憂「口に出してほしいの。おねがい」 (156)

ー土曜日、夕方ー

ピンポーン

憂「はーい、…あれ? 律さん!」

律「おじゃましまーす…唯、いる?」

憂「おねえちゃんですか? すみません、今日は澪さんと遊ぶって出かけちゃいましたけど…」

憂「もしかして律さんとも約束してましたか?」

律「ううん、そういうわけじゃなかったんだけどちょっと近くに用事があってさ、」

律「帰り道ボケーっと歩いてたらアレ? この辺なんか見覚えあるなーって思ったら唯の家の近くで、」

律「たまたま通りかかったんだよ? いやほーんとたまたま、」

律「たまったまなんだけど。すっごい偶然もあるもんだなぁーって、」

律「偶然ってすごいよね。いやほんとたまたま。でもせっかくだしちょっと顔出さないと悪いかなって、本当にね、偶然なんだけど」

憂「へぇー…」

律「いやぁ偶然! ハハ…そっかぁー唯いないのかぁーザンネンダナァー」チラッチラッ

憂「…」

律「…」

憂「…」

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律「ご、ごめんね~いきなり来ちゃって…ゆ、唯がいないなら帰ろっかな…」ハハハ

憂「あの…」

律「…え」

憂「おねえちゃん、もうしばらくしたら帰ってくると思いますし、よかったら上がって待ちます?」

律「…いいの? でも悪いよ、唯いないのに」

憂「遠慮しないでください。おねえちゃんの友達ならわたしにとっても大切なお客様ですから!」

律「ありがと…それじゃ遠慮なく…(よぉし!)」ヨッシャー!

憂「…なにか言いました?」

律「ナ、ナンデモナイヨ!(声に出てた…)」

ーリビングー

憂「座ってゆっくりしててください、今からお茶とお菓子用意しますね」

律「そうじゃ遠慮なく…そうだ、これよかったら」つケーキ

憂「あ! これ駅前の」

律「そ、新しくできたとこ」

憂「知ってます。わたしも行ってみたいなーって思ってて」

律「そうなんだー、こないだ澪と行ってきたんだけどすっごくおいしかったんだよね。おすすめだよん」

憂「すみません、気を遣わせちゃって」

律「いいのいいの。遊びに来るのに手土産なし、ってのなんだろ?」

憂「あれ…でもたまたま通りかかったんじゃ…?」

律「…」

憂「…」

律「…」

憂「…」

律「…えっと」

律「アレだよ」

憂「アレ?」

律「そうアレ」

憂「なんですか?」

律「……アレだ。いつ誰の家にお邪魔しても失礼じゃないように常備してるんだよね…」

憂「へぇー…」

律(苦しかったか…)

憂「律さんって準備がいいんですね!」ニッコリ

律「それほどでもないよ…ハハ(満面の笑顔ゲット……)」

ー30分経過ー

憂「おねえちゃん、帰ってこないなー。すみません、6時には帰って来るって言ってたんですけど…」

律「いいっていいって! わたしなら全然大丈夫だからさ! よかったらゲームでもする? パワプロ持ってきたんだけど」

憂「律さん、ゲームも持ち歩いてるんですか?」

律「ま、まぁねー…!」

ー1時間経過ー

律(後半一安打も打てなかった…)

律「憂ちゃん、このゲームやったことある…?」

憂「はい。梓ちゃんの家に遊びに行った時に一回だけ」

律(一回だけかよー!)

律「すげーなー、憂ちゃんってなんでもできちゃうんだな」

憂「そんなことないですよー、たまたまです。たまたま」

律(けっこうやりこんでるつもりだったんだけど…)

憂「普段そんなにゲームしないんで楽しかったです」

律「ハハ…楽しんでもらえたなら何よりだね…(ボロ負けでも)」

ブィーンブィーン

憂「おねえちゃんだ」

憂「あと30分くらいで帰って来るみたいです。おまたせしちゃってすみません」

律「いいよいいよ全然! いきなり来たわたしが悪いんだし」

憂「でも退屈させちゃって…」

律「全然退屈してないって! お茶もおいしかったし、ゲーム楽しかったし、憂ちゃんと二人で遊んで退屈なんてするはずないよ!」

律「それにわたしの方こそ、無理に付き合わせちゃったみたいで…その…」

憂「そんなことないですよ、わたしも律さんと二人で遊べて楽しいです」

律「ほ、ほんと……?」

憂「ほんとですよ。嘘なんてつきません」ニコ

律(もしかして結構いい雰囲気なんじゃね……?)

律(……これはチャンス…チャンスなのか……?)

律(澪がうまいこと唯を引き止めてくれてるっぽいし)

律(二人きりでいられる数少ない機会……)

律(今だ、今しかない……今こそッ!)

律「憂ちゃん!」

憂「は、はい…(どうしたんだろ急に大声出して)」

律「実は憂ちゃんに伝えたいことがあるんだ」

憂「はぁ…」

律「今日ここに来たのは偶然じゃないんだ」

憂(なんとなくわかってたけど)

律「あ、会いたくてさ…」

憂(…おねえちゃんに、だよね??)

律「えっとあの…ういちゃん……、……す、……す、……す、……す、」

ガチャ

唯「ただいまー」

律「木田!」

唯「なに言ってんの? わたし平沢だけど」バカナノ?

律(かえってくんのはええよ……!)ムスッ

唯「りっちゃん変なかおしてるー」アハハー

憂「おかえりおねえちゃん。律さん、ずっと待ってたんだよ」

唯「えー、それならメールしてくれたらよかったのにー」

律「いやーわるいわるい」

唯「てゆーか、りっちゃんにも電話してたのに、繋がんないんだもんなー。澪ちゃんと一緒に駅前のケーキ屋さん行ってたんだよ? あの新しくできたとこ」

律「あ、ああ…朝からずっと圏外でさ。それで唯んち来たんだ」

唯「ウチじゃなくてケータイショップいきなよ」

律「じゃ、わたし、そろそろ帰るわ」

憂「いいんですか? せっかくおねえちゃん帰ってきたのに」

律「ああ、だいぶ長居しちゃったし。それにもうすぐ晩ご飯だろ? 邪魔しちゃわるいよ」

唯「えーどうせなら晩ご飯食べていきなよー」

憂「そうですよ。大したおもてなしもできませんけど、よかったら食べてってください」

唯「憂の手料理おいしいよー」

憂「おねえちゃんに聞きましたけど、律さんってお料理上手なんですよね? よかったら教えてほしいです」

律「………!」

唯「りっちゃん、お料理だけは得意だもんねー」

律「そんなわたしなんて憂ちゃんに比べたら…(ん、まてよ)」

律(憂ちゃんの手料理そして…)

律(二人ではじめての共同作業…)

律「じゃあ遠慮なく!」ニマー

唯「りっちゃん、顔キモい」

ー夕食後ー

唯「ごちそうさまー」ゲップ

律「ごちそうさま!」

憂「ごちそうさまでした。律さんのハンバーグ感激しました!」

唯(そーいえば前にりっちゃんちで食べたのもハンバーグだったなぁ)

律「そんな大したもんじゃないって! 憂ちゃんのゴーヤーチャンプルーこそ絶品だったよ!」

唯(ゴーヤーチャンプルーにハンバーグ、って絶対おかしいと思うんだけど)

憂「誰かと一緒にお料理するのって楽しいですね、今度はハンバーグ以外も教えてください!」

唯(もしかしてりっちゃん)

律「あ、ああもちろん…」

唯(ハンバーグ以外作れない…?)

