照「ツメタイカゲロウ」 (83)


―唇が。

指先が。

悪戯な姉が―


絡みついて



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久「さ、明日の決勝についての話し合いを始めるわよ!」


消えてしまいたくなるディスカッション。

ただ怯える子供のように、他の部員の皆が集まるテーブル横へと私は歩を躊躇った。

逃げる場所は何処にもないの?と、自問するも。

控え室の狭い空間に私の逃げ場所はない。

彼女と明日対面することは間違いない。明日までには時間もない。

親愛の姉だった、私の姉である宮永照とは否応なく明日顔を合わせなければならない。

意は決したはずだった。もう、きちんと意思も伝えたはずだった。

それでも、実際にまた彼女と会い。また背を向けられたら…


和「大丈夫ですか?咲さん…」


私の様子がおかしいのを察した和ちゃんが私に不安そうな表情で尋ねる。

姉との確執を知っているのは和ちゃんだけだが、その全貌は誰にも話していない。

両者間でサティスファクションだったはずの恋。そこから訪れた彼女との別れ。


和「体調が悪いのなら、横になって休んでいた方が良いのでは…」


だが、これ以上自分のワガママで他の部員の皆に迷惑をかけるわけにはいかない。


咲「ううん…。大丈夫だよ、和ちゃん。今行くね」


重い足取りで皆の元へと向かう。

スクリーンには、最愛の人の横顔が大きく映し出されていた。

この世で一番愛した人。それでも、二度と会いたくない人。


久「えーそれじゃ、まずは先鋒から…。宮永照!とにかく厄介な相手ね…対策は…」


部長が何か言っていたが、私はひたすらスクリーンに釘付けだった。

…いつも澄ました顔しちゃって。

何も言えない私は心の中でそう呟く。


彼女は言った。私に妹はいないと。

なら、ここにいる彼女の妹である私は誰?

世界で一番愛した人に否定された私は一体何者?

