普者「勇者補正が無くなった…?」(984)

勇者「えっ、ちょっと待って何言ってるか全くわからないんだけど…」

女神「えぇ…頭悪いですねー。これも補正が無くなったからでしょうか」

勇者「いやいきなり頭悪いとか言われましても…。ていうかちょっと腹立つ」

女神「えーと…簡単に言うと、これからは殆どと言っていいほど都合の良い事は起こらなくなるって事です」

勇者「都合の良い事…?」

女神「はい。例えば貴方が複数の魔物に囲まれたとします」

勇者「ほうほう」

女神「絶体絶命ですよね?きゃーっこれは殺されちゃいます!」

女神「そんな時!どこからともなく現れる助っ人がッ!その人と共闘し何故かピンチを切り抜けられるのです!」

勇者「ほほー、なるほど」

女神「しかし、補正が無い場合だと…」

勇者「無い場合だと…?」



女神「死にます」

勇者「直球ですね…」

女神「高確率で死にます。仮に生き延びられたとしてもボロボロ、満身創痍の中、更に敵の増援が来る事になるでしょう」

勇者「へ、へー…それはやばいですね…」

女神「じゃ、そういう事でなので…」

勇者「え?」





女神「魔王を頑張って倒してくださいね!」

勇者「無理でしょッッ!!!」

女神「なんでですか!!」

勇者「さっきの話聞いた後に魔王倒してとか無茶振り過ぎますよ!!」

女神「そんなの私に言われましても!!」

勇者「あなた女神でしょ!?」

女神「女神だからって何でも出来ると思わないでください!!消し飛ばしますよ!」

勇者「すいませんでした…」

女神「一応、勇者に選ばれたからにはそれなりに身体能力も上がってますしいけますよっ」

女神「ただ攻撃が急所に当たったり都合の良い展開が無くなったりするだけですって!」

女神「ちょちょいっとお願いしますねっ」

勇者「じゃあ補正とやらも付けてくださいよ」

女神「無理です」

勇者「どうして無理なんですか…」

女神「私も貴方に意地悪をしたい訳では無いんですよ」

女神「補正もちゃんとかけようとしたんですが、何故か貴方にはかからないんです…」

勇者「それって女神様の力不足とかじゃ…?」

女神「は?」ギロ

勇者「いえ、何でもありません…」

女神「あ、この際だから勇者と言う肩書も剥奪しておきましょう」

勇者「何で!?」

女神「補正が無い勇者なんて味噌が入ってない味噌汁みたいなもんですし」

勇者「酷くない!?」

女神「だってこんなの勇者って名乗らせたら私が恥ずかしいしー」

勇者「女神様のせいなのに…」

勇者「じゃあ何と名乗れば良いんですか?」

女神「そうですねぇ、勇ましくないので『普者』とかどうでしょう?」

勇者「ふしゃ?なんだかダサい名前ですね…」

女神「じゃあ『凡人』で」





普者「普者でいいです…」

女神「決まりですね!」

普者「はぁ…もう帰っていいですか」

女神「帰る?何処にですか?」

普者「何処にって、家にですよ。自宅にです」

女神「無いですよ」

普者「え?何馬鹿な事言ってるんですかー、ボケました?」

女神「ボケるわけねーだろ」

普者「ですよね!はは…」

女神「無いというのは本当です。嘘ではありませんよ」

女神「何なら、見に行ってみては?」

普者「え、えぇ。それではちょっと失礼して…」スタスタ


―――――
――


普者「ありませんでした…跡形も無く、木材一つ無くなってました…」

女神「でしょう?」

普者「く、くそぉ…誰がこんな事を…!!」

女神「私です」

普者「アンタかよ!!」

女神「綺麗さっぱり消してあげましたよ」

普者「な、なんで…」

女神「帰る場所があると魔王なんて倒しに行きませんでしょう?」

普者「くっ、確かに…」

女神「さっ!後戻り出来なくなったんですし行くしかないですねぇ」

普者「ひ、卑怯者!」

女神「誰が卑怯者ですって?」

普者「い、いえ…秘境者!って言ったんですよー」

女神「それも意味がわからないんですけど」




普者「と、とにかく!出発しますか!」

普者「とりあえず…王様に旅立ちのご挨拶からですかね?」

女神「その必要は無いですよ」

普者「あ、もう女神様が既に済ませてるとか…」

女神「いえ、貴方は勇者では無いですし更に補正も無いので」

女神「行った所で門番に『何だコイツ、変な奴が来たな…』と思われて門前払いですよ」

女神「仮に王の前に通されたとしても、王様からは『おっ、倒しに行ってくれるの?頑張ってねー』くらいしか言われず、軍資金も頂けないかと…」

普者「そこまで酷い扱いなんですか」

普者「もう旅立つ前に戦意喪失してるんですけど…」

女神「まぁ、選んじゃったのは私ですし私にも責任はほんのちょっぴりあるかもー…しれません」

普者「それってどのくらい?」

女神「9:1ぐらいですかね」

普者「そ、そこまで悪く思わなくても…こちらも力になれず申し訳ないです」

女神「何言ってるんですか、貴方が9ですよ」

普者「ブチ切れますよ?」

女神「良いですよ?」




普者「………」

女神「………」






女神「切れた瞬間、貴方はこの世に居ないと思ってくださいね」ボソ

普者「………」

女神「………」






普者「(こおぉぉぉんのッックソ女神いぃいぃぃぃぃぃーー!!!!!!)」

女神「………」

普者「(頭の中だし、せーふせーふ)」

女神「言っておきますが、頭の中も読めますので」

普者「すいませんでした!!!」

女神「次は無いですよ?」

普者「はい!」



普者「所で、その勇者を選ぶというのはどんな風にですか?」

女神「弓があるんですけど…」ゴソゴソ

女神「この弓で適当に上に向かってポーンッと矢を射るんです」

女神「で、当たった人が勇者、と」

普者「そんな適当な感じなんですか…」

女神「あ、もちろん痛みは感じますよ」

普者「感じるのかよ!どうりで一昨日に急に尻に激痛が走ったと思ったら…」

女神「それに、勇者になると力とか普通に上がりますし正直言って誰でも変わらないんですよねー」

女神「補正があればもう余裕のよっちゃんな筈なんですが」

女神「どこかの誰かさんには無いですし大変ですねぇ」

普者「そ、そういえば…勇者を選び直すって事は出来ないんですか?」

女神「出来ればしてますよ、出来ないから困ってるんです」

普者「困ってるんですか…」

女神「貴方が死ねば新たに選ぶ事は出来ますよ」

女神「でも流石の貴方も死ぬのは嫌でしょう?」

普者「そうですね、嫌です。できれば回避したい」

女神「じゃあもう魔王を倒すしかないですね」

普者「あの…倒しに行かず普通に暮らすってのは…」

女神「その場合は貴方を消さなくちゃいけないですねぇ」

普者「ですよねー…」

普者「というか、何故魔王を倒しに行かなくては行けないんですか?」

普者「確かに、魔物の被害はちらほら聞く事はありますが、基本的にあまりこちら側に来ませんし」

普者「そもそも魔王とやらが害を加えてるって話も殆ど聞きません」

普者「それに、数年前に西、南西、北西の国が魔王軍と抗争をしたと噂で聞いた事ありますけど結果はどうなったんですか?」

女神「それを言うと貴方絶対行きたくないって言いますよ…」

普者「どういうこと!?」

女神「…まぁ正直に言えば、魔王討伐は単なる理由に過ぎません」

女神「ただ魔物側が今どんな状況なのか知りたいだけなのです」

女神「それに、最近は凶暴な魔物や害を加える魔物も結構な数が増えてきて居るの知りません?」

普者「えぇ!?そうなんですか!?」

女神「そうなんですよ、困ったものでしょう?知らない貴方もアホですね」

女神「魔物側の陣営に行くにしてもただの人間では太刀打ちできませんし、兵士の軍で行こうものならあちら側を刺激してしまいます」

普者「そこで少数精鋭の勇者達が行くってことですか」

女神「その通りです」

普者「うわー、本当に行かなくちゃダメですか?」

普者「一人とか嫌だなぁ…」

女神「仲間を集えばいいじゃないですか」

普者「補正無いと無理な気がするんですけど…」

女神「かもしれませんねー」

普者「気が重い…」

女神「ま、一人ではないのでご安心を」

女神「私もついていきますので。」

普者「本当ですか!?やった!これで楽に旅ができる!」

女神「あ、戦闘には参加しませんのであしからず」

普者「」ズコー


普者「一体何故…!?」

女神「あまりこちら側に干渉し過ぎると意味が無いんですよ、貴方にとっても。」

普者「そ、そうなんですか…」

女神「なので…よっと」ポンッ

女神「この姿でついていく事にします」パタパタ

普者「おぉ、小さな…妖精みたいですね」

女神「みたい、じゃなくて妖精なんですよ?」

女神「それと、私が女神だって事は他の人には内密でお願いします」

普者「バレると…?」

女神「そのバレた相手と貴方を含めて消さなければ…」

普者「絶対にバレないように気をつけます!!」

女神「お願いしますね。…ふぅ、少し肩を借りますよ」チョコン

普者「可愛いですね」

女神「何当たり前な事言ってるんですか、女神ですよ?」

普者「そうでしたね…」



女神「さてと…先ずは旅のお供を探しに行きますよ!れっつごーふーくん!」

普者「せめて仲間って言ってよ」

普者「ていうかふーくんって何ですか…」

…………
……

今日はここで終わりますありがとうございました!




普者「とは言ったものの、どうやって探せば…」

女神「そうですねぇ、とりあえず酒場にでも行きましょうか」

普者「酒場?」

女神「はい。ふーくんは冒険者と言うものはご存知無いです?」

普者「ボウケンシャー?聞いたことはあるね」

女神「勇者ご一行様でも冒険者として扱われるかは微妙なんですが」

女神「その冒険者達が集う場所、それが酒場、だそうです」

普者「ほほー、そこに行けば仲間も?」

女神「集まる、かもしれません」

普者「まぁ、ここで話しててもしょうがないし行ってみるか」

女神「ですね」

―――

――酒場――

 カランコロン

普者「おぉっ…凄いな」

女神「賑わってますねー」

普者「えーっと」キョロキョロ

普者「あ、受付がある…あそこで聞いてみようか」





普者「すいませーん」

受付「はーい、どうかされました?」

普者「あ、あの…仲間が欲しくて…」

受付「冒険者の方ですね、登録はされてますか?」

普者「いえ、していません」

受付「ここの酒場では登録をされていないと利用できませんが、どうなされますか?」

普者「うそん…では、登録させてください」

受付「でしたら、この用紙に記入をお願いします」スッ

普者「わかりました」



 用紙「カキカキ」



普者「これで大丈夫ですかね…?」

受付「えっと、はい。大丈夫です、登録完了致しました」

受付「早速ですが、ご指名されますか?それとも募集中にし、他の方に指名されるまで待機されますか?」

普者「じゃあ、とりあえず募集中にして待機で」

受付「かしこまりました、あちらでどうぞお好きな席でお待ちください」

普者「ありがとうございます」

――――

女神「登録完了しましたねー」

普者「後はお呼びがかかるのを待つだけ…」

女神「良い人からお呼びがかかると良いですねぇ」

普者「だねー」






――30分後――


普者「お呼びが来ない…」

女神「ま、まだ登録したばかりですしこれからですよ!」

普者「だと良いんだけど…」


――1時間後――

普者「まだか…まだなのか…」トントントン

女神「まだまだこれからですよ!」

女神「あと貧乏揺すりやめてください、貧乏そうな顔が更に貧乏になりますよ?」

普者「余計なお世話だよ!」





――2時間後――

普者「遅い…遅すぎる」

女神「たまたま今日はあまり人が居ない日だったりしてー…」

普者「店内はこんなに賑わってるのに!?」

女神「ところで、出会った当初の敬語はどうしたんですか?」

普者「敬語で話して欲しければそれ相応の態度をしてね」

女神「あっ、じゃあ遠慮しておきます」

普者「今後も改める気は無いって事かよ…」



――3時間後――

普者「んああああ!!!!もう待てない!!」ダンッ

女神「普通ならとっくに集まってるはずなんですが…これも補正が無いからでしょうか」

普者「よし!こちらから指名してみよう!」

女神「ですねっ」





普者「すいまそーん」

受付「はい、どうかされましたか?」

普者「あの、募集を止めて、指名したいんですけど」

受付「かしこまりました、貴方は先程登録されました普者様ですね?」

普者「はい」

受付「でしたら、このリストからならご指名が出来ますよ」スッ

普者「どれどれ…って少なっ!」

受付「普者様は登録されたばかりですし、まだ実績も信用もありませんのでこちらではこれが精一杯なのです、申し訳ございません」ペコ

普者「そうですか…仕方ないですよね…」

普者「えーと、じゃあ…一番最近登録した人はどなたですか?」

受付「でしたら、僧侶見習いのこの方ですかね」

普者「なるほど…この方とお話させてもらっても良いですか?」

受付「かしこまりました。では呼んできますので少々お待ちください」

普者「お願いします」

―――

僧侶見習い「は、初めまして…。僧侶見習いの僧侶ともうしみゃすっ!」

普者「は、初めまして…」

普者「(噛んだね…)」

女神「(噛みましたね)」

僧侶「(噛んでしまいましたぁ…)」カァァ





普者「え、えと…確かパーティ?だっけ。君も志願者なんだよね?」

僧侶「は、はい!ですけどまだまだ私はヒヨッコでして…」

普者「そ、そっか」

女神「(多分補正があった場合、結構力を持った僧侶、もしくは他の職業の方が仲間になる可能性があったかもしれませんけど…)」コソコソ

女神「(補正が無いからこんなもんなんでしょう)」コソコソ

普者「(ちょっと!僧侶さんに失礼だから!)」コソコソ

僧侶「あ、あのぉ…」

普者「はい!?あ、ごめん…それで、良かったらパーティを組んでくれないかな?」

僧侶「私でいいんですか…?」

普者「むしろこっちがこんなので良いのか聞きたいくらいなんだけど…」

僧侶「こんなのって…そんな事ないですよぉ!」

普者「あはは…ありがとう」

僧侶「そういえば、パーティの方針を聞いていなかったんですけど、どんな感じなんですか?」




普者「あれ、言ってなかったっけ。魔王倒しに行きます」

僧侶「そうなんですかー、了解です!」

普者「うん」

僧侶「じゃあまずは旅支度から始めましょっか!」




普者「う…ん?あれ?」

普者「(普通なら『えぇー!?魔王を倒しに行くだってー!?』とか驚きそうなのに…)」

女神「(この子はちょっと頭がアレなのかもしれませんね…)」コソッ

普者「(こら!アレな子とか言わない!ちょっと変わってる子なの!)」コソッ

僧侶「どうかされましたかー?」ニコニコ

普者「(うっ…なんだか騙してる気分になってしまう…)」

女神「(まぁ良いって言ってくれてますしここは素直に組んでおきましょうよ)」コソコソ

普者「(そうだね…)」コソコソ

普者「じゃ、じゃあ行こっか」

僧侶「はーい!」

――


 トコトコトコ


普者「(………)」

女神「(………)」

僧侶「何を持っていこうかなぁー…毛布と革の水筒、後は櫛に食料くらいかな…」

女神「(あの…)」コソコソ

普者「(わかってる、言わなくてもわかってるから…!)」コソコソ








普者「(絵面がヤバイッ!!!)」コソコソ

女神「(ですね)」

普者「(これじゃあまるで誘拐犯だよ!まずいよ!)」

女神「(流石に子供過ぎましたかね…?)」

普者「ね、ねぇ僧侶さん」

僧侶「はーい、何でしょー?」

普者「僧侶さんって…いくつなの?」

僧侶「歳…で良いんですよね?」

普者「そうそう」

僧侶「えっとぉ…今年で22ですかねー」

普者「22!?」

普者「(そんな馬鹿な…僕より2つ上だと!?まさかこの外見で歳上とは…)」

僧侶「普者さんはおいくつなんですかー?」

普者「に、20です」

僧侶「おぉ!では私がおねえさんですねー!」フフン

普者「そうなりますねー…」

普者「(どちらかというと妹にしか見えないけども)」

女神「(変な気は起こさないでくださいよ)」

普者「(一体アンタは僕を何と思ってるんですか)」

女神「(貧乏猿人?)」

普者「(いや確かに人間の祖先は猿っていう文献はあるけどさ!あと貧乏じゃないから!)」

僧侶「さっきから何コソコソしてるんですか…?」ズイッ

普者「おわっ!」

僧侶「わわっ…!これは…」





女神「えーと、コンニチハー」

普者「その、これはね…」

僧侶「可愛いー!!確かピクシーって言うんでしたっけ?」

普者「そ、そーそー…ぴくしー?って言うんだぁ」

僧侶「珍しいですね!私も見たのは初めてなんですけど…」

普者「たまたまね、その…家の前でね、拾ったんだよ」

僧侶「拾ったんですか!?」

女神「ちょっと!捨て犬を拾ったみたいに言わないでくださいよ!」

僧侶「良いなぁ…私も拾いたいです!」

普者「そんな訳でね、言わば飼い犬ならぬ飼いピクシーなんだ」

僧侶「すごーい…ピクシー飼ってる人なんて初めて見ましたぁ…」

女神「貴女も何納得してるんですか!飼われてるわけ無いでしょう!?」

普者「ほら、3回飛び回ってわんって言って」

女神「いきなり何故!?」

普者「(ここで渋れば怪しまれますよっ)」

女神「(ぐぬぬ、変態!…ていうか何で『わん』なんですか!)」

普者「(待って変態ではないから!)」

僧侶「………」ジー

普者「(ほらほら早くしないと)」ニヤニヤ

女神「(はぁ…仕方ないですね…)」

   クール

 クール  クール



女神「わん」

僧侶「わあぁ…可愛ぃ…」キラキラ

僧侶「しかも喋れるなんて相当賢いんですかね!」

普者「これで可愛いって言うのもアレだけど…」

女神「(絶対に許しませんから。覚えておいてくださいね)」ジロッ

女神「(あと、私はどんな事をしても可愛いので)」

普者「(おー…怖い怖い)」


―――



僧侶「さてと!準備はできましたねー」

普者「だね、いよいよ国を出るのか…」

僧侶「記念すべき旅立ちの日ですね!」

普者「本当にこのパーティで大丈夫なのだろうか…」

女神「悪い予感しかしませんね」

普者「アンタが不安になる様な事言わないでよ…」

僧侶「きっとなんとかなりますよ!」

普者「なると良いね…」

女神「なる可能性は低いかもしれませんが…。」

普者「とりあえず、どこ目指そうか?」

僧侶「んー…そうですねぇ…」つ地図ペラッ

女神「ふーくんは今のパンティで魔王を倒しに行くんですか?結構な自信のある下着なんですね」

普者「自信があるなら仲間探したりしないんだけど…。あとパーティね」

女神「勝負下着は不十分というわけですか…」

普者「だからパーティね!下着から離れて!」

僧侶「やっぱり替えの下着は一杯必要ですかねぇ…?」

普者「君までボケられると身が持たないからやめてください」

僧侶「あはは、冗談ですよー」





女神「さてと…じゃあ先ずは‘‘ブトー街’’を目指しません?」

普者「ブトーガイ?」

女神「はい。なんでも、腕に自身のある強者達が集まる所だと聞いたことがあります」

普者「強者達か…僧侶さん、どうします?」

僧侶「私は普者さんについていきますので、お任せします!」

普者「んー…それじゃあ、そこに行ってみますかー」

女神「うまくいけば仲間も増やせそうですしね」

普者「そ、そうか…その手があったか…!」

普者「(強い見方をつければ何とかなるかもしれない…)」

普者「んじゃあ、出発しましょう!」

僧侶「はいっ!」




女神「……はい。」


………
……

今日はここで終わりますありがとうございました!

普者「ところで僧侶さんはどれくらい魔法を使えますか?」

僧侶「ふぇ?」

女神「(きっと『回復魔法・微小』とかだけですよ)」

普者「(え、『回復魔法・小』よりも低級のってあるの!? ま、まあ、回復魔法が使えるなら、それだけで生存率はぐっと……)」


僧侶「使えないですよ?」

普者「……ほわっつ?」

僧侶「私、魔法の適正がほとんどないらしくて」テレテレ

女神「(こ、これは、さすがに予想外!)」

普者「(ていうか、そんなんでも僧侶になれるの? あと、なんでこの娘は照れてるの?)」

女神「(回復魔法=僧侶というわけではありませんからね。私たちへの信仰心が篤ければいいのですよ)」

女神「(……とは言え、回復魔法が使えない僧侶を仲間なんてお茶の入ってないお茶漬けみたいなものですね……勇者補正が効かないって恐ろしいですね)」ハハハ

普者「(他人事みたいに言ってんじゃないよぉ!)」

女神「(薬草とか買い込めばいいじゃないですか)」

普者「(ま、まあ、1人よりは色々と分担できる分、力になるよね、多分)」

女神「(あ、勇者補正効いてないから、薬草でもりもり回復とかないですよ)」

普者「(おおん?)」

女神「(ちょっと健康に感じるくらいですから。そもそもたかが葉っぱにそんなに傷を治す効果があるわけないじゃないですか……)」ハハハ

普者「(ド正論やめい)」

僧侶「どうしました?」キョトン

普者「な、なんでもないよ!」


ガサガサ……モンスターの群れがあらわれた!

スラ-!  スララ-!

モンスターたちの攻撃!

普者「いだだだっ!? ちょっ!?」

女神「(あちゃあ、補正がないから、急に襲ってくるわけですね)」

普者「(ちょっ、死ぬって……!)」

女神「(あ、死んでも復活とかしないんで、その辺、お願いしますね)」

普者「シビアだな、おい! こんにゃろぉ!」

普者はヒノキの棒を振り回した!

モンスターたちは少し距離を取った!

僧侶「普者さんがんばれー!」フリフリ

僧侶は応援している!

普者「え、戦ってくれないの……?」

女神「(あんな小さい子が戦っても無力…むしろ足を引っ張って戦況が悪化しますよ)」

普者「(た、確かに……)」

スラ-! スララ-!

モンスターの群れが再び飛びかかってきた!

普者「うぐぐ……こうなったら……」ググッ

女神「(なんですか、その変な構えは?)」

普者「(……ストレート!)」ブンッ

普者の一本足打法!

カキィン!

スラ-!?

飛びかかったモンスターの一匹を打ち飛ばした!


モンスターの群れは驚き戸惑っている!

女神「(お、補正なしでもなかなかやりますね。身体能力の向上が効いてますねー)」

普者「子どもの頃の遊びがこんなところで役に立つとは」

女神「(まあ、補正があれば急に剣の才が発現したり、素晴らしい魔法の才が発現するんですけどねぇ)」

普者「(やめて、僕の心をこれ以上折らないで!)」

女神「さあ、全部倒してしまうのです、ふーくん!」

普者「どりゃぁああ!」

普者はヤケクソになってヒノキの棒を振り回した!

スラ-!?

モンスターの群れは逃げ出した!

普者「よ、よし、追い払えた」

女神「一番弱い魔物相手に手間取り過ぎですよ」

普者「いや、頑張ったよ……僕、結構ボロボロだからね……あとでたくさん青アザができるよ、コレ」

女神「そうですね」

僧侶「普者さん、カッコよかったです!」キラキラ

普者「ははは、まあね……」

僧侶「この調子でどんどん進んじゃいましょう!」

普者「いやいやいや! このまま突っ込んだら死んじゃうから!」

女神「別れを告げた国にすぐさま逆戻りですね」

普者「(元はと言えば、勇者補正がないからでしょ!)」

女神「(効かなかった貴方が悪いんです)」


普者「(来る途中にもモンスターに襲われたけど……なんとか大ケガはせずに帰ってこれました……)」ボロボロ…

僧侶「疲れましたねー!」

普者「僧侶さんは元気そうに見えるけど……」

普者「(というか戦ってないじゃん)」

女神「(まあまあ)」

僧侶「それではお給料の方をいただきたいです!」

普者「ほえ?」

女神「(……ああ)」

普者「お、お給料?」

僧侶「……? そうですよ?」ニコニコ

普者「(え、なに言ってるの、この子?)」

女神「(当たり前じゃないですか? ふーくんは冒険者として、この子を雇っている。雇用している以上、給料を払うのは当たり前でしょう)」

女神「(勇者補正があるならば、政府が仲間の雇用契約をしてくれているから、何の問題もないんですけどね)」


普者「(あの、マジで魔王討伐やめていいです?)」

女神「(死んでもいいなら)」ニッコリ

普者「(ふっざけんなぁぁあああ!)」

僧侶「普者さん?」

普者「あ、ああ、給料ね! え、えーといくらで契約してたんだっけ?」

僧侶「ちゃんと契約書見てくださいよー! 1日50Gです! もちろん、食費、交通費、宿泊費、装備代等の各種経費は普者さんの負担です!」

普者「おおん!?」

女神「(どれくらいの額なんですか?)」

普者「(少なくとも何もしてない人に払う額ではない)」

女神「(踏み倒して、捨てていきますか)」

普者「(およそ女神とは思えない発言、でも乗っかる)」


僧侶「これで、仕送りができます! 孤児院の子たちにもご飯を食べさせられます!」

普者「……そういうのズルいよ!」

僧侶「え?」

普者「払う! 払うから! ハイ! 50G!」

女神「(自腹切るんですねー)」

普者「(あんな純粋な心を踏みにじれるか!)」

女神「(素晴らしきロリコンですね)」

普者「(ロリコンじゃないぞ! そもそも彼女の方が年上だ!)」

僧侶「ありがとうございます! さっそく、銀行屋さんに振り込んできます!」トテテ…

普者「はあ……」

女神「というか、貴方、前は何の仕事してたんですか?」

普者「ふふふ、なんだと思う?」

女神「うわあ、うざいですね……学もなさそうだし、用心棒とかじゃないんですか? 農民ではないみたいですし、もしくは商いですか」

普者「まさかまさか、戦闘とかど素人だよ、さっき見てたじゃん」


女神「ええ……ゴミじゃないですか。ただでさえ補正もないのに」

普者「辛辣だな……これでも先祖代々、レンガ職人をやってたんだぞ。この町の建物に使われてるレンガの多くはウチで作ってたんだ。王国の城にも、うちのレンガがちょっと使われてるんだ!」ドヤッ

女神「へー、マジでどうでもいいです」

普者「ひどい……」

女神「そんな貴方はレンガ造りが上手いんですか?」

普者「一応、この腕で飯を食ってるよ」

女神「なるほど、人間のクズではないみたいですね。ご両親は?」

普者「母は小さい頃に亡くなったし、父親は僕が一応、仕事が出来るようになったからって引退してどっか行った」

女神「おや?」

普者「息子がこう言うのもなんだけど、あの人、ガチでレンガ馬鹿だから。世界中のレンガを見に行くって出て行ったんだよ」

女神「バイタリティ溢れてますね」

普者「レンガ馬鹿なだけだよ。母さんの死に際にも立ち会わず、レンガ造りしてた人だからね」

女神「へえ、ロクデナシですね」

普者「そうなんだよ……確かに、僕なんか足元に及ばないくらいの腕前なんだけどさ、人にとって大事なものが欠けてるんだよなぁ」

女神「貴方も欠けてる気がしますけど」

普者「人でない女神様に言われるのか…」

女神「そんなことより、宿はどうするんですか」

普者「そうだよ、どこぞの理不尽な女神に自宅ぶち壊されたんだ」

女神「まあ、過ぎたことはいいじゃないですか」

普者「どの口が言うのさ。鉄面皮ってレベルじゃないよ」

女神「ちっ、うっせーな」

普者「ごめんなさい!」

僧侶「送金終わりました! 今晩はどうするんですか?」

普者「宿に泊まるか……顔見知りだから少しは融通が利くはず」

僧侶「朝ですね! 今日こそぶどう狩りに行きましょー!」

女神「ぶどう狩りじゃなくてブトー街です」

普者「道中であまり魔物に遭わないといいな。ああ、でも戦闘はこなして強くならないと」

女神「(……あ、レベルアップとかしないですよ?)」

普者「へっ?」

女神「(勇者補正がないから、ステータスアップとかもしません)」

普者「(えっと、よく分からないんだけど……レベルアップ? ステータスアップ?)」

女神「(ああ……とにかく、戦っても理不尽に強くなったりはしません。魔物への対処法や戦闘中の余裕とかは出てくるかもしれませんが、力とか賢さとかスタミナとか素早さが目に見えて上がったりはしないんです)」

普者「(え、勇者ってそんなことできるの?)」


女神「(はい、本来は勇者と、その仲間にも発動するのですが、貴方にも仲間の僧侶さんにも発動してませんよ)」

女神「(『死んでも復活』と並ぶ、ある意味では最強レベルの勇者補正なんですけどね)」

女神「(あ、ふーくんの場合、仲間も本人も死んだら終わりなので悪しからず)」


普者「(えーと、とにかく頑張りマス)」

女神「(頑張ってください。常人よりは多分成長しますから大丈夫ですよ!)」グッ

僧侶「ごーごー!」

普者「おー!」


モンスターが現れた!

普者「……一匹!」

スラ-…

普者「……弱ってるぞ! そりゃ!」

普者の攻撃!

スラッ…

モンスターを倒した!


普者「よっしゃぁ!」

僧侶「……普者さんひどいです!」

普者「えっ」

僧侶「あんなちっちゃい魔物を理不尽に殺すなんて! 魔物にも生命があるのに!」

普者「ご、ごめんなさい?」

普者「(え、魔物を倒して怒られることってあるの?)」

女神「(女は感情の生き物なんですよ。論理ではないのです)」

普者「(お、おう…)」

女神「(取り敢えず、彼女の意見を全面的に肯定してあげるんです。口答えはいけません)」

普者「(…魔王討伐の旅でなんでこんなことしないといけないんだよ…)」

普者「…本当にごめん、僧侶さん。君の言う通りだよ。今度からはこんなことしないように気をつけるから、許して欲しい」

僧侶「本当ですね?」

普者「うん、誓うよ」

僧侶「……はい、分かりました!」ニパッ

女神「(チョロすぎ)」

普者「(僧侶さん天使だわー)」


モンスターが現れた!

スラララァァ!

勇者「え、なにこのデカい魔物」

女神「……!」

僧侶「も、もしかして、さっきの魔物の母親?」

女神「敵う相手じゃありません。早く逃げてください」

普者「お、おう、僧侶さん! 逃げよう!」

僧侶「ごめんなさい! 私たち、殺すつもりなんて……ブチッ


普者「……え?」


(僧侶は魔物の一撃で、簡単に圧死した)

(跳躍し、踏み潰す。その動作のみで、一人の人間の命は簡単に奪われた)

(そこに有るのは、有機物の塊のみ)

(普者はあまりにもあっけない僧侶の死に、呆然とする)

女神「早く逃げなさい! 次は貴方がそうなりますよ!」ベチッ

(妖精姿の女神の張り手混じりの叱咤でようやく彼の意識が現実に追いつく)

(彼は半狂乱になりながら、僧侶だった血肉を取り込んで消化する魔物から逃げ出した)



普者「……はぁ、はぁ!」

女神「……ここまでくればひとまず安全でしょう。しかし、最初の町と反対の方に逃げたのは失敗だったかもしれませんね」

普者「なんだよ、あれ……!」

女神「……」

普者「人が、僧侶さんが、あんな簡単に殺された…! さっきまで、あんな可愛く笑ってたのに…! なんで…なんでなんだよ!」

女神「勇者補正がないですからね…仲間だって死にますよ」

普者「……ふざけんな! あの人は生きてたんだぞ! それなのに…! それなのに…!」


女神「私のせいだっていうんですか? 彼女が死んだのは彼女が生き延びる最善を尽くさなかったからでしょう? それに、こういうことがありえるから、わざわざお金も払ってるんでしょう?」

普者「ふざ、ぶざけるなよ!」ガシッ

女神「いたっ…! 殺すぞ?」

普者「ひっ!?」バッ

女神「……ったく、一人、日和ってるのが死んだくらいで、大袈裟なんですよ」

普者「な、なんだと…」

女神「こちとら、補正もなしに魔王討伐をしようとしてるんですよ。旅のお供がこれから何人、何十人と死ぬのは覚悟してもらわないと困るんですよね」

普者「ふざけんなぁ!」

女神「黙れ」ギロ

普者「……っ」

女神「……まあ、勇者どころか傭兵ですらないんだから、そういった反応も当然といえば、当然です」

女神「しかし、慣れてください」

普者「な……」

女神「逆に、人間に似た魔物、それどころか人間を殺すこともあるかもしれません」

女神「それも慣れてください」

普者「……無茶言うなよぉ」

女神「黙れ。甘えるなら、この場で殺す。ひたすら痛みを与えて殺す。少し味わってみるか?」

普者「……くそ、分かったよ」

女神「それでいいんです。さあさあ、ブトー街に急ぎましょう。西ですよ、西」

普者「……僧侶さんは、あんなに可愛くて優しい人だったのに…彼女の家族になんて言えばいいんだ…」ブツブツ

女神「……そんな機会ありませんよ」

普者「……僕のせいだ、僕の」ブツブツ…

女神「さっさと行きますよ」



普者の攻撃!

魔物を倒した!

普者「くそ…くそが…!」ハァハァ…

女神「……今日中につきませんね。野宿しましょう」

普者「魔物がたくさんいるこんなところで野宿なんてできるか…」

女神「休まないとどんどん生存率は下がりますよ。貴方ももう体力的にも精神的にも限界でしょう。この調子でだと明日どころかもっと日数がかかります」

普者「……」

女神「彼女が買い込んでいた聖水があります。これを撒けば半日くらいはちょっとした魔物除けになるでしょう」



普者「こんな草藪に紛れて寝るなんて…」

女神「かつての勇者たちも似た状況だったようですよ」

普者「なんで分かるんだよ…」

女神「冒険の書と呼ばれる数々の勇者たちの記録が残ってますからね」

普者「ああ……聞いたことはある。それぞれの勇者の伝説が載ってる本だね」

女神「機会があれば読んでみては? 読み物として面白いですよ。勇者補正によって現実ではありえないことがあって幻想的ですから」

普者「……僕みたいな普者が読んでも何もならないよ」ゴロン

普者「うっ、虫が……」

女神「それくらい我慢ですよ。あ、私は胸ポケットで寝るので寝返り打たないでくださいね」

普者「……本当にひどい話だよ」


【数日後・ブトー街への道中】

普者「……朝日か」

女神「そうですね」

普者「……朝ご飯にするか」

女神「どうぞ」

普者「そういえばアンタは何食ってるの? 食べてるところ見たことないけど」

女神「水と、自然に満ちてるエネルギーがあれば事足りますから」

普者「はあ、よく分からんけど、凄いなあ」

女神「とってもエコですからね」

普者「ふうん? よく分からないな」

女神「ささ、そんなことより早く食べちゃってください」



普者「ああ、足の裏が痛い……」

女神「大分歩きましたからね。足裏のマメは潰してるから大丈夫ですよ」


普者「女神さまは肩に乗っかってるだけじゃないですか」

女神「文句の多い人ですね。母親の愛情が足りなかったんですかね?」

普者「……女神さまってデリカシーに欠けてるよね」

女神「あ?」

普者「なんでもないです」



魔物の群れが道を塞いでいる!

普者「結構強そうだな、どうしようか」

女神「使えるものは使いましょう。まずはここは、山と山の間の道ですね」

普者「うん、道はこれだけだから避けるに避けれない」

女神「右の斜面を見てください。大きな岩石があります。他の小岩に引っかかって落下してないようですね」

普者「斜面通過してる時に落石したら怖い……」

女神「あの岩をヒノキの棒で落とせば一網打尽にできますよ」

普者「おお! …でも少し位置がズレてるよ」

女神「勇者補正があれば、これに気付くだけでなんの問題もないんですけどね」

普者「そんなこと言われても……どうしようか」

女神「少し頭を使えば何とかなります。まずはもう少し離れて聖水を浴びて……」コソコソ

普者「ふむふむ……」


グルル…


ポトッ

グル…? クンクン…

アグアグ…  グルル…!  アンアン!

女神「(畜生たちは干し肉にまんまと夢中ですね。この隙に慎重に素早く斜面を登りなさい)」

普者「(慎重と素早くは二者択一だよ)」

女神「(補正がないですからねー)」



普者「(…よし、気づかれずに登れた!)」

女神「(やりましたね)」

普者「(これ、このまま、先に進めばよくない?)」

女神「(追いかけてきますよ。この斜面も先は鬱蒼とした藪で進み辛いし、音で気付かれます)」

普者「(そっか…じゃあ、ヒノキの棒をこの辺に挿して……)」サクッ

女神「(もっと静かに!)」

普者「(この水と干し肉を入れた聖水の空き瓶を、この岩の下に!)」ポイッ

パリィンッ!

グルル!?  タタタッ

普者「(来たな! よーし!)」ググ…

普者「か、かた……」フググ

女神「(てことして使うには長さが短いですが、強化された肉体なら行けます! 多分!)」

グル…!?

普者「(き、気付かれた。くそっ、こうなったら僕の身体も使って……!)」グイィ

ズザザザザッ

女神「(よし、軽い岩雪崩が起きましたね!)」

ワオ-ン!?

群れの大部分を倒した!

普者「俺も落ちる! くそっ!」

普者はヒノキの棒を斜面に擦り付けて減速を図る!

普者「ヒノキの棒、大活躍だな…!」

グルル…  ガブゥッ!

生き残った魔物の攻撃!

普者「いっでぇぇぇええッ!?」

女神「他にもいます! 早く振り払いなさい!」

普者「調子にのるなァッッ!」ブン!

グシャッ!


女神「(うわっ、岩に叩きつけて殺すとか鬼畜)」

普者「殺してやるぅぅッッ!」ブンブンッ

群れの残党は逃げ出した!


普者「はあ…はあ…」

女神「結構頑張りましたね」

普者「くそっ、さっさと進もう」ボタボタ…

女神「まず傷の治療をしましょう…洗浄して、消毒して止血しないと、傷自体も致命になりうるし、血の臭いで他の魔物も寄ってきますよ」

普者「はあ、はあ……一応、応急処置用のセットを買ったはず」

女神「かなりひどい咬傷ですね……身体能力が上がって、生命力が高まっているとは言え、危険ですよ」

普者「洗浄か……この僧侶さんの革の水筒に入った水で……」バシャバシャ

普者「うぅぅぅ……ッッ!」ビクビク…  

女神「手も綺麗にして、ちゃんと洗うべきです」

普者「わ、分かってるよぉ……」ポロポロ



普者「はあ…はあ…そして消毒……でや」ブシュッ

普者「ぁぁぁッッ…!?」ビクビク

女神「我慢ですよ…魔物の体液を溶媒に漬けて酸化させたものですからね、痛みは伴いますが、消毒効果はバッチリですよ」

普者「ぐぅぅぅぅ…!」バタバタ…

女神「頑張れ❤︎ 頑張れ❤︎」

普者「うるせぇぇぇええ!!」

女神「せっかく人が応援してあげてるのになんですかその態度は」



普者「はあ……くそ…やっとブトー街に着くな」

女神「…長かったですねぇ、あの後も何度か群れの残党に襲われましたし」

普者「おかげで身体中ボロボロだよ…」


女神「取り敢えず治療ですね。教会に行けば浄財を払うことで、回復魔法をかけてくれますよ」

普者「……ここでもお金がかかるのか」

女神「フリーランチは存在しないですよ。まあ、ここは武闘が盛んで、行政も医療保障には力を入れてるそうですからね、他に比べたら安いですよ、多分」


普者「ボロボロだし、治療を受けるしかないか…」


【ブトー街・救護所】


普者「あの…」ボロッ

受付「あら、魔物にやられたんですか。重傷ですし、早く治療をしたほうがよろしいですね」

普者「あ、はい。お金は…」

受付「医療の質によって変わりますが、それだけの咬傷ですと、感染症の恐れもありますから、800G以上のプランをお勧めします」

普者「800G!?」

女神「(貴方なら、もっと安いので充分ですよ。一応ドーピ…女神の加護で体力バカになってますからね)」


普者「(ほんとうに?)」

女神「(まあ、疑うならどうぞ。勝手に一文無しになってください)」

普者「(他人事みたいに言うよね…)」

普者「じゃあ、一番安いのを…」

受付「そうなると50Gですが、こちらは『回復魔法・微小』と、多少の応急処置になりますが……」

普者「う、じゃあ、100Gは?」

受付「『回復魔法・小』を患部に重点的にかけますね」

普者「あ、じゃあ、それで…」

受付「この状態で『回復魔法・小』をかけると、おそらく傷痕が残りますが、よろしいですか? それに完治には程遠いかと…」

普者「は、はい」

受付「でしたら、失礼ですが、文字の方はかけますでしょうか?」

普者「あ、ちょっとなら…」

受付「それでしたら、こちらの治療への同意の用紙に記入をお願いします。用紙に記入していただいた場合、1割の追加負担はありません」

普者「は、はあ……」



普者「取り敢えず、傷が治った! 痛くない! 傷跡がたくさん残ったけど!」

女神「(選定の能力上昇のおかげですね。勇者補正とは別の扱いで良かったですね)」

普者「でも、お金が…はあ…」

女神「(お金がないなら、稼げばいいんですよ!)」

普者「稼ぐってどうやって?」

女神「(ここはブトー街。そこら辺で戦いが起きています。いい戦いをすれば、見物人がお金をくれたりします」

普者「ああ、パフォーマンス的な?」

女神「(そんな感じですね)」

普者「でも戦いたくないなぁ」

女神「(先だつものがなければ何もできませんよ)」

普者「はい」

女神「(あと、さっきから貴方、周りから見れば独り言を喋ってる危ない人ですよ)」

普者「えっ」

普者「(早く言ってくださいよ!)」

女神「(いや、それくらい気付いてくださいよ、バカなんですか? 死ぬんですか?)」

普者「(クソ女神め…)」

女神「(消すぞ)」

普者「(ごめんなさい)」



イケ-!  ソコダ、ヤレ!

「おらぁぁ!」

「だらぁぁ!」


普者「おお、やり合ってる」

女神「(そこそこ盛り上がってますね)」

普者「あんなのと殴り合うとか無理だよ」


女神「(命にお金は変わりませんよ)」

普者「(お金に命も変えられないでしょ)」

女神「ちっ、うっせーな」


「おい?」ガシッ

普者「ほへ?」

大男「俺のことうっせーとか言ったな?」

女神「……」ニヤッ

普者「(な、なんかデカいのが絡んできたー!)」

女神「あん? なんだこのいかれポンチの木偶の坊は? さっさと整形手術でも受けやがれ、魔物顔が」←声真似している(似てない)

普者「ちょっ」

大男「…おォォけェェ!! そのケンカ、買う……ぜっ!」バキィッ

普者「あへぇ!」ゴロゴロ


女神「(少し離れて見ぶ……見守ってますね)」

普者「こ、この……せっかく傷が治ったのに」

コッチデモハジマッタゼ!

デタ-! ヤカンオトコ!

ヤカンオトコ?

スグアツクナルカラ

アア…

大男「いつまでも地面にキスしてんじゃねえぞおらぁぁ!」ブオッ

普者「ひいっ!?」ゴロゴロ ササッ

コロガッテカワシタゾ!

サッサトタテヨ-!


普者「あー、こうなったらやってやる!」つヒノキの棒

キョウキアリカヨ-!

コリャア、コロシアイガミレルゼ!

女神「(あ、武器出したら、お互いに武器の使用がありというローカルルールがあるみたいですよ)」

普者「(マジで?)」

大男「殺してやるよぉぉ!」つ手斧

普者「あ、これ死ぬわ」

女神「(頭カチ割られたら死にますからね。蘇生とか不可能ですから)」

普者「ひいっ……」

大男「おらぁぁ!」ブン

普者「フビャァァァッッ!?」ササッ

ワ-ワ-!

女神「(相手の動きは早いですけど、かなり単調ですよー。でも食らったら死ぬから気を付けてくださいね)」

普者「ひぃ……ひぃ……」ガクガク…


女神「(怖じ気づいて相手の出方を見ないと死にますよー)」

コロセ! コロセ! コロセ! コロセ!

普者「(……殺せ? お前たち、本当に人が死ぬってどういうことか分かってるのかよ?)」イラッ

大男「おらっ、おらっ!!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ

普者「ひっ……ひぃっ」バッ、バッ、バッ

普者「(……あ、ほんとだ。落ち着いてみれば見える。この前までの魔物たちも怖かったり我を忘れてて、ろくに観察をしなかったけど、わりと見えるし、身体がついてくる)」ヒョイッ ヒョイッ

大男「ちい、ちょこまかうざってえ! おらぁぁぁぁ!」ブオンッ

ヒラッ

普者「(……伸びきった腕!)」ベシンッ

大男「ぐあぁぁっ!?」

普者「(……仰け反ってる頭!)」ググ…

ベチィィ……!


大男を倒した!


普者「はあ……はあ……」

イイゾ-! ワ-! ワ-!

見物人からコインが投げられる!


普者「(……死んでないよな?)」

女神「(生きてますよー。軽い脳震盪は起こしてますが、命に別状はないと思いますよ)」

普者「(そっか……)」ホッ

女神「(ささっ、お金を拾いましょう)」

普者「(……人を痛めつけて手に入れたお金なんて)」

女神「(お金はお金。さっさと拾ってください)」

普者「……」ヒョイッ ヒョイッ

女神「(そういう聞き分けのいいところは嫌いじゃないですよ)」

普者「(うるさい)」

【ブトー街・宿屋】


女神「ボロいけど、しょうがないですねー」

普者「……ちょっと身体洗ってくる」

女神「おーおー、水桶の水は冷たいですからねー、ちゃんと身体を擦っておくべきですよ」



普者「頬が腫れてる……くそ沁みる……」

普者「(……僧侶さんが死んだ。こうし落ち着いてみると、その現実が追いついてくる)」

普者「(なんで、彼女だった? 僕は何故生き延びた? そこに何の違いがある?)」

普者「(彼女が勇者でないから? 僕だって勇者じゃない。普者……凡人)」

普者「(彼女に危機意識が足りなかったから? 僕にだってなかった。今だって何もかもが足りてないことが漠然と分かる)」

普者「(……そもそもこうなったのはあのふざけた女神のせいだ。僕には他の生き方があったのに、それを奪われた。しかも勇者補正とやらも無いだと?)」

普者「(……あの女神は死神だ。僕を殺そうとしてるんだ)」

普者「(全部女神のせいだ。くそ……くそ……)」


女神「…………」



普者「…………」

女神「おや、随分と長い水浴びでしたね」

普者「……まあね」

女神「早く眠ったらどうです?」

普者「……うん」

女神「あ、そうそう。貴方は私からは逃げられないし、貴方に私を殺すこともできないので悪しからず」

普者「は?」

女神「余計な手間をかけさせない、私なりの優しさです」

普者「……随分とひねくれた優しさだね」

女神「その方が奥ゆかしさがあるでしょう」

普者「はは」


・・・

女神「ふんふん、ブトー街に来てから、もう一週間になりますね」

普者「もう闘いたくない」

女神「少額ながら稼げてるんだからいいじゃないですか。感謝して欲しいですね」

普者「なにを?」

女神「身体能力が上がってなかったら、無手勝流どころか、心得がなにもない貴方は、とっくに廃人になるくらい痛めつけられてますよ」

普者「……いまでも結構な頻度でボロ負けしてるけど」

女神「おかけで、ちょっとは闘い慣れもできたでしょう」

普者「まあ、ちょっとは……殺し合いは最初の大男だけだけど」

女神「最初のゴミ状態に比べれば中々の進歩ですよ。生ゴミくらいですかね」

普者「それ進歩してるっていうの!?」

女神「生き物に近づいてます!」

普者「生き物扱いすらされてなかったの!?」

女神「次は目指せゴミ虫! その前にワラジ虫! その前にミドリムシ!」

普者「これはひどい」


女神「あ、でもミドリムシはヘタな人間よりも有用ですからね。貴方はミドリムシにはなれませんね」

普者「なんで勝手に比較されて貶められてるのかな?」ピキピキ

女神「とにかく、そんなミドリムシ未満のふーくんのために、素晴らしいイベントを用意しました!」

普者「イベント?」

女神「月一回のブトー会です!」

普者「なにそれ?」

女神「おバカなふーくんのために解説するとですね、主に上流階級のための舞踏会が毎月この日の夜に開催されているのですが、朝から夕方までは武闘会も開かれるのです」

普者「ふうん?」

女神「武闘会の熱い戦いを見て興奮した人々は、夜の舞踏会で熱く談義を交わしたり、熱っぽい恋をしたりするというくだらないイベントがブトー会です!」

普者「くだらないとか言っちゃったよ」

女神「武闘会で優勝すれば、大量の賞金に加えて、夜の舞踏会にも参加する権利が得られる!」

普者「それで?」

女神「おバカですねえ。人脈作りですよ、人脈作り。魔大陸の調査、及び魔王を討伐するには貴族や豪商の支援を受けなければ厳しいですよー」

普者「はあ、なるほど……もしかしてこれがブトー街を目指した目的だった?」

女神「もちろん腕っ節が強い仲間ができれば、万々歳ですよ。勇者補正があれば、この一週間でも入れ食いの選び放題ウハウハだったんでしょうが」

普者「お、おう」

女神「そんなわけで、さっさと武闘会に行きましょう! ふーくんのエントリは私がしておきました!」ぶいっ

女神「れっつごー! ふーくん!」

普者「お、おう」



次回! 波乱の武闘会!


【ブトー街・第一コロシアム】


普者「(ここが武闘会の会場か。すごい人だかりだ)」

女神「(午前は選抜の大乱闘ですよ。残った12人が午後のトーナメントに残れます。)」

普者「(12人か)」

女神「(今回は人数が多いので二つに分けるそうですよ)」

普者「(つまり一回につき6人になるまで?)」

女神「(そういうことです。頑張ってください。私は少し離れた安全なところで見てます)」

普者「(見捨てるのかよ)」

女神「(私がいては本気で闘えないでしょう)」

普者「んー」

女神「(もちろん詭弁ですけどねー)」

普者「(おい)」

女神「(指示とか助言はしますよ)」


普者「(武器の持ち込みは禁止か。その代わり、ある重量まで支給されるのか)」

普者「(やっぱりこの長剣かな。かっこいい)」

女神「(剣の心得もないのに、なに言ってるんですか。貴方はちょっと大きい金槌で充分ですよ)」

普者「(おおう……)」

女神「(力いっぱい殴れば殺れます。特に技術もいりませんし、槍と違って密集しての乱戦でも扱いやすいです)」

普者「(金槌で敵を殴る勇者ってなんだ)」

女神「(貴方は勇者じゃなくて普者です)」

普者「(そうでした)」

女神「(そんなことより守りですよ。鎖帷子を着込むんです。盾はいりません。どうせなんの役にも立ちません。鎖帷子を二重にしたくらいでギリギリ重量をオーバーしないはずです)」

普者「(うす)」

ザワザワ…

女神「(しかし、勇者補正があれば、この待合室でもなんらかの出会いがありそうなものですけど、それもなさそうですね)」

普者「(普者ですから)」

女神「(そうですね)」


司会「さあ、今月も武闘会が始まります! 会場は満席! 熱い歓声が湧き上がっております!」

ワ-、ワ-!

司会「まずは、予選!! 毎度お馴染み! 生き残り大乱闘だぁー!!」

ワァァァァァァァアアア!!

司会「ルールは簡単! 一定人数になるまで潰し合う! 膝や尻を突けば負けだ! もちろん場外に出ても負け! 」

司会「今日もまた混沌とした戦いが繰り広げられるでしょう!」

司会「今回は人数の都合もあり、トーナメントを二回に分けます! つまり一回の大乱闘において6人になるまで続きます!」

ウォォォォォォォオオオオオオ!


司会「さあ、選手の入場です!」

司会「ここで注目の選手を紹介します!」


司会「数多の戦場を駆け抜けてきたツワモノ! 傭兵!」

ウォオオオ、ヨウヘ--!

司会「続いて、本戦常連! その剣筋は稲妻の如し! 軽戦士!」

ヤレ-! キョウコソ、サイゴマデカテ-!

司会「その端正な顔立ちと美しい剣技が多くの女性客たちを魅了してきました! コロシアムに舞う美しき貴公子! 美剣士!」

キャアアアァァ! ビケンシサマァ!!

美剣士「……ふ」サラッ

ブ-ブ-! ブ-ブ-!

司会「女性客からの熱烈な声援と、男性客からの激しいブーイングが飛び交います!」


司会「ブトー街最強と名高い剣術ハヤブサ流の継承者!老若男女に慕われるナイスガイ! 武剣士!」

キャアアアアア!

ワァァアアアア!

司会「女性からの黄色い声だけでなく、男性からも熱い声援が届きます。さすがブトー街の誇るハヤブサ流師範代だ! 満を辞しての初の武闘会出場! ハヤブサ流は武闘会でも最強なのか!?」


司会「そして、コロシアムに舞う美しき花弁! その華奢な体から放たれる拳は巨漢さえも一撃で倒す! 武闘家!」

ウォォオオオォ! ブト-カチャ-ン! ケッコンシテクレ-!

司会「前回は魔法剣士選手に敗れてしまいましたが、今回はリベンジなるか!?」



司会「さあ! 勝ち残るのは誰だぁ!? 新星の登場にも期待!下剋上は起きるのかァァ!?」

司会「ゴングがぁ……」


ゴオオオン!


司会「鳴ったぁぁあああ! 大乱闘の開始だぁぁあああ!!」


ウォォォォォォォオオオオオオ!!



普者「(くそっ、どうすればいいんだ!)」

女神「(落ち着いてください。まずは背後に気を付けるんです。そして貴方は背後に隙を見せた者を思い切り殴りつけなさい)」

普者「無茶をおっしゃる!」

女神「(殺さなきゃ、回復魔法のスペシャリストたちがなんとかしてくれます。そもそも殺しても特に罪に問われませんから、貴方が気にしないなら殺ってください)」

普者「なんちゅう女神だ!」

「うおりゃっ!」

普者「ひっ!」サッ

「でやぁぁぁあああ!」

普者「また!?」ササッ

女神「(足を重点的に狙って転ばすのもアリですよ)」

普者「……はっ」ヒュッ ゲシッ

女神「(お、二名失格させましたね。その調子ですよ)」

女神「(6人、もしくはそれ以上で結託してる者たちもいます。 そういう相手には出来るだけ囲まれないように動いてください。囲まれたら負けます)」

普者「ひい、簡単に言ってくれるね!」




美剣士「……ふう、暑苦しい男たちの群れだ」

「テメェの顔をブサイクにしてやるよぉ! 色男!」

美剣士「束でかかってきても無駄だよ」チャキッ


司会「美剣士選手に嫉妬する男たちが集団で襲いかかるも、美剣士選手、見事に捌いていきます!」

キャァア-、ビケンシサマ-!!

オカマ「美剣士ちゅわぁん!」ヒュオッ

美剣士「うわぁっ!?」

オカマ「アタシのあっつぅい思い、受け止めてぇ!」

美剣士「く、くるなぁ…っ! ゴブリンモドキめ!」

司会「おっとぉ!? ここで、前回大会で一騎当千の実力を見せた鬼才! オカマタイツが美剣士に攻めかかる!」

司会「全身をタイツに包む犯罪的な外見からは考えられない手練です!」




武剣士「ハヤブサ斬り!」ヒュオン ヒュオォ

「うわあああ!!」「ぬああぁ!?」

武剣士「……鍛錬が足りないな。うちの道場に来い。一から鍛え直してやる」


司会「武剣士選手! 必殺の剣技で、大量の選手を打ち破る! さすがの腕前だァ!」



傭兵「……」スパッ

「よ、傭兵……倒してやる」

傭兵「……」ギロッ

「ヒッ……うおおおお!」

傭兵「ビビってる時点で負けだ」ザシュッ

司会「傭兵選手、冷静に状況を判断し、的確に敵を倒していく!」




武闘家「はっ、やっ!」ドゴォッ ズドッ

「武闘家ァ! 積年の恨み、払ってもらうぜ」

「その身体に俺らの痕をつけてやるよぉ! ふへへ!」

武闘家「……どちら様でしょう?」

「て、てめえぇぇ!」

武闘家「爆裂拳!」カッ ドガガァァ


普者「ひい、僕の戦闘と違う……」

女神「(貴方の戦闘って基本的にヒノキの棒を振り回すだけじゃないですか。もしくはがむしゃらに殴る、蹴る)」

普者「普通、そんなものだからね!?」

女神「(はいはい。そんなことより余所見してると危ないですよ)」


「火炎魔法・中!」

女神「(横に飛びなさい!)」

普者「(ふお!?)」ピョンッ

ボォォォ!

普者「あちちっ!?」

「ぎゃああぁぁ!」「あぢぃぃい! あぢぃぃいヨォォォおお!」

魔法使い「ちっ、一匹逃したわね」

普者「ま、魔法か……!」

魔法使い「旋風魔法・中!」ビュロロ…ッ

普者「ひいいっ!?」ダダダ…

「がぁぁあああ!?」 「いでぇエェええ!」

女神「(あの少女、いい感じに失格者を出してますね)」


普者「……そんなの人に向けるものじゃないだろ」

魔法使い「……は?」ギロッ

普者「力の使い方を間違えてるだろ!」

魔法「雑魚が偉そうな口を利かないで! 水冷魔法・中!」バチャァァ!!

普者「(…避けれない!)」

女神「(膝をついちゃダメですよ!)」

ドパァァ!!

普者「グゥゥ……!」ガクガク…

魔法「……直撃でまだ立ってられるなんてね。もっと食らいたいドMなのかしら」

普者「くそっ……」ダッ

女神「(魔法の使い手相手に距離を詰めるのはいい判断だと思いますよ…というか定石です)」


軽戦士「はっ!」ヒュォォッ

普者「うぐっ……!?」ガガガ…

女神「(彼もかなり強いですよ……! 二人同時に相手してはいけません!)」

普者「そう言われても!」

司会「おっと! ここで新参、魔法使い選手が怒涛の快進撃! さらに、軽戦士選手がその取りこぼしを確実に潰す!」

軽戦士「ふん、人をハイエナか何かみたいに言うな」ヒュカカカ!

女神「(このままではやられます! 背に腹は変えられませんよ! 肉を切らせて骨を断つんです!)」

普者「簡単に言うな! この…クソがぁぁ!」ガシッ

軽戦士「(け、剣を掴んだだと!?)」

普者「うぐぐグゥゥ……」ググ… ボタタ… ガシッ

軽戦士「ぐっ……離せ!」

普者「だりゃぁぁああ!!」ブォン!

普者は軽戦士を掴んで、場外へと投げ飛ばした!


女神「(補正なしでもやるじゃないですか)」

普者「て、手が切れて力が入らない…」


女神「(……魔法! 回避しなさい!)」

普者「へっ」

ドゴゴゴ……

普者「うばっ!?」ボンッ

魔法使い「石土魔法・中」

普者は空中に放り出された!

普者「ま、負けました……」

女神「(ま、まだ落下先は場外じゃないですよ! うまく足で着地すればいいんです! まだ補正がなくても気合いでなんとかなりますよ!)」

普者「いやいや……」

女神「(甘えるな)」

普者「はいっ」

ガッ グググ…

普者「はぐぐぐ……」

普者は何とか足裏で着地した!


司会「これはすごい! 軽戦士を場外に投げ飛ばした選手! 魔法を食らい吹き飛んで尚、耐えています!」

司会「この選手の詳細は……ええと……後ほどお伝えします!」


普者「(いや、マジでもう無理)」フラッ

女神「(頑張ってください! 今は16人! あと10人倒せば本選ですよ!)」

普者「(いや、絶対に無理!10人は無理。俺が10人に入るの決定だよ)」フラ

女神「(魔法使いは、別の選手と近接戦をしてるし、まだ勝ち目はありますよ! 本選までいけば全回復もしてもらえるはずです!)」

普者「うぅ……」

「うおおおっ!」

普者「……っ」ブンッ!

ゴッ

「うがっ!?」ドゴッ

女神「(おおっ? 投げた金槌が、胴に当たって苦しそうですよ。ラッキーですね)」

普者「(代わりにこっちは空身だよ)」

女神「(じゃあ少しでも逃げてください)」

普者「うぅ……」フラフラ

女神「(ほらほら、頑張ってふーくん。もう11人ですよ。あとたった5人ですよ)」

「だあっ!」ガンッ

普者「あふっ」ドサッ


普者は気絶してしまった!


女神「(ううん……負けましたか。しかも、最後はよく分からない者にあっけなく負けるとは……)」

女神「(……勇者補正)」




普者「ふぁっ!?」ガバッ

女神「起きましたか」パタパタ…

普者「あれ…たしか負けて…」

女神「そうです、無様に負けて、情けなく気絶したんです」

普者「…お、ケガが治ってる!」

女神「まあ、武闘会での負傷は治してもらえますからね。死んだ場合は何もしてもらえませんが」

普者「そうなんか……しかし予選敗退か。当然の結果だけど情けないな…」

女神「まあふーくんが情けないのは、今にはじまったことじゃないですよ」

普者「ひでえ」

女神「あと、予選敗退ではないです」

普者「え?」


女神「色々あって本選に残りましたよ」

普者「おお!?」

女神「二回目の予選、6人も残らなかったんです」

普者「どういうこと?」

女神「開始して間も無く、勝負が着いたんです。立っていたのは一人だけでした」

普者「え、すごくない?」

女神「すごいというか……うーん」

普者「どうかしたの?」

女神「いえ、本選に出てもいいのかどうか……」

普者「え、出ようよ」

女神「……そうですね」

普者「勇者補正がきてるんじゃない」

女神「それはないですね……それなのに、こんな都合のいい展開…」ウ-ム

普者「まあまあ」

普者「本選か。一対一だよね」

女神「骨は拾ってあげます」

普者「死ぬ前提!?」

女神「ま、死にかけたら棄権したほうがいいですよ」

普者「(女神さまが僕の身を案じてくれている!? 今日は血の雨が降るんじゃないか?)」

女神「結構、アドバイスとかしてるじゃないですか。ぶち殺しますよ」

普者「ごめんなさい」



魔法使い「敗者復活オメデト」

普者「……あ、僕?」

魔法使い「他に誰がいるの? 目が腐ってるの?」

普者「あ、ごめんなさい。えと、ありがとう?」

魔法使い「……まあ、いいわ。次はすぐにボコボコにしてあげるわよ」

普者「ひぃ…!」

魔法使い「情けないヤツ。よくそんなんで、私に文句言おうとしたね。怖いなら棄権でもすれば? じゃあね」


女神「(貴方の1回戦の相手は彼女ですよ。どうやら挨拶に来たみたいですね)」

普者「な、なんなんだよ、もう」

女神「(ふーくんが、魔法を人間に撃つのを怒ったから気に食わなかったんじゃないですか? それにかなりプライドも高いし、2回も直撃を食らってピンピンしてるふーくんが気に障ったんでしょう)」

普者「だ、だって、あれだけの力、もっと良いことに使うべきなのに……」

女神「(それなら、倒してそう言えば良いんですよ)」

普者「……そっか、そうだね。よし、やってやるぞ!」

女神「(ふーくんの単純なところは美徳ですね)」


女神「(あ、私、今回は基本的にアドバイスとかしないですからね。その辺留意してください)」

普者「えっ?」

女神「(ちょっと気掛かりなことがあるので)」

普者「……?」


司会「照り付ける日差しと共に、更に熱気をました会場。武闘会にとってこれほど相応しい舞台は他にないでしょう!」

司会「さあ、衝撃の予選を終えて、午後の部、本選を開始します!」


ウォォォォォォォオオオオオオ!

ワァァァァアアアアアアアアアァ!

司会「まずは第1試合! 右は初参加ながら、風火水土の魔法を使いこなし、大乱闘でも抜群の存在感を放ったニューフェイス! 魔法使いィィ!」

ワアァァァ!

司会「北国、魔法都市の出身! 年齢は18! その手には魔道士の杖! 美少女の魔法が本選でも炸裂するかぁっ!?」

ウォォォォォォォオオオオオオ!

司会「対するは、これまた初参加! 予選の大乱闘では惜しくも敗れましたが、闘いが彼を呼んだのか、見事な復活! 大の男を場外まで放り投げ! 魔法の直撃を食らって尚も立ち上がる強靭な肉体! 普者!ァァ」

ワアァァ!

司会「年齢は20! 東国、始まりの町の出身! その決して大柄ではない体のどこにそんな力が秘められているのか! その手には……なんとヒノキの棒だー!」

ナメテンノカ-!
ホンキデヤレ-!



魔法使い「……私のこと舐めてる?」ピキッ

普者「そんなことないよ。自前の武器を使えって運営が何も貸し出してくれなかったんだよ」つヒノキの棒

魔法使い「……まあいいわ。後悔するのはそっちだからね」

ゴオオオンッッ!


普者「(……距離を詰める!)」

魔法使い「火炎魔法・小」ボボッ


司会「おっとぉぉ! 魔法使い、火炎魔法を放たずに留めている!」

魔法使い「火炎魔法・小」ボボッ

普者「(…何してるんだ?)」ブオッ

魔法使いは杖でヒノキの棒を防いだ!

魔法使い「火炎魔法・小」ボッ



司会「なんだぁ!? 魔法使いの周りを火の玉が三つ漂っている! 彼女は何をしようとしているんだぁ!?」

司会「おっと、ここで火の玉が彼女の前面に展開する! 普者、たまらず距離を取る!」


普者「なんなんだ…」

魔法使い「優れた魔法の使い手は、魔法を組み合わせて乗数的な威力を導き出す」

魔法使い「かなり知られた技術だけど、使いこなせる人はそんなにいないわよ」

魔法使い「旋風魔法・小」

魔法使い「……『熱風』!」

普者「ひいぃ…!」

普者は走り回って何とか回避した!

魔法使い「私相手にそんなに距離を取っていいの雑魚虫?」

魔法使いは呪文を唱えている!


普者「あ、ど、どうしよう」

普者は戸惑っている!

普者「(と、とにかく、突撃だ!)」ダダッ

魔法使いは魔法を唱えている!

普者「(たぶん大きな1発だ! 撃つ前に止める!)」ダンッ

魔法使い「(……っ、思った以上にはやいっ!)」

魔法使い「……火炎魔法・中!」ボォォォオオ!

普者「ひぃっ、ギャァアアアッッ!」


司会「おっとぉぉ! ここで普者選手の右腕とヒノキの棒が焼け爛れたぁ!これでは右腕が使い物にならない!」


魔法使い「私の勝ちね」

普者「うぉぉおおお!」

普者は左腕で殴りかかる!


魔法使い「悪あがきはみっともないわよ」バキッ バキッ

普者「グゥゥゥゥゥッ!」ビクッ


司会「魔法使い選手! 杖を使って中々の近接戦を展開する! 普者選手! 一方的に嬲られる! このまま決着かぁ!?」


魔法使い「話にならないわね」ゲシッ

普者「……うぉぉおおお!」ガシッ


司会「おっとお! ここで、普者選手、魔法使い選手の襟首を掴んだ! 両手は骨折と火傷にも関わらず、すごい精神力だァァァ!」


魔法使い「っ、汚い手で触るなぁ!」

魔法使いは『火炎魔法・中』を放った!

普者は腹部に酷い火傷を負った!


司会「あっとぉ…これは決着かぁ…!?」

司会「……いや! 普者選手倒れない! そのぐちゃぐちゃになった手でなおも魔法使い選手を掴んでいます!」

司会「ここで、見るからに満身創痍の普者選手! 魔法使い選手を押し倒してマウントを取ります!」


司会「おっとぉぉおお!? 魔法を使わせる暇もなく、殴る! 殴る!殴る!」


司会「ステージが見る見る血に汚れてくゥゥ!」

ウォォォォォォォオオオオオオォオオオオオオ!!

司会「なんと原始的で野蛮な闘い! 野生に帰ったような闘争に会場も沸き立ちます!」

司会「おっとここで審判が止めに入る! 普者選手の勝利ィィィィッッ!」

司会「ほとんどが予想しなかった展開だ! 火事場の馬鹿力を見せつけられたぁぁああ!」

フ-シャ! フ-シャ! フ-シャ! フ-シャ!フ-シャ! ワァァァァアアアアアアアアアァ!

司会「普者コールが響く! 今回の武闘会、波乱の連発です!」

次回、武闘会決着!(眠い)

医療室


「はい、処置終了」

「回復魔法に耐性が無かったのは迂闊だったなあ。超回復に耐え切れなくて心臓が止まってしまった」ハハ…

「この後、試合だからと昏睡草を打ち込まずに眠り草で処置したのが失敗だったな」

「電気甲殻が効いて良かった。これで、蘇生しないと運営からまた文句言われるしなあ」

「俺たちナシで、あんな無茶な闘いを観せ続けられないってのに」

「しかしこの選手、定刻までに目覚めるかね」

「なに、コイツを使うさ」

「……なんです?」


「新入りくんか。コイツは力の種と素早さの種、生命の種から抽出した成分を合成した向精神薬だ」

「効き目バツグン! 頭も身体もシャッキリ!」

「ただし、どうも依存性が強い。しかも無くなると離脱症状として無気力や倦怠感、絶望感に陥る」

「…劇薬ですね」

「ま、長期より短期の効果が、コロシアムの殺し合いには望まれるのさ」

「コイツ、狂戦士も射ってるんだが、彼もいい加減イカれ過ぎてな。もう、そろそろ手が付けられないんだよな」

「そのうち中毒で死ぬんじゃないのか? 憎まれつつも長年親しまれてきたのにな」

「運営としては死刑囚引き取って、稼げるだけ稼がせたんだから、満足だろうよ」

「いやあ、闇の深いお話だ…」

「まあ、雇われの身で滅多のこと言うもんじゃねえよ」

「はは、違いない」

女神「ヤケドの痕はともかくとして、完治しましたね。次も勝ちましょう」

普者「うん、そうだね!」キラキラ

女神「……どうしてそんなに興奮してるんですか?」

普者「わかんないけど、すごく調子がいいんだ!」キラキラ

女神「はあ……」

普者「それより魔法使いさんは大丈夫かな。頭に血が上ってたとはいえ、女の子に馬乗りになって思い切り殴るなんて……」

女神「闘いですし、しょうがないですよ。参加した彼女にも責任はあります」

普者「でもなぁ……!」

女神「そんなことより、少し眠ったらどうです全快したとはいえ、精神は消耗しているでしょう」

普者「いやあ、元気だよ! 治療が良かったのかな!」

女神「…そうですか」

女神「次の相手は、シードで前武闘会の2位、狂戦士です」

普者「つ、強そう…!」

女神「強いと思いますよ? 魔物の血が流れていて、人間とは思えない怪力。さらに狂暴。コロシアムに来る前は大量殺人鬼として指名手配されていたくらいです。コロシアム以外では到底生きていけない、根っからの戦闘狂ですよ」

普者「プロフィールがすでに怖いよ!」

女神「殺されないでくださいね?」

普者「ひぃ…!」

女神「あと運営から食べ物と新しいヒノキの棒が支給されましたよ。さっきの闘いで燃え滓になっちゃいましたからね」

普者「え、食べ物はいいとして、なんでヒノキの棒!? 金槌は!?」

女神「その方が面白そうだからだそうです」

普者「ひ、ひどい…!」




司会「続きましては重装兵VS武闘家!」

司会「重厚な鋼鉄の鎧に身を包む重装兵! 予選ではその鎧を脱ぎつつも、予想外の俊敏さで、敗者復活に割り込めるまで粘りました!」

司会「ここに来て、フル装備! 槍を構えて、闘いに臨みます! 本選でこそ輝く選手です!」

ワァァァアアアア!

