◆シリアス展開
◇のぞえり、ほのえり要素あります
◆SSを書くのははじめてなので違和感はことりのおやつにしてください
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「さわら、ないで」
しまった、と思った。
口を突いて出た言葉は周りを困惑させるには十分で、ただ全身が震えて頭の中がぐちゃぐちゃになっていった。
「希ちゃん…?」
太陽のようにみんなを照らす、わたしも幾度となく勇気を貰ってきたμ′sのリーダーが不安げにわたしを見た。
「ごめん。」
「えっ、希ちゃん!?」
その純粋な瞳に耐えられなくて、逃げるようにわたしは屋上を飛び出した。
「はぁ…っ、は、ぁ…っ…はは…なに、してるんだろ…」
全力で校内を走って人気のない廊下にしゃがみ込む。自分の行動に呆れを通り越して笑えてきた。
もう辞めようかな、全部。
「希?」
「っ!!」
誰もいないと思っていた場所に響いた聞き慣れた声に身体が強張った。今一番会いたくなかったのに。なんてタイミングが悪いのか。
「…えり、ち……練習は?」
「ちょっと職員室に野暮用があったのよ。今から向かうところ、希は?今日は特に何もないって」
「う、ウチは…用事、ができて、もう帰るからっ…!」
「えっ、ちょっと希!?」
顔も直視できずに逃げるように走った。
いつも通り声をかけてくれるえりちに心が痛かった。
わたしは、わたしの心はこんなに醜いのに。
誰もいない家にいつの間にか立ち尽くしていた。
もっとも寂しいなんて、みんなと出会うまでは思っていなかったけど。
だけど今はその感情ではなくて、罪悪感だとか黒くてもやもやしたものが心の中で渦巻いていた。
穂乃果ちゃんの手を振り払って、えりちの言葉を遮って逃げて…自分でも何でこんなことになってしまったか分からない。
「えりち…えりち…っ」
ここでこんな風に泣いたって誰も助けてくれる訳じゃない、ましてやこんな気持ちを肯定してくれる人なんて優しいμ′sのメンバーにもいないだろう。
だってわたしが考えてることは
「μ′sなんて入らなければよかった」ってことなんだから。
ろくに眠れないまま朝を迎えた。
どことなく全身が気だるくて少し熱っぽい気もした。
「休もうかな…学校」
昨日の今日で練習にも行きづらいし、えりちの顔を見るのも気まずいし。
でもこのままじゃいけないのもちゃんと分かってる。謝らなきゃいけない、あんな態度をとって今日も逃げるなんて流石にズルい、よね。
うん、ちゃんと謝らなきゃ。よし。
自分を奮い立たせてわたしは洗面所に向かった。
「…み、」
「……。」
「み、…希!!」
「!!に、こっち?どうしたん?」
「どうしたん?じゃないわよ、あんた何度呼んでも返事しないからどーしたのかなって」
「あ、ああ…ウチそんなにぼーっとしてた?」
確かに少し頭がぼーっとする。
気がつけばもう放課後だった。
「希、ちょっと顔貸しなさい」
「え、ウチ痛いのはイヤや〜!」
「うるさいわね!」
おどけてみせるわたしを制して、にこっちの小さな掌がわたしのおでこにピタリと当たる。
そして間も無く深いため息が聞こえた。
「やっぱり…あんた熱あるじゃない。通りで顔赤いと思ったわ…」
あーバレてもうた…
「イヤやなにこっち〜ウチ熱とかないで?…にこっち?どうしたん?」
誤魔化そうと笑っていたらにこっちが目の前で携帯をいじり始めた。
「ほんとあんたは自分のことには無頓着よね…。…これでよし、っと。さ、帰るわよ」
「ええっ!?今日練習あるやろ?!」
「あんたそんな状態で練習出る気だったの?あのねぇ、アイドルは体調管理が命なのよ!今無理して練習したら元も子もないわ」
「それはそうやけど…なんでにこっちも帰るん?」
「あんたの家に看病にいくのよ。どうせ一人なんでしょ、こころたちのことはママに頼んだから気にしなくていいわ」
!?!?
