…。
…また来てしまった。
……。
「…まだ、エレベーター使えないんだな」
…ここに来るの、二回目。
時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである。
『杉並区 阿佐ヶ谷のゴーヤチャンプル』
…。
「…すいません。井之頭です」
「…はーい!今すぐ行きますね!」
「ようこそ井之頭さん!」
「はい…どうも」
…。
俺の事務所と、そう変わらないくらいの広さ。
…ここに10人以上も入るんだよなあ。
…。
『いや、また申し訳ない井之頭さん!』
『い、いえ大丈夫です』
『この間のプレゼント、皆喜んでくれましたよ!』
『は、はぁ…それは良かったです』
……バレてたけどね。
『…実は、だねぇ?時に井之頭さんは土地などの紹介も請け負ってるらしいじゃないか?』
『ええ。仕事の一つでもありますので…』
『だったら話は早い!…何と言ってもウチは狭いだろう?…という事で井之頭さんに良い所があったら紹介してもらえないかと思ってだねぇ?』
『…は、はぁ…』
…ついつい引き受けてしまったこの仕事。
何だか俺は、この人にはいいえと言えないみたいだ。
「……井之頭さん!」
「は、はい!!?」
「…私の名前、覚えてます?」
「えっ…?」
…名前?
会話したのは覚えてるけど、名前は正直、聞こえてなかった。
俺とした事が、やってしまったようだ。
「…ふふっ。冗談ですよ!…あの時はお互い自己紹介も出来ませんでしたから」
……じゃあ知りません…。
「私はここで事務員兼プロデューサー!秋月律子です!」
「あ、はい…改めて、井之頭五郎です」
…ちょっぴり可愛らしい名刺。
無機質な俺のとは、大違いだ。
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