陽はまた昇る(573)

狐娘「男さん!」男「狐娘?」
狐娘「男さん!」男「狐娘?」 - SSまとめ速報
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一応の前日談。勿論読まなくても分かる様に書きます。
大分シリアスなので数レス読んで「僕には···無理だ···」と思ったら止めときましょう。

 日ノ本の国とか言いながら日本中真っ暗闇の真っ只中の真っ最中な訳なんですけどね、人っていうのは
ずっと夜でも明るい物で、街中は喧騒と眩しい位のネオンとかの灯りが人々を照らしてるんです。
そんな中、高~いビルの屋上で、煙草の煙を燻らせて一服してる灯りに混ざれないぼっち(笑)が一人···。

「おい、野中ビルの屋上で合ってる?」

『合っている。···電話を掛けてきたという事は、依頼を承諾すると考えて良いのかな?』

 ビルの屋上に居たのは全身黒色の服着た怪しい女。何世代前のだよと突っ込みたくなる程古いガラケーで
煙草を吸いながら電話先の男と会話しております。

「そうだよ。あんたからの依頼とか天変地異レベルだし」

『私では難しいと判断した迄だ。本当なら君如きに依頼などしたくなかったが』

「あぁ?···勿体振らずにさっさと依頼内容教えてくんない?」

『簡単だ。ある子供を奪還して欲しい。君の足下にあるビルに居るのは間違いない』

「その子の顔は?」

『写真はあるが見せられない。だが、金色の髪と瞳をしている。見つけられるなら直ぐに分かるだろう』

「見せられない···どっかのお坊っちゃんとか?まぁ良いや、オッケー」

『隠密活動は君の専門だろう。絶対に達成し給え』

「はいはい、分かってるっての」

『では宜しく頼む、渚(なぎさ)。ヘマは――』

「あぁうるさい。分かったからクソ不味いコーヒー飲んでろ黄泉永(よみなが)」

 文句を言われる前に携帯電話の電源をポチリと切って、誰も見てないのを良い事に格好良くパタンと閉じて
懐にしまう彼女。心の中で決まった、とか考えてて正直端から見てたら恥ずかしい。

「さぁて···お仕事開始っと」

 吸いきった煙草を足下に落として、肩に届く長さの髪をゴムバンドで後ろに纏めながら、煙草を足で
擂り潰してるけども、本来ポイ捨ては絶対に駄目、禁止。皆さんは真似しない様にしましょう。

 さて彼女、不思議な装備をしておりまして···。頭に掛けた黒いレンズのゴーグルとか、左腕からチラチラ
見えてる変な道具、腰のホルスターに収めてる銃···。平和の国日本には似つかわしく無い物が、確かにあります。
銃刀法違反で普通は捕まりますが、今は置いといて···。

「よっし、行くぞ~···アイ、キャン、フラァァァァイ!」

 全力ダッシュでビルの屋上から飛び出した彼女を見てどう思うだろうか?これが自殺願望者に見えるなら
目を凝らして見た方が良い。こんなウキウキしながら空飛ぶ奴とかよっぽどだから。しかも、何と彼女、
空中でクルリと体を捻ってビルに頭を向けたと思ったら、左腕の変な道具から何か射出したではありませんか。
ビルの窓を突き破ったそれは、彼女の体を引っ張って窓に突っ込ませていって···。

「よっしゃ、潜入成功」

 潜入って何だっけ、と言いたくなる突入方法で潜り込んだ彼女を待つのは!?

第0話 ~出逢いは億千万の胸騒ぎ~

 勿論窓をぶち破って侵入するのは不法侵入、犯罪です。しかし彼女の職業はその犯罪を誰かの代理として
行うので、要は非合法な裏のお仕事をしてらっしゃる訳です。だけどそれはどうやら向こうさんも同じ様で
ビルの灯りも着けないで暗闇の中でしこしこ何かやってらっしゃる様です。それも大量に。

渚「な~んかやたらと怪しい事で···」

 窓が割れた事を確認しに来た何人かの相手から逃れる様に移動する様は、正しく潜入任務みたい。
ホルスターからまた格好付けて銃をクルクル回しながら取り出して戦闘準備。

『侵入者は近くに居る筈だ、探せ』

渚(何で重火器持ってんだか···そんなに見られたくないのがあるんだ。へへぇ)

 突撃銃を構えた数人の男がやって来るのを、ニンマリ笑顔で黄泉永、あいつ良い仕事持ってきたなと
内心ワクワクしてる彼女を見てると何処から見ても変態。隠されると暴きたくなるのが、彼女の悪い癖。

渚(良く人が隠される場所は···地下とか倉庫とか物置部屋とか)

 爆走しながらそう考える彼女。しかしここ、七階建てのビル。地下も倉庫も無い。あるのは物置部屋。
という訳で全力で探してる訳です。撹乱の為に窓を銃で壊しながら。因みにこの銃、アーマードプレコと
呼ばれてる、50口径のデカさで割と有名な自動拳銃デザートイーグルを超える55口径の化物マグナム
自動拳銃だったり。中身はゴム弾だけども反動も威力も半端ないので平気で撃つ彼女も半端ない。

渚(ほらほら、早くアタシに居場所教えなよ)

 撹乱しつつ、その子供が居るであろう場所の警備をわざと増強させて居場所を突き止める、結構
行き当たりばったりな気がする方法で探してるけども大丈夫かこれ。彼女は目標が殺されない自信が
あるようだけども。

『!居たぞぅ!?』

渚「お届け物で~す」

 自分を見つけた一人の相手の腹部にゴム弾をプレゼントしだしたけども、ゴム弾でも威力はあるって言うか
殺傷能力があるって言うか当てられた人が腹を押さえて凄く気分悪そうに踞ってる姿、見てて凄く痛々しい。
この女の人軽い口調でえげつない事するね。

渚「さぁ、話して貰おっかな。これ、接射されたら流石に死んじゃうよ?」

 倒れてる相手の頬に銃口押し付けて尋問する姿、どう見ても悪役。彼女としては仕事だから躊躇いは
一切無いんですがね。

『俺は何も話さない···!』

渚「うん、別に期待してないから」

 冷蔵庫で冷やした水くらいには冷たい声で、相手の顔を思い切り踏みつけた。人が人ならご褒美。

『こっちだ!』

 仲間の声を聞き付けた向こうの方々がやって来ているのを、めんどいと思った彼女は、何と近くにあった
排気口の蓋を外してダクト内に侵入。汚いから止めて欲しい。

渚(子供だったらこういう所にもぶち込まれてたりするし···)

 過去の経験を活かして捜索する彼女ですが、残念ながらダクトの中には居ませんでした。適当に敵が居ない
所でダクトを抜け出しました。排気口は掃除されてないからやっぱり汚い。

~~~~

渚(ちょっと…頑張って全階全部屋探したのに居ないんですけど)

 息も荒々しく吐いていかにも疲れてますよ感を出してる彼女。全力疾走で探し回ってたので当然ちゃ当然。

渚(こんなちっさいビルに隠し部屋でもあ【こっち】る…へ?)

 突如聞こえてきた謎の声!彼女は声のした方向を見てみれば…!

少女【ふふ…こっちこっち。早く】

渚(──足、透けとるで…ホワアアアァァァァ!)

 声こそ上げなかったけども心の中でとても女性の叫び声とは思えない声を上げる彼女。実はお化け大嫌い。

【良いの?来なくて】

渚(怖い!可愛いけど怖い!怖いけど可愛い!てか可愛い!凄い可愛い!)

渚「渚逝きま~す!」

 可愛い物には目が無い彼女。可愛いは正義、可愛ければ誰だろうが何だろうが万事OK、それが彼女の信条。大丈夫かこの人。

 ふわふわ浮く少女に意気揚々と付いていく彼女。本当に大丈夫なんでしょうか。

 そのまま幽霊美少女に付いていくと、何と壁をすり抜けていきました。

渚(…透けろと?)

 人間では絶対不可能な壁を超えなければいけない状況に陥った彼女。流石に無理なので幽霊美少女がすり抜けていった壁を触っていると…。

渚(!…隠し扉…何でこんなビルに?)

 壁が突然ガコンとヘコんで上にスライド、下に降りる階段がそこに出来たのです。スッゴい凝った作り。
 怪しさ満開のその階段を、何の疑いも無く駆け降りていった彼女が目にしたのは幽霊美少女…では無く、不気味な目の模様が幾つも壁に刻まれてる部屋でした。

渚(うわぁ…趣味悪…キモイ…)

 一目見た初っ端の感想がこれ。常人なら普通の反応。後ずさりする程引いてたけども、さっきの幽霊美少女がどこ行ったか見つけたい彼女はキョロキョロ見回した。その度壁の目と目が合って引いてる彼女に同情する。

渚(…ん?)

 おや、彼女が何かを見つけた様です。

 少しずつ警戒しつつそこへ彼女が近付くと…。

幼女「…すぅ」

 穏やかな寝息を立てながら、激しい可愛さによって(渚を)目覚めさせた金色の髪と瞳を持つ幼女がそこで眠ってました。探してた子供ですね。

渚「かっ…!」

渚(可愛いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃヒィウィッッヒヒィィィィィ!)

 叫ぶのを全力で抑えて内心で想いを叫び倒す、ロリコン淑女。直後に触ろうとする様、まごう事無き淑女の恥曝し。

幼女「…!」

 欲丸出しで近付いた結果、幼女を起こした駄目淑女。見つめ合う視線のレーザービーム。そして怖がられた。エキゾチックジャパンとはいかない世の中。て言うかハァハァ息荒くしてたら怖がられて当然。

 取り敢えず発見したので懐からボロボロ携帯を取り出して黄泉永に電話する彼女。

黄泉永『…保護出来たのか』

渚「飼う」

黄泉永『は?』

渚「アタシ、この子、飼う」

黄泉永『……………はぁ!?何を言っ』

 話の途中で電話ブッチしちゃう悪い方。今頃向こうはカンカンだろうけど、彼女はどうでも良いようで。

渚「ねぇ、名前なんて言うの?アタシは渚」

 興奮を必死に、出来るだけ抑えて、しゃがみ込んで目線を合わせつつ、笑顔で警戒心を解く遣り口。端から見たら幼女誘拐現場。実際それに近いんですが。

陽那「…………陽那」

渚「ヒナちゃん?良い名前だね」

 スッゴい警戒しながらも名前を言ってくれるというサービスに、本心で喜ぶ彼女。良い気なもんです。

渚「じゃあ陽那ちゃん、取り敢えず外出よっか」

陽那「···!」

 子供に全力で首を横に振られる光景ってまず見ないんだけど彼女は見てしまいました。信頼ゼロ。情けない。

渚「でもここに居ても危険だよ?」

陽那「···どこも、危険···危ない···」

 彼女以外の何かに怯えて震える陽那ちゃんの体を、思いっきり抱き締める。完全にYESロリータNOタッチの法を破りました。淑女失格。

渚「大丈夫。アタシが守るって」

陽那「······」

 彼女の言葉は信用されず、心は益々離れていくばかり。ざまぁ···っと、おやぁ?

『何をしている』

渚「!」

 声が聞こえた途端、脊髄反射的に背後へ銃を向ける彼女の眼は、陽那ちゃんに話し掛ける時の優しさなんて欠片も消え失せた、冷たい眼になってます。完全に仕事モード。

『何をしている、と聞いた』

渚「ちょっと迷子を見つけたもんで」

 軽口は叩きながらも、その目は話し掛けてきた相手の目を、視線のレーザービームでぶち抜く勢いで鋭く睨んでらっしゃる。レーザービームと言うよりメンチビーム。銃口は確実に相手の心の臓を捉えております。腕の良さが見えるね。

渚「おっと!近寄ったら···なんて、すぐ分かるでしょ?」

 しかぁし、相手は脅されても近寄って来ます。死にたがり野郎でしょうか?

渚「忠告はしたから」

 冷たく言い放ったと同時にバスっと押し潰した様な銃声が。がしかし···。

『効かないな』

渚「···タンマ。待って待ってちょっと待って銃が効かないとかアタシ聞いてない」

 当たったにも関わらず吹き飛ぶどころか身動ぎ一つ無かったという。

渚(何こいつ急に出てきてたしこいつも幽霊って落ち?って言うか全然可愛くねぇ!老けてるし!)

 彼女は可愛さがを基準に生きるスイーツ(笑)なお方です。どんな状況でも可愛さは大事にする人。

陽那「駄目···それじゃあ、駄目···」

渚「マジっすか···どうする?」

 幽霊ジジィか近寄る前に二人でこしょこしょ作戦会議。彼女は陽那ちゃん抱えて逃げる予定ですが···?

陽那「···陽、有れかし···」

渚「···何、これ···眩しい···眩しい!ぐあぁぁぁぁぁ目が!目があぁぁぁぁぁ!」

 彼女の持っていた銃が黄金に輝いたかと思えば、それを見てボケだす始末。やってる場合じゃない。陽那ちゃんが怖がってる。

渚「えっと…銃身が黄金に…何したの?」

『!』

渚「って聞いてる場合じゃない!」

 突撃幽霊ジジィに向かって引き金を遠慮無くカチッと。そしたら…。

 黄金の銃口から、一筋の蒼い光がジジィに激突。そのまま貫通、壁を突き抜けぶち壊し──。

渚「………。何じゃあこりゃあ……」

 そりゃあそう言う。だって目の前何も無いもの。大きな穴と外の景色しか無いもの。

渚「引き金ちょっと引いただけだよ?威力たっか!誰がレーザー銃になってるとか分かる?」

陽那「…(・_・∩)」ハイ

渚「だろうね!可愛いから許す!」

 目的の子さえ手に入れればこんな腐ったビルに用は無いので彼女は陽那ちゃん連れて空けた穴から出て行きました。

一方その頃─

黄泉永「渚め…やはり頼まなければ良かったか…はぁ…」

 渚に電話を掛けていた黄泉永という男性が頭を抱えてらっしゃる。

 ヨレヨレで味のある黄土色の革のコートを着ているけども、正直彼には似合ってないです。

黄泉永(マスターに電話を掛けておくか…)

 昔懐かしの黒電話で、ある場所に電話する彼。知り合いがいるようで。

マスター『はい、こちらBARリコリスです』

 電話に出たのは若々しい男の声。

黄泉永「もしもし、マスター」

マスター『あぁ、黄泉永さん。渚さんに何か?』

黄泉永「奴が小さな女の子を連れて来たら、此方に連れてきて欲しい」

マスター『貴方がくれば良いではありませんか』

黄泉永「…水瀬を留守番させるのも、そこに連れて行くのも危険過ぎる」

マスター『あぁ…成程』

黄泉永「兎に角だ、安易に此処を離れる訳にはいかないのだ。分かってくれ給え、マスター」

マスター『分かりましたよ』

黄泉永「頼むぞ。あの少女を渚に預ける心算は無いのだ。奴が抵抗するなら共に連れて来ても良い」

マスター『そこまで言うのなら──』

黄泉永「奴が電話に出ないからマスターに失礼ながら頼んでいる。困った奴だ…」

 頭を抱えてやれやれと首を振る姿がやたらと様になっている彼。慣れてるんでしょう。

 さて、電話を終えてまた溜め息を吐く。幸せが逃げると言いますが、もう既に結構逃げてる模様。

「…………くふ、あぁぁぁぁ…………う~ん」

黄泉永「…起きたか、水瀬(みなせ)」

水瀬「んぁ?………んぐぅ」

黄泉永「二度寝するな」

水瀬「…………ケチ野郎」

黄泉永「寝過ぎだ。何時間寝た?」

水瀬「………三十九時間」

黄泉永「分かっているなら起き給え」

 寝惚け眼を擦りながら、起き上がってくる女性が一人。だけどその姿は大変人間離れしております。

 全体的に真っ白な肌と床に着きそうな程長い白髪。縛ってないのに筆みたいに先がバラけず綺麗に纏まっていて綺麗です。目は黄色く蛇みたいで、しかも周りに赤い隈取りが。あと胸デカイ。スッゴい。

水瀬「···眠い···」

黄泉永「逆に良く其処まで眠れる物だ」

水瀬「···我とお前との生きる時間は···違い過ぎるからな···」

黄泉永「そうか。まぁ、眠気覚ましにコーヒーでも飲み給え」

水瀬「砂糖と牛乳入れろ···苦すぎるんだよ···」

黄泉永「自分でし給え。君の配分量など知らないのでな」

水瀬「こいつは···」

 ブラックのコーヒーを飲んで悠々自適な彼を、恨ましげに見つめる水瀬ちゃん。人によっては興奮する。

 優雅にコーヒーを飲んでた時に、電話の音が。

黄泉永「···電話、マスターか?···もしもし」

『あの、黄泉永さんですか?俺、前に会った男です』

 予想とは外れて、マスターより若い男性の声が向こうから。電話口から聞こえてくるイケメン感。

黄泉永「前に会った男、と言われてもだな。性別では無く名前···ん?」

『いやあの、ちゃんと名前···』

黄泉永「今思い出したよ。名も無き街で会ったな。彼女は元気か?」

『あ、はい。狐娘なら凄く···凄く』

黄泉永「···?(何故二回も···)で、一体何用で?」

『今、そっちに向かうつもりで。直接相談が』

黄泉永「そうか。君達なら歓迎しよう、盛大にな」

『そんな、盛大にって···』

黄泉永「兎に角、気兼ね無く来給え。妖怪、幽霊に関しては日ノ本一だと自負している」

水瀬(自分で言うのかよ···実際そうだけどよ)

『はい、ありがとうございます』

水瀬「誰だったんだよ」

黄泉永「前に会っただろう?極大の妖力を持った男と九尾の狐の妖怪を」

水瀬「···あぁ!あのいちゃラブカップル!」

黄泉永「···酷い認識だな」

水瀬「合ってるだろうが」

黄泉永「間違いとは言えんな」

水瀬「にしても、久々に本格的な依頼かもな!」

黄泉永「本格的では無く、何時も本格だ」

水瀬「はいはい、そうですね」

黄泉永「全く···」

 彼は愚痴を幾らか溢して苦いコーヒーを美味しそうに啜る。正直ブラック苦手なんで飲みたくない。

 再び渚の方─

渚「いや~光線が撃てるなんて、もうこれ魔法少女名乗っても良いんじゃ無い?」

 黄金に輝く銃を握ってニンマリしてらっしゃる。正直不気味。

陽那「………少女…?」

渚「アタシが少女な事に何か?」

陽那「………(._.)」

渚「大丈夫!リリカルな方も二十代後半でも少女って」

 それ以上はいけない。魔王に消される。因みに渚は二十三。

渚「しっかし形は変わって無いけど中身変わったから…名称変更しよっかな?」

陽那「…?」

渚「ん~金色だから、ゴールドエッジ…どう?ヒナちゃん?」

陽那「…………(・д・)?」

渚「…どうでもいい?」

陽那「………(-_-)」コクリ

渚「そっか…うん…」

 彼女は陽那ちゃんを抱えて自宅へ。

渚「ここがアタシん家です!」

陽那「……リコリス……?」

 彼女が自宅と言った場所は、二階建て。一階はBARリコリスという店になってます。

渚「二階ね二階。ここの二階に住んでんの」

陽那「………何で?」

渚「え?え~、あ~……一階の、バーのマスターの、情け、かな」

陽那「情け……」

 バーの横にある階段を上がっていく彼女。陽那ちゃんは彼女からつかず離れずの位置で付いていきます。

渚「鍵、鍵…あった」

 懐をまさぐって鍵を出して、雑に鍵穴に鍵を差してドアを開ければそこには…!

陽那「………(・_・;)」

渚「何?」

 彼女は何の気なしにこう言いますが、目の前の部屋に足の踏み場が無い程汚いと陽那ちゃんみたいに引いて当然。

 そう彼女、家事全般が超苦手。掃除しないから脱ぎ捨てた服とかゴミが転がりまくっているのです。こんな人になっちゃ駄目だよ。

渚「ん~、疲れた。お風呂入る?」

陽那「……」

渚「気にしなくても服あるから」

 何であるんだとか聞いちゃいけない。強いて言うなら淑女だからとしか。

 こうして彼女達はお風呂場に入って行くのでした…。え?シャワーシーン?無いですって言うかお腹空いたんでご飯食べて良いですか?

~~~~

 ズルズル……あ~、やっと出てきました。二時間位入ってましたよ…ズルズル。え?何食べてるか?ラーメンです。

渚(ふぅ…幼女とお風呂…至福!)

 駄目だこの人。まるで駄目な女、マダオだよ。

陽那「…………(=_=)」

 陽那ちゃんも微妙な顔してらっしゃる。ズルズル。

 さてさて、渚さん。彼女は家事超苦手。それでは料理はどうするか?答えは···。

渚「マスター!お邪魔!」

マスター「おや、お帰りなさい、渚さん」

 そう、正解は一階で食べる。···子供連れてきて良いんですかね?

マスター「···その子は?」

渚「ヒナちゃんって言うんだよ」

陽那「(._.)」ペコリ

 丁寧に挨拶する陽那ちゃんに可愛いと心の中で何度も呟く彼女。本当に大丈夫かなこの人。

マスター「渚さんはいつもので宜しいですよね」

渚「勿論!仕事終わりにはあれって決まってるから!」

マスター「畏まりました」

渚「ヒナちゃんには···えっと、ヒナちゃん、どんな食べ物が好き?」

陽那「···食べ物······?」

 分かんなくて小首を傾げる姿も可愛いと心の内が喧しい彼女。重病。

マスター「その子が食べられそうな物を作りますね」

渚「オーケーマスター。良いの頼むよ?」

マスター「そのご期待に添えるよう頑張りますよ」

 バーカウンターの奥に颯爽と去っていくマスター。漂うイケメン臭!

陽那「···(・Д・)」ジー

渚「ん?マスターがどうかした?」

陽那「(-_-)」フルフル

渚「あ、それとも何の料理が出てくるか不安?それだったら、マスターのは最高だから!」

陽那「···最高?」

渚「そこらの高級料理店に匹敵する位だからね。高級料理店のコックが認めたんだから間違いない」

 マスターの家事レベルの高さは国宝級です(渚談)彼女もその力に何度もお世話になってる模様。しかし学ぶ気は無い。絶対婚期逃す。

陽那「へー···」

渚「いや~、何度マスターの料理に感動で涙を流したか···」

陽那「···泣いちゃうの?」

渚「いやね、それ位ほんともう美味しいんだって」

マスター「そうやってハードルを上げられるのも困り物なんですがね」

渚「良いでしょ事実だしさぁ。って、もう出来たの?」

マスター「まさか。一旦これをお出ししようかと」

 そう言ってマスターが置いた物はカシューナッツ。マスター自家製の。

渚「ありゃ、何時もは酒と一緒に出すのに」

マスター「その子が待ち遠しそうにしていたのを感じ取ったので」

陽那「!(・o・)グウー···( //_//)」フイッ

マスター「おや、顔を背けられました」

渚「お腹の音聞かれて恥ずかしがらない女の子とか中々居ないって」

マスター「そうですか。···それと今日は、貴女と一緒に飲もうかと思いまして」

渚「えっちょっ、急にそう言う事言う···///」フイッ

マスター「···顔を背けるのが流行ってるのでしょうか?」

渚「今こん時だけでね!」

マスター「そうですか···」フイッ

渚「いや別にしなくて良いから顔背けなくて」

渚「はい、どうぞ」

陽那「···あむ···ん···うん」

 彼女は陽那ちゃんに食べさせてあげてます。ポリポリ小気味の良い音が鳴っております。後で勝手に拝借しようカシューナッツ···。

マスター「···今日、会ったにしては随分と仲が宜しい様で」

渚「おっとマスター、嫉妬?」

マスター「いえ、貴女はあまり子供に好かれないと思っていたので」

渚「酷っ!」

陽那「······マスターみたいに、情け···」

マスター「···情けで仲良くしてるそうですが」

渚「こんなちっちゃな子に気を使われてるとかマジ泣ける」

マスター「それにしても、賢い子ですね。同年代の子なら情けなんて言葉使いませんよ」

渚「賢可愛いから良い」

陽那「···?(・_・)」

 自分が賢い事分かってない感じがまた可愛いと彼女が喜んでいるのを見ると、やっぱりこの人子供に好かれないだろうなと思う。

~~~~

渚「いや~、流石はマスター。美味しかったよ、うん」

陽那「···(;_;)」グスッ

マスター「···」

渚「···な、泣くほど美味しかったんだよね?オムライス」

陽那「···(‚-_-‚)」コクリ

マスター「そ、そうだったんですか···食事中に泣き出したので、口に合わなかったのかと」

渚「完食してるんだからそれは無いって」

マスター「いえ、情けかと思いまして」

陽那「!(‚>_<‚ 三 ‚>_<‚)」ブンブン

渚「全然違うってさ」

マスター「そうですか···涙を流す程に喜んでくれると言うのは、何と言いますか、冥利に尽きますね」

陽那「また、食べて良い···?」

マスター「ええ、勿論ですよ」

渚「んじゃ、マスター。ヒナちゃん二階に連れていったら戻ってくるから」

マスター「ええ、お待ちしております」

陽那「···バイバイ(つ_-‚)ノシ」ゴシゴシフリフリ

マスター「それでは、また明日」

 流石バーのマスター。挨拶も深々と頭を下げてて丁寧です。もし男になったらこんな男の人になりたい···。

渚「は~い、行きましょ行きましょ」

陽那「······」

 陽那ちゃんは彼女に連れられ、ちょっと名残惜しそうに店の外へと出ていきました。

マスター(···黄泉永さんには後で謝らなければいけませんね。こうなってしまっては、もう···手遅れだ)

 物憂げに片手で頭を抱えて、どうしようも無いと言わんばかりに首を横に振るマスター。一体、何があるのでしょう···?

渚「はいマスター、帰ってきたよ」

マスター「お帰りなさい。早かったですね」

渚「ん、ああ、ヒナちゃん泣き疲れたのかすぐ寝ちゃってさ」

マスター「いえ、寝込みに何かするのかと思っていたので」

渚「マスターにとってのアタシのイメージってどうなってんの?」

マスター「可愛い物と少女が大好きという特殊嗜好の持ち主」

渚「うん否定出来ない!···で、お酒は?お酒何処?」

 キョロキョロとバーを見回す彼女。まるで好きなアイドルが彼処に居るぞって言われて探すドルオタみたい。(※この考えは決して作者の考えでは御座いません。この発言には何ら非難するような他意は無いという事を、何卒ご理解下さい)

マスター「有りますから。···貴女は子供を連れて来ても変わりませんね」

渚「仕事前の一服と仕事終わりの一杯は譲れない!」

マスター「程々にして下さいね。仕事に支障が出るでしょうから」

渚「はいはいはいはい、耳にホントにタコ出来るからもう止めて」

マスター「···そうですね。今日は二人で呑む事に決めた以上、無粋な事は止めましょう」

渚「それでこそマスター!」

 マスターは二人分の、氷が半分程入ったグラスに並々とお酒を注いでいきます。このボトルからトプトプ流れる音が良い。

渚「さて、お酒も入った事だし···乾杯!」

マスター「乾杯」

 グラス同士がぶつかり合い、カリン、と静かな空気に音が響く。そして氷もお互いぶつかり合ってガラガラと。大人っぽい雰囲気···。

渚「···ふぅ、染み渡るねぇ。この為に生きてるな、って感じ」

 チビリ、とお酒を一口。しっかり味わう様に呑んでいます。

マスター「まるで中年期の方みたいですよ」

渚「しっつれ~な事を。まだアタシは若いってのに」

マスター「ですから、そう言ったんですよ」

渚「それはわざわざありがたい事で」

 グラスを揺らして氷を鳴らす彼女を、微笑ましく見守っているマスター。目線が完全に保護者。

渚「···マスター」

マスター「···悩み事ですか?」

渚「たまには愚痴聞いてもらわないと」

マスター「幾らでも付き合いますよ、今日はね」

 彼女が愚痴を聞けと言った時から一分後~─。

渚「ぐぅ…う~ん…」

マスター「…まだ愚痴一つ聞き終えていないと言うのに」

 マスターはバーカウンターに頭を伏せて寝ている彼女に微笑みながらも溜め息を吐きました。そりゃ吐くよ折角誘ったのにすぐダウンしたら。

 実は彼女、酒も煙草も好きではあるけど煙草は一本が限界、酒もかなり弱くてすぐ酔い潰れる、という何でやってるのか意味が分からない人なんです。そこまでいったら嫌いって言っても許されると思う。

マスター「…運んであげますか」

渚「うぇ~い……」

 気が利くマスター、彼女を背負って二階へと運んでいきました。大体彼女が酔い潰れた時はこうしてマスターが二階で寝かせてあげてる訳です。まさしく情け。

~~~~

黄泉永「…………」

 椅子に偉そうに座って、頬杖を突きながら机をトントンと人差し指で叩く彼。見るからに不機嫌そうです。

水瀬「トントンうるさいっての」

黄泉永「…………」

 しかし聞いてないのか無視して続けている。

水瀬「聞いてんのか!」

黄泉永「………電話が来ない」

水瀬「はぁ?何時もだろ」

黄泉永「それは君が来た日に限って眠っているだけだろう」

水瀬「そうとも言うけど」

黄泉永「そうしか言わんよ」

黄泉永「…マスター。彼が電話を掛けてこないという事は……」

水瀬「……それって」

黄泉永「……巻き込む訳には、と思っていたのに、な」

水瀬「だったら姐さんに頼まなきゃ…!」

黄泉永「だから最後まで渋ったのだ。だが、奴以上に彼女に好かれるのは思い付かなかったのだ」

水瀬「…………」

黄泉永「出来れば選ばれなければ、と思ったが、そう上手くはいかんか…」

水瀬「…どうするんだよ」

黄泉永「どちらにしても、ここから動けない以上、何も出来んよ」

水瀬「………あぁ!もう!この場所に縛られなきゃ、今すぐにでも!」

黄泉永「………そうだな」

第0話 終了

 ヒナという幼女を飼ゲフンゲフン保護した渚。女子力の無さを幼女に指摘される彼女に待つ依頼は?

 次回、超美人で敏腕凄腕暗殺者って言っても誰も殺してないからどっちかって言うと便利屋の方が近い──ぐぅ。

マスター(凄い寝言なんですが、一体渚さんは何の夢を見てるのでしょうか……)

第1話
~特撮の銃キャラは弱いとか言われるけど扱いに困って活躍の場が与えられてないだけだから~

渚「んぬぅ···頭いった···そんな呑んでたっけ···?」

 彼女の朝は早い。特に軽くでもお酒を呑んだ日は二日酔い並みの頭痛でもっと早くなる。今は太陽が無く常に夜なので、朝という表現は時間しか表せないんですけどね。

渚「う~···水、水ふおぉお!?」ズシャア

 フラフラな足取りでグチャグチャな床の上を歩こうとするから見事に転ぶんです。

陽那「······?(つД-).o0」ウトウト

 物音を立てるから陽那ちゃん起きちゃいました。眠そうですけど。

渚「あ、起こしちゃった?ゴメンね」

 倒れた状態で謝る彼女。正直見苦しいので起きてほしい。

これは誰視点で進行してるんだ?
神の目線的な?

>>41
どっかの暇神

渚「痛て、何か酔い醒めた」

陽那「………(=_=)」

 汚い床から起き上がる彼女を見て、陽那ちゃん、ここが汚い部屋、汚部屋だった事を思い出す。

渚「う~ん、片付けた方が良いなぁ」

 頭を掻いてそれもっと早くから思いつけと言いたくなる発言をしだす。だらしねぇな。

陽那「………ご飯」

渚「じゃあ服着替えて下行こっか」

陽那「……作れない……?」

渚「ゴメン無理です許して」

陽那「………(-3-)」

渚「仕方無いじゃあないですかぁ!家事しないで下さいってマスターに釘刺されてるんだからぁ!」

 そんな事言われた理由は、食器を洗えば5つは必ず壊し、掃除をすればより汚くし、料理をすれば闇黒物質を量産するからである。家事スキルゼロ!

渚「…しっかし、ずっと夜だと時間の感覚無くなってくるなぁ」

陽那「…夜、キライ?」

渚「いんや、仕事が捗るからずっと夜でも平気だけどね。ま、でも…」

陽那「でも?」

渚「やっぱり、朝日が無いと起きた感じしないんだよね。流石に半年以上見てないと慣れるけどさ」

陽那「……」

渚「んし、ほら、着替え着替え」

陽那「……自分でする………」

渚「何だろうこの胸に去来する虚無感は」

 拒否された理由は体撫で回されるのを嫌がったから。インガオホー。

マスター「お早う御座います」

渚「は~い」

陽那「……[壁]_*,,)」チラッ

マスター「……やはり嫌われたのでしょうか」

渚「恥ずかしがってるだけだって」

マスター「そうであって欲しいですね…」

渚「そう悲観しない!」

マスター「貴女はもっと悲観すべきだと思いますけどね。主に家事を」

渚「ぐっ…い、今良いじゃんかその話は。取り敢えず、ヒナちゃんこっち」

陽那「……お早う……」

 マスター、この一言で嫌われてなかった事が分かって、表情には出さなくとも喜んでました。子供に嫌われるのは中々堪えるようで。

マスター「では何時も通り朝食を用意しますよ」

渚「何時もの奴でね」

陽那「……何時ものしか無いの……?」

マスター「長い付き合いですから、それだけで何が欲しいのか分かるんですよ」

渚「時々エスパーかと思う位の的中率だからね」

陽那「……( ・_・)」ジー

マスター「おや、これは…試されているのでしょうか」

 マスターの目をジッと見つめる陽那ちゃん。何が欲しいか当ててみろって事ですな。

 しかしここで謎の着信音(何故か辛味噌と聴こえてきそうな)が流れ出す。音がショボいので彼女のボロい携帯電話でしょう。

渚「おっと、ゴメンね。···もしもし」

『あの子とは仲良くなれた?』

渚「ホギャア!?」

 彼女の女性と思えない叫び声でマスターと陽那ちゃんが心配する視線を彼女に向けます。彼女が声を上げたのもその筈、聴こえてきたのがビルで会った幽霊美少女だったから。そりゃ幽霊から電話きたら怖い。

『ふふ···私が怖い?』

渚「何?もしかしてメリーさん?」

『メ~リさんの~ひっつっじ~♪』

渚「可愛いそっち違う可愛い」

 突如流れてくるメロディに可愛いばっか呟く彼女。重病です、そしてもう手遅れです。

『ねぇ、あの子ともっと仲良くなりたい?』

渚「勿論!···けど、目的は?」

 一瞬で即答したある意味素晴らしい彼女に、幽霊美少女は一言――。

『知りたいなら、これから言う場所に来てくれる?』

 美少女に頼まれた彼女の行動は、既に決まっています···。

渚「野中ビル、ねぇ」

 昨日陽那ちゃんを助けたビルへと再び。しかし…?

渚「夢、な訳ないしなぁ…」

 何という事でしょう!あのボロ臭いビルが、一夜にして跡形もなく消滅!

渚「警察もたっくさんだし、近寄らぬが吉、かな」

 あんまり表立って動ける職業では無い彼女にとって警察はちょっとご遠慮願いたい相手。

渚「すんませ~ん。何の事件があったんですか?」

 にも関わらず突撃かます彼女には何も言えません。

「何だ、君は」

渚「野次馬です」キリッ

「そ、そうか…」

渚「んで、何かあったんですか」

「…最近、建物が音も無く爆破消失する事件が起きている。君も気を付けなさい」

 いきなり爆破されたら気を付けるも何も無い、と内心突っ込む彼女。確かにその通り。

渚「音も無いのに、良く爆破って分かりますね」

「そこら辺に破片が散らばっているからな。あくまで私の予想だが」

渚「ははぁ…確かにでっかいのが転がってますね」 

「分かったらさっさと帰りなさい。見せ物じゃない」

渚「それは失礼、では」

 離れていく彼女を流し目で見ている警察官。面倒な奴が帰ったとでも思ってるんでしょう。

渚(…犯人アタシに捕まえろっての?)

渚「まさか、ね。無い無い」

幽霊少女(………早く、思い出して貰わないとね……ふふ)

 上空でふわふわ彼女の様子を眺める少女。月明かりでその銀の髪が輝いています…。

渚「···!」バッ

 何かに気付いたのか、慌てて空へ振り向く彼女。しかし、ただ満月が光っているばかり···。

「アオオォォーーーーーン···」

渚「な、何?狼?いやでも···」

 突如聴こえてきた声に驚きを隠しきれない様子の彼女。それもその筈、狼の鳴き声を真似た女の子の声だったから。

渚「······」

 周りの人達もその声にざわつく中、彼女は声の下へと確かに向かっていった···。理由は簡単、可愛い声だったからに他ならない。

渚「······」コソコソ

 あれから何度も遠吠えが聴こえてくるので、そっちに向かって駆け抜けていくと、そこには···。

狼娘「グルルルル···」

 タンクトップとショートパンツを着た、白茶けた髪色に、そこから生えているピコピコ動く立派な狼の耳、髪と同じ色のブンブン動く尻尾が、彼女が人間でない事を証明しています。

渚(やっばい何あれ可愛い今すぐ抱き締めて良いかな!?良いとも~!!)

 何とも節操のない人で。可愛い物に目が無いだけはあります。

狼娘「!」

 気配を察した狼娘ちゃんは、物凄い機動力でビルの隙間に消えていきました。

渚「!待てぇぇ!」

 それを超が付く程爆走して追い掛ける彼女。完全に変質者。ストーカー、狼娘を追い掛けるの図。

>>1って、もしかして……。
会話文以外での文章苦手?

渚「ちょ、ちょ、疾いって!」

 ビルの間を潜る所か登って屋上と屋上を飛び渡る狼娘ちゃん。身体能力高いね。真似したい。

渚「そっちがその気なら···!」

 走りながら左腕の装備を構える彼女。この装備、と言うより装置は最近人気の某巨人漫画の立体起動装置の如くアンカーナイフを飛ばして移動する装置なのです。技術力高いね。

渚「ひゅう!」

 見事ビルにアンカーを突き刺して空へと引っ張られる彼女。流石に慣れてるからか快適にビルの隙間を潜り抜け、某蜘蛛男の様に飛んでいきます。

狼娘「ガルル···」

渚「逃げなくても良いじゃんか、全くさぁ」

 完全に警戒されて距離を取られる彼女。まぁ取って当然の相手ではありますけどね。

渚「名前、何て言うの?アタシは、渚、ね」

狼娘「グウゥゥゥ···」

渚「···もしかして、喋れない感じ?参ったな~」

 頭を掻いていかにも困ってますよ感を出している。そんな気持ちは露知らず、狼娘ちゃんは彼女を睨みっぱなし。

渚「こう警戒されちゃ堪んないね。もっと笑ってよ」

 こんな感じで、と言わんばかりに口角を指で上げて笑ってみせる彼女。

>>53
どうして分かった···という迄も無いレベルなのは自覚しております。特に三人称は慣れてないです···。

 しかぁし、狼娘ちゃんは彼女を警戒したまま動きません。ずっと唸り声を上げて近寄るなと警告しておられます。

渚「アタシの何処にそんな怖がる所があるんだか···」

 やれやれと言いたげに両手を上げてヒラヒラ動かす。どうやら自分の存在そのものが恐れられるものだと自覚出来てないご様子。

渚(しっかし、よく動くなぁあの着け耳と尻尾)

 一般人なら間違いなく目の前の狼娘ちゃんを化物扱いするでしょう。だけど彼女はそうはしません。何故ならそもそも良く分かってないから。可愛い物を追いすぎて頭の中身を何処かに置いてきぼりにしたんでしょう。

狼娘「!アオオォォーーーーーン!」

渚「ウェッ!?な、何さ何さ」

 突如見当違いの方向を向いて遠吠えする狼娘ちゃんに、ビビる彼女。私には嬉しそうに吠えてる様に聞こえるけど、彼女は違うみたいで。

狼娘「グルルル、ガルルル!」シュバ

渚「あ、ちょっと!何処に!?」

 屋上から迷い無く飛び降りる狼娘ちゃん。その後を追って彼女が屋上から下を覗いた時には、もうその姿はありませんでした。

渚「に、逃がした···アタシが、可愛い物を···」

 よく分からないショックを受けていらっしゃる模様。そこに何の拘りがあると?

渚「くえぇぇい!次会ったら世界の果てまで抱き締めてやるぅ!」

 そしてよく分からない誓いを立てる。何をしてるんでしょうこの方。

「······」パタパタ

渚「···んん?」

 羽ばたく音が後ろからするので彼女が振り向くと、そこにはサッカーボール程の大きさの球体に、一対の羽が付いた変な浮遊生物が。

渚「何これ、Dグレのティム?」

「······」グパッ ギョロ

渚「ほうほう、なるほど。口が隠れてて、その中にでっかい一つ目があると。···え、ゴメン何て?」

「!」グアッ

渚「のわっ!」

 噛み付いてくる所を咄嗟に、左腕の装置のアンカーナイフを射出せずナイフ部分だけ飛び出させ、口の中の目を貫く。痛そう。

渚「何々?何なのこいつ」

「······太、陽···の······子」ピクピク

渚「え、太陽の子?···てつを?て言うか何こいつ喋れんの」

「······」サラサラ

渚「うわ、砂に···いや、灰になった···。さっきから何、しか言ってない気がするけどホント何?」

 正体不明の謎の生物、それが襲ってきた理由。頭の中で考えたって解決出来ない疑問が、浮かんでばかり。彼女の身の回りで、静かに、しかし確かに異変が起こりつつある···。

「それはテンシって言うの」

渚「また何か来たっ!?」

 何度も振り向く羽目になる彼女の眼前に現れしは···。

渚「···今度は猫?ヤッバイこっちも可愛い」

 全く節操のない彼女は置いといて、猫耳&尻尾を身に付けた少女がビルの屋上の柵の上に座ってらっしゃる。黒と灰色が入り交じった髪の毛と、左目が黒で右目が青のオッドアイ、そしてカーキ色のボロい布だけ纏っているのが特徴的。

渚(なんかローブみたいに布纏ってるけどはいてないのかな、はいてないのかな!?)