スクリーンの姉の視線が此方に向かうと、思わず私は目を逸らした。

私を見ているわけではないのに。そんなことは分かりきっているのに。


久「とにかく速度重視ね!ドラは阿知賀の人に集まるだろうから…」

和「そんなオカルト…」

優希「任せろ!」

まこ「特に弱点も癖も見当たらないってのがこの人はホントに厄介じゃのう…」


弱点はある。首筋が弱い。

癖もある。唇を重ねるのが好き。

いくつもの夜が教えてくれた彼女の事。

雀卓以外の中では、少しだけ意地悪になる。


久「優希が頑張ってチャンピオンを止めてくれれば、後は私たちで何とかするわ!」

優希「む!何故私がマイナスという前提で話を進める!倒してしまっても構わんのだろう?」

和「その意気ですよ、ゆーきっ」

まこ「後ろに4人も控えとるからのう。お前さんは何も考えず暴れて来い」

久「速度に重きを置くのだけは忘れないでね?さて、ここで咲にプレゼント!」


私宛のプレゼントと言われ、私は再びスクリーンに目をやっていた。

冷めた彼女の瞳。相変わらず無機質な宝石みたい。

私を殺せるのも活かせるのも。彼女次第。


私たち宮永姉妹は、とても仲が良い姉妹であった。

何をするにも姉妹一緒で、その仲睦まじさは、近所でも有名であった。

私が姉のことを大好きだと言えば、姉も私のことを大好きだと言う。

近所の人から見れば、そういった微笑ましい姉妹だったであろう。

だが、その仲睦まじさが。異常なまでの姉妹間での仲の良さが仇となって。

とある一夜を経て、事態は目まぐるしく急変していく。

数年前、私も姉も大好きな姪が泊まりに来ていた日のことだった。


「3のレボリューション」

「いや、照おねーちゃん…革命で良いでしょ…」

「最近お姉ちゃんは横文字が好きなんだよね…」


いつもより遅くまで三人で遊び、姪は遊び疲れたのか先に寝てしまった。

私たちも用を済ませて寝ようかという姉の話に私は同意した。

部屋を出ると微かに聞こえてくる声。外に降る雨音とは全く異なるもの。

私たち二人は顔を見合わせた。いつもならとっくに両親も姪の母も寝ている時間である。

第一に考えたのは、泥棒の類。今これに気付いているのは二人だけ。

急いで元いた部屋へと戻ると、武器になりそうな物を両手に抱えた。

足音がしないように最大限に気を付け、声のする部屋へと近づく。

声がする部屋は、両親と姪の母が寝ているはずの寝室。音がしないように十分注意し、ドアを開け―


そして、私たちはそれを目撃した。


部屋に戻った私たちは、無言のままそれぞれの布団に潜り込んだ。

男と女の秘め事をこの目で目撃したという衝撃からか、目が冴えてしまって眠れない。

それも、自分たちの近しい人同士がという事実。

それは姉の方も同じようで、もぞもぞと体位を変える音が目を閉じても聞こえてくる。

時刻は街路樹も雨に濡れた午前零時。

零になった二人の思考回路に入り込んでいるのは、ただただ先程の出来事。



そのまま、二人が同じ布団に潜り込むのに時間は要らなかった。

月明かりが照らす、姉の顔がとても綺麗であったことを今でも鮮明に思い出せる。

その日宮永家で深夜に響きわたる音は、とても悲しくて。切なくて。

重ねた唇が今までの関係を崩壊させる音を鳴らして…

その日から、ただの仲良し姉妹という関係は終わった。


元凶の一端とも言える姪の母と姪が帰り、宮永家に日常が戻ってきてからも、私たちの関係が戻ることはなかった。

夜になれば言葉を交わさずとも、姉が私の布団に潜り込み事に及ぶ。

そのまま朝が訪れるまで二人は枕を交わし、寝不足なまま両親に朝の挨拶を行う。

このような事態が長く隠し通せるはずもなかった。

否、隠すつもりなど全くなかった。

気付いて欲しかったのかもしれない。知って欲しかったのかもしれない。

いけないことは明るみになるということを。

絡まり合う毒蛇のように、毎夜毎夜惜しげもなく垂れ流して。

落ちて行き続ける不埒な夜に、今すぐ引き金を引かせてと。

私たちの秘め事が両親に発覚してからまた、宮永家に変化が起こった。

今すぐこれを正したい母と、別に構わないという父の衝突。

一方、変化が起こらないどころか深まる私と姉の関係。

二人の衝突は、まるで火事のようで。火種さえあれば燃え続ける討論。

この討論に決着が付いたのは、姪とその母があの日以来に遊びに来たその日だった。


その日のことははっきりと覚えている。

いつもなら姪とその母が来る日は、一家を上げて大歓迎するのだが、この日は違った。

神妙な面持ちで大人三人が食卓を囲む中、困惑する姪。無表情の姉妹。

大事な話があるから、と。子供三人は部屋に追いやられた。


「ね、ねぇ…何かあったの?おばさんもおじさんも…お母さんも、何だか怖いよ」


さぁ?と私は白を切った。

姉がワンテンポ置いてそれを鳴く。


「それに何か…咲も、照おねーちゃんもいつもと違うっていうか…」


姪が切った中に、何気もなく姉のロンという発声。


「だ、大三元…。一回目から高打点なんて、照おねーちゃんやっぱり変だよ…」


「ねぇ」


「何が変なの?」

「みなもちゃんがお姉ちゃんの何を知ってるの?」


思えばあの時の私は、姉に依存しすぎていたのかもしれない。

だから、大好きな姪にあんなに簡単に突っかかったのかもしれない。


「そ…そりゃ、咲よりは知らないかもしれないけど。私だって照おねーちゃんの事、多少は…」

「ふーん。自分の母親の事も良く分かってない癖に、そんな事言っちゃうんだ」

「咲」

「な、何それ…。今お母さんとおじさんとおばさんが話し合ってるのと関係してるの?」

「ほらやっぱり。何も知らないくせに」

「止めなさい、咲」

「みなもちゃんのお母さんはね…」


瞬間、私の脳は揺さぶられた。

姉からの張り手。全く予想だにしないことに、私は全く反応できなかった。

姪もどうやら姉に叩かれたようだが、私の脳は状況判断が全く出来ないほど混乱していた。


「お、お姉ちゃん…!?」

「て、照おねーちゃん…!?」

「………喧嘩両成敗」

「…………みなも。今三人で話し合ってるのは、私とお母さんが東京に移るっていう話」

「!?」


そんな話、今初めて聞いた。


「だからもうわざわざ、長野にまで来る必要はないっていう話」

「ちょっと待ってよお姉ちゃん!何それ!?」

「そのための引越しの用意をしてもらうために、今日二人に来てもらったの。明日越すから」

「え…?」


余りにも急な話に、やはり私の脳の処理速度が追いつかない。


お姉ちゃんが東京に越す?何で?

明日?何でそんなに突然?

どうして私には言ってくれなかったの?どうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

ねぇ、どうして?どうしてそんなことになってるの?


