ジャン「馬のクソでも食ってる気分だぜ」(260)
東京喰種パロ
かなり雑
――喫茶店「あんていく」――
ミカサ「ご注文は?」
エレン「俺カプチーノで」
アルミン「僕も」
ミカサ「かしこまりました」スタスタ
アルミン「……最近、「喰種」の事件が頻発してるみたいだね」
エレン「ああ、人を食う化け物なんだろ?」
アルミン「怖いよね。エレンも気を付けて」
エレン「ああ」
アルミン「そういえば、明日年上の彼女とデートなんだって?」ニヤリ
エレン「おう//」
アルミン「頑張ってね!」
ペトラ「エレン君は大学の勉強どんな感じ?」
エレン「あー、単位がやばいっすね」モグモグ
ペトラ「そうなんだぁ」
エレン「……ペトラさんって小食なんですか?」
ペトラ「ちょっと、ダイエットを……」ハズカシ
ペトラ「ごめんなさい。お手洗いに行ってくるわ」スッ
エレン(女の子だ……)ジーン
エレン「今日はすごい楽しかったです//」
ペトラ「私も……//」ギュ
エレン「ペトラさん……?」ドキ
ペトラ「実は私、最近事件のあった近くに住んでて……」
エレン「喰種ですか」
ペトラ「ええ……ちょっと不安で」
エレン「俺が送りますよ!」キリッ
ペトラ「ありがとう」パァァ
ペトラ「こっちよ」スタスタ
エレン(人気がなくて不気味だ)
ペトラ「エレン君……」ギュ
エレン「うわっ!?」ドキドキ
ペトラ「私、あなたのことが……好き」ポッ
エレン「お、俺も……//」
ペトラ「……食べちゃいたいくらい」カプッ
エレン「――――っ!!?」
エレン「うわああああああああ!!!!!」
ペトラ「あー、おいしい」ペロッ
エレン(目が……赤く!!)ゾッ
ペトラ「その表情、すてき……」
ペトラ「もっと私をゾクゾクさせてえええええ!!!!!」ズズズ
エレン(何だ……!? 体から触手みたいなものが……!!)
エレン(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!!)ダッ
ガシッ
エレン「うああああっ!!??」ジタバタ
ペトラ「つーかまーえた」ニコッ
ペトラ「それっ!!」ポイッ
ガシャアアアン
エレン「うっ……ぐ……」フラフラ
ペトラ「エーレーンーくーん♪」ルンルン
ドスッドスッ
エレン「うがあああ!!!」ガハッ
ペトラ「あはははははははは!!!」
ペトラ「おなかの中、優しくかき混ぜてあげるからね……」
エレン「」
ペトラ「あれ? ひょっとして死んじゃった?」
ペトラ「残念……ほんとに好きだったのに」
ペトラ「程よく脂も乗ってるし……柔らかくて食べやすそう……!!」ウットリ
ガラガラッ
ペトラ(!? 鉄骨……!?)
ガシャアアアン
ペトラ「うっ……なん……で……」ガクッ
エレン「……」
エレン(なん……だ……?)
もう一刻の猶予も……
エレン(俺は……何を……?)
先生……でも……
エレン(確か、ペトラさんとデートしてて……)
全ての責任は……私が……
エレン(俺は……死んだのか……?)
彼女の臓器を……彼に……
エレン(臓器……?)
エレン「……」パク
エレン「うっ……」オエッ
エレン(何だ……? 何かがおかしい……)
看護師「イェーガーさん?」ガラッ
看護師「もう食べないんですか?」
エレン「……」
看護師「お友達、今日も来てらっしゃったわよ」
エレン(アルミン……)
エレン「味覚が……変なんです……」
エレン「全てが生臭いっていうか……」
医者「入院してから何も食べていないそうだね」
医者「検査では特に問題はなかったようだし」
医者「精神的なものかもしれないな。あれだけの事故だったから」
エレン(何も問題なし……?)
エレン「ありがとうございました」
エレン(やっと退院できた)
エレン(あの日のペトラさんとの出来事が、全部夢だったんじゃないかと思えてくる)
エレン(でも、確かに何かが……)
エレンへ
退院おめでとう。
エレンの大好きなチーハンを差し入れに持ってきたよ。
全快したら大学に来てね。
エレン(アルミン……ありがとう)ガチャ
エレン(アルミンは、両親のいない俺をいつも気遣ってくれる)
エレン(でも、ごめんな。今は食欲が……)
―――そもそも喰種というのは、こんな短期間に大量の食事を摂る必要がないんだよ。
―――死体一つあれば、平気で一か月や二か月生きられる。
エレン(テレビでも喰種の話か……)ボー
―――先生、喰種は人間と同じ食事じゃ満足できないんですか?
エレン「!!」ハッ
―――ああ、喰種はわれわれ人間とは舌のつくりが違うからね。
―――人間からしか栄養を摂取できないんだよ。
―――人間の食べ物を口にすると、めちゃくちゃ不味く、生臭く感じる。
エレン「そんな……!!」
―――めちゃくちゃ不味く、生臭く……
エレン「くそっ!!」ダッ
エレン「……」オソルオソル
エレン(アルミンのくれたチーハン)
エレン(大丈夫、食える……!!)ムシャムシャ
ゴクン
エレン「うっ……おえええええ!!!!!}ビチャビチャ
エレン(まさか……!!)
エレン(牛乳、サンドイッチ、調味料……)ムシャムシャ
エレン「おえええええ!!!!」ビチャビチャ
エレン(全部……生臭い。食えたもんじゃねえ……)
エレン(……嘘だろ……!?)ボウゼン
ツーツーツー
アルミン「はぁ……」シュン
ジャン「どうしたアルミン?」
アルミン「友達がきょう退院したはずなんだけど、連絡つかなくて」
アルミン「見舞いにも何度か行ったけど、追い返されちゃったんだ」
ジャン「へえ……俺ならそんなクソ無礼な奴、関係切っちまうけどな」
アルミン「エレンは子供のころからの親友だから」
ジャン「親友……か」
エレン「……」フラフラ
エレン(腹減ったな……)グー
エレン(人、人、人……)キョロキョロ
人、人、肉、人、肉、人、肉、肉、人、肉……
エレン「肉肉肉肉肉肉肉にくにくにくにくッ!!!!!」ギラギラ
エレン「――っ!?」ハッ
通行人「ねえ、ちょっとあの人……」
通行人「バカ、関わんなって……」
エレン「くそっ……!!」ダッ
エレン「ハァ……ハァ……」カガミノゾキ
エレン「左目が……赤く……」
エレン「!? ペトラさん――」
エレン「消えろっ!!!」パリーン
エレン(原因は分かってるんだ)
彼女の臓器を……彼に……
エレン(だったら……!!)スッ
エレン(この包丁で……腹を裂く!!)
エレン「うああああああっ!!!!」
カラン
―――喰種の体は特殊で、刃物では傷一つつけることが出来ないんだ。
エレン「……ちくしょう……」
エレン「もう……人間には戻れないのか……」
エレン「どうしろって言うんだよ……!!」
エレン(腹が減ってしょうがねえ……)フラフラ
エレン「人を……殺して……肉を!!」ギラギラ
エレン「――っ!?」ハッ
エレン「俺は……何を……」ボウゼン
エレン「……ん? いい匂いだ……」クンクン
エレン(初めて嗅ぐのにどこか懐かしい……)
エレン(まるで母さんの手料理のような、優しい香りだ……!!)タッ
エレン(俺にも食べられる……何かがある!!)
エレン「どこだ……どこだ……どこだ……どこだああああ!!!!??」ズザー
カズオ「!?」ムシャムシャ
エレン「……あ」
カズオ「お前……」
エレン「喰種……人間……」
エレン(死体の香りに釣られてたなんて……!!)ガクッ
カズオ「喰種……だよな? どうした? 大丈夫か?」
カズオ「俺も久しぶりだからあんま分けてやれねーけど……」グチュグチュ
カズオ「ほら、食い
ジャン「はい、どーん」ガスッ
グチャッ
エレン「!?」
ジャン「ったく、人の喰い場荒らしてんじゃねーよ」
エレン「なっ……!!」
ジャン「何だお前? 見たことねー奴だな」
ジャン「つーか何で片目だけ赤いんだ? 気持ち悪ぃ」
ドガッ
エレン「うぐっ……!! 何しやがる!!」
ジャン「俺の喰い場を荒らしたから殺すんだよ」
エレン「何だと……!?」
ミカサ「……いつからあなたの喰い場になったの?」シュタッ
ミカサ「ジャン」
ジャン「ミカサ……!!」
エレン(確か喫茶店で働いてた……何でここに!?)
ジャン「……例の大食いは死んだんだろ」
ミカサ「彼女の荒らした喰い場は、力の弱い喰種に分け与える」
ミカサ「それが私たち「あんていく」の仕事」ギロッ
エレン(目が赤くなった……!!)
ジャン「はぁ? あんなぬるい連中にとやかく言われたくねーんだよ」
ジャン「もともとここは俺の喰い場だったんだ。それを――」
ミカサ「あなたが弱かったから奪われた。違う?」
ジャン「くっ……!!」
ミカサ「……実力で排除してもいいけど」スタスタ
ジャン「ちっ! わかったよ!」ダッ
ミカサ「……モヤシは死体でも持っていくといい」
エレン「はぁ……はぁ……」
ミカサ「……」ヒョイッ
ミカサ「欲しい?」スッ
エレン(人間の手……!!)ゾッ
ミカサ「いらないの?」
ミカサ「……片目だけとは、変わってる……」
エレン「俺は……人間なんだ」
エレン「信じてもらえねーかもしれねーけど……」
エレン「でも、それを食べたくてしょうがないんだ……!!」ギラギラ
ミカサ「……そんなに苦しいなら、食べるべき」スッ
エレン「嫌だッ!! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ―――」
エレン「俺は人間なんだよ!! お前ら化け物とは違う!!」
エレン「そんなもん食えるわけないだろ……!!」
エレン「畜生! なんなんだよ喰種って……!!」
エレン「人は喰う! 仲間同士殺しあう!!」
エレン「俺はそんなんじゃない!!」
エレン「俺は……俺は、人間なんだよ!!」
ミカサ「……そう」
ミカサ「でも、もう諦めた方がいい」
ミカサ「食べられないのなら、私が手伝ってあげる……!!」
エレン「!? やめ――」モガッ
エレン「うっ……ぐ……」
ゴクン
つづく
エレン「うっ……うええええ」ビチャビチャ
エレン「何でこんなことすんだよ……!!」ハァハァ
エレン「俺は化け物じゃないし、人の肉なんか食えるわけねーのに……!」
ミカサ「あなたはどうしてこんなことに?」
エレン「ペトラさんとデートしてて……喰われそうになった」
エレン「それから、よく覚えてねえけど……多分臓器を」
ミカサ「そう……」
エレン「……教えてくれよ」
エレン「あの日からすべてが最悪なんだ」
エレン「俺はどうすりゃいいんだよ……!!」
ミカサ「……私だって教えてほしい」
ミカサ「ケーキってどんな味がするの?」
ミカサ「人間は美味しそうに食べるけど、私には吐くほど不味く感じる」
ミカサ「喰種や捜査官に追われる心配のない生活はどうだった?」
ミカサ「……すべてが最悪? だったら私は生まれた時から最悪ということ?」
エレン「……」
エルヴィン「その辺にしておきたまえ」スッ
ミカサ「……店長」
エルヴィン「喰種同士助け合うのが私たちの方針だ。……ついて来なさい」スタスタ
――喫茶店「あんていく」――
エルヴィン「どうぞ」スッ
エレン「……」ジーッ
エルヴィン「コーヒーは嫌いかな?」
エレン「いえ、でも……」
エルヴィン「普通のコーヒーだよ」
エレン「……」キッ
ゴクゴク……ハッ
エレン「美味しい……!!」
エレン「何を食べてもひどい味しかしなかったのに……!!」
エルヴィン「喰種は昔から、コーヒーだけは美味しく味わえるんだよ。人間のようにね」
エルヴィン「でも、これだけでは空腹を満たすことはできない。だから……」スッ
エレン「そ、それは……!」
エレン(人間の肉が入ってるのか!?)ゾッ
エルヴィン「必要になったらまた来なさい。遠慮はいらないから」
エレン「……」グー
エレン(肉……肉……肉……肉……肉……)ブルブル
ペトラ『いいじゃない、食べちゃえば』
ペトラ『美味しいお肉が待ってるわよ』
ペトラ『一度食べたらやめられないわ』
エレン「うわあああああああああ!!!!!!!!」ガシッ
エレン(これを……これを食ったらもう人間には……)
プルルルル
エレン「!!」
エレン(久しぶりの大学だ)
アルミン「エレン!! 心配したよ……!」ガシッ
エレン「アルミン……ごめんな」
アルミン「その眼帯は? どうしたの?」
エレン「ああ……オシャレだよ」
アルミン「そう……ノート取っておいたから後で見てね」
エレン「ありがとな」
アルミン「今から口の悪い友達のところに資料を取りに行くんだ。付き合ってくれる?」
エレン「わかった」
アルミン「エレン、ちゃんとご飯食べてる?」
エレン「えっ!?」
アルミン「顔色悪いよ。食べなきゃ体が持たないよ」
エレン「あ、ああ……」
エレン(昔からそうだった)
エレン(アルミンは勘が鋭く、いつも俺を気遣ってくれる)
エレン(もしも俺が人間じゃなくなったら)
エレン(こうやって一緒に歩くことも出来なくなるんだろうな……)
アルミン「エレンにも紹介しようと思ってたんだ。薬学部のジャン」ガチャ
エレン(ジャン? どっかで――)
ジャン「アルミン、ノックしろよ!」
アルミン「あっ、ごめん」
エレン「あ……」
ジャン「あ?」
エレン(昨日の……!!)ゾッ
アルミン「この前話してた親友のエレンだよ」
ジャン「ふーん……よろしくな、エレン」ニヤリ
エレン「……よろしく」
エレン(同じ大学だったのか……)
ジャン「何の資料だっけ?」ガサゴソ
アルミン「えっとね――」ガサゴソ
エレン(どうして俺の周りには喰種が現れるんだ……)
エレン(いや、違う。奴らは最初からここにいた)
エレン(迷い込んじまったのは俺の方だ――)
ジャン「あー悪い。やっぱここにはねーかも」
アルミン「そっか……」シュン
ジャン「アルミン、お前今からうちに取りに来いよ」
アルミン「今から? ……うん」
アルミン「エレン、悪いけど僕はジャンの家に寄ってくから――」
エレン「ああ……いや」
エレン(アルミンが……喰われる!!)ゾッ
エレン「俺もついてって良いか!?」
アルミン「えっ? 僕は構わないけど――」チラッ
ジャン「別にいいぜ」
アルミン「エレン、急にどうしたの?」コソッ
エレン「いや……何でもないんだ」
エレン(アルミンは俺が守る)
ガヤガヤ
ジャン「たい焼きでも食ってくか?」
アルミン「そうだね」
エレン「えっ!?」
ヘイラッシャイ、ヤキタテデスヨー
ジャン「ほらよ」スッ
エレン(うっ……吐き気が……)クラッ
エレン(喰種がこんなもの……)チラッ
ジャン「ん、絶妙な甘さだ」ムシャムシャ
エレン(食った……!!)
