上条「学園都市はこっからが正念場だ」 (72)
禁書のSSです。
九月三十日の後日、三十一日スタートで上条を中心としたメインメンバーの周りで過激な抗争が起こっていく……というストーリーにする予定です。
出来る限り禁書感を出していきたいと思うので、至らぬ点があればご指摘ください。
余談ですが、絹旗・初春・土御門・吹寄・ルチアが好きなので、彼等彼女等は多く出張る可能性があります。
初投稿ですが、頑張ります!!
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失礼。九月には三十一日ってありませんでした。
十月一日、という事で。
― 十月一日早朝
上条当麻は昼時の教室で、珍しく作って来た弁当の中身を口に運びながら言う。
隣にはクラスメートの土御門元春。
上条「………戦争が、起こるんだな」
土御門「……カミやん。これから起こる戦争が―――上条「分かってるよ」
土御門「?」
面喰った顔をする土御門をしっかりとした眼で見て、上条は箸を持っている自分の右手をぎゅ、と握りしめる。
上条「今回の事が全て俺の責任だなんて思い上がりはしてない。……けど、それでも原因の一端は俺にあるんだと思う」
上条「だから、何もせずにただ開戦の時を待っている事なんて出来ないし、しちゃいけないんだと思う」
放課後、上条は真っ先に『学舎の園』へと足を運んだ。
― 同時刻、学舎の園
御坂美琴は億劫気な視線を飛行機の飛び交う学園都市の空に向けた。
御坂(………昨日の事が原因で、戦争が起こる……か)
昨日、御坂は当の事件に首を突っ込んでいた。というよりは、片足を突っ込んだ、という方が正しいだろうか。
かといってあの事件がどういったモノだったのかなんて御坂には理解できなかったし、それについて何かをしようとは思わない。
けれど。
御坂(あの馬鹿が一枚噛んでるんなら、放っておくわけにもいかなさそうなのよね)
顔見知りの男子高校生の顔が頭をよぎり、ブンブンと頭を振って赤面した顔をキリリと戻す。
すると、そんな御坂の元にある人物が訪れた。
食蜂「あらぁ? 何を鬱そうにしているのかしら、御坂さぁん?」
現れたのは学園都市に七人しかいない超能力者。その第五位。直接的な戦闘力に関しては素人以下だが、能力による心理戦ならばおそらく学園都市一の化け物。
『心理掌握』食蜂操祈。
御坂「………食蜂操祈」
― 同時刻、常盤台中学女子寮
上条当麻は放課後の高校をそそくさと脱出し、ここまで来ていた。
学舎の園を予定していたのだが、当然上条は男子であるため男子禁制のあの場所には入れない。
だが、用事は『学舎の園』では無く『学舎の園にいる人物』にあるので、ここに来てもさして問題は無いというわけだ。
上条は手慣れた手つきで寮の呼び出しインターホンを鳴らし、彼女の部屋とコンタクトを取る。
??『はい。何か御用ですの?』
上条「その声……白井黒子か?」
白井『おやまぁ。誰かと思えばいつぞやの類人猿でしたか。それで、今日はお姉様に何の御用ですの? 生憎と、今日はまだお帰りになっておられませんが』
上条「単刀直入に言う。御坂だけじゃなく、お前にも協力してほしい事があるんだ。とりあえず、御坂が帰って来るまで待たせてくれないか?」
白井『……………まぁ良いでしょう。嘘をついている様子にも思えませんし。ですが、寮長の巡回時にはベッドの下に隠れる事を承諾してもらいますわよ?』
時刻は既に五時を回ろうとしていた。
― 同時刻、とある裏路地
一方通行「チッ」
一方通行は、どこにでもありそうなありふれた路地の中で舌打ちをする。
彼の足元には、やたらと自信過剰で立ち向かってきた駒場利徳という男の死体が倒れている。
落ちるところまで落ちた。と、彼は自分の存在に吐き気を覚える。
一方通行は『グループ』という暗部組織の一員になった。
たった四人の組織の為に下部組織が幾つもある事や、指令の顔など、不可解な点は幾つもあるが、彼はそれらをたった一言で表す。
クソッタレな組織。
用事を済ませて帰り支度を済ませる一方通行の元に電話がかかる。
土御門『よう一方通行。とりあえず、初仕事お疲れさん』
同じ『グループ』のメンバー、土御門元春だ。
一方通行「あァ。どォも、センパイ」
土御門『仕事が終わった直後で悪いんだが、少し伝えたい事がある。グループを招集するから、お前も来い』
一方通行「分かった」
土御門『ヤケに素直だな? 何かあったか?』
一方通行「拒否権は無ェんだろォが。クソ野郎」
土御門から伝えられた場所に、一歩通行はその足で向かった。
― 同時刻、学舎の園
食蜂操祈を振り切った御坂は急ぎ足で寮の自室へと急ぐ。
御坂(まさか食蜂があんな事を言うなんて)
先ほど彼女としたのはいつもの喧嘩ではなく、交渉や取引といった呼び方をするモノだった。
御坂(………でも、まぁこれで指針は出来た。後は私も、そこに向かえばいい。周回遅れなんてするもんですか)
世界は今、非常に際どいバランスで成り立っている。
魔術の存在を認めない学園都市と、人工天使の存在を無視できないローマ正教及び魔術サイド。
いつどちらか一方が宣戦布告をしてもおかしくない状況下で、その渦の中心にいる少年達はそれでも足掻き続ける。
前方のヴェントを撤退させ、人工天使ヒューズ=カザキリを元に戻し、とりあえずの学園都市を取り戻した上条当麻は、これからの戦いに向けて必要となる物を集めて周る。
木原数多を撃退し、打ち止めを救って闇に堕ちた一方通行は、ただ『グループ』の枠にはまっておく。悪党である自分を肯定し、それでも平和な世界にいる者達の安全だけは守ると心に決める。
九月三十日の事件に片足を突っ込んでいた御坂美琴は、食蜂操祈の出した思わぬ提案に乗る。
だが、これから起こる騒動の中にいる者は決して彼等だけではない。
一方通行の所属する『グループ』を含む学園都市暗部勢力は各々の目的の為に動き出し、イギリス清教を始めとした魔術サイドも重い腰を上げ始めている。
戦争は、免れない―――。
― 窓の無いビル
生命維持装置の中で逆さに浮かぶアレイスターは無表情のまま思索を練る。
アレイスター(……プランは滞りなく進んでいる。それに関しては全く無問題だが、残りの神の右席が全員がかりで攻めて来るというのは少しまずいな)
下手をすれば学園都市の誇る超能力者(レベル5)を単独で撃破してしまいかねない程の力を持つ三人の魔術師の存在に、アレイスターは眉根を寄せる。傍から見れば何も表情が変わっていないように見えるが、彼にとっては十分すぎる程の感情表現だ。
アレイスター(仕方が無いな)
そして、アレイスターは複数の組織に指令を下した。
― 第七学区、ファミレスJoseph's
麦野「――――ってわけでね? 今回は色々と上がごたついてるみたいなのよ」
店内なのに半袖コートを着込んだ茶髪の女が、一通りの説明を終えてシャケ弁に再び箸を伸ばす。
ファミレスだという事にも関わらずコンビニかどこかから買ってきた物を食べる彼女を突っ込む者はいない。
彼女の名は麦野沈利。学園都市に七人しかいない超能力者、その第四位である。
フレンダ「へぇー。で、うち以外の暗部にも色々と指令が送られてるって事?」
こちらの金髪の女は鯖の缶詰を食べている。
彼女はフレンダ=セイヴェルン。爆発物を使い、敵を追い詰める。
最も恐ろしいのはその顔の広さだ。表と裏を合わせればその知り合いの数は千人に上るという。
絹旗「『スクール』、『ブロック』、『グループ』、『メンバー』。うちと合わせて五つですか。それで、肝心の仕事内容は何ですか?」
滝壺「………南南西から信号がきてる……」
絹旗最愛。滝壺理后。
彼女達もまた、強大な力を持つ能力者だ。その区分は大能力者。
麦野「えっとねー。『とにかく暴れろ』」
絹旗・フレンダ「「は?」」
麦野「いや、だからさぁ。私にも良くわかんねーんだって。なんか、暴れ回っていいらしいんだわ。あ、でも暗部の一員である限りは表には出ないように心掛けてね」
絹旗「状況が超掴めませんが、とりあえず自由にしていいという事ですか?」
麦野「そーそー。適当にやってていいよ。何かムカつく連中がいたら招集かけるから」
麦野沈利。絹旗最愛。フレンダ=セイヴェルン。滝壺理后。
彼女達四人は学園都市暗部の勢力の一つ。『アイテム』。
舞台は戻り、視点は再び上条に。
― 常盤台中学女子寮、御坂と白井の部屋
御坂「な、ななな……何でアンタがここにいんのよ!?」
開口一番。帰って来た御坂は思いきり叫んだ。
御坂「だってここ女子寮よ!? どうしてアンタがここに入れ―――ムグッ!? ちょ、黒子――!?」
白井「お姉様、もう少し静かに反応していただきませんと……」
すると、白井の言葉の直後に部屋のドアが軽くノックされる。
御坂・白井「~~~~~ッッ!!!」
上条「?」
寮監「おい白井、御坂。何かあったのか? もう夕刻が過ぎようとしている時間に騒ぐんじゃない」
御坂「は、はぁい」
白井「申し訳ございません。寮監様?」
寮監の足音が去っていくのを感じ、御坂は改めて、白井のベッドに座る上条に向き直る。
御坂「納得のいく説明をしてもらいましょうか? 黒子がいるんだから不法侵入じゃないでしょうけど」
白井「話によると、お姉様と私の力を借りたいのだとか」
御坂「力ぁ?」
上条「そうだ。単刀直入に言う。捜したい奴等がいるんだ。そいつ等の力を借りて、この状況を打破したい」
上条「いや、打破……そうだな、対策って言った方が良いかもしれない」
口ごもる上条に、白井と御坂もいったん口を止めた。
やがて、白井が口を開く。
白井「それは、これから起こりかねないという『戦争』についてのお話と考えてよろしいんですの?」
上条「ああ。今は詳しくは言えないけど、今回の騒動は少なからず俺にも責任がある。だから、出来る限り、勝手かもしれないけど俺の守りたい人達だけは守りたい」
御坂「………それで私達の力が必要ってわけね。でも、一つだけ、言ってない言葉があるわよ?」
白井「そうですわね。子供でも言える言葉ですの。人の力を借りたい時は、まずあれを言わなくては」
ハッ、とした顔になった上条は、白井のベッドから静かに降りる。
自分より身長の低い白井、御坂の真正面に立ち、深々と頭を下げた。
上条「お前たちの力を借りたい。俺を―――――助けてくれ」
それは、他人を巻き込まずに自分だけで戦線を切り抜けてきた彼にとって初めての、『頼み』だった。
御坂「で、捜したい人達って誰よ?」
女子寮の中で、御坂、白井、上条が円を作って会話をする。
既に空は闇に染まり、最終下校時刻はとうに過ぎていた。
上条「御坂には少し、嫌な思い出の残る奴かもしれないけど」
御坂「良いから言いなさい。それを話さない事には始まらないわ」
上条「…………『一方通行』」
しん。と、部屋が静まり返る。
反応を待つ上条と、目を見開く御坂と、二人の間であった事件を知らないので何とも言えない白井。
御坂「………………まぁ、良いわ。で、そいつを捜してどうするつもり? 協力なんてしてくれるような奴じゃないと思うけど」
上条「ああ。それは分かってる。けど、それでも協力してもらいたいんだ」
上条(この前のヴェントみたいな奴が他にもいる。そんな奴等が一気に攻めて来たら、とてもじゃないけど学園都市はもたない。そのためには御坂を含む………超能力者の力が必要なんだ)
ヴェントは言っていた。
神の右席をなめるな―――と。
そして彼女を連れて帰ったゴルフウェアの大男。
途方もない力を持っている。と、闘わなくても理解できた。
敵意を向けた者を昏倒させるヴェントの天罰術式。あれだけで学園都市は壊滅状態まで陥ったのだ。
もしもあれだけの力が他にもあって、それが学園都市に振るわれれば―――それこそ学園都市は無事では済まないかもしれない。
そしてもっと問題なのが、敵の純粋な戦闘力だ。
上条(正直、天罰抜きにしてもヴェントは強かった。不可視の速攻―――あの攻撃で何度死にかけたか覚えていない)
実際には、ヴェントの十字架は既に上条が破壊したために、その力はもう使えないが。
上条「アイツに、一緒に戦ってもらいたいんだ。向かい合うんじゃなく、今度は並び合って」
御坂「………バッカみたい。ええ、良いわよ。協力するわよ!! ……私だって、アンタとは並んで戦いたいんだから」
白井「あまり二人だけの空間を作らないでいただきたいのですが……まぁ良いですわ。では上条さん」