お姉ちゃんは、私のこと…


その後、姉は一言も私とは話さずに。

私がぶつける質問に対して一つも返事をくれずに。

朝を迎え、荷を積んで、母と共に家を出ようとした。


「じゃあ…」

「ああ、これも二人のためだ」

「ごめんね、お父さん」

「…気にするな。お前も元気でやれよ。咲だってお前と離れれば少しは…」


「待ってよ」

「………」


そうやって、昨日から彼女はずっと私に背を向けている。


「本当なんだね。本当に私を置いて出て行っちゃうんだね」

「………」


「ねえ、お姉ちゃん。一つだけ聞かせて?」

「私のこと嫌いになったの?」

「好きじゃなかったの?」


「………………」

彼女の口から、返事を聞くことは出来なかった。


「…もういいもん!お姉ちゃんなんか知らない!」


彼女を見送ることなく私は部屋に戻った。

二人分の部屋だったその部屋は、昨日とはまるで打って変わってしまっていた。

姉の私物がなく、あるのは私の私物だけ。

ぽっかりと空いてしまった部屋のスペースと同様、私の心にも穴が空いてしまっている。

最愛の姉との別れ。その現実にまだ夢を見ているようだった。

荷を積んだ車のエンジン音がこの部屋にも聞こえてくる。


「――――」

「―――――」

「――――――」


何か外では騒いでいるようだが、エンジン音がそれを遮る。

その音を聞きたくないからと、私は布団に潜った。

このまま眠ってしまえば。また午前零時頃を過ぎれば。

大好きな姉が私の布団に潜り込んできて。そのまま抱き合って。

またいつもと変わらぬ朝を迎えられるはずだから。


それでも、何もなく朝はやってきた。

私は、布団の中で音を立てずに泣いた。


「お姉ちゃん…」


最愛の人がいたはずの部屋で、最愛の人が離れてしまった現実に、ただただ声を震わせた。


姉がいなくなって暫く立ち、私は中学二年生となった夏。

姉がいないという現実をある程度は受け止め、私は前へと進んでいた。

母がいなくなった事から家事を受け持つようになり、家庭的な面では二歩も三歩も成長した。

それでも、私の心には穴があいたまま。それを外には出さないようにしていた。

休日のその日、掃除をするからと父を外に出させて用意万端。

まずは埃を落とすべくはたきを掛けながら、音が欲しいとTVに電気を付けたその時。


「白糸台、団体戦優勝ー!大将の宮永選手が、更に点数を広げての圧巻の優勝だー!」

カシャン


はたきがその場で私の手から滑り落ちる。

彼女は、そこにいた。



ドクン。


体温が上がるのが分かる。

胸が高鳴るのが抑えられない。

最愛の姉。その人が、そこにいる。

東京の何処に行ったのか分からなかった、彼女が。

手に届くことが許されなくなった彼女が。

そこで、笑顔を振舞っている。


「優勝おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「宮永選手は個人戦も出場との事で、そちらの方にも期待がかかっておりますが、これに関して一言!」