 見方が完全にエロ親父。まさしく立派な変態淑女。

猫娘「······スケベ」ススス

 恥ずかしそうにちょっと開いてた足を閉じて、カーキ色の布をグイッと引っ張って大事な所を完全に隠す。もっと早めにしとけば···。

渚「ありがとうございますっ!もっと言って!」

猫娘「うわぁ···」

 うわぁ···。いやほんと、うわぁ···。正直もう本当にこれしか言えない。うわぁ···。

渚「その冷たい視線もそそるね!」

猫娘(この人に話し掛けたの間違いだったかも···)ドンビキ

 誰が言わずともその通りだったのは、今の彼女を見れば一目瞭然でございます。

渚「ま、アタシの事は置いといて···誰?」

猫娘「私に名前なんて無い···あなたは?」

渚「カタカナのシに何者の者って書いて渚、って言うんだよ」

猫娘「渚···」

渚「そう渚。で?天使ってのは?あんなの天使に見えないんだけど」

猫娘「テンシはテンシ。欠けたピースを探して埋めていく存在···」

渚「ピース?アへ――」

猫娘「ちょっと黙って」

渚「はい」

猫娘「あなたにはそれがある···これからは、何度も狙われる」

渚「へぇ···退屈しのぎになりそうで」

猫娘「···怖くないの?」

渚「アタシは足ブラブラさせてるそっちが落っこちないか怖いよ」

猫娘「···変態だけど、面白い人だね」リィンリィン

 何故か鈴なんて無いのに、猫娘ちゃんから鈴の音が何処からともなく聞こえてくる。

渚「···ところで、何でそんな事知ってんの?」

猫娘「···ずっと生きてると、知りたくも無い事を知る羽目になるの」

渚「知りたくも無い、ねぇ」

猫娘「そう、私は忘れ去られたから···」シュルン

 深い意味がありげな発言をしたと思ったら、尻尾がもう一本現れて···。

渚(あの布はどう見たって一枚···尻尾が見えるって事は、柵に直に座ってるって事?畜生そこ変われ柵ぅ!)

 自重出来ない彼女が想像力を爆発させております。そして正体に気付いてない。ホント駄目だこの人。

渚「んあー、えーと、良く分かんないけど、良い情報をありがと、鈴音ちゃん」

猫娘「···スズネ?私が?」

渚「さっきそっちから鈴の音が聞こえてきたからさ。名前無いなんて不便でしょ?」

鈴音「···鈴の音、鈴音···良い名前ね、変態にしては」

渚「名前に関しては変態関係無いよね」

鈴音「名前、くれたお礼にもう一つだけ。···月の使者には気を付けて」ヒラリ

渚「ちょっ、また飛び降りた!月の使者って···やっぱり居ないし」

 狼娘ちゃんと同じく追い掛けたけど、そこに姿は完璧にありませんでした。

渚「はぁ···美少女に会えるのは良いけど、面倒には巻き込まれるのは――」

 そう言った直後の事でした。

渚「っ!?」

 足下が崩れ落ち、落下していく。アンカーで何処かを突き刺そうとも場所が無い。このままじゃ落下死···?

渚「ぶへっ」

 何て事は無く、どうやらビルの屋上の方だけが吹っ飛んだようでした。

渚「痛った···例の爆破事件?」

 ホントに音無かったよ···、とちょっと感心した模様。

「っち」

渚「あ?誰だ今舌打ちした奴」

「俺だよ」

渚「···は、何、夢?これ」

 何と彼女の目の前で、揺らめく赤い炎の塊が言葉を発しています。夜なのに炎の周りは明るくないどころかより暗くて不気味。

「夢が見てぇなら今すぐ見せてやるよ」

渚「!どわっあっち!あっつつ!」

 炎の塊から炎が吹き出し、彼女を狙う。流石の身のこなしで避けるがカスってちょっと焼ける。

渚「はっ!そっちがその気だってんなら···!ゴールドエッジでブッ飛ばす!」

 意気揚々とゴールドエッジを構えて引き金を引いた。

カチッ カチッカチッ

渚「······やっぱ無しで」

 何の反応も無いゴールドエッジを慈愛を込めた瞳で見つめる彼女に捧げられしはとびっきりの熱い炎。

渚「アイエェェェェェェ!?ウテナイ!?ウテナイナンデ!?」

「ハハハ!何にも覚えてねぇのか!」

渚「はぁ!?」

「ま、別に忘れてようが···殺してぇのは変わらねぇ!」

渚「炎の塊に恨まれる筋合いなんて無いって~の!」

「だったら分からねぇまま死んで逝け!」

渚「まだあの子に抱き付いてないしあの子の布捲ってないしヒナちゃんの笑顔見てないから死ねないなぁ!」

 銃が使えないとなれば彼女の武器は左腕のアンカーナイフと体術のみ。でも炎なんかには流石に無理なので···。

「特攻たぁ面白ぇ!」

渚「特攻?何言ってんの?」

「あ···?」

渚「まだ、煙草吸ってなくてさ···」

 そう言って懐から取り出したのは、黒いゴーグルと得体の知れない缶。

「何しようってんだぁ?」

渚「逃げるんだよォォォォーーーーー!」

 ゴーグルを身に付けその缶を炎の塊に放り投げた。缶は吸い込まれる様に炎の塊に当たって···。

「ぐぉっ!?」

 強烈な閃光と爆音を浴びて動きを止めた炎の塊の脇を彼女は走り抜ける。

渚「あ~ばよとっつぁ~ん!」

「ふ···っざっけんなぁ!」

 その叫びと共に、ビルは音もなく全階が完全に破裂、跡形も無くなった···。

~~~~

渚「――って事があったんだけどさぁ」

 そんな事は無かったと言わんばかりにリコリスで平然と水をあおる彼女のタフさには感動さえ覚えます。

マスター「それは···随分と災難でしたね」

陽那「······大丈夫?」

渚「あぁもうヒナちゃんの声聞いただけで平気平気」

マスター「···後で腕見せて下さい」

渚「···な~んで分かっちゃうかな」

マスター「長い付き合いですから」

渚「敵わないなーマスターには」

 やっぱりこの二人、良い雰囲気。もしかして、友達以上な関係?

陽那「······(・∀・。)」

 それを何処か嬉しそうにニンマリ見ている陽那ちゃんなのでした。

第1話 終わり

渚「···あれ今ヒナちゃん笑ってなかった?」

マスター「いや、見てませんが」

陽那「?(・_・)」

渚「ん~、気の所為かな···」クルッ

陽那「······(○・∀・○)」ニマッ

渚「···ん?」チラッ

陽那「?(・_・)」パッ

渚「······はぁ、気の所為かぁ、初めて笑顔見たと思ったのに~」

マスター(これは···本当に気付いてないみたいですね···)チラッ

陽那「!(・∇・)ババッ(⊃_⊂)」

渚「·····?」

マスター(·····直接見せるのは先になりそうですね)

第2話
~裏探偵 黄泉永~

 さて、君達は知っているだろうか。この世に妖怪、幽霊、果てには神が存在している事を。知らないのであれば知っておいた方が良い。何時の間にかそういった類いのモノに狙われるなど、避けたいだろう?
 ···では、教えるとしよう。この私、黄泉永 八叉(よみなが やくさ)がな。

~~~~

 今日も外は朝から夜だ。こうも眩しい程の太陽を見ないと、暗さも相俟って気分も低迷するようだ。代わりに常に満月が輝いているが、こうも自己主張が激しいと風情も感じない。

黄泉永「······」フゥ

 しかし、幾ら外が暗いと言えど朝である事に変わりは無い。まだ太陽が空に鎮座していた時と同じ習慣を私は取る。

黄泉永「······」モグ

 私の習慣、それは毎日朝にブラックコーヒーを飲み、プレーンドーナツを食べる事だ。コーヒーの苦味が、ドーナツの甘さを引き立てる。幸せとは何かと問われれば、間違い無く今だと答えるだろう。
 コーヒーは良い。砂糖、牛乳を混ぜても良いし、冷やすのも良いが、私は余計な物など入れず、そのまま飲むのが一番だと考えている。勿論私個人の考えであり、他の誰かが私と違う飲み方をしていても、別に文句を言ったりはしない。様々な飲み方を提供してくれるのがコーヒーだからだ。
 拘りすぎだと思われるかも知れないが、私は自ら焙煎し、自ら挽き、そして飲み干す。コーヒーは苦い方が良いと考える私は深炒り、粗挽きで何時も飲んでいる。手動式のコーヒーミルでゴリゴリと音を立てて豆を挽いている時間は、安らぎさえも覚える。
 ドーナツも当然手作りだ。砂糖の量も油の量も調整して、口当たりの良い様にしてある。そして個人的に気に入っているという理由で、真ん中に穴も態々開けている。ふわりと広がる微かな甘味が堪らない。

 ···話が逸れてしまった。今は私の話をする時ではない。私は――、おっと、珍しく起きてきたらしい。

水瀬「······お早う、御座います···」

黄泉永「気持ち悪いぞ熱でもあるのか」

水瀬「·····敬語、使うだけで···何だその態度···」

 こいつは腐れ縁の水瀬(みなせ)。一応は私の相棒である。同時に金食い虫でもあるが。普段は眠ってばかり、起きれば不遜な態度を示す奴なのだが···こいつの敬語は鳥肌が立つ程気味が悪い。裏があるとしか思えないのだ。

水瀬「ん、ふあぁぁ~~~······うぅん」

黄泉永「だから寝るな。二度寝に挑むな」

水瀬「起きてたって意味無ぇだろ。休業してるんだしよ」

 こいつは···。諸事情で休みだからとは言えずっと寝転がっているのも健康に悪いと···。

ジリリリリリ ジリリリリリ

黄泉永「!···もしもし」ガチャ

 ここで風情ある少しくすんだ黒電話から目覚ましにも似た音が。勿論休みでも取る。

『もしもし』

黄泉永「あぁ、君か」

『あの、地図見て近くには来たんですけど、どうにも分かんなくて』

黄泉永「ここはわざと人が訪ねにくい入り組んだ路地裏で営業している。近くに来たなら路地裏に入ってみ給え」

『路地裏···分かりました。態々すみません』

黄泉永「気にするな、本来ならこちらから迎えに行くのだが、今動けなくてな」

 そう、今は。だが彼が来れば···。

 電話が来てから数分経った後、ミシミシとまるでガラスに大きな負荷が掛かる音が広がる。

水瀬「お、おお!もしかして!黄泉永!」

黄泉永「このまま行けば、な」

 本来ならあまり良い気分にはなれないひび割れる音を、私達は喜んで聞いていた。そして···。

 コンコン ガチャ

「あの、ここで合って――」

バキャアアアアアン!

「うわっ!?」

「ひゃっ!?」

 電話をしてきていた彼が此処のドアを開けた途端、ガラスが思い切り割れた音が部屋中一杯に飛び散る。その音で彼とその連れが驚く最中、私達はとても安堵していた。

水瀬「よっしゃあ!これで自由だ!服買いに行ける!」

黄泉永「これで食料を買いに行けるな···」

「えっ、と」

黄泉永「おっと失礼、入り給え。事情と此処の事を、説明しよう···」

黄泉永「さぁ、ドーナツでも食べながら、落ち着いて話をしよう」

「あ、ありがとうございます」

「これがドーナツ···あむっ···ん、ちょっとワッフルと似ている様で、全く違った感触と味です」ムグムグ

「一緒だったら逆に怖いから」

 今、ドーナツを嬉しそうに頬張る黄色い髪と耳と尻尾を持つ彼女と、それを愛おしく見つめている保護者の彼は、少し前に知り合った二人組だ。彼らの名前は···。

黄泉永「では男君、狐娘君。ようこそ、裏探偵事務所へ」

男「あ、はい。どうも」

狐娘「今日は宜しくお願いします!」

 男君の方は緊張しているのか、何処かぎこちない挨拶だが、狐娘君の方は元気が溢れている。

 ん?何故この二人は性別と存在が名前なのか?それは簡単に説明すれば、名も無き街という、人の名前が彼らの様になっている場所の出身だからだ。それ以上の理由は無い。

水瀬「いや~助かったぜ!あのまま閉じ込められたまんまかと···!」

男「閉じ込め···?」

黄泉永「焦らずともゆっくりと説明するとも···」

黄泉永「まず、簡単に説明するならば、何時の間にか事務所の周りにバリアが張られていたのだ」

水瀬「食料買い溜めしてなかったら我でも死んでたぜ」

男「あぁ、だから盛大に歓迎するとか言って、俺を事務所に入れようと」

狐娘「でも、それって他の人でも良かったのでは」

黄泉永「割る為には大量の妖力が必要だったのでね···水瀬と私と君達を合わせて漸く割れたのだ」

男「何か、役に立ったみたいで何よりです」

 少し妖力について簡単に説明をしておくと、妖怪や神が持つ力だ。神の場合は神力とも言うが、まぁ、そのままだな。人間も持ってはいるが非常に小さい。だが極稀に大きな妖力を持つ人間も居る。男君もその一人だ。

狐娘「男さん、良く頑張りました。なのでナデナデしてあげます」ヨシヨシ

男「いや別に頑張っては···まぁ良いけど」

水瀬「···黄泉永コーヒー。砂糖何時もより少なめで」

黄泉永「何故」

水瀬「絶対コイツらもっと甘ったるくなるからな」

黄泉永「甘い雰囲気を見ても味は変わらないと思うが」

水瀬「良いから淹れろ」

黄泉永「淹れて貰う立場で偉そうに···全く」

黄泉永「しかし、なんとまぁ···」ジロリ

男「え、俺、何かあるんですか」

黄泉永「あぁ···少しだが、妖怪に近付いているな」

狐娘「えぇ!?男さん、妖怪になっちゃうんですか!?」

水瀬「ズズ······あ~、そういう事ね」ニヤニヤ

狐娘「笑い事では無いです!」

水瀬「いやぁ悪い悪い···ズズ、はは~ん」ニヨニヨ

狐娘「だから何ですかその笑いは!」

黄泉永「人が妖怪になる理由は二つ。一つは妖怪、神が人を怪(あやかし)へと変化させる時」

男「······もう一つは?」

黄泉永「···人と妖怪が何度も交わった時だ」

狐娘「······そ、それって///」

男「まさか······」

水瀬「若いって良いねぇ、お盛んで」

狐娘「え、えぇぇ!?///」

男「あ、あの、ちょっ」

黄泉永「落ち着き給え。私は飽く迄妖怪化の話をしたいだけだ」

狐娘「い、あ、む、無理です!///」

水瀬「なぁなぁ何時からそんな関係」

狐娘「言いません!///」

黄泉永「一先ず妖怪化の話をするが、主に寿命が延びる、死ぬ迄若い姿を保てる···それだけだ」

男「じゃ、じゃあ、その、何か、体に悪いとかは」

黄泉永「無い。が、寿命が延びた事による、知り合いとの永い別れ等は、悪い事に入るか」

男「······それは悲しいですけど、狐娘が居るなら平気です」

狐娘「お、男さん···///わ、私も男さんさえ居れば···!///」

水瀬「ほらぁやっぱり惚気た~、あ~甘い甘い」ズズズッ

黄泉永「···まぁ、君達程愛し合っているのなら、お互いの寿命まで添い遂げているだろうな」

狐娘「あ、ありがとうございます···///」

水瀬「添い遂げるだろうけどなぁ···何か、運勢は悪いみたいだけどな」

男「え」

狐娘「あの、辱しめたいのか、喜ばせたいのか、不安にさせたいのかはっきりして下さい」

水瀬「仕方ねぇだろ?出てるんだから」

黄泉永「君達には言ったかな?彼女は蛟(みずち)、水の神だ」

男「······え!?神様!?」

水瀬「我がそう見えないってか?んまあ限りなく神に近い妖怪、って所だからな」

黄泉永「神は常に一柱しか存在出来ない。だが蛟は一族がある。故に正確には神とは言わない」

男「それでも神様に近い、か···」

狐娘「す、凄い人だったんですね···」

水瀬「おんやぁ?九尾の狐は凄くないって?」

狐娘「た、確かに私は九尾の狐になっちゃいましたけど!」

水瀬「まぁまぁ、我の占いはスッゴい当たるから!」

黄泉永「水瀬は水で占いが出来る。···が、コーヒーで気軽に占うな」

水瀬「へいへい···」ズズ

 神に近い存在だというのに彼女は何とも子供っぽさが目立つ。口調も粗雑な癖に威厳は欲しいから一人称は我にしているらしい···全く威厳など感じられないが。

水瀬「占った結果···幸福には過ごせる。でも様々な困難が待ち受けている···だってさ」

狐娘「男さんと二人なら、どんな困難だって乗り越えられます!ですよね?」

男「もちろん」ナデナデ

狐娘「えへへ」ピコピコブンブン

 男君に優しく撫でられて、幸せそうに微笑みながら耳と尻尾を動かす姿はとても微笑ましい。人によっては恨みがましく思うだろうが。

水瀬「あ、困難って言っても、女難って出てるぜ」

男「あ、それならもう起こってます」

狐娘「男さん。それどういう意味ですか」

水瀬「分かるぞ~···体を求められ過ぎて辛いんだろ?元気そうだもんな~?」ニヤニヤ

狐娘「そ、それは···///」

 あぁ、成程。男君が二回も元気だと言っていたのは愛が重い、という事か。

水瀬「それとは違うっぽいけどな。複数の女性に好意を向けられるってとこか?」

男「えっ」

狐娘「駄目です!駄~目~で~す~!男さん、ハーレムは駄目です!」

 ふむ、恐らく複数の女性と言っても、全員妖怪だろう。彼には普通の人間はあまり寄り付かないようだからな。

野暮なこと言うようで悪いけど、この狐娘って超早食いの大食いじゃなかったっけ?
なんかドーナツ1個をちまちま食べてるように見えるんだけど

……ああスマン気にせずどうぞ続けてくれ、できればもっともふをくれください

>>79
流石に他人の前では自重します。べ、別に忘れてたとかじゃないんだからね!
後色んな意味でお腹が一杯なだけなんだからね!ナニがとは言いませんが。

 しかし長く閉じ込められていた故か、こう賑やかだとコーヒーも不思議と味わいが深く感じる。

男「にしても、こっちも暗いんですね」

黄泉永「···もう、この日本中で太陽が差す場所など無い。君達の住む街で最後だった」

狐娘「そ、そんな。どうしてそんな事に」

水瀬「···知らねぇのか?白妙大神(しろたえのおおみかみ)の事」

 珍しく神妙な顔付きをする水瀬の言葉に、彼等は一切心当たりが無い様子だった。···あの白狐の事だ、大事な事ははぐらかして言わなかったに違いない。

黄泉永「君達の街に住んでいた白い狐を知っているだろう?彼女は一柱の神だった」

狐娘「え、えぇ!?あの人、神様だったんですか!?」

男「凄くお茶目な喋る狐にしか···」

黄泉永「その表現、言い得て妙だな。私は前から知り合いだったが、誰に対しても飄々としていたよ」

 その言葉と共に、昔の幼き頃を思い出す。奴と出会って、会う度にからかわれた事を······何だか腹が立ってきたな。コーヒーを飲んで落ち着こう···。

水瀬「何の神かって言うと、白···じゃなくて、無を司る神だったんだよ」

男「む、って何も無い、の無ですか?」

水瀬「そうそう、あんなんでも神の中でトップクラスだったんだぜ」

男「そ、想像出来ない···」

狐娘「···どうしてさっきから過去形なんですか」

黄泉永「想像通りだよ。···確か、九尾の狐は人の心を読めた筈だが?」

狐娘「男さんしか読まない事にしてます」キリッ

水瀬「その割には男の悩みは分かってなかったみたいだな?」

狐娘「そ、それはあの、最近男さん読ませない様に出来る技を身に付けてて···って今良いでしょう!」

男「·····もう居ない、って事ですか?」

黄泉永「···神に死は無い。故に崇め、畏れられ、奉られた。肉体が滅びようとも、魂は死なない」

水瀬「だけど、直接会話すんのはもう無理だ。神の魂と会話出来んのは神でも居ねぇ」

狐娘「······そうですか」

 強く印象に残っている。狐娘君の、耳も尻尾も力無く垂らし、項垂れる姿が。

黄泉永「彼女が夜の力を無効化していたのだが、肉体の消滅と同時に力を維持出来なくなった」

男「他の街もですか?」

黄泉永「それは違う。彼女は土地神の一柱。その土地しか守れない」

 土地神は全国各地に存在していた。だが日本中が夜になっている事から分かるだろうが、もう一柱も居ない···。

男「一体、誰が日本中を夜なんかに···」

黄泉永「···神は数種類居る。土地神、式神、九十九神などだ」

水瀬「狐娘は九尾の狐だから妖怪だけど九十九神、我は水神呼ばわりに妖怪」

 自分で呼ばわりと言うのは如何な物かと思うが、本人が言うのだから気にする事は無いだろう。

男「それが、何なんですか」

黄泉永「······日本神話において最も尊いとされたのが、三貴神と呼ばれる神達だ」

狐娘「···知ってますよ。アマテラス、ツクヨミ、スサノオですよね」

黄泉永「良く知っていたな。男君、撫でてあげ給え」

男「は、はぁ」ナデリ

狐娘「はふぅ···」ピコピコ

 余計なお世話だったかも知れないが、彼女が落ち込んでいたので彼に慰めついでに褒めさせておく。幾分気は紛れるだろう。

黄泉永「それぞれ太陽、月、海を司る神だというのは知っているかな」

男「···!もしかして」

黄泉永「そう、君の想像通りこの事態の犯人、いや犯神は···」

水瀬「月読命···だぜ」

狐娘「何でそんな事を…?」

黄泉永「神の考える事など人には理解出来んよ」

水瀬「ってか、そう言えば何の用で来たんだよ」

男「あっと…いや、狐娘の仲間の居場所って分かんないかなって」

黄泉永「む…出来ない事も無い。が、特定は無理だ」

水瀬「幾ら我でもなぁ…誰が誰とは分かんねぇな」

狐娘「地道に探すしか無いんですね…」

 私はそうなる、と返事をする事しか出来なかった。何とかしてやりたい気持ちもあるが、それが出来るのは、白妙大神位だろう……。

 ジリリリリリ ジリリリリリ

 む、電話か。外に出られる以上、私としては奴の下に…いや、仕事を放棄するのは私の理念に反する。

黄泉永「もしもし……。……何?」

 その電話は、いよいよ世界にまで巻き込む事態だという事を、宣言する物だった──。

第2話 終わり

男(狐娘がドーナツがっつかなくて良かった…)

狐娘(食べたい…ドーナツ食べたいけど人前で粗相を、はしたない真似をすれば男さんが…)

黄泉永(…何故狐娘君はドーナツを睨んでいるのか)

水瀬(コーヒー甘い……)ズズッ

第3話
~灯台下暗しとはこの事~

 渚の通うバー、リコリスには常連客が三人居まして。朝から夜だからって開店からずっと居座る事もある暇人達なのです。

渚「お、アンタら今日は遅いね」

「姐さん今日は早いっスね」

渚「だ~から姐さん言うなっての!」

「おう姐さん!今日も呑んでるね!」

「仕事で大忙しなんじゃあないかね」

渚「呼ぶなっつ~の!仕事後の一杯呑んだっていいでしょが」

 最初に話したのが何時もカウンターに突っ伏して愚痴を言う通称新入り(渚命名)、二番目が何時も祭と描かれた法被を着た通称若旦那(渚命名)、三番目がそこまで年食ってないのに年寄りくさい口調の通称ジジイ気取り(本人の自称)。

渚「何で姐さんて呼ぶかね」

新入り「逆にそれ以外の呼び方出来ないっス」

渚「出来ろ!」

爺「ん、そこのお嬢さんは誰じゃ」

陽那「!Σ(・Δ・)バッ ササッ(>_<)」

 陽那ちゃん恥ずかしかったのか、まさかのカウンターを乗り越えてマスターの影に隠れちゃいました。どうしてアタシに隠れない···と悔しそうに彼女が見ていますが、気にするだけ無駄ですね。

マスター「次からはカウンターの上を越えてはいけませんよ」

陽那「······ごめんなさい」ペコリ

マスター「しっかり謝れて、偉いですね」ナデリ

陽那「·····(//_//)」

渚「マスターちょっとまだアタシ撫でてないぃぃぃぃぃ!!!!」

 彼女の悲痛(笑)なる叫びが響き渡りますが、全員無視。彼女の愉快な仲間達三人は、また何時もの発作か何かと思って相手にしてない様子。日頃から彼女はこんな調子。

若旦那「で、お嬢ちゃん何者だい?」

陽那「···陽那」

爺「ヒナ···良い名前ですな」

新入り「···ひなだお」ボソッ

渚「聞こえてるから」

新入り「じゃあこの子の一人称何なんスか!」

渚「どんな逆ギレ?···う~ん、聞いた事無いなぁ。言って欲しいなぁ」チラッ

陽那「やだ」

渚「·········やっぱり神様なんていなかったね」

新入り「それ色んな意味でヤバいっス」

若旦那「相変わらず姐さんのネタ分からん!」

爺「新入りくんしか伝わらんのぉ」

渚「だから姐さんって言うな!」

陽那「······」

マスター「どうしました?」

陽那「何でも無い······」

渚「えぇい!何回呼ぶ気だっつ~の!」

新入り「一万と二千回っス」

渚「無限拳(むげんパンチ)!」ブオッ

新入り「おうふっ!」バコッ

マスター「……そうです。折角ですから、渚さん、この子と買い物でも──」

渚「」ガシ

陽那「!Σ(・_・;)」

渚「そうと分かればこぉんな最低な場所に用は無い!行くぞぉ!」

陽那「!(>_<;)」ジタバタ

 何と彼女、陽那ちゃんを半ば誘拐の形で脇に抱えて店を出て行きました。

マスター「最低……」

新入り「マスター、ネタだと思うんで、深く気にしちゃ負けっスよ」

 思いの外ダメージを受けているマスターを慰める新入りくん。マスターは大体こんな感じで彼女に振り回されています。それでも彼女に優しくする健気な方。

陽那「………(-_-#)」

渚「だって気まずそうにしてたからさぁ…マスターだって気を使ってあんな事言ったんだろうし…」

陽那「(-ε-#)」ムスッ

渚「うぅん…どうしようかな」

 無理矢理連れて行ったのが陽那ちゃんの気に障ったのか怒っているようで。

渚「ん~…じゃあ今からでも戻る?」

陽那「………駄目」

渚「じゃあ──」

陽那「……逃げないと」

渚「……わお、何か知らない内に囲まれてるっぽい?」

 彼女が周りを見渡せば、野中ビルに居た兵士達が囲う様に迫って来ていました。……ピンチ!

渚「アタシは顔バレしてない筈···あ、ヒナちゃん狙いな訳か」

陽那「······」ギュッ

渚「大丈夫だ~いじょ~ぶ。ただ、また抱えちゃうし、ちょっと高い所行くけど···!」スチャ

 黒ゴーグルをスチャリと掛けて、陽那ちゃんを右腕で胸に抱いて、急いでその場から逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。

渚「ありゃ、意外と早い···」

「その子供を返して貰う」

渚「返すも何もアンタ達のじゃ無いでしょ?ヒナちゃんは、ヒナちゃんの物なんだからさぁ」

「良いから渡せっ···!」

 兵士が彼女の肩を掴んだ。瞬間彼女は身を捩って兵士の横顔に強烈な回し蹴りをお見舞い、相手は見事ノックダウン。顔一瞬めり込んでました。ていうか顎の骨外れかかってます。威力おかしい。

渚「伊達に脚力鍛え上げてないってね!」

 そのまま倒れた兵士を踏みつけて、近くのビルの屋上へと左腕の装置を使ってヒラリと飛翔。

渚「さぁって、全速力で逃走!」

 彼女、屋上の柵の上を踏み、脅威の脚力で隣のビルの間を飛び越え、見事に着地。10.00。

陽那「···っ!···っ!(・Д・;)」パクパク

渚「あ~···怖かった?」

渚「いや~翔ぶのは良い気持ちなんだけどなぁ、慣れれば」

陽那「慣れたくない···(~_~;)」

渚「そんな事言われましても」

『逃げても無駄だ』

陽那「···っ···!(Δ`)」

渚「っ···この声、この前の耄碌幽霊ジジイ···!消えてなかったっての···?」

 何も無い空間が歪んでインチキ幽霊お爺さん登場。骨から内臓、肌という風に徐々に現れる様は、完全にホラー。

『死など無い。幻想に過ぎぬ』

渚「幻想だぁ?」

『そう、幻想。太陽が産み出した何もかもが』

渚「急に太陽とか何の話?」

『夜月こそ現実。それ以外は全て幻想。幻想なのだ!』

 脈絡も無く怒鳴り散らし襲い掛かってくる幽霊お爺さん。こう言っては何ですが、イカれてます。

渚「そうかいそうかい。だったらアンタの存在も幻想に変えてやる」

『無理だ。幻想は現実には敵わない』

渚「いやね、幽霊が現実とかって意味分かんないから。死んでんでしょ?」

『死など無い。それが現実だ』

渚「んな~···理解不能。何?死者と生者が入れ替わるとか?」

『所詮は幻想。幻想だ』

渚「壊れたカセットテープかコイツは···」

 同じ事を繰り返して話にならないので、彼女は銃を構える···けども、すぐに思い直しちゃった。

渚「···撃てるかな、ゴールドエッジ」

 ちょっと前何の反応を見せなかった事に不安を抱える彼女を、陽那ちゃんが···。

陽那「大丈夫」

渚「良しヒナちゃんが言うなら絶対大丈夫···って訳でまたぶっ飛べ!」

 カチリ、と迷い無く引き金を引けば、銃口から蒼い光が充填され、前方へと大きく蒼い閃光が走る。

『死など無い。全ては無意味だ』

 光を浴びても変わらず同じ言葉を繰り返すだけのお爺さん。

渚「その割には、体半分吹っ飛んでるけど?」

陽那「残しちゃ駄目···」

渚「分かってるって。可愛くも無い幽霊は大人しく透明になってもらうから」

『無意味だ。全ては無意味なのだ』

 ゴールドエッジをお爺さんに向けて撃とうとしてるのに、お爺さんは見えてないかの様に足取りゆっくりと向かってきます。足無いけど。

渚(何なのコイツ···操り人形か何か···ん?)

 流石に不可思議に思っている彼女を、唐突に影が覆う。彼女と陽那ちゃんが空を仰ぐと、満月に人影が浮かんでいる。そしてその影は真っ直ぐお爺さんへ――。

『幻そっ』

【そう、幻想。貴方の存在も、最初から···ふふ】

 降ってきたのはあの幽霊美少女。二メートル程もある、余裕で幽霊美少女の身長を超える絶対重い日本刀を軽々しく、ものの見事に振るって幽霊お爺さんを完全に霧散させました。カッコ可愛い!

渚「···日本刀と美少女···イイネ!」

陽那「!(・∇・)」

【ふふ、ごめん遊ばせ?】

渚「謝ってどうすんの」

 月明かりに照らされて、ハッキリと幽霊美少女の白···というより銀色?のワンピースがヒラヒラ舞っているのがわかります。そしてその裾を両手で摘まむ様にして持ち上げて、頭を下げる姿はまるでお嬢様。

渚「て言うか、ヒナちゃん、知り合い?」

陽那「…うん」

【ふふ、今はちょっとヒントを貴女に教えるね】

渚「ヒント?」

【その子の力で出来た物は、その子から離れる程、力が消えてくの】

渚「……ゴールドエッジの話?」

【ふふ、そうとは限らないわ】

渚「助けてくれるのは良いけど、何が目的?」

【秘密♪その子を──っ!】

渚「えっ、何々?後ろ?ってうわぁ…」

 彼女の後ろに居たのは、何処からともなく現れた、顔の無い真っ白な身体に黄金の鎧を持つ、四つ足の怪獣でした。

「カオオオオオオオオオオオオ!」

 口も見当たらないのに何処からか雄叫びを上げる。うん気持ち悪!

渚「あのさ、これも天使って奴?」

【そう!狙いはその子!逃げて!】

渚「人気物だねぇヒナちゃん」

陽那「……!?(・_・;)」

 軽い口調の彼女の瞳は闘志に燃えていました。思わず雰囲気の違う彼女に陽那ちゃんもビックリ。

渚「幾らピンチでも、可愛い子置いて逃げるのは…アタシの理念に反するんだ」

 そう言ってゴールドエッジを躊躇無く四つ足テンシに向けてぶちかます。

「カルルルル!」

渚「羽生やすとか卑怯じゃない?でも!」

 空中に飛んで避けた四つ足テンシにアンカーナイフを突き刺し、接近する彼女。

 四つ足テンシの腹に突き刺し近付く彼女を振り払おうと暴れるけど、深く刺さっていて離れず、接近を許してしまう。

渚「至近距離…貰った」

 土手っ腹にゴールドエッジを撃ちかまして直撃、吹っ飛ばした。墜ちていく彼女と四つ足テンシ。時間がスローに感じて…。

渚「その目玉、も~らい!」

 四つ足テンシの背中がキモく大きく開いて、その中からこれまたキモい目玉がギョロリ。それを彼女は狙い撃ち!

「キアアアアアア!」

 断末魔を上げながら、塵と消える四つ足テンシ。姿も動きも声もキモいと呟くと、彼女は先程のビルの屋上へアンカーナイフを突き刺して、華麗に舞い戻る。

陽那「………!(゚□゚)」

【わぁ……強いんだ】

渚「鍛えてますから!」

 へへっ、と年甲斐も無い笑いを振り撒く彼女。変態淑女な方ですが、実力は申し分無き強さを誇っております。普段からこんな感じなら……。

渚「にしても、最近タダ働きばっかだなぁ…」

 陽那ちゃんを助けた時は、余りに珍しいから黄泉永の依頼をタダで引き受け、幽霊少女に呼び出された時も結局何か有耶無耶になり、今回もそう。一応仕事の体でやってるので無報酬はキツいんです。

渚「はぁ…しかもこれから暫くタダ働き増えそうだし」

【駄目?】

渚「めっちゃ良いよ!どうぞ!」

陽那「……(=_=)」

 すぐ意見を変える彼女の姿に呆れるばかりの陽那ちゃんでした。

渚(……ヒナちゃんも、この子も、何者か知りたいし……さ)

第3話 終わり

渚「はぁ……ヒナちゃんは抱かれるの嫌がるし……何かモフモフしたい……」

第4話
~退魔~

男「···」ナデナデ

狐娘「えへへ」ピコピコ

黄泉永「······」ズズ

 さて、男君が何をしているかと言えば御覧の通り膝の上に乗せた狐娘君の頭を撫で回している。元はと言えば女難の話で機嫌を損ねた狐娘君に反省の意を込めてしている。だが最初こそ不機嫌だったが今は完全に狐娘君が甘える形となっている。

 そんな狐娘君だが、気を損ねた直後に我慢出来なくなったのか、ドーナツを一瞬で、一個だけ残して平らげてしまった。妖怪というのは必ず幾つか妖術を隠し持っているが、狐娘君の妖術はどうやら自身の行動速度を極端に速く出来る、もしくは時間を遅く出来る···後者なら恐ろしい力だ。

 狐娘君がドーナツを残したのは男君に食べさせて貰う為であろうが、妖怪と言うのは斯くも我慢の出来ない、欲に忠実な生物であり、狐娘君の様に多少でも我慢を覚えているというのは、それだけ相当高位の妖怪なのだ。人に近い存在と言える。水瀬は神に近い故に人より我慢強い所があるが、一つだけ一切我慢の効かない事がある。

水瀬「んぐっんぐっ···ぷはっ···ほぅ···」

 閉じ込められていた反動か、身体に悪い一気飲みをして恍惚の笑みを浮かべている。···そう、水瀬は酒が我慢出来ない。御神酒という言葉がある様に神は元来酒好きだ。彼女も例外では無かった。良い水使った日本酒が飲みたいと日本中を巡った事もあるらしい。私と会う前の話だ。

 私は酒を飲まないし煙草も吸わない。だからと言って酒を飲み、煙草を吸う人間を非難、軽蔑をする真似はしない。しかし、私は嫌いな酒飲みの行動がある。

水瀬「よみなが~···構え~···」ムギュ

 絡み酒だ。もう一度言おう、絡み酒だ。水瀬は酔うと矢鱈と甘えたがる。今も私の背中側から私を抱き締めている始末。平時が眠りこけ、起きればがさつな態度を示す分、こうなるとどう対応すれば良いのか分からない。しかも酔った時の事を殆ど覚えていないのだ。ほとほと困っている。

 いかん、思わず考え事が多くなる···。この状況で深く考えても疲れるだけだ。主に水瀬で。

水瀬「うだ~···」

黄泉永「···横になって寝てい給え」

水瀬「ひざまくらぁ···」

黄泉永「···はぁ、分かった」

 事務所の応接用に二つ用意してあるソファーベッド(片方は男君達が座っている)に座り、約束通り水瀬を膝枕で寝かせてやる。···子を寝かしつける親の気分だ。

水瀬「うぅん···」

 安寧の眠りを迎える水瀬の表情は、嬉しそうにしている···と同時に、少し悲しみも混じっていた。·········。

狐娘「水瀬さん、甘えてましたね」ニマニマ

男「今俺に頭擦り付けてる狐娘が言う事じゃない気が」

狐娘「むむ、良いでしょう?」

男「良いけども」

黄泉永「······これも、寂しさ故かも知れないな」

男「寂しさ?」

黄泉永「水瀬は蛟の生き残り···一族と言ったが、もう居ない。コイツを残して、鏖殺···皆殺しに合ったらしい」

狐娘「···そんな事する人、居るんですか」

 狐娘君の口調は怒りが籠っていた。同じ妖怪として、許せないのだろう。私とて許す気にはなれない。

黄泉永「実際に起こっている以上、否定出来ない」

男「そんな事する理由って···」

黄泉永「狐娘君なら分かると思うが···妖怪というのは昔から毛嫌いされていた」

狐娘「······」

黄泉永「それ故住み処を追われ、細々とした生活を送らざるを得ない者達も多い」

男「それは···怖いから、ですか?」

黄泉永「そうだ。得体の知れない存在であるから、恐れられ、そして···」

狐娘「だからって、そんな、一族皆を···!」

黄泉永「······妖怪の、皮などはな···その筋では、高く売れるのだ」

男「ま、まさか···」

黄泉永「コイツ···水瀬から一族が奪われた理由は、唯の金儲けだった···」

黄泉永「まぁ、そうした人間は、私が直々に断罪したがね。それでコイツの傷が消える訳も無いが···」

狐娘「···優しいですね」

黄泉永「そうでも無い。そうするべき理由があった。それだけだ」

男「でも、だからこうして甘えてくるんじゃ無いですか?助けようとしてくれたから」

黄泉永「···さぁな。兎に角、水瀬は親い存在が少ない。君達も出来るなら、理解者であって欲しい」

狐娘「私で良ければ幾らでも友達になります!」

男「俺も」

黄泉永「···ふっ、幸せ者だ、コイツは」

 寝息を立てる水瀬の頭を、親が子にする様にそっと撫でる。少し、笑った気がした。

男「ところで、さっきの電話、結局誰だったんですか?」

黄泉永「情報屋だ。デイ*オーニーと名乗っている」

狐娘「名乗っているという事は、偽名なんですか?」

黄泉永「そうだ。名付けたのは私だからな」

男「名付けた?」

黄泉永「名前、と言うのは人間が考え出した物。どんな生物にも本来名前など無い」

狐娘「それだと困るから名前をあげたんですね!」

黄泉永「察しの良い子だ。因みに、水瀬という名も私が考えた物だ」

男「へぇ…」

黄泉永「…念の為言っておくが、君達の名前は自分達で考えてくれ給えよ?」

 二人共図星だったのか、ぎこちなく狼狽えていた。思わずその姿に笑いを誘われる。

男「ええと、何の電話だったんですか?」

黄泉永「此処に来るらしい。人前に姿を現す事は……文字通り、天変地異の前触れだ」

狐娘「天変地異…この夜の事ですか?」

黄泉永「…日本どころか、世界中も朝が来ないらしい」

男「ええっ!?」

黄泉永「神がお怒りになったと、方々で言われているそうだ。場所によっては、生贄を…」

狐娘「い、急いで止めないと!」

黄泉永「下手に動いても、居場所すら分からないままではな」

 悔しいが、私にはそこまでの力は無い。待つしか無いというのは、歯痒い…。

男「その、デイって人が来るのはどうしてですか」

黄泉永「…分からない。かなり、急いでいたのは分かったが」

 デイ・オーニーという者は普段慌てたりはしない。それが急いでいる辺り、身に危険が迫っている可能性も否めない。

黄泉永「まぁ、私達が慌てた所で世界が動く訳では無い。ゆっくり過ごし給え」

男「……」ナデナデ

狐娘「むむ…」ピコピコ

 険しい表情でありながらも耳を撫でられる喜びで動かしている。世界が変わってもこの二人は平常運転だろう。

水瀬「……」モサッ

黄泉永「っ!……驚かすな」

 水瀬の頭からまるで珊瑚の様な角が、二本生えている。時折急に生える事がある。

狐娘「あっ、角…自在に生やせるんですか」

黄泉永「特に生えていようか無かろうが、変化は見た目だけだが」

男「最近狐娘も耳と尻尾隠せる様になって…」

狐娘「帽子要らずです」ピコピコ

 成程、隠していないと思っていたが、そういう理由だったか。狐娘君からすれば、何時でも直接撫でて貰える、という所か。

水瀬「う……来る……」

狐娘「うなされてるんでしょうか」

黄泉永「いや、これは……」

水瀬「うぐ、ぐ…テンシ、テンシだ、黄泉永!」ガバッ

 頭を抱えながら起き上がる水瀬に驚く二人。

黄泉永「分かっている。君は寝ていろ」

男「天使って…」

黄泉永「君達の考える天使とは全くの別物だ…私が戻るまで外に出ない方が良い」

 そう言いつけて、私は水の入ったペットボトルを持って事務所を出る。時間的にはまだ昼だが、夜風が涼しい。

 ···涼しすぎる···というより、風向きが···?

