P(おめでとう……ペルーサ) (75)
P(初めて彼を見たのは、もう五年以上も前になる)
P(何気なくつけたテレビに映し出された、競馬中継の画面)
P(そこで俺は、彼と出会った)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439441646
―2009年―
実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブして、最後の直線コースです!』
実況アナ『外から来るのは、1番人気のペルーサ! ここで先頭に立ちました!』
実況アナ『ペルーサ、楽な手ごたえ! 最後は余裕を持ってゴールイン!』
実況アナ『勝ったのはペルーサ! デビュー戦を快勝です!』
P(気品溢れる、栗色の馬体)
P(ペルーサという名の競走馬の走りに、俺の心は奪われた)
P(この馬は大物になる)
P(競馬なんて、全く知らないはずなのに)
P(確信めいた思いが、俺の心に生まれた)
P(彼がデビューした同時期)
P(俺は、3人のアイドルのプロデュースを始めた)
P「あずささん! 今日から俺が、あずささんのプロデューサーです!」
P「貴音! 俺と一緒に、トップアイドルまで突っ走ろう!」
P「律子! 頼りないかもしれないけど、精一杯頑張るからな!」
P(あずささん、貴音、そして律子)
P(この3人となら、どこまでも羽ばたける)
P(そんな気がした)
P(何としても彼女達を、トップアイドルにしなければならない)
P(強い使命感が、俺の心に生まれた)
―2010年―
P(高みへ向かい、順調にステップを踏むアイドル達)
P「よし、これで今日からランクEか! おめでとう、みんな!」
P「いやあ、あずささん! 俺、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうですよ!」
P「やったな! この勝利で、ランクD到達だ!」
P「またトップアイドルに近づいたな、貴音!」
P「よし、俺達の勝ちだ! ランクCまで上り詰めたんだな!」
P「律子、これは運なんかじゃないぞ! 実力で勝ち取った、ランクCだよ!」
P(彼も、連勝をどんどん伸ばしていく)
実況アナ『先頭はペルーサ! 2番手にブルーグラスで今、ゴールイン!』
実況アナ『ペルーサ、今日も快勝! 見事に2連勝を飾りました!』
実況アナ『若葉ステークスは残り100メートル!』
実況アナ『ここでヒルノダムールを競り落とし、ペルーサが先頭に立ちました!』
実況アナ『ペルーサ、ゴールイン! 3連勝!』
実況アナ『評判馬、ヒルノダムールとの一騎打ちを制しました!』
実況アナ『さあ、青葉賞は最後の直線に入っています!』
実況アナ『強い強いペルーサ! 素質馬、トゥザグローリーを全く寄せ付けません!』
実況アナ『ペルーサ今日も完勝です! 大きなリードで、無傷の4連勝!』
実況アナ『世代の頂上決定戦、日本ダービーへ、無敗で駒を進めます!』
P(彼女達も彼も、全ては順風満帆)
P(心配など、何もしていなかった)
P(……しかし)
実況アナ『さあ日本ダービー、スタートしました!』
実況アナ『おっと!? ペルーサ、スタートに失敗! 立ち遅れました!』
P(まさか、だった)
P(大一番で、彼はまさかのスタートミス)
P(そして……)
実況アナ『第4コーナーのカーブ! ペルーサは大外、まだ後方です!』
実況アナ『ゴールまで残り200メートル! エイシンフラッシュ抜けている!』
実況アナ『外からローズキングダム追う! 内からヴィクトワールピサが3番手!』
実況アナ『ペルーサは伸びない! 先頭までは差がある!』
実況アナ『エイシンフラッシュだ! エイシンフラッシュゴールイン!』
実況アナ『2着ローズキングダム! 3着ヴィクトワールピサ!』
実況アナ『出遅れたペルーサは、6着でのゴールでした!』
P(この日、彼は初めての敗戦を喫した)
P(そしてこの時期、初めての敗北を味わったのは)
P(彼だけではなかった)
P(ランクBを賭けた、大事なランクアップフェス)
P(その最中、ダンスのステップを乱し、よろめくあずささん)
P(これが決定打となってしまい……)
P(俺達の手から、勝利は零れ落ちた)
P「そんなに泣かないでください、あずささん……」
P「大丈夫です! 誰にだって、失敗はありますって!」
P「今回の経験を教訓にして、次で挽回しましょう! ね!」
P「そう、その意気です! また明日から、一緒に頑張りましょう!」
P(たまたま、偶然、こういう事もある)
P(この時はそう、思っていた)
P(しかし数か月後、再度挑んだランクアップフェスにて)
P(今度は貴音が、サビの歌詞を飛ばしてしまい……)
P「……負けたか」
P「貴音……そう落ち込むなって」
P「しかし、驚いたよ。貴音でも、こういうミスをすることがあるんだな」
P「ま、そんな時もあるさ! 次に同じミスをしなければいい!」
P(ミスを続けたのは、彼女達だけではない)
P(彼も、同様だった)
実況アナ『毎日王冠、スタートしました! あーっと!』
実況アナ『ペルーサ、今日もスタートに失敗! 最後方からの追走です!』
実況アナ『さあ残り100メートル! アリゼオとエイシンアポロンの叩き合い!』
実況アナ『二頭全く並んでゴールイン! さあ、勝ったのはどちらか!?』
実況アナ『ペルーサ追い込みましたが、結局5着の入線です!』
P(嫌な予感がした)
P(そして彼は、次のレースでも……)
実況アナ『秋の天皇賞、スタートしました! ああっ!』
