男「悪役として異能力バトルに参加しろ?」主催者「悪役がいてこそ物語は盛り上がる」 (10)

俺は満たされている

親の財産だけで遊んで暮らせるだけあり、すでに世界的企業の次期社長であり
天才で運動神経も良く結婚相手すらすでに決まっている

かといって親の敷いたレールを逆らう意味も無く、このまま人々の上に立つことに疑問は無い


願いなど必要無い、望みなど微塵も無い

だからこそ安定で、だからこそ主人公になどなりえない
そう思う

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「私は神であり、此度異能力バトルを行う。優勝者にはどんな望みも叶えてやろう」

男「いらね」

神「私の存在に疑問抱いたりする前に否定かい」

男「本当だろうと嘘だろうとどっちにしろ興味ねえからな」

神「ふふ、だからこそ君を選びたい」

男「興味ねえっつってんだよ、俺には願いなんてない」

神「"悪"に、なってみないかい?」

男「あ?」

神「異能力バトルを開いて思ったんだ。足りない、と」

神「皆必死になっちゃってさ、自分のことだけ考えて必死に戦っている。だからこそ!平等で!平穏で!つまらない!!」

神「ぶち壊す人がほしいんだ、展開をかき回し、願いを踏みにじり、希望をあざけ笑う、そんな"悪役"が」

神「願いを賭けた戦いには善も悪もない、そこにあるのは純粋な"人"の希望だけだ。そんなの」


神「そんなの糞食らえだ!」


神「最初はもっと悪役らしい願いを持ったやつが参加すると思った、でも全然違ったよ」

神「『世界を壊したい』だの『自分以外の全人類を滅ぼしたい』だのそんな漫画の悪役みたいなのはいないんだ」

神「どんなに世界に絶望した奴でも、どんなに人間が嫌いな奴でも、大量殺人鬼ですら」

神「過去を変えれば救われる。過去に戻ればやりなおせる。誰かを生き返らせれば、そんな希望持っちゃってさ」

神「皆自分の幸福のための望みばかり持っちゃって。小さくてつまらないじゃないか」

男「ふーん。で?」

神「分かるだろう?悪役のいない物語などつまらないんだよ!君には悪になってほしい」

神「望みの無い君は適格だろう?他者の望みをただただ踏みにじるだけでいい
たたき堕として絶望させろ、望みを絶ってしまえ。更なる盛り上がりを私に見せてくれ!」


神「もちろん君にも景品は与えよう。勝っても負けてもくれてやる。
今願いが無いなら何十年経とうといつでも聞いてやろう、君の子孫に受け継いだっていい」


神「その代わり少しでも悪とかけ離れた行動をしたりサボろうとしたら解雇だ、他の人を探す」

男「まあやってもいいか」


神「そうかそうか!いやありがたい。では君に悪役補正で最強クラスの能力を授けよう」

男「いいのかよ、悪役に最強与えたらヒーローが勝てないぞ」


神「そこは大丈夫だ、最初は殺しまくってくれ。悪役に目をつけられないという幸運を試す予選だとでも思って」
神「それに、最強なんてゴロゴロいるものさ。一定期間経つと君以外全員の能力が大幅パワーアップされる」

神「そして悪役補正その二、君は負けても終盤までは何度でも復活できる。他の人の記憶からはリセットされるがな」
神「ただしわざと負けようとするな、そういう思想が見られ次第解雇だ。神を欺けるものか」


神「悪役補正その三、君には能力者が性格に見極められる」

男「他の奴には分からないのか?」

神「『近くにいる』程度だ。君は人物単位で確認できる」

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男「といきなり言われてもなあ」

男「お」


前方に参加者発見

男「まずは肩慣らしっ!」


ズボッ

「ぐぼっ…がぁっ…」

その参加者の腹に風穴が開く


男「…しまった、何も無く殺してしまった。これじゃ悪というよりただの卑怯じゃないか」

男「違うなぁ…もう少し考えるか」

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男「なああんた、参加者じゃないかい」

「え?」

男「能力バトル」

「…お前もか」

男「ああ、一つ聞きたい。あんたの願いって何だ?」

「…そんなの聞いてどうする」

男「俺はか弱い、だからかな。自分が踏みにじってしまった人の想いを、覚えておきたいんだ」

「奇特な奴だな。俺は妹が病気なんだ、もう余命も幾ばくかでさ」

男「あ、もういいや」

「は?」

男「くだんねー願いだな、それだけ聞きゃあ十分だ」

「…そうかお前そういう人間か」

男「まあな、他人の願いを踏みにじろうとかそんな事考えてる。いい方法ないかね?」

「ねえよ。お前はここで死ぬからな、俺の願いの―


男「能力"アンノウン≪正体不明≫"」


闇が彼を突き刺した


男「やっぱ当分は闇に隠れて暗躍するかな、それも悪役っぽいだろ」
男「ただ殺すだけでいいって言われたしな」

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