【咲SS】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【アカギ】 (1000)



 咲(世界観&キャラ)×アカギ(キャラ)×ヒカルの碁(設定)のSSとなります
 京太郎とアカギが主人公なので、ご注意を 

・のんびりと、ちまちまと更新
・京太郎が麻雀します
・ところどころ畜生になる咲キャラがいるかも
・恋愛要素……あるかも?
・安価などは一切無し
・オチまで考えてはありますが、指摘によって展開の変更なども考えます
・対局描写が下手くそ 


・以前建てたスレの続きを書く為に 前回の投下分のミスや誤字脱字を主にリマスターしています



 以上がよろしい方は、どうぞご覧ください

 
 リメイク前 ※以下のスレの頭から一部改変して、こちらのスレをスタートします
 【咲SS】京太郎「これが……神の一手?」アカギ「ククク……」【アカギ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399286287/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420970917




 俺が望んだもの……
 それは変化だった……



~~ キョウ ~~


【Roof-top】


京太郎「……」

 全てをひっくり返すような変化だ
 生まれ変わるほどの……

 しかし俺はその資質に欠けていた
 
優希「……」

まこ「……」

久「……」

 女の子目当てで入った麻雀部では、初心者ゆえにカモられ
 手を出すことなど出来ず、雑用としてこき使われる毎日

 そして今日、【大会】への出場を賭けての麻雀も……

京太郎「(持ち点が……あと少し)」チャリッ

 連敗――

 追い詰められた

京太郎「くっ……」

 これまでずっと4位……流れに乗れずに点棒が減るのみ
 その度に胸が締め付けられる

久「さぁ、須賀君の番よ」

京太郎「……」

 これが尽きたら、俺はこれから先ずっと
 雑用としてみんなを応援しなければならない

 麻雀をやることもなく……ただみんなを影から見守るだけ

 半年前、麻雀部に入った
 その日から俺の運命は決まっていたのかもしれない

京太郎「(なんとか凌いで次の半荘へ)」チャラッ

 もう振れない

京太郎「(大丈夫、これならきっと通る)」タンッ

久「ロン」

京太郎「!?」

 あぁ……終わった
 何もかも

京太郎「(ミスらしいミスはしてないのに……どうして?)」ギリッ


 俺は確かに初心者だ
 だけど、運が絡む麻雀でここまで一方的なのか?

 これじゃあまるで、一方的なリンチじゃないか



優希「……諦めるじぇ」

まこ「京太郎……もうやめるんじゃ」

久「須賀君、アナタがどうしても必要なの。みんなの為にもお願い……」


 そんなこと理解はしている
 しかし、だからと言って納得はできない

京太郎「(俺は……男だ)」グッ

 俺には分かる
 もしここで【大会】に出ず、そのままズルズルと過ごしても何も変わらない

 俺は負け犬のまま、ずっと……ずっと


京太郎「(この半荘でラスをくうとオワリ。次の半荘へ進めない)」

 なんとか3位!  
 ……頼む!

京太郎「っ!」カッ
 
 カシッ

京太郎「(ダメだ、来ない)」


 どれだけ祈っても、掴むのはゴミのような手
 泣きたくなるような配牌

 変わらない運命



京太郎「(誰か、変えてくれ……!)」

 誰でもいい……!

 このよどんだ空気、流れを!

 変えてくれっ!

京太郎「(誰でもいい……!)」


 神でも……!


 魔でも!

 
 ギィッ……


京太郎「……?」


 それは不思議な感覚だった


?「……へぇ」


 そいつが部屋に入った瞬間――
 俺の世界はガラリと変わった


?「……」


  | _   /:: / /:::: /  /:::::::   :::::\   iヽ   i、

  r'´ l  |::: //::::` ソ.  /::::       ::::::ヽ  i,:::ヽ  i、
 i  .:::l   | :/、,_::  ノ :/::ヽ         ::::ヽ:  i,:::::ヽ  i、
 | ::::::l   | :ヽ、`フ/-、_ :::::ヽ        ,r:'::´、 :l:::::::::ヽ :l
 i  ::::::l  :|   ./、 弋ソ`ー、::ヽ     ,r'´:::_,:::rヽトー─-
 .i, :::::::l  |     ` ̄"''::::'::´:::.... .. ....;'::::'"´ '心'. l| _, r::'´
  ヽ :::::l  |       ::::::::::::''''   :: |::.''''::::` ̄"" ̄::::::::::::::
   ヽ ::::i |              :: |::::::..  :::::::::::::::::::::::::::::/
    `l 、_l l             :: |:::::::::..     ..:::::::::::/
     |  ヽ.l            :: |::::::::::::..   ..:::::::::::::/
    /|  `|.              :: |::::::::::::::::.. ..::::::::::::::/
.    / |   l'i         ..  :: |:::::::::::::::::::::::::::::::::/
.  / , l   |:::ヽ.  ヽ,,,_    :::... :: |::::::::::::::::::::::::::::::/ヽ
  /   | .l .|:::::ヽ     ̄''''' ー、:: |_:::::::::::::::::::::/  ヽ
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/    |::::::'|:::: ::::ヽ    ,,,,,,  ::::::::::::::::::::::::::/::::|    ヽ

     |::::::|::   :::::ヽ    ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::::::::::::/::::::::|     ヽ


 その男――
 神か、悪魔か




【??年前 某所】

 
「こだわらねぇだろ……どうせお前は……」


 誰だ?


「死んだ後の墓のことなど……なあ…」


 死んだ?
 オレが……?

そうか、死んだのか


「許してやってくれや……みんな……」


 クク……なんてことはねぇ


「好きなんだ…お前が…!」


 死んだ奴に価値なんてねぇんだ


「赤木は笑っているだろう――」





【現在より数日前 某所】


 やせがまんばかりでもう半年過ぎた
 
 何が変わったか、誰を愛したか

 頭の中で今、夢が崩れだした


京太郎「……何とかなれ」

 俺の名前は須賀京太郎
 清澄高校二年、麻雀部員

 俺の在籍する麻雀部は全国大会で優勝し、今や我が校の誇りとまで言われている

京太郎「この俺を除けば……ね」

 全国大会での、女子団体戦での優勝
 それは……俺たちの環境を大きく揺るがした

京太郎「……」

 個人戦でも活躍した咲や和は勿論
 俺を除く五人は、我が校の英雄となった

 むしろ、県の象徴と言ってもいい

京太郎「……」ギリッ

 一方の俺は惨め極まりない結果
 個人戦初戦敗退、それも……県予選でだ

 感じるのは周囲からの失望と、冷やかな視線

 元々女子の中に一人だけ居たこともあり、風当たりも強かった
 俺をよく知らない連中は陰口を叩き、陰湿な真似もしてくる

 ただでさえ美少女の五人、それなりに狂信的な奴も多いわけだ

 そんな連中からしたら、俺は目の上のタンコブ
 アイドルの周りでチラつく男の影など……無い方がいいに決まってる

 俺の存在を無くせという声は次第に大きくなり……
 それはやがて、知らぬ存ぜぬで通せないレベルに膨れ上がる

 学校側もそれを無視できなくなり、動き出す
 こうして、提案された一つの案

 清澄高校麻雀部から清澄高校【女子】麻雀部への変更


京太郎「……」


 そして俺は……麻雀部をクビになった



京太郎「ここ、だよな?」

 殺風景な住宅街を抜けた先にある、寂れた墓地
 そこに【その男】の墓はあるという

 俺が最後の希望を持って縋りに来た
 ここが始まりの場所になるのか、それとも……
 
京太郎「……?」

?「……」

 そこにいたのは、歳は30から40
 ヘタをすればもっと行ってるかもしれない男

 細身でメガネを欠けたその男は、ただ静かに立ってる
 
 一つの墓の前で何も言わず、ただぼんやりと……視線を墓石に向けて


 【赤木しげるの墓】


 そう刻まれた、墓石の前でただ立っている


京太郎「(マズイな)」

 人がいるとは思わなかった
 これでは、俺の目的が果たせない

京太郎「(早く帰ってくれよ……)」

 そんな想いを浮かべながら、どう暇を潰そうかと思案した
 その時だった

?「君、この男に用があるのか?」

京太郎「えっ?」ドキッ

 声をかけられた
 もしかして、バレてる?

?「……まだ子供か」

京太郎「ど、どうも……」ペコリ

?「見なよ、この人の墓」スッ

京太郎「え?」

?「墓石の欠片をガリガリ削られて、今じゃこんなに小さくなってる」

京太郎「そ、そうですね」

?「しかしそれも数年前までの話。今じゃ、誰もこの人の墓を削ろうなんてしない」

京太郎「……」

 そう
 俺がここに来た目的

 それは、この【赤木しげるの墓】を削ること

 その墓石の欠片を手に入れたかったのだ

?「……君は、コレが欲しいのかい?」

京太郎「……はい」

?「そうか。素直な奴だな」ハハハ


 一体この人は誰なんだろうか?
 赤木しげるの知り合いなのか、それともただの変人か

 もしくは俺と同じように力を求めてきた人間なのか?

?「君、麻雀をやってるか?」

京太郎「っ!?」

?「その反応、図星だね。子供だからそんなことだろうと思ったけど」

京太郎「……」

?「……君は、どうしてここに来た?」

京太郎「そ、それは……」

?「強くなりたい?」

京太郎「……」コクッ

?「……そうか、強くなりたいか」トオイメ

 男はひとしきり俺を見回した後、静かにため息を吐いた
 そして、この世の終わりのような顔で呟く

?「やめておいた方がいい。ろくなことにならないから」

京太郎「なっ!?」

?「俺も長くこの世界にいる。分かるんだよ、そういうの」

 見込みがない
 そう言いたいのだろうか?

 だとしたら、なんて腹の立つ言葉なんだ

京太郎「なんでそんなことを、アンタに言われなきゃいけないんだ!」

?「……ごもっとも。だからこれはただの忠告」ザッ

 砂利を踏み鳴らし、墓石を一瞥もせずに男は歩き出す
 その背中にはどこか、哀愁が感じられる

京太郎「あ、あのっ!」

?「俺はひろゆき。井川ひろゆきだ」

京太郎「ひ、ひろゆき?」


ひろゆき「……なんでですか?」ボソッ


 ひろゆきさんは呟く
 それは、もう既にこの世にいない人に向けてのものなのか

 それとも

ひろゆき「どうして、今さら……」


 その先の言葉は聞き取れなかった
 だけど、俺は直感的に察することができた


 あの人が言いたかったこと、それは――


「化けて出てくるんですか?」


 その真意はまるで分からなかったけど


 ひろゆきさんがいなくなってから数分
 俺はひろゆきさんと同じように、赤木しげるの墓を眺めていた

京太郎「……」

 さっき言ったようにこの墓石は人によって削られている
 というのも、この赤木しげるが生前【神域の男】と呼ばれ……恐れられた博徒だったかららしい

 ようは赤木しげるの運にあやかりたい連中が、この墓石の欠片をお守りとするわけだ

 そして俺も、そんな連中の一人
 なんとしても強くなりたい、そんな一心からこんな場所にまで来てしまった

 ただの大馬鹿者だ

京太郎「……赤木しげる」

 果たしてこの男は一体何者だったのだろうか
 何を見て、何を感じ、何を想い、何を目指していたのか

 俺のような凡才が、到底追いつくことのない頂きに到達した男

 神と呼ばれた男は――
 俺と何が違ったのだろう?

京太郎「それを知りたい。だから――」グッ

 持ってきたカナヅチを構える
 犯罪だってのは分かってる、だがそれでもいい

 どうせ今の俺に失うものなんて無いのだから
 だから――

京太郎「……」ググググッ


 カラァーンッ


京太郎「……」ガクッ

 ダメだ、やれない

京太郎「やっぱ、ダメだ」

 どれだけ決意を固めても、手が思うように動かない
 決して怯えているわけじゃないのに

 どうしても躊躇してしまう

京太郎「俺にその資格があるのか?」


 この男の力に縋る、その資格
 そして、もう一つ


京太郎「俺は……こんな形で勝ちたいのか?」


 自分の実力でどうにもならなくて、逃げ出して
 泣きたい想いを抑えて俺は今ここにいる

 その最後の選択がここで、本当にいいのか?


京太郎「……」


 そっと、赤木しげるの墓に触れる
 アンタがどんだけ凄かったのか、強かったのか

 それはもう分からないかもしれない

 でも、それでも俺は――

京太郎「俺のチカラで、やってみます」

 もうすぐ、俺を待ち受けている試合
 勝ち目なんて全く無い、ただの消化試合だ

京太郎「でも、それでも」ガンッ

 思い切り赤木しげるの墓を殴りつける
 拳が裂け、血が噴き出し……俺の血が赤木しげるの墓を染めていく

 それでも、力は緩めない
  
京太郎「俺は!! 俺の力を信じる!!」

 罰当たりだとか、不謹慎だとかどうでもよかった
 ただ楽になりたかった

 ここで宣言しても何も変わらないのに
 ただ認めて欲しかった

 目の前の男に、挑む資格があるということを

京太郎「……はぁっ、はぁっ」


 パキッ


京太郎「……え?」


 パキキキッ……

 パキィィンッ……!!

 カランッカランッ!


京太郎「あっ……」

 それは、偶然なのか必然なのか

京太郎「欠けた……?」

 たまたま古くなって弱っていた?

 いや、違う

 これは――赤木しげるからの餞別だ

京太郎「……赤木さん」スッ

 俺の血で染まった、赤木しげるの墓石の欠片
 ……そこまで言うなら

京太郎「貰っていってやるよ」

 俺が、戦う姿をアンタに見ていてもらう
 俺が強くなる姿を、アンタに見せる

京太郎「……ありがとうございましたっ!!」ペコッ


 なぁ、赤木さん
 アンタは今――

 どんな顔を、してるんだ?




 こうして、赤木しげるの墓参りを終えた俺は長野へと戻っていた

 なんてことはない

 休日を抜ければ平日が戻ってくる
 俺にとって、苦痛でしかない毎日

 学校での生活に……


【翌日 清澄高校】

 がやっ……
    がやっ……


京太郎「……」スーッ ハーッ

 ガラガラッ

京太郎「おはよう」

 シーン

京太郎「……」スタスタ

 ヒソ……
  ヒソ……

京太郎「……」

 俺が麻雀部を辞めて一週間近く
 既に以前ほどの風当たりは無くなったが、それでも妙な噂は尽きない

 というのも、近々予定されている【大会】に
 俺がエントリーしようとしているからだ

 その大会というのが……


  ダァンッ!!


一同「!?」ビクッ

 ざわっ……  
    ざわっ……

男A「おいっ、須賀京太郎はいるか!?」ガンガンッ

男B「このクラスなんだろぉ!?」ガラガシャァン

男C「出てこいやぁ!!」

京太郎「……ここだよ」スッ

 教室に余計な被害が出ないように名乗りでる
 相手は三人……逃げてもすぐに捕まるだろうな

男A「おぉーいたな。須賀京太郎」

男B「麻雀部のお荷物君、いや、荷物持ちだったか?」ククク

男C「どっちにしても、”元” だがなぁ?」ヒャヒャヒャ

京太郎「……」ハァ

男A「おいおい、テメェよぉ? 辞めたくせにまだ部室に入り浸ってるんだって?」

男C「女子部に男が入るなんて、おかしぃだろぉ?」

男B「こいつ女みたいな顔してっからなぁ……実はタマ無しなんじゃねぇか?」

京太郎「……」


京太郎「……退部の手続きをしに行っただけだ」

男A「ほぉー? ならいいんだけどよぉ」

男C「じゃあなんで、お前が【大会】に出るって噂になってんだ?」
 
京太郎「……」

男A「質問してんだろうがっ!?」ブンッ

 バキッ

京太郎「っ!?」ツ……ツツ……

男B「おい、顔はやめろ。バレたら退学だぜ」

男A「ふん、かまうこたぁねえよ」

京太郎「……」

男C「だいいちみろ、このふてぶてしい態度」

男A「どうせ教師の誰かが止めにくると、たかをくくってやがるのさ」

京太郎「……」

男A「残念だがその計算はきかねえよ。なぜなら俺らのバックには……」

 ガラガラッ

京太郎「!?」

教師A「……なんだ、何してる?」

男A「実は須賀君が絡んで来まして」

男C「俺たちに殴りかかろうとしてきたんで、つい反撃しちゃったんですよ」

 チ、チガッ! スガハワルクナイ!
 ソウダソウダ! ナニモシテナイヨ!

教師A「静かにしろ!!」ダンッ

 シーンッ……

教師A「またお前か? ん? 須賀?」ツカツカ

京太郎「……」ジロッ

教師A「なんだその反抗的な目は……?」

京太郎「……すみません」

教師A「須賀、廊下に立ってろ。放課後は反省文を10枚書け、いいな?」

京太郎「……」コクッ

男ABC「「「……」」」ニヤリ

教師A「ふんっ。貴様のような生徒、早くやめればいいんだ」

 ア、アイツッ! ヤメロヨメダ!
 クソォー…… ミヤナガサンガイレバ……

 ナンデコンナトキニイナインダヨ! 

教師A「静かにしろと言っただろ!! 騒いだ奴も廊下に立たせるぞ!!」

 ……シーン

教師A「では出席を取る。須賀、早く出て行け」

京太郎「……」スタスタ

 ガラガラガラッ


【清澄高校 一年教室前 廊下】

京太郎「……」

 普段から毎日こうだというわけじゃない
 咲や部長達が居る前では、あいつらも表立っての行動はできないわけだ
 
 だが今は違う
 咲達、清澄高校【女子】麻雀部の皆は……旅行に行っている

 学校側から渡された旅行券五枚
 一週間、課外授業扱いで好きに旅行してきていいらしい

 全国大会優勝への、保護者会からの贈り物だとかなんとか
 みんな、素直に喜んでたな……

 確か、他の学校の人とも行くとか言ってったっけ?

 龍門渕の部長が張り切ってチャーター機を用意したお陰で
 風越、鶴賀も合同で参加したらしい

 きっと、楽しい旅行を満喫してるに違いない


京太郎「ま……俺には、当然何も無いんだけどさ」

 それどころか、今まで咲達の目を忍んでしか行えなかった嫌がらせが激化
 当たり前のように生徒にも教師にも目をつけられる毎日

京太郎「……」

 正直、俺自身分からなかった

 麻雀なんて元々そんなに好きじゃないし、さっさと見限ればいい

 そんで普通の高校生活に戻って
 咲達を遠くから応援して……学校を卒業して

 普通に生きればいい
 大学を出て、そこそこの会社に就職して……いつかは結婚して

 子供が出来て、子供を育てて行く

 そんな生活を夢見ればいい

京太郎「でも……逃げたくない」

 意地、なのかどうか
 そんなことも分からねぇ

 でも、きっとここで背を向けたら……俺はきっと死んじまうから
 ずっと死んだまま、これから先生きて行かなきゃいけないと思うから

京太郎「だから俺は、大会に――」



 俺が出場を決意した【大会】

 それはプロもアマも男女も関係なく――
 ただ、最強の雀士を決めるという大会だ

 以前行われたことがあるものに【プロアマ親善試合】というものがあるが
 規模はまるで違う

 全国大会に出場した高校から男女混合の代表者二名が出場
 プロの実業団からも代表者が二名選ばれて出場する

 いわば各高校の最強と、プロ実業団の最強選手が出場し
 競い合うお祭りのようなものだ

京太郎「当然、清澄高校の枠は2つ」

 選ばれるのは二人
 当然あの五人の中から選ばれるだろう

 学校の面子もあるし、全国の記者や視聴者が咲達に期待している
 プロを打ち負かすのではないかと、ワクワクしているのだ

 だからこそ、その枠は二つとも揺るぎないものとなる

京太郎「……」

 部長は言った


~~久「咲と和を出す。それが学校の総意よ」~~


 俺も同じ気持ちだ
 最も強い二人が出れば、長野の代表として鼻が高いし
 必ずいい結果を残すだろう

 だからこそ、俺はこう返した


~~京太郎「部長、俺がその二人に勝てば――代表になってもいいですか?」~~


 部長は困惑した顔で俺を見つめていた
 言いたいことは分かる

 無理だと、不可能だと
 その目が告げている

 でも俺は引き下がらなかった

 そしてようやく、一つの条件を取り付けた


~~~~


久「まず、私とまこと優希。この三人に勝てたら考えてあげるわ」

京太郎「ほ、本当ですか!?」

久「でもね、須賀君。アナタも知ってる通り……今私たちは英雄になってる」

京太郎「……」

久「それを差し置いて須賀君が出場になれば、きっと今以上に風当たりは強くなるわよ?」

京太郎「分かってます」

久「……退部届けだって、私そんなの受け取りたくないわよ」

京太郎「……なら、染谷先輩が部長になってからでも」

久「そういうことじゃないでしょ!!!」

京太郎「……」

久「いい? 例えどんなに辛くても、周りが敵だらけでも……須賀君はここに必要なの」

京太郎「……」

久「咲も和も優希も、まこも……みんな力を出し切れなくなる」

京太郎「……」

久「だから須賀君。もし、私達に負けたら――」


~~~~


京太郎「マネージャーとして入部しろ、か」

 今までと何も変わらない
 咲達の為に裏方として頑張って、応援して

 それで、みんなが活躍するのを見守る

 変わったことはただ一つ
 俺の未来が――枯れるだけ

京太郎「……なぁ、咲」

 お前は今、どこにいる?
 俺と過ごしてきたお前は今、どこに立とうとしてるんだ?

 なぁ、咲



 俺は――お前に並べるか?




?「……」スゥーッ


【都内 居酒屋】


 ガヤガヤ

?「うぅっ……もっとビールくらひゃい」ヒック

ひろゆき「飲みすぎだよ……」

?「らって、井川さんが冷らいから……」ヒック

ひろゆき「……全く。麻雀を打ってる時とは大違いだな」

?「ぶーっ、いいやじゃないれすか! 麻雀なんへ……」ブツブツ

ひろゆき「なぁ俺さ。……今でも……時々思うんだ」

?「へっ?」

ひろゆき「……若い頃のあの人はどれほど強くて……化物だったのかと」

?「……あの人って、赤木しげるのことですか?」

ひろゆき「ああ、俺が知る限り――あの人より強い人は存在しない」

 チラリと、旧知の顔が思い浮かんだがそれはいい
 あの人もきっと、同じことを言うだろうから

?「ねぇ、井川さん」

ひろゆき「なんだ? 結婚ならしないよ」

?「違います。あの、その赤木って人と私……どっちが強いのかなって」

ひろゆき「あ? そうだな……最近の若いのは変なオカルトめいた力を使うしな」ウーン

?「わ、若いっ……えへへっ」ニマニマ

ひろゆき「……でもな、そういうのじゃないんだよ」

?「え?」キョトン

ひろゆき「あの人の強さはもっとこう……別にあるというかさ」グイッ

 ゴクゴクッ

ひろゆき「そこんとこはまだ俺にも……分からない」

?「ふーん……。でも、井川さんがそんな話するの珍しいですね」

ひろゆき「……」

?「普段は聞いても黙ってるじゃないですか?」

ひろゆき「……それはだな。今朝、変な子供を見たんだ」

?「子供?」

ひろゆき「てんで弱そうで、情けなくて。才能の欠片もないような奴」

?「酷い言いよう……」

ひろゆき「でもな、あの人がそいつを選んだんだ」ギリッ

?「???」

ひろゆき「……分かりませんよ、赤木さん」グスッ


 なんで俺じゃ――ダメなんですか?


?「……」



【数日後 Roof-top】

 部長と話し合った結果、対局の場所はこことなった
 部室に俺が入ればまた問題になるし、ここならその心配も減る

 それに――この試合のことは咲と和には内緒だから

 もし二人が知れば、どちらかが辞退する可能性がある
 それは、出来れば避けたいこと だ


優希「……」

まこ「事情は聞いちょる」

久「……私達三人が相手よ」

京太郎「……はい」


 そして――いよいよ決戦
 相手は俺のよく知る三人だ


優希「京太郎……私達が勝てば、辞めないんだよな?」

京太郎「ああ、約束だからな」

優希「……」

 優希の奴はきっと分かってる
 俺が部活に残ることになれば、今以上に苦しい日々が待っているかもしれない

 それでも、俺にいて欲しいのか?
 そんなに俺のことを想ってくれてるのか、優希?

京太郎「……ありがとな」ポンッ

優希「うっ、うぁっ……うあぁぁあぁっ、ごめん……ごめんなさいぃ……」ポロポロ

まこ「……京太郎、お前が苦しんどるのに気づけんで――すまん」

京太郎「いえ、いいんですよ。俺が望んだことですから」

まこ「じゃが……こんな結末!」ギリッ

久「まこ、よしなさい。須賀君の決めたことよ」

まこ「っ!! そんな言葉、口にする資格があると思うちょるんか!?」

久「……そうね。私が言うのは筋違いだわ」ウツムキ

まこ「……くっ!」

 みんな、苦しんでる
 誰も悪くないのに、みんな自分の想いのままに歩んだだけなのに

 それもこれも、全部俺のせいなんだ

 俺が弱いから

 俺が何もできないから

 だから――


京太郎「打ちましょう」


 強くなるしかない



 俺が望んだもの……
 それは変化だった……


【Roof-top】


京太郎「……」

 全てをひっくり返すような変化だ
 生まれ変わるほどの……

 しかし俺はその資質に欠けていた
 
優希「……」

まこ「……」

久「……」

 女の子目当てで入った麻雀部では、初心者ゆえにカモられ
 手を出すことなど出来ず、雑用としてこき使われる毎日

 そして今日、【大会】への出場を賭けての麻雀も……

京太郎「(持ち点が……あと少し)」チャリッ

 連敗――
 
 追い詰められた

京太郎「くっ……」

 これまでずっと4位……流れに乗れずに点棒が減るのみ
 その度に胸が締め付けられる

久「さぁ、須賀君の番よ」

京太郎「……」

 これが尽きたら、俺はこれから先ずっと
 雑用としてみんなを応援しなければならない

 麻雀をやることもなく……ただみんなを影から見守るだけ

 半年前、麻雀部に入った
 その日から俺の運命は決まっていたのかもしれない

京太郎「(なんとか凌いで次の半荘へ)」チャラッ

 もう振れない

京太郎「(大丈夫、これならきっと通る)」タンッ

久「ロン」

京太郎「!?」


 あぁ……終わった
 何もかも


京太郎「(ミスらしいミスはしてないのに……どうして?)」ギリッ


 俺は確かに初心者だ
 だけど、運が絡む麻雀でここまで一方的なのか?

 これじゃあまるで、一方的なリンチじゃないか



優希「……諦めるじぇ」

まこ「京太郎……もう辞めるんじゃ」

久「須賀君、アナタがどうしても必要なの。みんなの為にもお願い……」


 そんなこと、理解はしている
 しかし、だからと言って納得はできない


京太郎「(俺は……男だ)」グッ


 俺には分かる
 もしここで【大会】に出ず、そのままズルズルと過ごしても何も変わらない

 俺は負け犬のまま、ずっと……ずっと


京太郎「(この半荘でラスをくうとオワリ。次の半荘へ進めない)」


 なんとか3位!  
 ……頼む!


京太郎「っ!」カッ
 
 カシッ

京太郎「(ダメだ、来ない)」


 どれだけ祈っても、掴むのはゴミのような手
 泣きたくなるような配牌

 変わらない運命



京太郎「(誰か、変えてくれ……!)」


 誰でもいい……!

 このよどんだ空気、流れを!

 変えてくれっ!


京太郎「(誰でもいい……!)」


 神でも……!


 魔でも!


 
 ギィッ……


京太郎「……?」


 それは不思議な感覚だった


?「……へぇ」


 そいつが部屋に入った瞬間――
 俺の世界はガラリと変わった


?「……」

  /::,ィア::::..          /}        廴
  ノイ/:::/:::::/:::::::::/ / / / ハ          :j
   / ハ:::::::/::::r/ / / ̄// ̄! i!       :|
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 その男――
 神か、悪魔か



 リメイク作業がまだ途中なので一度切ります
 前回の一更新分ずつくらい書き直し貯めたら、また随時投下するので

【主な修正点】
・ひろゆきの口調
・行間やスペースの取りすぎていた部分を圧縮
・誤字脱字
・前回の闘牌でミスがあった部分など

 




 その男はまるで幽鬼のようにふらりと現れた

 店内にいる、他の一般客とはまるで違う空気

 歳は十代後半から二十代前半と言ったところか
 見た目に関してはなんてことはない、どこにでもいそうな男

 だが、それなのに俺は――
 その男の眼差し――一挙手一投足に、目を奪われた

?「クク……」ツカツカ

 歩いてくる
 対局中のどの卓にも目もくれず、ただまっすぐ俺達の元へ
 
京太郎「(一体誰なんだ、あの人――?)」
 
 染谷先輩の知り合いか?
 それとも部長の?

 頭の中をぐるぐると、色んなことが巡り回る

 しかし、誰もその人を見ようとしない
 こんなに近づいてきているというのに、誰も意識を向けようとしない

京太郎「……?」

?「……」ドサッ


                ア     非   ヽ
               ム"         ハ
                / " "        ".ハ
              / " "       " " |

              }イ " "/  /ヽ   " " |
                  |イ /1/レイ/_  XA   |
                  |.|/ }∧ ー゚'’ ii ー゚ ”}沙
                  ハ   ||    /}::::ヾ、
                    r/:∧ ー仆一 / |:::::::}:::> .
               /:/:::: ∧  zz / リ:::::::|:::::::::::::> .
            , <:::::/:::::: | ヽ   /  /::::::: |:::::::::::::::::::::::::> .
         , <:::::::::::::/::::::::::{   ヽ/  /:::::::::::|::::::::::::::::::::::::::::::::::::'.
        ./::::::::::::::::::::/:::::::::::::|>---:</::::::::::::}::::::::::::::::::::::::::::::::::::::{

        }::::::::::::::::::::/:::::::::::::::|;;;;;;;;;;;;;;;;;;/:::::::::_|__::::::>::::::::::::::::|
        /:::::::::::::::::::‘ー---:::|;;;>=へ ̄ ̄:::::::::::::::::::::: ̄ ̄::::::::::::::::!
       .}:::::::::::::::::::::::::::::::::::> ´    ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|

       /::::::::::::::::::::::::::::::> ´        >::::>:: ̄`丶:::::::::::::::::::::::::リ
        〈::::::::::::::::::::::::::/        r千:/::::::::::::::::::::::ヽ:::::::::::::::::::/
       }::::::::::::::::::/:/         /;;}:/::::::::::::::::::::::::::::ハ:::::::::::::::/
       |::::::::::::::::::}/ /      ./;;;;;;;;}':::::::::::::::::::::::::::::::::::' ̄ ̄「´
      .ノ::::::::::::::::/:} }  ./ /  /;;;;;;;;;;;;;|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}:::::::::|


 男は何も言わず、俺の後ろの椅子に座る
 どうやら、俺の配牌を見ているようだ

京太郎「??」ガバッ

 振り向くと目線が合う
 男は何も表情を浮かべず、ただこちらを見ているだけ

 一体――何が目当てなんだ?

久「……須賀君?」

京太郎「えっ?」

久「対局中によそ見しないで。それに、椅子なんか見てどうするの?」

京太郎「???」

 椅子? いやいや、こんな見られてたら集中できないだろ普通!



まこ「少し、疲れとるんじゃろ」

優希「こんなに京太郎と打つのは初めてだじょ……」

京太郎「……?」

 もしかして、みんな後ろの人に気づいてないのか?
 こんな人に見られながら打つ俺の身にもなって欲しいんだが……

久「そうね、今思えば須賀君と打つのなんて……どれくらいぶりかしら?」

まこ「……」

京太郎「……」

 だが、いいところもあった
 あの張り詰めた空気が少しだけ緩和されたような気がする

 勝ちを確信しているのもあるのか、あきらかに勝負の熱が引いている

京太郎「(変わるかもしれない、流れが――!)」グッ

 そうだ
 まだ負けると決まったわけじゃない!

