大学生「あのときは日本の大きな転換点だと思ったのに、結局何も変わらなかった」
大学生「歴史の転換点にはなったかもしれないけど、根本的には何も変わらなかった」
大学生「あの地震はなんだったんだ? あれは無意味だったのか?」
親友「……大二病かい?」
大学生「だってそうだろ。地震前と一体何が変わったんだよ? 東北が壊れて、経済が一旦後退しただけだろ? 俺たちは何を得たんだ?」
親友「天災なんだから、得られるものなんてないと思うけど。失うばっかりだったんじゃないかな」
大学生「やめろよ。意味が無かったなんて考えたくない。あんなに死んで、あんなに壊れて、あんなに、あんなに」
親友「意味が無いから天災なんだよ。それに人の死なんて、元から意味の無いものさ」
大学生「……中二病?」
親友「君に合わせてるんだよ」
大学生「それでも俺たちは学んだはずだった」
親友「たとえば何を?」
大学生「人間じゃどうやっても制御できないものがあるってこと。科学だなんだって言っても、所詮はそんなもんだ。信用しすぎだったし、傲慢すぎたんだよ」
親友「あー、それはあるかもね。原発は爆発しても続けるみたいだし」
大学生「沿岸部でも、地震前より大きい堤防を作ってるんだよ。信じられるか? 『想定外の事態が起こり得る』って身をもって体験したはずなのに、『想定外のことも想定する』なんて詭弁を堂々と使ってるんだぜ」
親友「無駄だよね。金じゃなくて、なんだか、すべてが」
大学生「何も学んでないと思わないか? 俺はあの地震で一種の諦念みたいなものを感じたんだけど、他の人たちはそうじゃなかったのかな?」
親友「まあ、金を出すのもみんなの上に立つのも、結局は東京の連中でしょ。彼らは当事者じゃないから、どうでもいいことなんだよ。体面を保ったまま何か作れればいいのさ」
大学生「原発もそうだろ。地震の直後は、誰もメルトダウンなんてありえないと思ってた。それでいざ水蒸気爆発やらメルトダウンやら起こったら、誰もが反原発に傾いた。でも年月が経って、いつの間にか反原発を唱える方が『非科学的で物分かりの悪いバカな連中』みたいなレッテルを貼られただろ。なーんにも変わらなかった」
親友「ほら、日本人って極端だから。自民党かそれ以外か、原発か反原発か、良いか悪いか。一方が駄目だったらもう一方のほうにふり子が振れて、そっちが駄目だったらまた元の方に戻って、どうしても中庸にはならないんだよ」
大学生「結局俺たちは安全より経済を取ったんだ。たとえ身近にいつ爆発するかわからない核爆弾を持っていたとしても、景気の方が大事なのさ」
親友「その爆弾の爆風が当たる範囲にいなければ、人命の危険なんてどうでもいいんじゃないかな。関係ないんだから」
大学生「経済経済ってみんな言うけれど、メルトダウンが起きたらその地方の経済なんて長期的に壊滅しちゃうよ。福島の観光産業や農業は、あと百年は原発の影響から逃れられないだろ。人はどんどん仕事がある県に流れていくし、そうすれば人口が減って、景気がさらに悪くなって、もっと人が減ってく。土地への愛着ったって、若い人間はそんな悠長なこと言ってられないし」
親友「だから言ってるじゃないか。その範囲にいない人間にはどうでもいいんだよ。電気代が上がらなければそれでいいんだ」
大学生「……なんか、考えてみれば、学生自治会みたいなこと言ってるな。俺ら……」
親友「二人で入会する?」
大学生「やめてくれ。ああいう過激なことする奴らがいるから、反原発がバカみたいに扱われるんだろ」
親友「確かに原発を即時全廃止なんてのは現実的じゃないと思うよ」
大学生「原発なんてものの存在がそもそも非現実的なことに思えるけどな。建てて稼働させるところまではいいけど、いざ停止するってときに、どうやって止めるつもりなのかなっていつも思う。一万年単位で残る有害物質をどうするんだよ」
親友「一度始めたら最後、かな」
大学生「見切り発車もいいとこだ。それを止める機会がやっと来たのに、みすみすそれを逃してしまった」
親友「でもそのうち順次停止していく予定なんでしょ?」
大学生「むしろ国の言うことを素直に信じられるのが怖いわ。原発関連でどれだけ嘘つかれたか、忘れられてるのかな」
親友「まっ、二人とも文系なのにこんなこと言っててもしょうがないでしょ。きっと僕らは、無知で馬鹿で勝手なこと言ってるクズヤローなんだよ」
大学生「じゃあ文系らしい話でもするか?」
親友「どうぞー」
大学生「……あの日からずっと考えてるんだ。何故俺が生きてるのか。何故あの人たちは死んだのか。何が違ったのか」
親友「あー、そりゃ簡単だよ。沿岸部に住んでなかったからさ。地震そのものじゃ、今の耐震性が確保された住宅では死ぬことはほとんど無いけど、津波はほぼ死ぬ。3.11の死亡者・行方不明者のほとんどは、津波が原因だろ」
大学生「じゃあ沿岸部に住むことは悪いことだったのか?」
親友「えぇっ?」