実況アナ『ペルーサ、今日も出遅れ! 離れた最後方となってしまいました!』
実況アナ『最後の直線、抜け出したのはブエナビスタ! これは強い!』
実況アナ『ブエナビスタ1着でゴールイン! 女王の貫録を見せつけました!』
実況アナ『ペルーサは最後、よく追い上げましたが2着!』
P(心がざわめく)
P(何か、歯車が狂い出したような……)
P(不吉な感覚が、俺の胸を掠めた)
P(気のせいであってほしい)
P(いや、気のせいに違いない)
P(そう俺は、自分に言い聞かせた)
P(そして、三度目の挑戦となる、俺達のランクアップフェス)
P(今度は、律子だった)
P(あろうことか、間奏のダンス中に転倒してしまい……)
P(俺達は、三連敗を喫した)
P「まさか律子まで、本番でミスるなんてな……」
P「ミスがなければ、私達が勝ててたと思うか、って?」
P「そうだな……うん。正直、勝ってたと思う」
P「だったら次は何とかなるさ! 次に目を向けよう! な!」
P(そうやって彼女達を、そして自分自身を鼓舞するも)
P(漠然とした不安が、心の中で少しずつ大きくなっていく)
実況アナ『ジャパンカップ、スタートしました! おーっと!』
実況アナ『ペルーサ、やや立ち遅れたか! 後方追走となります!』
実況アナ『最後の直線! 先頭のブエナビスタ、ちょっと内に切れ込んだか!?』
実況アナ『これは進路妨害となりました! 勝者はダービー2着、ローズキングダム!』
実況アナ『ペルーサ、最後は追い上げましたが5着でのゴールです!』
P(彼に先着したライバルが、新たなキャリアを積み重ねていく)
P(そして)
P「今日のオーディションは、三人揃ってダンスミス……か」
P「前回俺達に勝ったグループも、ミスってたみたいだけど……2位か」
P「1位になったのは、俺達が最初のBランクフェスで負けたグループか……」
P「うーむ……なかなかやるなぁ……」
P(俺達が敗れた相手も、どんどん結果を残していく)
P(焦燥感)
P(俺の中で、焦燥感がどんどん膨れ上がっていった)
P(迎えた年末。この年最後に行われる、Bランクフェス)
P(彼女達は久しぶりに、ミスなくステージをやり遂げた)
P(力の全てを出し尽くしたステージを見て、俺は勝利を疑わなかった)
P(しかし、その結果は……)
P「負けた……のか」
P「あずささん、悔しいのは俺も一緒です……。すみません、力不足で……」
P「お、おいおい! 泣き言を言うなんて、貴音らしくないぞ?」
P「律子! ここが限界だなんて、そんなことあるわけないじゃないか!」
P(実力を出し切っての、敗戦)
P(立ちはだかる現実に、俺達は打ちのめされた)
P(そして……彼も)
実況アナ『年末の大一番、有馬記念! スタートしました!』
実況アナ『ペルーサ、今日は普通に出ました! 先頭集団でレースを進めます!』
P(久しぶりに好スタートを決め、前のポジションでレースを進める彼)
P(これなら1着もある、と思ったのだが……)
実況アナ『さあ、最後の直線コース! ヴィクトワールピサが先頭だ!』
実況アナ『ブエナビスタ猛追! さあ、前に届くかどうか! 前に届くかどうか!』
実況アナ『二頭並んでゴールイン! わずかにヴィクトワールピサ、凌いだか!』
実況アナ『先行したペルーサは、結局4着でのゴール!』
P(終わってみれば)
P(かつて先着を許した馬達に、再度完敗の内容だった)
P(ミスなく走っても勝てないという現実)
P(そして、ミスのないステージを披露しても勝てなかったという現実)
P(現実が、俺に重くのしかかる)
P(栄光と挫折)
P(二つの相対する味を、二つの局面から同時に味わい)
P(2010年は幕を閉じた)
―2011年―
P(迎えた2011年、年明け最初のランクアップフェス)
P(今年こそは昨年の雪辱を、と意気込む俺)
P(その想いに応えてくれるかのように)
P(彼女達は、今まで以上に気合の入ったステージを見せてくれた)
P(だが結果は……)
P「また……勝てなかったか……」
P「うーむ、あと一歩なんだがな……」
P「ん? あずささん、どうかしましたか?」
P「え!? 今日の対戦相手とは、ランクCのフェスで戦った!?」
P「あ……確かに、言われてみれば……」
P「いつの間にか、追い抜かれちゃったのか……」
P(かつて破った相手に、逆転を許してしまった事実が突きつけられた)
P(そしてそれは……)
実況アナ『トゥザグローリー、1着でゴールイン! ペルーサは2着!』
実況アナ『昨年の青葉賞の借りを、ここで返しましたトゥザグローリー!』
P(彼も同じだった)
P(さらには……)
P「今回も……。あと一歩だが、勝てないか……」
P「お、おい貴音、大丈夫か? 何だか、顔が青いぞ……?」
P「何!? 優勝したのは、ランクDのフェスで勝負したグループだって!?」
P「そうだったか……」
P「あの時は俺達……」
P「連勝街道まっしぐら、だったよな……」
実況アナ『ヒルノダムール、ゴールイン! 春の天皇賞はヒルノダムール!』
実況アナ『ついに、G1のタイトルに手が届きました!』
実況アナ『中団に位置したペルーサは、結局8着!』
実況アナ『昨年のこの時期とは、力関係が逆転したか!』
P(かつて負かしたはずの相手に、敗れ続ける彼女達)
P(そしてかつて負かしたはずの馬に、敗れ続ける彼)
P(お互い止まらない負の連鎖に、完全に嵌りこんでしまったのだろうか)
P(このままではいけない)
P(そんなことはわかっている)
P(なら、どうすればいいのか?)