上条「ああ」
白井「明日、風紀委員の第一七七支部に来てくださいな。人を捜すのが上手い同僚を知っていますの」
そうして、その後こっそり寮を抜け出した上条は、自分の寮に戻って空腹のシスターにがぶりとやられたのであった―――。
―― 学園都市、とある路地
○○「すごいパーンチ」
○○「ぐああああああああああ!??」
○○「ぎゃああああああああああ!!!」
路地裏で虐められていた男子生徒を助けた削板軍覇は、コテンと倒れる不良たちをジロジロ眺めてニッと笑った。
削板「なんだ。根性が無いな。もっと根性がある奴はいないのか? ……そうだ、そういえば前にすっげぇ根性の奴がいたな」
削板は、九月にあった大覇星祭での事を思い出す。
暴走した電撃使いを止めるために、手からドラゴンを出した根性の男。
削板「アイツ。元気にしてっかな? かみじょー」
十月二日
― 学園都市、風紀委員第一七七支部
ダダダダダダダ、とキーボードを凄まじい速度で叩く音が響く室内に上条はいた。
風紀委員第一七七支部。白井黒子の所属する風紀委員、その支部の一つである。
初春「一方通行さんですかぁ。……んー、検索かけてはいるんですけど、中々捕まりませんね」
『守護神(ゴールキーパー)』の異名を持つ初春は、画面から顔を逸らさずに言う。
固法「にしても、一方通行、かぁ。噂じゃ、無能力者に負けた、なんて聞いたけど………もしかして?」
ジッ、と巨乳の眼鏡先輩に見つめられ、たじろぐ上条。
が、上条に興味を持ったのは彼女だけではなく。
佐天「上条さんが一歩通行をやっつけたんですか!? 無能力者なのに!!」
上条「……え、ああ。隠す理由も無いな」
でも、と付け足し。
上条「俺が一人でアイツを倒したんじゃない。誰かさんの協力が無かったら、危うくどころか確実に死んでたところだ」
御坂「そんな話より、明確な話をしてもらおうかしら」
上条「――御坂」
白井「そうですわね。戦争が起こるというのは私達も大体察してはおりますが、その敵、というのがどうにも姿が見えませんの。この際ですし、何やら事情を知っていそうな上条さんに話を聞いておきたいところですわ」
上条「…………そうだな。信じてくれるかは分からないけど、知ってもらわないといけない」
魔術師の事。神の右席の事。九月三十日の事。
全てを話しても、実際にその眼で視ない限りは信じられないような事ばかりだが、それでも一方的に協力させるわけにはいかない。
協力するからには、全ての事情を知った上で、そして行動しなければならないだろう。
おずおずと、やがて上条は話し出す。
まずは、魔術師の事だ。
― 学園都市、とある路地
一方通行「何だァ、オマエ」
上条が捜している人物は、第七学区の裏路地で武装無能力集団(スキルアウト)の掃除をしているところだ。
そんな彼の前に、一人の大男が現れた。
アックア「貴様が、学園都市の能力者の頂点、という事で間違いないであるか」
青い十字の入ったゴルフウェアの男は、一方通行を前にそんな事を口にした。
一方通行「オッサンが俺に何か用かァ? 悪ィが、今は立て込ンでンだよ。用なら後にしろ」
が、一方通行のピリピリとした鋭い殺気に対し、大男は一歩も引かない。
アックア「それはスキルアウト、という連中の掃除とやらか?」
一方通行「あァ? オマエ、上の連中かァ? ……いや、アイツ等が顔を出すワケねェよなァ?」
ピ。と、音がした。
首筋の電極に手を置き、チョーカーをon。能力使用モードに移行した一方通行の体は神速を超える速度で動き出す。
轟!!! と、神速の一撃が大男の顔面に直撃する。
一方通行「――――――――――あァ?」
はず、だったのに。
一方通行の全力の一撃は、躱されていた。
ゴバァ!! と、そこに残る空気だけが弾け、爆散する。
一方通行(何だァ? コイツ。上の連中はまず顔を出さねェ。てっきり駒場みたくスキルアウトのリーダーかと思ったが、それにしては身なりがイイ)
アックア「中々の速度だが、それでは私には追いつけんぞ」
一方通行「………『発条包帯(ハードテーピング)』でも無さそォだな。そォいう能力者かァ?」
アックア「私は能力者ではない。かといって、お前達を納得させる言葉は見つかりそうにないな」
一方通行「チッ。まァイイ。何だか知らねェが、俺の前に立つって事がどォいう意味を持つか教えてやるから覚悟しろォ?」
再び、一方通行が動く。
足元を蹴り上げ、土の弾丸をアックア目掛けて飛ばす。
それをアックアが片手で払い、余裕のある動きで一方通行に接近する。
辺り一帯を潰しかねない壮絶な戦いが、始まる―――。
――― 学園都市、第一七七支部前
上条「じゃあ、今日の所はここで帰るよ」
ざっと全ての事を話し終えた上条は、その後、幾つもの質問に答えて一七七支部を後にする。
御坂「正直、半信半疑よ」
上条「だろうな。俺も、実際に見るまでは信じられなかった」
御坂「それでも、アンタの言う事が真実なんでしょう?」
上条「ああ」
御坂「………まぁ、魔術だとか神の右席だとか、よく分からない事はいっそ頭から放り出した方が良いかもね」
上条「?」
御坂「アンタの敵。そして、学園都市を壊そうとする連中。そいつらを何も考えずにブチのめしてやれば済む話よね?」
○○「ほぉ。勇ましい女だ」
上条・御坂「「!?」」
いきなりの声に、二人が一斉に声の方へ目を向けた。
そこに立っていたのは、頭から足元まで赤一色の男。
その男は、薄く笑みを浮かべながら上条を見た。
フィアンマ「俺は神の右席。右方のフィアンマだ。よろしくな、幻想殺し」
その一言で、二人の顔が青ざめた。
上条「神の右席だと……ッ!?」
御坂「アイツが、話に出て来た『神の右席』……」
フィアンマ「そう構えなくても良い。今日は少し、お前に宣戦布告をしに来ただけなんだ」
上条「宣戦布告だと? まさか、今から戦争スタートです、なんて言うつもりじゃねぇだろうな?」
フィアンマ「それも良いが、俺の欲しい物は別にある。戦争が始まれば、それはそれで参戦するつもりだが、それよりもまず優先すべき物があるんだよ」
今気づいたが、フィアンマ、と名乗る男の肩には大きな右腕がくっついている。
そして、辺りにはいつしか人がいなくなっている。
人払いの術式だろう。
インデックスから話には聞いていた。人を寄せ付けなくする術式がある、と。
上条「じゃあ、それをお前から守りきれば俺の勝ちってわけだな」
フィアンマ「話が早くて助かる。俺は世界なんていう大きな枠組みで争うのはまだ控えたい。出来れば、お前の周りに人が集まる前に、用を済ませたいんだ」
上条「何が目的だ」
フィアンマ「禁書目録」
フィアンマは、一言。そう言った。
フィアンマ「精々、足掻く事だ。この街には既に俺以外の全ての神の右席が侵入済みなんだからな」
上条「待て、フィアンマ!!! ―――――クソ。何なんだよ……他の神の右席も全員、この街に? どうなってやがる。学園都市の警備は厳重なはずなのに」
御坂「くよくよしてても仕方ないわ。すぐに、すぐに対策を練るのよ。禁書目録って、アンタの所の大食いシスターの事でしょ?」
御坂「早く帰って彼女の安全を確保するのよ。あと、なにかあったら私も黒子もすぐに駆けつけるから、絶対に連絡を入れる事」
上条「―――――ありがとう。御坂」
そして、上条は夕暮れの学園都市を駆けていく。
― 学園都市、とある路地
廃棄ビルが多いこの路地裏では、一方通行とアックアの交戦が行われていた。
アックア「………中々に面白い異能である。力の向きを変える能力か」
一方通行「チョロチョロ逃げ回りやがンじゃねェぞ三下ァ!!!」
一方通行の残る能力使用時間はおよそ二分。
一方通行自身も気づき始めていた。
このまま戦闘を続けるのはまずい、と。
一方通行(チィ。何だか知らねェが、能力を使った俺の速度に付いてくる奴なンざ初めてだ)
アックア(道端の物を手当たり次第に投げ飛ばしてみたが、こいつは常に自分の周囲に結界のようなモノを張っているのであるな。カウンター、いや、反射か?)
が、アックアもまた攻めきれずにいた。
彼は学園都市最強の超能力者の能力を知らない。
そして、自身の持つ『魔術』が彼の能力の演算範囲外にあるという事も知らないため、アシュケロンを置いて来たアックアには攻撃の仕様が無いのだ。
アックア(この場合は引いた方が良いか? だが何故か奴も相当に焦っているのである。何らかの時間制限付きか?)
辺り一帯を丸ごと崩壊させてまわるようなその攻防は、学園都市中に存在する監視カメラに捉えられていた。
―― 学園都市、風紀委員第一七七支部
ガタン! と、初春がパソコンの画面に目を向けたまま立ち上がり、斜め後ろで仕事をしていた白井に呼びかける。
初春「一方通行さん、見つかりました!!!」
白井「!! 場所はどこですの!?」
初春「第七学区の裏路地です!! スキルアウトがたまり場にしているあそこ!!」
白井「了解ですの。では、上条さんとお姉様にもすぐに連絡を入れますわ。ところで、その方はそんなところで何を?」
初春「交戦ですかね……第一位の超能力者が誰かに手こずるなんて思えませんが……」
白井「まぁ、その場合は用事より先に逮捕する必要がありそうですわね。では、行ってまいりますわ」
シュンッ、と白井はテレポートを使って御坂の元へと向かった。
―― 第七学区、上条の寮
インデックス「とうま!! わたしはおなかが空いたんだよ!?」
寮に帰るやいなや、いつも通りの言葉が上条を襲った。
件の大食いシスター、頭の中に十万三千冊の魔道書を持つ魔道書図書館、インデックスだ。
上条「分かった分かった。じゃあ何か作るから―――とと、電話か?」
台所に立ったところで、水没したり踏みつぶされたりでボロボロの携帯電話に着信がかかる。
相手は御坂だ。
上条「もしもし? 御坂か。もしかして一方通行が見つかったのか?」
御坂『ええ!! だから早く来なさい。第七学区の路地裏よ。私と黒子はこれからテレポートで向かうから、アンタも出来る限り急ぐこと。わかった?』
上条「わかった!」
通話を切り、上条は冷蔵庫から極太のソーセージ(激安)を取り出す。
それを大食いシスター目掛けて投擲し、がぶり、とかぶりついたインデックスを見て。
上条「インデックス。後で御坂にたらふく食わせてもらえるように頼んでやるから今はそれで我慢してくれ!!」
インデックス「??? と、とうま?? どこへいくの?」
上条「……そうか、よし。インデックス。お前も来い!! 一人にさせとくよりは安全のはずだ」
インデックス「危険? ?? とうま。なにかあったの? はっ!? もしかして魔術師がきてるの?」
上条「似たようなモンだ。だからお前の知識が要る。来てくれ!!」
魔道書図書館。彼女の知識は前方のヴェントの『天罰術式』にも通用した。ならば、彼女の魔道書の知識は神の右席にも通用するはずだ。
それに、右方のフィアンマなる者が宣戦布告してきた以上、彼女を一人にもしておけない。
インデックスを連れた上条は、陽が落ちる学園都市の道路を駆け抜ける。
― 学園都市、第七学区、裏路地
一方通行(…………チッ。そろそろ時間切れかァ)
アックア「どうした。動きがお粗末になってきているのである」
一方通行(奴の言ってる事は、ムカつくが正しい。あと一分も持たない以上は、いったん退くしかねェ)
ゴォオオオ!!! と、一方通行の周りの空気が変貌し、渦を巻いて小規模の竜巻を作る。
一方通行(かと言ってただ敵前逃亡すンのも情けねェ。となると、だ)
一方通行「オマエの正体くらいは吐かせてやるから覚悟しろォ?」
ギュバッ!!! と、竜巻が横に流れ、アックア目掛けて槍のように空気を貫いてく。
アックア「反射は確かに厄介だが、その程度で私を超えられたとでも思ったのであるか?」
渦巻く横薙ぎの竜巻を、アックアは素手で振り払う。
アックアは静かに嘆息する。
アックア(やはり時間制限でも付いていたか。最後の最後に、焦りに身を任せるとは。少々ガッカリである)
が。
放散する風の中から、一方通行が躍り出る。
アックア「!!!」
一方通行「そよ風ぶち抜いた程度で勝利に浸ってンじゃねェぞ三下ァァ!!!」
アックア「――――ぬおっ!!!」
奇襲に対し、アックアが反応に身を任せて拳を振り抜きかけ――――、一方通行の能力を瞬時に思い返し、拳を”戻した”。
ドゴアッ!! と、一方通行の顔面にアックアの重たい一撃が衝突する。
何が起こった?