律(ハンバーグ以外も作れるようになろう)ギュ

唯「それじゃりっちゃん、お風呂沸いてるしお先にど~ぞ~」

律「いや入んねーし。もう帰るし」

唯「えぇ~、せっかくだから泊まっていきなよ~そんで夜はおふとんの中で恋バナしよ~よ~」

律「しねーし。第一着替えももってきてないし」

唯「わたしの貸すよ!」

律「えー、あのヘンなロゴ入ってるやつか…」

唯「なに? なにか不満でも?」

憂「今日は両親もいないですから気兼ねも要りませんし、明日は学校も休みですし。
  おねえちゃんもこう言ってますから遠慮なく泊まっていってください」

律「あ、うん…」

唯「りっちゃん着替えどれがいい? “ラブハント”? それとも“いなかの米”??」

律「もっと普通のデザインのはないのかよ……」

憂「よかったらわたしの着替え貸しましょうか?」

律「ありがとう!(ヤッタァァァァァァ!!!!)」ニマ~

唯「りっちゃん、どんどん笑顔キモくなってくね」

ー入浴後ー

律「いいお湯でしたー。お先いただいちゃってごめんね」ホカホカ

憂「いえいえ、お客様ですから。パジャマのサイズ、大丈夫でした?」

律「うん、ぴったり。(胸のあたりが若干スカスカだけど…若干……若干…ということにしておこう)」

唯「じゃあ次! わたしが入ります!」フンス!

憂「はーい」

唯「りっちゃんの残り湯残り湯~」フンフン♪

律「オイ、やめろ」

唯「りっちゃんの残り湯~ばっちぃばっちぃ残り湯~」フンフ~ン♪

律「ちゃんと身体洗ってから湯船入ったつーの!!」バッチクナイヤイ

ー唯、入浴中ー

チャポーン

キミニト~キメキコイカ~モネアワアワ~♪

律(唯…ちょっと歌声大きすぎないか…)

憂「おねえちゃん、律さんが泊まりに来てくれたからテンション上がっちゃってるんですよ」

律「あ、ああそう…」ハハ…

オニクオ~ヤサイヨクバ~リコイゴコロ~♪

律(ん。よく考えたら今ふたりっきりじゃん)

ダイスキコ~トコ~トニコンダカァレ~♪

律(チャンスだ…今こそ再びチャンス!)

スパイスフタサジケイ~ケンシチャ~エ♪

律(今こそ! 想いを伝えるとき!)

律「憂ちゃん!」

憂「は、はい…(どうしたんだろまた急に大声出して)」

律「さっき言えなかったことなんだけど…」

律「わ、わたし……う、ういちゃんの…こと……が…」

律(……ん、待てよ)

ダケドゲ~ンカイカラス~ギテモォダァメェ~♪

律(もしここで告白してOKならなんの問題もない)

律(でももしフられた場合どうする…)

律(ご飯も食べて風呂にも入ってパジャマまで借りた…)

律(失礼しましたじゃあ帰ります…ってわけにいかないぞ)

律(ってことはフった相手とフられた相手が一晩共に過ごすことになるわけで…)

律(き、き、き、気まずい~、めっっっっちゃくちゃ気まずい~~~!!!!)

ピーリーリー♪

律(いやしかしこれがチャンスなのは間違いない)

ピーリーリー♪

律(告白なんて勢いがなきゃ簡単にできるもんじゃない。特にわたしの場合)

ピーリーリー♪

律(想いを伝えられず人知れず失恋するか…)

律(想いを伝えた結果、玉砕するか…)

Oh…No No No No No No…♪

律(……)

カァレ~チョッピリ♪

律(よし!)

ライスタァプリィ!

律(決めた!)

憂「………………?」

律「スキだ!」

唯「わかるわかるわたしもスキだよ、お風呂あがりのアイス。りっちゃんの分はないけど」ホカホカ

憂「おねえちゃん、独り占めはメッ! だよ!」

唯「ちぇー、じゃありっちゃんにはナポリタン味のあげるね」ハイ

律「」

ー月曜日、学校。二年教室ー

憂「ということがあったんだー」

梓「へぇー」

純「あやしい…」ボソ

梓「…は?」

純「だってあやしくない? 急に憂の家に来るなんて」

梓「んー、どうだろ?」

憂「そ、そうかな…」

純「たぶんだけど…律センパイ、憂のおねえちゃんのこと好きなんじゃない?」

梓「えぇー…そーかなー?」

憂「うぅーん…」

純「ねぇ梓、部室だとふたりってどんなかんじなの?」

梓「いっつも練習しないでじゃれてばっかり」

純「ほら、仲良いんじゃん!」

梓「でも律センパイといえば澪センパイじゃない?」

純「……そっかぁ…たしかにむしろそっちか」

梓「普通に考えたらそうだよね」

憂「でも恋に堕ちるのに付き合いの長さは関係なくない? ほら、一目惚れとか」

純「一目惚れねぇ…もしかして憂、誰かに一目惚れした?」

憂「い、一般論だよ!」

梓「それより憂はいいの?」

憂「え?」

梓「ほら、大好きおねえちゃん取られちゃうわけでしょ?」

憂「うーん」

梓「しかも律センパイだよ? 澪センパイみたいにかっこいい人ならともかく」

憂「んー、好きだから大丈夫かな」

純「好きって、律センパイのことが?」

憂「うん」

梓「正気?」

憂「正気だよ」

梓「えぇー…どこが??」

純(梓ってぜんっっぜん律センパイのこと尊敬してないな…)

憂「ほら、律さんって年上なのに気取らないから一緒にいても緊張しないし、」

憂「それでいてこっちが楽しくなるように自然に気遣いしてくれて、」

憂「お料理教えてくれたりお姉ちゃんっぽいとこもあるし…」

憂「こないだ遊びに来てくれたときもね、この人と一緒だと楽しいなーって思ったの」

憂「なにより明るくて笑顔が素敵だし、ドラム叩いてるときはかっこいいし」

純「へぇー、ずいぶんよく見てるんだね」

憂「お、おねえちゃんの友だちだから!」

梓「たしかに律センパイ、ちゃらんぽらんだけどたまにちゃんとしてるし意外と乙女なのもかわいいし。一緒にいて楽しい、っていうのはわたしも同感」

純(なーんだ、梓も尊敬してるとこはしてるじゃん)

梓「でもあの人、バカだよ」

純(前言撤回)

