穂乃果「恋しーあの子」 (18)

私は今まで恋をしたことが無かった。


人を好きになるってどんな感じなのかな。
きっとすごくドキドキして……
お話しするだけで顔が熱くなったりして……
なんて、ただ想像するだけで、これからも自分には無縁なものだと思っていた。


ああ。
彼女の顔を見るだけで、想像していたより何倍もドキドキする。
話をするだけで、火がついたかのように顔が熱くなる。

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私は今まで恋をしたことが無かった。


でも、すぐにわかった。


これが恋をするってことなんだ。
これが人を好きになるってことなんだ。





私、高坂穂乃果は、幼馴染の女の子、園田海未に恋をした。

待ち合わせの場所が見えてきた。

もう彼女にはかっこ悪いところは見せたくない。
そう思って、頑張って早起きをしてみたけれど、園田海未はすでにその場所に居た。

スクールバッグを肩にかけて、文庫本に目を落としている。
もう一人の幼馴染、南ことりはまだ来ていないみたい。

心臓がトクンと跳ねた。

まただ。
海未ちゃんの姿が視界に入るだけで、寿命が縮むんじゃないかと思うくらい、胸が暴れる。


落ち着くまで出ていくのはやめようか、と思うも、隠れるより早く彼女の目がこちらに向いた。

「おはようございます、穂乃果。今日は早いですね」

「お、おはよ!」

慌てて髪を撫でた。
寝癖、ちゃんとなおしてきたっけかな。
そんな些細なことが今更になって気になった。

「珍しいですね、ことりより早いなんて。今日は雪でしょうか」

読んでいた本にしおりを挟み、バッグの中にしまいながら、からかうような口調で言った。

「夏に雪が降るわけないじゃん!穂乃果だって、たまには早起きくらいするもん!」

自覚があるから当然だけれど、やっぱり彼女にも寝坊助だと思われてたんだなって思って、顔が熱を帯びていくのがわかる。

そんな変化を隠すために、ムキになってそう答えると、彼女は、本当に偶にですけどね、と口に手を当ててクスクスと笑った。

私は今まで恋をしたことが無かった。


故に、実際恋をしてみると、どうすればいいのかまるでわからない。
わからないから動きようがない。
動きようがないけれど、このまま何事も無かったかのように、というのは耐えられない。

海未ちゃんへの感情を自覚してからまだ数日だけれど、意識しすぎてどうにかなってしまいそう。


今も、海未ちゃん、ことりちゃんと一緒にお昼のお弁当を食べているけれど、いつもよりなんとなく食が進まない。

これでもまだマシになった方だ。
自分の気持ちに気付いた翌日なんかは、海未ちゃんと一緒に食べるご飯なんて全く喉を通らなくて、用事があると抜け出して、生徒会室で一人、黙々とパンを口に運んだものだった。

とにかく、このままというのはとても耐えられない。


こんなときは、誰かに聞くのが一番。
私たち二人と誰よりも長く一緒の時間を過ごしてきた、ことりちゃんに相談してみよう。
とりあえずはそう決心して、昼食のパンを口に詰め込み、訝しげな二人の目を無視して飲み込んだ。

亀更新になると思います

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