私はよく恋をして、その度止まらなくなってしまう。
バイト先の先輩や同じ講義を受けてる奴とかならまだ他人も許せるというものだ。
それが厄介な事に、道端ですれ違った人や雑誌の写真にまで本気で恋をしてしまう。
そして遅くとも一週間のうちには「私の部屋に来ない?」となっているのだ。
「まあ見てくれはいいからね、アンタ」
「性格は良くないね」
「分かってんじゃんビッチ」
「否定が出来ない」
ハンバーガーを齧りながら親友に言う。
こんなものじゃ一欠たりともえいようになりはしないのだ。
「消化」はされても「吸収」はされない。
「損な身体よね、恋多き乙女じゃないと生きることさえ出来ないなんて」
「うふふ、私生まれながらにして脳内お花畑なの、清楚系ビッチなの」
「アンタそれ事情知ってる奴以外に絶対言うんじゃないわよ」
まあ流石に大学に通うような歳だ、そろそろ自分でも分かっている。
私の恋は、摂食行動そのものだった。
男の精をもらわなければ、生きていけないのだ。
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私の家系は例外なく顔が良い。
『食』に不自由しないための必要最低限が、遺伝子レベルで組み込まれている。
ブスの気持ちがよく分からなくて、あんまり女友達は出来なかった。
まあ対照的に多くの食料と友達だったから、それで敬遠されたのもある。
「一人男決めてさ、それでさっさと結婚しちまえばいいじゃん」
数少ない女友達……の中でも、事情を知っている一人に言われた事がある。
逆に考えてみて欲しい。
明日からハンバーガーしか食えなくなったらお前はどうするのか、と。
きっと少々後ろ指を指されようが、中華や和食やフレンチに走りたくなるだろう。
男だって換えないと飽きが来る。
とは言え一度お腹いっぱい(比喩ではない)食べれば一週間は軽くもつから、そう何度もビッチする必要はなかった。
人間かどうか、とも聞かれた。
失礼な言動が目立つなあコイツは。指導するぞ。
やんわり不安になって一応辞書で引いてみたら「ヒトとは、いわゆる人間のことで、学名が Homo sapiens(ホモ・サピエンス)あるいは Homo sapiens sapiens(ホモ・サピエンス・サピエンス)とされている動物の標準和名である。
Homo sapiens は「知恵のある人」という意味である。
古来「人は万物の霊長であり、そのため人は他の動物、さらには他の全ての生物から区別される」という考えは普通に見られるが、生物学的にはそのような判断はない。
「ヒトの祖先はサルである」と言われることもあるが、生物学的には(分類学的には)、ヒトはサル目ヒト科ヒト属に属する、と考えており、「サルから別の生物へ進化した」とは考えない。
アフリカ類人猿の一種である、と考える。
生物学的に見ると(以下略)」
まあ要するに私と私の家族は、形態学的にもDNA塩基配列的にも文化的にも人間と言う結論らしい。
少しだけ安心したのは秘密だ。
「あっ」
「何?」
「『きた』」
「出た、性欲」
「違う食欲」
「ビッチかよ」
「ビッチよ」
空腹。
唐突に襲ってくる訳ではないが、こういうのは自分でもいつ来るか分からない。
早めに言っておくに越したことはないのだ。
「あーお腹すいた―」で腹が鳴る程度で済めばよいが、私の場合はそりゃもう下の口が涎を垂れ流しにする。
早く男を食べたいと、私の女が疼くのだ。
決して淫語や比喩ではないので、下ネタらしきものを連射するこの淫乱をどうかお許しください。
「ごめん先帰るわ」
「うっすうっす」
親友は達観した様子で手を振った。
「オッケー、じゃあ八時に私の部屋ね。……うん、……ええっちょっとぉ~それは……、えへへ、分かった。じゃね」
食いもんの分際で何を要求してくるかと思えば裸エプロンだと。
私にそんな性癖はないんだが、まあいいや。
焼肉屋のナプキン程度に思って我慢してやろう。
とは言えこれで一週間はどうにかなったな。
テスト週間に入る前に食いだめしとかないと。
大学との距離と家賃だけで決めたアパートに帰ると、申し訳程度に部屋を片付けてシャワーを浴びた。
髪は長い方なので乾かすのに時間がかかるが、ご飯までには何とか間に合うだろう。
最悪そのままヤッってもいいし。
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