「おはようございます」
「zzz」
「おはようございます」
「zzz」
「おはようございます、ってば」
「zzz」
「・・・・・・はむっ」
「!?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421691306
少年「え、ちょ……えっ?えっ?」
悪魔「~~~」はむっ はむっ
少年「え、いったい何してるんでえすか?えっと・・・・・・はあ?」
悪魔「朝の挨拶です」はむっ はむっ
少年「朝の挨拶が指を食むって、いったいどういう風習なんですか」
悪魔「『男の目を覚ますのなんて身体の先のほうから舐めていけば簡単よ♪』と聞いていました」
少年「それは目を覚ますんじゃなくて本能を目醒させる方法では・・・・・・」
悪魔「さあ、私にもよくわかりません、聞いた話ですから」
少年「見ず知らずの人に指を喰まれているこの状況は僕にもよくわからないんですが」
悪魔「あ、そうですね。とりあえず自己紹介していいですか」
少年(・・・・・・いやこれ不法侵入ですよね)
悪魔「え、なんですその顔。すごい怪訝そう。私不服です」
少年「あ、いえ、なんかすみません」
悪魔「自己紹介していいですか」
少年「はい」
悪魔「実は私、こう見えて悪魔なんですけど、」
少年(そう見える巻き角生えてますね)
悪魔「実は今魔界でものすーっごく大きな大事件が起きてまして、」
少年(呑気な口調で言われるといまいちことの重大さが判らない)
悪魔「なんか人間界への侵略が始まりそうなんですよねー」
少年(これ夢だな)
悪魔「・・・・・・聞いてます?」
少年「一応」
悪魔「では続けますね。それで、すでに斥候が複数名現し世に来ているようでして」
少年「はあ」
悪魔「取り急ぎ行動範囲が絞れたので、その中心にあるこの家のお邪魔した次第なんです」
少年(眠い)
悪魔「なので、これからはここを拠点にしてその悪魔の捜索をする予定です」
少年「すいません、あと一時間したら起こしてもらえますか」
悪魔「え、なんでまた寝ようとしてるんですか?え?え?
事は重大なんですよ、世界が混沌に飲み込まれてしまうかもしれないんですよ?」
少年「だからあれでしょ、悪魔がはしゃいで世界がやばい的なやつでしょ」
悪魔「そこまで事態が進行しているわけではありませんが、そうなりかねない一大事です」
少年「そんな夢物語されても『あ、これ夢だな』って自覚しちゃうような内容じゃないですか」
悪魔「いえいえ、そんなことありませんって。ほら、ほらほら」はむっ はむっ
少年「ちょっ、指を食むのやめてください。うぇ、よだれが・・・・・・」
悪魔「ね、これ夢じゃないんです、もう覚めてるんです。いつまでも現実に冷めた目を
悪魔「ね、これ夢じゃないんです、もう覚めてるんです。いつまでも現実に冷めた目を
向けていていい年頃じゃあないんです」
少年「こんな官能とファンタジーと厨ニを一緒くたのごった煮みたいにされた現実、
信じられるわけがないでしょう」
悪魔「判ります、判りますよその気持ち。最近は悪魔ってそんなに身近な存在じゃないですもんね。
でも昔はすごかったんですよ、呼び出されたり取り憑いたり献られたり祓われたり」
少年「だからそういうのがすでに非現実的で根拠のないファンタジーなんですって」
悪魔「もう、じゃあどうすれば信じてもらえるんですか」
少年「あと一時間したら起こしてもらえますか。そしたら信じますから」
悪魔「わかりました。じゃあ7時に起こしますね」
少年「そうしてください。学校行くにしてもちょっと早すぎるんで」
―――暫くして。
少年「・・・・・・ん」
少年「・・・・・・変な夢見たなあ」
少年「目覚ましが鳴るより早く起きたのか。なんか調子狂うな」
少年「・・・・・・あれ、時計がない」
少年「今何時だ?」
??「ふぇえ~・・・・・・」 Zzz
少年「・・・・・・?」
??「もう食べられないですぅ・・・・・・」 Zzz
少年「・・・・・・あの」