P(自問自答する日々を、俺は繰り返した)
P(そして出した結論)
P(それは、トレーニングによる自力強化の必要性)
P(……今の彼女達の実力では)
P(やみくもにBランクフェスに挑んでも、勝つことはできないかもしれない)
P(そう考えた俺は、時間を費やし、彼女達に入念なトレーニングを施すことにした)
P(業界でも有名なトレーナーにコーチを依頼し)
P(半年近くを費やした入念なトレーニング)
P(その結果、待っていたのは……)
P「ダメ……か」
P「あんなに練習したのに、これでも勝てないのか……?」
P「くそぉっ!」
P「何でなんだよ! 何で……」
P「ん?」
P「律子、どうした? 随分、満足気じゃないか?」
P「なに!? 今回の獲得ポイント、今までで一番だって!?」
P「そうか……!」
P「俺達のやってきたことは、ムダじゃなかったんだな……!」
P(ようやく掴んだ、復調の兆し)
P(時を同じくして……彼も)
実況アナ『さあ、秋の天皇賞、最後の直線!』
実況アナ『ブエナビスタを交わし、抜け出したのは二頭!』
実況アナ『トーセンジョーダンとダークシャドウ! それを追って外からペルーサ!』
実況アナ『三頭の馬体が並ぶか! ここがゴール!』
実況アナ『勝ったのは、トーセンジョーダン、2着にダークシャドウ!』
実況アナ『3着ペルーサ、4着にブエナビスタ!』
実況アナ『勝ちタイムは、何と日本記録! レコードタイムが記録されました!』
P(惜しくも敗れたが、久しぶりに大レースで好パフォーマンスを発揮した彼)
P(しかも、昨年敗れ続けた馬、ブエナビスタを4着に抑えている)
P(彼女達も彼も、ついに流れが上向いたか!)
P(と、思ったんだが……)
実況アナ『ジャパンカップ、最後の直線コースに向かいます!』
実況アナ『海外最強馬、デインドリームは伸びない! ペルーサもまだ後方だ!』
実況アナ『先頭はトーセンジョーダン! これを追ってブエナビスタ!』
実況アナ『外からブエナビスタ! ブエナビスタ、今1着でゴールイン!』
実況アナ『ブエナビスタ! 昨年の雪辱!』
実況アナ『ペルーサは後方のまま! 何と最下位でのゴールです!』
P(前走、僅差の戦いを繰り広げた馬が、ワンツーフィニッシュを決めたのに)
P(彼は、まさかの最下位に敗れ去った)
P(そして、俺たちが次に挑んだオーディションの結果は……)
P「う、うーむ。16位……か?」
P「ここまで負けるとは思わなかったが……」
P「あずささん……あずささん?」
P「どうしました? 何だか、フラフラしてるような――」
P「って、うわ! あずささん、凄い熱じゃないですか!」
P「り、律子! 貴音! 早く、早く救急車を!」
P(間断ないトレーニングで疲労を抱え込んでしまったのか)
P(あずささんの体調は、年末まで戻らなかった)
P(年末最後のBランクフェスは、無念の欠場)
P(そして彼も、年末の大一番、有馬記念を出走取消)
P(結局この年は、彼女達も、彼も)
P(一勝もすることなく、一年を終えることとなった)
―2012年―
P(年が明け、俺が打った最初の手)
P(それは、なりふり構わず勝利を掴むこと)
P(まずは一つ勝って、勝ち癖をつけることが大切)
P(そう考えた俺は、年明け初戦にBランクではなく)
P(格下のCランクフェスを選んだ)
P(勝利を確信し、俺は彼女達を送り出した……のだが)
P「ま、負けた……のか……?」
P「まさか……そんな……」
P「で、でもほら! ポイントの差はたった10点だ!」
P「あ、あ、貴音! そんなに暗い顔をしないで!」
P「な、なあ! そんなにしょんぼりしないでくれよ……」
P「そう……だよな。やっぱり、悔しいよな……」
P(勝って弾みをつけるどころか)
P(モチベーションのダウンに繋がってしまった……)
P(ならば、と思い立ったのは、逆転の発想!)