 ここを凌いで、次の半荘から連続トップを取れば――
 収支で一位になれば問題無い

 まだ俺の点棒は――残ってる

?「……」


~~~~


 そして、南四局の八巡目
 とうとう、俺にもチャンスが来る

 235p 123m 12399s 中中 
 ツモ中
  
京太郎「(きたっ!)」

 5pを切って1p、4p待ちにする
 高めの1pが出ればドラを絡めてハネ満まである

 逆転トップも可能な手――

京太郎「……」ググッ

久「……」

まこ「……」

 この時、京太郎にとっては生涯において初めての鬼気迫る戦いであった
 それでも、その戦いの中で一番の決断を迫られたのはきっと――

京太郎「(2p切りか5p切りか……)」

 この決断に他ならない 
  


 5p切りしたいのはヤマヤマだが問題は久のリーチ
 
 久の河にある現物は
 西北2p3m1s5m9p6s

 5pはどこかきな臭く感じる
 一方で2pなら現物だし、安全だ

京太郎「(中のみだけの安手……それでも)」

 しかたがない……

京太郎「(振ってしまえばそこで全て終わっちまう……無理はできねぇ)」

 第一、テンパイにしておけば流局狙いもできる
 一旦ここは凌いで、次のチャンスを――

京太郎「……」つ2p

 悩む京太郎、しかし掴んだのは現物の2p
 この時点で京太郎は既に、戦いにおいて最も重要な牙を抜かれていた

京太郎「(もう、これしか――)」スッ

 いよいよ持って、その一打を放とうと腕を上げた


 その時だった



?「死ねば助かるのに……」



京太郎「え?」

 声がした
 耳に心地よく残る、それでいてどこか不思議な冷たさを感じる声

 振り返ると、先ほどの男が京太郎をじっと見つめていた



京太郎「分かるんですか麻雀?」

?「……」

京太郎「……」

?「昔、そんなモノをよく知っていたような気がする」

 男は遠い過去を思い返すようにそう呟くと、そのまま続ける

?「ただ……今気配が死んでいた」

京太郎「気配……?」

?「背中に勝とうという強さがない。ただ助かろうとしている」

京太郎「そんな、こと……」

 そんなことない、と言い返しそうになって言葉が濁る
 だって、本当にその通りだったから

?「お前はただ怯えている」ニヤッ

京太郎「(コイツ!)」ギリッ

 なんなんだ急に、後ろから好き勝手言いやがって!!
 お前に何が分かるんだ、ここで負けたら終わりなんだ!

 負けてしまえば俺は――!!

京太郎「(無視だ、無視)」ブンブン

久「??」

まこ「……ついにおかしくなったか、京太郎」ギリッ

優希「うぅっ……」グスッ

 俺は俺のやり方でやる
 そうじゃなきゃ、意味が無いだろ!!

京太郎「(だから俺は――!!)」つ2p プルプル

 俺は……

京太郎「……」スッ

?「……」ジッ


京太郎「……ああ、そうだ」

?「……?」

京太郎「確かに俺は怯えてた。こんなんじゃ、いつまで立っても追いつけない」スッ

久「須賀君……?」

京太郎「(俺は今、戦ってるんだ。相手を倒すという、目的を持って!)」

 なのに、闇が怖くてどうする?
 相手が怖くてどうする?
 
 足踏みしてるだけじゃ――

京太郎「(進まないっ!!)」つ5p

 どうせ死ぬなら
 強く打って……!!

/     ,     /   /   / /             |   |  :.   .   :.
    /     /   /    '    |   |     |   |  i|   |    .
  イ        '   /|    /|  l   |   |     |   |  l|   |    |
// /      |   | {   ' :.     |   |     }   |  l|   |   {
 ' 〃         |   |  | |   ト,  :     /| /| /|    '  ∧|
/ / .'   ,:  ' Ⅵ |_'. |  | |   | l   |     ' }/ }/ :  /  .イ `\
{/ /   / /  / {  |  Ⅵ≧!、,|   | 、 |   _/ム斗七    /:. / }'
 '   ,イ / | { 从 | イ  {::しメ∧   l  Ⅵ   イ {::し刈 `ヽ'  ' }/
'  / /イ Ⅵ :.  Ⅵ    Vzり \  、 }  /  Vzり   }/  /
/        | 从   |            \ ∨/        ,  /
       _∨∧ :.             ` \           ,:_ノ> 、_
 ,  <//////{/{{`∧         、              /  }}//////> 、
´//////////// l| ,∧             _    ∧  ||///////////>
/////////////从 {   、         _  ィ -vノ    ' } /'/////////////
/////////////{/∧   l\   ー=≦__ ,   ´   /' / イ∧/////////////
/////////////|//∧  :. \               / / /'////}/////////////

京太郎「(死ねっ!)」ダァンッ!!!!


 5p


久「!?」

まこ「!!?」

優希「!?!?」

 

京太郎「……」


久「……くっ」つツモ


京太郎「(通った……!)」



まこ「(ここで5pじゃと……?)」

 その時
 全くノーマークのまこが実はテンパっていた

 まこの待ちは発と2p
 
 もしも京太郎が2pで逃げていれば振り込んでいた運命のイタズラ

まこ「(惜しいのぅ……)」タンッ

優希「うぅー」タンッ

 そして、その1巡を乗り越えた京太郎
 そのたぐり寄せるツモは――

京太郎「……っ!?」つ中

 引いたのは、四枚目の中
 すかさず――京太郎は動く

京太郎「カンッ!」バララッ

久「え?」


 そして京太郎が嶺上牌に手を伸ばす


久「(馬鹿、そんな苦し紛れで何が――)」


 引き入れるのは、神か悪魔か


京太郎「(頼むっ……!!)」


 引いたのは――


?「クク……」

京太郎「!! ツモ!!!」つ1p

 
久「嘘っ!?」

まこ「なっ!?」

優希「!?」


京太郎「新ドラは――」カチャッ

 8s

 たぐり寄せる、勝利への波

京太郎「三色同順、中、嶺上開花、門前にドラ3だから、えーっと?」

まこ「倍満じゃ」

京太郎「ば、倍満……?」

久「この半荘は……須賀君のトップね」

京太郎「!?」ガタッ

 勝負の振り子はゆっくり――
 京太郎へと触れ始めた



京太郎「俺が……トップ?」ヘナヘナ
  
 この三人を相手にトップ
 未だ四回目の半荘でようやく、一位を取れた

 生き延びた――
 死なずに済んだのだ

久「少し休憩しましょ」

まこ「あ、ああ……そうじゃな」

優希「……」

 ガタッ スタスタスタ

 それぞれ思うところがあったのが、一度席を立つ三人
 一方で京太郎は、自分を勝利へと導いた男の存在が気になっていた

京太郎「……あの?」

?「……」

 先ほどから微動だにせず、京太郎を見つめる男
 京太郎は少しばかり恐れを感じながらも尋ねる

京太郎「アナタは一体……?」

 それは純粋な感謝の気持ちからなのか、好奇心からなのかは分からない
 ただ京太郎は知りたかった

 目の前の男の、底知れぬ気迫
 その正体を――

?「……赤木」

京太郎「え?」

アカギ「赤木しげる……」


     /  , _                              ヽ
    l. /  `/. ,y-ー.'ア´ /   /ヽ                  l
    l. l /´/ /_,.ィ´ _. -'/  ,/  ::ヽ   、              l,
   l. l i,/ /ー ' ´ ^/ ,/     ::::'、 l::i  |, i!      iヽ  ヽ、 l,
   l │ | / /  ヽ``く '"´、 、     ::::! .i::'、 !i ,l ! . l'、  l ヽ   ! ヽ l
  l   | ヾ /    `<う\ヽゝ     ::::! l ::l ,| ! | l  l l  l '、. |  l l
.  l   ヽ┤/      `ー ',..:::     ,..-lノ-:;l,|-:l,l .l l  l  !  i, l  l i
  l   / ''|          ''''''" :::: ,∠ッァ-ー一, /i! l l  ! ,!  l !   !
ヽl /   .:l              ::: l::`ー゙'''''"´´/   l,!  l,'    | |
 V     .:::|             :: l::      ::/   '   ´     !i
  ヽ    ::::l             :: l::.    ..:/           '
  ... ヽ  .::::|            , 、   : !:::.  ..::/
  ::::...ヽ .::::::|   ヽ、     rヽ   i:::::::::, '
 .. .:::::::.. ヽ:::.:|     ` ー- ..._ __`、. l:::/
   :.:::::::... ヽi             ヽ !'
    ::::::::::::.... ヽ    ー- 、......  /
    ::::::::::::::::.. \  ::::::::  /ヽ

  :   ::::::::::::::::: ,.イ>.     /:::::::.. ヽ
  :..   ::::::::::.: ./ l   /:::::::::::::::.... ヽ

   ::..:.  :::::.::. / ,'   /::::::::::::::::::::::::::. . ヽ
|   ::::.:.  :::: / ,' ー 'ヽ::::::::::::::::::::::::: : : : ヽ
|   :::::::.. ノ  ,i      入:::::::::::::::: : :     ヽ
 !   /   <        '、::::::::::: :      /:|
 |/     \、      i、::::::     /::::.l
  `´                 :::      ::::::::l




京太郎「あ、赤木しげる?」

アカギ「……」

 何を馬鹿な、と京太郎は思った
 なぜならその名はつい最近聞いたばかりの名だったからだ

 それも死人

 数十年前に死んだ……神域の男
 その伝説の名前

京太郎「あの、冗談じゃなくて真面目に答えてください」

アカギ「冗談に聞こえるか?」

京太郎「いや、だって。その名前は――!」

アカギ「まぁいいさ。別に名前なんか」

京太郎「え?」

アカギ「好きに呼べばいい。萩原でも聖人でも。そんなもんに価値はねぇ」

京太郎「は、はぁ……でも一応、アカギさんって呼びます」

アカギ「……そうか、好きにすればいい」ゴソゴソ

 そう言って男はどこからか取り出したタバコに火をつける
 どうやら20歳以上のようだ

京太郎「それでアカギさん。アナタは何者なんですか?」

アカギ「……知りたいか?」

京太郎「そりゃ、まぁ」

アカギ「フフ……だがな、それは無理な相談だ」

京太郎「……え?」

アカギ「記憶がねぇーんだ。さっき目覚めてから、ここに来る以前の記憶が」

京太郎「ええっ!? それってまずいんじゃ!?」アセアセ

 記憶喪失だって!?
 それなら早く病院に行くべきだ!

京太郎「じゃ、じゃあ救急車呼びます!」ピッペップッ

アカギ「ハハハ……ばかだなおまえ。まだ気づかないのか?」

京太郎「へっ?」

 スクッ

アカギ「フフ……オレはな」スゥーッ

京太郎「!?!?」ビクッ



アカギ「もう、死んでんだ」ククク


京太郎「ぎゃああああああああっ!?!?」ドンガラガッシャァァン!


 ざわっ……
   ざわっ……



 タッタッタ!

まこ「どうしたんじゃ!?」

京太郎「ゆ、ゆっ、幽霊が!?」ビクビク

まこ「はぁ!? 何を寝ぼけとるんじゃ?」

京太郎「だ、だってそこに、ほらっ!」ユビサシ


アカギ「フフ……」スゥーッ 


まこ「……? なんもおらんぞ」

京太郎「へっ? 見えないんですか?」

久「……須賀君、もしかして私達の動揺を誘ってるの?」

京太郎「い、いや! そういうわけじゃ!」

優希「でも……対局中にもブツブツなにか言ってたじょ」ジトッ

 うっ、そう言われるとそうなっちゃうのか?
 いやでも! だって俺には普通に見えてるわけで!

アカギ「まぁ、諦めな。どうやらオレはお前にしか見えないらしい」

京太郎「そ、そんな……」

アカギ「……」

 いきなり目の前に幽霊が現れて、俺にしか見えない?
 そんなオカルトがありえるのか?

京太郎「(でも、確かにアカギさんは目の前にいる)」ゴシゴシ

 声だって聞こえるし、今もこうして話している
 決して妄想や幻覚なんかじゃない

 俺にはハッキリ分かる

京太郎「(この人は今、ここにいる!)」

 そして……さっきは俺のピンチを助けてくれた
 そこに変わりはないし、幽霊だろうと恩人だ

京太郎「すいません、ちょっと疲れてたみたいです」

久「そう。残り半荘二回。頑張ってね」

まこ「ゆっくり休むとええ」

京太郎「はい」ペコッ

 ゾロゾロゾロ

京太郎「……」

アカギ「へぇ、もう怖がるのはやめたのか?」

京太郎「はい。幽霊でも、アカギさんはいい人そうですし」

アカギ「フフ……的が外れてやがる。俺はそんなんじゃねぇ」ドサッ

京太郎「じゃあ……どうして?」

アカギ「……」

京太郎「どうして、俺を助けてくれたんですか?」




アカギ「ま……気まぐれって奴だ」

京太郎「え?」

アカギ「別にいいだろ、どんな理由だろうと」

京太郎「でも、気になりますよ」

アカギ「……人のこと気にかけてる余裕があるのか?」

京太郎「……?」 

アカギ「クク……もうすぐ始まるんだろ、続き」

 ガヤガヤ

まこ「そろそろ再開じゃぞ」

久「もういい?」

京太郎「あ、はいっ!」

アカギ「……」

京太郎「あの、俺もう戻りますけど……アカギさんはどうします?」

アカギ「さあな」

京太郎「もしよければ、まだそこに居てくれませんか?」

アカギ「フフ……幽霊に居て欲しいなんて、おかしな奴だなおまえ」

京太郎「見ていて欲しいんです」

アカギ「……?」

京太郎「俺……もう死にませんから」

アカギ「ふーん。ま、やってみな」

京太郎「じゃあ、また後で」タタッ

アカギ「……」


久「それじゃあ、再開するわよ」

優希「さっきみたいなまぐれはもう無いじぇ」

まこ「(何かが違う、京太郎……一体何をしたんじゃ?)」


京太郎「さぁ……やりましょう」


 のちに――
 麻雀界を震撼せしめる須賀京太郎


 これがそのはじまり


アカギ「……」


 赤木しげるを名乗る幽霊と、一人の平凡な少年
 この二人が交差する時――


京太郎「フフ……」


 物語は、大きく動く


https://www.youtube.com/watch?v=vx87wJvwJJ4





【都内 某所】

?「馬鹿もん!!」
 
 ダンッ

ひろゆき「っ!? アイタタ……あまり大声出さないでください」キンキン

 井川ひろゆきが京太郎と遭遇した翌日
 彼は、とある旧知の麻雀プロのもとを訪ねていた

ひろゆき「謝りますから、ね? 許してください大沼さん」ペコリ

秋一郎「……」

 大沼秋一郎、プロのシニアリーグで活躍する麻雀プロ
 堅実な防御と、”火薬”の異名を持つ彼はプロでも指折りの強者である

 かつては、あの【伝説】ともあいまみえたこともある
 この日本で、あの男の名をよく知る人物の一人なのだ 

秋一郎「全く、人と約束しておいて昨日は飲み歩いとったのか?」

ひろゆき「すみません、一昨日大きな勝負に勝って……それで」ズキズキ

秋一郎「それでまた【アイツ】の墓に行っておったのか?」

ひろゆき「ええ、まぁ」ポリポリ
 
 ひろゆきは、裏での麻雀勝負に勝つと毎度のようにあの墓を訪れる
 それは、報告の意味も兼ねて……あの人にどれだけ近づけたか確認する為

秋一郎「……はぁ。それはいいとしても、あの女を飲みに誘うことは無いじゃろ?」

ひろゆき「たまたま入った居酒屋で会っただけですよ。俺も酔ってましたし、つい流れで」

 というより、見つかった途端に向こうから走り寄ってきたのだ
 すかさずガッチリ捕まり、ズルズルと同席になってしまった

 正直、なんと迷惑な話だろうか
 あれで可愛くなければ、流石のひろゆきでもブチギレるだろう

秋一郎「その気が無いのに……期待させるのはやめておけ」ハァ

ひろゆき「いや、別に無いというわけでも。ただ若すぎますね」

秋一郎「抜かせ。お前も充分に若いだろうに」

ひろゆき「あ、あはは……もうガタが来ていますよ」

 歳は取りたくないものだと、常々思う

ひろゆき「……」

秋一郎「それより……【あの話】考えてくれたか?」

ひろゆき「……大沼のじっさん、前にも言いましたけど」

秋一郎「お前も知ってるじゃろうが、今の男子プロは弱い」バッサリ

ひろゆき「じっさんがいるじゃないですか?」

秋一郎「もうすぐくたばる老いぼれに、何が出来ようか」

ひろゆき「……じっさん」



ひろゆき「前にも言いましたけど、プロなんて興味ありませんから」

秋一郎「……」

 ひろゆきが頑なに拒む麻雀プロリーグ
 それにはちゃんとした理由があった

ひろゆき「大沼さんも知ってるでしょう? 男の強いのは”裏”にいるって」

 そうだ、この世界での男雀士の大半が裏の世界で生きている
 組の代打ちとして、勝負師として、あるいは政治家として

 生きるか死ぬかのギャンブルの炎に身を焼かれながら今を生きる

 そうした無頼こそが強者

ひろゆき「じっさんには悪いですけど、おままごとじゃ俺は満足できません」

 ひろゆきの目的はあくまで【あの人】に近づくこと
 あの人を越えること

 それなのに、命のやり取りの無いプロで戦うなんて
 とてもじゃないが納得できることではなかった

秋一郎「……そうじゃな。麻雀がメジャーになってから、どこかおかしくなっちまった」

 昔はこうじゃなかった
 実力のある者が、しのぎをかけて戦う場であったプロリーグ
 裏では組が糸を引き、麻雀賭博が横行していた ※サッカー賭博のようなもの

秋一郎「しかし今じゃ、アイドルを作り出す場じゃ」

ひろゆき「可愛くて、カッコイイそこそこを打たせておけば人気が出ますから」

 会場の入場費、グッズ販売
 それだけで、賭博以上の安定した収支が得られるのだ

 今やヤクザが警察に押さえつけられていることもあり、
 麻雀社会は大きく変動を遂げていった

ひろゆき「最も、激戦区の女子はなかなかイイ線行ってると思います」

秋一郎「じゃろうな、あやつらは本当に強いぞ」

 そういったスジに進まない女子は、純粋にプロを目指す
 自然に集うのは本物の強者

 男子のエセプロとは大きく違った、本物の打ち手

ひろゆき「それでも、俺から言わせれば綺麗な麻雀ですけど」

 超能力頼みの闘牌など、ひろゆきにしてみればお笑いだ
 そんな次元では無いのだ

 あの男の闘牌は、生き方は

秋一郎「……アカギ、か」

ひろゆき「っ!!」

秋一郎「なぁひろゆき。お前も近々50になり、生前のアイツに追いつくじゃろ」

ひろゆき「……」

秋一郎「そろそろ、潮時じゃないのか?」

                                         


秋一郎「お前が強いのは知っておる。だからこうして誘う」

ひろゆき「……」

秋一郎「そして何より、【あの男】の強さもよぉく知っておる」

ひろゆき「……」

秋一郎「届かんよ、お前じゃ」

 それは、ひろゆきが今までずっと貯め続けてきた想い

秋一郎「お前とアカギでは……」

ひろゆき「やめてください」

秋一郎「住む世界が、違う」

ひろゆき「っ!」グッ

 そんなことは言われなくても分かっている
 だが、ひろゆきはそれでもできるだけ近づきたいのだ

 【熱い三流】でいたいのだ
 あの人を越えることができず、死を迎えるとしても

ひろゆき「もし、これを辞めたら……その時が、本当の俺の死ですから」

秋一郎「……」

ひろゆき「……それでは、失礼します」ペコリ

秋一郎「ひろゆき、一つ聞かせてくれ」

ひろゆき「……」

秋一郎「お前、アカギの墓で何を見た?」

ひろゆき「……」

秋一郎「気づかんと思うか? ひろゆき、正直に答えろ」

ひろゆき「……アカギさんを見ました」

秋一郎「!?」

ひろゆき「とは言っても、見た目は十代から二十代の若い姿でしたけど」

秋一郎「なっ……お前、飲んでおったのか?」

ひろゆき「ええ。でも、あれは見間違いなんかじゃない」

 確信があった
 あれは間違いなくアカギ

 赤木しげるなのだ

ひろゆき「俺、見てしまったんです」グッ

 絶対に認めたくない
 でも――分かってしまう

ひろゆき「赤木さんが、後継者を選ぶのを」

秋一郎「なっ……!?」

ひろゆき「今度の【大会】……きっと、面白くなりますよ」

 ガチャッ  バタン

秋一郎「アカギの……後継者?」


 果たして、それはひろゆきの思い過ごしか……それとも


  第二話

~~アカギ~~

【Roof-top】

久「……」

まこ「……」

優希「……」

 須賀京太郎15歳――
 
京太郎「……」

 この日の京太郎は、半年前に役を覚えたっきりで
 スジの読み方も知らない、ど素人レベルだったという

京太郎「お願いします」タン

 しかし実践の中で京太郎は少しずつ麻雀を理解していた
 この四回の半荘で雌雄が決しなかったことが幸いし

 京太郎は今、恐るべきスピードで上達を見せていた

久「ツモッ!」バラバラ

京太郎「……」

 結局、五回戦目……京太郎の東場はマイナス7千2百
 振込もしないが和了りもない

 平凡な内容
 のちに天才といわれるその才気の片鱗はまだみえない

久「(結局さっきのはただのまぐれってことね)」

まこ「(……)」

優希「じぇ……」

 
 既に優希は精神的に追い詰められ、挙句の長期戦で疲弊している
 本来の実力の半分以下も出しきれず、ただ牌を切るだけの人形と化している

 つまり、この局面での敵は久とまこ
 まだ躊躇のあるまこはともかく、確実に仕留めに来ている久こそ

 今回京太郎が倒すべき相手となる

久「(このレベルなら、簡単に打ち取れる)」ニヤリ

 さしもの久も京太郎の成長には驚いていた
 しかし、対策の取れないレベルではない

 全国を経験した久に取って、この程度の雀士は腐るほど見てきたのだから

久「(ごめんなさい須賀君。でも、私はみんなの為に……)」

 さらに、まこや優希と違い京太郎を引き止めることに迷いがない
 既に久の頭の中には、京太郎をマネージャーにすることしかなかった

まこ「……京太郎」

優希「……」

 まこも優希もその結果を悟っている
 だからこそ、戦う気力が起きない
 
 これ以上死体蹴りをして何になるというのか?
 
 そういう諦めが二人にはあった

アカギ「……」 

 しかし、この男だけは違う



京太郎「……」

アカギ「フフ……」

 勝つのは確実に目の前の男
 須賀京太郎であると、確信していた

久「須賀君。もう諦めた方がいいわ」

京太郎「まだ……次がありますよ」
 
久「……そう。あくまで諦めないつもりなのね」

 既に大差が開き、役満でも連発しない限り京太郎の勝ちは無い
 なのにこの自信

 久が苛立つのも無理は無かった

久「(どうしてこう、私の言うことが聞けないの?)」イライラ

 久からしてみれば、飼い犬に手を噛まれるような気持ち
 京太郎のことは可哀想だとは思う
 
 だが、自分たちだってそれなりに彼のことを気遣ってきていたのだ
 京太郎もそれなりにいい思いをしているし、自分だって優しく接してきた

久「……」

 自分がいなくなった後、麻雀部が瓦解するのは避けなければいけない
 京太郎はその要なのだ

 雀力がなくても役に立てる
 それだというのに、何が不満なのか?

 こういう役に立つ方法もあるとなぜ認めないのか?

久「……っ」

 次第に久は冷静さを失っていく
 理不尽な怒りに、苛立ちを募らせていくばかりだ

京太郎「さぁ、早く打ちましょう。部長」ニッコリ

久「……ええ、そうね」

 この男をねじ伏せたい
 久はいつの間にか、その心を深く堕としていった……


 そして事が起きたのは南二局――


京太郎「……」

 白白発発中中西 89p 2357m

 大三元の種、その対子がみっつ……!
 まさに勝負手、大逆転へのその第一歩

アカギ「……」

 麻雀を始めたての者でも分かる
 これをモノにしなければ、逆転の道は存在しない

まこ「……」つ中

 そして、ついに飛び出る一枚目の中
 
京太郎「……」スッ

 しかし京太郎、なんとこれをスルー
 常人では考えられないほどの愚行

優希「……」つ白

 一枚目の白
 
久「……」発

 さらに発すらも……

まこ「……ちっ」つ中

 そして飛び出す、最後の中
 だがこれも同じように、京太郎は……

京太郎「……」

 黙って見送る
 この局面でなぜ?
 どうして?

 理解できるものなど、この場にはいない
  

 ただある人物


アカギ「クク……」


 この一人を除いては


京太郎「……」

 白白発発中中西 88p 2355m


 結局、あれだけの手が七対子どまり……!
 未来など何も無い

 掴んだのは絶望の袖

 逆転など、起こりえないように思われた




 所詮初心者のままなのか
 彼をよく知るものほど、こう思うだろう

 だがそれは違う
 京太郎は感じ取っていた

 逆転への布石

京太郎「(もうそろそろ来るか?)」

 時計を気にしながら、その瞬間を待ちわびる
 準備は既に、京太郎の中で整っていた

久「……じゃあ次は」スッ

 山も減り、残りわずかというところで事件は起きた

 ガチャッ カランカラーン

久「!?」

                      -≦.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:丶、
                    /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\
              /.:.:.:.:.:.:/.:.:.:i.:.:.:.!:.:.:.:.:.:.:.、:.:.:.:.:.:.ハ

                /.:.:.:.:.:.:.:.:.!:.:.:.::!:i:.∧:ト、:.:.:.:ハ:.:.:!:.:.:.:.l
                 /.:.:.:.:.:.:.:.:斗-ミ:.i:.i{:.::.ナナメ、.:.:}:.:!.:.:.:.:|
            /  イ:.:!.:.:ト(∨}八トⅥ'´V  l仆.:i :.:.:.:|
                  i:八:.:lx=ミ    x==ミ 八.:i、:.:.:|
                  l.:.:个ト::::::. ,   .::::::. /〃:ハ:.:.:|
                  |/レ从    __     厶イ 丿ハl
                     |人   ∨__ノ    ィ´ ̄.:/′
                      __n> __,.     |人ト/
                  //^>、_.」    h___
                    l   /〉}j     八:i:i廴__
                  r≦|   /:i|-、  -/:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:≧x
                  ∧i从___八:| ̄ ̄/:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i/:i∧》
              /ヾ Ⅵ:i:i:i:/:i:i:i|   ./:i:i:i:i:i:i:i:i:/:i/  ヾ

咲「あっ、みんなここにいたんだ!」

久「さ、咲……!?」ビクッ

まこ「っ!?」

優希「……」


京太郎「……」


咲「あれ、京ちゃんと打ってるんですか?」

久「え、えっと。その……そうよ。たまにはいいでしょ?」

 焦る久
 それも無理はない

 咲は何も知らないのだ
 もし、こんなことが咲にバレれば、間違いなく大会を辞退する

 それだけは避けなければならない
 絶対に……



まこ「さ、咲こそどうしたんじゃ? 今日は休むって聞いちょったが」

咲「はい。また校長先生達に呼ばれて、和ちゃんと記者の取材を」

久「よかったわね。なにせアナタ達は長野の希望だから」アハハ

咲「も、もう部長! やめてください!」アセアセ

 慌てる咲に、久たちは咄嗟に思案を巡らせる
 咲は何も知らない

 京太郎が迫害にあっていることすら、咲は知らないのだ

 というのは、教師達も狂信的な生徒達も咲の前では大人しいからだ
 媚を売り、ゴマをすり……下手に出てやり過ごす

 今までそんな経験の無い咲は図らずも有頂天になる
 姉との和解も済ませ、チヤホヤされる毎日

 今までに経験したことの無い心地よさが咲の目を曇らせる 


      '. : :.'. : : :.'._」 i -‐i‐‐|: :|: {_____i:.i__i: :i   i: : ハ: : : :ハ: {__i:} 
     ∧:_:_:!>''"! l !_ . ハ_」_i:.|ハ: : : : : |. :{´i ̄:.「~¨`ヽ: : : :.}: : :.:`ヽ|  
     /        .!. : : :!; <{: | i:.| |: : : : : |: : 八: : | |: : ハ: : : ': : : : : :.:| 
.    /     { . :´: :! xく:|ヽ! iヘ:「ヽ! 八: : : :.:|ヽ:「 \| |:.:/ |: :./ : : :': : : .| 
   /  ,  .∧ : : : i: :|ヽ| ,」⊥jL ヽ  \: :.|ヽァテ¬=ミ、 |ハ'. : :./. : : : | 
  ,'. :イイ: : : :. : : {ヽ|,.ァ7'"⌒ヽ`ヽ   ヽ|  ん'.:::::::ハ`Y /: : :/ : : : : :|  
  ,''´ | |: : : ∧: :Y 〃 ん'.::::::::ハ         { {::::::::::::i:} }}': :/ヘ: : : : : :.|
    { |: : : : : \! {{ { {:::::::::::i::}         Vヽ.__,ノリ ノ/|/  } : : :.∧|
       |: : : : : : ! \ .Vゝ--' ノ        ゝ--- '     /. : :./ ノ  
       |: : /{: :八 个 > '~´     ,        :.:.:::::   ;  /.: : :/     
       |: / ヽ: :.:iヽハ   ::.:.::               /_,ノィ: :/     
       |/   \| ゝ:.      、ー― ァ        /: :./ ノ:/      
                }ヘ、        ̄         .イイ/  /     
                |: />. .             .イ:./ ノ′       
               {/  ヽ{≧ト .. __  .  ´ |/
                   ヽi           |_
                      ,|          ノ.::\
                       /.:|         /.:::::::::::\


咲「えへへ、でも本当に毎日が慌ただしくて」ニコニコ

京太郎「……」


 大事な幼馴染の苦悩など、何も知らずに




久「(まずい、このままじゃ……)」

 折角追い詰めたのに、ここで勝負がうやむやになるのは望むところではない
 まして、次に戦う時には京太郎は今よりも少しばかり手ごわくなっているだろう

 何が起こるかは分からない

 仕留めるのなら、今

久「……それより、続けてもいいかしら?」

まこ「え?」

優希「……」

京太郎「……ええ、いいですよ」

優希「京太郎?」



久「もう少しで終わりだし、よければ咲も見ていけば?」

咲「わぁ! 京ちゃんが打つのを見るの、久しぶりだね」ニコニコ

京太郎「そうか?」

 機は熟す
 当然だと言わんばかりに椅子に腰掛ける咲

 京太郎は視線を向ける
 そこにあの男の姿は無い

 気が付けば、その男は――

アカギ「クク……これがお前の打ち方か?」

京太郎「……」

 隣に立つその男は、京太郎の手牌を見て
 静かに笑う

アカギ「……見たところ、真剣勝負だったようだが」

京太郎「……真剣勝負?」

 何を馬鹿な、と京太郎は思う
 元々この勝負は前提条件が成り立っていない

 相手は三人とも結託し、京太郎を抑えようとしている
 躊躇や戸惑いはあれど三対一の勝負なのだ

京太郎「俺は、機会があればいつかこうしようと思っていましたよ」ボソッ

 つまり、元々まともな勝負ではなかったのだ
 だからこそ――この一筋の希望に縋った

アカギ「フフ……」

 アカギは笑った
 無くしたはずの記憶の底で、くすぶるものがある

 自分と真逆のような性格……そのハズなのに
 根っこがどこか同じように思えるのだ

京太郎「さぁ、部長。再開しましょう」カチャッ

 伏せた牌を起こす京太郎
 それに釣られて、他のメンツも一斉に手を起こしていく

 そして、なんら変わらない自分の手をゆっくりと眺める

 そんな中、ただ一人だけ違う結末を迎える


咲「(えっ……? 嘘、でしょ……)」ゾクッ



 七対子どまりのゴミ手が、今ゆっくりと――



 白白白発発発中中中 888p 西



京太郎「勝負はこれからですよ」


 恐るべき、変貌を遂げる



咲「(大三元四暗刻単騎待ち!?)」ゾクゾク

京太郎「次、誰だっけ?」

久「あ、えっと……私よ」タンッ

 うまい流れ、京太郎の思惑通り 
 今三人は咲の存在に注意が行っている
 
 そんな今麻雀を再開させれば、相手は動揺する

京太郎「……」タン

 あれだけ大量に河から牌をすり替えているのだから、
 ちょっと注意すればその異常に気づくハズ

 気づかれてしまえば、ツモでの和了しか不可能になる

 だからこそ、みんなの意識が戻らない今こそが絶好のチャンス

アカギ「(今は一種の思考停止状態……混迷の時)」

久「……」

 早く終わらせたい焦りからか
 それとも一線を超えた京太郎が引き寄せる悪運なのか

 魅せられたように――吐き出してしまう

久「……」つ西

京太郎「ロン」バラッ

久「えっ……?」


 京太郎の策にツキものった――!


京太郎「大三元、四暗刻単騎待ちです」


 ざわ……
  ざわ……


まこ「な、なんじゃと!?」ガタッ

優希「え? えっ、でもさっき……」キョトン

まこ「京太郎、そこまでして……!!」ギリッ

久「まこっ!!」

まこ「っ!?」チラッ


咲「うわぁー、京ちゃん凄いねっ!」パチパチ

京太郎「おう、サンキュ!」ニカッ


まこ「ぐっ……」

アカギ「(なるほど、ここまで計算ずくってわけだ)」

 この河からのすり替えは、ただ和了ってもダメ
 今のような状況でこそ、初めて通用する

 咲の前で事を荒立てたくないという久達の考え

 そうでもなかれば、当然のごとく無効扱い
 おそらくやり直しになっていただろう

京太郎「いやぁ……俺も悪運強いっすね」ハハハ

久「……須賀、君」ギリギリ




咲「京ちゃん、こんなの一生に一回あるかないかだよー」アハハ

京太郎「うるせー! 俺だってやればできんだよ!」

久「……」

 咲の手前、ムキになって否定することもできない
 あくまでこれは【遊び】なのだ

 少なくとも咲の前では、そうあらなければならない

優希「??」

 まさか京太郎がイカサマをしたなどとは思わない優希

まこ「……」

 気づいていても、咲の手前発言できないまこ
 そしてなにより悔しいのは――

久「須賀、君。やってくれるわね……」

 咲が和了の立会人となった以上、反故にはできない
 数の暴力で押し切ることも不可能

まこ「部長、いいのか?」

久「……いいも悪いも無いわ。やられた方がアホなのよ」

京太郎「……」

久「でもね須賀君。一度だけにしておきなさい」

京太郎「……さぁ、なんのことでしょう」

久「まだ私はね、穏便に済ませようと思ってるのよ」

 ふつふつと湧き上がる怒りを押さえ込み、久は平静を装う
 
久「でもね、もしまた同じようなことをしたら……」

まこ「……」

久「無理やり、言うことをきかせることもできるのよ」ボソッ

京太郎「……」

アカギ「ふーん……そいつは大変だ」

 引退寸前とはいえ、学生議会長
 その気になれば――物騒な生徒を動かすことも可能だ

久「……何でもアリで困るのは、そっちだと思うけど」

京太郎「……よく覚えておきますよ」ブルブル

 京太郎にも恐怖はある
 もしここでしくじれば、京太郎は死を選ぶしかない

 だが、それでも前を向いて進めるのはきっと――

京太郎「でも、勝つのは俺です」

アカギ「クク……」

 隣にいる男のお陰なのか
 それとも全く別の意思によるものか

京太郎「さぁ、続きです」

 恐怖はある、恐れもある
 しかし、この時既に京太郎の中にはもう――

京太郎「決着を付けましょう」

 迷いは無かった





 京太郎の起死回生の和了の後、久の提案でほんの少しの休憩時間が用意された
 泣いても笑っても最後の半荘

 あと一歩まで追いついた京太郎に対し、久はある対策を練ろうとしていた

久「……」

まこ「部長、なんで止めなかったんじゃ?」

久「まこ……」

まこ「わしは、京太郎のあんな姿は見とうなかった」ギリッ

 染谷まこの知る須賀京太郎は……平凡で、素朴な打ち手
 だがそれでも強くなろうとする愚直さ、真摯さをまこは評価していた

 それはもはや、ただ一人の後輩に向けるものではなくきっと――
 
まこ「なんで、ここまで追い詰める必要があるんじゃ!」

 一つの、好意だったのかもしれない

久「……まこ、黙って」

まこ「っ!?」

久「私はね。みんなの為を思ってるの」

 京太郎に好意を寄せる咲や優希、まこが戦えなくなる
 それだけは絶対に避けるべきこと

 学校中が期待しているのだ
 それだけではない、この街に住む人達……長野に住むほとんどの人が思っている
 
 プロでも活躍が期待されている咲や和
 その輝かしい未来を奪うわけにはいかない


 例えその為に自分の想い人が苦しもうと……


久「私自身が、鬼になっても」

まこ「……」ブルブル

久「それにね、もう遅いのよ」クスッ

 あるいは既に、久は壊れているのかもしれない
 一人で背負うには余りある重圧

 その期待に奔走され続けた少女の運命は――

久「須賀君はもう離さないわ。ずっと……ずっとね」ポロッポロッ

まこ「……まさか?」

久「えぇ……次で終わりよ。絶対に」 つ 携帯

 既にねじ曲がってしまっているのだから



 久とまこが話し合うその陰で、咲と優希が談笑している
 もっとも、本当のことを打ち明けるわけにはいかないので

 優希は現時点で、咲の見張り役にすぎないのである

優希「うぅ、京太郎のくせに……」

咲「優希ちゃん、次は頑張ってね」

優希「う、うん……」

 そして一方の京太郎は、アカギとともに卓で再開を待っていた
 椅子に座り、ただ時計の針の音に身を委ねながら

 怯えているのだ

京太郎「……」ガタガタ

 やってしまった
 圧倒的な負けを取り返す為のイカサマ

 部長達を本当に敵に回す、最低の行為

京太郎「(お、俺は……)」ガクガク

アカギ「フフ……おかしな奴だ」

京太郎「アカギさん……?」

アカギ「自分でイカサマやって、顔を赤くしたり青くしたり……」

京太郎「……」

アカギ「京太郎」

京太郎「は、はい」

アカギ「……あのおさげの女。何か特別なのか?」

京太郎「え?」

 アカギの視線の先
 まこと話し合う久が、何やら不敵な笑みを浮かべている

京太郎「特別も何も、強いですよ。全国大会でも大活躍で……」

アカギ「クク……ばか。俺が聞きたいのはそんなことじゃねぇよ」

京太郎「へっ?」

アカギ「俺の見立てじゃ、このまま行けばおまえの勝ちだ」

京太郎「!?」

 アカギはさも当然だと言わんばかりに京太郎を見る
 しかし、当然ながら京太郎はその言葉を信じることができない


アカギ「奴らは目が曇ってる」ククク

京太郎「そんな、こと……」

アカギ「あの女、お前に脅しをかけただろ?」

京太郎「!?」

アカギ「自信が無いのさ、心の奥底でどこかお前に負けるビジョンが見えている」ククク

京太郎「あの、部長が……?」

アカギ「所詮アイツは、多額の金や生命を賭けた勝負をしたことがない」

 そんな中、一方的に圧力をかけて勝とうとする
 ハンデを得て、優位になっていると勘違いしているのだ

 そんな脅しは、本当に追い詰められた者にはなんの逆境にもならないというのに
 むしろ……闘志に火をつけるだけだ

アカギ「慢心した奴ほど脆いものはない。クク……ハダカの奴の麻雀は児戯に近いのさ」

京太郎「部長の……ハダカ?」モンモン


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         、::::::::::: ,│ │‐、       _..-‐  /│:::::::::::/::::::::::::::::::::::/
         ゙‐.. ::::│  ' / ゙l`ー -‐''"      │:::::::::::/::::::::::::::::::/

           丿‐ーー-::くr  │          亅冫―-ー:/,,..‐
          /:::::::::::::::〈ン   1         / //:::::::::::丿
        /::::::::::::::::::::::1   ノ        ノ  / :::::::::::¦゙l゛ー 、



アカギ「……」

京太郎「はっ!? いやいや、そういう意味じゃないってのは分かってます!」アセアセ

アカギ「フフ……お前も好きなんだな、そういうの」

京太郎「いえ、まぁ。人並みには」ポリポリ

アカギ「とにかく、残りの半荘でお前がトップになるのは間違いない」

京太郎「……」

アカギ「だが気になるのは、あのおさげの妙な自信」

 まだ勝負は分からないというのに、絶対に勝てるという確信
 負けるハズが無いという自信があの女にはある

アカギ「何か隠してるぜ、あの女……」

 ざわ……
   ざわ……



京太郎「……」

 確かに久は強い
 まこも優希も普段の京太郎ならまるで相手にならないだろう

 だが、今は違う
 完全に勝負の流れが京太郎に来ている

 戦意を削がれた優希とまこを使ったとしても、久が逃げ切ることは容易ではない

アカギ「鬼が出るか蛇が出るか……ククク」

          /: : : : : : : : : . : /        :' ;:    ミ   |
.          / : /: : :/ : : :彡/ . / . : : .   .: ;'       ミ }
         /://: :/ 彡 : : : / 彡/ 彡: : :ミ 、 ; :;   ミ
             ///: : / : : /. :__/. ::/ヽ:   |\:;       ミ  ′
.            /  /.://: 彡// /:/: :   ミト ;: 、   ミ     /
           / / /:/./┬く:|/ヽ     \|: :'_、 \    ミ/
            |  // {: :|: :ゞ<\ハ  /.: ̄: ,: \ }\⌒V
                 l/  : :| : : : ≧く.:} / :.xくア二二ア | /.:}
                    Ⅵ: .  . : ://  ヾ :' ;:     |_/.://
                    ヾ: : : : : ://    ,: ;:     __//
                 __ : : : : //    .: :'      /:-イ
             /: : :.∧: : /厶イ__;      /  ハ
            /: : / ̄ ̄ ̄}l__}l:_:')    /}  : : :.
.        _ .. -/: : : /   -―‐´┬\\.;     .: :|" / : : l\
_ .. -‐. : : : : : : : : : : : /   ______\;;>ヽ/.: :八/} : : |: :\

: : : : : : : : : : : /: : : : :/   ´      }l   l \_ソ: :   / : : : |: : : : :\
: : : : : : : : : : /: : : : :/    ー―― …ー 、_ソ: : :   / : : : : |: : : : : : :\

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: : : : : : : : /: : : :_:/         Y´:ヽ/: : : :    /: : : : : : :|: : : : : : : : :
: : : : : : : /: /: |        . : / : : : : : :      / : : : : : : |: : : : : : : :
ヽ:. : : _/: : :|.     . : : :/         /: : : : : : : : :|: : : : : : : : :


アカギ「おそらく、今頃隠し玉を用意してるハズだ」

 この、一見支離滅裂なアカギの予想だが……実は正解

京太郎「……」

 京太郎はすぐに思い知ることになる
 竹井久がどれほど自分に執着しているのか、そして――

久「えぇ、そうよ。すぐに来て欲しいの」

?『構わないが……本当にいいのか?』

久「勿論。それじゃあお願いね」

?『ああ、分かったよ』

 どんな手段を用いても、自分を手に入れようとしていることに

久「待ってるわよ、靖子」

靖子『……構わないさ』


 戦いは、いよいよ最後の半荘へともつれ込む




 勝負再開――


京太郎「ではそろそろ」

久「……ええ、そうね」

まこ「……」

優希「……」

 久の出した休憩の提案から十数分
 ようやく、対局を再開することとなった

咲「京ちゃん、頑張ってねー」フリフリ

京太郎「……ああ」

アカギ「クク……」

 京太郎の気がかりはアカギの言葉
 久の隠し玉、その一つだけ

京太郎「(なんだか分からねーけど、今は普通に打つだけだ)」

 流れは京太郎に来ている
 ならば、隠し玉とやら届く前に差を開いておけばいい

京太郎「(負けられない)」タン

久「……」
 
 東一局
 京太郎の思惑通り、序盤を制したのは京太郎

まこ「……」タン

優希「……」タン

京太郎「……来た! ツモ!」タンッ

 バラバラッ

久「……くっ」

 いくら三人が慎重に打とうと、ツキは京太郎の味方
 次々と有効牌を引き寄せて、ツモ和了してしまう

久「(勢いが完全に奪われた……このままじゃ)」

 未だ五回の半荘で収支プラスとはいえ、このままでは暗雲立ち込める
 三人で結託しようにも、優希やまこも既に戦意を失いつつあるのだから

久「ふぅ……困ったわね」パタン

 八方塞がり
 一度日を改めればまた違った結果だろうが、とにかく”今”勝たなくては意味が無い

久「正直、侮っていたわ須賀君」

 頃合だと思ったのか、久が手を止め
 突然口を開く

京太郎「どうしたんですか、突然?」

久「ねぇ須賀君。一つ提案があるの」

京太郎「……?」


 ここに来て提案?
 一体なんの?

京太郎「(落ち着け、どうせハッタリだ)」ドキドキ

 ちらりと横のアカギを見る
 しかし彼は、どこか遠くを見つめて――何やら嬉しそうな顔をしている

京太郎「(アカギさん……?)」

久「須賀君の実力は分かったし。あの事、考えてもいいなって思ってきたの」

京太郎「!?」

咲「??」

久「でも、例え須賀君が私に勝っても……その証明にならないと思わない?」

京太郎「なっ!?」

 まさか約束を反故にする気なのか?
 それも……まだ決着の着いていないこの段階で

久「だから、もう一つ条件を出していいかしら?」

京太郎「条件……?」

久「ええ、これから私が代打ちを立てる。その代打ちに勝てれば……」

京太郎「……」

 なるほど、そういうことか
 自分の負けを感じ取って、新たに自分に有利な状況を作り出そうとしているのだ

 だが、そんなこと受ける必要はない
 わざわざ不利な条件を受けるメリットなど、無いのだから

京太郎「受けると思いますか? このタイミングで」

久「ふふっ、そう言われると思ったわ。だから……」クスクス

咲「あの、部長。一体なんの話ですか?」キョトン

久「ああ、咲。咲は知らないのよね」クスクス 

京太郎「!?」ガタッ

 まさか、この女――!?

久「うふふ、どうしようかしらねー?」チラリ

京太郎「(俺と同じ手を……使ってきた!?)」ギリッ

 そう
 咲に【自分の現状】を知られたくないのは……京太郎も同じ
 
 もし自分のせいで幼馴染が苛められ、虐げられていると知れば……
 必ず咲は傷つき、自分を責めることになる

京太郎「……」ギリィッ

 言わば、京太郎の良心に訴えかける脅し
 条件を飲まないなら、全て打ち明けるぞという……久の玉砕覚悟の脅しなのだ




久「……」ジィーッ

アカギ「クク……この女、太いタマだな」

京太郎「……分かりました、部長」

 こうなればもう受けるしかない
 咲を傷つけることなく、穏便に済ますには……

久「あら、素敵。素直な須賀君が大好きよ」ペロッ

咲「???」

京太郎「……それで、誰が代打ちなんですか?」

 咲か、和か
 それとも全く知らない人間なのか

京太郎「誰でもいいです。俺が、勝ちますから」


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ヽ::::::::::::::::|::||:ト     `、 `ヽ、                           /::::::

:::`、:::::::::::|::|ト:|       `、  `-、                        /::::::::
::::::`、:::::::::|::|:|:::`、      ヽ、    `ヽ、..._               ,,     爪::::::
:::::::::ヽ::::::|: /           ` 、_     ゙̄`'ー‐‐---------ゥ-‐''    /::/::::::;/,
::::::;;;;;;`、;;ノノ    `、       `ー--、......____,,,....,、、‐''     ,/::/:::::::/:/

二,,,、、_z      `、                           ,,,/:::::ク::::://
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:::人::ハ::::::`、        ヽ                ,,,,,,,, ∠ニニ=== _ク/
::::::::Y::::\:::`、        `ヽ、,,,,,,,,         ,,,,,,/:::::::/::::ハ::::::::/

                    ゙゙゙゙゙゙゙'''''''''''゙゙゙゙゙゙゙
久「……」ニヤリ

 コツッ 

?「誰でも……勝つ?」

 ピシィィンンッ!

京太郎「!?」ガタッ

アカギ「……おでましだ」ニヤ


?「随分と、デカイ口を叩くんだな……少年」 コツコツ


久「待ってたわよ」ニッコリ


 ざわ……
  ざわ……


久「遅かったじゃない、靖子」クスクス


靖子「やれやれ」ドンッ
 

京太郎「藤田……プロ?」


アカギ「……」



咲「お久しぶりです!」

靖子「やぁ、全国では大活躍だったじゃないか」

咲「いえ、みんなのお陰で……//」アセアセ

 オイ、フジタプロダゾ……
 マジカヨ、スゲェナ!  

 ざわ……
   ざわ……
 
京太郎「……やってくれますね、部長」

久「あら? なんのことかしら?」クスッ


 そう、これは久の完璧な作戦
 実力で遥か上の藤田靖子を戦わせ、尚且つ周囲の客の目をこちらに向けさせる

 こうなった以上、京太郎はもうイカサマもできない
 さらに、負けたことをごねることも許されない

 つまり、衆人環視の中で京太郎を倒す
 そうすることで、京太郎の心を折るつもりなのだ


久「(しかも須賀君……アナタは人の目に触れながら打つことに慣れていないハズ)」ニヤリ

 ガヤガヤ ワイワイ

京太郎「ぐっ……」

まこ「よくやる……」ギリッ

優希「じぇ? じぇ?」キョトン

久「それじゃあ靖子。私と代わってくれる?」クスクス

靖子「ん? ああ、いいよ」ツカツカ

 ドサッ

靖子「よろしく。名前は、えーっと……?」

京太郎「……須賀京太郎、です」

靖子「須賀君、か。分かった……」

 ドクン ドクンッ……

京太郎「(怯むな、相手がプロでも……流れは今俺にあるんだ)」ドクン

アカギ「……」

 ニイチャンガンバレヤー マケルンヤナイデー
 フハハハハ マ、カテルワケナイケドナァ

久「さぁ、続けましょ」

京太郎「はい……」

靖子「お手柔らかにな」カチャッ

京太郎「……」ゴクッ



 まだ初心者を抜けたばかりの須賀京太郎
 対する相手は毎日のように修羅場をくぐり抜けてきた麻雀プロ

 いくら流れが京太郎にあろうとも、それをひっくり返すだけの実力差


京太郎「……」
 

 そうして迎えた東四局
 圧倒的なツキを持って牌を引き入れる京太郎に対し


靖子「ポン」チャッ

京太郎「!?」

靖子「……チー」チャッ

 
 ツモらなくても次々と有効牌を相手から拾う靖子
 京太郎のように高い手ではなくても、安い手を確実に素早く作り上げる

 
靖子「ロン」

京太郎「……なっ!?」

まこ「(早いっ!?)」

優希「じょっ!?」

 ざわ……
  ざわ……

 サスガプロダナ ナンテハヤインダ

京太郎「……」クッ

 チャラッ

久「ふふっ……」ニヤリ

 久の思惑通り、京太郎には成す術が無い
 並みの運だけで越えることができない実力の差を、京太郎は痛感した

京太郎「(こんな相手に……勝てるのか?)」ゾクッ

靖子「(脆いな)」フゥー

 既に過去の対局で京太郎は点差を開かれている
 その為、どうしても安手ではなく高い手を作る必要があるのだ

 当然、聴牌スピードは落ちてしまう

靖子「(なら、こっちは安い手で早和了すればいい)」

 既にリードしている勝負
 無理に相手に付き合う必要など無い

 こちらは逃げ切るだけでいいし、初心者の京太郎に靖子のスピードを越えることは不可能
 つまり、どう足掻いても勝ち目などない



靖子「(どうせなら、少しばかりハンデを上げてやってもよかったか)」

 ただでさえ初心者を倒すという、気乗りしない仕事だ
 ましてリードをもらってからの引き継ぎなど……屈辱すら感じる

靖子「(すまないな須賀君。またいずれ……普通に打ちたいものだ)」

京太郎「うっ……あっ」ブルブル

 目前に見えた勝利の希望
 それが……一瞬にして霧散してしまった

京太郎「(くそっ、くそぉ……あと一歩だってのに!)」ギリッ

 それなのに、どうしてこんなことに?
 いくらイカサマしたとはいえ……こんなのはあんまりだ

咲「うわぁ、私も最初は全然対応出来なかったなー」クスクス

靖子「ふふ、今だってどうか分からないさ」ニヤリ

京太郎「(あの咲ですら……? なら、俺になんて絶対に無理なんじゃ……)」

 怯え、恐怖
 京太郎が意地で押さえ込んでいたものが……次第に鎌首をもたげてくる

久「さぁ、南局を始めましょう。泣いても笑っても最後の……ね」

京太郎「くっ……」ガクガク

 勝てない
 あの一局で、靖子と京太郎の格の違いがあきらかになった

 もうひっくり返ったって、京太郎の勝ちは無いだろう

京太郎「……」ガクッ

 完全な終わり
 ゲームオーバーだ

京太郎「(もう……どうでもいい)」

 全力は尽くした
 卑怯な手も使って、自分にできることをなんでもやった

 それでも届かなかった
 勝てなかった

 なら、もういいじゃないか

京太郎「(最後まで、男らしく戦ってやる!)」キッ

靖子「(こいつ、まだ目が死んでいない……?)」

京太郎「(どうせ死ぬんだ。だったら、最後に大暴れしてやる!)」

 もはや、覚悟は決まっている
 この勝負を受けた時から、ずっとずっと考えていたこと

 身の破滅
 ギャンブルの炎に身を焼かれて死ぬこと

アカギ「……」ジッ

京太郎「さぁ、続けましょう」

 だから俺は――まだ戦う
 戦うことを諦めたら――心まで、死んでしまうから



アカギ「待て、京太郎」


-z_   ̄`         < _

/                 ニ- >x
                   z---  _ヽ
        l l l l      ヾ丶\   ヾ

           j  i:.ヽ   ヽヽ    ヽ
  _  i|.i / /: : :.Vヽヽヾ  .\  ヘ
 /r- Y  /.// -=、 Vi ヘ ヽ 、ハヽ ∧

7 i,-- 7  ./イ: : :.r、  \、i V',ヘ V ヘ ヽ∧
.| L-.7  /: : : : : :ヽ``ヽ、ヽY /V',ヽ.ヘ ヽ:i
..! ∨7 ./: : : : .'   ヽ、_ゞ× イ  V! ',.i  ヾ
八 T .イ: : : : '         .: : :''ヘ   リ  リ
  テi/: : : : '        .: : : : ''ヘ
 y':∧ : : : :    _    '-__: :''ヘ

.イ: : ::∧: : : : .   `ヽ、_   ヽ `ヽ-'
: : : : : : ヘ: : : :.    ......  ヽ─'
: : ' ヽ: : : ヘ: : : :.   t‐---'
ヽ、   : : : :ヽ     ∨
///>x  : : :.ヽ    ',
//////j\  : : ヽ    ,
////////j\  / \_j
//////////j\i>x



京太郎「えっ?」

 しかし、ここで京太郎を制止する声
 そう……アカギである

アカギ「フフ……このままやろうって考えてんだろ?」

京太郎「……」コク

 周りの目もあるため、声には出さずに頷く京太郎
 それに対し、アカギは首を振りながら続ける

アカギ「ダメだな。話になんねーよ」

京太郎「っ!!」ギリッ

アカギ「奴はお前の二枚も三枚も上、レベルが違う打ち手」

京太郎「……」コク

アカギ「京太郎……代わろうか?」

京太郎「なっ!?」ガタッ


一同「!?」


京太郎「っ……」

アカギ「フフ……どうする?」

 ざわ……
  ざわ……




京太郎「(ふざけるな、どうしてこの局面で!!)」ギリッ

 自分の運命を賭けた戦いを、変われ?
 何を寝言言っている?

 どこの誰かも分からない相手に、どうして身を委ねることが出来ようか?

京太郎「……」フリフリ

 勿論答えはNO
 この時京太郎、以外に頑固

アカギ「あらら……」

 当のアカギは少しだけ残念そうに肩を竦める
 本気だったのか、冗談だったのか

 どちらにせよ、京太郎に乗る気は無い

アカギ「……ぎりぎりもいいとこじゃない。強がってる場合か?」

京太郎「……」

 確かにアカギの言う通り、強がる場合ではない
 だが、かといってこのアカギを信用してもいいものか

京太郎「(だけど、もしこの人が本当に赤木しげるの幽霊なら……)」

 京太郎の脳裏に浮かぶのは、あの伝説
 もし……もしもポケットの中にある墓の欠片がこの男を呼び寄せたなら

 あるいは――きっと

京太郎「……」

 決断は二つに一つ
 自分で打って確実に負けるか、この男を信じて破滅するか

 どっちでも結果は同じ

 なら、選ぶ道は一つ

京太郎「(自分で打つ!)」キッ

アカギ「……」

 そうだ
 信じるのは自分の力のみ

 そう墓の前で宣言したじゃないか



京太郎「(だから、例えアカギさんが本物でも……)」

アカギ「聞き分けのねぇガキ。うんと言わすには……もう……実力行使しかねぇか」ボソッ

京太郎「!?」

アカギ「クク……京太郎。俺は今、こいつらの牌を覗き放題だ」

京太郎「!?」

アカギ「もしお前が言うことを聞かないってんなら……それを読み上げてやってもいい」

京太郎「……!?」


 それはつまり、相手の手牌を教えてくれるということ
 そんなのもはや、イカサマでもなんでもない

 ただのインチキ
 麻雀ですら無い戦いとなる


京太郎「っ!!」ギリッ

アカギ「……俺はお前を勝たせる。何をしてもな」ククク

京太郎「……」

アカギ「もう一度聞く。代わろうか?」

 アカギの脅迫
 それは卑怯者になるかどうかの瀬戸際

 常人なら、身の破滅を戦いを賭けたギャンブルでこう言われたら喜んで頼むだろう
 だがしかし、京太郎の答えは一瞬で決まる

京太郎「……」コクッ

 答えはYES
 京太郎に取って、死よりも辛いもの

 それは――

京太郎「(プライドを捨ててまで、勝とうとは思わない)」

 どうせ死ぬなら、今まで生きてきた須賀京太郎として死ぬ
 それが須賀京太郎の決意

 色褪せることの無い、悲願なのだ

アカギ「クク……それでいい」スタスタ

京太郎「(相手も代打ちを立てたんだ。こっちだって、少しくらいいいさ)」

 とは言っても、向こうは正真正銘のプロ
 こちらは自称赤木しげるの幽霊

 どちらが優勢かなど、一目瞭然だ

アカギ「俺は牌を掴めないんでね。言った牌を切ってくれればいい」

京太郎「……」コクッ

 この時の京太郎はアカギを信じることしか出来なかった
 だがそれと同時に、不思議な安心感も感じていた

京太郎「(この人なら、なんとかしてくれるかもしれない)」ギュッ



 もっとも、なんら確信の無い思い込みである
 だが、自分に2p切りではなく5p切りを決意させた言葉

 あの気迫――


京太郎「(この人には、絶対に何かある)」

 妙に確信めいた思いが京太郎にはあった

アカギ「……」フフ

靖子「そろそろいいか?」

京太郎「……はい」


 こうして対局は始まる
 南一局、藤田靖子の親番


京太郎「……」

アカギ「クク……見てな。凍りつかせてやる」

 過去に【神域】と呼ばれた男と……
 のちに【神域の再来】と呼ばれる男の初の試合

京太郎「それじゃあ行きます」

アカギ「……」

靖子「(なんだ、この感覚……?)」ゾクッ

咲「っ!?」


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 運命の賽は今、確かに放られた


【OP】
https://www.youtube.com/watch?v=9w-6faO_AxE




 須賀京太郎と竹井久の意地をかけた戦い
 その戦いは須賀京太郎しか知らぬところで、代打ち同士の対局になっていた

咲「京ちゃん、負けないでねー」クスクス

久「ふふっ……」

アカギ「……」クク

京太郎「(頼むぜ、アカギさん)」ググッ

靖子「さぁ、打つか」タン

 靖子の親番
 ここはなるべく早い手を使って流したいところ

京太郎「……」

 その、重要な鍵を握る1戦
 最初の靖子はツモ切り

 続くまこが白を切り、それに対し靖子が鳴く

靖子「ポン」

 先ほどと同じ、靖子の速攻
 京太郎は冷や汗をかきながら動向を見守る

 しかし、この男は違った

アカギ「……」ジッ

靖子「……」

京太郎「(俺の番か)」スッ

 その運命を握る配牌は――

京太郎の配牌

 3577m 468p 1246s 中

 ツモ中

京太郎「(ツイてる!)」

 靖子の親番を流したい今、早和了の特急券である中の対子
 最も欲しかったところだ

京太郎「(まだ俺の勢いは落ちてない……戦える!)」

 ほくそ笑む京太郎
 だが、その一方でアカギの出した指示は……

アカギ「中だ」

京太郎「(えっ……?」

アカギ「中を切ってくれ」

京太郎「(な、何!?)」

 京太郎……困惑
 ここでなぜ中切り?
 
 理解不能の指示に、京太郎は思わず頭を抱えそうになる




京太郎「(やっぱり、この人に任せるべきじゃなかった)」ギリッ

 恐らく麻雀もろくに知らないのだろう
 でなければ、そんな選択は生まれないハズ

京太郎「……」チラッ

アカギ「……どうした? 中だ」

京太郎「くっ」

 しかし、一度任せると約束した以上……指示に従うべきだ
 例えそれがいかに悪手だと分かっていても

京太郎「……」タン

咲「?」

久「(馬鹿ね。どうしてそうなるのよ)」

 理解不能、それは咲も久も同じ
 きっと京太郎がやけになっただけ

 そう思うのも無理はない

 しかしこの時、この中でただ一人

アカギ「……」クク

 アカギだけが、それを感じ取っていた

京太郎「……」

 そしてまわった次巡
 そこでもアカギの指示は中切り

京太郎「……」つ中

咲「京……ちゃん?」

靖子「……」

 その時、最初に鳴いた靖子の手は――

靖子の手牌

1255p 3477s 発中 ポン白白白

ツモ1p

靖子「(中の二丁落とし? 染め手でも無いようだが……)

 なんにしても、不可解な手ではある
 だがこちらは急いで和了ればいいだけの話

靖子「(中は持っていても仕方ない)」つ中

久「(ま、当然ね)」

まこ「……」タン

京太郎「(アカギさん、一体どうする気なんだ?)」ギリッ

アカギ「……」



 しかし次巡――
 京太郎達の認識は一気に覆る

靖子「(さて、ツモは……)」スッ

 カッ

 中

靖子「(なっ……!?)」

 意外、それは中

靖子「(チッ……まさか被ってくるとは)」つ中 タンッ

京太郎「(また中……? ツモがかぶったのか?)」

久「(運が悪いわね)」チッ

 この時は、まだ違和感を覚える程度
 だが――さらにその次巡

靖子「……!?」スッ

 引いたのは発

靖子の手牌

11255p 3477s 発発 ポン白白白

靖子「(しまった……)」

 プロとはいえ、思わず後悔してしまうミス
 そしてすぐに気付く

靖子「(あの中連打さえなければ……)」ギュッ

 小三元、いや……京太郎の中切りが遅ければ大三元も有り得た
 その動揺が、早和了をするという靖子の目的から外れていることを……消し去ってしまう

 格下に役満を潰された
 この屈辱が、靖子の中で消えない痛みとして残ってしまったのだ

靖子「……」タン
 
久「(まさか……偶然よ)」

まこ「……?」

優希「じぇ?」

アカギ「……」フフ

 その三巡後に発を鳴く靖子だが、時既に遅く中は切れた後
 この頃になって、様子を見ていた京太郎にも

 アカギの指示がどういう意図だったのかハッキリしてくる

京太郎「(あの連打で、藤田プロの大三元を封殺した……?)」

 ざわ……

咲「……」

京太郎「(白を鳴いただけで、大三元の匂いを嗅ぎ当てたのか?)」

 危険への予知
 その感度が常人よりもかなり早い

京太郎「(俺なら、数巡後に中を鳴かれていたかもしれない)」ゴクッ


 そしてさらにその後、京太郎は三色イーシャンテンとなる

 京太郎の手牌
 233m 34678p 22234s

 しかし、靖子の手は既に3フーロー
 和了が早いと察するとみるや

アカギ「チーだ」

京太郎「チー!」

 534s カッ!

 育てた三色をあっさり捨てる
 そこに一切の迷いは無い

優希「うーん……」つ5p

京太郎「ロンッ!」バララ!

 1000点食い和了り
 あの局面からなんとか靖子を出し抜くことに成功 

靖子「ぐっ……」

久「嘘……」

咲「京ちゃん……だよ、ね?」

 みんなが驚くのも無理は無い
 最速の中切りもそうだが、今の和了手もそうだ  

久「(普通これを凡人が打てば、三色に未練を残して手を遅くする)」

 結果として靖子が和了となっていたハズだ
 
京太郎「(でも、そんな未練がどれだけ自分の足を引っ張るか……知ってるんだ)」ゾクッ

 感度の差――!
 
 プロである藤田靖子を寄せ付けないだけのモノが、そこにはあった

アカギ「クク……認識はあらたまったかい?」

靖子「……なるほど、ただの少年じゃなさそうだ」フゥー

 靖子は京太郎のことを素人だと決めつけていた
 運がいいだけのラッキーボーイ

 久に聞いた時の印象はそんなものだった

靖子「(だが、今は間違いなく違う)」

 刺激し過ぎて眠れる獅子を起こしたのか、どうなのかは分からない
 ただ一つ言えることは――

靖子「(こいつはもう、ただの子供じゃない)」キッ

 内側に魔物を秘めた、化物
 自分と互角の打ち手
 
 そう思って戦わなければ……容赦なく喰われるだろう

京太郎「(すごい、アカギさん……)」





靖子「……須賀君、見直したよ」

京太郎「ど、どうも……(そりゃ俺じゃないし)」

靖子「しかし……もう油断はしない」

京太郎「!?」

靖子「持てる力の全てで君を倒そう」

アカギ「……クク」

久「(靖子……本気で言ってるの?)」

 久が困惑するのも無理はない
 いくら京太郎が妙な和了をしたとて、それはたったの一回のことだ

 それなのに、靖子はもう京太郎を自分と同格に扱うと言ったのだ

まこ「(確かに今の京太郎は妙じゃったが……)」

優希「……」

靖子「さぁ、続きだ」チャッ

 靖子もまた、化物の一人
 魔を喰らい……その身に宿す一人なのだ

京太郎「ええ、勿論」

 そして京太郎も……その背中に魔を宿す男
 赤木しげるという、闇に生きる魔そのものを

アカギ「……」ニヤリ

 そして始まる次局
 南二局、まこの親番だ

靖子「……」

 認識を変えて、京太郎を敵だと認識した靖子
 つまりここからが本番

 靖子VSアカギ

アカギ「……」

 今、この二人は代打ちとしてこの場にいる

 つまり賭けているものが無く、もしくは無いに等しい状態
 その勝負を制するのはセンスと集中力に長けた、能力の高い者だ


靖子「……」タン

京太郎「……」タンッ

 京太郎とアカギ、その戦いはそのセンスと集中力を競うもの
 そして先に仕掛けたのは――

靖子「リーチ……!」

 藤田靖子
 そのリーチは……

久「(ふふっ……靖子ったら)」

 靖子 カン7s待ちリーチ

 345m 23488p 34568s

久「(いきなり脅しをかけた……)」

靖子「(普通この手はもう少し待って、両面に変わってからリーチするべき)」

久「(それを迷わず、フライング気味の先制リーチ)」

 靖子は京太郎の、アカギの対応を見たいのだ
 勝負の質を変えて本気となった靖子のリーチ

京太郎「(かわすか、受けるのか……?)」チラッ


 京太郎の手牌

566m 23445p 78999s
 
 ツモ6p

京太郎「(テンパイ……)」

久「(これは面白いわね)」クスッ


 今までの京太郎なら、安パイの9s 落としだろう
 並の打ち手なら仕方の無いこと

 だが、ここで京太郎が――アカギが選ぶのは
 

京太郎「……」つ6m

靖子「(うっ……)」

アカギ「……」

咲「……」ポーッ

久「(並の神経じゃない……)」ゾワッ

 スンナリ切ったこの一打だけでも、平凡な人間には生涯到達出来ない領域
 完全に迷いを見切っているその打ち筋

靖子「(なるほど、一筋縄じゃいかないな)」タッ



 次巡――

【京太郎の手牌】

56m 234456p 78999s

ツモ7s

アカギ「……六萬だ」

京太郎「……」ピシッ つ6m

久「(六萬は通す癖に……本命の7sはキッチリ抑えて、的確なヨミ)」ギリッ

 一体いつの間にここまでの感性を身につけたのか
 そして、その勝負強さ

京太郎「(六萬が通ったからイケイケなんて、考えないのか?)」

 雰囲気に流されない
 自分の判断にただ沿おうとする心――

靖子「(どこが運のいい素人だ……)」

 目の前の少年は、靖子に取って不気味の域を越える
 自分の判断を信じる才能――揺れない心を持つ強者

靖子「ふふっ……手強いな、少年」

京太郎「……」クスッ

 この対局を見据える久と咲
 そのあまりの緊張に、二人はただ息を呑むしかない

 そして、次巡
 とうとう流れが変わる時が来た

靖子「!」

 靖子、このカン7s待ちを……

 345m 23488p 34568s 

 ツモ7s

 ツモ和了!

靖子「……」

久「(ふふっ、これがプロの実力よ)」ニヤリ

 追い込まれた中で、薄い7sを引き寄せる才能
 これで和了れば京太郎との差は更に開く

 流れも引き寄せ、一石二鳥の和了となる……

靖子「……」ピシッ

 7s

久「えっ……?」

 ハズだった


 なんと、靖子は和了らずにそのまま7sを切る
 
京太郎「?」

アカギ「……」

咲「(あれ? アレは和了牌じゃ……?)」

 ざわ……
  ざわ……

久「……! (なるほど、ね)」

 誰もが呆気に取られている最中、久だけが靖子の真意に気付く
 これは京太郎の読みを裏切り、混乱を誘う作戦

 これは靖子の策略なのだ

靖子「……」フフ

京太郎「(あ、アカギさん?)」チラッ

アカギ「……」

靖子「(どうする? 本命の7sは通ったぞ)」ツモキリッ

 タンッ 東

靖子「(私が和了らなければ、この局は須賀君がものにするだろう、しかしそれでいい)」

 京太郎は点棒を拾うが、代わりに迷いを一つ抱くことになる
 その不信があとあとボディーブローのように効いていき、苦しめることになるのだ

久「(自分の読みに疑いを抱けば、後にもっとプレッシャーがかかる局面で迷いを呼ぶ)」)
 
 それが弱い打牌へと流れる
 その一打こそ、重い勝負では命取り……!

久「(流石、この世界で生きてきた靖子ね)」ニヤリ

靖子「(プロは心理から絡め取るのさ)」

 その網に、京太郎はもう半分かかった
 靖子と久はそう確信していた

 しかし、十五巡目
 そこで意外な展開――!

京太郎「……」カッ

【京太郎の手牌】

3344566p 778899s

 ツモ5p

咲「(来たっ!)」

 なんとここで、京太郎の和了

京太郎「(二盃口、平和ツモ。満貫だ!)」

 これを和了れば京太郎のは靖子を上回り、トップとなる
 しかし、ここでアカギ――

アカギ「ツモ切りだ」

京太郎「(えっ?)」

 意外にもこれをスルー



京太郎「(な、なんでだ?)」つ5p

 タンッ

靖子「!?」

 ざわ……

靖子「(妙だ。あの5p、和了でもおかしくなさそうだが……)」

 疑惑が残る靖子
 しかし、確信は得られない

久「(なんなの……? 須賀君、アナタ一体……!?)」

 そして、そのままお互いに膠着状態が続き……
 気が付けば、とうとう流局

京太郎「……テンパイ」ジャラッ

【京太郎の手牌】
3344566p 778899s

靖子「!? (やはり……)」ゴクッ

 京太郎はさっきの5pで和了っていた

靖子「(こいつ……満貫を蹴ってまで、確かめに来た?)」ギロッ

 自分の読みが外れていたかどうか、その確認
 そうしておいた方が後の勝負では有効だと、分かっていても普通は出来ない

 それが、自分の運命を賭けた勝負なら尚更だ

靖子「(惜しくないのか!?)」

京太郎「(アカギさん……)」

アカギ「フフ……おい、京太郎」

京太郎「(なんですか?)」コクコク

アカギ「手を開けさせろ。その女、必ず張ってる」

京太郎「(わ、分かりました!)」コクッ


久「……」

京太郎「あの、藤田プロ」

靖子「……なんだ?」

京太郎「手を開けてくれませんか? テンパイなんでしょう?」

靖子「……くっ」バラッ

 345m 23488p 34568s 

アカギ「クク……やっぱりな。想像はしていたが、案の定ひねた打ち方」

京太郎「(アカギさんの、読み通りだ……)」

アカギ「人を嵌めることばかり考えてきた人間の発想――」


 ドクン


京太郎「……痩せた、考え」ボソッ

アカギ「……!?」 

 ざわ……
   ざわ……

靖子「なん……だと?」ギリッ

 この時、不思議と京太郎はどこか冷めたような感覚で卓を見ていた
 恐るべき相手だった靖子も、なぜか大した事のないように思える

 まるで、三下を相手にしているように

京太郎「俺なら、もっとストレートに行くのに」ボソッ

アカギ「へぇ……言うな。京太郎」ニヤッ

靖子「~~~っ!!」ビキビキッ



久「や、靖子……」

靖子「私は……まだ心のどこかで、彼を甘く見ていた」チャラッ

 ざわ……

靖子「軽んじていた。しかし、もう舐めない。毛ほども舐めたりはしない」ギロリ

京太郎「っ!」ゾクッ

靖子「なぜなら、その薄皮一枚剥いだその下は……魔物」

 あの天江衣や、宮永照と同じ――いや、もしくはそれ以上の……
 容量が計り知れない

靖子「(間違いなくこの男、将来とてつもない逸材となる)」

 しかし、それは遠い未来の話
 今なら勝てる

靖子「(何せ君はまだ――【オカルト】を知らない)」ニヤリ

 麻雀に存在する合理性
 それを根本から覆す存在……オカルト


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     ̄ ';:::入    \  ̄    /
      レ  \     ̄~ー-- /

靖子「(これで君を――ねじ伏せる)」ゴッ

京太郎「……」

   ! lll        ,イllll /:::::\  い  :::::::::::::::::::::::::::::::::
   ! ll  ,イ llll   /::|ll /:::::::::::::`メ \  :::::::::::::::::::::::::::::
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   ! ll /  i ll  K.:::::::|::::  //    _,,xー''´ィ´::::::::::::::::::::::::
   .! i   i  / \    ソ ,,ャj'´ ,. ' ´  :::::::::::::::::::::::::
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                      |;;;  ::::::::::::::::::::::::::

アカギ「さぁ、これからが本番だ」フフ


 
 そして迎える南三局
 親は優希――

京太郎「……」

靖子「……」タンッ

 本気を出すと宣言した靖子
 そのあまりの恐ろしさに、思わずして緊張してしまう京太郎だが

 その緊張も、不意に霧散する

靖子「……」タンッ

京太郎「?」

 ざわ……  
  ざわ……

 というのも、靖子が全く動かないからだ
 序盤のように鳴くわけでも、急いでる様子も無い

 ただ引いては切り、引いては切り
 その繰り返し

 先ほどの言葉とは裏腹に、逆にやる気を無くしたようにさえ思える打ち方だ

アカギ「……?」

 当然困惑するアカギ
 それは京太郎も同じだ

靖子「……フフ」タンッ

優希「うーん?」

まこ「……」

久「(まさか、アレを使う気なの……?)」

咲「あの時と、同じ……」

 その時、気づいているのは久と咲
 後は直感でまこが感じ取っていたくらいだろう

 靖子の真意
 それは――

靖子「……」タンッ

アカギ「ロンだ」

京太郎「ろ、ロン!! 混一色ドラ……満貫です!」バタタタッ

 ざわ…… 
  ざわ……

優希「きょ、京太郎が……逆転?」

 そう、なんとこの手で京太郎は大逆転
 大きく差を付けてトップに踊り出ることとなる


京太郎「(おいおい、意外と藤田プロって弱いのか?)」

 そんなことが脳裏をよぎる京太郎
 だが――実際は違う

まこ「……やっぱりか」

久「フフ……終わりね」

靖子「……ふ、ふふふっ。しくじったな、須賀君」ニヤァ

京太郎「えっ……?」

靖子「……最後の一局の前に、教えてあげよう」


 ズォォォォッ……


靖子「私がプロで、何と呼ばれているか」

アカギ「……!?」ゾワッ

 総毛立つような、靖子の気迫
 先ほどとはまるでレベルが違う……

 記憶を無くしたアカギの奥底で、どこかくすぶる懐かしい記憶

アカギ「(昔……こんな奴と戦った記憶がある)」

 それが誰かは思い出せない
 だが――彼の本能が覚えている

アカギ「(これは――危険だな)」

靖子「Reversal Queen……まくりの女王」

京太郎「まくりの、女王?」

靖子「そう。馬鹿でも分かるだろう、その言葉の意味」

 限定的な条件でのみ発動するオカルト
 条件ゆえに使い勝手は悪いが、その分発動すれば強力な力を持つ

靖子「もう、これで格付けは済んだ」

 靖子と京太郎
 否、靖子とアカギの運気がごっそりと入れ替わる

 その超常めいたチカラで――運気そのものを捻じ曲げるのだ

咲「(京ちゃんは頑張ったけど、もう終わりかな)」

 あの時、自分ですら防げなかったまくり
 それを――今の京太郎に防ぐことは恐らく不可能

京太郎「……」ゴクッ

久「(須賀君の悪運もここまでね)」

 言わば、先ほどの靖子とはもはや次元が違うのだ
 この状態になった靖子は――上位のプロですら凌駕するのだから


京太郎「……」

靖子「どうした、怯えて声も出ないか?」フフ

アカギ「……」

 流石のアカギも、オカルトというモノの予備知識は無い
 どう攻略すればいいか、倒すべきか

 一局でも様子を見ることが出来れば……対策は立てられる
 だが、その最後の一局で雌雄が決するのだ

久「(もう手遅れよ、何もかも)」

 この場の全員が、徐々に靖子の勝ちを確信していく
 久や取り巻きで見ている野次馬も含め
 
 あの咲ですら……京太郎の負けを予見していた

咲「(いい戦いだったよ、京ちゃん)」

靖子「さぁ、親番だぞ。須賀君」

 そして始まるオーラス、京太郎の親

京太郎「……」

 誰もが諦めと、失意に飲まれて傍観する最中

 ただ一人
 この局面においてたった一人だけ――

京太郎「(アカギさん、俺に考えがあります)」チラッ

アカギ「!?」

 この男だけが――己の、アカギの勝利を確信していた

アカギ「へぇ、自信があるのか?」

京太郎「はい……でも、俺一人では無理です」ヒソヒソ

 誰にも聞こえない音量で、ヒソヒソと話す京太郎
 アカギはそんな京太郎の言葉に……ただ耳を傾ける

京太郎「……だから、……して、……すれば」

アカギ「……クク、分かってるのか? それが失敗すれば、確実に負けだ」
 
 京太郎はマネージャーとして残りの学生生活を過ごし
 学校中の悪意と戦いながら生きなければならない

 しかし京太郎はそんな覚悟など、とうに決めていた

京太郎「自分の身を削らないで、勝ちを拾おうなんて思っちゃいない」

アカギ「……」ニヤリ


京太郎「俺はハナから……命、賭けてんだ」ボソッ


アカギ「フフ……同類だ、お前は」

京太郎「?」

アカギ「……やるぞ、京太郎」

 くすぶりかけたアカギの闘志に、再び火が灯る
 それを呼び覚ましたのは、京太郎の言葉か――それとも

 だが、この時ハッキリしていたこと
 それは――

京太郎「(必ず、勝つ!)」

 須賀京太郎
 この男もまた――天賦の才を持つ



 南四局 京太郎の親

 泣いても笑っても、焼き土下座しても最後の一局
 京太郎に取って運命を左右するこの局の初手は――

京太郎「……」

【京太郎手牌】
 122444688m 35p 29s 発

咲「(ダメ、なんて重い手……)」

 ここは軽いタンピン手などがベスト
 だが掴んだのは高火力を狙うような配牌
 
久「(そして一方の靖子は――)」

【靖子手牌】
128888s 145p 267m 東

久「(一見すると凡手に見える。でもね……)」

 引き寄せる
 靖子のオカルト……まくりの力

京太郎「ドラ確認します」カチャッ

 来る、引き寄せる

 7s

久「……」ニヤッ

靖子「……」フフ

 凡手から一気にドラ4の手に変化
 しかも、それだけではない

咲「(あのカンドラ……)」

 そう……咲には見えていた
 もし誰かがカンをすれば、新しくドラが表示される

 そのドラすらも……

靖子「(埋まっているが、間違いなく7s)」

 靖子と咲の読みは正解
 隠された新ドラは8s

 つまり、靖子の手はドラ8となる
 暗槓しただけでドラ8は確定

 ツモ和了でも京太郎をまくり確実に勝利する


京太郎「……」

 一方で、重たい手を手中に入れたことでお通夜モードの京太郎サイド
 後ろに並ぶ一般客は、みな顔を見合わせてため息を吐く

 京太郎の勝ちはもうない
 希望のきの字も無い

 そう思っているのだ

アカギ「クク……」

 だが、ここで二人の若き天才は――

京太郎「(思い通りの手が来た!)」

 全く、別のストーリーをこの手から創造していた

久「(もう終わりよ、諦めなさい)」

京太郎「では、行きます」タンッ

 こうして始まった戦い
 半荘六回にも及ぶ激戦の果て――勝つのは京太郎か、久か

京太郎「……ポンッ!」

 二巡――
 まずは京太郎が動く

 222m カシッ!

 そして三巡――

京太郎「チー!」ピシッ

 768m カシッ!

京太郎「……」

まこ「これは……」

優希「(混一色か、清一色か?)」

 早々とした鳴き
 手を急ぐべき京太郎には当然の行動のように思える

 無論、周囲もそう思っているし
 それは対局している優希とまこも変わらない

優希「(この局面、絶対に振り込めないじぇ)」つ現物

まこ「(降りるべきじゃな)」つ現物

 二人にできるのは靖子の邪魔をせずに、生き延びること
 つまり、無理に戦う必要は無いのである

咲「(二人が降りた。これで一体一……)」

 遠目に見守る咲だが、まだ京太郎の分が悪いのを悟る
 靖子は運気すら引き寄せているのだ

靖子「(いくら鳴いてスピードを速めようが……私には勝てないさ)」ニヤリ

 着々と積み上がる靖子の怪物手
 和了さえすればドラ8は確定

 その恐るべき異能の力によって



靖子「(一見、清一色や混一色を匂わせているが、それはフェイク)」

 なぜなら今そんな手をいれる必要が無いからだ
 勝ち逃げならタンヤオで十分
 
靖子「(どうせドラは全部こっちが握ってるんだ。焦る必要はない)」

 仮に和了られても、直撃でなければトビはしない
 
靖子「(問題は、いつ暗槓するかだ)」チラッ

 手を持って確認する靖子
 もう少しでテンパイ

 その時に嶺上開花で和了る

靖子「(恐らく、あの嶺上牌が……)」

 靖子の求める和了牌
 ドラ8を絡めた嶺上開花で京太郎をまくる

 完璧なシナリオ

 ただ一つ誤算があるとすれば――


アカギ「京太郎、今だ」

京太郎「……へへ、待ってました」ボソッ

靖子「なに……?」

 バララッ

京太郎「カン」

一同「!?!?」

 4444m カシャッ

靖子「なっ……?」
 
 先にカンをされた
 ということはつまり――

京太郎「じゃあ、リンシャンツモりますね」スッ

 ピタッ

靖子「(な、それは――私の!?)」

京太郎「……」クスッ  サワッ

 つ3p

京太郎「いらんな」ペシッ

靖子「……ぐっ」

 流されてた……
 テンパイする前に、自分の和了る筈だった牌を……

 それもよりによって須賀京太郎によってだ

靖子「(だがしかし、ドラは表示される!)」

京太郎「おっ、また8sがドラですね」カチャッ

靖子「(当然だ)」

 計画の狂いはあったが、問題無い
 別に嶺上開花でなくても和了ればいいのだ

 和了さえすれば、己の勝ちなのだから



【京太郎のフーロー】
 
カン4444m ポン222m チー678m


靖子「(三鳴きしたんだ。もう既に張っている可能性が高い)」ギリッ

 圧倒的な有利からスタートし、
 いつでも有効牌を取れるという油断が、暗槓の遅れを招いた
 
京太郎「……」

【靖子の手牌】つ6p
 2455p 118888s 567m

靖子「(須賀君は一度3pを切っている。また出る可能性は高い)」

 ここはドラを切ってでも無理やりテンパイに持っていくか?
 それとも、暗槓するか

京太郎「……」

 しかし、暗槓すればドラ8は警戒される
 別にロン和了でなくても勝機はあるが――可能性はぐっと低くなる

靖子「……」

 思案する靖子
 長い思考の果てに選んだのは――

【靖子の手牌】
 4556p 118888s 567m

 つ2p

 暗槓せず、現状保持

靖子「(あの嶺上牌をつかめばいい)」

 靖子がカンをする時、拾うであろう牌……

靖子「(恐らく、7p)」グッ

 確信めいた直感、恐らく100%的中するハズだ
 ならばそれを待ちにできるようにセッティングする

 今の靖子の運なら、造作の無いことだ



 一方の京太郎は迷うことなく手を切っていく
 
京太郎「……」つ1s

靖子「……」
  
 中々尻尾を出さない京太郎
 待ちが読めないこともあり、靖子の焦りも次第に強くなっていく

靖子「(あの四枚……一体何が隠されている?)」

 見えない京太郎の手を見て、靖子は不安に駆られる
 嫌な予感がひしひしとあの四枚から感じられるのだ

 そして、そんな予感を抱えてのツモ

靖子「(これは……)」

【靖子の手牌】4p
 4556p 118888s 567m

 まさかの4p
 ここで8sを切り、6p待ちにする手も考えられる

靖子「(だがドラ2の8sを切るなんて、考えられない)」

 やはりここは常識的に考えて4pだ
 
靖子「(だが唯一気になるのは、3pを彼が持っている可能性もある)」

 ツモ切りからの素早い切り捨て
 考えられるのはピンズが無く、清一色や染め手であること

 しかし、そこにピンズが加わっているとなると……話は変わる
 混一色も清一色も無ければ、ただのゴミ手
 
靖子「(仮にこれで和了られても、痛くも痒くもない)」つ4p

 タンッ

京太郎「……」

靖子「(今は須賀君の親番。飛ばない限り、次の機会はある)」

 つまり、多少は危険を犯しても強気で行くべきなのだ
 相手にドラは無い

 これまでの収支というハンデがある以上
 染まってもいない手に恐怖など感じる必要など皆無

京太郎「……」
 



靖子「……」ホッ

 結果としてこの手は通る
 そして、京太郎の番が来る

 だが、次の京太郎の1打が……靖子を苦しめることとなる

京太郎「……」スッ つ3p

靖子「ぐっ!?(まさか、本当に抱えていた?)」

 困惑する靖子
 そして、続くもう1巡

京太郎「……」5p

靖子「!!」

 これは――どういうことなのか?
 もしかすると須賀京太郎は、35p で4pをカン待ちしていた?

 ならばなぜ、和了らなかった?

靖子「!!(こいつ、もしかして私の思惑に気づいて……)」

 そう、もし今の4p直撃でも靖子を飛ばせないとすれば
 恐らく、京太郎の手は相当安い

靖子「(だから見逃した。もっと高い手を作ろうと……)」

京太郎「……」

靖子「(ここに来て、なんて馬鹿な真似を)」ニヤリ

 やはりこの男は凡夫だった
 勘がよければドラ8の匂いを感じ取れたものを……

靖子「(つまり、今須賀君はテンパイしていない)」ニヤリ

 そんな見逃しをしてしまえば、運の女神も見放すというもの
 その証拠に――靖子が掴んだものは
 
【靖子の手牌】つ3p
 4556p 118888s 567m

靖子「(来た来た来た!!!)」ニヤリ



 運命を引き寄せる力
 オカルトによる、絶対的な支配

 何をも恐れぬ、女王の闘牌

靖子「ふ、ふふっ……ははは……あははははっ!!」

 靖子は笑う
 己の勝ちを確信し、ただ嗤う

京太郎「……」

靖子「須賀君、私の勝ちだ」

 ざわ…… 
  ざわ……

靖子「長かったよ、ここまで。すごくいい勝負だった」

アカギ「……」

靖子「だが、勝つのは私だ! この、私なんだ!!」バラッ

 倒される四つの8s
 ドラ8の化物――相手を地獄に誘う死者

靖子「カンッ!!」

 そして、引き寄せられる勝利への鍵
 運命をねじ伏せる――


靖子「(ツモッ! ツモツモツモツモツモ!!! 私のチーピン!!) 」


 ハズだった


アカギ「クク……」ニヤリ

靖子「えっ……!?」

久「う、嘘……でしょ?」

 掴んだのは7pなどではない
 あるのは――

 そこに有るはずの無い発

靖子「う、嘘だ! これは……何かの間違いだ!」

 先程までの余裕から一転、慌てふためく靖子
 だが、それに対して一方の京太郎は笑みを浮かべる

京太郎「フフ……どうしたんですか?」

靖子「な、なぁっ……」ブルブル

京太郎「自分の読みが外れて、大慌てですか?」

靖子「ち、違う! こんな、こんなハズは無い!」

 確信があった
 必ず7pであると

 しかし、結果は違った
 なぜ? どうして?

 疑惑が募る
 驚愕だけが――靖子を包み込む

京太郎・アカギ「「まるで白痴だな」」

靖子「!?!?!?」



靖子「な、なぜ……」つ発

 仕方なく発を切る靖子
 他に選択などできるハズが無い

 そして、新ドラが表示される

京太郎「……」

 一方的な靖子の和了かと思われた
 しかし、そんな絶望的状況を乗り越えた先に――

京太郎「……ツキの女神は、待っている」ニィ


 3m 


靖子「!?」

 
 新ドラは――4m


アカギ「クク……」

 京太郎の手牌が一気に跳ね上がる
 それも満貫確定のドラ4

京太郎「藤田プロ」

 ざわ……
   ざわ……

靖子「な、なんだ……?」

京太郎「考えてみてください。あの局面、俺がどうして早々にカンをしたのか」

靖子「!?」

京太郎「別に急ぐ必要も無し、無駄なドラを乗せることもなかった」

靖子「(まさか、まさかこいつ――!?)」

京太郎「アンタの探し物は……」つ2m

 バラッ 4444m

京太郎「カン」スッ

 つ7p

アカギ・京太郎「「こいつだろう?」」

 バラララッ

京太郎「ツモ、嶺上開花」


77p 999s カン4444m カン2222m チー678m 


靖子「な、なんで……? どうして、そこに……? ありえ、ない」ガタガタ

京太郎「……」

 そして、めくられる新ドラ
 まるで――地獄で悪魔と契約してきたかのよう


 1m


京太郎「リンシャンツモ、まぁ数えるまでもなく――トビです」

靖子「嘘だぁぁぁぁあ!!!」 グニャァ





 ざわ……  
  ざわ……

靖子「こんな、こんなハズはない!!」

久「や、靖子……」

靖子「私に分かる。7pはあそこじゃない! 私が引くハズだった!!」

京太郎「……」

靖子「何をした!? オカルトなのか? お前も……持っているのか!? 答えろ!」

京太郎「……なんの話か、分かりませんね」

靖子「!?」

京太郎「ただ、一つ言えるとしたら」

 ざわ……

京太郎「俺、幽霊が見えるんですよ。それも、とびっきりの、ね」ニコッ


∠-'';::/ ,∠/ ./::   ::\.ヽ\ ヽ ヽ \ ヽ. \
::::r''∠- '´:∠ -ヘ::....... ,...:‐''7,ゝl‐-ヽ}   ト、 lヽ. !
:::l::::-===モ== _::::/:::::::::/_  ` / ,ヘ. | ヽ |. ヽ.!
: |:::: `  ー‐=''"::´:::::::::::::/ニ´>,'/  ヽ | ヽ!  ゙l
::|:::::      ..::::::::::::::::::::::/    ハ     ヽ!
:|::::::    ...:::::::::::/::r:::::::i_:   ,'l }
|l::::::        `__:::    /.|′
iヘ::::..      ̄ ̄     `ヽ ./^'
:|::ヽ:::..      ‐==;;   /

::l::::::ヽ::..        :::::::   /    ,.、
:::l::::::::::\.         /  /.:/:ヽ.
::::|:::: :::::::\.         ,イ /....::/::::::::ヽ.


アカギ「クク……」

靖子「……」ヘナッ

 フラフラ……バタン

優希「……う、うそ」

まこ「まさか、本当に……」

久「靖子に、勝った……?」

 ガヤガヤ ナニモンダアノニーチャン
 スゲーゾ マジデヤリヤガッタ!

咲「……」

京太郎「それじゃあ部長、例の件。お願いします」

久「……え、ええ」

京太郎「よし。それじゃあ咲、帰ろうぜ」

咲「……うん」タッ

 スタスタスタ

京太郎「それじゃあ、また学校で」

久「……」

 ガチャッ

 カランカラーン


 バタン





京太郎「……ふぅー」

 長い戦いは終わった
 策略と、力の打ち合いによる死闘

 制したのは京太郎とアカギである

京太郎「……(今でも、心臓がバクバクしてる)」ドキドキ

 生まれて初めてだった、あんな経験は
 勝負に命を賭けるスリル、興奮

 それは――京太郎にとって、人生の価値観を変える一戦

咲「……」トコトコ

京太郎「……」スタスタ

 何はともあれ
 これで、資格を得た
 
 咲や和、この二人と戦い――代表を得る資格
 プロを倒した事実さえあれば――

咲「……ねぇ、京ちゃん」

京太郎「んー? どうした?」

咲「私ね……気づいてるよ」ジッ

京太郎「っ!?」ドキッ
 
咲「イカサマ……だよね?」
  
京太郎「……」



アカギ「クク……」

      、、-v z_
     ,ゝ     ヽ
.    Z._ィ,∠ト、.}
.     幺__,´レリ

       ヽ /V、_
.    ,.-‐/〉 ノ ! >‐ 、
   /ゝ.∧l' ,へl   /ト、

   〉.l` 、_∀    レ .ノ、

   ヽ!  / /`´7 /ヘ   _>
     |  l `‐.'//  .Y´ヽ
    〉- /     / / /
    l _ヌニン`-〈/./

   ./!r‐合-┬/ r'

.   (/::::ニ{{三(.へノ
    l::::::/}}ヽ、::::::::}
    |::::::::フ`ヾ:::::::::|

 この時アカギ、地味に付いてきている




咲「……最初の四萬カンの時に、牌を入れ替えたんでしょ?」

京太郎「おいおい……なんの冗談だよ」

咲「分かるよ。だって、あの時に位置がずれたんだもん」

 咲は常に王牌が何か分かる
 だからこそ、あの時の違和感は拭えなかった

京太郎「あのな。あれだけ人がいるのにそんなことできるわけないだろ」

咲「……」

 確かに、あれだけのギャラリー、
 野次馬がいれば京太郎がイカサマをするのは至難の業だ

 その道のプロだって、できるかどうか怪しいもの

咲「早々と鳴いて手牌を少なくした。残った牌をまとめれば……体に隠れて後ろからは見えないよ」

京太郎「手牌はそうでも、嶺上牌はそうはいかねぇだろ?」

 京太郎が手を伸ばし、ツモり、牌を切る
 この一連の動作の中で嶺上牌を入れ替えるなど、不可能だ

京太郎「なぁ、そうだろ?」

咲「……」ジッ

 見つめ合う二人
 咲は何も言わず、京太郎をずっと見つめていたが……

 やがて

咲「うん、そうだね。ごめん、無理に決まってるよ」ニコッ

 その愛らしい笑顔で、京太郎に微笑む

咲「私の勘違いだよね、きっと」

京太郎「そうそう。偶然だよ偶然」アハハ

咲「……」

京太郎「……早く帰ろうぜ」

咲「うん」タッタッタ

京太郎「……」

アカギ「あらら……いいのか? 泣きそうな顔だったぜ」ヒョコッ

京太郎「アカギさん……(ついて来てたのか)」

アカギ「クク……それにしても、本当に初めてだったのか?」

京太郎「当たり前じゃないですか、あんなの」ハァ

 正直、もう二度とゴメンだ
 心臓がいくつあっても足りやしない

アカギ「……」

京太郎「しかし、うまく行ってよかったですよ」

 確かに、京太郎は一つの強攻策を取った
 だがそれは――

京太郎「でも、言えるわけがない。”イカサマ”じゃないなんて」

アカギ「フフ……」

 京太郎が藤田靖子を下した作戦
 それは、一種の神がかり的トリック

京太郎「咲、俺は……」



 Side 京太郎

~~南四局 京太郎の親~~

 泣いても笑っても、焼き土下座しても最後の一局
 京太郎に取って運命を左右するこの局の初手は――

京太郎「……」

【京太郎手牌】
 122444688m 35p 29s 発

咲「(ダメ、なんて重い手……)」

 ここは軽いタンピン手などがベスト
 だが掴んだのは高火力を狙うような配牌
 
久「(そして一方の靖子は――)」

【靖子手牌】
128888s 145p 267m 東

久「(一見すると凡手に見える。でもね……)」

 引き寄せる
 靖子のオカルト……まくりの力

京太郎「ドラ確認します」カチャッ

 来る、引き寄せる

 7s

久「……」ニヤッ

靖子「……」フフ

 凡手から一気にドラ4の手に変化
 しかも、それだけではない

咲「(あのカンドラ……)」

 そう……咲には見えていた
 もし誰かがカンをすれば、新しくドラが表示される

 そのドラすらも……

靖子「(埋まっているが、間違いなく7s)」

 靖子と咲の読みは正解
 隠された新ドラは8s

 つまり、靖子の手はドラ8となる
 暗槓しただけでドラ8は確定

 ツモ和了でも京太郎をまくり確実に勝利する

京太郎「……」チラッ

アカギ「……」コクッ

靖子「……」チャッチャッ つ牌

 ざわ……
   ざわ……

アカギ「……」ジィーッ

京太郎「……」




京太郎「……」

 一方で、重たい手を手中に入れたことでお通夜モードの京太郎サイド
 後ろに並ぶ一般客は、みな顔を見合わせてため息を吐く

 京太郎の勝ちはもうない
 希望のきの字も無い

 そう思っているのだ

アカギ「クク……」

 だが、ここで二人の若き天才は――

京太郎「(思い通りの手が来た!)」

 全く、別のストーリーをこの手から想像していた

久「(もう終わりよ、諦めなさい)」

京太郎「では、行きます」タンッ

 こうして始まった戦い
 半荘六回にも及ぶ激戦の果て――勝つのは京太郎か、久か

京太郎「……ポンッ!」

 二巡――
 まずは京太郎が動く

 222m カシッ!

 そして三巡――

京太郎「チー!」ピシッ

 768m カシッ!

京太郎「……」

まこ「これは……」

優希「(混一色か、清一色か?)」

 早々とした鳴き
 手を急ぐべき京太郎には当然の行動のように思える

 無論、周囲もそう思っているし
 それは対局している優希とまこも変わらない

優希「(この局面、絶対に振り込めないじぇ)」つ現物

まこ「(降りるべきじゃな)」つ現物

 二人にできるのは靖子の邪魔をせずに、生き延びること
 つまり、無理に戦う必要は無いのである

咲「(二人が降りた。これで一対一……)」

 遠目に見守る咲だが、まだ京太郎の分が悪いのを悟る
 靖子は運気すら引き寄せているのだ

靖子「(いくら鳴いてスピードを速めようが……私には勝てないさ)」ニヤリ

 着々と積み上がる靖子の怪物手
 和了さえすればドラ8は確定

 その恐るべき異能の力によって

京太郎「(まずは邪魔な二人の排除)」

アカギ「……」

 染めていることを匂わせられる配牌は、京太郎の望むところであった
 相手に牽制をかけ、靖子との一対一に持ち込むことが出来るからだ



京太郎「……」

 京太郎の策
 それは――常人には到底思いつきもしない異端の策略であった

 というのも、なんら確証もない……それも、想像の域を出ないものだからだ

 だが、今はその京太郎の想像こそが――
 この大勝負の、運命を左右することとなる


京太郎「(藤田プロは、自分を"まくりの女王"と言った)」


 それは即ち、オーラスで自分が大逆転をする
 それが【自分の能力】ですと、説明してくれたに他ならない


京太郎「(そして……今現状は1万点以上の差がついている)」

 考えられるのは2つ 


・逆転できるほどの大きい手をツモ和了する

・一位に当てて逆転する


 この2パターン

京太郎「(だけど、プロの世界でまくりの女王と呼ばれている以上、2つ目の可能性は低い)」

 プロの世界で生き残るのは簡単ではない
 相手とて、それなりの打ち手だし1位の逃げ切りが出来ないほどヤワではないだろう

 まして、まくりの条件を満たすということは藤田プロよりも格上である可能性が高い
 あの藤田プロを越える雀士が、果たして差込や現物での逃げ切りができないものか? 

 否、つまりこれは当てはまらない

京太郎「(あくまで可能性だが、自分で和了る系統の能力だ)」

 確信は無い
 だが、今の京太郎にとっては十分過ぎる考察

京太郎「(となると、次に考えるべきは藤田プロの手の高さ)」

・役満での和了

・高い役を絡める大きな手

・ドラを引き寄せた高い手

京太郎「(こればかりは分からない……場合によってはどれもありえる)」

 そう、高い手で和了だということしか分からない
 つまり――こればかりは見てみないと判別は不可

 しかし、京太郎の雀力では藤田プロの筋を読み切り
 相手の手牌を想像することは不可能だ



京太郎「(だからこそ、この人の力がいる)」

アカギ「クク……」

 まずはアカギが見をする
 そこで、どのパターンの高い手を作っているかを想像する

 勝つための第一の条件は、まずそこが鍵となるのだ

京太郎「(どうですか、アカギさん?)」チラッ

アカギ「染めている様子も無い。それに、クセも見抜いた」

京太郎「……?」

アカギ「所詮競技麻雀……お上品な打ち方」ニヤリ

 そう、この時アカギは藤田靖子の”あるクセ”を見抜いていた
 それは――

一般客ウニ頭「うーん、麻雀はよく分からないのでせうが」

一般客シスター「ちんぷんかんぷんなんだよ!」 

 ざわ……
   ざわ……

靖子「……ふぅ」カチャカチャ

 チャッチャッ

2455p 12 8888s  567m つ1p

一般客ウニ頭「おぉ、見やすい!」

一般客シスター「ありがとうなんだよ!」

靖子「……」クス

アカギ「槓子があるな」

京太郎「(槓子?)」



 そう、麻雀プロゆえの観客を意識した打ち方だ
 テレビに放映されることも多く、自然と牌を整理して並べるクセがあるのだ

京太郎「(部長、俺にサマをさせないように客を集めたのが逆に災いしましたね)」

 靖子はあくまでもプロ
 そのクセは、意識しない限り抜けることはないだろう

 もっとも、こんなほんの一瞬の隙を見抜けるのは――
 この場ではアカギくらいであろうが

アカギ「牌の種類はバラバラだが、どういう塊があるかは見え見えだな」

京太郎「(つまり、萬子、ピンズ、ソーズの塊は出来ている)」

 そして今、牌を整理するときに見せた4つの牌の塊
 順子や刻子なら3つ……つまり、槓子である可能性が高い

 だが勿論、それ以外の可能性も捨てきれないわけではない

京太郎「(確証はあります?)」

アカギ「まず間違いない、と言いたいが。クク……そういう罠かもな」

京太郎「(いや、そんなメリットは無い……)」
  
 だがもし、アレが槓子なら……考えられるのは四槓子、四暗刻などか
 
京太郎「(ん? そういや、なんで暗槓しないんだ?)」

 見られたく無い牌なのか?
 それともする必要が無いからなのか……?

京太郎「(もし、もしだけど……藤田プロの和了牌が嶺上牌にあるとすれば?)」

 以前、咲は藤田プロに破れたと言っていた
 つまり――カンを奪うこともできると、考えられる



京太郎「(アカギさん……)」

アカギ「クク、なら確かめてみるか」

 チャッ

京太郎「(ツモは……4m!)」

アカギ「京太郎、今だ」

京太郎「……へへ、待ってました」ボソッ

靖子「なに……?」

 バララッ

京太郎「カン」

一同「!?!?」

 4444m カシャッ

靖子「なっ……?」
 
京太郎「(明らかに今、動揺した)」

アカギ「クク……」

京太郎「じゃあ、リンシャンツモりますね」スッ

 つまり、今から引く牌は有効牌の可能性が高い
 それも――とびっきりの

靖子「(な、それは――私の!?)」

京太郎「(お前か3p……)」クスッ

 つ3p  サワッ

京太郎「いらんな」ペシッ

靖子「……ぐっ」

京太郎「(とりあえず、危険なピンズは整理しておくか)」チャッ

靖子「(だがしかし、ドラは表示される!)」

 そして、何も気づいていないフリをしながら
 ドラ表示牌に手を伸ばす

京太郎「おっ、また8sがドラですね」カチャッ

靖子「(当然だ)」

京太郎「(なるほど、ドラが8sね)」ゾクッ

 つまり、これで疑惑は確信に変わる
 藤田靖子の槓子の正体は8s

 ドラ8の化物手……

京太郎「(つまり、役もろくに作らずともドラ8だけで逆転ってわけだ)」

 そうなると、手の内を想像するのは簡単だ
 役も適当に……ただ和了さえすればいい

京太郎「(それにいつかは暗槓しなきゃいけない。ということは……)」

 狙うのは恐らく嶺上開花
 つまり、次の牌が藤田靖子の和了牌となる可能性が高い

京太郎「(兎に角、ここで第一の条件はクリアだ)」

 藤田靖子の和了るハズだった牌を奪う
 これこそが、京太郎の策

京太郎「(流れは――今、変わった)」ニィッ




 これからが反撃の時

京太郎「……」

 しかし、ここまで冷静に藤田靖子のオカルトを分析してきた京太郎だが
 ただ一つだけ絶対に自信を持てないことがあった


京太郎「(支配を破る為の……方法だ)」


 咲やあの天江衣――大星淡のように
 場を支配し、牌の位置を自在に操る力
 
 それが――いつ決定されるのか、ということ


京太郎「(我ながら何を馬鹿なって思うけど……あいつらの力ってそういうもんだろ)」

 つまり――

・牌を引く時に有効牌に変わる

・最初から運命づけられてその位置に存在する

 この二通りのどちらであるのかが、重要な鍵となる

京太郎「(……分からない。どちらもあり得るし、その判断はここじゃ付かない)」

 そう、こればかりは分からない
 それに2である場合、京太郎にはもうどうしようもない

 このまま負けを認めるしかなくなってしまう

京太郎「(だが、1のパターンならまだ可能性がある)」
 
 オカルト持ちが牌を引く時――
 触れた時に牌が決定されるのであれば

京太郎「(俺にも――やれる!!)」
 
 望みの薄い策ではある
 だが、0よりは1

 ――やらなければ、何も変えられない

京太郎「(それが、さっきの牌への接触)」

 そう、京太郎は先ほどの嶺上牌のツモである一つの作戦を決行していた

京太郎「(イカサマスレスレだけどな……)」ニッ

 嶺上牌を引く時に、その下の牌――
 次に惹かれる牌に少し触れたのである
 
 上から軽くちょんっと押す程度であったが
 牌をツモる動作で、ずれた牌を直すレベルの動きだ

京太郎「(そう、藤田プロが引く前に俺が触れた。つまり、あの牌の支配は俺にある)」

 とんだ屁理屈、子供の理論
 だが京太郎は本気だった

京太郎「(つまり今度は俺が引く牌を――次に藤田プロが奪う形になる)」

 当然、そんな保証はどこにもない
 そのまま和了牌を引かれて負ける可能性だって大いにある

京太郎「(だけどもし俺にほんの少しのオカルトがあれば――)」

 京太郎が触れた瞬間に牌は決定され、そこに位置することになるハズだ
 
京太郎「(言わねーけど、藤田プロ。俺のオカルトはへなちょこだぜ?)」




 そして、そんな思考を抱えながら京太郎は闘牌を続ける
 一方の京太郎は迷うことなく手を切っていく
 
京太郎「(次はピンズを切らないと)」

 靖子の有効牌が3pであると分かった以上、35pは危険だ
 早めに切り捨てるべきである

アカギ「いや、ツモ切りでいい」

京太郎「(え?)」

アカギ「早くしろ、出来るだけ迷い無く打ったように思わせろ」

京太郎「(は、はい)」タンッ

靖子「(あの四枚……一体何が隠されている?)」

 見えない京太郎の手を見て、靖子は不安に駆られている
 嫌な予感がひしひしとあの四枚から感じられるのだ

 そんな中の迷い無いツモ切りである
 靖子の思考に影が差すのも無理はない

靖子「(これは……)」

【靖子の手牌】4p
 4556p 118888s 567m

 まさかの4p
 ここで8sを切り、6p待ちにする手も考えられた

靖子「(だがドラ2の8sを切るなんて、考えられない)」

 当然靖子は相手の直撃を覚悟で打つことになる
 ドラを落とすことなど、考えられないからだ
 
靖子「(だが唯一気になるのは、3pを彼が持っている可能性もある)」

 ツモ切りからの素早い切り捨て
 考えられるのはピンズが無く、清一色や染め手であること

 しかし、そこにピンズが加わっているとなると……話は変わる
 混一色も清一色も無ければ、ただのゴミ手
 
靖子「(仮にこれで和了られても、痛くも痒くもない)」つ4p

 タンッ

京太郎「……」

靖子「(今は須賀君の親番。飛ばない限り、次の機会はある)」

 だが、ここでアカギは確信
 4pを切ったということ、それにさっきの2p切りも踏まえると

 3ー7pを待ちに据えたイーシャンテンといったところ

 つまり、危険牌を整理するなら暗槓する前
 今しかない




 そしてアカギも動く

アカギ「3pだ」

京太郎「……」スッ つ3p

靖子「ぐっ!?(まさか、本当に抱えていた?)」

 困惑する靖子
 一方のアカギは、勝利への流れ感じ取っていた

京太郎「(ツモは……!?)」

 7p

 引き寄せたのは、まともや藤田靖子の有効牌
 圧倒的に見える靖子のオカルトに――ヒビが入り始めた証拠であった


57p 999s  【222m 678m 4444m】


アカギ「5pを切れ」

京太郎「……」5p

靖子「!!」

 そして二連続で手の内から切った35p
 これにより、靖子は盲信する筈だ

靖子「!!(こいつ、もしかして私の思惑に気づいて……)」

 そう、もし今の4p直撃でも靖子を飛ばせないとすれば
 恐らく、京太郎の手は相当安い

靖子「(だから見逃した。もっと高い手を作ろうと……)」

京太郎「……」

靖子「(ここに来て、なんて馬鹿な真似を)」ニヤリ

 アカギの思惑通り、靖子は高をくくる
 そして慢心を持って和了を決意するだろう

靖子「(つまり、今須賀君はテンパイしていない)」ニヤリ

 そんな見逃しをしてしまえば、運の女神も見放すというもの
 その証拠に――靖子が掴んだものは
 
【靖子の手牌】つ3p
 4556p 118888s 567m

靖子「(来た来た来た!!!)」ニヤリ

 勝ちを確信する靖子
 だがそれは大きな間違いだった

京太郎「……」



 運命を引き寄せる力
 オカルトによる、絶対的な支配

 何をも恐れぬ、女王の闘牌

靖子「ふ、ふふっ……ははは……あははははっ!!」

 靖子は笑う
 己の勝ちを確信し、ただ嗤う

京太郎「……」

靖子「須賀君、私の勝ちだ」

 ざわ…… 
  ざわ……

靖子「長かったよ、ここまで。すごくいい勝負だった」

アカギ「……」

靖子「だが、勝つのは私だ! この、私なんだ!!」バラッ

 倒される四つの8s
 ドラ8の化物――相手を地獄に誘う死者

靖子「カンッ!!」

京太郎「(来たっ!)」

 果たして、自分の読みが当たっているのか
 それとも外れてしまっているのか

靖子「(ツモッ! ツモツモツモツモツモ!!! 私のチーピン!!) 」

京太郎「(頼むっ――!!)」


 発 


アカギ「クク……」ニヤリ

靖子「えっ……!?」

久「う、嘘……でしょ?」

 掴んだのは7pなどではない
 あるのは――

 そこに有るはずの無い発

靖子「う、嘘だ! これは……何かの間違いだ!」

 先程までの余裕から一転、慌てふためく靖子
 だが、それに対して一方の京太郎は笑みを浮かべる

京太郎「フフ……どうしたんですか?」

靖子「な、なぁっ……」ブルブル

京太郎「自分の読みが外れて、大慌てですか?」

靖子「ち、違う! こんな、こんなハズは無い!」

 靖子には確信があった、必ず7pであると

 しかし、結果は違った
 京太郎の策により、違う牌を掴まれたとも知らず

 ただ困惑するのみ、自分の負けを認められない愚か者
 みっともない敗北者の姿


京太郎・アカギ「「まるで白痴だな」」

靖子「!?!?!?」


靖子「な、なぜ……」つ発

 仕方なく発を切る靖子
 他に選択などできるハズが無い

 そして、新ドラが表示される

京太郎「……」

 一方的な靖子の和了かと思われた
 しかし、そんな絶望的状況を乗り越えた先に――

京太郎「……ツキの女神は、待っている」ニィ

 3m 

靖子「!?」
 
 新ドラは――4m

アカギ「クク……」

 京太郎の手牌が一気に跳ね上がる
 それも満貫確定のドラ4

京太郎「藤田プロ」


 ざわ……
   ざわ……


靖子「な、なんだ……?」

京太郎「考えてみてください。あの局面、俺がどうして早々にカンをしたのか」

靖子「!?」

京太郎「別に急ぐ必要も無し、無駄なドラを乗せることもなかった」

靖子「(まさか、まさかこいつ――!?)」

京太郎「……」

アカギ「京太郎」

京太郎「(アカギさん……?)」

アカギ「……お前の勝ちだ」

京太郎「(いえ、違いますよ)」フルフル

アカギ「……?」

京太郎「(”俺達”の勝ちです)」ニッ

アカギ「……フフ。ああ、そうだな」



靖子「あ、ぁっ……」ガタガタ

京太郎「アンタの探し物は……」つ2m

 バラッ 4444m

京太郎「カン」スッ

 この運を引き寄せたのは――赤木しげるの狂気なのか
 それとも、須賀京太郎の粘りに粘った勝利への執着がもたらしたのか

 答えは分からない

 だが一つだけハッキリしているのは――


 7p


アカギ・京太郎「「こいつだろう?」」

 バラララッ

京太郎「ツモ、嶺上開花」


77p 999s カン4444m カン2222m チー678m 


靖子「な、なんで……? どうして、そこに……? ありえ、ない」ガタガタ

京太郎「……」チャッ


 1m


京太郎「リンシャンツモ、ドラ8――トビです」

靖子「嘘だぁぁぁぁあ!!!」
 

 この二人――
 どちらも劣らぬ、本物である



 といったところで一度切ります
 次回がVS和編のリメイクですね、はい

 リメイクが終わればいよいよ前回の続きから
 修正に時間が思ったより時間かかるので、もう少し先になるかもかも

 前回で指摘された部分は極力直そうと努力しますが
 他に何か気づいたことあれば遠慮なくどぞどぞー

 

 

乙です
闘牌シーンと京太郎の回想シーンで最後の台詞違わなかった?

戻ってきたとは嬉しい


スカトロモモォ……(小声)


和了直前のカンって2mでだよな?


>>113
 修正ミスです

>>119-120
 なんのこったよ(すっとぼけ)

>>122
 そうだよ(便乗)
 修正しつつ投下してる筈なのにこのザマです


 ということでぼちぼち修正して和編行きます
 対局のチョンボを書き換えたりなので、じっくり時間かけながらですお



 京太郎と藤田靖子の闘牌から遡ること数十分前
 清澄高校校長室では、一つの取材が行われていた


記者「それではもう一度写真いいですか?」

和「はい。どうぞ」ニッコリ

咲「うぅ……」グギギ

記者「あはは、硬いね。もっと自然に笑えるかな?」パシャッ

咲「が、頑張ります」ニコッ

和「いい感じですよ、咲さん」クスクス

咲「ふ、ふふ……」ニコニコ

和「……」

 全国大会で活躍した宮永咲、原村和への取材である
 それも、大々的に人気の麻雀雑誌への掲載だ

校長「いやー。素晴らしい」パチパチ

和「ありがとうございます」

校長「これで我が清澄高校も安泰だよ。君たち【女子】麻雀部のお陰でね」アハハハハ

咲「え? 女子、麻雀部?」キョトン

和「……校長先生?」ジロッ

校長「あ、いやっ! なんでもないよ、あははっ!」

咲「???」

和「もう終わりですよね? では私達は失礼します」

校長「あ、ああそうだね。ありがとう」

 ガチャ バタン

和「……ふぅ」

咲「和ちゃん、さっきのどういう意味だろう?」

和「さぁ、校長先生の何か勘違いでは?」

咲「そうだよね。酷いなぁ、京ちゃんだっているのに」プンプン

和「……」

咲「それじゃあ和ちゃん。私、もう行くね」

和「どこかに行くんですか?」

咲「うん。ちょっと京ちゃんを捜しに」

和「須賀君を……ですか?」

咲「最近全然話せてないから、えへへ、少し話したいなって」モジモジ

和「……須賀君も、喜ぶと思いますよ」ニコッ

咲「そ、そうかなぁ……//」

和「では……私は先に帰ります」

咲「あ、うん。また明日だね、和ちゃん」

和「はい。では、また明日――」

 タッタッタッタッタッタッ

和「……」


和「……」

 清澄高校一年、原村和
 元インターミドルチャンプで、今年はインターハイにて好成績を残す

 両親は弁護士と検事
 その恵まれた美貌に常人離れしたスタイル
 
 成績優秀、品行方正

 彼女を知る者は誰もが溜息を吐きたくなるほどの完璧超人
 
 それが――
 原村和であった


和「……」スタスタ

男子A「は、原村さん……// さようなら!」デレデレ

和「はい、さようなら」ニコッ

男子A「うひょぉぉぉ!!」ダダダッ

 テメェナニハラムサントハナシテンダ! シネッ!
 ドガバキッ!  ギャァァァア!

和「……」

 アーハラムラサンダー  カワイイー
 スタイルイイヨネー  ウラヤマシー

 ナカヨクナリタイナァー ホントホントー

和「……」ニコニコ

 常に、誰に対しても笑顔を崩さず
 全ての人に癒しを運ぶ少女

 人々はこぞって彼女を慕い、応援する

 中には狂信的なファンも多く――親衛隊のようなものまで出来る始末だ

和「……」スタスタ

 恵まれた存在
 人々がおおよそ望む、全ての幸福を詰合せたような――そんな人生

 その余りある幸福の中にあって、彼女にはただ一つだけ

 欠けているものがあった

和「……」ギリッ
 
 それが――
 今回の騒動を引き起こす、キッカケとなる



  第三話 
~~ノドカ~~

【京太郎の部屋】

 藤田靖子との対局の後、京太郎は帰宅していた
 というのも、出された宿題や次の日の予習――学生にはやることが多々あるのだ

 それに宿題を忘れればそれを口実にどんな嫌がらせをされるか分かったものではない
 弱みを作らない為にも、京太郎は優等生にならなけばならないのである

京太郎「……」カリカリ

 その――

アカギ「……」ジィー

京太郎「……う、うぅ」

 ハズだったのだが

京太郎「だぁぁぁ!! 集中できませんよ!!」

アカギ「あらら……」

京太郎「なんで、ついて来てるんですか!?」

 というのも、発端はあの靖子との一戦の後
 帰宅する京太郎の後ろを、アカギがずっと付いてきたのだ

 そしてそのまま家に上がり、部屋まで入り
 今じゃベッドに寝転んでくつろいでいる有様である

                __ィ ニ ミy ニ 三 ミ、
            , z  二,三 : : : : : : : i! : : : : : :`ヽ
          ´   < : : : : : : : : : : :',: : : : : : : : :ミx
            / : : /: : : : ::γ: : : : ',: :ヽ: : : : :∧
            ,イ: : : :イ : : : : : ::/: : : : : : : : : ヽ : : : :ミ、
           〃 : : /: ,,イ: : : : :,': : : : : : : : : : : : ∨: : : :ミ、
          イ :ィ: ;イ: :i!: : : : : :{: : : : : : : : :!,: : : : :',: : : :∧
        / オ: / { : i! : : : : : i!: : : : : : : : |∨:ミ、: :ト 、: ::∧ ヽ
     / ´ {!:/ : i! /! : : : : : i|: : : : : : : : :! ∨:Y    ィ メ、 .!
         |/ : : i/: ! : : : : : i|:: : : : : ::λ| 〃  ,イツ  ヾj、 |
         λ: : r'ヘλ: : : : /i从 : : : : { jリ ′ 〃 - '     Y
         / }: : !、r ⅴ: : : i!: : ',  ,, =ー 、         iヽ
          从リ- テ.':ヽ: : i!ーソ´  セツ ラ ヽ        !  ィ= = = 7≧=-
        ' | '  リハi!: 川リ: :≧ ´ー   ´   :.     , イ  .:   .∨////////´
          ヽ   j! \:∨从:  ≧       ー ‘   シ  .::   ∨//////7777
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    |       ´   イ
    ゝ、   ,  -=≦

アカギ「クク……そう怒るなって」

京太郎「家に帰ればいいでしょ!」

アカギ「おいおい、忘れたのか? 俺は記憶喪失なんだ」

 つまり、帰る家も分からない
 どこに行く宛も無いというわけだ

京太郎「いやいや! お墓があるでしょ! お・は・か!」



 幽霊であるならお墓に帰るべきだ

 というかどうやってあの世からこっちに来たの?
 どうして俺のとこなの?

 聞きたいことは山ほどある 

京太郎「あの……そもそも、どういう経緯でここまで?」

 それが一番の気になるところだ
 幽霊はお風呂のぞき放題だとか、そんな姿でも性欲はあるのかとか
 色々と聞きたいことはあるがまずはそこ

京太郎「教えて、くれませんか?」

アカギ「……ま、話してやるか」

 この時アカギ、意外に素直

アカギ「アレは――」


【数日前 赤木しげるの墓】


 それはいつからの事なのか
 
アカギ「……」

 アカギは気が付けばそこに存在していた

アカギ「……?」

 見渡せば墓石が立ち並び、ここが墓地であることはひと目でわかる
 そして――自分の目の前にある【赤木しげる】の墓石

アカギ「クク――なるほど」

 それは、記憶の奥底で覚えていることなのか
 それともただの直感なのか

アカギ「赤木しげる……それが俺の名か」

 目の前の墓が自分のものであると、理解することができた
 
アカギ「化けて出たってわけだ」

 微妙に透けた身体
 おぼろげな記憶

 そんなまどろみのような存在として、アカギはそこに存在した

アカギ「さて、どうしたもんかね」

 どうしてそこにいるのかは、別にどうだっていい
 過去の事に縛られても――そこには何の価値も無い
 
 だが、問題はこれからのこと

アカギ「……」

 記憶がなければ行く宛も無い
 何をする気も起きない





アカギ「……」

 そこでアカギの取った行動は待機
 その場で留まることを決意する

アカギ「……ま、いろいろあるしな」

 墓前に備えられた栄養ドリンクやタバコ、その他様々なお供え物
 物には物理的干渉できないアカギだが、なぜかこれらには触れることが出来た

アカギ「クク……」カチッ

 スパスパ

アカギ「フゥー」

 タバコを吸いながら、ぼーっと空を見つめる
 目的も無く、これからどうするか

 一度死んだ身に、何ができるのか
 
 命の重みも実感できず”あの”胸の焼け付くような戦いも出来ないのだ

アカギ「……あの?」
 
 思い出せない
 だが、確実に心の中に眠っている

 勝負を求める――狂気の魂

アカギ「……」

 だが、今となっては無力
 例えどれだけの才能があろうと、力があろうと

 体が無くては何もできない
 生を実感することも――不可能

アカギ「クク……お手上げだな」

 半ば諦めのような気持ちもあった
 だが同時に――期待もある

アカギ「……」

 ここで待っていれば、何かが変わる 
 そんな――予感