憂「梓ちゃんは厳しいなあ…でもね。わたし、律さんのこと好きだから、」

憂「おねえちゃんと律さん、ふたりが両思いならわたしもうれしいな、って」

梓「そっか」

純「…」

純「よし」

梓「…どうしたの、純」

純「わたし達でふたりをくっつけようよ!」

梓「……え」

純「だって唯センパイと律センパイ、両思いなんでしょ? だったら上手くいったほうがいいに決まってるじゃん!」

純「それにふたりがくっつけば憂だってうれしいんでしょ!」

憂「う、うん」

純「憂がうれしいならわたしだってうれしい! だから協力するの! わかった梓?!」

梓「…………うん、」

ー放課後、体育館裏ー

紬「どうしたの梓ちゃん、こんな人気のないところに呼び出すなんて」ハァハァ

梓「とりあえずムギセンパイが考えてるようなことはありえませんから呼吸を落ち着けてください。

  実は…」カクカクシカジカ

紬「ふむふむ…唯ちゃんとりっちゃんがねぇ…」

梓「どう思います?」

紬「唯ちゃんはなにかとりっちゃんりっちゃん言ってるものね。十分にあり得る話ね…」

梓「律センパイはどうです?」

紬「りっちゃん? 憂ちゃんの話と普段の様子からすればない話じゃないと思うわ」

梓「わたしはてっきり律センパイは澪センパイと…」

紬「それは100%ないから大丈夫」ニッコリ

梓「え、あ、そうですか…(なんで断言できるんだろ?)」

紬「わたしも色々探りを入れてみるわ!」フンス!

紬「ところで梓ちゃんはいいの?」

梓「はい?」

紬「唯ちゃんのこと。りっちゃんとくっついちゃっても」

梓「わ、わたしは別に……」

紬「……ほんとに?」

梓「……ほんとうです!」

紬「……そっか」

ー帰り道ー

律「…というわけで、なんとかお泊まりはできたんだけど…」

澪「…」

律「澪?」

澪「…」

律「みお?」

律「みーおー?」

律「………あれ。もしかして、怒っていらっしゃる??」

澪「……ちがう」

律「……じゃあなに?」

澪「呆れてるの!」

律「……スミマセン」

澪「つまりだ」

澪「わたしが唯を呼び出して二人きりになるチャンスを作ってやって…」

澪「そのおかげで一緒にゲームして料理してパジャマを借りてお泊まりまでできて…」

澪「告白するチャンスは何度かあったのに何もできなかった」

澪「…そういうわけか」ハァ~

律「………モウシワケナイ」

澪「…ヘタレ」

律「……返す言葉もない」

澪「じゃあ三千円」

律「えっ、くれんの? なんで?」

澪「バカッ! なんでわたしが律に小遣いあげないといけないんだよ! 経費だよ経費! 経費を払えって言ってるんだよ!」

律「………経費?」

澪「そう経費」

律「………?」

澪「…こないだ唯を呼び出して駅前のケーキ屋さんに行っただろ? 新しくできたとこ」

澪「そこで使ったお金。引き止め工作代」

律「ちょ、ちょ待てよ。それは澪と唯が食べたものの代金だろぉ! なんでわたしが払うんだよ!」

澪「は? 協力してやったんだから当たり前だろ」

律「う…百歩譲ってお金を出すのはいい…でもおかしーだろその金額! どんだけ食べたらそんな額になんだよ!」

澪「あ、それは…………おいしかったから」ボソ

律「ほら! おいしかったからって食べ過ぎたのは澪と唯だろ! せめて払うとしても半分だ!」

澪「ま、待て! 追加注文してなかったら唯はあんなに引き止められなかったぞ! その分律は憂ちゃんと二人きりでいられたんだ! だから全額払ってもらわないと割に合わない!」

律「……たしかにその理屈はわからなくはない」

澪「……だ、だろ?」

律「だがおかしい!」

澪「なにがだよ…」

律「引き止めるだけならもっと安いメニューを選ぶこともできたはずだ!」

律「もしかしてハナからわたしに払わせること前提でたっかいものばっか注文してたんじゃねーだろーな!?」

澪「……………」

律「図星かよ」

律「じゃあ半分の1500円」ハイ

澪「…もう手伝わないぞ」ボソ

律「…えっ」

澪「全額払ってくれなきゃ金輪際律の相談に乗ることない」

澪「憂ちゃんと二人きりになれるよう協力することもない」

澪「むしろ邪魔する。積極的に唯をけしかけて憂ちゃんと始終一緒にいるように仕向ける」

澪「梓にも伝えておこう。最近憂ちゃんを狙うストーカーがいるから、なるべく一人にしないように、って」

澪「和に頼んで生徒会のほうでもストーカー問題に対処してもらおう」

澪「そうそうムギにも頼んでおかないとな。琴吹家のSPに憂ちゃんの警備をしてもらえるように」

澪「あー、律たいへんだなぁ!(棒」

澪「これじゃさらに二人きりになるチャンスなんてなくなるなあ!(棒」

澪「でもわたしの協力なんていらないんだもんなぁー!(棒」

律「ちょ、ちょちょちょ! ちょまてよ!」

澪「ふん。一人で勝手に頑張るといいさ」

律「おいみおぉ…」

澪「…」ツーン

律「わぁーかったよ、わぁーかったってば」

律「ハイ、追加の1500円。これで全額だろ」ゲッソリ

澪「わたし達親友だもんな! 律の恋が成就するよう全力で頑張るよ!」パァァ

律(うーん、友情の価値、3000円かぁ~…)

ー夜ー

プルルルル…

澪「もしもし」

紬『もしもし澪ちゃん? ごめんね夜遅くに。今大丈夫?」

澪「うん、宿題も一息ついたところだから大丈夫。なにかあった?」

紬『ちょっと相談したいことがあって。りっちゃんのことなんだけど』

澪「律のこと?」

紬『実はね、りっちゃんのことが好き、っていう子がいるみたいなの』

澪「……え?」

澪「律の…ことが………好き?」

澪「ムギ……それホント?」

紬『うん』

澪「ホントにホント?」

紬『ホントにホントよ』

紬『澪ちゃん。…もしかしてショック?』

澪「うん……もし本当ならショックかも」

紬『……りっちゃんを取られちゃうから?』

澪「ううん、そんなんじゃなくて」

澪「もし本当なら随分変わった趣味の人もいるんだなぁーって。そういう意味でショック受けてる」

紬(澪ちゃんヒドい…)

澪「まぁアイツ、あれでいい奴だからな。律を好きになる気持ちはわからないでもないよ」

紬『…………そう』

澪「それで? 相談したいことってなに?」

紬『う、うん。えっとね。りっちゃんに好きな人がいるかどうか気になって。
  澪ちゃんならきっと知ってるだろうから聞いてみようかな、って』

澪「あー…」

紬(この反応は…)