アルミン「生地もサクサクだよね」モグモグ
アルミン「エレンは? 食べないの?」
エレン「あぁ、あとでな……」
スタスタ……
エレン(……普通だ)
エレン(まるで普通の大学生みたいに)
エレン(人間社会に溶け込んでる)
エレン(……ちょっとすげえな)
エレン(きっと誰も、こいつが喰種だなんて――)
ジャン「……そろそろか」
エレン「?」
ガスッ
アルミン「うッ……!!」ドサッ
エレン「アルミン!!」
ジャン「人目に付くと面倒だろ」
ジャン「まさか同じキャンパス内に喰種がいるなんてな」
ジャン「くっせえなぁ……」クンクン
ジャン「女の喰種みてえな臭いがすんぜッ!!」ガスッ
エレン「うぐッ!!」ドサァ
ジャン「お前、アルミンのこと喰うつもりだったんだろ?」
ジャン「自分を信じ切ってる馬鹿を裏切るあの瞬間……」
ジャン「浮かび上がる苦悶の表情……」
ジャン「マヌケな人間どもが絶望する姿ほど食欲そそるもんはねえもんなああ、エレンよオオ!!」
エレン「俺は……お前とは違う!!」ギロッ
ジャン「はぁ?」ドスッ
エレン「うえっ……」ゲホゲホ
ジャン「つーかお前の体すげえ脆いのな。豆腐かと思ったぜ」
ジャン「あ~気分悪ぃ」オエッ
ジャン「ったく、人間ってのはよくあんなもん食えるよな」
ジャン「馬のクソでも食ってる気分だぜ」ペッ
エレン「……」ハァハァ
ジャン「悪ぃなエレン、お前の食いもん汚しちまったわ」ゲシッ
エレン「足を……どけろ……!!」ギロッ
ジャン「どの足だよ? ……なぁ、こいつとは付き合い長いんだろ?」
ジャン「いつ喰うつもりだった? どこから喰うつもりだった?」
ジャン「教えろよエレン! なぁ!? なぁ!? なぁ!?」ゲシッゲシッゲシッ
エレン「アルミンは食いもんじゃねえ……!!」
エレン「やめろおおおおおおおおおお!!!!!!」ダッ
ジャン「おっと」カワシ
ドガッバキッ
エレン「クソッ……」ハァハァ
ジャン「しかしお前もよくわかんねー奴だよな」
ジャン「人間なんざただの食い物」
ジャン「奴らにとっての牛や豚と同じだろ?」
ジャン「家畜同然の奴らなんかと友達ごっこやって楽しいかよ?」
エレン「ごっこじゃ……ねえ……!!」
ジャン「あっそ。でもアルミンは危険だぜ」
ジャン「あいつは賢い。すぐにばれちまうだろ」
ジャン「眼帯なんかしやがって、目のコントロールもできねぇくせしてよ……!」ゴッ
エレン「うぐぅ」ガハッ
ジャン「ほら立てよ。それともアルミンからやっちまうか?」ケラケラ
エレン「ふざけ……んな……」フラフラ
ジャン「なんだそりゃ」ドガッ
エレン「う……あ……」ゲホゲホ
ジャン「ちょっと遊びすぎちまったな。赫子出しゃすぐだったのにな」スタスタ
エレン「やめろ……アルミン……!!」
ジャン「そうこなくっちゃな。早くしねーと潰しちまうぜ」ズズズ
エレン(こいつもペトラさんみたいな触手を……)
ガシッ
ジャン「……ん?」
ジャン(無意識か)
エレン(アルミン……俺を守って……)
アルミン『君、いつも一人でいるよね』
エレン『別にいいんだよ。慣れてる』
アルミン『僕も引っ越してきたばかりで、あんまり友達いないんだ……』
アルミン『よかったら、僕と友達になってくれる?』
エレン『……いいよ』
アルミン『ありがとう! 僕はアルミンっていうんだ』
エレン『エレンだ。よろしくな』
エレン(あの時もアルミンは俺を気遣ってくれたんだ)
エレン(また、守られちまったな……)
ジャン「じゃあな、アルミン」
エレン(嫌だ……)
エレン(アルミンが死ぬのは……)
エレン「嫌だああああああああああああ!!!!!!!!!!」ズズズズズ
ジャン「!?」
エレン「そんなの許せねええええええええ!!!!!」バシッ
ジャン「ははっ!」ヒュンッ
ビシッバシッ
エレン「うおおおおおお!!!!!」
ジャン(弾きやがった!?)
ジャン「クソがっ!!」
ガシッ
ジャン「!!?」
ドスッドスッドスッドスッ
ジャン「やめろおおおお!!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ―――」ブシャアアア
エレン「……」ポイッ
ドシャッ
ジャン「これは……「大食い」の……畜生……」グハッ
エレン「ハァ……ハァ……」
エレン「アルミン……」フラフラ
ペトラ『すごくおいしそう』
エレン「!!」ゴクッ
ペトラ『香ばしい匂い。食欲そそるわ……ねぇよく見て。美味しそうでしょう?』
エレン「やめろ! アルミンは食い物じゃねえ!!」
ペトラ『本当にそう思ってる? ……分かってるんでしょ?』
エレン「ああ……分かる。美味そう……!!」ジュルリ
エレン「は……ははははははっ……」ハッ
エレン「やめろ!! やめてくれ!!」ブンブン
ペトラ『何を言ってるの? たまらなく欲しいんでしょ?』
ペトラ『我慢しなくていいのよ。あなたは間違ってないんだから』
ペトラ『さあ早く。好きにしていいのよ? 全部あなたのものなんだから』
エレン「全部……俺の……」ヨロヨロ
エレン「ははは……本当だ!!」
エレン「せっかくのご馳走じゃねえか……」ジュルリ
エレン「俺が全部食ってやらなきゃ……!!」
エレン「アルミンは……俺の……」
エレン「友達なんだから……!!」
エレン「俺が喰ってやらねえと……!!」ガバッ
ミカサ「ずいぶんと様になってる」スッ
ミカサ「空腹すぎて理性が吹っ飛んだみたい」
エレン「そこをどけ!!!」
ミカサ「もう友達の命すらどうでもよくなったの?」
エレン「くっ……」フーフー
ミカサ「あなたは彼を殺した後で後悔する。血と臓物の中で」
ミカサ「それが私たちの飢え。喰種の宿命」
エレン「ヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!」ズズズズ
ミカサ「大丈夫……安心して眠るといい……!!」ズズズズズ
ドスッ……
――喫茶店「あんていく」――
エレン「……」パチ
エレン「ここは……」キョロキョロ
エルヴィン「気が付いたようだね」
エレン「店長……」
エルヴィン「ミカサが運んでくれたんだ」
エレン「アルミンは!?」
エルヴィン「無事だよ。ついて来なさい」ガチャ
エレン「アルミン……!」ホッ
エレン(あれ……?)
エレン「俺は……最近ずっと空腹で、アルミンを……」
エレン「でも今は全然そんな気がしないんです。なんで……」
エレン「正直に答えてください。俺が寝ている間に何を……!?」
エルヴィン「……」
エルヴィン「喰種が空腹を満たす方法は一つしかない。君もわかっているだろう?」
エレン「……!!」ゾッ
エルヴィン「あのままだと、君は友人を手にかけてしまっていた」
エレン「くっ……」
エルヴィン「自分が何者か知ることだ」
エレン「俺は……友達を傷つけたくない」
エレン「だからもうアルミンには会えない。でも……」
エレン「喰種の世界にも入れない」
エレン「俺は、一人だ」
エレン「俺の居場所なんかどこにも……」
エルヴィン「それは違う」
エレン「え……」
エルヴィン「君は喰種であり、人間でもある」
エルヴィン「二つの世界に居場所を持てる、唯一の存在なんだよ」
エレン「……」
エルヴィン「あんていくに来なさい」
エルヴィン「君の居場所を守る道にもきっとつながるはずだ」
エルヴィン「そして、君に私たちのことをもっと知ってほしい」
エルヴィン「我々がただの飢えた獣かどうか……」
エルヴィン「まずは、美味しいコーヒーの淹れ方からだね」
エレン「……!!」
エレン「お願いします!!」
つづく
エルヴィン「ゆっくり、「の」の字を描くように」
エレン「はい……」コポポ……
ゴクン
エルヴィン「どうだい?」
エレン「店長と比べると、まだ全然ですね……」
エルヴィン「コーヒーは手間をかけることによって美味しくなる」
エルヴィン「人間も同じだ。焦ることはない」
エレン「はい!」
エルヴィン「大事なことをもう一つ……」
エルヴィン「あんていくは20区の喰種が集まる場所だ」
エルヴィン「だが、人間のお客さんも来る。かつての君のようにね」
エレン「でも、喰種は人間から身を隠すべきなんじゃないんですか?」
エルヴィン「人の世で生きるためには、彼らのことを学ぶ必要がある」
エルヴィン「人間は、我々喰種にとって生きた教本なんだ」
エルヴィン「……それに、私は好きなんだよ。人間のことがね」
エレン「えっ?」
エルヴィン「さあ、そろそろミカサの方を手伝ってもらおうか」
エレン「あっ、はい……」スタスタ
エレン(人間が好き? 一体どういう意味で……)ガチャ
アルミン「エレン!」
エレン「アルミン!? なんでここに」
アルミン「ミカサにお礼を言いに来たんだ」
エレン「お礼?」
アルミン「事故に巻き込まれた僕たちを助けてくれたんでしょ?」
エレン(そういうことになってるのか)チラッ
ミカサ「……」コクッ
アルミン「ジャンはまだ入院してるみたいだけど、僕たちがかすり傷で済んだのはミカサのおかげだよ」
アルミン「ありがとう。エレンも、またね」ガチャ
ミカサ「ありがとうございました」ペコリ
ミカサ「あなたが喰種だってこと、ばれないように気を付けて」
エレン「ああ」
ミカサ「もし正体がばれたら、彼を殺さなければならない」
エレン「えっ!? そんな……」
ガチャ
ミカサ「いらっしゃいませ」ペコリ
ユミル「久しぶりだな」
クリスタ「新しい人……?」ジッ
エレン「初めまして」
クリスタ「……」フイッ
エレン「……?」
エレン「喰種……だよな?」
ミカサ「……色々あって、面倒を見ることになった」
エレン「色々……か」
ミカサ「店長から「箱持ち」の話は聞いてる?」
エレン「箱持ち?」
ミカサ「白いアタッシュケースを持った集団……私たちの敵」
エレン「前に言ってた捜査官ってやつか」
ミカサ「そう。ここはまだ平和なほうだけど……気を付けたほうがいい」
エルヴィン「やってごらん」
エレン(サンドイッチ……)パクッ
エレン「うえっ!!」オエエ
エルヴィン「大丈夫かい?」
エレン「店長、すいません……でもこれ」
エレン「パンは無味無臭のスポンジみたいだし……」
エレン「チーズなんか乳臭い粘土みたいで……」オエッ
エルヴィン「ずいぶんとおもしろい表現だね」ハハッ
エルヴィン「見ていなさい」パクッ
エレン「えっ!?」
エルヴィン「コツは食べるんじゃなくて飲むことだ」
エルヴィン「そして十回ほど噛むふりをする」
エルヴィン「このときに咀嚼音を立てるとそれらしく見える」
エルヴィン「そして、消化が始まる前に必ず吐き出すことだ」
エルヴィン「そうしないと体調を崩してしまうからね」
エルヴィン「練習すれば、友達とも食事できるようになる」
エレン「……はい! 頑張ります!」
エルヴィン「君にプレゼントがある」ガサゴソ
エレン「角砂糖……ですか?」
エルヴィン「中身は少し違うがね」
エルヴィン「コーヒーに溶かして飲めば、少しは空腹を抑えられる」
エレン「材料は一体……?」
エルヴィン「知らないほうがいい」
エレン「……」
エルヴィン「そうだ、今日は君に残業を頼みたい」
エレン「残業ですか?」
エルヴィン「食料調達に行ってもらうよ」
エレン「食料……調達……!!」ゾッ
エレン「俺は人殺しなんか……!!」
エルヴィン「違う」
エレン「!?」
エルヴィン「人を傷つけない方法だ」
エルヴィン「あんていくは、人を狩れない喰種のために食料を調達している」
エルヴィン「その大切さは君にもわかるだろう」
エレン「でも……」
エルヴィン「あとは、うちのリヴァイに聞いてくれ」
エレン(人を傷つけない方法……?)
ブロロロロ……
エレン「あの、リヴァイさん……でしたっけ」
リヴァイ「何だ」ギロッ
エレン「あ……何でもないです」
エレン(怖えー)
リヴァイ「降りろ」
エレン(こんなところで……?)
スタスタ……
エレン(崖の向こうに薄暗い森が……)
エレン「うわ……高い」ノゾキ
リヴァイ「手をつくな」
エレン「え?」グラッ
リヴァイ「落ちるぞ」
エレン「うわああああああ!!!!!!」マッサカサマ
ドクン
エレン「うっ!?」ズズズ
ドサッ
エレン「生きてる……ここは」キョロキョロ
エレン「うわっ!?」ビクッ
エレン(死体……だよな……?)