司会「対するは武闘家! 疾風迅雷! 電光石火! コロシアムの武姫は本選ではどんな美しい闘いを見せてくれるのでしょうか!」

司会「彼女の『会心の一撃』に乞うご期待です!」

ブト-カチュワァァァァン!! アイシテル-!


重装兵「……小娘、容赦しないからな」

武闘家「そんな重い鎧を着込んでる臆病者にはまけません」

ゴオオオン!

重装兵「……ふん、戦場においては防御こそが重要だぞ!」ヒュッ

武闘家「……っ!」サッ

重装兵「はっ、はっ!」ヒュッ ブンッ ババッ

武闘家「っ、っ、ッ……!」タンッ タンッ タンッ


司会「重装兵、どんどん攻め込む! しかし、浮き足立つ様子はない! 闘い慣れしている!」

司会「一方の武闘家! 華麗にかわす、かわす、かわす!」

司会「ヒットアンドアウェイが彼女の基本戦法! 蝶のように舞っている! 蜂のように刺すのを待っている!」


重装兵「(見事な身のこなし……だが、焦れれば負ける。重要なのは相手を焦らすこと)」


武闘家「……もう見切りました」タンッ!

重装兵「……そこっ!」ブオッ


スカッ


司会「おっとぉぉ! 重装兵の渾身の一撃を武闘家、難なくかわしたぁぁ!」


重装兵「(これほど速いとは……だが、徒手空拳ならば私に一切のダメージがな……)」

武闘家「……鎧通し!」トンッ

ドゴォッ

重装兵「はぐぁっ!?」グラッ

武闘家「爆裂拳!」ドゴォオオッ

重装兵「ギィィ…!?」ググッ…

武闘家「……はァッ!」

武闘家の『会心の一撃』!

重装兵を倒した!

ワァァァァアアアアアアアアアァ!

司会「決着ゥゥゥゥ! なんという美しい連撃でしょう! これぞブトー会の名に相応しい闘い!」

司会「まさにコロシアムに舞う妖精だぁ!」

普者「強いなぁ」

女神「(狂戦士を倒した時は、彼女が次の相手になるかもしれませんね)」

普者「(勝てる気がしないんだけど)」

女神「(頑張れ❤︎ 頑張れ❤︎)」

普者「頑張る!」

女神「(バカですねー)」

普者「ひどいなぁ。ちょっと散歩してくるよ」



武闘家「……」スタスタ…

普者「あっ!」バタリ

武闘家「……何か」

普者「見てましたよぉ! 鮮やかな腕前ですね!」

武闘家「当然です。そんなことより、自身の心配をした方がいいのでは?」

普者「はい!」

武闘家「あなたの次の相手は狂戦士でしょう?」

普者「そうですね!」

武闘家「せいぜい殺されないことね」

普者「あっはい!」



普者「クールビューティだなぁ!」

女神「(舐め切られてますね)」

普者「だって僕弱いもん!」

女神「(確かに)」



司会「第三試合は美剣士VSオカマタイツ!」

司会「この二人は予選でも激しく闘いあっていました! この場で先ほどの決着がつきます! さあ、どちらが勝つのか!」



オカマ「なぁんど見てもイー男ネ、美剣士ちゅわぁん!」

美剣士「……うぅ、よりにもよってこいつか」

オカマ「予選でもそれなりに楽しんだけど、今度はしっぽり二人きりで、イチャつきましょう。美剣士ちゅわんの花園を覗かせてちょうだいな」

美剣士「……」ゾゾゾ…

ゴオオオン!

司会「さ、さあ! 試合開始です!」


美剣士「魅惑のタンゴ!」

オカマ「ああん! 踊る美剣士ちゅわん素敵ぃ!」

美剣士「しまった! すでに混乱状態か!」

オカマ「いくわよぉ! 『乱れ打ちィィ(意味深)』!」

美剣士「くっ…! この程度…!」

オカマ「『狙う(意味深)』!」

美剣士「ぅあっ!?」

オカマ「『どうぶつ♂』!」

美剣士「ぎゃあぁぁぁ!?」

キャァアァアアアアアアアアアッッ!?

オカマ「『どうぶつ♂』! そして『乱れ打ち(意味深)』――奥義『乱れ突き♂』!!」


司会「さ、惨劇! まさに惨劇としか言いようがない! まるで聖書に唾棄するような反道徳的な攻撃! オカマタイツのどうぶつ♂ がケモノ♂ になって美剣士に襲いかかる♂ これには美剣士どうしようもないか!?」



美剣士「……あまり、僕を舐めないでくれ――『剣の舞』!」ビュァアッ

オカマ「あぶないわねぇ!」

美剣士「熱狂の舞――武闘乱舞!」

オカマ「んおおおぉ♂」


司会「鮮烈な一撃ィィィィ! 全身タイツが千々に裂かれた! これでは公衆の面前で、オカマタイツのムスコ♂ がボンジューァ♂してしまうぅぅぅ!」

ギャァアァアアアアアアアアアッッ!?

オカマ「……そ、そんな、アタシの秘密の花園に隠されたバベルタワーが…!」


美剣士「……ふ」


司会「……いや、絶妙に見えていない! まるでちょっとエッチな少年マンガ状態だぁぁぁ!」

ウゲェェエエエエエエッ!



美剣士「君の体が男性だとしても、その心は女性なんだろう? それならば、レディを公然と裸にするのは僕の美学に反するのさ」フッ

美剣士「(というか見たくなかった)」


オカマ「美剣士ちゅわぁん……ふっ、アタシの負けよ」


司会「決着ぅぅぅ! 第三試合! 美剣士の勝利です!」

キャァアァアアアアアアアアアッッ!

ビケンシサマァアアアアア!

ブ-…ブ-…


普者「こいつぁひでぇや!」


女神「(一回戦で気になるのは、あとは5試合目ですね)」

普者「次の次か……武剣士VS黒装束?」

女神「(この黒装束というのが、大乱闘2回目を一瞬で終わらせたんです)」

普者「ということは魔法だよね!?」

女神「…………」

普者「どうしたの!?」

女神「(まあ、試合を見れば分かりますよ。ふーくんはお馬鹿だから何も分からないでしょうけど)」

普者「ひどいや!」

女神「(さっきからうるさいですね……)」


第4試合 ⚪︎傭兵VS長槍兵×

女神「(都合によりカットされました)」



司会「続いて第5試合! 武剣士VS黒装束!」

ワァアァアアアアアアアアアッッ!

司会「言わずと知れたこの男! この街が誇るハヤブサ流の現師範! 予選においても抜きん出た実力を見せてくれました! 天下無双の二連撃! 今回も鮮やかに決めてくれるのかぁぁあああ!」

司会「対するはァァアア! 先の予選で巨大な疾風を巻き起こし! 自身以外を全て脱落させた謎の男! 漆黒の衣に身を包み! その顔は今も隠されたままだ! コロシアムに衝撃の伝説を刻んだ男は本戦ではどのような試合を見せてくれるのか!」


武剣士「暑そうな格好だな」

黒装束「…………」

武剣士「だんまりか」


ゴオオオン!!


司会「さあ…試合開始!」


武剣士「…………」

黒装束「…………」

武剣士「(……相手の出方が分からないな)」

黒装束「…………」

武剣士「……攻撃してこないのか?」

黒装束「……ふん」

武剣士「ん?」

黒装束「貴様は小虫に攻撃するのか?」

武剣士「……言うね」

黒装束「全力を打ち込んでみろ」フッ

武剣士「(……本気で力を抜いている。罠か?)」


武剣士「……ま、ビビってるわけにもいかない!」ダンッ!

武剣士「(ハヤブサ流は最強! 王侯貴族たちにも証明してみせる!)」



武剣士のハヤブサ斬り!

会心の一撃!  会心の一撃!

トスッ  トスッ


武剣士「……!」

黒装束「こんなものか……他愛のない」

武剣士「……何者だ?」

黒装束「有象無象に名乗る必要もない」

武剣士「……そうかい」

武剣士は力を溜めている!

黒装束「……ほう?」

武剣士「(不遜な態度を取るだけある。バケモノじみた硬さだ。それなら――)」

武剣士「全力、いくぜ」

武剣士の超・ハヤブサ斬り!


会心の一撃!  会心の一撃!
会心の一撃!  会心の一撃!

トスッ  トッ
トッッ  スピッ

黒装束「ふむ、血が出たか」ポタタ…

武剣士「はあ…はあ…」

黒装束「ふむ……万が一で届き得る、か」

ズガッ  ザシュッ  メラメラッ……!


武剣士「ぅぁ……?」ブシャッ… バタッ

黒装束「念には念を……回復魔法・中」シュゥゥ…

武剣士「が…ぁ…」ピクピク…

黒装束「傷が完全に塞がった以上、再生は不可能だ」


黒装束「……まだ続くのか? 両足も吹き飛ばせと?」


カンカーン!


司会「な、なんということでしょう……武剣士選手の両腕が千切れて、け、消し炭に……」



普者「な、なんなんだアイツ……!」

女神「(ふーくん、見えましたか? 一応、頭の中でお願いします)」

普者「(鱗みたいな腕が、一瞬で両腕を千切って……炎は、魔法使いさんのと違って黒かったけど、多分魔法かな)」

女神「(ええ……そうですね。中々ちゃんと見てるじゃないですか)」

普者「(身体能力強化の賜物だよ。少しは戦い慣れしたからね)」

女神「(上々ですよ)」

普者「(しかし……魔物?)」

女神「(ええ……しかも恐ろしく強いです)」

普者「(どうしてこの戦いに……? 人脈作り?)」

女神「(脳みそ腐ってるんですか? せめて要人暗殺でしょう)」

普者「(じゃ、じゃあ誰かに知らせた方が……)」

女神「(あんな素性の知れないバケモノが舞踏会に呼ばれるわけないでしょう。少なくとも調査や検査でボロが出ますよ)」

普者「(あ、そ、そっか……)」


女神「(それより、次の次はふーくんの番ですよ? 準備はいいんですか?)」

普者「(準備っていっても……)」

女神「(相手の狂戦士の対戦者は、よく片輪にされてるそうですよ)」

普者「カタワ?」

女神「(手足とかがもげてるそうです。ちょうど先ほどの方のように)」

普者「ヒィ…」

女神「(五体満足で帰ってきてくださいね)」

普者「(恐ろしいことばかり言いますよねー)」


第6試合 ×拳闘士VS剣闘士⚪︎

女神「(武器には勝てなかったよ)」



司会「さあぁぁあ! 照り付ける陽光とともに白熱を帯びる武闘会ィィ! かつてないほどの波乱に包まれながらも2回戦第1試合が始まるぅぅ!」

司会「ここでついに、前大会準優勝! この街でその男を知らないものはいない! 人類とは思えない体躯! 戦いに飢え! 戦いの中でしか生き得ない凶悪生物!その常人離れした膂力で扱う戦斧は数多くの人間の骨を断ち!血を啜ってきた! 狂戦士!」

狂戦士「グアァァァァアア!」

司会「なんという雄叫び! それはまさに野獣のソレだぁ!」

司会「何百という人間を喰い殺したバケモノ死刑囚は! この闘いの地で最低最悪の野蛮の英雄として今日も君臨するッッ!」

司会「対するは普者選手! 体格こそ狂戦士の半分もないが! その精神力、その腕力は常人離れしている!」

司会「一回戦ではもう戦闘不能と思われた状態から奇跡の逆転勝利!」

司会「その手に握られているヒノキの棒は狂戦士という猛獣に届くのか!」

ゴオオオン!

司会「さあ! 試合開始のゴングが狂宴の刻を告げる!」


狂戦士「グァァア!」ブンッ

普者「ひぃっ!」サッ

狂戦士の猛攻!

しかし、普者は怯えながらも回避する!

普者「(…っ、武闘家さんの言ったことは本当だ。力任せ、衝動任せに見せかけて、実際に隙がないし、じわじわ追い詰められてる…)」

普者「(あかん、死ぬ…このままじゃ普/者になるの待ったなしだぞ。『普通の者』から『腐臭の物』になるぞ!)」

狂戦士「……グァァアア!」

司会「狂戦士! 攻めに攻めるが! 普者! それを何とかかわし続ける! 常人離れの戦闘が繰り広げられている!」

普者「(先ずは観察! ひたすら観察! こちとら、肉体は人間の限界近くにまで高まってるんだ)」

普者「(あっちが疲労するまで揺さぶってやる! さあ、長期戦だぜ)」

狂戦士「チッ!」ピタッ

普者「(……ん?)」

ギュアッ!

普者「ひっ!?」シュッ



司会「おっとぉぉ! 狂戦士選手、緩急をつけて巧みに斬りかかります! 普者選手、間一髪!」

普者「(掠った…やばい死ぬ…死ぬ…)」ガクガク…

狂戦士「へヒッ」ブォッ グォッ

普者「あひゃぁ!? うへぇっ!?」ババッ ダダッ

ニゲンナ-! タタカエ-!
ヘタレ-!

司会「あっと、普者選手! 背中を見せて距離を取ります! これはもう戦意喪失か?」

普者「(もう無理もう無理もう無理もう無理もう無理)」

普者「棄け――女神「(最後まで戦え)」……ひぃ!?」

女神「(この程度の敵に逃げ出してたら、魔王になんて到底勝てませんよ!)」

普者「(でも怖い…怖いよ!)」

女神「(死にたくないのなら! 普者でなく勇者になるのなら! その恐怖に勝ちなさい!)」

普者「うぅぅ……!」

狂戦士「ウラァァアア!」ブォンッ

普者「うぴゃぁぁ!?」バッ

ドゴォォ!

普者「(勇者!? 勇者になんてなりたいんだっけ!?)」

狂戦士「シネ! シネ!」ビュォッ ビュン

普者「考える時間くらいよこせごらぁ!」サッ グッ ドゴッ

狂戦士「!?」

普者「さっきからぁぁあああ!」ブンブン!

司会「おっとここで普者選手が反撃に転ずる! しかしヒノキの棒では狂戦士選手に効果的な一撃を与えられない!」

狂戦士「へッ!」ヒュオッ

ブシッ…

普者「ひぎっ!?」

司会「ああっとぉぉ!? 普者選手の左腕が切断寸前に! 大量の血が噴き出るゥゥ!」

アァアアアアアアアアアッッ!

普者「い、いだ……いだ…! ぁぅぅぅ…っ!」


狂戦士「グァァアア」ニタッ


普者「(……僧侶さん、あなたの死ぬ間際もこんな感じだったの? 信じられない気持ちと…どうにかなるような曖昧な希望)」


普者「(でも…死ぬんだ。死ぬ…? 死ぬ!?)」


普者「あああぁぁぁぁぁアアアアアア!!」グォ!

狂戦士「フン」グイッ

ベキベキ…

狂戦士「ク……スリ…!」グワッ

普者「(だ、ダメだ。敵わない…もう死んでも…)」


女神「(死ぬな! 最期の最期まで食らい付け! ……食らい付け!)」


普者「……アアアアァアァァアアアアアア!!!!」ギュアッ

狂戦士「ギイッ!?」



ドチュッ



普者「ああアアァアアアああアァああアァアアァアアアアァアアァアアア!!」ドチュ ドチュ ドチュ ゴリュッ

狂戦士「ガァァァアア!」ドゴッ ブチブチッ

普通「アアアアァアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァアッッッ!!」ブチュ ブチュ グチュ ジュポッ、ジュポッ…

司会「ひぃっ…な、なんという…ヒ、ヒノキの棒を狂戦士選手の首に、な、なんども…ぅプ…」


審判「そそ、そこまで! 止めろ! 止めに入るんだ!」

普者「アアアアァアアアアアァアアアアアァアアァアアアァアアアアアァアアアアアァァァァァアアアアアァアアアアアァアアアアアァアアアアアァアアアアアァアアァァアアアァアアアアアァアアアアアァアアアアアァアアアアアァアアアアア……!」

狂戦士「――――」ピクピク…



普者「あ……ぅぅ……」ガタガタ…

女神「(千切れた左腕や脇腹は何とかくっついたようですね。やはりこの街の回復魔法及び治療技術は素晴らしい発展を遂げています)」

普者「僕、僕は……人をころ、殺して……!」

女神「(ええ、まあ……あれを人と呼んでいいのかは分かりませんが)」

普者「ぼく、僕はなんてことを……」

女神「(生きるか死ぬかの場面でした。あなたは全力で生きることを選んだのです)」

普者「頭が追いつかない…なんで、なんでこうなった…!」

普者「僕は人を殺してでも生きなければいけなかった!? そもそも女神様のせいだ! 僧侶さんが死んだのもみんな女神様のせいじゃないか! 僕が、僕が苦しんでるのも……全部、全部!」

女神「(そうですね。間違いないです)」

普者「アンタがいなければこんなことにはならなかった! ……もう消えてくれ!」

女神「(無理ですね。どうしてもというなら、ふーくんを殺すしかありませんが)」

女神「(出来れば私としてもふーくんに頑張ってもらいたいんですよ? 貴方ほど生に執着のある人間、そんなにいませんから)」

普者「……アアアアァアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアァアアアアアァアアアアア!!」

女神「……」

普者「……」ハアハア…

女神「(しかし実際すごいですよ? あそこまで死の淵に立たせられて、諦めない人ってそんなにいませんからね?)」

普者「それは……」

女神「(さて、食事して休んだ方がいいでしょう)」

普者「…………うん」


普者「ぅぅ……」zzz

女神「(…これでまた一つ彼は強くなりました。ただ、あの場で念話を使ったことが、あの魔物にバレてないといいのですが)」

女神「(あの強さ、風格、只者ではありません。今、勘付かれるのは不味いでしょう)」



司会「2回戦第2試合! 武闘家VS美剣士! 美技対美技の美しい戦いを期待しましょう!」

美剣士「棄権するよ」

司会「え、ええ?」

美剣士「レディに手はあげられない。僕の美学に反するからね」

武闘家「……所詮は綺麗事の世界で生きる人間ですね」

美剣士「ふ、何と言ってもらっても構わないよ」

キャァアァアアアアアアアアアッッ! ビケンシサマァアアアアア!

ブ-!! ブ-!!

オカマ「美剣士ちゅわぁぁん! 素敵ィィィ! 抱いてェェェ!」

司会「お、思いも寄らない展開! 勝者! 武闘家選手!」

武闘家「……この場で敢えて言うなんてほんと目立ちたがりやなんですね」ハァ

美剣士「注目を浴びてこそ、僕の美しさが引き立つのさ」フッ

武闘家「……理解しかねます」



女神「(次の敵は武闘家ですか。ふむ、生命の危険はなさそうですが、勝率は限りなく低いでしょうね)」

女神「(次のカードは傭兵VS黒装束ですか。……武剣士が敵わない相手に実力でどうこうできるように思えませんが……)」


司会「ここで傭兵選手、棄権を表明しました! 2回戦第3試合は、黒装束選手の不戦勝になります!」

ブ-! ブ-!


女神「(賢明な判断でしょうね)」


傭兵「おう、嬢ちゃんか」

魔法使い「棄権したのね」

傭兵「勝てない戦いはできる限り避けるのが長生きするコツだぜ」

魔法使い「……臆病者」

傭兵「褒め言葉だ。こんなお遊びでなく、本当の戦いにおいては、勇敢な者や無謀な者から死んでいく」

傭兵「勇敢で居続けられるのは、勝利が確約された者…台本上の勝者か、勇者だけだ」

魔法使い「……」

傭兵「……喋り過ぎたな」

魔法使い「……」

傭兵「……そうだ。顔の傷、残んなくて良かったな。嫁入り前の娘が無茶するもんじゃねえぞ。両親も悲しむだろ」

魔法使い「アンタには、アンタには関係ないでしょ!」

傭兵「……それもそうだ。まあ、父親と母親によろしく伝えておいてくれ」

魔法使い「……」ギリッ



司会「2回戦最終試合は、剣闘士VS魔法剣士!」

司会「ここで前大会優勝の魔法剣士選手の登場だぁぁああああ!」

キャァアァアアアアアアアアアッッ!

ワャァアァアアアアアアアアアッッ

司会「北国の名家の生まれ! 魔法と剣技を極めし青年! その高貴なる戦いは見る者を魅了する! 今日も、私たち観客を幻想の世界に誘ってくれるのかぁぁあああ!」

魔法剣士「……」

剣闘士「澄ましやがって……気に入らねぇ」

魔法剣士「……別に自然体なのだが、気に障ったのなら許して欲しい」

剣闘士「けっ、そのキレイな顔を切り刻んでやる」

魔法剣士「あまり弱そうな啖呵を切らないでくれ……哀れだ」

剣闘士「……殺す!」

ゴオオオン!


司会「開始のゴングが鳴り響く! 先手は剣闘士選手だ! 凄まじい猛攻!」

司会「しかし魔法剣士選手、涼しい顔で全てさばき切る! 剣の腕前も魔法に劣らない!」

魔法剣士「……魔法剣を使う必要もないけれど、望まれるのだから仕方ない」チャキッ

魔法剣『水冷魔法・大』!


司令「おっとぉ! リング上に莫大な流水と冷気が舞う! なんとも幻想的だぁぁ!」

剣闘士「うぼぁ……!?」ザブッ

ピキキ……!

司令「ああっとぉ!? 剣闘士選手を飲み込んだ波が凍り付き! 剣闘士選手までもが凍り付いた! 試合終了! 魔法剣士選手の勝利です!」

魔法剣士「生きたまま冷凍してしまうのは少し可哀想だったかな」パチッ

魔法が消えた!

魔法剣士「なに、死んではいないよ。ゆっくりと暖炉の前で暖めてあげれば後遺症もないさ」

キャァアァアアアアアアアアアッッ

ワァァアァアアアアアアアアアッッ


普者「すごいなぁ」

女神「(見てましたか。かなりの実力ですよ)」

普者「(あっちの方が勇者っぽいね)」

女神「(ほんとですよ。どうしてあなたが選ばれたんです?)」

普者「(それはアンタのせいでしょ!?)」

女神「(ふーくんはすぐにそうやって人のせいにします。ダメ人間ですね)」

普者「(とってもとっても理不尽)」

女神「(神さまって理不尽なんですよ? 神話読んだことないんですか?)」

普者「(自覚あるのかー。なおさらタチが悪いね)」



女神「(さ、次は早くもまた貴方の番ですよ)」

普者「正直勝てる気がしない」

魔法使い「随分弱気なのね?」

普者「うおっ、魔法使いさん」

魔法使い「そうよ。アンタに顔面をぐちゃぐちゃにされた魔法使いよ。もう少しで、キズモノにされるところだったわ」

普者「ご、ごめんなさい」

魔法使い「ほんとよ、慰謝料を要求するわよ」

普者「ひぇー!」

魔法使い「いちいちムカつく反応ね……それより、ここまで来たからには優勝しなさいよね」

普者「まあそのつもりだけど」

魔法使い「私を負かしたんだから、あっさりやられたりしたら許さないからね」

普者「へい」

魔法使い「……それだけよ」



普者「結局、何の用だったんだろ」

女神「(勇者補正ありなら、アイテムとかをくれたんじゃないですか? もしくは、仲間になったりとか)」

普者「(おおー、あれだけの魔法の使い手が仲間になったら助かるだろうに……)」

女神「(常識的に考えて顔面ボコボコにされた男の仲間になるとは思えませんけどねー。ビジネスライクだとしても)」

普者「(確かに)」



司会「準決勝第1試合は普者VS武闘家!」

ワャァアァアアアアアアアアアッッ

司会「1回戦、2回戦と羅刹の如き戦いを見せた普者選手! 今回はどのように戦うのか!?」

司会「2回戦、まさかの不戦勝を果たした武闘家選手! 準決勝でも華麗な戦闘を見せてくれるのか!」


普者「えぇと、よろしく」

武闘家「……緊張感がありませんね」

普者「いやあ、狂戦士との一戦で気が抜けちゃって」


武闘家「……集中力の欠如」スゥ


ゴオオオン!


武闘家「それ即ち敗北です」


武闘家の正拳突き!

普者「っとぉ!?」ササッ

武闘家「……」

武闘家の回し蹴り!

ゴッ!

普者「ぅ……」

武闘家の足払い! 三角固め!

普者「ぐぅぅ……」ジタバタ…

武闘家「……」グググ…

普者「ぅぅぅ……ぅっ」パタッ

普者は闘いに負けてしまった…


司会「お、おっとぉ! 流れる動作で、普者選手をあっさりと圧倒! 勝者! 武闘家ァァアア!」

ワアアアアアアアアアッッ

武闘家「油断した者が負けるのは世の常。慢心しないことね」

女神「(負けちゃいましたね…)」

勇者「ごめんなさい」

女神「(まあ、ふーくんの現在の強さにしては準決勝進出でも中々の躍進だったんじゃないですか?)」

普者「あざっす」クタ…

女神「(学んだものもあったでしょうし、何よりも賞金も出ますし、それだけでよしとしましょう)」

普者「そうっすね」

女神「(あとは三位決定戦ですか……)」

普者「え、まだあるの!?」

女神「(何勝手に終わったつもりでいるんですか? そんな気持ちだから負けるんです)」

普者「はい…」


恰幅の良い中年「やあやあ、大活躍ですなあ!」

黒装束「……」

中年「私、ここの運営を一任されている者でして。どうぞお見知り置きを」

黒装束「何の用だ」

中年「まあまあ、先ずは座って」

黒装束「……」

中年「チッ……話というのは次の準決勝のことなんですがね」

中年「貴方の相手である魔法剣士殿の家は、このブトー会の大事な支援者でしてな」

中年「魔法剣士殿は、中王国の近衛兵の入隊が決まってましてな。これには我らの国も、魔法剣士殿の家も合意の上でして、私たちも協賛しているのですよ」

中年「こうして武闘会に参加するのは、その勇名を広げることの意味もあるのです。その為に、正式な配属になるまで武闘会でその御力を顕示なさってもらおうというのが私の趣意でして」


黒装束「……八百長か」

中年「……滅多なことは言わないでください。公正な勝負が観客の求めるものですゆえ……しかし、体調などが急に悪くなったりすることもあるでしょう」ハハハ

黒装束「……」

中年「そういうわけで、貴方のお心遣いがいただけたら幸いなのですよ……これはほんのお気持ちです」パカッ

黒装束「贈賄……どこもやることは変わらんな」

中年「やれやれ……どうでしょう」

黒装束「……断る、と言ったら?」

中年「止むを得ませんね」パチッ

突如現れた多数の護衛たちが黒装束に襲いかかる!

黒装束「有象無象が」

しかし、黒装束は護衛たちを瞬殺した!

中年「っ!?」

黒装束「雑魚がいくら集まろうと無力だ。お前も死んでおけ」

中年「……た、たすけ」

黒装束「ふん」ブチッ



司会「準決勝第2試合! 黒装束VS魔法剣士!」


魔法剣士「君は魔物だね?」

黒装束「……さて」

魔法剣士「闇の力を魔法の源としてるくせに……その黒装束の下の顔、拝ませてもらおう」


ゴオオオン!


魔法剣士「……いくよ」

魔法剣『旋風魔法・大』!

黒装束「そよ風だな。風の攻撃とはこうするんだ」ブァッ

魔法剣士「……!」


司会「巨大な竜巻のような旋風が魔法剣士に襲いかかるぅぅ!」



魔法剣士「はぁぁああ!」ザシュッ


黒装束「……ほう!」

魔法剣士「魔法の力を凝縮させ、威力を高めるのが魔法剣さ……真空波斬り!」

ギュオォッ

黒装束「……破ァッ!」ドゴォッ


司会「く、黒装束選手! 魔法剣士選手の魔法剣を拳で打ち破ったァァアア!?」

魔法剣士「隙ありだね」ヒュッ

黒装束「!」シュパッ

ポタッ…

司会「遂に魔法剣士選手の一撃が黒装束選手を捉え! その黒仮面を落としまし……え?」

魔物?「ククク、やるな」



魔法剣士「竜人?」

魔物?「……赤き竜だ」

魔法剣士「……伝説の四天王か!」

魔物?「ほう、よく知っているな。我こそは魔王陛下より『竜の封地』を賜り、司りし者――竜王である」

魔法剣士「……目的は何だ?」

竜王「すぐに分かる。貴様は分からぬがな」チラリ

魔法剣士「(……武闘会の見物に来た王侯貴族を殺すつもりか)」チャキッ

竜王「我の正体を知り、それでも挑むか……ふむ、先ほど感じた神の気配もこいつか? ……なるほど、勇者か」

魔法剣士「……君を倒してそうなるよ!」


竜王「……貴様を生かしておくわけにはいかん。――殺す!」






女神「(そこからは悲惨でした。魔法剣士は善戦こそすれ、真の姿になった竜王に破れ、貪り食われました)」

普者「(僕は勇者らしく戦ってやろうとも考えましたが、女神さまのアドバイスに従って、こっそりと逃げ出しました)」

女神「(武道家さんは果敢に挑みましたが片腕と片目が潰されてしまいました。再生は現状ムリなようです)」

普者「(美剣士さんは、上手いことご令嬢たちを避難させてました。手際がいい。ただ、修復不可能なまでに顔をグチャグチャにされたのでもう美剣士ではなくなりました)」

女神「(竜王の目的は殺しではなく、誘拐でした。数多くの王女含む貴族の娘たちを誘拐し、魔界へ連れて帰ってしまいました、あまりにも多様な国々の王侯貴族が攫われてしまい、大規模に軍を動かせない状況です)」

普者「(してやられてますね)」

女神「(歩調が合わなくて、小規模動員はあるかもですが、それで何とかなるわけもないでしょう)」

普者「(何ということだ)」


女神「(だからこそ少数精鋭が求められます。何箇所か報奨金を出してる貴族を回って軍資金はもらいましたからね)」

普者「いえーい」

女神「(武闘会で戦果を残した者のうち、ほとんど万全ですし、他の馬の骨よりは信頼がありますよ)」

普者「(勇者補正を取り戻したのでは?)」

女神「(それはないですねー)」

普者「そっか」

女神「(このお金を元に、仲間を雇ったり、装備品を整えたりしましょう)」

普者「うん」



女神「(まずは仲間ですね)」

普者「(やっぱり傭兵ギルドの酒場かな?)」

女神「(まあ、それもいいでしょう。しかしその前に、武闘会で出会った方々を仲間に誘ってみたらどうでしょうか?)」

普者「(えー? あんな濃い連中を…?)」

女神「(それなりに腕は立つでしょう)」

普者「(まあ、確かになぁ……)」


誰を仲間にする?

・傭兵
・魔法使い
・剣士(元・美剣士)
・武闘家(隻眼、隻腕)
・武剣士(両腕がない)
・オカマタイツ
・重装兵
・長槍兵
・軽戦士
・剣闘士
・拳闘士
・その他(役職も,武闘会医療組は極めて仲間になり辛い)


>>164-166

(1人1キャラでお願いします)

魔法使い

ありがとうございます
思った以上に定番メンバーで逆にびびる


普者「傭兵、魔法使い、武闘家を仲間にしよう」

女神「……ふむ、ふーくんのことだからてっきりオカマタイツを仲間にするかと思ってました」

普者「なんで!?」

女神「だって変態じゃないですか」

普者「いやいや」

女神「今さら隠しても手遅れですよ」

女神「ふむ、誰から声をかけますか」


普者「傭兵さんのところに行こう」

女神「何故です?」

普者「男だから話しやすいし、仲間に誘いやすい。あと、この時間なら酒場とかにいけば会えそうだしね」

女神「なるほど……確かに相手の宿屋が分からないと、会うこともできませんね。勇者補正もありませんし」

普者「取り敢えず、酒場に行きます!」



傭兵「……」グイッ

普者「(お、いたいた!)」

女神「(幸先がいいですね)」

普者「隣、いいですか?」

傭兵「……武闘会に出てたヤツか。たしか、普者とか言ったか」

普者「覚えてくれていたんですね。ありがとうございます」スッ

マスター「ご注文は?」

普者「あ、じゃあ隣の人と同じもので」

マスター「かしこまりました」

傭兵「……何の用だ」

普者「傭兵さん、方々から竜王を倒すという依頼を受けてお金をもらってますよね」

普者「僕も同じなんです。だから、竜王を倒す旅に付き合わせてもらえないかと」

傭兵「……」



マスター「お待たせしました」コトッ

普者「いや、正確には竜王を倒すだけじゃないんです」

傭兵「……」

普者「魔王を倒します」

グイッ

普者「げほっ……! な、なんだこれつよっ!?」

傭兵「……くはは!」グイッグイッ

普者「うわ、そんなに強いアルコールを……」

傭兵「若いな……俺にもそういう時期があった」

普者「……」

傭兵「今はもう、そんな若い心は無くなっちまったよ……竜王の件だって前金だけもらってバックレるつもりだ」

普者「……魔王を倒す気はありませんか」


傭兵「ないね。…兄ちゃん、若さは人に全能感を与えるがあまり自分を過信しちゃいけないぜ」

普者「僕は自分が普通の人間ということはいやというほど知ってます。それでも魔王を倒さなければいけないんです」

傭兵「……はあ、立派なもんだ。だが、そう言って死んでいったヤツらをたくさん見てきた」

普者「僕の場合は、そうしないと死んでしまうんですよ」

傭兵「はあ?」

普者「僕、勇者のなり損ねなんです」

傭兵「……やれやれ、慎ましいな。妄想なら勇者を名乗ればいいだろう」

普者「信じてもらえないかもしれませんが。本当なんです」

傭兵「……俺だってガキのころは勇者の冒険譚に夢中だったさ。数多くの危険を仲間と乗り越え……そして魔王を倒す」

傭兵「だが現実は物語の中ほど、都合よく進まないし、嫌になるようなことばかりだ」

普者「……本当ですよ。仲間は死ぬし、死にそうになるし、人も殺してしまった」

傭兵「……俺たちの稼業はその繰り返しだ。麻痺しても慣れることはない。今は麻痺していて平静でも目が醒めて死にたくなるのさ」

普者「……」

女神「(……ダメそうですね)」

普者「賭けをしませんか?」

傭兵「ほう?」

普者「誰かトランプはもってませんか?」

ホラヨ

普者「ありがとうございます」

傭兵「……何をするんだ?」

普者「1から10のカードまで使います。お互いに引いて、大きい方が勝ち」

傭兵「へえ……」

普者「僕が勝ったら仲間になってください」

傭兵「俺が勝ったら?」

普者「……お酒をおごります」

傭兵「……くはは、ここの全員にな」

普者「ひょっ!?」

マジカ!?
カテヨ!

傭兵「どうよ?」

普者「……いいですよ」

スッ

スッ

コンマ下1桁(0が一番大きい)

>>176 傭兵のカード

>>177 普者のカード

補正が無いから借金だな

ケェェ


傭兵「……1」

普者「9……9!?」

チッ、タダザケハナシカ

普者「(やばい、運を使い果たしちゃったかも)」

女神「(ふーくん、幸薄そうな顔してますからねー)」

傭兵「……気に入ったよ。約束通り、仲間になろう」

普者「お願いします!」


傭兵が仲間になった!



傭兵「そんなわけで、仲間なんだから俺の分の酒代は払っておいてくれ」

普者「ええ!?」

傭兵「それとお前の宿はどこだ?」

普者「あ、この近くです。えーと、看板が突き出てるところです」

傭兵「ああ、あの安宿か。わかった」



女神「(彼を仲間にできたのは大きいですよ。彼も、王侯貴族たちからお金を貰ってるでしょうし)」

普者「(戦力的にかなり頼もしそう)」

女神「(それにきっと魔物の解体ができますから、食糧と資金の調達もしてくれますよ。戦い慣れもしてますし、教わることも多いでしょう)」

普者「(うおお、ナイストランプ!)」

女神「(あとは魔法使いと、武闘家さんですね。知ってる人がいるかもしれません。特に武闘家さんはブトー街ではよく知られてますしね)」

普者「さあ、祝いがてら飲むか」

女神「(私もひと舐め)」パタパタ


「「うは……つよっ……」」


翌朝。


普者「おはようございます」

傭兵「おう。今日はどうするんだ?」

普者「旅立ちに備えて、必要なものを買って……装備を整えてって感じですかね」

傭兵「装備ねぇ……ヒノキの棒はやめるのか?」

普者「お金がないから、なくなく使ってただけですよ……そこそこ大きめのハンマーとか鈍器でいいかと思ってます」

傭兵「剣の心得はないみたいだな」

普者「そうですね……数週間前まではレンガ職人だったんで」

傭兵「くはは……それが今では勇者のなり損ねか」

普者「そんな感じです」

傭兵「……そのちっこいのは妖精か?」


普者「は、はい。ええと、旅の途中であった妖精です。行き倒れてたのを拾ったんですよ」

女神「(ほう……)」

普者「(一番これが自然じゃないですか!)」

傭兵「……ふうん」

普者「あ、そ、そういえば仲間にしたい人があと二人いるんです。仲間になってくれるか分かりませんけど」

傭兵「そうか。まあ、二人だけでいきなり魔王を倒しに行こうなんて言われても困るわけだが」

普者「ですよね!」

傭兵「何人で行くつもりだ」

普者「一応、予定は四人です」

傭兵「分かった。四人旅分の準備だな。お前の装備は?」

女神「(任せればいいんじゃないですか?)」

普者「さすがに無責任じゃない?」

傭兵「は?」

普者「あ、ああ、いや……えっと……」



傭兵「……あまり慣れてないようだし、俺が揃えるか?」

普者「あ、お願いします!」

傭兵「ああ。それじゃあ行ってくる」


普者「あれ、めちゃくちゃ良い人なんじゃ……?」

女神「(結構世話好きな感じですね。後進育成が趣味なのかもしれませんよ)」

普者「おお」

女神「(厳しくシゴかれるかもしれませんね)」

普者「うへ……」

女神「(それより、昨日酒場で聞いた武闘家さんの鍛錬場所にでも行ってみましょう)」

普者「そうだね」


ブトー街・小さな道場


普者「こんな小さい道場で修行を?」

女神「(そうみたいですね)」

武闘家「なにか用ですか」ヌッ

普者「うおっ!?」ドテッ

武闘家「……ああ、あなたですか」

普者「こんにちは……水を汲んでたんですか?」

女神「(そんなの見れば分かるじゃないですか。相変わらずバカですね)」

普者「(うぅ……。しかし、大変そうだな。身体のバランスが取れないのか、少し歩き辛そうだ)」

女神「(片目も潰れてるわけですしね)」

普者「(眼帯を付けて凛々しさが上がってるなぁ……)」

武闘家「道場の清掃をするんです。どいてもらっていいですか。中に入れません」

普者「あ、はい」



ドタタ…

普者「(片手なのに、すごいスピードで雑巾掛けするんだな)」

女神「(……ああして足腰を鍛えてるんでしょうね)」


武闘家「ふう……まだいたんですか」

普者「あ、うん。ここは君の家の道場なの?」

武闘家「知り合いの道場にいそうろうさせて貰ってるんです」

普者「じゃあ出身はブトー街じゃないんだ?」

武闘家「生まれは西国です」

普者「そうなんだ。修行をしに来たの?」

武闘家「ええ、魔王を倒すための。父母は住んでた町ごと魔王軍に焼き払われたので」

普者「え……」

女神「(西国、南西国、北西国は魔王軍と、抗争があったのは知ってますよね)」

普者「(う、うん……その争いの犠牲者だったのか)」


武闘家「……私はあなたにそんな目で見られる程弱くありません」

普者「え……?」

武闘家「わたしは弱い貴方の哀れみなんていりません」

普者「そんなつもりはないんだ……ただそんな人がいることなんて知らない自分が情けなくて」

女神「(本当に情けないですねー)」

武闘家「そういう反省は私の知らないところで勝手にやってください」

普者「ごめん……」

武闘家「そんなことを聞くためにここまで来たんですか?」

普者「……武闘家さんに僕の仲間になってもらいたくて」

武闘家「……仲間?」

普者「僕は魔王を倒さないといけないんです。協力してもらえませんか」

武闘家「断ります」

普者「……」

武闘家「……私は強くなるための修行中です。現状では四天王にすら敵いませんでした。ましてこの腕と眼では魔王を倒すなんて無理です」


普者「正々堂々と魔王を倒す必要はないんじゃないかな?」

武闘家「……」

普者「竜王ですら、僕らでは太刀打ちできなかった。あれより強い相手に正々堂々と戦っても個人で正攻法じゃあ絶対に勝てないよ」

武闘家「……私だってそんなつもりはありませんよ」

普者「だから協力するんだよ。1人では勝てない相手には2人で、2人で敵わないなら4人で」

普者「正攻法で勝てないなら搦め手で。それでダメなら不意打ちで」

武闘家「そうですが、貴方の仲間にはなりません」

普者「…どうしてさ」

武闘家「あなたは竜王から逃げた。そんな人と共に戦いたくはありません」

女神「(逃げなきゃ、ふーくんが殺されていてもおかしくなかったんですから、当然のことです)」

武闘家「別に、逃げたのを責めるつもりは毛頭ありません。ただ、そういう者に生命を預けたくはないだけです」

普者「……確かに僕は逃げた。でも、本当に魔王を倒すつもりなら、それは普通じゃない?」

女神「(その通りですよ)」


普者「自分の生命さえも守れなければ、他に何も守れないじゃないか。あの、バケモノに無謀な勝負を挑んだ時点で、君は魔王を本気で倒すつもりはないんだ」

武闘家「……否定しきれませんね」

普者「でも、君が他の人を助けたいがために、竜王に挑みかかったのは決して責められることでなくて、もちろん勇敢で素晴らしいことだった。僕にはできなかった」

武闘家「……?」

普者「……あれ?何が言いたいんだろう?」

女神「(バカですねー、バカです)」

普者「と、とにかく、仲間になってほしい!」

武闘家「話を聞いてましたか? 断るっていったんです」

普者「お願いします!」

武闘家「いやです」

普者「そこをどうか!」

武闘家「いやです」

普者「どうしても?」

武闘家「いやです」

普者「ほんと、お願い! 少しだけ! ちょっとだけ! 悪いようにはしないから!」

武闘家「殴りますよ?」

普者「殴ってもいいから!」

武闘家「……」

普者「ほんと!? いいの!?」

武闘家「何も言ってません!」

武闘家の回し蹴り!

ガシッ

女神「(…いいこと思い付きました!まず足払いするんです!)」

普者「ていっ」パンッ

武闘家「くっ!」バンッ

女神「(受け身を取ったところを馬乗りに!)」

ドサッ

女神「(両足を相手の足に絡めて、さらに、片腕、押さえつける! もう片手で、相手の隻腕を押さえつける!)」

グルッ ガシッ ガシッ

武闘家「……なんのつもり?」キッ

武闘家「(……力は存外強いのね)」

女神「(ふふ、いい身のこなしでしたよ、ふーくん)」

普者「(こ、ここからどうするの? 武闘家さん、すごく怒ってるけど……)」

女神「(ふふ、仲間になると言うまで……いたぶるんですよ)」

普者「(げ、外道…!)」

女神「(しっかり押さえつけていてくださいね)」

武闘家「……はやくどいてください。今ならまだ許します」

普者「え、えーと……」

女神「(ふふ、その強気な態度がどこまで持ちますかねー?)」パタパタ

武闘家「……虫?」


女神「(……全力で行きます!)」プツン


コチョコチョコチョコチョ…

武闘家「……ぁっ!? っ!? ……!」ビクビクッ

コショコショコショコショコショコショコショコショ……

武闘家「ぁ……うぐぅ……」ビクビク

女神「敏感ですね! さあ、もっと行きますよ!」

コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ……コショコショコショコショコショコショコショコショ……

武闘家「ひっ……くひっ……や、やめぇ……」ジタバタ…

女神「(さあ、言質を取るんです!)」

普者「あ、えっと、仲間になるならやめたげるよ!」

武闘家「だ、だれが、こんな卑怯な手をつか……くひっ……!?」ビク

コショコチョコチョコチョコチョコチョコショコショコチョコチョコチョコチョコショコショコショコショコショコショコチョコショコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ……

武闘家「はんんっ……くひゃっ……ぅぅ……!」ヨジッ バタバタッ

コチョコチョ……!

武闘家「ふる……くふひっ……ひゃ、ひゃめ……~~!」ピ-ン


ピタッ

武闘家「はーっ! はーっ!ひゃひぃ……!」ビク

コチョコチョコチョコチョコチョコチョコショコチョコショコショコショコショコショ……

普者「な、仲間になってくれないかなぁ?」

武闘家「やっ……やひぇふぅ……!」ビクビク

女神「(それならもっとですね……)」

女神「この腕の断面とか、最高に、くすぐったいですよ」ニコ

武闘家「……っ」


1時間後


武闘家「なひゅ……なひゃはひにゃふ……」ゼッゼッ ビク- 

普者「仲間になる?」

武闘家「……!」コクコク


武闘家が仲間になった!



女神「……ふー、私もいい加減疲れました」

武闘家「……ぅぅ」グテッ

女神「色々な体液が垂れてますね。また道場を綺麗にしないといけないんじゃないですか?」

普者「……はぁはぁ」

女神「……なに欲情してるんですか。気持ち悪い」

普者「いやだって、あんなに澄ました武闘家さんがあそこまで乱れるなんて……表情とか匂いとかもう……押さえつけてるからビクビクするのも伝わってもうね……」

女神「それなら、今がチャンスじゃないんですか?」

武闘家「……」ビクッ…ビクッ…

普者「いやいや……それはない。さすがにそんな鬼畜ではない。押さえつけた時点でも相当だけど」

女神「そうですよ!」

普者「しかし、本当に可哀想だな。掃除して、着替えさせた方が……でもそしたら裸を見てしまうし……」

女神「どうせ、修行ばかりしてる野生女ですよ。ムダ毛とか生やしまくりの傷だらけの汚い身体ですよ」

普者「そんな言い方はないでしょ」イラッ

女神「おや? どうして貴方が怒るんですか?」



武闘家「それで、勝手に着替えさせたんですか」

普者「はい……生傷はありましたが、すべすべで綺麗でした」

武闘家の『会心の一撃』!

普者「……ごふっ」チ-ン


武闘家「……あの虫はどこに? 気配は……まだ近くにあるんですが……」

女神「(虫じゃないですからね、この小娘)」←透明になって天井付近に

普者「あはは……」

武闘家「……思っていた以上に最低な人ですね」

普者「ご、ごめんなさい」

武闘家「……分かりました。仲間になりましょう」

普者「ええ!?」

普者「(あんなことされて仲間になるか普通!?)」


武闘家「まあ、拷問されていたとはいえ、私が心で負けてしまった以上、反古にするのは不本意です」

普者「が、頑固だね」

武闘家「それにあなたみたいな最低な人といることで、自分の弱さを克服していけそうです」

普者「こ、向上心に満ちてるね」

武闘家「それに、あなたみたいな危険な人を野放図にしておくわけにもいきません」

普者「はい」


女神「(きっと、くすぐりが気に入ったんですね。ドMですよドM)」

普者「えっ?」

武闘家「……なんですか?」

普者「ドMなんですか?」

武闘家の飛びヒザ蹴り!

普者「きゅぅ……」グタ…




武闘家「やっと帰りましたか」


武闘家「…………」

コショ…

武闘家「……自分じゃダメですね」


女神「ふふふ……」ニヤッ

次回、魔法使いが仲間に!?



普者「(あとは魔法使いさんだけど……どこにいるのかな?)」

女神「(ヘタをすると、この街を既に出てるかもしれませんよ)」

普者「(そうしたらもう無理だよね)」

女神「(大人しくオカマタイツでも仲間にしてればいいんじゃないですか?)」

普者「(実は女神さまがオカマタイツのファンなんじゃ……)」

女神「(あ?)」

普者「(なんでもないです……あれ、傭兵さんだ)」


女神「(その隣にいるのは、魔法使いですね)」

普者「(……何か話してるみたいだけど。あ、こっちに気付いた)」

ズンズン

魔法使い「アンタ、あのオッサンを仲間にしたんだって?」

普者「う、うん」

魔法使い「……私もアンタについていくわ」

普者「えっ」



魔法使い「どうせ魔法が使える仲間なんていないんでしょう? 一通りの属性魔法と、副専攻だったから少しなら回復魔法も使えるわ」

普者「おお?」

魔法使い「父親に棒術も習ってるから近接戦にも心得があるわ。私と同じ水準の人材を雇おうとしたらどんなに買い叩いても1日5000Gはかかるわよ。ありがたく迎え入れなさい!」

女神「はあ? 仲間にしてもらうのに、その口の利き方はないだろ?」←似てない声真似

普者「(なに言ってんの!?)」

女神「(なんかこの娘、お高く止まってて嫌いなんです。自分に自信満々なところとか、口が悪いところとか)」

普者「(完全に同族嫌悪じゃん)」

女神「(…目がよく見えないんですね? くり抜いてあげましょうか?)」

普者「(ひい……)」

女神「(だいたい、ふーくんはガシッ

魔法使い「……ピクシー?」プラ-ン

普者「あ……」

魔法使い「喋るピクシーなんてどの文献にも載ってなかったわ……しかも口が悪いわね」プラプラ…

女神「は、離しなさい……!」バタバタ



魔法使い「アンタ何者なの?」

普者「え? えーと……勇者になり損なった普通の人です」

魔法使い「はあ?」

女神「ふーくんは魔王を倒す冒険中なんですよ!」バタバタ

魔法使い「……らしいわね」

女神「……はーなーしーなーさーいー!」バタバタッ スポンッ

魔法使い「……うるさい妖精ね」

パタパタ…

普者「(こっち飛んできた)」

トスッ

女神「まったく、手荒いですね」ハァハァ

魔法使い「その妖精も気になるけど、それより今は私を仲間にするかどうかよ!」

普者「ええと……」チラッ

傭兵「はぁ……」スキニシロ

普者「それじゃあ仲間になってよ。よろしくね」


魔法使いが仲間になった!


普者「(これで4人パーティだ!)」

女神「(ふーくんが、抜けてますよ? あと私の数え方は“柱”なので)」


魔法使い「……そういう訳だから!」

傭兵「……ったく」

普者「(傭兵さんと魔法使いさんってどういう関係なんだろ)」

女神「(ドロドロの痴情のもつれですよ、どうせ。爛れてますね)」

普者「(爛れてるのは女神さまの頭の中じゃ……)」

女神「(死にたがりは賢くないですよ?)」ニゴッ

普者「ひぇ…っ」

翌日。

傭兵「さて、取り敢えずこのメンバーで旅に行くわけだが」

女神「(どうして、ふーくんじゃなくて、よっさんが仕切ってるんですが)」

普者「(オッサンみたいな言い方しないで。最年長なんだからいいだろ)」

女神「(最年長ならやはりよっさんですよ。あ、私に年齢という概念はありませんので)」

傭兵「それじゃあ簡単に自己紹介でもするか。傭兵どうしでもあるまいし、お互いのことを少しでも知る方がいいだろ」

普者「傭兵どうしではあまりしないんですか?」

傭兵「以前酒を酌み交わした相手を手にかけるってことも、そんなに珍しいことじゃないからな。情は移さない方がいいのさ」

普者「うわぁ……」

女神「(歪な存在ですねぇ)」

傭兵「じゃあ俺から。生まれは北北西の国……まあ今は魔物に支配された土地だな。好きなものは酒と女だが…仲間に手を出すつもりはないし、ガキは興味ないから心配すんな」クハハ…

魔法使い「ふん、下品な紹介ありがとう!」


女神「(ほら、次はふーくんがするんですよ)」

普者「あ、えーと普者です。はい」

女神「(自己紹介ヘタってレベルじゃないですよ!)」

普者「あー、えーと東の国でレンガ造りをしてました。歳は今年で20です。よろしくお願いします」

魔法使い「あんたよりも、その肩の妖精はなんなの?」

普者「(ひぇぇ…冷たいよぉ…)」

普者「旅の途中で行き倒れてたから保護したんだよ」

女神「(ほう……)」

普者「(今さら言い直したら余計疑われるじゃん!)」

魔法使い「ただの妖精でさえ珍しいのに……人に懐く上に喋るなんて」

女神「誰も懐いてなんていませんよ。頭が湧いてるんじゃないですか小娘」

魔法使い「…ほんとに口の悪い妖精ね。ほんとは魔物なんじゃないの?」

女神「自身に都合の悪いことは全て魔物のせいにする短絡さは賞賛に値しますね。あまり適当なことばかり言ってると消しますよ」



魔法使い「ふん、口だけは達者ね。そんなに非力な身体ではそれくらいしか長所がないでしょうし」

女神「(やはりこの小娘は消し飛ばすべきですね。そうしましょう)」

普者「(やめてください!)」

武闘家「……」ジロッ

普者「(うわっ、武闘家さんが睨んでる! 絶対に昨日のあれのせいだ!)」

女神「(ふふふ、あれについては、何の心配もありませんよ。今も物欲しそうに見てるだけですよ)」

普者「(いやいやいや……)」

普者「そ、それじゃあ魔法使いさんお願いします」

魔法使い「ふん、生まれも育ちも北国の魔法都市よ。去年、飛び級で入った魔法学校を首席で卒業したわ。魔法に関しては誰にも劣らないと自負してるわよ」ドヤッ

普者「おお!?」

武闘家「経歴は結構ですが、それに見合うだけの実力を実戦で見せてもらいたいものですね」

魔法使い「どいつもこいつもケンカ売ってくるわね……買うわよ?」

武闘家「あくまで事実を述べたまでですが」

普者「(こっちもさっそく険悪な感じに…!)」


普者「次! 武闘家さんお願い! はいはい!」

武闘家「……西国の生まれです。魔王を倒します。以上です」

普者「(……短い!)」

女神「(ふーくん未満がいました)」

魔法使い「アナタ、体術の他に特技があるんでしょ? 片目、片腕で体術にしか能がないとか役立たずにも程があるわよ」

武闘家「私は技の研鑽に全てを捧げた身です。この体でもあなたと戦ったら負けないと思いますが。

魔法使い「…はあ? 魔法も使えないくせに」

武闘家「そんなものに頼って慢心した結果、普者さんに負けていたじゃないですか」

魔法使い「いやなヤツね…」イラッ

武闘家「あなたに好かれようとも思ってませんから」

普者「あ、あのー、仲間なんだから仲良く…「黙って!」はいスミマセン!」

普者「(この二人も相性悪過ぎでしょ!)」

女神「(人選を間違えたのではないんですか?)」



女神「(それより、なにを小娘たちに遠慮してるんですか、さっさと黙らせなさい)」

普者「(そ、そうは言っても…)」

女神「(気弱ですねー、そんなんだからモテないんですよ)」

普者「(やめて!)」


傭兵「おいおい、お前ら。俺たちはこれから常に生命の危険が付きまとう旅に出ようとしてるんだぞ。くだらないケンカをしてる場合じゃないんだからな」

魔法使い「別にケンカなんてしてないわよ」

武闘家「本当のことを言っているだけですが」

魔法使い「……」イライラ

傭兵「……勝率、生存率を上げるためには協力が必要不可欠だ。死にたくないならお互いに妥協しなければいけないこともたくさん出てくるぞ」


魔法使い「そんなこと分かってるわよ」

傭兵「いいや、分かってない。色々な条件が重なる実戦において、常に実行可能な最善を取らないヤツはな、死ぬぞ」

普者「……」

傭兵「最善を尽くしても死ぬときは死ぬがな。だが、よく連携の取れた集団の方が個人よりは生き延びられるさ。連携しない集団は個人以下だがな」

武闘家「……」

傭兵「お前らがいつまでもそんな調子だっていうのなら、お前らは連れていかない。足手まとい以外の何物でもないからな」

魔法使い「……ふん、分かったわよ」

武闘家「……」

傭兵「それでいい」

普者「(さすがよっさんだね)」

女神「(ふーくんもよっさん呼ばわりしてるじゃないですか)」

普者「(い、いいじゃん。親愛を込めてるんだよ)」


傭兵「さて、魔王を倒す旅に出るとして、まずはどこに向かうつもりだ?」

普者「え?」

魔法使い「魔王を倒すと豪語するくらいなんだから何かしらの秘策があるんでしょ?」

普者「え、えーと……」

魔法使い「まさか何も考えてないなんてことないわよね?」

普者「(女神さま、どうしましょう!?)」

女神「(困ったときだけ神頼みするなんて都合のいい人ですね? そんな人を助けると思ってるんですか?)」

普者「(えぇー……だって元は女神さまが……)」

女神「(ほら、そうやってすぐに人に転嫁しようとする。狭量ですね、ふーくんは)」

普者「(理不尽すぎるよ……)」

武闘家「……まさか本当に何も考えていなかったんですか」

普者「ぇと……」シドロモドロ

女神「(……手のかかる子ですね、ふーくんは)」


女神「私たちの次の目的地は大賢者の住む小島です。ふーくんが昨日の夜に言ってました」シレッ

傭兵「大賢者?」

魔法使い「……」ジッ

女神「どうかしました?」

魔法使い「アナタ、何者なの?」

女神「どこからどう見ても可愛い妖精じゃないですか。目が悪いんですねー」

魔法使い「ふん……私にはブサイクで邪悪な小人に見えるわ」

女神「はあ?」

普者「もうやめて! 二人ともほんとやめて!」

武闘家「和を乱す人ばかりですね。呆れます」

女神「それは貴女でしょう? 客観視が足りてないんじゃないですか? 澄まし顔で大人ぶってもまだまだ幼稚ですね?」

武闘家「……好きに言ってください? あなたがそれで満足するなら」

女神「ほんと可愛くないですね。親の愛情が足りなかったのではないんですか?」

武闘家「……両親のことを悪く言うのは許さないわよ」ギロッ

普者「(……言っていいことと悪いことがありますよ!)」



女神「(だってー、この小娘が好きに言えって……)」ブ-


普者「とにかくそう! 次は大賢者の小島に行きます! うん!」

傭兵「はあ…どこにあるんだ?」

普者「(ど、どこですか…?)」

女神「(はあ…どうして女神である私が矮小な人間に遠慮しなきゃいけないんですか)」プクッ

普者「(拗ねないでくださいよー!)」

魔法使い「南西の国のさらに南の湾にあるっていつか聞いたけど?」

傭兵「そうなのか?」

普者「(女神さまー! どうなんですか!?)」

女神「(私もそうだと聞いてます)」

普者「そ、そう! 魔法使いさんのいう通り! 流石だね!」

魔法使い「けれど、そこに行って何をするというの?」

女神「バカですねー。大賢者と言えば色々なことを知っているのですよ。情報があれば、色々と物事を有利かつ効率的に進められるんですよ」

魔法使い「……一々癪に障るけど、合理的ね」

傭兵「確かに正確な情報は多ければ多いほどいい」

武闘家「……」

普者「よ、よし! それじゃあ次の目的地は南西の国! 大賢者の住む小島だ!」


傭兵「早めに打ち解ければいいけどなあ」

「「「無理」です」」

普者「息ぴったりじゃん……」

傭兵「くはは、前途多難だな」

こうして4人(と1柱)の旅が始まる!(クソ忙しい)

【酒場】


剣士「…………」

オカマ「あらぁ、美剣士ちゅわぁん!」

剣士「……」

オカマ「こんなところで会うなんて珍しいわねぇ!」

剣士「……失せろ」

オカマ「なによぅ……冷たいわねぇ……ああん、でもその方が愛の炎は燃え上がるわぁ!」クネクネ

剣士「……君の相手をする気分じゃない」

オカマ「ああん、つれない! アタシの相手(意味深)シてよぉ♂」

剣士「…………」

オカマ「…ほんとに元気ないわねぇ。もしかして顔のこと?」

剣士「……君みたいなゴブリンモドキには分からないだろうな。僕の美しさが失われた……これはもはや社会的な損失さ」

「「((なに言ってんのコイツ……?))」」

剣士「美しくない僕なんて生きていてはいけないんだ……いっそもう……」

オカマ「あっはっは!」バンバンッ

剣士「いったぁ!?」

オカマ「そんなに気にしてたのぉ? 女々しいのね? 確かにアタシには分からないわ」

剣士「……ふん、だろうな」

オカマ「でも、そんな美剣士ちゅわんに朗報よぉ。その顔を元通りにできるかもよ?」

剣士「ほ、ほんとか!?」

オカマ「錬金術って知ってるかしら?」

剣士「……石を金に変えるアレか?」

オカマ「そう! その研究者なら、色々な奇跡的なことを起こせるそうよぉ。その顔も治せるんじゃない?」

剣士「ソイツはどこにいるんだ!?」

オカマ「分からないわぁ……けれの錬金術といえば魔法学から派生したものだし、やはり北国かしらねぇ」

剣士「……良い事を聞いた。礼を言う」

オカマ「アタシもイくわよぉ! 三人旅ね♂」

剣士「君みたいな危険なヤツと一緒に旅に出れ ……待て、三人旅?」


武剣士「俺だよ」

剣士「……ふん、尚更断るよ。両腕のない男の介助なんて真っ平さ。武剣士じゃなくて武士……いや、戦えないのなら武士ですらないね」

武士「……お前の言葉通り、この体じゃ剣士は名乗れない。だが、まだ戦えるさ。強がりじゃない」

剣士「……」

オカマ「さっきもストリートファイトしてきたけれど、普通に圧勝してたわよぉ。常人離れした体幹と柔軟性で両腕がなくても下手な戦士よりはよっぽど強いのは保証するわぁ」

剣士「……はあ、その危険な全身タイツを見張っていてくれるっていうなら、同行してもいい」

武士「本当か?」

剣士「僕だってハヤブサ流には一目置いてる。その師範が剣を握れないのは残念に思うからね」

武士「……礼を言う」

オカマ「美剣士ちゅわぁん! やっぱり素敵! 抱いて!」クネクネ

美剣士「やめろ! 気持ち悪い!」


オカマ「それじゃあ目指すは北ね!」

剣士「……君は錬金術で何をするつもりなんだ?」

オカマ「……アタシはね、男でもあり、女でもある。だから、いつも片思いの恋しかできないの……とても辛いわぁ」

剣士「(……錬金術で心も体も女にするつもりなのか)」

オカマ「それならば、アタシに恋するアタシ好みのイケメンを造り出せばいい!」

剣士「は?」

オカマ「そして、ありとあらゆる種類のイケメンを揃えたハーレムパーティを築くのよ♂」

武士「その発想が男のソレだよな」

剣士「神や生命への冒涜だね」

オカマ「シャラァップ!!」クワッ

ヒィッ…!?

オカマ「 神? 倫理? そんなもの知ったこっちゃないわよ!」

武士「おいおい……」

オカマ「ユートピア(イケメンハーレム)を手に入れるためなら…女神だろうが魔王だろうがブチ殺す! それがアタシ! オカマタイツよ!」ザパァン

「「((か、漢だ……!))」」ザワザワ…

剣士「(今どこから波が出てきたんだ……?)」

オカマ「このパーティはいうなれば、その前段階! イケメンハーレム(仮)よ!」

剣士「どうしよう…さっそく抜けたくなった」

武士「奇遇だな…俺もだ」

オカマ「うふふ……言質はとったわぁ……もう、逃がさないわよぉ♂」


こうしてオカマタイツのイケメンハーレム計画の旅が始まった!

時間を少し遡り……武闘会数日前。


【魔大陸・魔国王都・魔王城】


魔王「…………」

竜王「…………」

魔大臣 「陛下! お世継ぎ様がついにお産まれになられました!」

竜王「!」

魔王「ほう、竜王の娘がついに余の子を産んだか」

魔大臣「ええ、そうです!」

竜王「おお! 我が娘ながらよくやったぞ!」

魔王「さすが竜の一族、そして主の血筋だ。我が子を産むに耐えるとはな……」

竜王「有り難きお言葉ですな。牙王や海王のような下等な一族と一線を画すとは、自負しておりますが」


魔大臣「ただ、お后さまは、ご出産と同時に……」

竜王「……むう。まあ、陛下のお世継ぎを産むという女としてこの上ない名誉ある大義を果たしたのだ。悔いはないだろう」

魔王「それで、もちろん男児であるな?」

竜王「どうなのだ!」

魔大臣「……そ、それが」

「あぅー……」ペタペタ…

魔大臣「……ひ、姫様!?」

魔姫「あぅ?」

竜王「なんという事だ……」

魔王「……これが我が子。偉大なる王であり父である余に挨拶にでも来たか?」

魔姫「??」キョトン

魔王「しかし、女の世継ぎなど存在してはいけない」ブワァ…


魔姫「……ぅ?」

魔王「消えろ」ブォッ


ドゴォォン……!!


魔大臣「ひっ……!」

竜王「はあ……どうして男を産まなかったのだ愚女は」

シュゥゥ……

魔姫「ぁ……ぅ……」ピクッ

魔王「……まだ息があるか。女といえど我が子なだけはある」

竜王「(……もう傷が治り始めている。竜の一族と陛下の血を継ぐ娘。ただ殺すには惜しい)」

魔王「……ふむ。それならば、人間どもを滅ぼす尖兵として育てるか。

竜王「……それもよろしいかと」


魔王「魔大臣、此奴に幻術をかけるのだ……人間を心底憎み、我に忠誠を誓うようにな」

魔大臣「……はっ! さっそく手配して参ります!」


魔王「竜王」

竜王「……はっ」

魔王「人間の娘を連れてこい。もちろん、あちらで高貴とされる血筋のな」

竜王「……し、しかし、それは人間たちとの戦争になり得るかと」

魔王「竜王よ。余は気分が悪い。お主の血筋は我に期待をさせておいて裏切った。本来ならば一族もろとも消してもよいくらいだ」

竜王「!」

魔王「だが、貴様の働きぶりでは不問……上手くやればさらなる領土、特権……何かしら褒美を与えてもよいぞ」

竜王「……承知いたしました。この竜王にお任せください!」

魔王「うむ。戦争になってもそれはそれで構わん。ここ数年の豊作で食糧は存分にある上、『海の封地』と、『屍の封地』の反乱分子は完全に支配下に置いたため、戦力的にもそこまでの問題はなかろう」

竜王「確かに陛下が『王の力』を御継承になられて以来、今が最も平穏で、戦力的にも充実しておりますな」

魔王「……そろそろ勇者が復活する頃合いかもしれんしな」




魔姫「ぁぁぁ!」ジタバタ

幻魔師「……ひひひ、可哀想に」

夢喰「どんな夢見せてるんだ?」

幻魔師「延々と、自分を育てて、愛してくれた者が人間に殺される幻さ」

夢喰「へへへ、ひでぇな。お、防衛反応で可愛らしい夢が出たぜ。お后さま……母親の笑顔か。死にかけだってのに幸せそうな顔してしてんなぁ……ああ、ウメェなぁ。甘過ぎだがな」

魔姫「ぁぁぁ……!!」ポロポロ…

幻魔師「おお、それならお后さまが人間にぼろぼろに嬲られて殺される幻を見せるか……ひひひ!」


「おうおう、見事なレンガにつられてきたら、随分ひでえことしてるじゃねぇか」

夢喰「なっ、にんげ――」ゴンッ パタッ

幻魔師「夢喰!?」

「レンガ投げ!」ビュッ

幻魔師「うごぁ!?」ガッ バタンッ



「……他はいないか。しかし、見事な赤レンガ……と、それも大切だが、まずはこの娘だな」

魔姫「ぅぅぅ……!」ガリガリ…

「大丈夫か? 拘束までされて可哀想に」

魔姫「うあぁァァ!」バキィッ

「うおっ!?」

魔姫「があああぁぁぁぁ!」ドゴォッ

「うぐっ……!!」ブォン ゴロゴロ……


魔姫「……あう!?」ハッ

トテトテ

魔姫「あう…あう…」オロオロ……ポンポン……

「いてて……魔物はちっこい子どもでもこんなに強いのか……?」ググッ

魔姫「あう!?」


「あぶなかった……レンガを二重にして胸ポケットに入れてなかったら死んでたぜ」

魔姫「ぁぅっ!」ギュッ

「ん、なんだ? よしよし」ワシャワシャ

魔姫「……あう♪」

サワガシイナ……


「げ、見張りか? もっとじっくりレンガを見たかったが……よく分からんがここはやけに強そうな魔物が多いし流石に逃げるか」

魔姫「ぁぅ……」ギュゥ…

「いてて……お前もレンガ探求の旅について来るか?」クイッ

魔姫「ぁぅ♪」

謎の人物の正体は!?
次回ストーリーは再び本編に!

【道中】


普者「ひい……ひい……」

魔法使い「ちんたら歩いてるんじゃないわよ! 日が暮れるわ!」

普者「いや、四人分の荷物は重いよぉ……!」

女神「戦力としてはお荷物だけど体力バカのふーくんが荷物を持つのが、一番合理的ですからね、仕方ありませんよ」

傭兵「くはは、頑張れ……と、陣を展開しろ」

武闘家「また鱗獣、とサハギンですね。今日だけで何匹倒したことが」

傭兵「武闘家、奥にいる極彩色のヤツだけは相手にするな。猛毒を持っている。周りを蹴散らせ」

武闘家「……」ダッ

武闘家の『回し蹴り』!

傭兵「嬢ちゃん、賢いお前なら言わなくても分かるな」

魔法使い「ピンポイントで毒持ちをやればいいんでしょ! あとその呼び方はやめてよね!」

魔法使いは『火炎魔法・中』を放った!


傭兵「よくやった、次はサハギンをやるんだ。俺は少し前にでる。ボウズ、嬢ちゃんの援護だ」ダッ

普者「はいっ」

魔法使い「あんたの援護なんかいらないわよ!」

普者の攻撃!

魔法使いに迫っていた魔物を倒した!

女神「あれー、今の状況で援護がいらないって自殺願望でもあったんですかぁ?」

魔法使い「……ちっ!」

普者「そ、それよりも魔法をはやく! 前二人の負担を減らさないと!」

魔法使い「分かってるわよ! うるさいわね!」イライラ

普者「ごめんなさい!」



武闘家「はっ!」

サハギン「シャァァ!」

武闘家「……!」

ザシュ!

サハギン「ァ…………」ピクピク

傭兵「少し前に出過ぎだな。仲間との連携を意識する癖をつけろ」

武闘家「……はい」

傭兵「まあ、まずは殲滅だ」



傭兵「……お、こいつ逆鱗もちだな」

普者「これですか?」

傭兵「ああ、通常のウロコは剛性が高い上に展延性が低いが、逆鱗だけは特別でな、色々と加工ができるんだ。しかも色みが格段にいいから、高級な調度品なんかの原料としても重宝される」

普者「へえ…」

女神「つまりお金になるということですね?」

傭兵「ああ……よしボウズ、教えてやるから解体してみろ」

普者「は、はい」


『鱗獣の逆鱗』を手に入れた!