澪「ごめん。それは言えない」

紬『そうだよね、友だちの大事な話だもんね。言えるわけないよね。ごめんね、変なこと聞いて』

澪「ううん。こっちこそごめんな、役に立てなくて」

紬『そんなことないよ。そういえばこないだ唯ちゃんとデートしたって本当?』

澪「え? あれはデートとかそんなんじゃなくて二人で出かけてケーキ食べただけだよ」

紬(それをデートって呼ぶんじゃないのかしら…)

澪「すっごくおいしかったから、また今後ふたりで行こうな」

紬『……うん、行こうね。約束だよ』

澪「ああ、約束だ」

紬『ありがと。じゃあ夜遅いしもう切るね。また明日』

澪「うん。おやすみ。ムギの声が聞けてよかったよ」

紬『………わたしも。おやすみ』

ー火曜日ー

紬「というわけだったわ」

梓「ということは…」

梓「律センパイに好きな相手がいるのは間違いない」

紬「澪ちゃんは相手が誰か知ってそうだったから除外」

梓「クラスには他にそれっぽい人とかいないんですか?」

紬「教室でのりっちゃんを見る限りではいないと思うわ」

梓「そうですか」

紬「そうなると一番可能性が高いのは唯ちゃんね」

梓「やっぱりそうかー」

梓「澪センパイと唯センパイはどうなんでしょうか」

紬「それはないわ」

梓「でも、こないだ二人でデートしてたって」

梓「澪センパイと唯センパイができてる、って可能性も…」

紬「ゼッタイないから大丈夫」

梓(なんで断言できるんだろう??)

紬「もしかしたら唯ちゃんとりっちゃんをくっつけるために澪ちゃんが何か工作してたのかも」

梓「うーん…」

紬「とりあえずわたし達はふたりがうまくいくように頑張ろうね!」フンス!

梓「あ、ハイ」

ー二年教室ー

梓「だって」

純「やっぱり二人は両思いかー」

梓「少なくとも律センパイは誰か好きな相手がいるのは間違いないみたい」

憂「おねえちゃんだよ、きっと」

梓「……」

梓「あのさ、憂」

憂「なぁに? どうしたの梓ちゃん?」

梓「唯センパイ、ホントに律センパイのこと好きなのかな?」

憂「そうだと思うけど…」

梓「でもさ、律センパイはともかく、唯センパイには好きな人がいるかどうかもまだよくわかんないよね」

純「律センパイでしょー」

梓「なんとなくそれっぽい、っていう雰囲気だけで動きすぎてる気がしない?」

純「どうしたの梓、今さら」

梓「間違いなく両思い、って決まってるわけじゃないじゃない?」

梓「もし違ったら二人にすっごい悪いことしてるかもしれないなーって思っちゃって……」

梓「それにほら、こういうのって周りがあんまり騒ぐとうまくいかなかったりするでしょ?」

純「…考えすぎじゃない?」

憂「でも梓ちゃんのいう通りかも」

憂「わたし、もうちょっとおねえちゃんの様子探ってみる!」

梓「わたしももうちょっと二人の様子観察してみるよ」

ー夜、平沢家ー

憂「おねえちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

唯「なーにー、アイスなら今日はこれ一本しか食べてないよ」ガリガリ

憂「うん。知ってる。そうじゃなくて…あのね…」

唯「憂の分もちゃあんと残してあるから大丈夫だよ」ガリガリ

憂「う、うん…聞きたいのはアイスのことじゃなくて…」

憂「おねえちゃん。好きな人…っている?」

唯「……」ガリ

唯「……」

憂「……」

唯「……」

憂「……」

憂「…ご、」

憂「ごめんねおねえちゃん! 変なこと聞いちゃって!」

憂「言いにくいなら無理しなくていいから! ちょっと気になって聞いてみただけだから!」

唯「………あ、」

唯「ごめんごめん! いきなりそんなこと聞かれるなんて思ってなかったからびっくりしちゃったよぉー」

唯「す、すきなひとかぁー…うーん、そうだねぇー…うーん……」チラ

憂「……」ドキドキ

唯「……」ウーン

憂「………」ドキドキドキ

唯「ナ、ナイショ!」

憂「……へ?」

唯「ナイショだよっ! 憂にもナイショ!」

憂「そ、そっかぁ~(…ていうことは好きな人いるのかな? おねえちゃん)」

唯「………憂は?」

唯「憂はいるの?」

憂「……わ、わたし?」

憂「……………」

唯「……………」ドキドキ

憂「……………」

唯「……………」ドキドキ

憂「……………いるよ」

唯「……………え?」

憂「いるよ。好きな人」

唯「…………そっか」

唯「じゃあわたしも言うね」

唯「わたしもね、いるんだ」

憂「…………だと思った」

唯「あれ? バレてた?」

憂「うん。だっておねえちゃん、わかりやすいんだもん」

唯「そっかぁ~わかりやすかったかぁ~」テヘヘ

憂「おねえちゃん。きっとうまくいくと思うよ」

唯「ほんとに?」

憂「うん。わたしはそう思う」

唯「ありがと。憂」

憂「ううん。わたしはいつだっておねえちゃんの味方だから」

唯「わたしだって、憂の味方だよ。応援してるから」

憂「………ありがと」

ー水曜日、放課後ー

ガチャ

梓「…………」

唯「あずにゃんおいーっす」ダラー

梓「どもです。…つーかいつにも増してダラけすぎでしょう」

唯「んー、わたしにだってダラけたいときがあるんだよぉ…」

梓「いつもダラけてるじゃないですか…」

唯「違うよ。そうじゃないよ。悩んでるんだよ。だから悩みで練習に手がつかないの」

梓「悩んでなくても普段から練習してないでしょう」

唯「いつも以上にしてないんだよ!」フンス!

梓「自信満々で言わないでください。でも唯センパイでも悩みとかあるんですね?(もしや恋の悩み…? 律センパイのこと…??)」

唯「あるよぉ! あずにゃんわたしのことバカにしすぎ!」

梓「あはは、すみません。ところで悩みってなんですか?

  あ、わかりました!