黄泉永「···上か!」

 顔を上げれば、すぐ側まで青緑の翼を羽ばたかせる者が近付いていた。その後ろには白き翼のテンシ達が幾つも飛来している。

「裏探偵さん!」

 青緑の翼を持つ者は、私に飛び掛かる様に舞い降りると私の背に隠れた。背を掴む手が震えている。

黄泉永「低級のテンシだけならば···」

 私はペットボトルの蓋を開け、中の水を宙へ無造作に撒く。水は空中で留まり、薄く広がりつつ一体と化し、水の薄い膜による結界が完成する。

 結界を無視して突っ込んでくるテンシが結界に触れ、弾き飛ばされる。複数のテンシが結界内に侵入しようと試みるが、無駄だと分かると飛びさっていった。

黄泉永「逃がす気は無い」

 結界に手を触れ、結界の形を数本の細い槍状に変化させ、テンシ達へと飛ばす。それらはテンシの白い駆体を貫き、一匹残らず塵へと変えた。

「テンシが一瞬で···やっぱり強いですね、裏探偵さん」

黄泉永「随分と忙しかった様だな、デイ・オーニー」

デイ「はい、お陰で疲れました」

 青緑の翼を持つ者ーデイは、その言葉の割には安心したのか曇り無き笑顔を見せてくれた。

狐娘「わぁ···綺麗です···」

 デイの姿を見るなり感嘆の声を上げる狐娘君。綺麗、と言われれば、私でもそう答えてしまうだろう。

 デイの見た目はとても美しい青と緑の、髪と十二単にも似た服装を着た黒目の女性だ。良く見ると分かるが、デイには大きな翼が生えており、畳んで服の装飾の様に擬態させている。

デイ「···その耳、尻尾···可愛い···!」ムギュ モフモフ

狐娘「ふわっ!?あ、あう···お、男さん~···」

 そしてデイは狐娘君を見るなり歓喜の声を上げて、男君の膝に座っていた狐娘君を抱き締めた。狐娘君は少し恥ずかしげに男君に助けを求めている。

男「あの、デイって人は···」

水瀬「妖怪じゃない。神の使いだぜ」

黄泉永「正しく天使と呼べる存在だな」

デイ「どうも、ですね」モフモフモフモフ

狐娘「尻尾触り過ぎですよぅ···」

デイ「あや、これはごめんなさい」モフモフ

狐娘「減らしたら良い訳では無いです」

 ···ああなると彼女は暫く止まらない。ただ、節度を守らない変態よりは非常にましだ。奴は手が付けられない。奴の可愛い物好きは筋金入りという表現を通り越している。
 まぁ、奴なら可愛い物の為に世界を救うなどとやりかねんな···。

男「あの、流石に狐娘も嫌がってきたので」

デイ「···彼氏さん、で良いですか?」ソッ

狐娘「いえ、私の夫です!ですよね貴方様?」ガバッ ムギュ

男「悪乗りしない」ナデナデ

狐娘「む、つれないです」ピコピコ

デイ(どちらも否定はせず、と。ふむふむ)

男「でも、神の使いって、一体どんな?」

デイ「ケツァール、知っておりますか?」

狐娘「けちゃ···?何でしょうか?」

デイ「世界一美しい鳥でございます。私はそれの化身でありまして」

水瀬「良いよな~、綺麗とか美しいとか言われてよ~。我は通り越して不気味って···」

デイ「隈取りの所為かもです」

水瀬「そりゃ目の前に歌舞伎みたいな顔してる奴来たら···んなぁ~···」

 正直に言えば、その白い肌と体型は女性に羨ましがられているのだが、言えば調子に乗るので伝えていない。

黄泉永「デイ、そろそろ本題に入って貰おう」

デイ「あぁ、そうですそうです!こうしては居れんのですよ!」

黄泉永「何があった」

デイ「このまま夜が続けば、光が消滅の危険があるんですよ!」

男「光って···太陽じゃなく?」

デイ「光です!太陽の光も、電気の光も無くなって、月も光らなくなって···永遠の夜が···!」

 デイの情報は正確性が高く、信頼出来る···が、今回ばかりは嘘だろうと思ってしまった。世界中を夜にしたのは月読だ。月の神が月の輝きを消す様な真似をするのだろうか?

水瀬「世の中常夜にしようってか?黄泉の国でも行く気かよ!」

男「どうして夜になったら黄泉の国が?」

狐娘「光の無い常夜にこそ、黄泉の国が存在すると言われてるんです」

黄泉永「そうだが、そうする理由は何処に?黄泉の門を開いて、何をする気だ···」

デイ「分かりませんが、光が無いと人間は死んじゃいますよ!」

水瀬「そこまで追い詰められてんのか···!」

 ジリリリリ ジリリリリ

黄泉永「何だこんな時に···もしもし」

『おい黄泉永』

 電話越しに聞こえてきたのは大変聞き覚えのある変態の声だ。何故このタイミングで···溜め息が出る。

黄泉永「何かな?私は忙しい」

渚『マスターに聞いたんだよ、アタシの携帯ボロい理由!』

黄泉永「···それが?どうかしたのかな?」

 心底どうでも良い内容で非常に苛々とさせられる。今言う必要のある話なのか?私は今すぐにでも電話を切ってやりたい気分だった。

渚『とぼけんなって!テメェが、テメェがマスターに頼んで意地でも買わせない様にしたんだろうが!』

 どうやら酔っている様で、所々呂律が回っていない。弱いのだから下手に呑むなというに···。

黄泉永「では一つ聞くが、初めて水瀬と会ってその名を聞いた時、君は何を思い浮かべた?」

渚『······アイ○ルマスターに出てくる、水瀬伊○ちゃん』

 彼女はゲームのタイトルとそのゲームのキャラクターの名を素直に答えた。コイツは可愛い物を見る為にゲームもやる。

黄泉永「そのゲーム、携帯にもあるそうではないか」

渚『···ミ○オンライブとシンデ○ラガールズ』

黄泉永「携帯のゲーム故に課金出来るらしいが、君は幾ら注ぎ込む?」

渚『········全財産注ぎ込むと思います』

黄泉永「そうなると分かって買わせると思うか?だからゲームも出来ない古い携帯を持たせているのだ」

渚『いや待って?せめて、せめてさぁ。アタシのお気に入りのメンバーが――』

黄泉永「君は全員お気に入りなんだろう?」

渚『ま、待って!せめて○月杏奈ちゃんと真壁○希ちゃんと宮尾美○ちゃんと双○杏ちゃんと遊佐こ○えちゃんと三好紗○ちゃんとお願い○谷絵理ちゃんも呼んで――!』

 ガチャン

黄泉永「・・・・・・・・・・・・」

 何だったのだ、さっきの時間は。本気で意味が分からない。完全に無駄な時間だった。すぐに電話を切れば良かったのだ。そうすれば怒りが沸く事も無ければ、怒りをぶつけるやり場に困る事も無かった。

狐娘「あの、どんな電話だったんでしょうか」

 下らなさ過ぎる電話内容に頭を抱えていた私に、狐娘君は心配して優しく話し掛けてくれた。奴にも私、とは言わないが、マスターや狐娘君を見習って欲しい。

水瀬「察するに、渚姐さんだろ?しかも酔ってた」

黄泉永「流石に分かるか」

水瀬「姐さんは酔うと突然的に行動するからな。突然キレる、突然笑う、突然泣く、突然寝る···」

デイ「お知り合いみたいですが、ブッ飛んだ酔い方するのは分かりましたよ」

 全く以てその通り過ぎて困る。改めて聞けば聞く程、酒を呑ませるべきでは無いと考える。奴と比べると水瀬の酔い方など可愛い物だ。

男「変わった人みたいですね」

黄泉永「変態だからな。悪い奴では、一応無いのだが。可愛い物を目にした時に暴走するのがな···」

デイ「では、狐娘ちゃんは見せられないよ!ですか」

黄泉永「君も奴の色眼鏡に引っ掛かるだろう」

デイ「おぉ···間接的に可愛いと言われましたよ。照れます」

狐娘「全然そう見えないです」

デイ「顔を赤くするだけが照れでは無いのですよ。テレテレ」

男(この人も変な人だ···って言うか全員変な人なんじゃ···?俺もちょっと変わってるって言われた事あるし···)

黄泉永「だが、奴に会いに行かなくては」

水瀬「あの子の為かよ」

黄泉永「あぁ」

デイ「あの~、あの子とは?」

黄泉永「···君にも名前は言えない。だが、これだけは言える」

   《その名は今の世に戦争を引き起こすだろう···という事だ》

男「せ、戦争なんて大袈裟な···」

水瀬「全く大袈裟なんかじゃ無いぜ···名前を知ってる奴は少ないと思うけどな」

黄泉永「奴さえ知らないだろう···それで良いと考えていたから、最初から会う気は無かった」

デイ「では会う気になったのは何故?」

黄泉永「君の言った情報···真実であるならば、絶対に会う必要がある。護る為に」

水瀬「黄泉の国の門が開いたら、きっと亡霊とか悪霊わんさか出るもんな」

黄泉永「そう言う事だ···だから、会いに行く。あの子に、マスターに、渋々渚にも」

 全員にリコリスへと行く準備を進めさせる。私は先に消費した水の補充をする。男君と狐娘君も連れていくのは下手に帰せば襲われる可能性があるからだ。

男「あの、何で水を?」

デイ「水には退魔の力があるのですよ」

黄泉永「正確には、真水と清水、後は純水だが」

狐娘「?水は水では無いんですか」

水瀬「おっと、蛟の前でその発言とはやるねぇ」

狐娘「あ、いや、そんなつもりでは···」アタフタ

水瀬「そんなに怖がらなくてもよ···」

 水の神と呼べる水瀬は水の種類に関しては当然熟知している。何処の水がどうこうで良い等は、私と会う前の旅で培った力らしい。専ら酒の為の知識だが。

黄泉永「まぁ、水の種類は良い。何故真水と清水と純水に退魔の力があるかだが···」

   「真水と清水は同じ読みの出来る字に変えれば神の水、神水と聖なる水、聖水となる」

   「そして純水だが···悪霊等は隙間に入り込む力がある。水の中の不純物は隙間の一種、それを取り除いた純水には――」

男「隙間が無いから入り込めない、と」

黄泉永「物分かりが良くて助かる」

黄泉永「神の水と聖なる水に関しては説明不要だろう?」

狐娘「はい。大体雰囲気的に分かりました」

デイ「まぁまぁ、談義も良いですが、裏探偵さん」

 暗に催促を受けた私は、水瀬の準備を急がせる。何故か水瀬は準備の時間が滅法長い。何に手間取っているのか···。

黄泉永「しかし···結果的に巻き込んだ形で申し訳無い」

男「自分から巻き込まれに行った様な物だから、気にしなくても」

狐娘「そうです!悪いのは、ずっと夜にしてくれた相手ですから!」

黄泉永「これで君達の依頼もすんなりと解決出来ていれば、良かったが···」

狐娘「良いんです。気紛れ、みたいな物ですから」

男「狐娘···」

デイ「···仲間に会いたい、という気持ちは分かりますよ」

狐娘「···デイさんも?」

デイ「自分しか人の姿をしてないので、仲間と会話が出来なくて。仲間外れみたいな気分を味わった苦い思い出が」

黄泉永「水瀬も分かってくれるだろう···生き残りが自分だけというのは、存外寂しい物だ」

水瀬(···黄泉永)

 暫くして水瀬がノコノコ現れたが、特に外見上変わった様には見えない。本当に何をしているのか、気にならないと言えば嘘になるが。

デイ「では!準備出来た所で行きましょうよ!」

 自分が狙われたと言うのに、呑気に元気良く腕を上に突いて出発を告げる。元気が無いよりマシ、か。

黄泉永「あぁ、では、行くとしよう」

狐娘(渚さんってどんな人なんでしょう…不安です)

男(渚っていう人には気を付けないと…)

デイ(渚さん…面白そうなネタです…!)

水瀬(渚姐さんと酒呑めてぇな~)

 各々、何か考えている様だが…水瀬は何となく分かるが。

黄泉永(何事も無ければ、それで良いのだが……)

 込み上げる不安感が、どうにも拭えず、ただただ安全である事を望んだ…。

 そして、その予感はこういう時に限って的中してしまう。

水瀬「……何か、嫌な予感がすんだけどさ」

黄泉永「奇遇だな、私もだ」

 空を見上げれば、満月に陰りが。だがそれは雲によるものでは無く、巨大な生物が生み出していた。

 地響きを立てて三メートルはあろう巨大生物は私達の目の前に着地する。

男「な、何だこいつ…」

デイ「テンシ!デカいですよ!」

テンシ「ニジャオアアアアア!」

水瀬「鳴き声気持ち悪!」

狐娘「生理的に無理です…」

 一つ足で右側に生えた二枚の翼、左側に生えた三本の腕を持つ不気味な、いや吐き気を催しそうな程気持ち悪いアンバランスなテンシが立っている。

黄泉永「デイ!男君と狐娘君を連れて空を飛び給え!」

デイ「え、それ結構キツいけど分かりましたぁ!素直に逃げますよ!」ガシッ

狐娘「わわっ!」

男「うわっ」

デイ「お、重いぃ…!けど頑張りますよぉ…!」

 緑の翼を羽ばたかせ、空へと飛翔する姿は、夜であっても綺麗であるが、見ている場合ではない。

テンシ「クミジィィィィィィ!」

水瀬「余所見してんなよ!」

 空を飛んだデイ達に狙いを定めたテンシの足を水瀬が殴り飛ばし、体勢が崩れる。

水瀬「我の目の前に気持ち悪い姿現して、ただで済むと思うなよ」

黄泉永「気持ち悪くなくても、邪魔をした以上ただでは済まさんが」

 三本の腕で起き上がりながら此方を、目が無いので分からないが恐らく恨みがましく見ている事だろう。さて、久々に体を動かす事になるか…。

第4話 終わり

狐娘「こんな時に言うのも何ですが、空を飛ぶってこんな感じなんですね…」ブラブラ

デイ「め、滅多に見れませんよこの光景……」バサバサ

男「確かに綺麗な夜景ですけど…だ、大丈夫ですか…?」

デイ「全然…キツい…」バサバサ

男「あの…こんな時に言うのも何ですけど、リコリスって何処に…」

デイ「……あ」

狐娘「え、ちょっと」

デイ「だ、大丈夫!あれ、何となく教えられたので覚えてますよ!」

男(ふ、不安だ…)

第5話
~例え火の中(略)あの子のスカートの中~

渚「·········」

【大丈夫なの?】

陽那「多分···」

 ベッドで寝込む酔っ払いの顔色をすぐ傍で窺う陽那ちゃんと幽霊少女。酔ってるので彼女の顔は勿論真っ赤。

【何も酔うまで呑まなくても】

陽那「···好きなのに弱いみたい」

【難儀だね···】

 二人して仲良くお話しておりますが、彼女が見たら写真でも撮っている事でしょう。

渚「うぬ~···頭痛い···体も痛い···」

【あ、起きた】

渚「そりゃ起きるよ人間だもの···」

 頭を押さえながら体を起こす彼女。日頃こんな感じで起きてるので最近慣れてきたそうで。

陽那「······平気?」

渚「平気って言いたいけど···無理」

 例え幼女の心配する言葉でも二日酔いには勝てない。だって喋る度に頭が痛くなるから。

【酔うまで呑んだら早死しちゃう】

渚「死にゃあしないって···ちょっとしか···呑まないし···」

【量の問題じゃないからね】

渚「うっ···でも、でも···酒と煙草だけは、堪忍して···」

 何を拘ってるのか、その二つだけは絶対に奪わせないと言って聞かない彼女。でも、二人が理由を聞いても答えません。可愛い物の言う事でも聞けない事があるようです。

陽那「健康、大事···だよ?」

渚「精進、します···」

 小さな子どもに頭の上がらない彼女。大人としては非常に情けない光景ですね。

ピンポーン

渚「はいはい、どちらさ···痛た」

【ふふ···私が出るね】

渚「ドッキリ仕掛けに行かないでお化け屋敷じゃ無いから」

陽那「塵屋敷···(・Δ・)」ボソッ

渚「その通りです···」

 正直お化け屋敷より恐ろしい家であるのは間違いないです。

渚「うぅ···はい···」ガチャ

デイ「たのもー!」

男「ちょっとそれ違います」

狐娘「あ、あの···」

渚(···今酔ってる場合じゃねぇ!可愛い!)

 扉を開けた先に現れしは、彼女より年下そうな美しい青緑の髪と服装の女性ともこもこの服を来た金髪の少女、後イケメン一人。

渚「(落ち着け落ち着け二日酔いだし)···何用で?」

男「助けて欲しいんです!」

渚「(帰れイケメン幾ら格好良くてもアタシは惹かれない)へぇ?」

デイ「裏探偵さんがピンチなんですよ!」

渚「···黄泉永が?水瀬ちゃんは?」

狐娘「黄泉永さんと一緒に···」

渚「じゃあ平気だ。心配するだけ無駄無駄」

 必死に助けを求める三人を見て、呆れる彼女。そんな事で助けを呼ぶなと言いたげです。

男「いやでも···!」

渚「アンタ達が黄泉永の何で何を知ってるかはどうでもいいけど···死ぬ様なタマじゃないって」

デイ「でっかいテンシが――!」

渚「助けを呼べなんて言ってないんでしょ?じゃあ気にしない気にしない···あ痛た(···天使)」

 もう良い?と頭を押さえながら不機嫌そうに三人に尋ねる。よっぽど彼の話が嫌いな様子。

渚「ま~立ち話も何だし···下で話そうよ。二人共おいで~」チョイチョイ

 彼女が家の中に向かって手招きすると、三人の目の前には金の頭髪と瞳を持つ幼い少女、そして銀の瞳と同色の長髪を棚引かせる足の透けた浮遊する少女が。

狐娘「···浮いてます。浮いてますよ男さん」

男「そうだね浮いてるなぁ。うん」

デイ「ほうほう、これが幽霊。···幽霊?はわっ!?」

 驚く青緑の女性に向かって気にしない気にしないと語る彼女。自分もこれ以上に驚いていたのはもう忘れた様です。

渚「良い子だから大丈夫だって···痛っつ」

 結局彼女は彼の助けへ向かわず、マイペースで突き進んでいます。どうやら一分も彼の心配をしていない模様。知り合いなのに···。

マスター「おや、今日は何度も来ますね」

渚「迷惑?」

 その問い掛けにマスターは淡く微笑んで、いえ、と一言。

狐娘「お、男さん…雰囲気が大人っぽいですよぅ…」ボソボソ

男「参ったなぁ…俺お酒飲んだ事無いのに…」ヒソヒソ

 この二人組はバーの雰囲気に飲まれそうになっております。

デイ「あの~…本当に裏探偵さんは…」

マスター「黄泉永さんが、どうか致しましたか?」

 彼女と違ってマスターは話を聞いてくれる様です。優しいね。青緑の女性は事情を説明しますが、マスターも──。

マスター「ああ、二人なら平気でしょう」

 とニッコリ笑って、全く心配していない様子。心配出来ない程二人はお強いのですよ、と説明してくれましたけど。

渚「だから大丈夫だって。気に食わないけど滅茶苦茶強いし」

 三人共不安にはなりましたが、ここまで心配されないと本当に大丈夫な気がして、深く追求するのを止めました。

渚「それよりさぁ…名前は?」

男「あぁ、すみません。俺は男で、こっちは狐娘」

狐娘「狐娘です」

デイ「デイって言いますよ」

渚(男と狐娘?…名前の無い街とかの出身?まぁ良いや狐娘ちゃんモフモフしたい)

 彼女ですが、どうやらデイの事はそこまで興味を示して無い様子。理由は単純に少女以下の年齢じゃないから。

渚「こっちのちっちゃい方がヒナちゃん」

陽那「………(_ _)」ペコリ

渚「んで、こっちは…」

夜那【ふふ、夜那です】

渚「あ、そんな名前だったんだ?よろしくヨナちゃん」

デイ(ヒナとヨナ?名前…似てるような…)

デイ「……にしてもお二人、驚きませんね」

男「慣れたんで」

狐娘「今の私にもし怖い物があるとすれば、空腹です」グゥ

男「……ドーナツあれだけ食べたのに」

 空腹だと聞いてニヤリと笑う彼女。

渚「狐娘ちゃん、今何食べたい?お金は気にしなくて良いから」

狐娘「へ?……」チラッ

男(…何で俺を見るんだ。どういう意味なんだそれは)

狐娘「…稲荷寿司、でしょうか」

渚「マスター、アタシに水、この子に稲荷寿司」

マスター「分かりました」

男「稲荷寿司あるんですか!?」

マスター「ありますよ」

デイ「不思議なバーですね…メモメモ」カキカキ

渚「何でかね、マスター何でも揃えちゃうから」

狐娘「それってもう何でも屋では…?」

陽那「言っちゃ駄目。しー」

狐娘「は、はい…」キュン

 陽那ちゃんの、口に立てた人差し指を当てた姿に思わず狐娘ちゃんもキュンときた様で。

マスター「お陰で店の売上は好調ですが、お酒の売れ行きは芳しくないんですよ…」

デイ「それは本末転倒と言うのでは?…因みにキウイフルーツあります?」

マスター「ありますよ」

デイ「そうですか!」

男「逆に何が無いんですか」

マスター「食べ物以外はありませんよ、流石に」

夜那【食べ物だけでも揃えてるって面白いね】

陽那「うん」

渚「んぐ、んぐ…ふぅ、いや~酔いが覚めやすいって良いね」

夜那【呑んで良い訳じゃないよ?】

マスター「もう呑ませませんよ渚さん」

渚「今日はもう呑まないって…胃に来るから」

 若いのにおっさんみたいな事言う女性ってどう思います?私は将来が心配になります。

狐娘「……」ムグムグ

男「どう?狐娘」

狐娘「………凄く美味しいですけど、やっぱり男さんのが良いです」

マスター「おや…成程、愛情には負けますか」

狐娘「はい!…って、わ、分かるんですか…?///」

マスター「見てれば分かりますよ。ねぇ渚さん」

渚「……そうだね(そういう仲だと流石に手が出せない…!)」

 そこら辺の節度だけは守る彼女。他も守れと言いたい。

どうでもいいけど>>123でテンシがニンジャって叫びながら現れた様に見えてクスリときた

>>136
\(・ω・\)ニンジャ!(/・ω・)/ナンデ!

渚(くっ、しかしあの子、凄くモフモフしがいが···!はっ···モフモフ、と言えば)

渚「そう言えばマスター、狼みたいな耳と尻尾着けた女の子知らない?」

マスター「狼?···噂は知っていますが···」

夜那【私の方が知ってるよ】

男(狼の耳と尻尾···?狐娘みたいな子なのか?)

狐娘(女の子···まさか、占いの···!?)

デイ「噂話と聞けば情報屋を名乗っている身分で黙ってはいられませんね」ワクワク

渚(!?この子···可愛い···!見た目からしてアタシと近いのに···!···はっ!)

 (そうだ···思い出せ···ア○マスを···!○ずささんもこ○みさんも二五歳児さんも可愛いでしょうが!)

 (アタシとした事が年だけで判断するなんて···淑女失格!)

 最初から失格してると言いたいし、凄くどうでも良い事を考えられる彼女は逆の意味で素晴らしいです。

マスター「どうやら最近狼の遠吠えと共に狼女ともいうべき姿が現れる、と」

夜那【夜な夜な満月の夜に一人悲しく泣いてるの···どう思う?】

渚「どうって···ギャグ?」

夜那【···?······。······!ち、違うからね!///】ペチペチ

渚「あ痛た、痛い痛い」

 頭をペシペシ叩かれて喜んでいる彼女の姿を微笑ましいと思うか変態だと思うかは貴方次第です。

マスター「またタダ働きでも?」

渚「可愛い物の為ならば!薄利多売でも関係無し!」

陽那「···何も売ってないのに」

渚「気にしちゃいけない」

狐娘「···もし報酬を払ったら、一つだけ言う事を聞いてくれますか?」

男「狐娘?」

渚「···良いよ。但し!報酬次第だけどね」

狐娘「私をモフモフして良いです」

渚「おっしゃ乗ったああああああああ!出来る事なら何でも聞いてやんよぉ!」

男(ちょ、ちょっと狐娘。良いのかそんな約束して!)ボソボソ

狐娘(だって、読むつもりも無いのにあの人の心が読めるんですよ…)ヒソヒソ

男(何て思ってたんだ)ボッソリ

狐娘(ずっと、モフモフしたい、モフモフモフモフ、って…思いが強過ぎて聞こえてくるんですよぅ…)ヒッソリ

男(…飢えてるのかな、癒しに)ボソッ

狐娘(…ですね)ヒソッ

渚「んで、なに」

渚「んで、何?言う事って」

狐娘「黄泉永さんを助け──」

渚「却下」

狐娘「ど、どうしてですか」

 心配そうな顔の狐娘ちゃんを見て、ばつの悪そうな顔で彼女は答えます。

渚「いやだってさ、もう倒してるって、天使?うん」

デイ「裏探偵さんそんな強いんですか」

渚「あの二人は強いって。心配するだけ損だ、ってアタシに思わせた位だし」

男(この人…薄情なんじゃなくて、凄く信頼してるって感じなのかな…)

 彼女と彼の二人の関係は男くんには分かりませんが、長い付き合いなのだろうという事は分かりました。

渚「という訳で、別のオーライ」

狐娘「え?えぇっと…あっ、私達も手伝って良いですか!」

デイ「私達?私も入ってます?」

 その問いに狐娘ちゃんは頷く事無く、満面の笑みで答えました。

夜那【という訳で】

デイ「狼女の捜索ですよ」

陽那「……おー(・_・)/」

渚「うおおおおお!モフモフがアタシを待ってるぅぅぅぅぅ!」

男(気合いが違う…)

狐娘(逃げちゃいそうです…)

夜那【ふふ、逃げちゃうよ?】

渚「大丈夫…今の私は真剣仕事モードだから」キッ

 出来るのなら普段から真剣でいてほしいけどきっと無理。一生。

渚「さぁ?て、早く飼ってゲフンゲフン保護してモフモフしてやる…」

夜那【本音出てるよ】

陽那「……( ・_・)σ 」チョイチョイ

男「…ん?何?」

 ズボンをつつく陽那ちゃんに、しゃがんで目の高さを合わせる男くん。気遣いが出来る良い子。

陽那「……なぎさに見つけさせないで」

男「え」

陽那「……多分逃げちゃうから、男、捕まえて」

男「あぁ…、ん、分かったよ」

 完全に信用されてないっていうかマイナス方面で信頼されてる彼女。やることなすこと裏目に出過ぎ。

狐娘「むむ、男さん。駄目ですよ小さな女の子を誘惑しては」

男「してないから」

デイ「狐娘ちゃんも小さな女の子だから、充分誘惑してますよ」

狐娘「これでも大人なんです!いっ、色々、小さいですけど!」

 確かに狐娘ちゃんは背が低め。見た目中学生ですから。でも妖怪なので年は凄い上。そして一部の人が喜びそうな程胸は平原並!

渚「…小さいからって、何?」

狐娘「え」

 さっきの話を聞いていた彼女、何かのスイッチが入った模様。

渚「そう、貧乳で何が悪い!」

 そう、無い胸を張って高らかに叫ぶ。近所迷惑です。

渚「ある言葉、聞いた事ある?…貧乳はステータスだ、希少価値だ、って」

狐娘「…!そんな、言葉が…!」

男(…気にしてたんだ)

 不思議な友情みたいな物が彼女と狐娘ちゃんで結ばれる中、男くんは可哀想な目線で、他の面々は白い目で見ていました。

~~~~

渚(…まずは遠吠えが聞こえなきゃ何処にいるか分かんないし、まずは高い場所で…っと)

 何とかと煙は高い所が好き、という言葉が出てくる勢いで、高いビルの上を登る彼女。しかし、先客がいます。

デイ「おや、貴女も高い場所に…ってどうやって?」

渚「アタシにはそういう装置あるんで。そっちこそ、どうやってここに」

デイ「それはもう頑張って」

夜那【私はふわふわ~って】

渚「うわっと!後ろから急に来るの止めてビビるから」

夜那【ふふ、は~い】

 高い所好きの面々がビル街の上を行き渡っているのに対して、残った面々は──。

陽那「………居ない(・_・ )………居ない( ・_・)」キョロキョロ

狐娘「ヒナちゃん、一緒に頑張りましょうね」

陽那「うん……(・∇・)」ニパ

狐娘(あぁ、癒されます……)

男「仲良くなれて良かったね、狐娘」

狐娘「………はっ。これは、浮気では無いですから!」

男「いや別に嫉妬してないから」

狐娘「ちょっとは嫉妬して下さいよぅ」

男「えぇ…?」

陽那「………仲良いね」

狐娘「男さんとは見えない糸で深く結び付いていますから!」

陽那「良いな…」

狐娘「ヒナちゃんにもきっと見つかりますよ。大事に思ってくれる人が」

陽那「………うん!」

男「でも狐娘、どうして一緒に探そうだなんて」

狐娘「同じ獣耳と尻尾を生やす者同士、仲良くしたいではないですか」

狐娘(本当は男さんに忍び寄る魔の手であるかを確認したい、なんて言っても心配し過ぎと言われるでしょう···)

狐娘(ですが油断出来ません!男さんは格好良いですからね!···えへへ)ニヘラ

男(何で笑ってるんだろう···?)

陽那「···耳と尻尾···?」ジッ

狐娘「あっと、今は隠していますが、私には狐の耳と尻尾があるんです」

陽那「······耳と、尻尾」

狐娘「モフモフしてますよ」

陽那「もふもふ」

男(微笑ましいなぁ)モニュ

男「···もにゅ?」

狼少女「クォン♪」ムギュー

男「···はい?何で?」

狐娘「!!!!!」

陽那「······居た」

男「一体何時の間に近付いてきたんだ···」

狼少女「♪」スリスリ

狐娘「だっ、駄目です!駄~目~で~す~!頬擦りなんて、頬擦りなんて~!」

狼少女「!ヴルルルル···!」ギロッ

狐娘「う···こ、怖くなんてありません!」ブルッ

陽那「······頑張れお姉ちゃん」ブルブル

狐娘「頑張ります!」

男「あぁもう、そんなに睨んじゃ駄目だよ」ナデリ

狼少女「くふぅん···」バフバフ

陽那(尻尾動いてばふばふ鳴ってる···)

狐娘「頑張りますって言ったのに···」

男「この子が探してた子なのかな」

狐娘「そうだと思いますよ。狼の耳と尻尾が生えてますし」

狼少女「?」

「違うわ」リィン

陽那「!鈴の音···(・o・)」

男「え、まだ来るのか···?」

鈴音「その子は噂の子じゃ無い。その子は少し幼い···」

狐娘「ね、猫耳に···尻尾が二つも!と言うか、寒くないんですかその格好!」

鈴音「···寒くない」ブルブルブルブル

男「凄い震えてるけど···あ、ごめんね」スッ

狼少女「ヴォフ!」バッ

男「ほら、俺の上着。着ときなよ。て言うか着てくれ」

鈴音「え、あ、わ······あ、あり、がと···」

狐娘(うぅ···他の子にあんなに優しく接するなんて、嫉妬しちゃいそうですが···惚れ直します···///)

男「俺は男、こっちは狐娘、あっちはヒナちゃん。君は?」

鈴音「···鈴音って、ついこないだ名付けられたわ。スケベな黒い女性に」

男「(渚さんかな···)良い名前だね」

鈴音「私もそう思う」

ソォ ガシィ!

狼少女「!?」ジタバタ

渚「おっしゃつっかま~えた!」

狐娘「渚さん!?」

渚「ふっふっふ、潜入は得意でね···」ムニムニ

狼少女「ガルルルル、ガルルルルァ!」ジタバタジタバタ

渚「···何この子の肌···決め細やかで、スベスベで、温かくって···」

 『やわらかあああああああああああああい!』

狐娘「で、何か言う事は···?」

渚「······無い、です」

狐娘「何か言って下さいよ。逃げちゃったじゃないですか、あの子」

渚「はい」

狐娘「しかも、男さん連れて行っちゃったじゃないですかぁ!」グスッ

渚「本当に申し訳ございません」

 狐娘ちゃんに土下座をかます彼女の何と情けない事か。普通に保護出来てたのに余計な事するから。

夜那【今度は男を捜索?】

デイ「探し物が多い日です」

狐娘「絶対、絶対見付けます!見付けますからぁ!」エグエグ

陽那「···よしよし」サスサス

鈴音「···あの」

狐娘「何ですか···?鈴音···?さん」ヒグッ

鈴音「携帯電話、持ってないの?」

狐娘「·········あ」

 と言う訳で狐娘ちゃん、どうやら最近買って貰ったらしい子供携帯(普通のじゃないのは機械音痴気味だから)を取り出して慌てて電話。

男『···狐娘?』

狐娘「男さぁぁぁぁん!無事ですか、無事ですかぁ!」グスグス

男『普通に平気だから、そう泣かないで』

狐娘「はいぃ···良かったです···」ズビッ

男『まぁ···たださ、早く来ては欲しいかな。今ちょっと大変な目に』

狐娘「場所は!?」

男『う~ん···神社なのは分かるけど』

狐娘「何処かの神社ですね分かりましたすぐ行きます!」

 物凄い早口で喋って今すぐにでも駆け出す勢いの狐娘ちゃん。そんなに急いでも神社の場所が分からないままじゃあ···。

渚「ここらで神社って言ったら···」

デイ「此処は···出雲でしたね。では出雲大社ですか?」

 説明するのを忘れてましたが、此処は出雲の国です。皆さんが知ってる出雲とは、位置と出雲大社がある以外は違いますが。

渚「そんな有名所だったらすぐ分かるって···ん~」

狐娘「早く思い出して下さい!」

渚「この辺りちっちゃい神社も含めたら結構あるんだってば」

夜那【神仏、幽霊で一杯なのが出雲だからね】

狐娘「そんなぁ···」

 落ち込む狐娘ちゃんの傍に、鈴音ちゃんが近寄って優しく話し掛けます。

鈴音「こっちに居る···と思う」

狐娘「···え、分かるんですか!···でも思う、って」

鈴音「犬とか狼に比べたら不正確だから···でも、こっち」

 鈴音ちゃんは男くんに渡された上着の匂いを嗅いで、犬の様に探し当てるつもりの様です。それを見た狐娘ちゃんは自分は何時でも嗅げるのに、羨ましいとか思ってたり。

狐娘「うぅ···道の無い道の奥まで進んでますが···本当にここに···?」

鈴音「し···声が聞こえる···こっち」

 はてさて、鈴音ちゃんの力で何とか、確かに神社の場所を探し当てたのですが···。

「はっ、またお客様が!」

「わわっ、お礼、お礼!」

「その前に挨拶が先~!」

 ピコピコ ブンブン

狐娘「···これは」

夜那【獣耳一杯···】

陽那「わぁ···もふもふ···」

渚「···っ!······っ!!」

デイ「渚さんが興奮し過ぎて大変に!」

鈴音(掠れた声で此処が桃源郷って言ってる···)

 何とまぁ、辿り着いた場所は、狐娘ちゃんや鈴音ちゃんみたいに獣の耳と尻尾を生やしているちっちゃな子達が駆け回っていました。

「こんなにいっぱい人が来るなんて~!」ワタワタ

「さっきの人のお仲間かな?」キョロキョロ

「主様にご報告~!」バタバタ

狐娘「ここは···モフモフ天国です···!」

鈴音「賑やか、ね」

 境内狭しと走り回る何人もの獣耳少女達を見て、同じ仲間を見付けた喜びか、思わず狐娘ちゃんも興奮。鈴音ちゃんも何処か嬉しそうです。

渚「···············っは!し、死ぬかと思った···!」

夜那【まだこっちの世界は早いよ?】

デイ「大丈夫ですよ、多分もふもふさせたら甦りそうですから」
         
陽那「······にゃ~(・∀・)」ナデナデ

「ゴロゴロ···」

 端では陽那ちゃんが自分と同じ位の、猫耳の幼女と戯れております。

渚「···っ!······っ!」

 それを見た彼女がまた変な事になってるけども気にしない。終わらないから。

狐娘「はっ!男さん、男さんは何処ですか!」

「おとこさん?男の人なら主様の所~」

「主様の所はこっちですよ」

 獣耳少女達が何人も揃ってトテトテと道案内。癒される狐娘ちゃん。

陽那「······大丈夫?」

渚「······ようやく落ち着いてきた」

デイ「良いから追い掛けないと」

渚「更なるモフモフがこの奥に···おっしゃあ!」ダッ

デイ「速いですよ!」

渚「ふふふ···なんたってアタシは百メートルを五秒フラットで···」

夜那【本当に!?】キラキラ

渚「嘘ですごめんなさい本当は十秒切れるか切れないか程度です」

鈴音「それでも結構速い···」

 彼女の走力は置いといて、男くんは一体どうなっているのでしょうか。気になります。

 多数の獣耳少女達に案内された場所は、神社の奥の奥。ちょっと薄暗くてお化け出そう···もう出てた。

「ここだよ~」ピコピコ

「静かに開けて――」

狐娘「男さん!居ますか!」ガラッ

「静かに開けてって言ったのに···」シュン

 忠告を無視しちゃう程男くんに会いたい狐娘ちゃん。しかし、そこに映った光景は!

狼少女「Zzz···」ギュー

狼娘「クォ~ン···♪」ギュム

男「あ、狐娘···」ナデナデ

 男くんに眠りながらも嬉しそうに張り付いて離れない、狼の耳と尻尾を持った二人の女の子と、少し疲れた様子の男くん。

渚「はぁ···っ!モチモチ肌の子に抱き付かれてるなんて羨ましい···っ!」ギリギリ

狐娘「···男さん?ナニをしていたんですか?」ニッコリ

男「え、何で怒って···」

狐娘「怒ってませんよ?」ニコニコ

 すっごく冷たい笑顔で男くんを見ている狐娘ちゃん。端から見たら、浮気現場を目撃したみたいな修羅場の感じ。

渚「何?弾道でも上がったって?」

男「何の話ですか」

渚「いや~、な~んか一仕事終えた感じになってるもんで」

男「一仕事?······!」

 その一言で狐娘ちゃんが怒る理由が分かった男くんは必死に弁明します。端から見たら浮気の言い訳してるみたいな感じ。

狐娘「······信用出来ません」

男「そんな···」

狐娘「なので事実かどうか確かめる為に、別の部屋で服を脱いで――」

男「ちょっと待って」

狐娘「何ですか?少し愛を確かめるだけで」

男「いや本当に待って」

渚(あれ···?狐娘ちゃんって、頭にあんな狐耳と、尻尾着けてたっけ?て言うか尻尾九本もあるんだけど)

 説明しよう!狐娘ちゃんは感情がとっても高まると、一本だった尻尾が九本に増えるのだ!これを九尾の狐状態と言う!この状態になると妖力が上昇してパワーアップ!同時に我慢が効かなくなり、より欲に忠実になる!解除するには何らかの欲を満たさなければならない!

 つまり、食欲とかを満たせない場合、狐娘ちゃんの男くんラブな性格上大体性欲方面を満たすしかないという訳で···ご愁傷様です男くん。君の事は忘れません。

男「いや待ってお願いだから見てないで助けて下さい渚さん止まって服脱がそうとしないで狐娘ぇ!」

「はわわ···大人の時間です···///」

「ゴクリ···」

渚「よし、カメラカメラ···」

 誰一人として止める気が無いのかその光景をじっと見ております。止めたげて。

狼少女「···!ガウ!」

狼娘「···ヴォフ!」

 ここで姉妹にも見える二人の狼の女の子が起き上がり、二人が抱き付いてて動きが拘束されてるのを良い事に、男くんの服を脱がせていく狐娘ちゃんに向かって吠えます。が···。

狐娘『あれ?邪魔するんですか?』ニコッ

狼娘「!」ビクッ

狼少女「わふ···」フルフル

 今にもゴゴゴゴっと地響きでも聞こえてきそうな程の威圧感を漂わせる狐娘ちゃんに、本能で敗北を悟り離れる二人。私もちょっと怖い···。

男『···狐娘?』

狐娘「!はっ、はひ」ビクッ

男『駄目だろ、周りを怖がらせたりしちゃ···』

狐娘「は、はい···」ガタガタ

 そんな狐娘ちゃんより怒ると怖い男くん。でもね男くん、周りを見て下さい。

「はわわ···鬼の面を被ったみたいです···」プルプル

「般若···」ガクガク

狼少女「···わぅ」ビクビク

狼娘「ウォフ···」ガクガク

 周り一番怖がらせてるの、貴方です。

渚「これはこれで···」パシャ

 携帯のカメラで写真を撮っている、ある意味大物の彼女。何も考えてないとも言う。

~~~~

デイ「···凄い懐かれ具合ですね。境内の皆、貴方を祭り上げる勢いですよ」

男「何か妖力が高いからとかって···」

鈴音(この良い匂い···その所為なのかな)スンスン

狐娘「むむむ、男さんがこんなにモテるなんて···」

渚「······」

夜那【あれ、どうしたの?】

渚「何故っ、皆アタシじゃなあああああああああい!何で皆あのイケメンンンンンンンンンン!」

 彼女の哀しい(笑)雄叫びが天を貫く。その後にはしーんとした静けさと空しさだけ···。

夜那【格好良いから?】

陽那「······優しいから」

 間違いなく彼女が変態で、皆それを感じ取って敵だと思っているからです。ボロクソ。

渚「くぉぉぉぉぉぉ!ぐや゛じい゛!」

 気持ち悪い程の下心さえ無ければ好かれるでしょうが、彼女は多分どう足掻いても下心を隠しきれないので、実質好かれるのは暫く無理でしょう。

デイ「しかし、この狼の···そっくりなので姉妹でしょうか?」

「主様は姉妹なのです!」

 情報屋であるデイちゃんはどうやら噂の原因を探っている様です。

デイ「ほうほう、ではどうして最近外に出没してきたのか分かりますか?」

「それは···主様の主様を探していたのです。居なくなった先代様を···」

デイ「先代様···どんな方だったのですか?」

「あの男さんという人とそっくりな雰囲気です!優しくて格好良くて、本当にそっくりです···」

デイ「成程、男さんが懐かれるのはそれが理由ですか。しかし、そっくりな人にそこまで懐くのは···」

「···先代様は、寿命で亡くなってしまいました。主様はもう一度だけでも良いから会いたかったのだと思います」

デイ「···そこに、男さんが現れた訳ですか」

「私達は男さんを見た時、先代様が姿を変えて現れたのだと思いました!きっと主様も同じ事を思った筈です!」

デイ「成程、成程···ふむふむ」

デイ「···そう言えば、どうして主様姉妹は貴女達の様に言葉を話せないのでしょう」

「主様は私達と違って妖怪では無いのです」

デイ「しかし、人の姿をしている以上、妖怪か神様か、神様に人の姿へ変えられた、しか無いのでは?」

「主様はニホンオオカミという、本来絶滅した動物なのです···」

デイ「絶滅動物···私も絶滅危機の動物でしたが···。それが、一体?」

「先代様曰く、せめてと思って幼くして亡くなった自分の娘達の肉体にその魂を···と、悲しそうに言ってました···」

デイ「······本当ですか」

「はい。今の主様には人の時と動物の時の記憶が混ざっている様です。言葉を話せないのは、話し方が分からなくなっただけだと思います」

デイ「···」チラリ

 デイちゃん、複雑な心境で、男くんに抱き付く狼姉妹を眺めます。今の二人はとても幸せそうな表情です。

デイ「あの、辛い事を根掘り葉掘り聞いて申し訳ありませんでした」

「構いません!主様が幸せであるならば!」

デイ「うぅ···感動ですよ。その想い···」

「では、私は男さんに主様の様に甘えてきます!」ペコリ

 ちっちゃな獣耳少女は頭を下げると男くんの下へ一直線。しかし狐娘ちゃんに阻まれ、辿り着けていません。

渚「くぅ···まるでポ○モンみたいにゲットだぜ!って出来ると思ったのに···」

 そんな感覚だから逃げられるんじゃないか、と言いたくなります。聞こえませんけども。

夜那【欲を丸出しにしてたら皆逃げるよ?】

渚「アグレッシブに生きるって決めてるもんで」

陽那「駄目」

渚「え」

陽那「そんなの駄目(._.)」

渚「あ、はい···分かりました···」

 幼い子に説教される形無しの大人である彼女。良く今まですんなり生きて来れたのか疑問が浮かびます。

 取り敢えず神社の少女達も含めた皆で一つに固まり話し合い。

渚「さて、アタシとしては、そこの狼ちゃん見つけてモフりたかっただけなんで···」

デイ「不純ですね、理由」

渚「いや、一応街中出てきて警戒されてたってのもあるし。退治でもされたら堪ったもんじゃないしさ」

夜那【もふもふ出来ないから?】

渚「勿論!···まぁ、そしたら思わぬ収穫があった···ちょっとホントに傷付くから皆離れないで」

男「この子達、どうしましょう」

「私達はここに居たいです!」

渚「でも、このイケメンとも居たいと」

狐娘「駄目です!駄~目~で~す~!」

男「···何か最近良く言ってるけど、気にいった?」ナデナデ

狐娘「はい···あ、もっと周りに見せ付ける様に撫でてくれれば」ピコピコ

 怒られて尻尾が一本に戻った狐娘ちゃんの頭を撫でる男くんを、してほしそうに眺める獣耳の皆。ハーレムって域超えてきてない?