リヴァイ「ここではよく人が死ぬ」シュタッ
リヴァイ「ここに命を捨てに来るんだ」
エレン「あんていくの人たちは……自殺者を選んで……?」
リヴァイ「詰めろ」スッ
エレン「うっ」
リヴァイ「チッ……」スタスタ
エレン(喰種は人間を喰う。分かってたけど……)ハッ
リヴァイ「……」テヲアワセ
エレン(リヴァイさん……)
エレン「マスク……ですか?」
エルヴィン「君にも必要だと思ってね」
ミカサ「エレンにはまだ早いと思う」
エルヴィン「……捜査官が二人、20区に来ている」
ミカサ「白鳩が!?」
エレン「ハト?」
エルヴィン「万一のことを考えて、すぐにでも持たせておきたい」
ミカサ「……あの通りはあまり治安が良くない」
ミカサ「エレン、明日の二時半に駅前で会おう」
エレン「分かった」
ミカサ「こんにちは」ガチャ
ミケ「新顔だな」クンクン
エレン「うわっ!? 何ですか!?」ビクッ
ミケ「変わった匂いだな」フッ
エレン「はあ……」
ミカサ「マスク職人のミケさん」
エレン「よろしくお願いします」ペコリ
ミケ「やはりペトラの影響か……」クンクン
エレン(変わった人だな)
ミケ「20区を捜査官がうろついているようだな」
ミカサ「ええ。これまで放置気味だったのに……」
エレン「20区って平和な方なんですか? 俺にはとても……」
ミケ「だったらここ、4区に泊まっていくといい。運が良ければ共食いが見られる」
エレン「……遠慮しときます」
ミケ「アレルギーはあるか?」
エレン「いえ、大丈夫です」
ミケ「その眼帯はどうした?」
エレン「腹が減ると自分じゃ制御できなくなるんです」
ミケ「腹を満たせばいい。いるか?」スッ
エレン(目玉!?)ギョッ
エレン「いや、いいです!」
ミケ「……あそこにいるミカサとは、恋人同士か」
エレン「ち、違いますよ!」アセアセ
ミケ「彼女は努力家だな」
エレン「努力家……ですか」
ミケ「喰種が人間の世界で生きるためには、一生外せない仮面が必要だ」
ミケ「関係が深くなるほど正体が割れる危険性も増す」
ミケ「彼女はその危険を覚悟であんていくのバイトをこなし、学校にも行っている」
エレン「そこまでして人と関わる理由って……何なんですか?」
ミケ「何だろうな」
ミケ「俺もたまに人間の客が来ると、楽しいと思うことがある」
エレン「……」
スタスタ……
エレン「……ミカサ」
ミカサ「何?」
エレン「クリスタって、一体何があったんだ?」
ミカサ「……事情により、両親と離れて暮らすようになった」
エレン「そうか……」
エレン「俺に何かできることはないか?」
ミカサ「……分からない」
エレン「……」
エレン「そういえば、あのマスクって何に使うんだ?」
ミカサ「白鳩……つまり喰種捜査官と戦う時に、素顔を見られないため」
エレン(ハト、か……)
クリスタ「……」モグモグ
エレン「クリスタ! いるか?」ガチャ
クリスタ「あ……」ハッ
エレン「うわっ!?」
エレン「ごゆっくり……!!」ダッ
コニー「あー、そりゃエレンが悪いな」コポポ……
エレン「だよなぁ」ハァ
コニー「お詫びにコニースペシャル持ってけ」ニッ
エレン「ありがとな」
エレン「……入っていいか?」コンコン
クリスタ「……どうぞ」
エレン「さっきは悪かったな。これ、お詫びだ」ガチャ
クリスタ「あの……あなたはどっちなの?」
クリスタ「他のみんなと全然違う匂いがしたから……」
エレン「ああ……色々あってな」
エレン「心は人間、体は喰種って感じだ」
クリスタ「そう……変なこと聞いてごめん」
エレン「気にすんなよ」
エレン「……早く両親と一緒に暮らせるといいな」
クリスタ「うん……でも、私にはユミルがいるから」
エレン「ああ、あの時一緒にいた……」
クリスタ「うん。今も私のためにその、食料を」
エレン「そうか。ユミルは優しいんだな」
クリスタ「うん」ニコッ
エレン「そうだ! お前とユミルの話、いろいろ聞かせてくれよ」
クリスタ「うん! 私も人間の生活のこと、もっと知りたい」
……
ミカサ(……)タチギキ
エレン(クリスタがユミル以外に心を開くとは……)
エレン(エレンは優しい。でも、だからこそ心配だ……)
翌日
クリスタ「おはようございます!」キラキラ
ユミル「おっす」
エレン「おはよう!」
ミカサ「おはよう」
ミカサ(すっかり元気になったみたいだ。良かった)
クリスタ「エレン、またあとでね」ヒラヒラ
エレン「おう」
ユミル「あぁ? お前クリスタとはどういう――」ギロッ
クリスタ「そ、そんなのじゃないよ!」
スタスタ……
フンフンフフーン♪
ハンジ「くぅ~~っ!! いい匂い……」ガチャ
ハンジ「やっぱりここは落ち着くね!」
つづく
時雨最大の魅力はTK様の高速アルペジオやろ
超絶誤爆
ミカサ「ハンジさん……」
ハンジ「久しぶりだね、ミカサ」
ハンジ「眼帯の彼は新入りかな?」
エレン「エレン・イェーガーです、初めまして」
ハンジ「ふーん……」クンクン
エレン「うわっ!?」ビクッ
ハンジ「なんだか面白い匂いがするねー」
ミカサ「……何の用ですか?」
ハンジ「まぁまぁ。今度ゆっくりコーヒーを飲みに来るよ」
ハンジ「またね、エレン」
バタン
エレン「あの人は……?」
ミカサ「20区の厄介者、通称「美食家」……あまり関わらないほうがいい」
エレン「へえ」
エレン(そんな悪い人には見えなかったけどな)
ハンジ(エレンかあ……)
ハンジ(興味深いな~、あの匂い♪)
キーンコーンカーンコーン
サシャ「ミカサ! またジャムパンですか?」モグモグ
ミカサ「これが一番食べやすい」
サシャ「もっと食べたほうがいいですよ!」ムシャムシャ
ミカサ「……サシャは食べすぎだと思う」
サシャ「じゃあ芋を半分こしましょう!」アーン
ミカサ「半分……」
サシャ「どうかしましたか?」キョトン
ミカサ「……ありがとう」パクッ
ミカサ「うっ……」
ミカサ「通れ! 通れ! 通れ……!!」ドスッドスッ
ミカサご「ごちそうさま……」ハァハァ
ハンジ「エレン君、だよね? 隣いいかな?」
エレン「ハンジさん!? なんで大学に?」
ハンジ「君に会いに来たんだよ」
エレン「えっ!?」
ハンジ「なんてね」
エレン(何なんだこの人)
ハンジ「ミカサから何か言われた?」
エレン「ああ……はい」
ハンジ「そっかー、昔から誤解されやすいんだよねー」
ハンジ「ペトラがいなくなってからつまんないし……」
エレン「ペトラさんと知り合いなんですか!?」
ハンジ「君から彼女と同じ匂いを感じたんだよ」
エレン(ミケさんも同じことを……)
ハンジ「良かったら友達になってくれないかな?」
エレン「はい! 俺でよければ……!」
ハンジ「じゃあ今度の休日、この喫茶店で会おう」スッ
エレン「はい!」
エレン(やっぱり、そんなに危険な人だとは思えないな)
ハンジ「♪」
――喫茶店「あんていく」――
エルヴィン「エレン、今日はもう上がっていいよ」
エレン「はい、お疲れ様でした」
エルヴィン「リヴァイが下で待ってる」
エレン「リヴァイさんが……?」
エレン(あんていくの地下……初めて来たな)
リヴァイ「……」スタスタ
エレン「あの、俺に何か用ですか?」
リヴァイ「……白鳩が20区に入り込んでいるのは知ってるな」
エレン「捜査官のことですか?」
リヴァイ「いざという時には、自分の身は自分で守らなければならない」
エレン「!?」
リヴァイ「行くぞ」スッ
エレン「え、ちょ待――」
ドガッ
エレン(つ、強え……)ハァハァ
リヴァイ「立て」
エレン「はい……」フラフラ
リヴァイ「店がある日はここに寄れ。稽古をつけてやる」
エレン「お願い……します……!」
―――喫茶店―――
エレン「ハンジさんは、ペトラさんとどんな話をしたんですか?」
ハンジ「そうだね……食事について話したこともあったけど……」
ペトラ『会員制美食クラブ?』
ハンジ『うん。ペトラも参加してみない?』
ペトラ『ごめんなさい、私そういうのはあんまり……』
ハンジ『そっかー残念』
ペトラ『お皿に並べきれる量じゃないから』ニッコリ
ハンジ「見た目によらず結構大食いだったんだよねー」
エレン「あはは、そうですね……」フラフラ
エレン(やべ、あの時のこと思い出しちまった……)トラウマ
ガシャン
ハンジ「エレン! 大丈夫?」
エレン「大丈夫です……あっ痛」チクッ
ハンジ「どうしたの?」
エレン「ちょっと手を切っちゃったみたいで……」イテテ
ハンジ「ハンカチで止血するといいよ」スッ
エレン「ありがとうございます」ジワァ
ハンジ「♪」ワクワク
エレン「あ、もう止まった」
エレン「あとで洗って返しま――」
ハンジ「いや、いいよ。自分で洗うから」サッ
エレン「? はい」
ハンジ「そうだエレン、お詫びに今度ペトラの行きつけの店に案内したげるよ」
エレン「えっ!? ぜひ行きたいです!」
エレン(俺がこうなった原因……ペトラさんのことをもっと知りたい)
ハンジ「エレンの血……」クンクン
ハンジ「うっひょおおおおおお!!!!!」
ハンジ「柔らかな甘み……芳醇なハーモニー……」ウットリ
ハンジ「新しいご馳走だあああああ!!!!」ガッツポーズ
ハンジ「早く食べたいな……楽しみだなあ……」ワクワク
ジャーー
エレン(俺、何でシャワーなんか浴びてんだ……?」
執事「イェーガー様、こちらで服をご用意いたしました。お召しくださいませ」
エレン「あっ、どうも……」
エレン「なんか堅っ苦しいな……」キガエ
エレン「ここにペトラさんも通ってたのか?」キョロキョロ
メイド「コーヒーをお持ちいたしました」ガラガラ
エレン「あの、ハンジさんは?」
メイド「ごゆっくりどうぞ」
エレン「……」ゴクゴク
フッ
エレン「!? 電気が消えた……!?」
ゴゴゴ
エレン「うわっ!? 何だ!!?」ヨロケ
エレン(足場が動いてる!! どこに向かってるんだ!?)ドキドキ
カパッ
ゴゴゴ……カチッ
エレン(上階に着いたみたいだ。何だここ……?)キョロキョロ
パッ
ドゥルルルル……ドーン!!
司会「皆さまお待たせいたしました!! 本日のメインディッシュでございます!!」
観客「うおおおおおおお!!!!!!」
キャーキャー
ワーワー
エレン「何だよこれ!!?」ボウゼン
司会「本日のメインは変わった食材……何と喰種です!!」
エレン「なっ!?」
ザワザワ……
観客「喰種だと?」
観客「わたし共食いはちょっと……」
司会「提供はこの方! 分隊長氏!!」バーン
ハンジ「どうもー!」
観客「おお分隊長氏!!」ドヨドヨ
エレン「ハンジさん!? なんで……!?」
ハンジ「みんな喰種の肉なんか食えたもんじゃないって思ってるかもしれないけどー、」
ハンジ「私が注目したのは、彼の匂いなんだ」
ハンジ「彼は喰種でありながら人の匂いを色濃く残している」ヒラッ
観客「うおおおおおおおお!!!!!」
観客「きゃあああああああ!!!!!」
エレン「あれは……あの時のハンカチ!?」
観客「おお……!! 何とかぐわしい!!」
観客「ああ……たまらない……!!」ウットリ
ハンジ「どうだい? 興味がわいてきたろ?」
ハンジ「人の匂いを持つ喰種がどんな味なのか!!」
エレン(嵌められた……!!)ガーン
エレン(全部……罠だったのか……)ゼツボウ
ハンジ「さあ、究極の美食を楽しもう!!」
ウオオオオオオオオ!!!
司会「さあ、ここで本日のメインを務めるスクラッパーの登場です!!」
ギィィ……
エレン「!?」
ドスンドスン
マダムA「タロちゃーん! 頑張ってー!!」
タロちゃん「ヴヴヴヴ……」
エレン「何だあの化け物!!?」
タロちゃん「げふ……よろしくおねがいします」ペコリ
タロちゃん「のっこのっこ」ドスンドスン
マダムA「タロちゃーん! 頑張ってー!」
エレン(あの巨体、人間……か!?)
エレン(ノコギリで俺を!?)ゾッ
タロちゃん「ううう」ドスッ
エレン「うわっ!!」ヒョイッ
観客「ああ~っ」
観客「しっかり潰せ!!」
エレン「とにかく逃げねえと……!!」ダッ
タロちゃん「まてえええ」ドスンドスン
マダムA「タロちゃーん! しっかり走ってー!!」
タロちゃん「ままあああああ!!!」ドスンドスン
司会「オーナーのマダムA様からの声援を受けております!!」
エレン(逃げろ! 逃げろ……!! なんとかしねえと!!)ハァハァ
エレン(服を盾に……!!)ガバッ
タロちゃん「うおお!!」ズデーン
エレン(よし! 今のうちに扉まで……!!)
エレン「くそっ、開かねえ……!!」ドンッドンッ
タロちゃん「逃げちゃだめええええ!!」ブンッ
エレン「くっ!!」ヒョイッ
タロちゃん「だめめめめめめめ」ブンブンッ
エレン(図体デカいだけあって動きが鈍い。避けることは難しくねえ……)ヒョイッ
エレン(でも扉に追い込まれて逃げるタイミングが……)
観客「さっさとやっちまえー!!」ブーブー
ドスッ
エレン(刃が壁に刺さった! 今がチャンスだ……!!)
エレン「おらっ!!」ガスッ
タロちゃん「うー」ゴキッゴキッ
エレン(駄目だ……全然効いてねえ)ハァハァ
ハンジ「どうしたのかな? エレン」
ハンジ「赫子を使わないとそろそろ……」チラッ
エレン(何とかここから逃げ出す方法を……!!)ズシャッ
エレン「うわっ!?」ズデン
エレン(何だ? 体の自由が……)
タロちゃん「ぶおおおお」ガスッ
エレン「げほ……ッ!!」ドサッ
観客「なんだ? 足がもつれたか?」ドヨドヨ
司会「皆さま、どうやら薬が効いてきたようでございます」
エレン(まさか……あの時のコーヒーに……!!)ハァハァ
タロちゃん「つかまえたああああ」ガシッ
エレン「うッ……あ……」ギリギリ
観客「やれえええ!! 締め上げろ!!!」
エレン「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ドクン
ハンジ「バイバイ、エレン……ん?」
観客「あれは……!!」ザワッ
エレン「ヴヴヴヴヴヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」ミシメシッ
タロちゃん「?」
バキッ
タロちゃん「ウオオオオッッ!!」ドサッ
エレン「ハァ……ハァ……」
観客「隻眼の……喰種!!」ザワザワッ
観客「まさかそんな……ひぃぃ!!」ガクブル
マダムA「タロちゃん! しっかり!」
タロちゃん「いたいいたい」ゴロゴロ
ハンジ「隻眼……」
ハンジ「それは……」
ハンジ「珍ッッッ味ッッッッッ!!!」ワクテカ
マダムA「タロちゃん立って!!」
タロちゃん「ままああああああ!!!」ムクリ
エレン「くそ……!!」ハァハァ
ドスッ
タロちゃん「あ?」
タロちゃん「いったああああ……い」
エレン「えっ!?」
ハンジ「まいったな……まさか彼が隻眼の喰種だったなんて……」
ハンジ「でもせっかくの晩餐を台無しにするつもりはないよ」
ハンジ「こういうのはどうかな?」ザシュ
タロちゃん「いたいいいいいい」ドサッ
ハンジ「マダムAの飼いビト、スクラッパー君を味わうってのは?」ペロッ
マダムA「タロちゃん……!!」
タロちゃん「まま……まま……」
マダムA「この役立たず!! 恥かかせやがって!! 早く餌になれチキショー!!」
タロちゃん「まま……」ポロポロ
エレン「……」
ハンジ「楽しんでくれたかい? エレン」
エレン「なっ……」
ハンジ「これはちょっとしたジョークのつもりだったんだ」
ハンジ「ちょっとハードだったけど……忘れてくれないかな?」
エレン「何だと……!?」
ハンジ(こんな珍しいモノ……)
ハンジ(自分で食べなきゃ勿体ないッ!!)キラキラ
エレン「ハァ……ハァ……」
タロちゃん「まてえええええ」ドスンドスン
エレン(くそっ……逃げても逃げても追ってきやがる……!!)
ハンジ「エレン! こっちだよ!」
エレン「ハンジさん! よかった――」ガシッ
ハンジ「いただきまあああす!!」パクッ
エレン「うわああああああああ!!!」ガバッ
エレン「……夢か……」
エレン「ひでえ目に遭ったな……」
――喫茶店「あんていく」――
喰種客「また白鳩が出たんだってよ」
喰種客「20区も物騒になったよなあ」
エレン「……」フキフキ
エルヴィン「エレン、今日はもう上がっていいよ」
エルヴィン「あとはコニーに任せる」
コニー「おーっす」
エレン「あれ? ミカサは?」
コニー「なんか体調崩したみてーだぞ」
エルヴィン「お見舞いに行ってあげたらどうかな? ミカサは上に住んでいるから」
ガチャ
エレン「うおっ」
クリスタ「エレン!」
ユミル「お前、クリスタに手出したらぶっ殺すからな」ギロッ
エレン「分かってるよ!」
ミカサ「エレン、コーヒーを淹れよう」
エレン「ああ、俺がやるよ」
ミカサ「大丈夫」
エレン「でも体調悪いって聞いたぞ」
ミカサ「ちょっと……食べ過ぎただけ」
エレン「え……まさか」
ピンポーン
ミカサ「!!」
ミカサ「……サシャ、どうして」ガチャ
サシャ「ミカサ、学校休んでたので心配しましたよ!!」
エレン(誰だろう)ノゾキ
ミカサ「私は別に大丈夫――」
サシャ「あれ? ミカサ、後ろの人は――」
ミカサ「!?」
エレン(やべ、バレた!)