にこっちがわたしの看病!?
そりゃにこっちはμ′sでは料理もできて面倒見もよくて、お母さんぽいけど…!
でも、わたしがにこっちに看病されるのはちょっと恥ずかしいかも…
「着いたわね」
「(特に引き止める理由も思いつかないまま家に着いてしまったわ…)」
…えりち。
昨日あのまま逃げてしまって、今日も何も話せなくて。
えりちはわたしのこともう呆れちゃったかな。
「とりあえず体温計ってくれる?にこはその間にお粥作っちゃうわ」
にこっちは本当手際いいなあ…憧れる。
μ′sの中で一番小さくて、小学生に間違われそうな見た目なのに中身はしっかりしてて、頼れる。
わたしもにこっちみたいな強さを持っていたらえりちに好かれてたかなあ…。
てきぱきと台所で動くにこっちをぼーっと眺めながらそんなことを思っていた。
考えるのはいつだってえりちのことばかりで。
こんなんじゃいつかは嫌われてしまうな。
〜♪
規則的な電子音が部屋に鳴り響いた。
脇から抜き取り表示された数字を確認する。
おお…これは……
「何度だった?」
「た、大したことないで!」
こんな数字にこっちに見られたらまた怒られる。アイドルっていうのは!って。
熱のせいかちょっと涙腺が弱くなっている気がした。こんなことで視界が滲んでしまう。
「はぁ。微熱じゃないことぐらい分かってるわよ。今更アイドルとしてどーのこーのいうつもりなんてないから泣かないの」
わたしの心を見透かしたように優しく言葉を紡いでその小さな手でわたしの頭を優しく撫でる。
心の不安が拭われて安堵感が広がった。
「さんじゅう…くど…よんぶ」
「はいはい。よく学校頑張ったわね。でも無理はしちゃだめよ、わかった?
お粥作ったから少しでも食べてもう寝なさい。寝るまでにこが居てあげるから」
「うん、うん…にこっち…ありがとう…」
「はいはい。ったく世話がやけるわね〜」
それからにこっちが作ってくれたお粥を食べてわたしはすぐ眠りについた。
「ふぅ…やっと寝たわね。…あら、メール……ふふ、希愛されてるわね、みんな希のことが大好きみたいよ」
希を起こさないようにそっと扉を閉めるとメールに書いていた通りμ′sのメンバーが扉の外で待っていた。
「にこちゃんっ、希ちゃんは!?」
「穂乃果!あまり大きな声を出しては希が起きてしまいます!」
「そういう海未ちゃんも声大きいにゃー」
わたしはため息をひとつつくとみんなを近くの公園に誘導した。
「熱があったってきいたけど、希ちゃん大丈夫なの…?」
「花陽ちゃん練習中ずっと気にしてたもんね、ことりも心配。希ちゃん一人暮らしだし…」
「う〜…穂乃果たちに何かできないのかなあ…」
「そうね、今はそっとしておいてあげましょう」
「絵里…希が心配ではないのですか?」
「心配だけれど…今私達に出来ることはないわ」
「絵里のいう通りよ。にこたちは希が元気になるのを待つしかないわ。何かを溜め込んでいるみたいだし少し希にはゆっくりする時間が必要だと思うの」
みんなそれぞれ浮かない顔はしていたけれど、納得はしたみたいだった。
もう日も傾いてきている。ここにいつまでもいてはにこたちも風邪を引いてしまう。
「さ、私達も帰りましょ。」
みんなを促して帰路に付かせる。
「あ、絵里はちょっと残ってくれない?」
「ええ…」
需要あれば続き書きます
どうぞ
あるっしょ
「はい。」
近くの自販機で缶コーヒーを2本買って1本を絵里に手渡す。
「あ、ありがとう…。えっと、話がある…のかしら?」
「希のことよ。最近変だと思わない?」
そう、希はここ1週間変だった。
ぼーっとしたり、泣きそうな顔をしたり。
見ていて消えそうだと思ったぐらいだ。
「絵里なら何か理由知ってるかと思ったけど…その様子じゃ知らないようね…」
「えぇ…わたしも、その、希に避けられていて…」
避けている?
