ったライターの亜種みたいなもんだ」
「Zippoですか?どこかの漫画キャラみたいな名前ですね」
今、なんか聞き捨てならないことを聞いた気がするんだが。まぁ流しておこう。
「Zippoはすごいぞー」
「どうすごいのですか!?ライターでも充分便利ですが……これはそんなに違うのでしょうか?」
「ふっふっふ、これはなー、実はライターと大差ないし売らなあ゛おぉ゛いだいいだいいだい!!!」
めぐみんの野郎がいきなり首元をつねってきやがった、めちゃくちゃ痛い…。
「ひどいです…いつもいつもこうやって人を誑かして騙して、今だって私の期待を裏切って…クズマです」
「まって!?今俺が何したよ!何もしてないだろ!」
「お金になる話かと期待していたのでそれの裏切りです」
さっきの羨望の目はそれか。
金なんて腐るほどあるじゃないか、などと言ったら火に油なのだろう。
琴線に触れないように言葉を返そう。
「まぁ、今後また金が必要になる場合もあるしな。暇つぶしがてらの金策だ」
「へぇ、そういうことにしておきますよ」
なんだろう、この上から目線は。
うざったい。非常にうざったい。
「ところで、ちょっと相談したいことがあるのですが……」
さっきのふてぶてしい態度から一転、しおらしい態度でめぐみんがそう聞いてきた。
雰囲気的にちょっと妄想しちゃ…いや、なにもやましいことは考えてないぞ?
「あの……スキルアップポーションを作りたいと思ってまして」
「詳しく」
俺は即答していた。
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「材料がこれだけ必要になりまして」
めぐみんから説明を受ける俺は血眼になりながら相槌を打つ。
一千万以上も下らないシロモノが量産できるならば、そうなるのも仕方がない。
「一撃熊の肝さえ手に入れば、あとはなんとかなりそうです。できれば多めに」
とめぐみんが説明を終えた。マジで?一撃熊さえなんとか出来ちゃえば、スキル上げながらぼろ儲けできるわけ?
「乗った、というか乗るしかねぇッ……このビックウェーブにっ……!!」
「レベルも上がって多少は楽になったと思ったのですが……やはり爆裂魔法だと熊ごと蒸発してしまうみたいなのです」
おいおい、強烈すぎる火力もやっぱり扱いがめんどくせぇな!
……あの時、上級魔法を憶えさせた方がよかったのではないかと頭をよぎるが今となっては仕方のないことだ。
そう、仕方の無い……時間巻き戻らないかな?
「おい、なにか言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「そうだな…熊か、俺にいい考えがある……!」
「無視ですかそうですか」
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「熊といえば冬眠!今の季節は冬!!ここから導き出される結論はこうだァァァァ!!」
「『バインド』ッ!!!」
普段より多めに魔翌力を込めた、特注のロープを冬眠している熊に投げる。
無防備な状態で寝ていたので難なく熊はスキルにかかった。
「ぐへへへ……後は1発ヤるだけだぜ熊さんよぉ……」
武器を手にジリジリと近寄っていく。
油断はできない、普通のより頑丈に作ってもらっているのでこのロープはうちの筋肉変態マゾエロセイダーでも壊せないが、熊となると別だろう。
「気持ち悪いです」
「気持ち悪いわね」
「なにおう!?せっかく人が雰囲気ってもんを出してやってんのに気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは!!」
「レイプみたいな絵面で見てらんないわ」
「しかも相手が一撃熊とか絵面的に最低です…」
お前ら、最近俺に対する態度が辛辣すぎないか?かずまさん泣いちゃうぞ。
……とにもかくにも、バインドが解けないうちに緊縛熊さんをヤらねば。
「えいっ」
俺の愛刀がズブリと熊さんに入る。念には念を入れ、頭から串刺しに。
ビクッと一回、大きく波打ち熊さんは静かになりました。
どうやら熊さんはイってしまったようですね、安心安心。
「なんかこいつ変な事考えてそうなんですけど……顔が気持ち悪いわ」
「不潔です…よりにもよって獣姦なんて……気持ち悪いです」
まてまて、やましいことは何も無いぞ?
何もな?