サシャ「なるほど……」ウンウン
サシャ「これ作ってきました! 彼と一緒に食べてください!」スッ
ミカサ「……サシャ、それは違う……」カァァ
サシャ「ファイトですよ、ミカサ!」グッ
バタン
エレン「俺、マズかったか……?」
ミカサ「……いいえ、大丈夫」
エレン(怒ってんのかな)
カパッ
ミカサ「……」
エレン「その肉じゃが、どうするんだ?」
ミカサ「食べる。せっかくサシャが作ってくれたから」
エレン「食べすぎで体壊したのも――」
ミカサ「いただきます」
エレン「やめろよ!」
ミカサ「ん……うぐッ」ゴクン
エレン(大事な友達なんだな……)
ハンジ「エレンを美味しく食べるためにはどうすればいいか……」ウーン
ハンジ「エレンの血……」ヒラヒラ
ハンジ「あー、いい匂い……」スーハー
ハンジ「ハッ!」
ハンジ「そうだ……」
ハンジ「人間を食べるエレンを……」
ハンジ「私が食べる!!」
ハンジ「こ・れ・だ!!!!!」ヒャッホー
ハンジ「よーし、そうと決まったら……」ワクワク
スタスタ……
エレン「痛ってえ……リヴァイさん容赦ねえな……」サスサス
喰種「オラッ!!」
喰種「てめぇ生意気なんだよ!!」
エレン「なんだ!?」ダッ
ジャン「うッ……あ……」ハァハァ
エレン「ジャン!?」
エレン(あいつは……俺とアルミンを……)
喰種「じゃあこっちの腕からいきますか」ゲシッ
ジャン「うああああああッ!!!!」
エレン「くそっ……!!」
エレン「おいお前ら、やりすぎなんじゃねえのか」ザッ
ジャン「エ……レン……?」ハァハァ
喰種「あー? なんだテメェ、こいつの仲間か?」
エレン「……そうじゃねえけど」
喰種「じゃあ邪魔しねーでくれよ、せっかくの共食いを」
エレン「共食い!?」
喰種「おらよッ!!」ブンッ
エレン「……」ヒョイッ
喰種「なんだてめぇ、やる気か!?」
エレン(リヴァイさんより断然遅い……訓練の成果が出てるのか?)
喰種「なろォォォ!!」
バキッ
喰種「うっ……」ドサッ
エレン「入った……のか……?」
喰種「畜生! 覚えてろよ!」ダッ
エレン「ジャン! しっかりしろよ」
ジャン「うるせぇ……クソ、お利口ぶりやがって……」ハァハァ
エレン「部屋、ここだよな」
ガチャ
マルコ「ジャン!」
マルコ「どこ行ってたんだ!? またこんなに怪我して……!!」
ジャン「腹減っておかしくなりそうだ……」ハァハァ
マルコ「君は……!?」キッ
エレン「!」
ジャン「やめろ、マルコ……」
マルコ「でも、彼は……」
ジャン「そうだよ……俺の腹に大穴ぶち開けたクソ野郎だ……」
マルコ「ジャン……」
エレン「……」
エレン「マルコは人間……だよな」
エレン「何でその……喰種と」
マルコ「友達だから」
エレン「ジャンが人を殺していても?」
マルコ「僕は親や兄弟でも殺されない限り、見て見ぬふりをするんだと思う」
マルコ「彼には死体が必要だから」
エレン「……」
マルコ「エレン! どうしたらジャンを助けられる!?」
エレン「多分……肉を食わねえと、もう……」
マルコ「そんな……」
エレン「……俺が何とかしてみせる」
マルコ「本当か!? ありがとう……!!」
マルコ(とりあえずコーヒーを買いだめておかないと)スタスタ
マルコ(今の僕ができることはこれくらいだ)
マルコ(あとは、エレンを信じるしかない)
マルコ「んぐッ!?」
ハンジ「ごめんねー、ちょっと協力してもらうよ♪」
つづく
――喫茶店「あんていく」――
ガチャガチャッ
エレン(やっぱ開かねえか……「食料庫」の扉……)
エレン(喰種だと知ったうえで、それでも傍にいようとする……)
エレン(あいつにも、俺やミカサみたいに大事な友達がいたんだな……)
エレン「ん?」
エレン(窓の外に何か落ちてる)ヒョイッ
エレン「これは……!!」
エレンへ!
今夜二十四時、君をディナーに招待するよ♪
さっき君が話してた子も連れてきてるから。
心配しなくても危害は加えてないよ。
でも君が来なかったら……分かってるね?
場所は~
エレン「マルコ……!!」
ドサッ
エレン「誰だ!?」ガチャ
ジャン「ハァ……ハァ……」
エレン「ジャン!!」
ジャン「マルコが帰ってこねえんだ……お前、何か知らねえか……?」
エレン「……」
ジャン「くそっ!!」
ジャン「なんで「美食家」が……畜生、何でこうなる……!!」
エレン「あの人の狙いは俺だ」
エレン「俺が行ってマルコを助けてくる」
ジャン「俺も行く……」フラフラ
エレン「無茶言ってんじゃねえよ!! そんな状態で……」
ジャン「マルコがこんな目に遭ってんのに家で寝てられるかよ……!!」
エレン「……」
―――教会―――
ガチャ
ハンジ「エレン! よく来たね!」
ジャン「ふざけんなよてめぇ……!!」
ハンジ「あれ? えーと誰だっけ? 君を呼んだ覚えはないんだけど」
ジャン「マルコを返せ!!」
ハンジ「残念だけどそれはできないね」
ハンジ「彼は今宵の晩餐のス・パ・イ・スだ☆」
ハンジ「エレンに最高の鮮度で食べさせてあげたいんだよ」キラキラ
ジャン「はぁぁ!!?」
ハンジ「正確に言えば――」
ハンジ「エレン「が」食べながら、エレン「を」食べたい!!」
ハンジ「そうしたい!!」ワクワク
ジャン「何言ってんだ……!?」
エレン「へ、変態だ……!!」ゾワゾワ
ハンジ「変態? 心外だなぁ」
ハンジ「仮にそう感じるんだとすれば――」
スッ
エレン(!? 一瞬で――)
ハンジ「そうさせてるのは君なんだから、君が責任を取るべきだよ」
ハンジ「君は自分が美味しそうなことにもっと気づくべきなんだ」ニッ
エレン「……!!」
ジャン「ふざけんなっ!!」ガバッ
ハンジ「おっと」ドスッ
ジャン「ぐはッ!!」ドサッ
エレン「ジャン!!」
ハンジ「君はそこで休んでなよ」
エレン「うおおおおおっ!!!」ブンッ
ハンジ「まだまだぎこちないね」パシッ
エレン(止められた……!!)ゾクッ
ハンジ「いいかい? これが――」
バキッ
エレン「うッ!!」ズザァァ
ハンジ「本物の拳だ」
エレン「くっ……!!」ダッ
ハンジ「そしてこれが――」ヒョイッ
ゲシッ
ハンジ「本物の蹴りだよ」
エレン「うあああああッ!!!」ドサッ
エレン「はぁ……はぁ……」
ハンジ「さーて、次はどんな攻撃を受けたい――ん?」
ゴッ
ハンジ「……」
ミカサ「不意打ち、というのは?」シュタッ
エレン「ミカサ!!」
ハンジ「これは大変だ……」
ハンジ「久しぶりにかすり傷を負ったよ」フキフキ
エレン「効いてない……!!」
ミカサ「……!!」
ハンジ「昔の蹴りだったら今の傷も癒えるのに十秒はかかってたけど――」
ハンジ「学校に行くようになってから腕がなまったんじゃないかな?」ニヤッ
ミカサ「今のは挨拶代わり……だから!!」ダッ
ハンジ「いいね! こっちもいくよ――」ヒョイッ
エレン「俺もいるぞ!!」バキッ
ハンジ「!!」クラッ
ハンジ「……いい蹴りだね」ニヤッ
エレン「俺はあんたに食われるつもりはねーし、マルコを連れて帰る!!」
ハンジ「その意気だよエレン!」
エレミカ「はあああああッ!!!」ガバッ
パシッパシッ
エレミカ「!!」
ハンジ「ほいっと」ブンッ
ミカサ「かはっ……!!」ドサッ
ハンジ「……確か、こうかな?」ゴキッ
エレン「うあああああああっ!!!!」
ミカサ「エレン!!」
ハンジ「さーて、試食だ」ドスッ
エレン「あああああああッ!!!!!!」
ハンジ「まずは血から」ペロッ
ハンジ「!!」
ハンジ「この味は……!!」
ハンジ「舌の上で深く絡み合うハー---モニー!!!!」ブラボー
ハンジ「予想以上だ……!! だからこそ最高のコンディションで食べたい……!!」
エレン「うっ……」ハァハァ
ハンジ「さぁ早く彼を食べて! そして君を私が――」
ミカサ「させない!!」ガバッ
ハンジ「……」パシッ
ミカサ(見もせずに……!!)
ハンジ「残念だな……」ズズズ
ハンジ「今のミカサじゃ、私に適わないよ」ドスッ
ミカサ「あッ……」ガハッ
エレン「ミカサァァァ!!!」
エレン(目が赤い……肩から甲羅みたいなのが……)
エレン(ペトラさんやジャンの触手っぽいのとはまた違う……)
エレン(すげえ堅そうだ……先端は尖ってて、アレに刺されたらひとたまりも……!!)ゾッ
ハンジ「ディナーの邪魔だよ」スタスタ
エレン「やめろ……!! 喰いたいのは俺だろ!?」ゼェゼェ
ハンジ「忘れん坊かな? 私は食べてる君を食べたいんだよ」
エレン「なんで……そんな簡単に!! 人の命を……」ハァハァ
ハンジ「人間のほうが実は多くの命を奪ってるんだよ」
ハンジ「彼らと違って、喰種は人しか殺さない……ん?」
ハンジ「この傷痕は何だろう?」
ジャン「ハァ……ハァ……」ムクリ
ジャン「マルコ……」
ジャン(最初は非常食のつもりだった)
ジャン『エレンのクソ野郎……!! 傷が全然治んねえ……!!』ジタバタ
マルコ『ジャン!? どうしたんだ!?』
ジャン『肉だ……肉!』ハッ!
ジャン『テメェと友達ごっこやっといて良かったぜェェ!! 肉喰わせろ――』ガバッ
ジャン『……は、ダメだ……力入んねえ……』ドサッ
マルコ『ジャン……君は、喰種なのか……?』
ジャン(あーあ……通報されておしまいか……)
ジャン(つまんねえ人生だったぜ……)
マルコ『いいよ』
ジャン『!?』
マルコ『それで君が生きられるなら――』
ジャン『ウアアアアアア!!!』ガブッ
ジャン『……』
ジャン『……マズいから、いらね……』
ジャン「うおおおおおおおッ!!!!」ダッ
ハンジ「!?」クルッ
ジャン『バカじゃねえの、お前……』
マルコ『え……なんで?』
ジャン(人間を信じるなんてバカのやることだ)
ジャン(人間に騙されて通報され、処分された喰種をたくさん見てきた)
ジャン(俺の家族も……)ギリッ
ジャン(でも、こいつになら――)
ジャン(裏切られてもいいって思っちまった――)
ジャン「うらァァァァァ!!!」ブンッ
ハンジ「どういうつもりかな?」ドスッ
ジャン「うぐッ……」ドサァ
ハンジ「赫子も出さずに戦えると思ってるの?」
エレン(カグネ……喰種の捕食器官……)
エレン(触手みたいにぬるぬる動いたり……鋭く変形したり……アレで人間を襲うんだ)
エレン(ペトラさんは腰から……ジャンは確か尻尾だった……)
エレン(それぞれ形が違うんだよな……)
ハンジ「喰種の強さは赫子に大きく依存する」
ハンジ「赫子がエンジンなら、人間はガソリンだ」
ハンジ「美味しいもの食べてないと強くなれないよ?」
ミカサ「……あの人の言う通り……」フラフラ
エレン「ミカサ!!」
ミカサ「サシャの手料理がここで効いてくるとは……」ハァハァ
ハンジ「さてと、余興は十分だよね」
ガシッ
ジャン「やめろ……」ハァハァ
ハンジ「君もしつこいなぁ」アキレ
ジャン「マルコに手ェ出したらぶっ殺す……!!」ギロッ
ハンジ「わかんないな……」
ドスッドスッ
ジャン「あッ……ぐ……」ゲホゲホ
ハンジ「仲良くしようよ、ね?」
エレン「くそっ、このままじゃ……」ハッ
エレン(人間の肉はガソリン……それじゃあ……)
エレン「ミカサ……頼みがある」
ドスッドスッ
ハンジ「まいったな……これじゃ殺しちゃうよ」
エレン「ハンジさん!!」
ハンジ「うん?」クルッ
ミカサ「……覚悟はいい?」
エレン「……ああ」
ガブッ
エレン「――――ッ!!!」
エレン(いっっっってえ!!! けど―――)
ミカサ「……」ゴクン
ハンジ「ああああああああ!!!!」
ハンジ「エレンは私のものだよ!!」ズズズ
パシッ
ハンジ「!!」
ミカサ「……あなたには」ズズズ
エレン(初めて見たミカサの赫子――)
ミカサ「これ以上何も奪わせない……!!」バサッ
エレン(……翼が生えてる、みたいだ……)
ミカサ「私は……戦う!!」ヒュオッ
ハンジ「……!!」バチッ
ドドドドドッ
ハンジ「うっ……!」ドサッ
エレン(すげえ……!! 射撃まで……!!)
ハンジ「ふッ……あはははは!!!」
ハンジ「嬉しいよミカサ……全力の君と戦えて!」
ハンジ「相性の良い羽赫相手にここまでダメージを食らうとはね……!!」
ハンジ「思わぬ前菜に感謝するよっ!!」ズズズ
ミカサ「……」ヒュンッ
ハンジ「!?」
ミカサ「ハァァァァァッ!!!!!」ドドドドド
ハンジ「うあッ……!!」ズザァ
ハンジ「ハァ……ハァ……やっぱり強いね……」
ハンジ「やむを得ないな……全く不本意だけど――」クルッ
エレミカ「!!」
ハンジ「戦略的――咀嚼ッ!!」ダッ
ガシッ
ハンジ「!!」
ジャン「……」
ハンジ「君……すごいね、ゾンビ並みの生命力だよ……!!」ゲシッゲシッ
ジャン「マ……ルコ……」ハァハァ
マルコ「……? ここは……」
ハンジ「いい加減に――」
ザンッ
ハンジ「」
ミカサ「……」シュタッ
ハンジ「はは……あははははッ!!!」
ハンジ「いけないな……これは……」
ハンジ「治すのに非常に時間がかかりそうだ……」
ハンジ「エレン……後生だ……一口だけ……」フラフラ
ドスッ
ミカサ「自分の肉でも食べてるといい」
エレン「……」
エレン「終わった……のか……?」
ジャン「ハァ……ハァ……」ズルズル
ジャン「マルコ……待ってろ……」
ジャン「今、助けてやっから……」
バサッ
エレン「!!」
ミカサ「ジャン、そこをどいて」
エレン「ミカサ……?」
ミカサ「あなたもエレンも正体がばれてる」
ミカサ「こんな危険人物を生かしておくわけには――」
ジャン「やめ、て……くれ……」ハァハァ
ミカサ「……」
エレン「ミカサ!! ダメだ!!」
エレン「そいつは……俺にとってのアルミンや……」
エレン「お前にとってのサシャみたいな存在なんだ!! 分かるだろ!?」
エレン「もしそこにいるのがマルコじゃなくサシャだったら……」
エレン「お前はサシャを殺せるのか!?」
ミカサ「……!!」ハッ
ミカサ「私は……そうならない為に」
ミカサ「彼を消す必要がある……!!」ドドドド
エレン「ミカサ!!」
ジャン「うあああああッ!!!!」
マルコ「ジャン……!?」ハッ
マルコ「その羽……」
ミカサ「……」
マルコ「綺麗、だね……」
ミカサ「……!!」
ミカサ「……そんなこと……」スタスタ
エレン「ミカサ……!」
マルコ「……」ハッ
マルコ「ジャン! ジャン! しっかり――」ユサユサ
ジャン「生きてるよ……なんとかな」ハァハァ
マルコ「ジャン、よかった……」グスッ
――喫茶店「あんていく」――
エレン「お前、制服似合わねえな」
ジャン「うるっせえよ」
アルミン「ブーッww 何でジャンが!?」
ジャン「……色々あるんだよ」
エレン『マルコの為にも、もう人を殺すのはやめた方がいいと思う』
ジャン『……ああ』
エルヴィン『うちで提供する食事なら、喰種として比較的罪を犯さずに済む』
エルヴィン『その代わり対価はいただくよ。君の労働だ』
アルミン「もしかしてミカサを狙ってるの?」ゲスゲス
ジャン「はぁ!? そっそんな訳ねーだろ//」
アルミン「ふーん……そういえば、ミカサはまだ体調悪いの?」
エレン「……ああ」
エレン(ミカサはあの日以来、店を休んでいる)
ミカサ「あの時……殺せなかった。どうして……」
ピンポーン
エレン「なぁミカサ、明日のシフトのことなんだけどな――」
ミカサ「……休む」
エレン「そうか……」
ミカサ「私は……彼を殺せなかった」
エレン「……なあ、お前も思ったはずなんだ」
エレン「あんな風に、喰種である自分を受け入れてくれたら――」
ミカサ「……」
エレン「……悪い」
エレン「じゃあ、店長に伝えとく」
エレン(もしも受け入れてもらえなかったら……?)