~~~~~~~


ひろゆき「……ヒック、赤木さん」スタスタ

天「……」ゴシゴシ

 その数日の間
 時々は誰かがやってきて、墓前で手を合わせていった

 顔も知らない、でもどこか懐かしい面々ではあったが――
 誰ひとりとして、赤木に気付くものはいない

アカギ「……」

 アカギは待った
 そこから動くことはなく、ただずっと



 オレが望んだもの……
 それは変化だった……

 全てをひっくり返すような変化だ
 生まれ変わるほどの……

アカギ「……」

 この死ぬよりもつまらない退屈
 それを全て吹き飛ばすような――そんな変化

ひろゆき「それでですね、赤木さん。今日は――」ゴクゴク

 ほぼ毎日のように顔を見せるこの男の戦勝報告でもなく
 ただもっと――

 もっと自分を満たすような狂気の闇
 勝負への渇望

 誰でもいい

 このくそったれな空気
 流れを……変えてくれっ……!

アカギ「誰もいい……魔でも……!」

 神でも――!!

?「……」ソローリ

 ジャリッ

アカギ「!?」

 それは――

ひろゆき「君、この男に用があるのか?」
 
京太郎「えっ?」ドキッ

 それは――今や枯れ果て
 とうの昔に失った――熱いなにか


                    _,.. -- 、__, 、___
              ⌒> ´  ´  ヽ  `ヽ、
                _,.   ´  ,  , 、   | 、 、 ヽ
                ̄7  / / 从  、 |  |  |  :.
                 /イ / /l/  | | | l}从}  |   {
               _/_ { 从ヽ、 { | |/ イ´∨}  :
                 ̄´ {∧ { ○ 从{  ○ }'⌒}、{
                 {从         r-く| \
                     叭   __   八}イ
                   、 └―┘ ィ/∨
                  「¨>-- rく「 ̄ }

             , ------ ∨_」   :, ∨]/|ィ¨7ー-- 、
               ////////「//| ー- 」 }ヽ// ///////}
                {/{////// \∧ r'  ヽ }' {///////
                |l∧////////Ⅵ,〈      | |///////|
                |/∧/////////|l∧     ,l |///////|
                |//∧/////////() \//∧}///////

アカギ「……待っていた」ザッ

 自分には分かる
 自分がここにいたわけ、その理由――

アカギ「お前だ、お前を待っていた」

 それは――同類を嗅ぎ分ける、直感だったのか
 それとも――魔物が引き寄せた運命のイタズラか

アカギ「クク……」

 こうして、二人は出会ってしまったのである





ひろゆき「……まだ子供か」

京太郎「ど、どうも……」ペコリ

ひろゆき「見なよ、この人の墓」スッ

京太郎「え?」

ひろゆき「墓石の欠片をガリガリ削られて、今じゃこんなに小さくなってる」

京太郎「そ、そうですね」

ひろゆき「しかしそれも数年前までの話だ。今じゃ、誰もこの人の墓を削ろうなんてしない」

京太郎「……」

ひろゆき「……君は、コレが欲しいのかい?」

京太郎「……はい」

ひろゆき「そうか。素直な奴だな」ハハハ

 二人が話し込んでいるのを尻目に、アカギはただじっと少年を観察していた
 そのオーラ、身に纏う無頼としての格

アカギ「……」

 てんでお話にならない
 そこいらの小学生でも、もっとセンスのいいものはいるだろう

ひろゆき「君、麻雀をやってるか?」

京太郎「っ!?」

ひろゆき「その反応、図星だね。子供だからそんなことだろうと思ったけど」

京太郎「……」

ひろゆき「……君は、どうしてここに来た?」

京太郎「そ、それは……」

ひろゆき「強くなりたい?」

京太郎「……」コクッ

ひろゆき「……そうか、強くなりたいか」トオイメ
 
 ひろゆきも先ほどのアカギと同じように京太郎を品定めする
 結論は同じ
 てんでお話にならない

ひろゆき「やめておいた方がいい。ろくなことにならないから」

京太郎「なっ!?」

 だが、この時アカギには確信があった

アカギ「……」

 この少年には何かがある
 必ず、自分の求めている何かが――




ひろゆき「俺も長くこの世界にいる。分かるんだよ、そういうの」

京太郎「なんでそんなことを、アンタに言われなきゃいけないんだ!」

ひろゆき「……ごもっとも。だからこれはただの忠告」ザッ

 去りゆくひろゆき
 その背中を見て――アカギはなぜか、自分でもよく分からないが

京太郎「あ、あのっ!」

ひろゆき「俺はひろゆき。井川ひろゆきだ」

アカギ「ヒロ……」ボソッ

 呼び止めていた
 その男を、顔も覚えていないその――かつての”仲間”を

ひろゆき「(今の、声……)」ドクン


    |`/|  /〃    /  ,/\      ゛     ゙  }: : :.i
    |/ .|`/'i リ 〃/i〃/   \∧゛:}   {\ ゛_.: : : :|
        |/ |:∧}八} | ./     ヽ \\: : : : : : : 、: : |
        }ハ ___ レ′      >-ヽ 丶、: :}: : : : :|
         '∧ヽ弋ゥ、    ∠ _____ i: :i⌒ヽ: :|
          {ハ  ー-/     弋^“´ _. イ |: :|爪 |: :.|
           i  :/        ̄     .|: :|じ リ: :.|、
           '  /             }_ノ.イ: : : ハ
            ∨  .. -‐-        ノ、i: : ' : : } i
               'ヘ´ ‐- .._ __,     / :∨: i:.:/ .|
                    __    /     ',: :/  l\
             ∧  ヽ::::ノ   /        ∨   |  \
            / .∧      /         /    .|
           /   / 丶_ . イ           /     |
          /   ./       }          /      .|
      /      /      |        ./       |
      /       /        :|       /        .|

アカギ「クク……またな」

 聞こえているわけがない
 アカギ本人もそう思っている

 しかし――それは運命の数奇なイタズラか
 それともただの幻聴だったのか

京太郎「ひ、ひろゆき?」

ひろゆき「……なんでですか?」ボソッ

 ひろゆきの胸にはしっかりと――

ひろゆき「どうして、今さら……化けて出てくるんですか?」

 アカギの言葉は届いていた


 こうしてひろゆきと別れた後
 京太郎は目的を果たす為にカナヅチを取り出す

 墓石を手に入れようというのだ  

京太郎「……」ググググッ

アカギ「……」

 一方でアカギの方は、この少年にどう接触するべきか悩んでいた
 話しかけることも触れることもできない
 
 この状況ではさしものアカギもお手上げである

京太郎「俺は!! 俺の力を信じる!!」

 そんな最中、京太郎が一大決心とともにアカギの墓を殴りつける
 すると――

アカギ「!?」バキィッ

 突然、横っ面を殴り飛ばされたようにアカギが転倒する
 その衝撃は――重く、アカギの心にまで響く一撃であった
 
京太郎「……はぁっ、はぁっ」

アカギ「クク、やってくれるな」

 フラフラと起き上がり、京太郎を睨み上げるアカギ
 すると、そんなアカギに呼応するかのように――

 パキッ

京太郎「……え?」

 パキキキッ……

 パキィィンッ……!!

 カランッカランッ!