「はい。一生懸命頑張ります。宜しくお願い致します」


私以外に、その笑顔を。

何とも言い難い感情が、捨て去ったはずの感情が湧いてくるのを感じた。


だが、大事なのは、彼女がこれから個人戦とやらに出るという情報。

それさえ分かれば、会場や日程を調べることが出来る。

私は早速、掃除を放り出して受話器を手に取った。

後ろで会見は続いていたようだが、私は何度か番号を間違えたため聞きそびれてしまった。

ようやく正しい電話番号の入力に成功。早く。早く出て。


「あ、京ちゃん?あのさ…ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど」

「うん…それと一生のお願い。私を東京まで、連れていってくれない?」

『はぁ!?』


走り出した私は、止まることはなかった。


「うわー。見て見て京ちゃん。ビルがいっぱい!」

「はいはいお姫様。いっぱいで良かったですね」


京ちゃんに何とか頼み込んで、私は東京へと来ていた。

勿論父親には内緒だ。泊りがけになることも見越して、友人の家に泊まると言ってある。


「突然麻雀インハイ個人戦の日程や会場を調べてって言ってきた時は、どういうことかと…」

「挙句の果てには東京まで連れていってくれ、だからな。開いた口が塞がらないぜ」

「だって、こんな事頼めるの京ちゃんしかいないし…」

「おい、泣くのは止めろ。俺が泣かしたみたいに見られる」

「え?あ、ごめんね…」

「だからその表情を止めろ!」


「しかしお前がこんな行動的だったとはなぁ」

「えー?」

「休みだとは言え、いきなり男を誘って長野から東京に連れてってくれとか…」

「本当に電話先の奴は咲なのかと思ったぜ」

「…そうだね。普段の私ならこんな事しないかもしれない」

「…いや、どっちが本当の私なんだろう。…自分自身のことも含めて、何も分かってないのは私だったかもな。ごめんね、みなもちゃん」

「……?」

「でも、動かずにはいられなかった…。…本当ごめんね。後でいくらでもお詫びするから」

「………弁当」

「え?」

「お前に東京まで連れてかれて、お金がないから。飯代として弁当三ヶ月な」

「え、いや…ここまでの電車賃とか旅費とか全部私が後で出すけど…」

「良いから!とにかく弁当な。忘れたら承知しねーからな」

「ふふっ。そうですか」

「けっ」

「京ちゃん?」

「あー?」

「ありがとうね」

「……おう」


ごめんなさい。横にいる私がこんなので。

もしかしたら、私の思い込みかもしれないけど。私はあなたの気持ちには応えられない。

願わくば、彼には良い人が見つかって欲しいと思う。



そして、私は彼女と再会した。


「お姉ちゃん!!!!」


彼女は私の姿を見て、明らかに動揺していた。

ここは東京の個人戦の会場内。

まさか方向音痴な私がここまでやってくるとは思わなかっただろう。

彼女からすると不意打ち。予想もしない邂逅だったのかもしれない。


「あの時の返事、聞きに来たよ」


久しぶりに手が届く距離にいる彼女。

昔の私ならば有無を言わさず走って抱きついていただろう。

そうしなかったのは、私が多少子供から大人になったからか。


「私のこと、嫌いになったの?」


彼女はその場で何も言わず、ただ立ち尽くす。


「私はお姉ちゃんのこと、今でも大好き。私のこと、好きじゃなかったの?」

「好きじゃなかったのに、流されてあんな事したの?」

「ねぇ、そうやってまた何も言わずに逃げるの?」


「…………」


無言のまま、彼女はまた私に向けて背を向ける。

…またそうやって、無言のまま私の元から去るのか。

溜まっていた感情が、全く反応してくれない彼女に対して爆発した。

やっぱり、私は彼女の前では子供のままだった。


「私じゃダメだったの?」

「もう好きじゃないの?」

「二度と会えないの?」

「何も言わないの?」

「もう、何処にも行かないで!」

「一人にしないで!!」


それでも、彼女は終始無言を貫いた。

そして、やはり何事も私に残さずその場を立ち去ろうとした。


「ず、ずるいよお姉ちゃん…!!」

「口付けて、愛し方を教えてくれたのなら…」

「忘れ方も、教えてよ…!」


私は、その場でまた涙を流し、彼女に聞こえるように叫んだ。

泣くことでしか、叫ぶことでしか。この感情は壊せないから。


「お姉ちゃんなんて…大っ嫌い!!!!!!!!!」


―唇が。

指先が。

悪戯な咲が―


絡みついて


菫「さて…明日の決勝の相手についてだが…」


消えてしまいたくなるディスカッション。

そして消したくても消せないメール。

私と、妹である宮永咲が仲良しだった頃に。咲が学校から一生懸命に送ってくれたメール。


*************
おねえちゃん、だいすき!
*************


今となっては、私と彼女を繋ぎ留める物はこれしかない。

私は公の場で「妹はいない」と言ってしまっている。

咲との関係は清算したつもりだった。

そしてその方が両者にとって良いべきであろうことは分かっていた。

だから私は咲から離れた。長野を去り、東京へと越した。

それでも、人は想いを越えてくる。

一回目は、あの方向音痴の咲が私に会いにわざわざ東京までやって来たこと。

どうして?

どうして咲がここにいるの?


どうして、あの時…咲は私の前に現れてしまったの?


