ジュリア「プラリネ」 (64)
あ
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グリマスSS。
ジュリアのプラリネと一緒に是非お読みください。
アイドルなんてまるで興味が無かったアタシが、『アイドル』としてステージに立ってる。
・・・・・・『夢』でも見てる気分さ。解ってるさ、『夢』は眠ってる時に見るもんだ。
・・・・・・なあ、プロデューサー?覚えてるか?
始まりの日の事をよ。
[回想・とある繁華街]
ジュリア「ふう。皆、お疲れ!今日も良いライブが出来たな!」
バンド仲間1「おう、お疲れジュリア!客も盛り上がってたぜ!」
バンド仲間2「俺達これから打ち上げ行くけどよ、ジュリアも来るよな?」
ジュリア「いや、悪ぃ、人と会う約束してんだ。お前らだけで行ってくれ。」
仲間2「おう、そうか。じゃあな、ジュリア!」
仲間1「お疲れ!」
ジュリア「ああ、じゃあな。明後日の次のライブの打合せ、遅れんなよ!」
ガキの頃から音楽が好きで、ギターが好きで、特にパンクロックに嵌まっていた。
中学の頃からバンド紛いの活動を始めた。だが、卒業して皆バラバラな進路を選択し、アタシ達の「バンドごっこ」も終わりを告げた。
けれども、アタシは物足りなかった。ごっこ遊びだったとはいえ、中学の文化祭で曲を披露し、拍手を貰ったときには、とても気持ちが良くて、もっと歌いたい、もっとアタシの曲を聞かせたい、と心から思った。
この衝動は、アタシにはどうしても抑えきれなかった。
だからアタシは、一応地元の高校に進学した後も、今度はアタシが中心に為ってバンドを組み、休日には地元の商店街や、時には東京迄行き、路上ライブを行っていた。
[回想・喫茶店]
ジュリア「で?なんだって?アタシがアイドル?」
アタシは目の前にいる男を睨み付けた。
この男は自分を765プロダクションのプロデューサーだと名乗った。
765プロダクションといえば、天海春香や如月千早が所属している、この間アリーナライブを成功させたばかりの新進気鋭の事務所でなかったか。
そんな事務所のプロデューサーが何故こんなところにいるのか。そんな疑問が頭をよぎる。
今朝仲間との待ち合わせ場所へ向かう途中、突然この男に声を掛けられ、「アイドルにならないか」と言われた。
アタシは、急いでいるし、アイドルなんかに興味は無い。と突っぱねた。
しかし、この男は食い下がらなかった。アタシに自分の電話番号がメモ書きされた名刺を渡し、ライブが終わったあとに電話してくれ、と言った。
P「君達のライブを見させて貰ったんだ。」
プロデューサーは紅茶を1口飲んだ後、こう言った。
そう言えば、この男は、アタシがライブをやっていることを知っているようだった。
なら、余計に何故、アタシに声を掛けたのか。ライブを見たことがあるなら、わかっている筈。
アタシ達の演奏や歌は、とにかくギターを掻き鳴らし、プロから見ればいかにも幼稚に聞こえるだろう歌詞を書き連ね、それにメロディをのせて歌うだけ。
詳しくは知らないが、有名な作曲家や作詞家が楽曲を提供し、可愛らしい容姿と歌声でファンを魅了する、アイドルとは程遠い存在だと思っていた。
だから、今から思えば、知りたかったのだろう。"ごっこ遊びの延長"が何故アイドルのプロデューサーの興味を惹いたのか。
アタシは仲間と別れた後、名刺に書かれていた番号に電話し、この男と会ったのだった。
ジュリア「ライブを見たってンなら分かるだろ?アタシ達の音楽は、アイドルとは程遠いよ」
P「そうかな?確かにアイドルの歌っぽくは無かった。ただね・・・」
そういうと、PはポケットからiPodとイヤホンを取りだし、アタシに渡した。
ジュリア「?」
P「これを聴いてみてくれ」
アタシは言われた通り、イヤホンを耳に入れた。PはiPodを操作している。
すると、
♪泣くことならたやすいけれど 悲しみには流されない・・・・・・
ジュリア「・・・・・・これは『蒼い鳥』・・・・・・?」
如月千早の『蒼い鳥』。アイドルに興味が無いアタシでも、聞いたことはある。
歌っている如月千早は、日本を代表する若手歌手の1番手だ。
P「なんだ、よく知っているじゃないか。アイドルに興味が無いと言っていたから、全く何も知らないかと思ったよ」
