王様「……」

勇者(騎士)「……」

王様「……誰もいないな？」

勇者「ふぅ……そうですね」

王様「はー、これで姫にも示しがつく」

勇者「わりと今ので台無しですよ、お義父さん」

王様「はっはっ、許せ許せ。私とお前の仲だろうに」

勇者「まぁ、そうですが……」

王様「さて、ここからは堅苦しいのは抜きにきて……と、そんなに時間もないようだなぁ」

勇者「えぇ。次の公務がありますし、俺もそろそろいかないと」

王様「まま、そんなに焦るんじゃない。わりと大事なことも伝え取らんし」

勇者「わかりましたが手短に。大臣だけでなく姫まで突撃してきかねないですから」

王様「ふっ、寂しがり屋なところはあいつに似たか。まぁ、色々と言いたいことはあるが一番はこれだな。節度を持って羽目を外してきなさい」

勇者「そ、そうですか？」

王様「あぁ、婿入り前の独身旅行だと思いなさい。それは、確かに辛いこともあるだろうがこちらでもそれなりに手助けするつもりではあるしな。私の時は二年で終えてしまったが、まぁだいたい五年かかっても姫もわかってくれるさ」

勇者「五年……すこし長いですね」

王様「それも旅の流れしだいだよ。必要ならばそれくらいかかる。聡いお前のことだ、旅の途中でわかるだろうから深くは言わん、楽しんでこい」

勇者「もう、国の大事なんですから」

王様「まぁまぁ、偶には戻ってきて話を聞かせてくれよ？ あの子にも、まだ年頃、寂しがるからな」

勇者「大丈夫です、お義父さんと違ってそこはしっかりしてますから」

王様「はっはっ。減らず口をたたく……お前が息子なら、もっと楽をさせてあげれたのだがな。励めよ」

勇者「はい！」

―商人ギルド・長の私室―

商人「勇者専属の商人……ですか？」

ギルド長「あぁ」

商人「……なんで？」

ギルド長「深くは私に聞くな」

商人「……」

商人（“勇者”といえば世にはびこる魔を射つものの名。そして次期国王となることが通例となっている――そんな人の御用達？ コネ？ 上手い話？ なるほど）

商人「いやです」

ギルド長「拒否権はない」

商人「じゃあ商人辞めます」

ギルド長「娼婦として永遠炭坑行きを望むか、結構」

商人「冗談です！」

商人（ちっ、事のヤバさが青天井じゃないですか！）

商人「わかりました！ やります。そのかわり報酬弾むんですよね！？」

ギルド長「コネ」

商人「未来のじゃなくて！ 今の！ 前金とか！ いろいろさぁ！」

ギルド長「あぁ……五万、担保なし。年五でいいぞ」

商人「わぁー破格！ っじゃねえよ！ 前金じゃなくて借金じゃん！」

ギルド長「資本だ」

商人「そういうことじゃくて！ えっまじ無報酬ですか？！」

ギルド長「あぁ。ただし、宿代以外で勇者がする金銭取引のその殆どがお前を通して行われる」

商人「……武器防具消費アイテム食料品生活雑貨普段着」

ギルド長「あぁ」

商人「貴族招待のパーティードレス献上品交易品ドロップアイテム伝説の品々までですか！？」

商人「言い値で！」

ギルド長「……」

商人「……」

ギルド長「……ゴホン。ある程度ならば相場外でも問題はない。が、国王から一言もらっている。“仮に、万が一、もしももしも勇者の身に何かあった場合、一族皆『ピーーーーー』だ“とな」