  赤点とりそうとか、
  卒業無理そうとか、
  受かりそうな大学ないとか、
  万が一合格しても留年しそうとか、
  そもそも唯センパイ、自動車免許すら取れるか不安な感じですよね。
  あとは将来就職できる見込みもなさそうですし、
  なんとか滑り込んでもお茶汲みすらちゃんとできなくて社会人失格~とか、
  つまり未来全般にちっとも希望が見えない、ってことですか?」

唯「あずにゃん……」

梓「ハッ すみません! つい!」

唯「い、いいよぉ…自分でもそれくらいわかってるからぁ~」グスン

梓「だ、だいじょうぶですよ! 唯センパイなら!」

唯「いいよ…いまさら励ましてくれなくても」メソメソ

梓「そんな! わたし唯センパイのいいところいっぱい知ってます!」

唯「……………たとえば?」

梓「…………………えっと」

唯「…………………」

梓「…………………」

唯「…………………」

梓「…………………」

唯「…………………」

梓「…………………や、やさしい…とか!」

唯「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

梓「ああああああごめんなさいごめんなさい!」

梓「ちがうんです! いざ口に出していいところ言うのって難しいし、照れるじゃないですか!」

唯「うそだぁ…あずにゃんはわたしのことキライなんだぁ…」グスグス

梓「違います! そんなことないです!」

唯「あるよぉ…キライだからそんなヒドいことばっかり言うんでしょぉ…」グシュグシュ

梓「…キライだなんて…そんなわけないです」

唯「………ウソ」

梓「ウソじゃないです」

梓「……………好きです。

  
  勉強できなくても、
  練習サボってても、
  いつもダラダラしてても、
  留年しそうでも、
  

  もし大学に落ちたって、
  進学出来なくたって、
  免許もとれなくて就職もできなくなっても、

  そんなことどーだっていいんです。


  ……………好きです」

律「……………」

澪「……………」

紬「……………」

唯「……………」

梓「……………な、」


梓「なんでセンパイ方がいるんですかぁぁあぁぁぁぁ!?!!??!!!?」

律「いや……唯が泣き叫んでるあたりからいたんだけど」

澪「なんか取り込み中みたいだったし」

紬「そっとしておこうと思ったの~」

梓「声かけてくださいよ!」

律「……………好きです」

梓「マネすんな! このハゲ!」

律「いや、どー考えても声かけられる雰囲気じゃなかったろ」

梓「そういうのじゃないんですって!」

澪「でも邪魔しちゃ悪いかなって」

梓「むしろ積極的に入ってきてほしかったです!」

紬「わたし、愛の告白をナマで見るのはじめて~♪」ルンルン

梓「だからそういうのじゃないって…!」

梓「唯センパイもなんとか言ってくださいよ!」

唯「んも~~~~あずにゃんたら照れちゃって~~、わたしも好きだよ!」

梓「…だから違うって………!!!」

ー30分後ー

澪「話の概要はわかった」

律「ま、最初からそんなこったろーと思ったけどなー」

梓「わかっていただいてなによりです…」

紬「でも梓ちゃんが唯ちゃんを好き、ってことは間違いないのよね?」

梓「だからあれは………もういいです。そういうことにしといてください」

唯「えへへ~…」

紬(ところで…)

律「おアツいですな~おふたりさま~」コノコノ~

唯「照れるからやめてよぅ、もぉ~」ウフフ

梓(この意外な反応…)

紬(りっちゃんがもし唯ちゃんのことが好きなら…)

梓(少しはやきもちを焼いてもいい場面なはず…)

律「ラブラブでうらやましいぞー」

紬(でもりっちゃんにその素振りはまったくないわ…)

梓(一体これは…)

紬梓((どゆこと??))

澪(……ミルクティーおいしい)ズズー

梓「そ、そういえば唯センパイ」

唯「なんだい? マイハニー?」

梓「キモチ悪いんでやめてください。
  さっき言ってた悩みって、結局なんだったんですか?」

唯「ん? ああ、もういいの。解決しちゃったから」

梓「へ?」

唯「あー、でも半分だけかな。もう半分はまだ解決してないや」

梓「はんぶん?」

律「おふたりさーん、二人だけの世界に入らないでくれますー?」

唯「ごめんごめん。そだ、りっちゃん。この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだけど?」

紬(!?)

梓(?!)

紬梓((ついに来た??!!?))

澪(きょうも平和な一日だなぁ…)ゴクゴク

ーMAXバーガーー

紬「……」ソワソワ

梓「……」ソワソワ

澪「…二人ともそんなに気になるのか?」

紬「う、うん…」

梓「そりゃ…まぁ…」

紬「澪ちゃんは気にならないの?」

澪「気にならないといえばウソになるけど…」

紬「だって今頃告白タイムよ! しかもいつものわたしたちの部室で!…ドキドキしちゃう!」キャー

梓「た、たしかに二人がどうなるか気になります」ドキドキ

澪「……話が見えないんだけど」

紬「えーっとだからあーでこーで…」カクカク

梓「それがああなってこうなってどうなって…」シカジカ

澪「…話の流れは大体わかった」

澪「黙っておこうと思ってたんだけど、」

澪「随分ややこしくなってるみたいだから仕方ない。本当のことを話すよ」

澪「律に好きな人がいる、それは間違いない」

紬「…やっぱり!」

澪「でもそれはお前たち二人が思ってる相手じゃない」

梓「……え?」

澪「わたしが喋ったっていうのはナイショだぞ…律の好きな人っていうのは……」ゴニョゴニョ

紬「…………」

梓「…………」

澪「…わかったか?」

梓「まじですか……」

澪「まじだ」

紬「まじなの…」

澪「まじだよ」

梓「やっちまってましたね…ムギセンパイ」

紬「やっちまってたわね…梓ちゃん」

梓「で、でも唯センパイの好きな人は誰かわかりません!」

澪「え?」

紬「そうね! だから唯ちゃんからりっちゃんに告白、っていうことはあり得るわ!」

澪「いや…唯が好きな人って…まぁいっか(シェークおいし)」ズズー

ー一方その頃、ー

律「なんだよ唯、話って」

唯「んーっとね。りっちゃんにお願いしたいことっていうか、聞きたいことっていうか」

律「なんだー? 進路希望調査票ならまだ出してないぞー」

唯「それなら知ってるし。そんなことじゃなくて…」

律「じれったいなー。さっさと言えって」

唯「りっちゃんって、好きな人いる?」

律「……は、はぁ~~~!?!?」

律「い、いねえし! いるわけねーし!」

唯「なにその中学生みたいな反応」

唯「わたし真面目な話してるんだけど」

律「……い、いやその…ごめん。そんな話されると思ってなかったからつい…動揺しちゃって…」

唯「…で、どうなの?」

律「ちょ、ちょっと待って。なんでいきなりそんなこと聞くんだよ」

唯「知りたいからに決まってるじゃん」

律「なんで知りたいんだよ、そんなこと」

唯「……言わなきゃダメ?」

律「わたしだって恥ずかしいこと言うんだ、唯だって言わなきゃズルいだろ」

唯「……わかった、言うね」

唯「りっちゃんのことが、好き…」

ガチャ

和「ごめんなさい、取り込み中だったみたいね。またにするわ」

律「ちょちょちょ、ちょっと待てェ!」

和「どうしたの? 律、慌てちゃって」

律「慌てるに決まってるだろ! どこから聞いてたんだ!」

和「律「わたしだって恥ずかしいこと言うんだ、~くらいからかしらね」

律「(一番聞かれたくないあたりからだ…)頼む…聞かなかったことにしてくれ…」

和「わかったわ。聞かなかったことにすればいいのね?」

律「ああ頼む…(和が聞き分けよくて助かった…)」

和「聞かなかったことにさえすれば百人くらいに言いふらしてもいいのね?」

律(ダメだコイツ…なんとかしないと)

唯「和ちゃん、なにかご用事~?」

和「ええ。でもそんな雰囲気でもないし、また出直すわ。それに今日は収穫もあったし」

唯「…収穫?」ホェ?