男「う~ん···でも、俺はここに住めないよ。狐娘と、狐娘の仲間を探さないと」

「そんなぁ···」

狼娘「クォ~ン···」

 獣耳の皆が悲しそうな声を上げる程、男くんに居て欲しい様です。そんな様子を見かねてか、狐娘ちゃんが言いました。

狐娘「男さん、此処を未来の家だと考えましょう!」

男「未来って···」

狐娘「私が···その···///···男さんの寿命を伸ばした訳ですが!死ぬまであの家に居る訳にもいかないでしょう!」

男「···ん、そうしようか」

 何と決断の早い事か。思い切りの良い人です。この答えに神社の皆が盛大に喜んでいます。

渚「あの~···何の話?」

デイ「夫婦間の話し合いですよ」

鈴音「幸せな悩みね···」

渚「···中学生並の子と夫婦、ねぇ···。もしかして何?やっぱりロリコン?」

男「ブハッ!い、いきなり何ですか。違いますから」

 私は狐娘ちゃんの年齢を知ってたから敢えて言わなかった事をいとも簡単に言ってのける!そこに痺れない憧れない!

狐娘「私は見た目と年齢違いますから。あと渚さんには言われたくないです」

渚「ブハッ!い、いきなり何?人をロリコンみたいに」

 みたいにじゃなくて間違いなくロリコンです。本人的には可愛い物好きでしかないそうですが。

夜那【違うの?】

陽那「そうだよね···?」

渚「否定したら外堀が完全に埋まってた件について」

デイ「否定しなくても埋まってたと思いますよ」

知らぬ間に一応の前日談である前作が1000になってました。ありがたや···。
思いの外長くなってしまったお話を読んでくれた方々ありがとうございます。

渚「んで!鈴音ちゃん、どうする?このまま一人寂しく帰っちゃう?」

鈴音「······」

 輪の中に入らずポツンと外れの方に立っていた鈴音ちゃんに、彼女は割と下心無しで声を掛けます。

陽那「···( ._.)σ」キュッ

鈴音「!···どうして服を掴むの」

陽那「···にゃ~(・∀・)」

鈴音「···にゃ~?」

夜那【ふふっ、陽那は猫がお気に入りみたいだね】

 どうやら陽那ちゃん猫が好きになったご様子。その様子を見て笑顔の陽那ちゃんを見て喜びと同時に、その笑顔が全然自分に向けられない悲しみが胸に込み上げ複雑な心境でもんどり打つ彼女の姿が。

鈴音「···名前を付けて貰った恩もあるから···貴女の所に行こうかな」

渚「マジっすか!うっはやっべぇテンション上がってきたけどもう落ち着いた。何でアタシ地面でもんどり打ってんの?汚なくなるのに馬鹿なの?」

 一瞬で賢者の如く我に帰る彼女。テンション上がり過ぎて一周回って普通へと辿り着いた模様。

 ピピピ ピピピ

渚「お、電話…もしもし」

『ふむ、出たか』

 彼女のボロボロ携帯に掛けてくる人物が。声の主は彼女の電話帳に番号が刻まれてる数少ない人物。

渚「何黄泉永、切っていい?」

黄泉永『デイと男君と狐娘君は?』

渚「無事だけど?」

黄泉永『なら男君に変わってくれ給え』

渚「は?男君に変われ?人に頼み事がある時は──ってちょっ」バッ

 ものの見事に男君に電話を取られる彼女。話が進みそうに無かったので全員の判断で取り上げました。

男「変わりました」

黄泉永『男君。今から私達も其方に向かう』

男「無事だったんですね…」

黄泉永『当然、とは変かな?』

 全く平気そうな彼の声に安堵する男くん。彼女が言った通り、心配無用だった様です。

男「取り敢えず、事務所近くにバイク置いてませんか?」

黄泉永『君のか。まさか乗って来いと?』

男「まぁ、その、取りに行くの…それに乗っていった方が速いですし」

黄泉永『人の物に乗るとは、些か気が引けるが…分かった』

 彼は無事を伝えると、自分の方から電話を切ってしまいました。彼女と話すのを面倒に思ったのでしょう。

渚「話終わった?」

男「すみません、電話勝手に」

渚「そう思うんなら止めろっての。…まあそれはともかくとして…」

 彼女の目線が狐娘ちゃんを捉えます。

狐娘「分かってますよ、約束ですから」

渚「ふっふっふっ…そりゃど?も」

 怪しく笑う姿、完全に幼気な少女に毒牙に掛けようとしている様にしか見えません。

狐娘「…今回だけですよ」ボフン

 そう言うと狐娘ちゃん、何と図鑑とかで良く見掛けるお馴染みの黄色い普通の狐の姿に。

狐「さぁどうぞ」

 狐娘ちゃんは狐の姿のままで言葉を発しながら、律儀にその場でお座りしています。様になっていて美しささえ感じます。

渚「……は?」

狐「どうしました?」

渚「いや待って?手品か何か?」

狐「手品ではなく本物です」

渚「いやいやまっさかぁ。妖怪変化とでも言うつもり?お化けならともかく」

夜那【お化け居るなら妖怪も神様も居ると思わない?】

渚「……………本当に妖怪?コスプレじゃなく?」

 どうやら本当に気付いて無かった様で、その後皆の説明で漸く妖怪が居る事を認知した彼女。ただ、説明した後彼女は「可愛けりゃ万事OK」と言いましたが。

渚「んでは失礼して…」モフモフ

狐「んっ…」

渚「………!」モフモフモフモフ

狐「…くすぐったいです」

渚「いや、だってさ…こんな頬擦りしたくなる肌触りの良い毛触った事無いんだよ?」

狐「頬擦り、駄目です」

渚「しないって…ああ、暖かい…」モフモフ

 普段の言動からは余り考えられない程、思いの外優しく狐娘ちゃんの体を撫でる辺り、彼女は全く遠慮しない人間ではないのが分かります。

渚「…あのイケメンにいっつも洗ってもらってんの?」ボソッ

狐「え、あ…はい…///」

渚「羨ましい…じゃなくて、よっぽど大切に洗ってもらってんだなぁ…ってふわふわ毛皮から分かるよ」

 意外な特技を見せる、発言に関しては遠慮しない彼女。そんな所から男くんと狐娘ちゃんの絆の深さを知る事になったのでした。

渚「ふへぇ…堪能した…」

狐「汚されました」

渚「淡々とそんな事言うの止めて」

男「はいはい、おいで狐娘」

狐娘「はい!」ボフン

 元の姿に戻った途端に男くんの下へ飛び付く狐娘ちゃん。

デイ(人と妖怪…愛に種族は関係無いとはよく言ったものです。うんうん)

 その様子を見て感心しているデイちゃん。そして自分にもあんな相手は出来るのかと、少し考えていました。

~~~~

狐娘「ふぅ···大変でしたね」

男「全然離してくれなかったから···疲れた」

狐娘「狼姉妹、胸大きかったですよね」

男「え、急に何?」

狐娘「いえ、柔らかかったですか、と」

男「···もちもちふにふにだった」

狐娘「···私は!?」

男「もふもふふわふわ」モフモフ

狐娘「なら良いです」ピコピコ

男「にしても、あれだけ居ても狐、居なかったなぁ···」

狐娘「···そうですね」

男「始まったばかりだからさ。少しずつ、頑張ろう」

狐娘「···はい!」

渚「ぬわーーーーーーー!!あの狼ちゃん抱き締めたかった!」ジタバタ

 子供みたいに自分の家のベッドの上で暴れまわる彼女。確かに何時までも触りたくなる様なもちもち肌でした。

鈴音「何時もあの感じ?」

陽那「···うん(-_-)」

夜那【すぐ落ち着くけどね】

鈴音「···変わってる人」

夜那【ふふ、そうだね】



 今日は特に大きな事件も無く、平和な時間が過ぎていきました···。

 ただ、それも束の間。もうそろそろ全てがゆっくり動きだす···。個人的に凄く応援してるけど、彼女は頑張れるかしらね···♪

第5話 終わり

 さてさて、物語はここからが本番。モフモフ言ってる暇があるかどうか···。

 今はまだこれは“彼女”の物語。これからも“彼女”なのか、違うのか···。

 まぁ、私は手を出せないんですが。残念!見てる事しか出来ません。待つだけの身は辛い···。

第6話
~何でも屋~

 都会には大概高級住宅街ってのがあってさ···。常識?まぁ置いといて、そっから金を盗めって話があったりする訳。

 何でも屋であるアタシとしては、金が手に入るなら、文字通り仕事は何でもいい···あ、殺人とかは無しね。アタシがする犯罪は暴行罪と窃盗罪と住居侵入って決めてるから。

 あ?何でも屋じゃない?うるさいじゃあ逆にアンタ何でも出来んのかって話。そんな奴絶対居ないから。

 あ~、話が逸れてきた···。そうそう盗みの話。今回アタシに人から金せびり取って金持ちになったクソが居るからせびり取って元に戻してくれってさ。

 嫌いじゃないんだよ、そう言う依頼の仕方する奴。勿論アタシは受けたよ。で、今その家に居てさ。

「がへぇ!」

 その金持ちの顔を足の裏で壁に押し付けてるとこ。

「くぁ、くぁねくぁ···!」

渚「そうそう、全財産とは言わないからさ。金庫とかにだ~いじに閉まった徴収金をちょっとね」

「どぁ、どぁれぐぁ!」

渚「言いたくなかったら言わなくて良いけど、体に幾つも穴が空く事になるかもね···」

 左腕の起動装置のアンカーナイフを首下に当ててやったら、金持ちは素直に案内をしてくれたよ。これも人望がなせる技だね。

~~~~

 アタシには好きな物が幾つかある。一つは酒、一つは煙草、一つは可愛い物、最後に可愛い···じゃない、リコリスって言う、街の外れの方にあるバー。

 このリコリスには懐と器の深~いマスターが居て、アタシはまあ、許しを得てここで何でも屋を営業してるんだけども。

 バーの奥には何かマスターの配慮で防音もバッチリな締め切った、テーブルと椅子4つだけの個室が一つあって、仕事の話は何時もそこでさせてもらってる。

渚「ほら、約束の札束」ドサッ

「おぉ···すげぇ···」

 アタシに依頼してきた男は、テーブルに積まれた札束眺めて感嘆の息を吐いてる。アタシは見慣れてるけど、一般人には縁の無い景色だから、当然っちゃ当然の反応かな。

「約束通り、三分の一はあんたの物だ···だが、本当にそれだけで···」

渚「別に良いんだよ。そんな事言うと気が変わって半額持ってくかもよ。分かったら帰んなって」

 わざわざアタシが気を使ってやると、男は礼を言いながらそそくさ帰ってった。アタシはテーブルに置かれた残りの金を、元々金を入れてた袋に適当に突っ込んで、個室から出る。

マスター「今日もお仕事お疲れ様です」

 個室から出ると、もう既にマスターが労いの言葉と一緒に、アタシの呑みたい酒をカウンターに用意してくれてた。

渚「ありがと」

 マスターの心遣いに感謝しながら、カウンター席に座って酒を一口。うん、旨い。仕事終わりの酒は染みるね···。

マスター「あぁ、あの子達が心配するので、その一杯だけですよ」

渚「え~···」

 マスターに咎められ、これ以上酒が呑めないと分かったので、今呑んでる酒をじっくりと味わいながら呑む事にした。

 あの子達?それはこのバーの、外にある階段に登って行ける二階···マスターに借りてるアタシの住居なんだけど、そこで同居してる子達の事。

 これがまた皆可愛くてなんのって。よし、帰ったら癒されよう···。

渚「ただいま~」

 二階のドアを開けてみれば、そこには天使達が…ってあれ?

渚「居ない…」

 部屋の中には人っ子一人居なくて、あるのは床を埋め尽くす衣類とかだけ。まあこれはアタシが片付けて無いからだけど。

渚(あっちかな?)

 一旦外に出て、バーの裏手の方に行く。そこには神社があるんだけど…。

 ちょっと前にその神社で色々あったんだけど、ホントはここに無くて、もっと離れてたんだよ。

 ただ、何かその時不思議な事が起こったとしか言えない事がね。まあ、神社移動したってだけなんだけど、うん。…アタシもまだよく分かってない。

 神社に行くと、境内に猫耳とか犬耳生やした可愛い子達がわらわらと。その中心に居たのは…。

陽那「……あう(-_-;)」

渚「ヒナちゃん?」

 ヒナちゃんって言うのはムカつく野郎から珍しく依頼された時に飼うゲフンゲフン、じゃなくて、保護した子。

 名前を呼んであげると、獣耳の子達の群れを抜けて、こっちに近付いて来てくれた。何だろう、ジーンとくる。

陽那「……(・_・)」

 ご覧の通り口数が少なくて、あんまり話し掛けてこない…けど、その分顔に出やすい子。本人は隠してるみたいだけど。あと結構素直。

渚「何してたの?他の皆は?」

陽那「……あっち」

 ヒナちゃんが指を差した方向には、普通に神社が。中に居ると。て事はイケメン野郎と一緒に、か。なんでアタシじゃ…。

 神社はボロい割に中は綺麗な方で、しかも広い。数十人は居る獣耳少女達が寝られる程みたいだし。

 その中をヒナちゃんと一緒に歩いて他の子を探してると…。

渚「お~い」

夜那【はーい】

渚「おぉふ!?」

 恐怖で急いで背後を振り返れば、そこに居たのは幽霊美少女ヨナちゃん。アタシがお化け嫌いなのを知ってかこうして脅かしてからかってくる。

渚「心臓に悪いから止めて…」

夜那【ふふ、どうしようかな?】

渚「ホント止めて」

 止めろと言っても多分続けると思うけど。悪戯楽しんでる節あるし。

渚「何で一人だけ?」

夜那【陽那に合流しようかなって】

陽那「……(-_-#)」

夜那【あれ…何で怒ってるの?】

 獣耳少女達の群れに一人置いてけぼりにしたからだろうけど、ヨナちゃんは分かってて言ってるのか違うか、とにかく妖しく微笑んでいる。

渚「んで?鈴音ちゃんはいずこへ?」

 鈴音ちゃんってのは尻尾二本生やした猫耳の女の子。最近まで下着無しでボロい布だけ纏って外で浮浪してた、一歩間違えたらそれ何てエロゲ的な事になりそうだった子。今はアタシが下着含めて服着せてるから、乱暴する気でしょう!?みたいな事は起きない···筈!

夜那【ふふ、狼姉妹と仲良く遊んでると思うよ?】

渚「ほ~···何時の間に仲良く···」

 ヨナちゃんが言った狼姉妹は、まともに会ったって言えるのが昨日な、狼の耳と尻尾を生やした歳のほぼ離れてない姉妹。姉は狼娘、妹は狼少女って便宜的に呼ばれてる。姉はタンクトップとショートパンツ、妹はワンピース着てるもち肌の子。妹がもち肌なら、姉もきっと···!

渚「んじゃま、取り敢えず鈴音ちゃん探しだ」

夜那【ふふ、広いから、何処に居るか分からないね】

陽那「頑張る···(`・_・´)」

 ヒナちゃんのやる気だした表情で、アタシのやる気も上げ上げ(死語)になった所で、頑張りましょうか!···逆に言うと、頑張らなきゃなんない位、広いんだよ···。

渚「お~い鈴音ちゃん、何処~?」

 こうやって呼びながら探してるんだけど、全然見付かんない。迷路みたいに複雑な構造じゃあ無いのに。

狼少女「………」フリフリ

 と、あんな所に待ち遠しそうに尻尾を振りまくる狼少女ちゃんが。…ワンピース着てるから合ってるはず。二人揃わないとお互いそっくりだから分かりにくいんだよね。

渚「どしたの~?…そんな牙向けなくても」

 何でかこの子達にはスゴく警戒されてて泣きそう。アタシ、そんな悪い事…あ、この子の肌揉みしだいたわ。

渚「しない、もうしないから」

狼少女「グゥゥゥ……」

 めっちや警戒されてるよ。全然信頼されてないよ。睨まれちゃってるよ。

渚「鈴音ちゃん探しに来ただけだから」

狼少女「………」スタスタ

 説明してあげると、一応案内してくれるのか何処かに向かって歩いていく。但し背中からは敵意が…何もすんなって訳ですか。

狼娘「クフ………」スヤ

鈴音「んん………」クゥ

渚「………おやぁ?」

 そのまま後を付いて行くと、部屋で固まって寝てる狼娘ちゃんと鈴音ちゃんが。思わず悪戯したくなるけど殺気が怖いのでしません。

渚「ん~…寝かしとこ。狼少女ちゃんも一緒に寝といたら?」

 優しく言うと何もするなと言いたげに短く吠えて、二人にくっつく様にして眠り込んだ。変な事したら咬まれそうだからしない。

渚「で、これを伝える為にヒナちゃんとヨナちゃん探さないと…はぁ~…めんど」

 迷路みたいに複雑では無いけど広いからホント大変。…ついでに狐娘ちゃん探そ。

 狐娘ちゃんって言うのは…ああ、境内の皆と鈴音ちゃんもだけど、実は妖怪らしいそうで。狐娘ちゃんはモフモフ可愛い子。アタシと同じく胸の無い子。そして狼姉妹は胸のある子。

 そんな狐娘ちゃんがゾッコンなのが優男な男とかいうイケメン野郎。コイツしかも境内の全員、狼姉妹、ヒナちゃんヨナちゃん鈴音ちゃん、皆に好かれて…悔しいぃぃ…!

渚「…ん?」

デイ「おや、渚さん」

 忘れてた、この綺麗な女性を。青緑の美しい服を着たデイっていう人。情報屋らしいけど?

渚「何してんの?」

デイ「いやはや、私には刺激が強い光景を目撃しそうだった物で」

渚「刺激?」

デイ「今は時間が経ってますから、大丈夫だと思いますよ」

 何の事かよく分かんないけど男と狐娘ちゃんの事なのはよ~く分かった。…見に行こうかな。

 男って奴と狐娘ちゃんは泊まる所が無いからって一番奥の部屋に。因みに一番奥を所望したのは狐娘ちゃん。理由?恥ずかしそうにしてた、って言ったら大体分かるでしょ?

渚「お邪魔しま~す…」

 そろりそろりと鍛え上げた無音歩行でお部屋に侵入したアタシの目の前には…。

男「…………」

狐「んむ…んん…」ブンブン

渚「…何だこれ」

 汗たっぷり流して寝てる…と言うか気絶してる様な…感じの男と、狐の姿になって男の服の裾に頭を突っ込んだ状態で、尻尾振って寝てる狐娘ちゃん。…こりゃ忙しかったんだろね。

 さて、こんな状況でアタシがする行動とは!?

陽那「…………何してるの(=_=)」

 しばらくすると、ヒナちゃんが探しに来てくれてたみたいで、呆れた顔でこっちを見つめてる。何してるかって言われたら…。

渚「癒されてる…ああっ、モフモフしてる」バフバフ

 ブンブン尻尾振る狐娘ちゃんの、尻尾の下に頭を置いて、往復運動による尻尾の叩き付けによってモフモフ具合を今味わってます。変態?天才と言ってほしいね!

陽那「…………(=_=;)」

 ヒナちゃんが呆れを超えて本気で心配してきてる表情なので、そろそろ起きる事に──。

狐「…………」ブォン

 バチィン!

渚「痛ったぁぁあ!鼻、鼻がぁ!」

狐娘「………何してるんですか」ボフン

 アタシが鼻を尻尾で叩き付けられて苦悶の表情を浮かべてる中、元の姿…いや逆かもだけど人の姿になった狐娘ちゃんのジト目が突き刺さる。そんな姿も可愛いけど鼻痛い…。

渚「痛ったた···何してる?そっちこそ何してた訳?」

狐娘「なっ、何も、別に···///」

 少なくとも頬を赤らめる時点で恥ずかしい内容だっていうのはす~ぐ分かった。

渚「ホントかな~?なら汗だくでぶっ倒れてる後ろの方には、一体何があったのかな~?」

狐娘「つ、疲れただけですよ、きっと」フイ

 詳しく聞こうとすれば、目を逸らされた。この子も分かりやすい子だね~。素直で嘘吐けないって良い子だよ、うん。

渚「へぇ~?一体、何十回と激しい運動を···」

狐娘「そんなにしてません!///」

渚「あっ、何回はしてるんだぁ?」

狐娘「あっ······///」

渚「ほー···お若い事でー」ニヤニヤ

狐娘「······っ!///」

 ちょっとからかいついでに上手く話を引き出したら、狐娘ちゃんは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っちゃった。やり過ぎ感が否めないけどまあ良いや!

男「······うっ···うぐぅ···ううん」

 話をしてるとやっと男が起きる···でも眠ってた人間が起きる声にしてはやたら苦しそうなんだけど。

男「あ···どうも···」

 全然元気が無いんですが。覇気とか一切感じられないよ。一体どれだけ厳しい運動を···?

渚「あの~···不躾なんだけどさ···。気絶してたみたいなんだけど、こんな事何回もあんの?」

狐娘「な、渚さん!///」

男「···もう···慣れました···」

 何かスッゴく哀愁を感じるんですけど···。サスペンスで昔家族を事件で無くした人レベルで···。慣れるってそれかなりヤバい気が。

渚「あのさ···取り敢えず、元気出しなよ」

男「はい···」

渚「あと、昨日会ったばかりだけどさ。そんなんでも死なれたら結構クるからさ···」

男「頑張ります···」

狐娘「ど、どういう意味ですか!?///」

 元気な狐娘ちゃんは置いといて、あんま気持ちは分かんないけど文字通り死ぬ程大変だろう男に、少々同情したので肩に手を乗せて慰めた。大丈夫かなコイツ···。

渚「あ~…何かわざわざこのだだっ広い神社出んの面倒くさい…ここらで寝よっかな…」

狐娘「帰って下さい」

渚「え~……」

 何だか帰らないと呪われそうなので渋々ヒナちゃんと途中で合流したヨナちゃんと起きてきた鈴音ちゃんと一緒に、家に帰る事に。

 アタシ達が帰ろうとした時境内の皆が手を振ってくれた。可愛すぎて手を振り返して皆に向かって突撃しようかと思ったけど──。

陽那「またね……(・∇・)ノシ」

 これも可愛すぎたのでこれに免じて止めた。

~~~~

 アタシはこれでも裏社会…とでも言えば良いのか、まあ一般人には縁の無い世界に住んでる人からだと、有名人っぽい。

 今日もこうして仕事をこなしていると、対策をしてる所もチラホラ。ま、関係無いけどね。

「く、来るな!」

渚「仕事だから我慢してくんない?」

 離れた所で逃げようとするターゲットの進行方向にアンカーナイフを伸ばして突き刺す。目の前に凶器が刺さったら驚かない奴なんてそうそう居ない。そうして驚いて立ち竦んだ隙に──。

「おごぉっ……!」

渚「悪いやね」

 アンカーナイフの牽引を利用してターゲットに向かい、突撃しながら飛び蹴りをかます。アタシの蹴りと壁に挟まれたターゲットは、内臓でも吐きそうな顔で倒れた。

渚「ふう、今日も楽で良いなっと」

 …などと言ったアタシを、今殴り倒したい気分になった。飛び交う白い体と翼の、変な奴。

 ──天使…だっけ。

 最初からここに居たのか狙ったかの様なタイミングで壁をぶち破って現れる。結構デカいオタマジャクシみたいな奴だ。

渚「もう仕事終わったから、帰っていい?」

 無視してその場から逃げ出そうとすると執拗に追い掛けてくる。人気者は辛いね。

渚「帰らないでほしいならそう言ってほしいんだけど?」

 攻撃こそしない癖してアタシを追い掛け回してる辺り質の悪いストーカー。

 攻撃したいけど、奴らは目玉が弱点で、それ以外は全然ダメージが無い。目玉が何処にも出てない以上攻撃する意味が少ない訳で。

渚「ええい!外だ外!」

 まどろっこしいので外でどうにかする事に。幸いここは周りに人が居ないから、巻き込む事も無い。

 奴らを倒すには、目玉潰す必要があるけどどうやったら出してくれるかなんて分かんない訳で。どうにかしないと……。

渚「くぅ~…ゴールドエッジが使えれば…」

 アタシの愛用銃が、何やかんやで変化した物なんだけど、目玉関係無く天使倒せる程威力ヤバい代わりに近くにヒナちゃん居ないと使えない困った銃身が黄金の銃。格好良いとは思うけど可愛くない。

テンシ「アオオオオオオオ!!」

渚「うるさっ!」

 どっかにある筈の口を開けず、どうやってか知らないけど可愛くない鳴き声を上げるキモいオタマジャクシ。

渚「ホント、帰ってくんないかな…」

 考えるだけで面倒くさい相手なので、さっさと帰って酒呑みたい。

 空飛ぶ羽根付き巨大オタマジャクシとか趣味悪い…。帰りたい…。

テンシ「グロロロロロロ!!」

渚「ああもう、うっせ!来るなら来やがれ!」

 アタシがイライラしてアンカーナイフを飛ばしてぶっ刺してやったら声も上げずこっち来やがんの。参るわそんなん。何とか飛び避けて上に乗ってやったけども。

渚「ちょっ!何処行く気!?」

 アタシを乗せたまま天使は上空を飛んでいく……。待って天に帰るとか言わないよね。アタシも一緒に天使になるとか無いよね?

渚「ってこれ真っ直ぐ雲の上向かってるんですけどぉ!」

 嫌だこんな死に方絶対嫌だアタシは死ぬ時可愛い物に囲まれて安楽死って決めてんのに!

夜那【大丈夫?】フッ

渚「んのわっ!?だ、だから心臓に悪いって!」

 舌を出してテヘッてやってるのは可愛いけど可愛いからって何もかも許される訳じゃない。少なくとも脅かすのは駄目じゃないかな!

夜那【助けてあげるね】ニィ

 ヨナちゃん口角引き上げて身の丈を超える刀を何処からか取り出してオタマジャクシに一突き。上手く刺さったのか灰になるオタマジャクシ。…ヨナちゃんその笑い方怖い。

渚「ありがと、助かった…けどこの高さで落ちたら助かんないよね」

夜那【私は大丈夫だよ?】

渚「だろうね幽霊だもの!」

 周りに建物無い以上落下が止められないからとっても不味い。

夜那【大丈夫、持ってあげるね】

渚「出来るなら最初から言って!」

 という訳でヨナちゃんに抱き締められながらゆっくり落ちてったアタシ。…抱き寄せられただけでも落ちた甲斐があった。

渚「あ~···死ぬかと思った」

夜那【何時でも待ってるよ?】

渚「五十年位は待ってくれない?」

夜那【冗談だからね】

 全く冗談に聞こえないけど仕事は終わったから···何て考えてたアタシに衝撃が走る!

テンシ「ヴルアアアアア!」

渚「···何あれ、アニキ?」

夜那【蛙···】

 進化したのか知んないけどカエル型のテンシが正しくそこに。白いカエルとかやっぱキモい。

渚「···そう言えばさ、カエルって結構卵産むよね」

夜那【···うん】

 えぇえぇ、嫌な予感は的中しましたよ。言った先からオタマジャクシがアタシ達を囲う様にわらわらと。

渚「···もしかして、ピンチ?」

夜那【もしかしなくても、そうだよ】

 絶対、絶命···脳裏に浮かび上がった言葉がこれ。うん、不味いわこれ。

渚「こんな時どんな顔すれば良い?笑えば良いのかな?」

夜那【おいでませ♪】

渚「勝手に殺さないで!」

 でもこのままだとデッドエンド···!逃げてもコイツら追い掛けてくるし···!ヨナちゃんは逃げられるっていうか幽霊だから大丈夫だけど···!

渚「アタシは、そんな簡単に死ぬ気は無いから···!」

 と、気合い入れた瞬間に光る空。目の前が一瞬真っ白になる。

夜那【···雷?】

 別段天気予報は悪くなかったのに、通り雨なのか雷雨が激しく降り注ぐ。

「···こんな所で何をしている」

 うるさい雨の音の中でもそいつの声は良く聞こえた。別にそいつの声が大きかったとかじゃない。何度も、聞いてきた声だったから。

 そして、もう一度光ってその眩しさに目を閉じ、次に開いた時には、もうそいつしか居なかった。

渚「······黄泉永」

黄泉永「おや、お邪魔だったのかな?」

 雨の中でも妙に目立つ、黄ばんだよれよれのダサいコートが風ではためく。何時見ても、それは変わらない光景だった···。

渚「アンタこそ何してんのこんな所で?お仕事忙しいんじゃ無いんですかぁ?」

黄泉永「あぁ、忙しい。まだまだ大事な仕事が残っている」

渚「じゃあこんな所で油売ってないで――」

夜那【······】

渚「···ヨナちゃん?」

黄泉永「···それ以上、唆すのは止めて貰おうか···夜那とやら」

渚「ちょ···ちょっと!まさか幽霊だからってヨナちゃんまで消そうとかって――」

黄泉永「考えているが?」

渚「なっ···」

黄泉永「戯れはここまでにして貰おうか···夜那、などと名乗って、何の心算だ」

夜那【······ふふ】

黄泉永「何が可笑しい?」

夜那【そんな事したって、この夜は終わらないからね】

黄泉永「何···?」

渚「ちょっ、ヨナちゃん!何の話?」

夜那【ふふ···今日も月が綺麗だなって話】

渚「全然答えになってないけど!」

黄泉永「そうだな、とても綺麗で風情がある」

渚「はぁ!?」

黄泉永「···その風情ある景色が消えかかろうとしているのに、何故笑っている?」

夜那【ふふ、秘密♪でも一つだけ言ってあげるね】

黄泉永「何を」

夜那【私は陽那が大好きって事♪】

渚「アタシは!?」

夜那【どうだと思う?】

渚「どうだと思うじゃなくてさ、もっと具体的に」

黄泉永「···信じるに値しないな。幾つもの顔を持つのが君だ」

夜那【むー···恨んでる?】

黄泉永「どう思う?」

渚「おいコラ!」

黄泉永「少し黙ってい給え」

渚「ああん!?」

夜那【心配しなくても敵じゃないからね!】

黄泉永「だが、味方でも無い···少なくとも私からすれば」

夜那【······】

渚「アタシにとっては味方だけど?」

夜那【!】

渚「これ以上イチャモン言うならいくらアンタでも···」

黄泉永「···はぁ、分かった。君のその可愛い物を見る目に免じて、夜那を信じよう」

渚「···だってさ」

夜那【うん!】

黄泉永(···確かに敵意こそ感じないが、何かを企んでいるのは間違い無い。それが結果的に渚を追い詰める様な事なら···)

~~~~

マスター「おや、いらっしゃいませ、渚さん。それに···黄泉永さんも」

水瀬「おぉ!渚姐さん!元気そうで良かったぜ!」

渚「いやだから姐さんじゃないって···」

水瀬「良いから酒だ酒、なっ」

渚「···そうだよ酒だ酒だ!」

黄泉永「···マスター」

マスター「分かっていますから」

渚「ぐへぇ···」

水瀬「んぐぅ···」

黄泉永「···はあ、どうせすぐに酔うだろうと思っていたが」

マスター「何時も渚さんはこんな調子です」

黄泉永「分かっている···」

マスター「···何か、話があるのでは無いですか?」

黄泉永「ああ」

マスター「···渚さんには話せませんか」

黄泉永「···ああ」

マスター「そうですか···」

黄泉永「···だが、必ず嫌でも伝えなければならないだろう···それが運命と言う物だ」

マスター「運命、ですか···」

黄泉永「······」

黄泉永「マスター···夜那の監視を頼む」

マスター「?何故でしょう」

黄泉永「私と水瀬は事務所に結界を張られ、出られなくなっていた···」

マスター「そんな事が···。確かにこちらに来れないという旨を言ってましたが···それを、夜那がしたと」

黄泉永「ああ、目の前に態々現れて閉じ込めてくれた」

マスター「···目的は何だと推察されていますか?」

黄泉永「···渚にあの子を会わせる事が目的の一つだった、そう考えている」

マスター「陽那を···?」

黄泉永「飽く迄予想だ。しかし、渚に何かをしようとしているのは間違い無い」

マスター「成程···分かりました。良く、見ておきます」

黄泉永「頼む···コイツには、昔を思い出させる訳には···」

マスター「重々承知しておりますよ」

黄泉永「そうか···助かる。では私は、この酔っ払いを宿泊所に押し込んでくる」

マスター「あぁ、それなら裏手の神社が宜しいかと」

黄泉永「裏手の神社···?」

~~~~

黄泉永「何時の間にこんな所が···?」

「はっ、お客様です!」

「おもてなしを~!」

黄泉永(な、何だこれは···幼い妖怪変化ばかりだ···)

「どちらから来られましたか?」

「もしかして、男さんのお知り合いでしょうか!」

黄泉永「男さん···?彼も、此処に?」

「いらっしゃいます!」

「こちらに居ますよ~!」

黄泉永(···ここまで妖怪が集うという事は···この神社も実際には存在しない物かも知れないな)

「こちらです!」カラカラ

男「···あ、黄泉永、さん···無事、だったんですね」

黄泉永「···君の方こそ無事か?何だかやつれている様に思うが」

男「あぁ···それは···」チラッ

狐娘「んん···稲荷寿司···ZZz」スピー

男「ちょっと···休んでる暇が、無くて···。ここの皆···ずっと起きてて···遊んでくれって···」

黄泉永「人気者だな」

男「えぇ···まぁ···」

「め、迷惑でしたでしょうか···」

男「迷惑、じゃないよ···楽しいから」

黄泉永「今の君は楽しそうに全く見えないぞ」

男「ははは···」

黄泉永(大丈夫···なのか?)

~~~~

陽那「······」ペシペシ

渚「ん~···んぐぐ···痛い···痛いって···起きた、起きたから···」

陽那「···夜那が」

渚「ヨナちゃん···?アタシん家に···ってここアタシん家じゃん···」

陽那「近くに···居ない」

渚「居ない?···まさか黄泉永」

陽那「遠くに···居る」

渚「···場所、分かるの?」

陽那「うん···(._.)」コク

渚「案内して。一緒に行こ」

陽那「···うん」

渚(···ヨナちゃんが急に居なくなるって事は、黄泉永が危険って事?)

陽那「···こっち」

渚「はいはい」

渚(それってヨナちゃんがアイツに消される様な事をした···って可能性がある訳で)

陽那「こっち···」キュ

渚「あ~い」

渚(···場合によってはこれ罠って···いやいや!ヨナちゃんの味方宣言アイツにしてやったばっかりだから!)

陽那「···!夜那···!」ダッ

渚「え、居た?全然暗くて見えないけど···ってちょっと~!ヒナちゃん速い速い!」

渚(待ってここ結構暗いんだけど···!ヨナちゃん出そうだけど!)

渚(···ヤッバい、ヒナちゃん見失った···!)

渚「お~い!ヒナちゃ~ん!」

渚(返事無し···まさか転んだとか!?)