 墓石の欠片が、京太郎の前に転がり落ちたのである

京太郎「欠けた……?」

アカギ「あらら……」

京太郎「……赤木さん」スッ

 京太郎はそれを、アカギからの餞別だと勘違いしたのか
 ゆっくりと拾い上げる

京太郎「貰っていってやるよ」

 そして、深々とお辞儀をし――
 あらん限りの声で叫ぶ
 
京太郎「……ありがとうございましたっ!!」ペコッ

アカギ「……」



 そうして、京太郎は早々と帰っていく
 対するアカギはその後ろからバレないように付いて歩いている

 というのも、先ほど京太郎が墓の破片を手にしてから
 なんだか急に体が重くなり

 今までのふわふわとした感覚が無くなっていったのだ

アカギ「……」

 今の自分は、目の前の少年に近くされる
 漠然とだがアカギはそれを理解していた

京太郎「ふんふ~ん」テクテク

 だからこそアカギは後ろを歩く
 この少年を見極める為に――

アカギ「フフ……」


~~~~


 そうして長野まで付いてきたアカギが目にしたのは、
 学校内で虐げられる京太郎の姿であった
 
 理不尽な暴力、嫌がらせ

 しかしそれに不満を言わず、ただ辛抱する

 馬鹿そのものの生き方
 他人のことばかり気にして、自分のことを考えない愚か者

京太郎「うっ……くっ……ちくしょぉ」ポロポロ

アカギ「……」

 なんてことは無い
 この男は優しすぎるのだ

 無頼として生きるには――不要な甘さ
 
アカギ「やれやれ」

 現状では、この男には何も価値が無い
 自分を満たすような存在には到底思えないのだ

 しかし、それでもアカギが京太郎を見放さずに付いて回るのは――

京太郎「……だけど、明日で変わるんだ!」ギリッ

アカギ「クク……それでいい」

 瞳の奥底に僅かにくすぶる……勝負への執念
 勝ちへのあくなき執着

 それこそが、アカギが最も求めているものであった




【現在 京太郎の部屋】


京太郎「つまり……オレが面白そうだから付いてきたってことですか?」

アカギ「フフ……分かってるじゃん」ニヤリ

京太郎「なんじゃそりゃぁあぁ!!」

 そんな映画を見に行こう的な感覚で言われても
 こっちは困っちゃいますって!!

アカギ「ま、いいだろ別に。減るもんでないし」

京太郎「なんで幽霊と同棲しなきゃならないんですか!?」

アカギ「中々出来ない経験って奴さ」

京太郎「そういう問題じゃないでしょ!」

 ズキズキと痛くなる頭を抱えつつも
 京太郎は続ける

京太郎「俺について来て、アカギさんは結局何がしたいんですか!?」

アカギ「……」

京太郎「……」


アカギ「そうだな……もう一度、満足の行く勝負をしたい」


京太郎「えっ?」

アカギ「……心を満たすような、身を焦がす命懸けの死合だ」

京太郎「……」ゴクッ

 アカギの言葉はまるでとんちかんであったが、
 なぜか妙な重みがあった

 それは――冗談でもなんでもなく
 間違いなく本気の一言であると、京太郎は理解していた

アカギ「クク――だが俺はものに触れないんでね。必要なのさ、お前が」

京太郎「ひぃいぃぃ!? 体を奪われるぅぅぅぅ!?」ズザザザッ

アカギ「あらら……」

京太郎「というか命懸けの勝負ってなんですか!?」

アカギ「そりゃ……負けたら死ぬってことだ」

京太郎「もう死んでるじゃないですか!!」

アカギ「だから――」

./:::.:.:.:.::.::::_:∨ {┤ | 、 ;  ハ

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圭三´ . .:.::.:.:.:/.:::::::.l三三三三三三,三三三三三三三三
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アカギ「京太郎――お前でいい」


京太郎「え? それは俺に死ねと言っているのでしょうか?」グギギギ

アカギ「クク……ま、遠からずってとこかな」

京太郎「」

アカギ「だが、今のお前じゃまだまだ弱い」

京太郎「そ、そりゃアカギさんに比べれば弱いですけど……」ブツブツ

 策略や運
 その全てが桁違いだったアカギ

 それと比べれば京太郎など、吹けば飛ぶようなものだ

アカギ「だから――しばらく見ていてやるよ」ゴロン

京太郎「え?」

アカギ「お前は強くなりたい。俺はお前を借りて勝負したい」

 ただそれだけ
 アカギにしてみれば、京太郎の死は自分の死に等しいのだから
 
 それで十分に熱い勝負が出来ると踏んでいた

アカギ「お互いに目的を果たせるってわけだ」

京太郎「た、確かにそうですけど……」

 アカギの闘牌を間近に感じ、ともに戦う
 今日一日だけでどれほど勉強になり――成長することができたか

 一目瞭然だった

京太郎「……」

アカギ「……」

京太郎「アカギさん。一つだけ、いいですか?」

アカギ「ああ、言ってみろ」

京太郎「確かに俺は強くなりたいし、実際に今はアカギさんに敵わないでしょう」

アカギ「……そうだな」

京太郎「だけど、だけど俺は強くなりたい。誰よりも――アナタよりも!」

 そう、誓ったんだ
 自分のチカラで赤木しげるを越える
 
 それが俺の目標なんだ

京太郎「だから――いつか俺と勝負してください」

アカギ「!」

京太郎「……そして、必ずアカギさんを満足させて――成仏させます」

 それは――いずれ果たされる約束

 京太郎は命を――アカギは魂を――
 
 それぞれが求める、夢の果てにあるもの
 胸焦がし、喉がひりつくような熱い勝負の先――


 神(魔)の一手を巡る戦いの始まり


京太郎「俺は――アナタを殺す」ニィ

アカギ「クク……面白い。やってみろ」ニヤリ

 アカギと京太郎
 その長い死闘の火蓋は今、切って落とされたのである



 須賀京太郎と藤田靖子の闘牌を終えたRoof-top
 そこでは一時的に盛大な、お祭り騒ぎが起こり――場を賑やかせていた

 全く無名の高校生がプロ雀士を下す
 それも――完全に実力を上回る打ち筋である
  
 人々は口々に噂し、Twitterや2chにその情報を流す

 やがて、その噂は妙な現実味を帯びて語り継がれることになる


 あの【神域の再来】が現れたと


靖子「……」


 卓に突っ伏したまま、一言も発さずに微動だにしない藤田靖子
 今、彼女の胸を巡る想いはどのようなものなのか

 誰にも分からない
 きっと、このプロ雀士本人にも――ずっと


 ざわ……
   ざわ……

 
久「……」

 そんな喧騒の最中、頭を抱えている少女がいた
 
久「全く、どうしたものかしら」

 ある意味ではこの騒動の発端となった存在
 清澄高校麻雀部部長、竹井久である
 
まこ「……あれが、京太郎じゃと?」

久「何が言いたいのー?」ハァ

まこ「わしゃ……アレが京太郎とはとても思えん」

優希「……同感だじぇ」

 途中まではよかった
 正直、よく飛ばなかったと驚いた程だ

 そしてあの5pを切っての和了に至っては
 その瞬間――京太郎に麻雀をさせるべきではないか、そう考えたほどである





 しかし――
 藤田靖子が現れてから、須賀京太郎は変わった

久「まるで鬼神ってとこかしら」

 大三元のイカサマ、中の二連打切り
 靖子の目的を見抜いての和了の見逃し――

 そして極めつけは決着の一撃となったあの和了

久「まさか”まくりの女王”のまくりにカウンター決めるなんて」

 まるで理解できない
 自分達にいいようにやられていた須賀京太郎からは、到底信じがたい闘牌

優希「なんだか京太郎が怖い。今までのアイツじゃなくなっちゃったみたいで……」

まこ「優希、やめんか」

優希「で、でも!!」

 今にも泣き出しそうな顔で、優希は縋り付く
 対するまこの顔色は伺いしれない

 それは、彼女なりの必死のやせ我慢であったのかもしれない

まこ「……そもそも。わしらの知ってる京太郎とはなんじゃ?」

優希「えっ?」

久「……」

まこ「いつも明るくて、雑用を嫌な顔せず引き受けて、スケベで、麻雀も弱い……」

久「……他は?」

まこ「……」フルフル

久「優希は、分かる?」

優希「や、優しくて……私のわがまま、聞いてくれて、それで、それで……」ジワッ

 思い浮かばない
 半年近くずっとそばにいたのに――自分達は一体京太郎の何を知っていたのか?
 
 知ったつもりでいたのか

久「所詮、それくらいなのよ。私達が知っていることなんてね」

優希「……」ガクッ

久「彼がどんな風に強くなったとか、今の私達にどんな想いを抱えているか……何も分からないわ」

まこ「ああ、そうじゃな……」ウツムキ

久「でも、一つだけハッキリしてることがあるわ」

 須賀京太郎は以前の素人ではない
 経過はどうあれ、今の彼は魔物――

 恐らくは自分達よりも遥か高みにいる


久「私達は負けたのよ」


 竹井久は覚悟を決めた
 何があっても、彼を――須賀京太郎を守りぬく

 それが自分の――最後の仕事であるのだと



 原村和が竹井久の呼び出しにより、Roof-topに着いたのは日が沈見かけた夕暮れであった
 大事な話があるから来て欲しい

 そんな簡素な呼び出しだけに、和はどこか嫌なものを感じていた

和「……」

 ただでさえ、気の滅入るような取材を終えて帰宅したばかり
 正直気は進まなかったが、無碍にするわけにもいかず


           ,、  ─ -  _
    ┌::-/      ┌:Y´::7
    {::./     /   ヽ V:::}:::::}
    ,Y  1 l lj ! !V } Y'::`く

    く::! ィ, N升卅从卅代ノ;イト'
      `ヽN 〔厂 '  〔厂 l  | l
        i| '、       ノ  1 ト、
        /jj `ー  ニ ‐,´ l  | ヽヽ
     〃/  レ:´:.{  }:.:.:Y l| l V
     V {  ト:;\i /::/ ∧ l {

      ハ l !\><:∧/  }  〉
      V 1Y    〉く   } | ./′
       Y{   /:::::i    j |'′
        | ヽ {::::::::l  〈  |
         |  {  {::::::::l  {  |

 こうやって、出向いてきたのである

 ガヤガヤ ザワザワ

 店の前まで来ると、店内は異様な熱気に包まれていた
 またあの日のようにコスプレでもさせられるのか

 そう思うと沈んだ気持ちが更に沈み込んでいくのが分かる

和「……」ハァ

 和は意を決し、扉を開く
 そこで自分の想像を越えた出来事が




久「和、大会の出場を諦めてくれる?」

和「はい?」

 店内に足を踏み入れた和
 彼女を待ち受けていたのは、久の唐突な発言であった

和「え? えっと……状況が掴めないんですが?」

 和は困惑に支配されながら、必死に理解しようと務める
 部長は以前、確かに咲と和

 この二人を大会に出すと言っていた

 その決定を覆すということはつまり、出場する選手が変わるということ

和「もしかして、部長が出るんですか?」

 和が出した結論
 それは至極、理に適った考えである

 今年引退の竹井久が出場したいと思うのであれば、自分の辞退もやぶさかではない 
 それに――元々出たかったわけでものないのだから

久「……いえ、別人よ」

和「え? じゃあ……染谷先輩でしょうか?」

 次点で可能性があるのが染谷まこだ
 来年度の部長でもあるし、経験を積むのはいいことだ

 和も彼女になら代表を譲るのに抵抗はない

まこ「……違う」

和「えっ……?」

 そうなると、残っているのは片岡優希
 確かに実力は評価しているが、自分ほどではない

 しかし、来年からの成長を考えているのだとしたら――
 これも部への貢献となるだろう

和「分かりました。ゆーきの為でしたら――」

優希「ううん、のどちゃん。私でもないじぇ」

和「はい?」

 そうなると、一体誰が残るというのか
 新しく誰かが入部した?

 それならばいくらか合点も行くが複雑な心境だ
 自分たちが必死になって手に入れた代表の座を、部外者に明け渡すなど

久「須賀君よ」

和「……はい?」

久「須賀君が、和の代わりに出場するの」

和「え……?」キョトン



 スガクン……?

 すがくん

 須賀君

 須賀京太郎君

 同じ麻雀部員だった少年
 優しくて、雑用をよく引き受けてくれていたあの須賀京太郎


和「あの、須賀君ですよね?」

久「ええ……そうよ」

和「本気ですか!?」

 和が声を荒げるのも無理はない
 それは何も、須賀京太郎の実力を軽んじてのことではなく
 
 ただ純粋に――彼の身を案じてのことだ

和「もし今そんなことになったら――」

久「ええ、そうね。特に和――アナタの親衛隊、黙っちゃいないでしょうね」

和「っ……」ゾワッ

 思い出しただけでも身の毛のよだつ集団
 あの気持ちの悪い男達の集まり――


 あんなもの、欲しくもなんともない


 ただただ、気持ち悪いだけ
 見られているだけで、声をかけられただけで――背筋が凍る
 
 そんな――頭のおかしな連中が、存在しているのだ

和「そう……ですよ、あの人達にまた――酷い事、されてしまいますよ?」ブルブル

久「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない」

和「そんな無責任なっ!」

久「……私はね。別に今更善人ぶるつもりも、取り繕う気もないわ」

和「!?」

久「私は自分の夢の為に須賀君を利用したし、そこに後悔は一切無い」

 断言
 その瞳には、本当に迷いや後悔は無いように見て取れる




まこ「部長、それは少し言い過ぎじゃ……」

久「まこ、別に言い訳しても仕方ないし、結果的にそうなった以上認めるわ」

まこ「……」

和「じゃあ、どうして今更須賀君に?」

久「……見たくなったのよ」

和「えっ……?」

久「私達が勝手に決めつけていた須賀京太郎という男のイメージ……その真の姿を」

和「??」

 和にはまるで意味の分からない言葉だった
 須賀京太郎は須賀京太郎

 それ以上でも、それ以下でもない

 麻雀は弱く――雑用しか取り柄がない
 優しさはあり、優希も懐いていて好青年だとは思う

 しかし、自分はあまり好きではなかった
 感謝こそしているが――所詮彼も他の男と同じ

 自分をいやらしい目で見ているだけでの、男にすぎなかった

久「和、あなたのイメージはきっと当たっていると思うし。事実よ」

和「……」

久「でもね。目に見えるものだけが真実じゃない、私はそう思うわ」

 和には分からなかった
 なぜ久がこんなにも須賀京太郎を過信しているのか

 どうしてここまで言い切ることが出来るのか

和「ですが、それと大会と何の関係があるんですか!?」

 折角、落ち着いてきたばかりだというのに
 あれだけ殺気立っていた連中も最近は影を潜め――

 今では大したこともしていないと聞いていた

 咲の耳にも入っていないことからも分かるように、
 このまま須賀京太郎が部活を辞めるだけで全て上手く行くハズだった

 それなのに――
 なぜ、なぜ掘り返そうというのか

久「私は、彼に賭けてみようと思うの」

和「賭ける?」

久「須賀君が――優勝することに」

和「なっ……」


 和はますます分からなくなる
 あの須賀京太郎が優勝?

 県予選ですらまともに戦えなかったあの少年が?

 全国の強者やプロを退けて優勝する?

 そんなオカルトありえない

和「……分かりました」ワナワナ

久「和……?」

和「つまり部長は私より……須賀君の方が強いと、仰りたいんですね?」キッ

 屈辱だった
 それは別に須賀京太郎がどうとか、そういうことじゃない

 今までずっと麻雀を打って来て――辛い想いもたくさんして
 共に全国大会を勝ち抜いてきた仲間から、一方的にこんなことを言われるなんて

久「……ええ、そうよ」

和「っ!?」

まこ「部長」

久「事実だもの。いずれ分かるわ」

和「っ……それが、答えですね」ワナワナ

優希「の、のどちゃん……」

和「染谷先輩も、ゆーきも……同じですか?」

まこ「……」コクッ

優希「……うん」ポロポロッ

和「……」

 裏切られた、という気持ちよりも
 ただただ虚しかった

 自分が信じていた絆というものが、あっさり砕け散ったかのようにも思えた

 こんなにも、自分達の関係は儚いものだったのだろうか

和「……決定した以上、私に異論はありません」

久「和、ごめんなさい」

和「ですが、まだ大会までは日がありますよね?」

久「え?」
 
和「なら、私が須賀君を倒します!」



 それは果たして――
 誰に対する挑戦であったのか

和「そうすれば、また考え直していただけますね?」

 どういう経緯で奪われたのか、それはどうでもいい
 ただ結果として、自分が彼よりも強いと証明できればいい

 そうすれば――全てが丸く収まるのだから

久「……ええ、いいわ」

まこ「部長!」

久「でも、和。一つだけ忘れないで」

和「……なんでしょうか?」

久「私達の絆が壊れたって、思ってるんでしょ?」

和「っ!」ドキッ

久「でもね、それは違うわ」

 久はゆっくりと息を吸い込み
 体を震わせながら、消え入るように吐き出す

久「元々、完成していなかったのよ。だって、私達六人で麻雀部じゃない……」

和「!!」

久「……ピースが足りてないパズルが、完成するわけないのにね」

優希「うっ、うぇぇっ……」グスッ

まこ「……」ギリッ

和「……」

久「一体、いつ道を間違ったのかしら?」

 その問いかけは果たして、和に対するものか
 それともまこや優希に向けられたものなのか

 あるいは――


久「……ごめんなさい」ウツムキ


 自分に向けられた言葉だったのかもしれない



【和の寝室】

 Roof-topでの話し合いから数時間が経ち、月が綺麗に輝く夜空

和「……」

 和は部屋の窓を開け、静かにその星空を眺めていた

和「どこで、ズレてしまったんでしょうか」

 和は思い返す
 まだ麻雀部に咲がいなく、優希と京太郎が馬鹿騒ぎを繰り返していた日々

 そこに咲が加わり、大会への目標を誓い合って
 それでみんな必死に努力して、頑張って、戦って

 やっとの思いで優勝した

 しかし、気が付けばそこに須賀京太郎の姿は無くなっていた

和「……」

 別に彼が嫌いなわけではない
 むしろ――自分がこれほどに仲を保てる男友達など彼を除いてはいないだろう

和「……っ!?」ゾクッ

 だが、ダメなのだ
 気づいてしまったから

 理解してしまったから――

 周りが自分をどんな風に見て、どんな対象として触れようとしてくるのかを

和「はぁ、はぁっ……」ブルブル

 男はみんな同じ
 自分の事を性愛の対象くらいにしか思っていないのだ

 それはきっと――あの須賀京太郎も同じ

 だから、だからこそ

和「負けられません……男にだけは」カチカチカチカチ

 身を凍らせるような恐怖の中で、和はただ一人耐える
 自分を守る為に――

和「うぅっ……くっ……」ゴシゴシ

 好きだった可愛らしい衣装も――
 今ではもう着られない

 自分を【見られる】ということに、耐え難い苦痛を感じる日々

和「咲さん……ゆーき……助けて」ガタガタ
 
 唯一の心の支え――
 それは奇しくも、揃って別の方を向いている
 
和「須賀、くん……」

 和にはもう、何が正しくて
 何が間違っているかなど、分かるハズもなかった



 一方その頃京太郎はというと――

【京太郎の部屋】

 お風呂上がり、体が火照っている至福のひと時
 心地よい睡魔に誘われるようにベッドに転がりこむ

 そして――その布団の心地よい感触に身を委ねながら……

京太郎「……よし 」

 決意する

京太郎「(今日は和で抜くか)」ガサゴソ

 自家発電準備っ……!! 圧倒的っ……自家発電っ……!!

京太郎「和の写真を用意してっと……」ゴソゴソ

 ベッドから飛び上がり、机の引き出しから和の写真(引き伸ばし)を取り出す
 そしてティッシュボックス(ウェット)をセット
 誤爆の無いようにズボンとパンツを脱ぎ捨て、ベッドに再び腰掛けて終了――

 この間二秒弱

 数万回としてきた動きだ
 よどみはない

            _,...---、_,.、

           / : /: : / : : ヽー-、
            /. : :, !: iハ!/メ、.i | \
            イ : :{ ヽN  'i:!/!人iヽi
         _1: : :i(    _ 丶:\
        /   `Yリヽ   '、_)'´!`ー`
      /:::..     |  ,. _/
.      /.::、::    ト、ィ'
      / ::::::|::    !;-!
    /  ::::|::     ! ヽ、        ,:-‐クヽ
    /    ::!::..   ⊥__!_      /  ..:ノ)
   /     |::::..         ̄`''''''' ′..::::::::::ノ
.  /:     |::::.....      ..............:::_,:::-‐'′
 /::      `ー‐┬---r―'''''''"" ̄__
./__       /!   i      / iu-゙、
/----、\   ::::/ |::  ⊥ __,...-‐'.i...:ヒノ
 ̄ ̄`ー`ー`ー-、/ |::.         _,.-‐'"

京太郎「よーし、そんじゃ早速!」ビンビン

 スゥー

        _、‐-、, -‐z._
        > ` " " ′.<
      / " " " " ゙ ゙ ゙ ゙ \

        7 " " ",.",ィ バ ,゙ ゙ ヾ       r‐ ' _ノ
       ! " " /-Kl/ Vlバ.N     _ ) (_
       | "n l =。== _ ,≦ハ!      (⊂ニニ⊃)
      |."しl|  ̄ ,._ ∨       `二⊃ノ
      | " ゙ハ  ー--7′       ((  ̄
      r'ニニヽ._\. ¨/           ;;
     r':ニニ:_`ー三`:く._           [l、
   /: : : : : : :`,ニ、: :_:_;>      /,ィつ
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アカギ「クク……なるほど、それでシコシコやろうってんだ」スッ

京太郎「」

アカギ「なんでもっとこう、スパッと生きられないかねぇ」

 和の読みはある意味、的中しているのかもしれない



京太郎「死にたい」ズゥーン

アカギ「フフ……お前もやっぱりただの馬鹿だよな」

 京太郎の失敗
 それはアカギの存在を忘れていたことに他ならない

京太郎「いつもの、いつものクセなんです……」シクシク
 
 みっともなく布団に包まり泣き出す京太郎
 十五歳で自分のシコシコタイムを覗かれたのだから、当然といえば当然である

アカギ「というか、女々しく自分で慰めるくらいなら適当に女を抱けばいいだろ」フゥー

京太郎「は?(半ギレ)」

アカギ「ん?」

京太郎「俺童貞なんですけど? そこ分かっていらっしゃいます?」ギリギリギリギリ

アカギ「い、いや……」タジッ

京太郎「童貞舐めるなよゴルァァァ!! 好きでシコシコしてんじゃないんだよぉぉぉ!!」

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......     //  ヽ    :::::/::::
    /  /   ヽ  :::/:::::

  /   ./     ヽ/ |:::

アカギ「……」

 面倒くさいのでさっさと童貞を捨てさせよう
 そう決意するアカギであった




アカギ「それでお前、この女が好きなのか?」

京太郎「えっ!?」ドキッ

 アカギが指差すのは勿論、原村和の引き伸ばし写真である
 集合写真を伸ばしたものだから解像度こそよくないが、その美貌は当然健在だ

京太郎「い、いやまぁ……好きって言えば、好きだけど……その、愛というか憧れというか」デレデレ

アカギ「クク……でもヤりてぇんだろ?」

京太郎「はい」キリッ

 即答である

アカギ「ふーん、ま、胸も大きいし顔も悪かない。ただちょっと丸いな」

京太郎「丸いって、そりゃアカギさんに比べれば大抵の人は丸いですよ」

アカギ「ほー、言うな京太郎」ギロリ

京太郎「すんませんしたっ!」ドゲザッ

アカギ「まぁいい。それより、他に抱きたい女はいるか?」

京太郎「え?」

アカギ「抱きたい女だ。いるのか、いないのか?」

京太郎「え、えーっと……」

 そりゃまぁいるといえば星の数ほどいる
 福路さんとか、神代さんとか、石戸さんとか、松実さんとか
 
京太郎「瑞原プロとか戒能プロとか愛宕プロ……いや、流石に人妻は……」

アカギ「クク、お盛んなこった」

京太郎「そりゃまぁ、年頃ですから」ポリポリ

アカギ「……なぁ、京太郎」

京太郎「?」

アカギ「お前――この世で一番、抱いて気持ちのいい女がどんな女か知っているか?」

京太郎「えっ……?」

 そう言われても返答に困る
 そんなの人それぞれだと思うし、というか童貞に分かるわきゃねぇだろ!

京太郎「む、胸のデカイ人ですか?」ドキドキ

アカギ「アホかおまえ、他には?」

京太郎「えーっと、あそこの締めつけがいいとか?」グヘヘ

アカギ「……」

京太郎「自分のナニと、相手のアソコの相性がピッタリ! これだ!!」

 まさに童貞の思考そのものである

アカギ「なんだなんだ! お前はただの童貞か?」ヤレヤレ

京太郎「」

アカギ「……ハァ、もういい」

京太郎「(なんだかすげー失望されてる気がする)」ガビィーン



京太郎「あの、答えは教えてくれないんですか?」

アカギ「ん……知りたいのか?」

京太郎「後学の為に是非とも!」ペコリ

 みっともなく頭を下げる京太郎に、アカギは半ば呆れながらも口を開く
 若い二十代前後の姿からは想像も出来ない、憂いを秘めた瞳で
 
アカギ「……たとえば麻雀だ」

京太郎「麻雀?」キョトン

アカギ「世の中には頓狂な奴がいて……ラチのあかねぇ遊戯に自分の限界を越えたもん賭けちまう」

京太郎「自分の人生も……」

アカギ「まぁ、そんな奴だから……頭は悪いが、勝ちたい気持ちはスゲェーもんだ」

京太郎「……」

アカギ「女も一緒さ。自分の全知全能をかけて考える、決断して、そして躊躇して」

 相手が本当に自分にふさわしいのか?
 自分が人生を預けるに値する男であるのか?

アカギ「それでもやっぱりこの人しかない」

京太郎「っ」ゴクッ

アカギ「そりゃもう、ほとんど自分の魂を切るように体を差し出すのさ」ククク

 その魂の乗った身体
 そういう女を抱くことは、それはまるで人の心を喰らうようなもの

京太郎「それって、つまり?」

アカギ「ククク……ようは自分にベタ惚れな女ってこった」

京太郎「へっ?」

アカギ「それに比べりゃあ、お前が言った女はゴミみてぇなもんだ」

京太郎「は、はあ……」

 そんな簡単なことなのか?
 そう思う京太郎

 見よ、これが童貞である

アカギ「この世じゃ人の心が一番うまいんだ。女だってそうさ」

京太郎「ふ、深い……」シミジミ

アカギ「自分みたいなクソッタレの為だけに、女が魂かけて差し出すから抱く価値がある」

京太郎「……」

アカギ「違うか……?」

京太郎「は……そうですね……」

アカギ「わかったらさっさと惚れさせろこらっ!!」どんっ

京太郎「は…はいっ!!」ビクビク

 こ、この人急にお爺ちゃんぽくなるんだな……
 ちょっと怖い

アカギ「フフ……」



京太郎「とは言っても、和はガード固いしなぁ」

 というか手を出したら殺されるんじゃなかろうか
 あの親衛隊どもに……

京太郎「あ、あのー……やっぱり別な人にしちゃダメですか?」

アカギ「……」ギロリ

京太郎「が、頑張りますっ!」ビシッ

アカギ「それでいい」

 というかなんで脱童貞する流れになってんだ?
 しかも相手があの和……?

 おいおい、マジかよ

 そんなの太陽が西から昇るくらいありえねぇって!

アカギ「……」ジィー

京太郎「アカギさん?」

アカギ「いや、なんでもない」

京太郎「?」

 今、窓から外を見ていたよな?
 一体何を見ていたんだ……?

 ブルブルブルブルッ

京太郎「ん? 携帯……メールか」パカッ

アカギ「けーたい……?」

京太郎「えっ!? 和からっ!?」ビクッ

 驚くのも無理は無い
 あの和からメールなど、ここ数ヶ月無かったからだ

京太郎「(てっきり嫌われてるんだと思ってたけど……)」チャッ

 カチカチ

【差出人:マイフェイバリットエンジェルのどっち】

題名:お願いです

本文
 明日の放課後、私と麻雀を打ってくれませんか?
 清澄では何かと目立つかと思います

 なのでよろしければ鶴賀の麻雀部でいかがでしょう?
 既に鶴賀には話を付けてありますから


 須賀君、どうかお願いします


京太郎「和から、勝負……?」

アカギ「クク、なるほど。いい機会だ」

京太郎「もしかして、部長が何か言ったのかなー」ウーン

 もしくは本当に約束を守ってくれたとか
 それで代表権を賭けての戦いを挑んできた……?



アカギ「どうする、受けるのか?」
 
京太郎「……受けますよ、そりゃ」

 ここで逃げてちゃ何も変わらない
 脱童貞は置いておいて……まず普通に和とは話しておきたいし

アカギ「……勝算はあるのか?」

京太郎「それなんですけど、アカギさん」

アカギ「なんだ?」

京太郎「実は俺……部長やみんなにも、隠してることがあるんです」

 それは――いつか和と戦う日を夢見てきた少年の――
 
アカギ「隠してること?」

 とっておきの、切り札

京太郎「俺……和にだけは絶対に勝てるんです」ニッ


~~~


和「……必ず、勝ちます」ギュッ

 この時、原村和はまだ知らない
 今この瞬間にも――嫌悪し、憎悪にも似た想いを向ける少年こそが

 自分を闇から救い出す、一筋の光であるということを
 
~~~


京太郎「……ということなんですよ」

アカギ「クク……なるほど、それならお前の勝ちだ」ニヤリ

京太郎「だから、明日は俺一人でやります」

アカギ「好きにすればいい。お前の売られた喧嘩だ」フフ

京太郎「待ってろ和。オレは必ず、お前を倒す」

アカギ「……」

 しかし、京太郎もまた知らない
 自分の存在が――和にとって光であると同時に

京太郎「……クク」クスッ

 強すぎる光は、闇をも生み出すということを




 京太郎とアカギの運命の出会いから一日が経った
 鮮烈な記憶を残したほんの一瞬の勝負

 その熱は今や身を潜めていたが、確かに京太郎の中にくすぶり続けている

 一度火がつけば消えることのない、その火はやがて大きくなり
 止まることなく、京太郎の体を焼き尽くす


 そんな身を削る戦いの先にある頂き――


 そう遠くない未来
 彼はふと思い出すのだろう

 自らを導いた一人の神域の存在
 越えるべき一人の伝説の男のことを


京太郎「そうでしょう……アカギさん」


                  i               \ \
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  .:|  :i       :|   :i  .::|  l |   ', ',     }  \、
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⌒ヽ|  :|斗 77:/丁 ¨ /| :/=‐-、   〈/斗弋、Ⅵ:|  ハ  、 \
ノ`ヽ| i |/ //:/ :|  / :|/____ :\ ∨^ー彡ヘ|从 /  \ \
 Y´| |[ |.:/癶 ̄| :/ ̄|赱及 . : ::ヽ      丿 }/      `\
  Ⅵ |[ |    '^|/─‐|^¨´  . . : : :::.
\ \|[ |    .:/   /    . . . : : ::::.     }
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  . :|三\                      /
  . :|三三\                   / /
  i :|三三三> .      ー――   ´   \__
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Ⅵ[/ 三三三三三三三> .           | ========⌒ヽ       _ --======
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                 : : : . . .            |===/===========||==/
                  : : : . . .           |==/============Ⅳ/
                   : : : . . .          |=/=============Ⅳ



 闇を飲み込み、男は変わる――
https://www.youtube.com/watch?v=vx87wJvwJJ4




【早朝 清澄高校 廊下】


京太郎「……」

アカギ「クク……」

 ざわ……
   ざわ……

 こうして普通に登校し、歩いているだけでも京太郎は目立つ
 それは勿論いい意味ではなく悪い意味ではあったが

京太郎「……」スタスタ

 噂話とは尾ひれが付くものであり
 今や京太郎は麻雀部の部員に付きまとう変人であり、みんなの嫌われ者だと言われていた

 当然それは嘘であり、京太郎のクラスは全員そんなことはないと知っている
 だがそれをいくら訴えたところで、所詮は焼け石に水

 京太郎の噂はどこまでも広がり、今や県外のファンサイトですら叩かれる始末だ

 なんてことはない
 事実無根であろうがなんだろうが、他人の噂など面白ければ面白いほどいい

 京太郎のことを知らぬ者ほど、みんなこぞって悪人だと決め付ける
 女子5人の部活に一人男がいたのだ、下衆な妄想をしてしまうのも無理もない

 それは嫉妬か――羨望か
 たとえ手を出していなくても、五人の美少女の中に一人だけ男がいたという事実は変わらない

 世の男性が京太郎に向ける悪意は――とても計り知れるものではなかった
  
教師A「ん? 須賀か」

京太郎「……」ピタ

教師A「貴様……まだ学校に来れるとはな」ハァ

 その悪意は当然、こういった部分にも現れる
 今までは気にも止めなかったくせに、麻雀部が全国優勝した途端にこれだ

 顧問も付けなかった部に、あたかも学校側が力を注いできたかのように振る舞い
 京太郎のことを部の栄光に泥を塗る存在だと、勝手に決めつけて排除する

 醜いクソッタレな現実がそこにあった




教師A「お前も分からん奴だな、うん? なぁ、おい」

京太郎「……」

教師A「お前みたいなクズのせいで、学校が迷惑してるんだぞ」ガシッ

京太郎「……やめてください」

教師A「どうしてあいつらのまとわりつく? そんなによかったのか、あ?」

京太郎「俺とあいつらはそんな関係じゃありません」

教師A「ふん、どうだかな」グググッ

京太郎「……」

 京太郎は抵抗しない
 それは自分が反撃でもしてしまえば、事実だと認めてしまうようなものだから

 あの大切な仲間達に――
 みんなに迷惑はかけたくなかった

 だが――

教師A「なぁ、俺にも少し回してくれないか? そうすれば――」

京太郎「!」

 もし、標的が自分からアイツらになるというのなら
 話は別だ

教師A「特に原村はいい体してるだろう?」ククク

京太郎「……」ユラッ


 こんな奴、殺してもいい


アカギ「フフ……」


教師A「なんだその眼は? あぁ?」

京太郎「……死ねよ」ボソッ

 京太郎の瞳が怪しく光り――
 その腕が伸びようとした――その時だった

?「私の後輩に――!!」ダダダダッ!


 ダッダッダッダッ!


教師A「ん?」クルッ

久「何してんのよっ!!!!」ガンッ!!


 チーンッ


教師A「」タマグチャァァア

京太郎「!?」タマヒュンッ!

アカギ「……」コカンヲサッ


 メリメリメリッ!
 グチュァ……

 
教師A「お、おぉっ……おほぉ……」ピクピク



教師A「」ピクピク

 ナンカタオレテネー? シラネ
 オイ、タドコロブチコンデイイゾー  イキマスヨーイクイク

 アーッ!


久「ふぅ……。おはよう須賀君」ニッコリ

京太郎「ぶ、部長?」ビクビク

久「あら、どうしたの股間なんて抑えて?」

京太郎「い、いえ……」ガクガクブルブル

 強烈なトゥーキックが玉袋にめりこんでいた
 あれは確実にタマタマが破裂しているレベルですね、はい

京太郎「(部長だけは怒らせないようにしよう)」ブルブル

アカギ「……」トオイメ

久「探してたのよ。今日、和と打つんでしょ」

京太郎「え、ええ。そうですけど」

久「ごめんなさいね、私が上手く説得できなくて」

京太郎「あ、いえ。というか――いきなり代表の座をくれるとは思ってなくて」

 元々の約束は代表の座を考えてくれ、というものだ
 てっきり次は咲や和と打ってから――なんて状況を想定していたのだが

 こうもあっさり認めてもらえるなんて、どういうことだろう?

久「それは、アナタの実力を認めたからよ……」

京太郎「……」

 それが嘘なのだと京太郎はすぐに察した
 それほどまでに、今の久の言葉は軽く――心に響かない

 きっと彼女なりの罪滅ぼし――あるいは、


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久「……ねぇ、須賀君」

 ほんの少し、思いつめたような顔で久が呟く
 
京太郎「なんですか?」

久「私の事……恨んでる?」

京太郎「はい……?」

久「え?」キョトン

京太郎「恨む? 何をですか?」

久「……だって、その雑用とか……指導とか」

京太郎「……」

久「それに、今回の事だって守ってあげられなくて……」ジワッ

 バツの悪そうな顔でもじもじと久がうつむく
 彼女なりに思うところは多いようだ

 しかし、そんな態度が逆に気に入らない京太郎

京太郎「部長、俺をバカにしないでください」

久「!?」ビクッ

京太郎「俺が雑用を進んでやったのは弱かったからです」

 そう――
 みんなと同じ舞台に立つこともできず、見ているしか出来なかった

 練習相手になることも、その辛さを分かち合うこともできず
 静観することしか許されなかった

京太郎「無力だった――」



京太郎「今回のことだって、もし俺が全国に出場でもしていれば――違ったかもしれない」

久「須賀君、それは――」

京太郎「全部俺の蒔いた種です。だから、部長にとやかく言われる筋合いはありません」

久「……」ギュッ

京太郎「それに――俺、今でも感謝してますよ」ニッ

久「えっ……感謝?」

京太郎「俺を麻雀部に誘ってくれて、あんな面白いものに出会わせてくれた」

 もしも、これを知らずにいたら――俺はきっとつまらない人生を送っていただろう
 きっかけもつかめず、何も変わらず

 そして何よりも

アカギ「フフ……」

 この人に出会うこともなかった

京太郎「だから――もういいんです」ポン

久「須賀君……」ジワッ

京太郎「部長は役目を果たしてくれました。次は――俺が応える番です」ザッ

久「……うん」ポロポロ

京太郎「部長――俺、優勝しますから」

 和も、咲も、誰よりも強くなる
 例えそれで俺が俺でなくなろうとも、きっと俺は――もう引き返せない

久「ええ……待ってる」

京太郎「……」

 きっと、部長も分かってる
 ここから先は――俺がもう戻ってこられないこと

 だから――

京太郎「だから部長――もし、俺が和に勝ったら」

  
 
 きっとこれが最後の――



京太郎「その黒タイツ、一度ビリビリに引き裂いていいですか?」ニカッ


               . . -――..、--- .、
                . : ´: : : : :_:_:/: : \: : : \
          /: :/: : / /:/リi:l: i\: : : :\

         /: :/: : /   i// 从ハ: :\: : : :.
        /〃:./: : :./ノ    ̄ ‐‐- ∨: :.i: : : ::.
.        // l/: : : /´     ‐‐ 、,__ ∨:.|: l: : ::.
      // /: : : :/ ニ、      ィ斥心ヽi: :|:リ: : : :
        i/  .: : ://ィ斥心     V沙゚ ノi: :l/ : : : |
        l   |: : |/从 V沙  ,    ,,,   l〃: : : : :|
        i   |: : i:∧  ,,,          /: : : : / : |
        |: : |: ∧           〈: : : : /: : :;
         八: :i/: ∧      ´`       〉:l: :.i: : :/
            ヾi/:/i:介: . ..,        .イi: :l: l:|: :/
          ∨ノ: :i: :l:_:〕 --   i:.|:l:/:/:.|:/

          〃: : :l:.ノ.:.:i        ト〃:/: ノ:{
          -=´i/:/:./ニニニ\     i/: /:./: : :ヽ
      // ̄ ノ从ハニニニニニ\__i从i:/`ヽ: :l:.i=-、

      ///\   {::\二二二\   |'二ニi从リ二/、
.     i/{  i \ \:::\二二二\ |二二二ニ/} ∧
.     l/|  八  \ \:::`<ニニニニ\|二二>'":://  i

久「……ばか」

 アナタの後輩として出来る、最後の恩返しなんだ   
 


 スタスタスタ 

アカギ「……よかったのか?」

京太郎「何がですか?」

アカギ「フフ……」

 意味深な顔で後ろ付いてくるアカギ
 どうやら色々と思うところがあるらしい

京太郎「別に、部長とは何もありませんし」プイッ

アカギ「……そうかい」ニヤ

京太郎「そりゃまぁ、おかずにはしたことありますけどね」

 数百回くらい
 主にロッカープレイ

 せまいところが(ry

アカギ「ほー」

京太郎「うぐぐ」

 ええい、なんなんだ!
 アカギさんは俺に何を言いたいんだ!

京太郎「というか、学校まで付いてこないでくださいよ!」

アカギ「クク……そんなのは俺の勝手だ」

京太郎「うぐぐ、学校は部外者立ち入り禁止なんですから」

 勿論、幽霊も例外ではない

 多分だけど……

アカギ「へぇー、そいつは初耳だ」

京太郎「……もういいです」ハァ

 相変わらずアカギさんは子供なんだが大人なんだかよく分からないな
 ていうか、あれ?

 そういやアカギさんっていくつなんだ?

京太郎「あの、アカギさんって何歳で死んだんですか?」

アカギ「……さあな」

京太郎「あ、そういえば記憶が無いんでしたっけ」

アカギ「ああ、何も覚えてない」

 つまり、20歳だったり100歳だったりもありえるのか?
 あれだけの伝説を残してるくらいだし、結構な歳はいってそうだが

京太郎「(一度、アカギさんのこと詳しく調べた方がいいかな……)」

 だけど図書室とかにありそうもないし
 裏で伝説を残した人だから表立っての資料は残っていなそうだ

 やはりそういう筋の人を尋ねるのが一番だろう

京太郎「そうなると……やっぱり」


 【あの人】を――頼ってみるか




【一方その頃 東京 某所】

 ヤクザ同士の麻雀賭博
 そんなものは、いつの時代だって行われている

 例え規制が強くなろうと、なんであろうと
 それが組の面子を保つものである限り――この先も残り続けるだろう

 そして――そんなヤクザ同士のゴタゴタの中で
 今、一際異色を放つ代打ちがいた

黒服「お嬢、お見事でした」

 ざわ……
   ざわ……

??「……存外つまらないな。裏のプロというのも」

八木「……」

 男の名は代打ちの八木圭次
 遥か以前は相当な打ち手として名を馳せたその男も――今や死にかけのジジイ

 若い時代に飲み込まれるのも、無理のない話であった

黒服「いえ、この程度の代打ちはまだまだ三下でして」

??「そうか。ならいい」

 元々は興味本位で付いていった組同士の代打ち麻雀
 そこで見た、一人の男

 優男な風貌からは想像も出来ない、悪魔じみた闘牌
 そこいらのプロ雀士よりも遥かに高みにいる、その実力

??「……」

 心が震えた

 あれほどに強い打ち手がいるということ
 麻雀にはまだまだ先があるということを知った



 今の自分ではとても敵いそうにないが――いずれ機会があれば戦いたい
 そのためにも、今は実力を付けるのみ

??「そういえば、あの男はどれくらいの強さなんだ?」

黒服「井川ひろゆきのことでしょうか? でしたら――最上位より、少し落ちるくらいかと」

??「……あれでか」

黒服「とは言っても、今では引退間際の天さんを除けば上から数えた方が早いのですが」

??「そうか。あれよりも上がいるのか――」

 恐るべき強さを有していた井川ひろゆき
 しかし、それすらをも上回るという打ち手

 そして、終局後に井川ひろゆきが言った言葉――
 今でもハッキリと覚えている


~~~「まだまだ赤木さんには届かないな……」~~~


??「ふふっ、面白い」

黒服「は……?」

??「次の相手を用意しろ。なるべく強いのがいい」

黒服「か、かしこまりました!」

??「赤木しげる。【神域】と呼ばれた男……どれほどなのか」


 少女はまだ知らない
 いずれ、自らの前に立ちふさがる少年こそが――


 その【神域】の男であるということに 




【さらに一方その頃 鶴賀学園】


睦月「……」サッサッ

鏡「」キラーン

睦月「……」カミイジリイジリ

鏡「」キラキラーン

睦月「に、にこっ」ニカー

鏡「」ブッブー

睦月「」ガーン

 ガクッ

桃子「むっちゃん先輩、何してるんすか?」

佳織「えっと……今日、部室を清澄の人に貸すらしくて」

桃子「そういえば、清澄のおっぱいさんが来るとかなんとか」

佳織「うん。それでその、一緒に清澄の、ほら……男の人がいたでしょ?」

桃子「男? あぁ、あの荷物持ちしてた奴っすね」

佳織「あのね、これは内緒なんだけど……」ヒソヒソ

桃子「ええええ!? むっちゃん先輩がアイツに!?」ガビーン

 ざわ……
   ざわ……

佳織「ああ! ダメダメ!」アセアセ

桃子「ご、ごめんなさいっす」」シュン


睦月「う、うむ。ひ、久しぶり、だ、だね」グギギギッ

鏡「」ブブー

睦「Orz」ズゥーン


桃子「一体何があったんすか?」ヒソヒソ

佳織「詳しいことはよく分からないの……」ヒソヒソ



睦月「す、須賀君……きょ、今日もいいて、天気で」グギギギ

鏡「」ブブー


睦月「」ショボーン


 
桃子「重症っすね」

佳織「重症だね」



桃子「でも、可愛いっすよ」ヒソヒソ

佳織「うん。恋する乙女だよね」ヒソヒソ


睦月「……帰る」フラフラ


桃子「!?」

佳織「ええっ!?」


睦月「こんな顔じゃ須賀君に会えないから、帰るよ」スタスタ

桃子「え、うぇええ!?」

佳織「ど、どうしたの急に!?」アセアセ

睦月「もう死のう」

桃子「どういう思考回路っすか!?」

 ギャーギャー

 ガチャッ

ゆみ「おいおい、何を騒いでるんだ?」

智美「廊下まで声が漏れてたぞー」ワハハ

桃子「先輩! 元部長さん!」

佳織「どうしてここに?」

ゆみ「今日は清澄に立会人を頼まれてな」

智美「それで部室を掃除しておこうと思って来たわけだぞ」ワハハ

 モトブチョウダー
 ユミセンパイカッコイイ
 ワハハセンパイマジワハハ

睦月「嫌われる、もう終わりだ……おしまいだぁ」ガクガクブルブル

ゆみ「で、これはなんだ?」

智美「見事なナーバスぶりだなー」ドンビキ

桃子「ジツハカクカクシカジカスカトロモモなんすよ」

ゆみ「あの、須賀とかいう少年に?」

智美「おー、めでたい!」パチパチ

佳織「ま、まだ付き合ってるわけじゃないよ」アセアセ


睦月「ソウテダヨワタシガスガクントツキアエルワケナイヨウムモウシノウ」ブツブツブツブツ


佳織「あぁぁ! ち、違うのぉ!」アセアセ

ゆみ「重症だな」

智美「重症だぞ」

桃子「重症っすね」

佳織「重症だよぉ!」


睦月「……」ムック



睦月「死なせてください!!」ジタバタ

智美「や、やめるんだ! 早まるんじゃないぞー!」ガシッ

佳織「いやー!!」

 ギャーギャー! ワイワイ!


桃子「そういえば、清澄はなんの用なんすか?」

ゆみ「ああ、なんでも原村と須賀が【二人きり】で勝負したいらしくてな」


睦月「……」ピクッ


桃子「え? 清澄じゃダメなんすか?」

ゆみ「事情は分からないが、なんでも【人目につかない場所】がいいらしくてな」


睦月「……」ピクピクッ


桃子「それでここってわけっすね」

ゆみ「ああ。私と蒲原でメンツを揃えて、サシ馬対決でもする気だろう」


睦月「サシ馬……? 挿す……? 馬のように……?」ガクガク


 モワモワァン

~~妄想~~


京太郎「そら、和! どうだ!!」パァニパァニ!

和「ひひぃぃぃん!?」ガクガク

京太郎「馬並みだっ……!! 俺のはっ……馬並みだろうっ……!!」パァニパァニ!

和「ひぐぅぅぅぅ!?」ガクガクプシャァァア!!