一方通行は、頭全体に響く痛みを感じながら、そんな事を考えていた。
使用時間切れではない。残り時間は心もとないが、たしかに四〇秒ほど残っている。
思い当たるのは、つい一昨日の事件。
一方通行(木原と同じ攻撃方法か? チィ。どいつもこいつも、ンな事をどうやって平然とやってのけやがる)
アックア「偶然か。だが、手ごたえは感じたのである。拳を瞬時に戻す……たしかにこれなら貴様にダメージを与えられる」
アックア「その能力だ。殴り合いの喧嘩などした事もないのであろう? そんな貴様に、私の一撃があと一撃と耐えられるかどうか。見ものであるな」
アックア「尤も。その前に貴様のタイムリミットが来るか」
やってしまった。と、一方通行は笑いながら嘆息する。
だが、いつかはこうなると思っていた。
一万人の妹達を殺した自分に、幸せな最期など残っていない事は明白だった。
だが。
しかし。
けれど。
《打ち止め「死なないで? って、ミサカはミサカは貴方に懇願してみる」》
何故だか、脳裏にやかましい少女の声が響いた。
一方通行「は―――ッ!! そうかァ。そうだよなァ? まだ、死ぬわけにゃいかねェよなァ?」
鼻っ柱を折られ、鼻血をみっともなく出し、顔面がズタズタになっていても、それでも一方通行は立ち上がる。
一方通行「俺が死んだら、誰がアイツを守ってやれるってンだ。まだアイツは入院してる……あのガキ守るためにゃ死ぬわけにはいかねェんだよ!!」
アックア「……良い決意である。だが、それでも相対し、ここまでの力を私に見せつけた以上は、放っておくわけにもいかん」
両者の最後の攻撃が交差する―――――瞬間。二人の目の前に太い鉄柱が現れた。
アックア・一方通行「!?」
ザッ!!と、両者が互いに後方へと下がる。そして、二人が同時に、それをした人物の気配を察知し、右を向いた。
御坂「そこのゴルフウェアの男。動かないで。次は威嚇じゃすまないわよ」
白井「風紀委員ですの!! とりあえず、ご同行願いますわ。もしも拒否するのなら、その時は強硬手段を取らせていただきます」
一方通行(………ゴーグルが無ェ。オリジナルか)
アックア「フム。つまらん幕引きであったな」
動きを止めた一方通行とは違い、アックアは拳を引いた。
戦闘中止の合図。撤退する気だ。
一方通行「待ちやがれこのクソ野郎がァ!!!」
が、そこで一方通行の電極のバッテリーが切れる。
プツン。と、何かが切れたように、一方通行の体が地面に接着する。
白井「お待ちなさい!! 空間移動能力者の私から逃げられるとお思いですの?」
アックア「テレポーター? フッ、そう急ぐ事もあるまい。私はこれから数日、この学園都市に留まるつもりである。また会う事もあるであろう」
御坂「待てって、言ってんでしょうがぁ!!」
それでも立ち去ろうとするアックアに、電撃の槍が襲う。
ビリビリィ!! という轟音を鳴らす稲妻は、しかしアックアに躱される。
御坂「避けた……ッ? う、嘘ぉ……」
土御門「神の右席相手に迂闊な攻めは逆効果だぜい? 超電磁砲」
御坂・白井「?」
土御門「おっと、敵じゃないぜい。皆大好き上条当麻の友達だにゃー」
突然現れた金髪の青年に、動揺を隠し得ない御坂と白井は武器を置かない。
が、そんなの気にしないとばかりに土御門は御坂に呼びかける。
土御門「そんなことより、今は一方通行を一刻も早く能力使用状態に戻さないと、全員まとめてあのアックアに殺されるぜよ」
御坂「そんな事言ったって、コイツなんかのびてるじゃない?」
土御門「ところがどっこい。電極のバッテリー切れっていうだけなんだにゃー。みこっちんの電気で充電してあげればすぐに復活するぜい?」
御坂「はぁ? ま、まぁそれなら……やってみるわ」
白井「では、それまで私がアレの相手を、という事ですわね」
一部始終を見続けるアックアに、白井が針を向ける。
アックアは観察していた。一方通行の時間切れの詳細を。
アックア(なるほど。首筋にある電極か。あれで何らかのサポートを受ける事で能力を発動させているわけであるか)
そして、御坂美琴、土御門元春、白井黒子、一方通行の顔をもう一度確認する。
アックア(ほか二人は知らぬが、あの茶髪と白髪の男女はたしか手配書に載っていた超能力者なる学園都市の最高位の戦力か)
アックア「だとすれば興醒めであるな。まぁ、聖人であり神の右席でもある私相手によくやったと讃えるべきであるが)
一人立ちはだかる白井の横に、土御門がつく。
白井「何ですの? 一般人は出来れば下がっていてほしいのですが。それに貴方、高位の能力者とも思えませんし」
土御門「アイツの前じゃ大能力者も無能力者も同じだぜい。下手をすれば超能力者だって一蹴されるアイツ相手に一人で立ち向かうなんて、死にに行くのと同じだぜよ」
白井「たしかに。第一位の一方通行さんを相手にここまでやる人物に私がどうにかできるとは思いませんが。それでも私は逃げるわけにはいきませんのよ」
土御門「正義感のある子だな。結標の話通りだ」
白井「結標? それって―――土御門「来るぞ!!!」
そして、再び戦いが始まる―――。
――― 五人が対峙する路地裏近くの裏通り
フレンダ「結局、あそこでなにか起こってるって訳よ」
滝壺「とてつもない能力の反応を感じる。以前把握した超電磁砲……それと、もう一つ超能力者級、大能力者級が一つ」
麦野「垣根帝督か? まぁ何でもいいけど。文字通り、とにかく暴れてみる?」
フレンダ「はいはーい!! で、でも、超電磁砲ともう一つ超能力者がいるんでしょ? 大丈夫?」
絹旗「心配なら待機しておくことを超オススメしますが」
麦野「ギャラは私達で分けるしねー」
フレンダ「な!? ギ、ギャラの為なら仕方ないわね!! 結局、お金に勝てるものは無いって訳よ!!」
絹旗「超単純ですね。では、行きましょう麦野」
麦野「ああ。ま、少しは楽しめるかな?」
―― 第七学区、裏路地
一方通行「………」
御坂「あ、何か顔がしっかりしたわね。じゃあこれで充電OKってことなのかしら」
騒音の中、一方通行は目覚めた。
一方通行「………そォか。オマエが充電を」
御坂「感謝しなさいよね。アンタへの恨みを忘れたワケじゃないけど、今はそんな事言ってる場合でもないし」
一方通行「……あァ。そォだな。感謝しておかねェとな。今回ばかりは、流石にヤバかった」
御坂「ヤバいのは今も同じよ。さぁ、すぐに私達も参戦しましょう」
一方通行「あのヤロウ。今度こそミンチにしてやらねェとなァ」
アックアと対峙する白井、土御門はギリギリの所で攻撃を避け続けていた。
土御門「とにかくアイツに攻撃は当たらないし、アイツからの攻撃も基本防げないと考えた方がいい」
白井「それでこのテレポート連発ですのね。まぁ実際、時間稼ぎは出来ている事ですし気にはしませんが。では結局どうやってアイツを仕留めますの?」
土御門「いや、仕留めようと思うな。アイツは聖人って言ってな。説明は省くが、とにかくそもそもの肉体構造が俺達とは違うんだにゃー」
白井「……聖人? それで能力者でも無いのにあそこまでの挙動を。成程、納得ですわ」
アックア「そろそろ幕引きにしたいのであるが」
土御門「いや、お前はここで足止めされてもらうぜい」
土御門には唯一とも言える算段があった。
それは、アックアの行動理念。
情報通りなら、アックアは無意味な殺戮を行わない。だからこそ充電中の一方通行をその音速で狙いに行かなかったし、絶対に勝てる状況で敢えて撤退を選んだ。
だからこそ、ここで永遠に足止めをしておきたい。
土御門(右方のフィアンマ、左方のテッラ。他にも不穏分子は二人もいるんだ。それにヴェントの死亡も確認されちゃいないしな)
と、そこに。
御坂「行くわよ!!」
一方通行「スクラップの時間だぜェ!? クソ野郎がァァァァア!!」
御坂の超電磁砲と、一方通行の音速の竜巻が重なって突撃する。
アックア「む……ッ!?」
流石のアックアもこればかりは避けるしか無く、右に大きく躱す。
そこに。
ギュバァッ!!! という轟音と共にエメラルド色の光の粒子が建物を貫通して押し寄せる。
アックア「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」
咄嗟に、アックアは辺りの建物を地面から剥がして盾にした。
が、それでも光の粒子――――原子崩しは止まらない。
ドォッ!!!! という轟音が鳴り響く。建物が崩壊し、辺りに塵が舞う。
一方通行「あァ? やった……わけ無ェよなぁ?」
御坂「今の………原子崩し?」
白井「今度は何なんですの??」
土御門「まだ終わっていない!! 白井、空間移動で全員を左の建物の屋上に飛ばせ!!」
白井「め、命令をしないでくださいな!! それに、私の能力では一回につき二人が限度で……」
一方通行「俺を置いてけェ。俺なら何がきても反射でガード出来る」
土御門「よし。頼んだぞ一方通行。これからアックアが何をしてくるかわからない。とりあえずはお前に任せる」
白井「行きますわよ」
シュンッ。と、三人の人間が横の建物の屋上に移動した。
―― 路地裏、とある建物の屋上
白井「ふぅ」
結標「あら。懐かしい顔ね」
ステイル「……フン」
三人が飛んだ先には二人の人間が既にいた。
一人はさらしで胸を巻き、制服のようなものを羽織っている結標淡希。大能力者、座標移動(ムーブポイン)だ。
もう一人は、頬にバーコードのある赤髪の神父。ステイル=マグヌス。イギリス清教、必要悪の教会所属の魔術師である。
土御門「よぉステイル。役者は揃ったことだし、じゃあ人払い、頼むぜよ」
ステイル「命令をするな。まったく。何で僕が科学の人間とここまで協力をしなければならないんだ」
結標「で、土御門。私は何を命令されるのかしら」
土御門「結標は、白井と一緒にアックアの攻撃の回避を頼みたい。アイツの速度はここから見ていただろう?」
結標「正直、あんなのとやり合える気がしないのだけれど。まぁいいわ」
白井「結標淡希……!!」
結標「ふふ。何かしら? でも今はそんな小さなイザコザを気にしているような状況でも無いと思うわよ」
白井「……そうですわね。仕方ありませんわ。この際、今だけは忘れて差し上げましょう」
―― 下の路地
麦野「へぇ。アンタが第一位?」
麦野沈利率いるアイテムと、一方通行が対面する。
一方通行「オマエ誰だ? ………あァ。あの一撃、第四位か。また雑魚が集まったモンだなァ」
絹旗「コイツが一方通行ですか。確かに、超イラつく言葉遣いですね」
麦野「んな事はどーでもいいのよ。アンタ相手にしても面白そうだけど、残念ながらアンタの反射に私の原子崩しは相性が悪い」
麦野「だから、そのアンタが手こずってる相手をぶちのめしてみようかな」
一方通行「バカかオマエ。死にたがりかァ?」
麦野「そう簡単に死ぬかよ」
言った瞬間。麦野の周りから光の粒子がギュオン、と蠢く。
一直線に、アックアのいる場所へと向かう。
アックア「威力だけは凄まじいである。こちらも、奥の手を使わせてもらうとしようか」
アックア「―――THMIMSSP(聖母の慈悲は厳罰を和らげる)」
一方通行「何をゴチャゴチャ言ってやがンだァ」
麦野「さて、と。[ピーーー]か」
―― 建物の屋上
土御門「やばいな……」
ステイル「残念だけど、噂通りなら神の右席としての奴の性質は『神の力(ガブリエル)』。僕の炎じゃ相性が悪すぎるね」
御坂「やばいやばい言ってても私達には意味が分からないわよ!! とりあえず私も反撃してくるわね」
白井「お、お姉様!?」
麦野の原子崩し、一方通行の竜巻、御坂の超電磁砲が、一線にアックアへと向かう。
アックア「TCTCDBPTTROGBWIMAATH(時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ)!!」
衝撃があった。
それしか、知覚する事は出来なかった。
―――――――数瞬の後。