傭兵「ま、中々立派だし1000Gくらいにはなりそうだ」

普者「(うおお、大金)」

女神「(どれくらいですか?)」

普者「(僕の一週間分の給料より多いよ)」

女神「(ふーくん生産性ひくそうですもんね)」

普者「(いい加減なくよ?)」

女神「(やめてください。気持ち悪い)」

普者「(ふぇぇ)」


傭兵「さて、こいつを捌くか。今日の夕食の材料だ」

魔法使い「……ちょっと待って。この魔物を食べる気?」

女神「まさに臭い飯ですね。私には関係ありませんが」

傭兵「臭みをとれば中々うまいぞ? 鶏肉と魚肉の中間みたいな味だ。さっぱりした口当たりだが噛むほどうま味がでてくる」

武闘家「……」ゴクッ

傭兵「まあ、しっかり鱗や皮を落としたり、内臓の処理をしないといけないがな……ほれボウズ、やるぞ」

普者「へい」

傭兵「内臓もどうせなら塩辛にしたいが、今回は都合が悪いな」

武闘家「……塩辛ですか。美味しいですよね」

傭兵「お、分かるか。港町とか海の近くで育ったのか?」

武闘家「はい。魔物の塩辛は食べたことありませんが」

魔法使い「魔物の内臓を食べるなんて正気の沙汰じゃないわよ!」

傭兵「……清酒との相性は抜群なんだがなあ。塩辛さの中に中々深い香りと味わいがあって酒が引き立つ」

普者「(美味しそう)」




傭兵「……今日の野営地はこの辺りにしよう。周囲の湿地帯は水棲の魔物が多い。水辺に行く際は単独行動しないこと」

魔法使い「それくらいの判断もできないほど子どもでもないわよ」ツンッ

傭兵「……ふう」

普者「さて、聖水をまくか」

傭兵「……いや、まかない方がいいかもしれない」

魔法使い「何言ってるの? 魔物に殺されたいわけ?」

女神「先ほどの貴女みたいですね」ププッ

武闘家「……この羽虫妖精は常に人を煽らないと死んでしまう生き物なんですか?」

女神「食い意地の張った小娘は魔物みたいな穢れたものを食べることだけ考えてればいいんですよ」

魔法使い「……やっぱり消し炭にしておくべきよ」ゴゴゴ…

武闘家「同感ね」ズオオ…

女神「(ふーくん、可憐でか弱い女神さまが危険に晒されています。もちろん助けますよね?)」

普者「(自分の身から出た錆じゃん)」

女神「(おや? 誰に口を利いてるんですか? 一番危険な時に、身体能力強化すら消えてもいいんですか?)」


普者「ま、まあまあ! 二人とも落ち着いて! お腹すいたし、ご飯にしよう!」

魔法使い「黙りなさい」

普者「いや、でも……」

武闘家「あなたが口を出すことではありません」

普者「そんなことはないような…気がしないでもないような…」

女神「(本当に情けないですねぇ、ちゃんと言いたいことは言いなさい!)」

普者「……」ブチッ

普者「すぐにケンカばかりするんじゃないよ! もっと協力しあうべきでしょ!」

魔法使いの攻撃!

普者「ふべっ」

武闘家の攻撃!

普者「はびゃっ」

女神「あらら」

普者「」チ-ン


傭兵「ふう……お前らそこに並べ」

魔法使い「はあ?」


傭兵「並べッッ!!」カッ


武闘家「……っ」

魔法使い「……なによ」


パンッ  パンッ


武闘家「……」ジンジン

魔法使い「いた……」ポロ キュッ


傭兵「武闘家、ここはどこだ?」

武闘家「……魔物が多く棲む湿地帯の近辺です」

傭兵「そうだよなぁ。そんなところでお前らがやったことはなんだ?」


魔法使い「……もう分かったわよ」

傭兵「言えッッ!」

魔法使い「……パ、パーティのメンバーと口論になって……仲介に入ったメンバーに手を出しました」

傭兵「それは許されるべき行為か?」

魔法使い「……いいえ、許されません」

傭兵「それならばどうしてそうした?」

魔法使い「そ、れは……」

傭兵「言え」

魔法使い「こ、これくらいなら許ざれると甘えがあっだからです……っ」ポロポロ…

傭兵「甘えるな。お前はさっきボウズがいなければ死んでいたぞ。いい加減この旅は生命がかかってることを自覚しろ」

魔法使い「はぃ」グスッ


傭兵「武闘家、お前もだ」

武闘家「はい」



女神「ようやく生意気小娘が折檻されましたか」

傭兵「なに他人事みたいに言ってるんだ」ガシッ

女神「いたたた!? 痛いです! 髪の毛はなしてください!」ジタバタッ

傭兵「妖精かなにかしらんが、お前が一番タチが悪い。お前の目的は知らんが、これ以上周りを乱すなら、それなりの覚悟はしてもらうぞ」グイッ

女神「いたいぃぃ! 私のキューティクルが傷んじゃうぅ……!」ポロポロ

傭兵「分かったか」

女神「わ、分かりましたよぅ……だから離してくださいぃ……」

パッ

傭兵「まったく……ボウズもいつまでも気絶したふりしてるんじゃない」

普者「あ、はい」

女神「……」ギロッ

傭兵「おい」

女神「な、なんにもしてないでーす」

傭兵「はあ……」




ボコボコ…

傭兵「……もう少し、火力を抑えるんだ。おいおい、出力がぶれぶれだぞ」

魔法使い「魔法はこんなことに使うものじゃないわよ……」

傭兵「学問としての魔法、もしくは戦闘での魔法しか使えないなら、俺からしたら二流だな」

魔法使い「……っ」

傭兵「まあ、修行だよ修行」

普者「材料を切りました」

傭兵「おう、置いといてくれ」

武闘家「……」パッ パッ←アクを取っている


女神「(どうして上空で見張りをしなきゃいけないんですか……とくに魔物はいませんよ)」

普者「(了解)」



傭兵「さて、出来上がったな」

普者「あら汁と、煮物…美味しそうだなぁ」

武闘家「魔物でもちゃんと調理すれば食べられそうですね」ゴクッ

魔法使い「魔物を食べるなんて……はあ……」

傭兵「干し飯もお湯で戻したし、野飯にしては中々豪勢なもんだ。魔法使い……というか火炎魔法さまさまだな」

魔法使い「そこは私のおかげでいいでしょ!」

武闘家「ありがとうございます、火炎魔法」

魔法使い「ったく……」イライラ

武闘家「冗談ですよ」

普者「さ、食べようか」


ズズズ…

傭兵「うん、あら汁はいいダシが出てるな。濃厚ながらも臭みはなく、ほくほくの根菜の味を引き立てている」


普者「煮物も美味しい! 臭くないし、身がしっかりしてて本当に鶏肉っぽいのに、確かに、魚のうま味がある! 甘辛い味付けが本当にぴったりだ」

女神「(ふーん、そうですかー)」

普者「(あ、た、食べます?)」

女神「(女神が魔物を食べるわけないじゃないですか。……別に羨ましいとかも、““これっぽっちも””思ってません)」

普者「(そう? 美味しいのに)」

女神「(うるさいです!)」ゲシッ

普者「いてっ」

魔法使い「結構おいしいわね……」

武闘家「……!」モグモグ パクパク ゴクゴク

魔法使い「…口の周りについてるわよ。いい年して子どもみたいね」


普者「そういえば、武闘家さんっていくつなの?」

武闘家「確か……十五です」

魔法使い「は?」

普者「そ、そんなに若いの…?」

武闘家「あ、数え間違えました。十四です」

傭兵「ふうん…年の割には大人びてるな。態度が落ち着いているからか?」

普者「……六つも年下なの?」

武闘家「そうですが、なにか?」


魔法使い「……はあ、そんな子ども相手にムキになってた自分が情けないわ」

武闘家「子ども扱いするのはやめてください」

魔法使い「だって子どもじゃない。子どもはそう言うのよ」

傭兵「俺から見たら、みんな等しくガキだがな」

魔法使い「……」



普者「(……着替えさせたのは犯罪だった?)」

女神「(十四歳に発情する二十歳……犯罪者以外の何物でもないですね)」

普者「(い、いや、知らなかったからセーフ! セーフだよ!)」

女神「(アウトです!)」

普者「(oh…)」

次回に続く!(誰か代わりに書いて)

【数日後・道中】


普者「うーん、何も見えない」

傭兵「濃霧か……湿地帯だから仕方ないが、索敵に支障が出るな」

魔法使い「武闘家、一人であまり前に出ないの」

武闘家「分かってます」

魔法使い「あ、髪の毛がはねてるわよ。しょうがないわね、直してあげるわ」

武闘家「結構です……ここ最近いやに世話を焼いてきますね……」

女神「貴女が年下と知ってお姉さんぶりたくなったんでしょう。幼稚ですね」

魔法使い「うるさいわね」

武闘家「……」フゥ

傭兵「ったく、あの妖精は……」

普者「彼女が一言多いのは前からですから、あまり気にしないようにした方がいいですよ」

女神「(はい? ふーくん、いつからそんなことが言える身分になったんですか?)」


普者「(ご、ごめんなさい……でも、これ以上軋轢が生じるのもアレだし……)」

女神「(そのために私を犠牲にするんですね。ふーくんはユダですね、ユーくんです)」

普者「(いやいや、なにそれ? それにユーくんなら勇者っぽい)」

女神「(貴方よりもよっさんの方がまだ勇者っぽいですよ。いや、あれはあれでただの鬼教官ですけど)」


傭兵「っと、まも……の、って、なんて数だ」

ギィギィ……ズザザ……ワサワサ……

武闘家「……千はいるんじゃないですか」ボソッ

魔法使い「こんな夥しい大群に気付かないなんて……霧は恐ろしいわね」

普者「でもまだ気づかれて……」

キィ…!!

女神「気付かれちゃいましたね。さすがにこの量を相手にしたら全滅ですねぇ……」

傭兵「撹乱のための火炎魔法を出来るだけ遠方に! 妨害のための石土魔法を前方に!」

魔法使い「簡単に言ってくれるわね!」


傭兵「ボウズ、先頭を走れ! 武闘家、防戦だ!」ザシュッ

普者(と女神)は逃げ出した!

魔法使いは『火炎魔法・中』を放った!

遠くの魔物たちは驚き戸惑っている!

近くの魔物たちが襲いかかってくる!

武闘家「……爆裂拳!」カッ ドガガッッ!

魔法使い「……」

傭兵「やっぱり、すごいなそれ」ザッ ヒュッ ズバッ

魔法使い「……準備できたわよ!」

傭兵「武闘家、下がるぞ!」

武闘家「……」タッ

魔法使いは『石土魔法・大』を放った!

傭兵「地面が隆起したか……逃げるぞ! 殿は俺がつとめる!」



傭兵「……ここまで来れば大丈夫だろう」フゥ

魔法使い「魔法を……乱発させ過ぎよ……」ゼェゼェ…

武闘家「……大丈夫ですか?」

魔法使い「ダメだわ……」ヒュ-ヒュ-

女神「貧弱ですねぇ、お勉強ばかりしてるからですよ?」

魔法使い「ぅるさぃ……」ハ-ハ-

傭兵「魔法はただの運動以上に体力を消費するらしいからな……酷使して悪いな」

魔法使い「ふう……ふん、その辺の有象無象と一緒にしてもらっちゃ困るわよ、さあ行くわよ」

武闘家「……強がりですね」

魔法使い「……」

傭兵「ああ、体幹がぶれてる。今日はもう休んだ方がいいな」

魔法使い「ぐっ……しょうがないじゃない……上位魔法を放ってすぐに走るなんて普通しないわよ……」

傭兵「嬢ちゃんとボウズはもう少し体力作りをしないとな」


普者「ええ…体力だけなら一番あると思うけど…」

傭兵「いざとなったら、全員を背負って逃げれるくらいになっとけ」

普者「ひええ……」

女神「能なしなんだからそれくらいしないとダメですよ」

普者「ひどい…」


武闘家「もう少し休みましょうか」

傭兵「いや、魔法使いには悪いが、もう少し安全なところに移動すべきだ」

魔法使い「分かってるわよ……! 足手まといになんてなりたくないわ……!」

女神「もう既に足手まといでは?」

魔法使い「ぐ……!」

普者「そんなことないでしょ! たくさん魔法で助けられてるんだから!」

女神「おや、そちらの肩を持つんですね?」

普者「いい加減、不当な意見には加担しないよ!」

女神「むう……」プクッ



魔法使い「しかし、これだけ魔物が蔓延ってるとなると、交易は大変そうね」

傭兵「用心棒やらを雇う必要もあるだろうしな……費用と収入が一致する点での交易量は過少になるだろう」

女神「その理論から行くと、魔物を倒すことで増加する利潤と等しいくらいまでには報酬を要求できますね」

魔法使い「でも、それを正確に計測するのは難しいでしょ」

傭兵「全体で得をするとしても個人としてはその費用を上回るだけの便益があるとも限らんしな。だから政府や、ステークホルダーの自治体が協力するべきだが……」

魔法使い「それがうまく機能しないからこうして街道にまで魔物が現れるんでしょ? 道の整備もされていないし、税を何に使ってるのかしら」

女神「どうせ腐敗した権力者がしこたま貯め込んでるんですよ……うらや……ゲホッ、けしからぬことですよ」

傭兵「まあ、そういうことが全くないとは俺も思わないが…純粋に他の支出も多いんだろう。それにそもそもの絶対量が足りているかも分からん」


普者「あっちは難しい話をしてるね」アハハ…

武闘家「……そうですね」


普者「僕はそこまでしっかりした教育を受けてないから、難しい文章も読めないし、自分の名前を書くくらいしか字も書けないし……」

武闘家「私はそれもできません」

普者「(……あ、そ、そっか、街を襲撃されて、お父さんもお母さんも殺されて、今まで生きてきたんだもんな。マトモな教育を受ける機会なんて……)」

女神「(低学歴ですねー。知能が低い人間はのし上がることもなく貧困の中に沈んでいくんですよー、無様ですねー。せいぜい使い捨ての代替可能な労働力として頑張ってください)」

普者「(……言っていいことと悪いことの分別ももたない女神さまには言われたくないけどねっ!)」

女神「(……言いますねー)」ムカッ

武闘家「……険しい顔してどうかしました?」

普者「え? ああ、いや……?」

女神「ふふーん、この前、魔法使いさんの学歴に対してイヤミったらしいことを言ったのは、自分の無学さに対する劣等感からですね? 無知な人は無恥ですねー」

普者「おい!」

普者「(いい加減、武闘家さんとか他の仲間の事を悪く言うのやめてよ)」イライラ

女神「この前、ふーくんがそう言ってた気がします」

普者「言ってねぇぇえええ!!」

武闘家「……まあ、そういう感情がなかったといえば嘘になります。私は、学校というと勉強よりも友人と遊ぶことが楽しかった記憶しかありませんが……今になってもう少し学びたいという気持ちがないわけではありません」

魔法使い「……ふうん」

武闘家「この前はすみませんでした。私が幼稚で未熟でした」ペコッ

普者「(大人! とっても大人!)」

魔法使い「……いいわよ、別に。アンタの言ってることは的外れだったってわけでもないし」

普者「(こっちも大人だなぁ……みんな僕より年下なのに……)」

女神「(ふーくんが子ども過ぎるだけでは?)」

普者「(否定できない……でも、二人とももっと子どもらしくてもいいと思うけどなぁ、特に武闘家さんは)」

女神「(変態小児性愛者は言うことが違いますね?)」

普者「(それは誤解だよ!? しかし僕が十四の頃といえば……)」ホワンホワン

~~~~~

「レンガはいいぞぉ! まずこの赤褐色! だが、日干しレンガも乙だなぁ! いやあ、色味を語るだけでも一週間、いや一月はかかるな!」

「焼き加減が大事なんだぞぉ! いいレンガを作るにはだな! まず窯の温度は……」

「レンガのために死ねるなら本望だ……レンガはとても奥が深いぞぉ……お前もこの道を究めるんだ」

「レンガはな……」

「レンガ最高だぞ!」

「レンガ……」

~~~~~


普者「う、頭が……」

女神「せ、洗脳教育……っ!」


【野営地点】

魔法使い「やっと休める……」

武闘家「……テントの設営も終わりました」

普者「男の分も……」グテッ

傭兵「近くに小川があった。草食動物もいたし、とくに凶暴な魔物はいないようだ」

女神「狩猟しなかったんですか?」

傭兵「距離が少し離れ過ぎていたからな。飲み水は確保した。ボウズ、濾過器を出せ」

普者「はーい……」ゴソゴソ

魔法使い「あー、体がベタつく……水浴びがしたいわ……」

傭兵「飲み水を確保するために、部分的に堰き止めて塩素消毒しておいたから、浴びてくるといい。ただし安全のために二人でな」

魔法使い「ほんと!? 行くわよ!」

武闘家「……はい」

女神「……」ピコンッ!

普者「(あ、悪いことを思いついた時の顔してる)」ゲンナリ

女神「失礼な……私も行ってきます」


普者「女性陣は元気ですねー」

傭兵「そうさな……薪もそこらから調達できたし、休むか。今日の夕食は鱗獣の干物だな。あとは、干し玉ねぎの塩スープか」

普者「今日はだいぶ質素な食事ですね……」

傭兵「旅の飯なんてそんなもんだろ。食えるだけマシだ」

普者「昔から旅をしていたんですか?」

傭兵「……勇者に憧れてたって言ったろ。あの嬢ちゃんの父親と母親とも旅した時期があってな……まだ嬢ちゃんが生まれる前の話だよ」

普者「ああ、そういう関係……」

傭兵「ま、昔話なんて酒の肴にするもんだ。今度飲みながらしようや」

普者「結構気になるんですが」

傭兵「それなら、その時まで死なないことだな。お互い」

普者「えぇ……もし死んだらどうするんですか……考えたくないけど」

傭兵「願掛けなんだよ」

普者「願掛け?」


傭兵「ちょっとした心残りが、いざって時、死ぬことへの躊躇いになるのさ。かと言って、あまりにもでかい心残りは、死に切れないわけだが……婚約者を置いて戦場で死ぬ男なんて俺からしたらド三流だ」

普者「なるほど……」

傭兵「次の街まで生き延びてうまい酒を飲む。これが俺を生にしがみつかせる楔だ」

普者「(かっこいい)」


傭兵「というわけで、少し飲む」

普者「え、飲むんですか!?」

傭兵「酔っ払いやしねえよ。ちょっとした気付けだ。疲れたし」

普者「えぇー……締まらないなぁ」


普者「(……けれど、よっさんは本当に色んなこと知ってるよなぁ)」

普者「(この人がいなければ、ここまでの間にも誰か死んでたかも……数日前の戦闘で魔法使いさんに魔物が迫っていたときも、よっさんの指示があったら素早く反応できたし、今日だって魔法使いさんが石土魔法を放った時、武闘家さんがもう少し前に出ていればもしかしたら分断……下手したら同士討ちだった。あれも傭兵さんの前もっての助言があったからだ)」

普者「(……もしも僕がこの人くらいの知識と経験があれば、僧侶さんは今も生きていたかもしれないのに)」

普者「(もう取り返しがつかないことだけど……でも、僕がもっと、もっとしっかりしていれば……)」ガリガリ…




女神「(ふーくん、助けてください! 魔物です!)」

普者「!」

ダッ

傭兵「おい?」


普者「(女神さま! 無事ですか!? 女神さま! 返事してください!)」

普者「……くそっ! もう仲間を喪ってたまるかっ!」ダァッ

普者「間に合え……! 間に合え……ッ!」


バッ


普者「みんな大丈夫ッ!? まも……の…………は?」


魔法使い「っ……」←ハダカ

武闘家「……ずいぶん堂々としたノゾキですね」←ハダカ


女神「(あれぇ、魔物が出た気がしたんですけどねぇ、気のせいでしたかねぇ)」シレッ


普者「ご……」


魔法使い「……」←魔法を唱えている

武闘家「……」←投げやすい石を掴んでいる


普者「ごめんなさい……!」ダダッ


普者は逃げ出した!



女神「(あ、石が頭に当たった……痛そうですねぇ……身体能力強化がなければ死んでますよ、あれ)」

プカ…

女神「(おや、堰き止められた水溜りの中で小魚が死んでる……? 消毒とかいうもののせいですかね?)」

次回、女神が……!?



女神はそろそろ痛い目に合うべき

女神クズ野郎すぎる

神ごろしの剣とかないのかな?


普者「」チ-ン…

女神「な、なんで私が縛られるんですか!?」

魔法使い「普者を呼んだのはアナタなんでしょ? ちょくちょく、二人だけでアイコンタクトを取ってると思ったら、思念伝達してたなんてね」

武闘家「……妖精って揚げたら美味しそうですね」ジィ…

女神「ひっ……」

魔法使い「こんなの食べたら消化不良を起こすわよ」

武闘家「……冗談です」

傭兵「(目が本気だったんだが……)」

女神「ちょ、ちょっとした悪戯心じゃないですかー! ピクシーは悪戯好きって言いますし!」

魔法使い「悪戯したからには、それなりの目に遭う覚悟があるということよね?」

女神「で、出来心だったんです!」

武闘家「あなたには他にも恨みがあります。忘れたとは言わせないわよ」

女神「(結構ノリノリだったくせにー!)」


傭兵「因果応報だなぁ。少しくらい痛い目にあっとけ」

魔法使い「取り敢えず、悪いことをしたら頭を丸めるという文化が東にあるそうだからそれに倣いましょうか」

女神「な、私のこの美しい髪に手を出したらタダじゃおきませんよ! 貴女たちの下賎な髪の毛とは違うんですから!」

武闘家「魔法使いさん、毛刈りに賛成です」

傭兵「そういえば妖精の干物は長寿の薬とかで高く売れるらしいな」クハハ

魔法使い「あら、お金になるの? あなた素晴らしいわね」

女神「ふーくん、たすけてー!」ジタバタッ

普者「(へんじがない。  ただの  しかばね  のようだ)」

女神「(殺しますよ!)」

普者「(……へんじがない。  ただの  しかばね  のようだ)」

女神「(……分かりました。反省しますよ……だから、下手な強行手段を使う前に何とかしてください。くだらないことで、色々と悪化させたくないでしょう?)」

普者「(……そもそもはアンタのくだらない悪戯が原因じゃないか)」

女神「(むー……)」


普者「(……はあ)」

普者「……あー、あの、勘弁してやってもらえませんか」

魔法使い「却下。大体アンタもアンタよ。こんな性悪妖精の言葉を真に受けて」ジロ…

普者「う、返す言葉もない……まあ、でも反省してるみたいですし……」

武闘家「そうは見えませんが……反省してるとしても、行為相応の罰はパーティの規律の上で大事でしょう? さすがにこれ以上は看過できません」

普者「……正論です、いやあ、ほんと今回限り見逃してもらえませんか。こちらからも強く言っておくから」

傭兵「……実際、冗談ですむうちは良いが、これが危機的状況に発展する可能性だってないわけじゃない。同行するなら、相応の態度を示してもらうことも大事だ」

普者「はいその通りです……いや、でも今回だけ! 今回だけお願いします! 僕の責任でもあるし、僕がこの社会不適合妖精を更生させるので!」

三人「「「……」」」チラッ

  ハァ……

魔法使い「次はないからね」

普者「あざっす!」


女神「(まったく……女神になんて仕打ちでしょう)」

普者「(アンタも良い加減にしろ!)」

女神「(あら、女神に対してその口の利き方は流石に許せませんね)」

普者「(……何が女神だ! 邪魔したり、仲違いさせるようなことばかりして! ふざけるなよ! 良い加減ガマンの限界なんだよッ!)」

女神「(な、なんですか急に……! そうやってすぐに切れて、これだから今の若者は……!)」

普者「(アンタこそなんなんだ! 勝手に生命を賭けさせておいて自分はお遊び気分かよ! 目障りなんだよ! これ以上邪魔するなら消えろ!)」

女神「(な、なんですか……なんなんですか……っ)」

普者「(ちっ……馬鹿らしい)」

女神「(ちょ、ちょっと……!)」




女神「…………」ションボリ




ホ-ホ-…

パチッ……チッ……

普者「……見張りは寒いな。もう一回素振りでもするかな」

女神「……夜風は身にしみますからね、もっと厚着した方がいいですよ」パタパタ…トスッ

普者「起きたの……もう少し寝たら?」

女神「誰かさんのせいであまり眠れなかったんです」

普者「……ふうん」

女神「…………」

普者「…………」

女神「……その」

普者「…………」

女神「ええと……反省も多少はしてないこともないような……」


普者「……」ハァ

女神「……うぅ、仕方ないじゃないですか!」ペチンッ

普者「しー……! 夜中だよ……!」ボソッ

女神「……」ペチッペチッ

普者「(痛いって……何が仕方ないの?)」

女神「(だ、だって、私は女神ですし? 人間じゃありませんし? 人間どうしの気遣いなんか本来私の知るところではありませんし?)」

普者「(ああ、そう……)」

女神「(で、でも、あれですよ! まあ、『郷に入りては郷に従え』とかいう言葉もありますし? 私はあまり同意できませんが?)」

普者「(何が言いたいの?)」

女神「(……私はこんな態度しか取れませんけど……その、これ以上パンティに悪影響がないようにしますから……その、そばにいてあげてもいいというか……ああ、その…っ!)」


普者「……ぷっ」

女神「な、なんで笑うんですか!? なんなんですか!?」

普者「(だから声が大きいって!)」

女神「あ……う……」


普者「取り敢えず、言っておくけど、パンティじゃなくてパーティだからね」

女神「汚れた下着とか嫌ですし」

普者「引っ張らなくていいから!」

女神「声が大きいですよ?」ニヤッ

普者「もう……!」

女神「ふふ……」

普者「……別に他の人に言わなければそれでいいよ。その毒舌にもなれてきたし、それくらいで怒る人間でもないから……あまりにも非常識なときは怒るけど」」

女神「おや、ドMの独占欲ですか。浅ましくて仄暗い欲望ですね?」ペチペチ

普者「意味がわからないよ」

女神「……あ、私との間にフラグが立つことなんてぜっっっっっっったいに無いので悪しからず」

普者「うん……?」

女神「補正ありでも無理なので、補正なしでは皆無ですよ、皆無」

普者「はあ……」


女神「あと、魔法使いさんはもちろん武闘家さんとの間にフラグが立つこともありません」

普者「うん?」

女神「補正なしで、あんな美少女たちがふーくんみたいな冴えない男を好きになるわけないでしょう?」

普者「お、おう……いや、そうだろうけどさ」

女神「特に武闘家さんは無理です! 犯罪です! 許されませんよ! 諦めなさい!」

武闘家「なんの話ですか? それと、うるさいです」ヌッ

普者「うおっ!?」

武闘家「起きたので見張り変わりますよ。もう少し寝たらどうです?」

普者「え、でも……」

武闘家「いつもこの時間には起きてますから。もう2、3時間寝るだけでも体が休まると思いますよ」

普者「そ、そう? それならそうするよ……あ、何かあったら遠慮なく起こしてね。ありがとう」

武闘家「いえ、見張り番お疲れ様です。ありがとうございます」

普者「(ええ子や……)」ジ-ン

女神「(むむむ……)」


【湿地帯・魍魎の大湖】


大サハギン「ギィィ!」

「聖水ノ痕跡ハナイカ……ヤケニ子分ガ死ンデイルカラ人間ノ仕業カト思ッタガ……マサカアノ飼イ人ドモカ?」

大サハギン「ギャアァァ……」

「ナンニセヨ気分ガ悪イ……生贄ノ数ヲ増ヤスカ……飼イ人ヲ誰カ呼ンデコイ」

大サハギン「ギィィ!」

【道中】


傭兵「いやぁ、火炎魔法と旋風魔法の合体魔法も便利だな。こんな湿った日なのに洗濯物がすぐ乾くんだから」

魔法使い「こんなに魔法を有効的に使われるのは人生で初めてだわ」ツンッ

傭兵「そりゃ、まだまだ未熟だからだろ」

魔法使い「ぐっ……」

女神「口が悪いのは貴方たちも大概じゃないですか」

傭兵「これくらいはコミュニケーションの一環だろ」クハハ

魔法使い「ふん、ずいぶん素敵なコミュニケーションね!」

女神「異議アリです!そういう恣意的な判断基準はパンティに混乱をもたらします!勝負下着か普段使いかの線引きは明確にすべきです!」

普者「パンティネタはもういいから!」

武闘家「……それなら、決まりを作りませんか。誰かの発言について、不快な時はクロ、そうでなければシロ、と言う。他の皆さんもシロクロで不快か否かを表明し、多数決で決める……どうでしょう?」

魔法使い「そうね……一定数のクロ発言が集まった人に罰ゲームでもする?」

女神「異議アリです! 多数決は数の暴力です! 衆愚政治、ポピュリズムの温床です!」


傭兵「イカれた独裁者よりかはずっとマシじゃないか?」

女神「異議アリです! 反論として極端な例を持ってくるのは、実践的な議論では不適切です!」

魔法使い「アンタみたいのがいるんだから、そこまで不適切でもないでしょ」

女神「ぐぬぬ……」

普者「まあまあ。面白そうだし、もしかしたらパーティの緊密さを深めるきっかけになるかもしれないし、やってみようか」

女神「それなら、不快なことではなく、良いことを言った時に“イイネ! ”などと言っていくほうが建設的で効果的では?」

武闘家「このメンバーでは誰も積極的に“イイネ!”とは言わないのでは?」

女神「クロ!」

傭兵「シロ」

魔法使い「シロ」

普者「ああ、こういうこと……シロ」

女神「ぐぬぬ……」

武闘家「ふむ、シロクロがちゃんと決定するように、言った本人はシロということでいいでしょう。シロだと思うから発言するのでしょうし」

普者「気を付けて発言しないと……」

・・・


「「「「「…………」」」」」ザッザッ

普者「(だ、誰も何も言わない……!)」

女神「(まさに、答えは沈黙ですね)」

普者「(これは逆効果……!)」

女神「(どうでもいいですけど、私、あの謎かけ嫌いなんですよね)」

普者「(何の話ですか?)」

女神「(ある書物にある謎かけですよ。『母親と恋人が誘拐された。どちらか一人しか取り戻せない。どっちを助ける?』)」

普者「(……その人の信念によるんじゃ?)」

女神「(ふーくんは? 恋人いないのは知ってますが、いる仮定でお願いします。ふーくんにとっては、とぉっても理解し難い仮定だとは思いますが)」

普者「(やめて!)」

女神「(どっちにします?)」

普者「(えー……難しいよ……)」

女神「(ほらほら、考えてください)」


普者「(母親は今まで育ててもらった恩があるしこの世に一人しかいない大切な存在だから、もちろん助けたい)」

女神「(それなら母親ですか?)」

普者「(恋人だって、おそらくこれからの人生を共に生きていくパートナーだし、次世代に生命を繋いでいく片割れだし、もちろん助けたい)」

女神「(優柔不断ですねぇ……唯一性があるのは母親だから母親にしますか?)」

普者「(でも恋人だって、その人はその人しかいないし、生命は比べられないよ……)」

女神「(それじゃあ二人とも助けずに殺すと?)」

普者「(それは……おそらく平等だし、高潔な気がするけど、結果を考えると最悪だよ)」

女神「(そうですねぇ)」

普者「(どちらかは助けないと……)」

女神「(私がサイコロでも転がしますか? 『神はサイコロを振らない。振るのは女神だ』)」クスクス

普者「(へっ?)」

女神「(そういう書物もあるのですよ。私はまったくその道には詳しくありませんが、まったく文脈が異なりますが)」

普者「(そうなんだ……)」

女神「(しかし、どうやって決めるのですか? 自身の意思決定を放棄して無責任にも確率に任せるんですか?)」


普者「(……恋人を助けるよ)」

女神「(おお! 母親を捨てるんですね!)」

普者「(……母さんは、きっと、僕にそうするように言うから。どこまでも優しい人だったから、強がりでも、本当は殺されたくなくてもそう言うと思う。そして、もし自分が助かったら、亡くなった恋人にいつまでもいつまで謝罪し続けるとも思う)」

女神「(……)」

普者「(だから、僕は恋人を選ぶよ)」

女神「(なんだか消極的な決定ですねぇ)」

普者「(積極的には選べないよ。まあでも、正しい答えは分からないけど、僕の場合はそうするよ)」

女神「(……これの一番の答えなんですが、最初に言った通り、『沈黙』なんですよ)」

普者「(……両方同じくらい大事で、二人を助ける手段をもっと考えろってことかな?)」

女神「(ええ、まあ。そういう点もあるでしょう。純粋に答えなんか出せるわけないということかもしれませんが……とにかく気に食わないんですよ)」

普者「(……答えを出さないうちにも状況はどんどん悪くなるから?)」

女神「(そう! 一応、どちらかを選ぶのもハズレではないらしいんですが、最善の答えが沈黙というのには大反対ですよ! 二人助けるつもりでの沈黙状態でも期待値をとったら、問題の設定上1より大きくはならないはずですよ! しかもそれがどんな理由かも分からない! 選べない時の期待値は0!それならば全体として沈黙状態の期待値は0.5以下! 明確な意思で答えを出して行動してる人間のほうが、ずっと現実的で望ましい結果を出せるはずですよ!)」ベラベラ…

普者「(ああ、うん……)」

女神「(求めてる人物像が違うと言われればそれまでですが、私ならそんな甘ったれを勇者にしませんね! 不完全な情報、不満足な選択肢の中! できる限りさらなる情報を集め! 危急の時はその場で最適解を導出し! そして実行する! それが私の考える勇者です!)」ドンッ

普者「(なるほど……あまり僕は向いてないんじゃ)」

女神「(おや? そんなことはありませんよ。ふーくんはおつむが弱いですが自身で考えても答えが出せていますし? 私がそのおつむの埋め合わせをすれば、私の考える勇者像からはそこまで離れてません。まあ、諸々のスペックも非常に残念ですが)」フウッ

普者「(喜んでいいのやら……まあ、スペックについては諦めてとしか)」

女神「(そうですねぇ……さらに強い仲間を集めてできるだけ補強していきたいものです)」

普者「(うーん……今のパーティは、独りよりはマシだけど、到底魔王どころか竜王にも勝てないよね)」

女神「(魔王が実力的に竜王より強いかは分かりませんが、少なくとも竜王を倒す必要がありますからね……)」

普者「(本気出してるのを遠目でちらっと見たけど、あんなの勝てるかなぁ……)」

女神「(弱者には弱者なりの、補正なしには補正なしなりの戦い方があるでしょう。ジャイアントキリングですよ!)」

普者「(ううむ……頑張るよ)」



女神「(ところでですね……母親と恋人を、魔法使いと武闘家に置き換えたらどうしますか?)」

普者「(え?)」

女神「(絶対絶命のふーくん一向! どっちかしか救えない状況! さあ、18歳無乳(絶望)高飛車ツンツン皮肉屋美少女を選ぶM男になるか! 14歳貧乳(現在)敬語調クールややロリ薄幸美少女を選ぶ変態になるか!)」

普者「(こいつはひでぇや)」

女神「(あ、残念ながら、私を選ぶという最適解は与えられませんので悪しからず)」

普者「(お、おう……)」

女神「(なんですかその反応はー、なんなんですかー、気に入りませんねー)」ペチペチッ

普者「(いたいって……)」

女神「(さあ、どっちを選ぶんですか! ああ、早くしないと二人とも死んじゃいます! 私の想像の中で二人が死にかけてますよ!?)」

普者「(いやいや。失礼だし、縁起でもない)」

女神「(むむ、何でもいいですから、どっちを助けるんですか? 武闘家さんですか?ふーくんは武闘家さん推しですからね)」

普者「(別にそんなことはないと思うけど……)」


女神「(いーや、私の眼はごまかせません! さあ、どっちですか!? どうせどっちを選んでもフラグは立ちませんけどね! 傭兵さんか他のイケメンが出てきて掻っさらってくのが関の山ですが!)」

普者「(世知辛い……)」

女神「(おやおや、さっきは答えを出せたのにより現実的な問いへの答えは出せないんですか?)」

普者「(できる限り……二人とも助けたい)」

女神「(甘えたこと言わないでください。選ばないといけない時が来ないとは限らないですよ? ……貴方に覚悟があれば、死ななかった人がいたでしょう?)」

普者「(……)」

女神「(……選んでください。これは練習です。もちろん、状況により変わることはあるでしょうが、基本的な態度を確定しておくのは悪いことではありません)」

普者「…………」

武闘家「……さっきから、そんなに凝視してどうしたんです?」クルッ

魔法使い「……なにか言いたいわけ?」チラッ


普者「(僕は、僕は――――)」



傭兵「なあ、このゲームやめにしないか?」

女神「クロ!」

魔法使い「クロ!」

普者「え、シロ……」

武闘家「シロでしょう」

「「ちっ!」」

傭兵「恐ろしいなこれ」

女神「そろそろ少人数で多数決なんてするものじゃありませんね。熟議デモクラシーであるべきです」

魔法使い「それは正しいわ。この人数なら利己的な多数決よりも熟議の方が正しい答えが得られるもの」

武闘家「利己的な多数決にしようとしてるのはあなたたちでしょう」

傭兵「ただのゲームだろ……まあ、何にせよ廃止だ廃止」

武闘家「そうですか……」


傭兵「あー、酒のんで女抱きたい」


女神「クロ!」

魔法使い「クロクロクロクロクロクロ! 」

武闘家「真っクロです」

普者「……クロにさせてください」

傭兵「おいおい廃止じゃないのかよ?」

女神「まだ総意を得る前だから続行中です! 罰執行です!」

傭兵「クロが溜まったら罰じゃなかったのかよ」

魔法使い「一回でも溜まったといえるでしょ?」

傭兵「おいおい……」

武闘家「……思想は自由ですが言葉に出したら責任が生じます」

普者「う、うん、まあ。適切な発言って大事だよね」

傭兵「若者はオッサンに厳しいねぇ……」

女神「さあ、どうしましょうか? 丸坊主ですか?」

魔法使い「気がすむまで往復ビンタでもいいわね」

武闘家「……クロ。もはや逆恨みですね」

傭兵「おう! クロ! まったくお前らときたら!」

普者「く、クロかなぁ……そういう陰湿な仕返しはよくないと思うよ……」

魔法使い「な……!」

女神「しょ、少数意見の尊重を要求します!」

傭兵「ノイジーマイノリティどもめ……」

次回に続く!


【幕間】


女神「(どうでもいいんですけど、私、少年ジャ⚪︎プの品の無い次回予告の煽り文が気に食わないんですよね)」

普者「(途方も無いところに煽りを飛ばすのはやめて!)」

女神「(適当なことばかり書いてるじゃないですか。嘘つきばかりですね)」

普者「(お願いだからもうやめて!?)」

女神「(あと>>291>>293,>>295ですよ。こんなに可愛い私に対して何の不満があるんですか? 自分の気に食わないものに対してすぐに文句を言うその態度! これだから最近の若者は)」

普者「(煽り帝国主義はやめようよ! そんな老害キャラを押し出してくとヒスババア扱いされるよ!)」

女神「(おとなしく『女神さま美しいブヒー!』とでもないてなさい!)」

普者「(何キャラを目指してるの!?)」

【野営地】


魔法使い「はあ、街はまだなの……? ベッドで寝たい…」

魔法使い「(あと、水浴びと、ちゃんとしたトイレ……)」

傭兵「明日には中継地点に着く。補給をして、少し休もう」

武闘家「確かに、野営生活では完全に疲労が抜けませんからね、食事はかなり充実してる方だと思いますが」

武闘家「(ただトイレだけはどうも辛いですね)」

魔法使い「干し肉と乾燥野菜のシチュー……まあ、悪くないのかな…私は調理器具扱いだけど」

傭兵「くはは、火力調整できるのは素晴らしいな」

魔法使い「ふん、大したコックよ」ジト

普者「今日一番大変なのは間違いなく僕だったよ……」ゲソッ…

女神「魔物に出会わなかった分、休憩も少なかったですからねー。魔法使いさんも足の裏が痛いという回数が減りましたし」

武闘家「かなりの量の水を持ってましたよね?」

普者「後半はかなり意識が朦朧としてたよ…」


傭兵「見張り中に素振りもするように言ってるが……ちゃんとしてるか」

魔法使い「……そんなことまでしてたんだ?」

女神「だいたい私が見張ってますから、問題ないですよ」

普者「見張ってるってもんじゃないよ……」

~~~~

女神『あと、10回でーす。9、8、7、6、5、4、3、3、3、3、3、4』

普者『ちょっと……!』ゼェゼェ…

女神『げっほげっほ……あれ、あと40回でしたっけ?』シレッ

~~~~


傭兵「ははは、可愛がりだな」

武闘家「可愛がりですね」

魔法使い「尊敬に値する先輩と教師がやるあの最高に素晴らしい行為ね」

普者「僕の人生、シゴかれてばかり……」ゲソッ



魔法使い「お生憎様、ここからは勉強よ」

普者「ひえぇ……」

魔法使い「識字と最低限の教養は、あった方が人生を豊かにするわ。中途半端な知恵を引けらかすのは思考停止したご立派な知識人だけどね」

女神「おや、自虐ですか?」

魔法使い「自戒よ。アナタにも当てはまるんじゃなくて?」

女神「むぅ……」

魔法使い「しかし、いつものことだけど若干不便なところで野営をするわね……」

傭兵「俺たちにとって快適なところは魔物にとっても快適だからな。水場の近く、林の近くは魔物の住処だ。逆に視界の開け具合は奴らにとってそこまで重要でない」

武闘家「なるほど……」

傭兵「俺も中途半端な知恵を引けらかす知識人かね」クハハ

魔法使い「獣の知は知識かしら?」

傭兵「やれやれ、学問をやってる奴はソフィストで困る」

魔法使い「……完全には否定できないけど、偏見も多分にあるわ。学問にはそれぞれの切り口があって、アナタの、その切り口から見た叙述への理解が足りないだけではなくて?」


武闘家「……? 何を言い合ってるんですか?」

普者「むずかしいはなしはわかりません」

女神「痴話喧嘩ですよ、痴話喧嘩」

魔法使い「違うわよ!」





魔法使い「今日はこんなところかしら?」

武闘家「上が分子で下が分母、上が分子で分母が……」グルグル…

普者「はちごしじゅう……はちろく……はちろくはなんだったかな?」

魔法使い「……ま、焦っても基礎は身に付かないわ。地道にコツコツが大事よ。便利だから九九くらいは覚えましょうね」

女神「代数にいくまでにはもう少し時間がかかりそうですね」

魔法使い「代数より幾何の方が重要じゃない」

傭兵「まずは九九を定着させるべきだろ……今までよくレンガ作りができたな」




普者「ところで魔法を教えて欲しいんだけど……」

魔法使い「……そんな一朝一夕で身につくものじゃないわよ。勉強と違って才能も必要なのよ」

普者「う、でも、一応お願い……もっと強くなりたいんです……」

魔法使い「…………」

武闘家「力を求道する身でも、私ならば魔法には頼りません。武術を修めるべきです」

魔法使い「……武闘家、この際だから言うわ」

武闘家「……別にあなたを否定するつもりはありませんが、気を悪くしたのなら謝罪します」

魔法使い「アナタ、無意識に魔法を使ってるわよ」

武闘家「……へっ?」

魔法使い「身近で見てはっきりしたわ。アナタの攻撃には魔力が乗っているし、『爆裂拳』……だったかしら? あれには風の魔法と火の魔法が混ざって放たれていたわ……魔法学園に特別枠で入れる水準の才能よ」

武闘家「そ、そんな馬鹿なこと……わ、私はずっと武の研鑽に……」

女神「まあ常識的に考えて、どんなに鍛えてもこんな小柄な女の子が、大の男数人を吹き飛ばしたりできるわけありませんからね」

武闘家「……っ」

普者「(今更だけど女神さまが常識を語るって……)」

女神「(ふーくんよりは、ずっと常識を弁えていると思いますが?)」

普者「(ああ、はい…)」

女神「……」ペチペチペチペチッ

普者「(無言で叩くのやめて! ごめんなさい!)」

魔法使い「……別にアナタの今までの鍛錬を否定するつもりは一切ないわ。常に魔力を肉体に乗せて持続させる体力と集中力、自然発生的魔法を瞬間的に発動させる瞬発力とその負荷に耐える強靭さ……悔しいけど私にはできない芸当よ」ギリッ

女神「あ、本当に悔しいんですね」

普者「(確かに僕の身体能力もかなり人間の限界に近い水準らしいけど、武闘家さんの方が上だもんなぁ)」

武闘家「……い、今さら魔法に身を売れと? 私は武の道に生きることを誓った身です……魔法に鞍替えなんてできるわけがありません」

魔法使い「そんなこと言わないわよ。ただ、アナタのその武術が魔法によって支えられてるのなら、魔法についてより造詣を深めることはアナタの武を高めることに間違いなく寄与するわ」

武闘家「し、しかし……」

傭兵「やれやれ……十四の娘がなに頑固になってる。ガキは未熟さゆえに失敗して、そこから学んでなんぼだろ。そんな保守的な線引きは、俺くらい頭が固くて体の重いオッサンになってからで充分なんだよ」

武闘家「……」

女神「よっさん、押し付けがましいです。クロ!」

傭兵「まだそれを引きずるか」

魔法使い「それは武闘家が決めることだわ……クロ」チラッ

傭兵「……オッサンが無理やり押し付けてる形にしやがって。自分の言葉だからもちろんシロなんだが」

普者「(ああ、そういう……そんなに焦らせなくてもいい気もするけど)」

普者「でも、決断は早いほうがいいのかなぁ……シロ」


武闘家「ぅ……」

「「「「…………」」」」ジッ

武闘家「…………イヤな人たちですね」


武闘家「シロ…です」


女神「熟議デモクラシーですね!」

傭兵「それは違うと思うぞ」

・・・

魔法使い「じゃあ、これに力を込めて見て」コロ…

武闘家「ガラス玉ですか……?」

魔法使い「試験玉よ。込められた魔力の属性が分かるわ。風火水土と癒しの五つに区分されるわ」

普者「魔力って言われてもどうすれば……」

魔法使い「アンタはど素人だから、私の言うことをちゃんと聞きなさい。武闘家はいつも通り武術を使うときの調子ね」

武闘家「はあ……」


女神「よっさんもやったらどうです?」

傭兵「お前こそ。というか、よっさんって何だよ」




武闘家「……こうなりました」

魔法使い「……四属性全部使えるわね。皮肉でなくほんと大した才能よ。あ、少しだけど癒しまで使えるみたいね……本当に大したものよ」

武闘家「はあ……」

普者「ひい……魔力を出すのってこんなに疲れるの?」グテ-

魔法使い「肉体の疲れもあるでしょうしね。アナタは土が主属性、あとは火かしら」

傭兵「くはは、レンガ職人らしいな」

女神「根っからのレンガ職人なんですね……少し引きます」

普者「なんで!?」

魔法使い「火はいいけど、土はあまり得意じゃないのよね」

傭兵「土属性は広がりに欠けるというな」

武闘家「どういうことですか?」

魔法使い「火と風は相補的に強まる。水は火を打ち消し、土を強める。でも土は他の属性を打ち消すだけなのよね。癒しの力を強めたりするのではないという説もあるけど……まだ実証されてないわ」

女神「ぼっち気質なふーくんにぴったりですね! 地味だし!」

普者「ひどい……」


魔法使い「……しかし、伝説だと勇者は雷の属性が使えるんじゃないの? 勇者にだけ与えられる特別な属性であり、他の属性を強める……あ、ここでも土は雷を打ち消すという説が有力よ」

武闘家「土属性、冷遇されすぎでは……?」

傭兵「打ち消すのが特性なんだろ。どれだけ他が大きくなろうと、大地が受け止める……自然の理想形だろ」

普者「お、おおー」

女神「都合のいい言葉に踊らされてはいけませんよ。どんなに言葉で修飾しようと現実は変わらないんです。すぐに理想的なことを言う人間には疑ってかかるべきですよ!」

傭兵「おいおい……」

魔法使い「どっちも間違ってないとは思うけど」

普者「むずかしいはなしはわかりません」

武闘家「そんなに難しい話ではないと思いますが」


普者「(女神さま、雷属性が使えません)」

女神「(貴方は勇者でなく普者ですからね。雷属性は補正に含まれるようですねー)」

普者「(魔法使いさんの言う通り勇者といえば雷魔法なのに……)」

女神「(そんなものなくたってなんとでもなりますよ、多分)」


武闘家「勇者……なんでしたっけ?」

普者「勇者のなり損ないです……」

傭兵「ま、別に何でもいいが」

魔法使い「これで本当に勇者じゃないと証明されたみたいね」

武闘家「本当に勇者全員が雷属性の魔法を使えたんですか?」

魔法使い「そんなことはなかったと思うけど……証明は言い過ぎね。限りなく勇者である可能性が低くなったわ」

普者「いや、だから勇者のなり損ねだって……」

魔法使い「それじゃあやっぱり勇者じゃないってことになるわよ」

普者「だからそう言ってるじゃないですか」

魔法使い「……?」

普者「……?」


女神「 理解に支障を来していますね」

傭兵「ん、嬢ちゃんは何が分からないんだ?」

武闘家「……要するに勇者じゃないんですよね?」

普者「だから、そうだってば」

魔法使い「え、あれ、ちょっと待って……勇者ではなくて、それはいくつかの論拠から示されて……」

女神「まず貴女の最初の仮定が違ってるんですよ。多分、ふーくんが勇者を自発的に騙る偽物だと思ってるんでしょうね」

魔法使い「……ごめんなさい、そういえば状況があまり分かってなかったわ。説明してもらえる?」


普者「(女神さま、どこまで話していいんだっけ?)」

女神「(私の存在がバレなければお好きに)」

普者「(ああ、それだけ)」

女神「(あと、私が無能だと““誤解””させたら痛い目に遭わせます)」

普者「(それは結構難しいんじゃ……?)」

女神「(はい? 意味がわかりませんねぇ……おや、なんだか痛い目に遭いたそうな顔してますね?)」

普者「(どんな顔!?)」

普者は事の始まりを話した!


傭兵「くはは、力を完全に渡し切らない上に家を消すか。しかも魔王を倒す気がないなら死ねと」

魔法使い「……その話が本当なら女神さま外道過ぎない?」

武闘家「慈愛に満ちているとされる女神さまがそんなこと……流石に普者さんの伝え方に偏向があるんでしょう」

女神「そうですよー、あの可憐で優しくて美しい女神さまがそんなことするはずがないですよー」

普者「事実しか伝えてないんですけどね!」

傭兵「……まるで女神さまを知ってるみたいな口ぶりだな、妖精」

女神「…… ウッ、ま、まあ、私たちは美しくて可憐な女神さまを人間以上に奉ってる種族ですから」

魔法使い「あら? ピクシーは自然そのものに敬意を払うが、女神などの偶像は信仰しないと文献にはあったわよ?」

女神「ぶ、文献が間違ってるんです! 女神さまと自然は密接……否! 切っても切れない関係! そんな妖精が美しく完璧な女神を信仰しないわけがない! これだから本ばかり読んでる頭でっかちは!」アタフタ

武闘家「あなた、普段の態度からは想像がつかないほど敬虔なんですね……」ジッ…

女神「ふ、普段の姿だけで判断するのは早計ですね! 教条主義や独善に陥らぬよう、多角的な視座をもつというのは万事において重要でしょう! もっと思惟の円熟につとめるべきですね!」アタフタ

傭兵「ふうん……」

女神「な、なんですか、なんなんですかっ! ぶちのめしますよっ!」キィ…!

普者「(女神さま! 余裕なさすぎぃ!)」

女神「……知りたがりは長生きできませんよ?」ニゴッ

傭兵「別に何も言ってないが……」ニヤッ

女神「(すかした態度に腹が立ちますねー……““リセット””すべきでしょうか……)」グヌヌ…

普者「(よく分からないけど早まらないで!)」


普者「(見張りがてら素振り……)」ヘロヘロ…

女神「(もっと腰をいれないと意味がないです。そんなしみたれた素振りでは無意味どころかマイナスですよ)」

普者「(マイナス……マイナスにマイナスをかけるとプラス? なんでだぁ……?)」

女神「(分からなくなったときは定義に戻るんです。掛け算の定義はかけられた数字分だけ足すんですよ。あとはマイナスの定義に依ってください。“マイナスの数”を“マイナス回”かけたらプラスになるでしょう?)」

普者「(ぁぁー、よく分からないぃ……)」ヘロヘロ

女神「(……見張りを変わってもらった方がよいのでは? これじゃ役立たずですよ)」

普者「(そうだねぇ……でもノルマはこなしたいんだよお)」


魔法使い「……うわ、本当にそんなことしてたのね」

普者「あ、どうも……寝れないの……?」

魔法使い「……花を摘みに行くのよ」

女神「ほほーん、花を摘みに行くなら、独りでは危ないですよ。ふーくん、安全のため一緒に行くべきでは?」

魔法使い「な、なに言ってるのよ!」

普者「……こんな夜に花を摘みに行くの? 付き添ってもいいけど」

魔法使い「は、はあ!? アンタちゃんと意味わかってるの!?」

普者「へ? 花を摘むんでしょ?」

女神「お馬鹿さんですねぇ……花を摘むというのは隠語なんですよ」

普者「インゴ……?」

女神「要は遠回しに排泄のことを言ってるんですよ、排泄」

普者「あ、キジ撃ちと同じ……へえ、北の人たちはしゃれてるなぁ……」

魔法使い「もういいから!」イライラッ

女神「夜中に大声出すものではありませんよー?」ニヤニヤ

魔法使い「ちっ……!」


普者「……えーと、武闘家さんと一緒の方がいいんじゃ」

魔法使い「いつもならそうしてるわよ……ただ、魔法の訓練のせいか疲れて熟睡してるのよね」

女神「あら、貴女なら相手がどれだけ疲れていても叩き起こしそうなものですけど」

魔法使い「……アナタと一緒にしないでもらえるかしら?」

女神「ふん……それより単独行動はダメですねぇ。ふーくん、やはりちゃんと近くで見守ってあげないと」ニヤッ

普者「いやそれは……」

女神「(こんな些細な問題で、彼女が生命の危機に陥るようなことになったらどうするんですか!?)」

普者「うぐ……っ」

魔法使い「べ、別に少しの間じゃない。聖水もあるし……」

女神「いーや、ダメですね。ええ、ダメです。そういった徹し切れないところがよっさんに未熟と言われる所以なんですよ」

魔法使い「……それとこれは別でしょ。アナタみたいなピクシーには分からないかもしれないけどね、人間には恥じらいがあるのよ」

女神「そんなものを生命の危機が常に潜むこの状況で持ち続けてるのが未熟だと言っているのですよ」フッ

魔法使い「ぐぐ……っ」

普者「い、いや真に受けなくていいから……」

魔法使い「分かったわよ!」

普者「ええっ!?」

魔法使い「武闘家を起こしてくるわ!」バッ

女神「あ、そっちですか……」

普者「ま、まあ、そりゃそうだよね……」

女神「変態ふーくんの期待に応えられず申し訳ないですね……」

普者「いや、別に期待してないよ!?」


女神「しかし、貴方たちの排泄は大変ですねぇ」

普者「い、いや、女神さまなんの話を始めるつもりなの?」

女神「大事でしょう? 摂取と排出は表裏一体ですから」

普者「いや、そうだけど……あんた一応女性じゃないか」

女神「はあ、やだやだ。女性だからこうしろという差別意識……まあ、生存の適応だから仕方ないですが」

普者「むずかしいはなしはわかりません」

女神「……出したあと何で拭うんですか? あ、女神は排泄もしませんので」

普者「……そりゃ紙ですよ」

女神「……おや、紙は高いとききましたが?」

普者「そんなことないよ。紙虫って魔物がいて、それを飼育して紙を作るのが東国の伝統なんだよ」

女神「ほうほう……それでは他の地域は? ここにいるのは北と西の方々ですよね」

普者「えぇ……彼女たちもよっさんも紙じゃないの?」

女神「本当ですかね? 東部以外ではきっと紙を作る習慣はあまりないと思うんですが?」


普者「じゃ、じゃあ何で拭いてるのさ……?」

女神「私の見解としましては、まずこの中に誰もいない南部。水が多く気温が高い地域ですね? おそらく手で拭いて水で手を洗うんでしょう」

普者「ひ、ひえぇ……ま、まあ紙がないならしょうがないのかな……洗えば綺麗だろうし……うう……」

女神「次に、西部……水は中々貴重な資源ですね? おや、水の代わりに細かい砂がたくさんありますよ……」ニコ

普者「ま、まさかそんな……ひえぇ……」

女神「そして北は水資源も乏しく、砂もない……拭かないのでは?」

普者「!!」

魔法使い「そんなわけないでしょ! なんて話をしてるのよ!」

武闘家「……砂で手を浄めるのは南西国の砂漠の人々です。私たち西国とは文化が違います」

普者「あ、そうなんだ」ホッ

武闘家「西国は風呂好きの国として知られていますし、衛生にはうるさいですよ」

魔法使い「西部と他地域を分ける巨大山脈から、大河川が流れて水資源が豊富な地域でしょうしね。この辺りの湿地帯もそうだけど」

女神「おや、それでは今はどのように処理をなさったのです……?」ニヤ

魔法使い「言わないわよ! ずいぶんなメルヘン妖精ね」

武闘家「それはもちろん旅ですからね、あらゆる妥協は大事でしょう?」

魔法使い「アナタもこれ以上言わなくていいから! もう!」

傭兵「うるさいぞ……ったく、クソしたらちゃんと手を洗えよ」

魔法使い「アナタも余計なお世話よ!」

普者「(ひえぇ……やっぱり……)」ガクブル

女神「(旅というのはツラいものですねぇ……ふーくんも紙を使えない時を覚悟しておいた方がよいのでは?)」

普者「(紙は大事に使います……)」

湿地帯のボス編に続く!(三年後くらいに書く)


幕間

魔姫「おとちゃ♪ おとちゃ♪」ギュゥ

「おっと静かにな……さて、船に潜り込んだはいいが、ちゃんと人間界に辿り着いてくれるかね」

魔姫「ニンゲンいっぱい?」

「まあ、魔大陸よりはな。あとレンガがいっぱいだ」

魔姫「レンガ♪ ひめもレンガ好き♪」

「レンガはいいよなぁ……さて、たまには息子の顔を見に行くか」

魔姫「ムスコ?」

「ま、レンガの次に大切かな」

魔姫「……ひめより?」ムスッ

「んー、まあ、同じくらいだ。レンガが一番だし」

魔姫「レンガいちばん、いい。ひめもレンガ好き。でもムスコいや! ムスコよりひめ!」

「こらこら、バレたら殺されるから静かにな」

魔姫「むう、ムスコきらい…………きらいなもの、けす」ボソッ

【湿地帯・唯一の村】


普者「……じろじろ見られるね」

傭兵「余所者が珍しいのかね。他に村がないようだし、商人隊なども休憩で立ち寄りそうなもんだが」

ザワザワ…

魔法使い「何だかもめてるみたいね」

女神「こんな見るからに何もない農村で何を騒ぐことがあるんでしょうねぇ」

武闘家「冠婚葬祭……というわけでもなさそうですね」

普者「この村に宿はないみたいだね……泊めてくれそうな家を探そう」

魔法使い「……まあ、野営よりは快適だろうけど……快適なんだろうけど……」

傭兵「旅を何だと思ってたんだ、嬢ちゃん」ニヤッ

魔法使い「うるさいわね! 覚悟はしてたわよ!」

武闘家「それより、早くどこかに泊めてもらえるように交渉しましょう」

普者「疲労も溜まってるし、数日滞在して休もう……」

女神「ふーくんは早く魔法を習得してください」

普者「……へい」

【とある農家】


普者「泊めていただいてありがとうございます」

農夫「おう。好きに使ってもらってええけ」

傭兵「しかし村全体で騒いでどうしたんだ?」

農夫「……水嫁を増やさんといけなくなったんじゃけ」

武闘家「水嫁?」

農夫「この村は水神さまを祀ってるけぇ。水神さまのおかげでワシたちは魔物に襲われることもなく、豊かな実りと多くの魚に恵まれてるけぇ」

女神「(なるほど……私を差し置いてよく分からないものを崇めていると……気に入りませんね)」

農夫「その代わりに、水神さまは、ある時期に水嫁を送るようにおっしゃるけ。そんで、それがちょうど今の時期じゃけぇ」

魔法使い「水嫁ね……今までその水嫁が帰ってきたことはあるの? まあ、ないんでしょうけど」

農夫「う、うむ……」

傭兵「嬢ちゃん、やめろよ。俺らは泊めてもらってるんだぜ?」


普者「(神さまって女神さまの他にもいたんだねぇ)」

女神「(ふーくんは本当におつむが弱いですねぇ……頭にレンガでも詰めてるんですか?)」

普者「(ひ、ひどい……)」

女神「(この村の田畑は灌漑がしっかりしてます。どこから水を引っ張ってきているんですか?)」

普者「(それはもちろん湿地帯のどこかの湖とかといった水源じゃないの? 僕たちは今日、灌漑の水路を辿ってこの村に来たんだし)」

女神「(それでは、私たちがここに来るまで戦ってきたものはなんですか?)」

普者「(え、鱗獣とかサハギンとか湿地帯にいる魔物かな?)」

女神「(そんな魔物が蔓延る湿地帯の神さま。魔物を制御できて……しかも生贄を要求する)」

普者「い、生贄!?」

傭兵「……おいおい、お前まで滅多なこと言うなよ」

普者「あ、すみません」

武闘家「……」


女神「(一々声に出さないでくださいよ)」

普者「(ご、ごめん……しかし生贄を要求って、もしかして魔物?)」

女神「(もしかしてなくても魔物ですよ。安心して生きるために魔物の傘下に入る……一つの知恵ですねー)」

普者「(……それでいいの?誰かの生命を犠牲にしてまで得られる幸福は本当に幸福なの? )」

女神「(……さあ? この村人たちが決めることでしょう?)」

傭兵「しかし、この騒ぎといい、水嫁とやらを追加的に出すのは大変なんじゃないのか?」

農夫「あ、ああ……こんなことはあまりあることじゃねぇけ……昔もそれでえれぇ目にあったとか……」

魔法使い「水嫁が足りなければ、水神さまのお怒りが村を襲う……とっても慈悲深い神様ね」ツンッ

傭兵「おいおい……よそ者が、とやかく口に出すことじゃねえよ」

農夫「……」

普者「水嫁を送り出すのは、いつなんです?」

農夫「……次の月の全くでない夜じゃけ」

魔法使い「新月……もうすぐじゃない」



魔法使い「ふん、村の繁栄のため魔物に対して、大切に育てた“家畜”を供してるのね」

武闘家「……今まで異議を唱える人がいなかったというのも不思議ですね」

女神「バンドワゴンですよバンドワゴン。人間は長いものに巻かれたがる生き物なんですよ、種の存続のための適応ですけどね」

魔法使い「私なら逃げ出すけどね」

傭兵「どうやって生贄を決めてるか分からんが……逃げられないように拘束するなり、幽閉するなりしてるんだろ」

女神「そうでなくとも、家族含む村の他の人の生命がかかってるでしょうし、心の裡に鎖がかかってるでしょう」

武闘家「……」

女神「しかし、この広い湿地帯の主ですか。中々強そうですねぇ」

傭兵「あれだけの鱗獣とかサハギンを従えてるんだ。それなりに力のある魔物だろうな」

魔法使い「鱗獣とサハギンたちには随分と苦しめられたわ……その主なら仕返ししてやりたいわね」

女神「陰湿ですねー、引きこもってお勉強ばかりしてたせいですか」

魔法使い「ふん……」


普者「……ここ二日ほど魔物と遭遇しなかったのは、主がこの村を保護するために魔物を遠ざけてるからかな」

武闘家「野生の魔物にしては随分と行儀がいいですね……」

女神「(強い野生魔物が人間の領域を支配するのは魔王の力が強まっている時に見られる現象なんですよねー。因果関係は分かりませんがかなり強い正の相関が確実にあります)」

普者「(いんが? そーかん?)」

女神「(とにかく魔王の力が強まってるんですよ。ふーくんの戦う相手はどんどん力を蓄えてますよ)」

普者「(そ、そっか……)」



武闘家「……気に入りませんね」

普者「まあ、ここらの魔物には苦しめられたからね……」

武闘家「それももちろんありますが、この村の人たちです。誰かを犠牲にすることで得られる幸せなど許されません」

傭兵「……ま、そう思う奴がいても当然だな」

女神「しかし、それを決めるのはあくまで私たちではありませんからね。特に彼らの場合は生き死にがかかってますし、尚更簡単に口出しはできませんよ」


武闘家「……それはそうですが、しかし倫理に反してます」

女神「倫理は結構ですが、善のために死を強要できる立場なんですか? あなたの善はそんなにも強固なものなんですか?」

武闘家「……」


普者「(……あれ? 女神さま、僕は……?)」

女神「(うるさいですね! 私はそういう立場なんです!)」

普者「(理不尽だよぅ……)」


傭兵「まあ、ちゃんと無作為に選ばれてるということでいいんじゃないか。少なくとも村人たちのほとんどは信じてる」

女神「無作為にしないと行動を歪める誘因になるでしょうしね。例えば指名制にしたりしたら、その家の女児の死亡率は格段に跳ね上がるかもしれません」

魔法使い「いやな話だけど男の子を優先するでしょうしね。選ばれた子の食事などの費用を村全体で分担する制度を作ればまた変わってくるでしょうけど」


武闘家「……ぐだぐだ小難しい話しをして何の意味があるんですか? そんなことより、主を倒す算段を立てるべきでしょう」

女神「倒す必要なんてあるんですか?」

武闘家「放っておけばさらなる犠牲者が出るでしょう。それを見過ごすのは許されることではありません」

普者「……」

傭兵「実際、このメンバーで勝てると思うのか? サハギンと鱗獣の大群ですら倒し切れないんだ。主と闘うというのは、相当危険だぞ」

武闘家「可能か不可能かではありません。やるか、やらないかでしょう」

普者「(……そっか、そう考えるから武闘家さんは竜王に挑んだんだろうな)」

武闘家「あなた方に、その気がないならば、私一人で主を倒してきます」

魔法使い「それはダメよ。認めないわ」

傭兵「俺たちは共同体だ。独断は許さん」



武闘家「……それならばここで私は別れます」

普者「えっ」

武闘家「別に脅迫のつもりではありません。私とあなた達の関係はここまでです」

女神「……やれやれ、己の正義に殉ずるつもりなのか何なのか知りませんが、一度仲間になった以上、その独断は脅迫以外の何物でもないんですよ」

魔法使い「……その性悪妖精の言う通りね。今は旅の途中よ。アナタに途中で抜けられたら私たちの旅の危険は増すわ」

武闘家「それは……」

女神「それに一度は仲間になると口にしたではありませんか。それを反故にするのは正義とは言えないのでは?」

武闘家「……そんなことはないと思います。離脱しないとは言ってませんから」

傭兵「仮に、主を倒したところで、どうする? この村はサハギンや鱗獣に襲われて全滅するかもな」

女神「一を救って百を殺す。ふーん、それが貴女の正義なんですねー、ふーん」

武闘家「……まだそうなると決まったわけではありません」

女神「そうならないとも決まってないでしょう?」

武闘家「結果の話ではないんですよ。義は私にとって重要です。そして、私は魔物の暴虐を許しません」

女神「やれやれ……」


女神「(補正があれば『人を苦しめる主を倒して、村は平和に』という単純なご都合主義的な展開になるんでしょうけどねー)」

普者「……」

武闘家「私は戦います」

魔法使い「アナタも強情ね……」

傭兵「ボウズ、お前は?」

普者「……え?」

傭兵「このパーティのリーダーはお前だろ。お前はどうするべきだと思うんだ?」

普者「僕は……もちろん、困ってる人がいるならできる範囲で助けたいよ」

女神「む……」

武闘家「……」

普者「……何よりも、僕は仲間を見殺しにすることは絶対にできない」

女神「(……ふざけないでください。貴方の目的は魔王討伐。補正もない貴方が挑んだところで主には絶対に勝てるとは限りませんし、まして、それが平和をもたらすとは限りませんよ)」

普者「……」

女神「(この村だけではありません。これから先もそうです。貴方の単純で楽観的な考えは貴方を殺し、その行動は悪影響のみを残すかもしれないんですよ!)」


普者「……武闘家さん。君を一人で闘わせない」

女神「……ちっ」

魔法使い「……カッコつけちゃって」


普者「武闘家さん、全力で君を止めてみせる」


「「そっち!?」」


武闘家「……貴方にできると?」

普者「どんな手段でも使うよ。……どんな手段でもね」

女神「ふふふ、アレですね」ニヤ

武闘家「……っ」ビクッ

魔法使い「よく分からないけど、そういうことなら私も手を貸すわ」

傭兵「なんだってんだ……?」


普者「……」ジリジリ

女神「……ふふふ、行きますよ」スゥ…

武闘家「は、恥をしりなさい!」

普者「……ごめん」


普者たちは武闘家を““説得””した!


ははははっ……はぁ……っ……も、もう……あひゃひゃっ……はひひひぃ……はふふっ…はふ……はははははっ……はフッ……ふはっ……っぅぅ…………!

・・・・・・

武闘家は““説得””された!