??「お腹が破裂しちゃいますぅ・・・・・・」 Zzz
少年「すみません」
悪魔「・・・・・・はっ」
少年「ちょっとその抱きかかえてる時計貸してもらっていいですか」
悪魔「・・・・・・はいぃ」
少年「・・・・・・8時なんですけど」
悪魔「うるさかったので・・・・・・止めました・・・・・・」 Zz
少年「7時に起こせば信じてもらえたのに、いったい何してるんですか」
悪魔「すみません、すみません、あと1時間だけ眠らせてください・・・・・・」 Zzz
少年「なんなのこいつ」
悪魔「ちなみに、今日は祝日ですぅ・・・・・・」 Zzz
少年「・・・・・・あ、ほんとだ」
―――さらに暫くして。
悪魔「・・・・・・ふあ、あ。よく寝ました」
少年「・・・・・・」 じーっ
悪魔「え、なんですか」
少年「・・・・・・」 じーっ
悪魔「まさか、私が寝てるあいだもずっとそうやって眺めてたんですか?」
少年「はい」
悪魔「ひ、ひどい、乙女の寝顔を覗くなんて最低です。デリカシーって言葉知ってますか?」
少年「覗くも何も勝手に上がり込んできて勝手に起こして勝手に二度寝したんでしょうよ」
悪魔「そう言われましても、ここが悪魔捜索のための拠点ですし、ここに寝泊まりするのって普通じゃないですか」
少年「そもそもここを拠点にする許可を出した覚えはありません」
悪魔「え、でもここってあなたの住居ですよね?」
少年「まあ、親に充てがわれた家ではありますけど」
悪魔「じゃあやっぱり拠点じゃないですか」
少年「なんでそうなるんですか」
悪魔「だって私もうあなたと契約していますもん」
少年「・・・・・・はい?」
悪魔「ほら、さっき私の口に指いれたじゃないですか」
少年「ああ、まあ考えようによってはそうなりますね」
悪魔「でも私はあなたの指を噛みちぎりませんでしたし、あなたは私の舌を引っこ抜かなかったでしょ?」
少年「さらっとおぞましいことをいいますね」
悪魔「ほら、お互い敵意のない信頼の証ですよ。立派な契約です」
少年「そんなむちゃくちゃな」
悪魔「私もそう思います」
少年「解約したいんですけど」
悪魔「え、なんでですか」
少年「なんか変なことに巻き込まれそうなので」
悪魔「まあまあ、そんなこといわずに。人助けだと思って」
少年「人じゃないじゃないですか」
悪魔「でも人の姿してますよ、ほら。なんなら服も脱ぎます?」
少年「お願いします」
悪魔「冗談です、真に受けないでください」:
少年「それくらいのサービスは会ってもいいと思います」
悪魔「もうちょっとお互い深く知り合ってからでも遅くはないと思います」
少年「でも悪魔って基本的に露出度高いじゃないですか」
悪魔「古典とかだとむしろ服を着てなかったりしますね」
少年「なのにどうしてあなたは普通に服着てるんですか。しかも今風の」
悪魔「黒いフードだったり全裸だったりしたらどう見ても不審者じゃないですか。懐疑心しか持たれませんよ」
少年「現在進行形で懐疑心しか抱いてないんですけど」
悪魔「きっと時間が解決してくれます」
少年「時間を共にすることを当たり前のように言われても」
悪魔「冗長な冗談はここまでにして、そろそろ本題を掘り下げてもいいですか?」
少年「散々振ったり乗ったりしておいてよくそんなことがいえますね」
悪魔「そういう性分ですから」
少年「全く、今どういう事態になっているのか、どうして自分のところにきたのか、
訳がわからないこと全部説明してくださいね」
悪魔「耳を傾けて頂いて感謝します。少し長くなると思いますが、いいですか?」
少年「どうせ今日は休みですから、ご自由に」:
悪魔「ありがとうございます。では長くなるのでお茶の準備をお願いします」
少年「・・・・・・」
―――場所を換えて、リビング。座卓の上にはインスタントのコーヒーと、更に広げられた洋菓子。
悪魔「すみません、私ブラック飲めないので砂糖2つお願いします」:
少年「はいはい」