その場に居合わせていた全員の視界に、元の景色が映る。
まるで、何もなかったかのように。
アックアの魔術が、無かったかのように。
”打ち消されたかのように”。
アックア「……………なるほど。これが」
麦野「……何があった?」
一方通行「……チッ。オマエか」
御坂「ア、アンタ……」
屋上の上でも、二人の人間が安堵し、もう二人の人間が驚愕する。
ステイル「相変わらず、奇跡みたいなタイミングで現れる奴だ。もしかして狙っているんじゃないだろうね?」
土御門「それは無いぜよ。間に合ったんだから良しとしようぜい。にしても、カミやんには人払いも効かないんだにゃー」
結標「………あの男、一体何なのよ……ッ!! 私の座標移動も打ち消してたわね。そういう能力なの?」
白井「私も詳しくは知りませんが、お姉様曰く、能力を打ち消す能力者だそうですわよ」
そして、幻想殺しの少年は右手を握りしめる。
上条「お前も神の右席か」
アックア「そうだ。私は後方のアックア。神の右席であると同時に聖人の特性も持つ人間である」
上条「そうか。神裂とかと同じアレか。覚悟は良いか?」
アックア「貴様こそ、右腕とお別れする覚悟くらいはしてきたのであろうな?」
上条「はいそーですかって渡せる程俺の右手は安くないし、それ一つで戦争が治まる程この右手に価値は無いだろう?」
アックア「そうか。―――――残念である」
ゴバァッ!!! と、アックアの周りから膨大な量の水波が発生する。最早この路地裏ごと飲み込んでしまいかねない水の暴力が上条達を襲った。
上条「クソ―――思ったより早い!! 間に合わない!!」
インデックス「ISICBI(刃の切れ味は己へ向かう)」
直後、水の波が方向を変えてアックアへと向かった。
アックア「強制詠唱か。禁書目録もそこにいたのであるな」
アックア「………分は決して悪くない。だが、まぁ一先ずは退いてやるのである。二日後だ。二日後、もう一度ここへ私は現れる」
上条「……」
アックア「それまでに、貴様の右手。切り離す決意をしておくことである」
上条「待て!! インデックスが狙いじゃなかったのか!?」
アックア「それはフィアンマの狙いだ。私は戦乱を治める事にしか興味は無い。即ち、貴様の右手である。では」
上条「………」
そして、この日の戦いは終わる。
―― 学園都市第七学区、上条の寮
八時を過ぎた夜。上条の部屋には、ステイル、土御門、一方通行の三人が集っていた。
寮の門限がある御坂と白井は女子寮に帰り、結標は居候している小萌先生の家へと戻った。麦野達アイテムはそれから話すことも無く、いつの間にやら消えていたのである。
インデックス「また会ったね!」
一方通行「あァ」
インデックス「今日はとうまがご馳走を作ってくれるから食べていってね!」
一方通行「あァ」
インデックス「………聞いてる?」
一方通行「あァ」
インデックス「むうううううううう……!!」
ステイル「やれやれ。で、土御門。そろそろ本題に入ってほしいものだがね。僕としても、この男の部屋なんかに居たくはないんだ」
上条「清々しい程にイラつくなてめぇ……。まぁ言ってる事は正しいな。土御門、話をしてくれないか」
土御門「ああ、いいぜい。まず、今回遭遇したあの後方のアックアについてだ」
―― 同時刻、どこぞのボックスカー内
電話相手『あ、遭遇しちゃった? 謎の侵入者』
電話相手は、気楽そうな声でそう告げる。
その声に麦野が舌打ちし、対応した。
麦野「良いからさっさと詳細を話せ。アイツは何の能力者なのか、どこの暗部所属なのか、それとも暗部所属じゃないのか。全部よ」
電話相手『そうは言うけど、こっちも情報不足でねー。分かってるのは、アレが外部からの侵入者で、学園都市製の能力者じゃなくて、更にあのレベルのがまだ二人、いや三人だったかな? くらいいるって事』
フレンダ「結局、暴れ回れっていう命令はアレと私達を遭遇させたかっただけって訳?」
絹旗「超悪趣味な事しますね。死の危険を超感じました」
電話相手『いやいや、ごめんねー。さて、じゃあこれから言いたい事はもう分かってるかな?』
電話相手は、告げる。
電話相手『アレを含む侵入者四名を、殺せ。これはアイテム、スクール、グループ、ブロック、メンバー、全ての暗部組織に通達する最上位命令よ』
―― 学園都市第七学区、上条の寮
土御門「以上が、アックアの性質だぜい。聖人にして神の右席。司る性質は『神の力(ガブリエル)』。以前、俺とカミやん、ねーちんが交戦したあの天使様だにゃー」
インデックス「『神の力』の持つ特性は罪の帳消し。普通、神の右席はありきたりな魔術を使えないんだよ。けど、その性質を利用する事でポピュラーな魔術だって簡単に使えちゃうんだよ」
上条「でも土御門。俺、いわゆる聖人っていうのがイマイチつかめないんだけど。ようは神裂みたいに、すっげぇ強いって認識で良いのか?」
土御門「ああ。音速挙動を可能にする最強の”人間”ぜよ。正直に言って、アレと対等に渡り合える奴は科学陣営にはいない」
一方通行「俺はやり合えただろォが。たしかに、あのままやってれば負けたかもしれねェが」
土御門「一方通行。一つ大事な事を言っておくが、お前は魔術を演算に組み込んでいるのか?」
一方通行「あァ? 知らねェが、それが世界に存在するモンなら組み込んでるはずだ」
土御門「じゃあ試させてもらうぜよ。ステイル!」
ステイル「仕方ない。僕を恨むなよ。いざとなれば上条当麻に消してもらえ」
ステイル「灰は灰に――――――塵は塵に――――――吸血殺しの紅十字!!」
一方通行「ぐああああああああああッッッ!??」
上条「何かギャグだな」
土御門「ああ、ギャグみたいだぜい。カミやん。消火」
上条「おう」ゲンコロー
一方通行「………………ブチ殺―――土御門「待て待て一方通行。これで分かっただろ? お前じゃ魔術を反射出来ない」
インデックス「つまり、アックアの持つ『神の力』の魔術、水の魔術を使われたら一たまりも無いって事だね」
土御門「カミやんは魔術を打ち消せるが純粋な攻撃には手も足も出ない。かといって、純粋な速度に対応できる一方通行は魔術に対応できない」
土御門「やっぱり、これはねーちんを呼ぶしか無いかにゃー」
上条「たしかに神裂なら同じ聖人だし対抗できるのか」
土御門「そう上手く出来てもいないんだけどにゃー。まぁ、カミやんと一方通行とねーちんのトリオなら何とか行けるか? 問題はどうやってアイツを倒し切るかっていう所にあるんだけどな」
インデックス「聖人は基本的には倒す事が出来ないんだよ。倒したいなら純粋な攻撃だけで昏倒させるとか、でも聖人相手にそれは厳しいし」
上条「純粋な力だけでアイツを倒せそうな超能力者……」
土御門「『一方通行』じゃ決定打に欠ける。『未元物質』は協力を仰げない。『超電磁砲』じゃアイツの攻撃に耐えられない。『原子崩し』は威力だけで他は問題外。……ん?」
一方通行「第五位の能力は通じるだろォな。人間である限りは」
土御門「……んー、じゃあその線で行くかにゃー。運が良ければ一撃で終わらせられるし」
上条「よし、じゃあ今日は解散するか」
十月三日
―― 学園都市、廃ビル
テッラ「中々に手強かったようですねー」
アックア「今回向かったのは学園都市の威力偵察である。本命はあくまで上条当麻の右手だ。他の者を[ピーーー]のは出来る限り避けて通る」
フィアンマ「まぁ、俺様としては禁書目録が手に入ればそれでオーケーだから、お前の指示外行動も望むところだ。お前の実力を買っての許可だしな」
アックア「……フィアンマ。前々から聞きたかった事だが、貴様は一体何を考えているのであるか」
フィアンマ「別に。お前に言って聞かせるような事でも無い。強いて言うなら、世界を救う事、だな」
テッラ「やれやれ。お二方とも、どうしてそこまで異教の猿を気にするのかが理解しかねますねー。全員殺してしまえば早いというのに」
アックア「テッラ。最低限、立ちはだかった敵を[ピーーー]のは許そう。だが民間人に手を出せばその時はお前の首が飛ぶ」
テッラ「それもまた、民間人次第でしょうかねー。ヴェントの天罰術式が生きていれば、無関係の者は無視出来たのに」
アックア「開戦は明日だ。その時、上条当麻がどう動こうとも結果は出る。フィアンマ、主もそれでいいな」
フィアンマ「右手は回収させてもらうがな」
アックア「………」
フィアンマ「それにしても、援軍が無いのは問題だな。別に必要は無いが、やはり動きにくい」
テッラ「元々、ここまで侵入したのも神の右席の独断ですしねー。テロばかり起きている世界を治めるためにローマ正教全体が忙しいですし」
―― 学園都市、とある高校
上条「はぁ」
吹寄「上条当麻。何溜息ついているのよ? まったく」
上条「今日ばかりは許してくれ吹寄、何か、上条さん辛い」
吹寄「言っておくけど、私にはそういうの通用しないからね」
上条「?」
―― 学園都市、常盤台中学
御坂「本当に協力してくれるんでしょうね?」
食蜂「もちろぉん。貴女にじゃなく、あくまで彼に、だけどぉ」
御坂「相変わらずイラつくわね。まぁいいわ。じゃあ今日、放課後に第七学区のアイツの寮に集合よ」
食蜂「ええ。分かったわぁ」
―― 学園都市、とあるビル
垣根「………学園都市には悪いが、やっぱり俺は都市の安全よりアレイスターとの交渉権の方が大事だ。一方通行を潰すに限るぜ」
垣根帝督は、静かに呟いた。
―― 学園都市、路地
浜面「………チクショウ」
削板「お前中々根性あるな。その根性、俺は買うぞ」
浜面「いや、俺はただの腰抜けだ。駒場の野郎が死んで、俺はスキルアウトを束ねる事から逃げた。仲間に、半蔵に全て任せて自分だけ責任から逃げたんだ」
削板「……それでも、俺が超能力者だと知ってて仲間を守ろうとするなんて、根性が無いと出来ねぇよ」
削板「けど、元々悪かったのは人を苛めてたソイツ等だから、とりあえずお前も意識失っとけ」
浜面「はは。……俺は一体、どうすればよかったんだ!!」
削板「すごいパーンチ」
―― 学園都市、第七学区
放課後の学園都市。第七学区はとてつもない騒音と爆炎に包まれていた。
戦闘用ヘリが出撃するほどの事態の中心にいたのは、二人の超能力者。
一方通行「チッ。なンだァオマエ。数字の順番がそンなにコンプレックスか!!!」
垣根「そうじゃない。お前は第一位であり、アレイスターのメインプランだ。俺はアレイスターとの直接交渉権が欲しいんだよ!!!」
一方通行を狙って攻撃してきた垣根帝督と、応戦する一方通行だ。
アレイスターとの直接交渉権を狙う垣根は、アレイスターのプランの核である第一位『一方通行』を[ピーーー]事で自分が第一位に、つまりアレイスターのメインプランになり替わろうとしているのだ。
一方通行「このチンピラ野郎がァ!!」
ゴバァッ!! という衝撃と共に、道路がビキビキとひび割れ、盛り上がる。
そのままアスファルトが岩石程のサイズに分かれ、ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!! と、垣根目掛けて直進した。
垣根「お前の『全てを破壊する力』じゃ、俺の『全てを創造する力』には勝てねぇよ。俺の未元物質はお前の演算領域の外にある物質だ。そもそも、お前が知るモノじゃねぇんだよ」
上条「はぁ、はぁ……おい一方通行!! 何やってんだこんな所で!!!」
そこに、学校帰りの上条当麻がやって来る。
垣根「……ああ。お前もたしかアレイスターのプランの核の一つだったな。幻想殺し、とか言ったか」
垣根「俺の未元物質。消せるモンなら消してみやがれ」
上条「誰だか知らねぇが、今はそんな事してる場合じゃないんだ!! 勝負ならいつでも受けて立つ。だから今日から数日はやめろ!!」
垣根「無能力者のくせによくそんな口がきけたもんだな。まぁいい。すぐに冥土に連れて行ってやる」
上条「一方通行!! 悪い、手伝うぞ」