渚「ヒナちゃうわっ!?」

?「···」

渚「だ、誰アンタ···薙刀持って何のつもり···?」

?「夢から覚める時が来た」

渚「はぁ···?」

?「闘え。あの夜空に光を灯せるのはお前だけだ」

渚「いや意味分かんないし!」

?「今の様に陽那を見失うな。必ず傍に居させろ。誰が何を言ったとしても、常に護り続けろ」

渚「アンタ···何なの?一体···?」

?「さすれば、いずれ全ての力を得る···その時が、日ノ本を甦らせる時だ···」

渚「質問に答えろって!」

?「汝に幸あれかし···」

渚「···おいっ!」ガバッ

夜那【ひゃっ!】

渚「え?ヨナちゃん?あ、あれ?夢···?」

夜那【むー···私を驚かせるなんて···】

渚「ゴメンゴメン。何か、変な夢見て」

夜那【夢?】

渚「何か薙刀持った変なオッサンが現れて、色々言ってくる夢」

夜那【不気味な夢だね】

渚「ホント、そうだよ···はぁ~···」

夜那(···もう少し···もう少しで···)

渚「···陽那ちゃんは?」

夜那【下に居るよ?】

渚「じゃあ、起きたついでに陽那ちゃんの顔を見に行こうかなっと」

夜那【留守番してるね】

渚「付いて来ないの?」

夜那【幽霊だって眠たい時はあるからね?】

渚「んじゃ仕方無い、早速行っきま~す。待ってろ陽那ちゃん!」ガチャ バタン

夜那【······?少し、変な感じが···?】

陽那「······(`・_・´;)」セッセ

マスター「そこまで磨かなくても良いですよ」

渚「陽那ちゃんよ~い!」ガラッ

陽那「!(・Δ・)」パッ

マスター「おっと」

陽那「ご、ごめんなさい······(´-_-`)」シュン

マスター「気にしなくて良いですよ、初めてですしね」

渚「···あれ、何か邪魔しちゃった?」

マスター「そうですね、せめて静かに開けて貰えれば」

渚「ご、ごめんなさい···」

渚「んで、何やってたの?」

マスター「突然この子が手伝いたいと。断ったのですが、何度もお願いするので···グラスを洗って貰ってました」

陽那「···働かざる者食うべからず···だから」

渚「何この子賢い偉い可愛い」

マスター「立派な考えです。が、もっと甘えても誰だって文句は言いませんよ」

陽那「皆頑張ってる、から···」

渚「健気過ぎてちょっと泣けてきた。撫でてあげます!」ナデリ

陽那「あう···」

マスター「ところで渚さん。何かご用でしょうか」

渚「いや~陽那ちゃんに会いに来ただけ」

陽那「······?」

渚「陽那ちゃんを見失った夢見て、ちょっと」

マスター「悪夢、という訳ですか···見る事あるんですね」

渚「どういう意味!?アタシだって悪夢見る事あるから!」

マスター「しかし、渚さんが見る悪夢ですか」

渚「気になる?」

マスター「いや、可愛くない物に追い掛けられたり押し潰されたり···」

渚「そんな夢見た事無いから」

陽那「え···?(・丱・)」

渚「そんな口元押さえられても」

マスター「冗談ですよ、流石にそこまでは思っていません」

渚「···多少は思ってる訳だ」

マスター「渚さんですから」

渚「酷くない?」

渚「···アタシにだって、嫌な事思い出したり、夢に見たりする事あるから」

陽那「嫌な事···」

マスター「それを忘れさせて上げるのも、バーの役目です」スッ

渚「···何これ」

マスター「水です」

渚「あ、やっぱり?」

マスター「非常に酔いやすい方に何度もお酒を提供する訳には、ですから」

渚「分かってるんだけどさ、やっぱり呑みたくなるっていうか」

陽那「駄目(`・∧・´)」

渚「はい」

マスター「···しかし、気になると言えば、私は渚さんが煙草とお酒を好む理由ですね」

渚「ん···?···別に、ただ好きなだけだけど?特に理由とかは···」カリカリ

マスター「そうですか」

陽那「···何で耳の裏掻いてるの?」

渚「へ?···あ、ホントだ。まさかこの歳で知らなかった癖を見つけるなんて」

マスター「···おや、いらっしゃいませ」

渚「ん?···何だ三人衆か」

新入り「どもっス」

若旦那「景気は良いかい?」

爺「今日も呑ませてもらおうかのう」

陽那「!」サッ

渚「あ、陽那ちゃん隠れた」

新入り「···前回で嫌われたんスかね」

若旦那「気にすんなそんな事!嫌われたんならまた仲良くなりゃ良いんだからな!」

爺「そもそも仲良くなっとったかの」

渚「なってないね」

新入り「酷いっス姐さん」

渚「姐さん言うなっての!」

新入り「にしても、最近物騒っスよね~」

爺「音の無い爆発や、狼の遠吠えなどですな」

若旦那「でも近頃は狼の遠吠え聞かねぇなぁ」

渚「別に良いんじゃないの?」

爺「まぁ、そうですな。元々人を襲うと言った話も聞きませんでしたしの」

新入り「頭上で聞こえた時は肝を冷やしたっスけどね···喰われる!って」

マスター「人喰い狼なんてそうそう居ませんよ」

新入り「こんな一日中夜なんて世界じゃ何が起こるか分かったもんじゃ無いっスよ···」

若旦那「そんなお前さんにゃあせめて家は爆発しない事を祈っとくぜ!」

新入り「ちょっ、縁起悪い事言わないで下さいっス!」

渚「ここで愚痴言いまくってるアンタに縁起悪いとか言えないと思うんだけど」

新入り「酒の席なんだから愚痴ぐらい良いじゃないっスか~!」

爺「殆ど新入り君の愚痴しか聞いとらんが」

新入り「そ、そうっスか···?」

マスター「しかし、音の無い爆発ですか。この辺りで起こっていないのは良いのか悪いのか···」

爺「潰されとるのは目立つ高層ビルだけですから、此処には来ないと思いますぞ」

マスター「どちらにしても、被害が無くなる事を願うばかりですね···」

渚「······」

若旦那「どうしたよ姐さん!」

渚「姐さん言うなってのだから!···別に、ちょっと考え事」

新入り「えぇ~?考え事っスか?似合って無いっスね~、はははあがっ!」メギャ

渚「最低限のデリカシーも無い奴はモテないって覚えといた方が良いと思うな~アタシは」

爺(最低限しか無いのも困り物だと思うが、言わん方が良いの、これは)

若旦那(······そう言えば俺も最近デリカシー無いって···だからモテねぇのか···)ボソボソ

爺(お主はその法被を着ない事が一番じゃないかの···これも言わんが。魅力について語られ続けるのも堪えるしの)

渚「···んじゃ、マスター、お代」

マスター「···え?」

渚「ちょっ、何その反応···」

マスター「この三人が来ている間は出ていかなかった筈なのに···」

渚「え、そうだったっけ。前回は陽那ちゃん連れて···」チラッ

陽那「······(-_-#)」

渚「思い出し怒り···!?」

新入り「何スかその造語···」

新入り「て言うかもう帰るんスか!紅一点の姐さんが居ないと――!」

渚「じゃあ姐さん言うな。そして陽那ちゃんも居るから二点だし」

新入り「あっ、そっスね!」

渚「その陽那ちゃんも連れて行くがなぁ!」

陽那「!?Σ(・_・;)」

新入り「この外道!」

渚「フゥーーハハーーーー!何とでも呼べ!さあ行くよ陽那ちゃん!」

陽那「!!!(>_<;)」ジタバタ

 ガラッ ピシャン

マスター「···デジャヴ、とはこういう時に使うべきなんでしょうね」

爺「そうじゃの」

若旦那「てか何だ今の寸劇」

新入り「やってた自分が一番知りたいっス」

~~~~

黄泉永「······水瀬」

水瀬「何だよ」ゴボゴボ

黄泉永「何故、源泉を生み出している?」

水瀬「寝床も有って厠も有って風呂か水浴び場が無いのは大問題だろ」ゴボゴボ

黄泉永「神社に源泉を生み出す奴の方がよっぽど大問題だ···!」

水瀬「大丈夫だって。此処国に認知されて無いっぽいから徴収とか無ぇよ」ゴボゴボ

黄泉永「金の問題か!良いから止め給え!」

水瀬「煩ぇなぁ。温泉とか入ってみたいっていう幼い子供の願いを叶えて何が悪いってんだ?」

黄泉永「だから神社に源泉を、と言っているだろう···!生み出すにしても何故外では無い!」

水瀬「寒いだろうが」

黄泉永「・・・・・・。やはり、神の考えは理解出来ん···」

男「···凄く、湯気が立ってますね」

黄泉永「···そうだな」

狐娘「こ、これが水の神様の力なんですか···」

水瀬「おうよ!」

デイ「とても透き通っていて、綺麗です」

水瀬「そりゃあ水の神なんて言われる以上、只の温泉じゃあな。我好みの水質だぜ」

狐娘「効能は何ですか?やはりお肌とか···」

水瀬「勿論!ま、他は入り続けてのお楽しみって奴だな!」

狐娘(······胸が大きくなる効能は無いんでしょうか···)ペタシ

男(狐娘···あれはまた胸を気にしてる顔だ···)

水瀬「さぁって、次は池とか滝とか···」

黄泉永「君はここを宿にしたいのか?」

鈴音「·········」ソォー

狐娘「あ、鈴音···さん?ちゃん?」

鈴音「!な、何でも無いの」

水瀬「ん?あれ、そんな奴居たっけ?」

鈴音「!」ビクッ

水瀬「な、何でそんな驚いて、しかも離れるんだよ···」

黄泉永「···その子は猫だ。水が苦手であるが故に、君に苦手意識を抱いているのだろう」

デイ「ふむふむ、確かにネコは水を浴びるのを苦手としている事がとても多いですが」

水瀬「···我が水をぶっ掛ける様に見えるか?」

鈴音「······」

黄泉永「それにその子は大人しい性格の様だ。君の口調はそういうタイプに威圧感を植え付ける事もある」

水瀬「何か我が怖がられてる体で話すの止めろよ!」

デイ「彼女見事に男さんの影に隠れてますが」

水瀬「」

水瀬「ドウセワレハキョウフノダイオウダヨー···」シューン

狐娘「部屋の隅に座り込んで凄く落ち込んでますけど···」

男(何で恐怖の大王···?)

黄泉永「あれでも案外繊細な所もあるのだ。だがすぐに気を取り直すから、然程気にしなくても良い」

鈴音「···悪いのは分かってるけど、本能が拒否反応を···」

デイ「ネコが水を嫌うのは、昔砂漠地帯に棲んでいた時の本能の名残と言われていますからね」

水瀬「デターホンノウデキラワレルヤツー···」ドヨーン

狐娘「もっと落ち込みましたけど」

男(···あの言葉、渚さんが教えたのか···?)

「先程からどうかしま、ほわーっ!温泉が、いつのまにー!」

「温泉!?···おぉ、温泉···!水瀬さん、ありがとーございます!」

水瀬「イイッテコトヨー···」ズーン

「···何があったのでしょ?」

黄泉永「気にしないでやってくれ給え」

デイ「只今傷心中なのですよ」

「おぉ、それは何とも···何か出来る事は」

黄泉永「そっとしておく事だ。後、慰め代わりに温泉に入ってやってはくれないだろうか」

「お安いご用です!今すぐにでも···」

黄泉永「待て待て、男が居る状況で入るのは止め給え、頼む」

~~~~

男「······結局皆温泉に入っちゃいましたね」

黄泉永「ああ···君が狼の姉妹に捕まった時は肝を冷やしたが」

男「あのままだったら入らされてましたからね···言って聞いてくれる子達で助かりました」

黄泉永「しかし···全員が喜んでいるから良かったものの···」

男「喜ぶ人が居るなら、それで良いじゃないですか」

黄泉永「··突拍子の無い事をする相手には、慣れているがな···些か疲れが溜まる」

渚「···へぇ、じゃあマッサージでもしてやろうか」

男「あ、渚さん」

黄泉永「君は私に間接技を極めそうだから遠慮しておこう」

渚「するか!精々殴る位だっての」

陽那「駄目(`・∧・´)」

渚「はい」

黄泉永「それで、何の用だ?ここの子達の顔でも見に来たか」

渚「後で覗く」

黄泉永「覗くな。···では、一体」

渚「···アンタ、音の無い爆発の話とか、天使の話とか知らない?」

黄泉永「···知って何をする心算だ」

渚「襲われた以上相手の情報知っといて損無いでしょ」

陽那「···!(・Д・;)」

男(···?ヒナちゃんが焦ってる···襲われた事を心配してるのか···それとも···?)

黄泉永「そうか···。では、水瀬とデイと狐娘君が上がったら話す事にしよう」

渚「何で待つ訳?」

黄泉永「この三人と男君と私はテンシに襲われたからな」

渚「···じゃあ、その中に鈴音ちゃんも入れてくんない?アタシ、その子から天使って言葉聞いたんだから」

黄泉永「何?···そうか、分かった」

~~~~

渚「さぁって···根掘り葉掘り、聞かせてもらおうかな?」

黄泉永「ああ、言ってやろう、幾らでも」

狐娘「あの、どうして集められたのか···」

黄泉永「まずはテンシの話をする為に、巻き込まれた君達を呼んだ」

デイ「テンシ···私も詳しく聞いてはいませんでしたが、とうとう聞けると」

水瀬「···で、さぁ···鈴音···?を、呼んだのは···?」

鈴音「···私が知ってるからって、渚が伝えたから···違う?」

水瀬「んなっ···!」

黄泉永「···そうだ」

渚(名前呼んでくれた···嬉しい···)

男「何なんですか、あの異形の怪物···この世の生物とは思えないんですが···」

黄泉永「事実、この世の生物では無い」

狐娘「この世では無い、となるとあの世···?な、何だか寒気が···」ブルルッ

水瀬「そりゃ風呂上がりは寒いだろうよ、冬なんだし」

黄泉永「···前にも言ったが、あれは君達の知る天使では無い」

デイ「確かに姿は違いますが」

渚「ゲームに出そうなキモさだしさ」

黄泉永「姿だけで無く、存在その物が違う。君達の知る天使は、天の使いと書く」

水瀬「だけど奴等は纏尸···纏う尸···あ、尸は漢字の冠にも使われてる簡単な方な」

渚「まとう、しかばね···で、纏尸。一層不気味に感じるんだけど···」

黄泉永「不気味な理由は単純だ。天から来た存在では無く、地の果て···黄泉の国から来ているからだ」

渚「···今更黄泉の国~なんて言われても···信じざるを得ないのがさ···それで?」

黄泉永「それだけだが」

渚「は?もっと何か無い訳?アタシとかを襲う理由とかさぁ!」

黄泉永「知らん」

渚「じゃあ音の無い爆発は!」

黄泉永「それも私の事務所付近で起こっていない以上詳細は不明だ」

渚「んだよそれ!」

黄泉永「···襲われたという事は、その爆発を起こした相手と面と向かったのだろう?」

渚「そうだよ···見た目喋る炎の塊で、アタシを怨んでたっぽいけど···」

黄泉永「···そんな風貌で、言葉を話す···間違いなく、そいつは神だ」

渚「·········は、神?んな、まさか···」

黄泉永「神という存在が身近に居ないとでも?そうだろう?水瀬、デイ、そして···鈴音君?」

鈴音「······」

狐娘「え、えっと···それだと鈴音···さんが神様だ、って言ってる様に聞こえますけど···」

黄泉永「纏尸を知っているのは神だけだ」

男「でも、教えてもらったって可能性も···」

黄泉永「無いな。この神社に、鈴音君と同じ妖気を感じる···ここに移動させたのは、君だな」

渚「いやいや···鈴音ちゃんが神様って、その子ルンペンみたいな状態になってたのに?」

狐娘「る、るんぺん···?」

デイ「仕事もお金も無い人を指す言葉ですよ」

狐娘「え、今のご時世で使って良い言葉なんですか」

デイ「割と駄目ですよ」

狐娘「ですよね」

男「あの、今良いから···」

鈴音「――神様だって、色んなのが居るの···」

渚「す、鈴音ちゃん?」

鈴音「そう···社を壊されて、存在が消える神様だって···」

狐娘「え···」

男「社···」

鈴音「私はまだ、各地に祀る神社があるから消えてないけど···この地の土地神としての役目は···」

デイ「···土地神ですか?え、でも全て消えてしまったのでは···」

鈴音「その前に社が壊されたから、かも···」

渚「···何かよく分かんないけど、その~···土地神?の生き残りって事?」

鈴音「そう···なるの。多分」

水瀬「て事は、その社を直せばまた土地神に···!」

黄泉永「駄目だ。その子に止めを刺す気か」

水瀬「う···そ、そうか···」

渚「どういう事?」

黄泉永「土地神が居れば、多少は陽の光を取り戻せる···だが」

渚「一日中夜にしてくれた奴が許さないって訳ね」

黄泉永「そう言う事だ」

渚(···あの夢の通りなら、やっぱりアタシしか居ないって事か···。···何でアタシ、あの夢を信じて···?)

渚「···それと、鈴音ちゃん、月の使者って結局誰?」

黄泉永「!」

鈴音「···それは言えない···けど、貴女の周りには居ない」

渚「そっか、良かった···」

黄泉永(何だと···どういう事だ···?奴は···いや、しかし···)

鈴音「ごめんね···言えなくて」

渚「良いの良いの言わなくて。危ない事なんて普通は好んでやる事じゃないし」

陽那「······」

黄泉永「···もしもだ、渚。君が炎の塊を相手取ると言うなら、私達に任せ給え」

渚「いや別に。挑んだりしないし」カリカリ

黄泉永「···そうか。なら良い」

渚「んじゃ。陽那ちゃんも行くよ~」

陽那「······」トコトコ

水瀬「···ん?私達?と言う事は我も?」

黄泉永「当然だろう。憂いは絶つべきだ」

水瀬「マジか···」

黄泉永「······しかし、昔から変わっていない」

デイ「何がでしょう」

黄泉永「あいつの仕草だ。耳の裏を掻いていただろう」

狐娘「あ、そうですね。最後カリカリと」

黄泉永「あれは···嘘や隠し事をした時にする癖なのだ」

男「···って、それだとその炎の塊に戦いに挑むって事じゃ···!」

黄泉永「···だろうな」

狐娘「い、急いで追わないと!」

黄泉永「後でバレない様に追う。見付かればあいつは逃げる。そうなると速すぎて追えん」

デイ「···妙に渚さんの事、詳しいですが、どういった御関係で?」

黄泉永「···簡単だ」

~~~~

陽那「······なぎさ」

渚「んえ!?な、何々?何?」

渚(呼んでくれたキャッホーイ!)

陽那「···“仕事”するんでしょ?」

渚「へ、うん、そりゃ」カリカリ

陽那「·········駄目って言っても、する?」

渚「するけど」

陽那「······うん···分かった(._.)」

渚「え~と、何?どうしたの?」

陽那「着いてく(`・_・´)」

渚「···え?」

陽那「私、頑張る。だから、なぎさも頑張って」

渚「いやいや待って待って!そんな事言われても···」

陽那「だって、なぎさの銃は···」

渚「陽那ちゃん近くに居ないと撃てないのは分かってるけど」

陽那「使えないと死んじゃう···(´._.`)」

渚「大丈夫大丈夫!今までだって何とか――」

陽那「大丈夫じゃない!(>□<♯)」

渚「は、はいっ!」

渚(怒られた···。大人なのに幼女に怒られた···)

陽那「だから着いてくの!(>□<#)」

渚「でも、陽那ちゃんだって危ないし···」

陽那「隠れるから良いの!それに···!(>_<#)」

渚「そ、それに?」

陽那「·········助けに来て、くれるよね···?(´・_・`)」

渚「モチのロンだよ人間止めてでも行くよこれで行かない奴居たらアタシ直々に引導を渡すよ」

陽那「······良かった···(´∇`)」

渚(あれヤッバイこれ人生最高の幸せなんじゃないのホッホーイ!)

渚「う~ん、にしても、アタシ陽那ちゃんにちょっと引かれてると思ってたけど···」

陽那「?嫌いじゃ、ないよ···?」

渚「その言葉だけで死ぬ訳にはいかなくなったわ~」

陽那「······(._.)」

渚「あ~···ゴメンね陽那ちゃん。心配させちゃってさ。ホントなら、大人に任せなさいって言わないといけないのにさ。アタシそこまで強くないから···」

陽那「ううん···銃変えたのに、言わなかった私が悪いから···(´-_-`)」

渚「良いから良いから。子供のちょっとしたイタズラくらい受け入れなきゃ大人じゃないってね」

陽那「でも······」

渚「ん~···陽那ちゃんみたいな子は、アタシにとっては“太陽”なんだよね」

陽那「!太、陽···?」

渚「そ。···アタシの昔って、真っ暗だから···」

陽那「え···」

渚「だから陽那ちゃんみたいな幼い子には、太陽みたいに明るく笑ってほしいな。···スッゴく、個人的なお願いなんだけどさ」

陽那「······うん(・∀・)」

渚「うん、それで良し!」

~~~~

『えええええええええええええ!!!!!』

男「ほ、本当なんですか!」

狐娘「全然似てないのに!」

デイ「こ、これはスクープですよ!いや、スクープ···?」

水瀬「む、昔馴染みくらいにしか聞いてないぞ!」

鈴音「もしかして···」

黄泉永「本当だとも。渚は――」



黄泉永「···私の妹だ。義理の、だが」

~~~~~~~~

渚(黄泉永···アイツの手は、煩わせないから···それに、売られた喧嘩は買うし、あの炎の塊野郎は···)

渚「アタシが絶対倒さないと···いけない気がする···」

陽那「···?」

渚「あ、何でもないよ何でも」カリカリ

第6話 終わり

男「···どうして、義理の兄妹に」

黄泉永「ある日、父が連れてきたのだ。突然、理由を話す事も無く」

水瀬「······」

黄泉永「···あの父の事だ。ろくでもない理由だったのだろう。もう聞く事は出来ないが」

デイ「もう、お亡くなりに···」

黄泉永「そうだ。幕を下ろしたのだ···その悪逆非道の人生を、この私の手で」

男「えっ···!」

鈴音「···罰を下した、と言うの?」

黄泉永「···己の欲に忠実過ぎる、強欲で、自己中心的で···良い所など挙げられない男だった。生かしておけば、どれだけ血と涙が流れた事か···!」

狐娘「でも、家族を、その···」

黄泉永「躊躇いが無かったと言えば嘘になる···。実際、殺した訳では無く、黄泉送りにしてやっただけだからな」

デイ「黄泉送りとは···!」

鈴音「······殺したのと、変わらない」

黄泉永「そうだ。殆ど変わらない。生きた人間が黄泉の国に入れば、生きたまま亡霊と化す。二度と現(うつつ)に帰る事は叶わない···」

デイ「そこまでさせる程、非道な行為を···?」

黄泉永「···ああ。必要が無くなった者、邪魔になった者···。父は、例えそれが肉親であっても、妻であっても、我が子であっても···」

狐娘「そ、そんな···何なんですかそんな人!」

男「全部、自分の為、それだけで人を···?」

黄泉永「殺める男だったのだ···!長く気付けなかった自分が、情けない···っ!」

鈴音「······何時、気付けたの」

黄泉永「······父が、蛟一族を滅ぼしたのだと、水瀬に聞いてからだ···」

水瀬「······」

男「前に言ってた···直々に断罪したとかって···」

黄泉永「そう、父の事だ。それより前は、妖怪を退治する者として、尊敬さえしていたと言うのに···。何もかも、偽りの姿だった···」

狐娘「···酷いです···」

水瀬「···他人の命を何とも思ってない、畜生だったぜ···あんまり、思い出したくないけどよ、忘れる訳にもいかねぇ···」

黄泉永「水瀬の言う通りだ···忘れる訳にはいかん。父の所業を、罪を。同じ悲しみを広げない為にも」

男「渚さんは、それを···」

黄泉永「知らないさ。そもそも、父の顔を忘れているかも知れん。私も含めて、赤の他人として相当嫌っていたからな」

狐娘「知らせてあげた方が···」

鈴音「···知らないままの方が、幸せな事もあるの···」

黄泉永「···言う通りだな。知る事で、新たな不幸を呼ぶかも知れん」

男「···知らない所為で不幸になる事もあるかもしれませんよ」

狐娘「無知は罪と言う言葉もありますから···」

黄泉永「分かっている···。だが、それでも秘密にしておきたい事もあるのだ···」

水瀬「黄泉永···」

デイ「秘密ですか···」

デイ(まだ、渚さんにも、黄泉永さんにも、秘密がある様に感じますね···一体、何を隠しているのでしょうか)


第7話
~未来を蝕む過去~

デイ「で」

マスター「···で、といきなり言われましても」

デイ「渚さんと黄泉永さんの秘密、何か少しでも良いので知っていたら教えて貰えると」

マスター「申し訳ありませんが、知っていても教える事は出来ません。個人情報ですので」

デイ「そこを何とか」

マスター「駄目ですね。そもそも、私は何も聞かされていませんよ」

デイ「···そうですか、残念です···。あ、では、お二人の過去とか、貴方と出会った経緯とかは」

マスター「···経緯、ですか。そうですね。それ位なら···」

デイ「はいはい、どうぞどうぞ」

マスター「······。では、まず渚さんから、にしましょう」

マスター「あれは···そうですね。五年程前になりますか···」

――――――――
――――
――

 当時はまだ、私がこのバーの見習い···要は前のマスターが居た頃でした。客足の少なさは今と大した差はありませんが。

 その日は何時も通り、ごみを捨てようとごみ袋を両手に持って、ごみ捨て場に置いて帰ろうとした時ですね。

 ガサガサ、とごみを漁る音が聞こえたので、猫やカラスかと思いながら、何気無く振り向きました。

『···何?』

 それが、渚さんと初めて会った状況です。今でも忘れられません···。

デイ「ちょっと待って下さい。え?渚さん、ゴミ漁って、え?」

 漁ってました。ごみ袋に頭から突っ込む勢いで。

デイ「何してたんですかあの人···」

 何でも、食べる物を探してた模様で。

デイ「完全に浮浪者にして相変わらず不審者だったと」

 ええ、完全に不審者でしたね。思わず警察に電話を掛けそうでした。全力で止められましたが。

デイ「その方が良かった気もしますが」

 警察は駄目だと言う渚さんの必死の懇願に折れた私は、警察を後で呼ぼうと思いながら嫌々話を聞く事にしました。

デイ(嫌々···)

『いや~あっはっは···はぁ~···アタシだってさ、好きでゴミ漁ってるんじゃなくてさ、うん』

『早く言ってくれませんか。太陽が眩しい世界から陽の射さない暗い世界に行きたくなかったら』

『冗談止めてくださいってば~···あ、ごめんなさい言うんで帰らないで』

 昔も今も殆ど変わらないそのふざけ癖に、呆れて放っておこうと考えていたら···。

『······み、水···』

 そう言って倒れたんです。発言が発言だけにこれも冗談かと思えば、本当に倒れていたので、急いで担いでバーに持ち帰った訳です。

デイ「そんな状況でもふざけられる辺り、相当根性ありますね」

 全くです。しかし、実際に脱水症状を起こしていたので、ネタでは済まない所だったのですが···。

 慌てて女性を背負って帰ってきた私を煩いと一喝した前マスターの手によって、渚さんは事無きを得たのです。

『あ~···死ぬかと思った』

 冷や汗を掻きながら、笑顔で起き上がる彼女を私は、何と人騒がせな人なのだろう、と迷惑に思っていました。

『嬢ちゃん、家出か何かか?』

 前マスターは渚さんに水を渡しながら、少々面倒臭そうに質問していましたね。

『いや~、働きにこっちへ···』

『ゴミ漁るのが仕事か』

『空腹には勝てなかったんで』

 何でも話を聞けば、ちゃんとお金も住む場所も準備したのに、家は何故か既に人に住まれ、文句を言っても聞き入れて貰えず、ちょっとずつお金を使ってここまで生き延びたけどとうとう無くなったので···、という事だったそうです。

『···嬢ちゃん、田舎に住んでたのか?』

『そりゃもう人目の無い山奥に』

 超が付く程のド田舎からやって来た、無一文で家無し、常識もズレていた渚さんとの出会いは、正直印象は最悪でした。

デイ「最悪ですね」

マスター「全くです」

デイ「その後は?」

マスター「今の渚さんの部屋が元々私の部屋だったと言えば分かりますか」

デイ「え、まさか同居を?」

マスター「ええ、私が面倒を見る事になってしまいました。そして今まで、ずっと見ています」

デイ「ほうほう、それでそれで?」

マスター「後は渚さんにでもどうぞ。では、次は黄泉永さんですね···」

――――――――
――――
――

 黄泉永さんとの出会いは、渚さんとの遭遇から一年経った時ですね···。家事全般が壊滅的な渚さんの世話に、漸く慣れてきた時でした。

『ここに、渚、という駄目人間は居ないだろうか』

 そう言って訪ねて来たのを良く覚えております。

『確かに、居りますが···彼女のご家族でしょうか』

『ああ』

『少々お待ち下さい。今からお呼び――』

『いや、構わない。私は奴が元気に生きているかどうか調べに来ただけだ。奴も会いたくないだろう』

 その言葉から、複雑な事情がある事は分かりましたが、会ったばかりの赤の他人、聞く事はしませんでした。

『初めて会った時は死にかけでした』

『···あの馬鹿。···迷惑を掛けた事を、奴に代わって――』

『構いませんよ。もう、慣れましたから···』

 一年間の苦労を思い出しながら、その思いを口に出すと、黄泉永さんに頭を下げられました。大変申し訳無い、とね。

デイ(完全に厄介者扱いですね渚さん···)

 その後も話を聞いていると、どうも生活力が非常に欠けているから本当に働けているのか心配して、探し続けていたそうです。実際家事が出来ない以上飲食店では働けず、性格上お客様とのトラブルが絶えない為接客も出来ず、と散々なので結局ニート状態になっていました。

『···済まないが、電話番号を交換して貰えないだろうか。奴が粗相を犯したら連絡を』

 その一件からですね、黄泉永さんとの付き合いは。その後も渚さんの話をしたり、他愛の無い話をしたり···。

デイ「仲の良い知り合いになった、と」

マスター「そうですね。今現在まで続く仲です」

デイ「···それだけですか?」

マスター「···他は···面と向かえば素直でなくなるので分かりにくいですが、お互い心配、そして信頼している、といった所ですかね」

デイ「私には渚さんが裏探偵さんを一方的に嫌っている様にも――」

マスター「理由を聞けば、アイツは心配性だから、鬱陶しいのもあって心配させたくない、と恥ずかし気に」

デイ「ほほう···」

マスター「私はこれぐらいしか言えません。後は本人達に」

デイ「ええ、お話ありがとうございます」

デイ(これぐらいしか言えません···知りませんでは無くて、言えません、である以上、つまり···)

マスター(······渚さん、黄泉永さん···)

デイ「···あ」

マスター「どうかしましたか?」

デイ「渚さんが仕事を始めた理由とかも教えて頂く事は···」

マスター「さあ···頑なに教えてくれないので···。恐らく、黄泉永さんの仕事に感化されたのだと」

デイ「感化?」

マスター「はい。自ら黄泉永さんの事務所まで行き、帰ってきた途端···」

デイ「対抗意識でも燃やしたのかも、ですね」

マスター「そうかも知れませんね。態々服と銃を自ら用意した程ですから」

デイ「え、あれ自作の?」

マスター「さあ、何処から学んだか、どうやって作ったのか、そもそも誰かに頼んだのか···」

デイ「本人しか知らないと」

マスター「ええ。本人が製作したのであれば、本人しか知り得ません」

~~~~

陽那「······」

渚「···何?どしたの?」

陽那「···何でなぎさは頑張るの?」

渚「働くなと申すか」

陽那「···戦う理由···」

渚「···あ~···スッゴい個人的な理由なんだよね。···言わないよ?」

陽那「···駄目?」

渚「うぐっ···う、上目遣いしても、言わないから。例えキスしてきてもそして大好きって言われてもギリギリOKいややっぱ駄目」

陽那「·······」ジッ

渚「あ、あれだよ?今は陽那ちゃんとかの為って理由があるから」

陽那「······昔は」

渚「な、何で聞きたがるのかな~って」

陽那「···知りたいから」

渚「う、う~ん···答えてあげたいけども、説明するの恥ずい···」

陽那「······じゃあ···なぎさの昔話···ちょっとで、良いから···」

渚「昔話···?······確かに、死ぬ気は無いけど、もしコロッと死んだらあれだし···」

陽那「そんなの言っちゃ駄目(`・_・´)」

渚「はい。···昔、か。陽那ちゃんくらいの子に聞かせる事じゃあないんだけど···」

陽那「大丈夫」

渚(力強い大丈夫だなぁ···)

渚「ん。···んじゃ、ちっちゃい頃から、少しずつ···」

最近ペース遅いのはレスが少なくてテンション下がったせいか?
多分レス少ないのはもふが少なくてテンション上がらないせいだ

自由に書いてくれていいけどもふはよ

個人的には投下終わりが分からんからレスしにくい

渚「スッゴく簡単に言うと···拾われて、そこが嫌になって出てって、また拾ってもらってずっとそこに住んでる」

陽那「······。······?(・_・`)」

渚「はてな?って顔されても大体合ってるから」

陽那「それ以上···駄目?」

渚「う~ん駄目。言いたくない」

陽那「何で?」

渚「···良い思い出だったら良かったんだけど、あんま、さ···うん」

陽那「あ······う、ごめ――(´・Δ・`)」

渚「はい謝るの無し」モニュ

陽那「うゅ···はなひへ···)-Δ-(」

渚「はいこの話はお終い!これ以上聞くと、陽那ちゃんのあんな事とか···」パッ

陽那「分かった聞かない」

渚「デスヨネー···」

渚(···過去、か。···あの頃と比べたら、大人になれたかな···)

>>262
純粋に話どう繋げようか悩んでました。

>>263
私も寝る、気紛れを起こす等で自身の投下終わりが分かってないので煮るなり焼くなり煮込むなりして下さい。

――――――――
――――
――

 ···昔はホントに胸に穴が空いてるんじゃないかってくらい寂しかったのを覚えてる。もうホントに胸の中が空っぽで、残ってたのは悲しさ、空しさだけ。

 理由は簡単。

 家族の死体を見たから。

 今から、もう十七年も前になる話。つまり今アタシ23だから、6才の時。まだ小学校にも行ってなかった。今も学歴は無し。アタシ幼稚園、保育園行ってないし。

 要はずっと家で、たまには外で家族と仲良く過ごしてた訳なんだけど···何であんな事になったかは覚えてない。でも目が覚めたらアタシ以外皆死んでた。

 父さんと母さんと姉さんがいた訳だけど、み~んな、血の海の中で寝てたんだよ。目を開けて。

 幼いながらに分かっちゃったんだよ。

 ああ、もう皆と会えない、って。

 アタシは泣かなかった。色んな何かが、もう説明も出来ない程混ざりまくった感情がやってきて、頭が真っ白になってたから、かな。

 で、気付いたら見知らぬ家。さっきの事は夢かな、って思いたかったけど、手に血の生温さが残ってて、そう思えなかった。

 夢にしろ現実にしろ、傍に家族がいない事がスゴく寂しくなって、泣いた。でも知らない場所だったのもあって、居心地の悪さに対する恐怖心か何かが、アタシの声を押し殺した。

『······!どうしたんだ』

 アイツ···黄泉永に会ったのは、アタシがそうやってすすり泣いていた時だった。知らない奴の姿を見て離れたアタシに、気を使ったのかそん時は近寄る事は無かったけど。

『···ああ、ボクはよみなが やくさ。···きみは?』

 アタシが怖がってる理由をどう勘違いしたか、真顔で自己紹介を始められた時はもっと怖くなった。もちろんアタシは何にも答えなかった。そんな心境でもなかったし。

『······とうさんが、きょうからここがきみのいえだって』

 いきなりここが家だとか言われても、胸の穴からすり抜ける様に、受け入れられなかった。普通はそうでしょ。そんなん言われたって無理無理。

 結局アタシは、その日黄泉永と会話する事なんて無かった。泣いてるばっかで、何にも考えられなくて···寂しい、寂しいって、口には出さなかったけど、ずっと思ってた。

 その日から黄泉永との生活が始まった。とは言っても、数年経つまでアイツと全く会話しなかったけど。

 飯は多分アイツが作ってアタシに食わせてた。何でアイツが作ってたかって思うと、アイツの父さんとやらを見た事が無かったから。一度足りとも会った事は無い。だから今でも顔も知らない。

 黄泉永と過ごす日々はとても退屈だった。アイツと遊ぶ気なんてなかったし、何より家族といられない寂しさが、アイツと話す事を遠ざけてた。

 そんな寂しさを紛らせる為に、アタシは外で遊ぶ様になった。黄泉永の家にいるのはホントに居心地悪かったし、何よりアイツとしか会わない事がスッゴく薄気味悪く感じてた。

 結局外で遊んでても家の周りが木で一杯で、何にも無いから空しくて、それでも何にも残らない日々の大半を、外で過ごしてた。そんなある日···。

『キュルル···キュルル···』

 聞こえてきた奇妙な音に思わず興味を引かれて、その日のアタシは森の奥に平気で足を踏み入れたんだよ。今まで無かった変化が、アタシを動かしたんだと思う。

『······わぁ···!』

 頑張って探した音の招待は、もふもふの白い狐の寝息だった。初めてみた存在に、触りたい気持ちが抑えられなくて、全身で抱き締める様に顔をうずめた。今でもその感触は覚えてる。それはもうもふもふ、もふもふ、もふもふもふもふだった。

『······何?』

『!?』ビクッ

 喋った。白い狐が喋った。あまりの出来事に驚いて飛びのいた。普通の反応だよね。今のアタシだったらもふもふする手を止めてないね。

『ぐ~ まぐまぐ ま?』アセアセ

『日本語で良いのよ?』

『ゴフキセキャゼエウオ?』アセアセ

『日本語で大丈夫だから』

『ゴレンバガギ···』

『だから日本語···』

 あん時のアタシはテンパって何言ってるか自分でも良く分かってなかったからね。一体何語なのか今でも分かんない。

 白狐さんと呼ぶ事にした喋る狐の許可を得て、この後滅茶苦茶もふもふした。暖かくって、安心したんだ。その時は、寂しさも忘れられた。

『変わった子···』

 一心不乱にもふりまくるアタシを嫌がる事無く、ずっともふらせてくれた。あの感覚は忘れられない···はあ···。

『···ボクにどうしろと?』

 それが白狐さんを連れてきたアタシに対する一言だった。スッゴく迷惑そうな、そして混乱した様な顔で、なんか嫌だった。

 絶対に手放したくなかった。こんなもふもふで安心出来る存在を見つけたのに、離れるのが怖くて嫌で嫌で···。

『······』ギュムムー

 白狐さんを抱き締めて、黄泉永を無言でにらみつける。話すのも嫌だったアタシの抵抗方法だ。正直、しょうもない、と思う。

『···すきにすればいいよ』

 やがて諦めた感じの黄泉永が、そうやって呟いて部屋から出ていくのを見て、アタシはガッツポーズを小さくとった。そりゃもう嬉しくて嬉しくて。

 そうして長い間この白狐さんとのワクワクする生活が始まったんだよ!あぁ~もっと堪能しとけば···思い出す事で紛らわそ。

なぎさ『しろきつねさん、しろきつねさん』

白狐『なぁに?』

なぎさ『どうしてしろきつねさんはしゃべれるの?』

白狐『ん~···それはね、乙女のヒ・ミ・ツ♪うふふ~♪』

なぎさ『え~···』

白狐『それよりお名前何て言うの?』

なぎさ『なぎさ』

白狐『なぎさ、だけ?』

なぎさ『うらやす なぎさ、ろくさい』

白狐『う~ん···じゃあなぎさちゃん♪』

なぎさ『なぁに?』

白狐『呼んでみただけ♪』

なぎさ『む~』

白狐(···ん~···まさかこんな事になるとは思ってなかったわ···ん~···でも放っておくのも···)

なぎさ『しろきつねさん?』

白狐『なぁに?』

なぎさ『なにかんがえてるの?』

白狐『あの男の子の事♪』

なぎさ『······』

白狐『あら、嫌だった?』

なぎさ『そんなことない、よ···』

白狐(···あらあら、ちょっと拗ねちゃった···ん~···子育てって難しいのね。人の子なら尚更)

なぎさ『···なんでかんがえてたの』

白狐『嫌いなの?あの男の子···お兄ちゃんか弟かは分からないけど』

なぎさ『しらないやつだからしらない』

白狐『知らない奴?家族じゃないの?』

なぎさ『うん。おきたらここにいたの』

白狐(あら~···何か陰謀めいた物を感じるわ···あの男の子は知らないみたいだけど)

なぎさ『···こわい』

白狐『怖い?あの男の子?』

なぎさ『うん···だからきらい』

白狐(あの子も大変ねぇ···仲良くしたいって思ってるみたいなのに)

なぎさ『あっちはだめ。あそんで』

白狐『何して遊ぶの?』

なぎさ『···なんだろ?』

白狐『玩具も無いし···』

なぎさ『う~ん』

白狐『う~~ん···』

なぎさ『う~~~~ん』

白狐『う~~~~~ん···』

なぎさ『う~~~~~~~~ん!』

白狐『ふふ♪張り合わなくて良いのに♪』

なぎさ『えへ』

白狐(ふぅ···色んな親子を見てきた事が役に立ったわ···)

白狐(今まで人とは不干渉って決めてたからどうなるかと思ったけど···まぁこの子達は――)

 コンコン

なぎさ『!』ビクッ ギュ

白狐『どうぞ~♪』

 ガラッ

やくさ『···はい、ごはん』

白狐『······!稲荷寿司···!』ゴクリ

なぎさ『···』ジッ

白狐『あぁ、あぁ···!久し振りのお稲荷···!』ハグハグ

やくさ『うまい?』

白狐『美味しい···あぁ幸せ···♪』フグフグ

やくさ『よかったよ···じゃあ、でてく』ピシャリ

白狐『♪』ムグムグ

なぎさ『···ほんとにおいしい?』

白狐『ええ!はぁ···やっぱりお金より油揚げね!』

なぎさ『···?』

白狐『ほらほらなぎさちゃんも♪』

なぎさ『······』モグ

なぎさ(···おいしい)

白狐『ん~♪誰が作ったのかしら♪』

なぎさ『あいつ』

白狐『あいつ?あの子が作ったの?』

なぎさ『うん。とうさんがいるっていってたのに、みたことないもん』

白狐(···居る筈なのに居ない父親···怪しい、怪しい臭いがプンプンね!)