ゆみ「いいぞー!」

智美「やれやれー!」ワハハ


~~~~


睦月「……死にます」フラフラ

ゆみ「どうしてそうなる!?」ガーン



 ガラガラッ!

睦月「飛び降りる! 死ぬしか、道はない! 無いっ!」グググッ

智美「だからやめっ、やめろぉー!!」ガシッ

佳織「死んでもいいことないよぉ!」グググッ

睦月「う、うぅっ……!!」ポロポロッ

 その時、奇妙な偶然が起こった
 窓を開けて身を乗り出し、涙を流す睦月

 暴れたことにより飛び散った涙のひとしずくが……
 静かに遥か下へと吸い込まれていくその最中


   ピチョン


 偶然にも、下を歩いていた少年に当たってしまった

睦月「えっ……?」

「雨か……?」

 顔を上げる
 その少年の視線が上へ、上へと上がって行き――やがて


    __,.ィ ̄ ̄`ヽ/ヽ__

      > ´ ̄  /   `   `、  、
、 -  ´    /   '     } ヽ ヽ\  \
 `  ̄ >'  /   ,: |    ∧/! |   } ヽ  ヽ
   /,ィ  / ' / /|   _/,.ム斗}-/  ハ   :.
  {/.'   ,| ,.|-}/-{ | / ,ィチ斧ミ }/ }  |    .
  /  イ/{ : ! ィ斧从}/   Vzソ ノ /イ ,:
<__  ´// 从{ Vソ /         / イ- 、  |
     {'{  { ,    '           /' ⌒ }  |
      从Ⅵ              /.: ノ  |
       叭   v_ ̄ヽ      ,rー'   从
         、           イj   / /
            :.          < |'  /}/
            、__   ´    } イ从/
               |        |/
              「 ̄|     「 ̄ ̄ ̄ ̄}
              |//l|     |//////// 、
        ,. <// ∧      |//////////> 、


京太郎「津山……さん?」

睦月「あっ……」

 その視線は激突した

睦月「あ、あぁっ……//」カァァァア

京太郎「……? (何してるんだろ)」

 事情がよく分からない京太郎ではあったが、
 視線があった以上挨拶しないわけにもいかない

京太郎「……」ニコッ

睦月「」ボムッ!

智美「!?」ビクッ

睦月「あ、うぁ……あぁ」バタンッ


一同「えええええ!?」




 ムッキー! ウワァァアシンダァァア!!
 ダレカァー! ビエェェン!


京太郎「騒がしいな……」

 鶴賀はとても賑やかな場所らしい
 京太郎の中での鶴賀のイメージがちょこっとだけずれていく

アカギ「フフ……そんなことより京太郎。相手はお待ちかねのようだ」

京太郎「……!!」

 アカギの視線の先
 そこで待ち受けるのは――


            ,. . . ---. . . .,

        _,,,,.  '.: : : : : : : : : : : : :`゙'. ,   _
       i/              ._,./::iヽ,
     i'"~::/ . .; .i: : ; : : : : : : : : : : : ィ´::::`v":::ィ
     i: :./: :.i : l: :l: : il: : : : i: : :.li: : ; i: ヽ::::;;:::i::i:::::|
    冫/:./i: : li: i: : i:.|: : : |: : :|: |: :|i: i: :冫:::::/iヽ,l
    !,::i: :i:.|: : |:| |: :.i|:.|: : :|i: :.|: :.|: |:|: |; iゝイ:::i;::::\
    ./|:.|i:.|: : |:i__l_l_:.|: : ! l l:_!_i:_:l´l ||: リ::;,!l__/
    く;;;|:|'|:.l: :.||'ャii;;;;;;;i \! l/ヤi;;;;;;i;'ヤl|_,.! '´:|: :l: |
     l! l!,\l !:ヽ辷ソ    ヽ==ソ .! |: : :.|: :|: |

      /|: |: :|i    、       ;ィ'| : : :|i: :i: |
       / |: |: :|:ゝ            /" | : :.|:|: :|:.|
.     / /| |: :|: ||`ヽ 、  ̄    イヾ  |  : :|i |: :|:|
    / ./:|:l: : |: || |  _,`,iー "´ ィ冫、.|i  : |:| |: :.i';
    ;´ /:.i|i : :l_,..-‐'''´:/:イ   /:::::::::::|:| . i|.,| |: : ハ
   ; /: :i:|: : :|:::::::::::::::iニ-ー,/::::::::::::::::|:| . :.l|;´ヽ,: : ハ

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   ,': : :/.l: : |i.\;;:`ヽl /;;;.:-::':;´‐''~/;': : //   :|i: :l: : i
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    l!i :i; lil! l  `゙''ー;-'‐;:-‐ ''´  //: : .;'`;.|.    |::|i:|: .i |
   ', / l:!l:l l     トーィ;"    ;'/i:.i .i   i|     |::||:l: | l!
    ;' li l:l i    / .i ,!    ;' l:li :l  ';  i   |::|: i:| !

和「よく来てくれましたね」

京太郎「和――」

和「須賀君、私は絶対に負けません」

京太郎「……」

和「私が勝って、咲さんと大会に出ます」キッ

 それは――正面から京太郎をねじ伏せるという和の決意
 だが、それは大きな勘違い

京太郎「なぁ、和。一ついいか?」

アカギ「クク――」

和「……?」

京太郎「俺が負けたら、出場権をお前に返すのはいいんだけどさ」

和「はい、そうして貰えるなら助かります」

京太郎「でもよ、これっておかしくないか?」

和「……はい?」キョトン

 まるで分からない、という和の表情
 それに対し京太郎は――至って冷静な顔で告げる

京太郎「お前が負けたらどうするんだ?」

和「えっ……?」



 和にはまるで意味が分からなかった
 自分が負けたら何を差し出すか?

 自分が負けたら?

 何を言っているのだろう?

和「あの、言葉の意味がよく……」

京太郎「俺は部長達に勝って枠を手に入れた、負けたらマネージャーになるって条件でな」

和「それが……?」

京太郎「俺はこの枠に命を賭けて、必死にしがみついて手に入れたんだ」

和「……」

京太郎「だから、メリットの無い戦いにこの枠を賭けるなんてするわけないだろう?」

和「!!」

 ここまで来て、ようやく和は理解した
 つまり京太郎は和にも賭けの商品を差し出せと言っているのだ

和「……」

 正直、和は全くそんなことを考えていなかった
 なぜなら大会の枠というのは強い二人が選ばれるもの

 戦って勝った方が手に入れる
 それが当たり前だと思っていたからだ

京太郎「つまり、だ。お前が俺を勝負に乗せるだけの何かを差し出すってんなら――打つぜ」

和「……見損ないました」

 これでも和は京太郎を他の男子よりは評価しているつもりだった
 ほんの僅かではあるが、それは並の男子からすればエベレストにも勝るものである

 それが、まるで紙くずのように吹き飛んでいくのが分かる

和「アナタはもっと、真摯な人だと思っていました」

京太郎「なんだっていいさ。俺の考えは変わらない」

和「くっ……」

 だが、いくら和が京太郎を嫌おうと――見下そうと
 枠を握っているのは京太郎である

 つまり――京太郎が受けなければ勝負自体が成立しないのだ

和「……ハッキリ言えばいいんじゃないですか?」

京太郎「ん? なんだ?」

和「須賀君の……望みを」

 正直、これ以上失望したくなかったというのもある
 須賀京太郎が他の低俗な男と同じだと、なぜか認めたくなかった

 しかし、その期待は裏切られることになる

京太郎「そうだな――それじゃあ」

和「……」

京太郎「胸、ひとつ」

和「……えっ?」

京太郎「和が胸をひとつ賭けるなら受けてもいい」


和「む、胸……ですか?」ビクッ

京太郎「ああ、そうだ。右でも左でも好きな方でいい」

和「そんな――胸を、どうするんですか?」

京太郎「所有権を貰う。触ったり、舐めたり、嗅いだり……」ウヘヘ

和「ひっ!?」

京太郎「枕にしたり――!?」チラッ

アカギ「……」
 
京太郎「!?」


 その時のアカギさんの表情は印象的で
 今でもよく覚えている

 子供が興味の無いおもちを見つめる目


┏━━━━┓ lll   /.lll / l iii ii ii /|iii iilヽ  ll llll   ┏━━━┓

┃だ で あ┃  lll / ! i´ liii/| iiii/  .|lll | ヽ lll   ll    ┃生 オ..┃
┃ろ き ん┃ lll ./,,,,,,,| i  |ii/ |iii./ _ ,.,,|ii |,,,,,,,,,\ll   ll  ┃涯 レ. ┃
┃う  な .な┃  | /   .l'"".|/ .|ii/'"`` ヽ|     |   lll  ┃ ・ に .┃
┃か い 目┃ l i-====ヽ  レ ====== -|ll|⌒ ヽ .┃ ・ は .┃
┃ら    .は┃ ヽl | ,. (。0)// ;;;   (。0)    |ll|⌒| | ┃ ・  .  ┃
┃・       .┃   | `¨゙゙"//  ;;;;;`゙゙'''' ''' '' ゙゙ |ll|  .| | ┃      ┃
┃・       .┃   .|   //   ::::::::::      .|ll|⌒| / ┃      ┃
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               ヽ  ;;;;;;;;;;,     /;;;   .| ll /
               .ヽ        /;;;;;;     |  /\
                \      /;;;;;;      |iii/  \
                _,,,入   /;;;;;;;       | /   \
             ,,,.. '" /  ヽ、/|;;;;;;        |/     \
            ''"   /      |         /
                /       |        /
               /       |       /


京太郎「(って、諦めるかー!!)」ギラギラ

和「……っ」ブルブル

 燃え上がる京太郎とは対照的に、和は苦しんでいた
 ただでさえ京太郎に裏切られたことに続き……この展開である



和「何を……馬鹿な」

京太郎「……」

和「そんな条件、受けれるわけないじゃないですか!」

京太郎「なぜ……?」

和「なぜも何もありません! 話にもなりません!」

 必死に否定する和
 その姿は異様なまでに怯えにまみれている

京太郎「なんだ……自信が無いのか?」

和「自信は……あります」

 悩む和
 自分が負けるとは思えない

 だが、もし――もし負けたらどうなるのだろう?

和「しかしどんなに低い確率でも、ゼロではありません」

アカギ「……」

和「たとえ1%でも裏を引く可能性がある以上、胸なんて取り返しのつかないもの……」

京太郎「……」

和「勘違いしないでください。これは負けることや胸を失うことを恐れているわけではないんです」

京太郎「じゃあなんだ?」

和「こんなの馬鹿馬鹿しい賭けです。確率が低いとは言っても――」

京太郎「……和」

和「単なる大会で、命や体を張れますか? 【無意味な死】はごめんです」

京太郎「無意味な死?」

アカギ「クク……なるほど、凡夫だ」

京太郎「その【無意味な死】ってのが――まさにギャンブルじゃないのか?」

和「えっ……?」

京太郎「俺はある人のお陰で、最近そう考えるようになったけど……違うのかな?」



 京太郎の瞳に迷いは無い
 本気でそう思っているのだ

 隣にいるその男の影響か――あるいは元から眠っていた本質か

和「私とは考えが違うようですね、須賀君と私とは」

京太郎「いや、これは考えの違いじゃない。覚悟の問題だよ」

和「!?」

京太郎「ようするにお前はまだ勝負の覚悟を決めていないんだ」

和「なん……」ワナワナ

京太郎「だから、麻雀を確率なんかで計ろうとする。見当違いも甚だしいぜ」

和「っ!!」ギリッ

京太郎「背の立つところまでしか海に入ってないのに、海を知ったと言ってるようなもんじゃないか?」ニヤリ

アカギ「ハハハ、言うな京太郎」

和「須賀君っ……!!」ギロッ

 デジタル麻雀に対する罵倒
 これは――和本人への罵倒よりも遥かに効果を与える

京太郎「さぁ、どうする?」

和「わ、私は――」

京太郎「まさか、ここまで言われて引き下がるのか?」

 確かにこのままでは悔しい
 勝負に勝って、目の前の男に敗北を与えたいという衝動が沸き上がってくる

和「……」

 この男に胸を奪われて、好き勝手にされて……
 そんなこと、考えただけでおぞましい

和「(でも……)」ブルブル

 負けたくない
 男には――特に、こんなことを言う男にだけは

 だから――

和「分かり、ました……」

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和「その勝負、受けます!!」

京太郎「Good!!」

アカギ「なぁ、京太郎。やっぱり命を張らねぇか?」

京太郎「ダメです。これこそがベスト」キリッ

アカギ「……そうか」



和「胸が欲しいだなんて……変態ですね」

京太郎「そうか? 俺らしいと思うけど」

和「……最低っ」ボソッ

京太郎「あっはっはっ、そう怒るなって」

アカギ「……?」


和「私は、負けません――絶対」ブツブツブツ

アカギ「……」

和「いやらしい男なんかに、絶対、男には――」ギリッ


アカギ「……なるほどな」

 この時、アカギだけは京太郎の思惑に気づく
 
京太郎「……(悪いな、和。こうでも言わないと――)」グッ

 その恐るべく思惑は――
 
アカギ「(クク……お優しいこった)」ニヤリ

 きっと、京太郎に残された最後の良心

京太郎「じゃあ、行こうぜ和」

和「……」コクッ

 この時の和はまだ知らない
 胸を賭けたことの本当の意味――

 京太郎が自分をどんな目で見ていたのか

和「……必ず、勝ちます」

 そして、須賀京太郎に対する考えがこの日を境に――


 ,  <//////{/{{`∧         、              /  }}//////> 、
´//////////// l| ,∧             _    ∧  ||///////////>
/////////////从 {   、         _  ィ -vノ    ' } /'/////////////
/////////////{/∧   l\   ー=≦__ ,   ´   /' / イ∧/////////////
/////////////|//∧  :. \               / / /'////}/////////////


京太郎「――さぁ、楽しい勝負の始まりだ」

 
 思いもよらぬ方向へ、変化していくことを



 あっそうだ(唐突)
 これから飯食うのでここまでだゾ

 急ぎでも無いですし、続きはもうちっとだけお待ちください
 まぁ、わざわざ修正を読んでくれてる人がいるかどうかも疑問ですけどね

乙です!まってました!
これからも期待してます!
http://i.imgur.com/IHbARgU.jpg

スカトロモモでググったら後悔した、訴訟


>>205
 なんという
 なんという僥倖っ……!
 
 こんなもの見せられてしまったら、和編を一気に投下するしかないですお


>>206
 だが私は謝らない



【数週間前 清澄高校】


和「……」スタスタ

 その頃、原村和は喜びに満ちた日々を送っていた
 というのも、所属する部活が全国大会で団体戦優勝

 自分は天候もせずに済み、この長野の地に留まることが出来たからである

和「ふふっ……」

 親友の片岡優希、そして大切な仲間である宮永咲
 頼りになる先輩である竹井久、染谷まこ

 それと、ほんの少しだけ仲のいい


                ____  _
              /     ' Y  __>
             /           ゙、  \
               /        |    |     `,=-
           /   i _l,-|‐ | | -ト.|_|  ヾ、
             |/ __ ゙、 ハ,ハ|゙、 |/|ハ∧| / ゙、
      ___, -‐::´| /ヘ ゙、,|≡≡ Y ≡NV ___ ゙、

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    // ̄ ̄\::::::::::゙、ィ-ャ  r ----┐ ,ノ
   //|::::::/::::::::::||::::::::::/\\_`ー-‐',...イ   <のどかー
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 ――ちょっとだけ気になる男の子

和「……いえ、ないですね」

 確かに優しさもあるし、優希が懐くだけのことはある
 だけど、正直よく分からない

 恋愛という気持ちを体感したことがない上に――そもそもそんなに熱を上げているわけでもない

 あくまで他の男子よりもほんの少しだけ上に位置している
 ただそれだけのことだ

和「あっ……」

 などと色々と思案していたが、大事なことを忘れていた

 次の授業は移動授業
 日直である自分が教材を運ばないといけないのだ

和「ゆーきは……先に行ってしまいましたね」

 待たせてしまうが、こればかりは仕方ない
 踵を返し、教室へと引き返す和

 それが、悲しい出来事の始まりとなった




 ガヤガヤ

 移動教室というものは不思議なもので
 大体が移動する時に仲のいいグループでかたまり、女子はさっさと移動
 男子は時間ギリギリまで教室で遊んだり、喋っていたりするものだ

 この日もそれは例外ではなく、和をはじめとした女子はみな先に移動を終え
 今教室に残っているのは一部の不良男子のみであった

和「(……少し、入りづらいですね)」

 と、教室の前まで戻ってきた和であったが
 中に男子しかいない状況はいささか、躊躇する

和「(まぁ、気にすることもないでしょう)」

 一応はクラスメイトである
 とって食われるわけでもないと言い聞かせ、扉に手をかけた――

男子A「やっぱり原村の胸は最高だよなぁー」グヘヘ


和「っ!?」ピタッ


 扉越しに聞こえた言葉
 自分の胸が最高?

 それは一体――

男子B「だよなぁ、顔も可愛いけどやっぱりあの胸だな!」

男子C「あぁ~、一度でいいから揉みしだきてぇよ~」

 ゲラゲラゲラゲラ  イヒヒヒヒ
 フヒヒヒヒ   


和「え……? 何、を……?」

 困惑
 今まで自分が聞いたこともないような下卑た言葉が、和を混乱させる

男子A「俺なんか昨日は原村の大会の映像見てさー抜いちまったよ」

男子C「あー、原村とヤれたら気持ちいいだろうなー」

男子B「犯したくなっちゃうよなー隣で見てると」ニタァ


和「!?」ゾワッ




 多少の自覚はあった
 優希がネタにしたり、からかう時によく言う言葉

 だが、実際にそうだなんて――思ってもいなかった

男子A「私服もアレだぜ? 誘ってるに違いねーよ」ニヤ

 ワカルワカルー  ショウジキガードアマスギ

男子D「なる~、やっぱ淫乱ピンクってか」ギャハハハ

男子B「じゃけん今度、輪姦しましょうね~」


 ガヤガヤ  ザワザワ


和「あ、あぁ……」ブルブル

 むしろ、今まで何も気付かなかった方がおかしいのだ
 その余りある美貌、常人離れしたスタイル

 学校中の男子が一度は自分をそういう目で見ているのは当然のこと

和「い、いや……」ガクガク

 普段は優しく自分にプリントを配ってくれた男子も
 委員会で一緒に仕事を頑張ったあの人も

 大会優勝を祝ってくれた男子のみんなが――

男子ABC「「「やっぱり原村はいいオカズだわ」」」

 
 自分のことを、性欲の目でしかみていなかったという現実


和「っ!!」ダダダッ

 それからは無我夢中で何も覚えていない
 気が付けばいつの間にか保健室で寝ていて

和「(あれは夢……悪い夢なんです)」フラフラ

 教室に戻ると、みんな暖かく迎えてくれた

 しかし――

男子A「原村、大丈夫だったか?」ニコッ

男子B「気をつけろよー」ニコニコ

男子C「”大事なカラダ”なんだからさー」アハハ

 アハハハハ! フフフフ!

 クスクス  ゲラゲラ

和「(やめて、ください……)」

 和の目には、もう男子は正常には映らなかった
 全てのシセン――声がいやらしい意味に聞こえる

 自分のことをそういう目で見ているようにしか感じられない


和「(もうっ……いや……!!)」ブルブル


 その日から、原村和は変わった
 男に恐怖する、一人の少女として

 あるいは――




   第四話

~~シセン~~


【鶴賀学園 麻雀部部室】


ゆみ「……では、改めて自己紹介させてもらおうか」

 鶴賀学園麻雀部

 つい最近まではたったの5人しかいなかったこの小さな部も、
 今では10人を越えるメンバーがいる

 しかし、今日に限ってはその数は少なく
 残っているのは一世代前のレギュラーメンバーだけである

ゆみ「元鶴賀麻雀部員の加治木ゆみだ」

智美「元部長の蒲原智美だぞー」ワハハ

 今や引退した身であるが、相応の実力を備えた二人だ
 そして――今回の目玉とも言えるのは次の二人である

和「清澄高校麻雀部一年、原村和です」

 元インターミドルチャンプ、原村和
 
京太郎「清澄高校元麻雀部一年、須賀京太郎です」

 元麻雀部員である須賀京太郎

ゆみ「今回の闘牌はこの四人で行う。そして、立ち会いを見届けるのが――」

 ゆみの視線の先
 そこにいるのは三人の少女

佳織「せ、妹尾佳織です」

桃子「東横桃子っす」

睦月「う、うーむ……」

ゆみ「一人気絶しているが、気にしないでくれ」ハァ

京太郎「……??」

ゆみ「とにかく、私と蒲原が入り、原村、須賀の両名の対決ということで問題ないか?」

和「……ありません」

京太郎「ええ、いいっすよ」




 そう、今日は須賀京太郎と原村和の決闘の日である
 お互いに譲ることのできないものを賭けた、真剣勝負

 京太郎は大会の出場権を
 和は自身の体の一部を

 それぞれ、魂と同価値の大切なもの

ゆみ「ルールはプロアマ大会仕様、半荘一回での結果勝負とする」

京太郎「問題ないです」

智美「不正が発覚した場合はその場で敗北。まぁ、これは問題無いと思うが」ワハハ

和「いえ、どうでしょうか」ジッ

 ざわ……
  ざわ……

京太郎「それはどういう意味だ?」

和「……聞いていますよ、須賀君があの藤田プロに勝ったということ」

ゆみ「何……?」バッ

智美「それは本当か?」ワハハ

京太郎「さぁ、どうでしょう?」

 こればかりは正直に答えるわけにはいかない
 何せ、勝てたのは全て……

アカギ「フフ……」

 この隣にいる男の力によるものなのだから

桃子「その噂、確かに聞いたっす」

佳織「う、うん。クラスで凄い噂になってた」

睦月「うむ、うむむ……」ムニャムニャ

和「しかも、奇想天外な方法で勝利したとも伺っています」

京太郎「(そりゃまぁ、ドラが8も乗ったしな)」ポリポリ

 イカサマもなにも、オカルトの力も利用したものだ
 最も、和には理解できないだろうが

和「言っておきますが、私にイカサマは通用しません」

京太郎「……へぇ?」

和「やりたければどうぞ。それでも私は負けませんので」

 それは、和の麻雀に対する絶対の自信の表れ
 不正などには負けない、そう和は言い切ったのだ



京太郎「なぁ……和」

和「なんでしょうか?」

京太郎「俺は、麻雀ってのは奥が深いもんだと思ってる」

ゆみ「……?」

京太郎「確立とか、運とか、オカルトじみた力とか……色んな要素がごちゃまぜ」

和「……」

 だからこそ面白い
 だからこそ、色んな戦い方がある

和「それがどうかしましたか?」

京太郎「中でも、和は理に適った打ち方を好む。確立と計算によるデジタルな打ち方だ」

和「ええ……そうですね」

京太郎「そんなお前からしたら、俺は運だとかオカルトじみた部分に少し頼ってる――不安定な打ち手に見えるかもしれない」

和「だから、なんだと言うんですか?」

京太郎「否定はしないよ。事実だし、俺はこのスタイルを気に入ってる」

 俺は頭もよくないし、特別な力も無い
 でも、自分は勝てると信じたい

 自分の力を信じて、相手を打ち勝てると思っている

京太郎「だから、お前が俺を弱いと決めつけて、俺の打ち方は否定するというのなら――」

 それは最大の侮辱
 勝負に命を賭けようとする男の……触れてはいけない琴線

京太郎「俺はお前のやり方で、お前を倒す」ニカッ

和「!?」ガタッ

京太郎「今日の俺は”理”でお前を倒してみせる」

 京太郎からの和への挑発
 勿論、こんなことを言われては和も引き下がっているわけにはいかない

和「……分かりました。では、疑うのはもうやめましょう」

 軽率な自分の言葉を戒め。新たに決意を固める和
 目の前の男は――全身全霊を持って倒す


和「私も、私の”理”を持ってアナタを倒します」


 こうして原村和、須賀京太郎による麻雀勝負は始まる

 交差する”理”と”理”
 勝つのは計算による”理”か、それとも――


京太郎「さぁ、サイを振ろう」


 須賀京太郎の”理”か



アカギ「……」タバコスパー


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             /: : :.∧: : /厶イ__;      /  ハ
            /: : / ̄ ̄ ̄}l__}l:_:')    /}  : : :.
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_ .. -‐. : : : : : : : : : : : /   ______\;;>ヽ/.: :八/} : : |: :\

: : : : : : : : : : : /: : : : :/   ´      }l   l \_ソ: :   / : : : |: : : : :\
: : : : : : : : : : /: : : : :/    ー―― …ー 、_ソ: : :   / : : : : |: : : : : : :\

: : : : : : : : : /: : : : :/         _. - ―┘: :   /.: : : : :|: : : : : : : :
: : : : : : : : /: : : :_:/         Y´:ヽ/: : : :    /: : : : : : :|: : : : : : : : :
: : : : : : : /: /: |        . : / : : : : : :      / : : : : : : |: : : : : : : :
ヽ:. : : _/: : :|.     . : : :/         /: : : : : : : : :|: : : : : : : : :



 イクゾノドカッ!  ドウゾ
 ワハハ、マケナイゾー  サテ、ドウナルカ

 ガンバルッスヨー!  マダオキナイノカナ?   ウム……

 
 ワイワイ  キャッキャウフフ


アカギ「……」


                >'7´ ̄ 7 <
              Y´         \
              ノ            .
               イ ハj  /`メ、/ ハ. !
              イ 乂ル' rァ<!/_ュル ハj
                } /    ⌒ |´/ル'
              ル'へ   __ 」/    ……
            /人_ \  `/
          /::/ ::: :::::::} />く _
        . ' :: :::: ::/::⌒:::\ ::: :::::/\          f「!
          / ::: :::: :::::::::::::::´ ̄ ̄>く :: :: \.      ∩_ノ メ!=''
       / ::: ::: ::: ::::::::::::::::::::::/   ` <::ノ\    ノ   ノ
        / :::::::: :: ::::::::::::::::::::::/ 、     \x ´ ̄ `  /
.     / :::::::::: :::::::::::\: :::: :i  \      }    ,.<
.     .' ::::::::::::::::::::::::::::: :\: :! ;:::::/> .     ,.< /∧
     i ::::::::::: ::::::::::::::::::::::::: \!:::/ / . :>--<\ /⌒ 〉 ___
     } ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::// . :: : : : : : : :.∨/   /´ : : : : \
    ノ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: / : : : : : : : : : : : : :V   /: : : : : : : : :.\
     } :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ : : : : : :V : : : : : : : : : .  / : : : : : : : : : : : :\
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     { ::::::::::::::::::::::::::: / : : : : : : : :/:∧ : : : : : : : ': ∧: : : : :/ \ : : : : : : : :.\
    ノ :::::::::::::::::::::: / : : : : : : : : :/://∧ : : : : : : : ' :∧: /     \ : : : : : : : :.\
   〈 ::::::::::::::::::::/ : : : : : : : : : :/ ///: :.\ : : : : : : ' :∧       \ : : : : : : : : 7 、____ノ⌒ヽ

     } ::::::::::: / : : : : : : : : : : :/ :/ ´: : : : :: X : : : : : ': : \          `ヽ: : : : : :/: :/ⅤⅤハ⌒}
    〈:::::::::/ : : : : : : : : : : : :.//:: : : : : /  \{/ : : : : : :.〉、          ヽ.__/:/介! ̄__j_メ
    ヽ/ : : : : : : : : : : : : :/ _:_:_:_:_:/       \ : : : :ノ: :.>- 、       \/  r ='´
      `` ー ── ─ <                  \Y:/介彡' X⌒ヽ
                               乂 ____ / Vノハ

                                    ` = = ''

 この時アカギ、意外に手持ち無沙汰




【鶴賀学園 麻雀部】


 須賀京太郎と原村和
 両名の意地を賭けた闘牌、その始まり

京太郎「……」

ゆみ「(藤田プロを倒したという実力、嘘か誠か……)」


         /     /ミヽV /彡|      V   \
          /     /⌒¨゙ー'´⌒|      ',   ハ
        /      /         i         ヽ
     ,イ/    /        ',        \   !
      /      ナ ‐-- 、    -‐气─-    \ ア !
    ´  〃 /,イ            ヾ\     `   |
< __ . -彳ィ i ! ___      ___、 7‐ _   ≧ ァ
        i ! ハ《 _fっ::;}`     ´_fっ:::;}》 〃  } T  T´
        iハ ! .              /   // .′ |
.          /ヽ i     ′        ´ー ´  .イ    !
        /  八     _             r-‐'       |
        .′ / へ      `        ィ |       |
.       /   ′            i | .!       ハ
     //  /      `!ー-‐  ´  |、 ! |        ;
.     {/i λ    i ,ィ/|、  _  -‐ ´ V、        | !i
        | / i __,ィ.::::/ /_V ヽ      /.:::ヽ        | |}
     _ ..-‐::::/.::::::/ ,イ////∧     /.::::::::|:7 /-ァ / i〃
 r.:i::´::::::::::::/.:::::::::// }////  ヽ  /.:::::::::::|' /:::/ /:::::`::‐-..、

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「では、始めよう」

 最初の親は加治木ゆみ
 そこから順に和、智美、京太郎が親となる
 
ゆみ「……」タンッ

和「……」タン

智美「……」タンッ

京太郎「ふーむ」タンッ

 それぞれがよどみなく牌を切っていく最中、
 後ろからその闘牌を見守るのは桃子、佳織の両名である

桃子「(うーん、さすがおっぱいさんっすね)」ジーッ

佳織「(すごい、三つがもうあんなに……)」

睦月「うーむ……うむ」スピー

和「……」チャチャッ




 順調な滑り出しを見せる和
 その手牌の速さ、牌の流れを見切る動きに唖然とする外野

和「(……聴牌、ここで気になるのは加治木さんの動きでしょうか)」チラッ

 彼女の実力はよく知っている
 河から察するに、もう聴牌をしていてもおかしくはない

 しかし、こんな序盤から警戒をするほどのことでもなし
 そもそも相手は目の前の須賀京太郎なのだから

和「(それで、一方の須賀君はというと――)」チラッ

京太郎「ふんふ~ん♪」チャッ

智美「……?」

ゆみ「……???」

 理解不能
 京太郎が切るのは――

【京太郎の河】
 3s 4m 発中 9p

和「(切ってる牌はほぼ他家の現物ばかり)」

 つまり、京太郎は最初からベタオリしているのだ
 それも始まったばかりの東一局の第一打から

和「……須賀君」

京太郎「ん? どうした、和?」ニコッ

和「それが――アナタの”理”なんですか?」ギロッ

京太郎「おいおい、和。対局中に相手の打ち方に文句付けるなよ」アハハ

ゆみ「……原村、須賀の言うとおりだ」

智美「勝負が終わるまでは口出し無用だぞー」ワハハ

和「……そうですね。では」スッ 千点棒


            __  ‐ ''" ̄ ̄ `゙' ..、
.           | . / : : : : : : : : : : : : :.' ,
          ≠ / : : : : : : : : : : : : : : : : : ∨゙\
          | _イ. /: : : :/ ハ: :、: 、: : 、: : r‐┴| く
         イ:/: /: /:/:Χ./ .}: 八:.|::!:.:.|: : !  :| .ノ
         {:::{: /:|/レ|ィ心≧ |/ .ィナ什ノ: : L...ノイ.、
.        //|',::::(,| .ヒ::リ゙. ′ 匕:::リレ∨: : |\冫

        //::ハ: : : : :', :::::::     `'-'゙ :: ハ:.: レイ
       / : ノ ∨: : : ヘ   __   :::::: ,≠ヽ',: : ::ト、
     ,./: : : :/._,.-∨: ::_丶  _ .  イ    ∨: :.!: \
.    , '>.-‐''二>''.´\ ,.二つ ̄ ̄ ̄二>.  ',: :',: : : :\
   く    く//__.ハ .i\.ヾ{_:_: : :_ : : :__ミ、__  マ: :ヾ、: : ::ゝ

.  ,' .\  .{|::|─、U (/゙ .二⊃|ヽ\  {:::::::|:|.、  マ:..'., ヽ: : : : :>ー - 、
     { .\_.>‐ "  ̄ ゙̄´!.: :: :.∨\\|:::::::|:}. ',.  ',: :..'.,   × : : : : : : : : :ヾ
     ∨: : ├──.!  /      マ::::::┐::://::k.}  マ: :...'.,       ̄ ヾ´
.     ∨: : \.  |.Y.        ヾ.__{_/彡Χ   ',: : : .'.,

.      マ: : : :ー┤| ,'         ∨゙|   \  ∨: : : :\
        \_ イ! | :          ∨、     \  ' ,: : : : .:\
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.             ∨.' ,     / ,' ノ.::::::::.\   :ノ    \: : :::

 タンッ

和「リーチです」




 和の先制リーチ
 相手がベタオリするというのなら、自分は少しでも高い手を和了る

 和は合理的な考えで、場を支配しようと動き出した

智美「手が早いなー」タンッ

 一方それに対しての京太郎の行動

京太郎「これは通るかなー?」つ危険牌

 それが――全くの意味不明さ

桃子「(えっ……?)」

 ざわっ……
  ざわっ……

和「……通ります」

京太郎「やったぜ。」

ゆみ「(ここでその牌だと?)」

智美「(危険スレスレの牌を……?)」

佳織「ほえ?」

 周りが困惑するのも仕方ない
 何せ、今までずっとベタオリだった男が――突然危険ギリギリの牌を切ったのだ

ゆみ「(現物が切れたにしても、もっとやりようがあるだろう)」タンッ

和「……」タンッ

智美「降りるかなー」ワハハ

京太郎「お、いい牌。そんじゃ……」

一同「「!?!?」」

 またもや巻き起こる混乱
 そう、京太郎がツモ牌を引き入れた代わりに出した牌が――

京太郎「通れ!」つ現物

 和の現物
 つまり、先ほどの危険牌打ちは現物切れではなかったのだ

ゆみ「(なんだこいつは――まるで意味不明だ)」タラッ

和「……」ワナワナ



京太郎「よっし、いいぞ」ニコニコ

 一発が付きそうな場面での現物保留
 その直後の現物切り

 京太郎の目的は一体何か?
 
 その場に分かるものはただ一人だけ


               ∠'´--,-、__`゙≡  ヽ 、iヽ
         )     ,, ‐'_´_≡ ≡    ミ  '‐‐-、   
         (,-‐-、_ -´_'´´≡,           ニ、‐、  
        ,/. )    ̄´,,-‐´ 彡, ‐ , -""       、i
      /. ,,,,   ///_,‐、ゝく/,-‐'"´i ll ili i|i  、ゝ
     /,ン‐//-ュ   //i ,Y l\´  ,,ゝ、ハ  i|li  |__________  ,,,,-‐
   , ‐´''''''/'‐"‐片    `‐i/ l/゙゙|  丶く、_  、|、i   ノ-、,_,,, -‐'´
 -'´,,,,_丘‐-ッ‐i'"       /  ,|    ゙  ゙̄'' ゝ  / ,, -‐
''"´´'" `'''‐"、/        'i ,,,_´' ヽ     /,,-、. /

''''゙゙゙"' ‐=、,___ノ    ∧.   i `"''"'‐、_    .//゙ノノ/       ____
‐-<'‐-、,,ッ'     ノ | \  | ヾ‐、  "´ イ__,,ノ./‐--‐''''"´´ ̄
ノ ´   |    / |   \|       , ∧\ /          ,,-
 i    /-、__/   |     |  _, ‐ ´ / |  \‐ ‐ -      //
  l__,,,-‐'  ∠_/`‐-、|     ∟‐- 、  /  |   \     ,/ /
 ,|      /    ___,,,,,,,,/     ,ノ  |     |_/ ̄´
/      /  /´\     /ゝ‐-/   \   //_ ‐'  ノ

アカギ「……」ゴロン


 そう、アカギ一人である




 京太郎の打ち方は混乱こそ招いたが、それは有効打とはなりえない
 というのも、京太郎が変な打ち方をしても周りは普通に打てばいい

 対策をする必要も無いし、むしろ勝手に自滅してもらえれば好都合

ゆみ「(やはり藤田プロに勝ったというのは偶然か)」

智美「(だろうなー)」ワハハ

 一斉に京太郎への評価が決定されていく中――

 バラッ

和「ツモ、倍満です」

 とうとう和のツモ和了となる

京太郎「……」

ゆみ「くっ……流石にツモは防げないか」

智美「いきなり倍満手とは凄いなー」ワハハ

和「4000・8000です」

京太郎「お、おおぉお!!」

 と、ここで京太郎が震え出す
 誰もが和の実力に驚き、恐れだしたのだと思った

 だが――

京太郎「お、俺今二位だ!!」ジィーン

ゆみ「……は?」

京太郎「よっしゃー、このままリード守るぞー」ウエヘヘ


ヽ./ : : : : : : : : : : ,: : : : : : : : : : : : : : : ヽ    ヽ冫
:: |: : : : ::/::/: : : /」: : : /}: : : :}゙`「丁ヽハ:!:!: !:  }
-ィ: : : |_,'_,,|-‐''/ / / .}: : /.|: :|: |:::/. }:|:|:. リ !.|. ト.、           ,. ──‐、

: :ト、::ィ゙ |: ::|\/ //.  /: :/ !: :!/!/  !从:/|:.| !∧冫         //´ ̄ ̄ヽ',
: :|人小|ヽ:!.ィ爪沁ヽ. /./ /,.イ爪心ヽ.! イ/.//′           U     } }
: :l: : ヾ |/{:::::::::⊂. ′   ´ ! :::::ィ./ ト,ムノ:!                    , ,' '
:γ⌒ⅵヽ弋二;;ノ       ゝ-.″ | }: : : :|                 //
',:{ :::`    ::::::::::::::     、  ::::::::::  レ′ : :!.  ◯  ◯  ◯     { !
..',\     ::::::::::              ノ:   ::::!                   U
: : :| `ー´\       ,. ,      / !:! !  !
: : :|.     ` 、          ./|: :. !:! !  ::!                ◯
: : :|         }`   .. __ , イ  |::|: |:|: :|  |
: :: }     ィ‐┤.        ├ .、|::|: |:|: :|  {

和「……」ポカーン

 困惑
 ただその言葉に尽きる


             _ _
        , ': : : : : : : : : : `: : .、
      / . . .,. : : : : : : : : : : : : :ヽ
...    ,.': : : : ; ' : : : : ; : ' : : : :,, ´: ¨:`ヽ
    /: __: /: : : ,,: ': : : _;.: -:' : : : : : : : : : j
/ ̄ ̄ ̄\_:  ̄: : :  ̄: : : : : : : : : : : : _,丿 ¨`:,

  ネ  あ . !: `_-: _:_:_: : : : _:_.、 -‐,. '" ヽ'-; : : :}
  ジ  ま .|'"-、j/: :./ __、_, ., `.、    |'/: :../
  が  り .| .(/l{: /  l!,/ミヾ、、ヽ ゙'v   ;': :../
  と  の ○o。 `'   ヾノ/ ゙`、   ,-、": :/
  ん 衝  |:`v       `   ,/ヽ´ノ!: ;{
  だ 撃  |: 、    /       .{゙/`'' !:.{
  か に  |: :';     し     ..:::ゝ:|   `、_
\___/: ト:', ヽ.     -_、 ノ: : l
::/: : : : /:::::|: : l ;.',  .〉、   ,. ' : : : .l
´: : :./ ::::::|: : lヾ:', /: : `;;‐': : : l,: : : : l

: :/:::::/:;l:::j: : j、 ':;ヽ : : ; :イ : : :l l: : : :.l
´:::::::::/:::;;l/: :./::'、;; ></:/|: : : :l .l: : : :.l
::::::::/:::::::/: :/::::::::jj /-く/ .l: : : :.l !: : : :l

ゆみ「お、おい? 肝心の原村には大差を付けられたままだぞ?」

 ゆみの言うとおり
 これは京太郎と和の勝負

 今や20000点の差を付けられたのだから、この先の勝負は厳しいハズ
 だが京太郎はそんなこと気にも止めていない様子で微笑む

京太郎「いやー、加治木さんや蒲原さんからは直撃取れる気がしないので」エヘヘ

和「っ!?」キッ

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「は、はは。言うな……」

京太郎「事実ですから」ジャラジャラ

 その言葉、裏を返せば和からは直撃が取れるということ
 京太郎の挑発かあるいはただのハッタリか

 いずれにしても、それは和に多大な効果を与える

和「……続けましょう」

ゆみ「あ、ああ……」

 しかしそれでも平常心を保っていられるのは、和の実力か
 それとも【負けられない対価】を賭けた戦いだからなのか

和「(須賀君、これが”理”だと言うのなら――それは勘違いです)」

 挑発や虚勢などなんの意味も持たない
 自分は感情によって、闘牌を変えるような愚か者ではないからだ

和「……」つエトペン

桃子「あれは……」

ゆみ「来たか……」

 ギュッ

和「……」ポーッ

 デジタルの神の化身
 闘牌を全て俯瞰で感じる、その恐るべき思考能力

和「では……私の親ですね」

智美「(怖いなー)」ブルブル

ゆみ「(どう警戒したものか)」ゾワッ

 それぞれが和に対する警戒を強める中で
 京太郎はただ一人、別の展開を描いていた

京太郎「……」ニカッ



 そうして迎えた東二局
 和の親である

和「……」カチャカチャ クルッ カチャ

ゆみ「……」カチャカチャ

智美「……」カチャカチャ カチャッ

京太郎「……」ジィー カチャカチャ

 まずは配牌
 京太郎の手牌はまずまずといったところ

和「……」タンッ

 対する和は好調な配牌
 運も和に傾いているかのような状況である

ゆみ「……」タン

智美「うーん」タン

 一方で二人は和に対する様子見
 まずは出方を伺っているのだろう

和「……」タンッ

        j:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::::://:::/:!l::::/!:/!::::;'!::::::/: : : :!:::::::::.:.:.:.!
       ,':.:.:.:.:.::::::::::::::::::::::::::::::j !V:!ヽ!:::! l:! !::;':!l::::::!: : : : !l:::::::::::::::!

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       j.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::〈! ら:::!   トヘ::! ! ヽ:!: :_,l!':/j::::::.:.!
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      j.:.:.:.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::|   --     : : : : : .fr':}  }∧:::.:.:!
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   /.:.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|: . .     r‐‐ュ      ノ:::::::::.:.|
  ./.:.:.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!>、: : .     ̄   u., イ::::::::::::::.:!
  }/!.:.::.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!:!: : :>. _      , ..<::::::::::::::::::::::ハ
   !.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::l:::::::::j::l、 : : : : : : >-‐'"::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
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桃子「(凄い、これが原村和……)」ゾクッ


【和の手牌】 ※ドラ9p

123m 1237s 1299p 東東  

 
桃子「(鳴かずの三色、役牌2、チャンタ、ドラ2……)」

 そのままでも8翻での和了
 リーチすれば、裏も踏まえて三倍満も夢ではない

桃子「(これがまだ4順目の手っすか!?)」

 配牌も、ツモも、流れを読みきった動きも
 全てが和の手中に収まっている




桃子「(……それに対して、須賀京太郎は?)」チラッ

 この好調な手牌に対応できるわけがない
 そう思いながらも、京太郎の手を覗く桃子

京太郎「……」

【京太郎の手牌】

1156p 33447s 9p 西北南南


桃子「(これまた微妙な手っすね)」

 ドラ2の七対子
 リーチ裏ドラで跳ね満出世も視野に入るが――

桃子「(このままいくと、多分ダメっす)」

 桃子の予感
 それはある意味で的中する

京太郎「さーて、頑張るぞっと」

 数巡後――

【京太郎の手牌】

1155p 33447s 9p 西南南 
 
桃子「(ようやくここまでっすね)」


 イーシャンテンまでこぎつけた京太郎
 目の前の和の動向も気になる中での、ツモは――

京太郎「……」つ西


【京太郎の手牌】
1155p 33447s 9p 西西南南

 
桃子「(聴牌!!)」ドクン

 なんという豪運であろうか
 和のあの神ががった手を躱しながら聴牌まで持ってきたのだ

桃子「(ビギナーズラックって奴すかね?)」チラッ

佳織「(みっつずつじゃない?)」アレ?

桃子「(だけど、ここが正念場っすね)」

 問題は7s切りか、9p切りか
 7sは既に河に二枚あり、地獄待ちとなる
 逆に9pはドラであり、まだ河には一枚も無い 

桃子「(切られる可能性も低く、放銃の可能性もある9p)」

 それか出るかどうかすら怪しい7sにするか
 この決断は迷うところである

桃子「(さて、どうするっすか?)」チラッ




京太郎「……」スッ

 京太郎が選んだのは――


 タンッ! カラン


京太郎「リーチ」

 9p

ゆみ「!?」

            ィ´ ̄

         __//   -───-
       /´ ̄ア:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`丶、
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     `ー┐:.:.:.|   Ⅳイ    _       l
       j∧:.:`ー一x     /  `   __  |
        l:.:∧:.:.:./`     {      }ノ /
        レ' _」:.:/      ̄ ̄ `ヽノイ

    ____ / ̄ ̄`  _、  /ー─‐ ´ ̄
  ∠_    \      /| /> 、
 /    `ヽ、   \   /  | ヾ、 ∧__
 l       ,    \ハ ` ┐ i ヘ、\ `ヽ、
 |       l     ヽ::\ | | /\}  ハ
 |        、   i    \:ヽl Ⅵ  '. /  l
 '.          ヽ、 |      ヽゝ_j::|   ∨   |
  、           Y^       Y::::::|   |   |

智美「(ここでドラ!?)」

和「!!」ピクッ

桃子「(ドラ切り……)」ゾワッ

 正直な話、京太郎はここで7sを切ると桃子は思っていた
 少しでも高い手が欲しい局面、ドラを残したいと思うのが人情だ

桃子「(だけどこの男は、まるで確信があるかのように……)」

 勿論ありえる選択肢ではある
 だが、それだけでは片付けられない奇妙な偶然があるのだ

和「須賀君……その9p、ポンです」

桃子「(これは当然の流れっすね)」

 ドラ2をドラ3に変え、聴牌まで漕ぎ着ける

 
 
【和の手牌】 

123m 1237s 12p 東東  【999p】 

 和も聴牌
 そして、手の内にある先ほど京太郎の待ち選択肢の7sと9p

 もし京太郎が9pを待ちに選んでいれば、確実に出ていなかっただろう

 逆に、この7sはどうであろうか

和「(須賀君の手は捨て牌から見て七対子ですね)」

 素早く巡る、和の思考回路
 リーチをしたということは、それなりに出やすいものを待ちに選んでいる可能性が高い




和「(私の手で切りたいのは勿論7s、これはどうでしょうか?)」

 場には既に二枚の7sが出ている
 つまり、残りは1枚のみ

 一巡待てば違う待ちにできる七対子をリーチで縛り、更にはドラを捨ててまでの地獄待ち
 非合理的過ぎる

 さらに言えば、聴牌を崩して受けに回るほど劣勢な場面でもない

和「(どう考えてもこの局面で、7s切り以外ありえません)」タンッ

 そして、とうとう切られる7s 
 吸い込まれるように……和はその手を差し出してしまう

京太郎「クク……悪いな、和」

和「え?」


          /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |
       / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | |
.      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |
     /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{
       /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__
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 ジャラッ

京太郎「ロン。リーチ、チートイ、赤ドラに……よし! 裏ドラも乗った!」クスッ

和「なっ……」

京太郎「ハイ、御免でした。満貫頂き!」イェイ

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「7sで地獄待ち……?」

智美「おもしろい待ちをするなー」ワハハ

 一同が騒然とするのも無理は無い
 先ほど和が考えた思考がそのまま、裏をかかれた形となるのだから




和「……」

 唖然とする和
 しかし、それよりももっと驚愕に包まれていたのは――

桃子「(な、なんて奴っす!)」ゾクゾク

 和の手牌を見抜いたように、正確な7s残し
 結果として和の7s切りを見抜き――挙句に直撃まで奪った

桃子「(こいつ……バカのフリして実は!?)」

京太郎「ん……ドラ? あぁぁー!!? 俺ドラ切ってるじゃん!!」

一同「……え?」

京太郎「ぐあぁぁぁ! しまったぁぁ! あ、でもドラで和了でも同じようなもんか」ポン

ゆみ「……」ポカーン

智美「ここ、笑うとこ?」キョトン

佳織「????」

桃子「(や、やっぱりこいつアホっす)」ガクッ

 一同の京太郎への評価がまたもや急転直下していく
 そんな中、静かに京太郎を見つめる和

和「……(偶然に決まっています)」ギリッ

 自分の好調な手を潰されたのは腹ただしい
 しかし、だからといって負けが決まるわけでもない

和「(元々意味不明な闘牌をする人でしたし、気にする必要はありません)」

 目の前の男が計算外の行動を起こしただけのこと
 その破天荒さも視野に入れれば、計算できないことではない

和「(もう油断しません)」キッ


京太郎「……」クスッ

アカギ「クク……」


 
ゆみ 17000

和 33000

智美 21000

京太郎 29000 




【東三局】
 
 そして続く蒲原智美の親番
 ここまで見に回っていた智美だが、親番となっては強気に動くしかない

智美「(早和了で場数を稼ぐしかないなー)」ワハハ

 タンッ

京太郎「……」つ東

智美「ポンッ!」

 東東東 カッ!

智美「……(よしっ)」

ゆみ「(蒲原が早いな――一方の原村はどうか)」チラッ

和「……」タンッ


【和の手牌】ドラ4m

 456456m 678s 2223p


桃子「(やはり流れはおっぱいさんっすね)」ゴクッ

 異様に手が早く、しかも高い
 智美も聴牌しているが、どちらが先に和了か――

京太郎「……」つ2m

智美「ポンッ!」チャッ

 222m カッ!

京太郎「今日はよく鳴かれるなー」アハハ

桃子「(こいつはこいつでマイペースすぎるっすね)」

 役牌を切ったり、現物を切ったり
 フラフラと自分なりの麻雀を打っているようだ




 だが、一方で隣に座る加治木ゆみは冷や汗をかきながら京太郎を見る

ゆみ「(まるで平凡な打ち手だが……なぜだ? なぜこうも嫌な予感がする!)」ゾクッ

 というのも、先ほどから京太郎が危険牌をことごとく切っているのだが
 それが一つも原村和にヒットしない

和「……?」

 それどころか、なぜこうもことごとく躱されるのかと困惑しているようにも見える
 つまり、原村和の手を読み切っているような打ち筋なのだ

智美「……」タンッ

ゆみ「(二人が張っているのに、どうしてそんなに強気なんだ?)」チラッ

京太郎「~~~♪」チャッチャッ

ゆみ「(私も聴牌だが――降りるべきか?)」

 悩むゆみ
 しかし、背負う者の無い闘牌である

ゆみ「(むしろここは、相手を牽制する!)」スッ

 タンッ!

ゆみ「リーチ!」

智美「!」

和「……」

 場に点棒が出たことで、ダマテン二人にも緊張が走る
 しかし、そんなことを意に介さない男が一人

京太郎「うわー、手が早いですね」ニコニコ

ゆみ「あ、ああ。ありがとう」

 ただ笑って、手を進めるのであった

智美「(ユミちんの待ちが読めないなー)」

 動揺を隠せない智美だが、ここまで来た以上降りるわけにもいかない
 迷わずに聴牌を維持しながらツモ切りに務める

和「……」

 それは和も同様で、聴牌を崩さずに勝負に走る
 自分が和了るという絶対の自信の表れなのだろうか




京太郎「……」

 そして一方の京太郎
 聴牌もしておらず、ベタオリするかに思われた彼に行動は――

ゆみ「……一発は乗らずか」スッ

京太郎「ポン……!」チャッ

ゆみ「え?」

京太郎「……」ニカッ

ゆみ「では……」スッ

 タンッ

京太郎「ポンッ!!」

 チャッ

ゆみ「!!」

和「……」

桃子「(どうしてここで2副露?)」

 三人が聴牌している状況で無理に勝負する必要も無い
 これではまるで――

ゆみ「よしっ! ツモだ!」ジャラッ!

智美「くっ……」

ゆみ「2000・4000だ」

和「……」

京太郎「あちゃー、鳴かなければよかったなー」アハハ

桃子「(先輩に和了牌を引かせる為だけに鳴いた……?)」

 勿論、そんなことは可能性である
 どう見ても初心者の京太郎が場の聴牌も読めずに鳴いた

 その結果ゆみが牌を多く引き、ツモ和了しただけ

京太郎「……」クス

和「……(偶然に決まっています)」

 どちらにせよ、和のトップは揺るぎない
 大丈夫、問題は無い

京太郎「次は――俺の親だな」ニカッ


ゆみ 25000

和 31000

智美 17000

京太郎 27000 




【東四局】


京太郎「……」カチャカチャ

和「……」チャッチャッ クルッ クルッ チャッ

ゆみ「……」チャッチャッ カッ

智美「……」ワハハ

 そして続く東四局
 待ちに待った京太郎の親である


               __  /⌒ヽ
                 ⌒\ ∨   ヽ___
              _, ----`      ∨   `ヽ、
           /´               |     \
          / ____    /  l|     | :.     \
            ///    /   |     |l |  :       ヽ
              /  /   //  ,∧    / ,イ  l| :.  .  .
          / イ / // : l  |    ' / !  从 |  :   :.
         .'/  ' ' /-|-{ {  |  /}/  | / } }  |    .
         }'  / |Ⅵ { 从  '  ,     }/ /イ   }     .
           / イ | l{   { ∨/      '    }   ∧ :   :.
          ´  | {|从三三 /   三三三 /  /--、| ∧{
                {从 |     ,            ムイ r 、 }} /} \
               |                ノ ' }/イ/
                {               _,ノ
                   人       _,..::ァ       r }/   ガンバルゾー
                     `     ゝ - '   イ   |/
                        `  ーr  ´  ___|_
                     ___|     |//////|
                   {|___ノ  __|[_]//∧_
                 /// |____|///////////> 、

                     ///// |   /////////////////> 、
               /////// { //////////////////////}
             //////////∨///////////////////////|


京太郎「……」タンッ

和「……」ゴクッ

 ここまで平静を保ってきた和だが、
 京太郎の親となるといささか緊張がぶり返してくる
 
和「(もし、負けたら――)」

 目の前の男に、自身の胸をいいようにされ
 死にたくなるような恥ずかしめを受けるに違いない

和「……」ギュッ

 エトペンを抱く手に更に力がこもる
 大丈夫、自分は負けない

 そう言い聞かせながら、和は更なる高みへと身を落としていく

和「……」ポーッ





京太郎「……」タンッ つ中

和「ポン」カッ

ゆみ「(鳴きにシフトしたか……)」

智美「(須賀君の親を流すつもりかー?)」ワハハ

京太郎「……」つ7s

和「ポン」カチャッ!

 息も付かせぬ早い鳴き
 この予想外の動きに、ゆみと智美は動揺する

ゆみ「(現物が少なすぎて、何を切ればいいか分からない)」クッ

智美「(とりあえず無難なところを切るかー)」ワハハ

 タンッ 1s

和「ポン」チャッ!
 
智美「(しまった!?)」

 これで和の鳴きは中、17s
 混一色の可能性大である

ゆみ「(これは下手にソーズは切れないな)」

智美「(ここはなんとしても降りるぞー)」ワハハ

京太郎「……」

 一方の京太郎は意にも介さず、思うように牌を切る

京太郎「せいっ」つ東

桃子「(あぁっ、バカ!)」

和「……」
 
 しかし和、この東をスルー
 この時和の待ちは――

【和の手牌】※5s赤ドラ

 45s 北北 【111s 777s 中中中】

 ずばり36s両面待ち
 
京太郎「ふんふーん」つ8s

和「……っ」

京太郎「ん? どうかしたか?」ニコッ

 通る
 京太郎の切るソーズがことごとく通る

京太郎「これもいいな」つ9s




 そのあまりの自然なソーズ切りに、動揺したのは和だけではない

ゆみ「(まさかソーズが通るのか?)」

智美「(読み違えたか……?)」

 京太郎のソーズ連打にゆみと智美、両名の思考が鈍る
 そしてとうとう、まるで悪魔に魅入られるように――

智美「(通るか……?)」タンッ

 6s

和「ロン!」ジャラッ

智美「あっ」

和「7700です」

 鳴きの混一色役牌にドラ1
 僅か数巡でこの和了である

京太郎「折角の親が流れちまったなー」


ゆみ 25000

和 38700

智美 9300

京太郎 27000 


 これで京太郎と和の点数差は11700
 先ほどの奇跡のような和了で詰めた点差も、またもや一瞬で離される

ゆみ「(これが原村和か……)」

 場の流れを読み、確実に自分の手牌を積み上げる
 合理的で完成された闘牌スタイル

ゆみ「(まるで付け入る隙が無い)」グッ





 恐ろしい実力だと、改めて関心するゆみ
 そして逆に対峙する京太郎への印象は最悪だ


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ゆみ「(何を考えているのかまるで分からん)」

 奇跡的に放銃を躱してはいるが、それはあくまで運がいいだけに過ぎない
 先ほどの和了も偶然のように見えるし、合理性に欠ける

ゆみ「(ようするに、無茶苦茶に打っているだけの素人か)」

 ゆみの推察はある意味では正しかった
 唯一誤算があるとすれば、京太郎は無茶苦茶に打っているわけではない

京太郎「あー、もう東場は終わりか」

和「……これで分かりましたか? 須賀君に勝ち目はありません」

京太郎「ん? 逆だろ?」


 この男は、自分の”理”を組み立てながら打っている


京太郎「この東場でハッキリした」
 
 ざわ……
  ざわ……

和「何が、言いたいんですか?」ギロリ

京太郎「和、やっぱりお前にだけは負けない」

和「!?」

 京太郎の闘い
 それは既に始まっている





和「虚勢ですね……」キッ

京太郎「そう聞こえるか? なら、証明してやるよ」

 チャッ

京太郎「次の局。俺はお前から直撃を取る」

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「(馬鹿な、何を根拠に……)」

智美「(そんなの無理に決まってるなー)」ワハハ

桃子「(無理っすね、絶対)」


 果たしてそれは――現実となるのか


和「……」


 二人の戦いはいよいよ、後半戦へともつれ込んでいく

 
睦月「ん……ここは?」パチッ


                       ...::<//////////ミヽ、
                     y-‐<///////////////////////zz、
                 /////////////////////////////////>、

                    /////////////////////////////////////ヽ
          ヘ      j/////////イ州z‐-////////////////////////ゝ、
        /   \ ___ノ///////ー-- 、/////`¨''-、///////////////////∧
       /       イ//j///ー=─-ミ  ヽー=ー 、///ヽ///////////////////ヽ
      /        ///{//ー=Z        ー、 ヽ//ハ///////////////////
            ////ハ::/           ミ、州弋 |///////////////////

             /////,イ:::.                ト州州,l/,イ///////////////
           ,//////ソ:::::                 }州州彡'' ,ィ彡´///////////
           ///////イ::               |州州州州'///ノ/////////
        /___,,-─--|ィ':..               j州州彡', <´///////////
          `∨    /:::::..              .::Y`l州州///////////////
            /      |イ::::::..:::.          ...:::::/._ノ州<//////////////
        /   --─--|::::::::::::      ..:::::::洲州州//////////////
       r─-- 、    lハ::l::::::::::::::::::::::::::,イ::.j::/    //////////////
      Yニニ'''   ヽ、   lハ::::,イ:::::::::::::::/ ,}/リ   //////////////
     イ---      ヽ、___.ソ ハ:::::,イ::/ー- ___  <//⌒''ー-、/////l\

     (__ー弋         `¨¨'∨-ソ─---- 三三j     ∨///|  \
        ̄ `ヽ、 __                          ハミヽj
                `¨'''ー- 、_                  /
                      `¨''ー- 、_           /
                             `¨''ー- __/

アカギ「Zzzz……」スピー



京太郎「さぁ、続けようぜ」

和「……はい」


 この闘い
 勝つのは京太郎か、それとも和か

 思考渦巻く闘牌の果てに――

 二人は何を見るというのか


京太郎「……」




【南一局】ドラ7p


 京太郎の和に対する直撃宣言
 その言葉により、その場は重い空気に包まれていた


京太郎「……」カチャカチャ

和「……」チャッカチャカチャ

ゆみ「ふむ……」カチャカチャ

智美「……」ワハハ


睦月「あ、あれ……?」

佳織「あ、起きたの?」

睦月「うむ……」

桃子「もう後半戦っすよ」

睦月「南場か……須賀君は?」チラッ


ゆみ 25000

和 38700

智美 9300

京太郎 27000 


睦月「二位!! 二位だ!! 須賀君が二位だ!!」パァァァァ

桃子「むっちゃん先輩……これはサシ馬対決っすよ」

睦月「ん……ということは」

桃子「11700の差で須賀京太郎が負けてるっすよ」

睦月「なん……だと……?」グギギギ

 原村和、須賀京太郎による対決
 現在は和の圧倒的有利状態――

ゆみ「では始めるぞ」タンッ

和「……」タンッ

智美「うーん」タンッ

京太郎「……」タンッ

 それぞれが思い思いの牌を切っていく

和「……」タンッ

智美「……」タンッ

京太郎「……」タンッ

桃子「(なるほど、おっぱいさんも意地があるっすね)」

 先ほどの京太郎の挑発
 直撃を取ると宣言された以上、狙われる和も少しは弱気になりそうなものだ

 しかしそれでも和は今までどおりの強い闘牌で攻める





ゆみ「(ここで降りれば、須賀の思うツボだからな)」

 牌効率、相手の捨て牌から手を予想し切る
 単純、だがそれゆえに弱点らしいものが見つかりにくい

 和には絶対の自信があった
 それゆえに自分のスタイルを曲げてまで逃げたりはしない

ゆみ「……」タンッ

和「……チー」チラッ

 678s カッ

智美「ふーん」タンッ

京太郎「……」タンッ

和「ポン」

 111s カッ

ゆみ「(ソーズの2副露か)」

智美「(早めにソーズを処理しておくかー)」タンッ

 4s

和「……」ピクッ

智美「(まだ聴牌はしてないのか……?)」

京太郎「……」タンッ

 2s

和「ポンです」

 222s カッ

ゆみ「(これは――!?)」

【和の鳴き】

 678s 111s 222s

【和の捨て牌】
 5m、2p、72m、59p、3s、西、1p

智美「(やっぱり清一色、もしくは混一色か?)」チラッ


和「……」カシッ クルッ カシャッカシャッ

京太郎「……」ジィー

和「……」つ9s


 タンッ

ゆみ「(9sを切ったか。既に聴牌している可能性が高い)」

智美「(字牌とソーズはもう切れないなー)」ワハハ




 この時、誰もが和の聴牌を察知
 ソーズと字牌に対する警戒が最高潮に高まっていく

 そんな中、ただひとり

京太郎「……」

 京太郎だけはある確信を持って、その手を切っていた

京太郎「……」つ4s

桃子「(えっ……それは!?)」

 圧倒的危険牌4s
 その時京太郎の手牌は――

【京太郎の手牌】 ドラ7p

 245m 33345s 222678p

桃子「(現物の3sで)」

 それを敢えてこの危険な勝負に持っていく
 そんな必然性などどこにもない

京太郎「……」タンッ

 だがそれはあくまで、京太郎以外の話である

和「……っ!?」

京太郎「……どうした? 通るのか?」

和「……」コクッ

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「(偶然か……? いや、それにしては妙な自信だ)」

智美「(なんにしても、ここはベタオリだな)」

 点数差のある智美がベタオリに移行
 ゆみも少し悩んだが、様子見で降りを決意

 これにて戦いは京太郎と和
 この両名に限られた

京太郎「……」ニッ
 
桃子「(こいつには、一体何が見えてるんすか……!?)」

和「……っ」

 しかし、ここで動揺したのは和である
 
和「(私の牌が見られている……?)」

 そんなハズは無い 
 しかし、京太郎の不思議な動きはどうにも理解できない




和「(私の牌が見られている……?)」

 そんなハズは無い 
 しかし、京太郎の不思議な動きはどうにも理解できない

和「(……いえ、落ち着かないと)」タンッ

 例え相手がどんな打ち方をしようと、自分の打ち方を貫く
 それが原村和の意地なのだ

智美「……」つ タンッ

 5m(赤)

京太郎「……うひゃー勿体無いですねー」

智美「現物切れて苦肉の策だぞー」ワハハ

和「(……赤ドラ)」

 点棒が少しでも欲しいこの状況
 京太郎にとって赤ドラは是が非でも手にしたい筈

 5mの赤で鳴かないということは34m 67m辺りは空っぽなのだろう
 つまり、あっても123m 789m  

ゆみ「……」タンッ

 タンッ タンッ タンッ

 場に少しばかりの緊張が流れていく
 一方で和はその思考をどこまでも高めて、確立を重んじる戦いを続ける

和「……」つ5m

 そして、和のツモで引き入れたのは5m
 これは確実に安牌

和「……」タンッ

 自分の待ち牌はまだ河に出ていない
 焦らず、待ちを広げられればいずれ――

京太郎「……和」クスッ

和「えっ……?」

京太郎「だからそれが、お前の限界ってわけだ」パタン

【京太郎の手牌】

 2345m 333s 222678p

京太郎「ロン。2600だ」

和「なっ……!?」

 あまりの衝撃に、誰もがハッと息を呑む
 そして京太郎の和了を見て――誰もがある事実に気付く

ゆみ「馬鹿な、さっきの赤5mで和了じゃないか!?」

 そう、京太郎は先ほどの5mでロン和了
 点数は5200となり、直撃を取るよりも点数を稼げた





和「なんで、こんな……」

京太郎「合理的じゃないかって?」

和「っ!?」ドクン

京太郎「悪い、俺は点棒に興味は無いんだ」 

 ゆっくり、ハッキリと京太郎は告げる
 
京太郎「俺は”お前”に勝つ為に打ってる」

和「……!」

 それは不合理極まりない打ち方
 しかし時にそれは――

京太郎「まずは俺の一勝、かな」ニッ

 相手の喉元に喰らいつく牙となる


睦月「はぅっ……//」キューン


                  /                       ヽ
                   / __/  〃                         :.
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                厶イ/    〃    〃                 :|
                /  /   〃                  :
                   〃/   ./                    . :l
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               / ′/∨ . /. :/´\   、   {\__ . : /、 }: /
                    | / .l. :/:| /〉 x=ヘ: . {\ \、\ : |: :八} /: {
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                    -‐    ̄∨/ : : : : .       : : : : /_/:. : :八:\
             /       // : : : :  :     . : : /:::::\_:_/}: :∨ \
            /         〈/ イ ー-  、  . : :/:::   :::: : :/: : : :. : : :
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        ′ |::    |: :|:   厶イ : : :∧ /   :.    .. :: :/: : : : : : : : : /:::::: : : : : :

アカギ「……Zzzz」スヤァ


ゆみ 25000

和 36100

智美 9300

京太郎 29600



【南二局 和の親】

 京太郎の和了により、ざわめき立つ部室
 不可能と思われた京太郎の和直撃

 誰もがその偉業に驚き、騒然としている
 僅か2600とはいえその功績は大きい

京太郎「さて、やるか」ジャラジャラ

 そんな空気を意にも介さぬといった様子の京太郎が牌を落としていく
 しかし、そこで思わぬ場所から物言いの声が上がった

桃子「待つっす!!」バァーン

ゆみ「モモ? どうかしたか?」

桃子「……牌の交換をするっす」

京太郎「へぇ……」

智美「んー? どういうことだ?」ワハハ

桃子「さっきから後ろで見てるっすけど、須賀京太郎の打ち筋が何かおかしいっすよ!」 ビシッ

 ざわ……   
   ざわ……

睦月「何!? まさか、須賀君がイカサマしてるとでも!?」ゴゴゴゴゴッ

桃子「い、いや……えと、その」ガクガク

佳織「」ビクビク

ゆみ「まぁ落ち着け津山。モモの言うことにも一理ある」

京太郎「……」

ゆみ「先ほどの4s切りといい、東場での回避といい。いささか神がかり的に思える」

京太郎「それは、相手が和だからですよ」チラッ

和「っ!!」ガタッ

ゆみ「落ち着け原村。だが須賀君、そう言い切れるということは牌は別に変えてもいいだろう?」

京太郎「ええ、いいっすよ。何も変わらないと思いますけど」

和「……」ギリッ

智美「よし。確か新品の牌がロッカーにあったハズだぞー」ワハハ

 ガヤガヤ

京太郎「……」

 こうして、南二局より新品の牌を使用することとなる
 キズ一つなく、ガンパイすることなど確実に不可能

桃子「これでよし!」

睦月「須賀君がイカサマなんかするハズない……うむ、絶対に」メラメラ

桃子「あ、あくまで保険っすよ、保険」ビクビク

 だが、本音を言えば少し違う

桃子「(あの荷物持ちが、こんなに強いハズ無いっす!)」

 自分を難なく抑え、全国でも大活躍だった原村和
 一方的なライバル意識さえ多少なりとも持っている相手だ
 それを――雑用しかしてこなかった男
 ”男”が原村和を上回っているなどと、絶対に認めたくない

桃子「(むっちゃん先輩には悪いすけど、どうせこいつはイカサマしてたっすよ)」フフン

 だがそれもこれで終わり
 新牌になった以上ガンも出来ず、小細工などしようものなら後ろから止めに入ればいい



京太郎「……じゃあ、続けようか」

和「ええ、では」チャッ

桃子「(そのメッキ、外してみせろっす!)」
 
 桃子の京太郎に対する認識
 麻雀もできないくせに、女子目当てで入部してるようなふしだらな”男”

 それはきっと概ね正しい

京太郎「……」タンッ

 だがほんの数分後

和「……」グッ

 その認識がそのままそっくり裏返ることになるとは――誰が予想しえただろうか


【南二局】


和「……」タンッ

 原村和は今、軽い混乱の最中にいた
 対局を俯瞰で感じながら、牌効率と相手の捨て牌によって最良の手を切っていく

 それが自分のスタイル
 完成されたデジタルの打ち方だと自負していた

 
 八巡目――


ゆみ「……」タンッ 4s

和「……(鳴けますね――でも)」チラッ つツモ

京太郎「……」ジィーッ

【和の手牌】

 3888p 23455m 3567s

 先程は鳴いた為に手を読まれた
 ここは面前での最良の手を作る

和「(そうすればアナタは捨て牌から私の手を予想するしかない)」タンッ

 南

 そう、それこそが完全無欠のデジタル
 得られる情報から、予想し限りなく正解に近づける打ち方

和「(須賀君、アナタにそれができますか?)」  




京太郎「……フフ」

ゆみ「?」

京太郎「なるほど、考えてるな和」

和「……さぁ? なんのことでしょう」

京太郎「素晴らしい”理”だよ。関心するぜ、本当に」

和「……」

ゆみ「須賀君、無駄な私語はやめるんだ」

京太郎「すみません、じゃあ俺の番っすね」チャッ

 タンッ

桃子「……」ジッ

 京太郎は静かに微笑む
 その打ち筋には微塵も迷いは感じられない

和「……」グッ

 そして迎えた十巡目――

【和の手牌】ツモ4p

3999p 23455m 3567s

和「(3s切りで聴牌ですね)」チラッ

 京太郎の河を見る
 相変わらず読みづらい、デタラメな河だ

和「(恐らく七対子。ですが、この牌で待ちますか?)」

 3s切りで聴牌である
 これを逃す手は無い

和「通ればリーチ!」つ3s

 カランッ

京太郎「……ふふ、それが出るか」

和「えっ……?」

京太郎「御無礼、ロンだ」バラッ


【京太郎の和了】ドラ4m 赤5m

3s 5577p 334455m 中中
 

京太郎「またまた、満貫頂き!」ニカッ

和「……」ヘナッ

ゆみ「(なんだこれは――!?)」

智美「(偶然じゃ……ない!?)」





 ざわ……
   ざわ……

和「……」
 
 これで京太郎の逆転トップである
 ここにいる誰ひとりとして予想しえなかった状況

 誰もが困惑し、動揺を隠せない中――

桃子「い、異議ありっす!!」

 すばやく我に帰った桃子が割って入る

京太郎「……なんだ?」

桃子「さっきから後ろで見ていたっすけど、今の和了には不自然なところが……」

睦月「無い」キッパリ

桃子「い、いや!」アセアセ

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「モモ、どういうことだ?」

桃子「その男、聴牌してからずっと3sを待ちにしていたっす!」

京太郎「それが何か問題なのか?」

桃子「問題って……だって、待ちを変えることはいつでも出来たハズ!」

 そう、3sだなんてものよりもっと出そうな待ちはいくらでも出来た
 場に一枚出ている中や北……などなど
 少なくとも3sよりは出やすい待ちがあった筈なのだ

桃子「なのに、どうして……?」

京太郎「どうしてって、和が3sを持ってるからだよ」

和「!!」ガタンッ!

 と、ここでとうとう和に限界が来る

 京太郎の度重なる挑発、言動に冷静さを取り繕っていたが
 流石にここまで言われて黙っているわけにもいかない

和「説明してください! どうして分かったんですか!?」

京太郎「えー? 残り二局もあるのに?」

 そう、仮にトリックがあるにしても
 それを教えてしまえば次からは利用できない

 教えるとしても終局後――そう考えるのが普通だ





ゆみ「気持ちは分かるが、それは直感や能力の類ではないのだろう?」

京太郎「いや、まぁ――」

和「そんなオカルトありえません。何か仕掛けがある筈です」キッパリ

京太郎「んんー、まぁそうなんだけどさ」ポリポリ

和「でなければ、私が――須賀君なんかにっ!」ワナワナ

京太郎「……」


睦月「あー、怒らせたねー。うむ、私の事本気で怒らせちゃったよ……」オープンアップ

佳織「あ、あわわわっ……」


京太郎「あーもう、分かった。分かったよ」オテアゲ

和「!」

京太郎「種明かししてやるから、そう怒るなよ和」ニッ

和「……」キッ

京太郎「可愛い顔が台無しだぜ、な?」ニコニコ


睦月「うっ、ひぐっ……ぐすっ……」ポロポロッ

桃子「(はやっ!?)」ビクッ


和「やめてください。虫唾が走ります」ギロッ


睦月「……あ?」スクリュー ブリザート!

佳織「」ガタガタブルブル


ゆみ「では一時中断し、須賀君の話を聞こうか」

京太郎「とは言っても、大した仕掛けじゃないですけどね」ポリポリ

 そして京太郎は卓の上の牌を集めて説明を始める
 須賀京太郎の”理”

 それは、恐るべき異端の策の上に成り立っていた



ゆみ 25000

和 28100

智美 9300

京太郎 37600

 
京太郎「まず一局目から順を追って説明します」

ゆみ「ああ、頼む」

京太郎「まず東一局、俺はいきなりベタオリを見せましたね」

 そう、和の現物ばかり差込み
 まるで和了る気配を見せない闘い

京太郎「みんなにはそう映ったかもしれないけど、アレは俺なりの闘いだった」

智美「俺なりの闘い……?」

京太郎「……俺はある【方法】で和の牌の傾向が大体分かっていたんです」

和「やっぱりイカサマを……!」

ゆみ「まぁ待つんだ。最後まで聞こう」

智美「それで?」ワハハ

京太郎「ですが、実戦でそれを試したことがない。だから、それが通用するか確かめたんです」

桃子「つまり、ベタオリしながら様子見――?」

京太郎「ああ。それで和がリーチした時に、俺はそれを試した」

 和の手牌を理解しているなら、放銃を避けることは容易い
 その結果が――あの時の危険牌打ち

京太郎「結果として大成功。それは通り、俺は確証を得ました」

ゆみ「なるほど――その後の現物切りは目的達成の証というわけか」

京太郎「それもありましたし、和にとっては意味不明な打ち方をすることも目的でした」

和「!!」

京太郎「混乱したろ?」ニカッ

和「っ~~!!」ギリギリッ

桃子「(おっぱいさんの目が血走って怖いっす……)」ビクビク

京太郎「和がツモった後のアホ発言も、まぁ……和のペースを乱す為です」

ゆみ「結果としては、更に本気にさせてしまったようだが……」

京太郎「いえ、そんなことありませんよ」

ゆみ「何?」

京太郎「あの挑発のお陰で、和は自分でも気づかない程に動揺してました」

和「そんなことっ!!」

京太郎「してたさ。だからこそ俺はあの東二局で勝負に出た」

 七対子での7s待ち
 ドラを切っての、予想を裏切る攻撃

京太郎「ドラなんてどうでもよく、最初から俺は和の7sを狙ってたんだ」

和「……」

ゆみ「確かに、7sが分かっているのならあの打ち方にも納得が行く」

智美「その後のアホな振る舞いは演技かー?」

京太郎「お恥ずかしながら」ポリポリ

桃子「(こ、コイツ……!?)」

ゆみ「そして続く東三局は私の和了だったが?」

京太郎「東場で和了を重ねても、俺が警戒されちゃまずいので……それでちょっと」




 今は格下と侮られている(事実その通りなのだが)京太郎が
 もしも東場で荒稼ぎしたらどうなるか?

京太郎「和を油断させたまま、混乱だけを積み重ねたかった」

 その為に自分はのらりくらりと和を躱し、
 逆にゆみに和了を譲ることでその場を凌いだ

ゆみ「だが東四局では原村に譲っていたな?」

京太郎「あれは出来れば蒲原さんか加治木さんに和了って欲しかったんですけどね」アハハ

智美「申し訳ないぞー」ワハハ

桃子「そこは別に謝るとこじゃないっすよ」

京太郎「でも、それで東場で俺から直撃を取れなかったという事実を和に突き付けた」

ゆみ「直撃を?」

京太郎「和のスタイルは別に狙い打つようなスタイルじゃありません。でも――」

 その東場が終わった後に京太郎が見せた挑発
 それは――自分が和から直撃を取るというもの

京太郎「これで和は相当動揺した筈だ。俺からの直撃なんてとんでもないって」

和「……」

京太郎「本人は気丈に振舞って打っているつもりでも、どこか俺を意識してしまう」

和「してませんっ!!」

睦月「そうだそうだ!!」

京太郎「えーっと? それでまぁ、和はいささか保守的な動きにならざるを得ない」

 それは普段の和のデジタル計算機の――僅か1%を狂わせたにすぎない
 だがその1%にこそ、勝機がある

京太郎「それで迎えた南一局。和が染めている気配を見せた瞬間――計画はスタート」

ゆみ「……」

京太郎「まずは和の和了牌が5sだと予想した俺はまず4sを切り――」

和「だからそんなことは不可能だとっ!」ガタッ!

桃子「お、落ち着くっすよ!」アセアセ

京太郎「……はぁ、分かった」オテアゲ

和「えっ?」

京太郎「最後まで引っ張ろうと思ったけど、そこまで言うなら先に教えるよ」

和「……お願いします」

京太郎「じゃあ、あの時の和の鳴きの形はこうだろ?」


【和の鳴き】
 678s 111s 222s

【和の捨て牌】
 5m、2p、72m、59p、3s、西、1p


ゆみ「ああ、間違いない」

京太郎「この鳴きを完成させる前に和は一度、蒲原先輩の4sに反応しています」

智美「ああ、覚えてるぞ。正直ヒヤヒヤしたけどなー」ワハハ

京太郎「この時4sは俺が一枚、場に一枚、そして蒲原さんの切った一枚が見えていました」

ゆみ「つまりポンではなく、チー」

京太郎「234s、345のチーは俺が3sを三枚、和が一枚切ってるからありえない」

智美「考えられるのは――56sのチーだな」

京太郎「その後和はある牌”X”をツモって9sを切った」

和「……」

京太郎「つまり、Xをツモる前の和の牌の形はこうなります」カチャカチャ

 569s X

京太郎「Xの牌が何か、可能性は四つ」

 6s 7s 8s 9s  

京太郎「まず9sの場合、この形なら蒲原先輩の4sで和了だ。見逃す必要が無い」

桃子「9sじゃないってことっすね」

京太郎「次に6sの場合ですけど、これも不自然なことがある」

ゆみ「6s切りの数巡前に確か、3sを切っていたな」

京太郎「そのとおり。もし3sなら和はその時点で35669sとなるから、切るなら普通は9s」

 この局面で聴牌を崩す必要性など皆無だからだ

京太郎「なら次は7sだけど、5679sならさっきの4s鳴きの反応が不可解になる」

智美「単騎待ちの上に、ツモによっては両面待ちにできるからなー」ワハハ

京太郎「そうなると残るは――5689s。つまりXの正体は8sで決まるってわけだ」

和「……」ワナワナ

京太郎「和、俺の考え……間違ってるか?」

和「いえ、ここまでは正解です」

 ざわ……
   ざわ……

睦月「うむ、かっこいい……//」フラフラバターン

 ギャー! マタキゼツシター!?
 マタカ!? ウワァァアンン!

ゆみ「(な、なんて奴だ……!?)」

 まるで非の打ち所のない的確な推理
 恐ろしい程までに研ぎ澄まされた”理”の打ち方

智美「凄いな、普通にデジタルも打てるんじゃないかー?」ワハハ

京太郎「あはは、【師匠】がいいんですよ。【師匠】が」

和「で、ですがっ!」ダンッ

京太郎「ん?」

和「そこまでは認めます。しかし、5689sからの9s切りは二通りある筈ですよ」

智美「確かに7sをツモっての5678sか、8sをツモっての5688sと二通りあるな」ワハハ

 7sをツモっていれば58sが待ちとなり、8sをツモっていれば47sが待ちとなる

和「これでどうやって7sか8sか特定できるんですか!?」



和「これでどうやって7sか8sか特定できるんですか!?」

 そうだ
 これが特定できない以上、4s切りは50%の確立で死亡するギャンブルと同じ

和「結局は運だけで――」

京太郎「いや、違うよ」

和「え?」

京太郎「言っただろ。俺の”理”で勝負するってさ」ニカッ

 京太郎は胸を張って言い切る
 100%の確立で、4sが通ると確信していたと

ゆみ「しかし、どうやって――」

桃子「聞きたいっす」

 その京太郎の自信に――誰もがその種に関心を寄せていた
 先ほどまで、意味不明な素人と思っていた人間の”理”

 この場はもう、京太郎に対する興味のみが渦巻いている

京太郎「と、その前に――一つ、いいですか?」

和「……?」

ゆみ「……なんだ?」

 突如、解説を遮り――視線を上げる京太郎
 その先にいるのは……原村和

京太郎「……俺は、麻雀部に入部してからほとんど打たずに雑用ばかりで過ごしました」

和「っ……」 ズキッ

ゆみ「ああ、知っている」

京太郎「俺には優希みたいな東場で強くなる力も無いし、部長の悪待ちなんてものもない」

 ただ、弱かった
 なんの力も持たず、なんの成果も得られず

京太郎「咲みたいな能力も当然無いし、染谷先輩みたいに豊富な知識があるわけでもなかった」

 暗闇
 弱者に位置づけられた自分に、這い上がる術など何もないと思っていた

京太郎「正直、何度もやめようと思ったし……辛い日々だった」

和「……」ブルブル

京太郎「でもな和。お前なんだ」

和「……わた、し?」

京太郎「お前が俺に、光をくれたんだよ」

 オカルトに負けず、自分の打ち方に自信を持ち
 誰が相手でも効率を重視した完璧なデジタルをやり遂げる


 オカルトに負けず、自分の打ち方に自信を持ち
 誰が相手でも効率を重視した完璧なデジタルをやり遂げる

京太郎「だから俺は――ずっとお前に憧れてた」

和「私に、須賀君が……?」

京太郎「その日から俺、家でも部活でも、ずっとお前の打ち方を真似してたんだよ」
 
 当然、そんなに甘いわけでもなく
 勝率なんて少なく――ネトマでも負け越すことの方が多かった

京太郎「お前のビデオを見て、過去の牌譜も暗記して――ずっと幻影のお前を追っかけてた」

和「そこまで――」

京太郎「勿論、和みたいに凄い計算ができるわけじゃないから――弱いままだったけどさ」

桃子「(さっきの理詰めでも十分凄いっすけど……確かにおっぱいさんには劣るっすね)」

京太郎「それで、ある日気づいたんだ」

ゆみ「気づいた……?」

京太郎「和の打つ時のクセ、ツモり方が――目に焼き付いて離れないってことに」

和「!!」ドクンッ

京太郎「そんな俺からしたら――7sツモか8sツモかなんてハッキリ分かる」

ゆみ「どうやって……?」

京太郎「無意識だったんでしょうね。和の奴――ツモった牌をひっくり返したんです」

一同「!!?」

京太郎「5689sは上下対称。ひっくり返す必要なんて無い」

 つまり――あの時に和が引いた牌
 それは確実に7s

京太郎「だから俺は5678sでの待ち、58sが和了牌だと分かったんだ」

和「……じゃ、じゃあ!」

京太郎「ああ。今までの局でお前の手が分かったのもほとんどはこれ」

 配牌時に――ツモった時に
 整理し、回転させ、位置を整える

京太郎「俺はお前がどういう傾向で並べてるのかよーく知ってんだ」ニッ

和「そ、そんな――」

 これが須賀京太郎の”理”
 デジタルでは和に及ばないものの、その場の空気――対戦相手の気配を察知し
 
 相手の手牌を予想する
 それは――和のデジタルよりも、恐らく精度の高いもの

ゆみ「(原村限定とはいえ――なんて男だ!?)」

桃子「(勝負への覚悟、執念がまるで違う……)」ゾクゾクッ 

和「どう、して……?」ジワッ

京太郎「……」

和「す、須賀君は……悪い、男の人、なのにぃ……どう、じで……」ポロポロッ

 和は戸惑っていた
 目の前の男は自分にいやらしい視線を寄せ、挙句に胸を賭けに要求するような男
 他の男――あのクラスの男子達となんら変わらない存在、そのハズだった

 なのに、どういうことだ? 
 雑用をしながらヘラヘラ鼻の下を伸ばしていたと思っていた彼が、陰でこんなにも努力していた
 自分に憧れてデジタルの道を学び、ここまで成長していた
 こんなにもまっすぐな瞳で、麻雀に向き合っているではないか 



和「わ、わたっ……私……」ブルブル
 
京太郎「俺さ、ずっと好きだったんだ」

和「ふぇっ?」

 しんと静まり返る部室
 京太郎が発した言葉――その一言が周囲の雑音を消し去ったのだ

京太郎「和――」

和「須賀……くん?」 

京太郎「俺は確かに、スケベで弱虫で――麻雀も弱い、役立たずだ」

和「……」

京太郎「お前の事を性的な目で見てたし、正直――何回オカズにしたか分からねーくらいだよ」

和「っ!!」ゾクッ

 やっぱり、同じなのだろうか?
 あのいやらしい人達と、須賀京太郎も――

 そう、和が思った時である

京太郎「でも、でもな……」

 それは――
 和が一度も見たことがないような優しい笑顔

 嘘偽りの無い、穢れなき光

                     /イ         /    V ヽ、    `
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                   / イ  / /| 弐_ V | /   __}/   _ヽ
                     | / , :  ー':, ∨/   イ乎(_ ヽV |
                    ∨ {/ '   / /      Vzソ   V}
                    {   、                 リ
                         ∧   `
                        、
                         ∧ `
                         |l∧      ̄         <
                          「´∧           ´
                        .:'//>--==≦ゞ
                      ////////\        /
                       /////// /   ∧
                        {/////〈/{   / |      //,
                       ∧//// ∨、  ,   }   ,://
                       {// ∧// ∨V{  |  「 ̄/´///
                     ///,'/ ∨/ ∨V〉 ' r/ |//////
                       /// {///∨/ ∨{  r,/ ///////
                     {///|////////V__/ ////////
                    rく///|//////r=ミ// イ////////
 
京太郎「和。俺は一度だってお前を”身体だけで”見たことなんかねぇよ」


和「……!」



京太郎「可愛くて、おっぱい大きくて、それでいて堅物なくせに、仲間想いで――」

和「……」ツーッ

 言葉にすればいくらでも出てくる
 須賀京太郎が好きな、原村和という少女の特徴

京太郎「なんかいい匂いして、少女趣味で、俺の麻雀の手本になってくれて――」

 京太郎はなおも、続ける
 無理やりのようなものも、長所と言えないようなものもひっくるめて

 次々と、和にその言葉をかけていく
 
京太郎「他にもえーっと、うん。まぁたくさんあっけどさ。一つ言わせてくれ」

 彼の他に、誰も言葉を発しない
 ただその行く末を見届けたいと――誰もが思った

京太郎「誰が、お前の”身体”だけに惚れるかってんだ!」

和「っ!」ドクンッ

京太郎「俺はな、お前の全てをひっくるめて好きなんだよ!」

和「!!」ドクンッドクンッ

京太郎「勝手に値打ち下げてんじゃねぇ!」プイッ

和「あ、うぁっ……//」カァァア

 超が付くほどのどストレートな言葉
 それは、なんの打算も無い――ただただシンプルな想いの叫び

京太郎「……」チラッ

ゆみ「……//」モジモジ

智美「わ、ワハハ……//」テレテレ

佳織「はぅ……//」ドキドキ

桃子「……//」ポーッ

睦月「Zzzz……」スヤァ

  ,,‐´ __                      ゝ
∠-‐´,, -‐' ´   ll     ll   ll    ll   ll ヾ
  / ll   lll    ll    ll   lll   ll   ll ヽ

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   ::::::::::/::::::::::::::::::0:|  ヽ   /  /:::::::::::::::::::::::\:::::::::::|

アカギ「……」ソワソワ

 この時アカギ、意外に純情




和「え、えっと……// そのっ……//」モジモジ

 突然の愛の告白に戸惑う和
 今までに数多くの告白を受けてきた百戦錬磨の和だが、
 こんな情熱的な告白は初めてなのだから無理もない

和「~~~っ!」ギュゥゥゥ

エトペン「」ブチブチブチィィィィィィィッ!!

 あまりの興奮と衝撃からか、思わずエトペンを握りつぶす和
 中身出そうになってる? 知らんな

京太郎「……とまぁ、こういう感じで和の手牌の一部は分かってました」ポリポリ

 と、一方の京太郎はいささか罰の悪そうな顔で話を戻す
 そりゃこれだけの人数を前にして告白まがいをしたのだから当然だ

ゆみ「あ、ああ。分かった、痛いほど理解したよ」ニヤニヤ

智美「あぁー、愛のなせる技だぞー」ワハハ

佳織「(あぅぅ、気絶していて助かったよぉ)」ホッ

睦月「うむ……」スピー

桃子「(あれ、どうしてっすかね。なんだか胸が……)」バクバク

京太郎「後は約束の直撃を取る為に、5mの赤を見逃しました」

 あの状況で智美、ゆみが降りることはなんとなく予想できた
 となると引っかかるのは強気で勝負してくる和くらいだろう

ゆみ「南二局の3s待ちは?」

 狙いすましたように和の3sを七対子で待った
 ただ牌を予想できても、必ず切る保証など無いハズだ

京太郎「ああ、それも原理は同じです」

ゆみ「というと?」

京太郎「和は早くに、加治木先輩の4sで鳴こうか悩んだんですよ」

和「!?」

智美「?? そんな気配あったかー?」

ゆみ「いや、私は感じなかったが」

和「そうです。あの時は慎重に行動していたので、分かるハズがありません」

 そう言い切る和
 しかし京太郎は首を横に振って否定する

京太郎「ツモる時の指だよ」

和「指……?」

京太郎「和の牌をツモる動作はすごく綺麗だ。毎回ブレなくまっすぐに牌の中心を掴んでる」

ゆみ「そう言われると確かにそうかもしれないが、だからどうした?」

京太郎「その時は和の奴、鳴こうか悩んだ4sに視線を送っていたんで手がずれたんですよ」

一同「???」

京太郎「つまり、よそ見しながら牌をツモろうとして、いつもより左に流れた部分を掴んだんです」


 ○=指  ●=牌
   
 ○○       ○○

 ●●  →   ●●
  ○        ○

和「そ、そんなっ!?」



京太郎「他家の河から察するのに4sポンじゃない。となると3567sの牌形が分かる」

 つまり、そこの牌溢れとなりえる3sを狙った
 その為に待ちを変えやすい七対子に絞って

ゆみ「し、しかし……そんな小さなこと!」

京太郎「だから、言ってるだろ」

和「……」ドキドキ

京太郎「俺は、ちゃんと”和”を見てる」ジッ

和「ぅぁっ、ぁぁ……//」ドキドキドキドキ

 顔が熱い
 心臓が早鐘のように鳴り響いている

 平常心を保てない
 顔がにやけそうになるのを、必死にこらえていなければならない

和「(私、どうして……?)」

 分からない
 この気持ちがなんなのか?

 考えれば考える程
 目の前にいる須賀京太郎を見つめれば見つめるだけ――動悸は激しさを増していく

ゆみ「なるほど……それが君の”理”ということか」タラッ

京太郎「納得して頂けましたか?」ニッコリ

ゆみ「ああ。正直言うと言葉が出ないよ」

 今まで彼女達の京太郎への評価など、ただの荷物持ちでしかなかった
 大会ではいいとこ無しだと聞いていたし、それは変えようのない事実である

京太郎「……」

ゆみ「(何がきっかけで化けたのか分からないが――この男!?)」 ゾクッ

智美「(精密なデジタルをベースに、ラフプレイに心得もある)」

桃子「……」ジィー

京太郎「まぁ、対策するのには観察が必要だし。和以外にはそうそう通用しませんけどね」アハハ

 この間の竹井久達との対戦でもそうであった
 久はラフプレイに慣れているし、まこは京太郎よりも技術が上
 優希は沈黙していたが、最初の東場で暴走されていたら手遅れであっただろう 

 つまり、最初からまともにやりあって勝てる相手は和くらいなもの

京太郎「だけど――和にだけは負けない自信があった」

和「はぁっ……はぁっ……//」ギュッ

 須賀京太郎の”理”は和の”理”を制す
 それは同時に和の中の何かを変えるキッカケとなる



ゆみ「しかし、困ったな」

 正直言うと、ゆみも含めてここにいるほとんどが京太郎のイカサマを確信していた
 だが実際はそうでなく京太郎は確かな対策を持って和に挑んでいたのだ

智美「ああ、これじゃあ残りの二局……京太郎君が不利だなー」ワハハ

 種を明かされた手品ほどつまらないものはない
 あの原村和に、同じ手はもう通用しないだろう
  
京太郎「まぁ、約束した以上。最後まで俺の理で挑みますよ」

 例え勝算が薄いと分かっていても
 それでもいい

京太郎「俺は和に認めて欲しかった。こんな”シセン”もあるってこと」

和「あっ……」ハッ

京太郎「だから、もう勝ち負けなんてどうでもいい」ニカッ

和「須賀君、まさか……?」 

 そして和は気付く
 あのまとわりつくような視線への嫌悪感

 それがもう綺麗さっぱり消え去っている

和「(まさか、あんな賭けを持ち出したのも?)」

 胸を賭けた闘い
 和の中で京太郎の評価は最低値にまで落ちていたが――今ではむしろその逆

 もしかすると京太郎は、身を持って教えようとしたのでないだろうか

京太郎「男はみんなスケベなもんさ。そりゃ中にはマジでろくでもない奴もいるけど、でも……」

和「……須賀君」ドクン

京太郎「お前が魅力的過ぎるのも悪いんだぜ?」ハハハ

和「……フフ。そう、ですね」クスッ

 笑った
 原村和が――ついに笑みを見せた

京太郎「(ああ、これでいい)」

 須賀京太郎は最初から、勝つつもりは無かった
 この闘いの中で和に道を示し――その抱えている闇を照らしてあげられれば、それで

京太郎「……じゃあ、残り二局。打つか」

 もっとも、勝機の見えない戦いである

 京太郎が”理”で戦う限りの話だが

和「待ってください」

京太郎「ん?」

和「この勝負は私の負けです」

ゆみ「何?」

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「和、お前?」

 突然、負けを認める和に一同が騒然とする

和「私の理は須賀君の理に負けました。それは代わりのない事実」

 最初に取り決めた約束
 和はそれに破れた、挙句にその弱点を指摘してもらう始末

和「ですから、私の負けです」



京太郎「和、お前はそれでいいのか?」

 京太郎からしてみれば、和がここで敗北を認める意図が分からない
 いくら意地があるとはいえ、負ければ胸一つを賭けると言っている勝負だ

和「……はい」コクッ

 迷いの無い瞳で京太郎を見る和
 だが逆に、京太郎が首を振って否定する

京太郎「それはダメだ、和」フリフリ

和「!? どうしてですか!?」

京太郎「俺が認めない。勝っていない勝負の景品なんか、なんの価値にもなりゃしねぇ」

和「須賀君……」ギュッ

京太郎「だから俺は続けるぞ」チャッ

 勝ちの目があるから勝負するんじゃない
 勝ちたいから勝負をする

京太郎「……」

和「……分かり、ました。ですが須賀君、お願いがあります」

京太郎「なんだ?」

和「須賀君には――何か、不思議な力のような、オカルトめいた物が……ありますよね?」

一同「!?」

和「残り二局――須賀君、本来のスタイルで打って貰えませんか?」

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「和、お前……?」

和「須賀君が藤田プロを倒したのは、恐らくこの方法じゃありませんよね?」

京太郎「……ああ」

和「お願いします。それなら、まだ勝負は分かりませんから」

京太郎「でも、それは……!」

 京太郎本人の実力ではない
 あの【神域】の男の知恵を借りた――偽りの闘牌だ


 京太郎本人の実力ではない
 あの【神域】の男の知恵を借りた――偽りの闘牌だ

京太郎「俺の、力じゃ……」

アカギ「クク……いいじゃねぇか京太郎」スッ

京太郎「(アカギさん!? いたんですね)」ビクッ

 京太郎の悩みを掻き消すように、ゆっくりとアカギが姿を現す
 その顔はどこか誇らしげである

アカギ「京太郎。お前は明らかにこの女を上回った、それは事実だ」

京太郎「(でも、今はもう違います)」

 京太郎の指摘で和は以前のような隙は見せなくなるだろう
 かといって全力で挑んでも地力の差で敵わない

アカギ「……お前が逆なら、どうだ?」

京太郎「!!」

アカギ「女の意地、通してやれねぇような男じゃあんめぇ」ニッ

京太郎「はは、本当にお爺ちゃんみたいだ」ボソッ

アカギ「フフ……」

京太郎「(でも、お陰で目が覚めた)」

 和が望むなら、自分の持てる最大の力で戦うしかない
 それが例え――

アカギ「退屈してたところだ。さぁ、やるぞ」

 悪魔の力でも

京太郎「分かった……やるぞ、和」

和「……須賀君!」パァァッ

ゆみ「話はまとまったようだな」

智美「じゃあ、続けるぞー」ワハハ

桃子「……須賀、京太郎。須賀京太郎、須賀京太郎……」ジッ

佳織「ど、どうなっちゃうんだろう?」ドキドキ

睦月「う、うぅむ……」スヤァ

  
京太郎「和……」

和「はい」

京太郎「これから打つのは……俺であって俺じゃない」

和「……」


 和はその言葉の意味がよく分からなかった
 だけど、その時和にはハッキリと見えた




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アカギ「……」ニヤリ

京太郎「……」

和「(そう、それが須賀君の――)」

 一瞬の出来事
 瞬きをする間に消えてしまったけれど、和にはそれで十分だった

京太郎「それでも、許してくれるか?」

和「ええ、勿論」ニコッ

 そこからの勝負は――
 およそ、現実とは思えない程の闘いであった

京太郎「……」


 その打ち筋は独特で、誰も真似が出来ない


アカギ「クク……的が外れてやがる」

ゆみ「そんな……!?」

智美「こ、こんな打ち方――!」

和「ああ……須賀君。これが、これがアナタの――目指してる道なんですね」


 まぎれもなく天性の博才


京太郎「和……その牌だ」

和「……私の、負け。ですね」


 鶴賀学園で行われた須賀京太郎と原村和の意地を賭けた対決
 その結果は――須賀京太郎の勝利

 終わってしまえば、圧倒的な点差である




ゆみ「ああ、しかと見届けた」

智美「ワハハ、強かったなー」

桃子「須賀京太郎……///」ポーッ

睦月「う、うぅーむ」

佳織「あれ? 待ちを変えて? あれ? あれれ?」チンプンカンプン

 
 須賀京太郎の勝利を見届け、それぞれ思うところがあるようだ
 ある者は恐れ、ある者が感心し、ある者は憧れを抱いた

 だが、それでも京太郎は満たされない
 
 なぜならこれは――自分一人で掴んだ勝利じゃないから


京太郎「……それじゃあ、俺。帰ります」ガタッ

 スタスタ

和「待ってください、須賀君!」

 ガチャッ バタンッ

和「っ!!」タタッ



【帰り道】


京太郎「……」

 タッタッタッタッタッ!

和「須賀君!!」ザッ

 ピタッ

京太郎「……和」

和「はぁ、はぁっ……ま、まだ。終わっていません」ゼーゼー

京太郎「……」

和「しょ、賞品を――渡して、いないじゃないですか」カァァ

京太郎「賞品?」

 それは――原村和の胸
 はっぱをかける為だけに持ちかけた条件である


和「……その、須賀君になら……//」モジッ

京太郎「……悪い、和」

和「えっ?」

京太郎「今の俺には、それを受け取る資格がない」

アカギ「……」

和「で、でも!」

京太郎「それは好きにしてくれ。だけど、たった一つ望むならこれかれはもっと自信持てよ」 

和「……そ、そんな!」

京太郎「……」クルッ

 そのまま踵を返して去ろうとする京太郎
 だが、和はなぜか引き止めていた

和「行かないでくださいっ!」

京太郎「……」

和「わ、わた……私は!」

 ここで引き止めないと、手遅れになるような気がした
 もう二度と――以前の須賀京太郎には会えなくなる

 そんな――予感

和「私はアナタが好きです!!」

京太郎「……っ!」

和「だから、だから――お願い、します」ポロッ

京太郎「……」

和「胸でも、どこでも……好きにして、いいですからっ」ポロポロ

京太郎「……和」

             ___/ ̄ ̄\_
         ,  ´        <⌒
        ,:'            `ヽ、
       ,                \_
                      \ } ̄´
        '              ,  \
      / ,          |/} ∧ }`ー`

       {∧          「ノ|/}/イ
      '  、       | /`/ } '
         } ∧     /イ   /
         |' ,} \__/イ__ /
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        _,.{///////////|

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  |//// }////////l!///////////////}/////}

 京太郎は振り向かない
 その顔を見せないのは、一体どういう意図なのか?


 ただ一つ、分かっていること
 それは……


京太郎「敗者に、そんな資格は無いだろ」

和「っ!!」

京太郎「俺が欲しけりゃ、いつでも勝負してやるよ」

和「勝負……?」

京太郎「お前が勝てば、好きにしていい」ザッ


 歩き出す
 これまでの甘えを捨て去るように――強くなる為に


 好きな人すらも、犠牲にして


京太郎「俺は今よりも、もっと強くなる」

 大会で強者と闘い、喰らい
 自分の強さの糧として――いつかはあの男を越える

 それが、須賀京太郎の目標だから


和「だったら……私も、強くなります!」


京太郎「……」


和「だから、待っていてください! 必ず、須賀君を手に入れてみせますから!」


 それは本心からの叫び

 ”完璧”である原村和に唯一欠けるもの――


和「私は……! 私は須賀君を追いかけます!」


 愛を、手に入れた瞬間だった

 
京太郎「……」スタスタ