エレン(もう二度と元には戻れない。俺とアルミンも――)
クリスタ「私、お父さんとお母さんに会いたいよ」
ユミル「……ごめんな、クリスタ」
ユミル「明日、買い物行こうぜ。欲しいもの何でも買ってやるよ」
クリスタ「いいよ、そんなの……」
ユミル「……そうか」
クリスタ「あ、そうだ……!」
クリスタ「私もユミルに何かプレゼントしたいな。いつも助けられてばっかりだから……」
ユミル「ありがとな」ナデナデ
アルミン「ほほえましいなあ」
ジャン「何だあいつら、デキてんのか?」
エレン「クリスタは両親と離れて暮らしてるんだ」
エレン「ユミルは小さいころからよく面倒を見てやってる」
ジャン「へえ、親代わりか……」
ジャン「つーかお前、ミカサといつの間にあんな仲良くなったんだよ」
エレン「仲良くってか、一緒に働いてるんだから当たり前だろ」
ジャン「あーそうですか」
アルミン「そんなにミカサが気になるならお見舞いに行けばいいのに」
ジャン「ばっ……逆効果だろ、俺が行っても……」
ジャン「……マルコのことなんだろ」ボソッ
エレン「……ああ」ボソッ
アルミン「逆効果?」
ジャン「あーアルミン! お前そろそろ授業だろ」
アルミン「そうだった! じゃあまたね!」ダッ
エレン(ミカサは相変わらず元気ないけど……)
エレン(平和になったよな、なんか……)
エレン(この平和が続けば……)
ガヤガヤ……
クリスタ「いっぱい買っちゃった」ルンルン
ユミル「クリスタ、次はどこ行きたい?」
捜査官「――発見したら、ぜひご連絡を――」
ユミル「!!」
ユミル「クリスタ、帰るぞ」ギュッ
クリスタ「え? 私まだ――」
捜査官「……」コクッ
クリスタ「ちょっと、ユミル!」
ユミル「ごめんな、用事思い出して――」
クリスタ「……あ!!」
ユミル「……?」
クリスタ「お父さんとお母さんの匂いがする……!!」ダッ
ユミル「クリスタ、待て!!」ダッ
クリスタ「迎えに来てくれたんだ……!!」
パラパラ……
エレン(雨降ってきたな……)
クリスタ「お父さん! お母さ……ん?」
ユミル「クリスタ!!」
クリスタ「何? このにおい……」
ベルトルト「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
アニ「手早く済ませるよ」
捜査官「見つけた……!!」ダダッ
ユミル「……」ズズズ
クリスタ「ユミル……?」
ユミル「クリスタ、逃げろ」
クリスタ「え……」
ユミル「大丈夫だ。先に「あんていく」で待ってろ」
ユミル「私もすぐに行くから――」
クリスタ「嫌だ!! 私はユミルと一緒が――」
ユミル「行けッ!!」
クリスタ「……!!」
クリスタ「うっ……」ダッ
捜査官「待て!!」
ユミル「行かせるか!!」バシッ
クリスタ「誰か……誰か!!」ダダダッ
クリスタ「エレン……ミカサ……!!」ハァハァ
クリスタ「あっ!!」ドサッ
エレン(今日は、クリスタとユミルが買い物に行ってるんだよな……)スタスタ
クリスタ「ユミル……」ウッ
クリスタ「ユミルううううう!!!!!」
つづく
クリスタ「はぁ……はぁ……」ダッ
ドンッ
女性「気をつけなさいよ!」
クリスタ「ごめんなさい……」
エレン「?」
エレン「クリスタ!!」ダッ
クリスタ「エレン!」
エレン「どうした!? 何があった!!」
クリスタ「ユミルが……!!」
エレン「場所は!?」
クリスタ「あっち……」スッ
エレン「行くぞ!!」ダッ
ユミル「ハァ……ハァ……畜生……」フラフラ
アニ「あとは私がやるよ」スッ
アニ「……仲間のために命を投げうつ」
アニ「喰種が……人間の真似事でもやってるつもりかい?」カチャ
ユミル「お前……それは!!」
ユミル「クリスタの両親の赫子じゃねえか!!」
アニ「……その通りだよ」ズズズ
ユミル「ふざけんなああああ!!!!」
エレン(俺が行って……いったい何ができる!?)タタタッ
クリスタ「いた! ユミル――」モガッ
エレン「お前は隠れてろ!! 見つかるぞ――」
エレン(あれは……「箱持ち」の白鳩!!)
エレン(なんで……アタッシュケースから赫子が!?)
エレン「くそっ―――」
アニ「最期に、何か言い残したいことはあるかい?」
ユミル「……」ハァハァ
ユミル「クリスタ……」
生、き、ろ。
エレン「―――!!」
ザシュッ
クリスタ「ん――――!!!!」ジタバタ
エレン「……ッ!!!」
エレン(俺に出来たのは)
エレン(その光景をクリスタに見せないようにすることだけだった――)
――喫茶店「あんていく」――
ミカサ「……閉まってる。 何故……?」スタスタ
ガチャ
一同「……」
ミカサ「あの……これは?」
エルヴィン「ミカサ。もう具合は大丈夫なのかい?」
ミカサ「はい。何日も休んで、すみませんでした」
ミカサ「……何かあったんですか?」
エルヴィン「実は――」
ミカサ「ユミル……!!」
ミカサ「……っ!!」ダンッ
ミカサ「クリスタは無事なんですか!?」
エルヴィン「今は部屋で休んでいる」
ミカサ「……顔を見られたんですか?」
エルヴィン「……ああ」
ミカサ「そんな……」
エルヴィン「クリスタは、時期が来たら24区に移そうと思っている」
ミカサ「あんな掃き溜めみたいな場所にクリスタを一人で……!?」
ミカサ「……それよりも、白鳩を殺せばいい……!!」
リヴァイ「冷静になれ、ミカサ」
ミカサ「でも……!!」
リヴァイ「20区の白鳩が殺られたら、連中はすぐに次を送り込んでくる」
リヴァイ「俺たちを狩り尽くすまでな」
エルヴィン「リヴァイの言うとおりだ。彼らに手を出してはならない」
ミカサ「仲間が殺されたのに黙っていろと……?」ワナワナ
ミカサ「……冗談じゃない」バタンッ
ジャン「おっおいミカサ!」
エレン「あの時駆け付けたのが俺じゃなくてミカサだったら……」
エルヴィン「自分を責めるのはやめるんだ」ポンッ
エレン「……はい」
エレン(何もできなかった――)
エレン(俺は、無力だ……)
捜査官「大食いも美食家も、最近なりを潜めてますね」
アニ「こういう時は、追っても徒労に終わることが多い」
アニ「明日からまた地道な捜査に逆戻りだね」スッ
ベルトルト「あっアニ、今晩食事でも――」
アニ「遠慮しとくよ」
ベルトルト「あ……」
アニ「そうだ、今日取り逃がした喰種には顔を見られている」
アニ「気を付けるんだよ」
捜査官「ははっ、そんなに強そうには見えませんでしたよ」
捜査官「お姫様って感じで。喰種でさえなければなぁ」アハハ
ベルトルト「……」
―――喰種対策局「CCG」前―――
ウィーン
捜査官「……」スタスタ
ミカサ(あいつらか……)タッ
捜査官A「しかし、本局の人たちは優秀だよなあ」
捜査官B「俺たちヒラとはレベルが違うっつーか」
捜査官A「でもあの人たち見てると、なんかやる気が湧いてき――」
ザシュッ
捜査官A「……え?」ドサッ
ミカサ「……」シュタッ
捜査官B「うわああああ!!!!」
ベルトルト「どうした!?」ダッ
ミカサ「……」ケリッ
ベルトルト(兎面の喰種……!!)カワシ
ミカサ「……」バサァ
ベルトルト(羽赫……!! 瞬発型の喰種か!)
ドドドドッ
ベルトルト「くッ……!!」
ミカサ「……」ゲシッ
ベルトルト「うっ!!」ドサァ
ベルトルト(こんなところで……)
ベルトルト(……いや)スクッ
ベルトルト「敵を前にすれば……手足をもがれても戦え!!」ダッ
ズズズ
ミカサ「!!」バシッ
アニ「……その意気だよ」
アニ「でもクインケを忘れるのは良くないね」
ベルトルト「アニ……!」
アニ「あんたは下がってな」
ミカサ「……」ジッ
アニ「あんたは昨日始末した喰種の仲間かい?」
ミカサ「……」
アニ「取り逃がした喰種のことを教えてほしい」
アニ「友達がいなくて寂しがってるだろうからね」
ミカサ「このッ……!!」ダッ
アニ「……かかった」ザシュッ
ミカサ「うっ……!!」ズキズキ
ミカサ(傷が深い。逃げるしか――)バサッ
アニ「逃がさないよ」ズズズ
ミカサ「はぁ……はぁ……」バサバサッ
アニ「……さすがに速いね」
アニ(ラビット……羽赫の喰種、か……)
――喫茶店「あんていく」――
クリスタ「……」ウーンウーン
エレン「クリスタ……」
ガシャアアン
エレン「何だ!?」ダッ
エレン「ミカサ……!! その腕は!?」
ミカサ「大丈夫……」サスサス
エルヴィン「……白鳩に手を出したんだね」スッ
エレン「早く手当てを――」
エルヴィン「駄目だ」
エレン「え……?」
エルヴィン「駄目だと言っている」
エレン「何言ってるんですか!!」
エルヴィン「白鳩に手を出したということは、すべての責任を一人で負う覚悟をしたということだ」
エルヴィン「生きるも死ぬも他人が関与することではない」
エレン「そんな……!!」
ミカサ「……」ダッ
エレン「ミカサ!」
エルヴィン「よすんだ、エレン」
エレン「……きっと店長にはいろんなものが見えていて、そのうえで判断されてるんだと思います」
エレン「でも俺には喰種の掟のことは何にもわからない」
エレン「だから俺は、自分の目で見て判断したいんです」ダッ
エルヴィン「……」
エレン「ミカサ、手当てしねーと……」
ミカサ「……いい」
エレン「よくねえよ! 何で一人で……」
ミカサ「クリスタにとって、ユミルは大切な存在だった」
ミカサ「自分が間違っていることはわかる」
ミカサ「それでも……」
エレン「……」
エレン「俺には人を殺すことはできない」
エレン「お前が正しいとも、捜査官が間違ってるとも思わない」
エレン「でも……ユミルの最期を見て強く思った」
エレン「人が死ぬのも、喰種が死ぬのも……俺の知ってる人だったら耐えられない」
エレン「俺は、お前に死んでほしくない」
ミカサ「……!!」
エレン「……俺に手伝えることはないか?」
エレン「何もできないのは、もう嫌なんだよ」
―――喰種対策局「CCG」―――
――黙祷!
ベルトルト「……」
アニ「……」
捜査官B「……」
捜査官B「あいつ、あなた達のこと尊敬してたみたいですよ」スタスタ
ベルトルト「僕なんか、別に……」
捜査官B「この店、あいつとよく行ってたんですけど……」
捜査官B「……はは、奢る相手がいなくなっちまったな……」
アニ「じゃあ私たちに奢ってもらうよ」
ベルトルト「えっ!?」
アニ「私はよく飲むから、覚悟しなよ」
捜査官B「……給料が飛んじまいますよ」
ベルトルト「アニは、どうして喰種捜査官に?」
アニ「つまんない理由だよ」
アニ「……両親を喰種に殺された」
ベルトルト「……」
捜査官B「……」
アニ「あんたは?」
ベルトルト「僕は、市民の安全を守るために……」
アニ「つまんない理由だね」
ベルトルト「はは、そうだよね……」
捜査官B「俺からすれば二人とも立派ですよ」
捜査官B「俺も、死んだあいつも、大した志なんか持っちゃいなかった……」
ベルトルト「……あの人が殺されていい理由なんかなかった」
ベルトルト「どうして喰種なんてものが存在するんだろう」
ベルトルト「そのせいで死んでしまったり、悲しむ人たちがいっぱいいるのに」
ベルトルト「喰種を一匹残らず駆逐すれば、世の中はもっとよくなるはずなんだ」
ベルトルト「二人もそう――」
アニ「……へ?」ポケー
ベルトルト「えっ」
捜査官B「俺、お勘定払って帰りますね」ニヤニヤ
ベルトルト「えっ!? ちょ――」アタフタ
アニ「うーんもう飲めにゃい」ヘベレケ
アニ「……」スヤスヤ
ベルトルト(女子の部屋に入ってしまった……)ドキドキ
ベルトルト(もう帰らないと――)
ギュッ
アニ「……行かないで」
ベルトルト「え……」
アニ「お父さん……」ポロポロ
ベルトルト「……」
ベルトルト(この世界は間違っている)
ベルトルト(……変えてみせる。僕が――)
チュンチュン……
アニ「……本当に何もしてないんだね?」
ベルトルト「ほ、本当だよ!」アセアセ
アニ「……そう」
ベルトルト「えっと……」
アニ「私はそろそろ出る」
アニ「着替えるから、出てってくれないかい」
ベルトルト「あっ、はい……」
―――喰種対策局「CCG」―――
ベルトルト「……はぁ」
ライナー「どうしたんだ? パートナーのことか?」
ベルトルト「そうなんだ。彼女はすごい優秀だけど、協調性に欠けるっていうか」
ライナー「おいおい、お前が悩んでるのはそんなことじゃないだろう」ハハッ
ベルトルト「いや、それは……」
ライナー「そういえば、お前らが追ってる喰種のことで昨晩通報があったらしいな」
ベルトルト「え!?」
ライナー「声も震えてたしイタズラだろうと思われてるが、一応耳に入れておこうと思ってな」
ベルトルト「内容は……?」
アニ「下水路……か」
ベルトルト「真偽のほどは定かじゃないけど――」
アニ「クインケが使いにくい場所だね」
ベルトルト「僕たちを誘い込むつもりなのかな」
アニ「仮に罠だったとしても」
アニ「先日取り逃がした喰種と「ラビット」をまとめて始末出来ればそれに越したことはない」
ベルトルト「この下水路はかなり広いみたいだ」
アニ「二手に分かれるのがいいだろうね」
ベルトルト「二手に……」
アニ「あんたに心配される筋合いはないよ」
ベルトルト「でも……」
アニ「……」ガシッ
ベルトルト「うわっ!?」ドキッ
アニ「……あんたは、デカすぎるね」
チュッ
ベルトルト「えっ……」
アニ「昨日のお礼……深い意味はないから。行くよ」スタスタ
ベルトルト「……」ボウゼン
――喫茶店「あんていく」――
クリスタ「うっ……」グスグス
クリスタ「……?」クンクン
クリスタ「ユミル……?」
エレン「……あいつら、本当に来ると思うか?」
ミカサ「……分からない」
ミカサ「クリスタの様子を見に行ってくる」
ミカサ「クリスタ……?」ガチャ
ミカサ「……!!」
エレン「いたか!?」
ミカサ「駄目。一体どこへ……!?」
エレン「くそっ、何で窓から――」
ミカサ「とにかく二手に分かれよう」
エレン「ああ」
エレン(もう誰も――)
クリスタ「ユミル……」フラフラ
クリスタ「……」クンクン
クリスタ(こっちから匂ってくる……)
ピタッ
クリスタ(カバン?)
