初音ミク「歌でみんなを幸せにするの!」 (46)

ミクちゃんが歌で人々を支えようとするだけの近未来SS
更新は早朝の僅かな時間に限られそうです

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先に言っていなかったのはこちらの落ち度でした。
申し訳ない、かなり堅苦しい文章になるので閲覧注意です。

「ふー……」

大きな溜息と共に、少女は控え室に戻ってきた。

好きでバーチャルアイドルを務めているにしろ、あれだけ激しく踊りながら歌えば誰であろうと疲弊する。

疲れは感じたけれど、それでも身体に支障は訪れなかった。

元よりその身は人を模した機械人形に過ぎないのだから。

どれだけ暴れても汗ひとつかかず、どれだけ歌っても声が枯れる事は無い。

こういう所は機械だからこその利点だ。

人では到底歌いこなせない曲も、彼女にかかれば努力次第で達成出来る。

(いけないいけない、また自惚れる所だった)

機械仕掛けの少女は
気を引き締める様に自分の頬を叩いて喝を入れる。



ーー機械が人間より精密なのは当たり前だ。

機械とはその趣旨が何であれ、人間の助力、或いは代行を務める為に造り出された道具に過ぎない。

何かに特化した道具がある一点において人を上回るのは至極当然の話。

故に彼女の歌に求められるものは、「心」であって「技量」ではない。

道具が初めから自らの特性に満足してしまったら
きっとその先の成長や進歩の可能性まで止めてしまうだろう。


いやーーそもそも機械はあくまで機械であり、
人間の手を借りるならまだしも
自らの力のみで成長していく事なんて出来ない。



それでもーー初音ミクという少女は本物の人間の心に近付こうとした。


自分の力でみんなを笑顔にしたいという想いが、
例え彼女を創り出した製作者による借り物の心だとしても。

その想いが本物でなければ、彼女は偽善の歌で人々を騙している事になるのだから。

(所詮私は人工物だけど……その人工物を愛してくれる人が世の中には沢山いる。

それは滑稽でも何でもなくて、
私自身ーー自分を誇るべきなんだ)

虚像から生まれた電子の歌姫。
本物の心を癒す偽物の歌。

きっと真贋なんかどうでもよくて、
ただ自分の想いを「本当」に信じられれば
小さな壁なんて取り壊せる。

今に至る真贋がどうであっても、彼女が人々を歌で幸せにしたいという想いだけは本物だ。

だから今日も彼女は、大好きな歌で人々の心を癒し続ける。

自分の大好きなものでみんなが幸せになるのなら、彼女にとってこれ以上無い程の贅沢だ。


「みんなもーー私と一緒に歌える様になるといいね」


ゆっくりと、静かに控え室の椅子に腰掛けると、
机に置かれた無骨なパソコンを優しく撫でる。

デスクトップには「鏡音」「KAITO」「MEIKO」等と、
彼女の同胞とも言える見知った名前が綴られていた。

その日は自分の疲れを癒す為に、早めに機能を停止して充電を図った。

仮想の歌姫だからこそ、彼女が着手するものは現実のアイドルと同義ではない。

あくまで二次元に過ぎない彼女の性質はマスコットに近く、
歌う時こそ本物に近付こうと努力しているが
その実色んな場所に引っ張りだこだったりする。

それはもう、コンビニでのコラボキャンペーンといった在り来たりなものから子供に近付く仕事まで。

虚像に過ぎないからこそ彼女の運用は比較的楽だった。



ーー今ここにいる初音ミクが「初音ミク」の全てではなく。

あくまで初音ミクというキャラクターに形を持たせた二次的副産物の一つに過ぎないだけ。

限りない本物に近付けようとして作られた「偽物の偽物」。

単純に「初音ミク」を名乗る存在ならそこかしこに点在しているのだ。

だから、「初音ミク」を型作る数ある要素の一部である彼女は
その翌日には歌以外の仕事で埋まっていた。

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