P(あえての飛び級、Aランクフェス挑戦!)
P「ざ、惨敗……」
P「す、すまん律子! これは俺の作戦ミスだ!」
P「い、いや! 俺は無理なんて思ってなかったぞ!」
P「ほ、本当だって! 律子達の力を信じてるからこそ……」
P「お、おい! 待て律子!」
P「話を! 話を聞いてくれぇ!」
P(勝てないまでも、そこそこの結果さえ残せれば)
P(モチベーションアップに繋がると思ったのだが……)
P(見事なまでに、真逆の結果となってしまった)
P(結果を出してやれない焦りで、迷走する俺。そして)
実況アナ『白富士ステークスを制したのは、ヤングアットハート!』
実況アナ『ペルーサ、怒涛の末脚でしたが届かず2着!』
実況アナ『断然の一番人気を裏切ってしまいました! まさかの敗戦です!』
実況アナ『安田記念を制したのはストロングリターン! これが初G1制覇!』
実況アナ『ペルーサは最下位! これは、初距離に対応できなかったか!』
実況アナ『全く見せ場がありませんでした!』
P(彼もまた、迷走していた)
P(気がつけば)
P(最後のCランクフェスの勝利から、2年が経過しようとしている)
P(どうして、こうなってしまったんだろう……)
P(何とかして、Bランクの壁を乗り越えたい)
P(でも一体、どうすれば……)
P(連日悩み続けるも、打開策は見つけられず)
P(途方に暮れていた、ある日のこと)
P(終わりは、唐突にやってきた)
P「え!? あずささんが、交通事故!?」
P「あずささんは! あずささんは無事なんですか!?」
P「よかった……命は大丈夫なんですね!」
P「複雑骨折……!? 完治するまで一年以上……!?」
P「どうしたんだよ、貴音? そんなに改まって……?」
P「お別れ……!? 故郷に帰らないといけなくなった……?」
P「貴音の故郷って……月!? 何を言って……あれ?」
P「た、貴音!? おい、どこに行ったんだ! 貴音! 貴音ぇ!」
P「アイドルを引退して、別会社の事務員に転向……?」
P「律子……それ、本気なのか……?」
P「そうか……。引き留めても……きっと、無駄なんだろうな……」
P「力になれなくてすまなかった、律子……」
P(解散という現実を受け入れるのには、しばらくの時間を要した)
P(無念、落胆、後悔、失望感)
P(様々な負の感情が、俺を襲った)
P(時を同じくして、彼もレースに姿を見せなくなった)
P(調べてみたのだが、どうやら喉の手術で長期の休養に入ったらしい)
P(復帰の見通しも、不明とのことだった……)
P(あずささん、貴音、律子、そして彼)
P(俺の生き甲斐は、何もかも消え去ってしまったのだ……)
―2013年―
P(一年の時が流れた)
P(俺の心にポッカリ空いた穴は、埋まる事もなく)
P(ただただ、空虚な毎日を過ごしていた)
P(彼女達のステージでの晴れ姿を思い出すたびに)
P(そして)
P(芝生の上を軽快に走る、彼の姿を思い出すたびに)
P(俺の目からは、涙が零れた)
P(………………)
P(…………)
P(……)
―2014年―
P(それは、年が明けてからしばしの後)
P(身も凍るような寒さの、とある日のことだった)
P(俺の前に、一人の女性が姿を現した)
P(それは……)
P「あずさ……さん?」
P「あずささん! あずささんじゃないですか!」
P「身体はもう大丈夫なんですか?」
P「そうですか……完治したんですか!」
P「よかった……本当によかった……」
P「え、お願いがある……ですか?」
P「もう一度、アイドルがやりたい……と?」
P「あんな終わり方じゃ、納得できない、ですか……」
P「気持ちはわかります。でも……」
P「すみません。少し、考えさせてもらえますか……」
P(あずささんの想いは、痛いほどに伝わった)
P(しかし、一度は事故で重傷を負った身。加えて長期のブランク)
P(それに、貴音と律子はもう……)
P(首を縦に振る勇気が、俺には出なかった)
P(できるなら、復帰させてあげたい)
P(でも、あずささん一人では……)
P(返答を先延ばしにしつつ、悩む日々が続いた)
P(時間は容赦なく、一週間、二週間と過ぎていった)
P(転機を迎えたのは、翌月)
P(2月1日の土曜日だった)
P(何気なく)
P(本当に何気なくつけた、自宅のテレビ)
P(そこに映し出されたのは……)
実況アナ『本日のメインレース、白富士ステークスの発走です!』
実況アナ『さあ、実に1年8か月の休養明けとなるペルーサ!』
実況アナ『果たして、どういう走りを見せるのでしょうか?』
P(今となっては懐かしい、彼の姿だった)
実況アナ『スタートしました! ペルーサ、多少出負けしたか!』
実況アナ『さあ第3コーナーのカーブ! ペルーサ現在最後方です!』
実況アナ『直線に向きました! ペルーサどこまで詰められるか!』