そして、二回目。今、この時。咲は去年のMVPがいる龍門渕を破ってまで、長野代表になった。

幾多のシード校も破りつつ、ここまでやって来た。

その自力は本物だ。±0や、私が欲しい牌をわざとトスしてきたような頃の咲の面影はもうない。

咲がここまで麻雀に真剣になってくれたのは、姉として嬉しい限りではあるが…


どうして、どうして今年なのか…。

今年に限ってどうしてここまで来てしまったのか。

来年以降であれば、私と咲の接点は一切見つかる事はなかったはずなのに…。


菫「……おい、照」


物思いに吹け、話し合いに参加しない私に小言を言いに来たか。菫め。


菫「………先に大将戦の対策からやるから、それが終わったら来るようにな」

照「……どうして?」

菫「?」

照「どうして私が咲の事で悩んでると分かるの?」

菫「ん」


菫は私の横に山のように積まれながら全く手が付けられていないお菓子の山を指差し、続けた。


菫「お前がお菓子以外の事で悩んでいる時の悩みはいつも一緒…だろ?携帯も見つめ続けてるし…」


照「それくらい菫の癖も簡単に見つかれば良いのにね」

菫「おい…」

照「冗談。…ありがとう、菫」

菫「…長い付き合いだからな」


菫の粋な計らいで、私は咲の映像をどうやら見ずに済みそうだ。

そう。本当は今だって私は、私は…。

だけど、私は彼女と会話をしてはいけない。触れ合ってはいけない。

それが姉の…宮永照としての定めなのだから…。


菫「…まーしかし、何だ」

菫「どれだけお前が咲ちゃんの事を避け続けても、いずれは絶対に会わないといけない時間がやがて来ると思うけどな」

照「………」

菫「お前を好きという魔法で、恋という呪いにかけられ続けた咲姫」

菫「愛したなら、最後まで止めを刺すのが道理ではある」

菫「でも、本当に…」

菫「本当にそれで良いのか?自分の感情を殺し続けたままで…」


「カン!嶺上開花、2000・4000です」


見ていずとも、モニターに移された咲の声は否応なく私の耳に飛び込む。

思い出の中で笑う彼女の指が。声が。咲が絡みついて…

…息が出来ない。


あの夜、大人たちの秘め事を見てしまった夜。

本当は、ドアを開ける前に気付いていた。あそこで何が起こっているのかを。

咲は気付いていなかったのかもしれないけれど、私は薄々気付いていた。

甘い声。小刻みに聞こえてくる衣服の擦れる音。否応なしに聞こえる複数の喘ぎ。

想像は出来た。でも、信じたくなかった。

だからこそ、私は確認したかった。私の予想が間違っていることを信じて。

けれど、現実は予想を越えてこなかった。

私たちの出歯亀に全く気付かないほど、彼らは激しく求め合っていた。

フラフラとその場を後にする私と咲。

みなもが起きてなくて良かった。咲も寝ていれば尚良かった。

こんな思いをするのは、私一人で十分だよ…。

そのまま、何も言葉を交わすことなく、私と咲は布団に潜り込んだ。

そして、私と咲の関係は一変することとなる。


確かに姉妹としての関係から飛躍した後に、合図として咲の布団に潜り込み続けたのは私だ。

だが、これだけは言える。


「ねえ、お姉ちゃん…」

「…どうしたの、咲」

「何だかさ、眠れなくって…。一緒の布団で、寝ても良い?」

「…うん。実はさ、私も何だか眠れなくっ…んむっ!?」

「……んちゅっ。…えへへ、ファーストキスだね、お姉ちゃん」

「なっ…咲っ!」

「私…何だか…興奮してきちゃったよ…!!」

「だっ…ダメ!みなもが隣で…っんぅ…!!」


初めての行為は、咲から仕掛けてきたものだった。

だからね、咲。私が教えて欲しいくらいなんだよ。


あなたの愛し方の、忘れ方を。


何とかみなもに気付かれる事なくその日をやり過ごす事は出来たが、咲との関係は続いた。

いや、もしかしたら気付かれていたのかもしれない。みなもも賢い子だったから。

そして、間もなく両親に私たちの関係は気付かれることとなる。

私の方が年長者だからか、咲がいない時に私は母親に問い詰められた。


「……照、何であなただけ呼び出されたのか分かるわよね?」

「…………」

「あのね。あなたと咲の仲が良いのは悪いことじゃないの。むしろ良いことよ」

「けれど、所構わず姉妹でその…キスをするのは止めてくれない?うちにも世間体というものがあるし…」

「…………妹とのキスはダメなのに」

「?」

「妹が夫との…その…関係を持つのを許すのは良いの?」

「!?」

「…あの日、咲と見ちゃったんだ」

「……なるほど、そういうことね…」

「ねぇ、今すぐ止めてよ。みなもが可哀想だよ」

「そうねぇ…考えても良いけど、条件があるわ」

「?」


母の提案は、母と共にこの家を離れ、東京で麻雀に打ち込む。ということだった。


「麻雀に打ち込むのは構わないけど、どうして咲とお父さんを…」

「それも、あなたと咲のためよ」

「姉妹仲睦まじいのはとても良いことだわ。でも、それ以上が良くないことは…照、あなたも分かりきっているでしょう?」

「………」

「このままではあなたは咲に、咲はあなたに依存しきってしまうわ」

「そしてそれは、いずれ近い将来。あなたたちの周囲に必ず悪影響を及ぼす」

「大人である私たちですらズルズル依存する事があるというのに、あなたたちは若くして、若くしすぎてその状態に陥りつつある」

「はっきり言うと、異常よ。あなたたち二人は。だから遠ざけたいの。一種の病と言って良いわ」

「…そんなことはない。私も、咲もきちんとやっていける」

「今にその考えを改める必要があると気付くわ。…あなたは、姉なのだから」


この時私の口から出た言葉は本心だった。

あんなに優しい咲が私のためにとは言え、周囲に危害を加える事があるはずがない。

そう、確かに思っていた。


しかし、みなもが再びうちに来たあの日。咲は確かに私のことについて軽く答えたみなもに突っかかってきた。

みなもが知るべきでない事実を明かしそうになった。だから私は、断腸の思いで咲を叩いた。そこまでは覚えている。

…では何故、私はみなもにまで矛先を向けたのか?