希が絵里を?
「希が絵里を避けるわけないじゃない、喧嘩でもしたの?」
「そういうわけではないのだけれど…急によそよそしくなってしまって。私が何かしてしまったのかしら…」
絵里の顔を見る限り嘘ではなさそうだった。
希のことはにこにも正直よくわからない。
けれどμ′sのためにもこのままで言い訳がなかった。
「ねぇ、にこからちょっと提案があるんだけどー…」
「よう寝たなあ…」
目がさめるともう朝だった。
にこっちはいつ帰ったんやろ、それも知らない。
テーブルの上には朝ごはんまできちんと作られておいてあった。
本当、にこっちはお母さんみたいや。
ベッドから起き上がって背伸びをしてみる。
昨日とは打って変わって身体が軽かった。
全部にこっちのお陰やね。早く学校に行ってお礼せんと。
きっとみんなにも心配かけちゃったし、ちゃんと今日は練習にもいかないとね。
「えりち…」
えりちともちゃんと話せるかな。
「希、もう調子はいいの?」
「にこっち!ほんまありがとうなあ。にこっちのお陰で元気いっぱいや!」
「それはよかったわ、まぁあんたはもう少し人に頼ったほうがいいんじゃない?みんな心配してたわよ」
「みんな?…真姫ちゃんも?」
「なんでそこに真姫が出てくるのよ!…まぁ、昨日あんたのアパートにみんな押しかけて来た時には何も言ってなかったけど後でにこにメール送ってくるぐらいには心配してたわよ」
「そうなん…不謹慎やけどちょっと嬉しいなあ……」
「あんたは一人じゃないのよ、分かった?」
「にこっちはさすがやなあ、ありがとにこっち」
「希、もう体調はいいの?」
にこっちと談笑していると後ろから聞き慣れた凜とした声が聞こえてきた。
不意打ち。心臓がバクンッと跳ねた。
「えりち…う、うん、もう平気やよありがとうなあ」
「希……私、あなたに何かしてしまったのかしら…?」
「えっ?」
「私のこと、避けてるわよね?」
…気づかれていた。
いや、わたしの態度が分かりやすすぎたのかもしれない。
確かにそうだ。にこっちとはあんな風に話せてもえりちの前では言葉がスムーズに出てこない。
えりちからすれば避けられていると感じるのも当然だった。
えりちにバレないように先ほどまでにこっちがいた場所に視線を送るも、にこっちはもう自分の席についていた。
まるでわたしたちを2人にしているみたいに。
「希。私はあなたの気に触るようなことをしてしまったのかしら……私は、希に嫌われて…」
「ちがうっ!!!」
一瞬にして教室のざわめきが失せ静寂に包まれる。
だが、そんなことを気にしている余裕などなかった。
「えりちは悪くない、それは本当なん!でもウチが!ウチが…っ」
ウチが、えりちを好きやから。
そーゆー目でえりちを見てしまっているから。
そんなこと、言えるわけないやん…
「希…?」
「ごめん、先生に呼ばれてるから…」
「希!」
言って仕舞えば楽なんだろうか。
だとしてもその代償は?