クリスタ「……あ」
クリスタ「嫌ぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!!」
エレン「!! 近い……!!」キョロキョロ
エレン「あ……!!」
ミカサ「……」ダダダッ
ベルトルト「……」ダダダッ
エレン(ミカサ! と……あの時の!!)
エレン(マズイ……!!)
ミカサ「クリスタ……!!」ヒュンッ
ベルトルト「あの身のこなし……ラビット!!」
エレン「待て!!」
ベルトルト「!?」
エレン(ミケさんに作ってもらったマスク……使う日が来るなんてな)スチャ
ベルトルト「君は……?」
クリスタ「……」グスグス
ミカサ「クリスタ……! 何で下水路に」
ミカサ「……それは?」
クリスタ「ユミル……」ギュ
ミカサ「!!」
ミカサ(奴らが……嗅覚を利用しておびき寄せるために……!!)
ミカサ「早く出よう。ここは危ない」
クリスタ「嫌だ!!」
ミカサ「……」
クリスタ「……喰種って、生きてちゃいけないの?」
クリスタ「ユミルのところに行きたい。連れて行ってよ……」
ミカサ「クリスタ……」ギュ
ピチャ……ピチャ……
ミカサ「!!」
アニ「……連れて行ってあげようか」
ベルトルト「君は「ラビット」の仲間かい?」
エレン「……」
ベルトルト「君に構ってる暇はないんだ。そこを退いてもらうよ……!!」
エレン「うおおおおおおおッ!!」ブンッ
ベルトルト「……」ヒョイッ
エレン「くそッ……!!」
ベルトルト「やる気みたいだね……!!」ガチャ
エレン(こいつも……アタッシュケースから赫子を……!!)
エレン(なんだ!? ハンマーみたいな形してやがる……喰らったらやばそうだ!!)
ベルトルト「邪魔をしないでくれ……!!」ブンッ
エレン「……ッ」カワシ
エレン(っ!? 風圧だけで――)ブワッ
エレン「うぐッ!!」ドサッ
アニ「偽情報で私たちをおびき出すなんて、甘いにもほどがあるよ」
ミカサ「くっ……」
アニ「あんたたちはまとめて駆逐する」カチャ
ミカサ「させるかァァァァァァッ!!!!」バサッ
ドドドドドッ
アニ(連射は脅威だけど、防げないほどじゃない……)バシッ
アニ(羽赫は長期戦には向かない。消耗しきったところを叩く……!!)ズズズ
ドスッ
アニ「!!」
ミカサ「あなたの武器はリーチはある。だけどこの場所ではあちこち刺さって使いづらい……」ガズッ
アニ「うっ!!」ドサッ
ベルトルト「君たちに一度訊いてみたかったことがあるんだ」
ベルトルト「何の罪もない人たちの命を欲望のままに喰らう化け物」
ベルトルト「君たちは何で存在しているんだ……?」
ベルトルト「親を殺された子供……」
ベルトルト「残された人の悲しみ……」
ベルトルト「君たちはそれを考えたことがあるのか……?」
エレン「……」
ベルトルト「答えてくれ……!!」
ミカサ「わけもなく命を狙われる恐怖が、あなたたちに分かる?」
ミカサ「大切な人を殺され……」
ミカサ「残された人の悲しみ……」
ミカサ「あなたに分かる?」
アニ「……分からないね。化け物の気持ちなんか」
ミカサ「……ッ!!」
ベルトルト「僕の仲間は「ラビット」に殺された」
ベルトルト「どうして彼が殺されなければならなかったんだ……?」
ベルトルト「捜査官だから?」
ベルトルト「人間だから?」
ベルトルト「教えてくれ……!!」
ミカサ「ユミルはあなたに殺された」
ミカサ「どうしてユミルが殺されなければならなかったの?」
ミカサ「彼女は……すべてクリスタのために……」
ミカサ「クリスタはどうしてこんな思いを……」
ミカサ「……教えて」
ベルトルト「喰種さえいなければ――!!」ゴッ
ミカサ「捜査官さえいなければ――!!」バサッ
エレン「うあッ!!」ドサッ
ベルトルト「この世界は間違っている」
ベルトルト「歪めているのは――君たち喰種なんだ……」スタスタ
エレン(……駄目だ……)
エレン(こいつを行かせちゃ……駄目だ……!!)グッ
アニ「……」カチャ
ミカサ「……それは!!」
アニ「クインケは喰種の赫子から作るものだからね」ズズズ
クリスタ「ユミル……」
クリスタ「嫌ああああああっ!!!!!」
エレン(喰種が世界を歪めている……?)
エレン(本当にそうなのか……?)
エレン(大事な人を失ったのは……クリスタだって一緒じゃねえか……)
エレン(喰種にだって感情はある……)
エレン(何で人間はそこに目を向けないんだ……?)
エレン(……)ハッ
エレン(……俺だけだ)
エレン(それに気づけるのは――それを伝えられるのは――)
エレン(喰種の俺だけだ)
エレン(人間の俺だけだ)
エレン「……違う」フラフラ
ベルトルト「……?」
エレン「間違ってるのは、世界じゃねえ……」ハァハァ
ミカサ「くっ……!!」バサッ
アニ「……」ガシッ
ミカサ「う……あッ!!」ギリギリ
クリスタ「ミカサ!!」
アニ「そこかい」ガシッ
クリスタ「きゃっ!!」
ミカサ「やめ……」ジタバタ
ミカサ(ここで……終わるわけには……!!)
ベルトルト「何だって?」
エレン「もっと知るべきなんだ……喰種も人間も」
エレン「間違ってるのは……歪めてるのは……人間だってそうだろ!!」
ベルトルト「何を言ってるんだ、君は……?」
エレン「分かんねえよな……」
エレン「だったら、分からせてやるよ……!!」キッ
ベルトルト「喰種は……存在自体が悪なんだ!!」ゴッ
エレン「うぐッ!!」ドサッ
エレン「ハァ……ハァ……まだだ……」フラフラ
ベルトルト「うおおッ!!」ゴッ
エレン「グハッ!!」ドサッ
エレン「……ここは……通さねえ……!!」フラフラ
ベルトルト「君は……何なんだ!?」
エレン(争っちゃ駄目なんだ……)
エレン(断ち切るんだ!! 今、ここで……!!)
ミカサ「自分が喰種だったらどう思う……?」ハァハァ
ミカサ「人しか食べられないなら、そうするしかない……」
ミカサ「こんな体でどうやって生きろっていうの……?」
ミカサ「私だって……あなたたち人間みたいに生きたかった……!!」
アニ「黙れッ!! 聞きたくない――」ブンッ
クリスタ「きゃあ!!」
ミカサ「クリスタ――!! っこの……!!」グググ
ザシュッ
アニ「――ッ!!」
ミカサ「クリスタ……?」
クリスタ「もう……やめて……」ズズズ
クリスタ「ミカサを傷つけないで……」
クリスタ「ユミルをそんな風にしないでええええ!!!」バシバシッ
アニ「……っ!! 強い……!!」ハァハァ
エレン「……」ハァハァ
ベルトルト「もう……気は済んだだろ?」
エレン「……」ガシッ
ベルトルト「ぐっ……君は、どうして……!!」
エレン(どうすれば分かってもらえる?)
エレン(やっぱ、そうするしかねえよな……)
エレン(ペトラさん……)
エレン(今だけは、俺の中のあなたを受け入れます……!!)ガバッ
ベルトルト「!?」
ガブッ
ベルトルト「ウッ……!!」ドサッ
エレン「ハァ……ハァ……」ズズズ
ベルトルト(赫子……!!)
クリスタ「……」グスグス
ビシッバシッ
アニ(無意識で赫子を動かしている……?)
アニ(両親の優秀な部分を受け継いだ複合型……)
アニ(攻守ともに、隙がない!!)
ミカサ「クリスタ……」ハァハァ
クリスタ「お父さん……お母さん……」
クリスタ「ユミル……!!」ズズズ
ドスッ
アニ「うっ……!!」グハッ
アニ「ハァ……ハァ……」ドサッ
クリスタ「……」グスグス
ベルトルト「このッ……!!」ブンッ
エレン「……」ヒョイッ
ベルトルト(クインケを狙っている!?)
エレン「うおおおおッ!!!」バシィ
ガシャアアン
ベルトルト「!!」
エレン(これで……こいつはもう戦えない)
ベルトルト(クインケ無しではもう……)
ベルトルト「……いや! 敵を目の前にしたら手足をもがれても――」
エレン「逃げろ!!」
ベルトルト「な、何を言ってるんだ君は!?」
エレン「このままだと……俺はお前を殺しちまう……!!」ユラユラ
エレン(食欲に飲まれそうだ……赫子の制御ができない!!)
エレン「俺を……人殺しにしないでくれ……!!」
ベルトルト「……!!」
アニ「……」ハァハァ
ミカサ「クリスタ……早くとどめを……」
ミカサ「彼女はユミルの仇……」
クリスタ「……復讐なんて、どうでもいい」
クリスタ「私はただ悲しいだけ……」
クリスタ「お父さん……お母さん……」
クリスタ「ユミル……会いたいよ……!!」
ミカサ「クリスタ……」
アニ「……あんたら、化け物に……」
アニ「生きる価値なんか……無い……!!」ズルズル
ミカサ「……!!」
アニ「私は……許さない……」
アニ「両親の仇……喰種を……絶対、に……」ドサッ
ミカサ「……」
ベルトルト「喰種を前にして逃げられるわけが――」
エレン「ウアアアッ!!! 早く逃げろオオオオッ!!!」バシッ
ベルトルト「うっ!!」ドサッ
ベルトルト(何故……僕を見逃したんだ……?)
ベルトルト(眼帯マスクの喰種……)
ベルトルト(……今はそれより、アニの元へ……!!)ダッ
エレン「はぁー、はぁー……」
エレン「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」ズルズル
エレン(駄目だ……抑えられない……!!)
エレン「肉、肉、肉肉肉肉にくにくにくにく――――」ギラギラ
スッ
エレン「!?」
エレン「誰……か し ら?」
エレン「私、いま――」
エレン「すごく お腹が すいてるの――――」ドスッ
エレン「……あ」
リヴァイ「……」パシッ
リヴァイ「……エルヴィンがお前に目をかける理由が分かった」
リヴァイ「俺もお前がこれから何を為すのか、興味がある」
エレン「リヴァイ、さん……」
リヴァイ「帰ってこい、エレン」
エレン「俺、なんて、ことを……」
リヴァイ「喰え。楽になるぞ」スッ
エレン「……はい……」
ミカサ「両親の、仇……」
ミカサ(彼女にも、家族が――)
エレン「ミカサ! クリスタ!」
リヴァイ「早く帰るぞ」
ミカサ「……ええ。クリスタ、行こう」
ベルトルト「……アニ?」
アニ「」
ベルトルト「……うっ」ギュッ
ベルトルト「うわあああああああっ!!!!!!!」
スタスタ……
クリスタ「……私、生きてていいのかな」
ミカサ「……」
リヴァイ「……」
エレン「……クリスタ」
クリスタ「なに……?」
エレン「あの時、ユミルは――」
エレン「生きろって、そう言ったんだ」
クリスタ「……!!」
クリスタ「……うん」グスッ
つづく
これトーカの弟とか真戸の娘とかどうするんですかね
>>177
そういうこと言っちゃダメ
アニ『敵を前にしたら、手足をもがれても戦え』
ベルトルト『……え?』
アニ『私は、あの時逃げだしたから』
アニ『両親が喰われるのを見て』
ベルトルト『……』
アニ『だから、もう逃げたくないんだよ』
ベルトルト『……そうだね』
ベルトルト「……」
ライナー「よう、今からアニの所か?」
ベルトルト「……うん」
ライナー「なあ、あいつはお前のことを――」
ベルトルト「いや、いいんだ」
ベルトルト「ありがとう」
ライナー「……そうか」
ライナー「……近いうちに11区で動きがあるらしい」
ライナー「忘れろとは言わんが、気を引き締めてかかれよ」
ベルトルト「……」
ベルトルト(11区か……)
――喫茶店「あんていく」――
――昨夜、11区の路上で多数の変死体が……
ジャン「うへえ、物騒だな」
クリスタ「行ってきます」ガチャ
エレン「え? クリスタ……だよな?」
クリスタ「ミカサに色々借りたの。今からリヴァイさんとお買い物」ニコッ
エレン「そっか。気をつけろよ」ヒラヒラ
エレン(クリスタはミカサと一緒に暮らすことになった)
エレン(まだ夜中に悪夢で目を覚ますことがあるらしいけど)
エレン(これからゆっくりと立ち直っていければいいと思う)
ガシャアアン
エレン「うわ、やべ……」
ジャン「あーお前また皿割ったのかよ、使えねー奴だな」
エレン「お前な、俺一応先輩だぞ!」
ジャン「お前みたいな使えねー奴が先輩とかクソやる気失せるわ」
エレン「俺だってお前みてーなクソ生意気な後輩いらねーよ!」
コニー「お前らなーいい加減にしねーと俺も怒るぞ」
コニー「かつて20区を沸かせたコニーさんの伝説は知ってんだろ?」ニヤリ
ジャン「……」
エレン「……」
ジャン「クソエレン!」
エレン「クソジャン!」
ジャン「お前オウム返ししかできねーのかよ」プゲラ
エレン「うるせえな!」
ガシャアアン
ミカサ「あ……ごめんなさい」
ジャン「ミカサ! 大丈夫かよ?」
エレン「お前俺の時と態度違いすぎんだろ!」
ミカサ「大丈夫……」
エレン(ミカサはあの事件以降あまり元気がない)
エレン(ユミルの仇とはいえ、人を殺すのにいい気持ちはしないよな……)
アルミン「なんだか最近、11区でいろいろ起こってるみたいだね」
ジャン「あー、ニュースでやってたな」
――CCGは、11区と20区の捜査員を増員し……
アルミン「……20区ってそんなに物騒なのかな?」
ジャン「さぁな」
アルミン「……バランス崩れちゃったのかな」
エレン「え?」
アルミン「僕は20区には喰種の組織みたいなものがあるんじゃないかと思うんだ」
ジャン「!」
エレン「……何でそう思うんだ?」
アルミン「他の区に比べて捕食件数が極端に少ない」
アルミン「これは、喰種同士で連携が取れてるからじゃないかなって」
アルミン「大食いも美食家も捕食が活発な時期に行方不明になってる」
アルミン「これは、CCGに睨まれそうになったから組織が粛清を行ったのかも……」
ジャン「おい、こいつ……!」ボソッ
エレン「待ってくれ!」ボソッ
アルミン「どうしたの? 二人とも、顔色が悪いよ?」
エレン「あーあのさ、アルミンは結構喰種に興味あるんだな」
アルミン「あるよ」
エレン「……!」
ジャン「くそ……」ボソッ
アルミン「それはね……」
アルミン「この本に載ってた喰種特集がすごく面白かったからなんだ!」スッ
ジャン「……は?」
エレン「え?」
アルミン「喰種の上京物語とか、髪の毛の生え方とか――」キラキラ
ジャン「ははっ、こいつ結構ミーハーなんだな」
エレン「……ああ」
アルミン「あ、そろそろ授業だ……またね」ガチャ
エレン「おう」
アルミン「……気を付けてね」
―――喰種対策局「CCG」―――
