人見知りの気がある私でも、彼女の人懐っこい性格とはすぐに打ち解けられた。

　レッスンが辛い時、ライブ前の緊張した時、彼女の明るさに、私は何度助けられたかわからない。　

　明るくて優しくて、気さくで面倒見の良い女の子。

　普段は同年代みたいに接してるけど、いざという時はちゃんと年上に見える。

　多田李衣菜という女の子はそんな不思議な子だった。

　そんな李衣菜でも、時には熱く、情熱的な面を見せることがあった。

　いつだったか、よその事務所のアイドルと共演した時のことだ。

　歌を歌うのは父を見返すためと宣言したその子に、李衣菜は涙を流しながらこう訴えた。

　音楽は人を見返したりとかそういうことに使っていいものじゃない！と

　私も音楽は好きだし歌うのだって好きだ。

　けど、李衣菜には勝てないと思う。

　あれは確か、初めて持ち歌をもらった時のことだ
　ロックだロックだ！うっひょー！とひとしきり騒いだ後、李衣菜は一言、ぽつりとこう漏らしたのだ。

　「ねえ凛。他の誰がこの子のことを嫌っても。凛だけはこの子のことを嫌いにならないであげてね。だってこの子はさ、凛に歌われるために生まれてきたんだから」

　李衣菜の言葉があったからこそ、私は今もあの時もらった持ち歌を歌い続けることができているんだと思う。

　李衣菜と二人三脚でやってるうちに、クールのアイドルもたくさん増えてきて、私達プロジェクト・シンデレラガールズが、単独ライブを開くことになった。

　最初は緊張もしたし、正直怖くもあった。

　けど李衣菜となら、どこまでも高く飛べると信じていたから、平気だった。

　ライブ中も、すぐそばに李衣菜を感じていた。

　「李衣菜と二人で今まで走ってきて、本当に良かったです！」

　MCで言ったこの言葉に嘘偽りはない。

　ライブが終わってからふと、こんなことを考えるようになった。

　私にとって李衣菜は、切っても切り離せない半身だ。

　なら、その逆は何だろう。

　李衣菜にとっての私は、どんな価値を持っているのだろう。

　ぼんやりと考えていた私をふと、スマホの通知が現実に引き戻した。

　多田李衣菜さんがツイッターに画像を投稿しましたという通知だ。

　サムネイルには私とのツーショットが表示されている。

　画像と一緒につぶやかれたつぶやきを読んで、私は静かに微笑んだ。

　「こちらこそ、これからもよろしく。相棒」

　つぶやいた言葉が虚空に溶けたその瞬間。

　黄昏の中歌う彼女の姿を、私は確かに幻視した。

　end.