武闘家「ぁぅ…………」グテッ

傭兵「これはひどい」

魔法使い「……やり過ぎたかしら」

女神「ドMにはもの足りないくらいでは」

普者「……武闘家さん、本当にごめん」



【翌日】

普者「久しぶり熟睡したなぁ」

女神「もう皆さんは起きて出かけてるみたいですね」

普者「……武闘家さんは勝手にいなくなったりしてないよね? 義理堅いから多分大丈夫だろうけど」

武闘家「ここにいますが」ヌッ

普者「へぁっ!?」ビクッ

女神「おや、帰ってきたんですか」

武闘家「……鍛錬が終わったので」

普者「そ、そうだったんだ…お疲れ様」

武闘家「……」

普者「……その、ごめん」

武闘家「謝るくらいなら最初からしなければよいのでは?」ジトッ

普者「うっ……でも、武闘家さんは無理やりでも、行かないと言わせないと行っちゃう人だから」

武闘家「……」


女神「くすぐりを待ち望んでたくせに」ニヤニヤ

武闘家「……はい?」ギロッ

女神「くすぐってもらいたいからって一々反抗するのはやめてくださいよ」フッ

武闘家は深く腰を落とし真っ

普者「す、ストーップ!」

武闘家「……邪魔です」

女神「気に入らないことがあると、すぐ暴力に走る……お子ちゃまですねぇ」ニヨニヨ

武闘家「……」

普者「やめろって」

武闘家「……いえ、それは彼女の言う通りです。自己を正当化するための暴力は不正です。私の不徳ですね」

普者「14歳がそんなこと言わないで……僕が辛いから……」

女神「ふーくんはお子ちゃまですからねぇ……色々と」プッ

普者「ほっといて!」

武闘家「……」フゥ


魔法使い「何を揉めてるのよ」

普者「あ、おかえり」

武闘家「おかえりなさい」

女神「おやぁ、もっと長くよっさんとイチャついてるものと思いましたが」

魔法使い「なにバカなことを言ってるのよ、このアホ妖精は」

女神「あれだけ、普段から熱い視線を向けてたら分かりますよぉ」ニヤニヤ

普者「そ、そんな関係だったなんて」

魔法使い「違うわよ!」

普者「(でも何かあるんだろうな……魔法使いさんの両親が、よっさんの仲間だったんだっけ)」

女神「(『パパと結婚するー!』の亜種ですかね)」

普者「(なるほど……あと今の可愛かったんでもう一度お願いします)」

女神「(最高に気持ち悪いです)」

普者「(ふえぇ…)」

魔法使い「……疲れてるから私は少し寝るわ」

武闘家「何かあったんですか?」

魔法使い「普通に旅疲れよ……どうしてアナタたちはそんなに元気なの?」

普者「だ、大丈夫……?」

魔法使い「質問の意味がよく分からないわね。とにかく少しでもはやくちゃんとしたベッドで寝られるところに行きましょ」

女神「貧弱ですねぇ……」

魔法使い「うるさいわね……」


武闘家「私は水浴びしてきますが……以前のようなことがないようにしてくださいね」ジトッ

普者「あっはい」

女神「覗きます!」←似てない声真似

普者「やめてくれる!?」

武闘家「……」

普者「大丈夫だから! ほんとこれっぽっちも興味ないから! うん!」

武闘家「……そうですか」

普者「え、なんで今ので不機嫌……あ、ちょっと……!」



傭兵「おーう帰ったぞ」

普者「酒くさっ!?」

傭兵「村の奴らと飲んだからなぁ……中々うまい濁り酒だった」

女神「酔っ払いの中年は汚いですねぇ。はやく肝硬変で死んでください」

傭兵「人殺しがそんな病気で死ねれば幸せだがな」

女神「……いちいち湿っぽくする人は嫌われますよ」

傭兵「そういうことを言う奴に言われたくないがね」ニィッ

女神「(本当にいけ好かないですねぇ……)」イライラ

普者「(まあまあ……)」

傭兵「あ、そうそう。水神だったか? そいつの情報も聞いてきたぞ」

普者「……やっぱり水嫁は、食べられてるんですかね」

傭兵「まあ、そうだろうな」

女神「(魔物は相変わらず悪食ですねぇ)」


普者「……よっさんはやっぱりこの村のことを放っておくべきだと思いますか」

傭兵「湿地帯のボスを倒したいってか?」

女神「ふーくんが戦っても殺されるだけですよ、やめなさい。それに、殺したところで、逆に魔物の統制が崩れてこの村を危険に晒すかもしれませんよ」

普者「……そうかもしれないけど、でも本当にこれでいいのかな。誰かの命を奪って守る安穏は許されるべきなんだろうか」

女神「脳筋娘に影響されてるんじゃないですよ。勇者でないならば、最大多数の最大幸福を念頭に置くべきです」

普者「僕はよっさんの意見が聞きたいんだ」

傭兵「……まず主を倒して生き残るだけの実力があるとは思えない。それと、水嫁を出すこと、水嫁になること、魔物に従ったままでいることに対して、各人の自由意志で決めるべきだと俺は考える」

女神「それならよっさんも私と同じ意見ですね」

普者「……」

傭兵「だが、これは勇者になれなかったオッサンの考えだ。ボウズが真に勇者になるというのなら、意思決定はお前に任せよう」

女神「……貴方はそんな無謀な考えで行動するとは」

傭兵「もちろん敵いそうもないなら、全力でトンズラするさ。被害は最小にするようにしてな」

普者「……」



傭兵「……水嫁に会うか?」

普者「え?」

傭兵「場所はそれとなく聞き出して分かったからな。 あまり長い時間は無理だが」

普者「……うん」

女神「……もうっ! この酔っ払いは余計なことばかりして!」

傭兵「酔っ払いなんて大抵そんなもんだ」ヘラッ


【座敷牢】

水嫁「……だれ?」

普者「……あ、どうも。旅の者です」

普者「(この子が水嫁か……普通の女の子じゃないか)」

水嫁「……何のようですか?」

普者「あ、えと……その、辛くないのかなって……こんなところに閉じ込められて、それに……」

水嫁「……物心ついた時からこうですから、別に」

普者「……お父さんとお母さんはどう思ってるのかな」

水嫁「父も母も誰か知りません。この家の人でないことは確かです」

普者「……っ」

水嫁「……ここにこれ以上いては騒ぎになります。帰ってください」

普者「……君はもうすぐ水嫁になるんだよ。それはつまり……」


水嫁「分かってます……昔、こっそりに会いに来てくれていた同い年の男の子が、教えてくれました」

普者「……」

水嫁「あの子が私の人生で唯一の友だちでした……今はもう会わなくなりましたが……」

普者「……その子にもう一度会いたくない?」

水嫁「……」フルフル

普者「どうして……」

水嫁「それは……だって私は……」ギュッ

普者「……っ」ギリッ


傭兵「時間だ……俺は適当に番とやり取りをするから先に帰れ」

普者「……それじゃあ」

水嫁「……はい」



傭兵「ボウズ、村の奴から聞いてきたぞ」

普者「……ありがとうございます」

傭兵「昔、座敷牢に訪れていた少年……数年前に主を倒すといって村を出てから帰っていないそうだ」

普者「……そうですか」

女神「恋した少女を救うために生命をかけた少年……三文芝居ですね」

武闘家「……これでもまだ放っておくというんですか」グッ

魔法使い「……落ち着きなさい」

傭兵「そういうお前も唇噛み締めるのをやめたらどうだ?」

女神「やれやれ……貴方たちが戦って事態は改善されるんですか?」

普者「分からない……悪くなるかもしれない。……でも、今のまま放っておいてはいけない」

女神「はぁ……ほんと救いようがないバカですねぇ」

傭兵「いや、若いってのは青臭いねぇ、羨ましい限りだ」

女神「焚きつけた中年が何を言ってるんですか……」



傭兵「ま、勝てそうにないと判断したら、全力で逃走だな。武闘家、退けとと言われたら絶対に退け」

武闘家「……はい」


普者「……どういう作戦で行こうか」

魔法使い「主の強さもそうだけど、取り巻きの魔物が問題よね。この前みたいな数で迫られたらたまったもんじゃないわよ」

武闘家「……どうにかして主に近づかないといけませんね。そして急襲して、混乱しているうちに一旦逃げて、相手の態勢が整わないうちに、再奇襲」

傭兵「油断した相手に辿り着くなら手取り早い方法があるだろ」

魔法使い「……水嫁を増やすのよね?」

武闘家「……なるほど」

傭兵「ま、あと数日で、もっと取り入れば、俺とボウズぐらいなら遣いの一員として同行できるだろう」

魔法使い「取り入るのがうまいわね……大臣にでもなったら?」

傭兵「ははは、それなら王様がいいねぇ」




女神「よっさん、ちょっと伝えたいことが……」

傭兵「あん?」

・・・

女神「どう思いますか?」

傭兵「……なるほど。考えたこともなかったが、悪くないかもしれないな。明日にでも実験しておこう」

女神「……村全体で協力しなければいけませんが、どうでしょう」

傭兵「流石に総意は俺でも無理だな。何人か説得してそれなりに金を出させることは不可能でもないだろうが」

女神「効果が実際にあれば、あとは、私に任せてください。あまり積極的に関わりたくないんですけどね、色々と」

傭兵「……へえ」ニヤッ

女神「なんですか?」

傭兵「いや、隠してると思ったんだが」

女神「おや、何の話ですかねぇ」シレッ

傭兵「ま、俺は呑んだくれだからな。あり得ないことを考えたりもするが、相手にしなくていい」

女神「ふふ、都合のいいバカは好きですよ」


【村の外れ】

普者「ふっ! ふっ!」ビュッ ビュッ

女神「(そんなんじゃ、主どころかサハギンも一撃でやれませんよ)」

普者「おりゃぁ! とりゃぁ!」ビュォッ ビュアッ


武闘家「……はぁっ!」ビュアッ

武闘家の拳圧が大岩を穿った!


普者「……」

女神「(魔法を拳に纏わせてるんですね……中々大した才能ですよ。あの気にくわない魔法娘の指導も悪くないですからね)」

武闘家「……ふぅ」グテ…

女神「(ただ、消耗も激しいみたいですねぇ……実戦では注意しないといけませんね)」

普者「…はっ! はっ!」ヒュッ ヒュッ

女神「(ねえねえ、どんな気持ち? あれだけの大技を見せ付けられて自分はただの素振りしかできないってどんな気持ち?)」

普者「できることを! やるだけだよ!」ヒュッ ヒュッ




武闘家「根号……なるほど、扱える数が増えるんですね」

魔法使い「表記を簡単にしただけよ。簡単な計算方法と有理化を覚えれば取り敢えずは十分よ」

普者「はちしさんじゅうに、はちごしじゅう、はちろく……ええと……はちろく……」

女神「九九くらいさっさと覚えてください!」

普者「ご、ごめんなさい」




傭兵「武闘家と魔法使いが水嫁に選ばれた」

魔法使い「トントン拍子で話が進むわね」

女神「口から生まれてきたような男ですね、まったく」

武闘家「それはむしろあなたでは?」

女神「はあ?」

魔法使い「このメルヘン妖精は二枚舌の悪魔の口から生まれたのよ」

女神「はあ? はああぁ?」

普者「(まあまあ……女神さま煽り耐性低過ぎでしょ!)」

女神「(どうして女神である私が人間の悪行に対して寛容でなければいけないんですか!?)」

普者「(……もういいです)」

女神「(なんですか、めんどくさそうな顔して! なんなんですか!)」ペチペチペチペチペチッ

普者「(痛いって)」




傭兵「……試したぞ。面倒だったが」

女神「どうでした?」

傭兵「アリだな。明日は村の人間に実演してみせる。そうすりゃ説得できるだろ」

女神「ふむ……」


農夫「し、しかし、外のモンでも水嫁になるなら大事に保護せんと」

傭兵「俺が見張ってるから安心してくれ」


魔法使い「ふん、拘束されるなんて真っ平よ」ボソッ

武闘家「……本当に腹立たしいですね」ボソッ


農夫「……分かったけ、傭兵さん、アンタのこと信頼するけ」

傭兵「おう」


女神「(本当に人身掌握がうまいですね……)」

普者「(頼りになるよ、ほんとに)」


(こうして時間は流れ……)


【新月の夜・魍魎の大湖】

大サハギン「ギィィ!」

「キタカ……」

遣い「こ、今年の水嫁3人です」

「フハハ、ゴ苦労デアッタ。帰レ」

村の遣い「へ、へい!」

傭兵「帰りまーす」

普者「失礼しました!」

(村の遣い達はそそくさと帰った)

水嫁「……」ブルブル…

武闘家「……」

魔法使い「……」ブツブツ…

「フハハ、モット岸マデ寄レ」


湿地帯の主はその姿を見せた!

武闘家「……ここまで大きいとは流石に思いませんでしたね」

大怪魚「フハハ! コノ数ナラバ食イ応エガアリソウダ!」

水嫁「……っ」ブルブル

大怪魚「フハハ、慄クナ! 肉ガ硬クナルダロウ……大サハギン! 魔芥子ノ乳液ヲ飲マセロ!」

大サハギン「ギイイ……!」

水嫁「ひぃ……!」

武闘家「やめてください」

大怪魚「……貴様、ドウシテ片腕ガナイ? 」

魔法使い「……」ブツブツ

武闘家「あなたみたいな雑魚よりずっと強い敵に挑んだ結果です」

大怪魚「……フハハ、弱キ人間ゴトキガ何ヲ言ウ」

武闘家「図体が大きいことだけが取り柄のくせに、あなたこそ何を言ってるんですか?」スタスタ

大怪魚「生意気ナ……貴様カラ食ラッテヤル!」

大怪魚は口を大きく開けた!

魔法使い「あなたが食べるのは真っ赤な炎よ――『火炎魔法・大』! 『旋風魔法・大』!」

大怪魚「ナ――」

魔法使い「焼き魚になりなさい――『焦熱』!」


大怪魚は内部から焼かれていく!


大怪魚「ギャアァァアアァァァァ!!??」


武闘家「……全力で行きます」


武闘家は拳に風の魔法を纏わせる!


魔法拳『列破』!


大怪魚の半身が抉れた!


大怪魚「がァァアア!!??」



傭兵「すいませーん、忘れ物でーす」

普者「ごめんなさい! これです!」ブンッ

普者は大量の塩素漂白剤を湖に投入した!

女神「魔物にも効くことは調査済みです! 害魚は消毒されて死になさい!」

取り巻きの魔物たちは苦しんでいる!

傭兵「それじゃあ、お邪魔しました」ザクッ

傭兵の攻撃!

大サハギンを一撃で倒した!


普者「逃げるよ!」

普者は水嫁を抱きかかえた!

水嫁「あ……え……」

女神「相手は壊滅状態です! この場から逃げ切ればとりあえず私たちの勝ちですよ!」

普者たちは逃げ出した!


しかし、回り込まれてしまった!

大怪魚「ユ、ユルサン……!」

魔法使い「ま、まだ息があるの……?」ゼエッ…ゼエッ…

武闘家「思った以上のしぶとさですね……一撃でやるつもりでしたが」ヨロッ…

大怪魚「食イ殺ス……!」ギロ…

大怪魚は突進しようとしている!

女神「(……二人とも大技で満身創痍ですよ!)」

普者「……っ!」

普者は水嫁を降ろして、駆け出す!

女神「(両方を助けるには……離れ過ぎています……)」



(どちらを助ける?)
>>389から>>393まで多数決

武闘家ちゃんだよなあ!?(適当)

挑発したから武闘家を襲ってくると予想して武闘家

魔法使いさん

アナルがキツそうな武闘家

――――

(普者「(僕は、魔法使いさんを助けるよ)」)

(女神「(おやおや、武闘家さん推しだと思っていたんですけどねぇ)」)

(普者「(もちろん二人とも助けたいけど、本当にどちらかしか助けられないなら、魔法使いさんを助けると思う)」)

(女神「(武闘家さんを見捨てる理由は?)」)

(普者「(……魔法使いさんは回復魔法を使える。回復魔法があるならパーティの生存率は上がるはずだよ。僕たちは魔法を倒すという目的がある以上、その目的を果たすために行動しなければいけないから)」)

(女神「(ほほう、使命感に燃えていますねぇ、感心です)」)

――――




普者「……武闘家さん!」

普者は武闘家の腕を掴んだ!

武闘家「あ……」

普者は武闘家を抱えて突進の射線上から離脱する!

武闘家「ま、待ってください……魔法使いさんが……!」

普者「……っ」ギリッ


大怪魚の突進!


線上にいた存在は踏み潰された!


大怪魚は力尽きた……


大怪魚を倒した!



武闘家「……魔法使いさんっ」


普者「……」

女神「(……前に言っていた答えとは別の答えですね)」

普者「……」

女神「(……ま、答えを顕示したから、そこまで失望はしてませんよ、早く逃げましょう)」

普者「……」

武闘家「どうしていつも……みんな私を置いて……」ポロポロ…

普者「……逃げよう」

武闘家「……」キッ

普者「僕は……武闘家さんとよっさんまで喪いたくないんだ。後でなら、何してくれたって構わないから」


普者は水嫁を再び抱きかかえた!

女神「両手に花ですねぇ……さあ、相手が混乱してる間に逃げますか」

武闘家「…………」ポロポロ



魔法使い「なに泣いてるのよアンタは」

武闘家「え……?」

普者「あ……?」

傭兵「俺のことを忘れてもらっちゃ困るな」

普者「な、なんで……あの時、僕よりも遠い位置にいたのに……」

女神「(人間の限界を超えた速さの持ち主……ということは)」

魔法使い「ふん、このオッサンは魔法を使えるのに隠してたのよ! というか、いい加減降ろしてちょうだい!」

傭兵「ま、年取れば魔法の一つや二つは使えるもんだ。さて、今度こそ本当に逃げようか」

普者「……!」コクッ


普者たちは逃げ出した!


【農村部】

(水嫁の帰還と、水神の死を聞いた農民たちは動揺した。)

(普者たちは、その日のうちに村から追い出されそうになったが、傭兵が上手く丸め込み、一晩だけ村に泊まり、その後、追い出されるようにして村を後にした)


(その晩、その村の住人たちは同じ夢を見た)

女神「……私は女神です」

女神「貴方がたは魔物を神として崇めていると聞き、私は悲しんでいます」

女神「とりわけ貴方た がたの行っている水嫁という慣習に、私はとても心を傷めています」

女神「しかし、魔物に服従せざるを得ない貴方がたに深く同情しています」

女神「そのため託宣を授けようと思います」

女神「……中王国には、塩素漂白剤というものを売っている商人がいます。それをできるだけ多く手に入れ、湿地帯全体に撒きなさい。水辺の魔物に対して極めて効果的でしょう」

女神「しかし魔物と共に魚も死んでしまうので、そこは注意してください」

女神「私は貴方たちの健やかなる平和と繁栄を願っています」


(その後、塩素消毒によって、湿地帯の魔物は激減したという)

(さらにその屍体を粉末にして、肥料にすることで、さらなる生産性の増加に繋げたとか)

次回、南国編!




【幕間】

女神「ここからは非常にメメタァな話ですが、どちらかは死ぬはずだったんですが、>>392>>391の下二桁がゾロ目だから二人とも助かりました。二人とも悪運が強いですねぇ」

女神「あと、よっさんは魔法の反動で全身ひどい筋肉痛で、次の日はわりとすぐにダウンしました。年は取りたくないですねぇ」

女神「あと、ランダム要素でもそれ以外でも不本意なことがあったら、私は悪くないので、『ふーくん死ね』とでも言っておいてください」

普者「ひどくない!?」

女神「うるさい、ふーくん死ね」

普者「ふえぇ…」

女神「あと、コーヒーとエナジードリンクばかり飲んで脳みそ出涸らし状態のカフェインジャンキーよりも、私を可愛く美しくかける優秀な書き手は常に望まれています。我こそはというものは、勝手に続きを書いてください」

普者「あんまりメタいと気持ち悪がられるからもうやめなよ…」

女神「うるさい、ふーくん死ね」

普者「ふえぇ…」

【ボスを倒した翌日・湿地帯南部】

パチパチ…ッ

普者「ふぁ……」

武闘家「……普者さん」

普者「あれ、眠れないの?」

武闘家「……ええ、まあ」

普者「まあ、強敵と戦ったばかりだもんね」

武闘家「……」

普者「ええと、どうかした?」

武闘家「助けてくれて、ありがとうございます。そして、すみませんでした」ペコ

普者「へっ?」

武闘家「あの時、普者さんが助けてくれなければ…今、私はここにいないのに…普者さんのことを、責めてしまいました」

普者「いや、気にしなくていいよ」

普者「(……そういえば、僧侶さんの時に、女神さまに同じことを……僕も謝らないとダメかな)」


武闘家「……あの性悪妖精はいないんですか?」

普者「ああ、なんか用事があるらしくてちょっとどっか行ったんだよね」

武闘家「また悪だくみですか……」

普者「あはは、そうかもね。……疲れてるでしょ? 寝た方がいいよ」

武闘家「それは普者さんもでしょう?」

普者「そこまでじゃないよ。敵が追ってこないとも限らないから、ちゃんと見張っておかないと。よっさんは魔法を使ったせいかグッスリ寝てるし」

武闘家「魔法使いさんも相当疲れてるようです」

普者「武闘家さんもでしょ?」

武闘家「それほどでもありませんよ」

女神「休める時は休まないのは愚者ですよ。ぐーちゃんなんてふーくんより劣りますよ」

普者「あ、帰ってきた」


武闘家「今度は何をしでかすつもりなんですか?」ジロ

女神「私を疑うなぞ不敬ですね。迷える子羊を導いていたというのに」

武闘家「……どういう意味ですか?」

女神「それも分からないようなお子ちゃまはもうお眠の時間ですよ。ほらほら、しっしっ」

武闘家「……そう扱われるほど子どもじゃないわ」

女神「子どもはみんなそう言うんですよ」

武闘家「……」




パチッ……

女神「……南国までもう少し、南の南は、わりと近いですよ」

普者「南国は東西に長くて、南北には短いんだよね」

女神「ええ、まあ、あと四分の一ですかね……あ、ふーくんは分数が分からない残念な子でしたっけ」

普者「いや、それくらいは分かってるよ……半分の半分でしょ?」

女神「ええ、そうです……久々に女神パワーを使って疲れましたからね、お眠ですから寝ます」ズボッ

普者「女神さまも子どもじゃん……」

女神「なんと罰当たりな……本当に天罰を下しますよ?」

普者「ご、ごめんなさい」

女神「謝れば許されることばかりじゃないことは覚えておいた方がいいですよ。それじゃあお休みなさい」モゾモゾ

普者「(……僕の胸ポケットで寝るのやめてくれないかなぁ。くすぐったいし、寝返りもろくに打てない)」

女神「(文句ばかり言う人は嫌いですよ)」モゾモゾ…

普者「(はいはい……)」


(北?に進むオカマタイツとその愉快な仲間たち)

大魔猿「グゥ……」バタッ

オカマ「ふぅ……中々強い魔物だったわねぇ。少しイキかけたわぁ♂」

剣士「相変わらずデタラメなことやってるのに強い……」

武士「ああ……強さとはなんなのか、分からなくなってきた」

オカマ「強さとはタイツよ!」

剣士「えぇ……」

武士「なるほど……」

剣士「なるほどじゃないからな!」

オカマ「まだまだ野良魔物は多いわ……油断しちゃダメ。ケツの穴をちゃんと締めるのよ(迫真)」

剣士「締めるのは兜の緒だけにしてくれ……」

オカマ「どっちも締めるのよぉ! まさにエクスタシー(絶頂)」

武士「なるほどエクスタシーこそが強さか(錯乱)」

剣士「正気に戻れ! 感染するな!」


オカマ「……しかし、ここはどこからしらねぇ……?」

剣士「北国付近じゃないのか? 読図は面倒だから二人に任せてるが」

武士「この体だと確認するのも手間だからな、二人に任せているが」

オカマ「アタシは風の呼ぶ方向に進んでるだけよ!」

「「「…………」」」


剣士「遭難してるじゃないか!!」

オカマ「あらら、どうりで交易路に道にしてはイワイワしてると思ったわ」

剣士「岩岩というか、荒地じゃないか! どうしてこんなところに来てしまったんだ! いや、僕も悪いけども!」

オカマ「アタシのお肌とは正反対ね」

武士「ははは、こやつめ」

剣士「お前はキャラ壊れすぎだろう!? 戻って来てくれナイスガイ!」

オカマ「イワイワとイクイクって似てるわね(哲学)」

剣士「哲学を何だと思ってるんだ!?」


武士「しかし、実際困ったな」

オカマ「こういう時はね、とっておきの方法があるのよ!」

剣士「な、何なんだよ……真面目に頼むぞ」

オカマ「誰かに道を訊くのよ!」

武士「そ、その手があったか!」

剣士「なんなの!? ねえ、君たちなんなの!?」

オカマ「あらぁ、誂えられたように人がいるわよ」

剣士「お、実際それは助か…… 」


ゾロゾロ


剣士「……人じゃなくて魔物じゃないか。しかも多いぞ」サッ

武士「武装した死霊の大群……隊列を組んでどこかに向かってるようだが」ススッ…

オカマ「北西国から来たのかしら?」コソッ…

剣士「北西国といえば、魔王軍に惨敗して、国内西部にその軍が在留してると聞いたが、もしかしてそれか……?」

オカマ「死霊部隊を使うのは確かに合理的よね」

武士「どういうことだ?」

オカマ「魔界と人間界の間には海があるでしょ。それで、陸路よりも物資の補給が難しいじゃない。そうなると、戦力維持するには、一番“安上がり”な死霊系で運営してるんじゃないのぉ?」

剣士「あの系統は人間の屍体や動物、魔物の屍体をベースにしてるんだったか……美しくないな」

武士「しかし、こんなところで何を……さすがにここは北西国の西部ではないはずだが……さすがにそれほどは歩いてないと思うぞ」

オカマ「何かを探してるんでしょうねぇ……あぁ、クる! あたしの探知棒(意味深)にビンビンくるわよぉ! あいつらの向かう先にきっと何かあるわよ(確信)」

剣士「僕たちは錬金術を頼りにきたんだろ……死霊の軍隊を追ってもしょうがないだろ」

武士「それは手段の一つであって目的ではないさ。実際、道に迷ってる以上、あの軍団についていくのも悪い選択ではないんじゃないか」

剣士「あの数でやることなんて、どっかの村や町の襲撃だろう。どうせロクな結果にならないと思うが」


オカマ「ま、いざという時はあの軍団は潰してしまいましょ」

武士「あの数は、俺たちで何とかなるとも思えんがな」

剣士「一匹は雑魚だとしても流石に数が多いな……」

オカマ「戦闘を生業とする男がうじうじしてるんじゃないわよ! さあ、行くわよ!」

剣士「男とかそういう問題じゃないだろう。そもそもお前も男だろうが……」


オカマ「あ?」ブワッ……


剣士「っ……!?」ゾッ

武士「(な、なんだ、今の闘気……?)」ゾククッ……


(人間界にたどり着いた魔姫と謎の煉瓦大好き男)


魔姫「おとちゃ! たべもの、かってきた!」

「おおー、随分とデカい魔獣を……狩ったな。食えんのか?」

魔姫「おいしかったよ。でも、ちょっと毛がイガイガ」

「俺は食えないだろうな……」

魔姫「……そっかー」ショボン…

「その気持ちが嬉しい的なアレだから、気にすんな、うん。姫と子分たちで食べな」

魔姫「うん……ガイコツ、グールもたべる?」

ガイコツ「いや、オイラはガイコツなんでメシは食わないっす」

グール「キュッ!」

ガイコツ「……腐ったら食べるから残しておいて欲しいそうっす」

魔姫「むー! みんなして!」バキッ

ガイコツ「はぐぁ!? い、いたいっす!?」ジタバタ

「こらこら、無意味な暴力はやめい」

魔姫「せっかく、ひめが、かったのに! それに、おやぶんの、ことばは、ちゃんときくの!」バキッ

ガイコツ「げぼぁっ!?」

グール「キュゥ……」マァマァ…

「やめろって。ガイコツくん
昇天しちゃうだろ……いや、それが本来正しいのか?」

ガイコツ「い、いやっすよぅ……」

ガイコツ「(うう……船内に侵入者を見つけたと思ったら、いつの間にか手下にされてたっす。何を言ってるか分からないと思うっすけど、オイラもよく分からないっす)」

グール「キュー!」シャキン

魔姫「どうしたの?」

ガイコツ「こいつ、グールのくせに料理が好きなんす。だから、少しでも食べやすくするらしいっす」

魔姫「ふーん……」

グール「キュー、キュー、キュイッ!」スパパッ

「おお、早いな。……そして、すごい血の量だな、おい」

魔姫「しんせんだね!」

「……そうだな」


ガイコツ「おとちゃは何を食べるんすか?」

「え、ガイコツ君もその呼び方かよ」

ガイコツ「あー、じゃあレンガさん?」

「いや、俺がレンガってわけじゃないし……いや、待てよ!」

ガイコツ「ほあ?」

「俺がレンガになる、そういう考え方もあるのか。なるほど、盲点だったな」

ガイコツ「な、なに言ってるっすか……?」

「……すれば……いや、しかし、……」ブツブツ…

ガイコツ「(こ、怖いっす……人間ってみんなこんなのばかりなんすか?)」

グール「キュッ」

魔姫「たべやすい! すごい!」

グール「キュー」

魔姫「ふはは、きさまをそっきんにしてあげよう!」

グール「キュッ!」ビシッ

ガイコツ「(なんで、お前はそんなに馴染んでるんすか!?)」




魔姫「ねむい……」ウトウト…

「そろそろ休むか。石土魔法、火炎魔法」

バキキッ……

簡易シェルターが出来上がった!

魔姫「わーい! ぬくーい!」

「温いってか、まだ熱いだろ……また服が焦げ付くぞ」

ガイコツ「毎度のことながら、すごい魔法の腕前っすね……」

グール「キュッ……」

「これくらいできないと納得いくレンガは作れないからな」

ガイコツ「そ、そうなんすか?」

「ましてや、自分がレンガになるなら、もっと魔法を極めないと……」

ガイコツ「なにそれ怖いっす」


「これなら、もっと魔物のじーさんに教わっておけば良かったな」

ガイコツ「魔物に教わったんすか!?」

「おう、この旅の途中でな……爺さんが、俺を殺そうとものすごい火炎魔法を放ってきて、その火力に惚れたんだよ」

ガイコツ「よく教えてもらえたっすね……というか、よく殺そうとしてきた相手に魔法を教えてもらおうと思ったっすね……」

グール「キュー」

「俺のレンガへの愛が伝わったのさ。途中から後継者になれって鬱陶しかったけどな」

ガイコツ「ほあー」

「元気にしてっかな、大魔導の爺さん」

ガイコツ「……だ、大魔導!? だだだ、大魔導って、まさか、あの大魔導さまっすか?」

グール「キュッ!?」

「ん? ああ、そこそこ有名人らしいな」

ガイコツ「有名人も何も……四天王に次ぐ七魔の二枚目! 魔界の超実力者っすよ! そ、そんなお方の後継者……!?」

グール「キュー!」パチパチ

「おお、拍手されるとなんか照れるな」

「いや、だから、俺はレンガ焼きたいから、断ったんだって。爺さんには悪いけどな」

ガイコツ「(と、とんでもない人たちの手下になってしまったっす。いや、しかし、これは大躍進のチャンスっす!?)」

「そしたら、爺さんに殺されかけてさ、いやあ、爺さんの領地にはもう二度と入れないな」ヘラッ

ガイコツ「ひぃっ……あの大魔導さまの目の敵っすか!?」ガクブル

グール「キュー……」ガクブル

ガイコツ「(こ、このまま一緒にいたらいつか殺されるっす……でも――)」


~~~~

ガイコツ「いてて……」

グール「キュッ……?」

魔姫「起きた?」

ガイコツ「ひええ、見逃すんでお命だけは勘弁してほしいっす!」

グール「キュー、キュー……!」

魔姫「ふたりとも、きょうから、ひめのこぶん!」

ガイコツ「わ、分かったっす……」

ガイコツ「(このチビ娘、超強いっす……隙を見て逃げるっす)」

魔姫「えへへ、それわかる?」ユビサシ…

ガイコツ「ほあ? オイラの胸の辺りに印が……?」

グール「キュー……?」

魔姫「ひめが、パチンするとね、なにものこさずに、けしとぶの」ニコニコ

グール「キュッ!?」

ガイコツ「じょ、冗談はやめるっす! 人間のジョークは笑えないっす!」

魔姫「ひめ、にんげんじゃないよ?」

ガイコツ「ほあ?」

バキバキ……

魔姫「えへへ、つばさ♪」バサァッ……

ガイコツ「りゅ、竜の翼……?」

グール「キュ……ッ?」

「危ないし、風がすごいからしまってくれ」

魔姫「はーい」バキキ…

ガイコツ「……」

魔姫「ためしてみる? きえちゃうけど」

ガイコツ「け、結構っすよ! 屍の封地出身のガイコツっす! こっちのはグールっす! オイラたち喜んで親分の子分になるっす!」

グール「キュッ!」

魔姫「えへへ! よろしくね!」

「ちゃんと世話するんだぞー」

魔姫「うん!」

~~~~



ガイコツ「(逃げたらすぐに殺されるっすぅ……このチビ娘、まるでプチ魔王さまっすぅ……)」

ガイコツ「(というか、オイラたちの扱いペットか何かっす!?)」

ガイコツ「(ど、どうするっす!? どうするっすかオイラ!)」ジタバタ…

魔姫「むにゃ……うるさい……」ゲシッ

ガイコツ「グフッ……!?」チ-ン


ガイコツくんとグールくんの受難の日々は続く!


グール「クゥ…クゥ…」スヤスヤ…


……ガイコツくんの受難の日々は続く!

【南国・北端の街】


女神「ここまでくれば後の移動には馬車を使えますね」

傭兵「南端までなら一週間かからないだろうが、南の入江となるともう少しかかるな……何より……」

魔法使い「はあ……はあ……」グタッ…

武闘家「大丈夫ですか……?」

魔法使い「……大丈夫よ。少し休めばすぐに元気になるわ」

傭兵「早く医者にかかるぞ。俺が連れて行く、宿を取って置いてくれ……ここの宿のオーナーとは知り合いだから、俺のことを言えば色々都合を付けてくれるだろうよ」

武闘家「私もついていきます」

魔法使い「いいわよ、独りで……」

傭兵「ダメだな」

武闘家「そうですよ。普者さん、宿の手続きはお願いします」

普者「ああ、うん」



女神「(引きこもってお勉強ばかりしてるからですよ、火を出すモヤシですね。自分を炒めるなんて出来たモヤシですよね、モヤシとしてはですが)」

普者「(そういう言い方はないでしょ……)」

女神「(本人の前では言ってないから良いじゃないですか。良心の自由です)」

普者「(ああ、そう……でも、具合が悪くなったのが街の近くになってからでまだ良かった)」

女神「(何言ってるんですか。もっとずっと前からに決まってるでしょう。温室育ちのお嬢様にこの旅は過酷なのが分からないんですか? ただでさえ魔法は多大な疲労が伴うというのに)」

普者「(え?)」

女神「(まあ、顕著になったのは湿地帯のデカいだけが取り柄の魚を倒した辺りからですが。旅の途中で弱音を吐いても仕方ないから我慢してたんでしょう)」

普者「(……で、でも、そこまで進むのは遅くなかったし、最近までずっと勉強とか魔法を教えてくれたよ)」

女神「(後半は回復魔法で騙し騙しやってたんでしょうね。それも相当身体に負担をかけたでしょうけど)」

普者「(そんな……)」

女神「(……まあ、ふーくんはいつも自分のことで精一杯ですからねー、他人のことなんて考えてる暇ないんですね)」

普者「…………」

女神「(ほら、落ち込んでないで宿に行きますよ。お馬鹿が落ち込んだって何もいいことがありませんからね)」ペチペチ

普者「(イテテ……分かったよ……)」

次回に続く!


【幕間(本当に読まなくていいです】



女神「ふーくんと会うのは随分と久しぶりな気がしますねぇ」シレッ

普者「本当にね……」

女神「まあ、こんなこともありますよ。今後もありますね、きっと」

普者「少しは悪びれてよ!」

女神「うるさいですねー、忙しいんですよ……」

普者「そうは言ってもさ」

女神「忙しいんですよ!! もう二徹確定してる身にもなってくださいよ! 毎週のように徹夜して他にもたくさんのタスクがあってこんなの書いてる場合じゃないんですよ!? うがあああ!!」

普者「えぇー……こんなところで発狂しないで……」

女神「まあ、何とかしますよ……色々と……。最近の一番の敗因は久しぶりにゲームとかいう魔性のものに手を出したことですね……時間が融けました……」

普者「うわあ、擁護できなかった……」

女神「熱しやすい性なんですよ……さて、ふーくん並みに気持ち悪いメタはここらでやめましょう、気持ち悪いのはふーくんだけで充分です」

普者「一々ひどいよぅ……」

女神=>>1なのか…(困惑
更新乙です

>>437
女神「変なこと言わされてました。困ったものですね」

普者「わりと女神さまだったと思うんですけど……」

女神「いや、可憐で優美な私があんなこと言うわけないじゃないですか。本当にふーくんは……」ハァ…

普者「ええー……」

女神「一回輪廻転生からやり直すのがみんな幸せになれてグッドですよ」

普者「僕が幸せじゃないよ……」

女神「おや、貴方の幸せを考慮する必要があると思ってるんですか? あまり自分を過大評価しない方がいいですよ」ニコ

普者「ひ、ひどい……」

女神「ふーくんにおすすめの転生先はミドリムシですよ。今も印象だけなら変わりませんが、存在価値はあちらの方が上ですね」ニコニコ

普者「ふえぇ……」

【夜・酒場にて】

ガヤガヤ……

傭兵「こんな暑い国で麦酒かよ、と思ったが、この冷えた麦酒、めちゃくちゃ美味いな。麦酒冷やすとか天才の発想だな」

女神「……やれやれ、アルコールばかり摂取して何が楽しいのやら。非合理的ですね」

普者「んー、暑さの中、キンキンに冷えてて、この喉越しのよさ! おいしい!」

女神「……私にもよこしなさい」チビッ

傭兵「この鶏の骨つき肉も、肴に最高だな」

女神「そうやって、他の生き物の命を奪って、快楽を得るなんて、野蛮ですよ、まったく」

普者「皮はパリッとしてて、中は弾力と、程よい肉感、あ、肉汁が溢れてきた……はあ、美味しい」

女神「別に羨ましくなんてないですよ……別に……別に!」グヌヌ…

傭兵「くはは、暴飲と暴食は人間の嗜みだぜ。妖精には、関係ないことだがな」グビッ

女神「そんなの悪徳です! 罪です! 許しません!」ムキ-

普者「この辛口のソーセージも美味しいし、麦酒によく合うよ」

女神「…………っ!!」ペチペチペチペチペチ…

普者「痛い」


傭兵「ふう、飲み足りねえな……もっと頼むしかないな」

普者「飲み過ぎは良くないですよ」

傭兵「飲まなきゃ生きてる意味の9割が失われるんだよ」

普者「親父みたいなこといいますね……あの人の場合はレンガだけど」

女神「ジュースを所望します!甘くて美味しいジュースを献上しなさい!」ペチペチ

普者「はいはい……」



女神「……♪」チビチビ

傭兵「……本題に入るが、魔法使いはもうダメだ」

普者「ダメっていうと……」

女神「よっさんによって仕込まれた子種が大きくなり、これ以上は旅についていけないと……」ヨヨヨ…

傭兵「おい」

普者「そ、そんなことしてたんですか!?」

傭兵「お前まで悪ノリするなよ」



普者「……もう復帰は無理ですか」

傭兵「旅慣れもしてない娘が国二つまたいできたっていうんだから、大したもんだよ」

女神「それはふーくんもですけどね。まあ、体力とかイカサマしてますけど」

普者「いやな言い方だね……」

傭兵「ま、とにかくこれ以上は連れていけんよ。ここでしばらく療養させた後は……北国の親御さんのところに送還だな」

女神「引き返すなんて手間ですね……彼女はここでクビですね。後は自己責任で何とかしてもらいましょう」

普者「あまりにも酷すぎでしょ」

女神「実際、そこまで悠長にしてる場合でもないでしょう。竜王の一件は完全に魔物の人間に対する宣戦布告ですよ。今でこそ人間たちの足並みの悪さでろくな軍が編成されてませんが、そのうち大規模な戦いが起きます……その前に出来れば魔王を倒せば被害ゼロ。倒せなくても相手方を混乱させれば被害激減です」

普者「だからといって、魔法使いさんをこんな異国の地に置いていけないでしょ」

傭兵「…………」


(「兄貴! お前、アイツを置いていくつもりかよ! 」)

(「俺たちは立ち止まってられねえだろうが」)

(「でもアイツの腹には……!」)

(「……お人好しが面倒を見るってよ。アイツに気があるみたいだし、別に腹の子が誰の子だろうと気にしねえみたいだしよ。貴族の息子だから食い扶持にも困らないだろ、都合のいいこった」)

(「ふざけんなよ! そんなことが許されると思ってるのかよ!」)

(「俺たちは魔王を倒すと父上と母上に誓ったろうが。俺たちの喪われた祖国を取り返すんだ」)


女神「まったく、大義を果たすことを忘れてもらっては困りますよ」

傭兵「……ふっ」

女神「む、何ですか、その小馬鹿にしたような笑いは」

傭兵「なに、ただの思い出し笑いさ……ボウズ、お前がどうするにせよ、俺は嬢ちゃんを連れて帰るぞ」

女神「ほう……自分の仕込んだ子どもに責任を持つのですね」

普者「や、やっぱり、僕たちに隠れて……」



傭兵「そういうんじゃねぇよ」

女神「実際どんな関係なんですか? 友人の娘ってだけではありませんよね?」

普者「魔法使いさんはよっさんがいたから、僕たちの仲間になったみたいだし……何かあるんだよね?」

傭兵「はてさて……」

普者「この前、次に飲むことがあったら教えてくれるって言ったじゃないですか」

傭兵「大した話じゃねえよ」

女神「それを判断するのは貴方ではありませんよ。実際くだらないんでしょうが、とにかく話しなさい」

普者「この口の悪い小っちゃいのは置いておいて、僕も知りたいです」

女神「……いつからそのお口はそんな偉そうなことが言えるようになったんですか? ねえ?」ペチペチペチペチッ

普者「別のジュース頼んであげるから、ちょっと静かにしてて」

女神「私を子どもか何かだと勘違いしてませんか? もちろん頼みますけど」プクッ…

普者「……よっさん、それで」

傭兵「やれやれ、しつこいね…………アイツは――――」




武闘家「父親……傭兵さんがですか?」

魔法使い「……ええ、十中八九ね」

武闘家「でも、そんなこと今まで一切……確かに、ただならない関係だとは見ていて思ってましたが」

魔法使い「……義理の父親がいるのよ。その顔を立ててるんでしょ」

武闘家「……確かに似ている……ような……そこまで親子と言われてもピンとこないんですが……母親似なんですか?」

魔法使い「……そうね。母親似で、父親には全然似てないと言われて育ってきたわ。当然よ、育ての父とは血が繋がってないんだから」

武闘家「……ええと、その……どういうきっかけで……傭兵さんが、その、父親だと?」

魔法使い「別にそんなに細かく気を遣わなくていいわ……14歳に気を遣われると私の立つ瀬が……こうして体を壊してる時点でもうないね」クスッ…

武闘家「そんなことないですよ。魔法使いさんは、すごく頭が良くて、物知りで、私なんかよりも綺麗で、大人っぽくて……すごく素敵な人ですよ」

魔法使い「もう……アナタは本当に良い子ね」ギュッ

武闘家「……これは、恥ずかしいわ」


魔法使い「ごめんなさい、あまりにも可愛いから……不思議ね、最初に会った時はあんなに険悪だったのに」スッ

武闘家「あれは……私が悪かったです」

魔法使い「……そんなことないわよ。私が経歴を鼻にかけていたから……女だからってバカにされたくなかったのよ。今まで、魔法学校の中も含めて周囲は女だからと偏見を持たれてきたから」

武闘家「……」

魔法使い「近所の人からも女で魔法学校に行くなんて常識知らずと評されて、知らない同輩からも大部分の教授からも敵対視されて……それでも負けたくないから……死に物狂いで勉強して……誰にも不当に馬鹿にされたくないから……」

武闘家「魔法使いさん……」ギュッ


魔法使い「ごめんなさい……愚痴ってしまって……弱ってるせいかしら」スッ

武闘家「好きなだけ愚痴ってください……私は年下として扱われるよりも、あなたと対等な関係でいたいから」スッ

魔法使い「……対等よ。対等だけれど、アナタのことを妹みたいに思ってる節もあるわ」

武闘家「妹、ですか」

魔法使い「不快だったら謝るわ」

武闘家「そんなこと…………嬉しいです。私には、もう家族がいないから……」

魔法使い「……」

武闘家「……」


魔法使い「……さっきも言ったけど、昔からね」

武闘家「え?」

魔法使い「父親の話よ。昔からね、似てないと言われ続けてきた。別にそれ自体は、そんなに珍しいことでもないと思うけれど、どうも両親はその度に少しだけ微妙な顔をするの……本当に上手く隠してるから、普通の人は気付かないけれど、家族には分かるのよ」

魔法使い「私が十にもならないある時、あの男が我が家に来たのよ……言ってなかったけれど、元々、両親たちはアイツとかと旅に出ていた時期があったらしいの」

武闘家「そうだったんですか」

魔法使い「私の両親は妊娠して……つまり私を身ごもったから、旅から離脱したの。育ての父と一緒にね」

武闘家「……」

魔法使い「……アイツが家を訪ねてきた時、両親はとても動揺していたし喜んでもいたわ……後で聞けばそれが旅から離脱して以来初めての再開だったそうよ」

魔法使い「アイツは……幼い私のことを少しだけ不自然な目で見ていたわ……そして、私は部屋に戻るように言われた」……フゥ

武闘家「……疲れているようなら、今ムリに話さなくても大丈夫ですよ」

魔法使い「いや、この機会に話させてちょうだい」

武闘家「……そう言うなら」



魔法使い「私はすごく気になったし、胸騒ぎがしたの。だから、コッソリ、話を聞いていた」

魔法使い「あの男は言ったわ。『あの子を育ててくれてありがとう。紛れもなくあの子は二人の子どもで、俺は赤の他人だ……何も伝えなくていい』」

魔法使い「幼いがてら、それであの人が父親だと気付いたわ。でも、誰にも何も言わなかった。あの男は、それから何年も訪れなかったけれど、数年前の……っ、その……」

武闘家「……? ……ああ、もしかして西側諸国と魔王軍の戦いですか。お構いなく」

魔法使い「……ごめんなさい」

武闘家「いえ……そう気を遣われても本当に困ります。お話の続きを聞かせてください」

魔法使い「……ええ。その時期にアイツは我が家を訪ねてきた。私の父は……北国で爵位をもっているんだけど、北西の国での戦いに自分が先頭に立ち兵を率いて戦おうとしていた」

魔法使い「……アイツはそれを知って……多分母親が伝えたのだろうけど……止めにきたのよ」

魔法使い「『魔物なんかと戦うのはしがない傭兵の俺でいい。家族がいるお前は戦うな』」

魔法使い「普段とても温厚な父は怒っていた。かつて、共に戦った仲間の言葉が、裏切りの言葉のように感じたんでしょうね」

武闘家「……分かる気がします」

魔法使い「ええ……そして、二人は勝負した。結果はアイツの圧勝。あんなに悔しそうな父は初めて見たわ。そして、あの男は不自然なくらい無表情だった」

魔法使い「……そして、アイツは私に言ったわ。『素晴らしい両親に恵まれてとても幸せだな。哀しませるなよ』」

魔法使い「……私は何も言えなかった。本当に何も」



魔法使い「……魔法学校の卒業して、私は両親に本当の親について問い質したわ」

魔法使い「どんな関係であれ二人とも私の本当の親。そう思っているけれど、でも、本当のことを知らずにはいられなかったわ」

武闘家「……」


魔法使い「……両親は何も言わなかった。肯定も否定もしなかった。一言を除いて――『私たちはあなたのことを本当に愛している』」

武闘家「……それは幸せなことよ……本当に……本当に…………失ってはいけないわ」

魔法使い「……ごめんなさい」

武闘家「謝って欲しいわけではないの……ただ、大事にしてほしいから……私たちが誰かと共にしか生きられないのなら、家族はとても大切な存在で……」ポロ…

魔法使い「……そうね、そうよね」ギュッ




武闘家「すみません、取り乱しました」

魔法使い「……」フルフル

武闘家「……家族は大切だからこそ、魔法使いさんが本当の親を知りたいというのも当然かもしれません」

魔法使い「……そうかしらね」



魔法使い「それで両親を説得して、旅に出たのよ。色々と聞き込みをして、あの男が最近は参加してると聞いたから、資金稼ぎも兼ねてブトー会に参加して、その後はこうして旅についてきたの」

武闘家「……話の流れから家出同然かと思ったら、ちゃんと許可は得てるんですね」

魔法使い「結構無理やりだったけれどね……」



武闘家「……なるほど。二人の関係が分かってすっきりしました」

魔法使い「……アイツには、もう旅をやめろと言われちゃったけどね」

武闘家「……故郷のご両親も心配するでしょうし、快復したら帰るべきだと私も思います。行きは私がついていきます」

魔法使い「……迷惑はかけたくないのよ」

武闘家「普者さんには申し訳ありませんが、少しくらいの離脱は許してもらいます……大切な姉ですからね」クスッ

魔法使い「……ふふ、できた妹をもつ姉の気持ちを痛感するわね」

武闘家「……」ニコ



武闘家「ところで、それなら尚更ハッキリさせませんか?」

魔法使い「え?」


武闘家「傭兵さんが本当に父親なのかどうか、まだ確信には至ってないのでしょう?」

魔法使い「ええ……ここまで言っておいてアレなんだけど、少し怖いのよね。真実の探求が怖いと思ったのは初めてよ」

武闘家「……」

魔法使い「……でも、そうね。次会った時はハッキリ訊くわ」

武闘家「ええ」


魔法使い「……ごめんなさいね。私に付き合わせて、こんなところに、泊まらせてしまって」

武闘家「私が望んだことだから、いいんですよ」

魔法使い「……そういえばこの際だから訊きたいことがあるんだけど」

武闘家「何ですか?」


魔法使い「普者のことどう思ってるの?」


武闘家「……意味が分かりません」

魔法使い「とぼけちゃって……結構気になってるんじゃないの?」



武闘家「……それは魔法使いさんじゃないんですか?」

魔法使い「私は、おどおどしてる優柔不断で気弱な男はタイプじゃないのよね。普者は、なんかパッとしないし、地味だし、そういう対象じゃないのよね。人としては全然悪くないと思うけど」

武闘家「……でも、ちゃんとしないといけないところは、ちゃんとしてると思います。そういう点では信頼できますよ」

魔法使い「おやおや?」ニヤニヤ

武闘家「……そういう意味じゃなくて……ええと……そう! セクハラされたもの! そんなことする男は大嫌いよ!」

魔法使い「ああ、あれね……セクハラは論外よね」

武闘家「本当よ!」


魔法使い「(でも、ちょっと喜んでいたような……言わないでおこう)」

次回、新たな仲間探し!?
そして、新たな事件が発生する!?


【幕間】

女神「女神のお悩み解決コーナーです。女神らしく神がかった解決策を提案していきますよー、はい、ふーくん読み上げて」

普者「ええと、Oさんからのお悩み『イケメンハーレムを作りたいわ』」

女神「金を積みなさい。以上、次」

普者「……Kさんのお悩み『僕の美しい顔を早く取り返したい』」

女神「整形しなさい。以上、次」

普者「またKさん……誰だろ?『ねえねえ、私の出番はまだなのー!?』」

女神「知らない子ですね……登場してない者は存在しないことと同義です。存在しないものが出しゃばらないでください! 以上、次」

普者「ええと、多数の方から『女神死ね』」

女神「要するに私が気に食わないんですよね? それなら貴方たちが絶命してただでさえ停止している思考を完全に止めればいいと思います」ニコッ

普者「これはひどい」

女神「もう女神パワー使い切ってお眠ですから寝ます。三年くらい起こさないでくださいね」

【冒険者ギルド】

傭兵「仲間を募集したいんだが」

受付「登録はお済みですか」

傭兵「ああ……はて、承認番号はなんだったか……年は取りたくないねぇ」

ギルド幹部「……傭兵さん!?」

ザワ…ッ

ヨウヘイッテ…アノ…?

ユウメイジンナノカ…?

オイオイ…ニワカカヨ

普者「(な、なんだ? 周りの様子が?)」

女神「(……冒険者の間では有名なようですね)」

傭兵「久しぶりだな。元気にしてたか?」

ギルド幹部「ええ! お陰様で! 人員の募集ですか? 聖遺物の探索か魔物の討伐にでも行かれるんですか?」

傭兵「ちょっとこの小僧と一緒に魔王を倒しにな」

ギルド幹部「……また、ですか?」

傭兵「俺じゃなくこの小僧がな」

ギルド幹部「……」ジッ

普者「えっと……」

ギルド幹部「冗談でしょう……身のこなしも素人に毛が生えた程度……とても腕がたつようには見えませんが」

普者「うぐっ」

傭兵「……んー、お前の見る目は正しい」

普者「おおう……」

傭兵「……ただ、こいつはな、勇者なんだよ。俺たちみたいな偽物じゃない……かつての偽物の勇者一行じゃなくマジモンだぜ」

ザワッ……

女神「(いやぁ、ふーくん、ほとんど偽物ですけどね。勇者本体ともいえる補正がないですし、勇者じゃなくて普者ですし)」

普者「(女神さまのせいでしょ!?)」

女神「(だから転嫁するのはやめてくださいと再三言ってるでしょう。どう考えても補正が効かなかった貴方に9の責任があります。1の責任のためだけに旅についてきた私に感謝こそすれども、そんな口を利くなんて礼儀知らずですよ。やれやれ生ゴミに人間の常識を教えるのは無理なんでしょうか)」

普者「(ひどい……)」


ギルド幹部「俺は、貴方のことは、今でも勇者……少なくとも英雄だと思っています」

傭兵「買い被り過ぎだな。他の仲間が優秀だっただけで俺は大したことない……そんでこいつに旅の連れを紹介してやりたいんだが、俺はこれ以上は都合で同行できないしな」

女神「……ちょっと待ってください! そんな勝手なことをされては困ります!」ボソボソ…

女神「(こんな旅の便利道具を手放してたまりますか……!)」

普者「(言い方……確かによっさん含めて仲間に抜けられるのは困るけど……というか、僕は本当に人望ないなぁ……このままだと3人とも抜けそう……)」

女神「(く……やはり補正なしで危険な旅にホイホイついてくる人間なんて普通いませんね……ただでさえ、ふーくんカリスマ要素ゼロですし、ぱっとしないですもん)」

普者「(……そうっすね)」

ギルド幹部「……傭兵さんがそう言うならば、最大限善処したいですが……取り敢えず、数日以内に手配できそうなのはこのリスト内になります」ドサドサッ

普者「(……あ、厚い! 僕が最初に行った時は、あんなにペラかったのに……!)」

女神「(しかもどうやら悪い実績を残すと更に減るみたいですよ。こうしたアクセスの区別が、貧しいものをより貧しく、豊かなものをより豊かにするんですね。貧困の罠ですね、貧困の罠)」


傭兵「気になる人材はいるか?」

普者「ええと……おお!」

傭兵「ん? もう見つかったか?」

普者「文字がスラスラ読める!」

傭兵「…おう」

女神「(……まあ、こうした識字も冒険では大切。あの火炎もやしの教育も悪くない成果を生んでいるようです)」

普者「ふんふん……おお、みんな凄い経歴の人ばっかり」

傭兵「虚偽とは言わんが、盛ってるものが多いからあまり真に受けるなよ……もちろん正当な経歴がある方がシグナリングになるがな」

普者「ええと、どんな人が必要かな……強くて、優しくて、冒険の心得があって、正義感があって、世界を平和にしたい人……」

女神「(それって勇者ですよ)」


傭兵「……はは、これは面白いな」ペラッ

ギルド幹部「おや、気になる者がいましたか?」

傭兵「エルフの女騎士だとよ……正確には元・女騎士か」

女神「なんですか、その『くっころ』して『んほぉ』するための存在は」


エルフ「私を呼んだか」

女神「んほぉ!?」

傭兵「この場にいたのか……なんでエルフがこんな南の国にいるんだ? お前たちは大陸北部の森が一番の住処だろ?」

エルフ「この辺りに住むものもいるさ。多くは黒エルフだがな」

普者「(このエルフは肌が白いけど……)」

傭兵「そのなりで黒エルフってわけじゃないだろ」

エルフ「まさか…あんな野蛮な者たちと一緒にするな」

女神「肌の色で差別なんて貴女たちも十分に野蛮ですよ。人間と同じでミドリムシ未満ですね」

エルフ「妖精か? 密林からイタズラでもしに出てきたのか?」

女神「そんなわけないでしょう……原始的な生活に誇りをもってる埃くさいエルフは頭の中に虫でも飼ってるんですか? 蜘蛛の巣が張ってるのかと思われるくらい使われてない古ぼけた頭脳ですね」

エルフ「……妖精の分際でそれ以上の誹りは許さん」

普者「ちょ、ちょっと控えてよ」

女神「気に入らなければ、すぐに暴力ですか? あまりに野蛮過ぎてビックリです。騎士どころか賊ですね。この蛮族ぶりでは騎士をクビになったのも当然なのでは? これではオークはエルフを滅ぼす正義の味方ですよ」

ビュオッ

普者「あぶないっ!」

普者は女神を庇った!

ザクッ

普者「いっだぁ!?」

ザワザワ……!

女神「……最低ですね。こんな低俗で劣悪な種族だとは思いませんでした。こんな短慮で頑迷な種はこのまま人間の文明の発展と共に淘汰されていくでしょうね。世界から喪われた後では、少しは懐かしんであげますよ。結局、せいせいしたと思うでしょうが」

エルフの疾風の一撃!

普者は攻撃を制した!

エルフ「……!?」

普者「か、彼女の口が悪いのは謝るけど……さすがに殺させるわけにはいかないから……」ポタタ…

女神「ふーくん! お仕置きです! この淫乱種族を陵辱して『んほぉ』させるんです!」

傭兵「いい加減にしろ」ピンッ

女神「はにゃっ!?」ベチンッ


エルフ「……ふんっ」バッ タッタッタッ


女神「な、なんてことをするんですか!? ば、罰当たりな!」ナミダメ

傭兵「やかましい」ピン

女神「ひゃっ」ベチンッ


ギルド幹部「怪我の治療を! 結構深手だぞ!」

傭兵「……店の中で流血沙汰を起こしちまってすまん」

ギルド幹部「……いえ、わりと頻繁にあることですから。……回復魔法を使える者は!?」

白魔「そ、それなら、私が……」オドオド


女神「ええ……はやく私に回復魔法を……どこぞの加齢臭漂う泥臭い中年のせいで危篤です」プンプン

白魔「あ、えっと……」オロオロ

傭兵「このアホチビは相手にしなくていいぞ」ピン

女神「ひにゃっ……うぅ……このぉ……」ペチペチッ…

傭兵「まだ食らいたいんかね」

女神「……お、覚えていなさいっ」グヌゥ…

傭兵「忘れた」

女神「……!!」ブルブル…


普者「……子どもみたいなやり取りしないでよ……回復ありがとう」

白魔「い、いえ……」


女神「まったく! あの手荒で下品なエルフはなんなんですか! あれで元騎士なんて詐称に違いありませんよ!」

普者「(確かに女神さまが食らってたらまずかったかも)」

女神「(あの程度のちゃちい攻撃で私が何とかなるわけないじゃないですか)」

普者「(指で弾かれて痛がってたのに…)」

女神「(それとこれは別なんです!)」

傭兵「エルフというのは気難しいやつらばかりだな」

白魔「……い、以前はあんなに乱暴な人ではなかったんです」

普者「あのエルフの騎士さん?」

白魔「は、はい。あんなにすぐ剣を抜く人じゃ…この前のお仕事からどうも様子がおかしいんです…」


ギルド幹部「この前というと…大規模なサキュバス狩りか。君と彼女も参加していたな」

白魔「は、はい」


普者「(サ、サキュバス……!)」

女神「(なに、魔物相手に胸をときめかせてるんですか気持ち悪いのは顔とか声とか動作だけで結構ですこれ以上は公害です外部不経済です課税しますよ)」

普者「(ひどい……)」


傭兵「サキュバスねぇ……そこまで害のある魔物でもないし、放っておけばいいだろうに」

ギルド幹部「その辺の経緯は公然の秘密なんですが、立場上この場所ではちょっと言えませんね」

傭兵「……なるほどな」

天使「サキュバスとか女騎士エルフはどうでもいいので、はっさと仲間を」

普者「う、うん。あ、貴女は……?」

白魔「え……?」

普者「その、仲間になってもらえたりなんて……」

女神「はっきり言いなさい。貴方のそうしたまごまごととした振る舞いは一々癇に障ります。これだからコミュニケーション弱者は……」

傭兵「お前の場合はもはや障害だがな」

女神「な、な……!」ムムム…


白魔「あ、え、えっと……」オロオロ…

女神「貴女もはっきりしませんねぇ……はいかイエスで答えなさい!」

普者「選択肢の余地ないじゃん…」

白魔「ごご、ごめんなさい……!」ダッ

普者「行っちゃった…」

ギルド幹部「彼女、実力自体は中々ですが、どうも奥手なようで」

普者「エルフの騎士さんも彼女もなんだか放っておけないね……」

女神「ふん、ああいった問題児が仲間になっても障害になるだけですよ」

傭兵「問題児がよく言うぜ」

女神「心外ですねっ」

傭兵「くはは、すまんな」

女神「……」イライラ


【大通り】

普者「(結局、誰も仲間になってくれなかったね)」

女神「(使うに足りそうな人材がいても、魔王討伐と言ったら鼻で笑われ……勇者補正の大事さをつくづく感じます。鼻で笑った彼らには後で神罰を与えてやります)」

傭兵「俺はちょっと用事があるから先に帰ってろ」

普者「どこ行くんですか?」

傭兵「娼館で女かってくる」

女神「そんな不潔で堕落的なことに神聖な旅のお金は出しませんよ!」

傭兵「自腹を切るに決まってるだろ。ボウズもいくか?」ニヤ

普者「うえぇ!?」

女神「ダメです! さぁ、あんな不潔な中年加齢臭オヤジは捨ておいて帰りますよ! さあさあさあ!」ゲシッゲシッ

傭兵「くはは、それじゃあしっぽりしてくるぜ」

女神「ふん、不治の性病でも貰って絶望の中で息耐えればいいんです!」

普者「まあまあ……」

女神「自己意思でそういった職業に就いてるなどと言う輩がいますが、そんなのはほとんど幻想です! 一部の志願徴兵制などもそうですが、そうするのが一番得するように制度設計してるのが問題です! ああしたものは搾取のメカニズムですよ! これだから洗練されてない人間や国家は……なにが適切な初期財産ですか、何が適切な移転ですか…ただの富裕層の言い訳以外のなにものでも……」グチグチ…


【宿屋・ロビー】

武闘家「お帰りなさい」

普者「ただいま、魔法使いさんの調子はどう?」

武闘家「まだ暫くは安静らしいですが……この調子なら問題なく回復できそうだと先生は言ってました」

普者「そっか、良かった」ホッ

武闘家「傭兵さんは?」

普者「あー、えーと……」

女神「お金で買った女性とお風呂でイチャイチャしてくるそうですよ」

武闘家「……お金を払ってまで女の人とお風呂に? 西国ではお風呂は共用がほとんどですが」

普者「ええ、そうなの!?」

女神「まあ、そういうところでも、ないこともないらしいですが……この場合は貴女の想像してるものではないですね」

武闘家「……?」

女神「貴女もふーくんとお風呂に入ればいいのでは? ふーくんもよっさんについて行きたがっていましたよね」ジトッ

普者「い、いや、そんなことは……」アセアセ

武闘家「……ありえないわっ」プイ




普者「ぐ…当たり前の反応だけど、傷付くものは傷付く…」

女神「ふーくんは武闘家さん推しですもんねぇ。彼女にちゃんと下着を管理してないとふーくんに盗られると注意してあげるべきですね」

普者「ヤメテ! そんなことしないから!」

女神「私のパンツも貸してあげません。残念でしたね」

普者「ああ、そう…」

女神「……」ゲシッゲシッ

普者「理不尽キックやめて」

次回に続く!


【幕間】

女神「お待ちかね、女神のお悩み相談室です。本編よりこちらを楽しみにしてる方も多いでしょうが…私の美しさの前では当然ですね」

普者「お、おう……さっそくナナッシーさんから『メンバーの生き死にで展開は変わるのか?』」

女神「いきなりメメタァですねぇ…ぶっちゃけ変わりますよ。コンマスレ、安価スレとまでは行きませんが、ある程度参加型の方がお互いに面白いでしょう。その代わり裁量の幅は広いですが、その辺りも楽しめばいいのでは? はい、次」

普者「雑だなぁ……未登場のKさんから『わたしがもう出てるよー!?』」

女神「明らかに別人でしょう。いいから出番が来るまで引っ込んでなさい。あまりにうざったいと存在を消しますよ。はい、次」

普者「わ、わー、これ誰だろ、誰だろうなー……Hさんから『お風呂のシーンはありますか。特に普者には必要だと思います!』」

女神「この えすえすは ぜんねんれいたいしょう とっても けんぜんです いかがわしいばめんは いっさい ないです わかりましたか ふーくん? はい、次」

普者「…………『女神を鍵かけて埋めたい』『女神パワーをあげるよ…うっ!』」

女神「鍵をかけた程度で何とかなると考えるその幼稚な発想……転生先はミドリムシ決定です。やりましたね。もう一方もおぞましいため来世はミドリムシにします。みなさんバージョンアップが確定して良かったですね」ニコ

普者「どこまでもケンカ売ってくなぁ……」

女神「女神パワーが完全に切れました。次は8月以降にまた会いましょう…それまでにミドリムシになる準備をしておいたらどうでしょう?」

普者「ミドリムシ好きだよね……」

>外部不経済です課税しますよ

女神様キレッキレやな
課税されたい…(錯乱

あと>>484で女神様が天使になってる
女神様マジ天使(錯乱


傭兵「ふぅぅ……」

娼婦「ねえ、タバコをふかしてないで、早く服を脱いでよ…見た目よりも恥ずかしがり屋さんなのかしら?」

傭兵「まあ、戦う前くらい一服させろよ。最後の一本かもしれないんだからよ」

娼婦「ふふ、カッコいいわね…でも、ベッドの上で子猫ちゃんみたいになるのもたまには良いかもよ」

傭兵「そりゃ何とも魅力的な提案だな」フゥ…

娼婦「もう……今吸うべきなのはタバコでなくて、私の唇でしょう?」

(女は傭兵に甘える猫のように乗りかかり、指を絡めて、傭兵の口からタバコを離した)

(そして、妖艶な表情でその顔を近づけ、その距離は縮まり――)

プニ…ッ

娼婦「……売女とキスはしない主義なのかしら?」

(傭兵の指が二人の向かい合う二人の顔に差し込まれて、二人を断絶していた)


傭兵「そんなことないさ……あんたみたいな人間離れした美人とキスなんて、想像するだけでとろけちまうね」

(そう嘯いて、傭兵は肩を竦めた)

傭兵「ほんと、淫魔じゃなけりゃあな」

娼婦「――――」

(娼婦は鋭い爪を彼の喉に食い込ませようとしたが、その前に彼の剣がその肩を貫いた)

娼婦「――かひゅ……っ!?」

(叫ぼうとする彼女の細い喉を握り、叫び声を潰す)

傭兵「ここは響いて周りの楽しみを邪魔しちまう……もっと大きな声の出せる場所に移ろうや」

「それがいいわね」トッ

傭兵「――……」

(突然背後に現れた別の女に抵抗しようとした傭兵だったが、既に手遅れであることに気付き、動きを止めた)

娼婦「……!」


傭兵「(……他にもいるのは、予想していたが……)」

「あらぁ、お利口さんねぇ……悪足掻きしたら、おててをチョンパしてあげようと思ったんだけどぉ」

傭兵「(ふざけて笑っちゃいるが、重圧も、殺意もそこらの有象無象とは別格……何者だ?)」

「ふふ……アタシが誰かまだ気付いていないのぉ? 一緒にあつぅい激情をぶつけ合ったのにね? アンタたちに封印されちゃったけどぉ」

傭兵「……――おまえっ、古淫魔……っ!」

ズガッ

傭兵「……」ドサッ  ピクク…ッ

古淫魔「きゃははっ、せいかぁい」ニタッ

娼婦「はぁ、はぁ……」ポタタ…

古淫魔「くすくす……ここは響いて周りの楽しみを邪魔してしまうものね……もっと大きな声の出せる場所に移りましょう…………あれ、もう気絶してる?」

傭兵「…………」


古淫魔「ニンゲンはこんな簡単に年を取って弱くなるからイヤよねぇ……前はあんなにハンサムだったのに」

娼婦「古淫魔さま……助けていただいてありがとうございます」

古淫魔「ん? まだいたの?」

娼婦「え?」

古淫魔「じょぉだんよ、さて、ちょっとこのニンゲンを運んでもらえるぅ?」

娼婦「い、今はこの通り、腕をやられてしまいまして……」

古淫魔「つかえねー」

娼婦「え……?」

古淫魔「じょぉだん。はやく帰って休みなさい。それじゃあね!」

娼婦「あ、は、はい……」



【翌朝】

普者「よっさん、まだ帰ってこないね」

女神「朝帰りどころか昼帰りでもするつもりですかね。もしかして連泊……オッサンのくせに盛ってますね」

普者「生々しいからやめてよ…もう待つのをやめて魔法使いさんのお見舞いに行こうか。武闘家さんはもう行ったみたいだし」

女神「まったく誰も彼も協調性の欠片もありませんね。もっと私を見習うべきです」

普者「んー……?」

商人「こんにちわ!」ズイッ

普者「うぇ…!?」ビクッ

商人「初めまして! あなたが勇者に選ばれしお方ですね!」ズイズイッ

普者「は、はあ……どうも……どちら様ですか? あ、あと近いんで離れてください」ススッ…

商人「おっと! これは失礼しました!」


商人「ぼくはさすらいの商人! 以後お見知りおきを!」ペコッ

女神「ぼくっ娘とかあざとさしかありませんね。出直してきなさい」ビシッ

普者「ちょっ…」

商人「おお、妖精ですね! 珍しい!」ガシッ

女神「ふぎゃっ!?」

商人「ふむふむ……実物は初めて見ましたが、本当に精巧な生き物ですね……愛好家に高値で売れますよ」

女神「離しなさいっ」バタバタ

普者「あー、やめてやめて」

商人「おっと、失礼しました」パッ

女神「ふぅふぅ……ふん、ろくな教育を受けてないようですね……こんな下品に育てた親の顔が見てみたいものです」

商人「この度はですね! 旅の勇者さまの支援をしたいと思いましてこうして訪ねさせていただきました!」

女神「む、無視ですか……」グヌヌ…


商人「旅といえば、何かと物入りでしょう! ぼくが勇者さまたちの旅の力添えできることも多いと思います」フンス

普者「まあ……何か物をくれたりするの?」

商人「いえいえ、ぼくは商人。今回は慈善事業でなく商売をしに来ました」

普者「はあ……わざわざ僕なんかを相手に?」

商人「勇者さまのことは武闘会からもう只者ではないと思いまして、しかもあの有名な傭兵に、あれだけの魔法を使う少女、しかもコロシアムの舞姫こと武闘家までを仲間にしている!さらに、昨日の酒場でのやり取り! これは今は無名でも必ずや人類の希望になるお方だと思ったんです!」

女神「(頭はちょっと足りないような気もしますが、私のふーくんに目を付けるとは中々の慧眼ですね)」ドヤッ

普者「(なんで女神さまがドヤ顔してるの……)」

普者「つまり、僕たちの旅に同行したいと?」

商人「違います!」

普者「……あれ?」


女神「(てっきり寄生しに来たのかと思いましたが……それなら逆に搾れるだけ搾り取って打ち捨ててやったのに……)」

普者「(いや、もう女神さまのゲス発言はお腹いっぱいだから)」

女神「(私は極めて常識的な回答をしているだけですが?)」

普者「(ああ、そう。そうなんだろうね。女神さまの中では)」

女神「……」ゲシゲシッ


商人「今日はですね、こういった品が手に入りまして……気に入っていただけるのではないかと」

普者「……種?」

女神「これは生命の種……?」

商人「ほほう、お詳しいですね。その通りです」

女神「……ふん、闇商人ですか。消え失せなさい」

普者「闇商人?」

女神「この種は覚醒剤の原料です。この手の種は数種類ありますが、古来より売買・使用・所持が禁止されてきました」

普者「ええ…」

商人「しかし、冒険者には必須アイテムですよ。何せ短期間の身体能力を上げますからね」

女神「(ふーくんはもうデメリットなしでパワーアップ済みですよ。それに、私は覚醒剤は嫌いです)」

普者「(女神さまが薬中だったらヤダよ……)」

女神「(貴方は私をなんだと思っているんですか? ……理由の第一に長期的には人体に著しい悪影響があります。このため、服用や流通を規制するのは当然です、他に有用な使い方も見つかっていませんからね)」

普者「(はあ…)」

女神「(また依存性が高いですから財の価格弾力性が小さいのです。つまり、依存性が大きいから価格が多少高くなっても需要はあまり変わらないです)」

普者「(んん…?)」

女神「(ですから、価格を吊り上げると、取引される量はあまり減らず、売り手の収入が高くなって儲けてしまいます。つまり供給に規制をかけても非合法集団の利益を増してしまい、麻薬撲滅も難しいのですよ)」

普者「(はあ、そうですか……)」

女神「(第二に、非合法であるからインフォーマルセクターになり、代金の未払いなどの問題が生じた時に、司法の場に持っていけないため、暴力による解決を図るようになります)」

普者「(こ、怖いなぁ……)」

女神「(やはり非合法な暴力集団が管理するようになり、集団的な暴力がまかり通るようになり、社会的な不安定要素が大きくなります。また国内総生産を計測する際に上手く測れなくなるという女神ブチ切れの事態にもなります)」

普者「(女神さまは短気だよね)」

女神「(こんなに慈悲深くてキュートで優しくてかわいい私を短気にさせてるのは貴方たちでしょう?)」

普者「(ああ、うん…)」



商人「(さっきから、ずっと黙り込んだまま、表情をコロコロ変えるなぁ)」


女神「(ん、どうやって違法薬物を減らせばいいのか聞きたいんですか? 仕方ないですねぇ、特別に教えてあげます)」

普者「(何も言ってない…)」

女神「(ラディカルな方法はおそらくありませんが、まず一つは需要サイド影響を与えて、違法薬物への需要を減らすかしありません。違法薬物の恐怖を教えるなど、ですね)」

普者「(なるほど……)」

女神「(もう一つは、矛盾してるように感じるかもしれませんが、大麻などの比較的安全な薬物を合法化することですね)」

普者「(ううん……そうしたら、もっとたくさんの薬物が出回るんじゃ……?)」

女神「(ええ…しかし、口惜しいですが、中毒性や人体への影響が少ない比較的安全なものならば、取引量が増えても問題ありません)」

普者「(う、うん……?)」

女神「(そうすればそれが危険な薬物の代替材となり、こうした木の実のようなより危険な薬物への需要が減り、また暴力集団が参入しなくなります。合法的に売買されるならば、安全なところから買いますからね)」

普者「(へー…)」


女神「(最善でなく次善の策といったところでしょうか。しかし、きっちりと管理する必要がありますね。政府公認の厳正な麻薬ギルドを作って一括管理ができ、また依然として違法な薬物をきっちり取締れる能力が社会に必要ですね)」

普者「(ほーん…)」

女神「(まあ、おバカなふーくんには難しいお話でしたね。)」

普者「(よくわかりませんでした)」

女神「(勉強はしっかりしなさい)」

普者「(はい…)」

女神「ちっ、さっさと失せなさい。違法薬物所持で警察に突き出しますよ」

普者「は、犯罪はしたくないから…」

商人「…人間を殺していても、そんなことを言うんですね」ボソッ

普者「…………」

商人「それでは失礼しました。また会いましょう!」ニコニコ

(商人は去っていった)



女神「彼女、また旅の途中で会うかもしれませんね」

普者「そ、そう?」

女神「あまり味方にはしたくありませんが、敵にはもっとしたくない。そういった存在のような気がします」

普者「……」

女神「……今更ですけど、補正があればあの手の種も何の害もなく使えるんですよね。冒険中はずっとパワーアップできます」

普者「補正ってすごいね……」

女神「しかし、ふーくんが使っても、一時的な興奮剤にはなるかもしれませんが、身体能力の強化にはなりませんからね。効果があるならば薬漬けふーくんでも構いません。魔王を倒して貰えば、後はどう死んでもらっても構いませんから」

普者「い、いくらなんでもひどいよ!」

女神「 素直な感想ですが」

普者「……女神さまはもっと人の気持ちを考えたほうがいいと思うよ」



武闘家「普者さん……!」ハァハァ…

普者「うおっ!? 今度は武闘家さんか……」

武闘家「……?」ハァハァ…

普者「あ、何でもないよ。魔法使いさんのところに行ってたんじゃ……」

武闘家「そ、それが……ま、魔法使いさんが……!」ハァハァ…

普者「お、落ち着いて……息を整えて……」

武闘家「は、はい……」ハァァ……フゥゥ……

女神「(変態ふーくんは、息を荒げてる武闘家さんがエロいとか思っているんでしょう?)」

普者「そそそ、そんなこと思ってにゃいよっ!?」

武闘家「は、はい?」スゥゥ……フゥゥ……

普者「な、なんでもないよっ! そ、それで!? 魔法使いさんがどうしたの!?」


武闘家「……消えてしまったんです」



【辺境の大地】

ァァァ…

ォォォ…

オカマ「あの魔物の軍団、ようやく、目的地に着いたわね」

剣士「……ここは本当にどこだ? いつの間にか世界の終りみたいなところに来てしまったんだが……」

武士「生き物と出会わなくなって久しいな……水と食料も残りすくないぞ」

オカマタイツ「何とかなるでしょ…っと、奴さんがた、何か始めたわよ」


γ「……事前の演算結果では、この座標だ。用意をしろ」

β「ちょっと待ってなー……ビンゴ! これならお茶の子さいさいってやつっすな」

γ「……それならさっさと始めろ。戦闘が苦手ならばこういう時くらい役に立て」

β「なんだよー、もっと技術者は大切に扱えよなー、大したスキルもないくせに…」ブツブツ

γ「……」ギロ

β「うひぇ、さてさてお仕事~」



剣士「何をしようとしてるんだ?」

武士「……皆目見当もつかん」

オカマ「…………」

剣士「……どうした?」

オカマ「…………う」

武士「…う?」

オカマ「う⚪︎こがしたい…!!」

剣士「……知るか! 勝手にしてこい!」

武士「生理現象には勝てないよな」ハハハ

オカマ「そうよぉ……! 排泄は人間の人間たる所以……!」

剣士「もっとマトモなアイデンティティにしてくれよ!」

オカマ「うん⚪︎じゃダメなの?」

武士「小が好きなんだなろ」

オカマ「あ、なる」

剣士「お前らマイペースだなぁ……! マイペースだなぁ……おい!!」

武士「人生焦ってもロクなことないからな……腕もなくなったし」

オカマ「アタシの場合は、余計なモノ♂が……」

剣士「いや、お前、それで戦ってただろ! もはや相棒だろ♂ ……ああ、僕まで侵食されはじめてる……!」

α「…君たちさぁ、隠密行動するならもっとそれらしく振舞ってよねー」

オカマ「あら、ごめんなさいね」

武士「剣士が騒ぐから見つかっただろ」

剣士「僕のせいにするのかよ! ……というか、いつの間にか囲まれてるぞ!?」

ア-…ウ-…

ゾロゾロ…

オカマ「困ったわねぇ……」

武士「絶対絶命だな」ハハ…

剣士「どうしてお前らはそんなにマイペースなんだ……!」

α「君も大概だと思うよ……さて、命が惜しければ抵抗はやめて降伏してよね」



剣士「……魔物だとしても、君みたいな可憐な女の子に手は上げたくない。下がってくれないか」チャッ

α「私は魔物じゃないけどねー……剣を構えたということは、抵抗するんだね?」バチッ

剣士「な――」

オカマ「……っ!」バッ

バチチッ!!