「ほら、ちゃっちゃと肝回収しちゃいなさいよケモクズマさん」
ケモ……!?クズマさんは百歩譲るとしても、ケモは言いがかりすぎる!何もやってねぇ!!
なんやかんやありめぐみんと作戦会議を開き、熊はこの寒い時期に活発になる熊はいないと結論づけた俺達は肝の回収にきていた。
……俺が失敗して死んだ時の保険に呼んだアクアだが、この調子だとこいつは必要なさそうだ。こんなのに取り分がもってかれると考えたら腹が立ってきた。
「おいアクア、お前の仕事なさそうだから帰っていいよ……もちろん取り分はなしな」
「なによ、強がり?失敗したら怖いから私を呼んだんでしょ?一回上手くいったからって次はそうはいかないものよ?それでこのまま私が帰ってカズマが死んでももう生き返れないわよ?いいのかしら?」
うぜぇ。
口を開かなければなかなかになかなかなのものなのだが、調子に乗った瞬間これだ。
よし、こいつにはゴー・ホームしてもらおう!
「帰れ」
「わあああああああああああああああああっっ!!!!帰らない!帰らないから!!なんでカズマさんそういうこというのよ!!私をのけ者にするつもりなの!!?死んだらちゃんと生き返らせてあげるから!私にもわけて!!!もらう権利はあるでしょ!?」
ガクガクと駄女神が俺の肩を揺らしてくる。
少しやかましいが仕方ない。
「じゃあ肝」
「?」
何を言ってるのかしら?このバカはとでも言わんばかりにこのバカはバカと見下して俺を見てくる。
というかさっきの泣き顔どこいった。
「肝だよ、一撃熊の肝!それとってこい」
「無理よ、触ったら浄化しちゃうもの」
なんだそれは、血も飲料水も汚水も関係なく液体ならお構い無しに浄化するっていうのか……。
というか固形はどうやって浄化されるんだ…。
んー、役立たずにも程がある。
これからはアクアに体内の血を触られないようにしなければ。
「アクアがダメなら私がやりますよ」
「ダメだ」
「えぇっ」
これからポーションを作るという大事な大事な仕事があるめぐみんにそんな危険なことなんてやらせられない。
なんせやつらは臭いに敏感だ。
身体でしっかり稼いでもらうんだから、臭いに引き寄せられたモンスターにうちの大事なアークウィザード様が傷物にでもされたらたまったもんじゃない。
……やましい意味はありませんよ?何もね?
「しょうがねぇなあ」
対策不足だった、仕方ないのでこれをとったら一回街へ帰ろうか。
「あーあー、カズマさん血ついてるじゃないの…浄化してあげよっか?」
「いいよ別に…アクアがやったら俺死にそうだし」
「わあああああああっっ!!なんでよぉぉぉぉ!!私、人に危害なんて加えない清く正しいアークプリースト様よおおおおおお!!魔物の血の浄化くらいお茶の子よおおおおおっ!!!」
「そんな真逆のアピールすんなや!もっと改心してそうなれや駄女神が!」
「安心してくださいアクア、カズマの服は私が責任をもって綺麗にしますよ」
「任せためぐみん!」
「うあああああああああああっ!!!なんでよおおおおお」
ぐずり始めたアクアを2人でなだめ、俺達はすぐさまこの場を後にした。
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「カズマさん、私は物申します」
始まりの街アクセルへと戻る道中…まだ雪山の中なのだが、アクアがいきなり何かを言い出した。
「スキルポーションを作るって言ってもそんなに数も作れないと思うし、カズマさんがそんななけなしのポイントでスキルだけをとっても魔王なんか倒せるわけがないと思うのよ」
「おいまて」
流石に今のままで倒せといわれても無理だろうなーと思うかもしれないが、対抗できる手段が作れればまた別の話で……
「だいたいカズマさん、今レベル幾つなの?まだ1桁なんじゃないの?」
「なにおう!?20超えとるわボケ女神!!あー、あったまきた!目にもの見せてやる!!!」
「姑息な搦め手しか使えないクズマさーん!正々堂々と女神の私に勝ってみなさいよ!!」
あったまきた。こいつには一回きついのを御見舞してやらねば。
「よーしきた『バインド』ーーーッ!」
「ちょっ、それブレイク出来るんですけど!?」
そう、ブレイクスペルを使わせるのが目的なのだ。
その詠唱でできた隙を……
「華麗に回避ー!!」
……避けやがった。
「ふふん、カズマさんもまだまだね…奇襲とかいう卑劣な手を使っても、長い付き合いの私には丸わかりよっ!」
なんてこった……回避されたせいで次の手を考え…な……
え、なにあれ
「ロープが…浮いて……?」
なぜか、空中に、亀甲縛りになっているロープが漂っている。
たしかに俺は命中したら亀甲縛りになるようにと組んだが……空中で命中……?