悪魔「いいですね、寝起きにコーヒー。こういうゆったりとした朝の時間、憧れてました」
少年「本題に入ってもらえませんか」
悪魔「あ、すみません。それじゃあ、まずは今何が起こっているのか、改めて話しますね、
見てお判りのように、私、人間ではなく悪魔です。これでも、魔界ではけっこう名の知れた悪魔なのですよ」
少年「なんていうんですか」
悪魔「ベルフェゴール、と申します。どうです、ご存知ですか?」
少年「なるほど、そういうことですか」
悪魔「どういうことですか?」
少年「つまり悪魔と戦うための力をカードにして僕に渡してくれるんですね」
悪魔「ゲームのし過ぎです」:
少年「じゃあ何してくれるんですか」
悪魔「やる気を削ぎます。あと結婚生活を覗きます」
少年「契約、今からでも解除できませんか」
悪魔「諦めてください」
―――悪魔、ベルフェゴールは、クッキーを摘みつつ脱線した話を戻す。
ベル「で、魔界で起きている問題というやつですが。私達、そもそも悪魔ってお互いそんなに仲がいいわけじゃないんです。
上下の繋がりは絶対ですけど、横はそうでもないんですよね。悪魔の階級社会の頂点は、かの有名なサタン様です。
今は天使達との戦争で敗れて光さえも閉じ込める深淵の底に封印されているんですけど、いつまでたっても戻って
くる様子がないからその座を狙う輩が出始めたんです」
少年「つまるところ権力争いですか」
ベル「その通り。最近、世の中いろいろと騒がしくありませんか?テロや戦争は言わずもがな、親族同士の殺人や窃盗、
不祥事問題に異物混入、自己顕示のためだけの自作自演、いろんな事が起きてますよね」
少年「でも、数十年前に比べれば些末なことでしょう。戦争が起こっていた頃に比べれば、ちっちゃなものじゃないですか」
ベル「どうしてそう思うんです?」
少年「どうしても何も、ちょっとパンに爪楊枝いれてみたり、自作自演して注目を集めようとすることなんて、
戦争で大勢の人が死ぬことに比べればちょっとしたことじゃないですか」
ベル「ええ、そうですね。しかし、彼らは殺さなければ殺されていたかもしれない。罪を犯す必要性があった。
そうして戦争の後、多くの人が心を病んだ。自分が犯した罪の重さがひしひしと感じていたのでしょう。
至極正常な世の中です。けれども、今は・・・・・・」
―――ベルがテレビを見やる。異物混入を自作自演した少年の報道。
ベル「罪の意識が、果たしてそこにあるのでしょうか。それとも―――」
―――内容が替わり、親族を殺した事件。
ベル「そうしなければいけない状況に、迫られていたのでしょうか」
少年「それは・・・・・・」
ベル「罪を犯すことになんの躊躇もなく、罪を犯しても何も心に思わない。罪を犯す前から、心を病む人が現れ始めた」
少年「・・・・・・」
ベル「我々悪魔は、もとより存在するだけで人の心に影響を与えるもの。そして人の心が乱れているということは、
魔界もまた乱れ始めている可能性があるということです。確かに、いま起きていることは確かに些末なものでしょう。
ですが水面下で、既に事は起きている。今はその波紋が僅かにさざめいているに過ぎません。
この問題が浮かび上がる頃には、どんな事態になっているか、私には想像できません」
少年「・・・・・・思っていた展開よりもだいぶ話が重いんですが」
ベル「掘り下げるっていったじゃないですか」
ベル「そうして人の心から罪の意識が欠落してもらっては、我々悪魔としても困るのです。
肉体を持つ人間と違って、私達は存在の半分が概念のようなもの。
その概念事態が失われてしまえば、私達の存在は根本から否定、すなわち消えてしまうでしょう」
少年「こういっちゃなんですけど、それって長期的に見れば人間にとってはいいことですよね。
僕が協力するメリットや必要性がないと思います。契約に強制力があれば、話は変わってきますが」
ベル「残念ながら、契約に私があなたへ教養する効果はありません。ですが、本当にいいコトでしょうか?