律「オイ、言いふらすなよ! ゼッタイだぞ!」

和「わかってるわよ。それにしても唯。アンタ、趣味ワルイわね」

唯「…へ?」

和「唯はもっと可愛らしいかんじの子を好きになると思ってたわ」

唯「??」

律「約束だからな…!」

和「シツコイわねぇわかってるわ、言いふらしたりなんかしないわよ」

律「ハァ…疲れた」

唯「りっちゃん、さっきの話の続きなんだけど、い~い?」

律「え、あ、うん…」

律(…突然の和で動揺して忘れかけたけど)

律(さっきの唯のアレ…)

律(こ、こくはく…………だよな)

律(や、やべ~~ど~しよ……なんて言って断ったらいいんだ~……)

律(…ダメだ。こういうことを曖昧にしてちゃダメだ。)

律(ここはちゃんと、唯に本当のことを言わなくちゃ…!)

律「すまん! 唯!」

律「わたし、実は好きな人がいるんだ!」

律「だからごめん! 唯の気持ちには……こたえられない!!」

唯「え? あ、そなの? ふーん」

律(…あれ? なにこの反応)

唯「ところでわたしの気持ちって、なに?」

律「え? あ、いやそのなんだ…アレだ……」

唯「アレ?」

律「つまりそのう…」

唯「ま、いいや。で、さっきの話の続きなんだけど」

律(マジかよ! この流れで告白すんのかよ! どんなメンタルしてんだ!)

唯「りっちゃんのことが、好き、って子がいてね…」

律「………ん?」

唯「だからりっちゃんのことが好き、って子がいるんだよ」

律「唯じゃなくて?」

唯「なんでわたしなの」

律「いや…それは…」

唯「え、もしかしてりっちゃんの好きな人って、わたし?」

律「ううん、違う」フルフル

唯「ふー…だよね、そうだよねー、よかったぁー、もしそうならいろいろやばかったよー」

律「うん?」

唯「ごめんごめんこっちの話。でもりっちゃん、好きな人いたんだね」

律「ま、まぁ…」

唯「じゃあ、別の誰かに告白されたら困る?」

律「それは…相手によるけど…」

律「ごめん。きっとその気持ちにはこたえられないと思う」

唯「だよねー」

唯「実はしょーじきその子の好きな人がりっちゃんかどうかって確証はないんだよね」

律「なんだよそれ、じゃあなんで…」

唯「わたしの勘だよ。勘だけど…たぶん間違いないと思うんだ。だからね…」

唯「その子がりっちゃんに告白するかどうかはその子次第だと思うんだけど、」

唯「もし…そんなときが来たらちゃんと思いを受け止めてあげて」

唯「フラれちゃうとしても、ちゃんと告白を聞いてあげてほしいんだ」

唯「それがわたしのお願い」

律「…………ん」

唯「頼むよ、りっちゃん隊員! その子のこと泣かせたら承知しないから!」

律「わかってるよ、唯隊員! 任せとけって!」

ー校舎内、廊下ー

憂「あれ? 和ちゃーん」

和「憂、こんな時間まで残ってるなんて珍しいわね」

憂「うん。ちょっと図書館で勉強」

和「エラいわね。唯も少しは見習ってほしいわ」

憂「そんなことないよー エヘヘ 和ちゃんは? 生徒会忙しそうだね」

和「そうね。特に必要書類を期限内に提出してくれない部があると大変ね。軽音部とか」

憂「あはは…」

和「さっきもわざわざ軽音部まで行ったのに回収できなくて」ハァ

憂「おねえちゃん達、まだ残ってるんですか? じゃあ一緒に帰ろっかな」

和「唯と律だけ残ってたわね。でも…取り込み中、だったわよ」

憂「……取り込み中?」

和「ええ」

憂(え……もしかして)

和「唯が律に好きとか言ってたみたいね」

憂「え………お、おねえちゃんが……それって」

和「告白…じゃないかしら(よく聞こえてなかったけど)」

憂「そ、それじゃ邪魔しちゃ悪いね…」

和「じゃあ今日はわたしと帰らない? あともうちょっとしたら仕事終わるし」

憂「う、うん…それじゃ昇降口で待ってる」

和(そういえば言いふらすな、って律に言われたの忘れていたわ)

和(…ま、いいわ。一人くらいなら言いふらす、うちに入らないわよね)

ー昇降口ー

憂(ついに告白しちゃったんだ…)

憂(…ってことは二人はもう付き合ってるのかな…)

憂(…)

憂(なんだろ…いいことのはずなのに…胸がきゅーってする)

憂(……)

唯「あれー、ういー?」

憂「…おねえちゃん!」ハッ

律「珍しいね、いま帰り?」

憂「わ! り、律さん!」

律「…ど、どしたの?」

憂「い、いえ…なんでもないです(うわーなんかよくわかんないけど恥ずかしいよぉー)」

憂「わ、わたし…和ちゃんと帰る約束してて………おねえちゃん、先に律さんと帰ってて」

律「じゃあ和を待って四人で帰ろっか」

憂「いえ…二人は先に帰っててください…」

律「え、あ、そう…(あれ? なんか避けられてる?)」

唯「…」

唯「…あ、思い出した」

律「?」

唯「そーいえば和ちゃんに借りたノート返すの忘れてたー、和ちゃんのところ行ってくる!」

律「お、おい…」

唯「二人は先に行ってて! すぐに追いつくから!」タタタッ

憂「おねえちゃん…」

律「…」

憂「…」

律「か、かえろっか…」

憂「…はい」

律「……」テクテク

憂「……」テクテク

律「……」テクテク

憂「……」テクテク

律「……」テクテク

憂「……」テクテク

律(か、かいわかいわ~)テクテク

憂「…あのぅ」

律「ひゃい!」

憂「どうしたんですか? 変な声出して」クス

律「(ヤベ…緊張しすぎだ)ご、ごめんなんでもない! どうかした?」

憂「律さん…家帰る方向、ちがってません?」

律「………あ、」ユキスギテタ

律「あ、あのさっ」

憂「はい?」

律「こないだ言ってた駅前のケーキ屋さん、今から行ってみたいな~って思って!」

憂「…」

律「ど、どうかな…」ドキドキ

憂「…」

律「…」ドキドキ

憂「ごめんなさい。わたし…晩ご飯の準備しなきゃいけないので…」

律「…そっか」ガッカリ

憂「おねえちゃんと二人で行ってきてください」

律「ん、いいや。また次の機会にしとく。家まで送るよ」

憂「いいですよ、わたしのことは気にしないで」

律「いいっていいって」

憂「…」

憂「律さん…なんでそんなにわたしのこと、気にかけてくれるんですか」

律「…え」

憂「わたしがおねえちゃんの妹だからですか」

律「いや…それは」

憂「そんなに気にかけてくれなくて大丈夫ですよ、それよりおねえちゃんと一緒にいてあげてください」

律「そうじゃないよ」

律「そうじゃなくて…」

憂「そうじゃない、ってなにがですか」

律「そりゃま、友だちの妹だから大事にしたい、ってのも嘘じゃないよ?」

律「でもわたしが憂ちゃんと一緒にいるのは唯の妹だから、って理由だけじゃないよ」

憂「じゃあどうして…」

律「決まってるじゃん、」



律「わたしが憂ちゃんのこと、好きだからだよ」

律「好きだから一緒にいたいんだ」

憂「…」

律「…」

憂「…」

律(い…、)