「ほら、どうしたのよカズマ!もう終わりかし……どうしたのよ、カズマだけじゃなくめぐみんまで変な顔して」
「あ…ぁあ……」
めぐみん、気持ちはわかるよ。ごめんなさい。
「もうなんなのよ二人して……!?」
振り返ったアクアも固まった。
どうしよう…どうしよう!
空中に漂ってるロープ、そこにゆっくりと輪郭が現れたのだが…
なんと、ご立腹の冬将軍(亀甲縛りバージョン)が立っておられました。…ほんのり顔が赤いですがキノセイダトオモイマス。
「ちょっとカズマ!なにやってんのよ!」
とアクアに怒鳴られるが俺は悪くない。
「お前が避けるからこうなったんだろ!?」
「だって詠唱が間に合わなかったし、なんか直感で当たりたくなかったの!」
「だからって…冬将軍ご立腹じゃん!!どうすんだよこれ!?」
「私は悪くないわよ!!バインド使ったバカズマさんがいけないんでしょーが責任とってよ責任!!」
ぐうの音も出ねぇ……。まさか近くにいるとも思ってなかったわけだし、仕方なくね?とか考えていると
「わ、わわわ…わたしの爆裂魔法でけ、消し飛ばして……」
めぐみんがいきなり素っ頓狂なことを言い出して俺と亀甲将軍の間に立った。
「ま、まて!いくらお前の魔法でも倒せないもんだってある!お前だけでも逃げろ!」
「私だってやれば出来るんです!見ててくださいカズマ!」
そう言ってめぐみんは杖を掲げ――
それと同時に亀甲将軍も刀を居合ではなく正眼に構える。脳天からぶっ叩くわけですか。
状況を整理しよう、最悪俺が死んでもアクアに蘇生してもらえばいい。だからめぐみんとアクアを遠くに逃せば問題ない。
ただ顔を赤らめ肩を上下させてハアハアいってるこの亀甲将軍が、それができるくらいの猶予をくれたらだ。
「『エクス―――』」
「待っ――」
そこからはスローモーションだった。
めぐみんが爆裂魔法を打とうと声を発したと同時に亀甲将軍の刀がブれ、アクアがめぐみんを突き飛ばし、そのアクアの上半身と下半身が分かれ
そして目の前が真っ暗になった
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「よ、ようこそ死後の世界へ……えっと、佐藤和真さんと…先輩?私は、あなた達に新たな道を案内する女神、エリスです…。この世界でのあなた達の人生は、終わりました。」
見慣れた景色と見慣れた人、そして聞きなれたセリフ。
あぁ、また来てしまった。
今度はアクアも連れて。
「えーーっと……先輩?」
「え、あれ?どうして私こんなとこにいるの?」
女神にとして暮らしてきたアクアにとって、死という感覚は初めてだったのだろう。錯乱するのも仕方ない。
「お前も、死んだんだよ」
「そんな、嘘をおっしゃいな…きっと、いつの間にか魔王が倒されたのよね?」
「いえ…残念ですが先輩…あなたは死んでます」
その言葉にアクアが固まる。
そして肩を震わせながら叫んだ。
「嘘よね…?ゼル帝やダクネス、めぐみん…ギルドの人達…なんにもお別れの言葉言えてないのよ!?」
「残念ですが…でも先輩があの世界で死んでしまった場合に限り、特例ということで天界に戻すと決まりまして…」
「冗談じゃないわよ、私はあの世界に戻るわ。早く戻して!やり残したこといっぱいあんのよ!!」
「え、えぇっ」
何を言っているんだろうか、このバカ女神は。
というか天界に帰りたがってたんじゃないのか…?