~~~~~


アカギ「クク……よかったのか?」

京太郎「……んー? 何がですか?」

アカギ「惚れてたんだろ、アイツに」

京太郎「ええ、まぁ。それなりに」ポリポリ

アカギ「ふーん……。折角の童貞を捨てるチャンスを不意にしたってわけだ」

京太郎「それは……うん。もういいです」

アカギ「あらら……」

 一人の少年と、一人の幽霊は歩く
 夕日が落ち、朝と夜の狭間の影の中で――

京太郎「ヤるときゃ自前でやりますよ。酒と女は自前って言うじゃないですか?」

アカギ「フフ……分かってきたな」


 今日も、明日も
 これからも――

 二人は共に歩いていく


京太郎「しっかし、今日の闘牌。あれどうやったんですか?」

アカギ「お前にはまだ早い」

京太郎「チャンタって言うんでしたよね。あれかっこいいですよ!」


 いつか、お互いに戦うことになるその日まで
 どちらかが、本物の【無頼】となるその時まで


京太郎「ところで字牌を逆さまにしろって指示……あれチャンタの合図?」

アカギ「当たり前だバカ。気づくのが遅い」ハァ

京太郎「うぅ、ちくしょー」


 須賀京太郎と赤木しげる
 二人の男は、運命的な出会いの中でともに戦いに身を投じていく

 次の相手は――仮か、本物か


京太郎「あぁ……強くなりてぇーなー」

アカギ「ククク……」


 いずれにせよこの二人


京太郎「でもなにより、勝負がしたい!」グッ

アカギ「ああ、それでいい」ニヤッ


 向かうところ、敵無しである



 https://www.youtube.com/watch?v=9w-6faO_AxE



>>235だけど
リーチ(1)、チートイ(2)、赤ピン(1or2)、裏ドラ(チートイだから2)
これ、6-7飜だから跳満じゃね?



【次回予告】

 須賀京太郎と原村和の意地を賭けた闘牌は、須賀京太郎が勝利を納めた

 しかし――
 それを不服とする者がいる

男子A「テメェをぶっ殺してやる」

京太郎「へぇ……」

男子B「調子づいてんじゃねぇぞ!!」

京太郎「……イラつくんだよ、テメェら」
 
 今までと別人のように変わりつつある京太郎

咲「京、ちゃん……?」

アカギ「あらら」

 そして遂に
 大切にしていた絆さえも

京太郎「俺はもう、お前の知っている奴じゃない」

咲「……」

 儚く崩れ去っていくのみ

アカギ「クク、緊張しているのか?」

京太郎「いえ……武者震いですよ」

 男は踏み入れる
 一度入れば二度と引き返さない、闇の奥底へ

智葉「裏の世界へよく来たな」

京太郎「……アナタが相手でしたか、辻垣内さん」

智葉「噂の実力……試させて貰おう」


 次回

――エモノ――


智葉「(なぜだ、なぜ私を無視する――!?)」

京太郎「その牌に当たる価値は無い」

アカギ「フフ」




>>290
 おっと、手直しで更にミスってら
 赤ドラはいらないですね


 ジャラッ

京太郎「ロン。リーチ、チートイ……よし! 裏ドラも乗った!」クスッ

和「なっ……」

京太郎「ハイ、御免でした。満貫頂き!」イェイ

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「7sで地獄待ち……?」

智美「おもしろい待ちをするなー」ワハハ

 一同が騒然とするのも無理は無い
 先ほど和が考えた思考がそのまま、裏をかかれた形となるのだから


 遂に修正が追いついたのこれまで
 ぬわぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉん

 察しの方もいるかと思いますが、オリジナルなんてろくなことにならないので
 これからはアカギや天以外の闘牌もパクって行きます

 主に御無礼さんからの流用が多くなるかもしれませんが
 そこのところはどうかご容赦ください

   



 鶴賀での運命の対局から明けた翌日
 勝負に敗北した原村和は、実に晴れ晴れしい表情で部室に顔を出していた

 今までの憑き物が取れたような顔つきに
 誰もが――彼女の身に何かがあったことを悟る

久「結果は満足だったようね、和」

和「……はい。私の完敗でした」

 牌を整理しながら、朝練に没頭する和
 同じく朝早くから来ていた久とまこに、昨日の出来事を話す

和「私は、全国での優勝で目的を無くしていました」

 加えてあの出来事――
 和の心は拠り所もなく、ただ虚空の中を漂うばかりだった

和「でも、今は須賀君は私の目標です。彼に追いつく為に、私はやれることをやりたいんです」

久「ふふっ、それは麻雀のこと? それとも別の意味かしら」

和「両方です」

まこ「おぅ? 和が馬鹿正直に答えるとは驚いたのぅ」

和「私は須賀君のことが好きです。胸を張って、そう言い切れますよ」

久「あらあら、優希が聞いたら大変よ?」

 親友同士で男を取り合うなど、フィクションの中だけで十分だ
 しかし和は意に返すことなくこれまた平然と

和「ゆーきにはもう伝えました」

久「えっ?」

和「フェアに勝負したいので」

 あっけらかんとした物言いだ
 呆れてものも言えないのは、久とまこの二人である

まこ「ベタ惚れじゃのぅ」

久「ベタ惚れねぇ」

和「ベタ惚れです」クスッ

 あの堅物の後輩が、こうも柔軟になったことは喜ばしいことではある
 だが同様に、どうしても懸念しなければならないことも

 それは――

久「あの馬鹿ども、ね」

 原村和親衛隊
 彼らがこの事実を知れば――京太郎は無事では済まない

久「くれぐれも、他で口外しないようにね」

和「はい。勿論です」

 少女達は気付かない

 仲間内だけで共有する秘密
 それは鉄のように硬く守られるものだと、愚かな勘違いをしている

 なぜならその鉄の絆さえも


優希「……」コソッ


 内側から徐々に錆び付いていることに
 気づけていたいのだから



【清澄 校舎裏】

 和の対局後
 一体どこから情報が漏れたのか、清澄高校ではとある噂が立っていた

 それは須賀京太郎が原村和を制し、正式に大会への出場権を手にいたこと
 そしてもう一つ
 

 勝利した京太郎に対し、原村和が好意を抱いている――


 そんなこと、当然彼女の親衛隊が見過ごす筈もなく
 京太郎は朝早くから、学校の校舎裏に呼び出しを受けていた


男子A「……!」

京太郎「……」ザッ

男子A「ふーん。本当に来るとは驚いたな……」

男子B「へへっ」

男子C「よし、ついてきな」

 
 原村和親衛隊
 勝手にそう名乗り、彼女に近づく男子生徒を排除するゴミ共

 以前までは某教師の後ろ盾もあり、息巻いていられたが
 竹井久の金玉トゥーキックを受けて、教師Aは一名を取り留めたものの

 金玉を摘出し、彼はオカマとなってしまった

 今日はその報復も兼ねている


男子A「おらぁ!」ベキッ

京太郎「っ!?」ドサッ

男子B「よく来た……えっ……? よく来たよ……」

 キンッ!

京太郎「ぐっ……」ッ…ツツ……

男子C「おい、頭はやめろ! 死んじまうぞっ…!」

男子A「ふん。かまうこたぁねぇよ。こんなガキいつくたばろうと……」

 ヒュッ カッ!

京太郎「……」ドッ 
 
 ガクッ…


男子A「フフ…悪いがオレはまだ未成年だ。人ひとりころしたってどうってこたぁねぇ」

男子B「ガキどうしのケンカのもつれだ…」


>>406
 いないのだからのミスですね


男子B「どうした須賀、戦わなきゃ自分の身は守れねえぞ……!」

男子A「テメェをぶっ殺してやる」

京太郎「へぇ……」

 すると、今まで殴られる一方だった京太郎がゆっくりと立ち上がる
 鋭い眼光に狂気を孕んだ表情

 しかし、目が曇っている彼らに
 それを見極める術はない――

京太郎「クク……まだ……足りねぇよ」

男子C「あ?」

京太郎「いくら未成年でも、三人も殺したらマズイだろ?」

 平然と
 まるでファミレスでメニューを注文する時のようにスラスラと

京太郎「なんとか正当防衛だって言い訳が通用するレベルに傷を負わないとな」

 ざわ……
   ざわ……

男子C「は、はぁ?」

男子B「調子づいてんじゃねぇぞ!!」

男子A「くく……なんて言った? え……?」

 バキッ!!

男子A「えっ…? なんて言った? ……なんて言ったんだ……?」ドカッ
 
 ビシッ バキッ

男子A「このガキ……!」

男子C「おいっ、やめろよっ!」

男子B「やめろっ……!」

 殴られ、叩かれ、蹴られ
 血反吐を吐きながら、京太郎は耐える

京太郎「……」フラ

男子C「やめろっ……て……」

男子B「お前も謝れっ…! こいつ切れると何をするかわからねぇ!  謝れっ……!」
 
京太郎「……イラつくんだよ、テメェら」ボソッ

男子A「このぉっ……!」







警官A「警察だ!」

警官B「取り押さえろ!」


男子A「え?」

男子B「……?」

男子「は?」



男子A「うわぁ!?」

男子B「なんでこんなところに!?」

警察A「なんだこの鉄パイプは? 証拠物件として押収するからなぁ~?」ネットリ

警察B「君、大丈夫か?」

京太郎「ええ。ありがとうございます」

男子C「て、テメェ! どういうことだ!?」

京太郎「馬鹿じゃねぇの。昭和じゃねぇんだから、今はケータイってのがあるんだよ」 プラプラ

 京太郎がポケットに忍ばせていたのは通話中の携帯電話
 これでずっと、会話を流していたのだ

男子A「このガキ!!」

警察A「おとなしくしろ!!」

男子A「ぐぅっ! ひぃっ!」

京太郎「クク、切れたセンは繋がったかい?」

 警察に取り押さえられ、子供のように怯える親衛隊達
 彼らはこれから、未成年を強制する施設

 【人間学園】に送られ、真っ当な好青年に育てられることであろう

京太郎「こんなヤロー殺しちまえってことは、自分もおなじ目にあっても構わないだろ?」

 もっとも
 死ぬよりも辛い目に合わせた方が、いい場合もある

 これから先
 前科者として、学歴も中退どまりで生きていく哀れな人生を思えば

 哀れみすら覚える、愚かな男たち

京太郎「そうだろ? そういう意味なんだろ…?」

男子A「ひっ! 許してくれ! こんなつもりじゃ……!!」

>>407
一名取りとめた……
片ほうは残ってるのかな?


>>423
 そうだよ(震え声)




京太郎「フフ……オレがまだ中学の頃……」

 アレは電車に乗っていた時のことだ
 朝練の為にいつもより早く出て、通勤ラッシュの時間にモロかぶりした

京太郎「痴漢を取り押さえたことがある。躊躇したこともある」

 だが、泣いて震える少女を見過ごせなかった
 たとえ取り押さえた男が、妻子を持つであろう中年の男でも

 社会的地位を数十年かけて気づいてきたであろう
 幸せを享受すべき人間であろうと

京太郎「…今…そんな気分だよ……」

男子A「た、助けっ!」

男子B「いやだぁぁぁっ!!」

男子C「ママァァァァ!!」

警察A「で、では署まで連れて行きますので」

警察B「追って連絡します」

京太郎「どうも、お疲れさんっす」


 こうして、原村和親衛隊なる馬鹿な組織は終わりを迎えた
 これで和の肩の荷もいくらか降りるだろう


アカギ「クク……優しいこった」

京太郎「あら、見てたんですかアカギさん」

アカギ「オレならもっとスマートにやるよ」

京太郎「スマート(物理)じゃ、ちょっと動きにくい時代なんすよ」

 昔と違い、今は色々と厄介事が多い
 それに、ただボコリ返しただけでは、和の身の安全は確保できないから
 
アカギ「ま、そういうところはおいおい教えてやるよ」

京太郎「アカギさんが言うとすごく頼もしいですね」

 滴る血を拭い、京太郎は校舎裏から出る
 このまま授業に出てもいいが、この一連の騒ぎの後ではどうも居づらい

 ここはサボるに限る



 校庭では引きづられて、連行されている親衛隊が多くの生徒に囲まれていた

 彼らの横暴さには周囲の人間も思うところがあったのか
 誰もが口々に馬鹿にした声をあげ、笑い声を抑えようともしない

京太郎「そんじゃ、燃料投下っと」ポチッ

 最後の仕上げとして
 先ほどの親衛隊の音声をアップして拡散する

 当然、自分の都合の悪いところは録音していない

京太郎「これで俺に対する風当たりも少しはマシになるか」

 殴り返しては悪いイメージが更に広がるだけだ
 あくまでこちらは一方的な被害者

 そうすることで、京太郎の印象はよくなり
 引いては麻雀部での噂も、落ち着いていくことだろう

京太郎「新しい機種は使いやすいな、このスマホ」スイツィー

アカギ「なぁ京太郎。すまほってなんだ?」

京太郎「スマートなフォンですよ。画面をこうやってタップするんです」

アカギ「へぇ、そいつは初耳だ」

 まるでおじいちゃんに物を教える孫である
 けれど、こんな関係が妙に心地いい




優希「……」

 と、ここで京太郎を物陰から見つめる少女の姿があった

 片岡優希
 彼女もまた、須賀京太郎に想いを寄せる少女である

優希「こんな筈じゃなかったじぇ」

 
 なぜ、原村和が須賀京太郎に好意を抱いていることが噂になったのか
 どうして京太郎があの三人に襲われることになったのか

 それは一人の少女の 
 

優希「私が、私だけが味方だって……証明するつもりだったのに」


 欲に満ちた思い込みによるものだ



 そんな裏切りを知ってか知らずか
 京太郎は騒然とした校庭の脇を抜けて、校外へ出る

京太郎「さーてと。どうすっかな」

アカギ「……フフ。暇か?」

京太郎「なんですかその顔。何かロクでもないこと考えてません?」

 何やら含みを帯びたアカギの表情に、京太郎は一歩引いて構える

アカギ「そう構えるな。お前にいい場所を教えてやるよ」

京太郎「いい場所?」

アカギ「ああ。それは――」

 言いかけるアカギ
 しかし、それを遮るように……

咲「京ちゃん!!」

 京太郎の旧知の友が、姿を見せた

京太郎「咲?」

咲「はぁ、はぁ、どうしたの? ケンカしたって聞いたよ!?」

京太郎「ケンカなんてしてねぇよ。一方的に殴られただけだ」

 肩で息をする咲を見るに、どうやら血相を変えて駆けつけたらしい
 何も知らず、ちやほやされていただけの咲には

 この事実は受け止められないだろう

咲「酷い。すぐに病院に行かないと」

京太郎「いいってこれくらい。屁でもねぇよ」

咲「だ、だったら学校に行こうよ。どこに行くつもりだったの?」

京太郎「どこでもいいだろ。この状況で教室に行けるわけないだろ?」

咲「でも! なんか最近の京ちゃん、変だよ!」

京太郎「!」

 自分が変?
 それはどういう意味なのか?

咲「麻雀が強くなってから、京ちゃんが京ちゃんじゃないっていうか」

京太郎「……」

咲「こんなのおかしいよ。クラスメイトと喧嘩して、怪我して、こんなの京ちゃんじゃないよ!」

 京ちゃんじゃない
 それは、何も知らない咲だからこそ言えるセリフだ

 虐げられ、悩み、苦しんできた京太郎のことなど考えない
 身勝手なセリフ

 つまり彼女はこう言いたいのだ

咲「私は! 前の京ちゃんの方がよかった!」

 弱い頃のアナタに戻って、と



 ブチッ



京太郎「ふ、ふはは……あはははっ!」


咲「京、ちゃん……?」

アカギ「あらら」

 何もかもが壊れたように感じた

 自分がこれまで必死に守ろうとしていた絆が、友情が
 こんなカタチで裏切られるとは思ってもいなかった

京太郎「俺は、お前にとってそういう扱いなんだな」

 弱くて、情けなくて、いつも優しい友達
 優越感を感じつつ、不快感も無い……そんな友達

咲「ちがっ、そうじゃないよ。ただ、前の京ちゃんはもっと!」

京太郎「咲」

 一言
 ただ――名前を呼んだだけ

 それなのに、以前とはまるで違う
 威圧感と、重みを含んだ声

京太郎「俺はもう、お前の知っている奴じゃない」

咲「……」ゾクッ

 黒く濁ったように思える瞳は
 よく見れば濁ってなどいない

 ただ純粋に黒いのだ

 闇を見通し、染まってしまった黒

 彼は今まさに、決意を固め――

京太郎「立ってる場所も、価値観も、目指す場所も」



 羽化を迎えたのだ


京太郎「お前とは違う」

咲「っ!」

アカギ「……」ニィッ



咲「京ちゃん……?」

京太郎「じゃあな咲。それと、大会は俺と出るんだぞ」

 背を向け、足を進める
 振り返りはしない

 もうそこに、彼の求める光は無いから

咲「大会? 待って! どういうことなの!?」

京太郎「……」

 答える必要も無いこと
 今の京太郎にとって、居心地がいいのは闇の世界

アカギ「クク……いいのか京太郎?」

京太郎「ええ。覚悟決めましたよ」

 だから

京太郎「行きましょうかアカギさん」

アカギ「行く? まだどこかも教えてないぞ」

京太郎「構いませんよ。アナタが導いてくれる場所なら、そこは面白いに決まってる」

 それはいつからだろうか?


