らくごモザイク「カレン太鼓」 (19)
ハンショウハダメダヨ、オジャンニナッチマウ……
アリス「あははは」
忍「アリス、さっきから何を聞いてるんですか?」
アリス「あ、シノいたんだ。全然気づかなかったよ」
アリス「これは落語だよ」
忍「落語、ですか?」
アリス「うん、日本の伝統的な話芸だし、とっても面白いんだよ!」
忍「私は全然聞いたことありません」
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忍「どんなお話なんですか?」
アリス「今聞いてたのはね、『火焔太鼓』っていう噺なんだけど」
アリス「道具屋の甚兵衛が、あるとき汚い太鼓を仕入れてくるんだけど」
アリス「それを丁稚に掃除させてたら音が鳴っちゃって、それをたまたまお殿様が聞きつけてね」
忍「はぁー……金髪……」
アリス「ってシノ、聞いてる!?」
忍「はい?」
アリス「もう、なんでちゃんと聞いてくれないの?」
忍「いえ、アリスの金髪に見とれてまして」
アリス「だからね、道具屋の甚兵衛が太鼓を仕入れて」
忍「そのじんべえさんは金髪なんですか?」
アリス「そんな訳ないよ!日本人だよ!」
忍「そうですか、金髪の美少女ではないんですね……」
アリス「うん、普通の落語には出てこないかな」
忍「それは残念です」
アリス(シノが落胆してる……)
アリス「……それならわたしがシノにも分かりやすいように、わたしたちに置き換えて説明するよ!」
忍「どういうことですか?」
アリス「登場人物がわたしやカレンだったら、シノもきっと楽しめるでしょ?」
忍「はい!」
アリス「それじゃあ……」
アリス「……こほんっ」
えー、江戸の時分に道具屋っていう、今でいうリサイクルショップみたいなお店があったんだけど、
今回はそれはあんまり関係なくって、カレンのおうちはお金持ちだし、それに広いからけっこう古いものがあるんだよ。
それに、カレンも小さい頃のものとかあんまり捨てないから、カレンのおうちの物置は道具屋さんみたいにいろんなものがあるの。
日本に来る時に、面白そうなものをちょっと持ってきたみたいで、それを見せてもらってるときに、
「Hey, アリス、こんなものが出てきマシタ」
「ねこのぬいぐるみ?」
「そうデス、昔アリスとこれで遊びマシタ」
「そうだったっけ?わたし、あんまり覚えてないよ」
「えー、忘れちゃったデス?」
「あっ、これは覚えてるよ!このパズル、一緒にやったよね」
「そんな記憶はないデス」
「もう、カレンだって忘れてるじゃん!」
「あ、でんでん太鼓があるね」
「デンデンダイコ?」
「ほらこれ、カレンの物なのに知らないの?」
「んー、あんまり遊んだ覚えもないデス。どうやって使うデス?」
「これはこうやって」
「Oh! デンデン鳴るからデンデン太鼓デスネ」
「これもイギリスから持ってきたんだよね?日本のものなのに」
「そうデス、多分パパがくれたんだと思いマス」
「あれ、ケータイ鳴ってるデス……Hello? あ、シノ。アリス?いるデスヨ」
「え、シノからの電話?」
「そうデス」
「ありがとうカレン……もしもしシノ?」
「今はカレンのうちだけど……マムがわたしに用事?うん、じゃあ今から帰るね」
「んー、アリスが電話に出てるとヒマデス」
「でんでん太鼓、確かアリスはこうやって鳴らしてたデス」
そうしてカレンがでんでん太鼓をでんでんと鳴らすと、電話口のシノにもそれが聞こえたみたいで、
「アリス!?今の、何の音ですか?」
「カレンが小さい頃に貰ったっていう太鼓が出てきたんだよ」
「そうだったんですか……」
「カレンったら、電話中なのにうるさくして……」
「素敵です!」
「えっ!?」
「どうりでイギリスの音がすると思いました!」
「えっと、多分日本製……」
「そうです!アリス、帰ってくるときにカレンも一緒に家まで来てもらってください」
「それでその太鼓を見せて欲しいんです!」
「う、うん、カレンにそう言ってみるね」
「ねえカレン、シノがこれから家に来てほしいって言ってるよ」
「それで、そのでんでん太鼓が見たいんだって」
「OK! 行くデス!」
そうして二人いっしょにシノのおうちに帰ったの。
「オハヨウゴジャイマース!」
「もうカレン、今は夕方だよ」
「カレン、上がってください」
そうして一足早く部屋に上がったシノとカレンは早速さっきのでんでん太鼓を取り出して、