一方通行「チッ。かなり癪だが、あのガキも近くにいるだろォしチンタラやってるワケにもいかねェしなァ」
その頃、一方通行の言う通り、彼ら三人の周りに出来た人だかりの中には彼女の姿もあった。
打ち止め「ビビっときたのだ!! って、ミサカはミサカは己の直感に従ってみたり~」
佐天「ちょ、リトル御坂さんどこ行くの!?」
初春「駄目ですよ!! あそこは危険ですから!!」
打ち止め「にゃはははー!! 止められるものなら止めてみろー!!! って、ミサカはミサカは子供の身軽さを利用してスイスイ人混みの中を駆け巡ってみる!」
三人の中で、その少女に一番早く気付いたのは。
垣根「おっと。……ああ、アレがあればもっと簡単に済むか」
直後、天使のような未元物質の翼をはためかせ、一気に打ち止めの元へと接近する垣根。
一方通行「あァン、逃げてンじゃねェぞォ――――って、アイツ、やっぱりいやがったのかよォ!! 打ち止めァァァ!!!」
上条「あの子か!! っていうかお前が叫ぶとギャグだな!!」
一方通行「黙ってろ三下ァ!!」
垣根「悪いがこの子は貰っていく。今の条件からすると、この子だけでも確保していればアレイスターとの交渉で優位に立てそうだからな。といっても、メインプランに成り代わらなければそもそも交渉の場にすら立てないのだから意味がないがな」
打ち止め「あれ? 貴方はだぁれ? って、ミサカはミサカは―――キャッ!?」
垣根は打ち止めの悲鳴に目もくれず、彼女の小さい体を軽々と持ち上げて去って行こうとする。
垣根「じゃあな。といっても、数十分は空の旅だが」
打ち止め「空を飛んでる!? って、ミサカはミサカは怖がりながらも驚いてみたり!!」
一方通行「クソ野郎がァァァァァァ!!!」
上条「おい一方通行! 今は叫んでる場合じゃねぇぞ!! 走って追いかけるんだ」
佐天「あの、上条さん!!」
上条「っとと、えっと……佐天さん。どうしてこんな所に?」
初春「私と佐天さんであの子を保護してたんですよ! 迷子っぽかったので……」
一方通行「チッ。余計な事しやがって」
上条「おい、そんな言い方はないだろ。お前の代わりに、あの子を守ってやってくれてたんだぞ?」
一方通行「………じゃあなンだよヒーロー。この汚れた手で、俺のいる暗部までアイツを引きずり降ろしてまで、それでも俺がアイツの隣に立っていてイイとでも言うつもりかァ?」
上条「当然だろ。そんなの結局、お前の自己中心な考えでしか無いんだよ。あの子はお前と会いたがってんだ。なら、お前が守ってやればいい話じゃねぇかよ!!」
一方通行「アイツだけじゃねェ。下手をすればオマエだって、これからは平凡な日常に戻れるとは限らねェんだぞ?」
上条「一方通行」
一方通行「あァ?」
上条「目ぇ覚まさせてやる!!!」
ドゴォッ!!! と、上条の拳が一方通行の反射の壁を打ち破って白い頬に衝突する。
殴り飛ばされた一方通行は真後ろに吹っ飛び、上条はぎゅ、と拳を握った。
上条「お前は優しすぎるんだよ。けど、そこまで優しくて何で『あの子の気持ち』を考えてやれないんだ!!」
一方通行「………まァ、オマエならそう言うとは思ってた。別に驚きやしねェよ。だがこれが俺の選んだ道だ。絶対にアイツだけは光の世界に残すって決めてンだよ」
上条「……そうか。なら、これから俺がお前を闇の世界から引きずり出してやる。何のこともねぇ」
上条「闇の世界に落とすのが嫌なら、闇の世界からお前を引きずり上げればいい話だ」
―― 学園都市、垣根を追う集団
学園都市の街並みを飛び去って行く垣根を追う集団がいた。
それは出遅れた上条、一方通行だけではなく。
御坂「アレで間違いないのよね!?」
初春『はい、白い翼を生やした人です!!』
御坂「じゃあ、先に始めちゃうわよ!!!」
御坂の体から青白い電流が迸る。
地上から、上空の垣根目掛けて電流が空を走った。
ビリビリィ!! という轟音が音速で接近する。
垣根「……ちっ、超電磁砲か」
それを未元物質で防ぎ、垣根は空を飛びながら、御坂の方を向いた。
未元物質でケースのような物を作り、その中に打ち止めを入れ、翼で自動飛翔モードにして御坂美琴と対峙する。
垣根「超電磁砲の電撃は学園都市トップクラスだ。噂でしか聞いた事は無かったが、たしかにこれは中々だぜ。攻撃翌力だけなら一方通行を超えてるかもしれねぇ」
御坂「だったら何よ!!」
会話中にも、途切れる事なく御坂の雷撃と垣根の未元物質が交差する。
垣根「お前は第三位だ。第一位のアイツ曰く、アイツと俺の間にも差があるらしいが、俺は二位と三位の間にも大きな差があると思うわけだ」
御坂「差、ですって?」
垣根「防御能力の差だよ。お前や麦野、心理掌握は能力だけは恐ろしいもんだが、その分、防御力に欠ける」
御坂「……」
垣根「砂鉄の壁なんざ、超能力者には通じないって事だ」
御坂「面白い話をありがとう。じゃあ、お得意の超電磁砲、食らってみる!?」
キィン。という音がした。
ポケットからコインを取り出し、指で一度弾く。
照準を合わせ、垣根目掛けて音速の超電磁砲を発射した。
垣根「へぇ」
が、垣根はとてつもない速度で後方へ移動し、その射程距離外へと逃げた。
御坂「な―――ッ!!」
垣根「射程が短いな。もっと良い物撃ちだせねぇのか? まぁ、持ちあるけるサイズといえばその程度か」
○○「じゃあ、射程ガン無視のこれならどうよ、第二位垣根帝督」
垣根「!?」
反応する間も無く、緑色の閃光が垣根の翼の一本をぶち抜いた。
麦野「まったく、何が第三位の超電磁砲だ。ここで私がこいつより戦果をあげれば、そんな事無いって証明できんのかねぇ?」
御坂「……原子崩し」
垣根「面白れぇ。二人の超能力者と戦う、か。けど駄目だな。麦野、お前の原子崩しだってそう変わらねぇよ」
麦野「あぁ? 何だってぇ?」
垣根「結局、お前も建物の影に隠れれば必中とはいかなくなる。噂に聞くアイテムのAIMストーカーがいなければ無駄弾連発ってわけだ」
麦野「………」
御坂「………」
一方通行「打ち止めァァァァァァァァァァァァァアア!!」
麦野・御坂・垣根「!!」
上条「なんだ、御坂もいたのか!! ちょ、どうにかしてくれ!! 一方通行が暴れ出して!」
垣根「オイオイ……おいおい!!――――ああああああああああああああ!?」
―― 風紀委員、第一七七支部
白井「はい。では、垣根帝督の身柄は警備員に任せます」
黄泉川『ああ。任せるじゃーん』
白井「さて、この子がお姉様のクローンの………あ、愛らしい。―――いけません黒子!! 私には既にお姉様というお方が!!」
御坂「何を一人で展開してんのよっ」ビリビリィ
白井「おォフッ!!!」
食蜂「でぇ、上条さんは一体どこにいるのかしらぁ」
御坂「ああ。アイツならもう帰ったわよ」
食蜂「…………へ?」
御坂「だから、帰ったって」
食蜂「……もぉ、それを先に……言ってほしかったわぁ」
―― 学園都市、バス
五和「やっと中に入れましたね。建宮さん」
建宮「そうだな。学園都市の警備は辛すぎるのよ」
この日、学園都市に天草式十字凄教がアックア迎撃のために潜入した。
アレイスターはこれを許可し、同時にイギリス清教『必要悪の教会』の侵入も許した。
これをきっかけに、魔術サイドのイギリス清教への反発が過激化する。
そんな中、解放されたオリアナ=トムソンと軍事のキャーリサ王女がイギリスで武器を取り、ローマ正教の反抗に対抗した。
―― 夜六時、上条の寮
アックアとの対戦の前日となる今夜。上条の部屋には土御門、一方通行、ステイルが揃っていた。
土御門「アックア相手には天草式十字凄教の力を借りる事になったぜよ」
ステイル「……神裂が昔いたところだけど、アニェーゼ=サンクティスとの一戦の時はそこまで突出した力は感じなかったがね」
一方通行「そのアマクサなんたらってェのはなンだ」
上条「十字教だよ。俺達の仲間側のな」
一方通行「仲間ねェ。まァイイ。続けろォ」
ステイル「焼き焦がしてもいいかな」
土御門「おさえろステイル。で、彼等の他に、ねーちんもそろそろここに来てもらう予定ぜよ」
上条「ふぅん。まぁ良いんじゃねぇの? で、俺達は何をすればいいんだ?」
土御門「カミやんには、アックアの水魔術を打ち消してもらう役割がある。ステイルと一方通行は、念のために俺と待機だ。インデックス保護のためにな」
一方通行「あのガキをかァ? チッ」
ステイル「良いだろう。あの子のためなら何だってやると決めたからね」
土御門「よし、話は以上だぜい。じゃあ各自、作戦の成功を祈ろう。明日のこの時間には、敵が一人消えてる事を」
―― 学園都市 ??
フィアンマ「行ったか、アックア」
テッラ「では。私たちも、行きましょうかねー」
ヴェント「……」
テッラ「ヴェント。貴女も天罰術式は使えなくとも、それでも十分な戦力になります。さっさと出て、さっさと敵をやっつけちゃってください」
ヴェント「分かってるわ。で、私は誰をやればいいの?」
フィアンマ「学園都市の主要戦力を片っ端から潰して上条当麻の逃げ道を消す。つまりは超能力者潰しだ」
ヴェント「それは昨日聞いたわ」
テッラ「第一位の『一方通行』、『未元物質』は昨日やられたようですねー。『超電磁砲』、『原子崩し』、『心理掌握』、愛花悦なる第六位、第七位ですかねー」
フィアンマ「じゃあ俺は心理掌握をやってこよう。聞いた限りじゃ、俺以外に相手出来る奴はいないだろうしな」
ヴェント「じゃあ私は超電磁砲をやる」
テッラ「やれやれ。では私は原子崩しですかねー」
十月四日
―― 学園都市、第七学区の裏路地
アックア「来たか」
メイスを持つアックアの前に、上条、天草式十字凄教の面々が集う。
上条「悪いな。五和」
五和「い、いえっ!! 貴方を殺させるわけにはいきませんから」
アックア「数が増えているな。……右手を差し出す覚悟をして来いと言ったはずであるが」
上条「今はまだ必要なんだよ。この戦いを治めるためにな」
アックア「なるほど。考えている事は同じでも、使い方が違う、というわけであるな。貴様には貴様の考えがあると。だが、それでも貴様の右手が戦争を生んでいる事には違いない。斬って処分する。結果は変わらないのである」
―― 学園都市、学舎の園
男子禁制のこの場に、フィアンマは佇んでいた。
フィアンマ「さて、と」
常盤台生「ちょっとそこの殿方!! どうして殿方がこんな所にいるんですの!?」
御坂「……まさか」
白井「お姉様。確認を取っている時間は無さそうですわよ」
食蜂「あらぁ。あれが言っていた神の右席とやらかしらぁ」
御坂「私も姿は見た事無かったけどね。多分あれもそうだわ」
フィアンマ「……ああ、そこに超電磁砲がいたのか。なるほど。じゃあヴェントには他のやつを頼むとするか」
ゾア、とフィアンマの右肩の右手が蠢いた。不気味に上に持ち上がり。
フィアンマ「心理掌握に超電磁砲。加えて転移能力者もまとめて、俺が地に落とす」
御坂「…………やってやろうじゃないの!!」
白井「お姉様。相手の手の内も分からない内に特攻するのはおやめくださいませ」
食蜂「でもこんなの。私が操ってしまえば終わりじゃ――フィアンマ「そうだな。それだけが厄介だった」
フィアンマの『右手』が、振り下ろされる。
その瞬間、崩壊が起こった。
辺りに集まっていた常盤台生が全員意識を失いかろうじて、転移で躱した御坂、白井もその状況を見て息をのまずにはいられなかった。
―― 学園都市、第二三学区、航空ターミナル
ヴェント「良い所ね。ここ」
一方通行「オマエがあの日、打ち止めを狙ってた奴の内のもう一人かァ」
ヴェント「打ち止めだぁ? あー、あの上条当麻が守ってた奴ね。知らないわ。”そんな奴”」
一方通行「守るなンてェのは性に合わねェから抜け出してきたがァ……正解だったなァ。こンなムカつく野郎はブチコロさねェと気がすまねェ!!」
ゾン!!! と、一方通行の背中から黒い翼が生える。
全てを無に帰す黒翼と、ヴェントが対峙する―――――え、大丈夫?