~~~~

やくさ『······』

やくさ(···どうしたらいいかな)

白狐『お悩み?』

やくさ『!どこから···』

白狐『神出鬼没···でしょ♪』

やくさ『···何だよ、妖怪』

白狐『あら、妖怪扱い···間違いじゃ無いけど···』

やくさ『ボクに何の用だって聞いてるんだ』

白狐『冷たいわねぇ、もう』

やくさ『だから』

白狐『あの子と君の事よ。せっかちは嫌われるわよ?』

やくさ『もうきらわれてる』

白狐『じゃあ仲良く、ね?』

やくさ『···妖怪のくせに』

白狐『もう、君の妖怪イメージってどうなってるのかしら!』プンプン

やくさ『わるいやつら』

白狐『にべもないわねぇ···でも、その割には、私の事···』

やくさ『だってあの子が···』

白狐『懐いてるから?』

やくさ『···ボクはキミの代わりになれないから』

白狐『それをどうにかしに来たの♪』

やくさ『···どうやって』

白狐『だからそれを考えに来たのよ。なぎさちゃんが眠ってる間にね♪』

やくさ『···何かわるいこと、考えてない?』

白狐『私は人が大好きな妖怪なの♪見守る立場に居るのよ♪』

やくさ『···かみさまってこと?』

白狐『あら、正解♪と言っても、今はただの喋る白い狐~♪』

やくさ『······』

白狐『むう、信じられないって顔』

やくさ『だって父さんが···妖怪はみんなわるいやつらだって···』

白狐『なのに家に上げちゃうなんて悪い子ねぇ』

やくさ『···だって、あの子がわらってるから。それに、たまにはそんな妖怪もいるって知ってるし···』

白狐『あら、それ、お父さんには内緒にしてるの?』

やくさ『···父さんだったらすぐやっつけるから』

白狐『過激ねぇ···』

白狐『てことはお父さん、妖怪退治のお仕事してるのね♪』

やくさ『そうだ、カッコいいんだ!ボクがおそわれそうになった時、たすけてくれたんだ!』

白狐『お父さん大好きなのね♪』

やくさ『うん!···でも、いいやつも···でも、わるいことしてない妖怪なんていないって言って···』

白狐『まあ、妖怪だもの。確かにその通りかもね。それ事態は悪く無いわ。でも···』

やくさ『···でも?』

白狐『それでも仲良くしたいって思う君は、きっとお父さんより凄くなるわ♪』

やくさ『父さんより···本当に?』

白狐『頑張ったら、だけどね♪』

やくさ『···わかった』

白狐『その前に、なぎさちゃんと仲良くしなきゃね~♪』

やくさ『う、うん···』

白狐(それから、やくさって名前を教えて貰った私は、二人を仲良くする作戦を···)

やくさ『···このへや、テレビないから···えっと···』

なぎさ『···』ジッ

白狐(頑張って考えてたんだけど···)

なぎさ『······』ボソボソ

白狐『え?ふんふん···』

やくさ『······』

白狐『変な事しないかって』

やくさ『するわけない』

白狐(結局数年経つまで直接会話しなくて···勉強は大事だからって、なぎさちゃんに強引に教えてたけど)

白狐(初めてなぎさちゃんが会話したのは、なぎさちゃんの名前に漢字が当てられてからだったわ)

白狐『やくさくん、やくさくんの名前って漢字で書いたらどうなるの?』

やくさ『ボクの名前?えっと、たしか···』カキカキ

八叉『···うん。黄泉永 八叉···これがボクの名前だ』

なぎさ『······(へんな名前)』

白狐『変わってるわね~♪』

八叉『······』

白狐『ところで八叉くん、折角だからなぎさちゃんに漢字当ててあげたら?』

八叉『ボクが?』

なぎさ『!』

八叉『良いけど···』チラッ

なぎさ『···』ジロッ

八叉『···このようすだけど』

白狐『気にしない気にしない♪いけるいける♪』

八叉(大丈夫かな···)

八叉『·········』カキカキ

なぎさ『』ジーーーーー

八叉(···ずっとにらんでくる···気まずい)

  『···あ~···。これで、良い?』

白狐『どれどれ···浦安 渚···。普通ね♪』

八叉『良いじゃないか普通で。辞書見てがんばったんだよボクは』

白狐『そうね~♪なぎさちゃんはこれで良い?』

なぎさ『···』

白狐『なぎさちゃん?』

なぎさ『あ···』

白狐『···あ?』

渚『靄ヒ躪龕イ蠹齲ア···』プイッ

八叉『······』

白狐『······』

白狐(何て言ったのかしら···)

八叉(一体何語だったんだ···)

渚『···。ありがと···///』ボソッ

八叉『···!···。······どういたしまして』

白狐(···とまあこんな感じで、渚ちゃんは八叉くんと会話が増えて言ったのよね。愛いわね~♪)

白狐(そんな渚ちゃん、テレビで気に入ってたのが···)

渚『······』ジッ

八叉『···仮面ライダー、気に入った?』

渚『······』ジッ

八叉(集中する程気に入ったのか···)

白狐(えっと、こう言うの、特撮?が好きになっちゃったみたいで···)

渚『···いつか、仮面付けないライダーになる···』

八叉(それはただのライダーじゃ···)

白狐(後、ブラックサンタ?とか何とかのハードボイルドアニメを見てて···夜の街を翔たいとか何とか···)

白狐(それから、二人は良く会話する様になって···本物の兄妹みたいにね♪)

渚『八叉兄』

八叉『ん?』

渚『あの、もう一回練習――』

八叉『駄目だ。渚は家事、絶望的に向いてないよ』

渚『そ、そこまで言わなくても···』

八叉『だから将来は家事全般が出来る人と結婚するんだぞ』

渚『む、余計なお世話。絶対驚かせる位料理出来るになるから』

八叉『楽しみにしてるよ』

渚『···そ、そう···///』

八叉(···ボクは皮肉のつもりだったんだけど、まあ、良いか)

白狐『あら、随分仲良くなったわね♪昔の貴女が見たら驚くわ~♪』

渚『んなっ···べっ、別に···そ、そういう訳じゃ···///』

八叉『な、無いのか渚···?そ、そんな···』

渚『あ、そ、そうじゃ···』

八叉『冗談だよ』

渚『······』

八叉『ボクが悪かった。だからにらまないでくれ』

渚『···ふんっ』

八叉『と、とにかく、ボクは買い物行くから』

白狐『行ってらっしゃ~い♪』

八叉『行ってきます』ガチャ バタン

渚『······』モフモフ

白狐『?どうしたの?』

渚『···大人って、どうやってなればいい?』

白狐『···あらあら~?もしかしてもしかして~?』

渚『な、何?』

白狐『ふふ、そんなに八叉くんと仲良く――』

渚『ち、ちがうから。料理上手くなって驚かせてやるだけだから』

白狐『あら、そうなの?残念···』

渚『どういう意味っ』

白狐『別に~?うふふ♪』

渚『むむ···』

白狐『にしても、料理上手になるのに、どうして大人になる必要があるの?』

渚『···大人になったら、何でも出来るって思うから。お父さんもお母さんも何でもしてくれた』

白狐『···う~ん、厳しい事言うと、大人になったって、出来ない事は出来ないわよ?』

渚『ええっ···!?』

白狐『ちょっと考えてみて?最初から料理上手な大人って居ると思う?』

渚『······いないの?』

白狐『もしかしたら居るかも知れないわね~♪でも、普通は今の渚ちゃんみたいなのよ?』

渚『今の私···?』

白狐『そう♪み~んな、料理なんて出来ない、小さな子から始まるの♪』

渚『じゃあ、どうやったらテレビにいるような大人になれるの?』

白狐『それはね、皆練習してきてるのよ?少しずつ少しずつ、上手になっていってるのよ♪』

渚『練習···』

白狐『だから、渚ちゃんも、ね?』

渚『···でも』

白狐『分かってるわよ♪今日の分、代わりに作って食べさせてあげたいんでしょ♪』

渚『な、何で···』

白狐『渚ちゃん、あんまり表情出さない様で意外とすぐに顔に出るのよ?』

渚『······』

白狐『別に顔隠さなくても』

渚『う~···』

白狐『···それにね?』

渚『?』

白狐『大人になるって、悲しい事なの···』

渚『······白狐さん?』

渚『···それ、何の台詞?』

白狐『これはね、バハ(ry)』

白狐『まあ冗談は置いといて···大人になるのは簡単じゃないのよ?』

渚『そうなの?』

白狐『本当の意味で大人になれる人なんて、実は多くないの』

渚『え、じゃあテレビの人は大人じゃ無いの?』

白狐『テレビの人は大人よ?でも、本当の大人かどうかは分からないわ』

渚『···本当の大人って、何?』

白狐『ん~···色々あるんだけど、その内の一つは···相手を深く愛する、慈愛の心を持つ事』

渚『じあい···?』

白狐『他にもあるけど、大体簡単に言うと愛ね!』

渚『愛···』

白狐『他の事は、生きていく内に、自分で見付ける事♪』

渚『···うん』

渚(···愛、愛···愛って、どんなのだろ···?)

~~~~

八叉『···えっ』

白狐『大丈夫よ♪私が付いてるもの♪』

八叉『不安しかないよ』

白狐『あら酷い』

渚『大丈夫だから!』

八叉『そうかな···』

渚『そうだよ!』

八叉『じゃあ台所に山積みの鍋と食器は一体何なんだい?』

白狐『キューン』

渚『うにゅ?』

八叉『何そのバレバレなごまかし方。だまされないよボクは』

渚『う···だって···』

八叉『···分かったよ』

渚『?』

八叉『料理···手伝ってくれるかな、渚』

渚『······ん』

白狐(う~ん、仲良き事は美しき哉···ね♪)

八叉『ただ、まずは食器、何とかしよう』

渚『···うん』

八叉『そして、危ないから手を添える形で教える事になるけど』

渚『そんな事――』

八叉『良いよね?』

渚『はい』

~~~~

渚『·····················』ズーン

白狐『···渚ちゃん、元気出して、ね?』

白狐(八叉くんが手伝っても美味しくならないのは、一種の才能ね···)

渚『···もう、家事やらない。養ってもらう』

白狐『その年でヒモ宣言は色々と駄目よ?』

渚『うぅ、だってだって···うぅ~~~!』ゴロゴロ

白狐(ああ、悔しさのあまり転がり始めたわ!)

渚『』ピタッ

白狐(?止まった?)

渚『·········~~~~っ///』ゴロゴロ

白狐(ああ、これはきっと八叉くんが後ろから抱き締める様な形で手伝ってた事が恥ずかしくなったのね)

白狐(私はずっとここに居た訳じゃなくて、時々元の場所に戻ってたけど···)

八叉『···渚』

渚『なに?』

八叉『···近い』

渚『気のせい』

八叉『お互いの鼻が当たりそうな位なのに?』

渚『うん』

白狐(いや~、随分と仲良くなって、ねぇ♪まあ渚ちゃんが素っ気ない態度を取ってた反省と反動なんでしょうけど♪)

白狐(でも、ある日から八叉くんは変わったわ)

黄泉永『···白狐。いや、白妙大神』

白狐『···あら、どうしたの?』

黄泉永『···私は、父の仕事を引き継ごうと思う』

白狐『······何かあったの?』

黄泉永『説明はする。しかし、渚には言わないで欲しい』

白狐(まるで中二病っぽくなった八叉くんから理由を聞いたけど···確かに言えないわね)

黄泉永『···私の親が人殺しだった。そして彼女の親を殺していた。そんな事、伝えたくは無い』

白狐(随分とやつれた表情から、相当ショックだったみたい···当然よね)

白狐(その後、蛟の水瀬ちゃんに会ったわね…)

水瀬『…我は蛟一族の生き残りだ』

黄泉永『水瀬と言っておけ』

水瀬『…分かったよ、我は水瀬、これで良いか?』

白狐『宜しくね~♪』

水瀬(…底が見えねぇな、何か嫌だ、苦手な奴だ)

白狐(…あれ、何だか引かれてる…)

黄泉永『白妙大神。貴女には事情を全て知って貰いたい。渚の為にも』

白狐(八叉くんは私に渚ちゃんの側に居て支えて欲しいと思ってたみたい。だけど…)

渚『…………誰、あれ。私だけ…』

白狐(この時、話は聞いてなかったらしいけど実は渚ちゃんが居たみたいで…)

渚『……ねえ白狐さん』

白狐『何?』

渚『八叉兄、誰連れてたの?彼女?』

白狐『気になる?』

白狐(この時の渚ちゃんは怒ってると言うかどう見ても嫉妬してたから、ちょっとからかおうとしたんだけどね…)

渚『……私、邪魔?』

白狐『え?』

渚『何か八叉兄の様子も変だよ…怖い…』

白狐『……大丈夫よ♪』

渚『…そう、だよね』

白狐(私が思ってたより、渚ちゃんの不安は大きかった…)

白狐(その後渚ちゃんは、突然こう切り出したの)

渚『一人で生きる』

白狐『ど、どうしたの?』

渚『もう黄泉永には頼れない』

白狐『頼れないって…』

渚『…今のあいつは、アタシの知ってる奴じゃない。触らぬ神に祟りなし、そっとしておいてやる』

渚(……そうだ。アタシは…アイツが遠くに行ったと思って…)

 それから、家出同然に飛び出して…今のマスターに、会ったんだった。

 一人で生きるのが大人なんだって思って、頑張って一人足掻いてた時だった。

『お前…家事下手くそだな』

渚『………だから言ったのに』

 今のリコリスのマスターじゃなくて、その前のマスター…まぁ先代に、リコリスに住み込みで働かせて貰ってた時…滅茶苦茶叱られた。

先代『ここまで天才的に下手だと思ってもなかった』

渚『ぐ…悔しいけど全く言い返せない…』

先代『誇っていい位だ。ギネスも狙える』

渚『不名誉過ぎるでしょうが!』

先代『うちにとっても不名誉なんだよ、お前の働き』

渚『うぐぅ…』

先代『···このままだと住まわせねぇぞ』

渚『そ、それは流石に···』

先代『じゃあ何でもする覚悟、あるか?』

渚『体は売らないんで』

先代『超肉体労働だ。ビルからビルに飛び移る程の』

渚『何ですかそれやります』

先代『言ったな?言質取ったぞ』

渚『それでしか役に立てないんだったら仕方ないでしょ?』

先代『若いもんがそんな考え方、と思うがまあいい、ちょっと来な···』

渚『···何です?この装備』

先代『銃とアンカーナイフ』

渚『はあ』

先代『本当なら武逸(たけはや)にやらせるつもりだったんだけどな』

渚『武逸さんに』

先代『でも思いの外あいつはバーテンダー向きだし、お前はこのままだと赤字にしてくれるし···』

渚『サーセン···』

先代『取り敢えず、だ。お前にはこの銃が使える様になるまで鍛えてもらう』

渚『修行って訳ですか。人気出ませんよ』

先代『お前の人気なんて高が知れてる』

渚『へぇへぇ、そうですよ』

先代『とにかく、生半可な筋力じゃ、この銃撃った途端腕が一回転するからな』

渚『それ腕千切れる』

先代『一回わざと相手に撃たせてやって腕ブッ飛ばした事もある』

渚『えっちょ、エグッ』

先代『で、こっちのアンカーナイフは素人でも使えるっちゃあ使える』

渚『はあ』

先代『代わりに思いっきり体引っ張られるから慣れねえと下手したら失神する』

渚『じゃあ素人無理でしょ』

先代『使えるっちゃあ使えるって言ったろうが』

渚『そこらも含めて鍛えろ、と。まあ良いですよ』

先代『随分軽い返事だな』

渚『見返してやりたい奴が居るもんで』

先代『そうか。それでゴミ漁ってたのか。笑えるな』

渚『全くですよホントに···はあ』

渚『···ところで』

先代『あん?』

渚『バーの仕事とこういう裏?のお仕事両立してたんで?』

先代『そうだよ。···最近は年だから、銃は撃ってねえけどな』

渚『はあ』

先代『とにかく、表の仕事は武逸、裏の仕事はお前がやる。良いな?』

渚『構いませんよ、どうせ何処で普通に働いたってトラブルメーカーになるんだろうし』

 んで、修行シーンはダサくて長くてつまんないので省いて…。

 武逸さん──今のマスターがマスターになって…先代が行方不明なる前に…。

先代『おい渚。お前勘違いしてるから言っとくが』

渚『はい?』

先代『一人で生きていけるのが大人…でもあるがな、人を支えるのも大人の仕事だ。武逸と仲良くやれ』

渚『言われなくても』

 大人が何たるかを教えて貰って…。

 偶然かは知らないけど、黄泉永と水瀬ちゃんに会って…。

黄泉永『久し振りだな、渚…』

渚『…………!』

水瀬『ん?知り合いか?』

黄泉永『ああ。………』チラッ

渚『…………』フイッ

黄泉永『………。…腐れ縁、だ』

 こん時の黄泉永は気を使ったのか、それとも家を出たアタシに対する怒りだったのか…兄妹とは言わなかった。今の気分的には嬉しいやら腹立つやらで複雑で…。

水瀬『ははぁん?かつてのアレ、か?』

黄泉永『あれ?…あぁ、そういう事か…全然違う』

水瀬『違うのか…』チッ

黄泉永『舌打ちするな』

水瀬『まあ取り敢えず…我は水瀬だ。宜しく頼む』

渚『(水瀬…!?)はあ…どうも、アタシは渚』

 この頃のアタシはお仕事で金稼いでたから、パソコンとかゲームとか買って楽しんでた…今でも楽しんでるけど。

 可愛い物好きなアタシは美少女が良く出るゲームを買い漁ってて…乙女ゲーやらは買わず、ギャルゲやエロゲを…ってどうでも良いか。

水瀬『あ~、渚…姐さん』

渚『誰が姐さんだ』

水瀬『いや~、呼ばれてる様なイメージがなぁ』

 丁度この時リコリスの常連客に姐さん呼ばわりされてたから、何で分かったのかと内心ドキッとしてたね。

水瀬『姐さん酒呑めるか?』

渚『姐さん言うな。…ちょっとは』

水瀬『おお!そうか!良かったぜ、黄泉永は呑まねえし呑ませてくれねえしでなぁ!』

渚『ほ~ん…相変わらず面倒見が宜しい事で』

黄泉永『そいつは酒を飲むと実際面倒なのでな。…君もそうだと言わないな?』

渚『さあ、どうだろね』

水瀬『…おん?何か来るな』

渚『何か?……』

 確かにこの時水瀬ちゃんの言う通り、何かが来てる感覚が。でも、目には見えない…お化け苦手なんだけど。

渚『いやいや、霊なんて居ない居ない……』

黄泉永『…君は離れてい給え』

渚『は?お断り』

黄泉永『…自己責任、だぞ』

 やたらと仰々しく言うから何か胡散臭くて、意地張ってたらさ…。

 サワッ

渚『っ!でえええい!』ブオン

 ベキッ

 誰も後ろに居ないのに誰かが背中触ってきたから後ろ回し蹴りブチかましたら、何か当たった。

 びっくりしたね。それ、幽霊だって言うんだもの。背筋冷えたね。

渚『幽霊って何!?物理当たる!?』

水瀬『当たるぜ。霊だっていっつも透けてたら疲れるしな』

渚『知らなかったそんな幽霊事情』

黄泉永『知っている人間が多くても不気味だろう?』

渚『そもそも知ってる事事態不気味だっつ~の!』

黄泉永『それはさて置き、後は任せ給え』

水瀬『悪霊退治ってな!』

 そう言ってアタシが蹴り飛ばした幽霊水瀬ちゃんが抑え込んで、黄泉永が何故かその幽霊に水ドボドボ掛ける様は、イジメみたいに見えてカッコ悪い。

 それが嫌だったのか、幽霊はあっさり消えた。何か可哀想だけど人に触ってきた罰だね。

 で、オレは…仕事を終わらせて…遊んで…酒呑んで…

渚「…俺?…何、何か…記憶が…?」

陽那「…なぎさ?」

渚「…ん…?何…?あ…じゃない、陽那ちゃん」

陽那「あ…?何言おうとしたの?」

渚「…分かんない、何か、こう、フワッと記憶が…う~ん」

陽那「ふわ~………?」

渚「そう、ふわふわっと。…まあ、良いや。あの炎野郎探そ探そ」

 軽い態度を振る舞ってたけど、内心色んな感情がグルグルしていた。

 何だか自分の身に自分も知らない様な事が起こってる様な…何というか…不安?と言うより…。

 …自分が塗り替えられていく、消えていく様なイメージ。心に染み付いて忘れたくても忘れられない…消失感。家族が死んだ時と似てる。自分が真っ白になる感覚。

 でも、それを陽那ちゃんに見せる事はしない。アタシだって一端の大人なんだから。

陽那「……大丈夫?(・_・`)」

渚「ん?大丈夫大丈夫」

陽那「………」

渚「そんなに心配?ひっどいなあ」

陽那「だって………」

渚「大丈夫!陽那ちゃんは大船に乗ったつもりで、ね?」

陽那「………うん」

 陽那ちゃんが気付いちゃう様な顔してたんだろうなアタシ。まだまだだなぁ…大人の道は遠い。

 誰かを愛し、支える事…それが大人…と言うか親。そう教わったんだから。

陽那「···なぎさ!」

渚「へ?ぼうっ!」ガンッ

陽那「!」

渚「い、痛い···鼻打った···」

陽那「···平気···?」

渚「ちょっとだけ···あ、鼻血出てない。良かった···」

 考え事をしていたら電柱に鼻をぶつけました。情けないやら恥ずかしいやら···くそぅ。

陽那「……ねえ」

渚「何?」

陽那「何処向かってるの?」

渚「……あれ?何かこっちじゃなきゃ、って思って…んん?」

「ほぉ…」

陽那「!」ビクッ

渚「この声…出たな怪人!」

「そっちから来てくれるとはなぁ」

 急に背後から後光が差すかの様に明るくなる。炎野郎の登場だ。

渚「お望み通り会いに来たけど?プレゼントとか無い感じ?」

「やれるのはてめぇの死だけだぁ!」

 早速炎の歓迎会に陽那ちゃん連れて避け逃げた。いやだって、真っ正面とか死ぬから普通に。炎だもん。

 街外れの木とか公園とかがある場所だから、逃げる場所は無い。だけど炎野郎の炎は遊んでんのか周りを燃やさないから、今は余裕ある。

渚「さあ、離れた所で……、真っ直ぐブチかまし!」

「ぬ…」

 久々感のあるゴールドエッジの蒼い光が炎野郎に直撃。

「いてぇな」

渚「わぁ全然効いてない」

 効かないとかアタシ聞いてないって…!

陽那「それ…」

渚「何!?」

陽那「溜めれるよ…?」

渚「…………。早く言って下さいよぉ!」

陽那「ご、ごめんね……?」

渚「所謂チャージショットね、成程……」

陽那「……いっぱい時間掛かるよ?」

渚「…何分?」

陽那「…十分くらい」

渚「長っ!」

「何喋ってんだぁ!」

渚「うるさい作戦会議だバカヤロー!」

「逃げんじゃねぇ!」

渚「待てって言われて待つ奴が居ると思う!?」

 くぅ~……!チャージ完了までガン逃げ作戦とか……何か真の力とか発揮してゴールドエッジぃ…!

渚「え~っと、陽那ちゃん他に何か知ってる事ある!?」

陽那「え、えと、太陽無いから、溜めにくいよ…?」

渚「成程。つまり今役に立つ事は無いと。わお」

「倒しに来たんじゃねぇのかよぉ!おい!」

渚「うっせうっせ!こっちも頑張ってるんです~!」

 何とかして時間稼ぎしなきゃなんないこの状況、ナンセンス!

 …アイツなら…って待て待て。何当てにしてるんだアタシは。自分で何とかしに来たんだろ~が!

渚「今聞いとくけど、最大溜めればアイツ撃退出来る?」

陽那「…見た事無いから…(´・_・`)」

渚「でも威力は?」

陽那「周りの景色が変わる位…」

渚「えっちょ、強っ。アタシ死ぬんじゃ」

陽那「大丈夫」

渚「ならオッケイ!」

「……よぉ。俺はお前にも会いたかったぜぇ?」

黄泉永「…それは光栄な事だ」

水瀬「おい黄泉永、姐さん気付かず向こう行ったけど」

黄泉永「走らせておけば良い。その内帰ってくる」

「あいつはまぁだ戦えねぇようなんでな、暇つぶしに付き合ってくれよ」

黄泉永「そうか…何しに来たんだ奴は」

水瀬「こういうのが予想出来たから来たんだろ?」

黄泉永「ああ…取り敢えず、暇潰しに付き合おう」

「随分余裕じゃねえか」

黄泉永「手に負えない酒呑み達に比べれば君など」

「面白ぇ!すぐ燃やし殺してやる!」

黄泉永「それは楽しみだ…」

渚「……あれ?居なくない?」

陽那「……居ないね」

渚「…え、撒いた?それはそれで良いけど困る」

陽那「…誰か、止めてる…?」

渚「……もしそうなら、アタシが知ってるの一人だけなんだけど」

陽那「……多分そう」

渚「…ちょっと、じゃあ一体いつアタシの大活躍が描かれる訳?」

陽那「……………(´・_・`)」

渚「ぬぐぐ……どっちにしても、我慢しないとさ……うぐぐ」

「燃えやがれ!」

黄泉永「全く…熱いな…」

水瀬「我は熱いの平気だけどな」

黄泉永「交代してくれ給えよ」

水瀬「嫌だ」

「てめぇら…何なんだ!」

黄泉永「燃えない事が不思議かね?」

水瀬「別に燃えてない訳じゃ無いけどな」

「ちっ」

黄泉永「爆破か?それも無駄だ」

水瀬「我、あんまりぶっ飛びたくないんだけど…」

黄泉永「我慢し給え」

水瀬「おい」

「その女の所為か!水が使えるのは!」

黄泉永「そうだ」

水瀬「居なくても使えてたろうが」

黄泉永「使えるだけではな」

水瀬「我が儘な奴」

黄泉永「向こうの炎馬鹿に言ってやり給え」

「てめぇ…!」

黄泉永「さて、面倒だからそろそろ終わらせよう」

「!」

水瀬「え、お前あれ使うの?」

黄泉永「何か問題でも?」

水瀬「いやよ、絵面的に…」

黄泉永「これがか」スッ

「…何のつもりだ。よりにもよって……!?」

水瀬「ほら見ろ、冗談と思われてるぜ…」

黄泉永「ただの水鉄砲だからな」

「ふざけやがって……!」

黄泉永「見た目に惑わされるとは…本当に“神”なのか?」

「てめぇ!」

黄泉永「………」ピシュ

「水なんか効くかよ!」

水瀬「あ~…立ったな、フラグって奴…」

「………!?な、体が…!?」

黄泉永「……その水は、触れた物を私の力で縛り、爆散させる事が出来る」

「なっ……」

黄泉永「完全復活前に出会った事を後悔し給え…」

「んだっ──」バシュ

水瀬「……跡形も無くなったぜ」

黄泉永「……あっさりとし過ぎだな」

水瀬「そういう時もあるだろ」

黄泉永「……だと良いが」

黄泉永(…どうにも不安が拭えないな)

渚「……陽那ちゃんや」

陽那「……」

渚「炎野郎消えたけど…チャージした奴どうしよ…」

陽那「……」

渚「……」

陽那「……空に撃てば……」

渚「………解決方法それだけ…?」

陽那「………うん(´・_・`)」

渚「そんなのってなぁ~~~い!!」

黄泉永「……何しに来たのかね、君は」

渚「こっちの台詞だっての!」

黄泉永「渚、人には向き不向きがある。今回は君向きでは無かったというだけだ」

渚「ぐぐ…確かに、向いてなかった」

黄泉永「分かったらその子を守る事に集中し給え」

渚「……まだ何か隠してるみたいだけど、そんなに言いたくない事情でも?」

黄泉永「……あると言えば納得してくれるのか」

渚「無理」

黄泉永「そうだろうな。君はそういう性格だった」

渚「……ちっ、アンタはそんな隠し事する奴じゃ無かったのに」

黄泉永「人は変わるものだ」

渚「あぁはいはいそうですか!」

渚「アンタ、黙ってる事が幸せだとでも言う気!?」

黄泉永「知らない方が幸せだったと思う様な事もあるさ」

渚「~~~このッ……!」

陽那「なぎさ……」

水瀬「あ~……ヒナ、だっけ?そっとしといてやりな」

陽那「え…」

水瀬「あの二人はもっと喧嘩とかした方が、我は良いと思ってる」

陽那「……」

水瀬「あ、乱闘騒ぎになったら止めるぞ?」

陽那「うん」

 ───ボッ

黄泉永「……っ!水瀬!」

水瀬「は?」

「てめぇらだけでも燃え散れ!」

水瀬「こ、こいつ…消えてなかったのか!?」

陽那「!(>_<)」

渚「陽那ちゃ…──!!」

渚【……失せろ、“迦具土”】

黄泉永「!渚…!?」

 雰囲気が全くの別人に変貌を遂げた彼女は、一切の躊躇いも無く、再び出現した炎の塊に向けて、銃に溜め込んだエネルギーを解放した……。

水瀬「……し、死ぬかと思ったぜ。何つう威力……」

陽那「怖かった……」

渚「………はぁ…ぐっ」フラッ

黄泉永「渚!」

渚「うるさい……アンタなんか居なくたって……アタシは……」

陽那「なぎさ、大丈夫?」

渚「ちょっと、平気じゃない……」

水瀬「姐さん、ほら背負うから」

渚「一人で歩けるから……それより、黄泉永……」

黄泉永「……何だ」

渚「さっきのは……分身体。本体は別…って変な記憶が……」

黄泉永「……そうか」

黄泉永(色々な不安が、全て的中している……くっ…)

渚(……間違い無く、アタシの身に何か起きてる。黄泉永は何か知ってて、陽那ちゃん…そして夜那ちゃんが関わってるのも分かってる)

陽那「…?(・_・)」

渚(でも、少なくともこの子はアタシをどうにかしようとしてる訳じゃない…その気があるのは夜那ちゃんの方だ)

渚(夜那ちゃんはアタシに陽那ちゃんを会わせたかったみたいだし…黄泉永が依頼してきたのもきっと偶然じゃない)

渚(黄泉永は夜那ちゃんを消そうとしてた……あの子が黄泉永に、アタシに対して依頼する様に無理矢理仕向けたのかも知れない)

渚(夜那ちゃんはアタシに変化を求めてる…?今のアタシの変化はあの子が望んだ物…?)

陽那「なぎさ……」

渚「…ん?何…?」

陽那「やっぱり、一人じゃ……」

渚「良いから……ありがと…心配、してくれて……」ナデリ

陽那「ん…(-_-)」

黄泉永「……水瀬」

水瀬「ん?」

黄泉永「“僕”は……間違えているのか……?」

水瀬「…さぁな。知らん。お前殆ど何にも言わねえもん」

黄泉永「……渚にあの事を言えば良いのか?これ以上嫌われる真似は……僕は……」

水瀬(こっちもこっちで重傷だな…)

水瀬「おい黄泉永」

黄泉永「………」

水瀬「我は良く分からん。だけどな、姐さんは信頼されてないって思ってる様に見えるぜ」

黄泉永「………」

水瀬「ま、言いたくないならそれはそれで。それ以上は我知らねー」

黄泉永(……傷付けない為の選択が、結果的に傷付けている……だが言っても傷付いてしまうのなら、どうすれば良いんだ……)

水瀬(……心配し過ぎは信頼してないのと同じだって、気付くのは何時になるのかね、こいつは)

渚(……黄泉永。どうして一人で抱え込もうとすんの…?そんなにアタシは頼りない訳…?)

渚(…そうだ、アタシは…何も言ってくれない事を、頼りにされてないんだと思って…)

渚(頼られる人間になりたくて、大人になりたいって、願ったんだ…)

渚(アイツもアタシも…過去に縛られてる……)

第7話 終わり

第8話
太陽燦々

─リコリス─

渚「……」グデッ

マスター「…随分お疲れの様ですね」

渚「ちょっと自分が分かんなくなってきて」

マスター「渚さんは渚さんでしょう?」

渚「そうなんだけど、そうじゃないって言うか」

マスター「…私も時々ありますよ。自分とは何かと思う事が」

渚「……」

マスター「でもね、すぐ思い直すんですよ。私は私にしかなれないのだと」

渚「はぁ…分かる様な、分からない様な…」

マスター「まぁ、深く考えても変わりませんよ、貴女は」

渚「…そうかな」

マスター「ええ」

マスター「しかし、渚さんでも悩みがあるんですね」

渚「おいこら、アタシを何だと思ってんの」

マスター「基本考え無しの可愛い物好きの変な人」

渚「全く否定出来ない」

マスター「少しは否定して下さいよ…」

渚「…ま、ちょっとは気が楽になったよ、うん」

マスター「ちょっと、ですか」

渚「そう、ちょっとだけ」

マスター「少しでも力になれたのなら幸いです」

渚「そ。じゃあこれからも力になって貰おうかな」

マスター「ええ、構いませんよ。人の悩みを聞くのも仕事ですから」

渚(…だからってさ、流石に自分が自分じゃなくなってる、だとか言っても困るだけだろうしなぁ…どうしようかな)

マスター(渚さん…。出来れば私は、今の貴女のままで居て欲しいんですよ…しかし…)

~~~~

陽那「……」

狐娘「おや、ヒナちゃん…でしたね。渚さんの傍に居なくても…」

陽那「…良いの…(´・_・`)」

狐娘「…むむ、何かお悩みの様ですね。私でも、力になれますか?」

陽那「………」フルフル

狐娘「う…そうですか…」

陽那「…ごめんなさい」

狐娘「いえ、良いんです。誰だって人には言えない事がありますから」

陽那「……あるの?」

狐娘「え、ま、まあ、はい…ちょっと小さい子には聞かせられないと言いますか」

陽那「…?」

狐娘「と、とにかく…そうですね、一人で抱え込んだら駄目ですよ。皆居ますから」

陽那「うん…ありがとう」

狐娘「ところで」

陽那「?」

狐娘「何だか渚さんの様子が変なのですが、何か分かりますか?」

陽那「…………ううん」

狐娘「そうですか…」

狐娘(これは…ヒナちゃんの悩みは渚さん関連でしょうか…)

陽那「………ねぇ」

狐娘「はい、何でしょう?」

陽那「……もしもね、自分が誰かを知らない内に傷付けてたら……」

狐娘「え~っと…その人に、素直に謝った方が良いと思います。その人が大切なら、特に」

陽那「……謝って、許して貰えなかったら?」

狐娘「う~ん…。それは、嫌ですね。そうならないよう祈ります」

陽那「……そう」

狐娘「…あんまり気に入らなかったでしょうか」

陽那「そんな事……」

狐娘「むむむ…長年生きてきて幼い子の力になれないというのは…」

陽那「長年……」

狐娘「ええ、妖怪ですので、人とは生きる時間が違います」

陽那「…じゃあ、知ってる?」

狐娘「何をですか?」

陽那「…神様が、人に生まれ変わる事」

狐娘「…ええ!?そんな人居るんですか!?」

陽那「……うん」

狐娘(…もしや…?)

男「お~い、狐娘」

狐娘「あ、男さん」

陽那「…」ペコッ

男「どうもヒナちゃん」

狐娘「どうかしましたか?」

男「ちょっと頼み事があってさ…」

狐娘「何なりとどうぞ」

男「あのさ、実は狼姉妹に言葉を教えようと思っててさ」

狐娘「二人に?良いと思いますけど」

男「たださ、言葉が分からないから…」

狐娘「成程、ちょっと心を読んで意思疎通を図って欲しいと」

男「そういう事」

狐娘「良いですけど、男さんなら私が居なくても大丈夫な気がします」

男「そうかなぁ…」

狐娘「当然手伝いますけどね」

男「ん、良かった」

陽那「……( ・_・)」ジー

男「どうしたの?」

陽那「……おとこは、きつねむすめが嘘吐いてても怒らない?」

狐娘「えっ」

男「場合に…よるかな」

陽那「場合…」

男「自分の保身の為の嘘は普通に怒る」

狐娘「吐きませんよそんな嘘!」

男「例え、例えだから…」

男「えと、で、俺を守ろうと思って吐いた嘘なら、何で言わなかったか怒る」

陽那「……どうして?」

男「え?ん~…そうだなぁ、自分一人で抱え込まれるのが悲しいから、かな」

狐娘「男さん…」

陽那「………」

男「あと、怒った後は精一杯抱き締める。守ろうとしてくれてありがとうって」

狐娘「男さん。その後は油揚げとか」

男「駄目。嘘吐いた罰で食べさせない」

狐娘「えぇ…そんなぁ…」

陽那(良いな…笑顔で、幸せで、明るくて…太陽、みたい…)

陽那「……太陽」

陽那(どうすれば、良いのかな…)

~~~~

渚「うぇぇ……ふっじさーん…」

マスター「渚さん、携帯鳴ってますよ」

渚「んあ?……はい、もしもし…」

『太陽が欲しい』

渚「あっそ…頑張って…」

『そうか。では』

渚「………は?ちょっと待って。おい、お~い!…やっちゃった」

マスター「何と?」

渚「太陽が欲しいとか意味分かんない事をさ…」

マスター「……あの子は、陽那は何処です?」

渚「……探しに──」

夜那【駄目】

渚「ひぎゃ!?…よ、夜那ちゃんね」

マスター「駄目?一体何を」

夜那【ふふ、貴女に夜あれかし……】

渚「は?うわっ、ちょっ、ゴールドエッジが…!」

夜那【今なら、色々出来るかもね…ふふ、行ってらっしゃい】フッ

渚「……消えた」

マスター「……銃口が増えてますね」

渚「銃身に銃口四つ追加って…」

マスター「……何が狙いなんでしょう」

渚「さあね。今は乗ってやる」

マスター「……大変な事が起こる気がします」

渚「その時はその時。さて、陽那ちゃん探しに行ってくる」

マスター「ええ、行ってらっしゃいませ」

男「?渚さん、どうしたんですか」

渚「陽那ちゃん見なかった?」

狐娘「居ましたけど……渚さんの所に帰ってないんですか?」

渚「………いや、居なかった」

男「……俺も手伝います」

狐娘「私も探します!此処の子達にも手伝って貰えば、すぐに見付かりますよ」

渚「ありがと。頼む」

狐娘「はい」

渚「……何処に行った、陽那……じゃない、陽那ちゃん」

狐娘(………大丈夫でしょうか、渚さん……何かが、変わっている様な…)

渚(うぐ…頭ん中、ごっちゃごちゃだ…アタシと“俺”の記憶が…)

渚「あぁ、もう…何なのこれ…」

男「渚さん、顔色悪いですよ」

渚「平気、へーき…これ位ならまだね」

デイ「あの~、何だか騒がしいんですが」

男「あ、デイさん。狼姉妹抱えて空飛んで貰えます?ヒナちゃんが近くに居なくて…」

デイ「ヒナちゃんが?……中々無茶言いますね貴方…でも了解です」

渚「何かゴメンね迷惑掛けてさ」

デイ「いえいえ、後で奢ってくれれば」

渚「アンタちゃっかりしてんね…良いけどさ。じゃ、アタシはいっちょ走ってくる」

渚(……あの電話。そいつが陽那ちゃんを攫ったとかだったら…)

 チリーン

渚「ん?」

鈴音「………」

渚「あ、鈴音ちゃん、どしたの?」

鈴音「もうすぐ満月の日…」

渚「へ?」

鈴音「ごめんなさい、深く教えられなくて」

渚「何か良く分かんないけど…」

鈴音「満月の日、門が開く…太陽の消失、常夜の世界…」

渚「ちょっと?鈴音ちゃん?」

鈴音「とにかく、時間が無いの。私には教える事もままならないから…」

渚「…覚えとく。ありがと」

鈴音「頑張ってね…」

鈴音(これ以上教えると消されかねないから…本当に、頑張ってね…)

渚(何か事態が思ってる以上に物凄く動いてるみたい…)

渚「……満月」

渚(夜那ちゃん……?)

渚「…今、それどころじゃないか」

~~~~

渚「はぁ…はぁ…全然居ない…そんなに遠くに居る筈無いのに…」

渚(外に居ないのか…?)

渚「そもそも、リコリスと神社は近過ぎて普通こんな風に居なくなれる訳無いのに…」

渚(……夜那ちゃんなら、出来ない事も無いけど…もしそうだとして、本当に何が目的…?)

 ブブブブ

渚「…また電話?…もしもし」

黄泉永『…渚、黄泉永だ』

渚「何?今アンタと話してる暇──」

黄泉永『陽那と夜那の居場所を知りたく無いのか?』

渚「!知ってるのか!」

黄泉永『……夜那がまた私達に教えに来たのだ、陽那の居場所をな』

渚「……。何処だって?」

黄泉永『地下だ。大きな地下基地…だそうだ』

渚「はぁ?んなもん何処に…」

黄泉永『今私達も探している。発見したら教えて貰いたい。夜那の件があるのでな』

渚「…善処はしてやる」

黄泉永『そうか…では頼む』

渚(デカい地下基地…ねぇ…)

 ブブブブ

渚「また電話…もしもし?」

マスター『ああ、渚さん』

渚「マスターか、何?」

マスター『デイさん達が陽那を探していたのですが…』

渚「分かってる。で、場所分かった?」

マスター『それが…』

渚「…何?何かヤバいの?」

マスター『…地下鉄です』

渚「は?」

マスター『どうやら…地下鉄に気配があるそうで…警備員を装った武装集団が居たのを見て、逃げ出したそうですが…』

渚「地下鉄って…駅構内にあるって言うのか」

マスター『取り敢えず、待ち合わせましょう。出雲駅前ですよ』

渚「…え、マスター来んの?…今は良い、急いで行く」

~~~~

渚「……マスター、どうしてその二人呼んだ訳?」

男「いや、その…」

狐娘「少しは力になります!」

渚「狐娘ちゃんはともかく、そこのは…」

狐娘「居ないと力出ません」

マスター「私にとっても、ね」

渚「…?」

水瀬「よっ!姐さん!」

黄泉永「最近良く会うな…」

渚「アンタが呼べって言ったんだろが」

黄泉永「そうだな」

渚「アタシの邪魔すんなよ」

黄泉永「そもそも目的が違うのだ、邪魔にならんよ」

渚「どうだか…」

黄泉永「本来なら居場所を探る事は私達も出来たのだが…」

水瀬「何か上手くいかねえもんで」

渚「もう分かったんだ、さっさと潜り込む」

マスター「あ、渚さん!」

狐娘「走るの速いですね…」

~~~~

夜那【ねえ陽那?】

陽那「………(-_-)」

夜那【どうしてそんなに暗いの?なんて、ずっと夜だからね】

陽那「………(-_-)」

夜那【私が夜にしてると思ってる?】

陽那「……(._.)」

夜那【私でも、そんな力無いからね?ただ、お父様に会う位の力はあるけどね】

陽那「お父様……」

夜那【そう、お父様。私達を産んだ…】

陽那「……」

夜那【もうすぐ、迎えに来る…とっても楽しみ♪】

陽那「…………違ったら?」

夜那【有り得ない。絶対に】

陽那(………なぎさ…)

~~~~

渚「っ……」

渚(今の……陽那ちゃん?)