咲はともかく、みなもが私に手を出される道理はない。

そこでようやく、私は気付く。


みなもが、咲に突っかかったから。それを煩わしく思ったから。


つまり、姉としての感情と、もう一つの感情が同時に出た。

もう既に、母が言う病は咲だけでなく、私にもどっぷり浸かっているのだと。

いずれこれが続けば、確かに母の言うとおり。私たちは周囲の人間を傷つけてしまうかもしれない。

最悪の場合、私も咲も大好きなみなもですら巻き込んでしまうかもしれない。

いや、私も…咲でさえも…周囲に巻き込まれることで無事でいられるか分からない。


「!?」


不意に脳裏にみなもの車椅子が炎に包まれ、咲が物言わず幾多ものチューブを付けられ身動きしないビジョンが浮かんだ。

これが今で言う私の照魔境の発動の切っ掛けであったが、この時の私はそれを知る由もない。

そう。…私たちに、もう猶予はなかったのだ。


状況を理解した私に、選択肢はもう一つしかなかった。姉として。大好きな咲のためと考えて。


翌日。こうなることを分かっていたかのように用意されていた車に私は乗り込もうとした。

咲を置いていくことに勿論未練はあるが、こうでもしないと私だけでなく、咲もダメになる。

私はさておき、咲がダメになってしまうのだけは耐えられない。だから、許して咲。

いつか、あなたが全てを理解できる年になったら。全ての真実を告げるから。


「ねえ、お姉ちゃん。一つだけ聞かせて?」

「私のこと嫌いになったの?」

「好きじゃなかったの?」


「………………」


何も応えることは出来ない。振り向くことは出来ない。そうしたら、私の決意が揺らいでしまうから。

背を向けてさえいれば、涙でぐしゃぐしゃになったこの顔を見せなくて済むから。


「…もういいもん!お姉ちゃんなんか知らない!」


その言葉と共に、咲は玄関を離れ自分の部屋へと駆け出した。

だから、咲は知らない。その言葉と共に、私が咲に言葉を掛けようと振り返っていたことを。


「いやだ!いやだよ!咲に嫌われるくらいなら私はここにいる!!」

「何言ってるの!もう全て手続きは済んでるんだから、早く来なさい!!」

「やだやだ!何で大好きな妹と離れなきゃいけないの!それも、私が嫌われてまで!!」

「そんなことなら、私は咲と一緒に居続けたいよ!!それで良いもん!!」

「照おねーちゃん…」


有無を言わさず、私は車に入り込まれ、エンジン音を鳴らし続けていた車はすぐに発進してしまう。

車が発進しても尚、私は咲の事を思いながら泣き続けた。

だが直に泣き疲れたのか、いつの間にか私は眠ってしまっていた。


夢を見ていた。


咲と私が、とても仲が良い姉妹であった頃の夢を。


「リンシャンカイホー?」

「麻雀の役の名前だよ。山の上で花が咲くって意味なんだ」

「咲く?おんなじだ!私の名前と!!」

「森林限界を超えた高い山の上。そこに花が咲くこともある。おまえもその花のように…強く…」


咲…。私がいなくても…。どうか、その花が枯れることのないように…。

…強く、強く生きて…。


そこからは目まぐるしく変わった環境に合わせて暮らしていくのでいっぱいいっぱいだった。

でも、その隣に咲はいない。

咲がいないことに対してのストレスの捌け口が、お菓子のやけ食いとして私の趣味になったのもこの頃だったと思う。

利きシャンプーなんてのも、咲が使っていたシャンプーを思い出すために生み出した特技の一つだ。

オシャレでマニキュアもやってみたが、どうにもしっくりしない。直ぐ剥がした。


残念なことに、私は咲と離れて、更に咲を求めるようになってしまっていた。

一人で行う腰の動きには、哀しいほど愛がない。

迷子のマイフラストレーション。私の萎れた花びらが泣き止まない。

高校に入るまでに、咲を想い自慰に浸った回数は数え切れない。

それほどまでに、咲は私の精神安定剤だった。

やがて白糸台に入り、菫と出会う。ルームシェアで同室になると何ともやりにくい。咲ニーの回数は1/3くらいになった。

一方で私は実力が認められたのか、一年生にして白糸台の大将を任され、夏の団体戦で無事優勝することが出来た。


「宮永選手は個人戦も出場との事で、そちらの方にも期待がかかっておりますが、これに関して一言!」

「はい。一生懸命頑張ります。宜しくお願い致します」


「一年生で大将を任され、そして優勝。個人戦でも都代表と、宮永選手のこの原動力の要因があったらお聞かせ下さい!」

「……そうですね」


咲がいない夜を越えて。やがてたどり着いた頂点は。

虹が見えるようなフラッシュバックの多い景色で。何故か…悲しくて。


「………すっ、すみません。ちょっとシャッター止めてもらえませんか。こいつカメラが苦手なもので」


横から菫が出てきて私を遮った。


…何、どうかしたの?菫。

え、ハンカチ?………え?