オカマ「……ぐぅっ!」バチチ…

武士「オカマタイツ……!」

α「あれ? 私のスパークに反応できたの?」チチッ

剣士「ぼ、僕を庇って……何をしてるんだ……!」

オカマ「アタシの逆ハーレム要員は、絶対に殺させたりはしないわ!」ギンッ

剣士「……っ」ドキッ

剣士「いや、ドキッじゃない! ふざけるなぁァァアア! お前の逆ハーレムパーティに加わった覚えもなァァアアいィィ!!」

α「……スパークを受けてまだ生きてるんだ」

オカマ「イきかけたわよ! 許さないからね! アンタたち、この小娘はアタシがヤるわ!」


剣士「……ふ、ふん、死ぬなよ!」

剣士は周囲のゾンビ軍団に斬りかかる!

武士「……『旋風脚』!」

武士は剣士に追随する!

α「うざったいなぁ、さっさと死んでよね」バチチッ

オカマ「マジにイくわよ――『破れん地めくり』!」ズザ…

ズガザザザザザァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

α「ちょっ…きゃぁぁっ!?」グラグラ

説明しよう!

『破れん地めくり』とはスカートめくりの応用であり! スカートの代わりに大地を大規模にめくるのだ!
今回は敵のいる大地ごと大きくめくったぞ!

キュ-!?

アウ-!!


武士「オカマタイツ、あんなことまでできたのか……」ゲシッ

剣士「……僕はなんでアイツに勝てたんだ」ザシュッ




α「いたた……」

オカマ「お嬢ちゃん、お返しよ」ボロンッ  パオ-ン!

α「ひっ……!」バチッ

オカマタイツの往復ビンタ(意味深)!!

オカマ「でも女の子には興奮しないのよね」

ペチペチペチ…

α「いやァァアアアアアア……ッッ!」

オカマ「あ、そういえば、うん⚪︎がしたかったのよね」ガッ

α「ま、まさか……あ……ああ……!!」

オカマ「おら、ちゃんと口を開きなさい!」


オカマタイツはαにトラウマを植え付けた!



γ「……ちっ、何をやってるアルファ」

α「ふぇぇぇ……」

β「虚ろな目をして泣いてるアルファちゃんマジエロかわ……写メ写メ」パシャパシャッ

γ「ふんっ」バキッ

β「ああ、俺の通信端末が……! 何するんだよガンマ!? 怒られちゃうだろ!」

γ「今、痛めつけられたくなければ、さっさと封印を解け」

β「だいたい手打ち作業は終わったんだよ……後はマクロに処理されるから手隙なわけ……」

γ「ほう……」

β「あ、やっぱり仕事あったかもー、再現性のないバグが発生するかもしれないしー?」

γ「ちっ、さっさと仕事に戻れベータ」

β「へいへい……ちぇっ、せっかくのアルファちゃんの泣き顔……合成して、エッチな……」ブツブツ…



ザッ

オカマ「愉快な仲間たち、何をしてるか分からないけれど、どうやらやましいことをしてるわね!」ビシッ

γ「ふん、愉快なのはお前たちだ。どうしたここまでお前たちを泳がせていたと思う」

オカマ「何だっていうのよ」

γ「お前らが知る必要はない」

オカマ「わざわざ振ってそれとかないわぁ。アナタ、友達いないでしょ?」

γ「……『居合斬り』」

オカマ「図星なの、ね…っ!」

オカマタイツは何とか躱した!

オカマ「『乱れ打ち(意味深)』!」

γ「……斬り落とす」ヒュッ

オカマ「ちょっ……!?」

オカマタイツは攻撃を中断した!

オカマ「アンタねぇ……そんな乱暴に切り落としたら死んじゃうじゃない!」プンプンッ


γ「(ふざけた態度に、ふざけた技……しかし、この力、私たちのものと似ている……?)」

オカマ「……くらいなさい、秘技『ザ――」

γ「『閃殺』」ギュンッ

オカマ「のぉぉぉ!?」

オカマタイツは何とか躱した!

オカマ「……や、ヤる気マンマンね……いいわ、ヤッてやるわよ! マン喫させてあげるわ!」

γ「『羅刹斬』『双魔斬』『九段斬り』」

オカマ「んおぉ!? ちょ、ちょっとぉ……!」



武士「吹き飛べ、『蹴球蹴り』!」

アウゥゥゥ……

剣士「ゾンビは片付いたか……オカマタイツが押されてるぞ」

武士「相手は凄腕の剣豪だな……」ウズ…

剣士「……ああ、あんなに強いやつがこんなところにいるなんてな」ウズウズ…

ズシャシャ……!

オカマ「……」ドクドク…

武士「血塗れだが、大丈夫か…?」

オカマ「 …だめね。ちょっと私たちじゃ敵わないわ。タイツもビリビリだし……スペアタイツに着替えなきゃ」

武士「明るいカラーのタイツは血のせいで着れないな」



剣士「くっ、ここまで来て逃走か……食料持つかな」

武士「……いや、逃げるのも無理そうだぜ」




α「うう……もうやだ……出力全開……後は知らない……うう、全て忘れたい……そうだ、嫌な夢を見たんだ……あはは、そうに違いないね……!」バチチ…

バチチチチ…



剣士「ちっ、今度は雷に包囲されるか……雷の魔法なんて勇者か?」

オカマ「違うわね……もっと異質な何かよ……逃げ道はアソコしかないわね」

グワァ…

武士「な、なんだ……空間の裂け目……?」


オカマ「奴さんたちの目的はあそこでしょ?」

剣士「地獄への入り口か何かじゃないのか……もっと強いヤツが潜んでいたりするかもしれないぞ……」

オカマ「ここにいても殺されるだけよ……少しでも生き延びる可能性があるとしたらアソコね」

武士「さっき、俺の蹴り飛ばしたゾンビが当たって、入り口近くにいる敵の男はのびてるしな」


β「」キュゥ…


γ「……終わりだ」

剣士「……っ、結局、こいつを何とかするしかないのか」

オカマ「……アタシに任せなさい。アタシが時間を稼ぐから、その間に裂け目に入るのよ」

剣士「お、おい…それ以上はいくらお前だって保たないだろ…っ!」

オカマ「……アンタたちを殺させはしないわ」ニッ

剣士「……っ」


武士「……分かった」

剣士「お、おい…」

武士「全力で走るぞ。お前が襲われようが俺は知らないからな」

剣士「……ふん、分かったよ」

γ「……くだらん。誰一人として私の背後まで通さん」スゥ…

オカマ「大丈夫よ、行きなさい……はぁぁ! 『どうぶつ♂』」

γ「……子どもだましだな『居合斬り』!」グッ

武士「……『回し蹴り』!」

γ「……!」サッ


武士「……からの、『旋風脚』!」ビュオッ

オカマ「な……アッー!」ゴッ

武士はオカマタイツを蹴り飛ばした!



剣士「え……うわアッー!」ドッ

剣士はオカマタイツの衝突で吹き飛んだ!

ヒュ-… スポポッ

二人は次元の裂け目に吸い込まれた!

武士「ふっ……背後を通らせてもらったぜ。さすがにあのタイミングの蹴りを躱されるとは思わなかったが」

γ「(居合斬りを完全に無効化する刹那のタイミングでの攻撃……それを躱して尚、仲間二人を救うための絶え間ない追加の一手を防げなかった)」

γ「……愚かだな」

武士「……?」

γ「貴様たちを長く放置していたのはな、貴様たちを新鮮な生き餌にしようと思ったからだ」

武士「生き餌だと……?」

γ「この先にいるのは、封印された、大層空腹であろう伝説の怪物だ。あの二人は喰い殺されるだろうな」

武士「……」

γ「そして、貴様はここで私に殺される。何、痛めつけるのは性に合わなん。一思いに終わらせてやる」

武士「……両腕を無くした時点で一度は死んだようなものだ。この死に体で仲間二人を助けられたんだから上等だ」

γ「話を聞いてなかったのか」

武士「あの二人が怪物なんかにやられるか。アイツらならば、手懐けてもおかしくない。そういう奴らだ」

γ「聞くに堪えない楽観だな。ふん、死に際して明るく振る舞うのは良くあることだ。その結果もよく知っているがな」

武士「……確固とした根拠はない。だが、アイツらなら何とでもやるような気がする。俺はそれを信じて、最期まで足掻かせてもらうぜ」

武士「(そして、こいつらは非常に危険な気がする。アイツらまで殺されたら、きっと取り返しがつかない……そんな気がする)」

γ「……頑迷な男だ」

武士「何でもいい……来いよ。 背後は誰一人通さないぜ。おっと、これを言うと通っちまうかな」ニッ

γ「……」チャキッ

武士「出来れば武剣士として戦いたかったぜ」

(無限に続くように思われる階段を二人は降っていく)

カツン…カツン…

剣士「あのバカめ……格好つけて……」

オカマ「……今は信じて進みましょ」ボタボタ…

剣士「お前はそんな身体でまだ歩けるのか?」

オカマ「歩くわよ……この先が地獄だろうとね」

剣士「……そうか」

カツン…カツン…


剣士「この階段はどこまで下に続くんだ?」

オカマ「……わからないわ」フラフラ…

剣士「……」





剣士「……やっと着いたか。何だこれは……巨大な柱が5本? それと巨大な鎖とはものものしいな」

(4本の柱が正方形の頂点のように配置され、その中央の配置された柱に伸びるように鎖が横たわっている)

「……血のニオイ……懐かしいニオイだな……」

剣士「……!」

オカマ「……誰よ? どこにいるの?」

「ここだ、ここ」

剣士「柱の下……うわっ」

(そこには、巨大な柱に潰されるようにして、人が横たわっていた)

(その四肢にはそれぞれ枷がされていて、それが巨大な鎖に繋がっていた)

オカマ「か、褐色銀髪のイケメン……!」ドキドキ

「ああ、よく寝た。おい、お前ら、これを外せよ」

剣士「お前は何者だ……」

「魔人……だったか? 眠りすぎて何も覚えてねえ」

オカマ「どうやって解放しろって?」

魔人「柱に血を吸わせれば解けるらしいから、ちょっと頼むわ」

オカマ「……」

剣士「おい、こんな得体の知れない奴の封印を解くつもりか? これだけの封印だ、相当の化け物だぞ」

魔人「いいから解けよ」

オカマ「……」ペタッ

ブワッ……!

剣士「おい……!」

柱が崩壊を始めた!

魔人「おっしゃぁ!」

ゴゴゴゴ……

剣士「お、おい、大丈夫なのか……!」

オカマ「……イケメンだったから、つい」

剣士「おいこら、クソタイツ!」

魔人の封印が解けた!


魔人「あー……ようやく自由の身か……腹が減ったな。飯を寄越せ」

剣士「偉そうだな…」

魔人「うるせぇ」ドゴッ

剣士「ぐっ……!」ゴプッ

剣士は血を吐いた!

魔人「こちとら、空腹で気が立ってんだ。早く飯を寄越さねえとテメぇらを食い殺すぞ」

剣士「ごほっ! ごほっ……」ビチャッ

オカマ「俺様系イケメン…いい…!」

剣士「く、腐れタイツめ…」

魔人「めーしー! めーしー! よーこーせー!」ガガク

剣士「しょ、食料は荷物の中に……」

ゴソゴソ…

魔人「これだけかよ」ヒョイヒョイ…

剣士「お、おい、それは非常食……」

バクバクバクバク……

剣士「お、おい……待て…!」


魔人は全食料を食べ尽くしてしまった!


剣士「お、オイィイイイイ!!」

魔人「もの足りねえぞ」ケフッ

剣士「な、なんて奴だ……」フルフル…

オカマ「イイ食べっぷり! 素敵!」

魔人「……?」

オカマ「あら、なに……? アタシの魅力にメロメロなのかしらぁ?」クネクネ

魔人「お前、覚えてないけど、なんか知ってるぞ……? 俺のことを知ってるか?」

オカマ「きゃぁぁ! 運命!? 運命の出会いかしら!?」

魔人「……とりあえず殴りたいから殴らせろ」ブンッ

オカマ「……ああん、DV!」ゴッ


剣士「くそっ、やはり敵だったか」

オカマ「やめて! アタシのために争わないで!」クネクネ

(このオカマタイツ、楽しそうである)

剣士「もうお前は黙ってろ! さっきまで満身創痍だったろうが!」

オカマ「イケメンを見ると元気になるのよ! 世の女子はみんなそうなのよ!」

魔人「……もう一発殴らせろ。なんかお前を見てると殴りたくなる。憎しみ……いや、怒り?」ブンッ

オカマ「あふんっ!」ゴキッ

剣士「ったく……」

ヒュッ…

剣士「……!」サッ

ボド……ッ


剣士「……武士っ」

(投げつけられたのは武剣士の生首だった)

γ「……封印を解いたのか。想像よりも小さい怪物だな」

オカマ「……アンタ、許さないわ」ゴゴゴ…

γ「ふん、どうせ貴様らも今から死ぬ」チャキッ

魔人「どれ、腹ごなしにいっちょ殺し合うか」

γ「あなたには私たちと来てもらう。何、悪いようにはしない。協力してくれるならば、報酬は払う」

魔人「美味い飯を食わせてくれんのか」

γ「そう望むなら約束しよう」

剣士「くそ……死ぬにせよ武士に報いてからでなきゃ、死ねないね……!」チャキッ

オカマ「……無事に帰してやらないわ」スッ

魔人「引っ込んでな。俺に殺らせろよ」

剣士「……は?」

γ「……敵対すると?」

魔人「……なんかお前、気持ち悪い。生理的に無理だわ。さっきの腹減り状態なら仲間になってやっても良かったけどよぉ」


γ「……ふん、干渉したとは言え、所詮はソチラ側の存在か」

剣士「ソチラ側……?」

オカマ「そんな川があるの?」

魔人「いや、皮だろ。焼くとパリパリで美味いんだよ」

γ「……くだらん。『隼斬り』」ヒュッ ヒュッ

剣士「……っ!?」キンッ キンッ

γ「ふむ……」

剣士「……なぜお前が武士の……いや、武剣士の技を使える!?」

γ「ヤツの格闘術を剣術に応用しただけだが……なるほど、元は剣術だったか」

剣士「(……剣術の応用を見て再び剣術を再現したのか……威力は武剣士のそれに劣るが、なんてヤツだ)」


魔人「ガリガリは引っ込んでろ」ガシッ ポイッ

魔人は剣士を片手で放り投げた!

剣士「うおっ……!」ヒュ-

タッ


γ「……もう一度言う。私たちに協力するつもりはないのか」

魔人「しつこい。お前、気色悪いんだよ。滅ぼすわ」

γ「……『烈空五月雨』」ヒュォォッッ

魔人「ダセェ技名だな……オラァッ!」

魔人の攻撃!

γの技を破った!

γ「……!」

魔人「ビビってる暇ねぇぞ! おら、連続攻撃ってのはこうやるんだよ!」

魔人の猛攻!

γ「くっ……」

γは距離を取った!


γ「……」スゥ…

魔人「遅えんだよ」

魔人の追撃!

γ「『居合斬り・空蝉』」

γのカウンター!

ガシッ

γ「な――――」


魔人「よ  わ  い」


魔人の無慈悲な破壊!


剣士「……強いとか、そういう次元じゃないぞ」

オカマ「戦いになってないわね。これじゃあ只の蹂躙よ」

剣士「……竜王を思い出すな」

オカマ「アレも強かったわねぇ……手も足も出なかったわ。出したのは【自主規制】♂だけど」



γ「……」グチャッ

魔人「ふぃー、まあ、目覚めと食後の運動としては悪くないか。やっぱり鈍ってるな」ファ…

γ「……くくっ」ビキキ…

魔人「あん?」

γ「……全力を出せる相手と出会えたのはいつ振りか」グググ……

魔人「そんなにボロボロになってから何言ってんだ。最初から本気でこいよ、すっとこどっこい」

γ「……制約があるのだ。だが、解かれた」ボココ…


γが真の力を現す!

千本の刃を持つ半身の巨人が魔人を睨む!


魔人「……ちっとは楽しめそうじゃねえか」ニヤッ

Γ「最初から全力で行くぞ」



剣士「あの規格外の戦いの内に……」

(剣士は武剣士の生首を布で丁寧に厚く包んだ)

オカマ「ちゃんと弔ってあげたいわね」

剣士「ああ……くそっ、武剣士の仇を討ってやりたいが、あんなバケモノ、 万全の準備がなければ手も足も出ない」

オカマ「……そのバケモノ相手に優勢を取ってる魔人ちゅわんは本当に何者かしら?」

剣士「……封印を解いちゃいけなかったヤツだろ」

オカマ「そんなに褒めないでよね」クネクネ…

剣士「褒めてないだろ!?」


オカマ「っと、早くも決着がつきそうね」

剣士「時間は短いが、密度は圧倒的に濃い……こんな戦いを見たのは初めてだ」

オカマ「……これからも見るどころか剣士ちゅわんが、挑まなければいけないかもねん。そんな予感がするわぁ」

剣士「いやいやいや……」



魔人「おらぁ! おらぁ!」ゴキキッ  ドゴォォッ

Γ「ぐっ……」プラン…

魔人「腕、全部へし折ったぜ。終わりかよ」

Γ「……あまりに強い。貴様みたいなバケモノが敵に回るのは、非常に困るな」

魔人「あん? 命乞いは無駄だぜ」

Γ「ああ、分かっている……試合は貴様の勝ちだ。だが、戦いは私の勝ちだ」

魔人「……?」

Γ「これが私の最後の力だ――『黄昏』」コォォ

魔人「何がしたいんだよ?」ポリポリ


オカマ「魔人ちゅわん! 早くこっちに来なさい!」

魔人「何だってんだ」

Γ「共に逝こう」

魔人「……ああ、そういうことか」ダッ


Γ「……同胞よ、私は先に散る。我らの主に栄光よ、在れ」


Γの『黄昏』!


封印の空間を全て吹き飛ばす超大爆発!!

傭兵と魔法使いの安否は!?
謎のギリシャ文字集団の目的は!?
物語は大きく動き出す……!?



【幕間】

普者「あー、お久しぶりデス……」

女神「おや、毎日一緒にいるじゃないですか?」ニコニコ

普者「えー……あー……んー……」

女神「女神パワーの復活が想定よりも早かったですね。もう少し眠る予定でしたが」

普者「あんまり寝てばっかりいると見放されるよ……」

女神「敬虔な信徒さえいれば良いのですよ。簡単に信仰を棄てるような輩は私の知るところではありませんね」

普者「な、なんて考え……! そんなんじゃダメだよ……」

女神「それから私を汚したり、侮辱した輩には、『ガチャで欲しいものがほとんど出なくなる呪い』と『ケアレスミスが頻発する呪い』と『足の小指をぶつけて痛める呪い』と『水を飲むと気管に入ってむせる呪い』をかけました。苦しみなさい」

普者「い、陰湿かつ地味に嫌な呪いだ……!」

女神「清く篤い心で信仰している者には近いうちにいいことがあるでしょう。良いことがあったら、それは私のおかげなので感謝するように」

普者「これが宗教か……」

【幕間2】

女神「それから誤字脱字は個人で直して読んでください」

普者「カフェインジャンキーは役に立たないよ……」

女神「推敲することもできないゴミ屑に頼るよりもあなたたちの方がそういった能力に長けているでしょう」

普者「カフェインジャンキーに頼ると失望するよ……」


女神「あと、別に続きが待てない人がいたら、勝手に物語を進めてくれてもいいんですよ? 私を美しく可憐にキュートにビビットに書いてくださいね」

普者「それは、どんな天才小説家でも無理なんじゃないかな……garbage in, garbage outだよ」

女神「ああん?」

普者「な、なんでもないでーす……」

女神「カフェインジャンキーよりもキュートに美しく書いてくださいね!」

普者「ああ、それなら誰でもできるね」

女神「ああん?」
兄貴「あぁん?お客さん!?」

これはホモですね間違いない

女神「カフェインジャンキーよりもキュートに美しく書いてくださいね!」

普者「ああ、それなら誰でもできるね」

おいおいふーくんまでポンコツになっちまったのか??



魔姫「ここが、おとちゃのこきょーなの?」

「故郷つうか、住んでるところだ」

ガイコツ「オイラたちが入って本当にいいんすかね」

グール「きゅー…」

「俺といれば大丈夫だろ」

農夫「あれ、レンガさん、久しぶりですね」

「おう、隣のボウズか」

ガイコツ「(愛称はここでもレンガさんなんすね)」

農夫「うわ、魔物……レンガさんのお連れですか」

「おう」

農夫「なるほど……それなら問題ないですね」

ガイコツ「(テキトーっす……)」

「息子は元気か? ちゃんとレンガ焼いてるか?」

魔姫「ムスコ……!」ギリッ


農夫「アイツなら、なんか旅に出て行きましたよ」

「はあ?」

農夫「あと、家が、突然に消えてましたけど……」

「はああ?」

農夫「それじゃあ、僕は作業があるんで……」

「あ、おい……どういうことだ?」

グール「キュー?」

ガイコツ「ほあー?」



「……おいおい、家がないぞ」

ガイコツ「見事な空き地っすねぇ」

グール「きゅー」

魔姫「……なんか、イヤなかんじする」

「……神の力が遺ってるな……アイツ、勇者にでも選ばれたのか?」

魔姫「……ゆうしゃ!」ガゥゥ…

ガイコツ「ゆ、勇者……!?」

グール「きゅー!?」

魔姫「……ぅぅ、そのひびき、キラい、だいキラい!」バキッ

ガイコツ「あぶぁ……!?」

魔姫「ムスコ! ゆうしゃ! ニクい! ころす! ころす!」フ-…フ-…

「まあまあ、落ち着け」ポンポン…

魔姫「……おとちゃ」ギュゥ…

「よしよし」ポンポン…

魔姫「……♪」


ガイコツ「い、いたいっす…死んでなければ死んでたっす…」

「アンデッドはしぶといな」

グール「キュッ」ドヤッ

ガイコツ「なんでグールが偉そうにするっす!?」


魔姫「……おとちゃ、どうするの? ムスコころす?」

「いや、殺さねえよ……ま、少しノンビリしていていいんじゃねえの……ちゃちゃっと簡易な家は作れるからな」

パキキッ……

ガイコツ「……相変わらずすごいっす、普通こんなのできないっすよ……」」

グール「きゅー……」

「これくらい出来ないとレンガは焼けないぞ」

ガイコツ「(多分、それはオイラの知ってるレンガと違うっす)」

「グールくんとガイコツくんもこの町に早く馴染んでくれよ。基本的に東部の人間は和を重視するが、異物には冷たいからな」

ガイコツ「むちゃいうっすね……オイラたち、完全に異形っすよ、魔物以外の何者でもないっす」

グール「キュッ」

「まあ、君たちなら大丈夫だろ。愉快だし、無害だし、わかってもらえるさ」

ガイコツ「一応、人類の敵っすよー」

グール「キュキュッ」グッ

ガイコツ「……お前は囚われなさすぎっす」


グール「キュー」グッ

魔姫「ちゃんとしゃべって!」バキッ

ガイコツ「ぐふっ、それでもオイラを殴るっすか……? ……『なるようになるぜ』って言ってるっす」

魔姫「うん、そうだね♪」

グール「キュッ!」

ガイコツ「……はあ……レンガさんからもなんか言ってくださいっす」

「あんまり暴力を振るっていたら、レンガは壊れちまう。ガイコツくんも同じだ」

魔姫「うん、ほどほどにするね」

「おう、そうしろ」

ガイコツ「……なんか違くないっすか!?」

「もっと叩いて欲しいってことか」

魔姫「わかった! とくべつね!」バキャッ

ガイコツ「ちが……あぎゃぁっ!?」



ガイコツ「ご主人は相変わらずオイラに対して理不尽っすぅ……」

「まあ、頑張れ……姫の知識とか情操とかの教育も任した」

ガイコツ「はあっ!?」

「俺はレンガ焼かないといけないから」

ガイコツ「こ、この、ひとでなしー!」

「よく言われるわ」

ガイコツ「レンガのことしか頭にないんすか!?」

「ないなー……かみさんが死んでからはずっとレンガだけだわ」

ガイコツ「ほえ?」

「元々かみさんの家がレンガ職人でな、そこになんやかんやで弟子入りして、かみさんと結婚したんだ」

ガイコツ「……ほへー」

「息子がまだ幼い時に、肺炎で先代が死んでな……あの頃は苦労したなぁ……。仕事はまだ未熟で、食わすのに苦労して、何度もレンガ職人やめようと思ったが……かみさんが、頑張れっていうからなぁ」

ガイコツ「……」


「まあ、頑張ったおかげで、東王の王城修理にうちのレンガを使ってもらえることになって、そこからは仕事が安定したけどな。その仕事の時に、今度はかみさんが肺炎を患って……その仕事が報われるところを見せてあげらんなかったんだよなぁ……」

ガイコツ「……良い話っすぅ」ブワァ…

「そ、そうか?」

ガイコツ「うぐっ、奥さんも天国で見守ってるっすよ……うぅ、誰が悪く言おうとおいらはレンガさんの味方っすぅ…」

「お、おう……ありがとな。とりあえず墓参りしてくるわ」

ガイコツ「……おいら、頑張るっすよ! 親分をレンガさんの自慢の娘にするっす!」

ガイコツは発奮した!

「なんか、やる気になってくれたみたいだし、頼んだわ」

ガイコツ「任せるっす!」



ガイコツ「おやぶーん!」

魔姫「ていっ」バキッ

ガイコツ「ぐふっ……」

ガシッ

ガイコツ「親分!」

魔姫「っ……!? な、なに……?」ビクッ

ガイコツ「親分はおとちゃさんの理想の娘になりたいんすね!?」ギラギラ…

魔姫「う、うん……」

ガイコツ「おいらに任せるっす! きっと、おとちゃを喜ばせようっす! 」キッ

魔姫「……うん」

ガイコツ「グールお前も手伝うっす!」キッ

グール「きゅ、きゅー」

ガイコツくんによる魔界一受けたい授業が始まった!


ガイコツ「(このあとめちゃくちゃ町に馴染んだっす)」

【南国】

看護婦「朝方に様子を見に来たときには、すでにいなかったんです」

普者「変わったことは何もなかったんですよね?」

看護婦「はい……」

普者「…そうですか」

武闘家「……普者さん、どうすればいいんですか?」

普者「(……女神さま、どうすれば?)」

女神「(それくらい自分たちで考えなさい……すぐに神頼みをするような浅ましく愚かしい人間を救っているほど神は暇ではありませんよ)」

武闘家「……魔法使いさんが急にいなくなるはずありません、何か理由があるはずです…」ギュゥッ

普者「(武闘家さん、ひどく取り乱してる……)」

普者「落ち着いて…魔法使いさんならきっと大丈夫だから」キュッ

武闘家「……そうですね。ありがとうございます」

女神「ふん、いちゃついてないで、何か手掛かりでも探してください」

普者「べ、別にいちゃついてなんか……」

女神「……」イラッ


普者「とにかく手掛かりを見つけなきゃ」

武闘家「……あの魔法使いさんが何もせずにいなくなるとは思えません……何かしらあるはず……」バッ  パカッ  ガラッ

普者「そうだね……攫われたにせよ、何か痕跡が有るはず……」バサッ

女神「お昼寝してる間にさっさと見つけてくださいねー」ファ…

武闘家「あなたも手伝いなさい、役立たず!」

女神「な、はぁ……!?」

普者「け、ケンカしてないで、最善を尽くそうよ!」



普者「あれ? これは……?」

女神「お、目敏くも何か見つけましたか? 流石、いつも女の子のパンチラを見ようと必死なだけありますね」

普者「そんなことしてないからね!?」


武闘家「……これはなんですか?」

普者「魔法でつけた焼け跡……なんかのマークみたいだけど…」

女神「そんなの見れば分かりますよ、相変わらずおつむが足りてませんね……これは、淫魔を暗示する模様です」

普者「(相変わらずひどい…………それにしても、昨日に続いて淫魔か)」

武闘家「魔法使いさんによるものですよね……どうしてこんなものが、シーツの端に?」

女神「……淫魔のシンボルは売春婦も表しますからね、『私と肉体関係を持ってくれる男性募集中』ということでしょう。どすけべな娘ですね」

ズドッ

女神「ぐぷ……っ!?」

武闘家「……魔法使いさんの謂れもない悪口は許さないわ」

女神「そ、そうやってすぐに暴力に走るのは知能が遅れてる証拠ですよ……」キッ

ズドッ

女神「おへぇっ!?」



女神「(この、澄ました五体不満足娘は後で絶対に泣かせます……)」ナミダメ…

普者「(だいたい自業自得……)」

女神「(ふーくんの意見なんか求めてませんから。私に意見するなんておこがましいにも程があります)」

普者「(ええー……)」

武闘家「……とにかく淫魔の模様は恐らく魔法使いさんが残したものですよね」

普者「多分ね……傭兵ギルドに行けば、もしかしたら情報が得られるかも」

武闘家「し、しかし、そんな時間は……」

女神「焦っても他に手掛かりもないでしょう。よっさんが帰ってこないのも、何か不穏です」

普者「……確かに!」ピコンッ

女神「……」

普者「本当に知能が低いですね、って言いたそうな目で見るのやめて……」

女神「本当に知能が低いですね、はやくミドリムシに転生したらどうです?」

普者「言えばいいってわけでもないからね!?」


武闘家「ふざけてる場合じゃないのよっ!」キッ

普者「……ご、ごめんなさい」

女神「反省してまーす」

武闘家「……」イライラ

女神「(カリカリしてますねー、排卵日ですかね?)」

普者「(緊急事態なのにふざけてるからでしょ!)」

女神「(正直、よっさんと魔法使いさんは同じ案件に巻き込まれてる気がするんですよね……そして、あの小狡い汚っさんが、簡単に死んだりはしないですよ)」

普者「(……よっさんや魔法使いさんでも、死ぬときは、あっけなく死んじゃうかもしれないよ)」

女神「……そうですね」


【傭兵ギルド】


オイ、キノウノボウズジャネェカ
ヘッ、マオウヲタオスナカマボシュウッテカ
ワラエルゼ

女神「ふん、……さっさと事切れて肥料にでもなった方が社会にとって遥かに利益があるようなクズが空気を吸って不快音を出してるんじゃありませんよ」

普者「そんなの相手してる場合じゃないよ……すみません、昨日の幹部の方は?」

受付「……昨日から、諸用があるとのことで、こちらにはございません」

女神「……ギルドというのは、本当に役に立ちませんね。もう少し市場が発達したら駆逐してやります」

武闘家「ギルドが役立たずなんて当然なことはどうでもいいです」

受付「……」

普者「そうなると…………いた!」


白魔「……?」オドオド…

次回に続く!

【幕間】

女神「お待ちかねの女神の相談室です。尺はあまりありませんからね、サクサクいきますよ、ふーくん……ふーくん?」キョロキョロ…

「ふーくんなら居ないわよ」

女神「……げえっ、オカマタイツ!?」

オカマ「驕り高ぶった女神に復讐する…その共通善を果たすためにきたわよ(迫真)」

女神「そ、そんなのは認めません! さっさと消えなさい!」

オカマ「……世界はね、女神×オカマタイツが求めているのよ……さあ、アナタがアタシを攻めるのよっ♂」カモ-ン♂

女神「あり得ませんッッ! ネギでも挿してなさい♂ ……っ!? 神にさえも干渉してきますか……!」

オカマ「女神……! お前がネギ(意味深)になるんだよっ♂」

女神「くっ……絶対ホモなんかに負けたりしませんっ!」

・・・

オカマ「ぐふっ……」ピクピク←ネギがお尻に刺さっている

女神「勝ちました!」ぶいっ


普者「色々と台無しだよ! あと食べ物は粗末にしちゃダメ!」

女神「突然ですが、カフェインジャンキーは今後続きを書きません」

普者「えっ、まさに事件の途中なのに」

女神「意志薄弱で一徹できないなんて、これだから最近の若者は」

普者「そんな感じだと、またしれっと続き書いてそうだけど……」

女神「……とにかくっ、ここでカフェインジャンキーによるふーくんの冒険は終わってしまいました!」

普者「えぇ……」

女神「元はカフェインジャンキーとて乗っ取りです。再びの乗っ取りに期待しましょう」

普者「いいのかなぁ」

女神「ふーくん、大人は不誠実なのですよ」フゥ

普者「うーん」



白魔「仲間の方が姿を消して……淫魔の印が残されていたんですね」

普者「この前にサキュバス狩りがあったんですよね? それが関係しているんじゃないかと思いまして」

白魔「……わ、私はあまり詳しいことは分かりません……すみません……」

武闘家「これ以上は時間の無駄です。私は他を当たります」

女神「(うーん、勇者補正なしだとほんとこういう時に幸運が起きませんからねぇ)」

普者「(ううん……)」

白魔「あ、で、でも、昨日から時計塔から変な呻き声がするって話が……」オドオド

普者「時計塔……行ってみようか?」

武闘家「……ええ」

女神「ふむ……」



白魔「……」


【地下倉庫】

ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ……‼︎

傭兵「げふ……っ」ビチャッ

古淫魔「『止め』」

エルフ「…………」ピタッ

傭兵「フゥ……フゥ……」ボタタ…

古淫魔「……鎖で縛られて、女に殴られる……嬉しい? ねえねえ、嬉しい?」

娼婦「ふ、ふん……いい気味ね」

傭兵「カヒュ……」

古淫魔「イケないイケない……死んじゃうところだったわ」ポワワ…

エルフ「……」ポケ-

古淫魔「アタシの憎しみは、一回殺したくらいじゃ足りないわぁ……七魔であるアタシがニンゲンごときに封印されたなんてどれだけの恥だと思ってるのぉ……」

古淫魔「何回でも死の苦しみを味あわせてあげるぅ……」ニタァ

娼婦「……」ゾワッ


エルフ「……」ポケ-

傭兵「……」グテッ

古淫魔「ほんとぉに、僥倖よねぇ……久しぶりに娑婆に出たら、にっくぅいアンタにすぐ会えたんだから」

傭兵「……」

古淫魔「そういえばぁ……最近はニンゲンも調子にのってるわよねぇ」

娼婦「……」ギリッ

古淫魔「今回のサキュバス狩り……名目は治安維持?とか笑わせる内容だけどぉ、実際はサキュバスを捕獲したいだけでしょぉ。まあ、サキュバスのカラダ、きもちーもんね。捕獲してぇ、手足折るなり、千切るなりしたら、金持ち御用達のきもちー肉オナホの完成ってねー」

娼婦「アタシたちは殺したり奪ったりはしてなかったのに……! 絶対に許さないわ……! 」

古淫魔「オトコは大体、捕まえたサキュバス犯してたみたいねぇ……屈服しちゃえば絞り殺すこともできないからねぇ」

娼婦「……同じ苦しみを味合わせてやる!」バキッ

傭兵「……ぅっ」ベチャ

娼婦「……あはは、指の骨、全部折ってあげるわ! ほらほらぁ! その前に爪よね! 大切な仲間たちの苦しみはこんなものじゃなかったわよ……!」ベリッ…ボキキ…ッ

傭兵「ァァ……ッッ!」


古淫魔「アタシ的には雑魚がどんだけ死のうがどーでもいいけど」

娼婦「……っ」

古淫魔「あと、アンタ、何かってにアタシの獲物いためつけてんの?」

娼婦「え……」

古淫魔「ブチ殺すぞ」ブワッ


娼婦「」グチャッ


古淫魔「あやや? 加減間違えちゃったぁ」テヘッ

古淫魔「まあ、ゴミはどうでもいいや」ポイッ


娼婦だったもの「」ベチャッ


エルフ「……」

古淫魔「えーと、なんだっけ……まあ、なんでもいいや! アンタはああなる前に、もっと、もーっと痛めつけてあげるからね」

傭兵「(……封印が解けるにせよ、あまりに早すぎる……どっかの誰かが故意に解いた……余程の腕利きの仕業だな)」

古淫魔「いいねぇ、眼が死んでない……歳食ってカラダが衰えても心は強いままかにゃーん?」

エルフ「……」ポケ-

古淫魔「まあ、だからこそ折り甲斐があるだけどぉ」ニタッ

傭兵「……何にせよ、相変わらず」

古淫魔「はぁ?」

傭兵「……短慮だよ、お前は。栄養が脳みそじゃなくて胸にいってんのか」

古淫魔「……んだと?」


ズドッ

古淫魔「……は、あ?」


エルフ「……『火精の囁き』」

メララ……ッ!


古淫魔「が…あァァアアアアアアアアァァッッ!?」ジュゥゥ…



傭兵「『石土魔法・大』!」

隆起した大地が古淫魔を封じ込める!

エルフ「よしっ!」

傭兵「こんなことじゃ足止めにもならない! 早く逃げるぞ!」



傭兵「はぁはぁ……」

エルフ「『妖精の祝福』……すまない、演技とはいえ、こんなに痛めつけてしまった……」

傭兵「……仕方ないさ。俺程度の解呪で何とかなってよかった」

エルフ「サキュバス狩りの際に『チャーム』をかけられたようだ……私としたことが不覚をとった」

傭兵「あいつは『七魔』の一匹だ。封印から解かれた直後で弱ってるとはいえ、油断できる相手じゃ到底ない」

エルフ「七魔……ッ!」ゾクッ

傭兵「知ってると思うが二、三十年前に猛威を振るってたヤツらだ。かつて俺たちで粗方封印してやった……が、ここに来て古淫魔の封印が解けてるとなると、他の七魔も目覚め始めてるのかもしれない」

傭兵「(それにエルフは全般的に快楽に弱いから、淫魔との相性も最悪だろうしな)」


エルフ「……しかし、なぜ、サキュバスたちの残党に捕縛された? ギルド幹部の差し金か?」

傭兵「ご明察。その裏に古淫魔やら操られたアンタがいるとは思わなかったが」

エルフ「…………っ! くるぞ!」バッ

傭兵「ちっ……!」バッ


ズガガガガッッッ



傭兵「……けほ、ド派手にやりやがる」

エルフ「……っ」チャキッ


古淫魔「クソ野郎がッッ!」

エルフ「古淫魔……世に混沌をもたらす悪逆の化身は私が成敗してくれる!」

傭兵「(クサい口上を恥ずかしげもなく……さすがエルフ)」

古淫魔「おぼこエルフにクソガキが……散々嬲ってからブチ殺してあげる……! 【ピ-】して××××してやっからなァァァ!」ニタァ…

傭兵「……相変わらず汚ない口だな。閉じてたほうがいいぜ……永遠によ」

エルフ「(……今のはいいな……今度参考にしよう)」


古淫魔「デケェ口はそこまでだけどなァ! おらッ」グイッ

魔法使い「……っ」

傭兵「……ちっ」

古淫魔「ギャハッ、連れてきておいて良かった! 本当はテメェの目の前でバラしてやるつもりだったけどなァ!」

エルフ「ゲスが……」

古淫魔「ギャハハ、ザコが吼えるな! テメェらザコはアタシの手のひらで無様にのたうちまわってりゃいいんだよォォ! ギャハハハハ!!」




武闘家「……恐ろしい気配が……あれです! 北北西の方向に3kmほどでしょうか」

普者「3キロなら……全力で飛ばせば5分で……いや、魔法使いさんが捕まってる! 敵の視線的にあっちで誰かに話しかけてるのかな」ジ-

女神「そんなにバッチリ見えるなんて覗き見ふーくんは違いますね」

普者「濡れ衣だよ! しかし、ギルドを挟んで真逆じゃないか……運が悪いなぁ!」

女神「……やはり…………まあ、それより5分も時間をかけていられないんじゃないですか」

武闘家「急ぐしかありません!」

女神「いいえ、こっちです」

普者「は?」

女神「私が最高の方法を伝授しましょう。まずはすぐそこにある、この町で一番高い時計塔に登るんです」

武闘家「……くだらない作戦だったら恨みますよ」

普者「……なんだろう、いやな予感しかしない……」




魔法使い「ぐ……!」

古淫魔「てめぇの娘なんだって? 殺しがいあるゥ!」

魔法使い「……誰が! アンタみたいな魔物に!」

古淫魔「テメェは『お父さァん、助けてェ…××××してェ』とでも泣いてよがってればいいんだよ!」ギギ…

魔法使い「ぐぅぅ……! ぁぁ……!」

エルフ「やめろ!」

古淫魔「あぁん? テメェはさっさと死んでろ!」

エルフ「っ!」

夥しいコウモリを象った力の波動がエルフを襲う!

エルフ「くっ……はっ、ふっ……っ、きゃああぁ!」ガンッ

魔法使い「……っ!」

傭兵「(……相殺できていたはずだ、おそらく致命傷にはなっていないはずだが……)」

エルフ「く…………ぅ」

傭兵「(……立ち上がることもできないか)」


古淫魔「……んで、昨夜からうざったい……ギルドだっけ? 隠れてる蟻どもも出てきな……この娘を殺されたくなければな」

傭兵「(やっぱりバレてたか……普通なら)」出てくる場面じゃねえが

ギルド幹部「……」ザッ

傭兵「(やっぱり、お前は俺への恩義で出てくるよな)」

戦士「……やれやれ、幹部サマが出るならでるしかねぇな」ザッ

盗賊「……ハァ」ザッ

アサシン「隠れんぼは終わりなのかー?」


傭兵「……すまん。俺の落ち度だ」

ギルド幹部「いや、私のせいです」


古淫魔「さあて、これで万策が尽きちゃったかにゃあ?」

傭兵「……」

古淫魔「ははっ、おい、娘の生命が大事なら泣いて懇願してみろよぉ」

傭兵「……」ズサッ

魔法使い「……っ」

傭兵「俺は殺されてもいい。その娘だけは離してくれ」ガバッ

古淫魔「ぎゃは、ぎゃははははハハハハ! あんだけ調子に乗っていたニンゲンがこんな簡単に屈服するなんてねェ! はあぁ、ほんとニンゲンすぐに自分より大切なモンを作るから弱い、雑魚のくせに!! ぎゃははははは!!」

ヒュッ

傭兵「……っ」

ザクザクザク…!

傭兵「ぐぅぅ……っ!」

魔法使い「おとうさ……っ!」

ギルド幹部「傭兵さん!」ザッ

古淫魔「動くな!」

ギルド幹部「……っ」ピタッ


古淫魔「……んふふ、地面に張り付けたし、もう動けないでしょー? アンタはそのまま見てなさい」


古淫魔「このメスガキが拷問の果てにグチャグチャにして殺されるところをよォ!! ギャハハははははハハハハハははははハハッッ!!」

傭兵「……っ」

古淫魔「この古淫魔さまがテメェらニンゲンごときに取引なんかするわけねェだろうが! テメェらみんな殺すんだよ!!」

古淫魔「ちゃんと見てろよォ! 愛娘が殺されるのに、目そらしたりすんじゃねェぞォォォ!!」

魔法使い「……ゲスが!」

古淫魔「ギャハッ! まずはそのクソ生意気な口から――」




ぉぉぉぉ――――



古淫魔「……あ?」クルッ



普者「おおおおオオぉぉおおおおぉ――!!??」ビュォォォォ……


古淫魔「はぁ!?」


魔法使い「火炎魔法・中!」

(魔法使いは油断した古淫魔に火炎魔法を当てて、反動で距離をとった)


古淫魔「ちょ――」

普者「ごめ――――!!」


ドゴオオオォォォォォォオオオオッッッッ!!

メリメリメリメリィィッッッッ……!!

パキポキパキ……


古淫魔「――――」フワァ…


ドゴオオオォォォォオオオオン!!
ガラララガガガ……!!


【時計塔】

女神「……無事、弾丸ふーくんは目標に着弾したようですね」

武闘家「……流石に隻眼では命中するか不安でしたが、なんとかなるものですね。……ところで、土属性魔法で強化してるとはいえ、普者さんは大丈夫でしょうか?」シュゥゥゥゥ……

女神「これで死ぬようなら、そこまでの存在だっただけですよ」

武闘家「……素直じゃありませんね」

女神「ああん?」

武闘家「はやく、私たちも合流しましょ……」フラッ

女神「ちょっと、大丈夫ですか? だらしないですね」

武闘家「魔法拳の属性重ね合わせは流石に疲れました……これが初成功です」

女神「ちょっ」


パラパラ…

古淫魔「――」シロメ

普者「――」シロメ

ギルド幹部「……」

魔法使い「……」


傭兵「……討伐だ! 古淫魔を討ち取れ!」

次回に続く!

【幕間】

魔法使い「どの面下げて戻ってきたのよ」

女神「こんな面です」ビニョグニャアヘ-ン

普者「ぶふぉっ」

女神「このプリチーな私のプリチーフェイスに免じて許してやろうではありませんか」

普者「う、うぅん……いやぁ、ねぇ……」

魔法使い「あそこまで宣言しておいて、厚顔無恥にもほどがあるわよ」

女神「四字熟語  使って生きて  いきたいね」

普者「なんで急に五七五調!?」

女神「まあ、ロリババアにうつつを抜かしていたゴミカス野郎も、未完結のまま放置するのにピコ程度の責任を感じているようですし? 読みたくない人は読まなければいいだけですし? つまり続きを書くことは社会的に望ましいんですよっ!」ドヤッ

魔法使い「呆れてものも言えないわよ」

女神「ですよねぇ。ロリババアよりも私の方が10の68乗倍かわいいですから!」

普者「なんの話なの……」

女神「私の、私による、私のための冒険のあらすじです」

普者「覚えてる人は読まなくてもいいよ!」


女神「魔王討伐の任を負い、美しく聡明で清らかで寛大で慈悲深い素晴らしき女神と東国から旅に出たふーくん」

女神「中央国コロシアムで新たな仲間を加え、魔王に関する情報を集めるため、南国にいるとされる大賢者に会いに行くことに」

女神「南下道中、困難にぶつかるものの、この美しく聡(ry女神のおかげで問題を解決しながら進んで、ついに南国に入国」

女神「しかし、町につくと、火炎もやしこと魔法使いさんが旅の疲労で倒れ、それを発端にパーティが解散の危機に陥ります」

女神「その上、スケベ不潔オヤジよっさんと因縁ある、七魔の古淫魔という若作りババアまでもが襲いかかってくる始末」

女神「古淫魔によって人質にされた魔法使いさんによって、よっさん、及び操られていたアホくっころババア、エルフさんは大ピンチ。援護に来ていたギルドメンバーも打つ手ナシ…役立たずですね」

女神「そのピンチを打破したのがこのうつく(ry女神の機転です」フフン

女神「人間砲丸、『ふーくん』が炸裂、圧倒的優勢だった古淫魔に逆転の一撃を与えました」

女神「つまり一言に要約するなら、『女神さま素敵! 信仰させて!』ですね」

女神「ちなみにいま入信すると、う(ry女神型貯金箱(妖精ver.)がつきます。この機会を逃すのはもったいないですよ。ぜひ入信してじゃぶじゃぶお布施しましょう」


普者「最後はあらすじ関係ないよね…」

・・・

普者「んぁぁああああ! 痛い! 身体が痛いぃぃぃ……!!」ジタバタ…

魔法使い「あの速度でぶつかったら普通死ぬんだけどね……」

女神「地属性の魔法で肉体強化していた上に身体能力は元々人間の限界点ですから」


エルフ「っっ……あの古淫魔が一撃で気絶するなんて……一体何が……?」フラフラ

傭兵「勇者っぽいやつの一撃だよ。まだアンタも座ってな」

女神「むしろ格闘小娘の一撃ですかね。ふーくんは、拳で撃ち出されただけですから」

普者「ほぼ逝きかけました」


魔法使い「武闘家は? 大丈夫なの?」

女神「魔法拳の火と風の重ね合わせで疲労困憊ですが、大丈夫なんじゃないですか? 動けそうにないため放置してきましたが」

魔法使い「ちょっと……!」

女神「後で貴女が迎えに行けばいいんですよ。すぐ人に頼らないでください」

魔法使い「まったく! ……それにしても、属性重ね合わせの魔法拳はすごいわね」

傭兵「無意識の『爆裂拳』をより強力な魔法拳として昇華させたんだな。『真・爆裂拳』ってところか」

エルフ「……そんな離れ業が為せる人間がいるのか」




古淫魔の頭部「……グゥッ!」

戦士「……首を跳ねてもまだ死なねえのか」

盗賊「……」ギコギコ…

ブツンッ

古淫魔の頭部「ギャッ…!?」


アサシン「おー、これで両足がとれたぞー……これやる必要あるのかー……?」

ギルド幹部「頭部と胴体が分離しても感覚は多少あるようだ……無力化していないとまずいだろう」

戦士「ったく、マジもんのバケモノだな……」

アサシン「うーん……痛めつけるのは好きじゃないぞー……痛み止めついでの猛毒は効くかなー」

ギルド幹部「不要だ、下手に作用したら困る」

戦士「チビガキどもは下がってろ。俺がやる」

アサシン「子ども扱いは嫌いだぞー!」プンプン

盗賊「……」ギコギコ…

戦士「下がってろって……まあ、いいけど……よっ……!」ブンッ

バツンッ

古淫魔の頭部「ギィィ…ッ!!」ギリッ

女神「恐ろしい生命力ですねぇ……雑草か黒光りする不快害虫、或いはクマムシみたいですね」

魔法使い「ぜひ研究させてもらいたいものだけど、この鮮血ショーには興味ないからもう帰っていい?」フイッ

傭兵「……ああ」

女神「はあ…見るに耐えませんねぇ…おぉ、痛そうってレベルじゃないですよ…わぁ、鋸で切ってるから切断面がグチャグチャですよ…まるで調理前の挽肉ですねぇ」マジマジ…

傭兵「観察して解説してんじゃねえよ」

普者「うぇ……っ」ビチャチャッ…

普者の“キラキラ”が女神の上に吐き出された!

女神「ぎゃあぁぁぁあああぁぁぁあああああ…っっ!!??」

エルフ「……因果応報、いや、信賞必罰か?」


ギルド幹部「古淫魔が絶命したようです」

傭兵「そうか…………七魔も死ぬんだな」

ギルド幹部「恐ろしい生命力でしたがね……」

戦士「生首を粉々になるまで潰すまでもなかったな」ヒョイッ

古淫魔の頭部「」

盗賊「……」アブナイヨ

戦士「はは、間抜けな顔で死んでるぜ」

アサシン「おいおいー、大丈夫なのかー?」

戦士「ははっ、これは死んでるだろ」プラプラ…

普者「僕も死にそう」ゴフッ

女神「百万回死んできなさい! この不快害虫!」フキフキッ

普者「ふぇぇ……」


普者「(……女神さま……僕は本当に魔王を倒せるのかな?)」

女神「(ああん? 何を急に弱音を吐いてるんですか、このど腐れ不快害虫は。出来る出来ないではなく、“殺る”んですよ)」

普者「(の、脳筋の発想だ……)」

女神「(別に四天王やら七魔とやらを全部倒す必要もありません。魔王を上手いくらいに殺ればいいんです)」

普者「(いや、それが難しいって話……)」

女神「(だから、“殺る”しかないんですよ、分かったかハゲクソチャバネゴキブリ)」

普者「(……ひどぃ)」

エルフ「……なにはともあれ、これで一件落着か」クタッ

女神「やれやれ、風俗狂いの汚っさんと、ヒステリ火炎もやしのせいで朝方から疲れましたね」

魔法使い「ちっ……」

傭兵「相変わらず嫌われるのが好きだな」

普者「(ほんと女神さまはブレないよね…)」

女神「(天上天下唯我独尊ですから)」フフンッ



戦士「さーて、この生首はどうしたもんかね……しかし、まあ生首だと別嬪も何もねえな」ブラ-ン

古淫魔の頭部「」グパアッ

戦士「……あ?」

(唐突に古淫魔の頭部が花弁のように裂けて、戦士の頭を丸ごと包み込んだ)

グチチ…バキキ…

戦士「……っ」バタッ

ギルド幹部「戦士っ……! くそっ!」バッ

(ギルド幹部は抜いた剣で戦士ごと古淫魔を切り捨てようとするが、その剣は空を切ったに過ぎなかった)

古淫魔『ギィィィイイイイ――!!』

(古淫魔は戦士の肉体を乗っ取り、触手の群体のような姿へと変貌する)

エルフ「っ……」

魔法使い「まだ終わりじゃないみたいね……!」


アサシン「き、きもちわるいぞー!」

傭兵「(くっ……もう一戦か……此方にはそんな余力はほとんどないが……)」

ボココ……

盗賊「……」フクランデル…

エルフ「――っ、 爆発するぞ! 」

ギルド幹部「悪あがきの自爆をするつもりか! 忌々しい!」

魔法使い「こ、この魔力の量だと……町の半分は消し飛ぶわよ!?」

古淫魔『キキキキ……!』プククク…

傭兵「……ちくしょう。てめーの好きにさせてたまるかよ」ググ…

エルフ「……私が止めてみせる!」ググッ

女神「あなたたちでは結局破裂させて全滅するだけです! 下がりなさい!」

傭兵「……じゃあ、どうするってんだよ!?」

女神「――普者! あの品性の欠片もない膨れたタコモドキに突撃です!」

普者「はあっ!? ふざけてる場合じゃ……」

女神「大真面目です! 地属性の特性は『打ち消し』ですよ! そのハンマーに地属性魔法を乗せて叩き潰しなさい!」

魔法使い「……無理よ! 普者はようやく、地属性のエネルギー生成が出来るようになったばかりなのに無理よ!」

普者「そ、そうだよ、僕にはそんなこと……」

女神「貴方しかいないんです! このままじゃあなた達だけじゃない! 他の無辜の人々まで大勢死ぬんですよ!?」

普者「で、でも……」ブルッ

古淫魔「キキ……テメ-ラ、ミンナ…シネ……」ニタニタ

普者「……っ、誰が……! 死んでたまるか……!」ギリッ

女神「ええ! 生き抜くために走るのです!」

普者「……うあああああぁぁあああああああ!!」ダダッ


普者「(……でも、地属性の力はまだ全然上手く扱えないのに、やっぱりこんなの無茶だ……)」

女神「(いいから集中しなさい。悩むのは終わってからでも充分です!)」

普者「(……いつも都合のいいことばかり言って! 自分は何もしないくせに! くそ! くそ!)」

女神「(やかましい! 毒づくのはやることやってからにしなさい!)」

普者「(分かってるよ! このクソ女神!)」

女神「(それならしっかりやりなさい! 今は徹底的に私を信じるのです! 出来損ない勇者!)」


普者「(……地属性を武器に…………どうすれば……どうすれば……何か無いのか……何か…何か……)」


――『とっておきの秘密を教えてやる』

――『レンガ作りにおいて一番大事なものだ』

――『才能? あった方がいいが、そこまで問題じゃあねえよ』

――『いいか、一番大事なのはな……』


普者「(ひたすら、ひたすら反復すること)」


普者「(……いや、無理じゃん!? したことないし、失敗したら次はないじゃん!?)」

普者「(……いつだって、そんなに準備できるわけじゃない)」


ザワ…

普者「(…………?)」

普者「(あれ? ……初めての挑戦なんだよな……? そりゃそうだこんなこと何度もあってたまるか…………でも……あれ? 本当に……初めて……だよね?)」

普者「(なんだか…………肩の力を抜いて……武器はまるで自分の身体みたいに……呼吸は浅過ぎず深過ぎずに…僕は大地と共にある)」ブワァ…

普者「(初めてなのに……なんでだろう……知ってる、ような……)」

スゥ…

女神「(……跳びなさい!)」

普者「(……なんでこのタイミングで……でも、やっぱり知ってるような)」ピョンッ


普者「(……ここから先は分からない……いや、それが当たり前なんだけど…………だけど、何をすべきかは分かってる)」


普者「(それは――――)」ググッ


普者「(思いっきり……ハンマーを振り落とす……ことッッ!!)」ブワァァ…




普者「ダラぁぁああああああぁアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああッッッッ……!!!!」


普者の『会心の一撃』!





プチュンッッ――!!






古淫魔を倒した!



エルフ「……おお」

傭兵「ボウズが……」

魔法使い「……倒したの?」


女神「まだです! 古淫魔がこれくらいで死ぬほど単純ですか!」

傭兵「……っ、確かにな! 周囲に変なもんはないか!?」

魔法使い「変なものって言ったって……何か動物の姿にでもなってるの……!?」


盗賊「……!」バッ

ネズミ「…チュゥ」ソソクサ…

傭兵「……淫魔の模様! そいつか!」

ギルド幹部「ぐっ、建物の陰にに入られるぞ!」

ザッ

アサシン「にひー、とろいぞー」ズドッ

ネズミ「チュゥ…」ポテッ


魔法使い「……終わり?」

アサシン「んー、これ多分ただのネズミだぞー? 変な模様はただのヤケドだったぞー」

女神「ちっ、どこまでも狡い女狐ですね……!」

盗賊「…………っ!」バッ


コウモリ?「……キキイッ」バタタッ


ギルド幹部「……くそっ、アレか!」

アサシン「もうかなり遠いなー! ちょっと追いつけないぞー」

エルフ「盗賊! 弓矢を貸せ!」

盗賊「……」ヒョイッ

ギルド幹部「この距離で、しかも動く敵を射抜けるか……?」

エルフ「……弓矢は得意でな」ギィィッ



傭兵「(…………兄貴)」


エルフ「……」パッ


ヒュオォッ……!


コウモリ?「キッ!?」


バシュッッ!


コウモリ?「」シュゥゥゥ…



傭兵「(俺たちの時代は本当にもう終わったんだな)」



七魔の1柱『古淫魔』を滅ぼした!