渚「………地下鉄じゃない…もっと、道の逸れた……」

マスター「渚さん、どうしました?」

渚「……多分、地下鉄の線路の中に、繋がる道がある…こっち」

マスター「え、ちょっ、ちょっと待って下さい」

渚「何?」

マスター「それはつまり線路に飛び込むって事ですよね?だとすると…」

黄泉永「……何とかしてみせよう」

マスター「黄泉永さん」

黄泉永「要は他人に見られなければいい」

渚「水遁の術ってか?」

黄泉永「そんな所だ。行くぞ」

渚「で、何すんの」

水瀬「ん?ただ水撒くだけ」

渚「は?」

黄泉永「じっとしてい給え」バシャ

渚「おま、ちょ、水掛け……あれ」

マスター「水が、宙に漂っていますね…」

黄泉永「それが消えるまで、範囲内に居れば人には見えん」

水瀬「気配は消せねえけどな。人の近くを歩いたら割とバレるぜ」

渚「…アンタの方がよっぽど潜入向きじゃん」

黄泉永「この水は一々濾過と電気分解しなくてはならないのだ」

渚「あぁ、そう…」

男「あ、あの…」

狐娘「皆さん速いですよぅ…」

渚「マスター、黄泉永。ちゃんとこの二人守っててなよ」

渚「じゃ、ちゃんと付いて来い」

マスター「お願いします…電車が来る前に辿り着けますよね?」

渚「分からんな」

狐娘「ちょっと!」

男「辿り着く前に死んだら元も子も無いですよ!」

渚「頑張れ。アタシも頑張る」

水瀬「雑だな姐さん…」

~~~~

「おい、ちゃんと見張ってるか?」

「見張るも何も、人来ねぇだろ」

「だろうけどよ」

「しっかし、あんな小さいガキが本当にそうなのか?」

「知らねえよ、俺ら下っ端にはな」

「本気で俺達だけに日が差す様になんのかね…」

「本当なら、ガキ一人で奪い合いが起こるな…日光権って感じか?」

「奪われない様にする為に武器持ってんだろ」

「そうだな。だけど今は…くぁ、暇だぜ」

渚「…じゃあ、暇を潰してやる」

「かっ…!?」

「おげっ…」

黄泉永「…おい、渚。今のは通り抜けられた」

渚「あっそ」

黄泉永「…全員倒す気か?」

渚「アタシの陽那ちゃん連れてったんだから当然でしょ」

黄泉永「はぁ…分かった付き合ってやる」

渚「ならさっさと来い」

男「はぁ…はぁ…死ぬかと思った」

狐娘「あの…ごめんなさい男さん。背負わせてしまいました」

男「いやいや、良いんだよ…」

マスター「まさか、こんな所に基地を造るとは…確かに分かりませんね」

狐娘「線路の脇に造るなんて凄いです…」

男「…突然造るなんて絶対出来ないから、前からあったのを改造したんだと…」

マスター「そうですね。非常口だったのを知らぬ間に大きくしたんでしょう」

狐娘「大き過ぎますよ…随分前から作り出されてたんじゃ…」

男「元々こうだったのを勝手に使ってるって可能性も…」

マスター「どちらにせよ、厄介な所です」

男「そうですね…敵が来たら俺達戦えないから…」

狐娘「ちょっと、頑張って周囲の心を読んでみます。多少は役に立てると思います」

マスター「お願いします」

マスター「と言っても、私戦えますから、少しは安心して下さい」

男「そうなんですか?でも…」

マスター「貴方達を巻き込んで申し訳ありませんが…男さん、貴方が必要なんです」

狐娘「男さんが、どうして?」

マスター「……その、貴方の極大の妖力ですが…」

男「え…」

狐娘「あっ…だ、誰か来ます」

マスター「…驚かれるとは思いますが、失礼します」

男「え、え?」

マスター『…剣よ…力を…』

男「え、え、え!?」

 ズ ズズズ…

マスター「さぁ、行きましょうか」

男&狐娘「………えええええええええええ!?」

マスター「あっ、驚き過ぎ…」

「誰だ!」

男「あ」

マスター「失礼っ…!」ブンッ

「ぐふ…!」ドサ

マスター「全く…たまたま一人だけでしたが、もっと来ていたら危なかったですよ」

狐娘「だ、だ、だって、男さんから、おっきな剣が出てきたんですよ!?」

男「な、何なんですかその剣…そして貴方は…!」

マスター「…慎重に進みながら、静かに話しましょう」

~~~~

渚「……」

黄泉永「……」

水瀬「……」

水瀬(今思うのは駄目なの分かるけど…気まずっ…!)

黄泉永「…妙だな、気配が薄い…いや少ない…?」

渚「奥に何人も居るんだろ…」

黄泉永「…それはそれで困るが」

渚「なら誘い出して潰してけば良い」

黄泉永「戦力が分からない今、もう少し慎重に…」

渚「それはアンタより分かってる…」

黄泉永「…なら良い」

水瀬(でもやっぱ…息合ってるんだよなぁ…前から)

渚「…!敵…」

 コツ コツ コツ

水瀬「一人だけみたいだな…」

黄泉永「どうする」

渚「…任せろ」パシュン

黄泉永「…何をした」

渚「罠を仕掛けただけ」

水瀬「罠?」

 カチッ キィィィィィィィン

黄泉永「っ!伏せろ!」

 バッゴオオオオオオオオオオ………

水瀬「………………姐さん、やり過ぎ」

渚「…ゴメン、こんな威力とは思ってなかった」

黄泉永「……何だ…?壁だけが消し飛んだのか…」

水瀬「敵さんは…目ぇ回して寝てるな」

渚「…さっきのはたまたま物質に効くタイプになった感じみたいで」

水瀬「普通だったらあの範囲死んでるもんな、我らも…」

黄泉永「…不用意に使うな。心臓に悪い」

渚「はいよ…」

水瀬「…にしても、警報とかならねぇのか?」

渚「鳴らせばここに基地がある事が判明する。恐らくは無いな」

黄泉永「しかし、今ので当然侵入には気付かれただろう…慎重にと言った筈だが」

渚「…イケる、と思って」

黄泉永「今その銃は未知数だ。爆発させる力は控えろ。崩落に巻き込まれる気が無いならな」

渚「分かってる」

黄泉永(…凄まじく不安だ…今の渚は陽那の為に何をしでかすか分からない…)

~~~~

 …オオオオオオオオン……

狐娘「い、今の音…」

マスター「…渚さんでしょうね」

男「分かるんですか?」

マスター「いえ、崩れ落ちる危険な場所でも爆発物を使うのは、と考えまして」

狐娘「過激な人ですね…渚さん」

マスター「可愛い物の為なら何でもやりかねない人ですから」

男「……色んな意味で危ない人だ」

狐娘「あ…、それより、さっきの話…」

マスター「…この剣に関する話ですね」

男「…はい。どうして、俺からそんな剣が…」

マスター「簡単です。この剣が巨大な妖力となって貴方に入っただけです」

狐娘「……。え?それだけですか?」

マスター「それだけです」

男「い、いや、もっとあるんじゃ」

マスター「貴方に妖力が入ったのは偶然でしょう。元々人より多く持っている様ですしね」

狐娘「…あ、確かに男さんから感じます…」

男「…じゃあ、それらを知ってる貴方は何者なんですか…?」

マスター「……私は」

狐娘「あ、また人が…!」

男「さ、さっきの爆発を聞いて…?」

マスター「そうでしょう。…男さん、狐娘さん、話は…」

男「後で聞きますから」

マスター「申し訳ありません…必ずお話しますので」

狐娘「あの、頑張って下さい、としか、その」

マスター「ええ、ありがとうごさいます。お二人はここで待っていて下さい」

男「はい…」

狐娘「お願いします…!」

マスター(男さんと離れても剣が現出し続けるなら、彼等を巻き込まなくても済んだのですが…)

 ザッ ザッ

マスター「!……?これは…」

黄泉永「……マスター」

マスター「……黄泉永さん?」

黄泉永「ここで会うとは…」

マスター「何があったんです」

黄泉永「…渚め。奴が爆破させなければ、分断される事も…」

マスター「あぁ…やはり、あの爆発は渚さんでしたか…」

黄泉永「お陰で結局崩落に巻き込まれ、二人と分かれてしまったよ…全く」

マスター「…取り敢えず、こちらに」

黄泉永「ああ」

狐娘「…あれ?黄泉永さんだったんですか」

マスター「ええ、そうでした」

黄泉永「見事に分断されてしまってな…渚の所為でな」

男「…やっぱりあの爆発…」

マスター「ええ、やはりそうでした」

黄泉永「…まぁ、こうなってしまってはどうしようも無い」

狐娘「大丈夫なんでしょうか、渚さんと水瀬さん」

黄泉永「絶対に大丈夫ではない。生き埋めにされるかも知れない。私達が」

男「えぇ……」

黄泉永「取り敢えず、今はあの二人を置いておこう」

男「えっと、どうして…」

黄泉永「助けに行くべき者の場所を移される訳にはいかん」

マスター「そうですね…」

狐娘「なら、急いでいかないと」

黄泉永「注意は嫌でも向こうが引き付けるだろう。こちらは隠密に行こう」

マスター「分かりました」

男「急いで隠密にって…」

黄泉永「また水隠…潜入した時に使った物を使う」

 ……オオオオオオオオン………

マスター「…またしてますね」

黄泉永「………。早く行こう」

~~~~

渚「どきやがれぇぇぇ!」

 二人程度の幅の狭い道を、ゴールドエッジを高速連射タイプに切り替えて、撃ちながら駆け抜けていく。

 今の渚はさながら暴風、向かって来る敵も止めようが無かった。

水瀬「姐さんかっ飛ばしてんな!」

 負けられねえと意気込む、渚を止める気も無い水瀬。上から唐突に急襲する敵に平然とボディブローを食らわせてはぶっ飛ばして走り抜けていく。

 渚には確信があった。陽那の居る場所に向かっている事を。彼女は何故か、陽那の居場所を感じ取っていた。

 これが陽那との信頼の証ではなく、自分の身に起こっている変化が原因である事は、渚も自覚している。だが今の彼女は変化しきった時の事など頭にはない。ただ、敵を全員ボコボコにして陽那を助ける事しか考えていない。

渚「邪魔する奴はぶっ潰す!邪魔しない奴もぶっ潰す!どいつもこいつもぶっ潰ぅす!」

 ブチ切れて手の付けられない渚から逃れようと背中を向ける敵も居たが、彼女は容赦など一切無く、その背に銃撃していく。

 もしもゴールドエッジが敵を深く気絶させる効果でなければ辺り一面血の海になっていただろう。

 そうして崩れる事も恐れず最短ルートと称して爆破に爆破を重ね、陽那の下へと一直線に向かっていき──。

夜那【あれ、思った以上に早い……】

 渚の視線の先には困った様に頬を掻く仕草をする夜那が居た。そして…。

渚「ふぅ……迎えに来たよ」

陽那「なぎさ……」

 大荒れしていた先程と違い穏やかな様子で、渚は陽那に微笑みかけるも、陽那は不安が拭えないのか表情は曇ったままだ。

夜那【おめでとう。ここまで来れるなんて凄いね。でも…】

「くれてやる訳にはいかん」

 渚の視界の端から、謎の男が物々しく現れる。電話口で聞こえた声と同じだと、彼女は察する。

渚「誰だ」

王「太陽の王になる男だ」

 何ら恥じる事無くそう言い切った男に銃を向ける渚。その顔は「何言ってんのコイツ」と言わんばかりだった。

渚「どう邪魔してくれる訳?」

 突然の相手に苛立ちを隠す事無く、今すぐにでも引き金を引かんと銃を強く握り締める。

王「気になるかな?」

 王を名乗る男の不遜な態度が酷く不快に感じ、渚は遠慮などやらないと、引き金を引いた。

王「無駄だよ」

 その言葉と共に撃ち放ったゴールドエッジの光線は、須く消し去ってしまう。

王「その銃は太陽の力を持つ。同じ太陽の力を持つ者には通用しない」

 太陽の力。聞き覚えこそ無いがそれが陽那の力である事は渚も理解した。同時に、目の前の男に激しい怒りが湧き上がっていく。

渚「貴様ぁ……陽那の力を奪ったな…!?」

 彼女が感じ取っていたのは陽那では無かった。陽那の力を全て奪ったこの男であると、彼女の中の何かがそう判断していた。

王「ほう?そこまで理解出来てしまう程、進行しているのか…」

渚「意味の分からん事を!」

王「分からないのであれば、己の内に聞けばいい。まあ、その時間も無い様だが」

 まるで吐き捨てるかの様に語るその男に、銃を向けていた渚は膝を崩してしまう。怒りが困惑に変わり、何が起こったのか彼女は必死に考えている。

渚「う、ぐ……!」

 すぐさま立ち上がり、目の前の男に殴り掛かりたいというのに言う事を聞かない体に、彼女は焦りを抱く。

王「さて、太陽の子、行こうか」

陽那「………(._.)」

 何処かへと連れられていく陽那を止めようと、必死に腕を伸ばす渚。しかし、体は動かず、倒れ伏してしまう。それでも諦めず、這いずってでも動こうとするが……。

夜那【もう駄目だよ】

 彼女の目の前にふわりと浮かぶ夜那は、まるで誕生日にプレゼントを貰った子供の様に喜んでいた。

夜那【ふふ、お帰り、って言うの楽しみ♪】

 ふわふわと踊る夜那と、その下で這い蹲る渚。異様な空気である事は誰が見ても分かる。

水瀬「ちょ、姐さん速すぎ…って…」

 渚が起こす爆破による瓦礫を避けながら、何とか追い付いた水瀬の目にも、異常事態である事はすぐ判断出来た。

 その後を追う様に続々とマスター達がそこに駆け付けてくるが、やはり危険な状況である事は理解した。

黄泉永「渚っ!…夜那!」

夜那【もう何人来ても、意味なんて無いからね。帰ってくるから】

 夜那のその言葉は、黄泉永とマスターにある確信を抱かせた。

黄泉永「まさか…!?」

夜那【そう、戻しちゃう】

 戻す、という単語に強い動揺を、黄泉永は示していた。水瀬が心配そうに見ていたが、場の状況故か傍に近寄る事はしなかった。

夜那【分からない人も居るから教えるね?】

 そう言うと夜那は渚、黄泉永、マスター、そして自分自身を指差し、不敵に微笑む。まるで悪魔の様に。

夜那【みぃんな、神様の生まれ変わり…陽那もね?】

 その言葉を聞いた周りの反応は違っていた。水瀬と男は信じられないとばかりに驚愕し、黄泉永とマスターはとうとうバレたと暗い表情になる。

 そして、狐娘は連れ去られる前の陽那の言葉を思い出していた。あれは陽那自身も指していたのだと。

渚「………どうして……言わなかった……!」

 倒れたまま、声を絞り出しながら黄泉永とマスター、二人を睨み付ける。強い怒りと、同時に悲しみも混ざった瞳をしていた。

夜那【ふふ、お話は、元の場所で、ね?】

 夜那の微笑みと共に真っ暗な闇が周囲を包み、腫れ上がった時には、既に景色は──。

~~~~

渚「……」パチッ

狐娘「あっ、渚さん!」

男「目が覚めたんですね…!」

渚「………」キョロキョロ

狐娘「他の人達は下に居ますよ」

渚「………ここは、"私"の、家?」

男「そうです。…あ、勝手に入ってすみません……」

渚「………いい」

狐娘「大丈夫、では無いですよね…」

渚「……ちょっと、は」

男「休んでて下さい。ご飯作るんで」

渚「ん……」

渚「………酒」

狐娘「駄目に決まってます!」

渚「一口だ」

狐娘「駄・目・で・す!」

渚「…………ケチ」

狐娘「酔って逃げようなんて、駄目ですよ…」

渚「………最後の、晩餐、かも、だから」

狐娘「そんな弱気な……渚さんらしく無いと思います」

渚「……私らしさ、って何?」

狐娘「えっ……」

渚「私?アタシ?俺?………分かんなく、なっちゃってて……」

狐娘「渚、さん」

渚「…………」

渚「……あの、二人から…何か聞いてる……?」

狐娘「…はい」

渚「……私はさ、何者なの……?」

狐娘「……伊耶那岐、だそうです」

渚「イザナギ……?日本作った、っていう……?」

狐娘「はい」

渚「……ふぅん………後は、分かった……」

狐娘「へ?分かったんですか?」

渚「……武逸さんが、スサノオ……陽那ちゃんが、アマテラス……夜那ちゃんが、ツクヨミ……。黄泉永、いや……八叉兄が、イザナミ……」

狐娘「…!どうして分かったんですか…!」

渚「記憶……出てくるんだ……」

狐娘「それって……伊耶那岐の、って事ですよね……」

渚「……そうみたい。……このまま、私、消えるのかな……」

狐娘「渚さん…!ヒナちゃんにこのまま会わないつもりなんですか!」

渚「………陽那ちゃん……」

男「……出来ましたよ」

渚「ありがと……──」

 カッ

渚「!?」

狐娘「ま、眩しい……!」

男「何だこの光……!……太陽?」

渚「……!陽那ちゃんが……!」

 目の前を真っ白に覆った光が止んだ時、空を埋め尽くす暗き夜がある場所だけ晴れ上がっていた……。

渚「……あそこに、陽那ちゃんが…」

 天から注ぐ光の柱を、誰もが見つめていた──。

第8話 終わり

第9話 波打ち際

 それはすぐにニュースとなった。

 突然の光、そしてその光…太陽を支配したと言う武装集団…。

 当然人々は理解出来ず、ただ困惑するだけであった。大きな危険が差し迫っている事を認識しているのは、ほんの一握りであろう──。

男「……色々と、詳しく教えて下さい。二人共」

狐娘「このまま知らないままなんて嫌ですからね」

マスター「私は構いませんが、黄泉永さんは……」

黄泉永「…もう隠す意味も無い。正直に話そう…だが」

男「何です?」

黄泉永「私自身も深くは知らないのだ」

水瀬「何でだよ」

黄泉永「……父から聞いた話だからだ」

水瀬「……そうかい」

黄泉永「…兎に角、君達にも知る資格がある。教えよう、私達と神の関係を」

男「お願いします」

黄泉永「……神と言う存在は、今の時代でも居る事は、君達なら既に分かっているだろう」

狐娘「黄泉永さんに教えて貰いましたから」

黄泉永「そうだったな。では、神が居るのであれば、神話に語られる神達は何処に居ると思う」

男「…ヨナちゃんが言ってた、生まれ変わり…ですか」

黄泉永「そう…前にも言った様に、神の肉体は死しても魂は滅びない…その魂は輪廻転生し、現代へ受け継がれていく…」

狐娘「それが渚さん達なんですか…?」

黄泉永「……正確に言えば、私は違う」

男「え?」

マスター「……渚さんと黄泉永さんには、神としての記憶が無かったんです」

水瀬「おいおい…何だよ神の記憶ってよ」

マスター「そのままですよ。神の魂が記憶した事も、現代に受け継がれる様です」

水瀬「なら、何で姐さんと黄泉永は…」

マスター「黄泉永さんは力だけを受け継いだ、不完全な転生…魂は誰かに持っていかれたのかと」

黄泉永「そんな事が出来る者など、一人しか、居ないがな…」

水瀬「……お前の父親、ね。成程」

男「貴方はその記憶、あるんですか」

マスター「ええ。夜那も間違い無く、陽那も恐らくはあるでしょう」

狐娘「どんな記憶なんですか?」

マスター「色々です。長くなるので殆ど言いませんが…誰が誰の生まれ変わりか、魂の片割れの記憶などですね」

狐娘「片割れ…ですか?」

男「…俺、ですか?」

マスター「そうです。黄泉永さんの様に、魂が私に、力が貴方に分裂してしまったようで」

狐娘「男さんの高い妖力はそれが原因だったんですね…。神様も、男さんの魅力に惹かれたんでしょうか」

マスター「成程、面白い表現です。そうかも知れませんね」

水瀬「分かんねえのか?」

マスター「そこまで記憶がある訳でも無いので…私も不完全ですから」

男「不完全…」

黄泉永「それ故に、陽那と夜那の様にはなっていないのだ」

狐娘「あの二人は、そうなんですか…?」

マスター「でしょうね…」

黄泉永「あの二人は完全に目覚めている。夜那に至っては、肉体が無いのにだ」

マスター「魂だけで現世に影響を及ぼせる程ですしね…」

水瀬「実は強力な奴だったのか…」

狐娘「では、あの姿は……?」

黄泉永「夜那…いや、月読と言った方が良いか…奴が今まで見てきたお気に入りの人間の姿だろう」

マスター「月読は不定形。月が色んな顔を見せる様に、彼女も色んな姿、性格を持ちます」

水瀬「んな風には見えなかったけどな…」

マスター「世界中が夜になっているのですから、今の彼女は文字通り何でも出来る筈ですがね…」

黄泉永「逆に陽那は太陽の力を殆ど持たない。が、それでも……」

男「一部分だけでも、陽を差せるんですからね…」

水瀬「……じゃあ、姐さんは?姐さんは、何で今ああなってんだよ」

黄泉永「……奴は……」

マスター「あれは──」

渚「──自分で、言える……」

マスター「な、渚さん!」

水瀬「おい姐さん大丈夫なのかよ!」

男「まだ体調が…」

狐娘「休まないと駄目ですよ!」

渚「休んでたって……何にもならないから……」

黄泉永「…………渚」

渚「……全部、聞いてたから」

黄泉永「……そうか」

水瀬(う…空気が……)

渚「……私は、魂が眠ってた……」

狐娘「眠ってた…?」

渚「番いが居なかったから…目覚める事も無かった……」

水瀬「……番い……黄泉永、ってか伊耶那美か?」

渚「そう……」

渚「でも、イザナミは不完全……イザナギも目覚めないまま……」

黄泉永「……だが、夜那によって陽那…天照の力を得る様仕向けられた……」

渚「陽の力は、使えば使う程、イザナギを少しずつ起こした……そして今、完全に目覚めようとしてる……」

狐娘「…陽那ちゃんは、そうなると分かっていたんでしょうか」

渚「いや…この夜の世界じゃ、記憶もあやふやに……」

マスター「では、陽那に悪意は無いと?」

渚「でも……私がこうなった理由は、自分だって……罪悪感を覚えてる……」

黄泉永「………」

渚「だから、私は助ける……私が助ける……!」

水瀬「ちょっ、無茶だって!」

渚「どうせ、私の意識が消えるなら……私の意志で、助ける」

マスター「……決意は、固い様ですね」

男「ちょっと!それで良いんですか!」

狐娘「どんな事になるか……!」

渚「……ごめんね。もう、決めたから」

狐娘「うぅ……黄泉永さん!」

黄泉永「……私に止める事など出来ない」

狐娘「そんなぁ…」

黄泉永「…だが、付いていかせて貰うぞ、渚」

渚「…ん」

水瀬「わ、我だって行くからな!」

狐娘「私も付いて行きますから!良いですよね、男さん!」

男「狐娘が行くなら俺だって行くよ」

マスター「では、私も行かせて頂きます」

渚「……分かった」