そうか、私。泣いてたんだ。無意識に。

だから、この後私の口から飛び出した言葉は、私の本心でしかなかった。


「えー…それで宮永選手、あなたの原動力は…」


「この世で一番大好きな…妹のおかげです」


ハッと気付き、慌てて私は訂正する。


「ちっ、違います!私に妹はいません!失礼します!」


前代未聞の、インハイ優勝チームの大将が泣いて取材打ち切り。

この後、私は営業スマイルを学習することを余儀なくされる。


「……ごめん、助かった」

「はぁ…。私がいたから良かったが、会見で泣く大将なんて他にいないぞ。フォローも大変だ」

「…また咲ちゃんのことか。そんなに好きなら何で置いてきたんだ、本当に…。しかも自分の感情すら殺して…」

「…………」

「そんなに辛いのなら、今年の休みにでも長野に帰省してみれば良いんじゃないか?」

「な、なんなら私が長野に連れていってやっても構わんぞ」

「……ふふっ」

「な、なんだよ」

「実家に帰省するのに心配して同行するルームメイトなんて他にいないよ?」

「……お、お前なぁ…。お前が若干の方向音痴だから心配して言ってやってるのに…」

「…ま、とにかくありがと。菫」

「……ああ」

「菫とデートか。考えても良いかも」

「…で、ででで、デートとかじゃなくてな?おい、聞いてるのか照!」


ごめんなさい。横にいる私がこんなんだから。

彼女の言う通り、感情を表現することをあの日から殺し続けているから。

願わくば、彼女には良い人が見つかって欲しいと思う。



そして、私は彼女と再会した。


「お姉ちゃん!!!!」


私は明らかに動揺していた。

ここは東京の個人戦の会場内。

まさか私を遥かに凌ぐ方向音痴な咲がここまでやってくるとは夢にも思わない。

そこに、最愛の人は。

最悪の別れをしたのにも関わらず、そこに咲はいた。

不意打ち。ドラを切らないと見図った相手がドラを切ってリーチし、当たり牌を掴まされるのと同じくらいの。

人は、想いを越えてくる。


「あの時の返事、聞きに来たよ」


久しぶりに手が届く距離にいる彼女。

昔の私ならば有無を言わさず走って抱きついていただろう。

そうしなかったのは、私が多少子供から大人になったからか。


「私のこと、嫌いになったの?」


私はその場で何も言わず、ただ立ち尽くす。

ここで全てを明かすのは簡単だ。

だが、結局咲がここに来たのは私への依存を捨てきれていないということ。

だから、ここで種明かしをしては私がわざわざ咲の元から離れた意味がない。


「私はお姉ちゃんのこと、今でも大好き。私のこと、好きじゃなかったの?」

「好きじゃなかったのに、流されてあんな事したの?」

「ねぇ、そうやってまた何も言わずに逃げるの?」


「…………」


無言のまま、私はまた彼女に向けて背を向ける。

そうしないと、私の咲への感情が爆発してしまうから。

今すぐ抱きついてその唇を塞ぎたい。

今すぐ衣服を剥がして、咲は私のものだという証をその体に刻みたい。



「私じゃダメだったの?」

「もう好きじゃないの?」

「二度と会えないの?」

「何も言わないの?」

「もう、何処にも行かないで!」

「一人にしないで!!」


それでも、私は終始無言を貫いた。

そして、やはり何事も残さずその場を立ち去ろうとした。


「ず、ずるいよお姉ちゃん…!!」

「口付けて、愛し方を教えてくれたのなら…」

「忘れ方も、教えてよ…!」



やや静寂があって、咲は今日一番声を張り上げて叫んだ。


「お姉ちゃんなんて…」


その後に続く言葉は予想できる。

あの時別れた時には絶対に彼女の口からは聞きたくなかった言葉。

でも、咲が私をそう思って真っ当に生きてくれるのなら、もう私はその言葉を受け入れても良いのかもしれない。

咲がそう思っても、私は…


「大っ嫌い!!!!!!!!!」


―――咲の事が、大好きだから。



それでも。

それでも、流れる涙は止まらない。

いつか、必ず元の仲が良かった姉妹に戻れると信じて。

あるいは、その一つ上の関係だった頃に戻れると信じて。

抜け殻の夜に、思い出を継ぎ接ぎ。今だけは…

私は、ひたすら泣き叫ぼうとするこの感情を抑え続けた。


―団体決勝終了後―


久「ほら、ちゃっちゃと仲直りしちゃいなさい!」

咲「わわっ」


菫「…ほら、行ってこいよ」

「………」


清澄と白糸台の部長同士で話が付いていたのか、私は二年越しに咲と二人きりの状況となった。

嬉しい状況のはずなのに、言葉が出てこない。

それもそのはず、私は二年以上前から咲の問いに逃げ続けて。

更に間の悪いことに、世の中には「私に妹はいない」の所だけを編集した会見が流れて。

これでは私が咲に好かれる理由が全くない。

正直今すぐにでも人気のないところに連れ込んで、全てを話したい。そして咲とにゃんにゃんしたい。

しかし、今の私がそれを咲に行なって大丈夫なのだろうか…。

言い訳すればするほど私の評価は下がるだけだし、ここはストレートに謝るべきか…。


「咲「お姉ちゃん」」


被った。


咲「ええっと…お姉ちゃんからどうぞ?」


「わ、分かった」


何を緊張しているんだ私は。目の前にいるのは咲だぞ。血を分けた妹…


咲「?」


可愛い。

何年ぶりか分からないが、背を向けず対面している目の前の生咲はやはり可愛い。私の嫁。いや、私が嫁?