―― 学園都市、第七学区
御坂と白井は圧倒的なフィアンマの右手から逃げ続けていた。
御坂「何なのよあの右手はっ!! 反則じゃない。振った瞬間に何でも壊すとか!!」
白井「―――来ますわ!!」
シュンッ! と、フィアンマの右手が振るわれる瞬間に白井が空間転移で御坂ごと遠くへ飛ぶ。
そのたびに辺りが壊滅的な状態になり、既に空中を戦闘ヘリが飛び交っていた。
フィアンマ「やれやれ。一撃で終わらせたいのに。まぁ、範囲外という事も無いが、テレポートとは便利なものだな」
エツァリ「さて、行きますよ」
結標「アレが土御門の言ってた右方のフィアンマね」
一〇〇三二号「戦闘開始です。と、ミサカは開口一番に宣言します」
妹達「行きます、とミサカも」「一〇〇三二号に続いて」「戦闘開始を」「宣言します」
フィアンマ「…………雑魚が何人寄っても同じ事だっていうのに」
―― 学園都市、第七学区(VSフィアンマ)
何千人もいた。
だが。
彼等の大半が、いや、三分の二以上が、フィアンマの一撃の下、地に伏した。
フィアンマ「俺様の右手の前に何かがやれるとするなら、それこそ上条当麻かヴェントくらいのものだ。無駄だよ。俺様には如何なるチカラも通用しない」
フィアンマ「そういう魔術なんだ。俺が後手に回ろうと、世界ごと崩壊させようとしても、俺が右手を振るえばそれだけで先制し、葬り去ってしまえる」
御坂「それくらい強いって事は分かってんのよぉっっ!!」
フィアンマ「!」
御坂の超電磁砲が飛ぶ。が、当然のようにフィアンマはこれを撃墜する。
白井「貴方のその右手がそれほどの力を有しているのは理解出来ましたわ。けれど、ならば対策も簡単ですのよ」
結標「要は、右手を振らせなければ良い。もっと言えば、振るおうと思う前に攻撃を通せばいい」
白井と結標の転移能力。彼女達の不可視の一撃が、連続してフィアンマに行われる。
フィアンマ「こんなチートみたいな事をするのは子供染みていて癪だが、それならそれで、常に右手を振るえばいいだけの話だ」
宣言通り、フィアンマの右手が振るわれる。それだけで白井と結標の転移能力が後手に回り、彼女達の能力を悠遊と回避したフィアンマが優勢に転じた。
業!!! と、空気ごと衝撃を伝道させた一撃が白井達に振るわれた。
白井「ぐッッッ!?」
結標「あぁ―――っ!!」
御坂「黒子!! 結標淡希!!」
御坂「――――よくも!!」
ビリビリィ!! と、御坂の髪の毛の一本一本から二億ボルトの電流が流れだす。
フィアンマ「無駄だと何度言わせるつもりだ」
が。
御坂「!!!」
白井「~~~~ッ!!」
結標「あああああああっ!?」
エツァリ「……く、そ……御坂さん……ッ!!」
フィアンマ「終わりだ」
超能力者全員集合!! が理想だったんですが、どうしても垣根が共闘してくれる未来が想像できなかったので……
―― 学園都市、第二三学区、航空ターミナル(VSヴェント)
一方通行「なンだァ? もォ終わりか。全然楽しめてねェが……まァイイかァ」
ヴェント「………う、そ……だ」
一方通行「つまんねェなァ。これならまだガキのお守をしてる方がマシだったかもなァ?」
フィアンマが御坂達を圧倒する中で、一方通行はヴェントを圧倒していた。
空気の弾を発射するヴェントの魔術は一方通行には反射できない。
なら、簡単な話、避けてしまえばそれで済む。
一方通行「これなら超電磁砲でも倒せたかもなァ? 俺はあのアックアとかいう野郎並に面白ェ戦いを望ンでたンだが……期待外れだ」
―― 学園都市、第七学区の裏路地(VSアックア)
上条「あ、ガ……ッ!!」
五和「建宮さん―――援護を!!」
建宮「任せるのよ!! チィ……後方のアックア。噂にたがわぬ化け物なのよな……!!」
アックア「もしかしてその程度で私を超えられるとでも思ったのであるか。上条当麻、貴様の言葉で返してやろう。そんな幻想は、まとめてこの私がブチコロシてくれる」
上条「………ぐ、この、野郎……!!」
アックアの神速の攻撃に対し、上条達は手も足も出ていなかった。
流れるようなメイスさばきに、上条を含む数十人が一撃で薙ぎ払われ、辛うじて躱した五和と建宮も次の攻撃の瞬間を恐れている状況だ。
建宮「………まだ、作戦はあるのよな!!」
五和「いきます!!!」
天草式十字凄教「「「「「おう!!」」」」
アックア「……ほう」
そこから数キロ離れた地点。ここもまた路地裏。
そこに、一人の超能力者がいた。
削板「何か、根性のありそうな声が聞こえるな」
浜面「まったく、今日の学園都市は一体どうなってんだ……」
削板「よし、観に行こうぜハマヅラ!!」
浜面「はぁ!? おい冗談だろ!? もうアンタの行動にはウンザリなんだって!! おい、待てよ!!」
浜面「………おいおい、俺一人ここに残ってたらどうなるか分からねぇぞ!! 待てって削板!!」
―― 学園都市、第七学区の裏路地(VSアックア)
アックア「いい加減にしろ。上条当麻の右腕一本差し出せば済むというのに、貴様等が命を差し出す必要は無いのである」
建宮「ほほぉ? 言ってくれるのよな。確かに、後方のアックア……お前は退くかもしれねぇのよ。だが、他の奴がそれで退くとは思えんのよな」
アックア「……」
建宮「右方のフィアンマ、神の右席のリーダー格。アイツとはまだ会っていないが、アイツの目的は禁書目録らしいのよな? 時に、前方のヴェントは上条当麻を右腕一本どころか殺そうとしたって聞く。アンタ等神の右席も、一枚岩とは言えんのよな」
アックア「ならばどうする? 最早、戦争は避けられないのである。だが、上条当麻の右腕一本で私は手を退くと言っているのである。いくらフィアンマと言えど、一人だけでローマ正教徒全員を駆り出す事は出来ん。私が退けば、戦争は回避できる」
五和「……そんなの、交渉でも何でもないじゃないですか!!」
アックア「誰が交渉だと言った。私は譲歩してやっているのである。無闇に人を[ピーーー]必要も無い最善の道を、最大の因子を、取り除こうとしているにすぎないのである」
建宮「………結局、それはお前さんの自己満足なのよ。無闇に血を流させたくないのなら、人を殺したくないなら自分の手で右方のフィアンマや左方のテッラ。いや、神の右席ほどの立場を持つお前さんなら、ローマ正教の主教だって止められるはずなのよな!!!」
口から血を流し、腹を抑えながら、建宮は剣をアックアに向ける。
戦闘再開の合図。
いや、決別の合図。
何があろうと、アックアに上条の右腕を渡しはしない、と。
建宮「上条当麻は戦争を呼ぶ奴じゃない。むしろ逆なのよな」
五和「彼は、戦争を終わらせてくれる人です!!」
建宮「聖人崩し。ここに成す」
五和「後方のアックア。覚悟!!!」
アックア「良い覚悟である。己の無力さを知ってなお私の前に立ちはだかると言うのならば。そこまでの覚悟でもって向かってくるのならば、命を貰うのが礼儀であろう」
再び、アックアの凶刃が大きく振りかぶられた。
建宮「――――――??」
五和「え、どうし……て?」
アックア「――――ほう」
建宮と五和を一瞬で死の世界にやれる一撃は、途中で停止した。
だがアックアがやめたわけではない。
止められたのだ。
聖人の一撃を、この男が止めたのだ。
白ランをはためかせ、ハチマキが根性を表す万国旗の服の男。
学園都市第七位。
世界最大の原石と称される根性の男。
削板軍覇。
削板「随分と根性ある戦いだな。ところで、あんたは何のために戦ってんだ?」
アックア「部外者――にしては無視できないチカラの持ち主である。世界最大の原石、か。唯一、此方の世界にも名の知れている男。削板軍覇か」
削板「聞こえなかったか?」
アックア「―――フン。貴様の後ろの男女の更に後方に、倒れている一人の男がいるであろう。その男の右腕を切り落とし、戦争を止める事が目的である」
削板「………ああ、よく見たらかみじょーじゃねぇか。で、本気で言ってんのかそれ?」
アックア「冗談で言うような内容ではないのである」
削板「……………かみじょーの事だ。また、簡単な衝動に押されて動いたんだろうな。それはもしかしたら、無能力者でありながら超能力者を止めたあの時のように、たった一人で戦争を止めようとしたのかもしれないな」
削板「もしかしたらそれは学園都市、いや、世界。それはもしかすれば、たった一度共闘をしただけの俺や、俺の後ろの根性ある二人。もしかすれば、もしかすれば、お前すらも守ろうとしたのかもしれないな」
アックア「……」
削板「こんなに根性ねぇ奴は初めてだ。だからここはちょっと根性出す」
削板「手加減は出来ねぇから覚悟しろ」
アックア「望むところである。言っておくが私は聖人だ。貴様こそ、私にそんな理由で喧嘩を売ると寿命を縮めるぞ」
二つの巨石が、激突する。
アックア「むぅううん!」
ゴアッ!!! と、とてつもない大きさのメイスが横一線に薙ぎ払われる。
一瞬にして辺りの建物が倒壊し、地面が割れ、震動が響く。
削板「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
アックア「―――――――ッ!!」
そんなメイスに対して、削板は単純に拳をぶつけた。
巨大な凶刃を止めるどころかその拳はメイスを後ろに振り払った。
いや、メイスを、ではない。アックアの一撃を跳ね返したのだ。
聖人の一撃を。
削板「強ぇな……お前。なんて強さだ……。根性ねぇ割には中々にやる」
アックア「貴様こそ、世界最大の原石は伊達では無いようであるな。私を相手にここまでやるとは……この間の第一位と言い、学園都市製も侮れんモノがある」
一方通行「オマエこの間の奴だなァ!! なァに俺をおイて遊ンでやがンだァ!?」
アックア「噂をすれば―――か」
削板「ん?」
建宮「五和。悪いが、彼等には時間を稼いでもらうのよな」
五和「は、はい!!」
建宮「動ける奴はすぐに上条当麻を病院まで連れていけ。すぐにだ!!! 急ぐのよな!!!」
アックア「逃がすと思うのであるか」
追いかけようとするアックアの前には、この二人が立ちはだかる。
削板「そこまでの力を持っていてそんな事にしかその力を使えないなんて、恥ずかしくねぇのか?」
一方通行「逃げンじゃねェよ三下ァ!!! オマエにはもっと俺と遊ンでもらわねェと割に合わねェンだっつのォ!!」
アックア「厄介な壁である……―――THMIMSSP(聖母の慈悲は厳罰を和らげる)―――TCTCDBPTTROGBWIMAATH(時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ)!!」
轟!!! と、アックアのメイスに怖ろしい程の力が加わっていく。
削板「!!」
一方通行「チッ」
莫大な衝撃が発生し――――
一方通行「……」
