魔王「さて。安価は……」
魔王「ふむ。『嫁に』するか……」
魔王「……嫁?」
魔王「…………」
魔王「嫁だと?」
魔王「…………」
魔王「なるほど。勇者は女だったか……」
魔王「ふむ。悪くない提案だ」
魔王「今ならば確実に、勇者を倒し人間の国を滅ぼせるのだが……」
魔王「…………」
魔王「まぁ、よいであろう」
魔王「魔族と人間との、友好の証になるかもしれんし」
魔王「争うだけが能でもない」
魔王「勇者を私の嫁にしようではないか」
魔王「さて、それでは……」
魔王「…………」
魔王「……まずは、嫁を捕まえねば始まらぬか」
魔王「ふむ。勇者の村は、あまり遠くではない……」
魔王「これならば、日帰りも出来るだろう」
魔王「特に問題は無いな」
魔王「……よし。行くか」
…………
……
──勇者の村の近く──
女勇者「あっ、スライムだ」
スライム「ピキッ?」
女勇者「えーと……」
スライム「ぼっ、ぼくは、わるいスライムじゃないよぅ……ぷるぷる」
女勇者「えっ? そうなの?」
スライム「うん。そうだよ……ぷるぷる」
女勇者「そうなんだ……。 ごめんね、脅かしちゃって」
スライム「ピキ?」
女勇者「えへへっ」
スライム「……ぼくを、みのがしてくれるの? ぷるぷる」
女勇者「うん。君は悪い子じゃないんでしょ」
スライム「うん。ありがとう、女勇者さん」
女勇者「えへへ。あんまり村に近づいたら危ないから、気をつけてね」
スライム「うん。もう村には近よらないよ……ぷるぷる」
…………
……
魔王「ほぅ。あれが我が妻になる女か……」
魔王「…………」
魔王「……ふむ。少し幼い気もするが悪くない」
魔王「弱いスライムを見逃した所も気に入った」
魔王「…………」
魔王「よし、それでは……」
魔王「……女勇者を捕獲して、城に連れ帰るとするか」
魔王「……おい。そこの女勇者よ」
女勇者「えっ?」
魔王「ふふふふふっ」
女勇者「えっと……。あなたは?」
スライム「ぴっ!? ピキキキキッ!?」
女勇者「えっ? どうしたの? スライムちゃん……」
スライム「まままままっ!? 魔王さまーっ!?」
魔王「うむ。いかにも……」
女勇者「……え? まお……う……?」
c
女
魔王「突然だが私の嫁になれ。女勇者よ」
女勇者「え? 嫁に……」
魔王「うむ。そうだ」
女勇者「えっと……。あの……」
魔王「先に言っておくが、お前に拒否権は無い」
女勇者「いえ……。あっ、あのですね?」
スライム「……ぷるぷる……ぷるぷる……」
女勇者「あの……。失礼ですが……」
魔王「なんだ? 女勇者」
女勇者「わたしには、あなたが女性に見えるのですが……」
魔王「うむ。私は女だ」
女勇者「…………」
魔王「何か問題でもあるのか?」
女勇者「いえ……あの……」
スライム「魔王さま……きんだんです……ぷるぷる……ぷるぷる……」
女勇者「あの……女の子どうしの結婚は……えっと……」
魔王「問題あるまい。私はお前が気に入っているぞ」
女勇者「気に入ってるって……。そんな、初対面じゃないですか」
魔王「うむ。初対面でお前が気に入った。実に喜ばしい事ではないか」
女勇者「……それは……。ありがとうございます……」
魔王「うむ」
女勇者「でもですね」
魔王「どうした。私では不服なのか? 女勇者」
女勇者「いえ、不服とかじゃ……えーと……あの……」
スライム「ぷるぷる……わくわく……ぷるぷる……」
女勇者「えっと。私は、あなたの事をよく知りませんし……」
魔王「結婚してから知ればよい」
女勇者「無茶ですよ。そんなの」
魔王「ふむ。めんどくさいのう……」
女勇者「あの。まずは、お友だちから始めるのが……」
魔王「だめだ。めんどくさい」
女勇者「そんな……」
スライム「ぷるぷる……でも玉の輿ですよ? 女勇者さん。ぷるぷる」
女勇者「え? 玉の輿?」
スライム「はい。ぷるぷる」
女勇者「あの。もしかして、お知り合い?」
スライム「魔物達なら、みんな知ってますよ。ぷるぷる」
女勇者「魔物たちなら?」
魔王「うむ。そうだろうな」
女勇者「……?」
スライム「だって、このお方は、僕たちの王様ですよ。ぷるぷる」
女勇者「えっ? 王様?」
魔王「うむ。私は魔物達の王。すなわち魔王だ。よろしく頼むぞ、我が妻になる女」
女勇者「……魔物の王……まおう……まっ、魔王?」
魔王「うむ。魔王だ」
女勇者「そっ、それって、性別以上の大問題じゃないですか!」
魔王「む?」
女勇者「わっ、私は、これでも勇者なんですよ」
魔王「うむ、もちろん知っておる。お前はlv1の女勇者だ」
女勇者「れっ、レベルの事はどうでもいいんです!」
魔王「恥じる事はない。私が一生守ってやる。お前が強くなる必要は無い」
女勇者「そっ、そうじゃなくて….…」
魔王「何が言いたい?」
女勇者「勇者が魔王のお嫁さんになるなんて、おかしいじゃないですか!」
魔王「別におかしくあるまい」
女勇者「おかしいです!」
魔王「別にかまわんだろう? 愛さえあれば」
女勇者「あっ、愛って……」
スライム「ピキィ……あい……ぷるぷる……」
魔王「ふむ。お前はどう思う? スライム」
スライム「ピキ?」
女勇者「え?」
魔王「許すぞ。お前の意見を聞かせろ」
スライム「はっ、はい! ぷるぷる……。 ぼくは……」
スライム「>>26」
愛さえあれば良いじゃない!
スライム「愛さえあれば良いじゃない! ぷるぷる」
女勇者「スライムさん!?」
魔王「ほらみろ。これで決まりだ」
女勇者「えっ?」
魔王「もう言い逃れは出来んぞ」
女勇者「そっ! そんな!」
魔王「女勇者は私の嫁になるのだ!」
スライム「もぅ。魔王さまってばぁ。ぷるぷる」
魔王「さて、それでは……」
女勇者「へ?」
魔王「さっそく城に案内しよう。女勇者よ」
女勇者「あっ、あの?」
スライム「魔王さま。女勇者さん。どうかお幸せに。ぷるぷる」
魔王「うむ。ありがとう」
女勇者「あの……。私はまだ……」
魔王「ふはははは」
女勇者「きゃーっ! ひとさらいー」
スライム「おたっしゃでー。ぷるぷる」
こうして女勇者は魔王にさらわれてしまった。
この時、誰もがこう思った。
勇者なきこの世界は、すぐに魔王に滅ぼされてしまうだろうと。
しかし人々の不安をよそに、この後、魔王が人間の国を攻める事は一度も無かった
そして魔王は女勇者を妻として充実した日々を過ごし、
魔王に拉致された女勇者も、なんやかんやで、そこそこ幸せに生きたそうだ。
おわり
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