ジュリア「テレビ点けたら毎日の様に出てるじゃねぇか。・・・・・・で、これを聞かせてどうしたいんだ、アンタは」
P「ジュリアさんは、これを聞いてどう思った?」
ジュリア「ジュリアで良いよ気持ち悪ィ。で、どう思ったって?」
P「言葉通りの意味さ。ジュリアはこの曲を聞いて、何を感じ、どう思った?」
ジュリア「そりゃあ・・・・・・同い年でこれだけの歌を歌えるのは凄いと思うし、同じボーカリストとして目標っていっちゃあ失礼かもしんねぇけど、目指す理想の姿みてぇにしたいな、とは思ったぜ?」
P「それだけかい?」
ジュリア「アン?」
アタシは剣呑な眼差しを目の前の男に向けた。
ニコニコしちゃあいるが、眼鏡の奥の瞳からは何処か不気味な光を感じた。
アタシの本心を覗き込む様な、薄気味悪い光・・・・・・。
それまでの好青年風の雰囲気から一変した雰囲気に、アタシは飲み込まれそうになった。
P「曲を聞いている君の表情は、羨望や憧れ以外の・・・・・・」
Pは一端言葉を切った。
アタシの顔を数秒間じっと見た後、再び口を開いた。
P「現在の自分への不満が見えた」
ジュリア「ッ!」
ダン!!!と強くテーブルを叩き、アタシは
喫茶店を飛び出した。
Pに訳知り顔で自分の心情を語られた苛立ちから、ではない。
自分達の活動を否定されたから、でもない。
"反論できなかった"
その事実がアタシを蝕んだのだった。
[回想・翌日、とあるスタジオ]
ジュリア「うーっす」
仲間3「あ、ジュリア、どうしたの?凄い顔してるけど」
ジュリア「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
ジュリア「そういや、仲間2と4はどうした?」
仲間3「バイトの人と遊びに行くってー。曲とかはまかせるってさー」
仲間1「まーたサボリかよあいつら。あ、そうそう、俺今度のライブでやりたい曲あんだけど」
そう言って、スマホを操作する。少しして、流れ出した曲は、
今CMで話題の曲だった。薄っぺらいサウンドと中身の無い歌詞。アタシはこの歌が好きではなかった。
仲間3「この曲知ってるー!チョー良いよね!あたしこれやりたい!」
仲間1「だろ!?なージュリア、これやろうぜこれ!」
ジュリア「いや、仲間2と4の意見も一応聞いてみないとだろ。なによりこれ、ロックでもなんでもねぇだろ・・・・・・」
高校のクラスメイトがアタシがバンドをやっていたことを聞きつけ、バンドをやろうよ!とアタシを誘い、それから彼女の恋人やら中学校時代の友人やらと結成したのが今のアタシ達のバンドだった。
仲間3「えーいいじゃーん二人とも任せるって言ってたんだしー」
仲間1「そうそう。別にプロ目指してるわけでもねぇし、遊びの延長なんだからよ。気軽にやろうぜ!」
ジュリア「っ・・・・・・。わかった、じゃあそれでいい。但し、練習はしっかりやるぞ。人に見せるんだから、恥ずかしいパフォーマンスは見せ欄ねぇ」
仲間1・3「はーい」
只、このバンドは、中学の頃よりずっと、よく言えば緩く、悪く言えばだらけていた。
始めの頃こそ皆真面目に練習に取り組んでいたものの、徐々にだらけた空気が蔓延し始め、今ではメンバーが揃うことも珍しく成っていた。
そんな悶々とした日々を送っていたある日、あの男は再びやって来た。
今日も今日とて、アタシの心の奥底を抉り取るような言葉を携えて・・・・・・
P「失礼します、ここにジュリアさんという方はいらっしゃいますか?」
仲間1「ジュリアですか?ちょっと待っててください・・・・・・ジュリアー!お前にお客さん!」
ジュリア「アタシに?誰だよ・・・って!」
P「やあ、1ヶ月ぶりかな?まさかこんなところで練習してるとはね」
ジュリア「悪かったな、音響設備もボロいスタジオで。・・・・・・何の用だ?」
P「おっととと、そんな睨み付けないでくれよ。この間の事なら申し訳無かった。俺の言葉が足りなかった所為で、君達の活動を侮辱しているように捉えてしまったんだろう?本当に済まなかった!この通りだ!」
・・・・・・どうやら、アタシは相当恐ろしい目で睨み付けていたらしい。何か重大な勘違いをしたまま頭を下げて、アタシの言葉を待っている。
ジュリア「取り敢えず、頭を上げてくれ。大の男が簡単に頭を下げんなよ」