律(いっちまった……)

憂「…………」

律「……う、ういちゃん」

憂「律さん」

律「………な、なに」

憂「………………サイテーです」ダッ

律「……………えっ」




律「……どゆこと?」ヒュゥゥゥゥ~~~

ー木曜日、朝ー

チュンチュン チュン

オハヨー オハヨー

梓「憂、おはよー」

憂「………」

梓「…憂?」

憂「………あ、おはよ」

梓「あ、あれ? どうしたの? なにかあった?」

憂「………ごめん、なんでもない」ニコ

梓「……??」

ー放課後ー

律「」ズーン

梓「…わ、律センパイ、どーしたんですか? ついに留年決定ですか?!」

唯「留年は決まってないけど朝からずっとこんなかんじで…」

紬「一言もしゃべってくれないし…」

澪「授業中もずっとこんなかんじで…」

唯「お昼のお弁当だって一口も食べないからわたしとムギちゃんで食べたんだよー」

紬「おいしかったわー、たまごやきー」

律「」ズーン

梓「まあ原因はなんとなく分かる気もしますが…」

紬「そうねー」

澪「そうだな」

唯「えっ、なになに」

澪「でも肝心の律が何もしゃべらないんじゃ確かなことはわからないな」

律「」ズーン

澪「オイ、律! いい加減にしろ! いつまでも落ち込んでいられるとまわりが迷惑なんだよ!」ユサユサ

紬「りっちゃん起きて~ おいしいケーキですよ~」

唯「起きないとわたしが食べちゃうよ~」

梓「耳元でザ・フーのCDでもかけてみますか?」

律「」ズーン

澪「…」

澪「……律」

律「」ズーン

澪「……フラれたのか?」

律「」ピクッ

紬「うごいたわ!」

澪「……もしかして、告白した?」

律「」ピクピクッ

梓「ビンゴですね」

澪「この調子だとよっぽどキッツイフラれ方したんだろ」

律「」ピクピクピクッ

澪「やれやれだな」

唯「りっちゃん成仏してね…」ナンマンダブナンマンダブ…チーン

ガチャ

和「ちょっといいかしら。昨日締切の書類がまだ提出されてないんだけど」

澪「ごめん和…おい律! 起きろ! このバカ!」ユサユサ

律「」ズーン

和「誰か律以外に分かる人いないの?」

紬「ごめんなさい…りっちゃんしか…」

和「まったくしょうがないわね…昨日は昨日で取り込み中だったし」

梓「取り込み中?」

和「ええ。唯が律に愛の告白をしていたのよね」

澪「え」

梓「は?」

紬「あらあらあらあらあら…!」

唯「ほへ?」

律「」ズーン

澪「和…それは確かなことなのか?」

和「ええ…この耳でしっかり聞いたわ」

梓「ほんとうなんですか! 唯センパイ!?」

唯「へ? そんなこと言ってないけど」

和「…そんなこと言ったってわたしは聞いたんだもの。間違いないわ」

唯「言ってないよぉ!」

紬「唯ちゃんと和ちゃん…」

澪「証言が食い違ってるな…」

梓「一体どっちが本当なんでしょう…」

唯「本人が言ってないって言ってるんだから信じてよ!」

梓「でも唯センパイですから…」

澪「そうだな。和の方が信頼できる」

紬「ごめんね唯ちゃん」

和「そういうことよ」

唯「だから違うってばぁ!」

唯「…というわけだよ!」

澪「あー…」

紬「ふむぅ」

梓「なるほどです」

和「それは悪かったわね」

唯「和ちゃんはもう少しちゃんと謝ってよ!」プンスコ

和「ごめんごめん、謝るわ」

唯「ふんとにもぅ! わたしが好きなのはあずにゃんだけだよ!」

梓「ちょ…巻き込むのやめてくださいってば」

唯「とにかく誤解だから! …和ちゃん、ほかの誰かに言ったりしてないよね」

和「大丈夫よ。律に言いふらすな、って言われたから守ってるわ」

和「ひとりにしか言ってないから。ひとりだけなら言いふらす、に入らないわよね?」

唯「…」

澪「…」

紬「…」

梓「…」

唯「……和ちゃぁぁぁん!!!!」

澪「…それで和。誰に言っちゃったんだ?」

和「昨日…廊下で憂に会って、そのときに…」

梓「…サイアクだ」

唯「りっちゃん…昨日憂と二人で帰ってた…なにか話したのかも」

紬「…そのときに告白したのね」

唯「えっ、りっちゃんって憂が好きなの?」

澪「唯、とにかく今は憂ちゃんの誤解を解くことが先だ!」

唯「わかった! 憂に電話してみる!」ピポパ

和「なんだか大変そうね」

梓(この人はちょっとでも責任を感じているんだろうか…)