実況アナ『残り200メートル! ペルーサはまだ後方だ!』
実況アナ『先頭はエアソミュールでゴールイン! 快勝です!』
実況アナ『長期休み明けのペルーサは、12着でのゴールでした!』
P(全盛期の走りは、見る影もなかった)
P(しかし間違いなく、彼は走っていた)
P(懸命に、前を向きながら……)
P(大きな勇気を、もらった気がした)
P(そして、その翌日)
P(一人の女性が、俺の前に姿を現した)
P「貴音! 本当に貴音なんだな!」
P「夢みたいだ……」
P「まさかもう一度、貴音に会えるとは思わなかったよ……」
P「……故郷の方は、もういいのか?」
P「……そっか。まあ、詳しくは聞かないことにするよ」
P「え? もう一度、アイドルをやりたい……だって?」
P「いやいや! 身勝手なお願いなんて、とんでもない!」
P「そうだな……!」
P「もう一回……みんなで……!」
P(みんなと一緒に、夢の続きを見たい)
P(心を決めた俺は、すぐに一人の女性とコンタクトを取った)
P(最初は、にべもなく拒絶された)
P(しかし俺は諦めず、彼女に連絡を取り続けた)
P「頼む、律子! 一生のお願いだ!」
P「もう一度みんなと、一緒にアイドルをやろう!」
P「何だってする! 何なら土下座でも……え?」
P「本当か!? 本当なんだな、律子!」
P「ありがとう! ありがとう!」
P「い、いや! 俺は泣いてなんかいないぞ!」
P「だから泣いてないって……ん?」
P「そういう律子こそ、涙声になってないか……?」
P(連日続けた説得に、ついに律子は応じてくれた)
P(こうして俺と彼女達、そして、彼は)
P(新たなるスタート、再スタートを切ったのだった)
P(俺にはわかっていた)
P(今の彼女達に、全盛期の力を求めるのは酷だということを)
P(だから俺は、あえてフェスの話題を出すことはせず)
P(彼女達の力量に合う仕事を、厳選することに心力を注いだ)
P「いやあ、あずささん! 今日のCM撮影、最高でしたよ!」
P「え、ご褒美が欲しい……ですか? 具体的には、何を?」
P「……あ、頭を撫でる……?」
P「えっと……そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……っと」
P「こ、こんな感じで……どうでしょう……か?」
P「……ふぅ。あずささんって、意外と甘えん坊だったんですね……」
P「貴音! グルメリポートが、大分板に付いてきたじゃないか!」
P「え、これから一緒に、らあめん屋に行きましょう?」
P「おいおい……さっき番組であれだけ食べたのに、まだ食べるのか?」
P「な、何だよ! そ、そんなに頬っぺたを膨らませるなって!」
P「わ、わかったわかった! わかったよ!」
P「一緒に行くから、そんなに拗ねないでくれよ、貴音!」
P「大成功だったな律子! キャンペーンガール姿、似合ってたぞ!」
P「え? 私に、この仕事は適任とは思えない、って?」
P「そんなはずはない! 間違いなく適任だよ!」
P「なぜそう思うのか、理由を教えろ、ってか?」
P「そんなの、律子がかわいいからに決まってるじゃないか」
P「だ、大丈夫か律子!? 熱でもあるのか!? 顔が真っ赤だぞ!?」
P(俺の取ってきた仕事を、彼女達は順調にこなしていった)
P(心なしか、昔以上に距離を縮められた気もする)
P(激しい戦いから離れた場所に身を置き、活動を続ける俺と彼女達)
P(しかし……彼は違った)
実況アナ『エプソムカップはディサイファ! 見事な末脚です!』
実況アナ『復帰2戦目のペルーサは、15着に終わりました!』
実況アナ『毎日王冠を勝ったのはエアソミュール! 武豊騎手、手綱が冴えます!』
実況アナ『ペルーサは中団、9番手ぐらいの入線でしょうか!』
実況アナ『スピルバーグ豪脚一閃! 強豪を相手に、天皇賞秋を勝利!』
実況アナ『最後方からレースを進めたペルーサは、後方3番手でのゴールです!』
実況アナ『金鯱賞を制したのはラストインパクト! 3つ目のタイトル獲得です!』
実況アナ『そしてペルーサですが、今日は10着! 伸びきれません!』
P(敗れても敗れても、立ち向かい続ける彼)
P(結果は伴わなかった)
P(しかし彼は、いつも全力で戦い続けていた)
P(そんな彼の、ひた向きな姿を目の当たりにして)
P(例え勝てないとわかっていても)
P(俺は昔のように)
P(いや……それ以上に)
P(彼を応援せずにはいられなかった)
―2015年―
P(それは、年明け最初のミーティングだった)
P(熱意のこもった真っすぐな瞳で、あずささんが俺に訴えた)
P「もう一度、Bランクフェスに挑戦してみたい……ですって?」
P「でも、あずささん。最後にステージに立ったのは、もうずっと昔で――」
P「その言葉を待ってました……だって?」