 一人で久達三人と戦った時

 藤田靖子を下した時

 原村和を倒した時


 それとも、目の前の男に出会った瞬間からだろうか

京太郎「勝負したいんです。もっと、胸の奥が焼け付くような」

 チリチリと身を焦がす勝負
 それを求めている自分がいる

 ただの麻雀ではなく、もっと

 もっともっと、地獄に歩み寄った戦いを

アカギ「フフ……いい顔だ」

 アカギは笑う

 それは自分が楽しいからなのか
 それともまた、違う意味なのか 

 わからない
 自分自身でもきっと、彼は理解していない

アカギ「後悔するなよ?」

 ただ、確信めいていることがあるとすれば

京太郎「勿論です」

 須賀京太郎という男は紛れもなく
 

 強くなる




【都内 某所】


智葉「……終わりだ」

黒服「お見事ですお嬢」

 裏麻雀
 組同士のゴタゴタや、揉め事に使われる勝負は日夜行われている

 これはその勝負の中の一つだった

智葉「弱すぎる。もっとマシな相手が欲しい」

黒服「申し訳ありません。マッチメイクしたいのは山々なのですが――」

 数多くの代打ちと勝負してきた辻垣内智葉だが、これまで一度も負け無し
 今宵もまた、彼女の勝利で終わったのである

黒服「オヤジから、一流の相手との勝負は禁じられておりまして」

智葉「なんだと?」

黒服「失礼ながら、お嬢でも勝てる見込みが薄い相手ばかり。組の損失を防ぐ為にもと」

智葉「……」

 この忠実な男が、ここまで言うのだ
 恐らく事実だろう
 
 それほどの実力差が、彼女と一流の裏プロの間にある

 そのことが、何よりも悔しい

智葉「一流ですらそれほどの高見とは。なら【神域】とはどのようなレベルなのか」

黒服「私はよく覚えています。あの華麗な打ち筋、他を寄せ付けない圧倒的なセンス」

智葉「……」

黒服「誰もがアカギさんに憧れました。まして、あの東西の決戦においては……」

智葉「その話はもう聞き飽きた。それより、例の噂は調べてくれたか?」

黒服「あ、はい。どうやら、本当のようですね」

智葉「……本当、なのか」

 近頃、裏に顔を見せ始めたという若い少年がいる
 その少年、最初はパっとしない打ち筋なのだが、妙に粘り強さがあるという

 ここまではただの肝の据わった少年なのだが、局が進むとそれは一変する

智葉「あの【神域】を思わせる打ち筋を見せるらしいな」

黒服「そのようで。実際に居合わせた者の話では、まさにアカギさんそのものであったと」

 鬼神の如き強さで勝負を納め
 いつしか彼はこう呼ばれるようになっていた

智葉「【神域の再来】……か。面白い」

 自分とそう変わらぬ歳の少年
 彼がどれほどの強さか、肌で感じてみたい

智葉「私が言いたいことはわかるな?」

黒服「はい。これなら組とは無関係なので、用意出来るかと」

智葉「……楽しみだ」


 【神域の再来】
 その実力、果たして本物か否か――






【某県 裏雀荘】

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「ふぅ、危なかったぁ」

アカギ「クク……ギリギリもいいとこじゃない」

 あの揉め事より数日後
 京太郎はまともに学校に顔を出さず、雀荘での勝負に明け暮れていた

 アカギの見極める目がいいのか、これまで相手してきた連中はみな京太郎が倒してきた
 ひとり、またひとりと倒すたび
 
 京太郎は確実に強く成長していった

 そして、たまにアカギが自分で打つと言い出し裏プロを指名する
 その場合は最初に京太郎が打ち、経験を積んでからアカギに交代

 文字通り、【神域の再来】である
 
京太郎「しっかし、なんか異常に金ばっかり溜まっていくんすけど」

アカギ「金なんてどうでもいいだろ」

京太郎「買いたかったもんなんでも買えますねこりゃ」

アカギ「フグ刺しでも頼め」

京太郎「毒が怖いです」ガタガタ

アカギ「おいおい、何言ってんだか」

 余裕の表情で談笑にふける二人
 そこへ、一人の客が顔を出した

 カランカラーン

?「……」

 その女は些か性格がキツそうに見えるが、大層な美人だ 
 ただ一つ、普通と違う点があるとすれば

 それは彼女が車椅子を押しているということであろう

アカギ「……!」

?「あら、大層強い男がいると聞いてきたんだけど」

京太郎「?」

?「どうやら人違いだったわ。私が探してる男じゃない」

 そんな言葉を残し、女性はすぐに店を出て行った
 残ったのは疑問だけである

京太郎「なんなんすかね今の人」

アカギ「運がよかったな京太郎」

京太郎「え?」

アカギ「アレとやってたら、お前は負けてたな」

京太郎「マジっすか」

アカギ「ああ。間違いない」

 アカギが出れば話は別だが
 今の京太郎では手も足も出ない相手であることは間違いないかった



 ピピピピ

?「……もしもし?」ピッ

智葉『お久しぶりです」

?「あら、智葉。また稽古を付けて欲しい?」

智葉『いえ、そうではなく。例の噂のことなんですが』

?「ああ、【神域の再来】ね。今ちょうど会ったところ」

智葉『!」

?「●●という店にいるから、会いたければ急ぐのね」

智葉『……師匠は戦わなかったんですか?』

?「私が興味あるのはあの男だけ。他は眼中に無いもの」

智葉『いずれ……そちらも手合わせしたいです』

?「妬いちゃうから、遠慮願いたいけど」クスッ

 だが、この時
 この車椅子の女性はかすかに感じ取っていた

 恐らく、教え子はあの男を追うことにはならないだろう
 なぜなら

?「アナタにはお似合いの相手がいるわ」ピッ

 この子はあの金髪の子と戦うから
 そうすればきっと、あの日の自分とおなじ末路を辿るに違いない


?「……つぅ。私も早く会いたいものね」

 
 あの男――人鬼に


 


 
 というところで一旦区切るって、それ一番言われてるから
 次がVS智葉編 

 車椅子の女性は知る人ぞ知るネタみたいなものなので、深く気にせんでええです
 本筋とは全く関係ありませんし、多分もう出てこない

 対局入るので少し間を挟むかもですが
 まぁ気長にまたーりお待ちください

           ,!   ハ             ヽ
        ,,‐ ./   / 从|i、.|  |  r       \ `ー    / ̄
.ヽ_-、 .ー彡 _/:::::::::/ / l::::} \l::::::|::::::(:(::::《:《::::\_二ニフ::::::::::(

:::::::::::::::::::::::.ー彡::::::::::≧必__丿ノ ノ \\  入ヽヽ斗\ヽ:ヽ、::::::::::ヘ_
: ''―::::::::l::::l. ゙l゙l. i::::/ 弐ヲ 弋+デ─寸\\キセ+ナテ) )l:|::::::l::::::::::_ ノ

:::::::::::::::yくヽ\l゙l.゙l.゙l  `  ── " ノ  )Τ  ―<////l l l::::::::::::::::\
::::::::::::::ヽ ( ゙l ゙l゙l |.ゝ             |      .ノノ//:::::\  ̄ ̄ヽ   そわ・・・
::::::::::::::::::\_j リ l レ             l       //:::::::::::::ぐ ̄       そわ・・・

 /::::::::::::::::|゙!彡゜    U         l      /:::::―----ヽ、

彡ソ'/  i、 | く                l     /::::::::::`ニン
   l.::从,.弋 ヽ           ⌒ '"      ./::::::::::::ミ
   乂 l|lヽ  ヽ、     `''ニニ''''''''''''''''フ″  /: :lリ \l   (出番まだかな・・・?)
      |三:.\  ヽ         ̄ ̄ ,,.    /ソノ
      |三三 >,,, ヽ       ゙"''''""    /
     ノ三三三三>ミ\            イ
  斗≦三三三三三三三≧          付
≦三三三三三三三三三三三>     ノ三式_
三三三三三三三三三三三三三三三三三三|三三三≡≡==ー-


 智葉さんとの対局イメージがどうしても上手くいかないので
 もう少しお待ちを

 まんまパクリでいいならすぐなんですがね……

>>585
 出していいの?
 アカギさんと傀さんのハイブリッド京太郎を生み出しちゃうことになりますけど?

 
 


 とりあえず智葉と対局する手前までの展開を投下しときます

 対局は恐らくまんま流用になると思うんですが
 一応アカギの打ち筋と違う理由付けも踏まえて描写しますお


【都内 某所】

靖子「……」

 あの日――

 全てはあの日から狂った
 知り合いの子に頼まれて、学生と卓を囲んだ、

 だが――
 ただの初心者だと聞かされ、油断して挑んだ相手は化物


 天江衣?
 宮永照?


 そんなレベルではない
 もしかすると、あの人を上回る実力を持った――

?「靖子ちゃん?」

靖子「あっ……小鍛治さん」

健夜「久しぶり。最近試合に出てないけど、何かあった?」

 自分の知る限り、もっとも強いだろうと尊敬していた人
 そんな人が目の前にいるのに、靖子の心情は微塵も揺らぐことはない

靖子「噂……知ってますよね?」

健夜「う、うん。靖子ちゃんが子供に敗けたとかなんとか」

靖子「事実ですよ」

 嘘偽りなく言ってのける
 隠す必要なんてない

 それほどまでにあの勝負は――

健夜「で、でも子供相手だから手加減を……」オロオロ

靖子「全力でした。全てを出し切った上で、私は敗けたんですよ」

 完敗だった

 


健夜「そうなんだ。す、凄いねその子」
 
靖子「……これは、あくまで私の見立てですけど」

健夜「?」

靖子「あの子は小鍛治さんより強いですよ」

健夜「!」

靖子「では、私は調べたいことがあるので」

 健夜を置いて、靖子は歩き出す
 あてなどない

 しかし、知らなければならない

 あの少年の正体――
 その力の源流を

靖子「このまま……終わると思うな」ギリッ






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        rく´ / / \                  /ヽ ヽ¨ヽ、




健夜「私より強い……かぁ」

 


   第五話
 ――エモノ――

【夕暮れ 某雀荘】


京太郎「よし、ロン!」

おっさんA「いやぁこれで和了られるとはなぁ」

おっさんB「兄ちゃんやるじゃねぇか」

 車椅子の女性が立ち去ってから数時間後
 京太郎はなおも快勝――勝負の流れは完全に掴んでいた

京太郎「これでひーふーみー……おぉ、200万行った!」

アカギ「……」タバコスパー

京太郎「ねね! アカギさん! これタネ銭にして、どでかい勝負やりましょうよ!」

アカギ「へぇ、例えば?」

京太郎「丁半博打とかやってみたいんですけど!」キラキラ

 目を輝かせる京太郎
 彼はもはやギャンブルの虜だった

 あるいは、ギャンブラーに憧れる少年そのものか

アカギ「……いや、やめておけ」

京太郎「え?」

アカギ「クク、ろくな思い出がないんでね」

 どこか含みを帯びた笑いを見せるアカギ
 昔、何かあったのだろうか――

京太郎「でも、ここいらの人はみんな倒しましたし」

 この近辺でまともな雀荘はここしかない
 田舎雀荘の打ち手では既に京太郎のレベルには届かないのだ

アカギ「焦るな京太郎。お前は確かに強くなったが、まだまだ三流だ」

京太郎「いや、そりゃあアカギさんに比べれば俺なんて……」

アカギ「なに?」

京太郎「でも、こんな俺でもアカギさんみたいになりたいんですよ」

 卑下するように自嘲を浮かべる京太郎
 だがそれを一喝するように、アカギが声を挙げる

アカギ「アホか? 誰に比べてだとか、今の実力が、なんて話じゃねぇ」

京太郎「え? それってどういう意味ですか?」

アカギ「ま、知りたければ自分で考えろ」

京太郎「そうですね。頑張ります」

 この頃アカギの京太郎に対する態度がいささか厳しい
 それは、彼の成長を見越してのことなのだろうが

京太郎「(アカギさん、俺のこと嫌いなのかなぁ)」

 当の本人は見当違いも甚だしいことを考えていた
 憧れを抱き、理想と仰ぎ見る男――アカギ

 彼に対する京太郎の想いが、どこかズレてしまっていることを
 アカギは既に感じ始めていた



アカギ「根元は悪く無いんだが、枝が間違って伸びちまったらしい」

京太郎「え? 枝ですか?」

アカギ「しょうのない奴だ」ハァ

 どこか落胆した様子のアカギに京太郎はショックを受ける
 こんなにも勝利し、成長し

 徐々にアカギに近づいているというのに、何がいけないのだろうか

アカギ「どうしたもんか……」

 周囲を見回すアカギ
 しかし、この男に灸を据えられそうな相手はいない

 かくなる上はと、アカギが腹を決めようとした――ちょうどその時である


 カランカラーン

 ゾロゾロゾロゾロゾロゾロ

京太郎「!!」

黒服A「いたぞ! アイツだ!」

 黒服に身を包んだ、どう見てもカタギではない男達
 それが十人ばかりで一斉に雀荘に踏み込んでくる

 周囲を騒然とし、誰もが怯えるように部屋の隅へと逃げ出した

京太郎「あ、あの?」

アカギ「クク……面白くなりそうだ」

 この二人を除いては


京太郎「あ、あの? 一体なんですか?」

黒服B「我々に付いてきてもらおう。嫌とは言わせない」

京太郎「え、でも」

 突然のことに狼狽えるしかない京太郎
 もしかすると、この雀荘で勝ちすぎたのが問題だったのか――

黒服C「大人しく付いてくれば問題ない。さぁ、どうする?」

京太郎「……どうしますアカギさん?」ヒソヒソ

アカギ「ついて行け。これも社会勉強だ」

京太郎「どう見ても裏社会勉強ですよこれ」ヒソヒソ

 しかし他に選択出来る筈もなく
 京太郎は渋々と男達について行った

 これから何をされるのか、一抹の不安はあるものの

京太郎「(本物の、ヤクザ――か)」

 この危機的状況とは裏腹に、どこか興奮している自分がいる
 それはアカギも同様なのか
 
 普段とは違い、どこか機嫌がいいようにも見える


黒服A「さぁ乗れ。あの方がお待ちだ」

京太郎「あの方?」

 訳がわからないまま、黒いジャガーに乗せられる京太郎
 中は思ったより快適である

黒服N「じきに到着する。少しの間辛抱してもらおう」

京太郎「はい」

 素直に同意し、外の景色に視線を移す
 果たしてどこへ連れて行かれるのか――
 
アカギ「……」




【東京 某料亭】


黒服A「ここだ」

京太郎「はぇ……」

 夜になり、到着したのは東京のとある料亭前だった
 とても高そうな店で、普通なら京太郎が足を踏み入れる機会すら無かっただろう

黒服B「中でお嬢がお待ちだ。失礼の無いようにしろ」

京太郎「お嬢?」

 ヤクザのお嬢、と聞いて一人の女性が思い浮かぶ
 全国大会にて、少しだけ話したことがあるあの人だ

京太郎「まさか、な」

アカギ「行くぞ京太郎」

 頭を抱える京太郎を置いて、アカギは悠々と料亭の中へ入っていく
 それに続き、慌てて京太郎も入る

京太郎「うわぁ、すげぇ」

 豪華な日本庭園に面食らいながらも、そのまま廊下を進む
 他に客はいないのか、会話の一つも聞こえない
 
 怪訝な面持ちで歩いていると、案内の黒服が立ち止まる
 どうやら、この部屋にお嬢とやらがいるらしい

京太郎「……」ブルッ

アカギ「クク、緊張しているのか?」

京太郎「いえ……武者震いですよ」

 ガキでも分かる
 この先にいる人が自分をわざわざここへ連れて来た理由

 襖を隔てた先から感じる、殺気にも似た敵意

京太郎「俺と、勝負したがってる人がいる」

 ガラッ

 ゾクリッと
 喉元に刃を突きつけられたような感覚

 京太郎を見据える二つの眼が
 
智葉「裏の世界へよく来たな」

 今、ゆっくりと開かれた




京太郎「……アナタが相手でしたか、辻垣内さん」

 辻垣内智葉
 以前、全国の会場で迷った時に――少しだけ話したことがある人だ

智葉「ああ。こちらも驚いている。まさか、君が【神域の再来】だったとは」

京太郎「【神域の再来】?」

智葉「知らなかったのか。今、裏で有名になっている噂だ」

 座敷に用意された卓
 京太郎は智葉の対面に腰をおろし、じっと彼女を見つめる

智葉「あの赤木しげるが現代に蘇ったと、人々は噂している」

 ドクンと、胸の鼓動が高鳴る
 派手にやりすぎたのか、自分がそんな風に有名になっていたとは

智葉「以前話した時には素人レベルだと話していたが?」

京太郎「ええ。でも、今は違いますよ」

 だが、どんな状況であれ、やる事は変わらない
 京太郎は既に臨戦態勢で望んでいた

 アカギの名を背負う以上、負けられぬ戦いだ

智葉「ふっ、いい闘志だ。しかし解せないこともある」

 メガネを外し、美しい黒髪を解く
 流れるような美の光景に、思わず京太郎はハッと息を飲む

智葉「私の見立てでは、せいぜいマシな打ち手程度。とても【神域】には及ばない」

京太郎「っ」

 それは紛れもない事実だった
 京太郎はアカギに憧れ、模倣し、成長しているとはいえ

 まだまだ一流とは程遠い



智葉「違うか?」

京太郎「試してみますか?」
 
 図星を言い当てられ、わずかな怒気を含んで京太郎が睨み返す
 しかし、智葉はどこ吹く風でそれを受け流している

智葉「私は赤木しげるに憧れ、勝負したいと思っている」

京太郎「え?」

智葉「無論、故人だから直接の対決は不可能だ。でも、その再来と呼ばれるお前ならあるいはと思った」

 ガッカリだと、智葉は呟く
 その視線は、まるで軽蔑するように京太郎を見下していた

智葉「私が用があるのは赤木しげるだ。呼んでおいて悪いが、帰ってもらおう」

京太郎「待ってください。俺はまだ――」

智葉「なんだ?」

京太郎「戦ってないのに、勝手に俺を値踏みしないで貰えますか?」

 確かにアカギには遠く及ばないかもしれない
 だが、自分とてここまで何もしてこなかったわけじゃない

京太郎「やりましょうよ。俺は、必ずアナタに勝つ」

智葉「……」

 交差する視線
 今まさに、勝負の火蓋が切って落とされるのか?

 そう、思われた瞬間である


アカギ「クク……的が外れてやがる」


 唐突に、アカギが口を挟んだ 
 


京太郎「(アカギさん?)」

アカギ「黙って聞いていれば、アカギがどうだの、実力がどうだの」

 まるで見当違いだと
 アカギは鼻で笑う

アカギ「お前もだ京太郎。さっき俺が言ったことを、よく考えろ」

京太郎「(さっき言ったこと?)」

 誰に比べてだとか今の実力が、なんて問題じゃない
 確かアカギはこう言った

アカギ「何を頼ってる? 自分に自信が無いから、人を言い訳に使うのか?」

京太郎「!」

 と、ここで気づく

 京太郎自身が陥っていた

 否、京太郎だけでなく――辻垣内智葉や
 あの井川ひろゆきさえも陥っていたことに

京太郎「……あぁ、そうか」

 カチリ、と
 頭の中で何かが噛み合う

 それは――今まで須賀京太郎をアカギに寄せていた何かが
 別の【ナニカ】と繋がった瞬間


京太郎「……」

智葉「どうした? 何をボソボソと言っている?」

京太郎「辻垣内さん。ありがとう」

智葉「何?」

 危うく自分もおなじようになるところだった
 アカギに憧れ、アカギを模倣し、アカギになることを望んだ

 でも、それじゃダメなのだ

京太郎「……」 

 脈打つ鼓動か?
 或いは胸に宿った新たな決意の片鱗か?


 引き寄せる


京太郎「(俺は【アカギさん】になりたいんじゃない)」
 

 圧倒的なオーラ
 先ほどまでの、並の雀士レベルではない

京太郎「(俺が目指すのは【神域】のその先にある)」

智葉「(別人のように、雰囲気が変わった。まさか、コイツ)」

 何もかもが数分前とは違う
 ザワザワと髪がたなびき、京太郎は険を孕んだ人相で笑う

京太郎「……打てますか?」ニィ

智葉「噂の実力……試させて貰おう」

京太郎「……」




 京太郎とアカギ以外、この場には智葉と黒服しかいない
 だというのに、不思議なことにたった一人だけ


 誰からも見られず、気にも止められず


 ただただ、部屋の角で腰掛けて――卓を見つめる影がある


アカギ「……」


 気づいているのはこの男だけ
 自分と同じく、この世の理から離れ――生きるナニモノか

 その化物が今、一人の少年に目をつけたのだ

         |                               \
         |                           \     \
         |                /\ \ \    \\ \\.  ヘ
         |       /  /|   /  .\ \ \|\  ヽ \ ヽ \ ∧
         |     / / ./ / /     ∨ .ヘ \|ヽ ! .! !   !  ∨ |
         | γ´|  |//  //‐-、    /ヘ .|\∧ |ル | |ヽ .|   ∨
         | |  ∨ .|  -ニ/____ ヽ   /ィャ,ヽ|´|| | |  レハ.! | !
         | ‘、 ヽ .|  ` 、_ゞソノ` )  K  `´  !! レ    | .|/
       ,_´∨ ヽ | |        / `、`、   .||`ヽ、__

      /´ `ヽ  `¨ .!             、 、  //:::::::::::::::::::::::::ト......、
   /::::!`¨ i   i   >ヽ             、 、 /レ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  /:::::::::ト -'.   ト、/  ヾ          r_.    ∨::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ト
/ィ´ ヽ:!     |:::ヘ 〆 ヽ  _ ____ ‐ -、 `、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
/      .|    |:::::::y    Y  ヽ        〉-´:∧:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
`ー、   リ    |:::::/     リ   ├- 、:::::::  /::::::::::::∧::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
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::::::::::::::::∧         i     /     !   !::::::::::::/::::\∧:::::::::::::::::::::::::::リ


アカギ「クク……アンタも俺と同じか?」


                 -──-
             イ:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:>x
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         ≧:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i;i:i:i:i:i:i乂__
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         /ニ寸     r      | /:i:i:i:i:i:iく
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二二二二二二二二二二二>\ __ /    _Tニ1          _
二二二二二二二二二二二二>匕{    ) | Y/`ヽ       ___
二二二二二二二二二二二二二二二≧ .//   ム匕7     ー┼ァ
二二二二二二二二二二二二二二二二//       <ヽ.      │
二二二二二二二二二二二二二ニニニニイ {      .八|     | |
二二二二二二二二二二二二二二ニニ∧      /          ノ
二二二二二二二二二二二二二二二二}       /ニ
二二二二二二二二二二二二二ニニニニ/     /二二ニ-

二二二二二二二二二二二二二二二ニニ=-  /く二二二二ニ-
二二二二二二二二二二二二二二二二二二ニ/二二二二二二ニ
二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二ニ-

傀「……」


 須賀京太郎
 彼に芽吹く、新たな力

 それは果たして、彼をどのように導いていくだろうか――



 ぬわぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉん!
 
 ここで傀さんの登場
 京太郎は今、神域と人鬼の二つの間で揺らいでいます

 どちらへ成長していくのか
 それとも、二つとも違う道を進みだすのか

 それは誰にも分からない(見切り発車)



※ぶっちゃけ、天シリーズとむこうぶちくらいしかまともに読んでませんので、これ以上お友達は増えません


 VS智葉編いきます
 細かい勝負はともかく、雰囲気を感じとってくれたらいいなと思いつつ

 ちなみに智葉の後は何も考えてないので
 戦わせたい人とかいたら、リクしてもええんやで(他力本願)




【都内 某料亭】

 月灯りを暑い雲が隠す夜
 今、一つの勝負の火蓋が切って下ろされようとしていた

京太郎「……」

 【神域の再来】と噂される須賀京太郎

智葉「……」
 
 そして、某組織のお嬢と呼ばれる辻垣内智葉
 
黒服A「……」ゴクッ

 見守るのは智葉の部下にあたる黒服達
 さらに、京太郎以外知ることの出来ないモノが一人

アカギ「クク……」

 そして残るは一人
 アカギの他、京太郎すらも気づいていないかもしれない

 謎の男

傀「……」

 この勝負の行方――
 鍵を握るのは誰なのか



智葉「では、まずはルールの確認だ」

京太郎「……」

智葉「東風五回戦。異論はあるか?」

京太郎「いえ、それで結構です」

智葉「そうか。それで肝心の面子だが……」

 京太郎の他で、この場にいるのは辻垣内智葉の身内だけ
 それでは実質三体一となってしまう恐れがある
  
智葉「公平になるかどうかは分からないが、この手の勝負を好む打ち手を用意した」

 そう言って智葉が指を鳴らすと
 襖を開けて二人の男が入ってくる

 見た目は中年そのもの
 どうやら、野良の雀ゴロのようだった

智葉「どうだ? 誓って私の息はかかっていない相手だが?」

京太郎「……相手に問題はありません。ただ、一つ条件があります」

智葉「条件?」

 京太郎は智葉の質問に答えるように
 懐から200万円を取り出した

京太郎「一回戦につき、ビンタ10万の勝負……いかかですか?」

アカギ「へぇ」

傀「……」

智葉「何!?」

雀士A「ビンタ10万だと!?」


※ビンタとは
 
 終局時、特定の点数(25000点がポピュラー)未満の者が、それ以上の者に倍額払う特殊な差し馬

 10万円の配原ビンタの場合、4着が配原未満、3着が配原未満、2着が配原以上、1着が配原以上の場合
 4着は3着に10万円、2着とトップに20万ずつ
 3着は2着とトップに20万ずつ 
 2着は1着に10万支払うことになる


雀士B「それを俺達にもやれっていうのか?」

雀士A「そんな話聞いてないぞ!」

智葉「少し、静かにしてもらえませんか?」

雀士AB「「!」」



 ヤクザに囲まれた状況で
 一人の少年から飛び出した賭けの条件

智葉「須賀、それは本気で言ってるのか?」

 それは、ヘタをすれば京太郎の命にも関わりかねない問題である

京太郎「ええ。アナタが乗ってくれるのであれば」

黒服A「貴様! 調子に乗るなよ!」

智葉「待て」

黒服B「!」

智葉「分かった。受けよう」

 智葉、意外にもこれを了承 
  
智葉「ビンタとは考えたな。これならそこの二人も、自分の勝ちを狙いにいかざるを得ない」


 つまり、仮に二人が智葉の差金だとしても
 ビンタが絡んだことで、手を抜くことが出来なくなるというわけだ

雀士A「だ、だけど待ってくださいよ。あんたらみたいな組もんとビンタなんて」

雀士B「金はともかく。命がいくつあっても足りねぇよ」

 そして当然この二人は渋る
 しかし、智葉は促すように続ける

智葉「誓って、約束を反故にはしない。敗けた分もきっちり払おう。なんなら、誓約書を書いたっていい」

雀士A「!」

智葉「どうだ? 子供二人相手にビンタ勝負……儲けどきだと思わないか?」

雀士B「そ、そういうことなら」

雀士A「まぁ、いいけどよ」

 智葉と京太郎
 二人を侮っているのか、雀士達は下卑た笑みを浮かべる

 頭の中では既に勝利の光景が浮かんでいるのかもしれない

京太郎「では10ビンタで」

アカギ「……」

 東風五回戦
 ビンタ10万の勝負

 二人の意地を賭けた戦いとは別に、金の匂いも絡むものとなった

 なぜ京太郎はそんな勝負を持ちかけたのか
 それは――彼自身気づいていない心の内で

傀「……」クス

 この男の影響を受け始めているからに他ならない



智葉「では席順はこうだな」

 東 雀士A
 南 京太郎
 西 雀士B
 北 智葉

京太郎「……」

雀士A「じゃあ始めるぞ」

 こうして始まる東一局
 まずは雀士Aが牌を切る

アカギ「流れを掴んでるな、京太郎」

 アカギの言う通り、京太郎は絶好の配牌
 他の面子も手が早いが京太郎はそれ以上に良ツモを重ねるのだ

京太郎「……」タンッ

雀士B「……」タンッ

智葉「……」チャッ

 不思議な静けさが場を包む
 そして、動きが見えたのは5巡目

智葉「(いいツモだ)」 

【智葉の手牌】 ツモ5p  ※ドラ8m

 34588m 24678p 34s 

黒服A「(流石はお嬢。手も速く、打点も高い)」

 僅か5巡目でこの手牌
 裏で研磨されてきた腕は、恐らく全国大会の頃よりも遥か高見に登っているだろう

智葉「……」タンッ

 2p

京太郎「ロン。1300」

 11666m 13556677p

智葉「!」

 だが、それよりも速く京太郎が手を作る
 運の成せる技か、それともまた別のなにかか

黒服A「(惜しい! もう一手早ければお嬢が!)」

智葉「……」チャラッ

アカギ「アンタはどう見る?」

傀「さぁ……」


京太郎 26300

智葉 23700

雀士A 25000

雀士B 25000


お嬢、少牌してね?


>>663
 6pが対子でしたお
 申し訳無いお


智葉「では席順はこうだな」

 東 雀士A
 南 京太郎
 西 雀士B
 北 智葉

京太郎「……」

雀士A「じゃあ始めるぞ」

 こうして始まる東一局
 まずは雀士Aが牌を切る

アカギ「流れを掴んでるな、京太郎」

 アカギの言う通り、京太郎は絶好の配牌
 他の面子も手が早いが京太郎はそれ以上に良ツモを重ねるのだ

京太郎「……」タンッ

雀士B「……」タンッ

智葉「……」チャッ

 不思議な静けさが場を包む
 そして、動きが見えたのは5巡目

智葉「(いいツモだ)」 

【智葉の手牌】 ツモ5p  ※ドラ8m

 34588m 246678p 34s 

黒服A「(流石はお嬢。手も速く、打点も高い)」

 僅か5巡目でこの手牌
 裏で研磨されてきた腕は、恐らく全国大会の頃よりも遥か高見に登っているだろう

智葉「……」タンッ

 2p

京太郎「ロン。1300」

 11666m 13556677p

智葉「!」

 だが、それよりも速く京太郎が手を作る
 運の成せる技か、それともまた別のなにかか

黒服A「(惜しい! もう一手早ければお嬢が!)」

智葉「……」チャラッ

アカギ「アンタはどう見る?」

傀「さぁ……」


京太郎 26300

智葉 23700

雀士A 25000

雀士B 25000



 まず東一局を京太郎が制す
 そして続く東二局は――京太郎の親

京太郎「……」チャッ

 相も変わらず好調の京太郎

黒服B「(なんて手が早い。いや、流れそのものがコイツに!?)」

智葉「……ふむ」

 決して智葉も手が悪いわけではない
 ただ、どうしても京太郎よりも一手遅れてしまう

 後ろで見ている黒服達はもどかしそうに、二人の対局を見守る

智葉「……(来たか」チャッ

 西家 智葉の7巡目
 
【智葉の手牌】 ドラ3m

ツモ3m

22466678m 34567p  

黒服A「(うまい! なんという絶好のツモ! これを和了れれば……!)」

智葉「……」タンッ

 2m

 智葉は当然のように2mを切る
 だがしかし、それすらも――

京太郎「ロン。3900点」バタッ


 34678m 22888p 456s


 京太郎が一手先を行く


黒服A「(ダメだ、完全に悪い流れ。二連続打ち込みとは!)」

 辻垣内智葉の強さを、彼はよく知っている
 それだけに、この連続の放銃が気にかかる

黒服A「(初めのうちは流れを見ているのか? それとも……)」

アカギ「様子見ってところだ。どうする京太郎?」

京太郎「……いつものように打つだけですよ」

 揺らがない京太郎
 先日までの、どこか浮ついた感覚は既に無い

 勝負に対する思い
 信念のようなものが、京太郎の中で新たなカタチとして形成されているのだ


京太郎 30200

智葉 19800

雀士A 25000

雀士B 25000



 東一局、二局と
 京太郎に先手を打たれ続けた智葉

智葉「……」
 
 しかしこの時の彼女は微塵も自分が負けるなどとは思っていない
 むしろその逆

 京太郎に対する、勝ちの目
 それを見出そうとしていた

京太郎「では……」キュッ

 続く東二局一本場
 相変わらず京太郎の配牌はよく、流れに乗ったまま京太郎は独走
 
 僅か7巡目にて

京太郎「リーチ」ツツーッ

黒服A「(来た! この流れではまたお嬢が……!)」

 嫌な予感を感じる
 それは他の者も同様なのか、一種の緊張が場を包む

雀士B「冗談じゃねぇ。ここは現物だ」トッ

 3p

黒服A「(これは!?)」バッ

 慌てて智葉の牌を覗く
 3pはまさに、喉から手が出るほど欲しい

【智葉の手牌】
 5699m 24p 789s 発発発南

黒服A「(一発消しと同時にカンチャンを埋めるチー! ここは!)」

 しかしこの時智葉の中には

智葉「……」チャッ

 全く別の思惑が渦巻いていた

智葉「……」つ西

黒服A「(!? なぜ聴牌にしないのですか!?)」

 それだけではない
 智葉はなんとその西を抱え入れ、ここでなんと――

智葉「……」トッ

 発

アカギ「へぇ」ニヤリ

黒服A「(馬鹿な!? オリるのですかお嬢!?)」

 後ろで見ていた黒服が唖然とする
 こんなにもあっさりと勝負を降りるなど、とても普段の智葉らしくはない

 一体どういうつもりなのか





 黒服の疑念はとても理解しがたいものではあったが
 それはすぐに覆ることとなる

 それも

雀士A「ちっ。通るなら俺も切るか」トッ

 発

智葉「……ポン」

黒服A「!?!」

傀「!!」ピクッ

京太郎「……!」

アカギ「クク、やるな嬢ちゃん」

 気づいたのは京太郎、アカギ、傀の三人だけ
 他の者はこの行動を愚行としか思えなかった

雀士A「おいおい、自分で切って鳴くのか……(困惑)」

雀士B「どういうつもりだよ。素人かい?」

 嘲笑う雀士達
 事情を知らぬ黒服達も、内心では同じ気持ちだろう

 だが

アカギ「見ろ京太郎。お前に行っていた流れが変わったぞ」

京太郎「……」

雀士A「ちっ、またかよ」ボソッ

 トッ 5s

黒服A「!」バッ

 智葉の奇行の意味を知るべく、黒服は雀士Aの背後に回る
 見ると、黒服Aは二度連続で5sをツモった様子

 つまり、智葉が鳴かなければ京太郎のツモは5s
 3pをチーしていても、京太郎のツモは5sだったということになる

黒服A「(まさか、奴の手は!?)」

 345m 345777p 3488s

黒服A「(2-5m待ち!?)」ゾクッ

 京太郎の和了を阻止するには、あの発切りからの発鳴きしかなかった
 智葉はそれを察知し、事前に食い止めたことになる

黒服A「(だが、下家が発を持っていると――どうして察せるんだ!?)」
 
 そんなことは到底不可能
 捨て牌から読むことも叶わない字牌である 

 それすらも読めるとすれば、智葉の実力は一線級

黒服A「(神域にだって、劣らないレベル!)」ゾクゾク

雀士B「どうだ!」タン

 3p

智葉「ロン。2000だ」

 56799m 234p 789s 【発発発】

傀「……」

 


 
 京太郎の和了牌を完全に殺し
 強引に流れを捻じ曲げて和了

智葉「分かるようだな。流れが変わったのを」

京太郎「……」
 
 卓に渦巻く【流れ】
 最初は京太郎に流れ込んでいたそれが、今の一局で完全に入れ替わる

智葉「では次だ」

 続く三局目
 先ほどまでとは打ってかわり――

京太郎「ふぅ」

 酷い配牌
 それに対し、智葉初期手牌はというと

黒服A「(なんと、流石はお嬢)」

【智葉の手牌】 ドラ9p

 23566m 7899p 東東南 

智葉「……」

 この好スタートを活かし
 智葉はすぐに聴牌まで持ち込む

智葉「ポン」

 【東東東】カッ

智葉「チー!」

 【234m】

智葉「ツモ、2000・4000」

 666m 67899p 【東東東 234m】

 数えてみれば僅か7巡目での満貫和了
 牌の流れは完全に、智葉のものとなっていた



 そしてオーラス
 智葉の親

 8巡目にて

【智葉の手牌】 ドラ5s

 567m 13567p 45699s 発

智葉「さて、実力を見ると言ったが……」

 チャッ

智葉「リーチ」トッ

 発

智葉「先ほどから動く気配が無いが?」

京太郎「そう見えますか?」

智葉「ああ。まるで死人のようだ。身にまとう空気そのものが」

アカギ「おい、死人だとよ」タバコスパー

傀「無礼」タバコスパー

京太郎「死人、か」

智葉「……そうだ。だからこんなにも簡単に」チャッ

 タンッ
  
 2p

智葉「首を取れる。一発ツモ! 4000オール……終了だな」

 勝負の第一回戦
 制したのは辻垣内智葉

智葉「身の程を知るがいい、偽物」

 余裕の表情でそう告げる智葉
 一方で、完全に上回られた結果となる京太郎は――

京太郎「では、こんなのはどうです?」

智葉「なんだ?」

京太郎「二回戦からは50ビンタにする、というのは」

黒服A「なっ!?  50ビンだと!?」

京太郎「……」

 京太郎が用意したのは200万
 仮に50ビンでラスを引けば……支払いは余裕で200万を超えかねない

雀士A「おい! 50ビンなんて無理に決まってるだろ!」

雀士B「そうだ!」

京太郎「……では、俺と智葉だけでも構いません」

黒服A「てめぇ! ふざけるなよ!」

 怒りが限界に達したか
 黒服が京太郎へ掴みかかる

智葉「やめないかっ!!!!!!!!!」

 ダンッ

黒服A「!?」 ビクッ

智葉「みっともないことをするな……」ギロリ

黒服A「ひ、ひぃっ?!」ビクッ


 大の大人ヤクザをも退かせる胆力
 これが辻垣内智葉である

智葉「すまなかった須賀君」

京太郎「……いえ、気にしてませんよ」

アカギ「クク……」

傀「フッ」

 この時京太郎、実は少し漏らしている
 気づいているのはアカギと傀だけ

京太郎「何も問題ありません」


 圧倒的尿漏れっ……! 

 でもっ……!!

 ボクサーブリーフだからっ……!!

 大丈夫っ……!!

 ノーカンッ……!!

 圧倒的ノーカンッ……!!


智葉「私は構わない。その50ビン勝負に乗ろう」

京太郎「……」ニッ

黒服B「よろしいのですか?」

智葉「負けなければいい。それに、それくらいの蓄えならある」

 これまで数多く裏の打ち手をしてきた
 そのかいもあって、智葉にかなりの額の貯金があった

智葉「ただし、君がパンクしても私は責任を負わない」

京太郎「はい」

智葉「最悪の場合、地下行きになるが?」

京太郎「問題ありません」

 やけに自信を持って答える京太郎に
 智葉少し苛立ちを覚える

 面白い
 ならば、この男のプライドを粉々にへし折ってやろう

智葉「覚悟するんだな。後で取り消そうとしても遅いぞ」

京太郎「……」クスッ




 こうして京太郎と智葉の50ビンタ勝負が始まった ※他は10万
 一回戦は智葉が勝利を納めたが、果たして二回戦はどうなるのか

京太郎「では始めましょうか」

智葉「(全く、裏の麻雀は面白い)」

 智葉は、自分に裏の道を教えてくれた人を思い返していた
 自力で相手を負ける流れに嵌め、勝利を掴む戦い

 女である自分を舐めてかかる相手のプライドを砕き
 敗者の顔を見て優越に浸る

 その師匠は以前、そんなことを話してくれた

智葉「(私も同じなのかもしれないな)」

 あの井川ひろゆきという男も
 アカギという伝説さえも

 自分が優越感を覚える為だけに戦いたいのかもしれない

 表の競技麻雀では味わえないスリルと達成感

 生死を分かつ勝負を、女の自分が制する充足感

智葉「(それを味わいたい。だというのに、この男は――)」

 実力の違いを見せてやった
 負ける流れに嵌めてやった

 だというのに、笑って賭け金を釣り上げてきた

智葉「(こんな屈辱、始めてだ)」ギリッ

 だからこそ決意する
 この男だけは自分の手で破滅へ導くと



 二回戦



 南家 

 智葉5巡目
 34567m 3457p 45688s

智葉「リーチ」

 やはり流れに乗っているのか
 智葉の手は好調

 そして次巡

智葉「一発ツモ。3000・6000」パタッ

雀士A「うぅ……」

雀士B「こりゃ参ったな」

 分かりきっていた結末
 少しの抵抗も出来ない京太郎

智葉「(さぁ、少しは抗ってみろ。それとも、噂はやはり噂に過ぎないのか?)」

 勝敗は決したかに思われた
 だが、それはただのまやかし

 本当の勝負は――

京太郎「では」ズズッ

傀「行きましょうか」

 これからなのだから

 



 東二局
 智葉の親である

 案の定、祝福されたように流れを掴む
 配牌の時点で

智葉「(もらったな)」クスッ

【智葉の手牌】 ドラ8m
 22678m 3468p 467s 東中

京太郎「……」

智葉「(いつまでも動かずにいれば、私の勝ちは揺らがないぞ須賀)」タンッ

 中

 智葉の第一打
 それを、京太郎は見逃さない

京太郎・傀「カン」

智葉「!」ドキッ

 チャッ  新ドラ 9s

【中中中中】

黒服A「(親の第一打をカンだと!?)」

智葉「(私に傾いた流れを、無理に歪ませる気か)」ドキドキ

 引いたのは――

 北

智葉「(やはりな。これは本来奴が引くもの)」トッ

 そして京太郎には智葉が引く筈だった牌が行く

京太郎「……」

 チャッ

 8s 

 チャッ

 7p 

智葉「(私の必要牌を喰いとったか。だが、使えなくては意味が無い)」チャッ

 西

黒服A「(これは一体どうなってるんだ?)」バッ

智葉「(須賀の手牌が気になるのか? ふっ、私もだ)」

黒服A「……?  ん????」チラッ

智葉「(ガッカリしてるのか? やはりただの無駄ヅモの連続か)」

雀士A「ほいさっと」トッ

 1m

京太郎・傀「チー」

黒服A「っ!」ビクッ

智葉「!? (なんだ、今の反応は?!)」

京太郎「……」スッ
 
【123m】カシャッ





智葉「(一体何をしたんだ須賀?!)」

京太郎「……」チャッ トッ

 4m

智葉「(手出しの4m!? つまり、さっきの123mチーは234mからのチー!)」

 不可解な行動
 だが、その不可解な行動とは裏腹に
 
京太郎「ツモ。2000・4000」スッ

 789m 2349s 【123m 中中中中】

智葉「(親の私の流れを変えたばかりか、出来面子でチーして、強引な和了)」ギリッ

黒服B「(一体何を見てるんだ、コイツは!?)」

智葉「(やってくれる。やはりこの男も、場の流れが見えるのか……?)」

 だとすると厄介なことになる
 この戦いは流れの取り合いになることが明白だからだ

 しかし、智葉には秘策もある

 仮に流れを取れなくても戦う術を、彼女は既に持っていた

京太郎「では東三局を」

アカギ「いい顔になってきたな、京太郎」クク


 東三局 
 ドラは字牌の発

 先ほどまで好調だった智葉の手牌はというと

【智葉の手牌】
 28m 12499p 469s 白発中

智葉「(やはりな。恐らく、オーラスまではこの調子だろう)」

 かといって降りるつもりはない
 流れを得られぬなら、相手を動かせばいい

智葉「ポン!」

 【999p】カッ!

雀士A「なんてところで鳴くんだよ」

雀士B「(発がドラか、字牌が切れねぇ)」

京太郎「……」

智葉「(さぁ、全員揃って字牌を抱えて溺死しろ)」

 智葉の考えは概ね正しい
 並の相手なら、雀士ABのように身動きがとれなくなるだろう

 だが――

京太郎「……」キュッ

 カッ  タンッ!!!

 発

智葉「!?」

 京太郎はけして、並の相手ではなかった



雀士B「と、通るのか? なら早いとこ片付けるか」チャッ

 発

智葉「(くそ、お陰で他も勢いづいた。それほどまでに須賀のドラ打ちは強い)」

 手が早いのか?
 不安を感じながら、智葉はなおもブラフを続ける

【智葉の手牌】
 
 28m 1248p 68s 白発中 【999p】

智葉「(どうだ! これなら!)」タンッ

 6p

智葉「(字牌を警戒しろ! さぁ!)」

京太郎・傀「……」ニィッ

 タンッ

 中  
 
 タンッ


 東

 タンッ

 白

 タンッ

 北

智葉「(馬鹿な!? わざと字牌ばかり!? 私のブラフを見抜いたとでも言いたいのか!?)」ゾワッ

 揺るがない京太郎に旋律を覚える智葉
 そして、驚くべきはもう一つ

雀士B「おっ、リーチ!」

智葉「え?」

雀士B「リーチだよ、リーチ」

 思わぬ側面攻撃
 完全に意表を突かれたカタチである

アカギ「麻雀は一体一じゃない。必要になれば、他家も駒として使うのさ」

 先ほどの京太郎の字牌連打は何も自分の為ではない
 智葉の行動がブラフに過ぎないことを他家にも教え、手助けする為の策

智葉「(どういう、ことだ?)」

アカギ「お嬢ちゃんは気づいたか? 二人の策に」ククッ

雀士B「よっしゃ一発ツモ! 兄ちゃんに助けられたぜ!」

 バラッ

 234567m 345p 23488s 
 
雀士B「裏も乗って3000・6000だ!」


智葉「くっ」

京太郎「……」チャリッ


京太郎 27000
雀士B 29000
智葉 30000
雀士A 14000

智葉「(焦るな。まだ私がトップなんだ)」スーハー

 確かに意表を突かれたが、ここは逃げ切るだけでいい
 無理に勝負さえしなければ――

 そう考える智葉だが

黒服A「(流れが最悪だ)」

【智葉の手牌】ドラ1m

4568m 334p 2345678s

智葉「(なぜだ、なぜこのイーシャンテンが動かない)」ギリッ

 トンッ

 8m

京太郎「リーチ」タンッ

 ざわっ……
   ざわっ……

智葉「(この感じ、流れがまた――)」

京太郎「……」チャッ


´//////////// l| ,∧             _    ∧  ||///////////>
/////////////从 {   、         _  ィ -vノ    ' } /'/////////////
/////////////{/∧   l\   ー=≦__ ,   ´   /' / イ∧/////////////
/////////////|//∧  :. \               / / /'////}/////////////

智葉「!」

京太郎・傀「御無礼」

 1122m 557788p 55s 東東

京太郎「ツモです。6000オール……」

智葉「!」

 やられた
 智葉がそう思ったのも束の間

 次の京太郎の言葉が――智葉を大きく揺るがす


京太郎「これで皆さん、クビが切れて終了ですよね?」ニッ

智葉「なに?!」

黒服A「皆さん!?」

 最初に智葉が
 そして次第に、周囲を取り囲む黒服達にもその意味が分かってくる





黒服A「(まさか、さっき他家に和了らせたのは、次局で自分がツモ和了する為?」

黒服B「(そうすれば全員のクビを飛ばし、ビンタは倍になる。だが、なぜだ?)」

黒服C「(お嬢と50ビンの一体一をやっていたというのに、これではまるで――)」

 京太郎は全員を相手に戦っている
 つまり、智葉だけを特別視することなく
 
 ただ、全員を同時に堕とすことだけを考えているのだ

 それに比べて、智葉の方は――

智葉「(み、皆さん……だと!?)」ギリッ

 自分をこんな連中と同格に扱っている

雀士A「くそー」

雀士B「次こそ巻き返してやる」

 先ほどの字牌連打といい
 今の発言といい

 京太郎はまるで……

智葉「(私を相手にしないつもりか!?)」

京太郎「では、お次は三回戦ですね」

智葉「……」プルプル

アカギ「あらら」

傀「……」

 怒りに顔を赤くし、唇をキツく噛む智葉
 これほどの屈辱は生まれて初めてのこと

 内情を駆け巡る怒りの業火に焼かれながら、智葉は気丈に振舞っていた

智葉「ああ、始めよう」




 三回戦 東一局

 北家の京太郎7巡目

京太郎「リーチ」チャッ

 流れを取り戻した京太郎の先制リーチ
 それに対し、智葉の方はというと

【智葉の手牌】 ドラ8m

 23444m 3478p 2345s

智葉「(須賀の捨て牌は……)」チラッ

 9s 西 南 1m 発 中 9p

智葉「(安牌が無い。4mの壁に賭けるしかないか……)」

 らしくない、弱気な打牌
 それは――確実に智葉の中で、何かが崩れ去っていることの証明に他ならない

京太郎「……」チャッ

 スッ

京太郎・傀「御無礼、ツモです」

 バラッ

 234678m 22345567p

京太郎「3000・6000」

智葉「なんだとっ!?」ガタンッ

 京太郎は智葉の2mをスルーし
 ツモ和了を選んだ

 50ビンの差し勝負をしている中で
 その相手である智葉を無視し、あくまでツモ和了にこだわる

智葉「(なぜだ、なぜ私を無視する――!?)」

 智葉には到底分からない

 京太郎の行動が
 そして、その強さの源流さえも

京太郎「その牌に当たる価値は無い」

アカギ「フフ」


      /            `ヽ、
     /  /  、          ヽ
    ,/  "  / /( ..     ミ  ヽ

   '''゙、   、 | | \ミ 彡  ヽ_ 彡  し
  ー'''"  `'''"` ., ゝヽ  M//.、 、"く彡 <ニ、
 "≧    .彡》》彡川》》 lく巛巛 ヽ,,ヽ  ―ー、

  =¬   .,/ノノ代=モェ-,}.| ぇtチ-ヲ》》》)ゝ =ー、
  '"ニニ,ッ"ヽ∬   ̄"リ |  ̄  .シソノ ゞ-
    (,-ニ,, l         l    / }゙l /
       ( (ヽ、 、 ニニ  ,  /ノ.ノ
        ./.゙l ヽ  ̄ニニ ̄ /|
      /   \\     /  |

傀「……」ニィ


 ごめんミスしました



 三回戦 東一局

 北家の京太郎7巡目

京太郎「リーチ」チャッ

 流れを取り戻した京太郎の先制リーチ
 それに対し、智葉の方はというと

【智葉の手牌】 ドラ8m

 23444m 3478p 2345s

智葉「(須賀の捨て牌は……)」チラッ

 9s 西 南 1m 発 中 9p

智葉「(安牌が無い。4mの壁に賭けるしかないか……)」トンッ


 2m
 
 らしくない、弱気な打牌
 それは――確実に智葉の中で、何かが崩れ去っていることの証明に他ならない

京太郎「……」チャッ

 スッ

京太郎・傀「御無礼、ツモです」

 バラッ

 234678m 22345567p

京太郎「3000・6000」

智葉「なんだとっ!?」ガタンッ

 京太郎は智葉の2mをスルーし
 ツモ和了を選んだ

 50ビンの差し勝負をしている中で
 その相手である智葉を無視し、あくまでツモ和了にこだわる

智葉「(なぜだ、なぜ私を無視する――!?)」

 智葉には到底分からない

 京太郎の行動が
 そして、その強さの源流さえも

京太郎「その牌に当たる価値は無い」

アカギ「フフ」


      /            `ヽ、
     /  /  、          ヽ
    ,/  "  / /( ..     ミ  ヽ

   '''゙、   、 | | \ミ 彡  ヽ_ 彡  し
  ー'''"  `'''"` ., ゝヽ  M//.、 、"く彡 <ニ、
 "≧    .彡》》彡川》》 lく巛巛 ヽ,,ヽ  ―ー、

  =¬   .,/ノノ代=モェ-,}.| ぇtチ-ヲ》》》)ゝ =ー、
  '"ニニ,ッ"ヽ∬   ̄"リ |  ̄  .シソノ ゞ-
    (,-ニ,, l         l    / }゙l /
       ( (ヽ、 、 ニニ  ,  /ノ.ノ
        ./.゙l ヽ  ̄ニニ ̄ /|
      /   \\     /  |

傀「……」ニィ


雀士B「お、おい! 何やってんだお前!?」

京太郎「はい?」

雀士B「この嬢ちゃんの2mでリーチ一発じゃねーか!」

智葉「静かにしてください。流れを読んだだけのことです」

雀士B「ふざけんな! 親カブリは俺だぞ!? 50ビンでやってんのはお前達だろうが!」

 雀士Bの言い分はもっとも
 だがそれは、当の本人である智葉が一番分かっている

黒服A「お、お嬢?」

智葉「分かっている。絶対に許さない。倍にして思い知らせてやろう」

京太郎「どうぞ。次は辻垣内さんの親ですから」ニコッ

智葉「~~~~っ!!!」ギリギリギリ

アカギ「ククク、煽るねぇ」

 自分とは根本的に違うスタイルで打つ京太郎に
 アカギは少しばかり感動を覚えていた

 そこにいる男の影響なのは間違いないが、これで京太郎は以前より前に進む
 自分の模倣品ではダメなのだ

 あらゆるものを喰らい、我が糧とした男でなければ

アカギ「アンタもそう思うだろ?」

傀「ええ」ニィ


 東二局 智葉の親
  

智葉「(今の私に流れが来ていないのは承知の上。このまま進めても奴には追いつけない)」

【智葉の手牌】

 2789m 148p 668s 南北白発 

智葉「(だからここは!)」

雀士B「くそっ!」タンッ

智葉「チー!!」カッ

 【789m】カッ

智葉「(もう一度、須賀への流れを歪める!)」

 智葉の起死回生を賭けた鳴き
 その効果は――

智葉「……」ニッ

 白 3p 発 

智葉「(きたか!)」

 僅か7巡目にて

【智葉の手牌】

 34p 6668s 白白発発東 【789m】


智葉「(どうだ! これで貴様への流れは絶たれた!)」

京太郎「……」


あれ、そういえば酉ちがくね



黒服A「(流石だお嬢。出来面子チーで流れを再びこちらへ)」

 先ほどの京太郎と同じ手
 京太郎に出来て、自分に出来ないわけがない

智葉「(この牌勢なら勝てる!)」

京太郎「リーチです」チャッ

 白

智葉「! ポン!」

 思わず反応してしまう智葉
 だが、次の瞬間には後悔もある

智葉「(しまった! この白は鳴いていいのか?)」

 京太郎の捨て牌を確認する
 
 南 724s 東 7m

智葉「(なるほど、これなら通る)」つ8s

 タンッ

 8s

智葉「(これで追いついた! ようやく一騎打ちに……)」

京太郎「……」チャッ 

 バラッ

京太郎「ツモ」

 8s

京太郎「1300・2600」

 123m 34578p 67s 北北

智葉「(ま、まただと!?)」ガタンッ

雀士A「お、おい兄ちゃん!」

雀士B「いい加減に嬢ちゃんから当たったらどうだ?」

京太郎「すみません。でも、流れを読んだらこうなったんですよ」

智葉「流れだと!? 馬鹿にする気か!?」

 とうとうこらえきれず声を荒げる智葉
 自分のことも、50ビンすらも眼中に無い様子の京太郎に我慢の限界を迎えたのだろう

京太郎「なら、やめますか?」

智葉「!」

京太郎「俺は構いませんよ」ニコッ

智葉「ぐ、くぅっ」

黒服B「お、お嬢」

智葉「……何も言うな。何も」ストン


 


>>698
 ありゃ、途中で変わっちゃってたみたい
 ちょーごめんだよー



 第三回戦 東三局
 
 京太郎の行動に苛立ちを覚えても、成す術も無い智葉
 こうなった以上、方法は一つしかない

智葉「……(何がなんでも、奴を振り向かせる)」

 それは、勝負師としてのプライドの為か
 あるいは自分を相手にしてもらえない女の意地か

智葉「ポン!」

 5s 

【999m】カッ

智葉「チー!」

 8s

【123m】カカッ

智葉「(これならどうだ!)」

雀士A「げっ」

雀士B「まずいな」

智葉「ポン!」

 発

【888m】カカッ

智葉「(こっちを見ろ、須賀京太郎!)」

【智葉の手牌】

 56m 68p 【999m 123m 888m】

智葉「(この露骨なまでの清一色気配。これなら無視は――)」

京太郎「……」チャッ

 タンッ

智葉「うっ!?」

 8m  バァーン

智葉「なっ、なぁ……っ!?」グニャァァァァア

 ざわ……
   ざわ……




 飛び出したのは萬子
 そして、続く次巡の京太郎の捨て牌もまた

京太郎「リーチです」ツーッ

 5m

智葉「(また萬子! ゆ、許せん……絶対に!)」ジワッ

黒服A「! (馬鹿な、あのいつも気丈なお嬢が!?)」

黒服B「(目に涙を……)」

智葉「……」チャッ

【智葉の手牌】 ドラ6p

 356m 68p 【999m 123m 888m】

智葉「……!」タンッ

 6p

黒服A「なっ! (現物があるのにドラから!?)」

アカギ「クク……ご指名だぞ京太郎」ニヤニヤ

京太郎「……」

 がっ……ダメ!

京太郎・傀「御無礼」カッ!