えりちの悲しそうに揺れた青い瞳が頭から離れない。
何故自分がえりちのそばにいるのかもわからなくなっていた。
2度目の拒絶だった。
1回目はあの日、廊下で。
私は一体希になにをしてしまったのか。
何が希をあそこまで追い詰めているのか。
泣きたそうな顔をして、涙をこらえて。
何もわからないまま手離し状態で、私も泣いてしまいたかった。
泣いて、どうして避けるのよって強く腕を引いて問い詰めたかった。
でも、そんなことをしては益々希を傷つけてしまうことは百も承知だった。
話してくれるのを待つしかないのだろうか。
そもそも、希は私に話してくれるのだろうか。
希は違うと言ったけれど、私はとっくの昔に希に嫌われていたのではないか。
それとも、私が抱えているこの想いが希に伝わってしまったのか。
ー希が好き。
もう随分前からだったと思う。
もちろん最初は友達として。
だけれど、お互い心を開いて見せ合って、手と手で触れ合って時間を共にしていくうちに1人の人間として、1人の女の子として『東條希』に恋をしてしまった。
許されない想いなのは重々承知だった。
女の子が女の子に恋をするなんて。
巷では百合、なんて名称もついて調子に乗りそうになるが、これは同性愛なのだ。
日本でないところではこの想い自体が罪な国もあるぐらいだ。
言えるわけがなかった。
けれど、もし伝わってしまっているのならもう隠す必要もないのではないか。
全てを打ち明けた上で嫌われよう。
どんな言葉も受け止めていこう。
このままの関係は絶対に嫌だ。
だけど、今から追いかけて全てを打ち明ける行動に出るほど私には度胸がない。
まずはμ′sの太陽のようなリーダーに相談してみよう。
年下だけれど、彼女は頼りになる。
なによりわたしと同じ想いを抱えているから話しやすいのだ。
私は携帯を取り出して彼女にメールを送った。
「うーん…希ちゃんがね……」
「そうなのよ、穂乃果、何か希から聞いてない?」
昼休み。
私は穂乃果を誘って中庭で一緒にお昼を食べていた。
もちろん希の相談事で、だ。
「特に何も聞いてないけどなあ…あ、でもね、この間さわらないでって言われちゃったよ…あはは」
「の、希に?さわらないでって?」
「うんー…さすがに穂乃果もちょっと傷ついちゃったよ」
希が穂乃果にそんな攻撃的なことを言うなんて。
ますます頭がこんがらがってしまった。
一体希に何があったんだろうか。
「原因とか…あったの?」
「原因かあ〜…うーん……」
穂乃果が頭を抱えて悩んでいる。
原因も無しに希がそんなことを言うだろうか。
友達に、ましてやμ′sのメンバー…リーダーにさわらないで、なんて。
「あっ、絵里ちゃんに抱きついた直後…だったかなあ…」
「…え?」
「うん、うん!そうだよ!ほら、この間!絵里ちゃんがちょうど職員室にいこうとしてたとき穂乃果が絵里ちゃーん!って抱きついたよね?」
「え、えぇ…そんなこともあったわね」
「その後に屋上でね、希ちゃんにえりちと抱き合ってたやろ?仲いいなあって言われたらじゃあ希ちゃんともするー!って抱きつこうとしたらね」
「…さわらないで、って?」
「そうなんだよ〜…希ちゃん穂乃果のこと嫌いになっちゃったのかな…」
希は、わたしと穂乃果が抱き合ったところを見ていた。
その上で穂乃果と抱き合うことを拒んだ。
つまり、私が原因…よね……
「いつの間に、そんなに嫌われていたのかしら…」
「ぅええ絵里ちゃん!?大丈夫!?えっと、えっと、これ!穂乃果のハンカチだけど使って!?」
「ありがとう穂乃果…優しいのね」
「友達が泣いていたらそりゃあほっとけないよ」
いつだって側にいたのに。
何一つ希の気持ちを分かってあげられなかった。
間接ハグでも、嫌なくらい私は希に嫌われていたなんて思ってもいなかった。
それから少し他愛もない穂乃果のノロケ話を聞いてわたしは中庭を後にした。
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