大学生「悪くないのに死んだのか?」
親友「ここがそんな勧善懲悪な世の中だと思ってたのかい?」
大学生「思ってない。でも……納得できない」
大学生「そもそも住んでる場所がどこだったかなんて大した違いじゃない。あの日、沿岸部にたまたま旅行や仕事でいた人もいるし、逆に沿岸部に住んでてもあの日だけ用事があって別の場所にいた人もいる。そう考えれば住んでる場所なんて関係ない。今生きてる人でも死ぬ可能性があったし、あの日死んだ人たちにも生き残るチャンスがあった。じゃあ何が違ったんだ? どうして俺は生きてるんだ?」
親友「さあ。運命だったんじゃない?」
大学生「運命だった、って何の意味も無い言葉だよな。だから何?って話だ」
大学生「俺はあのときただの高校生で、家族はいたけど彼女なんていなかったし、家族以外の誰かに愛されてるわけでもなかった。善人ではないし、宗教にも入っていない。あの日を生き残る必然性なんて無かった」
大学生「それなのに、たくさんの人が死んで、俺は死ななかった。妻と子供を流された男や、避難中に津波にのまれた子供たちがいた。彼らは俺よりずっと生き残る価値があったんじゃないのか? 彼らの代わりに俺が死ねばよかったなんて思わない。でも納得できない。本当に……本当に、あの地震は理不尽だった」
親友「……」
親友「一つ言うとしたら」
親友「死人にそんな気を遣うべきじゃない。奴らは死んだ。死んだら終わり、負け組だ。死んだ以上、俺らがかかわるべきではないし、かかわられても困る」
親友「だいたい、体育館に死体安置されて集まったからっていい気になって幽霊になる奴らは馬鹿野郎だ。軽蔑はしても同情するべきではない」
大学生「……ん? なんでオカルトになってんの?」
親友「君が喜ぶかと思って」
大学生「一人暮らし始めたんだからそういうのやめろって言ったろ!? っていうかそれ実話!? また見たの!?」
親友「震災当時の市の体育館は、夜だったら霊感無くてもばっちり見えるくらいたくさんいたよ。今は……どうかな、見てないからわからないけど、さすがにもうほとんど残ってないでしょう」
大学生「やめれやめれ」
親友「はっはっは」
大学生「なんか萎えた。別の話をしよう」
親友「どうぞどうぞ」
大学生「あー……そうだ、なんか『奇跡の一本松』ってあったろ。津波でも流されずに一本だけ立ってたってやつ。陸前高田の」
親友「あー、あったねそんなの。復興の象徴だー、みたいに祭り上げられてたね」
大学生「あれってさ、せっかく残ったのに海水の塩分のせいで枯死しちゃうってことで、切り倒したんだよ」
親友「え、そうなの? もったいない」
大学生「まあその切り倒したやつは、幹には保存処理をほどこして、枝葉の部分にはレプリカをくっつけて、あとでモニュメントとして展示するらしいんだ」
親友「よくやるねえ。お金がもったいない」
大学生「復興の象徴だってことなんだろ。でも俺も気にくわないんだよ」
大学生「なんだかあの一本松が、東北地方の現状の象徴みたいに見えるんだ」
親友「ほう?」
大学生「地震、津波、メルトダウンと続いた中でなんとか生き残って、でもその余波で大きなダメージを受けて死にかけてさ。そのうえ、『絆』だなんだと中身の無いイメージを押し付けられて。一本松みたいに切り倒されるんだよ。この場合は、切り離されるって言うのかな。それで、死んでるままなんだか綺麗なものみたいに飾り立てられてさ。失われたところには紛い物を当てて誤魔化すんだよ。いいように利用されるんだ。でもその実、死んでるんだよ」
親友「……なるほど、わからん」
大学生「俺も自分で言いながらわからなくなってきた。でもこの感覚、伝わってほしいなあ」
親友「というか、死んでるの?東北って」
大学生「端っこはもうやばいだろ。景気悪いし人は減るし。経済ってのは人が減ると必ず衰退するんだよ」
大学生「結局なんだったのかな、3月11日って。楔みたいに俺たちの奥に刺さったはずなのに。忘れ去られてく感じがするんだよ」
親友「人間は忘れる生き物だろう? 忘れていいんだよ。ただ、教訓として覚えておかなきゃならないことはあるんだろうけど」
大学生「もしこのまま何も学ばずにすべてが進むんなら、俺はもうこの国で生きていたくない。未来があるように思えないんだ」
親友「いいんじゃない? 僕たちは選べるんだから。好きなようにしなよ、応援するよ」
大学生「ありがと」
親友「……で、大二病くん、こんな話ばっかりして、単位は大丈夫なのかい?」
大学生「人間いつ死ぬかわからないからな。勉強なんか真面目にしたってしょうがないわ!」
親友「……君は何を学んだんだか」
おわり
どう読んでもチラ裏。自分でも読めないレベル。
4000字で11レスにしかならないとかちょっとショック。
実験というか練習だったけど勉強になった。
がんばろ……
このSSまとめへのコメント
信念の無い言葉が人に響くと思うな。