竜女「彼に会いたい」(20)
竜女「……」
感覚が全て遮断された異様な空間にいた。
転生する時は、決まってこのような空間を通る。
姿も心もそのままで…
竜女は主人を探しに行く。
広い洞窟でとぐろを巻いていた。
身体の調子が万端になるまで、休む必要があった。
いままで寄り代も無く世界を渡ってきた影響か、彼女の身体は弱っていた。
竜「…………」
そんな時だ、
彼女が住みかにする洞窟に、一人の人間が迷い込んだのは。
―――
「…………」
その少年は、酷く餓えていた。
しばらく水も口にしていないため、死にかけていた。
食料を探して徘徊する途中、洞穴を見つけた。
「…」
岩か土でできた穴蔵に食料があるとは思えなかったが、何故か自然に足が向いた。
少年は洞窟の奥で巨大な黒い竜を見た。
竜「……」
「…………」
やぶ蛇どころの話では無い。…しかし足が震えて動かない。
竜「汚いこじきじゃな」
(…竜が、しゃべった?)
竜「わらわの住みかになんのようじゃ」
「…………」
(逃げないと…!)
焦燥感だけが募るが、身体が意思に反して自由がきかない。
人生詰んだからこの気分が損なわれないうちに書くよ…
見てくれたら嬉しい。
黒い竜が人型の黒い塊に変わっていく。
「……!」
塊から伸びる手は、少年の首を掴み、持ち上げる。
「……っ、…はっ…!」
黒い塊「え? 申してみよ。……まぁ、このような傷んだ魂に用はないがの」
塊の手から解放されると、少年は地面に崩れ落ちた。
「…………」コヒュー…コヒュー…
黒い塊「…この程度で死にかけるとは……、なんと脆弱な奴じゃ」
「……」
少年は塊を見上げる。
そこで意識が途切れた。
~
剣客「まだご子息は見つからんのか!」
男は部下を怒鳴り付ける。
部下「は、ははっ…! 探索範囲を広げさせます!」
剣客「早くしろ!」
部下は風に追い立てられるように走り去っていった。
実際は畏怖に背を押されていたのだが。
剣客「チッ糞坊主が。なぜ俺がこんなことをせねばならん!」
剣客「奴の馬鹿行さえなければ、今ごろお嬢様と有意義な時間を過ごせていたものを」
剣客が捜すのは、ある名家の子息だった。
子息は家を出て行方不明になり、既に10日は経つ。
剣客「……こんなことなら追い立てるのではなく、殺しておくべきだったか」
子息はある失態を責められ家を追われた。
しかし彼が所持するある物が必要だということが、後になって判ったのだ。
剣客「チッ……」
剣客(見つけたら既にのたれ死んでいた事にして斬りころしてやる)
~
「…………」
少年は目を覚ますと、辺りの様子をうかがった。
女「気がついたか?」
「…!」
泳いでいた視線が止まった先には、一人のみめ麗しい女がいた。
長い黒髪を腰まで伸ばし、頭には金の飾りが、体には多数の色彩で染められた、平たい服を着ていた。
腰に巻く同じく平たい帯のような物に、少年は興味を惹かれた。
見た事のない衣装だった。
「貴女が助けてくれたんですか…?」
女に尋ねる。
女「そうじゃ、感謝するがよい」
尊大な態度だったが、少年は気にする事もなく、女にこうべをたれた。
「……」
気づけば、餓えも無くなっていた。体の調子もいい。
(…不思議な事もあるものだ)
その発見に次いで、少年はある物に気づいた。
女の頭からニ対の羽のような角が生えている事に。
「…失礼ですが……亜人の方なんですか?」
女「ああ、竜の血をひいておる。…竜女とでも呼んでくれればよい」
「…分かりました」
竜女「お前の名はなんという?」
少し迷った後、答える。
「……名前は無いんだ、最近まで街道孤児だったから」
竜女「そうか。ならこれからはナナシと名乗るがよい。名が無くては不便で構わんからの」
(…不便)
少年は頷く。
ナナシ「ありがとう……名前を貰ったのは初めてだ」
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