削板「???」
アックア「―――?」
が、またしてもアックアの最大の一撃は止められた。
ビキビキ、と歪なヒビが入り、ボロッ、と崩れ、その腕が割れる。
交差する力を失ったアックアのメイスが、今はもう誰もいない場所を振り抜いた。
風斬「………」
一方通行「オマエ……なンだそれはァ?」
崩れ落ちた腕が、風斬の腕が修復されていく。
風斬「……私ですか? 私は、私は……化け物ですよ」
削板「まさか治るなんて、スッゲェ根性だ」
一方通行「化け物ねェ。つまりは俺と同類ってわけかァ? まァイイ。力を貸せ。オマエの正体なンざどォでもイイが、あの野郎はここで潰さねェとならねェ」
風斬「…………私が、怖くないんですか?」
一方通行「この街で何言ってやがンだ」
削板「俺は根性ある奴が大好きだ!! さて、反撃と行こうぜ」
轟!! と、削板の周りの地面が震動し、削板を中心にヒビが生まれる。
削板「一瞬、動きを止めてやる」
アックア「ぬぅ……お………ッッ!!」
削板「止まってろ――――――――――ォォォッ!!!」
瞬間。アックアをとてつもない重力、いや、風圧? 気圧? が、襲った。
聖人であるアックアを抑え込もうとしているのか。
しかし。アックアは、その程度では止まらない。
アックア「……ぬ、うぉァア!!!」
一方通行「随分と抜け出すのが遅かったじゃねェか。さてはもう限界かァ?」
風斬「行きます!!!」
だが。一瞬もあれば百の命を潰せる怪物達がその数瞬を逃さない―――。
―― 学園都市、第三学区、プライベートホテル屋上
麦野「で、言い残す事とかある?」
テッラ「そちらこそ。神の右席を相手に、そこまで余裕を見せない方が良いと思いますがねー」
麦野「言ってろ。さぁて、絹旗は前方支援。フレンダは多角支援。滝壺は今回は下がってろ」
アイテム「「「了解」」」
開始早々、麦野の原子崩しが五発飛ぶ。
テッラ「優先する。―――私の肉体を上位に、相手の攻撃を下位に」
優先術式。『光の処刑』によって、麦野の原子崩しがテッラによって完全防御される。
麦野「……はぁ?」
絹旗「なるほど。超厄介な相手っぽいですね。少し研究が要りますか? 麦野」
麦野「まぁ、とにかく何発か撃ってみよう。ちょっと大雑把にやるからアンタ等は射程外にいな」
フレンダ「ちょ、ちょっと、ホテルは壊さないでね……?」
麦野「また新しいの借りてやるってぇの!!」
ビュオン!!! と、麦野の原子崩しが再び飛ぶ。
が、優先術式によってまたしてもテッラには傷一つつかない。
テッラ「異教のサルはやはり頭もサル並なんですかねー」
テッラ(とはいえ、まぁこの人数はまずいですかねー。いえいえ、私が不利なわけではありませんがねー)
テッラが小麦粉をバサァ、と振りまく。
すると、それがギロチンの形になり。
麦野、絹旗、フレンダ、滝壺に襲い来る。
麦野「それ」
フレンダ「ちょ、ちょ!! 結局、私も参加させられちゃうって訳ぇ!?」
絹旗「ただ小麦粉を飛ばす能力とは思えませんし、まぁ形通りの効果があるとみていいでしょう。滝壺さんは私の後ろに」
ガガガガガガガガガ!! と、多数の轟音が屋上に響く。
既に辺りは夕焼けになりつつあった。
何度かの交戦が続く中。
絹旗「麦野。超試してみたい事があります」
絹旗が前に出る。
麦野「良いけど、まぁ死ぬんじゃねーぞ」
絹旗「これで敵の能力は超ひも解かれます。まるでB級映画のラストをタネ明かしされる前に超推理するような感じです」
テッラ「気付いたんですか? この『光の処刑』の正体に」
絹旗「ひかりのなんたらっていうのは超よく分かりませんが、何となく」
テッラ「ですが、近づかせるわけにもいきませんがねー」
何度目かも分からない小麦粉のギロチンが、今度は全てが絹旗に向かう。
それを躱し、あるいは窒素装甲で上から拳骨で叩き割り、すいすいとテッラの近くまで進んでいく。
テッラ「ぬぅ―――ッ!!」
絹旗「さて、なんか近くで見るとより一層気持ち悪いですが、そこは私の能力に超感謝、といったところですね」
グ、と絹旗が拳を握る。
テッラ「ふっ」ニヤリ
テッラ「優先する。――私の体を上位に、他の人間の体を下位に」
優先の魔術が発動する。
これで、絹旗の拳はテッラには一切効かない―――――はずだった。
テッラ「ぶぐあえぇぇえあああッ!??」
テッラが絹旗によって殴り飛ばされ、隣のビルの屋上まで吹っ飛んだ。
絹旗「上位と下位っていうのが超重要なキーだったんですね。つまり、優先……答えは最初から超言っていた、と」
麦野「なるほどにゃーん。絹旗の拳は下位にされたけど、でも絹旗は”自分の拳”で攻撃してるわけじゃない」
絹旗「はい。私の能力は窒素装甲。常に体に窒素の膜を張っていますから」
絹旗「それに、例え窒素を下位にしても私の生の拳が通りますし。私の能力とは超相性が悪かったみたいですね」
左方のテッラ――――撃退。
―― 学園都市、第七学区の裏路地(VSアックア)
アックア(まさか、退く事を考える事になるとは思ってもいなかったのである)
アックアは、目の前の集団を眺めては、溜息をつく。
削板軍覇。一方通行。そして謎の少女。天草十字。
アックア(だが、今は上条当麻がいない。ならば、魔術を使えば一網打尽にできるのである)
アックアを中心に水があふれだし、それが渦を巻いて渦潮のように変化する。
建宮「まずいのよな……!!」
一方通行「チッ。オイ。そこのクワガタ頭」
建宮「ク、クワガ……ッ!? 何なのよな赤眼!」
一方通行「あれは水ごとそのまま”魔術”っつーもンなのかァ? それとも、性質そのものは水かァ?」
建宮「性質は水なのよな!! だから蒸発させる事も可能なのよ。けども、アックアほどの魔術師なら、蒸発させても一瞬で魔術を発動してくるのよな」
一方通行「……チッ」
削板「よし、俺がやる」
風斬「……」
削板「要は、絶対等速とかとは違って、魔術で操ってんだろ? なら、俺がどうにかふっ飛ばしてみる」
一方通行「第七位」
削板「?」
キュイーン!! と、一方通行が削板を投げ飛ばした。
一方通行の能力、ベクトル操作。
それによって、削板の体が神速で飛ばされたのだ。
常人なら肉がはじけ飛ぶこれも、原石たる意味の分からないチカラを持つ削板ならば耐えられた。
その速度を利用して。
削板「なるほ――――どぉお!!」
アックア「ぬ――だが、魔術はどうするつもりである」
インデックス「CFA(上方へ変更せよ)」
グイン!! と、水の魔術が強引に上へと持ち上げられた。
強制詠唱。
ステイル「まったく。上条当麻が病院に連れていかれたっていうだけで飛び出していくなんて」
土御門「妬いてるぜよ? ステイル」
ステイル「誰が。――――魔女狩りの王」
土御門「さってさて、俺も命を惜しがってる場合じゃないな。――――場ヲ区切ル事。紙ノ吹雪ヲ用イ現世ノ穢レヲ祓エ清メ禊ヲ通シ場ヲ制定 (それではみなさん。タネもシカケもあるマジックをごたんのうあれ) 。――界ヲ結ブ事。四方ヲ固メ四封ヲ配シ至宝ヲ得ン (ほんじつのステージはこちら。まずはメンドクセエしたごしらえから) ――折紙ヲ重ネ降リ神トシ式ノ寄ル辺ト為ス (それではわがマジックいちざのナカマをごしょうかい) ――四獣ニ命ヲ。北ノ黒式、西ノ白式、南ノ赤式、東ノ青式 (はたらけバカども。げんぶ、びゃっこ、すざく、せいりゅう)
土御門「――式打ツ場ヲ進呈。凶ツ式ヲ招キ喚ビ場ヲ安置 (ピストルはかんせいした。つづいてダンガンをそうてんする) ――丑ノ刻ニテ釘打ツ凶巫女、其ニ使役スル類ノ式ヲ (ダンガンにはとびっきりきょうぼうな、ふざけたぐらいのものを) ――人形ニ代ワリテ此ノ界ヲ (ピストルにはけっかいを) ――釘ニ代ワリテ式神ヲ打チ (ダンガンにはシキガミを) ――鎚ニ代ワリテ我ノ拳ヲ打タン (トリガーにはテメエのてを)」
一方通行「くかきけこかかきくけききこくけきこきかかかーーー!!」
削板「このまま――――すごい、ぱーんち!!」
―― 学園都市、第七学区
御坂「………ん、アイツ、は……?」
白井「気が付かれましたかお姉様」
結標「……何か、妙なのよね。あの右方のフィアンマとかいう奴もあれだけ余裕だったのに帰って行って、しかも私達の傷まで塞がってる」
御坂「あ、本当だ。……何で?」
白井「高位の治癒能力者、にしては数も規模も超能力者クラスですわね。何か裏がありそうな気がしますが、とりあえずは無事、という事ですの」
―― 学園都市、裏路地
削板「本当にスッゲェ根性だ。まさか俺等の傷まで全部塞いじまうなんて」
風斬「……い、いえ。私はこういう存在ですから……」
一方通行「アックアの野郎は逃げやがったかァ。まァ、逃したのは俺の責任だな」
建宮「助かったのよな。本当に」
五和「これで、少しの間は学園都市は平和なはずです。そちらの人からは『天使の力』を感じます。おそらく貴女が、噂に聞いていた人工天使ですね」
風斬「……はい」
五和「なら、彼女が力を行使した事で、神の右席は学園都市を攻めてはこないはずです。それこそ、準備が終わるまでは」
一方通行「……」
土御門「オマケに、学園都市の統括理事会はフィアンマの攻撃で殆どが崩壊したんだぜい。暗部を束ねる奴もおそらくやられてるな」
一方通行「あァ? てェ事はつまり」
土御門「俺等の解放。だぜよ」
この日。学園都市最強の超能力者と神の右席の対決は一時終結する。
―― 聖ピエトロ大聖堂
フィアンマ「次は全ての準備が終わってからだ」
アックア「神の右席もあと二人か。中々に侮れんな。学園都市」
フィアンマ「なぁに。俺が禁書目録の知識を得れば全て終わる」
そういえばガンガン書き込んでるけど、このスレ見てる人っているのかな?
あ、嬉しい。
あと、設定は多少忘れてるかもしれません。
一応最新刊(新訳14)までは読んでるけど、流石に覚えてない部分がちらほら。魔術の詠唱とかは逐一確認してます。あと決め台詞とかもそれっぽくなるようには頑張って……います。
見てますよ。これからも頑張って!
>>60 ありがとうございます!
十月五日。
―― 学園都市、第三学区、プライベートプール
フレンダ「結局、このプールは麦野の金で借りてる訳よ!! そ・れ・な・の・に、何でアンタ達までここにいんのよぉー!!」
学園都市第三学区にあるホテル。その中のプライベートプール。
麦野が貸し切りにしたこの空間には、今回の戦いに参加した多数の実力者がそろっていた。
白井「あら、良いではありませんの。何なら、私が貸し切りにして貴女方を追いだして差し上げてもよろしくてよ?」
フレンダ「むううううう!! 麦野っ!!」
麦野「私に振るんじゃねぇよ。別に減るもんじゃないし、今回は放置してやってんだよ」
御坂「………」
麦野「あん?」
御坂(何食べればあんなに大きく……?)