P「貴音も……あずささんと、同じ気持ちなのか?」
P「え? 仕方がないから、付き合いますか?」
P「律子……。その顔、明らかにしょうがないって顔じゃないぞ……」
P「……」
P「…………」
P「本当に、いいんだな……?」
P「よし、わかった! やるだけやってみよう!」
P(こうして彼女達は、再び戦いの舞台に身を投じることとなった)
P(無謀な挑戦なのはわかっていた)
P(何せ、彼女達が最後にステージに立ったのは、かれこれ2年半も前なのだ)
P(その無謀な挑戦を、無謀と承知で受け入れたのは)
P(諦めずに戦い続ける、彼の姿を見続けてきたからかもしれない)
P「復帰初戦は惨敗……か。まあ、こればっかりは仕方がないよな……」
P「お疲れ様でした、あずささん!」
P「貴音、いいパフォーマンスだったぞ!」
P「律子も頑張ったな! 初戦としては、上々上々!」
P(意気込んで挑んだ、年明け最初のBランクフェス)
P(わかっていたとはいえ、やはり完敗の内容だった)
P(……そして、彼の今年初戦も)
実況アナ『中山金杯はラブリーデイ! 皐月賞馬、ロゴタイプを完封!』
実況アナ『ペルーサは後方から差を詰めましたが、10着止まりです!』
P(勝った馬の走りには、今後の大仕事を約束するような、オーラがあった)
P(それは遥か昔、俺が彼に感じていたもの……)
P(それから彼女達は定期的に、Bランクフェスへの挑戦を続けた)
P(しかしその結果は、芳しいものではなかった)
P「復帰2戦目……」
P「まだポイント差は、かなりあるか……」
P「復帰3戦目も、完敗か……」
P「まあ、課題は山積みだもんな……」
P「復帰4戦目も、惨敗……」
P「……いや、まだまだだ。まだまだこれからのはずだ」
P(現実の壁は、恐ろしいほどに高く)
P(そして分厚いものだった)
P(さすがの彼女達も、時には打ちひしがれ)
P(気負けし、弱音を吐くことがあった)
P「あずささん! 今日のステージも、いい動きでしたよ!」
P「ええ! とても、瀕死の重傷を負ったとは思えないパフォーマンスでした!」
P「え? もし、あの日事故に遭ってなかったら?」
P「今とは違った未来があったかも……ですか?」
P「それは……その答えは……」
P「……でも! あずささんは、こうしてステージに戻って来れたじゃないですか!」
P「あずささんが諦めなければ、必ず、きっと……!」
P「大丈夫ですあずささん! 俺、あずささんを信じていますから!」
P「申し訳ありません……だって?」
P「どうして貴音が、俺に謝る必要があるんだ?」
P「私は、大きな過ちを犯しました?」
P「……どういうことだ?」
P「あの日、アイドルより故郷を優先しなければ、こんなことには……か」
P「……でも! 貴音は、こうしてステージに戻って来たじゃないか!」
P「それに故郷に帰ったのは、どうしても譲れない理由があったからだろ?」
P「大丈夫だ貴音! その時の経験、絶対これからに活きてくるさ!」
P「は? もう、私を外してください?」
P「待て待て待て! 何を言ってるんだよ、律子!」
P「やっぱり私には、裏方がお似合い……だって?」
P「確かに、律子の事務員としての能力は、疑いようがないと思うよ」
P「……でも! 律子は、こうしてステージに戻って来てくれたじゃないか!」
P「事務員と同じぐらい、律子にはアイドルとしての才能があると思ってる!」
P「大丈夫だ律子! もっと、自分に自信を持っていいんだからな!」
P(苦しい戦いを続けていたのは、彼女達だけではない)
実況アナ『直線、鋭く伸びたアズマシャトル! 見事に白富士ステークス勝利!』
実況アナ『同じく後方から運んだペルーサは、よく伸びましたが6着まで!』
実況アナ『エイシンヒカリ、見事な逃走劇でエプソムカップを制しました!』
実況アナ『ペルーサは今日も追い上げましたが、6着での入線です!』
実況アナ『マイネルミラノ、圧倒的なスピード! 巴賞を逃げ切り勝ちです!』
実況アナ『ペルーサは後方のまま、8頭中6番手でのゴールでした!』
P(彼もまた、苦しい戦いに挑み続けていた)
P(失った輝きを取り戻す)
P(言葉にするのは簡単だが、実現するのは何て難しいんだろう)
P(でも……俺は、諦めたくなかった)
P(一度だけでもいい)
P(彼女達に、そして彼に)
P(もう一度、光り輝いてほしかった)
P(気がつけばお互い、最後の勝利からは)
P(かれこれ、5年以上の歳月が経過していた)
P(そして迎えた、本日)
P(8月8日、土曜日)
P(今日は復帰から数えて5回目となる、Bランクフェス挑戦の日だ)
P(復帰前から数えると、もう何戦目になるだろうか……)
P(前回のフェスの敗戦後、遅まきながら俺は悟った)
P(これまでと同じことを続けても、結果は出せないだろう、と)
P(何かを劇的に変えなければいけない)