それをカレンがでんでん鳴らすと、もうシノは大喜び。
まるで金髪を見るときのようにきらきらした目で、
「これがカレンが小さい頃から持ってたっていう太鼓ですか」
「そうデス。たしかパパから貰ったんだと思いマス」
「それは素敵です!小さなカレンがイギリスで遊んだんですね!」
「んー、遊んだ覚えはほとんどないデスガ」
「そのでんでん太鼓、せひ私の外国コレクションに加えさせてください!」
「もちろんタダでとは言いません!そうですね、これなんかどうでしょう?」
「これは……こけしデス?」
「はい、ミニサイズのこけしです。アリスはこういうの好きなのですが、私はいらないので」
「でも別にあれは価値のあるものでもなんでもないデス、だから……」
「やっぱりそんな小さなこけしでは譲ってもらえませんか!?でしたらこれもお付けします!」
「これは……またこけしデース?」
「はい、ラージサイズのこけしです。アリスはこういうの好きなのですが、私はいらないので」
「だからシノ、こんなものはいらないデス、欲しいならあげるデスヨ」
「こんなこけしはやっぱりいらないですか!?そうですよね……」
「いや、そういう意味じゃないデス」
「困りました……私にはこれ以上あげられるものなんて……」
「でしたらカレン、カレンには私をプレゼントします!」
「え、シノをデスカ?」
「はい、私です!それでいいですよね!?」
「もうなんだかよく分からなくなってきマシタ……それでいいデス」
そうこうしているうちにシノの部屋のドアが開いて、
「カレン、シノにあの太鼓、見せた?」
「あ、アリス。あれはシノにあげちゃったデス」
「えっ、もうあげちゃったの?」
「でもその代りにお礼を貰いマシタ」
「へぇー、何貰ったの?イギリスの石とかかなぁ?」
「まずはこれデス」
「ちっちゃいこけしだね!いいなあ、カレン」
「あとはこれも貰ったデス」
「すごーい、さっきのよりも大きいこけしだ!」
「そして最後にこれデス」
「わぁ、こんなにおっきくて可愛いこけし、わたし見たことないよ……ってシノ!?」
「はい、カレンにあげられるものが他になかったので」
「じゃあ今日からシノはうちでホームステイするデス?」
「そうしましょうか」
「だめだよそんなの!そうだカレン、半鐘はないの?半鐘があればおじゃんになるよ!」
「ハンショウ?それは何デース?」
「私も知りません」
「えっとね、半鐘っていうのは昔の鐘なんだけど、火事が収まったら一発だけじゃーん、って鳴らしたんだって」
「火事が消えると一発ですか。では何が無くなったら金髪になるんでしょう?」
アリス「……って感じだよ」
忍「アリス、すっごく上手でした」パチパチ
アリス「えへへ、そうかな」
忍「思えばアリスがうちにホームステイしに来てくれたのも、私がプレゼントをしていたからなんですね」
アリス「え、そういうわけじゃないけど……」
忍「アリスにかんざしをあげて良かったです」
忍「でも、たったあれだけで日本にまで来てもらうのはちょっと悪い気がします」
アリス「だから、プレゼントのために日本にきたわけじゃないんだってば」
忍「いえ、毎日アリスと過ごしてる、そのお礼です!何かプレゼントを……!」
忍「えっと、イギリスで拾った枝とかどうですか?イギリスで拾った落ち葉なんかもありますが」
アリス「……それはシノが持ってた方がいいかな」
アリス「それに、わたしにとってもシノとこうして過ごせることが一番のプレゼントだよ」
忍「アリス……」
アリス「シノがいれば、わたしは何もいらない!」
忍「ま、まぶしい……!」
忍「アリスの金髪がいつも以上に輝いています!」
アリス「わたしたちはプレゼントなんて無くってもずっと一緒だよ」
忍「はい、プレゼントはしなくても、アリスの金髪は私がひとり占めします」
アリス「それはちょっと違うような……」
忍「そう決まってから、アリスの髪がますます金色に輝いているような……」
忍「……なるほど、さっきアリスが言ってたことが分かりました」
アリス「えっ?」
忍「ほら、さっき『何が無くなると金髪になるんでしょう?』って」
アリス「サゲのところ?それがどうかしたの?」
忍「プレゼントが無くなると、金髪になるんですね」
「カレン太鼓」お後がよろしいようで。
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