 6p

 234m 45p 33356788s 

京太郎「一発ツモ、2000・4000っすね」

雀士A「……あっ」

雀士B「おいおい……」

智葉「ふ、ぅっ……ふぇっ……こ、こんなぁ、くっ、うぅ」ジワッ

 ガシャッ

 牌を崩し、怒りとやるせなさに身を包まれながら――
 智葉はその頬を濡らす

 侮っていた相手
 それも、あれだけ言い切った相手に言いようにされる始末

 恥ずかしかった
 
 でもそれ以上に、悔しかった

 負けていることがじゃない
 自分が届かないことじゃない

 相手にとって、自分が取るに足らない人間だと

 女だと

 そう思われていることが、悔しい

黒服A「お嬢、もう……」

智葉「だ、黙れ……ヒック、つ、続けるぞ……何が、あっても」プルプル


 そうして迎えた三回戦オーラス

東家 京太郎 50200
南家 雀士B 16700
西家 智葉 17400
北家 雀士A 15700

智葉「(もし、君と一対一なら――もっと楽しめただろうに。残念だ)」

 自分が何を仕掛けても、無視される
 それなら、自分も相手を無視するしかない

智葉「(もう惑わされない。対局に集中して、流れだけに身を投じる)」スッ

【智葉の手牌】 ドラ5m

 134m 122668p 68s 東発

智葉「……ポン」

 4m

【222p】カッ


アカギ「(京太郎の方を見るのをやめた……諦めたのか?)」

智葉「……」

 そして5巡目
 智葉は打ち方を帰る

智葉「カン」つ6s

 1p タンッ

【6666p】※暗

智葉「さらにもう一つ――カン」つ8s
 
【2222p】

京太郎「!」ピクッ

 この時点で智葉の手牌は――

【智葉の手牌】 ドラ 5m 6p 6s 

 666888s 東北 【暗6666p 2222p】

 対々三暗刻ドラ7
 既に三倍満確定の怪物手

黒服A「(凄い! これでまたお嬢に流れが……」

智葉「……」トッ

 東 タンッ

京太郎「……カン」

智葉「……えっ?」

京太郎「カンです」パタッ

【東東東東】カッ

黒服A「(お嬢の仕掛けに対してカンだと!? 奴も聴牌か!?)」ダダッ

【京太郎の手牌】

 23m 2345678s 発発 【東東東東】

京太郎「……」スッ

 3m タンッ



黒服A「(なぜ聴牌に取らない!?)」

 智葉が張っていることは周知の事実
 ここは3m切りではなく5s切りにするべきだ

京太郎「新ドラは――」カシャッ

 新ドラ 東

黒服A「(ほら見ろ! 勿体無い!)」

智葉「……」ドキドキ

 2s タンッ

京太郎「……」チャッ つ6s

【京太郎の手牌】

 2m 23456789s 発発 【東東東東】

黒服A「(張替えした!?)」

アカギ「クク、しかもそれだけじゃねぇ」

 今引いた6sは智葉の暗刻
 それを京太郎がカンをしなければ智葉は6sをツモっていた

 つまり、智葉は四槓子だったのだ

アカギ「これがそこの男や嬢ちゃんが奪い合ってる流れってヤツだ」ククク

傀「お分かりですか……?」

アカギ「一応な」

智葉「……」ドクンドクン

 ここで、智葉が引いたのは

 1s

智葉「……」ジッ

京太郎「……」

智葉「フッ」

 その数秒――
 彼女が何を考えていたのかは分からない

 だが、彼女は決めた

智葉「……」トンッ

 1s

 妙に晴れ晴れしい、まるで憑き物が落ちたような顔で
 とても美しい――微笑を浮かべていた

京太郎「……」



          /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |
       / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | |
.      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |
     /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{
       /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__
.      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:.
.       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.
     / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.
        / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧
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.   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:
 /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.:
/:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.:
:.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.:
:.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.:
:.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.:
:/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.:
:.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./


京太郎「御無礼。24000点」

 123456789s 発発 【東東東東】

京太郎「トビ、ですね」ニッ

智葉「ふ、ふふっ……(やっと……!)」ニヘラッ

黒服A「お、お嬢?」

黒服B「(お嬢が、笑った……?)」

アカギ「あらら、どうやら堕ちちまったらしい」

傀「そのようですね」

 アカギと傀が見越したように
 智葉は京太郎に当てられて笑顔を見せた

 それは――やっと自分を見てもらえたという喜び




黒服A「(お嬢は和了られて喜んでいる!?)」

黒服B「(あのガードの堅いお嬢が、まるで恋す乙女のように――)」

 唖然とする黒服達を他所に
 当の本人たちは――

京太郎「このまま50ビンで続けますか?」

智葉「ああ、勿論だ」

アカギ「気づいたか京太郎? ヤツの匂いが変わったのが」

 あれだけ強く
 鉄の意志を持って、勝負に挑んでいた辻垣内智葉が

アカギ「残りの二回戦。もうお前には敵わないだろう」

傀「フッ……」

 もはや見る影もなく

京太郎「ロンです」

智葉「っ……//」モジモジ

 今の智葉もう
 男に惚れたことに気づいていないだけの――

京太郎「御無礼、12000点っす」

智葉「……」クスッ


           エモノ
ただの美しい―― 女 だ……! 



https://www.youtube.com/watch?v=vx87wJvwJJ4





【次回予告】

 辻垣内智葉との対局で新たな何かを掴んだ京太郎
 だがしかし、強すぎる力は新たに京太郎を蝕み始める

京太郎「あの、誰ですか?」

傀「傀と、呼ばれています」

アカギ「クク。よろしくな新入り」

 強くなる一方――
 アカギと傀、二人の男に影響を受け始めた京太郎は

咲「京ちゃんが変わったのはきっと、何かよくないもののせいなんです! だから!」

小蒔「分かりました。私達が責任を持って!」

霞「その悪霊を祓いましょう」

 新たなる戦いに巻き込まれてゆく
 そして――京太郎を巡る女性達にも


和「須賀君は私のモノです」バチバチ

智葉「何を言っているのか分からんな」バチバチ


 新たな局面を迎えようとしていた

 

   次回

――ジョウカ――



和「誰にも真似出来ない華麗な打ち方の須賀君が好きなんですっ!!」

智葉「違う! 流れに乗る勢いのある打ち方の須賀君が好きなんだっ!!」

睦月「どっちも好きでよくないか?」


 つ づ く



 といったところで終了
 まんま丸パクリでサーセン

 次は対局じゃなくてリアルファイト(除霊バトル)の予定
 対局相手はまだ決めてないので、次のインターバル回の後にでも決めるお

 傀さんがどういう扱いになるのかは次回の日常回で明らかになるかもね


【お ま け】

和→アカギ寄りの京太郎が好き
智葉→傀寄りの京太郎が好き

睦月→京太郎が好き

 
 脱童貞の相手どうすっかなー俺もなー
 

 

>>713

>【京太郎の手牌】
>23m 2345678s 発発 【東東東東】

これ
 23m 2345789s 発発 【東東東東】
じゃないかな
でないと智葉が本来自身がツモるはずだった6sで暗槓出来ない

あと >>717で四槓子と書かれているが、8sは既に京太郎が抱え込んでいるから 四槓子じゃなく、対々三暗刻三槓子 ドラ8で数え役満だと思う


>>752
 京太郎の手牌は指摘通りミスですね

 23m 2345789s 発発 【東東東東】

 こちらが正しいです
 この後に6sをツモりました


 それと智葉の四槓子に関しては
 昨日、なるべく簡略化しようとしたせいで一部、はしょった部分がありました

 そこを少し修正します


>>717

黒服A「(なぜ聴牌に取らない!?)」

 智葉が張っていることは周知の事実
 ここは3m切りではなく5s切りにするべきだ

京太郎「新ドラは――」カシャッ

 新ドラ 東

黒服A「(ほら見ろ! 勿体無い!)」

智葉「……」ドキドキ

 2s タンッ

京太郎「……」チャッ つ6s

【京太郎の手牌】

 2m 23456789s 発発 【東東東東】

黒服A「(張替えした!?)」

アカギ「クク、しかもそれだけじゃねぇ」


~~~修正部分~~~


黒服A「(いや、待て。さっきコイツが東でカンした時のリンシャンは8s)」ゾワッ

 もし京太郎が東でカンしなければ、今引いた6sは智葉がツモる
 そうなると当然、智葉はその6sをカン


 リンシャンで引くのは8s――


 つまり、智葉は四槓子だったのだ

アカギ「これがそこの男や嬢ちゃんが奪い合ってる流れってヤツだ」ククク

傀「お分かりですか……?」

アカギ「一応な」


 少し間が空いたけど更新するお
 書き溜めも何もしてないから遅いけどねぃ

 つーかまじで京ちゃんの貞操をどうすべきなんやろ

 アカギで捨てるか傀で捨てるか……


【数年前 長野】

 ガタンガタンと、揺れる電車
 狭い密室の空間――

 普段は決して満員電車とは呼べないその区間
 それが、ここまでの乗客数になったのはただの偶然だったのか

 なんにしても、通常の倍以上の乗客でごった返す電車内で
 【ソレ】が起こるのはある意味、必然だったのかもしれない

?「……っ」ビクンッ

 そこにいたのは中学生の少女
 どこにでもいるような、至って平凡な女子学生だと自分では思っていた

 色気も無い 胸も無い
 それは決して謙遜ではなく、彼女を見る大半の人間はそう感じる事実であった

 だからこそ

 彼女は標的にされた

教師A「……フフフ」サワサワ

?「ぁっ……」

 まずは太もも
 そして次は――大腿部
 
 だんだんと触る手が上に上がっていく

?「ひっ……」ガクガク

 震える
 誰も助けてくれなどしない

 自分でどうにかしなければ、きっとこのまま

?「ぁっ、いやぁ……」

 しかし、少女には勇気が無かった
 ここ一番で身を守る、その覚悟を持てなかったのだろう

教師A「……グフフ」

?「(誰か、助けてっ……!)」

 祈るっ……!
 圧倒的っ……! 他人頼みっ……!

 本来なら、誰も見て見ぬフリをする現実

 だが、これまた偶然か
 あるいは必然か

 この日――少女は運良くも

京太郎「おい、おっさん」ガシッ

教師A「ひょっ?」

?「あっ……」ドキッ

京太郎「ダセェことしてんなよ」ギリギリギリ

教師A「ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!?」

 彼と、出会うことが出来た




【現在】


睦月「……また、あの日の夢だ」ギュッ

  



   第六話
――ジョウカ――


【長野】
 

 キキーッ

黒服A「……さぁ、着いたぞ」

京太郎「あ……はい」

黒服B「お嬢から無事に送り届けろと言われたからな」

黒服C「全く、この化物め」

 バタンッ ブーンッ

京太郎「……」

 辻垣内智葉との五回戦
 その勝敗の行方は当然、京太郎の勝利

 計500万近い金を巻き上げ、現在の京太郎の所持金は700万

 それだけでも驚愕だが、何よりも注目すべきはその勝利方法
 まるで鬼を思わせる打ち筋に――あの場に居た者全てが鳥肌を覚えたものだ

アカギ「クク……なんて顔してやがる」

京太郎「いや、だって。自分でもどうやって打っていたのか」

 途中までの記憶はある
 けれども、いつの間にか自分ではない何かの力が働いたかのように
 京太郎は打たされていた

 それは一体――

アカギ「ま、そりゃアイツだろ」

京太郎「アイツ?」

 アカギの言葉の意味が分からず、きょとんとする京太郎

 と、ここでふと
 京太郎は何かの気配を感じ、振り返る

傀「……」ニィッ

京太郎「おわっ!?」

 幽鬼のごとく現れた男に、京太郎は驚く
 しかもこの男、アカギと同じようにどこか人間離れしたものを感じる

京太郎「あの、誰ですか?」

 恐る恐る尋ねる京太郎
 それに対し、男は眉一つ動かさずに答える

傀「傀と、呼ばれています」

京太郎「傀さん?」

傀「……」

アカギ「クク。よろしくな新入り」




京太郎「新入り?」

 その言葉の意味が分からず、首を傾げる京太郎
 
アカギ「フフ……コイツもオレと同じ。この世の者じゃねぇってことだ」

 意地悪く笑うアカギ
 それに対し、京太郎は失禁寸前である

京太郎「ゆ、ゆゆゆ幽霊ですかぁああああああ!?」ジョバババッバババババババッ

傀「……」

アカギ「ククッ、な? おもしれぇ奴だろ?」ニヤリ

傀「ええ、そのようですね」

京太郎「あひぃぃぃ! 幽霊同士で仲良くやってるぅぅ!」

 先刻までの威勢はどこへやら
 すっかり怯えきっている京太郎

傀「……」

京太郎「あ、あれ? でも変ですね」ペタ

傀「……何か?」

京太郎「アカギさんは半透明なのに、傀さんは触れます」ペタペタ

傀「……」

アカギ「そりゃ生きてるからな」

京太郎「えっ!? 幽霊なのに生きてるんですか?」

傀「……御無礼」ペチッ

京太郎「あだっ!?」

アカギ「コイツは俺とは違う。どちらかというと……妖怪か何かってところか?」

傀「さぁ? ご自身で確認されますか?」
 
 挑発するように微笑を浮かべる傀
 これを見逃すほど、アカギが大人しいわけもなく

アカギ「面白い。生き血を求める妖怪みてぇなジジイとやりあったことはあるが……」

 ゴゴゴゴゴ

アカギ「本物の妖怪とヤるのは初めてだ」ニヤリ

傀「……その言葉、そのままお返ししましょう」ニィ

 ズゴゴゴゴ

京太郎「」ジョババババババ



 ※ ごめんなさい 少し訂正します


京太郎「新入り?」

 その言葉の意味が分からず、首を傾げる京太郎
 
アカギ「フフ……コイツもオレと同じ。この世の者じゃねぇってことだ」

 意地悪く笑うアカギ
 それに対し、京太郎は失禁寸前である

京太郎「ゆ、ゆゆゆ幽霊ですかぁああああああ!?」ジョバババッバババババババッ

傀「……」

アカギ「ククッ、な? おもしれぇ奴だろ?」ニヤリ

傀「ええ、そのようですね」

京太郎「あひぃぃぃ! 幽霊同士で仲良くやってるぅぅ!」

 先刻までの威勢はどこへやら
 すっかり怯えきっている京太郎

傀「……」

京太郎「あ、あれ? でも変ですね」ペタ

傀「……何か?」

京太郎「アカギさんは半透明なのに、傀さんは触れます」ペタペタ

傀「……」

アカギ「そりゃ生きてるからな」

京太郎「えっ!? 幽霊なのに生きてるんですか?」

傀「……御無礼」ペチッ

京太郎「あだっ!?」

アカギ「コイツは俺とは違う。どちらかというと……妖怪か何かってところか?」

傀「さぁ? ご自身で確認されますか?」
 
 挑発するように微笑を浮かべる傀
 これを見逃すほど、アカギが大人しいわけもなく

アカギ「面白い。生き血を求める妖怪みてぇなジジイとやりあったような気もするが……」

 ゴゴゴゴゴ

アカギ「本物の妖怪とヤるのは、きっと初めてだろう」ニヤリ

傀「……その言葉、そのままお返ししましょう」ニィ

 ズゴゴゴゴ

京太郎「」ジョババババババ



 二人の醸し出すオーラに当てられ、京太郎はビビることしかできない

 この時の京太郎は知る由も無いが
 【神域】と【人鬼】という、二つの伝説があいまみえた瞬間なのだ

 ではその二つの伝説とは何か?
 
 一つ、【神域】は闇社会の打ち手の伝説である
 一局数億がかかった戦いや、この日本の覇権をかけた勝負を制してきた証なのだ

 一方で【人鬼】の伝説はあくまで高レートの雀荘での伝説
 数多くの裏プロを食いつぶし、何人をも破滅へと導いていった
 派手さこそないが、裏の打ち手達の間では語り継がれる伝説である
 
 ならば、この二人のどちらが上か?

 そう考えた者も多いだろう

傀「……名は?」

アカギ「赤木。赤木しげる」

傀「……」

 睨み合う両者
 卓を囲まずとも、二人の間では火花が散っている

 むしろ、既に戦いは始まっているのかもしれない

京太郎「??」

アカギ「ロン。裏も乗って12000だ」

傀「……」クスッ

アカギ「……チッ」

傀「ツモ、8000」

アカギ「……ツモ。3900」

傀「ロン。1300」

京太郎「???」

 二人は一体何をしているのか
 京太郎には見えない

 だが、なんとなく

 どことなくだが

京太郎「いや、これは――」

 見える
 二人の間にある卓

 そして牌

 しかもこれは――

 一対一ではなく

京太郎「(俺も、メンツに入ってる)」ドクン

 


 エア麻雀
 今まさに目の前で繰り広げられているのは空想そのもの

 でも、不思議と京太郎にはこれが極自然なことに思えた

 だからこそ
 京太郎も知らず知らずのうちにそれに乗った

京太郎「……」スッ

 タンッ

アカギ「!」

傀「!」

京太郎「リーチ……!」

 何も知らない人間が通りかかれば、きっと馬鹿に見えるだろう
 しかし、京太郎は手を止めない

アカギ「……クク」スッ

傀「……」スッ

京太郎「……!」スッ

 見えない牌
 口で言えば、なんでも和了れるような勝負
 
 でも、この三人はしっかりと見えていた

 自動で割り振られた牌
 引く牌すらもランダム

 その上で
 彼は引いた――

京太郎「ツモ!! タンヤオ三色、三暗刻、ドラドラドラ! 24000!」

アカギ「あらら」

傀「……一回戦は終わりですね」

アカギ「クク、喜べ京太郎」

傀「……」ニィ

 パタンと、それぞれ手牌を崩すアカギと傀

 今のは東四局

 京太郎にはそこまでは分からなかったが
 どうやら土壇場でまくることに成功したらしい

京太郎「あ、あれ? でも今のは本物の……」

 既に霧散してしまった空想の卓
 今のは幻か、それとも現実か

京太郎「……?」

 いずれにしても

傀「……須賀京太郎」

京太郎「!」


傀「いい名ですね」クス


 実力を示すことはできたらしい



 何これぇ?
 急にグラップラー須賀が始まってるんですけど……

 飯食ってくるんでしばし休みます

 邪ッッッッッッ!!!!



 京太郎がアカギ達とエア麻雀を終える頃
 彼の腐れ縁とも言える少女は、長野に遊びに来ている永水女子の元を訪れていた

 長野のホテルに滞在する永水御一行
 彼女達は少女の訪れに嫌な顔一つせず、快く迎え入れてくれた

 そして、彼女の話し出した話に
 きちんと耳を傾けてくれたのだ

咲「それで、優しかった京ちゃんが急に……」

霞「まぁ、それは大変ね」

咲「はい。しかも、私のことを避けてるようで……」ジワッ

初美「元気出すんですよー」

咲「でも私、どうしたらいいのか……優希ちゃんは、京ちゃんが私のせいで怒ってるって」

小蒔「そんな! 宮永さんの何がいけないのでしょうか?」

巴「嫉妬、ですかね?」

春「ありえそう」ポリポリ

咲「京ちゃんが私に嫉妬なんて!」

霞「可能性の一つよ。けど、とてもそれだけには思えないわね」

 霞には一つの予感があった
 何か底知れない、胸中を巡る不吉な何か

咲「それだけじゃない?」

霞「……ええ。何か心当たりは無い?」

咲「……」

 咲の脳裏をよぎるのは鬼神の如き強さを見せた京太郎
 あんなの自分の知る京太郎の打ち方ではない

 自分の知る須賀京太郎

 弱くて、情けなくて、えっちだけど
 でも自分のことを大切にしてくれる、私だけの王子様……

咲「そうです」

 そんな彼女の驕りが 
 
咲「京ちゃんが変わったのはきっと、何かよくないもののせいなんです! だから!」


 全ての歯車を狂わせる

小蒔「やっぱり」

咲「京ちゃんには悪霊が憑いてるに違いないんです!」

小蒔「分かりました。私達が責任を持って!」

霞「その悪霊を祓いましょう」

 傍から見れば、悪霊のせいで想い人を失った可哀想な少女
 しかしその実際は――

咲「(京ちゃんが私を裏切るわけがないよね。だって、京ちゃんは私の……)」ブツブツ


 決して、そう綺麗なものじゃない


小蒔「あ、悪霊退治です!」ビシッ

霞「(悪霊はともかく、それだけ強い雀士なら小蒔ちゃんと……)」ニヤリ




【須賀家】

 チュンチュン

京太郎「……ふわぁ」

アカギ「よく眠れたか?」

 ベッドから目を覚ますと、脇の椅子でアカギがこちらを見ている
 先に起きていたのだろう

京太郎「あ、アカギさん。早いですね」

アカギ「クク、でもオレより早い奴がいるけどな」

京太郎「え?」

 アカギの視線の先
 見ると、タバコを咥えた傀が何やら新聞を読んでいる

 しかも英語新聞ではないか

京太郎「お、おはようございます傀さん」

傀「……よく眠れたようですね」

京太郎「はい。おかげさまで」

 ガチャッ

須賀母「傀さーん、朝食はいかがですかー?」

傀「いえ、結構です」

須賀母「あらそう。じゃあ、ここにフランス新聞置いとくわね」

傀「恐れいります」ニヤリ

須賀母「ンフフ、あのクールな目がたまんないわー!」キャー!

京太郎「なにやってんの母さん」

須賀母「あら京太郎。休みだからっていつまでグタグタしてんの?」

京太郎「……朝飯は?」

須賀母「ちゃんと作ってあるわよ」

京太郎「わーい」

アカギ「飯はいいのか?」タバコスパー

傀「……ええ」スパー

 なんだかんだで京太郎の家に居候してる傀
 アカギと違い、普通の人にも見える為に隠しだてはできなかったのである

 しかし居候とは言っても、夜にはフラフラと出かけ
 明け方に戻ってきては紙袋一杯に万札の束を詰め込んで帰ってくるだけ

 別に寝食をともにしているわけではなかった

 ならばなぜ、わざわざここに戻ってくるのか

京太郎「(俺、なのか?)」

傀「……」ニィ



 アカギといい、傀といい
 なぜ自分にこだわるのか

 アカギはともかく
 傀の場合は他人に見えるし、自分で打つことも出来る

 だったら京太郎に付きまとう必要は無い筈だ

京太郎「あの、もしかして俺の700万狙ってます?」

傀「……打ちますか?」

 それは無言の肯定と見るべきか
 いずれにせよ、戦いは避けがたい

京太郎「俺も是非に、と言いたいんですけど」

 戦わなくても分かる
 今の自分ではまともに戦うことは敵わないだろう

京太郎「もう少し待ってください。すぐに追いついてみせますから」

傀「では……アナタのその金は――預けておきましょう」

アカギ「お前こそ、足元すくわれねぇようにな」 

傀「……」クス

 またまたピリピリと張り詰める空気
 やれやれと思いながらも、京太郎は今日の予定をどうするか考えていた



 その頃
 京太郎の家の前には


和「ふふっ、来ちゃいました」クスクス

 
 須賀京太郎のフェイバリットエンジェル、和が訪れていた

 最近はすっかり身を潜めていた露出度の高い服装に
 朝早くから起きて用意した手作り弁当
 財布に忍ばせるのは……薬局で赤面しながらかったあるモノ

 これら全て、和自身が京太郎の為に用意したのだ


和「須賀君……//」ドキドキ


 原村和
 恋する乙女の登場である




和「……緊張してきました」スーハー

 胸に手を当て、動悸を落ち着ける
 髪が乱れていないかチェックし、笑顔チェック

 全てが完璧
 これで今度こそ京太郎を堕としてみせる

和「は、原村和! イきます!」ドキドキ

 はやる気持ちを抑え、インターホンに手を伸ばす
 その時――

智葉「……待て」

和「え?」

 背後から声がして、和は振り向く
 そこにいたのは――あの臨海女子の辻垣内智葉

 それも普段の姿ではなく

智葉「……君は、原村和か」キラキラキラキラ

和「!?」

 下ろされた髪に、メガネではなくコンタクト
 さらに普段とは違う、花柄の髪留め

 服装は露出の高い肩出しのパーカーと
 絶対領域を輝かせるフレアスカート 

 察しのいい和はすぐに気づく

和「(この人、まさか!?)」ゾクッ

智葉「(……ここが、彼の家か)」ドキドキ

通りすがりのおせっかい焼きの隣人「こいつはくせぇー! 恋するメスの匂いがプンプンするぜ! 」

 辻垣内智葉は須賀京太郎に恋している
 同じく恋心を抱く和が、それに気づかぬ筈がない

和「っ!」ギリッ

智葉「……(コイツもか)」

 それは勿論、智葉も同じである
 

 



智葉「……そこを退いて貰おうか」ズイッ

和「なぜですか?」ギロリ

智葉「私は彼に用がある」

和「私だってあります」

智葉「どうせ大した用じゃないんだろう?」

和「そんなことはありません!」

 両者一歩も引き下がらない
 そこで智葉は、奥の手を使う

和「そもそも私は彼の部活仲間です。アナタは敵じゃないですか!」

智葉「ふぅ、分からないか? 私と須賀は……」

和「え?」

智葉「昨晩、熱く、激しく……燃え上がったんだ」ゾクゾク

和「」ガーーーーーーン

 ガクッ

和「あ、あぁ……」ブルブル

智葉「これで分かっただろう? さあ、そこを……」

和「わ、私だって!」

智葉「なに?」

和「私の胸は既に須賀君のモノなんです!」

智葉「」ガーーーーン

 ガクッ

 両者ダウン
 片膝を付き、肩で息をしている

智葉「ぐっ……」ハァハァ

和「……」ハァハァ

 お互いがお互いを羨ましく思う

 自分だって京太郎と熱く燃え上がりたい
 自分だって京太郎に胸を弄ばれたい

 自分だって
 
 そう思う気持ちが二人の興奮を高めていた
 





 現状では二人の力関係は五分と五分
 ならば、ここは相手を下した方が京太郎を手に入れることになる

和「須賀君は私のモノです」バチバチ

智葉「何を言っているのか分からんな」バチバチ

 和の先制攻撃
 しかし智葉はどこ吹く風

和「大体、須賀君のことをよく知らないくせになんなんですか!?」

智葉「恋に時間が関係あるものか! そういうお前こそどうなんだ!?」

和「私は須賀君が大好きです!!」

智葉「私だってそうだ!!」

和「カッコイイんです!」

智葉「強いんだ!」

和「麻雀ですか!?」

智葉「麻雀 も だ!」

和「私は!」

智葉「なんだ!?」

和「誰にも真似出来ない華麗な打ち方の須賀君が好きなんですっ!!」

智葉「違う! 流れに乗る勢いのある打ち方の須賀君が好きなんだっ!!」

和「いいえ! 彼のことが好きなら、彼の個性を好きになるべきです!」

智葉「何を言っている? 彼の根底にある流れそのものを愛すべきだ!」

 荒れる討論
 白熱する須賀家前での攻防

 だがそこへ突然
 
 乱入者が現れる


睦月「どっちも好きでよくないか?」


智葉「!」

和「!?」


睦月「少なくとも、私は須賀君の全てが好きだ!!!!!!!!!!!!!!!」バーン





 張り裂けんばかりの大声で宣言する睦月
 その心意気に、二人は感動し……胸打たれる

智葉「ああ、そうだな」

和「……はい」

睦月「うむ」

 好きになった切っ掛けは違えど
 好きであることに変わりない

 自分を本当の意味で見てくれたこと
 背中を追う楽しさを教えてくれたこと
 危機から救い、手を差し伸べてくれたこと

 理由や建前なんてどうでもいい

 今、好きなのだから

 その想いを育てればいい
 その想いを大切にすればいい
 その想いを伝えればいい

 そんな単純な話なのだ

智葉「ふっ、なら……やることは決まってる」

和「ええ、そうですね」

睦月「うむ!」

 三人は意を決し、玄関に並ぶ
 インターホンを押して、彼が出てきたら言おう

 ただ好き、だと

智葉「では押……」


京太郎「あのー」


和「え?」

 三人が頭上を見上げると
 そこには二階の窓から顔を出す京太郎

和・智葉・睦月「「「」」」きゅんっ

 ドキッと心臓が跳ねるのも束の間
 



京太郎「近所迷惑なんで……もっと静かにしてくださいね」




和・智葉・睦月「「「」」」



 思いっきり迷惑そうな顔をされていた






【雀連】

 京太郎が自分に好意を寄せる少女達に呆れているその頃
 麻雀連盟の本部では、珍しい顔合わせが起きていた

健夜「あ、どうも安さん」

萬「おー、健夜ちゃん。見ない内に綺麗になったな」

 ご存知、アラサー小鍛治健夜と
 安永萬六段である

健夜「えへへ、そうでもないです」

萬「実業団で活躍する選手が、雀連に何か用かい?」

健夜「えっと、少し噂を耳にしまして」

萬「うん?」

 久しぶりにあったということもあり
 若干上機嫌の萬

 それに対し、健夜はどこか様子がおかしい

健夜「安さんはアカギを、知ってますか?」

萬「アカギ? ああ、あの【神域】な」

 打ったことはないが有名だ
 当然雀士なら知っている

健夜「じゃあ、もうひとり」

萬「?」

健夜「傀も、ご存知ですよね?」

萬「!」

 知ってるもなにも、昨晩も打ったばかりだ
 しかも何やら上機嫌だったせいで、自分すらもクビを切られてしまった

 長いこと傀と打っているが、ああも見境なく暴れた傀を見たのは初めてだ

萬「おいおい、実業団の選手がこっちに来ちゃダメだぜ?」

 先輩として助言をする萬
 それも当然だ、傀に関わった女は全てろくな結果にならない

 彼女もそうなって欲しくない
 優秀なら尚更だ

 だが、その萬の気遣いは

健夜「……やっぱり、私より強いんですね」

萬「っ!」
 
 しまったという萬の顔
 それも当然だ

 なぜならこの目は

 この瞳は――


健夜「……傀も、アカギも、戦いたいなぁ」ニヤァ


 狂気に取り憑かれた、勝負師のモノ――






 切りが悪いですが今日はここまで
 次の相手というか、展開がちょっと思いつかないので

 最終決戦の展開は決まってるのですが
 それに至る道中がどうも悩ましい

 カツ丼リベンジか、咲や優希とやり合うか
 チンチンカムイするのか
 大会編に入っちゃうか

 少し練ってから、次回ジョウカ後編をお送りするってばよ


 今日で第二部終了予定
 対戦相手の希望も特に無かったので、大会編への導入で終わりかなぁ

 アカギ以外にも復活させんといかんのあるし
 アカギは一旦二部で止めるかも?



【京太郎の部屋】


京太郎「……」

和「えっと……」

智葉「その、だな」

睦月「うむ……」

 あれだけ家の前で騒いでいた手前、どこか後ろめたい三人娘
 それに対し、京太郎はすんなりと部屋に通してくれた

 だが逆に、それが怖い

京太郎「来るなら来るって連絡くらいくださいよ」

 椅子に腰掛け、少しだけ機嫌悪く言う京太郎

アカギ「クク、モテモテでいいじゃねぇか」

京太郎「(前の俺ならそうでしょうけどね)」

 ちなみに今、傀はこの場にいない
 京太郎が三人を部屋に通した時には、既にどこかへ姿を消していた

アカギ「意外にシャイな奴だな」

京太郎「そういう問題じゃないですよ」

和「え?」

京太郎「いや、こっちの話」

 くるりと椅子を回し、向き直る

 和に智葉に睦月
 三種三様の美少女に囲まれて、悪い気はしないものだ

京太郎「それで、何の用? リベンジ?」

和「はいっ。今日こそは私が勝って、須賀君に抱いてもらいます!」

睦月「げほぉっ!?」

智葉「……チッ」

 満面の笑顔で話す和
 こんな言葉を彼女の父親が聞けば、どうなるのか見てみたいね?

アカギ「~~~~っ!!」ダンダンッ

京太郎「(アカギさんが腹を抱えて笑ってる)」

 もっとも、今の京太郎にとってはこっちの方が衝撃的だったが
  


睦月「な、ななっ!? 何を!?」カァァ

和「そういう約束ですから」

京太郎「いやまぁ、そうだけど」

 実際に言い寄っているのは和の方なのだが
 傍から見れば京太郎が悪いような気がする

 つーかもげろ

智葉「……ふっ、くだらんな」

和「!」

智葉「体でしか勝負出来ないとは、親が泣くぞ」

京太郎「(ヤ●ザがそれ言っていいのか?)」

和「だったらアナタはどうなんですか!?」クワッ

智葉「私か? そうだな、私なら……」

 智葉はどこから取り出したのか
 黒いアタッシュケースを床に置く
 
 そして、それを開くと……

智葉「ここに一億ある。どうだ? ウチの組の代打ちにならないか?」

睦月「げぼぉぁぁっ!?」

和「」

 ガラッ

傀「打ちますか?」ニィッ

京太郎「わぁぁぁ!」ピシャッ

智葉「ん? 今押入れから何か……?」

京太郎「あ、いえ。なんでもないです」

アカギ「押し入れにいたのか、アイツ」


和「というより待ってください! アナタも似たようなものじゃないですか!?」

智葉「そうか?」

和「そうです! 体とお金じゃ違いがありません」

智葉「これは私が代打ちとして稼いだ金だ。親に与えられた体を邪に使うお前とは……」

和「私だってこの体を維持する為に頑張ってるんです!」



睦月「……体も、金も無い」ズゥーン





智葉「大体お前にどうこう言われる筋合いは無いぞ、原村」

和「それはこちらのセリフです。余所者は早く帰ったらどうですか?」

智葉「なんだと?」

和「なんですか?」

 ギャーギャー! ワーワー!

京太郎「……はぁ」

 自分を巡っての争いだということは、鈍い京太郎にも分かる
 昔の自分なら泣いて喜ぶだろうが、今となってはもう遅い

京太郎「(本当に俺、変わっちまったんだなぁ)」

 一日数十回の自家発電
 それもこの数日感、まったくの手付かず

 何より求めるのは勝負
 胸を焦がす、熱い何か……

京太郎「……」

睦月「あ、あの、須賀君」オズオズ

京太郎「はい?」

睦月「その、大したものじゃないんだけど……えっと」ガサゴソ

 隣で行われるキャットファイトを尻目に
 睦月はカバンから小さな包装紙を取り出す

 仄かに感じる甘い香り……

京太郎「これ、津山さんが?」

睦月「うむ。クッキー☆を焼いてみたんだが……」

京太郎「……」ガサッ

 開いてみる
 とても不格好で、色も黒々とした焦げ目跡が残っている

アカギ「クク、【見た目】はまずそうだな」

京太郎「……そうですね」

 今時子供だってもっとマシに作れるだろう
 作れないにしても、こんな失敗作のようなものを手渡す筈がない

 それはおそらく、睦月自身も理解していた

 でも、それでも

睦月「……食べて、欲しかったんだ」


 自分の気持ちに、嘘はつけなかった


京太郎「……」ひょいっ

睦月「あ、あははっ! やっぱりダメだ、こんなものとっとと捨てた方が――」アセアセ

京太郎「……」カリッ

睦月「え?」

京太郎「んっ……」ガリッボリッバキャッジュゥゥウゥゥグチョネチョォォォバリバリドゴオォォン

和「!?」

智葉「なんだこの音は!?」

 もはやこの世のものとは思えない音を立て、京太郎はクッキー☆を食べていた
 


京太郎「……うぇっ」

睦月「だ、大丈夫か!? どうしてそんな無茶を!」

京太郎「自分で作っておいてよく言いますよ」

和「み、水を!」

智葉「バケツを用意するか!?」

 パニック気味の三人を京太郎は片手で制し
 どこか妙に晴れやかな表情で

 告げる

京太郎「その必要はありませんよ」

睦月「え?」

京太郎「少々、刺激的な食感と味付けでしたけどね」

和「でも……」

智葉「とても人間の食べ物だとは思えないが」

 それもそうだろう
 包装紙からは今も邪悪なオーラが立ち込めている

 だが、京太郎はそれを否定する

京太郎「そりゃ、和や辻垣内さんが食べればそうでしょうね」

アカギ「フフ」

和「それって、どういう意味ですか?」

京太郎「簡単なことですよ、これには世界で一番美味い隠し味がある」

 前はまるで答えが分からなかった
 でも今は違う
 
 あの時のアカギの言葉が、京太郎には痛いほど分かっていた

京太郎「三人は、世界で一番美味い食い物を知っていますか?」ニッ

和「?」

智葉「?」

睦月「????」



 ソロー

傀「……ツキの女神の正体、ですか」スッ

アカギ「クク……睦月だけにな」ニヤリ

傀「……御無礼」

アカギ「あらら」



 三人娘の襲撃はやけにあっさりと終幕を迎えた
 というのも、京太郎が対局を提案し速攻でトばしたからである

 当然打ったのはアカギ
 京太郎が打ったのは最初の数局だけであった

和「最初の打ち筋、今まで見たことも無いような……」

智葉「こんな打ち方も、まるで別人だ……」

睦月「えへへっ、須賀君に振り込んじゃったなぁ」デレデレ


 バタン

京太郎「ふぅ、やっと帰りましたね」

アカギ「つれないこと言うなよ。みんなお前を好いてくれてるんだ」クク

京太郎「今の俺は強くなることしか興味ありませんし」

アカギ「ふーん?」

 アカギと軽口を叩き合いながら部屋に戻ると
 傀が何やらPCの前で操作している

傀「……」カタカタ

京太郎「傀さん? 何やってんですか?」

傀「……ネット麻雀を」

京太郎「あ、いつの間に」

 画面を見ると、京太郎のIDで傀がログインしている
 
アカギ「離れていても麻雀とは、便利な時代になったもんだ」

京太郎「アカギさんが打ちたいでゴネるから、俺が付き合ったんですよ?」

 京太郎が雀荘破りを始める前は、夜な夜なこのネト麻を繰り返していた
 最初はよかったのだが、アカギが強すぎてネト麻界に妙な噂が広がってしまい
 泣く泣くやめるハメになった

京太郎「アカギの再来って、これがこっちが先だったらしいっすね」

 京太郎が雀荘破りをする以前に、既にインターネット上では神域の噂だらけ
 kyouというプレイヤーネームがあまりにも有名になるほどには――

京太郎「そのIDでログインしちゃうと、少しヤバイんじゃ」

 最後に勝負した時は閲覧者が数千人近いお祭り状態だった
 目立つのは嫌だったので、スッパリそれ以来ログインしていなかったというのに
 これでは復帰したと捉えられかねない






傀「……」カチカチ

京太郎「しかも傀さんってことは」

 見ると案の定、対局者全員がクビを切られて終了
 これがビンタ勝負なら、三人ともご愁傷様といったところか

京太郎「うわっ、もう既に閲覧者が千人近い!?」

アカギ「ククク、人気者だな」

 それはアナタですよ、とは言わない
 だけどその一方で、京太郎は感心していた

 傀の強さもそうだが、やはりアカギの名は凄い

 誰もが彼の強さに憧れ、こうして伝説の足跡に縋り付いているのだから

アカギ「だけどどうした? お前が金の絡まない勝負をするとは思えねぇが?」ニヤニヤ

傀「……」

 アカギの言う通り、傀は無償の戦いを滅多にしない
 だとすれば、この勝負には何か裏がある

京太郎「何を、待っているんですか?」

傀「……」ニィ


 ピコン


<対局を申し込まれました>

京太郎「誰だろう? このネト麻、同ランクにしか申請出来ない筈だけど」

 フリーでランダム対戦は出来るが
 完全指名となると、同程度のレート出ないと不可能だ
 
 だとすると、少なくとも相手はアカギや傀と同レベルの勝利数だということ

京太郎「対戦相手は――」


 ドクンッ


京太郎「SukoyaーKokaji?」

アカギ「知ってるのか?」

京太郎「多分ですけど……いや、でも本人では無いハズ」



 あのプロが
 日本一、いやおそらく世界でもトップクラスのあの人が

 こんな場所にいるわけがない




 



 【神域VS】kyoの正体についてpart114514【アラフォー】


15 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:YAnTeruru
 これマジ?

16 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:kIkaNjYuU
 本物なわけあらへんよな?

 なっ?

17 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:CharginG0
 充電不可避

18 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:iKeDaAcaT
 kyoなんで雑魚だし!!!

19 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TAMAnnee0
 あらあら、まさかこんな大物まで出てくるなんてね

20 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:koSI+MIZU
 のどっちのことも忘れないであげてください……

21 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:iKeDaAcaT
 こんな奴の何がいいのか分からないんだし!
 ぶっ倒してやるんだし!!!

22 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:NekiYadEE
 これある意味頂上決戦とちゃう?

23 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:ATGsisteR
 鳥肌もんやわ!

24 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:kIkaNjYuU
 早く早く!! 勝負してぇな!

25 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:HayariN28
 可愛いはやりんとも対局して欲しいなっ☆

26 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:FraGariA0
 こんなん考慮しとらんよ……

27 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:NekiYadEE
 うちはkyoに賭けるで!!!
 もしkyoが負けたら妹のメガネかち割ったるわ!
 
28 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:ATGsisteR
 ↑堪忍してぇな

29 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TeMpTress
 これは見ものだな

30 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:hizamakur
 勘やけどkyoはアイドルに向いてると思うんよ

31 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TokiTokii
 この勝負を見届けるまでは死ねへんわ

32 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:MaSaEATG
 すこやちゃん、最近飢えとったしなぁ
 これ分からんで



 既にネットは興奮の渦に巻き込まれていた
 それもそのハズ

 この勝率を見れば、このKokajiが本人であることは明白
 そしてそれは、kyoにも当てはまること

アカギ「クク、コイツを引っ張り出す為か?」

傀「……打ちますか?」

アカギ「いいのか? お前が誘い出した相手だろ?」

傀「元はアナタのものですから」

アカギ「何を企んでるんだか」

京太郎「い、いやいや!! 待ってくださいよ!」

 京太郎からすれば、雲の上の出来事すぎる
 いきなりあの小鍛治健夜と戦う?

 そんなの全く想定の無いことだった

アカギ「ガタガタ言うな京太郎。俺がヤる」

京太郎「でも、いくらアカギさんでも」

アカギ「京太郎」

京太郎「っ!」

 ざわ……
  ざわ……

アカギ「こんなものは遊びだ。所詮、命のやり取りじゃない……ただの遊戯」

京太郎「それは、そうですけど」

アカギ「オレも傀も、これでコイツと戦いわけじゃねぇんだ」

 そう言って指差すのはパソコン
 では、アカギは何のために戦うのか?

 それは、決まっている

アカギ「コイツがオレ達の餌になるかどうか」ニィ

傀「それだけです」ニィ

京太郎「~~~~~~~~ッッッッ!!???」

 今や日本の頂点
 永世八冠、国内無敗のトッププロを相手にしながら

 これだけの傲慢!!
 なんという自信!!!

京太郎「は、ははっ……参ったなこりゃ」

 京太郎は肩に張っていた力が徐々に抜けていくのを感じ取っていた
 そうだ

 自分が目指す領域では、このくらい当然なのだ
 
京太郎「俺はまだどこか、腑抜けていたってか?」

 


京太郎「分かりました。やりましょう」

 震えは止まっていた
 胸打つ鼓動がやけに早い

 それもそのハズ
 
 自分はまだまだ強くなれる

アカギ「行くぞ、京太郎」

京太郎「はい。アカギさん」

傀「フッ」

京太郎「それと、傀さんも一緒に」

傀「……ええ」

      _ x <        > x、
ヽ|,J|,J|,J´                `ヽ、
ミミししし                    \
ミミ三三ニ=                    ヽ

ミミ三三ニ=     ,r ,r,r,r      ヽヽ     \                  __    .,r-―=一
ー---===--.    / ///               `ー-y         ー==ニ´   `ヽ,/  /ー―- 、
//f//       / ///     /r  ノノノ     `ーy        ./              ≦、 ⌒
//   ー三三ノノノ  //  { { i } /      `ー一フ     ./ _                `ヽ、
/ /   // ,r-一y  /   {{{ツ,}  ilililil}    r一 ’.     / ,//               \⌒`
 / /  .{ { /.ー-/,,,ノー--一' ノ /ilililiシ    .}       .///                    rヽ、
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./   /l r--―フ./、_ノノ/}:/r‐..,-r彡ヽ} il       l        / ./i       ,  ∧  r、ヽ、     ',
   /゙} ゞi    ´  ′ ノ ′/.} .i-=彡   }.    l         .///       /i  / .\| \,__ .r-、',
     ',              l l .l}-=彡  /    l         /  .,   /i / .{ ./  / ` ,'´  ヽ }  }',
      ',               .{フi j//ノ ノ   i ゝ、       .{  /{   / レ`ヽリ   ,r=a=― ,リf´ l ',
      ',               ,r'-≦< iヽ  ヽー--      .l ./ l  ./ー=a=   ` ̄´   リ}ノノ ',
      ',       i       ,イl ヽ  lヽl .\ \        l/  .l ∧  ` ̄´/         }-< ',
       l.       il     /.l人| ヽ ゝ,′  `~ ̄`       ′ .l,/  \  ./  _j         ヽ ',
       \   f ,}  )  ./     .\l                     ヽ,./ /´              ヽ}
         \,.r┴ '` ̄ヽ/  rニl .r-、 `                      `´ー---―'
          \  r.、    /  }/ .iツ                            \  :::    ./
            `V .Yヽ .に}.  lニニニニ)                       \     /     /
             \.{ ヽ l  l /                           /\ _ ノ   .,r'´

               \ .V  r}../                           //    }   .//
                ヽ ヽ l /                         / /    /   /_./  ./
                 ヽ丶l/                        /  ./    /  f ̄. /  //  /
                  `V′                      /   /    /   .} /iフ/./-、/
                   ∧                      /   /__  .{    ', . ̄´ .`¨´
                   ∧                    .∧     /  .l    ',

                     ヽ                        / ∨   /    .l     l
                      ヽ                   /   ∨  ヽ    l      l
                       ヽ                   /    ∨  \.   ',     .l
京太郎「……」スッ


<Yes>

京太郎「勝負」カチッ

 ピコン

京太郎「小鍛治健夜」

 貴女の強さ――量らせてもらいますよ

 アカギさんの
 傀さんの
 

 そして何より


京太郎「俺の強さの、糧になるかどうかをね」ニィ


 闇は今静かに――
 動き出す


https://www.youtube.com/watch?v=vx87wJvwJJ4



 ちょっと遅めの飯やらなんやらでちょい離脱
 あと数レスで二部終わるんで、もう少々お待ちをー


 ご飯炊けてなかったェ……
 続けるお


【都内 某所】

 都内に位置する某ビル
 そこにある一つのフロアは本日、とあるグループが貸し切っており

 パソコンと僅かな食料のみを持って、彼女達はまるで卓を囲むように

 机を向かい合わせにして座っていた 
 
 それは勿論


 ある人物と戦う為に

健夜「……ふぅ」カタカタ

 カチッ カチカチ

 ブブー

<第二位>

 ピッピッピッ

健夜「……」クスッ

 ガチャッ

咏「なーにをニヤニヤしてんのかねー」スタスタ

健夜「あ、咏ちゃん。お帰り」ニコニコ

咏「うげっ、本当に負けてんじゃん。マジでコイツ人間じゃねー」フリフリ

健夜「そうかな? 戦って分かったけど、すごく人間らしかった」

良子「付き合わされた私の意見も同様ですねー」

理沙「人使い荒い!」プンスコプップー

健夜「あはは、ごめんね」 

咏「何? どういうこと?」

 自分は参加せず、トイレに行っていた
 所詮この三人の相手になるわけがない

 咏はそう見積もっていた

 だが、実際に戦った三人の意見はまるで違う

咏「敗けたって言っても、所詮こっちは能力無しじゃん。力使えばこっちも……」

健夜「確かに、私達三人は素で打ったし……特に示し合わすこともなく、対等に打ち合ったよ」

 それだけ見れば完全に実力を出しきれない健夜達の方が不利
 一見そう見える

 だが

健夜「Kyoさんね、様子見で打ってたんだ」

咏「は?」

良子「ノーウェイ、と言いたいところですが……」

理沙「本気!!」プンプクプー



健夜「このネト麻ね。終戦後に相手の配牌とかを俯瞰で見れる機能があるんだ」

咏「!!」ガバッ

 カチカチ コロコロ

咏「なっ……?」

健夜「ね? おかしいでしょ?」

 和了れる時に和了らない
 相手の出方を見る、あえて振込を入れて揺さぶる

健夜「だからこっちも、Kyoさんが和了放棄した時は和了らない」

良子「向こうがわざと振り込んだ時には和了らない」

健夜「そうしたらね。ほら、これくれたの」カチカチ

 過去ログに残る一つのメッセージ
 これまでKyoはどの対局においても一言もチャットすることは無かった

 これが唯一、彼が発した言葉である

咏「なっ……」


【大会ではお互いに本気でやれそうですね】


健夜「Kyoからのテストは合格ってとこかな?」

咏「大会って、まさかあの……」

健夜「うん。近いのは一つしかないね」

理沙「プロアマ合同大会!!」プンプクリー

 全国大会出場校から二名代表を出し
 プロの代表と雌雄を決する大会

 Kyoはその大会に出る
 そして、自分達と直接戦うと言っているのだ

咏「……正気とは思えないねぃ」

健夜「ふふ、そうだね」

 これはあくまでゲーム
 実際の卓とはまるで違う

 能力も、流れも、何も存在しないデジタルには
 なんの価値もない

 彼女が求めるのはただ一つ

健夜「ねぇ、みんな」ニッコリ

咏・良子・理沙「っ!」ゾクッ

健夜「私ね、やっと。やっと……」クスクス


 ざわ……
   ざわ……


:ニニニ/⌒)      \/     〃  |:.:|.:.:.:.|ハ   :::::::::::::::::::::::::::::    ハ|:.:.:.:.:.| ./    /ニニニニニニニ〉    /
=ニ/   _}ヽ   ー=彡'´    |:.:|.:.:.:.lヽ{        '         }ノ|:.:.:.:.:.| | __/===ニニニニ/⌒\/
/   __)   }          |:.:|.:.:.:.|:.人     __       人 |:.:.:.|: | | |=====ニニニ/O  Y
  /  / \/  ___________}\ |:.:|.:.:.:.l: :|:.:|:...    ̄ ̄    イ:l:.: :|:.:.:.|: | | |===ニニニ/ `¨´ /|
/ニニニ〉    Y  {ニニニニニニニニY.|八:.:.:.ト、|:.:|:.:.r‐}` ー--‐  {‐ァ: |:.|: : |:.:.:.|: | ∨ニニニニ/     / :|
\===/     |   〉ニニニニニニニニ   \l:_:|-‐'{厂         ア}ー- .:_:|:.: 八|===ニニ/       /  ヽ___/
  \/    /  /====ニニニニニ_ ,. <     |        |    ノ/=ー-、ニニ〈    〃   /ニニニニニニニニニニ


健夜「本気でヤレそうなの」




【京太郎の部屋】


京太郎「……テストは終わり、ですか?」

アカギ「ああ。どうやらただのお山の大将じゃなさそうだ」

傀「……」

 ネト麻での半荘が終わり、一息つく京太郎達
 一応の勝利
 
 とは言っても、お互いに探り探りのもので
 とても力のねじ伏せ合いなのではない

京太郎「あーあ、目の前にいたらなぁ」

アカギ「ま、同感だな」

傀「……オカルト、ですか?」

京太郎「はい。きっとこの程度じゃないですよ、三人とも」

アカギ「気づいてたのか?」

京太郎「はい。Kokajiさん以外ののーうぇいさんとぷんぷんさんも」

 おそらくはプロクラス
 それも、とびっきり上位……間違いない

 だけど、今はもうそんなことはどうだっていい

京太郎「アカギさん。傀さん」

 京太郎の目に映るのは小鍛治健夜でも、上位のプロでもない

アカギ「なんだ?」

京太郎「前にも言いましたが、今の俺は二人には遠く及びません」

アカギ「それがどうした?」

京太郎「でも、俺の目標は貴方達を抜けた先にある」

 その先に行くには越えなければいけない壁がある

 アカギと傀
 この二人を乗り越えずして、京太郎は胸を張れない

 だから――

京太郎「お願いがあるんです」

傀「……」

アカギ「奇遇だな、オレも言おうと思っていた」


 それは、京太郎にとっても
 アカギにとっても
 傀にとっても

 揺らぐことの無い信念の元に


京太郎「この大会が終わったら、俺と」

アカギ「オレ達と」

京太郎「命を賭けて、やりませんか?」

  



 金がある
 意地がある
 誇りがある
 
 人は何かを守る為に、何かを差し出そうとする
 それは誰だって同じ
 
 しかし稀にそこに例外が混ざる

 何も考えず
 なんの打算も、計画も無く

 ただ純粋に――戦おうとする

アカギ「ククク……」

京太郎「俺が負けたら自殺でもします」

アカギ「オレは成仏か。なら、コイツは?」

傀「……さぁ、どうでしょうか」ニイ

京太郎「……」

 分からない
 何が自分を駆り立てるのか
 
 この戦いの果てに、何が待っているのか?

 分からない
 でも、もう止められない

 動き出した彼の鼓動が

 魂が

 心が

京太郎「決まり、ですね」

 ソレを求める限り
 留まることは無い




【次章予告】


 時は流れ、遂に始まる大会
 参加する全国からの手練達――

智葉「あの時の借りだ。受け取ってもらうぞ」

怜「不思議やな、悪い気せーへんもん」

玄「ぶっ殺してやるのです!」

洋榎「覚悟せぇや神域ぃぃぃぃぃっ!!」

小蒔「アナタは生きていてはいけないんです!!」

豊音「ちょーかっこいいよー! サイン欲しいよー!」

照「変わったね、京ちゃん」

淡「むかつくむかつくむかつくっ!!」

爽「参ったねぇーどうも。こりゃやりにくいって」

 そして、彼女達を迎え討たんと
 静かに牙を光らせるトッププロ達――

 彼女達の目的は、ただ1人

靖子「待っていたぞォ――!! 須賀ァ――!!!」

良子「フィアー……この私が、おびえている?」

はやり「はやりんキッスあげちゃうぞっ☆」

理沙「勝負っ!!」プンプーン

咏「たくっ、嫌になるねぃ」

健夜「あっはぁ!! もっと! もっともっともっともっと!!!!! 楽しもうよっ!!!!」


 そして、京太郎の前に立ちふさがるのは


咲「ねぇ、京ちゃん。麻雀って――楽しい?」

京太郎「……」


 幕を下ろす大会
 そしてその行く先に待つ、一つの物語の終焉


――第三部――


 【伝説の欠片】

京太郎「神の一手は俺が決める!」

アカギ「クク……やってみろ」

傀「……」




 かみんぐすーん



 ※ こんだけ色々フラグっぽいの立ててますが、実際に対局描写するの数名だけです(小声)
 


 ということで前回の第一部(VSのどっちまで)に続いて今回の第二部でした
 このまま続けてもいいんですが、多少の充電した方が完結率上がると思うので
 次スレは少し期間を空けるんですお

 それまでの間に、今までに潰えたスレを復活させよっかなーと思ってたり
 進撃は置いとくとして、どれやろっかねー
 
 希望があったら埋め代わりにどうぞ ※ただしクソスレは除く
 あと、アカギ三部での要望とか希望もええで

 その他にこういうの書いてーとか、読みたいーとかでも拾うかも

 

 

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月17日 (火) 00:24:28   ID: gcqcVJUe

本当に最高のSS
テンポいいし熱くなれる

2 :  SS好きの774さん   2015年03月25日 (水) 18:35:16   ID: NLAdRK06

待ってるぜ

3 :  SS好きの774さん   2015年05月09日 (土) 23:47:43   ID: Yx-jDH4b

まじ良作だわ続きはよ!

4 :  SS好きの774さん   2015年10月08日 (木) 01:17:37   ID: ioR1b5N-

クソすぎ
原作キャラを飛び越えて強い京太郎とかただ単にオリキャラなだけ

5 :  SS好きの774さん   2015年12月18日 (金) 00:38:36   ID: 7F-QJ6uV

はよ!

6 :  SS好きの774さん   2016年01月21日 (木) 12:24:25   ID: sLNx8o0T

685
食い替えアリなん?

7 :  SS好きの774さん   2016年02月13日 (土) 15:38:02   ID: yCToyQIp

すごい続きが気になる!
早めに続編をお願いします!

8 :  SS好きの774さん   2016年04月09日 (土) 23:39:57   ID: loW0z3yJ

続き待ってるぜ

9 :  SS好きの774さん   2016年06月04日 (土) 06:59:56   ID: G_EUT7p1

ずっと待ってます

10 :  SS好きの774さん   2016年06月06日 (月) 20:58:23   ID: -fS2-vhO

二部辺りから既知の京太郎から凄い解離しましたけど、これはこれでとても楽しいです

11 :  SS好きの774さん   2017年02月15日 (水) 02:09:02   ID: uiGiUyvt

何度見ても面白いですね…。映像が簡単に頭に浮かんでもう鳥肌モノですよ。

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