ベルトルト「特別対策班……?」
ライナー「ああ。11区……俺と一緒だ」
ベルトルト「……僕は」
ライナー「分かってる。「ラビット」だろ?」
ライナー「でも、まずは目の前の敵に集中だ」
ベルトルト「……うん」
――喫茶店「あんていく」――
ジャン「へえ、11区って色々やべーのな」
コニー「リヴァイさんの話じゃ、喰種が連携して捜査官を狩りまくってるらしいぜ」
コニー「このままだと大変なことになるかもな」
エレン「大変なこと……?」
コニー「……戦争とか」
コニー「こりゃ俺の伝説が復活する日も近いな……」ニヤリ
ジャン「……」
エレン「……」
ジャン「なあ、ミカサは?」
エレン「部屋にいるんじゃねえの?」
ジャン「いるんじゃねえのってお前……」
エレン「心配なら様子見てこいよ」
ジャン「……女子の部屋に入れるかよ」
エレン「俺は入ったことあるぞ」
ジャン「はぁ!? ふざけんなよてめぇ! 死ね!」
エレン「なんでだよ!?」
―――11区―――
捜査官「」
エルヴィン「……酷いな」
エルヴィン「彼らの情報は?」
リヴァイ「奴らは「アオギリの樹」を自称する喰種集団」
リヴァイ「正確な構成人数は不明だが、かなり大規模な組織だ」
リヴァイ「中には「ジェイソン」の野郎もいる」
エルヴィン「……そうか」
エルヴィン「リヴァイ、あんていくに帰ろう」
――喫茶店「あんていく」――
エレン「最近客こねーな」
ミカサ「白鳩が増員されたから」
ミカサ「こういう時は、みんな警戒して……」
ガチャ
エレン「いらっしゃいませ!」
オルオ「店長はいるか?」
エレン「いませんけど」
オルオ「チッ、出直すか……」スタスタ
ミカサ「話を聞きたいなら、コーヒーの一杯でも頼んだらどう?」
オルオ「……なんだと?」
オルオ「……ペトラ・ラルを知ってるか?」
エレン「ペトラさん……!?」
オルオ「俺はオルオ・ボザド。ペトラとは11区で知り合いだった」
ミカサ「どうしてここに彼女がいると?」
オルオ「ペトラは11区を出るとき、ここの喫茶店に興味があると――ん」クンクン
オルオ「なんでお前からペトラの匂いが――ゴフッ!!」ガシッ
エレン「うわっ!? 何だこの人!!」
ミカサ「店で暴れないで」ギロッ
オルオ「お前……ペトラの男か!?」
エレン「……前はそうでした。けど今は」
オルオ「フッ……お前のようなガキに愛想を尽かすのも無理はないな」
エレン「……」
オルオ「それで、ペトラは今どこに?」
エレン「……」チラッ
ミカサ「……」コクッ
エレン「彼女は、もう……」
オルオ「……」
エレン「ここには、いないんです」
オルオ「……そうか」
オルオ「もしペトラに会うことがあったら伝えてくれ」
オルオ「逃げろ、とな」
エレン「!?」
オルオ「数か月前、アオギリの樹という喰種集団が11区を襲撃した」
オルオ「奴らは11区の喰種を支配下に置き、白鳩を狩り始めた」
オルオ「俺も今では奴らの下っ端だが……」
オルオ「奴らは今ペトラを追っている。近いうち20区にも現れるだろう」
オルオ「お前らも早く逃げたほうが身のためだぜ」
エレン「アオギリの樹……!?」
ガチャ
ケニー「みーつけたー!!!」
一同「!?」
―――喰種対策局「CCG」―――
ザワザワ……
ベルトルト(これだけの数の捜査官が……)
キース「全員席につけ!」
キース「すでに聞いていると思うが、11区支部が襲撃された」
キース「局員の生存者は……」
キース「ゼロだ」
キース「連中の名はアオギリの樹」
キース「数は少なくとも200以上」
キース「これだけの数の喰種が徒党を組んだ例は今までない」
ライナー「目的は何なんでしょうか?」
キース「喰種の考えることなど分からん。だが11区が奪われたのは事実だ」
キース「この事実が広まれば、今まで単独行動していた喰種がアオギリに合流することが予想される」
キース「これは人間と喰種との戦争だ!」
キース「貴様ら、心臓を捧げる覚悟はあるか!?」
一同「ウオオオオオオッ!!!」
ケニー「お前の後をつけて正解だった……」
オルオ「ジェイソン……!!」
エレン(何者なんだ……!?)
ケニー「……」クンクン
ケニー「コイツで良いか」ガシッ
エレン「なっ!?」
ミカサ「何、勝手なことを――」ダッ
ケニー「勝手?」ガスッ
ミカサ「うっ……」ドサァ
エレン「ミカサ!!」
ケニー「勝手を振る舞えるのは、強者の権利だ」ニッ
エレン(なんだ、こいつ……!!)
エレン「うおおおおッ!!」ズズズ
ケニー「ほう、隻眼か……」
ケニー「だが弱いな」ズズズ
エレン(俺やペトラさんと同じ……鱗赫!!)
ドスッ
エレン「あッ……うぐ……」
ミカサ「エレン!!」ズズズ
ミカサ「ハァァァァッ!!!!」ドドドッ
ケニー「邪魔をするんじゃねえ」バシィ
ドスッドスッ
ミカサ「げほッ……」フラフラ
エレン「やめろ!! ミカサに手を出すな……!!」ハァハァ
ケニー「物わかりが良くて助かるぜ」ゲシッ
エレン「う……」ハァハァ
ケニー「オイ、こいつをカバンに詰めろ」
オルオ「あ、ああ……」
ミカサ「エ……レン……待って……」
ガチャ
リヴァイ「……何があった?」
ミカサ「……」
エルヴィン「大丈夫か?」
ミカサ「私は……でもエレンが……」
エルヴィン「連れて行かれたんだね?」
ミカサ「……」コクッ
エルヴィン「リヴァイ、皆を集めてくれ」
リヴァイ「……ああ」
エルヴィン「あんていくはしばらく休業だ」
―――喰種対策局「CCG」―――
ベルトルト「決行は一週間後か……」
ライナー「アオギリには「ジェイソン」も所属しているらしい」
ライナー「喰うことよりも遊びで殺しをやるサド野郎だ」
ライナー「正直やり合いたくないな……」
ベルトルト「……そうだね」
ライナー「そういえば、お前クインケ壊れたんだってな」
ベルトルト「……ああ、こないだの戦いで……」
ライナー「なら、アニの遺品の中から選ぶといい。あいつの遺言だ」
ベルトルト「アニ……」
ベルトルト(ラビットは必ず僕が……)
ベルトルト(あの眼帯はどうしてるんだろう……?)
―――CCGでは11区の捜査範囲を拡大し、喰種組織の特定を急いでいます。
―――事件の解決は、時間の問題であると思われます……
―――しかし、周辺住民の一斉避難というのは……少々やりすぎでは?
―――それはあくまで皆様の安全の為です。
―――CCGは皆さまの味方です。立ち入り禁止区域には決して入らないよう……
アルミン「……」
ツーツーツー
アルミン(何度かけてもつながらない……)
アルミン「エレン……」
――喫茶店「あんていく」――
ミカサ「……」
クリスタ「大丈夫……だよね」
ジャン「あいつはこんなとこで死ぬタマじゃねえよ」
コニー「ああ」
ガチャ
エルヴィン「後から数名来るが……とりあえず始めようか」
エルヴィン「11区で起きている事件の対応についてだが……」
エルヴィン「その前に、連れ去られたエレンについて言っておきたいことがある」
ミカサ「……」
エルヴィン「……エレンには、もう会えないと思ったほうがいい」
一同「……!!」
ジャン「はぁっ!? 何言ってんだよこのハゲ!!」ガタッ
ミカサ「……やめて!」
ジャン「でも……」
ジャン「助けに、行くんだろ?」
ミカサ「……」グッ
エルヴィン「アオギリの樹は、戦うために生きているような喰種が集まっている」
エルヴィン「彼らの根城に潜り込んでエレンを助け出すのは容易ではない」
クリスタ「いや……そんなの……!!」
エルヴィン「それにCCGの動向も無視できない」
エルヴィン「近々11区に部隊を派遣するつもりだ」
エルヴィン「助けに行っても我々が全滅する可能性が高い」
ジャン「何だよそれ……まさか見捨てる気か!? あいつを……!!」
ミカサ「私は行く」
ミカサ「店長が行かないなら……私一人でも」
ジャン「俺も行く」
ジャン「あいつには……借りがあるしな」
クリスタ「私も手伝う!」
クリスタ「エレンのために……私ができることなら何でも……!!」
ミカサ「みんな……!!」
コニー「おいおい、俺を忘れんなよ!」
エルヴィン「……誤解の無いように言っておきたい」
エルヴィン「私はもとよりエレンを助けに行くつもりだ」
一同「え……?」
エルヴィン「ただ、命の保証はない。それを分かってほしかった」
エルヴィン「皆の覚悟はよく分かった」
エルヴィン「エレンを助けたいなら、命を懸けることだ」
エルヴィン「そのかわり、私とリヴァイが全力でサポートする」
ミカサ「店長……」
エルヴィン「それからもう一つ。……入ってきなさい」
ガチャ
ミカサ「なっ……!!」
ジャン「うげっ……」
ハンジ「リヴァイから話は聞いたよ!!」
ハンジ「無二の友人であるエレンがひどい目に遭ってるんだって……!?」
ハンジ「これはぜひとも私が助けに行かなきゃ……!!」
つづく
ミカサ「……私は反対する」
ジャン「ああ、この人にエレンを助ける気なんか――」
エルヴィン「戦力としては十分だ。味方にいれば心強い」
ミカサ「……」
ジャン「……そもそも、生きてたのかよ」
ハンジ「ミカサのアドバイスに従ったんだよ!」
ハンジ「それから意外な発見……私は結構美味しかった」ペロッ
ジャン「うへっ……」
ミカサ「……この人はエレンを食べるつもりじゃ」
リヴァイ「その心配はない」
リヴァイ「このクソメガネは俺が見張る。余計な真似はさせねぇ」
ハンジ「だそうだよ!」
ミカサ「でも……」
エルヴィン「リヴァイ、CCGの動向は?」
リヴァイ「住民の避難が済み次第、攻撃を仕掛けるつもりだ」
エルヴィン「……あんていくは、CCGの総攻撃に紛れてエレンを救出する」
エルヴィン「異存はないな?」
一同「……」
ミカサ「エレン……」
―――「アオギリの樹」アジト―――
エレン「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
エレン(俺は……なんでここに……?)
ケニー「目は覚めたか? ここは俺の部屋だ」
ケニー「お前は不要と判断された。従って俺が引き取ることにしたのさ」
エレン「くそっ……」ギロッ
ケニー「抵抗しようとしても無駄だ」
ケニー「喰種の力の源であるRC細胞……そいつを抑制する薬を今からお前に打つ」
ケニー「そうすることで体にメスが入りやすくなる……ちょうど人間みたいにな」
ケニー「喰種の体で唯一針が刺さる場所、それは」スッ
エレン「あ……やめ……」ガチャガチャ
ケニー「粘膜だ」
エレン「あああああああああ!!!!!!!!」
ケニー「楽しもうぜ? エレン」ニヤッ
エレン「あああぁぁぁぁあああぁぁああっ!!!」
ケニー「どこまで数えた?」
エレン「ごひゃく……ごじゅう……きゅう……」ハァハァ
エレン(俺に……気を失わせないために……)
ケニー「治ったころにまた来るからな」スタスタ
ケニー「掃除しておけ」
オルオ「……はい」
バタン
オルオ「……隙を見て必ず助け出す。それまで辛抱してろ」
エレン「オルオ、さん……なん……で……」ハァハァ
オルオ「ペトラは死んだんだってな」
エレン「……」
オルオ「俺に気を遣ったつもりか……?」
エレン「……」
オルオ「……もう少し、耐えてくれ……」
――喫茶店「あんていく」――
ガチャ
ミカサ「ミケさん! 来てくれるんですか」
ミケ「あいつは大事な客だからな」
エルヴィン「全員揃ったようだね」
リヴァイ「準備はいいか?」
一同「……」コクッ
エルヴィン「……行こう」
コニー「よし! 腕が鳴るぜ!」ガタッ
エルヴィン「ああ、君には留守を頼みたい」
コニー「……おう!」
―――喰種対策局「CCG」―――
キース「……住民の避難が完了した」
キース「貴様ら! 用意はいいか!!」
一同「はっ!!!」ガタッ
ブロロロロ……
ベルトルト(アニ……君のクインケ、大切に使わせてもらうよ)
ライナー「……」パラパラ
ベルトルト「ジェイソンの資料……だよね」
ライナー「ああ。まだこいつがジェイソンと呼ばれる前の話――」
ライナー「奴はCCGに捕まり、喰種収容所「コクリア」に送られた」
ライナー「そこには……何というか、問題のある捜査官がいてな」
ケニー『ごひゃく……ごじゅう……きゅう……』ハァハァ
ライナー「長く激しい拷問生活の中で、奴は自分の中にもう一つの人格を作り上げた」
ライナー「自分を守るためにな。そして……」
ピチャ……ピチャ……
ケニー『……』ニタァ
ライナー「脱走した」
ライナー「それから、奴は残酷な殺し方を好むようになった」
ライナー「自らの体で覚えた拷問を使ってな」
―――「アオギリの樹」アジト―――
ケニー「弱者は蹂躙され……」
ケニー「犯され、冒され、侵される……」ニヤニヤ
ウネウネ
エレン「む……か、で……」ハァハァ
エレン「やめろ……やめ……」
エレン「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
―――「アオギリの樹」アジト前―――
ハンジ「妙に静かだねー」ワクワク
リヴァイ「……」ギロッ
ハンジ「はいはい」
ジャン「……」
ミカサ「……」
キース「突撃ッ!!!!」
捜査官「うおおおおおッ!!!!」ダダダッ
ミカサ「……エレン」タッ
―――裏階段―――
タタタッ
喰種「ん? 貴様らどこの班――うおッ!?」ザシュ
ドサッ
ミカサ「私たちは――あんていく」
ジャン「とりあえずバラケようぜ」
リヴァイ「ついてこい、クソメガネ」
ハンジ「はいよっ!」
ミカサ(エレンはどこに……)タタッ
――10時の方角に3体……3時の方角に5体……
ザシュッ
ベルトルト(さすがに数が多いな……)
ベルトルト(……ん? あれは――)
ベルトルト(ラビット……!!)
ベルトルト「待て!!」
ミカサ「!?」
ベルトルト「どうしてここに……!!」ダッ
ミカサ「くっ……」バシィ
ベルトルト「お前は、お前だけは……!!」ブンッ
ミカサ(この人、こんなに強かった……?)
ミカサ(何が彼をここまで……)ハッ
ベルトルト(アニ……!!)
ミカサ(私の……せい)
ベルトルト「うおおおおッ!!!」
ミカサ(今は……彼に構っていられない!!)バサッ
ベルトルト「待て――」
ズオオッ
ベルトルト「!?」カワシ
喰種「ちっ、避けられたか」
ベルトルト(こんな時に……!!)