商人「アッハイ」

ギルド長「それと専属だからといって普段の商いのほうを辞めろというわけではない。いや、むしろ推奨している」

商人「へぇ、そうなんですか」

ギルド長「あぁ。そこのところは自分で調整しろ。それに資金はあるにこしたことはないからな」

商人「ですね」

ギルド長「他は勇者が知っているか、自分で判断しろ。後ひとつ、初めは餓死、それだけに注意しておけ」

商人「……はぁ？」

prrrrr……
ギルド長「はい」

王様「やぁ」

ギルド長「あぁ。何用だ、先任“勇者”？」

王様「はっはっ。いつもながら不機嫌そうだね、元“専属”」

ギルド長「昔話なら切るぞ」

王様「いや、そういうわけじゃない。なに、ただの確認だ。私が渡した五万G、ちゃんと彼女に私てくれたのだね？」

ギルド長「……あぁ」

王様「ならよかった。昔は商人なんてやだーと言っていたのにいつのまにか酷い守銭奴に変わってしまったからなぁ君は」

ギルド長「切るぞ」

王様「あーすまんて。全く、冗談が通じないのは昔からおっと失礼」

ギルド長「はぁ……今回の、気にかけすぎではないか？」

王様「ん？ “勇者“のことか？ 仕方ないだろう、幼き頃より勇者として口伝すべきことが出来なんだ。これくらいではまだまだ、通例通り勇者には一銭も与えとらんし」

ギルド長「ふん。まぁ好きにしろ。こちらは何もせんしな」

王様「はいはいじゃあまた。今度なにか持っていくよ。一先ずあれが終われば“旧友”も来るだろう」

ギルド長「……あぁそうだな」

―酒場―
勇者「待ち合わせはここだな？」

勇者（えっと、相手の特徴は、“地味で頭が足らんような顔の空気に近い扱いを受けている女”は、ギルド長からか。まぁあの人らしいな。で、“娘と違って可愛い小動物みたいな感じっぽい”がお義父さん……う、うん）

勇者「なんで、絵とかないのかなぁ。まぁ若い娘の商人なんて滅多にいないから店主に聞けばいいか」

ｶﾗﾝｶﾗﾝ

マスター「いらっしゃい」

勇者「軽食をお任せで。あと若い娘の商人さんっていないか？」

マスター「……何用だい？」

勇者「仕事仲間、かな？ 迷惑はかけないよ」

マスター「見たところ王国騎士でそれなりの位か。詐欺容疑ってわけじゃないよな？」

勇者「あぁ、誓って」

マスター「二階だ。飯は後で持っていく」

勇者「えぇ、有難うございます」

ｻﾞｯｻﾞｯｻﾞｯ

勇者（えっと……）

商人「」ｼﾞｰ

勇者（あれ、か。何見てるんだ？）

勇者「失礼、相席はよろしいかな？」

商人「どうぞ、勇者さん」

勇者「話が早くて助かるね。で、さっきから何見てるんだい？」

商人「人と金です」

勇者「人はわかるけど金も見えるのか？」

商人「単純な所持金の話ではないですが。今、その人がどの程度お金を動かしていて、どの程度お金を余らせているか。商人なら必要でしょう」

勇者「あ、あぁ。そうなのか、わからんけど」

商人「……」

勇者「あっ、で、確認だけど君がギルド長から言われてる商人だよね？」

商人「はい、そうですよ。長い付き合いになるかと思いますが宜しくお願いします」

勇者「あぁよろしく」

マスター「おまたせ」

勇者「あぁ、ありがとう」

商人「……」

勇者「あーそれで早速なんだが俺は本日中には旅立とうと思っている」

商人「は？」

勇者「これからどれほどの時間がかかるかわからんからな、しゅっぱ――」

商人「待ってください。そこは後々聞くとして、先にそのたびの目的を聞かせてもらえませんか？」

勇者「ん？　聞いてないのか？」

商人「えぇ」

勇者（……うーん、聞いてないのはどこまでか……下手に多く話しても後々影響しそうで困るな）

勇者「俺自身全てを王様から伝えられているわけではないんだが……」

商人（いきなり嘘かよ。人に知らないのかって言っておいてそれは通らないでしょうが。やはりそれなりに何かあるってことですね）

勇者「―-とりあえず最初に枯れた森の奥地にいる魔王のところへ（会いに）行く」

商人「はぁ！？」

勇者「……一応一般に聞かれていい話ではないんだあまり人目につくようなことはやめてくれ」

商人「んな、そ、それはわかるけど……魔王ってあれでしょう？」

勇者「魔人や魔獣、魔法生物などを束ねているとされている伝説上の生物、魔族。それのトップだ、と思う」

商人「……御伽噺じゃ、ないんですか？」

勇者「多分、な。国王直々の命令だ。いるんだろう」

商人「……ひとつお伺いしますが、勇者さんって強いんですか？」

勇者「人並み以上には、な。国王直属の近衛騎士団団長だったから」

商人「人並み……いや、そもそも近衛騎士団とかも聞いたことないんですけど」

勇者「えっ……と、まぁ基本裏方だしな。それでも一応は王国闘技大会優勝者には勝っているから」

商人「……」

勇者「……」

商人「降りてもいいですか？」

勇者「できるなら、まぁ」

商人「いーやーだー！　わざわざ死にに行きたくなーい！」

勇者「ちょ、声！」

商人「単なる魔物退治じゃないじゃないですかー。そりゃ、あのくっそ爺が脅してくるからそれなりにでっかい敵と相対するのかなぁと思ってたけどそりゃないよー無理だよーこんなひょろい優男じゃワンパンだよーくそがっ！」