女神「……目標の消滅を確認しました。今度こそ私たちの勝利ですね」

魔法使い「……ふぅ」グテッ

普者「だ、大丈夫?」

魔法使い「ええ……緊張の糸が解けちゃって……っつつ……」

アサシン「ぽんぽんが痛いのかー? びょーいん行くかー? 痛み止めもあるぞー」

ギルド幹部「お前のは病人向きじゃないからやめておけ」

アサシン「それもそーだなー」


エルフ「助かった……返すぞ」

盗賊「……」コクッ



戦士「」

盗賊「……」

アサシン「戦士が死んじゃったかー。もうタダで焼き飯とミルクが食えない思うと悲しいぞー」

ギルド幹部「多少抜けてはいたが、確かな実力者だった……」

盗賊「……」ヨッコイショ

アサシン「お墓にうめるのかー?」

盗賊「……」コクッ

アサシン「神父さんにたのまないとなー」

盗賊「……」コクッ

ギルド幹部「後のことは運営に任せろ。二人ともよくやってくれた」

盗賊「……」コクッ


女神「(……ふーくん、今回はまあ、頑張ったと言ってあげましょう)」

普者「(……女神さま)」

女神「(似合いもしない真面目な顔してどうしたんですか)」

普者「(……何かおかしいんです。上手く説明できないんですけど……何か特別な力があるような……勇者補正……ですかね……?)」

女神「(…………まあ、勇者補正なんじゃないんですか)」

普者「(……勇者補正? 都合のいいことが当然のように起きる…………確かにすごく都合のいいように行ったけれど……でも何だか……なんだろう……上手く言えないけど、“本当に”都合のいいように行ったというか……ええと……)」

女神「(無い頭で難しいことを考えても仕方ないですよ……今回はたまたま勇者補正が働いた……でも普段は働かないから、努力しなければいけない。これでいいじゃないですか……)」

普者「……」ジ-

女神「(なに私に見惚れてるんですか。いくら私が美しからといって、不快害虫が視姦するのは許しませんよ)」

普者「ほんと酷い!」

普者「(……なんか、やつれてない?)」

女神「(ええ、誰かさんに辱めを受けましたからね)」ギロッ

普者「(ご、ごめんなさい…)」


女神「……」



普者「これで、無事に解決かな…… 」

エルフ「ふん、解決だと?人間にとってはそうだろうな」

魔法使い「何が言いたいの……?」

普者「あの凶悪な淫魔が出てきて、うやむやになったが、今回のサキュバス狩りは元々は人間側の一方的な虐殺だった……例え魔物相手といえど私欲で嬲ることが許されてなるものか」

傭兵「……魔物は何もせずとも身近にいるだけで不吉をもたらす害悪だと考えるからな。まあ、このご時世だしみんな魔物が怖くて怖くてたまらないのさ」

エルフ「私はそのような恐怖と憎悪に蝕まれた短絡的な思考は認めん! そして、それを笠に着て私腹を肥やすような外道どもは尚更だ!」

普者「…でも、サキュバス狩りに参加してたんだよね?」

エルフ「今回も古淫魔に操られなければ、誰一人死傷者を出さず、サキュバスたちを国外に追い出すつもりだった……それも許されたものとは思わんがな」

女神「つまり、仕事の履行義務を果たさず、むしろ妨害をしてお金を貰ってると? ぼろい商売やってますね?」

エルフ「弱き者を救けるために私は剣を振るう。それが魔物だろうと、変えるつもりはない」

魔法使い「その結果、こうしてみんなボロボロになって、死人も出たわけよね?」

エルフ「それ、は……」

傭兵「古淫魔が出てきた時点で、誰がどうだろうとそうなってたさ……あまり責めてやるな」

女神「けれど、操られていたとはいえ、無害な私にいきなり剣を突き立てようとしたことはどうなんです?」

エルフ「……こちらも意識が曖昧だったとはいえ、すまなかった。少年、傷付けたことを許して欲しい」

普者「ああ、大丈夫ですよ……あれはこっちのが煽ってたのも悪いですから」

女神「……」

普者「(あれ、何か言い返さないの?)」

女神「(疲れてるのでもういいです。アホらしい意見にこれ以上反論するのも面倒ですしね)」グテ-

普者「(そう……女神さまそんな疲れるようなことしたっけ?)」

女神「……」ジロッ

普者「(な、なに……?)」

女神「……」ハァ

普者「(理由も話さないまま呆れ顔の溜息つかないで!?)」


ギルド幹部「……彼女は面白い人材でしょう?」

傭兵「……懐の深い男になったな」

ギルド幹部「恐縮です。まあ、私も傭兵ギルドの最近の無節操さには業を煮やしていますしね」

傭兵「……ちと規模がデカくなり過ぎたな」

ギルド幹部「ええ。体制構造の改革が必要です。せいぜい“不審な事故死”をとげないように気を付けます」

傭兵「……お前もまだまだ激戦の渦中だな」ニヤッ

ギルド幹部「誇り高き勇者一向の戦士ですから」ニッ



普者「武闘家さんを迎えに行かないと」

魔法使い「はぁ、疲れた……病人に無茶させないでよね」クタッ

傭兵「くはは、おっさんにもな」

女神「さてと……まだお昼前ですね」ファァ

普者「そっか、それじゃあみんなで無事に帰ったら取り敢えず……」


「「「「二度寝」」」」


武闘家「……」スヤスヤ…

【少し離れた高台より】

白魔導師「…………」

商人「おやおや、思ったよりもあっさりとやられてしまいましたねー」

白魔導師「……想像以上にな」

商人「あれあれ、あの弱気っ娘キャラの被り物はやめたんですか? 面白かったのに」シレッ

白魔導師「……」ギロッ

商人「こわいこわい……しかし、最後に勇者が攻撃した際、次元発散指数が著しく増加してますが、勇者によるものなのか、女神によるものなのか。シータはどう思います? 」

白魔導師→θ「二度の接触及び今回の観察では、まだ確信にいたるだけの根拠がない」

商人「……やれやれ、皮を被ってるときはあんなに変なキャラ付けなのに、素のあなたときたら堅物なんですから」

θ「……誰のせいだと……次ふざけたら痛い目を見ると事前に宣言しておく」

商人「でもでも、おどおどっ娘も可愛いと思うんですけどねー。ミューちゃん一押しだったんですよ」

θ「くだらんな」

商人→μ「それにそれに、外見だけでなく思考とか能力も変わるのも面白くないですか?」

θ「お前と一緒にするな」

μ「……はいはい、次はシータ好みのキャラ皮をかぶらせてあげますよ」


μ「まあ、でも女神が降臨してるのにはさすがに意味があるはずですよねぇ? ダミーじゃなさそうですし、普段の勇者相手に何度か観測した次元発散指数は一定であることを考えると、やはり女神が何か作用してると思うんですよねー」

θ「それも今はまだ仮説の域に過ぎない」

μ「あーはいはい……それじゃあ引き続き観察するとして、次ぶつけるとしたらやはり七魔……んー、封印を解いてまだそんなに時間の経ってない魔僧正とか聖魔あたりですかね」

θ「いや、次は四天王だ」

μ「いやいや……四天王は流石にまずいんじゃないですか? あれは何だかんだと別格ですよ?」

θ「四天王相手に負ける程度の『世界改変』ならば、そもそも計画に必要ない」

μ「……万一にも本物なのに死んだりしたら、だいだいっ大問題ですよ。慎重だったり無謀だったりシータは忙しいですねぇ……」

θ「今回もダミーや本当に『改変能力』がない勇者ならば消えてもおかしくなかったが、結果はこの通りだ。私もそろそろ確証を得たい」

μ「…はいはい、この観察任務はあなたがリーダーですから従いますよー」

【病院】

傭兵「よう勇者」

普者「うぇっ……!?」

傭兵「何だよ?」

普者「いや、勇者って……」

傭兵「あれだけの活躍を見せたら勇者と呼ぶしかないだろ」

魔法使い「確かに、驚いたわ。最後の一撃もだけど、特にあの不意打ちを回避したところ」

普者「……不意打ち?」

魔法使い「斜め後ろからの突き刺し攻撃を跳んで躱していたじゃない。しかも、そのまま最高の攻撃ができるタイミングで……覚えてないの?」

普者「え、えーと……」

傭兵「無我の境地ってやつか? 大したやつだな」バシッバシッ

普者「あだっ、あは、あはは……」

武闘家「無我の境地……凄いですね」


普者「(あれは、女神さまの指示に従っただけのはず……)」

女神「(そうでしたっけ? 忘れました)」シレッ

普者「(えぇ……)」


武闘家「……ところで、傭兵さん。聞きたいことがあります」

傭兵「ん?」

武闘家「傭兵さんは、魔法使いさんの父親なんですか?」ズバッ

魔法使い「ちょ、ちょっと……!」

武闘家「気になるんでしょ?」

魔法使い「そ、そうだけど……」

武闘家「で、どうなんですか?」

傭兵「……ふー、もう勇者と性悪妖精には話したが」

女神「こら、ちょっと待ちなさい」

普者「(ここは抑えて……後でジュース飲ませてあげるから)」

女神「(まったく……この前の店のミックスフルーちゅ……フルーツジュースですよ)」

普者「(はいはい……ミックスフルーちゅジュースね)」

女神「……」ゲシッゲシッ

普者「(ごめん、僕が悪かったから静かにね)」


傭兵「結論から言えば俺はお前の父親じゃない……そもそも、俺は独身だし、子どもはいない」

魔法使い「……本当に?」

傭兵「……女神に誓って」

普者「(……女神に誓ったらあまり誠実ではないんじゃ)」

女神「(あまり調子にのると耳を削ぎます)」

普者「(ご、ごめんなさい)」

魔法使い「……それ、じゃあ、私はずっと馬鹿な勘違いをしてたのね……」

傭兵「……そう、とも言い切れない」

武闘家「……?」

傭兵「俺は、血縁上は、お前の叔父なんだ」

魔法使い「……え?」

傭兵「お前の血を分けた父親は、俺の実の兄貴だ。ずっと昔に死んじまったけどな」


傭兵「俺と兄貴は今は魔物の侵攻で滅んだ北北西国の出身で……まあ、王子だったんだ」

武闘家「おうじ……王子ですか……?」

傭兵「そう、国王の息子だよ。ただ、今言った通り、国は滅んだからな。俺たちは故国を魔物から取り戻すために、世界中で同志を募いながら、魔物を倒す旅をやってたわけだ」

魔法使い「そして、お母さんたちとも知り合ったのね……」

傭兵「いや、俺は北国に遊学していたからお前の父母とは、前から旅に出る前から知り合いだった……2人が加わったのは、大分後からだったが……」


女神「(最初に知り合ったのはよっさんなのに、よっさん兄が掻っ払っていったんですよね? ふふ、どんな気持ちだったんですかね?)」

普者「(恋愛って熾烈だなぁ……)」

女神「(ふーくんには縁のない話ですけどね)」

普者「(そうだねぇ……)」


傭兵「まあ、それで旅の途中でお前を授かったから、母親はお前の育ての父親を連れて北国に戻ったわけだな。あとは、お前の方が詳しいだろ?」

女神「(魔法使いさんの母親も罪な女ですねぇ……)」

普者「(よっさんと、よっさん兄と、その男の人の三人とも好きだったんだね……)」

女神「(腐れビッチですね)」

普者「(いやいや……)」


魔法使い「……なんで、なんでアナタの兄は母さんと一緒にならなかったの?」

傭兵「……兄貴がクソ野郎で、そして、お前の父親がどこまでも優しくてお前の母親を愛してたからだ」

魔法使い「……っ」

傭兵「……俺からは話さないでおこうと思っていたんだが……すまん」

魔法使い「……アタシ、アナタのこと、勝手に父親だと思って、勝手な甘えてた…………ごめんなさい」

傭兵「お前は何も悪くない。全部俺たちの責任なんだよ。俺たちのせいでお前はしなくていい辛い思いもしただろう。本当にすまないと思っている」

魔法使い「…………」

女神「実質的な加害者がこの場にいないからなんとも締まらない感じですねぇ」


武闘家「あの……傭兵さんのお兄さんは?」

傭兵「亡くなったよ。七魔をどんどん倒して全盛期だった時に、四天王と直接対峙してな……」

武闘家「四天王……竜王ですか?」

傭兵「いや……牙王だ。あの強さはバケモノとしか言いようがなかった……俺たちは国の中隊程度の集団になっていたが、その八割が牙王との戦いで戦死した……戦死と呼ぶにはあまりに一方的な蹂躙だったが……」

武闘家「……」

魔法使い「……はあ、なるほどね。道理で誰も話したがらないわけね」

傭兵「本当にすまないな」

魔法使い「……もう、いいわよ。そこの妖精じゃないけど、加害者はこの場にいないもの」

普者「……」

魔法使い「……話してくれてありがと」



魔法使い「申し訳ないけど、アタシは復帰するまでまだまだかかると思うわ」

女神「貴女は足手まといですから、さっさと北国に帰りなさい」

普者「そんな言い方……」

魔法使い「事実だからいいわよ。……目的も一応果たせたもの。アタシはパーティを抜けるわ」

普者「う、うん……」

傭兵「俺も、今回の戦いでこの通り、脚が万全じゃなくなっちまった。酷い折れ方をしたから、治っても、もう戦いは無理だとよ」

武闘家「……っ」

普者「そ、そんな……!」

傭兵「戦いの中で死ねなかったが……はは、まあ、それも俺にはお似合いかもな……潮時だったんだろう」

女神「(空元気ですね……自分のアイデンティティを喪って笑っていられるわけありますか)」

普者「……」


女神「まあ、戦えない者のことはどうでもいいです」

武闘家「……」キッ

女神「なんですか? 未来の自分の姿をよっさんにでも見てしまいましたか?」

武闘家「……本当に最低ね」

傭兵「……すまんな勇者。代わりのヤツはギルド幹部に仲介して用意しておくからな」

普者「そ、そうですか……ありがとうございます」

武闘家「……私は、魔法使いさんを故郷に送り届けようと思います」

普者「う……」

魔法使い「要らないわ」

武闘家「いえ、ついていきます」

魔法使い「結構よ」

武闘家「……どうして」

魔法使い「だって、叔父サマが送り届けてくれるもの。そうでしょう?」

傭兵「……ああ」

魔法使い「そういうこと。二人も付き添いは要らないわ」


武闘家「……」ムゥ

魔法使い「……ちょっと来て」チョイチョイ

武闘家「……なんですか?」

魔法使い「(……普者の力になってあげなさい。アナタにしかできないもの)」ポソポソ…

武闘家「……でも」

魔法使い「お姉ちゃんからのお願いよ」

武闘家「……ずるいわ」

魔法使い「年上だからね」クスッ

武闘家「……分かりました。私は、魔王を倒す冒険を続けます」

普者「そ、そっか……」ホッ

女神「(ふーくん、聞こえていたんでしょう? 聴覚も強化されていますもんね?)」

普者「(ま、まあ……)」ポリポリ

女神「……」ジトッ

普者「とにかく、みんなもう少ししっかり休んでね!」




普者「……」ブンッ…ブンッ…

普者「(……地属性魔法をハンマーに)」スゥゥ…

ブワァ――ッ‼︎

普者「……できる」

女神「まーた特訓ですか?」パタパタッ

普者「……もう元気になったからね」

女神「私はもう疲労困憊です。どこぞの生ゴミに陵辱を受けましたからね」ジロッ

普者「……ゲロをかけたこと?そんなつもりはなかったんだよ」

女神「故意にふっかけてたら死刑ですよ! 死刑! 疫病を散布した罪で、死よりも恐ろしい目に遭わせます!」

普者「ごめんて……」

女神「ふん、まったく……」



ブンッ…ブンッ…

女神「何か言いたいことがあるんじゃないんですか?」

普者「え?」

女神「古淫魔に一撃食らわせる時、あんなに愚痴ってたじゃないですか」ジトッ

普者「いや、まあねぇ……でも上手くいったから別にいいかなぁ、と」

女神「……はあぁ、本当にアホなんですねぇ。羨ましさすら覚えます」

普者「そ、そう……」テレッ

女神「これっぽっちも褒めてないですからね!」

普者「そ、そう……」

女神「はあぁ……」

普者「……」ブンッ…ブンッ…

女神「……」


普者「そういえば」ピタッ

女神「どうしたんです?」

普者「……古淫魔と戦ってる時、変な感覚があったんだ。魔法を槌にのせようとしたのは初めてだったんだけど、初めてじゃないような……ううん、そもそも古淫魔と戦うのが初めてじゃないような……」

女神「……ほーん。若年性健忘が始まったんですね。その年で可哀想に」

普者「いや、そうじゃないと思うけど……うーん、そうなのかな……よく分からないよ……」

女神「……まあ、ふーくんの足りない頭で細かいことを気にしても仕方ないですよ」

普者「……うん、そうだね」

女神「それよりはやくミックしゅ……ミックスフルーツジュースです! 一番高いのですよ! はやく!」

普者「ああ、はい……ミックしゅフルーちゅジュースね」

女神「……」ゲシッゲシッ

普者「ごめんごめん」


【数日後・宿屋】


普者「よっさんが、新しい仲間がくると言ってたけど、どんな人だろう」ドキドキ

女神「強くて、従順で、有能で、清潔で、信心深ければ何でもいいですよ」

普者「めっちゃ、要求水準高い……」

武闘家「……長旅をする仲間です。変な人でないといいですが」

普者「そうだね……」

コンコン…

普者「き、来たみたい」ドキドキ

女神「ドキドキしてるんじゃありませんよ。気持ち悪い」

普者「ひどい……あ、開けまーす」ガチャッ



エルフ「……」ドヤッ


普者「……」

女神「……」

武闘家「……?」

普者「……」バタンッ

エルフ「なぜ閉める!」ダンッッ

普者「いや、なんとなくそうするべきな気がして……ごめんなさい」

女神「よりによって貴女ですかぁ……?」

アサシン「ウチらもいるぞー」ヒョコッ

盗賊「……」コクコクッ

武闘家「(……同い年くらいでしょうか)」

アサシン「ウチはアサシンだぞー。こっちの無口なのは盗賊だ。よろしくなー 」ニカッ

盗賊「……」ヨロシク


女神「ちびっ子二匹と、ババア一頭ですか……」

エルフ「本当に口の悪い妖精だな……」ビキッ

女神「あら、事実を述べたまでですが」

武闘家「あらかじめ言っておきますが、この妖精は憎まれ口しか利きませんから、相手にしない方がいいですよ」

女神「戯けたことを言わないでください、この変態マゾ娘」

武闘家「常にこんな具合です」

アサシン「あははー、おチビちゃん可哀想だなー」

女神「チビは貴女です。この色黒チビ娘」

アサシン「チビちゃん、チビちゃーん」ツンツン

女神「こらっ、やめなさ……こらっ……あぅっ」プニプニッ

アサシン「かわいいぞー」ツンツンツンツンッ

盗賊「……」ツンツンツンツンッ

女神「んひっ……もっ……やめっ…やめろゴラァァアアッ……んあっ…」

普者「ま、まあ、程々にしてあげてね」



女神「このチビ猛獣二匹及びババア一頭はチェンジで」ゼェゼェ

アサシン「あははー、それ無理だぞー」ツンツンツンッ

女神「やめ…はぐぅ……!?」ジタバタ

普者「アサシンさんもうやめてあげてね!」

アサシン「はーい」

盗賊「……」ウズウズ

女神「……ああもう、ゲロ吐きふーくんの肩に一時避難です! 吐かないでくださいね!」

普者「はいはい…」

武闘家「…あの、話を進めませんか?」

エルフ「まったくだ」

女神「まずは雇用契約等について教えなさい」


【エルフの高貴で回りくどくて冗長な説明】

武闘家「…………?」

普者「つまり…どういうことだってばよ?」

女神「イザナミだ」


【アサシンの擬音と指示代名詞たっぷり主語のない説明】

武闘家「あれ? これ……? え、これはギルドのこと? はぁ……」

普者「びゅーんひょいって……何のこと?」

女神「うぃんがーでぃあむれぶぃあぅーさぁー」


【盗賊の何故か伝わるボディランゲージの説明】

普者「……つまり、魔王討伐に協力してくれて、三人のお給金はギルド幹部さんの根回しでギルドの方から出るわけだね?」

武闘家「特務扱いだから、広い裁量があって、私のような冒険者と同じように行動できると」

女神「一言も喋らない説明が一番分かりやすいってどういうことなんですか……」

盗賊「……」ムフ-



普者「それじゃあ、続いて少し自己紹介しようか。僕から始めるね。一応、勇者っぽい存在で、魔王を倒すために冒険してます」

女神「合コンじゃないんですからもっとしっかり説明しなさい。なんですか『勇者っぽい』って。真面目にやってください」

エルフ「これだから今時の若者は……」ヤレヤレ

アサシン「二人ともオバサンくさいぞー」

「「……あ?」」

アサシン「んー、耳も悪くなってるのかー? やっぱりオバサンくさいぞー」

女神「死にたがりのおチビちゃんがいますね」ビキビキ

エルフ「そうだな」ビキビキ

普者「とりあえず、落ち着いて!この子は、多分悪気なく言ってるから!」

女神「尚更許せませんね……無邪気な邪気も充分罪深いです」ゴゴ…

アサシン「んー?」

武闘家「このパーティ、大丈夫なんですか……?」

盗賊「……」サア…?



アサシン「はいはーい! 勇者なら雷属性の魔法を見せて欲しいぞー!」

盗賊「……」コクコクッ

エルフ「実物を見る機会なぞないからな」

普者「あー……その、使えないデス……」

アサシン「そうなのかー? 偽物じゃないのかー?」

普者「うぅ……それを言われると辛いけど……それでも一応勇者なんだよ」

女神「まあ、勇者未満の普者ですけどね」

アサシン「あ! それで、ふーくんなのかー! ふーくん!」

普者「はい……」

アサシン「ふーくん! あはは、かわいいなー! ふーくん! ふーくーん!」

普者「へい……」

アサシン「ふー……むが……っ」

盗賊「……」ダマロウネ

アサシン「ふぁーひ」モゴモゴ



武闘家「“武闘家”です。普者さんと共に魔王を倒す旅に出てます。西国の出身で、年齢は14です…………最近は少しだけ勉強と魔法ができるようになってきました」

普者「(……初対面の時よりも成長してる!)」

女神「(格闘小娘ですら成長してるというのに、ふーくんときたら……)」

普者「(が、がんばりまーす)」

女神「(まあ、率先して指揮するあたりは多少の成長は見られますが)」

普者「(お、褒められた)」

女神「(褒めたうちに入りません! 精進しなさい!)」

普者「(ハイ……)」



エルフ「貴様らにとっては畏れ多いかもしれないが、エルフ族だ。精霊の国で女騎士を勤めていたぞ」ドヤッ

武闘家「精霊の国ってどこですか?」

普者「……さあ?」

アサシン「知らないぞー」

盗賊「……?」

エルフ「……物を知らないヤツらだな」

女神「自分の知ってるものが常識と考えるのはやめたほうがいいんじゃないですか?」プクク

普者「(うわぁお、ブーメラン)」

女神「(やかましいです)」

エルフ「……精霊の国は人間界の極北西にある国だ。北北西国の北にあってかつては交易があったが、北北西国が滅んだ今では人間との交流も途絶えてしまったな」

普者「へー……傭兵さんと話が合いそう」

エルフ「む、彼は北北西国の出身なのか……? 道理でエルフ族への理解があると思った……彼のような人間が多くいればエルフ族もまた人間と友好的に過ごせるだろうに」


普者「お、おう……?」

エルフ「い、いや、特に深い意味はないがな、うむ!」ゴホン

女神「(エルフはチョロいっていうのは本当かもしれませんね)」

武闘家「騎士ということは貴族だったんでしょう? どうして南国で傭兵をしてるんですか?」

エルフ「……まあ、色々あってだな」

女神「ほーん、どうしてここまで落ちぶれたのか是非聞かせて欲しいですね」

エルフ「やかましいぞ、邪悪なフェアリー。お前こそ、どうしてこんなところにいる? あまりに口が悪すぎて、追い出されたか?」

女神「おや、それは貴女では?」

エルフ「……」イライラ

普者「不毛な諍いはやめなよ……」


アサシン「ウチはアサシンだぞー。盗賊とは南西国のスラムで一緒に暮らしてたぞー。えーと、人を殺すのが上手いってよく褒められるぞー」フフン

エルフ「汚らわしい業だな」

女神「貴女と何が違うんですか。暗殺も武術も冒険中じゃ大差ありませんから」

アサシン「年は、盗賊よりも二つ上だから……ええと?」チラッ

盗賊「……」ジュウゴ

アサシン「そう、ジューゴだぞー」

女神「げっ、ということは、13、14、15ですか……ふーくんを入れても平均16歳未満……まあ、エルフババアを加えれば一気に中年パーティなると思いますが」

エルフ「貴様……私を愚弄するのもいい加減にしろ……」

女神「どうせ3桁なんでしょう?」

エルフ「まだ二桁だ! …………ギリギリ」

アサシン「とにかくよろしく頼むぞー」


盗賊「……」ヌスミガトクイ

普者「そ、そうか……よろしく……多分、盗んだりする機会はないと信じたいけど……」

盗賊「……」コクッ

女神「なんで喋らないんですか? 変なトラウマとか要りませんからね?」

アサシン「スラムにいたころ、貴族への盗みがバレて喉を潰されちゃったんだぞー」

盗賊「……」コクッ

女神「ぉぅ……」

アサシン「ムカついたから、その貴族も、盗賊をハダカにしたオトコたちもウチが殺してやったぞー!」ぶいっ

盗賊「……」ぶいっ

普者「(なんてインモラルな……)」

アサシン「それで追われて逃げてたらなー、戦士のおっちゃんに会ってなー、ギルドに入れてもらったんだぞー」

武闘家「それじゃあ、その人は生命の恩人なんですね」

アサシン「死んじゃったけどなー」タハハ

盗賊「……ハァ」

武闘家「す、すみません」


普者「……二人は助け合って生きてきたんだね」

アサシン「そうなのかー? どう思うー?」

盗賊「……」タブン

アサシン「多分そうだぞー! ……あ! でも、盗賊が最初にウチのゴハンとろうとしたの忘れてないぞー」ガルル-

盗賊「……」フイッ

アサシン「久しぶりのゴハンでご馳走だったからなー」

女神「……ちなみに何だったんですか?」

アサシン「『肉がついた骨』だったぞー、うまかったなー」

武闘家「分かります。似た経験がありますから」

エルフ「君たち……」

普者「(武闘家さんは戦災孤児だったね……)」

女神さま「(他のチビたちも似たようなものだと思いますが……スラムだって、魔王軍の侵攻による国の動乱が原因で著しく拡大しましたしね。難民問題、失業問題、治安の悪化、暴力集団の台頭に傭兵ギルドの腐敗……最近の魔王軍と衝突は他にも多くの問題の原因です)」

普者「(魔王を倒したらすぐに解決する問題ばかりじゃないけど、魔王を倒さなきゃ解決のための一歩も踏み出せないよね)」

女神「(少しは物事が分かるようになってきたじゃありませんか)」



エルフ「さて、これだけ少数のパーティだ。戦力の確認をさせて欲しいところだな……特に、武闘家。貴様はその眼と手で戦えるのか?」

武闘家「ご心配なく……気になるのならお相手いたしますが」

エルフ「……ふむ、そういうなら」

アサシン「あ、うちがやりたいぞー!」ピョンコピョンコ

女神「そういうことなら、お喋りチビと無口チビの腕前も見たいところですね。アサシンvs武闘家、ふーくんvs盗賊ですかね」

エルフ「おや、私はいいのか?」

盗賊「……」タタカイ、ニガテ、カワッテ

女神「……まあ、いいでしょう。それじゃあふーくんvsババアで」

エルフ「おい貴様」

【武闘家vsアサシン】

普者「ド派手な技で周りの建物壊したりしないでね!」

武闘家「分かっています」


アサシン「にしし、さっそく行くぞー」

ダンッ

武闘家「……」スゥッ

ドッッッ!

アサシン「あいだぁー!?」ゴロゴロゴロゴロ…



普者「おおう……イイのが入ったね……」

女神「え、黒チビ娘ショボくないですか?」

エルフ「……武闘家は確かにかなりの実力の持ち主のようだ」



アサシン「うぅ……痛いぞー」ピョンッ

武闘家「(……あれだけ綺麗に入れば直ぐには立てないはずですが)」グッ


アサシン「また行くぞー!」ビュンッ

武闘家「(速い……っ、けれど単調)」ヒュルッ、パンッ


アサシン「わっ、わっ!?」フワッ


トンッ、タンッタンッ

アサシン「ふいー、めっちゃとんだぞー」

武闘家「……猫みたいな動きですね」


女神「相手の突進の勢いを流して、そのまま投げたんですかね」

普者「うん。やっぱり武闘家さんは凄いや」

エルフ「一方でアサシンは素早さと身のこなし以外はただの子ども同然……アサシンと盗賊は南国ギルドの虎の子と聞いたことがあったがな」


アサシン「うーん、凄いぞー。結構スピード出したのになー」

盗賊「……」シゴト、ドオリニ

アサシン「おお? でも、これは殺しじゃなくて試合だぞー?」

盗賊「……」イイノ、コロサナイヨウニネ

アサシン「おー、分かったぞー……びゅーん、ひょいっ、だな!」グッ、グッ…

武闘家「……?」

アサシン「……にひひ」ググ…


ヒュンッ


武闘家「(消え……っ!?)」


ヒュオッ

武闘家「っ!」パンッ


ヒュォォ――!

武闘家「…っ!?」ガッ


パンッパンッパンッパンッ……!!



武闘家「っっ……はぁっ!」バッ


ニュルンッ

武闘家「!」

アサシン「にひっ、首もーら……」


武闘家「たぁっ!」ドゴッ


アサシン「ふぎゃっ……!?」ゴキキッ



シュタッ

武闘家「……ふぅ…っ!?」ピタッ


アサシン「お、よく止まったなー。もし変に抵抗してたら本気で殺しちゃってたぞー」


武闘家「……どうして後ろに……私の敗けです」



女神「おおう……何が起きたか全然理解できなかったんですけど。なんで黒チビは武闘家さんの後ろにいて、刃物を首筋に当てているんですか?」

普者「ええと、アサシンさんの、ものすっごいスピードと、予測しづらい動きで、広いレンジから急所を狙う連続攻撃があって……で、武闘家さんはフェイントの突きを入れて誘い出したところで、後ろ回し蹴りが決まった……と思ったんだけどなぁ……いつの間にアサシンさんは後ろに……無傷みたいだし」

女神「ふーくんのヘタな説明では、よく分かりませんね」

普者「ご、ごめん……」

エルフ「(魔法の残滓がある。魔法を使ったのか? しかし、あのような魔法は……出自を考えてみても生来のものか?)」

エルフ「……なんにせよ、確かに両者ともただの子どもではないようだな」


アサシン「盗賊ー! 武闘家すごいぞー! 強いぞー!」

盗賊「……」コクッ

武闘家「最後はどうやって後ろに回りこんだんですか? その前に、確かに蹴りが入ったと思ったのに……」

アサシン「ぶおーん、ひょひょいってするんだぞー」

武闘家「……はあ、なるほど」ワカリマセン


【普者vsエルフ】


女神「いけー、ふーくん! エルフ、女騎士はオークや山賊相手に強力なマイナス補正がついてます! ふーくんはオークと山賊両方に似ているから楽勝ですね!」

普者「ひどくない?」

エルフ「ふん、ふざけていていいのか?」チャキッ

普者「真面目にやるよ……って、し、真剣なんだね……?」つヒノキの棒

エルフ「……どこが真面目だ。真面目にバカにしているのか?」

普者「いや、試合だし、普通、真剣とか使わないでほしい……」

エルフ「甘えたことを――『風精の戯れ』」

ヒュオォォ……


普者「う……」

女神「こちらも、地属性魔法をヒノキの棒にのせるんですよ!」

普者「分かってるさ……」スゥゥ…

エルフ「ほう、魔法の扱いはそれなりに心得てるか」

普者「(この前、急にできるようになったんだけどねぇ)」



アサシン「おー、二人ともすごいなー」

武闘家「普者さんはいつの間に……」



エルフ「行くぞ」

(エルフは剣を振ることで風の刃を放つ)

普者「これくらいは、何とか打ち消せる……!」ブンッ、バッ


エルフ「ふむ……ではこれなら? ――『百閃・疾風突き」!」



女神「恥ずかしい技名を叫ばないとダメなんですかねぇ……」

アサシン「その方がかっこいいぞー!」←15歳

武闘家「そうですね」←14歳

盗賊「……」コクコクッ←13歳

女神「うーん、この」



怒涛の疾風攻撃が普者を襲う!


普者「(流石に打ち消せないから……肉体強化しつつ……飛び込むっ!)」ダンッ


シュゥッ……!


普者「いだだっ……!」シュタッ  ダダッ…


エルフ「(面の攻撃を点で近似して躱し、そのまま攻めに転ずる……悪くない動きだ……が)」

エルフ「地属性が剥がれた状態で接近戦は得策でないぞ――『水精の誘い』」ピチョンッ


普者「(分かってるさ! だからこそ一撃で決める!)」

普者「おりゃぁぁああ!」ブンッ



ピチャッ


普者「うぇっ!?」スカッ


エルフ「あまりに無防備だ――『流零・覆水』」ヒュンッ

エルフの淀みなき一閃!


普者「……」ブシャッ

バタッ



普者は闘いに負けてしまった……



武闘家「だ、大丈夫ですか……!?」ダダッ

女神「血まみれじゃないですか……はやく治療をしなさい!」

エルフ「『妖精の祝福』……この程度、躱すと思ったんだが……」

女神「ふーくんは基本ザコなんですよ! ほどほどにしなさい!」

武闘家「そうですよ。頑丈で力持ちでも、あまり戦闘は得意じゃないんですから」

エルフ「そのようだな……」

普者「み、みんなして酷い……」ダクダク…

アサシン「大丈夫かー? ラクになるクスリあるぞー」

盗賊「……」ソレ、シンジャウカラ

普者「あはは……わりと慣れてるから多分大丈……夫……」パタッ


武闘家「普者さん!?」


【病院】


魔法使い「気を付けてね。武闘家、生きて帰ってきてよ」

武闘家「……はい。はやく良くなってください」

エルフ「傭兵殿、後はお任せください」

傭兵「おう、頼むぜ」

エルフ「はいっ」

普者「(北北西国の王子ってことは伝えないままでいいのかなぁ?)」

女神「(別に話す必要もないでしょう)」


アサシン「おっちゃんとねーちゃんも早く元気になれよー」

盗賊「……」オダイジニ

魔法使い「ありがとね……貴女たちの無事も祈ってるわ」

アサシン「にひひ、ありがとなー」ニパッ

盗賊「……」コクッ



普者「それじゃあ、僕たちは先に進むよ」

魔法使い「アナタたちと冒険ができて、その…皮肉なしに、最高だったわ」

武闘家「……」ニコッ

傭兵「最後までついていけないのは残念だが、お前たちなら、もしかしたら本当に魔王を倒すかもな」

女神「倒してもらわないと困ります」

傭兵「くはは、そうだな。女神サマがお前たちを見守ってるに違いないしな」

普者「間違いないですね」

女神「……」イライラ

魔法使い「普者はそんなに信心深い方だっけ……ま、一応勇者だし、変な話じゃないけど」

普者「あはは……」

傭兵「ま、見守るっていうか監視かもな」ニヤッ

女神「……」ギロッ

普者「まあ、罵倒されないように精々頑張ります」

女神「……」プルプル…




普者「よし、賢者に会いに行くぞ」

エルフ「最寄りの街まではギルドが馬車を手配したそうだ。二泊三日の予定だ」

武闘家「至れり尽くせりですね」

アサシン「賢者かー! きっと文字を読んだり、掛け算や割り算もできるんだろうなー!」

盗賊「……」ケンジャ、スゴイ

武闘家「……私でよければ少しは教えますよ」

エルフ「私も一時期宮中で教師をしていたから頼ってくれていいぞ」

女神「……勇者パーティから青空託児所になったようですね」

アサシン「あははー、オマエちっちゃいもんなー」ツンツンッ

女神「私のことじゃありませんよ! このアホ娘!」

普者「と、とにかく頑張ろう!」


【冒険は続く!】

次回オカマタイツ編!(また暫く空くかも)

女神「忌々しい変態タイツとその愉快な一向のあらすじです」

普者「女神さまがするんですね」

女神「私がヒロインなんだから当然です。みんな私のことが好きでしょうがないから、仕方なく需用に応えてあげてるんですよ」フンス

普者「ああ、はい……」


女神「中央国における竜王の襲撃後、オカマタイツはイケメンハーレムを錬金術で創り出すことを考えて、錬金術士がいるであろう北国を目指します。目的も意味不明ですし、不確実は情報で移動するあたりバカ丸出しです」

女神「自分の体を治したい剣士と武士を引き連れて、北に旅出た一向ですが、バカなので完全に迷子になります。そして、バカなので、遭遇した怪しい魔物の集団についていきます」

女神「その後、謎の集団と戦闘になり、武士は力尽きてしまいました」

女神「そして、オカマタイツはその場に封印されていた魔人を解放します。魔人は傍若無人ですが、強いです。謎の敵を簡単にひねってしまいます」

女神「さて、圧倒したものの、敵は最期に自爆します。武人然としていたくせに、最期は汚い手を使いましたね」

女神「……まあ、自爆したところで死ぬような変態タイツたちではないんですがね、忌々しい…… ということで、本編です」


普者「あ、皆さん明けましておめでとうございます」

女神「お賽銭は私に寄越しなさい。御利益? 信じるものは救われるのです。お年玉をくれるともっと嬉しいですね。あなたは私にお金を払ってハッピー、私もお金を貰ってハッピー。ウィンウィンですね!」

普者「おっとこれには八百万の神も苦笑い」

【砂漠地帯】


剣士「この一面の砂漠……僕たちは地獄に落ちたのかな……」

オカマ「地獄、ねぇ……」

ニャァ……ニャァ……

オカマ「猫地獄……?」

魔人「うへへへ……」ワシャワシャ

ニャァ…♪

魔人「うへへへ……」ワシャワシャ

剣士「なんだ、アイツ……動物虐待しそうな顔のくせに……」

オカマ「ああん…ギャップ萌え……! 厳つくて冷淡かつ凶暴なイケメンが猫にだらなしない顔をする! 最高のギャップ萌えよ!」クネクネ

剣士「悪いことしてる奴が良いことしてると評価が高くなるアレか……モジモジするな気持ち悪い」

魔人「うへへへ……」

吟遊詩人「おーい、ご飯の片付けくらいしてくれよ」

オカマ「しかも、ゆるふわ糸目なイケメンとも出会えたわ! アタシ、しあわせっ!」クネクネ…

剣士「……ああ、そうかい」ヒキッ

魔人「うへへへ……」

吟遊詩人「そこのムキムキさーん、聞いてるかーい?」

魔人「ほれほれ…うへへ……」

吟遊詩人「うーん、困ったな」

ニャン娘「なんでそんなに弱気なのよ!こいつらは寄生してるんだから、もっと強気に出さないな!」

吟遊詩人「あっはっは、参ったなぁ。ごめんよ」

ニャン娘「~~っ! もうっ、頼りないんだから! ちょっと筋肉ダルマ! 困ってたアンタたちを助けたんだから片付けくらいしなさいよ!」

魔人「……うるせぇ」ギロッ

ブンッ

ニャン娘「きゃっ…!?」

剣士はニャン娘を庇った!

剣士「あば…ッ!」ゴキャッ


オカマ「本職のナイトも真っ青の『かばう』ね」


ニャァ…

魔人「んお? 怖がらせたか」モフモフ

ニャン娘「だ、大丈夫なの…!?」

剣士「げほっ……お怪我はありませんか、お嬢さん。華のように美しい貴女に傷をつけるわけにはいかないからね」キリッ

オカマ「剣士ちゅわんも大概よね~」

吟遊詩人「あっはっは、みんな面白いね」

ニャン娘「(この場にまともな奴がアタシしかいない……!)」



オカマ「それで、ここは何処なのかしらん?」

吟遊詩人「南西国の西端だよ」

剣士「げっ、あの大爆発でそんなところまで吹き飛んだのか!……国一つ跨ぐだけ吹き飛んで、なんで生きてるのか謎だ……」


ニャン娘「びっくりしたわよ。砂漠でアンタたちが突き刺さってるんだもの」

魔人「刺さってねぇ」

ニャン娘「刺さってたわよ」

魔人「刺さってねぇ」

ニャン娘「刺さってたわ!」

魔人「刺さってねぇ!」

ニャン娘「刺さってたのよ!」

魔人「刺さってねぇ!」ブンッ

剣士はニャン娘を庇った!

剣士「うぼほっ……!」ブォォッ

オカマ「ちょっとぉ、魔人ちゅわん! アタシの剣士ちゃんに暴力を振るわないでよね」プンスコッ

剣士「お前のものになった覚えはない……!」プルプル…


オカマ「ああでも、アタシを取り合って殴りあう男たち……ああんビンビンくるわぁ♂」

剣士「また自分で混乱状態になったか。それよりお嬢さん、僕と二人きりで砂漠の星空を眺めませんか?」キリッ

魔人「はらへった」グルル

吟遊詩人「さっき食べたばかりでしょう」

ニャン娘「どこまでマイペースなのよ貴方たち……アンタもしっかりしてよね!」

吟遊詩人「うんうん、ごめんね」ナデナデ…

ニャン娘「んん…っ……そ、そうやって誤魔化そうとして……!」

吟遊詩人「いつもありがとう。頼りにしてるよ、ニャン娘」ナデナデ…

ニャン娘「んん……ふ、ふん、当然でしょ」ニャ-…

剣士「このセクハラ男が僕のニャン娘さんに……!」ギリッ

オカマ「ああん……そんな……でも……みんな大好きよぉ……おいでアタシの逆ハーメンバーたち!」クネクネ…

魔人「お、食えそう……いただき」蠍ヒョイパクッ

ニャァ……!?




吟遊詩人「……」ナデナデ

ニャン娘「……♪」

剣士「……」ムキ-

オカマ「……」ビクンビクンッ

魔人「……」ボリボリッ

にゃーにゃー



……オカマタイツパーティに『全体遅滞魔法』!
物語の進みが遅くなった!



オカマ「それでアタシたちは今のところ錬金術師を探してるわけだけど、アナタたちの目的は?」←我に返った

魔人「あん、俺に美味いモン食わせるんじゃねえのか?」

剣士「違うに決まってるだろ! どこまで都合のいい脳みそしてるんだ!」

吟遊詩人「……僕たちは、勇者を探しているんだ」

魔人「ゆうしゃ……なんだか懐かしい響きだな」

剣士「勇者……そんな実在するかも分からない存在を探して旅してるのか?」

ニャン娘「勇者は実在するわよ!」ダンッ

剣士「すまない。貴女を不快にしたいわけではなかったのです、お嬢さん。貴女には笑顔が似合う」キリッ

オカマ「どうして勇者が実在していると言えるのかしら?」

ニャン娘「おじいちゃんが言ってたもの! アタシたちが魔物に苦しめられたとき、勇者が現れてアタシたちを救ってくれるって!……それに、アタシたちにはもう、それ以外にどうしようも……」

吟遊詩人「……」

魔人「くだらねぇ」

ニャン娘「っ、うるさいっ」


オカマ「魔物に苦しめられてる?」

吟遊詩人「ええ……『猫島』……いや、『アニマル諸島』全域が魔物の侵攻に絶えず晒されている」

剣士「ああ、やはりアニマル諸島の人々だったか」

魔人「あ?」

剣士「人間界と魔界の中間の海『分海』の南に広がる島々だよ。様々な動物や獣人が住む土地で、人間たちと同盟を結んでいる」

ニャン娘「ふん、人間はアタシたちのことを差別するけどね!」

吟遊詩人「……魔王軍の侵攻が激化している。人間界も海岸線を魔王軍に実質支配されているから援軍も期待できない」

オカマ「あらら……」

吟遊詩人「実は今回、現状を西部三国の王に陳情して救援を要請したものの、すげなく追い返されてしまった。このままだと島を棄て、亡命することになるから、その承認も求めたものの、臣民ならざる亜人に施しをする余裕はないともね」

ニャン娘「……」ギュッ

オカマ「……それで勇者、ね」

ニャン娘「……たくさんの仲間が殺された。もう……このままじゃアタシたちは……」ポロポロ…


魔人「くっだらねぇな」

ニャン娘「……アンタになにが分かるのよ!」

魔人「ただ助けてくれる誰かを待って、何もしねぇ臆病で卑怯なヤツのことなんざ何も知らねぇよ」

ニャン娘「でも、敵は……アタシたちよりも強くて多いのよ! もう勇者しか……」

魔人「テメェは戦ったのかよ、クソ女」

ニャン娘「……っ、それは……」

吟遊詩人「やめてくれ。彼女はこの戦いの中で大切なものを失って、それでもここまで皆の希望を背負って来たんだ。絶望を突きつけられても、まだ諦めていない……彼女はとてもよく戦っている。彼女の侮辱は許さない」

オカマ「はぁん…マジな吟遊詩人ちゅわん、カッコいい……」クネクネ

剣士「……お前、ほんと気持ち悪いな」

魔人「そう言うテメェは? 戦ってもねえのに、人頼みかよ? 情けねえな。その股にぶら下がってるのは飾りかよ…人間モドキが」

吟遊詩人「……」


ニャン娘「……ふざけんニャ!」

吟遊詩人「……」スッ

ニャン娘「……っ」ギリッ

吟遊詩人「君の言葉は尤もかもしれない。でも、僕は決して逃げたわけじゃない。これが僕の戦い方だ。僕は戦いは苦手だが、それでも自分の役割を精一杯果たすつもりだ」キッ

ニャン娘「……そもそも、ここに来るまでだって充分過ぎるくらい生命を賭けたんだから! 『猫の島』の港も西部三国の港も全部制圧されてるから、死を覚悟してここまで来たんだから!」

魔人「ふうん」

剣士「魔人! お前、さっきから失礼だぞ! 他人の事情も知らずに偉そうに語るな!」

魔人「お前は黙ってろ」バキッ

剣士「ぐほぁっ……」ヒュ-ン

オカマタイツ「あらまぁ」


剣士「後で絶対泣かしてやるから覚えてろよ……」


魔人「おい、クソ女」

ニャン娘「な、なによ! クソ女って呼ぶな筋肉ダルマ!」

魔人「テメェらの住処にはこのモフモフがいっぱいいるのか?」

にゃーん……

ニャン娘「当たり前でしょ! 世界で一番猫のいるところなんだから!」

魔人「美味いメシはあんのか?」

ニャン娘「美味しい魚が取れる池や美味しい果物がなる木がいっぱいあるんだから! 素敵な場所なのよ!」

魔人「それなら、いくか」

吟遊詩人「……え」

オカマ「そうね。行くでしょ、剣士ちゅわん?」

剣士「救いを求める女の子を見捨てることなんて……で、できやしないね……」ボロッ

吟遊詩人「いやいや……ちょっと待ってくれ。理解が追いつかない」

オカマ「……ネコ耳イケメンがアタシを待ってる! いや、アニマル諸島……! 他のケモ耳イケメンたちもたくさんアタシを待っているのね……!」

剣士「それはない」

オカマ「イクわ! イクわよぉぉおおお!」



ニャン娘「あ、アンタたちなんなの……」

吟遊詩人「まさか、勇者だったりして……」

オカマ「まさかぁ! 通りすがりのオカマタイツ一行よ! さあ、アンタたち! 『猫島』そして『アニマル諸島』まで、ぶっばしてくわよ!」ビシッ

魔人「仕切ってんじゃねえ」ブンッ

オカマ「いやんっ」スカッ

魔人「!?」


【南西国・魔王軍占領港】


腐魔女「本土からの補給船が来たんだね……今度はお姫様を載せたりしてないでしょうね」

部下A「確認しました。大丈夫です」

腐魔女「はあ、もうお仕事やめたい……普通に考えて、浚われたお姫様が乗ってるとか考えてないでしょ。どうしてアタシの責任になるのぉ……」シクシク

部下A「腐魔女さま」

部下A「(いくら七魔といえど、先の件は堪えたようですね)」

腐魔女「こうなったら竜王×魔王陛下で一本書いてやる!」ギラッ

部下A「(あ、こいつ何も反省してない)」

部下A「それは不敬罪になりかねませんよ」

腐魔女「それはメンドイことになりそう…………まあ、アタシの推しは牙王×竜王だけどさ。仲が悪いけど似た者同士な二人って王道よね。四天王だけにー!」ブハッ

部下A「ちょっとよく分からないですね」

腐魔女「でもでも、意外カプの海王×竜王もアリかな? かな!? 屍王はさすがにアレか…いやいや、でも…」

部下A「相変わらず頭の中がお腐りのようですね」

腐魔女「こうでもなきゃやってらんないよ、実際。こんな戦場の最前線の指揮なんて堅物の悪魔騎士とか性悪の魔僧正にでも任せておけばいいのに。あと魔獅子……ないか、アイツ悪いタイプの馬鹿だもんね」

部下A「まあまあ……」

腐魔女「あ、でも魔獅子×悪魔騎士とかどう!?」

部下A「あなたの頭の中はかけることしかないんですか?」

腐魔女「ないよ!」ニコッ

部下A「そんないい笑顔で言わないでください」



伝令魔物「し、失礼します!」

腐魔女「なに? 楽しくなってきたところなのに…」

伝令魔物「侵入者が出没しました。どうやら、船の強奪を目論んでいるようです」

腐魔女「はあ? そんなの適当にやっつけちゃってよ。今ならBやCがいるでしょ」

伝令魔物「あまりの強さに兵が次々と倒されています。部下BさまとC様も倒されたことからおそらく、並の魔物では歯が立たないかと……」

部下A「ゼ……BとCが……!?」

腐魔女「ええぇぇ……ウチの部隊の精鋭なのに」

伝令魔物「……どうしましょう」


腐魔女「先日の姫さまの件に続いて、船が奪われたりしたら、文字通り首をはねられるんじゃ……死なないけど治る頃にはきっと新刊に間に合わない……五年に一度なのに……たくさん原稿準備してるのに……」ガタガタ…

部下A「……」

腐魔女「A、ちょっと、やっつけてきて……」

部下A「無理ですよ。BやCの方が私より強いんですから」

腐魔女「……分かったよ。いっちょ殺ってくる。ちなみに敵の特徴は?」

伝令魔物「5人組で、バケモノじみた強さが一人、それには劣りますが中々強いのが二人。後の二人はおそらく非戦闘要員です」

腐魔女「バケモノじみたって……」

伝令魔物「BさまCさまを同時に相手取って圧倒していました……BさまCさまとも、不可解な巨大な姿にもなっていたのですが、それも倒してしまいました」

腐魔女「巨大な姿……はよく分からないけど、とにかくマズいね……仕方ないからアタシが出るね……A、その間の指示はお願いね」

部下A「はい」


バタンッ



部下A「……私だ、イオタだ。ゼータとイータがやられた」

部下A→ι「おそらくアルファとベータの報告にあった、魔人だろうな。船の強奪が目的のようだが詳細は不明だ。七魔の腐魔女が迎撃に行ったが、ゼータとイータが圧倒された以上、おそらく魔人は止められないだろう」

ι「……目的は未だ不明だ。魔界に乗り込むつもりかもしれない。計画に支障が出ないといいが」

ガチャッ

ι「魔人、もしも四天王に匹敵する強さとすると、相手できるのは少なくともローかパイ以上だろうか」

ι「はあ……面倒なことになった。私はこの場から離脱するか」


伝令魔物「……あの、Aさま? 今のは?」

ι「ああ、まだいたのか」パチンッ


伝令魔物「えっ……」パチュンッ


伝令魔物は爆散した!



腐魔女「(はあ……どんなのが侵入者なんだか……)」キイィィン


ドオォンッ……!

腐魔女「やっ、と」シュタッ


吟遊詩人「ごほっ、ごほっ、な、なんなんだい?」

腐魔女「(わっ、掛け算しがいのあるイケメン! 糸目! 糸目はやっぱりタチ!)」

ニャン娘「げほっ、そ、空から人が……!」ギュッ

腐魔女「(リア充かよ! 良識と配慮あるから存分に掛け算ができないんだよ! 良識と配慮があるから!)」チッ

オカマ「魔物でしょぉ? なんだか、強そうねぇ。さっきから敵さんが口にするここのボスの七魔さんかしらん?」

腐魔女「まあ、一応」

腐魔女「(全身タイツのオカマ口調の男……怖い。でも良い身体つきしてるわね)」フ-ム

オカマ「あらぁ? そんなに熱い視線を送られても、女の子は守備範囲外なのよねぇ」

腐魔女「勘弁して」



剣士「……! こ、こんな美人は敵だとしても斬れない!」

腐魔女「(……顔に火傷の痕があるけど、造りは美形……さっきの糸目との掛け算……んー、女好きはネコも悪くないけど……でも、女が邪魔! 女好きだから、あのネコ耳娘を取り合う過程で……! ふんふん、悪くない)」

魔人「……じゃあコイツ殺せば船が手に入るわけか」ヌッ

剣士「何を言ってるんだこのバカ!」

腐魔女「…………!!」


腐魔女の体内に電流が走る!


腐魔女「……ぺき」

魔人「あん?」

腐魔女「アンタたち完璧だよ! 萌え…萌える! 最高!」ボトト…

剣士「お嬢さん、大丈夫ですか? ひどい鼻血だ、これで拭きなさい」スッ

オカマ「ちょっと、流石に危ないわよ」

腐魔女「ああ、ここで褐色イケメンが嫉妬するんだね! 『いつも女ばかり見やがって』。そして、たまらず襲いかかる!『俺に夢中にさせてやるよ』……いい! いいよ!」ブシュ-



剣士「……!?」ゾワッ

オカマ「あ、あの剣士ちゅわんが女の子相手に押されてる……」

腐魔女「違うよ! 推してるの! ああ、逆に剣士が褐色イケメンに惹かれていくのもいい! 『俺は女の子が好きなのに、どうして、こんなにもあいつの笑顔が見たいんだ……』とか、最高! 最高だよ!」ブシャシャシャ……

剣士「ちょ、ちょっと……その鼻血の量は流石に不味くないかい? あー……薔薇の花弁に包まれているような……うーん、血だまり」

腐魔女「ふわぁ……」クラクラ…


ドテンッ


腐魔女を倒した(?)



オカマ「…どうしましょ?」

ニャン娘「一応、ここのボスみたいよ。人質にして、船の準備をさせましょ。もしかしたら、今後も交渉に使えるかも」

吟遊詩人「(……ニャン娘、そんなに強かな娘だっけ?)」




ザァァ…

腐魔女「くっ、捕えてどうするつもり?」

腐魔女「(こんな縄いくらでも抜けられるけど)」

吟遊詩人「僕たちは『猫島』に向かってる。君たち魔物から島を救うんだ」

腐魔女「……アニマル諸島ね」

腐魔女「(はあ、猫かわいいよね。犬もすき。そういえば、猫の島の在留部隊から献上品として猫をもらったけど、部下たちが勝手に食べたのには引いたなぁ)」

オカマ「アンタ、あそこのボスだったんでしょう?」

腐魔女「……適当にあてがわれただけだけど」

オカマ「アンタを使って、魔物が攻めてこないように交渉できないかしら?」

腐魔女「いやぁ、どうだろう? 無理なんじゃない?」

腐魔女「(そもそもアタシを殺した相手がいると分かれば、それだけで牽制になりそう……四天王とか大魔導、聖魔とかが簡単に出張ってくるとも思えないし)」


魔人「……」バリバリ…

剣士「魔人、また食料を食ってるのか! あれだけ陸の上で食べてただろ!」

魔人「お前じゃ敵わないやつ二匹倒したからお前の二年分を食ってもいいだろ」バリバリ

剣士「なんだその謎の理屈は!」


腐魔女「うっ……」ポタタ…

吟遊詩人「さっきから大丈夫かい?」

ニャン娘「ちょっと! 魔物に憐れみなんてしちゃダメよ!」

腐魔女「ご尤も……ちょっと、最近乾燥してたから……」

腐魔女「(日照りのところに、あの二人の絡みは鼻血止まらないよ)」

腐魔女「それじゃあ、あなたたちはアニマル諸島を魔王軍から奪取しようとしてるわけだね」

オカマ「もちろん、それも目的だけど、通過点に過ぎないわ」


腐魔女「……つまり?」

オカマ「アタシのための逆ハーレムを築くのよ! そのためには猫耳イケメン、他のケモ耳イケメンは必須でしょう!?」クワッ

剣士「錬金術師に好みのイケメンを造ってもらうんじゃなかったのかよ!」

オカマ「それもあり! でも、全部自分好みよりも、自分の力で好きにさせるのも悪くないわ! 剣士ちゅわんみたいにね!」

剣士「ふざけるな!」

オカマ「アタシはやってやる…やってやるわぁ……!」ドガーン……!!


吟遊詩人「爆発…!?」ゲホゲホ

剣士「いつものことながらそのふざけた力はなんなんだ…」ゲホッ

ニャン娘「船の上に被害はないわよね!?」ゲホッ

魔人「なんだこりゃ? おもしれぇ」


腐魔女「(……このオカマ、頭がイカれてる)」

オカマ「次はケモミミイケメンを引き入れて見せるわ!」

腐魔女「(……イカれてるのに、なんだろう……コイツなら成し遂げそう…………そうすればイケメンハーレムの中で、また別の感情がイケメン同士の中で芽生える展開も……!!)」ハッ


腐魔女「……アタシを仲間にして!」


ニャン娘「は、はあ?」

吟遊詩人「……?」

オカマ「……ふうん。急にどうしたの」

腐魔女「アナタの夢の手伝いをさせて!」キラキラ

剣士「きゅ、急にどうしたんだい……あまり、オカマタイツの言葉を本気にしちゃいけないよ? 聞くなら僕の愛の言葉を」



腐魔女「――――アタシは男同士のラブが好きなの!!」クワッッ


剣士「」
吟遊詩人「」
ニャン娘「」

魔人「?」モグモグ

腐魔女「アナタの夢は引くほどどうでもいい!でも、アナタの夢を手伝う過程で、たくさん、男どうしのラブが見れそうじゃない!? もしかしたら夢の実現後も! そんなの…………最高過ぎる!」キラキラッ

オカマ「……アタシの夢とアンタの最終目標は決して噛み合ってないわ」

腐魔女「……そうね」

オカマ「でも、最後だけが全てじゃない」フッ

腐魔女「……!」

オカマ「アンタの言葉、この胸に熱く響いたわ。よろしくね」スッ

腐魔女「……ええ」スッ

ガシッ(AA略


腐魔女が仲間になった!


ニャン娘「……え、なにこれ?」

魔人「茶番だろ」

剣士「違いない」

吟遊詩人「取り敢えずロープで縛った意味はなかったみたいだね…」


オカマ「アンタたち、そろそろ着くわよ! 早くしないとお尻を突くわよ♂」

剣士「ははは、笑えない」

腐魔女「アタシとしては、魔人が剣士に……」

剣士「麗しいレディよ、それ以上はいけない」

吟遊詩人「(頑張るなぁ……)」

次回に続く!(多分今夜)


【猫島】


ニャン娘「帰ってこれた……もしかしたら、もう二度と戻れないかと思ってたけど……」

吟遊詩人「そうだね……」

にゃーにゃー

魔人「うへへ、さっそく……モフモフが……」もふもふ

腐魔女「カワイイカワイイ……猫カワイイ……」もふもふ

剣士「君の方が……「いいから、魔人とイチャついてなよ」……それはちょっと……」

ヒュッ

にゃー!?

魔人「ちっ」

魔人は猫を庇った!

ドスッ

魔人「……にゃんこ、モフるのは後だ。失せな」ズルッ…

にゃーん……!


オカマタイツ「魔人ちゅわん! 槍が刺さったけど大丈夫なの!?」

魔人「あん? もう治った」シュゥゥ…

剣士「どんな身体してるんだ……」

腐魔女「魔人の身体が気になるの!? 気になっちゃうの!? ねぇねぇ!」グィッ

剣士「気になってないから!」ヒキッ


魔物の大群の挟み撃ち!


吟遊詩人「くっ、さっそく囲まれたか……船でくれば当然だが……」

ニャン娘「大丈夫なんでしょうね!」ガッ

魔人「あんなん雑魚だろ」

腐魔女「可愛い猫たちを、たくさん殺してるんだろうな……アタシは魔物だけど、やっぱり基本的に魔物と感性が合わないなぁ」ウ-ン

ギャィィィイイッ!!


魔人「……失せろや」


魔人の猛攻!


腐魔女「あんたら生きてても仕方ないし、アタシの創作のために生命ちょうだいよ」


腐魔女の『エナジードレイン』!



オカマ「魔人ちゅわんは相変わらず半端なく強いわねぇ。一撃で魔物十数匹がひき肉になってるわ」

剣士「お嬢さんも可憐な見た目に依らず、えげつなく強力な攻撃をしてるな……」

ニャン娘「本当にどうなってるの……魔物がオモチャみたい……」

オカマ「アタシたちは待機ねぇ」

剣士「そうだな。魔人の奴に巻き込またら、たまらん」

腐魔女「今、魔人のこと口にした!? ねえ! ねえねえ!?」

剣士「君が喜ぶようなことは何も言ってないよ! 喜ぶのは是非僕の愛の「そういうの要らない」……くっ」

吟遊詩人「……君も凄いな」



魔物の大群を倒した!

魔人「雑魚が」

腐魔女「下品なヤツはエナジーも美味しくないねー」ツヤツヤ

剣士「それなら、僕のエナジーは「アンタは魔人とラブしてよ」……それは遠慮させてもらうよ」

ガサガサッ

にゃー……?

吟遊詩人「隠れていたんだね。もう大丈夫だよ」

にゃーん!
にゃーにゃー、にゃーん!
にゃぅぅ、にゃにゃ!

魔人「モフモフがたくさん……うへへ……」

腐魔女「ネコもいいけど、猫もいい……」

この後めちゃくちゃモフった。


【猫の島・隠れ家】


長老「おお、お前たち……! 帰ってきたのか……!」

剣士「(猫耳のジジイ……)」

腐魔女「(猫耳おじいさんがいるなら猫耳イケメンもいるはず! 吟遊詩人×猫耳イケメン……! いい!)」ジュルリ

ニャン娘「ただいまお祖父ちゃん……!」ギュゥ

剣士「あ、お義祖父さまでしたか」

長老「……この方たちは?」

オカマ「オカマタイツ一向よ」

剣士「今からこの島の勇者になる者です。そしてニャン娘さんを僕のお嫁さんにします」キリッ

ニャン娘「無視していいから」

魔人「コイツ、手ざわり最高だな」

ケットシー「にゃああ……♪」

長老「おや、知らぬケットシー(猫人族の幼体、とても猫そっくり)じゃな。親御さんと逸れてしまったのか……?」


ニャン娘「こ、こんな小ちゃい子が好きなんてヘンタイ!」

魔人「ああ?」モフモフ

ケットシー「にゃぁぁ♪」

オカマ「なんだか懐かれてるわねぇ」

吟遊詩人「ケットシーは結構余所者には用心深いんだけど」

剣士「こんなに強面なのにな……」

腐魔女「ふふ、猫に嫉妬? 猫に嫉妬なの……うふふ」ポタタ

剣士「ち、違うさ……綺麗な顔に鼻血は似合わないよ」

腐魔女「あ、そういうの要らないから」

剣士「……」

オカマ「可哀想な剣士ちゅわん……ほら…アタシが抱き締めてあげるわ!」

剣士「要らん!」

長老「(コヤツら大丈夫か……?)」


【長老説明中】


剣士「そうか……船の補給基地を造った他、見つけた猫を食料に、猫人を奴隷として使い潰してると……」

オカマ「他の島でも既に似た状況で、自衛で助け合うことができない。かつ、猫島が立地や資源、規模的にも一番狙われてるのね」

長老「人間の国王の陳情書への回答は伝書鳥を経由して届いているが、許可を貰えずとも、我らの祖国を棄てねばいけぬ時は寸前に迫っておる……これからの世代は辛酸を舐める時代になってしまうだろう」

ニャン娘「……アタシはいやよ! お父さんとお母さんが生命を落としてまで守ろうとしたのに! このまま見捨てることなんてできない! 例え、死んだとしても……」

長老「……バカものが! お主が死ぬことを父と母が望むと思うてか!?」

ニャン娘「でも……! 皆んながこのまま惨めに生きていくのなんて嫌よ!」ボロボロ…

吟遊詩人「……」グッ


魔人「……何度くだらねぇやり取りをするんだ、アホくせぇ」

ニャン娘「……」キッ

スッ

ケットシー「にゃ?」ポテッ

魔人「……」ヌッ

ポンッ  グシグシッ

魔人「前も言ったろ。気に食わねえから俺が全部ぶっ潰してやんよ。分かったかモフ女」

ニャン娘「アンタ……」


剣士「くっ、良いところ取りして……! 僕だって麗しいレディを苦しめる者は許さないからな!」


腐魔女「ノーマルラブも嫌いじゃないけど。やっぱり主食にはなり得ないよ」

オカマ「空気読みなさいよ。それに魔人ちゅわんはアタシとラァブ♂するんだからね」

吟遊詩人「……あんまり、馴れ馴れしくニャン娘に触るなよ」ボソッ



長老「(なんじゃこいつら……)」


【猿島】

うきー!?

モンスター「グヘヘ、今夜のオヤツ見っけ」


ズドッ

モンスター「」

魔人「コイツは魔物だよな?」

オカマ「そうだけど、殺る前に聞いてよね。間違えてたら、大変よ」

魔人「別にもふもふしてなけりゃ、どうでもいい。コイツは?」

うき?

魔人「違うな…うへへ…」ブニブニ

うきー……!

オカマ「その子はぬいぐるみみたいな可愛いタイプだけど、イカツイのもいるからね。それも魔物じゃないわよ」


魔人「美味いのか?」

オカマ「きっと美味しくないから殺しちゃダメよん。さあて、その子たちを救ってあげるのよ」

魔人「しゃーねーな…うへへ……」

オカマ「赤ちゃんはもっと、もふもふで可愛いわよ、多分」

魔人「さっさと魔物をブチ殺すか」

魔物の集団が迫ってきた!

魔人「アレは殺していいんだよな?」

オカマ「アレは敵よ。あんまり嬲り殺したりしちゃイヤよん」

魔人「ザコには興味ねぇ、さっさと絶滅しろ」


魔人の猛攻!


【魔王軍海軍犬島支部】


魔王海軍大佐「……牙王の圧力もあって中々上手くことが運ばなかったアニマル諸島の制圧……いったん軌道に乗れば早いものだったな」

カランッ…

大佐「『分海』は完全に我らが海軍の手中……やはり、海王さまに敗けはないな」グビッ

腐魔女「優雅なひとり酒だねー。まあ、実際、海王さま含め、四天王はバケモノぞろいよね」

大佐「な、なんだ、貴様……!? どこから入った!?」チャキッ

腐魔女「アタシは南西部の侵略部隊の元指揮官よ。七魔の腐魔女。あと、普通に正面口から入ってきたよ」

大佐「……! 腐魔女殿でございますか!? ど、どうしてここに……」

腐魔女「ほら、アタシって腐ってるでしょ?」

大佐「は、はあ……? ……腐ってるはあくまで不死身の比喩と聞きましたが」

腐魔女「いや、頭の中がね、腐ってるの。だからね、たまにね、正常な判断ができない時があってね?」ヒュッ

大佐「……!」キンッ

腐魔女「さすが将校は一撃じゃいかないか」ググッ

大佐「……何の真似だ?」


腐魔女「魔王軍はやめたよ。『エナジーボム』」


大佐「……っ」ダンッ


ドガァァッッ!!


腐魔女「……いい反応。さすがリザードマンの亜種といったところだね」

大佐「……はあ、七魔は実力不相応に傲岸不遜で身勝手な者ばかりだと聞くが、どうやら本当らしいな。人間風情に封印され、近頃ようやく抜け出してきて弱体化してるというのに、その傲慢さ。片腹痛い」

腐魔女「そうだねぇ……アタシと大魔導以外は少し前に封印されちゃったし、平均的な戦力は落ちてるでしょうね」

大佐「……ぐぅぅ!? て、手が……」シオシオ…

腐魔女「まあ、そうだからといって、別にあなたが強くなったわけじゃないけどね?」グッ

大佐「吸わ……ちぃっ……!」バッ

腐魔女「ほら、七魔なんて大したことないんでしょ? 倒してみなよ」ニコ

大佐「……うおおおおおぉぉ!!」ダッ


腐魔女「他の全員みたく、美味しくいただいてあげるよ」ペロッ


【猫島】


剣士「……猫島の魔物はおそらく全て退治した」ボロボロ…

魔人「トロい。俺は他の島のヤツらも皆殺しにしてきたぞ」

オカマ「魔人ちゅわんがいちいち動物に目をキラキラさせてて可愛かったわ♂」

魔人「うるせぇっ」ブンッ

オカマ「やんっ」ヒョイッ

魔人「……ちっ」

腐魔女「犬もいいよねぇ……柴犬の赤ちゃん可愛かった」ホクホク

魔人「もふもふしてんのか?」

腐魔女「もちろん。アンタは犬の方好きかもよ」

魔人「今すぐ行くぞ」

剣士「勝手な行動はやめろ…!」ボロッ

腐魔女「それはアレなの!? 『俺のソバにずっといろよ』的なラブなの!?」

オカマ「アナタ本当に楽しそうねぇ…」



ニャン娘「でも、本当にアニマル諸島から魔物を追い出しちゃうなんて……」

吟遊詩人「驚きだ……っと、隠れてた他の猫人たちも出てきたね」


ゾロゾロ……ザワザワ……

剣士「ふっ……この島はもう大丈夫さ。そこの可憐なレディたち、安心して僕とワルツを……」フッ


「なんてことしてくれたんだ……」
「魔物を追い出したって、もっとたくさんの軍団で押しかけてくるんじゃないのか…」
「今度こそ皆殺しにされるんじゃ……」

ザワザワ…

剣士「う、うん?」

「余計なことを…」「人間は何もわかってない」
「一回守ってあとは放置なんだろ? 次はどうするんだ」「何も知らないくせに…」

ザワザワ…!

「もうダメだ…!」「この厄病神め……!」
「お前たちのせいで俺たちは死ぬしかないんだ」

ザワザワザワ……!!


剣士「な、なんで……僕たちは正しいことをしたはず……」

腐魔女「うーん……アタシもそう思うんだけど」

「ま、魔物だ…!」「魔物と手を組んで…俺たちを騙そうとしてるんじゃ…!」「な、なんだと……!」

腐魔女「ありゃりゃ? なんかアタシのせいでゴメンね」

剣士「君は何も悪くないさ。猫人たち! 彼女は僕の味方で、君達の救世主だ! 弁えて発言をするように!」

「他のヤツも人間のフリした魔物じゃないのか!?」
「お前ら魔物の手先かよ! くそっ、ふざけんな!」

吟遊詩人「ちょっと待ってくれ」

「余所モンは黙れ! どこの馬の骨とも分からない奴が長老とニャン娘を誑かしやがって…!」
「お前も魔物のスパイなんじゃねえのか!? 最初から怪しいと思ってたんだよ!」

吟遊詩人「……」

ニャン娘「な、取り消してよ!」キッ

「このままでも牙王さまがもしかしたら、追い払ってくれたかもしれないのに」
「四天王なんか信頼できるか! くそ…どいつもこいつも信じられねぇ!」

吟遊詩人「……」


長老「ううむ……みな長期間に渡る恐怖と戸惑いで混乱しておる」

ニャン娘「うぅ……!」

吟遊詩人「……困ったな」


ギャ-! ギャ-!

魔人「うるせぇなぁ……絶滅させんぞ」ギロッ

「ひっ、やっぱりこいつらは敵だ!」
「悪魔みたいなツラして! アナタも魔物!?」
「魔物は殺してやる……」

ニャン娘「ま、待ってよ…! この人たちは本当に…!」

ワァァァァァ――――!!
ニャァァァァ――――!!

ニャン娘「き、聞いてよ! ねえ! みんな……っ!!」

吟遊詩人「ニャン娘…危ないから下がるんだ…!」グイッ


オカマ「…………」


ギャァ…ギャァ…!!


オカマ「…………」ザッザッ…


剣士「……おい、今前に出たら危ないぞっ」


ギャァ…ギャァ…!!

ブンッ

オカマ「…っ」ゴスッ

剣士「……!」

ブンッブンッブオッ

オカマ「……っ」ゴッガッドカッ

剣士「お、おい…!? やめろお前たちっ! くそっ」チャキッ

オカマ「……」スッ

剣士「……っ」

ゴッッ、ドカッ、カンッ、ビシッ…………


オカマ「…………」ザンッ


ギャァ…ギャァギャァ…!!



オカマ「……」スゥ…





オカマ「黙らっしゃいッッッッ!!!!」カッッッ



キィィイイイイィィィン――――…………





シ-ン……


オカマ「……アンタたちがいかに苦しい思いをしてきかは到底分からない……財産や大切な人を失ったのか、その哀しみはアタシには計り知れない」

オカマ「確かに、今回の出来事で魔物は更に激しく襲撃してくるかもしれない」


オカマ「けれど一つ言えることがある」

オカマ「昨日までそして今日の現状では、どうあがいても猫島及びアニマル諸島は魔物によって滅びる」


オカマ「……昨日まで、アナタたちに道は大きく分けて二つ与えられていた」

オカマ「一つは島を人間界に亡命して劣等種扱いされて暮らす道」

オカマ「二つはこのまま魔物の支配を完全に受け入れて滅びるまで奴隷になる道」


オカマ「確かにアタシたちの行動はその二つのどちらを選ぶか逡巡する時間を奪ってしまった」


オカマ「しかし、アタシたちは、もう一つの道を授ける」


オカマ「それは――――」



オカマ「自分たちの生命と、家族と、故郷のために、敵と戦う道」


オカマ「神さまはアンタたちを助けてくれはしない」

オカマ「勇者はアンタたちの前に立っちゃくれない」



オカマ「――――それでも、大切なものを奪われたままで終われないでしょう!?」

オカマ「このまま魔物に屈して、故郷を蹂躙されて、家族を殺されていいの!?」



オカマ「アナタたちの死ぬときは、魔物に殺される時じゃない!」

オカマ「その誇りの牙を抜かれ! 闘志の爪を砕かれた時よ!」



オカマ「牙を剥きなさい! 爪を研ぎなさい!」


オカマ「アナタたちの自由と尊厳を破壊しようとするヤツらに立ち向かうというなら、その為の力を授けるわ!」


オカマ「生きることを望む者は――――誇り高く戦う意気込みのあるヤツは立ち上がりなさい!」



オカマ「――――アンタが、アンタたちが勇者になるのよ!」ザパァァン……!



剣士「……なんてめちゃくちゃな論理だ……そして相変わらず正体不明の波しぶき」

腐魔女「そうね……だけど」



「おれたちが…勇者」
「誇り、家族のために……」
「戦う…牙を剥く…」「ツメを研ぐ…恐怖で忘れていた……そうだ……そうだ!」

オカマ「立ち上がる勇者はついてきなさい! 魔物たちに誇りを見せ付けてやろうじゃないの!」ダンッ


「……うおおおおおおお…っ!!」


オカマ「さあ、イくわよっ!!」ビシッ


わあぁあああああああああああ!!