白井「お姉様~一体何を―――ハッ?!」
白井(胸が……大きすぎですのぉおお……)
御坂・白井「ジ~ッ」
麦野「……ジロジロ見んな。なんだよ。ああ、胸か。たしかに、アンタ等貧相だもんなぁ」
そんな四人を見ている絹旗が、自分のスタイルを見下ろしてからグ、と拳を握る。
絹旗「い、いえ。年代を考えれば今の私の歳的には超スタイル良い方ですから」
滝壺「………かおがくらい」
絹旗「た、滝壺さん!? そそそ、そんな事は無いです!」
一方で、グループを解放された四人は、アックアと激突した路地裏に集まっていた。
エツァリ「さて、どういたしましょうか。これから」
結標「別に。解放されたんだから好きにすればいいじゃない。私はもう貴方達と会う事も無い事を今から祈っているけれど?」
土御門「俺達が解放されただけで、暗部制度が解体されたわけじゃない。また別の統治者や指令者が現れて、また他の奴が暗部に入っていく。いつかは俺も、結標も、海原も、ここに逆戻りするかもしれない。勿論。一方通行、お前もな」
一方通行「……だが、まァそォだな。俺等を取り巻く状況は何ら変わってねェワケだ。闇から引きずりあがったワケじゃねェ」
結標「それでも、仮初めだとしても私はこの自由を楽しむけれど? 何で貴方達ってそう悲観的、っていうか暗く考えるのかしら。未だに私はそこが理解出来ないわ」
エツァリ「確かにそうですね」
結標「まるで元いた場所が光の世界みたいな言い方しちゃって。特に一方通行。貴方、一万人を殺した、なんて言うけど、その前から手はとっくに汚れていたじゃない」
一方通行「………あァ?」
結標「あら。禁句だったかしら? でも、良いわ。どうせもう会う事も無いでしょうし」
土御門「いや、多分すぐに会う事になるぜよ。お前が、まだ誰かを守ろうとするなら、な」
結標「神の右席の事なら、私はもう参加するつもりは無いわよ。私の代わりなら白井さんで務まるし、出張る必要も無いからね」
一方通行「土御門。で、休暇はどのくらいある?」
土御門「ざっと五日間ってところぜよ。けど、それはアイツ等がもう一度攻めて来るまでの期間だ。こっちから攻める選択肢が無いわけじゃない」
一方通行「…………そォか。―――じゃあな」
土御門「ああ。またな。一方通行」
そして、一方通行もまた。
帰るべき場所へ。
十月六日
いつもと何も変わらぬ朝。
上条当麻は自室の風呂場で目を覚ます。
上条「………ふ、不幸だぁあ――――はっ!? お、俺は遂に夢の中でまで不幸に……」
上条「不幸だぁあああああああ!!」
すると、ふにゃー!! という猫の声が風呂のドアの外から聞こえてくる。次に。
インデックス「とうま!! うるさいから目が覚めちゃったんだよ? 何をそんなに不幸不幸って言っているのかな」
上条「多分、食事に関してはお前が原因なんだとは思うけどなインデックス」
インデックス「むううう」
―― 学園都市、第七学区。道路。
一方通行は光の下を歩いていた。
どうにも眩しくて歩く気になれなかったこの街並みも、少しは好きになれそうな自分がいると薄々思ったりもしているところである。
黄泉川「お。ようやく見つけたじゃん。一方通行」
一方通行「チッ。黄泉川か」
黄泉川「打ち止めが捜してたじゃんよ。一体、あの日からずっと何をしてたじゃん? 話では、この辺りで一昨日大暴れした白髪の能力者がいたって聞いたりもしたけど」
一方通行「知ってるモンを尋ねるってェのは性格悪ィんじゃねェか?」
黄泉川「そりゃそうじゃん。さぁ、帰ろう」
一方通行「俺はまたどこかへ消えるかもしれねェぞ」
黄泉川「そしたらまた捜しに行くじゃん」
一方通行「………お人好しが」
―― 窓の無いビル
土御門「いい加減に話したらどうだ。お前のプランの最終計画とやらを」
アレイスター「何の事かね?」
土御門「俺が何も知らないとは思っていないはずだが?」
アレイスター「……君の見解を、まずは聞こうか」
土御門「ローマ正教にはC文書という霊装があった。イギリスではカーテナという武器がキャーリサ王女の手に渡った。そして垣根帝督の暴走。全て、お前のプラン通りだったんだろう?」
アレイスター「答え合わせにはまだ早いな。お前はまだ、奴の存在を知らない」
土御門「奴、だと?」
アレイスター「さて、では私は更なるプランの進行を見越して駒を進めるとする」
土御門「………まぁいい。俺がここでなにか反論する事すらも、お前のプラン通りなんだったらするだけ無駄だ」
―― 学園都市各地
インデックス「とうま。とうま。今日の晩御飯は何かな?」
上条「そうだな。今日は送られてきた素麵の更なる食べ方を開拓しようと思うんだよ――っと。メール?」ピリリリ
一方通行「……」ピリリリ
打ち止め「しばらくいない内に友達が出来たの? って、ミサカはミサカは貴方の携帯の画面を覗きこんでみたり!」
土御門「……アレイスター」ピリリリ
エツァリ「おや? 僕のところにもメールが」ピリリリ
御坂「何かしら。メール?」ピリリリ
白井「私の所にもですわ。臨時連絡の一斉送信か何かでしょうか?」
麦野「ちっ。また仕事かよ」ピリリリ
フレンダ「結局、仕事からは抜け出せないって訳よ」ピリリリ
絹旗「……」ピリリリ
滝壺「?」
垣根「……」ピリリリ
削板「おっと。メールなんて久々だな」ピリリリ
浜面「?」ピリリリ
結標「ほら。放っておいてなんてくれないじゃない」ピリリリ
この日。学園都市の高位能力者達にそれぞれ一件のメールが届く。
差出人不明のメールは、学園都市を戦乱の地へと変えていくのだった。
『上条当麻殿』
今夜十時。一方通行による絶対能力進化計画が再始動される。
なお、今回は御坂美琴も協力しているとされるため、彼女の動向にも注意されたし。
場所は、第十七学区操車場。
『一方通行殿』
今夜十時。量産型能力者計画の第二シーズンが開始される。
なお、この計画は御坂美琴の貴方に対する復讐心から生まれた物であり、更にこれを上条当麻も見逃したものと推測される。
場所は、第十七学区特別拘置所。
『土御門元春殿』
これは最上位命令である。まだ君達は解放されてはいない。
今夜十時。上条当麻が第十七学区操車場に現れるだろう。
そこで、彼を捕獲し、第十七学区特別拘置所へと運べ。
『御坂美琴殿』
今夜十時。一方通行による絶対能力進化計画が再始動される。
その計画は第二シーズンに移行する。
研究場所および実験施設は、ダイヤノイドである。
『白井黒子殿』
今夜十時。ダイヤノイドが襲撃される。
風紀委員を集め、謎の襲撃者を迎撃されたし。
『麦野沈利殿』
仕事はまだ終わっていない。
今夜十時。御坂美琴がダイヤノイドを襲撃する。
そして今回、彼女との戦闘を公式で許可する。この許可をどう使うかは君次第だ。
『フレンダ=セイヴェルン殿』
仕事の時間だ。
麦野沈利と共に行動せよ。
『絹旗最愛殿』
最重要指令につき、他言無用である。
先日まで襲ってきていた謎の襲撃者。彼等の目的は上条当麻であり、学園都市としても彼を守りたい。
それに関連して、君には彼を守ってもらいたい。
場所は第十七学区操車場。時刻は十時十分ほどだろうと推測される。
『滝壺理后殿』
今回の任務はアイテムではなく、君一人に通達する。
今夜十時、武装無能力集団『浜面仕上』とファミレス『ジョセフ』で合流し、その後はテレスティーナ殿の指令に従え。
『垣根帝督殿』
これを遂行すれば、アレイスターとの交渉の場を設けると約束しよう。
木山春生及び妹達を一人残らず抹殺せよ。一方通行の邪魔翌立てにも注意されたし。
『削板軍覇殿』
上条当麻が再び狙われようとしている。
一方通行の非道な実験も再び行われる。
垣根帝督の動きには注意せよ。
テレスティーナ=木原=ライフラインを止めろ
『浜面仕上殿』
今夜十時、ファミレス『ジョセフ』に行け。後は滝壺理后の指示に従え。
『結標淡希殿』
子供達を人質に取る非道な研究者、木山春生を殺せ。
―― 学園都市、第七学区、上条の寮
上条「流石に、嘘だろ。アイツはだって、もう終わらせたじゃねぇか!! 打ち止めを守ってるのだってアイツなのに……チクショウ。じゃあ一体誰がこんなメールを……ッ!!」
インデックス「とうま? どうしたの?」
上条「少し、出かけてくる。素麵なら冷蔵庫の中にあるから、待ってろ」
インデックス「………ちゃんと帰ってこないとやだよ?」
上条「心配すんな。俺は、帰ってくるよ。誰とも知らない大馬鹿野郎を一発ぶん殴ってな」
―― 学園都市、常盤台中学
白井「お姉様。私、少しばかり用事が出来てしまいましたの。残念ですが、デー……もとい、買い物はまたの機会に」
御坂「え、ああ……うん。いって、らっしゃい……」
白井(ダイヤノイドと言ったら、あの高級なホテルですわよね? まさかあんなところを狙う輩が要るとは思えませんが……神の右席、とやらがまた現れるとしたら納得は出来ますわ。念には念を。初春に連絡しなくては)
御坂(……一方通行。一方通行!!!)
―― 学園都市、黄泉川の部屋
一方通行「………なンだァこれは。オイ打ち止め。なンか知ってるかァ?」
打ち止め「ううん、知らないよ? って、ミサカはミサカは真実を言ってみる」
一方通行「だろォな。……まァ、真実じゃねェのはハナから分かってる。問題は、どこのバカがこんなクソッタレなメールを送りやがったのかってェ事だなァ」
―― 学園都市、ファミレス『ジョセフ』
麦野「わり。用事出来たわ」
フレンダ「あ、麦野!! 私も行く!」
麦野「……つってもなぁ。………んー、まぁ、良いか。同じアイテムだし? 知らねぇけど」
絹旗「私も不満ですが超用事が出来ました。映画はまた今度にする事にしましょう。滝壺さんはどうします?」
滝壺「わたしはここにいる」
絹旗「そうですか。では、超失礼します」
―― 学園都市、各地
垣根「まぁ、良いか。あの野郎にやられた傷もまだなおってないが、復讐も兼ねて」
削板「なんか最近は騒々しいな。とりあえず、かみじょーの所に行ってみるか。………あれ? アイツの家知らねぇや」
浜面「おいおい。ま、俺も仕事が出来たからアンタとはおさらばだ。せめて楽な仕事である事を望むが……滝壺って誰だ?」
結標淡希「………」
―― 第十七学区、拘置所
木山「………さて、もうひと眠りするとするか」
―― とある拘置所
テレスティーナ「チッ。なんか面白い事になってたらしいわねぇ!!」
※テレスティーナ=木原=ライフライン:アニメ超電磁砲に出て来た木原一族。幻生おじいちゃんの孫娘です。
―― 学園都市、第十七学区操車場
時刻は十時。
ここに上条当麻、土御門元春が集まっていた。
上条「つち、みかど……っ!? 何でこんな時間に、こんな所にいるんだ?」
土御門「悪いな、カミやん」
上条(操車場なんかに普通用事は無いはずだ……。しかもこんなピンポイントな時間に。じゃあ、もしかしてあのメールの送り主と土御門は繋がりがある……!?)
土御門(暗部の仕事が続いているって事は、未だに舞夏が人質に取られる可能性があるって事だ。いくらカミやんが相手でも、俺は妹を優先する)
上条「理由を教えろ土御門!! 必要悪の教会からの指示か? イギリスに行けってんなら俺は行く。フランスでもイタリアでもだ。だから、何でこんな事をしたのか理由を言えよ土御門」
土御門「上からの命令なんて、案外理由なんて無いモンだぜい。カミやん」カチャリ
上条「銃―――――ッ!!」
土御門「最後にもう一回だけ言っておく。悪いな」
そして、銃声が鳴った。
が。
上条「……?????」
上条に傷は無かった。
気付けば前に立っていた小柄な少女が、上条を銃弾から守ったからである。
絹旗「まさか仕事って、この程度の敵から人一人守る事ですか。超げんなりですが、ぱっぱと超済ませてしまいましょう」
土御門「窒素装甲―――絹旗最愛か!! 『仕事』だと? 一体誰からの……」
絹旗「それを言う必要が超ありますか? グループの頭の土御門元春さん。たしか貴方は無能力者でしたね。特筆すべきはその頭の柔軟性と純粋な身体能力。まぁ、何が有ろうと私の窒素装甲は超砕けませんので」
上条「……えっと、たしかあの四人組の。何で俺を守ってくれたんだ?」
絹旗「仕事です。他意は超ありませんので勘違いはしないでください」
土御門「……大能力者相手に分は悪いが、それでもこっちも退けないんでな。一発でもカミやんに当てれば後は連れていくだけだ。そこを通してもらうぞ窒素装甲」
絹旗「映画なんかでは超ありきたりな発言を、まさかする事になるとは超思っていませんでした。――彼を連れ去りたかったら私を超倒してからにしろ」
―― 学園都市十七学区、特別拘置所
一方通行「で、つまりオマエは何も知らねェと?」
同じく時刻十時。一方通行は拘置所の検問を半ば強引に突破し、目標である木山春生の牢屋の前へと来ていた。
木山「”妹達”か。その計画の事は一時期調べたよ。だが、生憎私は君が彼に倒された時には既に牢屋の中でね。悪いが、無関係だ」
一方通行「だろォな。大体察しはついてたンだ。気にすンな」
木山「………私は君の事についても調べた事があるが、データとは随分と性格が違うように見えるな」
一方通行「変わっちゃいねェよ。這いあがっただけだ」
木山「ふふ。そうか」
一方通行「ところで、アンタ。随分とえれェ研究者なンだってなァ? ここから出してやる事を条件に、俺に手ェ貸す気はねェか?」
木山「昔なら、喜んで協力しただろうさ。けれど、今は私が罪を犯す事を悲しむ者がいるんだ。君ほどの人間なら、一人でも解決できるだろう」
一方通行「チッ。まァイイ。だが、ここの警備は全員俺がブッ倒したからよォ。一ヶ月は暇だと思うぜェ?」
木山「………素行が悪いのはデータ通りか。一つ聞こう。これから私に何を協力させるつもりかな?」
一方通行「第三次製造計画っつーのをぶっ壊しにいくンだよ」
木山「………悪事に協力させられるのか。私は」
一方通行「こンな所に入ってるくせに今更何言ってやがンだ?」
木山「返す言葉も無い、な」
スミマセン。
第二シーズン→第三次製造計画
でした。
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