バカ女神が駄々をこね始めたので話が進む気配が全くない。
「あのーエリス様」
「何でしょうか」
「この駄女神が天界に残る残らない関係なしに新しいチートが欲しいんですけど」
「えっ…ですがそんなことしたら上からなんて言われるか……」
「そうよチート!私もチートが欲しいわ。いいでしょ、一回死んだんだから!!」
「うぇぇっ!?だ、ダメですダメです、絶対ダメです!!」
ブンブンと必死に首を振るエリス様も可愛いっすねー。上げた腕に絞られて強調されたお胸もグッドです。
もっといじめたくなっちゃうな?
「でもエリス様、考えても見てくださいよ…。連れてった女神は役立たずで?オマケに死んだらチートくださいですよ?報われないですよ、俺」
「誰が役立たずよ!でもまぁたしかにカズマさんチートもなくって苦労してたわけだしそろそろ配ってもいいんじゃないかしら?」
「そ、そんな安売りみたいなことしたら世界が大変なことになっちゃいますからっ……先輩は大人しく天界にもどりましょう?」
「いやよ!あの胸糞仮面と決着つけてないんだから!チートもらってギッタンギッタンにするの!!」
わーわーと寝そべり暴れる姿は、まさに母親に強請る子供のそれでした。
「で、ですけどダメなものはダメなんです!」
「これ以上言うならその胸パッドひん剥いてカズマさんに貧相なお胸をじっくり堪能してもらうわよ!!」
「よしきたやれアクア」
「わーっ!わーー!!!特例です!特例で認めますから!!!」
「ひん剥いちゃるわー!!」
エリス様に襲いかかるアクアを俺はジーッと眺める。
いいぞ、もっとやれ。
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「わ、わかりましたから…あげますチート……」
結局、エリス様が折れて決着がついたようだ。
「カズマさんにも、こうして先輩がカズマさんのチートじゃなくなるため1つ授けます…」
「じゃあ俺はエリ『ダメです!』」
……ダメなんですか?
「先輩の二の舞踏むのは嫌ですよ?」
…ダメみたいですね。
「この紙の中から選んでくださいね」
そういって差し出された紙束を受け取り、じっくり吟味する。
怪力、魔剣、鎧、特殊な道具、知能…色々ある。
「ん…?この物事の本質を見抜けるっていうのいいな」
「『エターナルリアリティ』ですね?」
え、なんでそんな厨二っぽいの…。
だが本質を見抜くってことは未来予知みたいなことも出来るはずだ、どっかの悪質仮面みたいに。
よしこれにしよう。
「私はこれって最初から決めてたのよ、『全反射-フル・ミラー-』!」
なんでそれも横文字入るんだよおおおおッ!!
すげーかっこ悪いなおい!名付けたヤツのセンスを疑うぜッ!
「日本からやってきたクソニート共がこぞってコレ見て『アセロラさんになれるじゃん!』って言ってて、でも結局ほかのにしてたからずっと気になってたのよ!!」
「なんだその理由は」
「いいじゃない!使ってみたかったの!!」
さいですかさいですか。
「御二方、準備はよろしいですか??」
「では、カズマさん、アクア様、御二方が魔王を倒す勇者にならんことを祈っております……。良い旅を!」
白い光に包まれ、俺達は目を閉じた。
意識が一旦途切れる直前にピシッと、何かにヒビが入る音を耳にした。
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そうだ、復活したら性転換していたんだ…。
「カズマさんカズマさんカズマさああああああん!!!!」
天界から生き返った俺は何故か青い髪のイケメンに揺さぶられていた。
そろそろやめて欲しい。目が回る。
「なんでカズマさん女の子になってるのよおおおおお!?」
こっちが聞きたい。
「というかいい加減その外見でオカマぶるのやめてくれよ」
「オカマじゃないわよっ!中身は女神なのよおおおぉぉ……」
ヒソヒソ……
「ちくしょー!こうなったら魔王全力で倒して元に戻るわよカズマ!」
「俺達の魔王退治はこれからだ!」
「この憎き世界に復讐を!」
「あ、素晴らしいの対義語は見窄らしいだし、祝福は呪詛だぞバカ元女神」
「わあああああああああああっ!揚げ足とんないでよおおおおおおおおお」
短いですが終わりです。
これ続けてもTS好まない人もいると思うので。
お目汚し失礼いたしました。
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