P(しかし、具体的に何を変えればいいのか、すぐには思いつかなかった)
P(俺は考え続けた)
P(彼女達のために、何かしてやれないのか)
P(何か、俺にしかできないことがあるんじゃないだろうか、と)
P(そして、考えに考え抜いた末)
P(一つの結論を出した俺は、彼女達に申し出た)
P(レッスンのトレーナーを、俺にやらせてくれないか、と)
P(素人の俺が、指導力でプロのトレーナーに適うとは思えない)
P(だが)
P(彼女達のことは、誰よりも自分が知っているという、自負は持っていた)
P(俺にしかできない助言、俺にしかできない導きが、何かきっと在る)
P(そう、思ったのだ)
P(傍から見ると無謀とも思えるであろう、俺の提案)
P(そんな俺の提案は、意外にも)
P(彼女達に、快く受け入れられた)
P「あずささん。今のステップ、もう少しスピーディに踏むのはどうでしょう?」
P「なあ貴音。サビの最後の部分、あとちょっとだけ伸ばせないかな?」
P「律子律子。間奏のダンス、もっと思い切った動きで演じていいと思うぞ?」
P(我ながら、稚拙なアドバイスだと思う)
P(時には反論され、時には意見をぶつけ合い、そして時には同意を受け)
P(二人三脚で、俺と彼女達はトレーニングを続けた)
P(次のステージを、これまでと違う物にしたい)
P(そんな想いを、胸に抱いて)
P(…………)
P(もうすぐ、フェスが終わって30分は経つだろうか)
P(……俺は今、フェス会場近くの病院にいる)
P(彼女達の本番を前に、まさかの体調不良でダウン)
P(大したことないから大丈夫、そう言い張ったのだが)
P(結局彼女達に、無理矢理病院に担ぎ込まれてしまった)
P(必ず勝って、迎えに来ますから)
P(そう言い残して彼女達は、戦いの舞台へと向かっていった)
P(診断の結果は、過労とのこと)
P(今は一人きりの病室で、点滴の真っただ中だ)
P(病室備付のテレビをぼんやり眺め、気を紛らわそうとするも)
P(頭に浮かんでくるのは、彼女達のステージのことばかり)
P(現実的に考えて、勝てるとは思わなかった)
P(少しでもポイントを多く取って、次に繋がるステージになってくれれば)
P(でも、もしまた惨敗だったら……)
P(様々な想像が、脳裏を駆け巡る)
P(携帯電話を持っていれば、すぐにでも連絡して結果を確認するのだが)
P(こういう日に限って、事務所に忘れてきてしまったのだ)
P(自分の間抜けさに腹を立てながら、テレビのチャンネルを適当にいじる)
P(そして……何度目かにチャンネルを変えた、その時だった)
実況アナ『スタートしました! メインレース、札幌日経オープン!』
実況アナ『ペルーサ、今日は好スタートを決めています!』
P(テレビ画面に映し出されたのは)
P(珍しく軽快なスタートを決める、彼の姿)
P(俺は知っていた)
P(今日、戦いの舞台に挑むのは、彼女達だけではないことを)
P(ただ、本来ならば今の時間は、フェスの会場からの帰り道なわけで)
P(生観戦は、あり得ないはずだった)
P(まさか、彼女達の結果より先に、彼の結果を知ることになるとは)
P(苦笑しながら、俺は改めて、テレビ画面に目を向けた)
実況アナ『ペルーサ、今日は3番手からレースを進めます!』
P(おやっ、と思った)
P(復帰してからは、後方追走から数頭を抜くのが精一杯だった彼)
P(そんな彼が、今日は先頭集団に位置している)
P(そしてさらに、驚くべき展開が起こった)
実況アナ『先頭はタマモベストプレイ、その外からペルーサが並んでいきます!』
実況アナ『ここで先頭が変わりました! ペルーサが先頭です!』
P(これまでに、一度たりとも見たことがない光景だった)
P(彼は自ら先頭に立ち、他馬をリードしていく)
実況アナ『リードを1馬身、2馬身と広げました!』
実況アナ『ペルーサ、軽快に飛ばします! リードを4馬身と取っています!』
P(完全に予想外の流れだった)
P(同時に、これはさすがに無謀だろうとも思った)
P(今までと違った戦法で、新境地を開きたいという気持ちはわかる)
P(しかし、いくら奇策を打つにしても)
P(あまりにも、これまでとスタンスが対極すぎる)
P(ゴールまでにスタミナが切れ、後退していく姿が容易に想像できた)
P(そう。現実は、決して甘くはないのだから)
実況アナ『先頭はペルーサ! リードを2馬身キープして3コーナーのカーブ!』
P(しかし俺の予想に反して、彼は先頭を走り続けた)
P(いつの間にかレースは、終盤に差し掛かっている……)
実況アナ『ペースが上がります! 3、4コーナーの中間へ!』
実況アナ『依然としてペルーサ、先頭をキープしています!』
P(まだ、余裕があるように見える……)
P(心臓の鼓動が、どんどん早くなっていくのを感じた)
P(これは、もしかして……?)