勇者「いや、会いに行くだけだし君やっぱり口調悪いな」

商人「うっせ、しね」

勇者「とりあえず落ち着いてくれ。俺は戦いに行くわけではない、会いに行くだけ。しかも君についてきてもらおうとも思ってない」

商人「じゃあどうやってそこまでいくんですか」

勇者「いくらか買い込んで、途中野生生物でも狩りながら進めば無理じゃない、と思う」

商人「……」

勇者「駄目でも君がどうにかなるわけじゃ――」

商人「どうにかなるっての。はぁ……会いに行くだけなんだよね？」

勇者「あ、あぁ？」

商人「近くまでは着いていく。魔王のところには一人で行って」

勇者「いや、そこまでしなくても――」

商人「そこまでしないと私があのくそ爺に殺されちゃうの！」

勇者「……ギルド長かぁ。まぁ、うん」

商人「知り合いかよ。ならわかるでしょ？」

マスター「あーお話中悪いがいいか？」

勇者「はい？」

マスター「これを渡すよう速達が来てな」

商人「私にですか？　……」ﾊﾞﾀﾝ

勇者「おい、どうした」

商人「あっのくそじじいー」

『魔王への謁見は商人も同行すべし』

商人「はぁ……」

勇者「……」

商人「厄年だわ」

勇者「……」

商人「……あーもう！　で！？　どこ行くの！？」

勇者（自棄になるのが早いな）

勇者「とりあえず枯れた森を目指す。森の入り口に近い町を馬車で移動して、ひとつ、二つ……大体五日か」

商人「……そうですね。道中魔物が出なければですけど」

勇者「あぁ……口調そんな丁寧にしなくていいぞ？」

商人「これが素だよ黙ってろ」

勇者（……）

商人「ともかく、馬車の発着を確認しましょ」

―馬車停―

御者「ん、あー駄目駄目。君はいいけど後ろの君は駄目だね」

勇者「ん？」

御者「商人ギルドから直々にね。はいこれ、使者からの手紙」ﾋﾟﾗ

『商人自身の手持ちの馬車以外認めず』

勇者「……持ってるの？」

商人「……持ってるわけないでしょう！　ばか！　くそじじぃ！」

勇者「だと思った。でも君だけ乗れるなら先いってる？」

商人「……最初の町までならそれほど遠くないか。ここらじゃ魔物も出ないし、その先はおいおい？」

勇者「だな。そこなら馬車よりこっちのほうが早いし」

商人「なら宿とっといてもらっていいですか？　こっちにあわせると遅れそうですし」

勇者「そうだな」

御者「乗るなら早くしてくれよ！」

商人「はい、待ってくださーい！　じゃ、また」

勇者「おう」

勇者「……」

「……」

勇者「……部下」

部下「なんでしょうか？」

勇者「……どう思う？」

部下「質問が不明瞭です」

勇者「そうだな。俺だってよくわかってないし」

部下「休暇では？」

勇者「そんなのんきな理由じゃないだろ」

部下「……解雇？」

勇者「まじでへこむからやめてくれ」

部下「ですが、近衛隊隊長は今は私ですけど」

勇者「……それはおいておくとして、あいつのことはどう思う？」

部下「あの商人ですか……並かと」

勇者「あぁ。俺もそう思ってる。が、選んだのがあの人だからなぁ」

部下「えぇ」

勇者「どう思う？」

部下「良くて側室。通例でいくのであればあの子は次期商人ギルド長、または長補佐ですから地盤固めというのが定石かと」

勇者「……だよな」

部下「はい」

勇者「それにしては頭軽そうなのがきたな」

部下「……」

勇者「なんにせよ、余分なことだ。しばらく王都は任せた」

部下「はい」

勇者「大事なきよう頼むぞ」

部下「あなたこそ、油断なさらぬよう」

勇者「あぁ、じゃあな」