女「そう思わない?」
男「思わないよ! 危ないから窓から離れようよ!」
女「なぜそこまで空を飛ぶことを拒むの。自由はそこにあるのに」
男「またわけのわからないことを……。でも、君はその自由と引き換えに死ぬぞ。君が死んだら僕が悲しむ。葬式でめちゃくちゃ泣いてやる」
女「え。でも……ものの数秒間だけ味わえる、浮遊感を感じてみたいと思わないの」
男「浮遊感を味わいたかったらジェットコースターでも乗ってこいよ」
女「……」
彼女はいつも、死にたがっている。
男「で、なんで僕たちは遊園地に来たんだっけ」
女「空を飛ぶためよ。さあ、並びましょう」
男「何に」
女「ジェットコースターに!」
男「ちょ、先に行くなって! わかったから! こら!」
その割にいつも楽しそうなのは、僕じゃなくて彼女の方なのだ。
女「ひゃああああああああ! 怖い怖い! 落ちてる落ちてるぅ!」
男「……」
女「――だめね」
男「はあ?」
女「あんなの、空を飛んだって言わないわ。紛い物の自由なんていらない。自由がないなら死んだって意味ないわ。わかってないのね」
男「あー……。なら、どうすればいいのさ?」
女「空を飛べたら、きっと、目の回るような疾走感を感じるんだわ。目の回るような。と、いうことだから、今度はあれに乗りましょう」
男「コーヒーカップ?」
女「くるくるくる」
男「……」
女「くーるくるくる」
男「……楽しい?」
女「うん」
男「……さっきからカップ、あんまり回ってないけど」
女「それはおかしいわね。わたしはもう死ぬほど目が回ってるわ。くらくらよ」
コーヒーカップを降りるとすぐに、彼女は言ってきた。
女「目が回ったわ。真直ぐ立てないわ。だから、腕を組んで歩きましょう」
男「はあ?」
女「えい」
男「おわっ」
女「腕を組まないと転んで頭を打って死んでしまうところだったわ。まあ、わたしは死んでしまってもいいのだけど。でも、あなたが悲しむんでしょう。よかったわね」
僕らは恋人がするように腕を組んで歩く。
女「今度もだめだったから、違うのにしましょう」
男「何に?」
女「そうね。空を飛ぶには、高いところに行かなくちゃならないわね。だから、あれよ」
男「観覧車か……」
彼女と腕を組んだまま、観覧車の長椅子に座った。
女「高く昇っていくのね」
男「観覧車だから」
女「あんなに人がいたのに、今は二人っきりみたいだわ」
男「う、うん」
女「見て、夕陽が綺麗よ。ここから飛び降りたら気持ちいいわよ」
男「やめろよ……」
女「何言ってるの。こうして腕を組んでいる限り、わたしは飛び降りれないのよ? わたしが死んだら悲しむんでしょう? なら、その腕を離さないでいなさい」
男「あー……うん」
女「腕を組むより、手をつないだ方がいいかもね。そしたら、わたしは死ねないわ」
男「はいはい」
女「あ……。そう、手を離さないようにね」
彼女と手を握り、夕陽が沈むのを眺める。
また来ようね。
僕は彼女の横顔に囁く。
女「……」
こくり、と頭が動いた。
今、彼女もきっと僕と同じように、死ぬドキドキしているに違いなかった。
おわり
うんこしてくる
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