実況アナ「残り600メートルを切って、先頭ペルーサ! まだ1馬身のリード!」
P(颯爽と走り続ける彼に、かつて輝きを放った過去の姿が重なる)
P(まさか、まさか……)
実況アナ「ここでタマモベストプレイ、さらにアドマイヤフライトが差を詰めます!」
P(しかしここに来て、他の馬たちも追い上げてきた)
P(2番手の馬が、騎手の激しいアクションに応え、差を詰めて来る)
P(3番手の馬も、余裕たっぷりにスーッと外から上がって来ている)
P(築いたリードが、じわじわと無くなっていく)
実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブします!』
P(負けて欲しくなかった)
P(勝って欲しい)
P(何とか……!)
P(何とか、何とかこのままで……!)
P「頑張れ……!」
実況アナ『ペルーサ先頭で、直線コースに入りました!』
P「頑張れ! ペルーサ、頑張れぇ!」
実況アナ『ペルーサ先頭! 外からアドマイヤフライト、間からタマモベストプレイ!』
P「行け! 粘れ粘れ粘れ! 粘るんだ!」
実況アナ『前は3頭! その外からワールドレーヴも差を詰める!』
P「もう少しだ! もう少しだぞ!」
実況アナ『残り200メートル! さあペルーサ粘る粘る!』
P「ペルーサ! 負けるな! ペルーサ!」
実況アナ『その外からタマモベストプレイ! ワールドレーヴ迫ってくる!』
P「頑張れ! 頑張れぇ!」
実況アナ『しかし、ペルーサが先頭だ! 抜かせない! 先頭はペルーサだ!』
P「頑張れぇぇぇぇ!!」
P(俺にとって、永遠とも思える程、長い直線だった)
P(そして、その終わりの果て)
P(1着でゴールを駆け抜けたのは……)
実況アナ『ペルーサ、今1着でゴールイン! 押し切りましたぁ!』
P(彼だった)
実況アナ『ペルーサ、見事押し切りました!』
実況アナ『ガッツポーズが出ました! 鞍上のクリストフ・ルメール騎手!』
実況アナ『2010年5月1日、青葉賞以来の勝利です!』
実況アナ『そして勝ち時計は、何とレコード! レコードタイムが記録されました!』
P(興奮気味の実況アナウンサーの声が、脳裏に染み渡っていく)
P(信じられなかった)
P(夢ではないかと思った)
P(目に、涙が溢れる)
P(彼は、彼は本当に……)
ガチャ
P(その時背後で、病室のドアが開く音がした)
P(ゆっくりと後ろを振り向く)
P(そこに、彼女達が立っていた)
P(あずささん、貴音、そして律子)
P(皆、目に光るものを浮かべていた)
P(何かを成し遂げたような、誇らしげな表情と共に)
P(そんな彼女達の表情を見て、俺は全てを悟った)
P(奇跡を起こしたのは、彼だけではなかったのだ)
P(聞きたい話は、山ほどあった)
P(一時間……いや)
P(一日かけても足りないぐらいに)
P(でも、最初に言うべき言葉は……決まっている)
P「……おめでとう」
P(次の瞬間)
P(破顔した彼女達は一斉に、俺が横たわるベッドに飛び込んできたのだった)
P(果たして彼女達が、Aランクの舞台で対等に戦えるのか)
P(彼は次のレースで、再び好勝負を演じられるのか)
P(それは……わからない)
P(もしかすると、今日一日限りの輝きなのかもしれない)
P(それでも俺は、これからも)
P(彼女達を、そして彼を応援し続ける)
P(そして俺は)
P(今日という日を、絶対に忘れない)
P(挫折と敗北を繰り返し、ついに栄光を掴み取った彼女達と彼は)
P(間違いなく、今日の主役だったから)
P(ベッドの上で彼女達にもみくちゃにされながら)
P(俺はもう一度、皆に言葉を紡いだ)
P「おめでとう……あずささん」
P「おめでとう……貴音」
P「おめでとう……律子」
P「それから……」
P(おめでとう……ペルーサ)
実況アナ『札幌競馬場、場内は大歓声です!』
実況アナ『勝ったのはペルーサ!』
実況アナ『実に5年3か月ぶりとなる、鮮やかな勝利でした!』
― 完 ―
以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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