ミカサ(今のうちに……!)ヒュンッ
ベルトルト「くっ……」
喰種「死ねッ!!」ズオオ
ベルトルト「こんなところで……」
ベルトルト「終わるわけにはいかない!!」ブンッ
ザシュッ
喰種「ぐあッ……」ドサッ
ベルトルト(ラビット……どこに消えた!?)ダッ
ミケ「全員、潜入には成功したようだな」スンスン
エルヴィン「CCGの動向は?」
ミケ「三隊に分かれた。……CCGのほうが優勢だな」
エルヴィン「……やむを得ないな」
エルヴィン「ミケ、クリスタを頼んだ」スッ
クリスタ「店長……?」
クリスタ「……あの」
ミケ「何だ?」
クリスタ「私も、皆と一緒に……」
ミケ「だが……」
クリスタ「……」ジッ
ミケ「……分かった」
ミケ(エレンの匂いが全くしないのはなぜだ……?)
ハンジ「咀嚼! 咀嚼ゥ!」ザシュッ
リヴァイ「うるせぇクソメガネ、気が散る」
ハンジ「それにしても、エレンはどこにいるのかな?」キョロキョロ
バサァ……
ハンジ「ん? あれは――」
リヴァイ「……お出ましか」
捜査官「屋上に来ましたが、喰種は見当たりません! 指示を――」
バサァ
捜査官「!? あ、あれは――」
キース「梟……!?」
キース「……死んでもいい優秀な者だけ残して当たれ」
キース「それでも、時間稼ぎにもなるかどうか……」
ライナー「梟!? そんな化け物がどうしてここに――」
捜査官「お前は別の隊に合流しろ!」
ライナー「!? しかし――」
捜査官「ここで失うわけにはいかん! 早く行け!」
ライナー「分かりました!!」ダッ
エレン「……」
スッ
エレン「母さん……?」
エレン「かあさん……」ハッ
ペトラ「久しぶり」
エレン「ペトラ、さん……?」
エレン「アアアアアアッッ!!!!!」
ケニー「どこまで数えた?」
エレン「ごひゃく……ごじゅう……きゅうッ!!!」
ケニー「そうか」ブスッブスッ
エレン「ああぁぁぁあああああぁぁあああっ」
エレン「……っはは」
エレン「あははっはははっははははははっははッ!!!!!!!!!!」
ペトラ「どうしたの? こんなにボロボロになって」
エレン「俺は……」
ペトラ「エレン君のお母さんってどんな人?」
エレン「え……?」
ペトラ「さっき「母さん」って言ってたから」
エレン「ああ……」
ペトラ「あの人?」スッ
エレン「……母さん」
ケニー「トビズムカデって知ってるか?」ウネウネ
エレン「また……」ハァハァ
ケニー「こいつをお前の耳に入れたいんだが、良いか?」
エレン「あ……あ……」
グチョグチョ
エレン「あっはははっはははっはははっはは!!!!」
ケニー「あ――――楽しいなアア――――!!!!!!」
エレン「ははっ……」
エレン「……殺せ」
エレン「殺せ……殺せ……殺せ……殺せ!!!!!」
エレン「母さんは明るくて優しい人だった」
エレン「親父は俺が産まれてすぐいなくなって……」
エレン「一人でいつも頑張ってた」
エレン『母さん! おかえり!』
カルラ『エレン、いい子にしてた?』
ペトラ「あの人は誰?」
エレン「……伯母さんは母さんから金を受け取ってた」
エレン「昼も夜も休まず働いて、それで母さんは……」
カルラ『』
エレン『うわああああああああん!!!』
エレン「伯母さんちに引き取られて、俺の居場所はなくなった」
エレン「……」グッタリ
グンタ「ひでえな……」フキフキ
エルド「俺たちはオルオの仲間だ。必ずお前を助ける」
エレン「ありがとう……ございます……」
エレン(俺には……まだ希望が……)
エレン「でも、俺にはまだ希望があった」
アルミン『僕と友達になってくれる?』
エレン「アルミンが心の支えになってくれたんだ」
ペトラ「そう。でも、その友達も失うんだね」
エレン「え?」
ペトラ「君のせいで」
ドサッ
エレン「あ……なんで……」
ケニー「お前は肉体だけでなく、精神も結構タフだ」
ケニー「だから趣向を変えてみることにした」
ケニー「この二人のうち、どっちを殺すか選べ」
エレン「そんな……!! 選べるわけないだろ!! 殺すなら俺を――」
グンタ「エレン! 俺を選べ!」
エルド「俺を選ぶんだ!」
ケニー「さあ!? 選べ! 選べ! 選べ! 選べえええ!!!」
エレン「嫌だあああああああああ!!!!!!!!」
ザシュッ
エレン「……あ」
ケニー「あー、早くしねえから壊れちまったじゃねえか」
ケニー「お前のせいで希望が死んじまったなアアアア!!!」
エレン「あああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
エレン「俺のせいだ……」
ペトラ「その通り。こうなったのは全部あなたのせい」
ペトラ「そもそもの始まりはあなたが世間知らずの馬鹿だったから」
ペトラ「あなたは私に騙され、医者にいじられ、化け物にされた……」
ペトラ「全部あなたが弱いからよ」
ペトラ「あなたが強くてケニーを殺せたら二人は死ななかった」
ペトラ「あの時も……」
ユミル『クリスタ……』
クリスタ『ん――――!!!!』
ペトラ「これからも……」
アルミン『エレン! どうして打ち明けてくれなかっ――』
ドチャッ
ケニー『この世のすべての不利益は、当人の能力不足だ』
エレン「ああああああああああああああああああああああ」
ペトラ「これがあなたの選んだ道なんだから、しょうがないよね」
エレン「うるさい……」
ペトラ「どちらも選んでいるようでどちらも見捨てている」
エレン「だまれ……」
ペトラ「お母さんもそう。あなたを愛しているなら迷惑な姉の要求は跳ね除けるべきだった……」
エレン「母さん……」ウッ
エレン「母さん……母さん……何で俺を置いて逝ったんだ……!!」
エレン「俺を一人にしないでくれ……死なないで……」
エレン「生きてほしかった!! 俺のために!!」
ペトラ「伯母を見殺しにしても?」
エレン「見殺しにしても!!!」
ペトラ「誰かを傷つけても?」
エレン「傷つけても!!!!」
ペトラ「命を奪っても?」
エレン「奪っても!!!!!」
ペトラ「そう」
ペトラ「どちらか一方を犠牲にしても守らなくちゃならない時がある」
ペトラ「選べないのは優しさじゃない。ただ弱いだけ」
ペトラ「傷つける人より、傷つけられる人になりたい?」
ペトラ「こんな目に遭ってもまだ、傷つけられる側でいられる……?」
ペトラ「ケニーのことを許せる?」
エレン「許せねえ……」
ペトラ「アオギリが力をつければいずれ20区にも被害が及ぶわ」
エレン「そんなことはさせねえ……」
ペトラ「大切な友達やあんていくの仲間たちがひどい目に――」
エレン「俺の居場所を奪うやつは許さねえ……!!」
ペトラ「あなたにそんな力があるの?」
エレン「ある」
ペトラ「私を受け入れるということ?」
エレン「違う」
エレン「俺は」
エレン「あんたを」
エレン「喰う」
ペトラ「それが間違った選択だとしても?」
エレン「間違ってるのは俺じゃない」
エレン「世界だ」
ペトラ「そう」
ペトラ「それでいいんだよ、エレン」
ペトラ「食べて」
グチャ
エレン「俺は―――」
エレン「俺は“喰種”だ」
つづく
ケニー「エレン、せっかくの楽しい時間ももう終わりだ」
ケニー「ここが白鳩に攻め込まれている」
ケニー「奴らの相手をするのが俺の仕事なんでな……」
ケニー「アオギリの目的は邪魔な奴らを消し去ることだ」
ケニー「人間はもちろん喰種も含まれている」
ケニー「アオギリの主義に反する喰種……」
ケニー「お前の働いてた「あんていく」だっけか? あそこもアオギリの殲滅対象だ」
エレン「……」
ケニー「エ――レェ――ンン―――……」
ケニー「喰わせろ……俺に全部奪わせろオオオ!!!」ズズズ
エレン「……」ニィ
バキバキッ
ケニー「!?」
エレン「喰ってみろよ」
ヒュンッ
ガリッ
ケニー「くっ!!」ズザザ
エレン「……不味いな」フキフキ
ケニー「俺を……喰ったのか!?」
エレン「腐りかけの魚のハラワタみてーな味がするぜ……」
ケニー「クソが!!」ズオッ
エレン「……」ヒョイッ
エレン「喰らえ」バキッ
パシッ
エレン「!」
ケニー「離すか!!!」
ベキベキッ
エレン「痛くねえよ」
エレン「今さらこんなもん……!!」ドガッ
ケニー「ちっ……!!」ズザァ
ケニー「殺す……殺す……殺す殺す殺す!!!」ズズズ
エレン「来いよ」ニヤァ
ケニー「ぐちゃぐちゃにしてェ―――殺ォォォォォス!!!」ドスッ
エレン「……!!」ビタンッ
ケニー「ハァ――、ハァ―――……」ハッ
エレン「……こんなもんか」ペッ
エレン「次は俺の番だな」ズズズ
ケニー「ウオオオオオオオオオオ!!!!」ズズズ
ガシッ
ケニー「!?」
ズダンッ
ケニー「ぐ……」ハァハァ
ドスッドスッドスッ
ケニー「アアアアアアアアア!!!!」
エレン「……1000ひく1は?」
ケニー「あ……?」
ドスッ
ケニー「アアアアアア!!!!」
エレン「1000ひく7は?」
ドスッ
エレン「1000ひく7は?」
ドスッ
エレン「1000ひく7は……?」
ドスッドスッ
ケニー「きゅうひゃく……きゅうじゅう……さんッ……!!!」
エレン「……俺を喰おうとしたんだ」
エレン「俺に喰われてもしょうがねえよな……?」ガブッ
ゴクン
ライナー「ハァ……ハァ……」ダダッ
ライナー(別働隊はどこだ……?)
ライナー(それどころか、生きているものが――)
ライナー「……ん」
ライナー「この部屋は……?」ガチャ
エレン「はぁ―――はぁ―――」
エレン「どこまで数えたっけえええ……?」
ライナー「!?」
ライナー(あれは……ジェイソン!?)
ライナー(奴が……喰ったのか!?)
エレン「おなかの中優しくかき混ぜてあげるからアアア……」
エレン「トビズムカデって知ってるかアアアア……?」
エレン「1000ひく7ひく7ひく7はあああああああ!!?!??!」
ライナー「……」
ライナー「今まで会った喰種の中で一番イカレてやがるな、お前……!!」
ベルトルト(ラビットはどこに行ったんだ……?)ダダッ
ベルトルト(一隊は屋上で「梟」に足止めされている……)
ベルトルト(十年前、CCGに壊滅的な損害をもたらした化け物……!!)
ベルトルト(今回はどれだけの被害が……)ゾッ
ベルトルト(今、僕にできることは――)
ベルトルト「この部屋か!?」ガチャ
エレン「ヴヴヴヴうああああアアアっっ」ガリッガリッ
ライナー「」
ベルトルト「ライナァァァ!!!」ダッ
ベルトルト(……と)
ベルトルト(眼帯の……喰種!?)
エレン『俺を……人殺しにしないでくれ……!!』
ベルトルト「……いいんだね」
エレン「うっ……?」ハァハァ
ベルトルト「君は!! ただの喰種で!! 本当にいいんだね!?」
エレン「……!!」ハッ
エレン「俺……俺は……」
エレン(何……してたんだ?)
エレン(あいつを喰って……それから)
エレン(力に飲まれて……我を失ってた……!?)ゾッ
エレン「お前……確か……」
ベルトルト「行くんだ」
エレン「え……?」
ベルトルト「あの時の借りは、これで返した」
ベルトルト「次はもうない」
エレン「……」
エレン「悪い……!!」ダッ
ベルトルト「ライナー! しっかり!」
ライナー「う……」
ベルトルト「良かった……! 君まで失ったら僕は……」
ライナー「あいつ……俺を喰うことを躊躇してるみたいだったな……」
ベルトルト「……」
ベルトルト(眼帯の喰種……)
ベルトルト(君も……戦っていたんだね)
ミカサ(エレン……エレン……)タタタッ
ドドドドッ
ミカサ「!!」
ジャン「危ねえ!!」ガバッ
ドスッドスッ
ミカサ「ジャン……?」
ジャン「……へへ、無事でよか――」ドサッ
ミカサ「嫌だ……」
ミカサ「もう、私を」
ミカサ「一人にしないで――」
エレン「しねえよ」
ミカサ「!?」
エレン「クズ豆は摘まねえと……」ズズズ
ドスッドスッ
ミカサ「!!」
エレン(力に飲まれないように……修行が要るな)
ミカサ「……エレン」
ミカサ「どうして、そんなに強く――」
エレン「急ごうぜ」
エレン「もうすぐ建物が崩れる」
ミカサ「……ええ」
キース「被害状況は!?」
捜査官「生存者は……約半数です」
キース「やはり梟か……」
捜査官「いえ、梟と相対した者たちの中に死者は出ていないようで――」
キース「何だと……?」
ガラガラッ
ドシャアアア
アルミン「……」コソコソ
アルミン「エレン……」
ハヤクニゲロー! ワーワー
オルオ「ここまでか……」オリノナカ
オルオ(エレン……助けてやれなかったな……)
ガシャアアン
ハンジ「やあ!」
オルオ「あんた……エレンの仲間ゴフッ!?」
ハンジ「そうだよ!」
リヴァイ「勝手なことしてんじゃねえクソメガネ」
リヴァイ「……早く出ろ」
オルオ「はいっ!!」
クリスタ「大丈夫ですか!?」ユサユサ
喰種「うう……」シタジキ
ミケ「早くここを出たほうがいい」グイッ
クリスタ「でも……」
バサッ
クリスタ「あ……」
クリスタ「ミカサとジャン……それから」
クリスタ「エレン!!」
ミケ(匂いが変わった……何かしたな?)
ミケ(共食い……か)
ジャン「……は」パチ
ジャン「エレン、お前……生きてんじゃねえか」
エレン「当たりめーだ」
クリスタ「よかった……!」グス
リヴァイ「大丈夫か?」
エルヴィン「ああ……」
ミカサ「エレン、店の再開にはまだ時間がかかるけれど――」
エレン「いや」
エレン「俺はあんていくには戻らない」
一同「!?」
ジャン「ハァ!? 何言ってんだよ! ミカサはお前を心配して――」
エレン「やりたいことがあるんだ」
ミカサ「エレン……」
ミカサ「私も……」
エレン「だめだ」
エレン「お前には、ここに居場所があるんだろ」
ミカサ「でも……」
ハンジ「私もついてっていいかな?」
エレン「余計な真似したら殺しますよ」
ハンジ(ハードモード・エレン!! より食べにくくなった……だがそれがいい!!)グッ
オルオ「俺も……手伝ってやってもいいぞ」
エレン「ありがとうございます」
エレン「みんな……」
リヴァイ「お前の道だ。好きにしろ」
ミケ「……マスクは大事に使え」
エルヴィン「君は、喰種として生きるんだね」
エレン「はい」
クリスタ「私は、嫌だ……」
クリスタ「エレンと一緒がいい……」グスッ
エレン「……悪いな」
ジャン「けっ、邪魔者がいなくなってせいせいしたぜ」
ジャン「……たまには顔見せに来いよ」
エレン「ああ」
エレン「……ミカサ」
ミカサ「……」
ミカサ「必ず」
ミカサ「必ず帰ってくると、信じてる」
ミカサ「私はずっと待っているから」
ミカサ「だから、それまで――」
ミカサ「どうか、死なないで」
エレン「……ああ」
エレン「ありがとな」
ザッ
エレン(俺は――)
エレン(喰種として、生きていく)
強引におしまい
スレタイ部分がやりたかっただけの雑なパロでしたが
読んで下さった方ありがとうございました
このSSまとめへのコメント
2期は、無いのですか?