剣士「なんなんだろうな……アイツは全身タイツの変態なのに、なぜか人を惹きつけるんだよ」

腐魔女「いや、ほんと何者?」

剣士「……さあ?」

魔人「……よく覚えてねえが、懐かしい感じだな」



「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」
「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」
「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」「オ・カ・マ!!」




長老「バラバラになっていた皆をここまでまとめるとは……なんという器……」

ニャン娘「……でも、これはおかしいと思うの。え、おかしいわよね…?」

吟遊詩人「ニャン娘、君はその感性を大事にして欲しい」

・・・

ザクッ

剣士「……ふう」

オカマ「これで、武剣士ちゅわんのお墓の完成ね」

剣士「異国の地で申し訳ないが、砂漠よりはずっとマシなはずだ」

オカマ「そうね……」

ニャン娘「腐臭がずっと気になってたけど、そういうことだったのね」

吟遊詩人「確かに、出会ってからずっと忙しなくしてたからね…」

腐魔女「イケメンだったんでしょ? もったいない…色々と妄想が捗ったはずなのにもったいない…」

剣士「砂漠の暑さで腐ってしまって、納めた桶に砂を敷き詰めたのは本当に申し訳なかった」

オカマ「仕方ないわよ。むしろ、砂をたくさん入れて重くなっても、ずっと持ち運んだ剣士ちゅわんの義理堅さ、素敵よ!」クネクネ…

剣士「ああ、そう……」


剣士「武剣士が安らかに眠れるよう平和を取り戻さないと…………それで、僕たちはこれから何をすべきなんだ?」

オカマ「どうしましょ?」

ニャン娘「ちょっと!」

オカマ「取り敢えず、アニマル諸島の全島で堅い同盟関係を結べたのは進展だけど」

吟遊詩人「歴史的な快挙だと思うんだ。始まりの勇者以来なんじゃないかな」

腐魔女「えっ、それって凄くない……? いや、それだけ今が危機的状況なんだね」

剣士「その次は?」


オカマ「対策の方針として大まかに三つね」

腐魔女「ふうん?」

オカマ「一、味方を強くすること。二、敵を弱くすること。三、敵が攻め難くすること」

剣士「味方を強くする……戦えるように訓練するのか? 一応、敵から奪った武器や設備はあるが、自衛を続けさせられるとは思えないな」

オカマ「指導できるプロの傭兵を雇いましょ。この前の武闘会の傭兵なんてアタシ好みでいいわね♂」

剣士「今はどこにいるかも分からないじゃないか…」

オカマ「マジな話、アタシのコネが利きそうなのはぁ、北東国の鬼の一族かしらねぇ」

剣士「げっ、変なところと繋がってるな……」

オカマ「結構気の良い奴らよぉ? 近隣の妖怪たちも含めてよくガチムチレスリング♂してたわよ」

腐魔女「イ、イケメン同士でもしてるの…?」ハァハァ

オカマ「……」グッ

腐魔女「……世界は幸福に満ちてるね」グッ


剣士「幸福とは一体……そういえばオカマタイツの出身はどこなんだ?」

オカマ「さあ?」

剣士「おいおい、頭の中までタイツなのか?」

オカマ「魔人ちゅわんじゃないけど、アタシもここ数年の記憶しかないのよねー。気付いたら、東国の外れにいたわ。そこで鬼たちと出会ったってわけ」

腐魔女「このパーティには記憶喪失者しかいないの? まあ、アタシも昔のことはどんどん忘れちゃうけどねぇ」

吟遊詩人「…えーと、それで結局鬼の一族に援助を願うのかい? 北東国なんて距離的にかなり…途轍もなく遠い気がするけど……」

剣士「まだ傭兵ギルドに頼む方が無難じゃないかな……あまりにも玉石混交で信用ならないけど」

オカマ「金だけ搾り取って仕事は出来ないことが多いものね……アタシも一応所属してるわよ」

剣士「僕も所属してる……というか、基本的に戦士職や冒険職で食べてる奴はみんな所属してるからこその玉石混交なんだよな」

ニャン娘「じゃあどうすればいいのよっ」

剣士「……まあ、傭兵ギルドにも当てはある……いや……当てにならないかもしれないな……」ハァ


腐魔女「ニは、具体的には?」

オカマ「もちろん敵を減らすのよ。強いのは四天王と七魔でしょ? その辺りを倒せば敵の戦力も激減よ」

腐魔女「うーん……四天王は本当に別格だよ? 歴史的に、四天王が逸り過ぎると勇者が出てくるから、表立たないのが慣習になってるけど正直、あの四人だけで人間界とか余裕で滅ぼせそう」

吟遊詩人「……」

腐魔女「あと、七魔だと大魔導は四天王にちょっと届かないくらいかな? 悪魔騎士は封印解除直後で弱体化していてもアタシと大差ないだろうし、魔僧正とかも奸計巡らしてくるだろうし……うーん、敵に回すとやっぱり怖いね、魔王軍」

剣士「まあ、七魔の過去の悪業と封印の話はいまだ冒険者の間では語り草だからね……」

腐魔女「勇者でもないのに、人間も大したものよね」

ニャン娘「アンタも七魔でしょ? 実際どれくらいの強さなの?」

腐魔女「んー、七魔ならアニマル諸島は単独で陥落できると思うよ」

ニャン娘「……っ」

オカマ「まあ、アンタなら出来そうね」


腐魔女「あと、詳しくはよく分からないけど、この島は牙王の息がかかってるから、手を出さないのが暗黙の了解だったんだけど……また政治状況が変わって来てるみたい」

吟遊詩人「……それについて詳しく知らないかい? 昔は人間と同盟や通商を結んでいても、敵対の意思はない限り、諸島は攻撃に晒されてこなかったのに」

腐魔女「あんまり政治のいざこざはよく分かんないけど、今の魔王陛下になってからの人間界侵攻はかなりガチだから、魔王陛下の影響だろうね。今の魔王陛下は根っからの魔物至上主義者で権威主義者で男尊主義者だしそのせいだねー」

剣士「レディファーストも出来ない男が王なんて……どうやら、僕は魔王を打ち倒さなければいけないみたいだ」

腐魔女「竜王が魔王陛下に強く同調してるから、その際はまず竜王だね」

剣士「ぅっ……」ズキッ

腐魔女「ありゃりゃ? ちょっと前に竜王が人間界に攻め入る珍事を起こしたって聞いたけど、もしかして戦ったりした?」

オカマ「そうなのよー。ボロクソにやられたわ」タハハ

ニャン娘「アンタたちが歯が立たない相手……」

オカマ「魔人ちゅわんなら、また別かもね。 どう思う?」

腐魔女「……分からない。あの褐色イケメンの本気が分からないもん」

腐魔女「(一番分からないのは、アナタだけどね)」


吟遊詩人「戦力を減らすというのはあまり現実的でないのかな……」

腐魔女「んー、潰すなら海軍かな。海軍が瓦解すれば、敵はこの島を襲う動機が無くなる……あ、でも空軍も補給地としてここに手を伸ばしてくるかなぁ……うーん、アニマル諸島は地政学的に重要だもんねぇ……」

吟遊詩人「今更だけど、君は魔物で元海軍だったけど本当に裏切って良いのかい……?」

腐魔女「えー、別に……。なんか珍しいことやってるから試しに加わってみただけだし……あんまり面白くなかったから良いかなぁって」

吟遊詩人「自由だね…」

腐魔女「だって、魔王軍が最後に編成されたのは、実は数百年前なんだよ。それ以降、今回の魔王軍編成まで組織立って魔物が人間を襲ったりはしてないんだ……それを考えると珍しいでしょ」

ニャン娘「……それが本当なら、どうして今更になって襲ってくるの?」

腐魔女「だから、魔王さまが超攻撃的な魔物至上主義者だからだよ。その熱意と強さで四天王の重い腰さえ上げちゃって、七魔のほとんどを従えてるの。アタシはあまり共感できないけど」

剣士「忌々しいが、中々のカリスマなんだな」

腐魔女「そういうこと。……しかし遅かれ早かれ海王たちを相手取ることになるよね……ひぇぇ……短絡的に行動し過ぎちゃったなぁ……恐ろしい……逃げたい……逃げていい?」

オカマ「友情の握手を反故にするの?」

腐魔女「……分かったよぉ。魔女だもん、儀式にはうるさいですぅ」


剣士「メリットとしては、相手が完全に報復と再侵略の態勢が整う前に攻撃できる点か」

オカマ「……それを鑑みても、絶対に犠牲が凄いことになるわね」

腐魔女「しかも、もしも海王だけじゃなくて牙王や竜王まで出てきたりしたら、ちょっと考えたくないなぁ……」

剣士「四天王……竜王にはいつか報いるつもりだけど、現状、対策は充分とは到底言えないかもな…」

吟遊詩人「撃退とはまた話が変わってくるだろうしね…」

オカマ「現実的とは言えないけど、一応、考えておきましょうか」

腐魔女「やめておいた方が良いと思うけど……」


ニャン娘「そ、それじゃあ、三つ目の敵が攻め難くするって何するの?」

オカマ「アニマル諸島全土に結界を張るのよ」

吟遊詩人「結界……あまりピンとこないね」

オカマ「有名なのは、精霊の国の結界か、大賢者の島の結界ね。どっちかに協力してもらえないかしらん?」

剣士「精霊の国……ということは、その美しさで知れ渡るエルフか!それはいい! さあ、行こうか!」

腐魔女「アンタは魔人とイチャイチャしなさいよ!」クワッ

剣士「レディ……君の頼みといえど、それは流石に勘弁願いたい……」

ニャン娘「そもそもエルフも大賢者も協力してくれるの?」

吟遊詩人「どちらも難しそうだ……」

オカマ「まあ、そこはアタシの『どうぶつ』♂で何とかするわよ」

剣士「戦争ものだから絶対にやめてくれ」

腐魔女「結構選択肢が出たわね」

オカマ「さて、どうしようかしら……」



1.鬼の一族と接触する(新キャラ+謎の()煉瓦マン’sと遭遇ルート)

2.傭兵ギルドに依頼に行く(新キャラ+剣士の因縁ルート)

3.魔王海軍を先手で叩く(ランダム要素の連続で全滅もあり得るルート)

4.精霊の森に行く(新キャラ+オカマタイツの過去?ルート)

5.大賢者の小島に行く(新キャラ?+普者’sと遭遇ルート)

6.その他(自由安価、行き先と目的も)



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次レス以降最初に二回選ばれた選択肢のルートに進みます



オカマ「よしっ、大賢者の住む小島に行きましょう! 聞いた話だと南国の南端にあるらしいわよ」

剣士「距離的にそこまで遠くないし、大賢者っていうくらいだから、何かしら他の手立てもくれるかもしれない……順当な選択だな」

腐魔女「イケメンの鬼たちの絡みが見れないのはちょっと残念だけど……」

剣士「僕も出来ればエルフとお近づきになりたかった…」

吟遊詩人「まあまあ。善は急げというし、さっそく準備しようか」

剣士「しかし、数年分の記憶しかないと言う割には、やけに情報通だな」

オカマ「昔に出会った流離い人からの情報よ……本当に何でも知ってるナイスガイだったわ……また会いたいわねぇ」クネクネ…

剣士「(こいつは昔からこうだったのか……? いや、こいつについて深く考えるのはやめよう……存在がギャグだ)」

オカマ「ところで魔人ちゅわんは?」


魔人「ふへへ……」

ケットシー「にゃあん……♪」コボルト「わふわふ……」プチハーピー「ちゅんちゅん……」


ニャン娘「……さっきのケットシーに、犬人族、馬人族に、鳥人族に兎人族から猿人族、鼠人族、羊人族、熊人族……しかも全部幼体じゃないの。この変態ロリコン!」

魔人「あん?」モフモフ…

ニャン娘「と、とにかくやめなさいよー! あんたたちも離れなさい!」

ケットシー「にゃーん?」ゴロゴロ

ニャン娘「ちょ、ちょっと幼体だからって……そんな格好!?」

魔人「……」モフモフ

ニャン娘「アンタもやめなさいよ!」

腐魔女「普通に動物を触ってるだけじゃないの?」

吟遊詩人「うーん、そうではないんだけど……あれだよ、ニャン娘は、ほら、思春期だから」

腐魔女「発情してるの?」

ニャン娘「そういうのが差別的発言なのよ!」

オカマ「そういうわけで、南国南端に向かうけど、戦力を残していきたいのよね」

魔人「大賢者とか食えないモンともふもふできないモンには興味ねぇな」

オカマ「それじゃあ、魔人ちゅわんはお留守番ね……もう一人くらい残って欲しいわね……剣士ちゅわんか腐魔女かしらね? 吟遊詩人ちゅわんとニャン娘には陳情して欲しいから来てもらいたいしね」

ニャン娘「自分たちのことだもの、アンタたちだけに任せてられないわ」

吟遊詩人「ああ」

腐魔女「それじゃあ、剣士と魔人の二人が残って……うふ、うふふ……」ポタタ…

剣士「僕が行こう…そして、君に鼻血は似合わないよレディ」

オカマ「あら? 剣士ちゅわん、そんなにアタシといたいの? それじゃあ、腐魔女ちゃんは魔人ちゃんと待っててね」クネクネ

吟遊詩人「…戦力的には申し分ないのかもしれないねぇ」

ニャン娘「そうね…」

腐魔女「まあ、創作意欲沸いてきたし、この機会に原稿するわ! 本当にアナタたち二人には感謝ね!」キラキラ

剣士「その笑顔はもっと別の形で見せて欲しかったよ」


オカマ「さあて! 目指すは南国の大賢者! イくわよー!」

次回、大賢者編!(次回は2月)



【幕間】

女神「とってもメタなタイムです」

普者「読まなくてもいいよ!」

女神「正直5.が選ばれるのは多少予想外のようです」

普者「そうなの?」

女神「サブイベ飛ばしてメインイベント直行みたいなものですからね……まあ、それも悪くないでしょう。どんだけチンタラやってるんですか」

普者「う、確かに……ちなみに今回選ばれなかった選択肢はまた本編に組み込まれたりするの?」

女神「まったく独立した選択肢というわけではありませんからね……しかしガッツリと描かれることはありません」

普者「ちなみに3.はどういった感じだったの…?」

女神「『偶数奇数』での成否判定や、場合によっては『00~01:生存、その他:死亡』などのかなり厳しい秒数指定もなされたでしょう。四天王は強いのです」

普者「うへ……四天王怖い……勝てるのかなぁ」

女神「本命は四天王ではなく、魔王ですから」

【南西国・南端部】


ザッザッ

エルフ「……暑いな」

普者「そうですね…」ダラダラ

女神「今さら口にすることでもないでしょう。余計に暑くなります」

武闘家「……大賢者の小島に近い最後の町を越えましたし、もう少しですよ」

アサシン「ふーくんが荷物を全部持ってくれてるから、楽ちんだぞー」ルンルン

盗賊「……」オモクナイ?

普者「……慣れたから」

女神「ふーくんの一番の成長は、大きな荷物の持ち方が上手くなったことですかね」

普者「…否定できない」

武闘家「水分は小まめに補給しましょうね」


エルフ「くっ、やはり南部の気候は合わん…」

女神「鎧で蒸れて悪臭を放ってますよ。汗臭エロフです。ふーくんが発情しちゃいます」

普者「し、しないよ!」

女神「うわー、ドン引きですー」

武闘家「そんな発想が出てくるあなたの方がどうかと思いますが」

女神「どM娘がうるさいです」

アサシン「どーせ、みんな臭いのになー?」

盗賊「……」ソウダネ

エルフ「冒険なんぞ、何日も水浴びできないのが普通だろう…が
流石に少し脱ぐか」

武闘家「魔物もあまり出ませんし、構わないかと」

女神「そうやって油断してると、急襲されたときあっさり死にますよ」

武闘家「無闇に疲労を溜めるのも、良くないと思いますが」

普者「結局、女神さまはどうして欲しいの…困らせたいだけか……」



盗賊「…………!」ビッ

アサシン「……」チャキッチャキッ

武闘家「……敵ですか」グッ

エルフ「 『風精の戯れ』!」

普者「……っと」ガシャッ グンッ


盗賊「……!」ウエカラ、ユミヤ

女神「(いつものことながら、このチビの目と耳はどうなってるんでしょうか)」

ヒュンヒュンッ

大量の矢が普者たちを襲う!

エルフ「……はあ!」カンカンカンカンッ

武闘家「『旋風脚』!」カカカッ

女神「(この二人で防げますね。うわ、矢にフンがついてます…どこのゲリラですか)」



盗賊「……!」ハサミウチ

普者「…両サイドからか! 二人、そっちお願い!」

アサシン「ほーい。盗賊は探知でいいぞー」

盗賊「……」コクッ


山賊の挟み撃ち!


山賊A「死ね、オラッ!」

山賊B「ヒャッハー!」

山賊C「女とガキは売るから傷付けるなよ! カタワのガキは便器だな!」


普者「……はっ」ブンッ ブンッ

山賊A「ギャッ」

山賊B「アブァッ」



山賊C「ちっ、おらっ!」

普者「……」ガッ

山賊C「ちっ、放しや……」

ボキィッッ!

山賊C「がっ……!?」

普者「……」ギロッ

山賊C「ヒッ…」

ゴキッ ゴッッッ

山賊C「ぅ…」ドシャッ


女神「(……激怒している割に殺さないんですね?)」

普者「(……)」




普者「……アサシンさんはどう!?」


スパッ スパッ スパパッ

山賊D「」ブシッ  山賊E「」ブシャッ  山賊F「」ゴポポ…

女神「(あ、あの褐色チビ、本当に容赦なく殺しますね)」

普者「……」

アサシン「盗賊、あと何人だー?」

盗賊「……」ウエニ、4ニン

アサシン「弓矢のやつらだなー、殺してくるぞー」

ピョンッ タンッ タッタッ ヒョイッ…

エルフ「……あれが人間の身のこなしか?」

武闘家「……やはりすごい才能ですね」

女神「ふーくんは、この崖登れますか?」

普者「……よじ登れはするけど、あんな飛ぶようには無理かな」



盗賊「……!」サガッテ


ドシャッ

山賊リーダー「イ、イテェ……ひぃ、た、助けてくれ……!」ブルブル…

武闘家「……普者さん、どうしますか?」

普者「……」

エルフ「……貴様らはそうして命乞いをする人間をどれだけ殺してきた!?」ギロッ

山賊リーダー「た、頼む…なんでもするから…」ブルブル…

アサシン「よっと」シュタッ

山賊リーダー「ヒィ……た、助けてくれ……!」

アサシン「やっ」ピッ

山賊リーダー「」プシャッ

武闘家「……っ」

女神「ちょっ……」

盗賊「……」

アサシン「……あれ、ふーくん?」

普者「……うん?」

スタタ……  ピッ ピッ ピッ

山賊A「」  ビチャッ山賊B「」  ブシッ  山賊C「」ポタタ…


エルフ「……アサシンっ! お前っ!」

アサシン「?」

武闘家「……無抵抗の人を殺すことに躊躇いはないんですか?」

アサシン「え、だって、ふーくんが、仕留め損なってたから」

普者「……」

女神「……このチビガキはアホですね。一匹生かしておいたら、基地を割り出して、しこたま貯め込んだものをぶんどれたのに」

アサシン「な、なるほどなー。みんな、ごめんなー…」ショボン

普者「多分、他の誰もそんなこと考えてなかったと思う」

エルフ「この妖精……やはり、ダークフェアリーの類か?」

女神「邪悪なエロフは黙りなさい!」

エルフ「誰がエロフだ!」


武闘家「普者さんは、殺す気はなかったかと。相手は人間ですから」

アサシン「生かしておいたら危ないぞー? 家を焼き払われて、家族を酷い目に合わされて、苦しみながら殺されるんだぞー?」

盗賊「……」コクッ

エルフ「……お前たちの話か?」

アサシン「ウチたちと同じくらいの娘がいて、よく飴玉くれた殺し屋のおっちゃんの話だぞー。なっ、盗賊!」

盗賊「……」コクッ

普者「……アサシンさん、ごめん、ありがとう」

アサシン「おー」


普者「……先に進もう」

女神「貴重な時間を無駄にしましたね。金目のものとか持ってないですかね」

エルフ「どちらが山賊か分からなくなるからやめろ」


盗賊「……」ジ-

武闘家「……どうかしましたか?」

盗賊「……」コノヒト、ショウキンクビ

アサシン「おー、よく覚えてるなー。いくらだー?」

盗賊「……」タブン5000G

女神「……ふーくんの二ヶ月分の給料くらいですか」

普者「その換算はやめて……というか、よく憶えてるね」



アサシン「ふーくん、お金ないんだなー。ウチはもっと貰ってるぞー」

女神「ねえねえ、どんな気持ち? 15歳に収入で劣るふーくんは今どんな気持ち?」

普者「周りのレンガ職人の収入も大体そんなもんだし、世の中そういうもんだと思うよ」

エルフ「暮らしを支える立派な仕事じゃないか。冒険者や傭兵なんかよりもずっと人のためになる仕事だ」

武闘家「(そういうのなら、なぜ傭兵ギルドに……?)」

エルフ「……そもそもアサシンは額を計算して管理できてるのか」

アサシン「お金の大半は幹部のおっちゃんに任せてるぞー。あと、盗賊がウチよりも足し算が得意だぞー」

盗賊「……」ソンナコトナイ


女神「ちょろまかされてるんじゃないですか? やはり、簡単な計算でもできないと損しますね」

アサシン「毎日おいしいもの食べるだけのお金はあるから別にいいぞー」

エルフ「ちなみに、アサシンと盗賊は月にどれくらい稼いでるんだ?」

盗賊「……」アワセテ15000Gクライ

エルフ「ふーくんの半年分の年収じゃないですか!?」

普者「」

アサシン「偉いおっちゃん殺したときは30000Gくらいもらったぞー」

エルフ「ふーくんの年収じゃないですか!」

武闘家「…先程から失礼ですよ。普者さんの気持ちも考えてください」

普者「(武闘家さん、女神か)」

女神「(はあ? どんな視覚の病気を持ったらあんなちんちくりんがこの可憐な女神に見えるんですか)」

普者「(ははっ、そうだね)」

女神「……」ゲシッゲシッ



女神「それにしても、絶対にギルドの方で報酬ピンはねしてますよ。子どもだし、バカだから良いように使われてるんでしょうね」

アサシン「そーなのかー?」

盗賊「……」ワカンナイ

エルフ「……正直、それもおかしくないとは思う。特にギルド幹部を仲介していないときは、かなり仲介料を吸い上げてるだろう」

アサシン「うー、幹部のおっちゃん通しての仕事は少ないぞー」

盗賊「……」ムゥ…

女神「ふふふ、それなら、私が交渉してあげましょう。なに、手数料はお安くしておきますよ」ニコ

普者「絶対に信用しちゃダメだよ」

女神「なっ」

武闘家「私も保証します」

女神「うっ」



エルフ「ふっ、信用がないやつだな」

女神「エロフは黙りなさい!」

エルフ「エロフじゃない!」

女神「欲求の処理はポケットマネーでお願いしますね。あ、実入りがあった際は、パーティの共有財産ですから」

エルフ「貴様…いい加減黙らせるぞ?」

女神「ふふん、出来るものならばやってみなさい。野蛮な種族ですね」

アサシン「それなら口の中にしまっちゃえー」ア-

女神「はっ?」

パクッ



普者「ちょっ……」

エルフ「……」唖然

アサシン「んー?」モゴモゴ…レルレル…

盗賊「……」キタナイモノ、クチニイレチャ、ダメ

武闘家「そうですよ。ほら、ぺーしてください」

アサシン「んー」ペッ


女神「キュゥ…」ビチョッ


アサシン「ちょっと甘かったぞー」



アサシン「キュゥ…」


エルフ「ごほっ…しかし5000Gのために屍体の首を持って戻るべきだろうか」

普者「来た距離を考えると微妙だね……」

女神「アジトが分かれば、しこたま溜め込んだ賊の財産を、この聖戦の旅の資金にできるんですけどね」フキフキッ

武闘家「聖戦……」

エルフ「これぞ本当の資金洗浄……いや、何でもない」


盗賊「……!」バッ


山賊G「お頭たち、おせぇなぁ…どれ、何してんだ?」


女神「みんな貴方を待ってましたよ」ニコッ



普者たちは山賊の集団を討伐した!
20000G相当の軍資金を手に入れた!


【夜・山賊のアジト】


アサシン「もう生き残りはいないなー?」

盗賊「……」タブン

エルフ「犯罪者たち、しかも先程殺したばかりの相手の寝ぐらで一晩明かすことになるとはな…」

女神「文句が多いですね。屍体は地下に放り込んだからいいじゃないですか」

普者「……僕がね」

武闘家「しかし、このお金や宝石は私たちが持っていていいんでしょうか」

女神「もはや、誰の代物か分からないからいいんですよ。宝石類は換金しないといけませんが、コネが必要ですね。こういう時よっさんが便利なんですが」

エルフ「この量ならば正規のルートでも何とかなるぞ」

普者「そうなんですか?」

エルフ「私も数年ほど冒険者をしているからある程度勝手は分かるさ」


武闘家「……元は騎士だったんですよね? どうして冒険を?」

普者「やはり特別な事情があるんですか?」

女神「どうせエロフらしく、ショタ王子に手を出したのがバレて追放ですよ。本当にエロフですね。くっころしてればいいものを」

アサシン「くっころ! くっころ!」

盗賊「……」クッコロ! クッコロ!

エルフ「そんなわけあるか! ……まあ、色々とあるんだ」

普者「えろえろ……」

エルフ「『火精の囁き』」メララッ

普者「ごめんなさいやめてください死んでしまいます」

武闘家「普者さん、不潔です」

普者「す、すみませんでした……」

女神「むっつりふーくんの、炭火焼きはまた今度ですか」


エルフ「(便宜上、元としているが、別に騎士を除籍したわけじゃない。……言う必要もないか)」


エルフ「そういえば、旅の資金の管理、普者がしているんだな」

普者「……ま、まあ、最低限の計算はできるようになったし、複式簿記もよっさんに叩き込まれたし……」

武闘家「私もお手伝いしています。基本は全員で確認してますので、気付いたことがあったら、教えてください」

女神「(……私に任せればよいものを)」

普者「(ははは)」

女神「……」ベシベシベシッ

エルフ「私はあまり金に細かい方じゃないからな。首が回らなくなってギルドの依頼を受けるということが多い」

武闘家「そうなんですか…? 意外です」

エルフ「エルフ族はそんなものだ。それより、武闘家のような武人肌が、出納管理に気を遣ってるのは意外だな」

武闘家「……最近までは他のメンバーに任せきりでしたが、私がしっかりしないと、ほら……」

エルフ「……なるほど」



普者「……」

女神「……」zzz...

ザッ

普者「……」ピクッ

盗賊「……」テキジャナイヨ

普者「ああ……まだ見張りは交代しなくてもいいよ。疲れてたでしょ?」

盗賊「……」フルフル

普者「そう……?」

普者「(いつもアサシンさんと一緒にいるから盗賊さんとはまだあまり喋ってないなぁ。いや、盗賊さんは喋れないんだけど)」

盗賊「……」

普者「……」

盗賊「……」

普者「(気まずい……)」



普者「あ、きょ、今日はありがとね。盗賊さんのお陰で、不意打ちされなかったし、こうして山賊たちを撃退できたよ」

盗賊「……」フルフル

普者「最近は盗賊さんのお陰で魔物の不意打ちを食らうこともなくなったし、逆に奇襲をかけられることも多いし、本当に助かってるよ」

盗賊「……」テレッ


盗賊「……」ブルッ…

普者「あ、寒い? 南国でも、夜になると、外は少し肌寒いよね」

盗賊「……」コクッ

普者「良かったら着てよ。僕は頑丈だけが取り柄だから大丈夫だしね」

盗賊「……」ダイジョウブ

普者「遠慮しなくていいから」


女神「んん……むっつりふーくん、炭の味……」zzz...


盗賊「……」ソレジャア

ファサッ ピタッ

普者「……!」

盗賊「……」アタタカイ

普者「ま、まあ、これなら二人とも寒くないね」ドキマギ


武闘家「二人で見張りですか?」

普者「……!?」

武闘家「随分と仲よくなったんですね」

普者「あ、いや、そんなこと、まあ……な、仲間だしね。あ、でも、ほら、特に深いアレはないというか……」アタフタ…

武闘家「……? 見張りを代わりましょう。普者さんはもう休んでください」

普者「あ、うん……ありがとう」

盗賊「……」オヤスミ

普者「うん、おやすみ……」

次回に続く!(また明日)


【幕間】

女神「もう2月ですね」シレッ

普者「前もすぐに3年経ってたりしたから平気平気……」

女神「嘘つきなのは、ふーくんだけで充分ですよ」

普者「えぇ……女神さまに言われたくないな」

女神「はあ? 私がいつ嘘ついたと? これだからふーくんは……」ヤレヤレ

普者「なんだかなぁ……」


【南西国・大賢者の小島】


普者「えーと、大賢者の小島ってあれだよね?」

女神「……結界も張ってありますし、それ以外の何だと言うんですか」

アサシン「山賊の基地から結構歩いたなー」

盗賊「……」ツカレタ…

武闘家「これだけ辺鄙なところに住んでいて不便じゃないんですかね」

女神「変人ぶりたいんでしょう。はー、バカらしい」

普者「会ったこともない人をバカにしていく、その精神がすごいよ」

アサシン「これ、島の中に入れるのかー?」ペタペタ…

盗賊「……」サァ?

エルフ「ふむ……一見単純な術式のようで、調べれば調べるほど難解な……これは面白いな。これを人間が作ったのか」

武闘家「魔法理論については詳しくありませんが、何だか芸術品みたいですね」

普者「入り口とかあるのかな?」

武闘家「なにか情報はないんですか?」

女神「入るのに、重要なアイテムがいるとかそういうのは勘弁です…ふーくん、その無駄な馬鹿力でこじ開けなさい」

普者「無駄なって…ふぎぎぃ……!」プルプル…

バチチッ

普者「あひぃっ!?」バタンッ

エルフ「強引な手段を取ると反撃をもらうわけか……『風精・羽』」パシュッ

シュゥゥ……

武闘家「……ちょっと妙な消え方をした気がします」

エルフ「うむ。力の散乱方向が幾何学模様を描いてるな」パシュッ パシュッ パシュッ

武闘家「結界とはみなこのようなものですか?」

エルフ「いや……私たちの国にも境界含め各所に結界が配置されているが、これほどのものはないな。見れば見るほど緻密で……少し変態性すら感じるぞ」

アサシン「作ったやつは変態なのかー?」


エルフ「そうだな……爪先ほどの石から、まつ毛まで再現した人間の像を掘るとする」

盗賊「……」キヨウダネ

エルフ「しかも、それを何千万、何億と積み重ねて巨大な人間像を作るようなものだ」

普者「ど変態じゃないですか」

女神「ふーくんとはまた違った変態ですね」

普者「いやいや……」

エルフ「よくこんな結界を作ろうと思ったものだ…そして、よく実際に作ったものだ」

女神「超絶的に暇な引きこもりなんですね」

アサシン「お外が嫌いなのかー?」

武闘家「やはり隠遁したいんでしょうか?」



盗賊「……!」ビッ

アサシン「……」チャキチャキッ

普者「敵…!?」


「あれー? お客さんー?」

エルフ「(……幼い少女?)」

普者「……ええ、そうです。もしかして、大賢者さんの使用人ですか?」

女神「(おやおや、大賢者というのは、ロリコンなんじゃないですか? ふーくんのお仲間ですね)」

普者「(僕はロリコンじゃないからね!)」


「わたしが大賢者だよー!」


武闘家「……はい?」

けんじゃ「けんじゃちゃんって呼んでねっ」ピ-ス


女神「…………」

普者「(凄い顔してどうしたの?)」

女神「(また、頭の悪そうなのが出てきたので、この世界について憂いているのです)」

普者「(頭の悪そうって……大賢者らしいよ? 見た目ちっちゃい子どもだけど)」

女神「(なんで、こうもガキみたいな姿のばっかり出てくるんですかねぇ……世界はふーくんの性癖に合わせてるんですか!? ふざけないでくださいこのロリコン!)」

普者「(僕は何も悪くないし、ロリコンじゃないからね!?)」

けんじゃ「まあまあ、お茶でも飲んでってよー、勇者一行さん。普者一行さんといった方がいいのかな?」

女神「……なんで知ってるんですか、このど変態ロリババア」

けんじゃ「だって、大賢者だもんっ」キャルンッ

女神「ああん? 縛り付けてスラム街に全裸放置して欲しいんですか?」

けんじゃ「下品なこと言わないでよー」


スッ

シュルル……

エルフ「(け、結界に自在に穴を開けて、しかも橋に変形させたのか……そんな芸当、聞いたことすらないぞ)」

武闘家「……普者さん、どうしますか?」

普者「へっ?」

女神「(分からないんですか? 結界をこじ開けられない以上、入ったらあのド変態ロリババアに閉じ込められてもおかしくないんですよ)」

普者「(あ、ああ、そういう……でも、ここまで来ようと言ったのは女神さまなのに)」

女神「(そ、それは……と、とにかく!きな臭いじゃないですか!)」


アサシン「おーい、みんな早くー! あははー、この橋、しなるぞー!」ピョンピョンッ

盗賊「……」ピョンピョンッ


女神「あ、あのアホチビたち……」ズキズキ…

普者「……行こうか」


【大賢者の塔】


女神「(……随分と奇妙な空間ですね。気色悪い)」

武闘家「お一人でお住みなんですか?」

けんじゃ「そうだよ」

アサシン「けんじゃちゃんは、ひとりぼっちで寂しくないのかー?」

盗賊「……」ウンウン

けんじゃ「そうでもないよー。こうしてたまにお客さんと話すこともあるからね」

普者「(……なんだか、僧侶さんを思い出しちゃうな)」

普者「あの、どうして僕たちが勇者一行だって知ってたんですか?」

けんじゃ「大賢者だからっ」フンスッ

女神「無い胸張らないでください」

女神「(……やっぱり狸ですね)」



アサシン「これおいしーなー!」バリバリッ

盗賊「……」バリバリッ

けんじゃ「もっと食べて食べて。あ、お茶のおかわりいる?」

武闘家「ありがとうございます」

けんじゃ「エルフもどう?」

エルフ「ご厚意に甘えさせていただきます」

女神「たくさん食べ物進めてくるのは、田舎のおばあちゃんの特徴ですね」

普者「僕も小さい頃は、近くのおばあちゃんに漬物とかおにぎりとかたくさんご馳走になったなぁ」

けんじゃ「おばあちゃんじゃないよー…」



エルフ「……しかし、この結界、やはり相当な魔法の使い手であるとお見受けしますが、ご自身で考案を?」

けんじゃ「そうだよー」

エルフ「人間の使う魔法体系を基にした設計ですか?」

けんじゃ「一応そうかなー。今の人間が使う魔法体系はわたしと、もう一人が構築したしね。正確には、もう一人が自分用に作った魔法体系をより一般化したんだけど」

普者「はぁ…」

けんじゃ「魔法使いちゃんがいたら、凄い食いついてくれたのになー」

武闘家「どうして魔法使いさんのことをご存知なんですか? 先程から、やけに私たちのことに詳しいですね」

けんじゃ「君たちのことはよく知ってるよー」

エルフ「(……質問に答えはしないのか)」

エルフ「一体なぜ?」

けんじゃ「大賢者だからねっ」フンスッ

女神「あたまが悪いんですか? あたまが悪いんですね? 分かりました」

けんじゃ「ひどい…」


女神「とにかく事実を知っているなら話は早いです。魔王を倒す策を寄越しなさい」

普者「他人任せ!?」

けんじゃ「大人数でボコボコにしちゃえっ」ニパッ

普者「うわっ、あてにならない!」

エルフ「……普者、元々お前にはあまり期待していなかったが、ますます幻滅したぞ」ジトッ

武闘家「……打開策は他人任せだったんですか?」ジトッ

普者「ぅっ…………はぃ」

女神「勇者としての自覚が足りませんね。だからダメダメふーくんなんですよ」ヤレヤレ…

普者「(も、元はと言えば、女神さまが……!)」

女神「(……おや? 珍しく何も言い返してこないんですかね?)」

普者「(……無視は酷くない? せめてなんか煽ってよ……)」チラッ

女神「……?」



女神「(気持ち悪い視線を向けないでください。これだからロリコンは……)」

普者「……」ハァ

女神「(本当のこと言われて何ため息ついてるんですか)」

普者「……」

女神「……ふーくん?」

普者「ん?」

女神「(ちゃんとこっちでも返事してください)」

普者「……?」

女神「……このヘンタイ狸ロリババア、一体どんな――」キッ

けんじゃ「もうっ、言葉が汚いよっ」キャルンッ

女神「――――!!??」

女神「(わ、私に完全沈黙魔法を!? な、なぜ干渉できるのです……!? ふ、ふーくん、魔法を解かせなさい! ふーくん! っ、体まで動かない!?)」ゾッ


けんじゃ「さて、取り敢えず、君たちはわたしに何かしらの協力を求めてるんでしょ?」

女神「( ……大丈夫、まだ“権能”は使える……な、なんとでもなります)」

けんじゃ「君たちに協力しない理由は一点を除いてはないし、寧ろそれ以外の点ではそれなりに協力したいとも思うよー」

エルフ「……その一点とは?」

けんじゃ「ふーくん」

普者「えっ」

武闘家「……普者さん、知り合いだったんですか? 何か嫌われるようなことを?」

アサシン「ふーくん、なにしたんだー?」

盗賊「……?」

普者「あの、身に覚えがないんですが、何かしましたか……」

けんじゃ「いやいや、君は何もしてないよー?」

エルフ「いったい彼に何の問題が……?」

けんじゃ「んー、存在そのものかな?」

普者「ぉぅ……!?」

アサシン「ふーくん、落ち込むなー、ウチはそんなに嫌いじゃないぞー」ポンポン

盗賊「……」ポンポン

普者「う、うん、二人ともありがとう」

女神「(この女、一体何なんです? 情報では、決して私たちに敵対する存在ではないとあったはずですが……ああもう、だからシステムにあぐらをかかずに普段から情報を集めておけばいいものを! こうした不測の事態に対してアドホックに対応し過ぎなんですよ! 危機意識が足りないんです!)」

けんじゃ「ふーくん。とても不確実な存在なんだよ。君がどのように作用するのか、まだ誰も判断がつかない。きっと神さまでさえもね」

アサシン「おー? なんか、ふーくんカッコイイなー?」

盗賊「……」コクコク

武闘家「よ、よく分からないのですが」ドキドキ

エルフ「普者、何を隠している?」ソワソワ

普者「えっ? い、いや、僕は何も知らないよ」

女神「(なんでそんな出来の悪いポエムな言葉に色めき立ってるんですか!? パーティ全員思春期ですかー!?)」


普者「(女神さま、けんじゃちゃんさんは何を言ってるの? 女神さま! いい加減無視しないで! ……女神さま?)」


けんじゃ「……今日は泊まっていくといいよ。お部屋はたくさんあるから」

・・・

女神「もっと早く私の異常に気付いてください! どれだけ一緒にいたと思ってるんですか!」

普者「ご、ごめん……」

女神「まったく……! ああ、もう! あの得体の知れない狸ババアはなんなんですか! 腹が立ちます!」

普者「なんというか、顔付きとか、やっぱり子どもじゃないよね……底が知れなかった」

女神「ロリコン視点の感想は求めてないんですよ! ……あの狸、私に干渉できる以上、隙を見せたら私が直接手を下します!」

普者「でも敵対するつもりはないって……」

女神「信用できますか!? 忌々しい! この私に向かって思わせぶりなことばかり言って、しかも、馬鹿にまで……!」ムカムカ…

普者「(苛立ってるなぁ……)」

けんじゃ「やっほー」キラリンッ

女神「野生のけんじゃが現れました! ふーくん、10万ボルトです!」ビッ

普者「えっ」

女神「もうっ! 雷魔法も使えないなんて役立たずですね!」

普者「えぇ……」


けんじゃ「たのしそうだねー」

女神「……あなたは敵なんですか!? 敵なんですね!? 白状しなさい!」ビシッ

けんじゃ「そう声を荒げないでよ。さっき言った通り、わたしは敵じゃないよー、女神さま」

女神「あら、やはり私の存在に気付いてましたか。これは消さざるを得ませんね」

普者「(それならよっさんもだと思うんだけど……)」


けんじゃ「……あまり図に乗らないでよ」パチンッ


女神「――――!!」


けんじゃ「敵じゃないと言っているでしょ」

スタスタ  ボフッ

けんじゃ「“管理者”はいつも傲慢で利己的だよね。“首輪”をしているからってあまり良い気にならないことだね」

普者「(……首輪?)」


パチンッ

女神「っは…………あ、貴女は、何者なんですか……?」ガクガク…

普者「(あの横柄な女神さまが本気で怖がってる……)」

けんじゃ「まずそのふざけたピクシーの姿をやめたらどう? 世間知らずな女神のお嬢ちゃん? 君の仲間たちはこの空間に干渉できないしね?」

普者「(……あれ? それってもしも襲われたらマズイんじゃ。けんじゃさんが敵だったら僕たち本当に終わりだよね? …いや、今更だね)」

女神「……」


シュパァッ


女神「ふん、これで満足ですか?」ファサッ

普者「(旅立って以来の元の姿……やっぱり教会の女神像そっくり……だけど、何か違和感が?)」

けんじゃ「ふうん、デフォルトの姿はやっぱりそれなんだね。ということは、教会の女神像はおっぱい盛ってるんだ?」

女神「なっ、どこを見てるのですか! 無礼な! ふーくんも気持ち悪い目で見ないでください! おぞましい!」

普者「濡れ衣だよ!?」


女神「……質問に答えなさい。貴女は何者なんですか? 何を知ってるんです?」

けんじゃ「わたしの個体情報なんていくらでも手に入るんじゃないの? ……あはは、それとも、本気で知らない?」

女神「……私は、貴女が大賢者ということと、私たちの味方であるという情報を受け取ってます」

けんじゃ「っ、ははははははははははははははっ!! 本当にそれだけ!? 天界は平和ボケしすぎなんじゃないのっ!? あははははははははッッ!!」

普者「ひっ……」

女神「……」

けんじゃ「はぁー……二人とも座ったら?」

女神「……」トスッ

普者「……」オズオズ…


けんじゃ「わたしの出自等に関する情報は貴女には公開されてないのかな? もしかして“首輪”付きなのすら知らなかった? 」

女神「……データバンクにアクセスしましたが、貴女の個体情報は特別非公開になっていました。開示請求を求めたところ、第一級の秘匿情報に分類、緊急案件にて再度開示請求するも閲覧許可は降りませんでした。二次情報にも出自、個別規制に関するものは全て第一級の秘匿情報に該当しました」

けんじゃ「あらら……ふぅん、そういうスタンスなんだ」

女神「……閲覧可能な二次情報は各種項目に散見され、貴女に敵性のあることを示すものはありませんでした」

けんじゃ「一般には便利なお姉ちゃん認識なんだ? ふうん、喉元過ぎれば熱さ忘れるを地で行っちゃうんだね」


普者「(……全然状況は分からないけど、こんなに青ざめた女神さまを見るのは始めてだ…不安だな。けんじゃさん怖いし)」

けんじゃ「……可哀想なふーくん。何も知らないもんね。あのね、この女神さまは別に全能の神さまではないんだよ。 “管理者”……大いなる神とでも呼ぼうか……の一部に過ぎないの」

普者「……管理者? 大いなる神?」

女神「……みだりな情報の開示はあなたの“首輪”に作用しますよ」

けんじゃ「君は何もできないのに、そんな忠告をくれるなんて、やっぱり女神さまだね?」クックッ

女神「……」イライラ…

けんじゃ「勇者を司る以上、お嬢ちゃんは割りと強力な権限を持ってる方なんだろうけど、わたしの“首輪”の情報すら与えられないのは、流石に悪い意味で予想外だったよ」

女神「……あまり私を見くびらないことですね」

けんじゃ「君の言葉は薄っぺらいなぁ。割り過ぎたカクテルの方がまだ楽しめるよ」

女神「飼い犬がやけに吠えますね? イキのいい犬は去勢されますよ?」

けんじゃ「魔物以外は自分たちが全て支配できていると思ってるから君たちはしくじるし、問題の発見とその対応に遅れるんだよ」

女神「ふん、貴女に心配いただくことではありませんね」

普者「(ふぇぇ…空気が最悪だよぅ…)」


けんじゃ「ふーくん、神というのは顕現する時は、みんな、同じ姿の使い回しなんだよ」

女神「……不適切な表現です。訂正しなさい」

けんじゃ「本当のことでしょ? その方が混乱させないから。まあ、神さまを一つの系と見なすなら、自然なことかもしれないけどね」

女神「っ、人間の分際で、偉そうに私たちについて語るな……ッ!」

けんじゃ「はいはい、偉大で可愛い女神さまには敵わないね。ほら、“首輪”の使用権限にアクセスできた? 万一できたなら、やってみなよ? ほらほら?」

女神「……」グヌヌ…

けんじゃ「涙目になっちゃって……わたしは優しいからこれくらいにしておいてあげる」

普者「(女神さまは煽り耐性低いからなぁ)」


女神「ごほっ……貴女は、歴代の過去の勇者に支援をしていました。どうして、我々への協力を拒むのです?」

けんじゃ「そこまで強い表現を使った覚えはないけど、理由さっき言ったよ?」チラッ

女神「……」ジロッ

普者「ぅ……」


けんじゃ「ふーくん」

普者「あ、は、はい……」

けんじゃ「君は勇者補正がないと言われてるけど、まず何故勇者に選ばれたのか」

普者「え、ええと、女神さまが弓矢を撃って僕のお尻に刺さったから?」

女神「お尻に刺さるとかダサすぎです」フンッ

普者「射ったの女神さまなのに…!」

けんじゃ「及第点はあげられないかな。その意地悪い女神は君にちゃんと教えていなかったけど、勇者に選ばれるにはそもそもとして、相応の資質が必要なんだよ。そうでなければ、勇者補正とかの前に、勇者に選ばれない」

普者「は、はあ……」

けんじゃ「さっきも言ったけど君は特異なんだ。そこの女神には何のことか分からないだろうけど」クスッ

女神「……ふーくんの何が珍しいと? 確かに、歴代勇者の中でもとびきり最弱で、風采が上がらず、勇者補正が無いのはとびきり珍しいですが」

普者「ふぇぇ…」


けんじゃ「……どれだけ下界に興味を無くそうが、ふーくんの特異性について、流石に“管理者”が全く知らないわけがないよね。それでも、ふーくんの勇者起用を受容するなんて、ある意味感心するよ。もはや何も考えてない気さえする」

女神「……」

けんじゃ「その顔、色々、心当たりあるみたいだね? あはは、今に始まったことじゃないもんね。そして、君みたいな現場担当がてんやわんやするのも」

女神「……私は何も言っていませんが? あなたの発言は報告を上げておきますから」

けんじゃ「……それがわたしの目的かもしれないのに?」ニヤッ

女神「私のみが預かり知るところではありませんので」シレッ

けんじゃ「おそらく君の望むフィードバックはないだろうけど、やってみたら?」

女神「……ご忠告痛み入りますね」ムスッ

普者「(謎な会話ばかりしないで欲しいんだけどなぁ)」

普者「あのぉ、僕の何が特別なんですか…?」

けんじゃ「そのうち分かるよ」

普者「教えてくれないんですか…」

女神「急に雑ですね」ケッ


けんじゃ「わたしが、全て教える必要もないしね」

女神「ちっ…ふーくん、何か心当たりはないんですか? 自分のことじゃないですか」

普者「え、えーと……あっ」

けんじゃ「おや?」



普者「僕が世界に選ばれた特別な存在だから?」テレッ



「「……」」


女神「村人Cみたいな冴えない男を特別な存在にするわけないでしょう!」ブニュゥゥ…

普者「い、いふぁいれふぅ…!」

けんじゃ「そういう妄想は十代のうちに抜け出そうね」

普者「アッ、ハイ」ジンジン…


けんじゃ「まあ、そこの女神が絶対的な味方であると思わない方がいいかもね」

女神「っ、なにをっ……!」

普者「女神さまは味方だよ」

けんじゃ「おやおや、君は相当その女神に苦しめられてたみたいだけど? パーティを徒らに険悪にしてたりしたよね?」

女神「あ、あれは、まだ私も認識が、まあ、多少は、その、少しだけ、足りないこともなかったような気も……」ゴニョゴニョ…

普者「えーと……女神さまは、口は悪いし、すぐにゲスいこと考えるし、人の嫌がることをするけど」

女神「で、でまかせです!」

普者「でも、優しいところあるし、可愛いところあるし、敵だとは思いたくないんだ……あれ? これってただの僕の願望か」

けんじゃ「……」←呆れ顔

女神「……やれやれ、ふーくんは本当におつむもふーくんなんですね」ハァ…

普者「意味が分からないけど、バカにされたことは分かるよ……顔が赤いけど、大丈夫?」

女神「は、はあ? 赤くなんてないですから!」

普者「熱があるんじゃない?」ピタッ

女神「~~~っ!? どっせらぃ!」ドゴォッ

普者「うぼぁっ!?」


けんじゃ「…ごちそうさまー」

女神「は、はぁ!? 意味が分からないんですけどっ!? はあっ!?」ハァハァ…

普者「いてて…謂れのない暴力はやめようよ……」

女神「きき、汚い手で私に触るからです! 身の程を知りなさい!」

普者「ふぇぇ…」

けんじゃ「…ふーくんは『かしこさ』が圧倒的に足りないよねー。さらにチョロいくせに鈍感なんだもん」

普者「ぉぉぅ…」

けんじゃ「…………」

けんじゃ「そういうのも嫌いじゃないけどね」クスッ

普者「……どうも?」



けんじゃ「それじゃあそろそろ失礼するよ」

女神「あ、こら! なんか正体のヒントくらい残していきなさい! 釈然としません! 不快です!」

けんじゃ「それくらい頑張って自分で調べなよ。おやすみー。お楽しみくださーい」



女神「いけ好かない! いけ好かないですっ!」ムキィ-!!

普者「……思ったよりも変わった人だったね。そんなに暴れると、危ないよ…」

ガッ

女神「きゃっ!?」グラッ  ガシッ

普者「ぅぉゎっ…!?」グィィ…


ドシンッ


普者「いたた…女神さま大丈……」

フニュッ

普者「ぶ?」モミッ

女神「…………」

普者「…………」


女神「……ふふ、女神を相手取って淫行に及ぶとは、あなたも恐ろしい人間ですね」ニコ

シュゥゥ……

普者「(アカン)」

女神「そういえば、何度も勇者をやめたがっていましたね? ええ、解任させてあげます」コォォ

普者「ま、待って……」チゾクセイ…

女神「『聖霊魔法』!」

普者「……ひぃぃ、打ち消し!」ブン、バッ

女神「ほう……それなら少しだけ本気を見せてあげましょう……この力は地属性では打ち消せません」

キュィィ…


普者「あ、あの……それは流石に死んじゃうんじゃないかな……」

女神「……」ニコッ

普者「ヒェッ…」

女神「『星霊魔法』!」



普者「」チ-ン

女神「……ちょっと火力調整に失敗しちゃいましたかね。10対0でふーくんが悪いんですけど」

普者「」

女神「もしもーし」ツンツン…

普者「」

女神「勇者…目覚めるのです、勇者……なんて」ツンツン

普者「」


女神「……起きないですね。別に呼吸も心臓も異常ありませんし、問題ないですね」ツンツン

普者「」

女神「勇者はもっとイケメンであるべきです。なんですか、この風貌は?」ツンツン

普者「」

女神「そして、貴方は、何か隠してるんですか? 個体情報は引くくらい平凡なのに……ほら、怒らないから話しなさい」ツンツン

普者「」

女神「うりうり……」ブニブニ

普者「」

女神「……本当に起きませんね」ツンツン

普者「…」

女神「…………」

普者「…」

女神「ふーくん、起きてないですよね」チネッ

普者「……」


女神「…………」

ソ-ッ

普者「……んあ?」パチッ


女神「…………」

普者「うわっ!? ど、どうかした……?」


普者は再び瀕死に陥った!



女神「そうです、あれはあまりにも起きないから心配で顔を覗き込んだだけです。あの狸ロリババアが何か呪いでも仕組んでないか心配になっただけです。はっ、もしかしたら、狸ロリババアの呪いが? そうです。きっとそうに違いません。ええ、そうです。そうですね! おのれ狸ロリババア! あのババアは消さねば」ブツブツ



けんじゃ「……実はその通りなんだよね。嫌がらせは失敗したかぁ」

【翌朝】


けんじゃ「おはようっ。よく眠れたかな?」

アサシン「おー」

盗賊「……」コクコク

女神「……今日も憎らしい顔してますね。早くくたばったらどうです?」

けんじゃ「そちらこそー」

エルフ「仲良くなったんだな」

女神「その目は節穴ですか? 節穴なんですね? 虫の巣にでもしたらどうです?」ゴゴ…

エルフ「…今日は一段と機嫌が悪いな。普者の負傷と関係があるのか?」

普者「……」ボロボロッ

武闘家「お粥は食べられますか? 口を開けてください」

アサシン「ふーくん、生きてるかー?」

盗賊「……」ダイジョウブ…?

普者「……」←虚ろな目

けんじゃ「あらら……可哀想に」


女神「貴方が仕組んだことというのは、まるっとお見通しです……大人しく滅びなさい……」ゴォォ…

けんじゃ「何の話?」シレッ

けんじゃ「(その通りだけど、それだけでもないし、シラを切るよ)」

エルフ「普者は再起できるのか…?」

けんじゃ「大丈夫。後でぱぱっと回復させるから」

女神「……」ブツブツ



普者「……黒いローブの鎌を持った人がいた」

武闘家「それ、見えてはいけないものです」

盗賊「……」コクコク

女神「どうやら、悪い夢を見ていたようですね。お互いに」

けんじゃ「もうそれでいいんじゃないかな」

アサシン「?」

武闘家「しかし、普者さんのこの怪我は一体……?」

普者「あー、え、えーと……」

けんじゃ「昨日、ちょっとだけ一緒に修行したんだよー。そのあとの回復が足りなかったみたい」

普者「そ、そう! そうなんだよ!」


けんじゃ「君たちも修行してくー?」

エルフ「……協力はしないのでは?」

けんじゃ「全面的にはしないよー。でも、このまま死なすのも可哀想だからねー」

女神「そうやって修業中の事故に見せかけて一人ずつ始末するつもりですね! お見通しです!」ビシッ

アサシン「そーなのかー?」

盗賊「……?」

けんじゃ「もしそうなら、この結界に入った時点からそうしてるでしょ」

普者「この、妖精の言葉は聞かなくていいからね。天邪鬼だから」

女神「……」ゲシッゲシッ


エルフ「……どんな修行ですか?」

けんじゃ「まずエルフには模擬戦してもらおうかな。君は魔法も剣も高水準だし、実戦も豊富なんだけど、型にこだわり過ぎてるね。あと一歩抜けられれば、もっと強くなる……自分でも分かってるでしょ?」

エルフ「……まあ」

けんじゃ「アサシンと盗賊の二人は天才型なんだけど、流石に基礎を飛ばし過ぎだよー。基礎を教えたら勝手に応用してくだろうから、基礎的な知識と型かな」

アサシン「おー、キソかー、キソは大事だもんなー、キソー」

盗賊「……」キソ-


けんじゃ「武闘家は、その片腕、治したい?」

武闘家「!」

普者「そんなことできるの!?」ズイッ

けんじゃ「わたしは大賢者だよっ」フンスッ


普者「お願いします!」

けんじゃ「まあ、彼女次第なんだけどね」

武闘家「……治るんですか? 医療の発達した中央国でも不可能だと言われたのですが」

けんじゃ「普通の方法じゃないからね」

アサシン「なーなー、それなら盗賊の喉も治せないのかー?」

盗賊「……」

けんじゃ「んー、今は無理かな。同じ理由で武闘家の片目も無理」

アサシン「なんでだー、治してくれよー、なーなー」

けんじゃ「また今度ね。準備はしておいてあげる」

けんじゃ「(それまで生きていてもらわないと、無駄になっちゃうけど)」

アサシン「むー」

盗賊「……」イイカラ


武闘家「……」

けんじゃ「まあ、後で詳しく説明するよ」

武闘家「はあ……」


けんじゃ「それと、ふーくんは少し面談かな」

普者「……面談?」



けんじゃ「それじゃあ、修行はじめよー」

【エルフの場合】


エルフ「この塔にこんな広い訓練場が存在するだけの余裕があるはずは……」

けんじゃ「空間を拡張してるんだよ。さーて、彼女と戦ってもらうよ」

エルフ「彼女?」

ズズズ…

古淫魔「はろー」

エルフ「なっ……!」

古淫魔「きょはは、この前はお世話になったわねぇ」

エルフ「な、なぜ生きている!? 貴様は滅んだはずだ!」

古淫魔「…ぎゃはは! あの程度で滅ぶわけねぇだろ! テメェは地獄見せてからブチ殺してやんよォ!」


けんじゃ「おー、やっちゃえ、古淫魔! エルフの女騎士を倒しちゃえ!」

エルフ「……貴様!」

エルフ「(敵だったのか!? くっ、他の奴らも危ない!)」チャキッ

エルフ「……ふん、私一人でも、今度こそ貴様を討ち滅ぼしてくれる!」

古淫魔「やってみろや三下ァァアアッッ!」


けんじゃ「がんばれー」


【アサシンと盗賊(+女神)の場合】


アサシン「わー、泳ぐって楽しいぞー」バチャチャ

盗賊「……」スイ-


女神「なぜ私がチビガキ二匹と一緒に……」

けんじゃ「いいじゃない。ふーくんとちょっと気まずかったりするでしょ?」

女神「このヘンタイ狸ロリババア……!」


アサシン「うー、そろそろ疲れたぞー……」

けんじゃ「まだまだー」

盗賊「……」スイ-ッテ、オヨグト、ツカレナイ

アサシン「…こんな感じかー?」スイ-



けんじゃ「あの二人は何でもすぐに吸収しちゃうなー」

女神「……地獄みたいな環境を生き延びてきたようですからね」

けんじゃ「アサシンの常人離れしたスピードと体術、盗賊の常人離れした索敵能力……あれはこれ以上はもう磨きようがないね」

女神「ふむ……」

けんじゃ「ただ、二人ともかなり常識が歪んでるね。特にアサシンはもう手遅れだよ」

女神「ふん、貴女に言われたくは無いと思いますけどね」

けんじゃ「はいはい…」

女神「…あの娘、本当躊躇いなく人を殺すんですよ。ここに来る途中、山賊に襲われましたが、あっさりと全員を殺しました。命乞いに耳も傾けず、首をすぱっと斬るんです」

けんじゃ「痛め付けたりの嗜虐的な嗜好はないけど、殺すのは普通のことなんだろうね」

女神「(……狂ってるのは彼女じゃなくて、彼女みたいなのを創り出して、それが生存に適しているこのふざけた世界です)」


けんじゃ「それで、君たちは次にどこを目指す予定なの?」

女神「貴女みたいな得体の知れない変態ロリババアに言うとでも?」

けんじゃ「じゃあ、当ててあげよっか? まず、西国に行って、『世界の背骨』を目指す。その一峰である聖山に行って奉納されている『封剣』をかっぱらうつもりだね?」

女神「…」ギクッ

けんじゃ「その後は、適当に西国の王に託宣を授けておいて、『精霊の国』で『エルフのマント』をちょろまかす」

女神「…」ギクギクッ

けんじゃ「そして、軍隊を動員。それを陽動にしてる間に、『エルフのマント』を使って魔界に侵入して、魔王を闇討ち……絶対に失敗するね」

女神「なっ……」

けんじゃ「ちなみに、ここに来た本当の理由は、わたしがもつ『破壊の珠』を盗むため。不意打ちで、仕留める気まんまんだね」

女神「……どうせ、うまくいきます。大人しくよこしなさい」

けんじゃ「あれじゃあ四天王でも致命傷にはならないよ。魔王の実力を侮っちゃダメだと思うな」

女神「……しかし、かつて、勇者でない者が『破壊の珠』で強大な魔物を倒したと冒険の書に記されてますが?」

けんじゃ「そんなアネクドート信用しないでよ……わたしも魔界の現状はあまり知らないけど、現魔王は『冒険の書』の記録上では最強なんじゃないかな? 魔王だけでなく、他の魔物も、天界が一般に予想しているよりもずっと強いと思うよ」

女神「うぐぐ……っ」

けんじゃ「(しかも、敵は魔物だけじゃない)」


女神「……勇者未満のふーくんと対照的に、歴代最強の魔王ですか」

女神「(正直、竜王を見たときから、不安はありましたが、魔王、アレより強いんですか……? どうしろと?)」

けんじゃ「私が知る限り2番目に強い勇者の敵かな」

女神「……発言が矛盾してますよ」

けんじゃ「何も矛盾してないよ?」

女神「(冒険の書はすべての勇者と魔王の戦いが記されてるはず……いや、確か始まりの勇者は冒険の書が存在しない……え、もしかして、そんな太古の時代から生きてるんですか? ……まさか)」

けんじゃ「これだけ強い魔王が誕生したのも大本を正せば、天界の場当たりな対応で、それを放置したからなんだよ」

女神「……降参しますから本当に一から教えてくれませんか?」

けんじゃ「そのうち全部分かるよ。結末はまだ分からないけど」

女神「……」ムス-


けんじゃ「それじゃあね。あ、修行が終わらないと、この空間からは出られないから」

女神「は?」

けんじゃ「二人を見守ってあげてね。食糧は適当に置いてあるから」

女神「はっ? ちょ、ちょっと! 待ちなさーー!?」

【武闘家の場合】


武闘家「……本当に腕が治るんですか?」

けんじゃ「治るよー。ただし、二通りの治し方があってね、一つ目は三日で治る代わりに死ぬほど苦しくて、もしかしたら死ぬかもしれない方法。もう一つはとても時間がかかる代わりにかなり安全な方法」

武闘家「……」

けんじゃ「どっちがいい? そもそもしたくないなら、それでもいいけどね?」


武闘家「(竜王、そして魔王を倒すためには、片腕では到底……そして、時間は幾らあっても足りない)」


武闘家「……前者でお願いします」


けんじゃ「そう言うと思ってた。前者の準備は万端だよ」

武闘家「……」



武闘家「……体を固定する必要はあるんですか」

けんじゃ「あるよー。どれどれ……二の腕の生え際からバッツンだね。成長期だから痛む時が何度もあったね。辛かったね」

武闘家「……」

けんじゃ「じゃあ、全身麻酔をかけるねー。眼はつぶっておいてね」ツプッ

武闘家「(……ぅ、視界がぼやけて……頭がおも……)」スゥゥ……


けんじゃ「眼を閉じないとダメだって」クイッ



けんじゃ「……点滴と尿道カテーテルもよしっと。栄養が足りないと衰弱死しちゃうからね」

けんじゃ「さて、痛いだろうけどガマンしてね」スッ

(大賢者は殺菌した手斧を取り出し、片腕の断面部に勢いよく振り落とす)

バツンッ


武闘家「――――っっ」ビクンッ


(武闘家は無意識的に体を仰け反らせようとするも、手足と体幹を固定されているため、それも敵わない)


けんじゃ「そして、この細胞片を断面に移植してっと」


ミキミキミキミキ……ッ


武闘家「――――っっ!」ガチャガチャッ ビクビクッ ギッギッ…

けんじゃ「……キツそうだね」



けんじゃ「しかし、武闘家に関しては修行じゃなくて治療だね」

【普者の場合】


普者「あれ、女神さまは?」

けんじゃ「アサシンと盗賊たちといるよ。二人きりで話したいからね」

普者「はぁ……」

けんじゃ「さて……君は何のために魔王と戦うの?」

普者「勇者…のなり損ねだからですかね?」

けんじゃ「……君自身は魔王を倒したいと思う?」

普者「…人間にいい影響はないみたいだし、もちろん倒した方がいいとは思いますよ」

けんじゃ「自分の生命を喪ってでも魔王を倒したい?」

普者「それは嫌ですね」

けんじゃ「自分の生命がそんなに大事?」

普者「もちろん」

けんじゃ「他人のために犠牲にしたくない?」

普者「したくないですよ」


けんじゃ「臆病者だね」

普者「……それが臆病者なら臆病者でいいですよ…命あっての物種ですから」

けんじゃ「そんな人間に勇者が務まると思ってるわけ?」

普者「そ、そんなこと言われても、魔王倒さないと女神さまに消されちゃうし、やるしかないじゃないですか…」

けんじゃ「女神は本気でそれを言ってると思う?」

普者「……うーん、やる時はやりそう。魔王討伐にすごく熱心だし」

けんじゃ「……わたしが、ふーくんが消されることなく、その任を解けるなら普者やめる?」

普者「えっ、そんなことできるんですか」

けんじゃ「わたしは大賢者だよっ」フンスッ

普者「おおー!」

けんじゃ「どうする?」

普者「やめます!」


けんじゃ「でもー、他の仲間たちに何て言うの? 君に思うところがあるからこそ、一緒に戦ってきたんでしょ?」

普者「勇者補正のない僕より、ちゃんと補正がある勇者の方がいいじゃないですか」

けんじゃ「そうかな?」

普者「僧侶さんは死ななかったかもしれないし、武闘家さんの片腕と片目がなくなることもなかったかもしれないし、魔法使いさんはひどく衰弱することもなかったかもしれないし、よっさんは足が不自由にならなかったかもしれないし、僕は狂戦士を殺さずにすんだかもしれないし、戦士さんは古淫魔に殺されなくて済んだかもしれない。竜王は誰も攫えず、もっとたくさんの人が生きてたかも。これからも、誰も犠牲にならずに済むかもしれないんですよ」

けんじゃ「……」

普者「もちろん僕も死ななくてすむ! 女神さまも、きっとあまり悪態つくことがなくて、みんなも不快じゃない!」

けんじゃ「あはは、そうかもね」

普者「お願いします! どうか勇者の任を解いてください!」

けんじゃ「無理だよっ」キャルンッ

普者「」

けんじゃ「今のは、君の本音を知りたかっただけなんだ。騙してごめんねー」

普者「……ソウデスカ」


けんじゃ「……君は自分の母親についてどう思う?」

普者「母親…? うーん…明るくて優しくて世話焼きな性格で、いつでも笑顔で……大切な家族です」

けんじゃ「ふふ、今もたまにお母さんに甘えたくなる時がある?」

普者「……そんな歳じゃないですよ。臨終の母親にも、ちゃんとしっかり生きてくからって、誓いましたから」

けんじゃ「いじらしいなぁ……わたしに甘えてもいいんだよ? おいでおいでー」

普者「勘弁してください……」

けんじゃ「残念。それじゃあ父親は?」

普者「それを聞いてどうするんですか?」

けんじゃ「気になるからね」

普者「……レンガ馬鹿ですよ。レンガのことしか頭にないんですよ」

けんじゃ「婿養子に入ってから、レンガを始めたんだよね? 元々は何をしてたのかな?」

普者「……さあ? レンガの話しか聞いたことないです。大体、なんでそんなことを聞きたがるんですか?」

けんじゃ「大事なことだからだよ」

普者「あの頭がイカれた親父がですか…?」

けんじゃ「イカれてるのは頭だけじゃないからね」

普者「はあ……」

けんじゃ「彼が何者か君は知ってる?」

普者「だから、ただのレンガ馬鹿ですよ」

けんじゃ「……好きじゃないんだ?」

普者「……何処の家庭にも多少の不和はあるんじゃないですか?」

けんじゃ「もう少し父親と話をしてみたら?」

普者「……そうですね。冒険中に会う機会があったら」

けんじゃ「今は故郷に帰ってるみたいだよ?」

普者「……そうなんですか? 本当にどうして分かるんですか?」

けんじゃ「大賢者だからねっ」フンスッ

普者「はぁ……」



「っくしゅ! 何処かのレンガが俺の噂をしてるのか……?」

ガイコツ「ただいまっすー」

グール「キュッ!」

魔姫「ただいまかえりましたわ おとうさま」

「おう……その口調と呼び方はなんだ? グールくんとガイコツくんの入れ知恵か?」

魔姫「おとうさまに ふさわしい  むすめに なりますの」

「……そうか」

魔姫「……」ン-…

「目を瞑ってどうした?」

魔姫「おとうさま ただいまの キスは まだですか?」

「…ガイコツくん、何教えてんの?」

ガイコツ「……」グッ

「煉瓦パーンチ」ゴキィッ

ガイコツ「粉砕骨折っすー!?」ベキャァ




けんじゃ「君のお父さん、拾った幼女と暮らしてるよ」

普者「……は?」

けんじゃ「しかも可愛がってるみたいだね。ただいまのチューとか」

普者「あの野郎……」

けんじゃ「(結局してないけど)」

けんじゃ「義理の妹と仲良くね?」

けんじゃ「(魔王の娘……あはは、因果がぐにゃぐにゃで、面白いなぁ)」

普者「(冗談、だよな? いや、あの煉瓦バカなら何やってもおかしくない……本当だったら、ぶん殴って、母さんの墓の前で焼きレンガ土下座させてやる)」



けんじゃ「さてと。ふーくんは、この世界が好きかな?」

普者「はい?」

けんじゃ「自分が生きてるこの世界が好き?」

普者「まあ、それは、はい……」

けんじゃ「この世界を変えたいと思ったことはある?」

普者「へっ?」

けんじゃ「自分の好きなように出来たらいいなと思ったことは?」

普者「んー……多分あると思います」

けんじゃ「最近だと?」

普者「…もちろん、冒険で誰も死ななければいいなと思いますよ。誰も死なず、殺さずにすめばいいなぁと」

けんじゃ「世界を自由に変えられるなら、変えたいんだね?」

普者「そりゃ、自由に変えられるなら」


けんじゃ「それが周りを不幸にするなら?」

普者「良くないですね。誰の犠牲もなく一人でも多く幸せになるのなら変えたいです」

けんじゃ「犠牲が自分だけで、世界がとてもよくなるなら?」

普者「う……まだ死にたくないです」

けんじゃ「自分が幸せになる代わりにみんなが不幸になるなら?」

普者「うーん……周りを不幸にするのはちょっと」

けんじゃ「自分の生命と、世界中の人の生命のどちらかを取るとしたら?」

普者「……自分の生命だけあっても仕方ないじゃないですか」

けんじゃ「じゃあ、自分と自分の大切な人たちと、それ以外の生命なら?」

普者「うーん……」

けんじゃ「ほら、答えて」

普者「……大切な人たちを選びます。それ以外の人たちは正直ぴんと来ないです」

けんじゃ「……君の回答は勇者に相応しいものだと思う?」

普者「……思いませんね」


けんじゃ「わたしも相応しくないと思う。勇者向いてないよ」

普者「やっぱり、僕が勇者に選ばれたのは間違いなんですかね。だから勇者補正もない普者に……」

けんじゃ「関係ないと思うよ。選定されたのは君の特異性の一点のみだけだと思う」

普者「はっ……もしかして、親父は代々と続く勇者の家系だったとか!?」

けんじゃ「は?」ギロッ

普者「ひっ……」

けんじゃ「……それはないよ。二度とそんな戯言を口にしないでね?」ニコッ

普者「ハイ…」コワイ…


けんじゃ「歴代の勇者を全員見てきたけど、こんなに平凡な感覚の勇者はいなかったよ。超自己犠牲系か超俺様系が多かったかな。あとは戦闘狂とか……俺様系なフリした自己犠牲系とか」

普者「はあ……」

けんじゃ「君のその平凡な感覚がどれほど頼りになるか分からないけど、その頼りなさもある意味人間らしいのかな」

普者「はあ、なるほど……」ワカリマセン


けんじゃ「だから、ふーくんに協力してあげる」

普者「はい?」

けんじゃ「……」フンスッ

普者「……ええと、仲間になってくれるんですか?」

けんじゃ「それは無理」

普者「さいですか……」

けんじゃ「でも、君にお守りをあげる」

普者「お守り?」

けんじゃ「うん」ズブッ

普者「はっ!? えっ、ちょっ……!?」

けんじゃ「これを心臓に埋め込んであげるね」グニグニ

普者「ひぃっ……!」

チュポンッ

普者「あぁ……」ガタガタ…

けんじゃ「女神さまには内緒だよ。記憶は消しておくからバレないけどね。」ピカッ




けんじゃ「ぼーっとして、どうかした?」シレッ

普者「ああ、いえ……ええと、仲間になってくれるんですか?」

けんじゃ「ううん。それは無理」

普者「そうですか……」

けんじゃ「でも強力な魔法を授けてあげる。『全体転移魔法』、君が一度行ったところにみんなで移動できるとても便利な魔法だよ」

普者「おお! ……でも、僕はあまり魔法は得意じゃないから覚えられるかな…」

けんじゃ「だいじょーぶっ」

普者「ほんとですか?」

けんじゃ「電気と痛みと魔法パワーで無理やり学習させるから」ニコッ

普者「はいっ……えっ?」

けんじゃ「短期間で無理やり定着させるには良い方法なんだ? 魔法なんて最初を乗り越えたら、割となんとかなるからね」

普者「え、や、ちょっと……」


ぎゃああああああああっっ!?

【普者たちが修行に励む頃……】


剣士「ここが、大賢者の小島か……」

オカマ「思ったよりも時間がかかったわね」

ニャン娘「アンタが場所を南国の南端だと間違えてたからじゃない! おかげで、無駄な遠回りしちゃったわよ!」

吟遊詩人「そういうこともあるよ、仕方ないさ」

剣士「この結界、どうすれば開くんだ?」

オカマ「ここはアタシの『どうぶつ♂』でこじ開けるわ」

ニャン娘「絶対やめて」

グパァ…

オカマ「あら、アタシの『どうぶつ♂』に反応♂したのかしら?」

ニャン娘「お願いだから呼吸するのをやめてくれない?」

吟遊詩人「(ニャン娘がどんどん辛辣に……)」


けんじゃ「大賢者の塔にようこそ」

剣士「これは、可愛らしいお嬢さん、お出迎えありがとう」キリッ

吟遊詩人「……剣士、そんな小さい娘にまで」

ニャン娘「……節操なしね」

剣士「僕は老若問わず女性には紳士なんだ」

オカマ「アタシにも優しいものねぇ」クネクネ…

剣士「ま、まあ、君が自分を乙女というなら、ほんの少しくらいは……」ヒキッ

けんじゃ「あはは、若頭がこの調子だと、陰者の一族も大変だ」

剣士「……どうして知ってるんだい?」

けんじゃ「大賢者だからねっ」フンスッ

吟遊詩人「……君が大賢者?」

けんじゃ「そうだよー。もちろん、君の身の上も知ってるよ。戦わない理由……戦いを恐れる理由もね」

吟遊詩人「……どこで知ったんだい?」

けんじゃ「大賢者だからねっ」フンスッ


オカマ「千里眼でも持ってるのかしらん?」

けんじゃ「それに近いものかな」

ニャン娘「……それなら話は早いわね。アタシたちは、アナタに協力して欲しいのよ」

けんじゃ「立ち話もなんだし、お茶でも飲んでってよ」

ニャン娘「アタシたちにそんな時間はないのよ!」

けんじゃ「そう? それじゃーねー」スッ

ニャン娘「なっ、ま、待ってよ!?」

けんじゃ「お茶のんでく?」

オカマ「わりと強引ねぇ…いただくわ」




オカマ「それで、アニマル諸島を守るために結界が欲しいわけ」

けんじゃ「ふんふん、なるほどね。お茶のおかわりはいる?」

オカマ「ありがと。いただくわ」


ニャン娘「……本当にあんな子どもがあてになるのかしら」

吟遊詩人「しかし、只者ではなさそうだよ」

パタパタ…

女神「あの腹黒ロリババア、絶対に泣かせ……げえっ!? オカマタイツ!?」

オカマ「あら? 会ったことあるかしら? 妖精ちゅわん?」

ニャン娘「か、かわいー……!」


女神「……覚えてないなら、別にいいです。はー、貴方を仲間に誘わずに済んで本当に良かったです」

オカマ「??」

剣士「しかし、妖精なんて珍しい。さすが大賢者の小島といったところか」

妖精「はあ? 勘違いしないでください。あのヘンタイ腹黒狸ロリババアが私の手下ですから。私がペットなわけじゃないですからね。このウザロン毛キザ剣士」

ニャン娘「く、口が悪い……でも可愛い! 遊びたい……コロコロしたい……」ニャァ-…

吟遊詩人「ニャン娘、目が据わってるよ。落ち着いて」


けんじゃ「出てきたということは、あの二人はもうノルマをこなしたんだ……本当に天才型だなぁ」

アサシン「ふいー、疲れたけど楽しかったぞ。 お客さんか?」


剣士「おや、これは可憐なお嬢さんだ」キリッ

アサシン「にーちゃん、顔半分が酷いことになってるなー? 髪の毛で隠しきれてないぞー?」

剣士「うっ……これは少しね……」

アサシン「火傷かー? かっこいいのにもったいないなー」

剣士「……ふっ、ありがとう」キリッ

女神「無口チビはどうしたんです?」

アサシン「無口チビー? チビちゃーん……」ツンツン

ニャン娘「あ、アタシもやりたい……」ニャァ…

吟遊詩人「こらこら……」

女神「だああ! やめなさい! 盗賊ですよ! 盗賊!」

アサシン「盗賊なら疲れたから寝たぞー」

剣士「可憐なお嬢さん。よければ僕とお話ししないかい?」キリッ

アサシン「おー?」

女神「やめておきなさい。こういう軽薄な男は女のことを軽んじてるものです。一晩抱いたら『一回ヤッただけで彼女ヅラすんじゃねえ』とか『出来ても認知しねえよ。適当な男と寝てろ』とか言うんですよ」

剣士「失礼な! 僕はそんな男じゃない!」

アサシン「ウチはお喋りよりもけんじゃちゃんのお煎餅が食べたいぞー」

けんじゃ「そう? 今持ってくるね」

アサシン「お? 可愛い猫耳だなー? にゃーにゃー!」

ニャン娘「あ、ありがと…にゃ、にゃー」

オカマ「賑やかな娘ねぇ」



バンッ

エルフ「大賢者……! こ、古淫魔は討ち取った! 次は貴様を冥界に送ってやる! 魔物の手先め!」ボロッ

アサシン「おー、ボロボロだなー」

剣士「おや、お嬢さん。酷い怪我だ。休んだ方がいい」ズイッ

エルフ「貴様も敵か!? 『風火の調べ』!」バシュシュ…

女神「ほんとに強くなってますね。錯乱してるようですが」

オカマ「魔法剣? 手練れねぇ」

ニャン娘「ちょ、ちょっと、こんなところで斬り合いを始めるつもり!?」

吟遊詩人「ニャン娘! 僕の後ろに隠れて!」グイッ


エルフ「はぁぁあああ! 『楓柳・風刃炎舞』!!」ガガッ

剣士「うわっ!? 『扇の舞』!」ギンギンッ

剣士はエルフの剣戟を裁く!