デンゲンガハイッテイナイタメ…

唯「…つながらない」

梓「憂…どこにいるんだろ」

紬「唯ちゃん、心当たりはないの?!」

唯「えええーっっとぉ…」オロオロ

和「そういえば昨日、図書館で勉強してるって言ってたわ。もしかして今日も…」

梓「行ってみましょう! グッジョブです和センパイ!」

澪「ほら! 律! お前も行くぞ! 当事者だろ!」

律「……いいよわたしなんか。どーせわたしなんか」ズーン

澪「バカ! ここで頑張らないでいつ頑張るんだよ! しっかりしろ! バカ律!」ゴツン

律「あいったぁ~」ヒリヒリ

澪「行くぞ!」ズルズル

ー図書館内ー

唯「あっ! いたっ! うーいー!!」ブンブン

憂「お、おねえちゃん?!」

憂「おねえちゃん、ここ図書館だから静かに…」シー

唯「ごめん憂! でもいまそれどころじゃないから来て!」グイグイ

憂「で、でも…」

唯「いいから早く!」グイー

ー図書館、入口扉外ー

律「…」

澪「…話はわかったか」

律「…ああ」

澪「あとはもうお前次第だ」ポン

律「…」コク

紬「りっちゃん」ギュ

律「…ん」

梓「ちゃんと決めてくださいよ」グッ

律「わかってるって」

和「なんか、いろいろごめんなさい」

律「いいよ、むしろ和のおかげみたいなとこもあるし」

和「そう言ってくれると助かるわ」

ガラッ

唯「りっちゃん!」

憂「律さん…」

律「憂ちゃん…」

澪「じゃ、わたし達はこれで」

唯「りっちゃん、憂を泣かせたら許さないからね」

律「……ああ」

唯「うい」

憂「…おねえちゃん」

唯「ちゃんと、ほんとうに思ってることを伝えなきゃダメだよ」

憂「…うん、わかった」

律「………」

憂「………」

律「………」

憂「………」

律「昨日の、ことだけど」

憂「…」

憂「しつこいですよ、律さん」

憂「いくら冗談が好きだからって、言っていい冗談とよくない冗談があります」

律「冗談でも嘘でもないよ」

憂「おねえちゃんに告白したんでしょ!」

律「いやそれは間違いで…」

憂「律さんは間違いで人に好きって言えちゃうんですか?!」

律「だからその…あぁー! もう! 違うんだって!!」

憂「わかってますよ。わたしのことからかったんでしょ? そのくらいわかります」

律「違うよ、違うの唯のほうで…」

憂「もういいです。聞きたくないです。わたしもう帰ります」

律「ちょっと待ってよ!」

律「どうしたら信じてくれるんだよ」

憂「信じるもなにも…律さんはおねえちゃんのことが好きなんでしょ!」

律「…なんでそんな風に思うの」

憂「だって…」

律「なんで信じてくれないんだよ…憶測や人づての話じゃなくて、目の前にいるわたしの言葉を信じてよ…」

律「ほんとうのことだよ」

律「わたしが口に出して言ったことがほんとうのことだよ」

律「信じてほしいんだ」

律「それから改めて返事を聞きたい」

律「……ダメかな」

憂「…」

憂「…ご、ごめんなさい」ポロポロ

律「う、ういちゃん!?」

憂「ごめんなさいごめんなさい…」

憂「目の前にいる律さんの言葉、信じられなくて…」

憂「人から聞いた話や憶測で勝手に決めつけちゃってて…」

憂「ごめんなさい…」ヒックヒック

律「いいよ、いいよ…」ヨシヨシ

憂「………」ヒックヒック

律「なぁ、憂ちゃん」

律「ちゃんと言葉にして伝える、って怖いよな」

律「はっきり口に出した瞬間、もう取り戻しが効かなくなるだろ?」

律「ずっと怖かったんだ。だから逃げてた」

律「でもさ。ちゃんと口に出さなきゃ伝わないから。
  伝わらないままあきらめちゃうのが一番イヤだな、って思ったんだ」

律「たとえフラれちゃってもね…」タハハ

憂「…」

憂「律さん」

憂「わたし…律さんは別の人が好きなんだ、ってずっと思い込んでました」

憂「だから…わたしを見てくれるなんて思いもしなかったから…」

律「けっこーわかりやすいつもりだったんだけど?」

憂「わからないですよ、口に出して伝えてくれなきゃ」

律「そっか。ごめん」

憂「…謝ってばっかり。それよりもう一度、言葉にしてほしいです」

律「え、も、もう一度…?」

憂「…はい」



憂「口に出してほしいの。おねがい」

律「…好きだ、」

憂「わたしも、好きです。ずっと。はじめて会ったときから」

ー図書館、入口扉からちょっと距離の離れた場所ー

唯「…どうやら」

澪「…うまく」

紬「いったみたいね~♪」

梓「はぁぁぁ…肩の力が一気に抜けました」

唯「途中で憂が泣き出したときはりっちゃんの頭、ギー太でカチ割ろうと思ったけどね」

和「なんにせよ、ハッピーエンドでよかったわ」

唯「和ちゃんが言わないでよ」

和「でもわたしの発言がなければあの二人、くっつかなかったかもしれないわよ?」

澪「ま、それもそうかもな」

梓「しかし憶測だけで外野が勝手に動き回るのはよくない、って痛感しましたです…」

紬「ほんとにそうね…」

澪「その辺は二人ともちゃんと反省しろよ」

紬梓「「…はい」」

梓(純にもちゃんと言ってきかそう…)

和「じゃあわたし、生徒会行くね」

澪「いろいろ迷惑かけちゃってごめんな」

唯「むしろ迷惑かけられたほうだけどね」

和「ううん。面白かったわ。またこんなことがあったら呼んでちょうだい」スタスタ

梓(あの人にだけは声をかけたくない)

紬「よ~し、じゃああとはもうひとカップルをくっつけるだけね!」

梓「…なに言ってんですか」

澪「そうだな。両思いなんだからさっさとくっついてほしいよな」

唯「…ほえ?」

紬「唯ちゃん、梓ちゃん、頑張ってね!」

澪「唯、梓。大事なことは、ちゃんと口に出して言葉にしなきゃダメだぞ」

梓「ちょっとちょっと! なんなんですか!?」

澪紬「「じゃあね~」」スタスタ

唯「澪ちゃんムギちゃん行っちゃったねー」

梓「は、はい…(な、なんか気まずい)」

唯「口に出して…ってもうわたし達ちゃんと言葉にして伝え合ってるのにね?」

梓「はぁ………はい?」

唯「ほら。昨日ちゃんと伝えたでしょ?」

梓「え? あ、あれは…そういうのじゃ…」

唯「あずにゃん…冗談だったの?」

梓「冗談じゃなくてその…」

唯「じゃあもう一度言うね」

唯「好きだよ、あずにゃん」

梓「え…わ、わたし………」



梓「わたしも好き…………、です」

ー木曜日、夜ー

プルルル…

紬「もしもし紬です」

澪『ムギ? いまいいかな?』

紬「うん。大丈夫。いつもわたしばっかりだから、澪ちゃんから電話かけてくれるの、うれしい」

澪『ハハ…なに言ってんだよ。同じくらいかけてるだろ?』

紬「ううん。わたしからかけた方が5回多いよ」

澪『(…電話かけた回数とかかってきた回数、数えてるのか)』

紬「……ごめんなさい、ひいちゃった?」

澪『う、ううん…! だ、大丈夫!』

澪『今日はお疲れ。ごめんな、律のこと。黙ってて』

紬「ううん。言えないことだってあるわ。それくらいわかってるつもり」

澪『それならいいんだけど。さみしい思いさせちゃったかな、って思って、』

澪『唯と二人で遊びに行ったのも…律と憂ちゃんを二人きりにするための作戦で…』

澪『二人がうまくいくまではムギにも話せなくて…ごめん』

紬「あやまらないで。今こうやって話してくれるだけでうれしいの」

澪『そっか、ありがと。じゃあもう寝ようか』

紬「うん…」

澪『それじゃまた明日。おやす…』

紬「ちょっと待って」

澪『…? どうかした?』

紬「口に出してほしいな」

澪『えー…』

紬「大事なことは、ちゃんと口に出して言葉にしなきゃ、伝わらないんでしょ?」

澪『…う』

紬「……」

澪『……』

紬「……」

澪『……キだ』

紬「……きこえませーん」

澪『ムギきびしい…』

紬「…おねがい。聞きたいの。ときどき不安になるの。だから、おねがい」

澪『…ムギ』

澪『…好きだよ』

紬「…わたしも。澪ちゃん大好き」


おしまい。

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