罪の意識なく、人が人の心を欺き、人が人の物を盗み、人が人の命を奪う。罪の意識がないというだけで、
非道であることに替わりはない。人が悪魔に成り代わるようなものですよ」
少年「なるほど、悪魔が滅び、人が悪魔になる世界の始点が今、というわけですか」
ベル「そういうことです。お察しが良くて助かります」
少年「では、どうして契約する相手が僕だったんでしょうか。そもそも、契約ってなんなんんですか?」
ベル「契約はいわば主従関係のようなものです」
少年「主従関係?」
ベル「ええ。私はあなたの言うことを聞く代わりに、私が現し世に顕現するための原動力を提供して頂きます」
少年「・・・・・・それってあれですか、生命エネルギーとかですか」
ベル「いえいえ、そんな大それたものじゃないです、ちょっとしたものですよ、ちょっとした」
少年「だいぶ含みのある言い方ですね」
ベル「その時が来れば判りますから、どうぞお楽しみに」
少年「嫌な予感しかしないんですが」
ベル「ちなみに、契約の内容ではあなたが主人、私が従者ですから、敬語でなくても怒ったりしませんよ」
少年「と言われても、知り合って間もないですし」
ベル「じゃあもう少しお互いの理解を深めましょうか。名前を教えてもらっても構いませんか?」
少年「継嗣《けいし》です」
ベル「継嗣さんですね。私の名前は長いですから、ベルと呼んで頂ければ」
継嗣「ベルさん、でもいいですか」
ベル「そこまで畏まられると、なんだか調子が狂ってしまいます・・・・・・」
継嗣「と言われても、なかなk」
ベル「せめて名前だけでも、気軽に『ベル』と呼んでください」
継嗣「努力します。ところで、どうして契約相手がよりにもよって僕なんですか」
ベル「『よりにもよって』ってどういう意味ですか」
継嗣「だって僕ただの高校生ですよ。何の助力にもならないと思いますけど」
ベル「元より人間の助力を宛てにするつもりはありませんから、ご心配はいりません。
それに、この辺りで一人暮らしをしている方、継嗣さんくらいしかいあんかったんですよ」
継嗣「一人暮らしでないと何か不都合でも?」
ベル「そうですね、先にも言いましたけど、それもやっぱりその時が来れば判ると思います」
継嗣「『わかりました』とは言いにくい歯切れの悪さを感じますね」
ベル「どうぞお楽しみに」
継嗣「なんだかなあ」
ベル「それにほら、やっぱり帰る場所って必要じゃないですか。
『ただいま』って言ったら『おかえり』って言ってもらえるって、けっこう幸せなことだと思います」
継嗣「確かに一人暮らしっていうのは寂しいものがありますけど」
ベル「それに、ここを拠点にするからといっても継嗣さんにご迷惑が掛かるようなことはしませんし。
むしろ、ご主人の意見は極力遵守する決まりですから、お呼びとあらば夜伽でもなんでもござれです」
継嗣「それに近いことはすでに今朝体験した気がします」
ベル「自分でやっておいてなんですがすこし興奮しました」
継嗣「真面目系ビッチと清楚系ビッチ、どっちがいいですか」
ベル「小悪魔系はないんですか?」
継嗣「どちらかと言うと大悪魔系ですよね」
ベル「か、可愛くないです・・・・・・」
継嗣「ちょっと話戻しますけど、要するに僕はただ契約して餌さえくれていればいい、ということですか」
ベル「付け加えると、私に命令をすることができる、ということですね。住み込みの家政婦さんみたいなものです」
継嗣「そう考えると悪い話でもない気がしてきますね」
ベル「そうでしょう、そうでしょう。継嗣さんは素知らぬ顔でいつもどおり生活して頂いているだけでいいんです」
継嗣「あ、でもあれですよね、ということはベルさんは先に来てる悪魔の敵ってことですよね」
ベル「はい」
継嗣「で、僕はその主人でしょ?命を狙われたりとかしないんですか」
ベル「そのときは私は全身全霊五臓六腑全てを賭けて頑張れるよう努力します」
継嗣「それなら安心してよさそうですね。有名な悪魔ですし、ベルさん強いんですよね?」
ベル「それはちょっと自信ないです」
継嗣「・・・・・・」
ベル「だって私の代表的な力なんて、人を怠けさせることと、生活を覗き見ることくらいですよ?」
継嗣「いろいろおおきな問題に充てる人選としてはだいぶ間違っていると思うんですが」
ベル「そんなことはありません、そもそも私が来たのは争うためではなく現状の視察と考察のためですから」
継嗣「なるほど」
ベル「そもそも命を狙われる可能性もないと言っていいくらいです。代わりの契約者を探せばいいだけですから」
継嗣「やっぱり僕が特別なわけじゃないんですね」
ベル「そんなものですよ、悪魔なんて正しい呼び方すればほいほい出てきますし」
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