とにかく、咲の私への評価はもうド底辺かもしれないが、きちんと言うことを言わなくては…。


「ごめんなさい、咲。…ごめんなさい、と言っても。色々謝ることが多すぎて…何から謝れば良いやら…」


「まず一つ。何か良く分からないけど、私は妹なんていないみたいな発言をしたみたいな会見が流れてるけど、あれは…」


咲「うん。知ってるよ?」


怖い。目の前の最愛の妹が真顔で怖い。


「あの…あのね?あれはその前に色々あって…」


え、咲。何いじってるの。お姉ちゃん数年ぶりに真剣なんだけど。

スマホ?再生ボタン一つ押すのに苦労してるけど…。

咲…成長したんだね…。そういうの苦手だったはずなのに…


『この世で一番大好きな…妹のおかげです』

『ちっ、違います!私に妹はいません!失礼します!』


「え…」


咲「だから、言ったでしょ?知ってるって」

咲「正規版。局には残ってるらしいよ」


「よ、良かっ…」


咲「いや、全然良くないけど?」


咲「…ではここで"宮永照さん"に質問です」

咲「この動画だと、最後に否定してるので宮永照さんに妹はいないことになります」

咲「なら、ここにいる私はあなたの肉親でも何でもありません」

咲「で・す・が」

咲「これから私に何をされても構いませんね?」


「………」

「…はい」


これは私の贖罪。そもそも、こんな報道をされた要因の殆どが私にある。

姉が妹を全否定する。そんなことはあってはならない。

目を瞑り覚悟を決める。

だから、これから先、咲に何をされてもしょうがな―


咲「大好きだよ、お姉ちゃん」


数年ぶりの彼女の唇は、とても甘かった。


「え?え?」


咲「ふふ。どう?念願の私とのキスは」


「え?え?…ええええ!?」


咲「あ、ちなみに昨日、お父さんからお姉ちゃんが東京に越した理由は吐かせました」


まだ事態を理解できない私に、咲は抱擁し再び唇を重ねてきた。


咲「…部長に感謝しないとね。昨日あの正規版を見てなかったら、今の私はいないよ」


「さ、咲…」


咲「あのさ、お姉ちゃん…。どうして相談してくれなかったの?そんなに私って頼りなかった?」

咲「確かに、みなもちゃんの時は私が悪かったかもしれないけど…」

咲「それでも、何も言わずに出ていこうなんて…それが私を思っての行動だとしても…余りに酷くない?」


「……でも」


咲「でももへちまもありません。逆の立場だったら、どう思う?」

咲「私を一人にした罰。だから、私はお姉ちゃんの事を絶対に許してあげません」


「…さて、妹がいない宮永照さんに再び質問です」

「私のこと、好きですか?嫌いになっていませんか?」

「宮永咲は、宮永照の事を結局忘れることは出来ませんでした」

「あなたが私の元を去ったのは、妹である宮永咲を思ってのことです」

「それなら…妹がいない今この時」

「ただ一人の人間として、宮永咲と…付き合ってくれますか?」


「………ず、ずるい」

「…こ、こんなの…。こんなの卑怯だよ…咲…」

「私が、どれだけあなたの事を求めていたか知ってるくせに…!」

「それに、これでYesと応えたら…今度こそ…初めての夜の時みたいに…私の主導権が…」


「ねぇ、返事が…私は聞きたいな?」

「二回も返事しないで私から逃げたよね?」

「今度こそ…返事をしてくれるよね…大好きな、お姉ちゃん…」


「………はい」


姉妹の間で、傷つけ傷つくだけの時間は終わった。

これから行われるのは、ただの姉妹の馴れ合い。

そう。ただ少しだけ道を大きく外してしまっただけの、仲睦まじい姉妹の触れ合い。


「咲!もう、何処にも行かないで!離さないで!」

「悲しいだけの冷たい自由なんて要らない!咲になら、束縛されて良い!」

「今抱きしめて!壊れるくらい抱きしめて!」

「たやすく忘れるくらいなら…愛したりしない!」

「あの日、強がって…強がって…涙を咲には見せずに…」

「別れてあげたのに…」

「今でも、私の中で…あなたの指が、声が、咲が…絡みついて…」

「息が…出来ないから!」


「ふふふ…。怖がらずに、こっちおいで?直ぐに済むよ。直ぐにね…お姉ちゃん…」


甘い言葉の最後に、とりあえずの優しさで得意げな咲。

本当は、分かってる。私も、あなたも、初めから…。

あの関係が始まったあの日の夜から、二人は二人から離れられないことを。




カン!


歌詞的にバッドエンドに行くかと思ったがハッピーエンドで良かった

というわけでてるたんイェイ!(2日遅れ)
元ネタというかスレタイのネタは、JDAのそのまんまの楽曲から。他の楽曲のネタも結構はめ込んでます。

最近の小中学生は進んでるわ(白目)しかし俺が咲照書くと宮永夫妻がダメな大人になりがちですね…。
読んで頂いた方は、ありがとうございました。寝て起きたらHTML依頼出そうと思います。てるたんいぇい!

>>44
最後はQUEENですからね。JDAってタイトルにするか悩みましたが、まぁ多少はね?

ジャンヌと聞いて飛んできました

ごめんなさい、起きて読み直したら一レス分抜けてました。
>>37>>38部分にこんなのもあったって解釈でお願いします。


そのまま白糸台の控え室に戻ることはなく、私が寄ったのは選手共有の仮眠室。

醜態を隠すために一目散に布団に潜ると、そこはもう私だけの世界。

自然に目を閉じると、先程までの情景が再び浮かんでくる。

手が届く距離にいたのに。決して今の私には手が届かないもの。

自ら置いてきてしまったもの。


やっぱり本当は、夢か幻なんじゃないだろうか?


人一倍効くようになった私の鼻腔を、記憶の中の彼女が。

数年ぶりに嗅いだ彼女の香りが、現実をくすぐる。

叶うことなら、このままそっと。ただ彼女の香りで眠り。

目覚めずに夢を見て、朝が来れば良いのに。

理想の中でありもしないはずの世界だけが、広がる。

彼女を求めて伸ばす左手が、虚しく空を切り。

彼女を求めて伸ばす右手は、私の色欲を満たすべく花を湿らせた。


手をかざしても。届かない。

冷たい、冷たい陽炎。

>>50
すいませ~ん。JDAの件なんですけどぉ
復帰までま~だ時間かかりそうですかねぇー?

(復帰の可能性は)ないです。首振って、どうぞ。

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