ラブアライズ! (106)
アライズのつばさちゃんが可愛すぎて思わず書き始めたものです。
SSを書いた事がなかったので、SSというよりはライトノベル的な感じになっていますが、ご了承ください。
ちなみに作品の設定やキャラクターの人格などは作者の印象によるオリジナル要素が多分に含まれております。
キャラ崩壊の可能性もなきにしもあらずなので、嫌いな方はお気をつけ下さい。
ちなみにアライズ結成秘話的なノリですので、音乃木坂のメンバーは出て来ません。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405885047
真新しい白の制服に身を包み、一人の少女は目を伏せて、静かにその時を待っていた。
やれるだけのことはやった。それは胸を張って宣言したっていい。そう思えるくらいに、彼女は自らの全てを出しきった。
番号と共に名を呼ばれていくのは合格の資格を得た者たちだ。
UTX学院芸能科が企画したスクール・アイドル・プロジェクト――在学中に学院の全面バックアップの元で実際にアイドルとして活動が出来るという企画ではあるが、その内容はかなり過酷なものだ。
高校生という身分でありながら、そこは完全な実力社会が敷かれ、実力の無いものは容赦なく淘汰されていく。
「117番 綺羅つばさ」
自らの名を呼ばれ、彼女は静かに立ち上がり返事をする。
広々とした室内にどよめきが生まれ、向けられた好奇の視線を受け止めながらも、彼女――綺羅つばさは、微塵も動じたりはしなかった。
さも当然のように、湛えた笑みを崩す事もなく、毅然とした足取りで合格者が集まる壇上へと向かう。
「128番 統堂 英玲奈」
立ち上がったのはすらりとした長身の女性。凛とした顔立ちと紫の長い髪が相まって、かわいいというよりは、かっこいいという感じの印象を受ける。
小柄なつばさと比べると、二つほど歳上に見えるような大人びた雰囲気を纏って、英玲奈と呼ばれた女性はしなやかな足取りで壇上へと歩き出す。
再びどよめく室内を職員が制して、合格者の発表は終わりを迎えた。
壇上へと並んだのは総勢十名の合格者。そのほとんどが三年生であり現役のスクールアイドルだ。
このオーディションは新入生の実力を計り、現役スクールアイドルの実力を身をもって知ってもらうために行われる、言わば腕試しのようなものだ。
だが、今年は少し様子が違っていた。
壇上へと並ぶ十名の中に、入学して間もない生徒が二名混じっていたからだ。
一人目は綺羅つばさ。薄茶色のショートヘアに碧色の瞳。小柄な体格ながら柔軟な身体を使ったキレのあるダンスを武器に見事、合格の資格を勝ち取った。
二人目は統堂英玲奈。長身と長い四肢を使ったダンスは見るものを惹き付け、 他者を寄せ付けない大人びた雰囲気は、佇むだけで絵になるようだ。
司会を務める職員が合格者全員を一通り紹介した後で、勝者を称える言葉を、選ばれなかった者たちが全員で声にする。
『おめでとう』
様々な思いが詰まった言葉を受けて、合格者はそれぞれに決意する。
つばさもまた、合格者として現役スクールアイドルと肩を並べて立っている事に感慨を覚えながら、改めてここがスタート地点なのだと思い直す。
(まだ、始まったばかり……)
そう考えて、まだ何も始まっていないのだと自分を戒める。
ちらりと自分とはとても同じ歳に見えない女性へと目をやってみるが、その視線に気づいて尚、固めた表情が動く事はなかった。
(まぁ、当然よね)
ここに居る者は同じ学院に通っているだけで、決して仲間ではない。例え同じユニットを組んだとしても、それはあくまでもロール<役割>である。
誰がセンターに立つか、誰もが常に虎視眈々とその場所を奪おうとしている世界なのだ。
そういう環境を作る事で、このUTX学院の生徒は常に高みを目指し、学院を出ても尚、活躍出来るのだと謳<うた>っている。
自らを知り、自らの長所を武器として高みを目指す。それぞれがスタンドアローンたるアイドルであり、何よりも自分の実力がものを言う。
それがUTX学院のスタイルだ。
つばさが選ばれたのはまだあくまで候補生に過ぎなかった。ここからは、限られたイスを巡った、この十名との戦いが始まるのだ。
「今日のところはこれで解散です。各自、明日からレッスンに臨めるようにしておいて下さい」
職員から今後のスケジュール表を受け取って、つばさは荷物を取りに行くために一度、教室へと戻った。
誰もいない教室は、がらんとしていて何となく物悲しく思えてくる。まるでそれは、今まさに自分が置かれている状況のようで、言いようのない不安が混み上がって来るのを抑えきれなかった。
伏せた視界が歪んでいく。
このままではいけないと、まるで逃げるように、つばさは駆け出した。
アイドルに憧れて、踊るのも歌うのも大好きで、これは自らが選んだ道なのだと自分に言い聞かせながら、つばさは走った。
不安も迷いも、教室に忘れてきてしまえばいいと必死に走る。
走り続ける。
これだけ走ったのはいつ以来だろうかと、上がった息を整えながら、つばさは足りない酸素を求めて呼吸を繰り返す。長く走った所為か、涙はもう止まっていた。
(大丈夫。まだ走れる)
心はまだ動いている。だからまだ走れるのだと、つばさは顔を上げる。額を汗が伝い、地面に落ちた。
端の方が赤みを帯びてきた空を眺めていると、不思議と心が軽くなるような気がして、つばさはいつの間にか笑っていた。
とりあえず今回はここまで、また書いたら上げます。
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