P「・・・・・・あのときは、本当に済まなかった」
ジュリア「それはもういいっての。何しに来た」
P「君と、改めてちゃんと話をしたかったんだ。誤解を与えたままでは話が進まないからね」
ジュリア「アタシはアンタに話すことは何もねぇよ。誤解誤解言ってるが、あれはアタシが勝手に飛び出しちまったのが悪いんだよ」
P「まあそう言わないでくれ。君に本当に伝えたい事をまだ伝えて無いんだ」
ジュリア「本当に伝えたい事?」
Pはアタシを真剣な眼差しで見つめる。彼には自分の思っていることを伝えたい、という純粋な気持ちが溢れ出ている。だが、アタシは怖かった。心がざわついている。心臓の鼓動が煩い。『これ以上、心を見透かさないで』
P「そうだ。俺が言った『自分への不満』は、君達のライブ活動を否定しているわけじゃない。君は、『もっと歌いたい。もっと自分の歌を聞いてほしい。』そう思っている自分を必死に圧し殺しているように感じた。そして、その『圧し殺している自分への自己嫌悪』も同時に心の中にある。堂々巡りな自分の感情の不安定さに、疲れ果てて嫌気が差している。違うかな?」
その通りだった。だから嫌だったんだ。この男と話すのは。この1ヶ月、コイツと出会わなかったのは偶然だけではなく、アタシがコイツが現れそうな所を故意に避けていたからだった。
確かにアタシは、自分が本当に好きな音楽で、自分の心も、そして観客の心もビリビリと震えるようなサウンドを奏でながら、『心』に直に響く歌を歌いたい。満員のライブ会場で、アタシの精一杯の歌を届けたい。ずっと、ずっと、初めてテレビで歌を聞いたあの日から、ずっと、思い続けてきた事だ。
・・・・・・そしてそれは今のライブ活動を続けている限り、叶わぬ夢であることも理解していた。
青春の思い出作りのために他のメンバーはバンドを続けている。あくまで、「ごっこ遊び」の域を出ない。観客も、幸いにして0ではないものの、極少数だ。アタシの夢からは程遠い。
でも、だからといって、アタシ個人の我が儘に他のメンバーを巻き込む訳には行かない。アタシが、我慢すればいいだけなのだから・・・・・・
ジュリア「・・・ちげえよ。そんな大層なもんじゃない」
ジュリア「只の、我が儘だ」
そうだ。自分は恵まれている。音楽活動がしたくてもできない、歌を歌いたくても声が出ない。ギターを弾きたくても、指が動かない。そもそも、こうやって仲間とつるむ余裕すら無い人が沢山いるんだ。そんな人と比べたら、自分は恵まれている。だから、これ以上は、
我が儘だ。
P「そうか・・・・・・」
そういって、Pは暫く黙ったまま、アタシと、その奥にいる仲間達を見ていた。
P「今日はこれで失礼するよ。また来る」
ジュリア「2度とくんじゃねえよ」
P「まあそういわないでおくれ。次からは黙って見てるからさ」
ジュリア「フン。そうかよ。じゃあ勝手にしろ」
P「ああ、そうさせてもらうよ」
Pはそういって、立ち去って行った。
アタシは、暫くその場から動くことが出来なかった。
それから、Pは本当にアタシ達の活動場所にやって来ては、黙って練習風景を見ていた。
何度か追い返そうと思ったが、言った通りに黙って見ているだけだったので、追い返すのも何処か気が引けた。なので、アタシはあの男をほぼ無視して練習に打ち込んでいるように見せかけていた。
ジュリア「くだらねぇ」
あんなやつ、気にするだけ無駄だ。
最早なんの関係も有りはしない。
ほっておけばいずれ近いうちに居なくなる。
打ち消そうとする意思とは裏腹に、アタシはどうしても消えない疑問が残っていた。
その疑問が、アタシの頭の片隅に何時までも引っ掛かって、自己主張を繰り返していた。
ジュリア「・・・!」
何を、考えているんだ、アタシは!?
自分で自分が信じられなかった。
アタシが最近、ずーっと心のモヤモヤが晴れずにいるのは、アイツのせいでもあるというのに。
・・・アイツが、あんなこと、言わなければ。
アタシは。
ジュリア「・・・チッ」
何を考えているんだ、アタシは。あんな奴、来たところで、アタシにはもうなんの関係も無いというのに。
しかし、その一方で、アイツにある疑問を叩き付けたいとも思った。
『なんで、アタシなのか』
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