剣士「(ぐっ、キツいが魔人ほど理不尽な一撃じゃない! あ、でもキツい……!)」

エルフ「うぉおおぉぉおお!」ガガガッ

剣士「ぐっ…うぅ…うわぁぁ……ッッ!?」ガガ…ドガッ…

吟遊詩人「剣士…ッ!?」

剣士「心配は無用だ! これくらいはあのバカ魔人で慣れてる!」

エルフ「……全力で仕留めるッ! 『水土の嘶き』!」

オカマ「わお、四属性を同時に使えるなんて……でも、それは失敗よね」

水属性で強化された土属性が火属性と風属性を打ち消す!

女神「アホですか……実戦じゃなくて良かったですね」


エルフ「はぁぁぁあああああ!」

剣士「(…あれ? さっきより、ずっと楽だ)」

剣士「それなら、激しく踊ろうか……『二人のジルバ』!」キンキンキンキンッ

エルフは剣士の鮮烈な連続剣戟につられる!

エルフ「……ぅ」グラッ

剣士「……っと」ピタッ

ニャン娘「こ、殺したの?」

剣士「いや、相手に素早い剣を受けさせて披露させるだけの技だよ。どうも衰弱が酷いようだ……看病してあげねば」キリッ

エルフ「ぅ……」

剣士「……っ!? う、美しい……! こんなに美しい女性がいたなんて……!」

けんじゃ「アサシン、エルフを寝室に連れてってあげて」

アサシン「分かったぞー。ついでにウチも休むぞー」

女神「私も休みますかね」


剣士「ま、待ってくれ! ぜひ彼女のお名前を……っ」グラッ

オカマ「あら、思ったよりも疲労してるみたいね」

けんじゃ「君たちも結構お疲れみたいだね。泊まってくといいよ」

オカマ「……そうね。お言葉に甘えさせていただくわ。うふふ、剣士ちゅわん、お部屋にイきましょ?」フゥ…

剣士「一人で行くから、お前は来るな!」ゾワゾワ…

ニャン娘「お茶してくだけじゃなかったの……」

吟遊詩人「ニャン娘、そう焦ってばかりいては身がもたないよ。ここは甘えさせてもらおう」



女神「しかし、本当にどうしてみんな恥ずかしい技名を叫びたがるんですか……」



普者は『全体転移魔法』を習得した!


ガチャッ

普者「ひ、酷い目にあった……頭いたい……」フラフラ…

オカマ「あらぁ……男の子もいたのね」

普者「……ぎゃぁ!? い、いつかのヘンタイ!?」

オカマ「あらヒドォい……会ったことあるかしら?」

普者「え、あ、うん……この前の武闘会で。あ、僕は一応本戦に勝ち残った普者です」

オカマ「……ああ、地味だけど、中々えげつない戦いをしてた子ね」

普者「あ、そういう覚え方ですか」

オカマ「ふーん……普者くんねー?」ヌッ

普者「ヒッ! ナ、ナニカ…?」

オカマ「んふふ、その反応、可愛いわね。どう、良かったら、アタシの部屋に来ない?」ガシッ


普者「え、ええ、えーと、疲れてるので……」ビクビク…

オカマ「あらっ! アタシ、『マッサージ(意味深)』得意なのよぉ……」ギラッ

普者「ひぃぃ……」

オカマ「ほら、おいで?」ツイ-…

普者「だ、誰か助けて……!」

バシュッ

オカマ「!」バッ


武闘家「……『氣弾』。こちらの手だと上手く撃てませんね」

オカマ「……あら? コロシアムの武姫さまじゃないの?」

武闘家「ええ、どうも」


普者「……武闘家さん! 腕が本当に治ったんだ!? 良かったね!」ガシッ

武闘家「あ、ダメです、離してください」

普者「え、あ、ごめ……」


ブンッ    普者「ぁんぐぁ!?」ドガッ


オカマ「あらら?」

武闘家「まだ勝手に動くことがあるんです……ごめんなさい……」

普者「ぃ、ぃゃ……ぅン……」クタッ


けんじゃ「あっ、治ったんだね。具合はどう?」

武闘家「さっきから勝手に動くんですが、どうなってるんですか?」

けんじゃ「んー、完全に馴染むまでは少しかかるかも」

けんじゃ「(遺伝子操作してるといっても、基はとある生物の細胞だからね)」


武闘家「……どれくらいかかるんですか?」

けんじゃ「個人差はあるけど、どんなに早くても二週間かな。自分の手に殺されたくないだろうし、固定してあげるよ」

武闘家「……ええ」

オカマ「それじゃあ、アタシは普者くんのお世話(意味深)するわね」ギラリッ

普者「だ、大丈夫……! ほんと大丈夫ですから!」フラフラ…

武闘家「普者さん、行きましょう。こっちの手なら大丈夫ですから」スッ

普者「あ、ありがとう」ギュッ

オカマ「あらら……つれないわねぇ」

けんじゃ「……」

【翌日】


エルフ「剣士殿、昨日は非常に迷惑をかけた。申し訳ない」

剣士「いや、気にしないでください。むしろ、貴女になら切り刻まれても本望です」キリッ

エルフ「は、はあ……」

吟遊詩人「剣士くん、それはどうなんだい?」

ニャン娘「どんな女にもこんな感じだから相手にしない方がいいわよ」

武闘家「そうですね」

剣士「お嬢さん方は手厳しい。それで、エルフさん。よろしければ、僕と朝の散歩しませんか? 是非貴女と二人きりでお話しがしたい」キリッ

エルフ「は、はあ……」

ニャン娘「困ってるでしょ! やめなさいったら!」

剣士「お嫌でなければ是非……」

エルフ「う、うむ……」

武闘家「嫌ならはっきりと断った方がいいですよ」

吟遊詩人「ははは……」



オカマ「あらぁ、みんな朝早いのねぇ」ガチャッ

ピカッ

エルフ「……!?」

オカマ「あら、光る石?」

エルフ「……」ササッ

オカマ「そんな必死に隠さなくても取ったりしないわよぉ。カラスじゃあるまいし」

エルフ「…………」ジィ…

オカマ「うん? そんなに熱い視線を送られても、困るわあ」

武闘家「(どこから、どう見ても睨んでると思うんですが)」

エルフ「(……コイツが? ……まさかな。何かの間違いに決まっている)」

オカマ「どうしたの?」

エルフ「……いや」



けんじゃ「おはよー。ご飯の用意ができたよ。人が多いし、こっちで食べようか」

アサシン「朝ごはん!」シュタッ

ニャン娘「きゃっ!?」ビクッ

盗賊「……」タタタッ

ニャン娘「び、びっくりした…急に現れるなんて……」

アサシン「おー? ごめんなー?」

エルフ「食事となると行動が更に早くなるな」

アサシン「お腹すいたからなー。ご・は・ん! ご・は・ん!」

盗賊「……」ゴ.ハ.ン! ゴ.ハ.ン!

けんじゃ「それじゃあ盛り付けを手伝ってくれる?」

アサシン「おー!」

盗賊「……」コクコクッ

武闘家「私もできる範囲で手伝います」



アサシン「あっ!? 腕が増えてるな!」

盗賊「……!」

武闘家「……お陰さまで」

エルフ「信じられないことだが、幸いなことだ。さて、私も手伝うか」

ニャン娘「アタシも。この人数の準備を一人では厳しいもの」

けんじゃ「ありがとー。ふーくんもそろそろ来るから全部で10人分ね」



普者「……わあ、随分と人数が多いね」

女神「……11人ですか。ちょっとした集会ですね」


アサシン「遅かったなー? 何してたんだー?」

普者「ああ、新しく覚えた魔法を試してたんだ」

女神「ふふん、これを見なさい」つミックスフルーツジュース

武闘家「どうしたんです?」

普者「転移魔法で南国に行ってきたから買ってきたんだよ」

エルフ「……転移魔法を習得したのか?」

普者「けんじゃちゃんさんに教わったんですよ」

アサシン「好きなところに行けるのかー?」

普者「色々と面倒な条件はあるみたいなんだけど、行ったことのある場所なら大体ね」

盗賊「……」スゴイ…

武闘家「そんな便利魔法があるんですね」

女神「でも、ふーくんは田舎者ですからね。東国、中央国、南国とココくらいしかまだ行けません」ヤレヤレ

普者「う、うん……」


剣士「……一瞬で行けるなら充分すぎるほど便利だな」

オカマ「アタシの逆ハーのための旅も捗るから、教えて欲しいわ」

エルフ「……しかし、理論上だけのものじゃなかったのか?」

けんじゃ「人間のまだ使ってない部分を活性化させれば充分に実行可能だよ」

剣士「……それって大丈夫なのか?」

けんじゃ「一回覚えれば、後は身体が勝手に最適化してくれるから直ちに支障はないよ」

ニャン娘「……それって後々に支障があるってことなんじゃないの?」

エルフ「いや、支障があるとは言い切れないが、支障がないとも言い切れないな」

吟遊詩人「つまり、後のことは分からないと?」

けんじゃ「~~♪」ピュ-


オカマ「早死にするのかしら?」

普通「ええっ!?」

女神「どうせ死ぬときは死ぬから気にしない方がいいですよ」

普者「えぇ……」

エルフ「人間なぞ、ただでさえ儚き生命だというのに……」

普者「ひぇぇ…」

けんじゃ「大丈夫だよ」

普者「……!」ホッ…

けんじゃ「(多分)」


アサシン「ちびちゃん、ジュースいいなー」

女神「ふふん、あげませんから。そしてチビは貴女です。黒チビ娘」

普者「一応、パーティみんなの分とけんじゃちゃんさんの分も買ってきたけど、……あー、物足りないだろうけど、みんなで分けようか」

オカマ「あら、優しいのね」

普者「あ、あはは……」

女神「これは私の分です! 私は食事をしないんだから、これくらい良いでしょう!?」ササッ

武闘家「誰も取りませんよ……」


けんじゃ「とりあえず食事しようよ」


ワイワイワイ……ガヤガヤガヤ……


アサシン「これうまいぞー」

エルフ「手掴みで取るのはやめろ。行儀が悪いぞ。ほら、野菜も食べなさい」

盗賊「……」コレ、ツカッテ


ニャン娘「こんなに美味しいご飯食べるの久しぶりかも…」

吟遊詩人「そうだね……こんなに豪勢な食事をいただいて申し訳ない」

女神「そうですよ、感謝しなさい」フフン

普者「威張る要素ないよ?」

武闘家「本当ですよ」


剣士「エルフさんは、どういった料理がお好きですか」キリッ

エルフ「そうだな……」

オカマ「アタシはやっぱり肉ね!」

剣士「(お前には聞いてない)」

ワイワイ…ガヤガヤ…


ニャン娘「……アナタが勇者なの!?」

普者「ええっと…一応……勇者のなり損ないなんだけど……」

吟遊詩人「まさか、ここで会うとは思わなかったな……」

ニャン娘「…………」

女神「『冴えない男ね』とか思ったでしょう? そうです、冴えない男なんですよ」

普者「ひどい…」

オカマ「竜王が現れた武闘会の場にいたんでしょ? 勇者なのに、目立ってなかったわね? 記憶に無いわ」

普者「あー……」

武闘家「普者さんは逃げましたからね」

エルフ「普者、お前……」

普者「ぅ……」


剣士「…はっ、とんだ腰抜け勇者がいたものだな。偽者じゃないのか?」

エルフ「……出来損ないの勇者というが、それすら証明する方法がないからな」

普者「そう、ですね……」

剣士「仮に勇者だと嘘を本当にしたいなら、せめて行動を伴って欲しいね」

女神「……勝てそうもない敵にいつでも挑むのが勇気だと思ってるんですか? 女の子優先的に逃がしてただけの、下半身思考型のスケベ男が偉そうですね、気持ち悪い」

剣士「なっ……」

オカマ「それは納得できないわねぇ。妖精ちゅわぁん、剣士ちゃんは救える生命を救ったのよ? 何もしなかった普者ちゃんよりもよっぽど勇者じゃない?」

けんじゃ「……」

ニャン娘「勇者が戦わずに、誰が戦うっていうのよ? 肩書きだけの勇者なんていらないのよ」

吟遊詩人「勇者には勇者の振る舞いがある。それで初めて勇者になるんじゃないのかい?」

普者「……」

女神「あなたたちの勝手な勇者像をふーくんに押し付けないでもらえませんか? そういうの迷惑ですから」

アサシン「んー? ふーくんは、別に勇者じゃないんだろー?」

盗賊「……?」

剣士「それなら、出来損ないも何も勇者なんて名乗るな、臆病者が」


武闘家「その発言は取り消してください」

剣士「何故だい?」

武闘家「確かに、あの場から逃げた普者さんが正しいとは私は今でも思いません」

女神「どっちの味方なんですか…」

武闘家「しかし、そうして生き延びた普者さんのおかげで助かった生命は確かにあります。竜王に関してだけで普者さんを臆病者呼ばわりしないでください」

エルフ「……確かに武闘家の言う通りだな」

剣士「断るよ。僕は臆病者の君しか知らないし、勇者という名を軽々しく名乗る輩は大嫌いだからな」

ニャン娘「そうね」

吟遊詩人「……うん」


女神「…あなたたち何様なんですか?」

けんじゃ「剣士の言葉も尤もだね」

女神「はあ?」

けんじゃ「勇者の称号には、大きな価値がある。みんなもそう思うでしょう?」

(大賢者の言葉に、メンバーはそれぞれ同意を示す)」

女神「……何を企んでるんですか?」

けんじゃ「別に? ただ、勇者ならば、救いを求める者に手を差し伸べなければいけない」

女神「だから、勇者でなく、勇者未満の普者なんですよ」

けんじゃ「だから何?」

女神「……は?」


けんじゃ「ふーくんらしく頑張って欲しいけど、勇者の選定を受けた以上、実力相応のことだけをしてもらうわけにもいかない」

けんじゃ「どんな状態であれ、勇者になってもらわないといけないんだよ」

けんじゃ「魔王を倒すだけが勇者なんて甘えだよ……勇者であること、それが勇者の役割」

けんじゃ「普者なんて存在は世界に求められていない……求められているのは、勇者なんだよ」

けんじゃ「勇者は、人々の希望であって初めて勇者になり得る」

けんじゃ「死にたくないのは大変結構だよ、死にたがりよりは遥かによろしい」

けんじゃ「しかし、勇者になれないなら、君なんて要らない」


けんじゃ「それすら理解できない役立たずなら、さっさと死ね」


女神「……」ブチッ

ベシッッ

女神「はぁ…はぁ…」ジンジン…

けんじゃ「それで満足した? それなら無知なお嬢ちゃんは引っ込んでろ」

女神「……」ギリッ


普者「……何をそんなに怒ってるの? 何回も僕に言ってることじゃん」

女神「ぁ……」


普者「……勇者らしくとか、正直分からないですケド、死ぬのを先延ばしできるよう頑張りますよ」

普者「……別に、今迄もそうだったし、何が違うんですか?」

けんじゃ「……君って本当にバカなんだね? 勇者の自覚が足りないと言ってるんだよ。いっそもう殺してあげようか?」

普者「……嫌ですケド。殺されないように、今迄みたいに何とかやりますよ」

けんじゃ「本当に脳足りんだね」

普者「勝手に価値観押し付けて、勝手に過度な期待して、勝手に理不尽に腹を立て、罵倒して、脅して…………」


けんじゃ「だから……」


普者「仲間になるわけでもなく、無理やりな方法で魔法教えて、偉そうなことばかり言って…………テメェがなんなんだよッッッッ!?」


普者はテーブルを大賢者に叩きつけた!
大賢者はテーブルを魔法で吹飛ばした!
卓上の料理が無残に飛び散らかった!


普者「何が勇者らしくだ!? こっち は理不尽に死にそうになりながら、なんとかやってんだよ! グチグチ文句つけるならテメェが勝手に勇者になれよ! 条件は大して変わらないんだからさぁ!?」


けんじゃ「そういうとこが自覚足りないって……」


普者「うるせぇぞクソババア!! だいたい協力するっていうなら、情報ぐらい全部出せよ! 武闘家さんの目と盗賊さんの喉を治せない理由もしっかり説明しろよ! それもしない脳たりんはテメェだろうがよォォ!?」

普者「意味深なことばっかベラベラ喋って自己満足に浸ってんじゃねえぞクソババアが!父親がどうとかのたまうならさっさと言えや! バカじゃねえの!?」

普者「つうか、一々気持ち悪いブリっ子しやがってよぉ!? 可愛いとでも思ってんのかクソババアが! しかも、コロコロ態度かえやがってよぉ!面白いとでも思ってんのかチビ! あぁー、もうお前、むかつく! 本当むかつく!死ね死ねうるせえお前がさっさと死ね! クソババア死ね!」

けんじゃ「……」


普者「はぁはぁ……」



普者は我に帰った!


室内が静まり帰っている……


普者「……」サァァ…


普者「ご、ごめんなさぁあい……!!」


普者は逃げ出した!

次回に続く!


【幕間】

女神「ふーくん、大丈夫ですか? キャラ崩壊し過ぎでは?」

普者「最初からわりとこんな感じだよ。むしろ女神さま、最近可愛いふりしすぎでは?」

女神「は? 私は最初から最後まで可愛さたっぷりですが? 今まで何を見てきたんです?」

普者「そ、そうっすか…」

女神「それにしても、もうすぐ1スレ終わるというのに、この進具合、スローペースってレベルじゃないですよ」

普者「こ、こっから加速するんだよ…するのかな…」

女神「想定では、海王と牙王はこのスレの中で戦うつもりだったみたいですが」

普者「ははは、またまた冗談を……」

女神「冗談はふーくんの顔だけで充分ですから」

普者「ひどい…というかマジで…」

【東国・始まりの町】


普者「……気まず過ぎて帰ってきちゃった」

普者「……うわぁぁあああ……なんであんな、いや、間違ったこと言ってないけど、あんな風に突然怒るなんて……」

普者「けんじゃさん、怒ってるよなぁ……うわぁぁ……どうしよ……」

普者「『やれやれ、最近の若者はすぐにキレるから困ったものですね』とか女神さまに言われてるだろうし、武闘家さんやエルフさんにも幻滅されたろうし……はぁ……」


ガイコツ「ふいー、おつかいも大変っす」

グール「キュッ」


普者「……魔物!? こんな街中にどうして!?」


町人「あら?」

ガイコツ「あ」


普者「……魔物と町の人が!」ザッ


普者「……そこの魔物!」

町人「ガイコツくんに、グールくん、おはよう」

ガイコツ「おはようっすー」

グール「キュッ!」


普者「その人から離れ……え?」

ガイコツ「んおぉ!? 冒険者の方っすか!? オイラたち悪い魔物じゃないっすよ」

グール「キュッ!」

普者「……」

町人「あはは、そうなのよ。良い子たちだから、見逃してあげてね」

普者「は、はぁ……」

「お、ガイコツくんが余所モンに絡まれてらぁ」「兄ちゃん、そいつら、良いやつらだぞー」
「魔物も話し合えば分かり合えるのかもねー」「ガイコツくんたち見てるとなぁ。下手な人間よりもよっぽど良いやつだぜ」

普者「(……本気で言ってるのか、それとも洗脳してるのか? 油断するべきじゃないな)」スッ


ガイコツ「あ、あのぉ、本当に何もしてないっすよぅ。あ、どうせならオイラたちがお世話になってる人を紹介するっすよ!」

グール「キュキュッ」

「あれ、というか、煉瓦さんのとこの倅じゃないか?」
「お、そういや、最近店じまいして見ねえと思ったら」
「家も無くなってたしなぁ? どうしたもんかと話題になってたな」

ガイコツ「もしかして、レンガさんの息子さんっすか!?」

グール「きゅー!?」

普者「え、う、うん……多分……」

ガイコツ「オイラたちがお世話になってるのはレンガさんっすよ! どうもっす!」

グール「キュー」ペコッ

普者「(……あの人、何をやってるんだ)」




「良い仕上がりだ。まず色が良い……密度も……」コンッ

「うむ、上々だな……しかし……」

ガイコツ「レンガさーん!」

「ああ!?」

ガイコツ「ひっ!」

「ああ、すまん。作業の邪魔をされるとな……」

普者「……ふん、変わってないんだね」

「おう、生きてたか」

普者「……こっちのセリフだよ、クソ親父」

普者父「大した口利くようになったじゃねえか」


ガイコツ「……ちょっと険悪な感じっすね」ヒソッ

グール「きゅっ……」ヒソッ


普者父「あー、魔姫は?」

ガイコツ「親分は町の子たちと遊んでるっす」

普者父「……そうか。アイツも大分自制心が出てきたからな」

ガイコツ「最近は理不尽な暴力が無くなってきたっすね」

グール「キュッ」

ガイコツ「そりゃ、お前は全然受けてないからっす! オイラなんか酷い扱いっすよ!」

普者父「あー、後で聞くさ。ちょっと息子と二人で話させてくれ。絶対に魔姫を近付けさせるな」

ガイコツ「は、はいっす」

グール「キュッ」

普者父「久しぶりだな」

普者「魔姫……義理の娘とかいうやつかよ? はっ、しかも魔物まで町に連れ込みやがって」

普者父「なんで知ってるんだ?」

普者「墓前の母さんには何て言ったんだよ? お前のことは死ぬときまで放っておいたけど、代わりに娘を可愛がるよとでも言ったのか?」

普者父「テメェ……」

普者「何だよ。何か言いたいことがあるなら言えよ」

普者父「……」

普者「……何か言えよ!」

普者父「お前には悪いことをしたな」

普者「……っ、謝って欲しいわけじゃない! 謝って取り返しのつくことだと思ってるのかよ!?」

普者父「……」

普者「……っ」


普者父「……今は何をやってるんだ」

普者「……関係ないだろ」

普者父「……関係ないわけねぇだろうが」

普者「今さら父親ぶるな! 僕がどう生きて何しようが僕の勝手だろうが! お前には何も言われたくない!」

普者父「……」

普者「お前なんか大嫌いだよ! 自分の都合に合わせて周りを振り回して! 母さんは、お前なんかと結婚しなけりゃもっと幸せだったんだ!」

普者父「……黙って聞いてりゃ、ふざけんなッ」ブンッ

ガシッ

普者「気に入らなきゃ暴力かよ……それなら、こっちだってやってやるよ!」ブンッ

普者は普者父を床に叩きつけた!

普者父「ぐっ……」

普者は普者父の腕を踏む!

普者父「……ッッ」

普者「はっ! 母さんを見殺しにしてまで、磨いたレンガ作りの腕……文字通り叩き折ってやろうか?」

普者父「お前……」

普者「この腕さえなければ、お前は母さんと最期まで一緒にいた。この腕さえなければ、お前は僕を置いて何処かに行くこともなかった。この腕さえなければ……この腕さえなければ……ッ!」

普者父「…………」


普者「ほら、泣いて詫びろよ! 『しゅみませんでしたぁ! 勘弁してくだしゃいぃ!』ってさぁ! ほら!ほらぁ!」

普者父「……お前はそれで満足するのか」

普者「……っ」

普者父「お前は、そんなことを言いに来たのか?」

普者「うるさい!」ググッ

普者父「ぐ……」

普者「はは、ほら! 折れるぞ! 何か言えよ!」

普者父「……やれよ」

普者「は、はあ……!?」

普者父「それで、お前の気が晴れるならやればいいさ」

普者「……くそが! くそがぁぁあああ!」

グググ……! ギチチ…ッ!

普者父は静かに痛みに耐える!



スッ


普者「……くだらない。そんなことしても、無駄だってことは……僕が一番わかってるんだ」


普者「母さんが帰ってくるわけでもない、僕の孤独な時間が返ってくるわけでもない……母さんが最期まで愛したものを壊して、子どもの僕が……僕が誇りに思ってるものまで壊してしまうだけなんだ」


普者「ぅっ……」ボロボロ…

ギュッ

普者父「すまなかった……俺は、俺たちはもっと……お前を見るべきだった」

普者「なんでだよ、父さん……どうして母さんの側にいなかったんだよ……」

普者父「それが正しいと俺もアイツも思ってた……だが、お前のことも考えるべきだったんだな。俺が、間違ってた。すまなかった」

普者「うぅ……うああぁぁぁああああ……」ボロボロッ…

普者父「……」ギュゥッ



普者「……も、もういいから。離して」モゾモゾ

普者父「うるせぇ」

普者「や、やめろって……! もう……!」バッ

普者父「大人しく、父親に抱かれてりゃいいものを……」

普者「僕はもう二十歳だよ!」

普者父「二十歳が、チビみたいに癇癪起こして泣くんか」

普者「うっ……」

普者父「お前が、そうすべき時に、させてやれなかったんだ。今更でも、させてくれよ」

普者「ぅぅ……」

普者父「レンガの次に大事な息子だからな」

普者「そこでレンガかよ!? 台無しだわ!」

普者父「何おう!? レンガはなぁ……!」

普者「いや、もういい……もういいよ……それでこそアンタだよ」


普者父「父親に向かってアンタとは何だ」

普者「うるさいよレンガバカ」

普者父「そのレンガバカの腕をへし折ろうとしたバカ息子は誰だよ」

普者「……ごめんなさい」

普者父「それにレンガバカじゃねえ、今度は俺がレンガになるんだよ」

普者「……変わってないね。憎らしい反面、ほっとしたよ」ハァ…

普者父「俺は俺だからな。お前も久しぶりにレンガ作るか? 最近ご無沙汰だろ?」

普者「……いや、時間がないから、いいよ。……まだ、死にたくないからね。最後まで生き延びてからにするよ」

普者父「……そうかよ。一つだけ、言っておくがな、お前がどうなろうと、お前は俺と母さんの息子だからな。お前は俺たちに愛されてるんだぜ。……ちゃんと言ってやるべきだったな」

普者「や、やめてよ……それじゃあ、尚更死なないようにしないと。そして、母さんに恥じないような生き方をしないとね」

普者父「……母さんの墓参り行くか」

普者「……うん」



普者「それじゃ、戻るから」

普者父「勇者として魔王を倒すのか」

普者「な、なんで知ってるの!?」

普者父「何となくな。お前の側で一緒に戦ってやりたいが、それは不可能だ」

普者「……父さんは、何者なの?」

普者父「まだ、話す時じゃないし、それを知ることはお前を惑わすかもしれない。一つ言えるのは、俺はどうなってもお前の味方だ」

普者「……はあ、みんなして勿体ぶって」

普者父「……悪いな」

普者「……もういいよ。はあ、帰ったら謝らないとなぁ……」

普者父「……待て。戦場に赴く息子に、装備をやろう」

普者「装備?」

普者父「どうせ使えるのは、地属性と火属性辺りだろ?」

普者「ま、まあ……」

普者父「ちょっと待ってろ……」



普者父「ほれ、魔法の師匠からちょろま…譲り受けた『大地の盾』だ。地属性魔法と相性がいいから、手助けになるだろ」

普者「……ありがとう」

普者父「必ず生きて帰って来いよ、そして、後悔しないようにするんだ」

普者「……ん、そうだね」



普者「それじゃあ、ちょっと世界救ってきましゅ……噛ん…!」

ヒュンッ…


普者父「ああいうところは母さん譲りだな」

【南西国・大賢者の塔】


普者「……すみませんでした!」


アサシン「まったく! ご飯を無駄にしちゃダメなんだぞー!」

盗賊「……」コクコクッ

普者「はい……」

けんじゃ「……」

普者「あ、でも、ただの悪口は謝りますけど、他の不満点には、謝るつもりはありませんから」キリッ

武闘家「……いつもより強かですね」

エルフ「いつもの優柔不断さがないな」

女神「……勝手にどっかに消えたことは許しませんからね。この罪のは重いですよ。ふーくんのちっぽけな財産を全部接収しても全然足りません」

普者「えぇ…」


けんじゃ「……別に謝らなくていいよー。悪口言ってごめんね」

普者「い、いえ…」

けんじゃ「勇者としての自覚は、まあ、いいや。君には君らしい頑張り方があるのかもね。ちょっと、焦ってしまったのかな」

普者「……」

けんじゃ「けれど、やることはやってもらうよ」

女神「うるさいですね。貴女の指図なんて受けませんよ。ビチクソ変態ロリババア」

けんじゃ「やかましいぞ、小娘」

女神「はあん、そうやってすぐに口調崩壊して、ぷっくっく……煽り耐性低過ぎでは?」

普者「(人のこと言えないでしょ……)」

エルフ「やること、とは?」

けんじゃ「アニマル諸島の防衛。それが、次にすべきことだよ」


普者「アニマル諸島って?」

武闘家「アニマル諸島を知らないんですか……?」

エルフ「お前……」

アサシン「うちらでも知ってるぞー?」

盗賊「……」コクコクッ

女神「ふーくんは頭が残念なんだから仕方ないでしょう」

普者「ふぇぇ……」

けんじゃ「アニマル諸島は南西国の西にある島々だよ。古来より多くの動物や獣人が住んでるけど、近年は立地の良さから魔王軍の軍港として支配の危機に晒されている…というかほとんど支配されていた」

武闘家「……」

けんじゃ「それを今朝一緒にいた変な集団が追い払ったんだよ。ただし、それで終わりじゃない。もっと強力な敵が襲いかかってくる」

普者「強力な敵……四天王ですか」

けんじゃ「おそらく、そうだろうね」

女神「……そんな指図をするからには、策があるんでしょうね?」

けんじゃ「一応は。本当に上手くいくとは限らないけどね」


武闘家「普者さん、戦いましょう。このまま、救いを求めている人々を見殺しには出来ません」

女神「またこの小娘は……もしこの仲の誰かが死んだら貴女は責任取れるんですか?」

エルフ「聖戦の中で死ぬのは本望というものだ」

アサシン「お金もらってるからなー」

盗賊「……」コクッ

女神「あなたたちにはドン引きです……ふーくんは行きたくないでしょう」

普者「まあね」

武闘家「……」

普者「でも、このパーティのリーダーだし、僕だけ逃げるわけにも行かないよ」

女神「いつものヘタレふーくんは何処に……」

普者「ただし、勝ち目がなかったら撤退する! これは絶対に誓ってもらうよ。特に武闘家さんとエルフさん!」

エルフ「……適切なリーダーの指示には従うさ」

武闘家「……分かりました。私も魔法使いさんと約束しましたからね」

普者「……よし! アニマル諸島に行こう!」

女神「生き急ぎばかり……賢明な火炎もやしでも復帰してくれませんかね……」



普者「それで、例の変な集団……というかオカマタイツさんたちは?」

けんじゃ「彼らは必要なものが手に入ったからアニマル諸島に帰ったよ」

アサシン「一緒に行けば良かったのになー」

けんじゃ「すぐ追いつくよ。その前に聖山で封剣をとってきたら?」

普者「封剣?」

けんじゃ「行けば分かるよ。えいっ」

大賢者は『転移魔法』を唱えた!
武闘家と普者と女神を聖山に転移した!

女神「待ちなさい! このクソバ――」ヒュンッ


アサシン「今度は武闘家とチビちゃんまでどっか行っちゃったぞー」

盗賊「……」イソガシイネ

エルフ「私たちは……?」

けんじゃ「君たちは、先にアニマル諸島に行ってらっしゃい」

大賢者は『転移魔法』を唱えた!
エルフとアサシンと盗賊をアニマル諸島に転移した!


【西国・聖山・祭祀の祠】


普者「ここは……」

武闘家「……聖山ですね。一度来たことがあります」

女神「空気が薄いですね……ふーくんの肩にお邪魔します」ポスッ

普者「うん……聖山って、世界で一番高い山だよね」

武闘家「はい。『人間界の背骨』と呼ばれる山脈のちょうど中心で、西国と中央国の境界ですね」

女神「山頂は標高5000mです」

普者「5000m?」

女神「こんな薄着だと死んでしまうと高さですよ」

武闘家「流石にこの辺りはもっと低いと思いますよ。ここは超獣を祀るお社ですから」

普者「超獣……?」

武闘家「伝説の勇者によって、聖山の山頂に封印されたと伝えられる生物です。目覚めないように祈りを捧げるうちに、神格化されたと聞きます」

女神「(何が超獣ですか。たかが獣を神として崇めるなんてこの女神に対して、不敬ですよ。天罰くだしてあげましょうか)」

普者「(なんて神さまだ……)」


女神「……しかし学がないわりによく知っていますね?」

武闘家「ここの司祭の一族は……私の武道の家元……本家ですから」

普者「あ、そうなんだ……そして失礼だからやめて」ブニィ

女神「…生意気なっ!」ガブッ

普者「いたっ!?」


武闘家「……」

普者「(……暗い顔。いい思い出は無いのかな。それとも、両親のことを思い出して……?)」

女神「(両親が死んだのなら、普通はこちらで面倒を見てもおかしくないはず。そうでなかったということは、あまり本家と良好な関係ではなかったのでは?)」

普通「(なるほど……)」

女神「そんなことより、封剣ですよ」


武闘家「……ちょうど、この祠の奥にあるはずです」

普者「いいのかなぁ……」

女神「貰っていきますと言って貰えると思ってるんですか? アフォですねぇ」

普者「腹立つなぁ……」

武闘家「勘付かれる前に行きましょう」

普者「超獣を封印してるんじゃないの? 持ち出したりしたらその超獣が目覚めたりしない?」

武闘家「剣そのものは特に関係ないらしいです。それに、大丈夫ですよ」

普者「……?」

武闘家「早く行きましょう」

ギュッ

(武闘家は普者の手を引いて祠の奥に進む)

女神「……」ムッ


普者「……」ドキドキ…

女神「(なにときめいてるんですか? これだから、女性馴れしていない男はこんなことで、『もしかして、この娘、僕のこと好きかも』とか勘違いするんです。そもそも二十歳が一四歳に欲情してるなんて危なすぎます。本当に気持ち悪いですね)」ヤレヤレ

普者「う、うるさいな……」

武闘家「何か?」

普者「あ、ああ、いや……何でも」

女神「普者さんは、武闘家さんの手がゴツゴツして気持ち悪いと思ってるんですよ」

武闘家「ああ、すみません」バッ

普者「そんなこと思ってない! 全く思ってないからね! むしろ、繋げて嬉しかったくらいだよ!?」

武闘家「は、はあ……」

女神「なに言ってるんですか。底抜けなく気持ち悪いですね」

普者「やかましいわ!」

武闘家「あの、静かにしましょうよ」

女神「そうですよ。無断で侵入してる最中に大声出すとか知恵遅れですか?」

普者「ぐっ……!」



武闘家「これが封剣です」

普者「……でかっ!? これ人間が使う物なの!? 巨人の武器なんじゃ……!」

女神「こ、こんなに大きいとは思いませんでしたね」

武闘家「普者さんでも流石にこれは難しいと思います」

普者「いやぁ……これ持って荷物はキツいかも」ガシッ

普者は封剣を持ち上げた!

普者「お、おも……これは戦いで使うのは厳しいかも……慣れればいけるかな」ググッ…ググッ…

武闘家「……正直、持ち上げられるとすら思ってませんでした」

女神「うわ、ついに脳味噌まで筋肉になってしまったんですか……?」


女神「あ……もしかして脳のリミッターが……」ボソッ


普者「本当に貰っていって大丈夫なの?」

武闘家「……正直、諦めて帰ると思ってました」

女神「魔王を倒す戦いのためだから良いんですよ。色んな家から片っ端から旅の道具を分捕っていった勇者もいますからね」

普者「泥棒じゃん……」

武闘家「どうしましょう……盗みなんて義に反します……」

普者「えぇ……」

女神「今更なに言ってるんですか……さあ、帰りますよ」

武闘家「しかし…」

「何者だ!」

普者「ひっ……」

「盗人か……?」

武闘家「……お久しぶりです、跡取りさま」

「……私が宗主だが」


武闘家「……そうでしたか。おじ様はご隠居されたんですね」

宗主「我が一族への侮辱のつもりか……お前、あの分家の娘か?」

武闘家「……そうです」

宗主「ふん、まだ生きていたのか。しぶとい奴め」

普者「(あ、こいつは敵だな)」

女神「(武闘家さんのことになるとフィルターがガバガバになるのやめてもらえます? まあ、敵でしょうが)」

武闘家「……ええ。何とか生きてこられました」

宗主「ふん……滅んだ分家の娘が封剣を盗んで財を為そうとでも思ったのか? ……どこまでも卑しく愚かな家系だ」

武闘家「……誰であろうと家族のことを悪く言うのは許しません」ザワッ

宗主「……戦うか? 一度も私に勝ったことがないお前が? その腕と目は万全なのか?」

武闘家「……何年前の話をしているんですか。片腕と片目でも遅れは取りません」

宗主「……口だけは生意気になったな」


武闘家「普者さん、手を出さないでください」

普者「う、うん…」イライラッ

女神「さっさとボコボコにしてしまいなさい」


宗主「……」グッ

武闘家「……」スッ

ダンッッ

武闘家「!?」ガッ

普者「(はやっ……!)」

武闘家「(っ……重い……!)」グググ…

宗主「他愛もないな。所詮は女子どもか」

宗主の連撃!
武闘家の死角と弱点に集中攻撃!

武闘家「ぐっ……くっ…」ガッ、グッ

ゲシッ!

武闘家「くぅ……っ!?」


女神「ちょっ……」


宗主「終わりだ」ブンッ

武闘家「……!」ガッ

宗主「(折れているわけではないのか)」クイッ  ドゴォッ

宗主の『痛恨の一撃』!
武闘家は大きく吹き飛んだ!


武闘家「ぅぷ……っ」ビチャチャ…

普者「武闘家さん!? 大丈夫!?」

武闘家「邪魔しないでっ!」

普者「……っ」


武闘家「(負けたくない。この人たちだけには負けたくない。負けたくない……!)」



宗主「弱いな。力なきは悪しきことだ。お前もお前の父母もな」

武闘家「…お父さんとお母さんの悪口を…言うなぁ……っ!」ダッ

宗主「ふん……」

宗主の『痛恨の一撃』!

バチュッ…

宗主「なっ……」

武闘家の片腕が液状になる!


女神「んなっ……!?」

普者「ぶ、武闘家さん……?」


武闘家「許サナイ!」ゴポポ


宗主「……ちっ」バッ

宗主は慌てて距離を取った!

宗主「……スライムにでもなったのか」

武闘家「『粘打』」

武闘家は液状の腕を大きく振るった!
祠が崩壊する!


普者「うわわ……おりゃっ!」ブゥンッ…ッ

女神「私たちまで巻き込むつもりですか! この脳筋小娘!」


武闘家「『千ノ手』」

武闘家は液状の巨腕を無数に枝分かれさせる!

宗主「バケモノめ……!」

武闘家「『粘打』」

宗主「(ぐっ、避けきれん……!)」

宗主は身を守っている!

武闘家の『痛恨の一撃』!

宗主「ぅぅ……っ!」

宗主は大きく吹き飛んだ!



普者「(……あんのクソババア、武闘家さんに何したんだ!)」

女神「(ほんとクソババアですね)」

武闘家「ハァハァ…許サナイ…ユルサナイ……!」ザッ

普者「……ま、待って!」

武闘家「ハァハァ……」ギロッ

普者「ぶ、武闘家さん! 正気に戻ってよ!」

女神「義を重んじる貴女が、そんな衝動的な感情で動いて良いんですか?」

武闘家「邪魔ヲ……シナイデ……!」

普者「……うっ」

女神「防御です!」


武闘家の『粘打』!


普者は『大地の盾』で耐え凌ぐ!


普者「ひぃぃ……!」

武闘家「ハァハァ……」

女神「やけに疲労してますね。あの状態は身体に負担が掛かるのでは?」


武闘家「ハァハァハァ……ッ……『千ノ手』ッ!」ゼェゼェ…

普者「くっ……! 父さん、頼むよっ!」

武闘家「……『粘打』ッッ!」ビュアッッ

普者は『大地の盾』に地属性魔法を込める!


パシュゥゥ……!


女神「おお?」


光の盾が大きく展開する!


武闘家の『痛恨の一撃』!


普者は攻撃を無効化した!

女神「便利ですね。いつの間に手に入れたんです?」

普者「父さんに貰ったんだよ」


武闘家「ゼェゼェ…ッ…ッ…マ、マダ……」

女神「ふーくん、抑えつけなさい!」

普者「武闘家さん、もう止まって」ガシッ

普者は武闘家の体を抑えつけた!

武闘家「ハナ…セ……!」

女神「貴女が言うことを聞かない時にすることは決まってるんですよ」スッ

武闘家「ナ……」

女神「分かりますよね、貴女が大好きなアレですよ」ニヤッ


コチョコチョコチョコチョ……


ヒィッ……ァゥ…ッ…アッ…アッ……アゥゥ……グゥゥゥ……ンッ…ンンンンッ…や、やめ……もっ……んああっ…………



武闘家「」グテッ

女神「ふっ、敗北を知りたいですね」

普者「……ご、ごめんね……さっさと剣持って逃げよ」

宗主「ま、待て貴様ら……くそ、聖拳士は何をしている」ズル…ッ

おーい、アニキー、なにしてんだー?


普者「やばいやばい……また強そうなのが出てきた」

女神「さっさとずらかりますよ」

普者は『全体転移魔法』を唱えた!


宗主「聖拳士……! こ、こいつらを殺せ……」

おー?

女神「ふっ、この距離で間に合うわけがありませんねつ」

聖拳士「よく分かんねえけど、死ねよな?」ザッ

普者「えっ……?」


聖拳士の『聖拳』!

ヂッ…ヒュオンッ…


聖拳士「ありゃ、消えちった」


宗主「お前、何をしてた……!?」ヨロッ

聖拳士「寝てたわ……しかし、消えるなんてなぁ。掠ったみたいだが」

宗主「お前……!」

聖拳士「しかし、アニキ弱過ぎだろ。才能ない奴ってカワイソー」

宗主「……封剣が奪われたんだぞ!」ギリッ

聖拳士「マジかよ! オヤジの一件といい、面目丸潰れ過ぎじゃね?」

宗主「今回はお前がしっかりしていれば……!」

聖拳士「わりーわりー。戦ってる音は聞こえたけど、まさか兄貴が負けるとは思わなかったわ。なんか可愛い女の子の喘ぎ声が、聞こえて起きてきたら、このザマなんだもんな」

宗主「ちっ……封剣を盗んだのは、滅びた分家の娘だ」



聖拳士「マジ? ってことは、あれ武闘家ちゃんだったの? ちっこい頃から結構あの子可愛いと思ってたんだよね。マジかー、興奮するわ」

宗主「……」

聖拳士「封剣取り返せばいいんだろ? 任せろよ。また俺が出払ってる間に、宗主が殺されるとか勘弁な? こんなつまんねえモン継ぎたくねえからな」

宗主「ちっ! ……あの小娘、奇怪な技を使うぞ。腕をスライムのように変形させた」

聖拳士「お、マジ? 俺けっこー魔物でも興奮できるタイプなんだよね? 武闘家ちゃんがスライムとか最高じゃん? 魔物ならどんなことしてもうぜえ文句言われねえし? さっきのへにょい男といい感じだったら尚更たまんねえな、人のモン取るの興奮するんだよなぁ」ヘラヘラッ

宗主「(……何故こんな奴が、とてつもない武才の持ち主なんだ)」

聖拳士「アニキは養生してなって」

宗主「ああ、頼む……」

聖拳士「あ、義姉さん、もう抱き飽きたから返すわ。多分アニキじゃ満足できなくなってると思うけどな? 俺の溢れる才能継いだ子どもが生まれるといいな?」

宗主「……ッッ!」


聖拳士「あ、ついでに超獣と親父をブチ殺した奴も殺して来るわ。じゃーなぁ」


【南西国・大賢者の塔】


普者「いでぇええええ……ぁぁあああああ……!!」ジタバタ…

けんじゃ「こりゃ、ひどい。即死寸前だったよ、アレ」

女神「だ、大丈夫なんですか……?」オロオロ

普者「いだぃぃいだいいだいいだぁああああぁあああ……ッッ!」ビクビク

けんじゃ「麻酔して、回復魔法かけてあげるからね。ちゃんと歪んだ頭骨も治してあげるよ」


普者「すぅ……すぅ……」

けんじゃ「無事に峠は越えたよ」

女神「このクソババア! ふーくんと武闘家さんに何をしたんですか!?」

けんじゃ「後でちゃんと説明するってば……」


……誰?

私は知らない……私の記憶じゃない……これは誰の記憶?

戦いの記憶……私じゃない誰かは誰と戦っているの……?

強い……こんなに強い人がいるなんて……まるで、武の神さま……



格闘家?「破ァァッッ!」


ガァァッッッッ!!


格闘家?「……終わりか。不死身の生物といえども、この程度か」



少女?「いやいや、流石ですねー。始原粘獣が手に入ると皮遊びが捗りますからパイやシータが喜びます。もちろんミューちゃんも嬉しいです」

格闘家?「……強者と戦うことは吾人の望むものだが、お前の戯れの為に戦ったわけではない」

少女?「うんうん、分かってます分かってます……ちゃんと医療用が一番の目的ですよ? 臓器の再生とか、使い方によってかなり便利らしいです。さてさて、後処理はこのミューちゃんにお任せあれ」

格闘家?「戦い以外のことは他の者に任せる」

少女?「いいですねいいですねー。他にも、狩猟対象はいますからね。超獣、豪猿、灼熱鳥、輪廻蛇……他にもいっぱいです。ぜひぜひそちらに集中してください」

格闘家?「……獣以外はいないのか? 拳の撃ち合いを渇望しているんだが」

少女?「まあまあ、そのうちそのうち。乞うご期待ですよ」

格闘家?「……」

少女?「じゃあじゃあ、ミューちゃんはもう行きますね。便利屋は忙しいですから」


格闘家?「……待て」

少女?「はいはい?」

格闘家?「お前、それを他の勢力にも流すだろう?」

少女?「まさかまさか。そんなことしたらミューちゃんあの厳しいタウ辺りにでも消されちゃいますよぅ」アハハ

格闘家?「隠す必要はない。告発もしない」

少女?「……そんなことしないですよー」エヘッ

格闘家?「それならば、吾人が命令してやる。横流ししろ。利益はお前が好きなように受け取ればいい」

少女?「え、えー? そんなこと言っちゃいますー? たしかにミューちゃんはお金が大好きですけど」

格闘家?「……始原粘獣はまだ意識がある。こいつの一部を埋め込まれた武人は、もしかしたら、この戦いの記憶を視るかもしれん」

少女?「まさかまさか……ねぇ? うーん、あり得るんでしょうか? ファンタジーですねぇ」



格闘家?「……我は武の求道者。名はユプシロン」


Y「武を追い求める同士よ。吾人は強者との戦いを望む。貴様が吾人の前に立つ時を楽しみにしているぞ」




武闘家「……!」ガバッ


武闘家「……っ」ハァハァ……


武道家「あんなに強い人がいるなんて……!」


武闘家「……っ」ゾクゾクッ…



普者「酷い目にあった……」

女神「ったく、あのクソババア……」

武闘家「あ、普者さん……と妖精」

普者「ぶ、武闘家さん…身体の調子はどう…」ビクビク…

女神「正気を失うなんて義に反してるんじゃないですか?」

普者「ちょっと……!」

武闘家「本当にご迷惑おかけしました」ペコリ

普者「あぁ、いや……」

武闘家「……記憶はぼんやりとあります。止めてくれて本当にありがとうございます」

普者「いやいや……むしろごめんね」

武闘家「……? ああ、くすぐりなら今回は気にしません」

女神「むしろ、悦んでますものね。スケベですねー」

武闘家「それは違います」


普者「う、うん……それより、その腕だよっ!」

武闘家「ああ……」

女神「そろそろ、あのクソババアを問い詰めましょうか」


けんじゃ「そう言うと思って来たよ」

普者「おい! どうなってるんだよ!」ガシッ

けんじゃ「武闘家のことになると慌てるのはふーくんの悪い癖だよ」パチンッ

普者「――――!?」

女神「……都合の悪い口は閉じるとは、大した賢者さまですねぇ」

けんじゃ「君も少し黙ろう」パチン

女神「――――」ムスッ

けんじゃ「さて、その腕について、捕捉しておくと、特に問題はないよ」

武闘家「……」

けんじゃ「あれは、最初の二週間だけに見られる兆候でね。そのあとは普通の腕になるし、意識が混濁することもないよ」

武闘家「……あの力を意のままにあやつることはできないのですか?」

普者「!?」

けんじゃ「変なこと考えると、意識を奪われた挙句、スライムそのものになるよ?」

武闘家「……そうですか。いえ、借り物の力に頼ろうとした私が愚かでした。何でもありません」

けんじゃ「まあ、安静にしてれば、もんだいはないから」

武闘家「分かりました」

女神「……ぷはっ、ふーくんのただでさえ悪い頭についてですが、貴女、何をしたんですか」

けんじゃ「ん? ただちに支障はないよ」

女神「そんな官僚じみた回答は求めてないんですよ」

けんじゃ「長期にも大きな影響はない可能性もあるよ」

女神「官僚じみた回答はいらないんですよ」

けんじゃ「なんかやけに馬鹿力だよね……まあ、そのうち治るよ、多分」

普者「雑だ!?」

けんじゃ「(色々と仮説は立てられるけれど、まだ確証は得られそうにないしね)」




けんじゃ「さて、無事に封剣も手に入ったし、調子も戻ったようだし、君たちもアニマル諸島に向かうといいよ」

普者「……色々思うところはあるけれど、お世話になりました」

武闘家「……」ペコッ

女神「ふんっ…」

けんじゃ「……わたしとしては、君たちが活躍してくれると面白いから、頑張ってね」

普者「……精々生き延びますよ」

けんじゃ「……精々、あがいてみなよ」

けんじゃは『転移魔法』を唱えた!
武闘家と普者と女神をアニマル諸島に転移した!


女神「……」ベ-



けんじゃ「……さて、今回の戦いは本当に勇者側が混沌としていて、どうなるか楽しみだね」


けんじゃ「……また会えて、良かったな。また、会いたいな。それに、また、みんなで……」



けんじゃ「……もう叶わないことなんだけど」







錬金術士「そうだね」


けんじゃ「……ようこそ」

錬金術士「久しぶりだね」

けんじゃ「結界を割ってまで会いに来たの?」

錬金術士「よく出来た結界だよ。僕の真似事をして始めた魔法をここまで昇華するなんて、君じゃなきゃ出来ないよ『そうりょ』」

けんじゃ「……随分と懐かしい呼び方をするね。もうあの頃には戻れないんだよ『まほうつかい』くん」

錬金術士「ああ、哀しいことだ。僕たち四人は同じ道を歩んでいたのに……皆が道を違えてしまった」

けんじゃ「……あはは、目的は大体みんな一緒だったのにね。手段が異なったら、こうして敵になっちゃうなんてね……」

錬金術士「僕はいつまで経っても君が許せないんだ。裏切り者の君がね。君はとても可愛い僕たちの女神だったのに」

けんじゃ「それは美化し過ぎでしょ……あなたと『せんし』に苛められた記憶しかないんだけど。そして、『彼』が優しく手を差し伸べてくれて……いつもそうだったよ」

錬金術士「そうだったかな……いや、それはどうでもいいんだ。でも、仲間だと思っていたのは確かだ」

けんじゃ「わたしは、むしろ、あなたの方が信じられない。どうして、そちら側についたの? わたしたちの成し遂げたことを踏み躙ったの?」

錬金術士「君が、最悪の裏切り者に味方したからさ。それに『せんし』のようにアホなことができるタチでもなかったからね」

けんじゃ「わたしの味方になってくれればよかったのに」

錬金術士「……笑わせないでくれ。恐れて媚びた犬にはなれないよ」

けんじゃ「私は――」

錬金術士「この話は今更だよ。君と僕は敵になってしまったんだからね」

けんじゃ「まだ消えるわけにはいかないよ。約束があるからね」

錬金術士「……今回は話をしに来ただけさ。なにせ、必然的とはいえ、最近の状況は面白い」

けんじゃ「そうだね」

錬金術士「僕たちはやり直せるんじゃないかと惑ってしまいそうだ。奇しくも、今、僕たちは再び似た目的の元に行動しているわけだし」

けんじゃ「思ってもないことを言うね。わたしはもう傍観するだけだよ。見守ることしか私には出来ないからね」

錬金術士「そうかい」


けんじゃ「お茶のんでく?」

錬金術士「いや、あまり長々と話してると憎らしさのあまり君を消滅させるだろう」

けんじゃ「……そう」



錬金術士「次に会う時は、君が滅びる時だよ、大賢者」

けんじゃ「むしろ君かもよ、錬金術士……いや、シグマ」

次回より【VS四天王編】!


【幕間】


女神「ようやく四天王ですか。ジムリーダーすら倒しきってないんですが」

普者「まったく別物だからね!?」

女神「私はポ⚪︎モンは金・銀までしかやったことないですね」

普者「さすが女神さま、アナクロ」

女神「はぁ? 私は時代の先端を行くモダンガールですが?」

普者「お、おう……」

女神「……」ガジガジッ

普者「いたいよっ!? なに、噛むのが流行ってるの!? 原始的!」


女神「あと、本編はこれ以上このスレッドでは進みません。そして、次スレはしばらく立ちません」

普者「そのための大量投下だったみたいだし……」

女神「まったく、ゴミクズですね」

【冒険の書】


女神「おや、冒険の書を読んでるんですか」

普者「うん。短いから何冊か読んだけど、なんか子ども向けの物語って感じ」

女神「まあ、人間たちに流布されているのは、天界の自動筆記の抄訳ですからね」

普者「う、うん……? んーと、つまり、実際はもっと苦労してるの?」

女神「いや、もっとご都合主義です。あからさま過ぎて笑いますよ」

普者「あ、そうなの…」

女神「例えば、魔王が、急に、足をくじいて転び頭を強打、混乱して魔法を上に撃って建物が崩落、その瓦礫で身動きが取れなくなったところを、全員でリンチ」

普者「ひどぃ……」

女神「魔王に天罰が下り、魔王はその邪悪な力を封じられました。勇者たちは、勇気を振り絞って、魔王に止めを刺しました…………抄訳するとこうですね」

普者「うわぁ……」

女神「勇者補正は、魔王を倒すために与える力にしては強力過ぎるんですよ。どれだけの難敵を想定して作られたシステムなのやら。そんな過剰防衛するより、もっとやるべきことがあるでしょう」

普者「??」

女神「こちらの話です」

【勇者補正を体験しよう会】


普者「もし、勇者補正があったら戦闘はどんな感じになるのかな?」

女神「シミュレートしてみましょう」ハシ…

普者「指パッチンできてないよ」

女神「うるさいです!」


腐魔女が現れた!

腐魔女「アタシが敵役!?」

勇者「あれ、勇者になってる!?」


女神「さあ、勇者、あのぽっと出ドグサレ魔女に、神の尖兵の力を見せなさい!」

勇者「承知しました!」キリッ

腐魔女「か、顔付きが違くない? いや、まだ本編であったことないけど……つか、ぽっと出言うな!」

勇者「ふん、そんな惑乱目的の言葉には耳を貸さないっ」キリッ

腐魔女「ええ……余計面倒くさい人になってる……」


腐魔女「仕方ない。やりますか」

勇者「『ひのきのぼう』であろうとも、人間の嬲り者にする魔物には負けない!」キリッ

腐魔女「お、おう……これでも、魔王軍じゃギリギリ一桁クラスの強さなんだからね。『エナジードレイン』」ギュゥン…

勇者「ぐっ!」

腐魔女「あれ……うまく出力が……しかも勝手にそれるし……あれー?」

勇者「いくぞ! 魔物!」キリッ

腐魔女「くんな……あれ、体が上手く動かない……?」ググッ


勇者の攻撃!


『会心の一撃』!


腐魔女「いだぁ!? 『ひのきのぼう』なのに痛いッ!」


勇者「くっ、やはり、この武器では……!」

腐魔女「十分痛いんだけど!? なんで!?」


ザクッ


勇者「これは……!」


伝説の鍛冶屋「お前の為に鍛え直した! それを使え!」


勇者は聖剣を手に入れた!


腐魔女「はあ!?」

勇者「行くぞっ! この身果てるまで!」キリッ

腐魔女「迫真の演技がやかましいわ! おりゃ、 『 キキカイカイ』!」

勇者「ぐぅぅ……!?」バキキッ

腐魔女「……なんでこれだけの威力しか出ないの!? わりと本気技なんだけど!?」

勇者「つ、強い……」

腐魔女「七魔なめちゃいけないよ? しかも、ほんとはもっと強いんだからね?」

勇者「だ、だが……どんな強敵でも負けるわけにはいかない……!」キリッ

腐魔女「お、おう……」


「待ちたまえ!」ザッ


腐魔女「おおう?」


魔法剣士「力を貸すよ、勇者くん! 水の魔法剣!」

エルフ「敵は強い! 私たちの力を合わせるぞ! 火の魔法剣!」

傭兵「ったく、おっさんに無理させんなよ。風の魔法剣!」

美剣士「陰の剣にて悪を討つ! 土の魔法剣!」


腐魔女「はあ!?」


勇者「……みんな! ありがとう! 雷の魔法剣!」



腐魔女「や、ちょっと待ってよ……多勢に無勢でボコるつもりなの? 勇者ひどくない?」

勇者「強大な魔物よ! 人間の意地を見ろ!」

腐魔女「何が人間の意地なの!? 普通の人間、そんな芸当できないからね! 充分に特殊な事柄を一般化しないで!」


ゴゴゴゴゴゴ……!!


腐魔女「待って! それはないよ!ないない! 絵面考えようよ! ただのリンチじゃん!」



「「「「「エレメント・フレア!!」」」」」


腐魔女「ちょっ……やっぱり、なんか身体動かな……」


ドガァァアアアアア!


腐魔女「ぎゃあああぁあああ……ッッ!!」


女神「そこまでです」


普者「おおぅ……これが勇者補正……」

女神「かつての勇者が魔王を倒した時は大体こんな感じだったようです」

腐魔女「ひどいよ! こんなのアタシへのイジメだー! ひどい!」ウワ-ン

女神「勇者補正なんてこんなものです。100レス足らずで終了ですよ」

普者「僕らの旅の意義……」

腐魔女「というか、剣士はあんなに強くない!」

女神「勇者補正で、最初から覚醒状態ですから。しかも補正によって勇者が大好きになってます。エルフさんとよっさんも同様」

腐魔女「ずるいっ! ……あ、でも、剣士×勇者やその他の掛け算も実際に見れる……ふひひ、補正で夢が広がりング……」

女神「ぶれませんね……あと、キメ顔ふーくん気持ち悪すぎます」

普者「ひどい!?」

女神「一番気持ち悪いのは、こんな顔面でも勇者補正でモテモテなことですが。こんな冴えない風貌でも誰でも好きなだけ選び放題です、気持ち悪いですね」

普者「補正がすごいと認めたくない……でも、すごい」


【在りし日の腐魔女と古淫魔】


腐魔女「……」ガリガリッ

古淫魔「何やってんの? うわ、男同士でヤってる絵とかキモっ」

腐魔女「なっ、勝手に入ってきて、何なの!?」

古淫魔「趣味わるぅ……」

腐魔女「うるさい! こっちの領域にまで入ってきて、難癖つけるとか頭おかしいんじゃない!?」

古淫魔「雑魚のくせにうざぁ」

腐魔女「力は関係ないでしょ! モラルの問題よ!」

古淫魔「雑魚の言葉は耳に入らないのよねぇ~。あっ、この魔法道具、面白そうだから貰ってくわ」

腐魔女「あ、ちょっと! 待ちなさい!」

・・・

腐魔女「古淫魔は昔からこんな感じだよ! 死んだ聞いてせいせいした! ざまぁ! プゲラッ!」

アサシン「お、おー……」

盗賊「……」コワイ…


【魔法使いと傭兵】


魔法使い「アイツらは何してるのかしらね」

傭兵「さあな。死んでないといいがな」

魔法使い「縁起でもないわね」

傭兵「悪い悪い」

魔法使い「……叔父さん。北国に帰ったらどうしよう?」

傭兵「……まずは面と向かって両親に謝れよ」

魔法使い「……そうね」

傭兵「そんで……嫁ぎ先でも探すんだな」

魔法使い「……結婚かあ。考えたこともないわ」

傭兵「そりゃ、結婚考えてるような娘はこんなところまで来ないだろうよ」

魔法使い「叔父さんとならいいよ。北北西国なら結婚できたはずでしょ?」

傭兵「どアホ」


魔法使い「冗談よ。嫁ぐくらいなら仕事するわ。魔法研究の結社とかも起こしたいわね」

傭兵「それもいいだろ。冒険稼業は親が心配するからやめとけ」

魔法使い「……そうね。身体弱いし、あまり向いてないのかも」

傭兵「弱いってことはないだろうがな。行き遅れんなよ」

魔法使い「私ほどの美人なら何歳になっても幾らでも寄ってくるわよ」

傭兵「それは甘いな。俺を見てみろよ」

魔法使い「うわぁ、すごい説得力」

傭兵「そうだろう? やかましい」

魔法使い「……叔父さんはこれからどうするの?」

傭兵「足を傷めた傭兵なんて役に立たないからな。大人しく後進の育成でもするか。もしくは、商売でも始めるかな」

魔法使い「あはは、亡国の王子なのに」

傭兵「お前だって亡国の姫だろ。……まあ、早く元気になれよ」

魔法使い「……うん」

【救われぬ者、裏切り者】


僕はあまりの恐ろしさに尻餅をついてしまった。

半透明の巨大な魔物。

死ぬ覚悟はあった……むしろ、死ぬつもりで来たのだ。

守りたいものを守れなかった。

全てを失った。

それなら、大切な人を殺したというこの魔物と刺し違えたかった。

……甘かった。到底、僕の勝てる敵ではなかった。

魔物は距離を詰める。大きく跳ねて、僕を踏みつぶそうとする。

僕は目をつぶって、身体を強張らせることしかできなかった。

……姉さん……僕もすぐそっちに行くよ。


後ろで大きな音が響いた。

襲うはずの衝撃が襲ってこない。

……どうして僕は死んでないんだ?

恐る恐る目を開ける。

僕の上にいたはずの魔物はグチャグチャな無数の小さい欠片になっていた。

老人「ボウズ、生きてるか」カチャッ

少女「……」

奇妙な格好をした老人と少女が声をかけてくる。

僕は驚きと混乱で何も言えない。

老人「冒険者の端くれか。強敵相手には逃げることも大事だぜ」

「う、うん……」


老人「この嬢ちゃんに感謝するんだな」

少女「別にアタシは何もしてないわよ。あと、嬢ちゃんって呼ぶなスケベジジイ」

老人「助けてあげろといったのはクシーだろ。あと、ジジイて呼ぶな、哀しいだろ」

ξ「本当のことでしょ」

老人「オジさまと呼びなさい。喜ぶぞ」

ξ「ばーか」

クシーと呼ばれた少女と老人は気の置けない様子で談笑する。

老人「それじゃあな」

二人はそのまま僕に背を向けて去っていこうとする。

「あ、あの……!」

ξ「なに?」

冷たい視線。

僕は、怯みながらも、意を決して言葉を継ぐ。


「ぼ、僕を弟子にしてください! 強くなりたいんです!」

老人「弟子とか受け付けてないぞ」

ξ「バカを言ってないで帰ったら? その魔物のコアを討伐の証に持ってったらそれなりのお金になるでしょ」

老人「嬢ちゃんはほんとやさしーな」

ξ「そういうんじゃないわよ……嬢ちゃんって呼ぶなスケベハゲジジイ」

老人「ハ、ハゲてねぇよ! ジジイでもないわ!」

やっぱりスケベは否定しないんだ……。

「僕は帰るところなんてないんです! 弱いから、全部なくして……強くなりたいんです!」

老人「おー、なれなれ。じゃあな」

「待ってください!」

老人「やかましいぞ」チャキッ

老人は、金属でできた奇妙な筒を僕に向ける。

よく分からないが、恐らくあれで魔物を殺したんだろう。

その表情は冷たい。

僕を殺すことにことに何の躊躇いもないことは直観的に分かった。


老人「俺たちはな、ガキのお守りがしたいわけじゃないんだ。強くなりたいなら、ブトー街でも行って揉まれてろよ」

……老人の拒絶の言葉に肩を落とす。


ξ「……アナタはこの世界が好き?」


「……え?」

ξ「さっさと答えて」

鋭い眼光。

僕は怯えながらも首を振った。


「……大嫌い。僕の大切な人たちを全て奪ってくんだ。両親も、ずっと暮らしてた孤児院も、その友だちも……大切な姉さんも、みんな奪われた」


姉さん。

いつも笑顔で、少し抜けてて、背は子どもみたいに小さいけれど温かくて大きかった。

孤児院の存続が危ぶまれて、僕や孤児院のみんなが生きていくお金を稼ぐために、戦えないのに冒険者になった。

そして、この魔物に殺された。


復讐は果たされた。


しかし、心は何も満たされない。



――――きっと足りないから。



まだまだ僕は復讐しないといけないんだ。



「こんな世界、壊れてしまえばいいんだ。強くなったら、全て壊してやる」

僕は誰にも言えなかった思いを口にしていた。
心の奥に留めていた思いが、すんなりと口から溢れた。


ξ「……オミクロン、確か今のアルファはもう再起不能なのよね?」

老人は少女の言葉に呆れ顔をする。

ο「……おいおい、マジか? このガキをα因子の受容者にすんのかよ? まーた、シグマやファイ辺りがイヤミを言うぞ。ガキがガキ連れてきたってな」


ξ「価値がないと判断されれば、消されるでしょ。それが私たちだもの」

不穏な言葉。

ξ「……アナタは、この世界の裏切り者になりたい?」

更に不穏な言葉。

しかし、僕は躊躇いなく首を縦に振った。

ο「あーあー、軽い気持ちで来ると後悔するぜ。なんせ、地獄だからな」


「どうせ地獄を味わうなら、弱いより強い方がいいです」

ο「……覚悟しろよ」


ξ「……裏切り者たちの集いにようこそ」

・・・

焼き焦がす。
金持ちを見るたびに憎しみが増す。

貧しく絶望しかない僕たちの可能性を食い潰してまで生きる者たち。
焦がす。最高に気持ちがいい。

姉さんの苦しみを知れ。

ο「おいおいアルファ、あんまり力に酔うなよ」

ξ「最初のうちはこんなものでしょ」


僕は力を手に入れた。

この力を何のために使うのか、僕にはまだ全容は教えられていない。
しかし、善行のためのものではないことは確かだ。


――――姉さん。

姉さんのいない世界はこんなにもつまらないよ。


だから、僕がぜんぶ壊して、姉さんに捧げるね。


姉さんを見殺しにした男と一緒に。

【デレデレ女神さま……?】


女神「えへへ、ふーくん♪」ビタッ

普者「うわっ!? どうしたの!?」ゾワッ

女神「ふーくんにくっつきたかっただけです♪」

普者「ひっ……何か病気なんじゃ……!」

女神「私は元気ですよ! ふーくんがいてくれれば、元気になるんです♪」

普者「これはヤバいよ……! け、けんじゃさんのところに行こう! ね!」

女神「むぅ、私がいるのに、他の女のところに行くんですか……?」

普者「いやだって、女神さま、ヤバいよ!? 僕あとで殺されたくない!」

女神「ひどいです……あむっ」カプッ

普者「ひっ……」

女神「えへへ、私の跡つけちゃいました♪ ふーくんは私のものですね♪」

普者「いや、怖いよ!? でも、考え方は若干女神さまっぽい」

女神「私のこと、ふーくんのものにしてくれますか……?」

普者「や、やっぱりニセモノだよぅ……!」

【これぞ女神さま】

バシュッ

女神「きゃぁっ……!」ジュゥゥ……

普者「め、女神さま!? 女神さまが、蒸発して虹に……!」

女神「何やってるんですか、貴方は? おぞましい」

普者「べつの女神さまが出てきた……どういうことだ」

女神「はあ? 私が本物に決まっているでしょう? 頭の中に綿菓子でも詰めてるんですか?」

普者「……あ、本物なんだね。、よかった」

女神「どうせまたあの狸ロリババアのイタズラです! ったく、妖精の姿とはいえ、私の姿を用いて、このような下劣な行いを……岩に縛り付けて鳥に生きたまま啄ばまれてもらいましょうか、それとも……」

普者「やっぱり本物だ」

女神「まあ、でも、すぐに本物を見分けたようですね。流石は私の下僕です」

普者「え、僕って女神さまの下僕だったの? ……まあ、女神さまがあんなに可愛いわけないからね」

女神「ああん? この完全無欠に可愛い私のどこに不満があるのです? 貴方ごときの答えなんか聞きませんがね!」

普者「女神さまはこうでないと落ち着かないって、相当毒されてるのかなぁ……」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月14日 (木) 22:05:40   ID: Iu-fNByB

頑張ってください。

2 :  SS好きの774さん   2016年05月11日 (水) 23:52:58   ID: c3kFxYza

面白い、期待

3 :  SS好きの774さん   2016年12月15日 (木) 16:57:54   ID: 5eWzwsSt

こりゃ面白い

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