~~~~

 現在、光の柱の周りには人ゴミとヘリコプターが集まりつつあった。

 片や取材、片や野次馬、共通する目的は陽を浴びるという事。その中にはリコリスの常連客も居たのだが……。

新入り「いや~、見事な光っスね」

若「祭やってみてえ~」

爺「もうお祭り状態だがの」

新入り「そうッすね~」

爺「…これからもっとお祭りになると思うと…」

若「楽しみだぜ…!」

新入り「え?どういう事ッすか?」

爺「ま、見てれば分かる」

新入り「…?」

サイタマサイタマ!

~~~~

狐娘「ところで」

黄泉永「どうした」

狐娘「陽が差している場所って、どう見ても大きなビルですよね」

黄泉永「…見た目が新しい辺り、元居た者達を脅して奪ったか、最初から取引をしていたか、だな」

水瀬「取引?何だ、お前らにも陽を浴びせてやるからってか?」

黄泉永「さぁな、予想にしか過ぎん」

男「……そもそも、どうしてあの人はヒナちゃんが太陽に関係あるって気付いたのか…そこも疑問ですよね」

黄泉永「……確かにな。夜那が教えたと考えるのが普通に思えるが」

男「…渚さんをあの状態にする為だけに、ですか」

黄泉永「…考えていても、もう仕方が無い」

水瀬「……黄泉永」

マスター「…お待たせしました」

黄泉永「マスター」

水瀬「何やってたんだよ」

マスター「少々、コネを使いまして…」

狐娘「コネ?」

マスター「ええ、それで…装甲車を」

男「え」

マスター「まぁ、装甲車と言っても防弾仕様のトラックというだけですがね」

黄泉永「そんな物が…」

マスター「前マスターが色々としていましてね」

男「はぁ…」

マスター「渚さんはもう乗せています。皆さんも乗車を」

黄泉永「分かった、行こう」

─トラックの荷台─

渚「……」

渚(陽那ちゃんに会うまでに、どうにか保つかな……)

狐娘「あの、渚さん。無理は禁物ですよ」

渚「……ん、分かってる」ナデリ

狐娘「……」

渚「…何?」

狐娘「渚さんなら、抱き締めて匂いでも嗅いでくるのかと思ってました」

渚「…してほしい?」

狐娘「いいえ」

渚「……残念」

渚(私なら…か…)

 走り、揺れる荷台の中で、渚は昔の事を考えていた。何が自分を自分らしくしていたのか。

 昔は人見知りで、知らない相手には話しにくかった事。

 黄泉永と出会って少し明るくなった事。

 前マスターと出会った事で、生き方が変わった事。

 そして…陽那に出会った事。

 何もかもが今の自分を作り出したのだと、そう考えていた。

渚(絶対、この中の神の力じゃない……!)

 最期まで抗うと、渚は心に決める…。

 そして、彼女達は目的地に近付き…。

黄泉永「…む。止まった?」

マスター『皆さん、すみません。どうも相当数の人が集まっていて……』

渚「強行突破」

マスター『…はい?』

渚「強行突破」

マスター『聞こえてます。…本気で』

黄泉永「行けるのなら行ってくれマスター。時間が無いのは分かっているだろう」

マスター『……はい』

水瀬「おいおい、荷台の中じゃ見えねえんだけど、大丈夫なのか?」

マスター『トラックが通れる道は、空けられない程人が居ますね』

男「ど、どうするんです?」

狐娘「まさか、轢く、とか……」

マスター『しませんよ、流石に』

マスター『ただ、無理矢理空けて貰うだけです』

水瀬「え、空かねえんじゃ」

マスター『彼等には逃げて貰わないといけませんしね』

黄泉永「このままだと間違い無く戦闘に巻き込まれるからな」

男「どうやって逃がすんです」

渚「……マスター、前に移る」

狐娘「何する気ですか渚さん!」

渚「……宣戦布告」

狐娘「銃を使ったら進行が…」

渚「……どうやったって使うんだから、使える内に使うだけ」

黄泉永「自暴自棄になって撃ちまくるなよ」

渚「………肝に銘じとく」

渚「……隣、良いよね」

マスター「助手席で良ければ」

渚「……運転する気、無いし」

マスター「させませんけどね」

渚「……私は」

マスター「…?」

渚「私は…ただ…信じて欲しかった…それだけ、だったのに…アイツは…」

マスター「…黄泉永さんですか」

渚「……頼んでも、無いのに…勝手に背負って……」

マスター「……それだけ、大切なんでしょう」

渚「…だったら…秘密、全部言ってよ……私は、もう弱くない……」

マスター「…貴女に言えなかったのは、自分自身で口に出したく無かった、というのもあったみたいですよ」

渚「……出したく、無かった」

マスター「失礼ながら、貴女が考えている程、彼も強い人では無いのです」

渚「………そっか」

マスター「それより、宣戦布告と言ってましたが……何をす──」

渚「……乗ってからずっと、チャージ中だから」

マスター「……え、ビルに撃つんですか?」

渚「……陽那ちゃん連れ去った奴、には効かない」

マスター「しかし陽那が……!」

渚「……あの男が、陽那ちゃん連れてるのは…何でだと思う?」

マスター「……近くに居ないと効果が無いと?」

渚「……そういう記憶がある」

マスター「当たっても守る事に賭ける訳ですか…」

渚「……そういう事。……もう、撃つよ」

マスター「あっ、ちょっと待って下さい心の準備が」

渚「知らない」

 陽の差すビルへと向かう人達の頭上を、大きな蒼い閃光が通り抜ける。その閃光は、陽の差すビルに直撃する。

 しかし、天から降り注ぐ光の柱がそれを完全に防いでしまった。だが突然の出来事に人々は驚き、混乱する。

渚「撃たれたく無かったらどけぇ!道を空けろ!」

 彼女の叫びと共に人が逃げ惑い、トラックの道が空いていく。

渚「う………ぐぅぅ………!」

 そして、撃った反動か、激しい頭痛にうずくまる渚。

マスター「渚さん!」

渚「い、良いから……行って、早く……」

マスター「……。はい」

渚(弾かれた……中に入らないと撃てないか……)

 頭の中で、記憶と言葉が暴れ回るのを必死に耐えながら、それでも強く銃を握っていた。

 空いていく道を駆け抜けるトラックに向かって、ビルから現れた兵士達が銃弾をバラまく。

 その弾丸の雨を突き抜けて、トラックは一直線にビルへと突撃する。

何故かコンボイの謎が出てきてしまった。スーファミじゃないしあれは一撃だけども。

 ビルの入り口に突っ込んだトラックの中で、マスターは自らの手を渚に差し出す。

渚「……何?」

マスター「出来れば止めて貰いたいのですが…もしも進行を早めても力が欲しいのなら…この手を握って下さい」

 その言葉に、渚は躊躇無く手を握る。

マスター「……やはり、そうしますか。……その手に刃を」

 彼女の手の上に、自らの手を重ねると、彼女の左腕にあるアンカーナイフが鈍く輝く。

マスター「……見た目は変わっていませんが、中身が変わっている筈です。貴女の意志通り、動かせるでしょう」

渚「……サンキュ、マスター」

マスター「…これ位しか、今の私には出来ませんから」

渚「…十分」

 彼女はマスターの顔を一瞥し、少し笑って、外に出た。

 降りて早々に襲撃してきた敵を、頭部を撃って迎撃する渚。今の彼女に雑魚を相手取る暇は無かった。

渚(う…光の中だからか、陽那ちゃんの力が…そこかしこに…)

 進行による頭痛とそれによる"今"の時間の無さ、陽那の居場所が分からない事が彼女に苛立ちと焦りを生む。

 しかし彼女に止まっている程の猶予は残されていない。倒れた敵を容赦無く踏んで陽那を探しに駆け抜けていく。

 その後を追う様に黄泉永と水瀬が降りてくる。

黄泉永「…私達も探すぞ」

水瀬「おい、姐さんどうする気だよ!」

 今の彼女を放ってはおけないと怒る水瀬に、黄泉永は非情な様だが、と前置きして説明する。

黄泉永「今の奴のお守りをするよりも、効率的だからだ」

 当然その言葉に反論する水瀬だったが、その次の言葉に怒りを抑える。

黄泉永「…それにだ。渚が今の間で居る内に、会わせてやりたい…それだけだ」

 水瀬はその思いにある程度理解し同調すると、手分けして探すべきだと提案し、黄泉永もそれを呑んだ。

 そして彼らは、渚が向かった方向とはそれぞれ別に、陽那と攫った男を捜し始めた。

 一方、マスターは外へ出ても、トラックから離れず、彼らを追い掛ける事はしなかった。

 渚は敵を全員倒すと意気込んではいたが、今の現状を鑑みればそんな事は出来ないのは、一目瞭然であった。

 少しでも敵が残る以上、逃げ道と逃げる手段は出来るだけ確保しておくべきである。

 それと、非戦闘員である男と狐娘を守る必要もある。その為、彼はその場に残っていた。

 本来であるなら、黄泉永と水瀬と同じく、渚を追い掛けたかったが、この三人と比べてあまり戦い慣れている訳ではない。

マスター(渚さん、黄泉永さん、水瀬さん…私には、祈る事しか出来ません…)

 今すぐ追い掛けたい気持ちを堪え、力になれない事を悔やみながらも、振り切る様にその手に剣を強く握っていた。



 多数の銃撃をデスクなどの遮蔽物に隠れながら掻い潜る渚の頭上を、何度かパソコンのモニターが落ちる。

 それらを八つ当たりする様に弾き飛ばして退かし、銃から青い光球を生み出してそれを放物線状に撃ち飛ばす。

 瞬く間に光球は爆発し、その場に居た敵は全て巻き込まれ、意識を失った。

渚(今更ながら、手榴弾みたいなのが使えるのは、大きいかな…)

 頭痛に耐えながらも、渚は新たな力に多少の手応えを感じていた。

 敵を処理するのも早いが、自身の進行も早めてしまうリスクを背負いながらも、再び駆け出していく。

 渚が駆け抜けている間、黄泉永もまた戦っていた。

黄泉永(ちっ、一々面倒だ…)

 感じ取れる気配の多さと逃げられず無視出来ない状況に辟易としていた。

 本来、人と戦う職業で無い為、対人戦は苦手だ。決して人間には彼の技が通用しないから、ではなく人間相手だと過剰威力で死ぬどころの話では済まないからである。

 それ故に彼は常に手加減を要求されている。加減が絶妙な感覚な為、人間相手には神経をすり減らしている。

 威力にムラが出る以上、集団は特に苦手で、一人は威力が強過ぎるのに一人は全く効いていない、といった事が多々ある。

黄泉永「埒が明かないな…」

 それを抜きにしても大量に現れる敵兵に、足止めを食らっている彼は非常にうんざりとしていた。

 その影に、少しずつ不穏な気配が近寄っている事を、誰も気付く事無く……。

水瀬「どけオラァ!」

 黄泉永が足止めを食らっている間、水瀬はがむしゃらに暴れていた。

 水神である彼女は当然ながら水の扱いに長けている…のだが、肉弾戦の方が得意で、基本戦法としている。

 というより、水を攻撃に使えないと言うのが正しい。身を守る術しかないのだ。

 彼女自身は人間と比べて身体能力は非常に高いので、水の力で攻撃を防ぎながら敵を殴り飛ばしている。

 彼女の力を持ってすれば、水の力で銃弾程度ならいとも容易く止められる為、現在陽那を探しに猪突猛進していた。

 しかし、念入りに探しても一切見付からない。そのまま上へ上へと向かっていくのだが…。

水瀬(何なんだ…?上に行けば行く程、気配がしねぇ…)

 守りが手薄という事は、ここには重要な物が無い、と考えるのが普通だ。

 しかし、水瀬はそうは思えなかった。それどころか不気味さを肌で感じ、身震いまでした。

 太陽の力を取り込んだ男は、それだけ強さに自信があるという事だ。

 しかし、罠である事が分かったとしても、止まる訳にはいかなかった。黄泉永と渚が戦っている今、少しでも状況を良くしなければ、そう考えていた。

水瀬(だけど、こっからは慎重に行かねえとな)

 あくまで気配が少ないというだけで、影に潜んでいる可能性が無いとは言えない。

 強く警戒しながら、先へと水瀬は進んでいく。

 と、気を張り詰めていたのだが、すんなりと進めている事に、更に不安を募らせていく水瀬。

水瀬(…本当に居るのか?)

 もしや、違う場所に隠れているのではないか…。疑問が浮かんでいく。

 そうして漸く辿り着いた最上階。完全に気配が集中している。だがあの男が居るか居ないか、水瀬には分からない。だから罠だと分かっても突撃するしか無かった。

水瀬(行くぞ、覚悟決めろ……よしっ!)

 ドアにタックルをかましてぶち破った先には…。

水瀬「……纏屍?」

 そこには纏屍が静かに待ち構えていた。襲い来る気配は無い。

 水瀬は知っていた。纏屍が陽の光で消滅してしまう事を。

 だが、ここに居る纏屍は消える気配が全く無い。しかし動く気配すらも無かった。

水瀬(な、何だってんだよ…)

 流石の彼女も異様な事態に、ただただ困惑していた。

 そして、二つの可能性を思い付く。一つはあの男が太陽の力を上手く扱い消滅を防いでいる、という事。

 もう一つは今ここに、太陽の力より強力な力がある、という事。それは、つまり……。

水瀬「……どっちにしても、コイツ等は潰しといた方が良いな」

 不安要素は当然減らしておくべきと判断した水瀬。殴り込もうとしたその時…。

水瀬「あぁっ!?」

 何とその瞬間複数居た纏屍が全て消え去ってしまった。消滅した様にも見えたが、彼女はそう思えずにいた。

 胸の内が不安で塗り潰されていく…。たまらず、渚の下へと走り出していた。

渚「ぐ……」

 そしてその渚は、床に膝を突き、今にも倒れそうになりながらも、歯を食いしばり踏ん張っている状況であった。

夜那【ふふ、頑張ってるね】

渚「そりゃ…どうも…!」

 突然現れた夜那を前にして、強がって足を踏み出そうにも言う事を聞かない体に限界を感じていた。

夜那【…もう無理だよ。それ以上頑張ったって──】

渚「何時…諦めるかは…私が、決める…!」

 彼女の瞳には不屈の魂が映っていた。その折れそうに無い心を見て、夜那は疲れた様に溜め息を吐く。

夜那【もう時間も無いから…早く終わらせるね?】

 その言葉と共に、渚を囲う形で何体もの纏屍が音も無く出現する。

渚「くっ…」

夜那【ふふ…頑張ってね?】

 不敵に微笑んだ後、夜那が【何の意味も無いけどね】と呟いたのを渚は聞き逃さなかった。

渚「意味無い、って…」

夜那【あれ、聞こえてた?…そうだよ】

 当然、その事を問いただす渚。返ってきた答えは、彼女の戦意を奪うには、充分であった。

夜那【ここに陽那は居ないよ?ふふ…もう何処にも居なかったりして】

渚「……!」

 有り得ない、渚はそう声に出したつもりだったが、全く出てはいない。

夜那【こうして光の中に居るから、あの人も陽那が傍に居なくても、ね】

 もしそれが真実であるならば、自分のやっている事は無駄になってしまう…。と考えたが、すぐに考え直す。

渚「陽那ちゃんの…力だけは、取り返す…!」

 震える足に力を込めて、立ち上がる渚を、夜那は呆れた様子で首を傾げ、付き合ってられないとばかりに姿を消してしまった。

 同時に、今まで大人しくしていた纏屍が一斉に襲いかかる。

渚「邪魔、すんな…!」

 マスターの力を受けたアンカーナイフを、思い切り伸ばしながら回転し、周囲を切り裂く。

 その攻撃で纏屍はまとめて両断され、灰となって消滅した。

 そこで再び膝を突き、ふらつきながらも立ち上がろうとしたその時──。

渚「熱っ……!?」

 突如として床に熱さを感じ、周りを見れば、炎が音も無く燃え上がっていた。

渚「う……!」

 このままだと炎に囲まれて死ぬと思い、彼女は窓ガラスに向かってアンカーナイフを射出し、突き刺した。

 本来なら今アンカーを引っ張ってもガラスから抜けるだけだが、マスターから受け取った力のお陰で、突き刺さったまま渚の体を引き寄せた。

 その勢いで彼女は窓ガラスをぶち破って外に飛び出すと、ビルの壁面にアンカーを突き刺す。

渚「な……!?」

 そこで渚が見た物は、半分以上が燃えて融解したビルの姿だった…。

 巻き込まれる前にアンカーを伸ばし、地上に降りた途端に疲労で倒れ伏す。

渚(み、皆は…?)

 地面に倒れた状態で、何とか見回すも、人一人居ない。

渚「ぐ、う…」

 必死に起き上がり、足を引きずりながらも全員の捜索を始めた。

 しかし、そこで見た物は、前に見てきた炎の塊─迦具土と…その横で倒れる黄泉永の姿だった。

迦具土『……漸くだ、伊耶那岐。漸くこの遺恨を晴らせる。くふ、ふははは』

渚「ぁ……」

 火傷の跡が痛々しい程目立つ黄泉永を、足で踏みつけ高笑いする迦具土の姿に怒りが湧く渚。しかし──。

渚「っ……──!」

 彼女自身が分かってしまった。もう、限界なのだと。

夜那(漸く…漸く会える…)

 その遠くで、夜那が歓喜に溢れた表情をして、待っていた。渚が完全に“元に戻る”のを。

 そしてその時が来るのは、一瞬であった…。

渚『……これが、現世か』

 姿こそ変わらずとも、声には男の声が混じっていた。

夜那【あぁ…お父様…!】

 復活を確信した夜那はすぐに渚の姿をした別人─伊耶那岐の下へ感極まりながら近寄る。

夜那【受け取って、お父様…】

 夜那は何時か使っていた刀を何も無い所から取り出した。それは伊耶那岐が手にすると忽ち薙刀と化す。

渚『…久方振り、か』

迦具土『そうだ…!ただ産まれ出でた俺を殺して以来だ…!』

 その時から、黄泉の底から貴様に向けて憤怒と憎悪をたぎらせ燃やし続けていたのだと、高らかに叫び、炎を更に燃焼させる。

迦具土『赦すまじ伊耶那岐!この劫火にてその身を焼き尽くし、地の底に叩き落としてやろう!永劫苦しむが良い!』

渚『………』

 伊耶那岐は怒りの言葉を静かに受け止め、薙刀の先を迦具土に向けた。

渚『もう一度、沈めてやろう…』

 その刃は炎を容易く切り裂くも、迦具土には届かない。

 二柱の神が争う中、そこにトラックが飛び出してくる。

マスター「渚さん!黄泉永さん!………っ!」

 急いで運転席からマスターが降りてくるが、目の前の光景を見て遅かったのだと理解した。

水瀬「黄泉永っ!うおあっつ!?」

 マスターと同時に降りた水瀬はすぐに黄泉永の下へと駆けていくが、炎に阻まれる。水の力で防ごうとしても防ぎ切れない。

迦具土『邪魔をするなぁっ!!』

 燃え上がる炎の壁が、行く手を阻み、何人たりとも近寄らせない。

マスター「不味い…このままでは、黄泉永さんが…」

 炎の壁の中に倒れたまま取り残されている黄泉永を、どうにか助けたかったが、水瀬の力が通用しない以上助けに行くのは不可能に近い。

渚『ぐ……』

迦具土『どうした!!動きが鈍いなぁ!!先程の大口はどうしたぁ!?』

 その上、伊耶那岐は苦戦しており、彼が敗北し黄泉永が巻き込まれて最悪の事態になるのは時間の問題だ。

 と、誰もがそう感じていたが──。

夜那【お父様っ!】

 満足に動けていない様な伊耶那岐に、武器を渡して戦えない筈の夜那が加勢しようとした時であった…。

渚『………な』

夜那【え…?】

渚『ふ・ざ・け・ん・な、って言ったんだよド畜生共があああああああああああああああ!!!!』

夜那【!?】

迦具土『何ぃ…!?』

 その怒号は声こそ変わらない物の、間違い無く渚自身の言葉だと、マスター達は感じ取る。

 先程までの不調が嘘の様に思えてしまう程の、完全復活をもう遂げたのだ。

渚『出てけオラアアアアアアア!!』

 その叫びと共に、渚の身体から着物を着た、夜那と同じく体の透けた男──伊耶那岐が弾かれる様に飛び出す。

伊耶那岐【ば、馬鹿な…!?】

 予想だにしていなかった事態に誰もが混乱する中、渚だけが雄叫びを上げている。

渚「人の体勝手に使ってんじゃねぇぞクソ野郎がぁっ!!」

伊耶那岐【ぐぶっ!?】ドグシャア

夜那【お父様!?】

 更に伊耶那岐は予想を超える事態に遭遇する。生身の人間に、顔面を殴られたのだ。それも体が吹っ飛ぶ程、強烈な威力の。

迦具土『ぐおっ!?』

 殴り飛ばされた先には迦具土が居り、完全に巻き沿いを食らっていた。それが影響してか炎の壁は消え去ってしまう。

渚「ふんっ!!」ベキィッ

夜那【ああ!?】

 ついでに渚は持っていた薙刀を両手で広く水平に持ち、膝で二つに叩き折ってしまう。

渚「邪魔だこんなもん!」ポポーイ

 へし折った薙刀を、ゴミでも捨てるかの如く無造作に投げ捨てる。それを見た夜那はショックからへたり込んでいた。

 炎の壁が消えたのを見計らって、すぐさま黄泉永の救助に向かうマスターと水瀬。

マスター「酷い火傷だ…」

水瀬「我が癒し続けとくから、姐さんを……」

 そうして二人が見上げた先に居たのは、伊耶那岐にマウントポジションを取って一心不乱に殴りまくっている渚の姿であった…。

伊耶那岐【ま、待て、ぐぼぇ!】

渚「アヒャヒャ!アッヒャッヒャッヒャ!」

 奇声を上げながら相手の顔を両手で殴り続ける様は、色々とヤバい光景である。

水瀬「あ、姐さん……キレ過ぎて人がしちゃいけない顔に……」

マスター「怒っていると言いますか…失礼ながら、イカレていると言いますか…」

 二人共、異様な光景に非常にドン引きしていた。

伊耶那岐【止めろ!】

 渚からの執拗な顔面攻撃を防ごうと、伊耶那岐はバリアを張りつつ彼女を吹き飛ばそうとする。が…。

渚「うるせえ!!」

 その一言と共に放たれた素手の一撃で容赦無くバリアを壊され、その勢いで無慈悲にも顔面攻撃は再開された…。

迦具土『俺を無視すんじゃ──!』

渚「後で相手してやるから離れろボケ!!」

 近寄ってきた迦具土を、全身燃えている相手にも関わらず、素手で火傷一つ無く遠くまで殴り飛ばしてしまった。

 そして一瞬の休憩の後にまた開始される顔面攻撃。

伊耶那岐【ちょっ、ほんと、止めて…(´;ω;`)】

渚「黙れ!!」

 相手の言葉など一切貸さず、涙を流す相手をただひたすらに殴り続ける姿は、どう見ても暴行事件の現場である。

夜那【や、止め──】

渚「あぁん!!!?」

夜那【ひっ…】

 夜那を眼力だけで殺してしまいそうな程睨み付け、引き下がらせる。完全に悪役と化している。

渚「心配しなくても、力として使ってやる…!」

 渚はゴールドエッジを取り出し、伊耶那岐に向けると、何とゴールドエッジは伊耶那岐を吸収、かなり大型の自動拳銃へと変貌を遂げる。

 そして引き金を引き続けながらへたり込む夜那の方を向く。

夜那【あ、あ…お父様が…】

渚「お父様?そんな奴居ないね…。そんなに様付けて呼びたいなら、お姉様と呼びな!」

 神である筈の伊耶那岐を下し、自身の力へと変えてしまった渚。ここまでやって、やっと怒りが冷めた模様。

マスター「む、無茶苦茶な人だ…」

 前から知っていたが、改めてそう思い知らされたマスターであった…。

迦具土『はぁ…はぁ…この俺を虚仮にしやがって…』

渚「あれ、帰ったんじゃないの?」

 迦具土を歯牙にも掛けていないかの態度をとる渚。迦具土が蓄えてきた怒りは今、彼女に向けられる。

迦具土『ふざけやがって!!奴は俺が消してや──!!』

渚「あっ、そっ…!」

 アンカーナイフを使い、明らかに自身の体格を越えた瓦礫を引っ張り上げ、容易く振り回して迦具土に叩き付ける。

迦具土『ぬ…おお!』

 しかし、火の神である故か、いとも簡単に瓦礫を破壊してのける。

迦具土『…!?何処に行きやがった!?』

 だが破壊した時には視界から渚は跡形も居なくなっていた。

渚「う・し・ろ」

迦具土『──っ!!』

 迦具土が行動を取る前に、伊耶那岐を吸収してパワーアップ、チャージ時間が短くなったゴールドエッジを相手の頭に突き付け、引き金から指を外し──。

渚「消えな…噛ませ犬」

 全員の視界を蒼い光が覆い尽くし、光が明けた時…迦具土は消失していた。

 止めを刺し、決め台詞まで決めた渚は、内心(カッコ良く決まった…!)と思っていた。

迦具土『何処見てやがる!』

渚「っ!」

 直撃を受けて半身が煙と化しながらも消えなかった迦具土が、渚の背後から差し迫る──。

迦具土『──あ?』

 気付いた時には迦具土は、全身水に塗れていた。火の神の彼が水で濡れる事など有り得ない。

 しかしそれが現実に起こっている事は、つまりそれが出来る程の力を持つ者が居るという事であり──。

黄泉永「…貴様も不意打ちで火傷を負わせてくれたんだ…これも卑怯とは言わないな?」

迦具土『て、てめぇ…!!』

 全身に火傷を負いながらも、ふらふらとした足取りで、腕に稲光を纏う黄泉永が、そこに居た。

 黄泉永 八叉。伊耶那美の力を受け継いでいる彼には、水瀬由来の水の力を操る技を持っていた。

 そして、伊耶那美の体に張り付いていたと言われる八雷神(やくさいかづちのかみ)の力も持っていた。

 少しの間しか使えない代わりに強力な威力を持つ雷の力。それと水の力が合わさった時、凄まじい力を発揮する──。

黄泉永「土に還れ……!」

迦具土『グアアアアアアアアアアァァァァァァァァ………!!』

 雷光を帯びた腕で、水に濡れた迦具土を殴りつけた時、強烈な放電と共に、火の神は完全に消滅、黄泉永の言葉通り土へと還った……。

黄泉永「くっ…うっ…」

水瀬「黄泉永!」

渚「おっと!」

 気を失いそうになり、ふらりと倒れ掛けた黄泉永の肩を、駆け付けた水瀬と、側に居た渚が支える。

 黄泉永の容態を気にする水瀬とは対照的に、自身が止めを刺せなかった事と黄泉永が刺した事にぶつくさ文句を言う渚。

 黄泉永は全く変わっていない様子の渚を見て、安堵の息を吐いて、そのまま気を失った──。

渚「重っ!」

水瀬「…気、失ったみてえだ」

 二人はそっと黄泉永を下ろし、水瀬が膝で寝かせてやっていた。

 内心渚がそこで寝させて欲しいと思っていたが、それどころでは無いとも考えていた。

渚「皆、八叉兄は任せたから、アタシはあの男を──」

 その話をした途端に、上空にヘリが一機、何処かへ飛んでいく。

渚「…あそこから力を感じる…逃げる気かあの野郎!」

 急いで追い掛けようとするも、すぐさま人の足で追い付ける訳が無いと、足を止める。

渚「マスター!何か無い?それ以外に!」

マスター「いえ、流石に…あ」

 トラック以外の乗り物が無いか無いと思いつつもマスターに訪ねる。予想通り無かったが、代わりにマスターの視線の先に、誰かが捨てていったであろうバイクがある。

 彼女はラッキーと思いながらそのバイクを起こし、勝手に乗り、いきなりフルスロットルで追い掛けて行ってしまった。

王「くっ…何だと言うのか、あの炎は…」

 計画通りであると高を括っていたこの男だが、予想外の乱入者によって呆気なく破綻した事には、動揺を隠せなかった。

王(だが、太陽の力があったからこそ、こうして無傷だった…)

 しかし、この男が諦める事は無く、未だに暗躍を企んでいた。ヘリで逃げながらという情けない事態でだが。

 そして、そのヘリの中には、陽那の姿もあった……。

王「ふふふ、逃がさんぞ、天照大神…」

 今、自身に世界を支配出来ると確信している、太陽の力がある事に対する自信から、下卑た笑みを浮かべている。

陽那「……逃げないよ」

 怯えた表情かと思えば、毅然と自身に立ち向かおうとする態度だった事に、この男は不快感を覚えていた。

 お前の力を支配しているのは私だというのに、お前は力を失くした事に絶望していればいいのに、と。

 だがそれを口に出す事はしなかった。所詮強がりだと考えたからだ。代わりに、その自信は何処からくるのかと、嘲笑しながら問い出す。

陽那「渚が、来るから」

 その答えにこの男は笑いを隠せなかった。有り得ない、と一笑に伏したのだ。何故なら、次に来る時には彼女では無いのだから、と思っていたからだ。

 されど陽那には力を失ったにも関わらず、確信があった。必ずやってくると。

王「……!」

 なまじ太陽の力を手に入れたが故に、陽那の言葉が真実であるとすぐに気付く。近くに居る事を、感じ取ったのだ。

 そしてわざわざ、ヘリの扉を開けて外を見れば…。

渚「Cool!Cool!Cool!Cool!」

王「な、馬鹿な…」

 訳の分からない事を叫びながら、悪路であろうがバイクでヘリにウィリー走行しながら追従する彼女がそこに居た。

 ヘリに乗っているこの男には、渚の声などヘリのローター音にかき消されて聞こえていないが、少なくとも彼女が変化していない事を察していた。

 実際渚は本調子であり、その上新たな力を手に入れた為、ふざける余裕さえある。

渚「よぉし…」

 バイクに乗ったままアンカーナイフを射出、ヘリの底面に突き刺す。そしてヘリまで一気に接近、ついでに誰の物とも知らないバイクを乗り捨てた。

渚「やぁやぁ、ど~もお久しぶりで」

 よじ登ってヘリの中まで侵入、色々とやってくれたこの男に、追い詰めてやったとばかりに不敵な笑みを浮かべて、銃口を向ける渚。

陽那「……(。・_・。)」

渚「…あれ、陽那ちゃん?良かった、もっと遠くに居るんじゃないかって…」

 敵が目の前に居るにも関わらず、もう終わったかの様に再会を喜んでいる渚。

王「銃を突き付けている所悪いが──」

渚「効かないかどうかは、試してみないと」

 話しながら何度も発砲するが、確かに未だ効きはしなかった。まだ勝機はあると考え、この男は余裕の態度で話を始める。

王「どれだけの力を得たとしても、この力には通用しない」

渚「そうかな?」

 渚はアンカーナイフで切り裂こうとしたり、殴り掛かったりするも、やはり通用してはいない。

王「無駄だ…この力は私に強く結び付いている。永遠の誓いで結ばれているのだ」

 永遠の誓いという、まるで結婚でもしたのかと言わんばかりの表現に、渚と陽那共々寒気を感じて引いている。が、渚はすぐに笑って返す。

渚「そりゃ良かった。じゃあ、その、結婚祝いでもあげようかな」

 そう言うと同時に、ゴールドエッジが光り輝く。この男は身構え、陽那を盾にする。

渚「離婚届だ、受け取りなよ」

 しかし渚は不敵な笑みを浮かべたままで、動じたりはしなかった。

 そしてこの男は気付いた。自身の力が、ゴールドエッジに奪われている事に。

 だが気付いた時には既に遅く、渚が引き金を引いていた。

ゴールドエッジから放たれた一撃は、盾にされていた陽那をすり抜け、この男に直撃し、その勢いでヘリの扉に激突した。

 この男の手から離れた陽那を、落ちる前に捕まえた渚は、ひとしきり抱き締めて頬擦りする。

渚「あぁ、久々の温もり…」

陽那「……苦しい(-д-)」

 嫌そうな顔こそしていたが、頬擦りを嫌がって止める様な素振りは見せなかった。内心、渚以上に再会を喜んでいたから。

渚「さてと…こいつ、どうしようかな、と」

 力を失い、扉に頭をぶつけた事もあってか唖然としているこの男に、再び銃口を向ける渚。

渚「三日天下、楽しめた?」

 今までの恨みから煽る彼女に強く睨み付けるこの男を、何様だてめえと踏みつけた。…つもりだったが。

 渚の予想より扉が脆かったのか、ゴールドエッジの威力が高かったのか、この男は扉ごと外に放り出されてしまった。

渚「おおっと!」

 すんでの所でこの男をアンカーナイフでグルグル巻きにして、宙吊りの状態で助けてのけた。

 ついでに、マスターの力か腕に一切負担も掛からないので、罰もこれで良いか、と渚は引き上げずそのまま放置した。

渚「…………」

陽那「…なぎさ?」

渚「何?」

陽那「…何でもない」

渚「そっか」ナデリ

陽那「……(。-_-。)」

渚(…負けてたまるかっての)

 その後、操縦士を脅して黄泉永達の下に戻ろうとしているヘリの中で、陽那の笑顔を見ながら、渚は決意を新たにする。

 ゴールドエッジに取り込んだ、伊耶那岐からの意志の波に抗う事を。

第9話 終わり

第10話

 渚と陽那が、黄泉永達の下に戻り、そして──。

渚「あ~い、ただいま、っと」

陽那「ただいま」

 何事も無かった様に帰ってきた渚達を、全員が迎える。

水瀬「おお!お帰り姐さん!」

マスター「ご無事で何よりです」

男「渚さん!本当に大丈夫なんですか!」

狐娘「変わらなかったって聞きましたけど、本当なんですか!」

渚「ちょっ、同時止めて聖徳太子じゃないから」

 渚と陽那の周りを賑やかに囲う皆の中で、安堵感を覚える渚だった。

渚「よし、事件も終わり!帰りますか!」

 陽那を助け出した彼女は、気分良く帰路に着いた。

黄泉永「──待て…」

 おぼついた足取りで立ち上がっている黄泉永の言葉に足を止める渚。

渚「待った待った気分良く帰らせてよ問題残ってるのは分かってるから」

 渚の言う通り、目先の問題が解決しただけで、根本的な問題が残っている。

 そう、空を覆う暗雲は、未だに晴れ上がっていないのだ。そして、纏屍の事もある。

黄泉永「…月読…何か言う事は無いのか…!」

夜那【………】

 うなだれたまま、ふわりと浮遊する夜那に、この混乱を巻き起こした原因と考えていた黄泉永は、怒りを静かにぶつける。

渚「…?あれ、良く見たら何か、かなり透けてない…?」

 輪郭がぼんやりと透けている、というのが渚の以前の夜那に認識だったが、今の夜那は後ろの背景が見えている程、薄くなっていた。

夜那【……もう、時間みたいだからね】

渚「時間…?」

 その言葉と共に、少し前に夜那が、もう時間が無い、という風な事を言っていたと思い浮かべる。

水瀬「はっ、世界中をこんなにしたからじゃ──」

 その続きを渚が遮る。

渚「夜那ちゃん、まさか…誰かに力、奪われてってる…?」

夜那【……ふふ】

 図星だったか、驚愕した表情を見せたがすぐに笑顔になる夜那。

夜那【自分じゃどうにも出来ないから、お父様に…結果は、全然駄目だったけどね】

 自虐的な笑みを浮かべたまま、ふわふわと舞う夜那。何処か諦めた様な感覚を、渚は感じる。

水瀬「ちょ、ちょっと待てよ…。それってつまり…」

マスター「世界を闇に包んだ者は、別に居る…と、なりますね…」

 それを言ったマスターも含め、全員が驚きを隠せないでいた。

男「じゃ、じゃあ誰が…!」

狐娘「ヨナちゃん、答えて下さい!」

夜那【…もう、開くよ……。黄泉の、門が】

黄泉永「…!」

 黄泉の門が開く…それが意味する事。それは……。

黄泉永「…何故、黙っていた…!」

夜那【じゃあ、どうにか出来た?】

黄泉永「だからと言って…!」

 夜那が言う様に、言った所で誰も解決策を出す事は出来なかったのは、黄泉永自身が良く分かっていた。

 それでもその事を告げていれば、今回の事件を起こさずとも対策を取れたのでは、と言う黄泉永。

渚「もう終わった事は今良いんだよ別に。それより、黄泉の門開き切ったらどうなんの?」

 そういった知識の無い渚と、男と狐娘が少しの焦りと共に問い出す。

水瀬「世界中纏死だらけになる…」

マスター「死者が世を統べる、地獄絵図と化すでしょうね…」

 それがあと少しで引き起こされるという現実が、彼女達を震え上がらせる。

渚「どうしたら、閉じられる?」

黄泉永「…無理だ」

渚「何で!」

水瀬「門は、開いた奴しか閉められねえんだ…」

 本当にどうする事も出来ない事態に、渚もあぐねるだけだった…。

夜那【……】スゥ

渚「…!」

 消え去ろうとしている夜那の姿に、悲しみを感じている渚。消失感の痛みがじわりと広がる。

黄泉永「…門の、場所は」

夜那【…貴方の、家】

黄泉永「…何?」

 消え去る寸前に、夜那は門が開く場所をそっと告げる。そして、月明かりの様な光の粒になると、ゴールドエッジに取り込まれていった。

渚「……」

陽那「……夜那」

 ひとしきりゴールドエッジを眺めると、撫でる様に触れて、しまった。

渚「…良し!数年振りに帰省する!」

 夜那の想いを受け取り、長く暮らしてきた家に戻る決意をする渚。

 その時であった。

 月さえ暗雲に隠され、空に明かり一つ無くなり、真の闇が空を覆う。

 その雲から、夥しい数の纏死が舞い降りてくる。まるで人の断末魔の叫びの様な、纏死の鳴き声で様々な音が掻き消され、まさしくこの世の終わりが降りかかろうとしていた。

狐娘「あ、あう…」

男「あ、あんな数…!」

 その恐ろしき光景に、二人が腰を抜かしてしまう。

マスター「装甲車に乗って下さい!目的地まで直行します!」

渚「オッケー!水瀬ちゃんはそこの二人!アタシは八叉兄乗せるから!」

水瀬「あいよ!」

 水瀬がひょいと男と狐娘を脇に抱えて荷台に乗り込み、渚は陽那を抱えながら、黄泉永に肩を貸して、助手席に乗せる。彼が一番道案内が出来るからだ。

 そしてマスターが運転席に乗り、エンジンを掛けたと同時に、渚と陽那も荷台に乗り込んだ。

 その頃、リコリス──。

デイ「あわわ…空が…あぁ!こんな状況でもスクープだ!とか思う自分が恥ずかしい!」

鈴音「職業病…」

デイ「えーとえーとこういう時どうすれば良いんですかね!?神社のあの子達を怖がらせない様にとかですかね!?」

 その神社の子達は、一人慌てふためくデイを見て、逆に落ち着いてきていた。

狼娘「……」

狼少女「……」

 この二人に至っては、一度も吠えず、ただ静かに何かを待っていた。

デイ「ど、どうしてこの子達はここまで静かなんですかね!?も、もしかして、諦めたからとか…!」

鈴音「…信じてるから」

デイ「へ…?」

鈴音「…皆が何とかするって、無事に帰るって、信じてるから」

 手を握り、一心に信じ続けるその姿に、デイも信じてみようと考え出す。

「健気だねえ」

「頑張るの」

 そこに、嘲笑いながら現れる何者かが二人…。狼姉妹が不穏な空気を感じ、唸り声を上げる。

デイ「貴方達は…」

「着いてきて欲しいんだけどな」

「返事は聞いてやらんが」

 その言葉と共に出現する纏死に、これは脅しで、はいかイエスしか無いのだと、デイは戸惑いながらもそれに承諾せざるを得なかった…。

────
──


渚「どわっ!」

 急停車するトラックの揺れで荷台に居た面々は倒れ込む。

渚「ちょいとマスター!運転荒すぎだっての!」

マスター『………』

渚「…マスター?」

 異変を感じ外に出る渚。運転席に向かおうとした時、気付いてしまう。

渚「……!な、何だこれ…」

 まるで月の地表の如く、道が幾つも大きく抉れている事に…。トラックよりも大きなクレーターもあって、これより先は徒歩での移動を余儀無くされる。

黄泉永「…間違い無い…門は、この先だ…」

 険しい表情からは、この先に行く事に対する恐怖、戸惑い、色々な感情が見える。

渚「…こっから歩きだし、八叉兄は待ってなよ」

黄泉永「…いや…行く」

 しかし、黄泉永の決意は固く、足を引き擦ってでも行くのは、渚自身が良く分かっていた。

渚「後で泣いても知らないけど?」

黄泉永「誰が…」

 ふらつく黄泉永を見て、渚も平静こそ装っていたが、目の前に全身火傷の病人、それも身内が居るというのに、不安に思わない筈が無かった。

水瀬「全く、病人が無茶すんなよな」

 そこに、水瀬が現れて黄泉永の肩を支える。

黄泉永「姐さん。何とか、黄泉永の怪我は治しながら行くぜ」

 彼女も、黄泉永が止めろと言っても止まらない事を分かっていたので、今自分が出来る最大限の事を彼にしてやる、と考えていた。

 渚もその意志を汲み取って、任せる、と一言だけ告げた。…時、袖を誰かに掴まれる。

陽那「…行く」

渚「んなっ」

 ジッと渚の目を見て、ギュッと袖を握るその姿に、渚は一瞬ときめいたが、無茶で危ないんだから、と何とか止めさせようとした。

 しかし、しがみついてそれを拒み、離れようとしなかった為、水瀬に無理矢理引き剥がして貰おうとする。

陽那「……(・_・、)」

渚「良し一緒に行こう絶対行こう!」

 陽那の涙目に完全敗北を喫した渚は渋々連れて行く事にした。

男「あの、俺達、どうすれば…」

狐娘「この場で待つんでしょうか…?」

渚「…マスター、どうする?残ってる?」

 渚は少し考えた素振りをした後、マスターに意見を求める視線を向けた。

マスター「…この状況では、皆さんと共に居た方が安全ですね」

 つまり巻き込まれに行かなくてはならない男と狐娘だったが、二人共そこまで恐れている様子は無い。

 というのも、この場所で居残りさせられる方が怖いと思っていたからである。

渚「じゃ、さっさと行ってさっさと解決解決」

 空があんなんじゃ寝られないと、伸びをして意気込む。

黄泉永「…ふっ」

 この状況でふと何かを思って笑った為、渚が何が可笑しいのかと睨んでいる。

黄泉永「…皮肉だと、思っただけだ…」

 今の今まで、本当は渚を家に連れ帰ってやろうと考えていた事、それがこんな形で達成された事に、思わず自嘲したのだと黄泉永は語る。

渚「…あんまり言いたか無いけど、さ」

 これで最後になるかも知れないし、と前置きした後、渚も言いたかった事を打ち明ける。

渚「アタシだってさ、ホント言うなら、家に居たかったよ…」

黄泉永「何…?」

渚「だけど、急にアンタが変わって、その隣に水瀬ちゃんが居て…何だか居場所が無くなった様に感じて…」

 また一人になるのが怖かった、と寂しそうに呟く。渚の想いに気付けていなかった事を黄泉永は謝ったが、今更謝られても困ると不満を示す。しかしその内心では、少し嬉しく思っていたのだった。

渚「ま、だから…自分で言うのもなんだけど…可愛い物好きが悪化したって言うか…」

マスター「悪化どころでは無いと思いますが」

 直後にこう切り返されて、渚はうるさいと子供の様に言い返した。

陽那「…太陽って、言ってくれたのは?」

渚「あぁ、あれ?…だってさ、小さい子が一人だけなの見ると、昔の自分、思い出して…」

 自分と同じ想いさせるのって嫌だって思ったんだと、陽那の頭を優しく撫でている。

渚「…そんな事言ってないで、ダッシュ!」

 今現在非常事態で話をしていられる暇など一切無いにも関わらず、自分語りをした恥ずかしさもあって、渚は凄まじい勢いで走り抜ける…前に黄泉永に呼び止められる。

黄泉永「…方向、違うぞ」

 呆れ顔で冷静に指摘され、より恥ずかしさが増す結果となった。

陽那「家、覚えてないの?」

渚「…サーセン」

 本人曰く、家も含めて色んな事を忘れたかった、忘れる位充実アンド忙しかった、と言い訳していたが、純粋に方向を間違えただけである。

渚「ええいこんな事やってる場合じゃないって!」

 恥を打ち消す様に声を上げて、先へと急ぐ。しかし……。

黄泉永「……何だ、これは……?」

 渚と黄泉永の、かつての帰る場所…。そこは思い出の中にある形と違い、もう、原形を留めていなかった…。

 何か巨大な物でも掘り起こされたかの様に開いた大穴だけが、そこにあった。

狐娘「うぅ…何だか寒気がします…」

 男に抱き締められて暖まっている狐娘の言葉通り、誰もが寒気を感じていた。それも、異質な。

水瀬「妖気がウヨウヨしてんだな…あの穴から」

 水瀬でも少し恐怖を感じる程、濃い妖気が辺り一辺を埋め尽くしていた。

 本来なら、普通の人間であるならば良くて気絶、最悪でも死ぬ危険性があるのだが、幸い普通の人間が居ない為、被害は無しで済んでいる。

渚「どうなってんのこの穴…」

 念の為陽那を下ろして大穴を覗きに行く。しかし、底は全く見えない、暗黒だけが広がっていた。

黄泉永「…恐らく、黄泉の国に繋がっている」

 そう聞いた途端に怖気がすると飛び退く渚。落ちても彼女ならアンカーで帰ってこれそうではあるのだが。

マスター「しかし、門、というのはありませんね…」

 辺りを見回しても、木々があるだけで、その間を潜り抜けていく風が、不気味な音を立てる。

黄泉永「…静か過ぎると思わないか?」

 そう問い掛ける黄泉永の声が辺りに反響する。纏屍の鳴き声が響き渡っていたのに、今では風の音しか聞こえてこない。

マスター「不気味ですね…まるでここだけ、違う世界の様な…」

 空を仰いでも、木々が隠して様子を伺う事が出来ない。

男「何か出るんじゃ…?」

渚「ちょっ!そういうの無し!」

 怖がって耳を塞いだ渚の太腿をわざと指でなぞって更に怖がらせる陽那。

水瀬「…呑気だなぁ姐さん」

 緊張感はあるものの、いまいち薄いのは渚が何時もの調子のままだからである。

「本当相変わらずだよな、姐さん」

「そんな暇は無いと言うのにの」

マスター「…!?」

 突然、大穴から聞こえてくる筈の無い声が風に乗って流れてくる。それは、渚とマスターにとって聞き覚えのある声であった。

「この事態、止めたいんだろ?」

「ならば、穴に飛び降りるんですな。怪我はしませんぞ、怪我は」

 明らかに罠だと分かるが、だからと言ってこのままではどうにもならないのも事実である。

渚「…仕方無い。ちょっと降りてくる」

マスター「降りるって…何処まであるか…!」

渚「そんなん怖いからアンカー引っ掛けながら降りるにきまってんじゃん!」

 足を震わせて恐怖を訴える姿が失笑を禁じ得ないようで、水瀬が口元を押さえて笑っていた。

「遅いぞ~。そっちから来ないんなら…」

「こっちに引き寄せるまで」

渚「は?…うぉう!?」

 その言葉と共に、大穴から強烈な風が吹き荒れたと思うと、一気に穴に吸い込まれ、たちまち全員が穴の底へと落ちていった…。

渚「くっ…!ここは……?あれ?本当何処…?」

 黄泉の国と聞いていたので、よっぽど恐ろしい場所かと思えばその逆で、楽園という言葉が相応しい程綺麗な草花の咲く世界が、渚の前に広がっていた。

「どうだい姐さん、綺麗だろ?」

「一回見せてやりたくての」

渚「…若旦那に爺さん」

 相も変わらず法被を着ている青年と、若々しいのに年寄りくさい口調の中年が、笑顔で立っていた。

若旦那「はっはっは!そう怖い顔すんなよ!」

爺「陽那も逃げるぞ」

渚「…アンタら、何者?」

 険しい表情のまま、渚は二人に銃口を向ける。

若旦那「おいおい、仲良くしようぜ」

爺「酒でも呑んでの」

 何処からか取り出した日本酒の酒瓶を、渚は狙い撃って仲良くする気は無いと態度で示す。

爺「むぅ、どうやらご機嫌斜めらしいのう」

若旦那「姐さん、多感な時期?」

渚「そういうの良いから、皆は?」

 談笑している二人の態度に、苛立ちを隠さない渚。

若旦那「皆は別んとこだぜ」

爺「今頃どんな目に遭っているかの?」

渚「……!」

 その言葉を聞いた途端、二人を銃撃するも、驚異的なスピードで回避される。

若旦那「おっとっと。良いのかい?俺らを倒したらこっから出れないぜ?」

爺「それに、人質もおるぞ」

 その台詞と共に、空から三人の人影が降りてくる。

渚「あれは…!」

 降りてきたのは、デイと狼姉妹だった。三人共意識が無いのかぐったりとしたまま動かない。

若旦那「次撃ってきたら三人共ボン!だぜ!」

爺「それに、他の面々もどうなる事かのう?」

渚「ぐ…随分、酷い歓迎だ事で…!」

 悔しさに震えながらも、彼女は静かに銃を強く握りながら下ろす。

若旦那「別に俺らは姐さんにお願いがあるだけなんだよ」

渚「お願い…?」

 彼女の怒りが籠もった瞳が若旦那を貫くも、意にも返さない。

爺「そう、それさえ聞いてくれれば解放するぞ。約束は守ろう」

渚「どうだか…」

 ここまでしておいて信用出来る筈が無いと、渚は冷静に立ちながらも銃を強く握り怒りを表す。

爺「聞かねば全員の命は無いと言っても?」

渚「………言ってみなよ」

若旦那「流石姐さん!話が分かる!」

 歯を噛み締め、悔しさを堪える渚を、二人は楽しそうに眺めていた。彼女は内心悪趣味と毒づく。

若旦那「なぁに、簡単だ」

爺「その力の全てが欲しいのだ」

渚「……で、それで何する気?自分達だけの世界でも作るっての?」

若旦那「惜しい!」

爺「少々、違うのう」

 一々余裕で談笑している姿に渚は不快感を覚えて眉をひそめる。

若旦那「亡霊亡者に纏屍が蔓延る生者の居ない世界を創る事さ」

渚「……アンタら、死人になりたいっての…?」

 誇大妄想としか思えない話を自信満々に話され、正気を疑う渚。だが…。

爺「そもそも、生きとらん」

渚「……は?」

 自分自身の正気を疑ってしまう程、唐突に繰り出された言葉が渚の中を駆け巡る。今まで話していたのは…。

渚「はっ、て事は何?アンタら既に死んで…?」

若旦那?『……そうだ。肉体はこの黄泉の国に流され、魂だけとなった』

爺?『この姿はお前を監視する為の仮初めの姿であり、分身だ』

 二人の声が、違う誰かの声となる。しかも両方共同じ声であり、ステレオで聞こえてくる声に不気味さを掻き立てられ、思わず後ずさりする渚。

渚「…て言うか、この声…!」

 渚の脳裏によぎるのは、初めて陽那と出会った時に現れた、老人の幽霊。

若旦那?『気付いた様だな』

爺?『そう、此処まで全て思惑通りに進んだ…』

渚「思惑通り…?」

爺?『そう、お前が天照、月読、素戔嗚尊、伊耶那岐と伊耶那美に出会う事』

若旦那?『戦いを乗り越え、全ての力を手にし、此処までやってくる事も』

『全ては予定調和よ』

 悪辣な意思の込められた、まさに邪悪な笑いが響き渡る。渚は、今までの事は全て掌の上だったのか、と絶句する。

『そして後は、お前の力を私の物にするだけ…』

渚「……!」

 ゆっくりと迫る二人から後ずさって退く渚であったが、壁に阻まれそれ以上下がれない。

『何、命を奪う訳では無い。そう恐れずとも良い』

渚「…お断り」

『む?』

渚「死んでもお断りだって言ってんの」

 目の前に立ち塞がる二人に向かって、鋭い目付きと共に反抗的な態度を取る。

『愚かな…今此処で力を渡せば、最期の時を皆と過ごせた物を』

渚「今ここで力を渡さないで、これからも皆と過ごせるなら最高じゃない?」

 毅然とした笑みを見せつけ、徹底抗戦の意を示してみせる。だが、渚の決意を二人は嘲笑する。

『残念だが、例え私を止めたとしても、それは永遠に実現しない、夢物語だ』

渚「どういう意味…?」

『簡単な話だ。黄泉の門は内側からでしか開閉出来ないのだからな』

 渚は言葉を失ってしまった。二人の言葉が事実であるならば、それは…。

渚「この事態を解決するには、アンタに閉めさせる為に、誰か一人絶対犠牲になる、って言いたい訳…?」

『そうだ。それも死者に干渉出来る者…』

渚「……八叉兄…!」

 その時渚は、黄泉永が自分の身を犠牲にして門を閉じる気なのだと確信してしまった。

『しかし閉めた所で、新たな纏屍は現れなくとも、今顕現している纏屍達が消える訳でも無し…』

渚「…なら、アンタをぶっ飛ばせば…!」

『なら、すればいい。人質がどうなるか、その目で確かめるのも悪くない光景だろう』

 言葉を詰まらせる渚の元に、次第に近付いていく二人。その表情は近付くにつれ勝利を確信した、愉悦の笑みへと変わっていく。

渚「……確かめられたら、ね」

『何?……!?』

 二人が気付いた時には、デイ達三人は地面に降ろされていただけでなく、自身が施していた細工も無くなっていた事に驚き、一瞬気を渚から逸らしてしまう。

渚「ベラベラご高説ありがとさま…!」

 その隙に今の今まで引き金を引き続けてチャージしたパワーを、自身の怒りと共にぶちまける。

『ぬ、ううぅぅぅぅ…!!』

 若旦那と爺諸共、ゴールドエッジから放たれた蒼い閃光に包まれ、消失していく…。

渚「アタシが陽那ちゃんの力しか使えないと思ったら、大間違い…!」

 跡形も無くなった二人を前にして、一人不敵に笑ってみせる渚だった。

渚(夜那ちゃん、ありがと…)

 デイ達三人を救い出した恩人に、心の中で感謝を呟く。それに答える様に、ゴールドエッジが淡く輝く。

 渚は夜那に三人の救助を頼んでいたのだ。返事は返ってこず、姿も見えなかったが、彼女は確かにそこに現れて、三人を細工も含めて完全に助け出してみせたのだった。

渚「三人は…!」

 倒れ伏す三人の元へ駆け寄る。大声で三人の名を呼び掛け、体を揺らし、無事かどうか確認する。

デイ「…ぅ……ん」

渚「!」

デイ「う、ぅん……八十八も…お米の中に…神秘……」

 デイの緊張感の無い寝言に、渚は安堵と呆れを含めた息を吐き、気が抜ける。

 狼姉妹もあくびをしながら起き上がり、事態が掴めない様で辺りをキョロキョロと見渡していた。

渚「何にせよ、良かった…」

 その場に大の字に寝転び、瞳を閉じてもう一度安堵の息を吐いた。

狼娘「……グルルルルル!」

渚「えっちょっ何にも悪い事してないんだけど」

 急に唸り声を上げる狼娘に怯える渚。しかしすぐに、その視線が自分に向いた物でないと気付く。

『成程、油断し過ぎていた様だ…』

渚「…!…何だ、居るなら居るって言ってくれれば良いのに」

 若旦那と爺は、本来の姿であろう、渚の前に何度か現れた初老の男性の姿となって再び現れた。すぐさま相手に向けて渚は銃を向ける。

『残念だが、私はただの霊体ではない。その銃では消せんよ…』

 何事も無かった様に平然と浮かぶ初老の男。確かに消しても復活してた、と渚は思い出す。

渚「消えないって分かってるから本気も出さない訳だ。ホント…こんの悪趣味野郎…!」

 相手が幽霊というのもあり、本気で嫌がっている渚。顔が引きつっているのだが、いい加減にしろと怒っている様にも、勘弁してくれと怖がっている様にも見える。

『何をしても無駄だ。大人しく力を渡すか、死んでから奪い取られるか…選べ、渚』

渚「どっちもお断りだって言ったでしょうが…!後名前呼ぶな!」

『ならば全員霊魂と化すが良い…!』

 何が何だか分かっていないデイ達を守りながら、迫り来る相手を渚は迎え撃つ。

 まさにその瞬間──。

『む…!』

 壁の向こう側から剣が突き立てられ、壁は完全に崩壊する。そしてその向こうには──。

渚「マスター!」

マスター「ふぅ…間に合いましたか?」

渚「遅いっちゃ遅い!」

 手厳しいと苦笑しながらも、無事再会出来た事を喜ぶ二人。後から残りの面々も現れる。

 しかし、黄泉永と水瀬だけは様子が妙であった。

水瀬「…てめえは……!?」

黄泉永「父さん…!?」

渚「父さん…って、うっそ…!」

 黄泉永の発言に渚も、事情を知っていた面々も開いた口が塞がらなくなる。

 渚に至っては、今ここで初めて義父が死んでいた事と、目の前の幽霊の正体を知って二重で驚いていた。

『ふ、自ら殺害した男をまだ父と呼ぶか』

渚「え、え?何?どういう…?」

黄泉永「…いや、貴様は父でも何でも無い…。力欲しさに人を殺す外道だ!!」

 いまいち理解出来ていない渚ではあったが、あれだけ父親に憧れていた黄泉永が、その父親相手に本気で怒っている姿に、少なくとも親として最悪なのだと感じ取る。

『力を欲して何が悪い?私が欲する力は世界を救う──』

黄泉永「まだそんな妄言を吐いているのか、平盛(ひらさか)!!」

水瀬「何が救うだ、そんな気無えだろが!!」

 初老の男──平盛の声を掻き消す程の怒声が二人から放たれる。長い付き合いの渚やマスターでさえ初めて見る憤怒する姿には、強い憎しみが漂う。

平盛『私が力を全て手にした時…それは生と死が逆転する時。つまり、死こそ救いなのだよ』

黄泉永「ふざけるなっ…!!」

平盛『八叉、母に会いたいだろう?蛟の生き残り、仲間に会いたいだろう?そして渚、家族に会いたいだろう?お前が力を渡せば、すぐに…』

黄泉永「黙れっ!!」

 黄泉永の雷の力が、平盛を貫く…が、特に傷を負った様子は無い。

水瀬「姐さん!こいつが姐さんから家族を奪った奴だ!耳貸すな!!」

渚「!!?………。へぇ…」

 目の前に家族の仇が居ると分かって、すぐ側に居たデイ達が怯えて震える程の、明確な殺意を渚は本人も気付かぬ間に撒き散らしていた。

平盛『ふ、倒せると思っているのか、自分の師匠をな』

渚「師匠…!?」

マスター「ま、まさか…!」

 渚にとって師匠というのは一人しか居ない。そう、リコリスの先代のマスターだ。

平盛『そう…私がやった事は全て、お前が力を手に入れる為の布石…。お前の人生に偶然など無い』

渚「……八叉兄とかマスター、陽那ちゃん夜那ちゃんに会ったのも…全部アンタが仕組んだ事って訳?」

平盛『その通り。育ててやった通り、お前は力を手に入れ、私の下へやって来た。感謝しているよ』

 自分は誰にも倒せないと考えているが故に、平盛は余裕を崩さない。すぐに仕掛けず、話をする程、相手を舐めきっていた。

渚「……ずっと掌の上だったって訳だ」

平盛『これから死ぬまでな』

渚「だったら、アンタブチ殺すまでってね」

 やけに清々しい笑顔の彼女だったが、言った事は物騒で、一言一言に殺気が宿っている。彼女自身も、これまでに無い程の怒りが胸に湧き上がるのを自覚していた。

平盛『ふ…、ならば、相応の場所と相手を用意しよう』
 
 その言葉と共に辺りの景色から色が抜け落ちて漆黒と化し、暫くした後に異様な場所へと辿り着く。

男「う、うわっ!」

狐娘「そ、空に浮いて…!」

 辿り着いた場所は、街の遥か上空。天を仰げば、厚い黒雲と、巨大な門が荘厳と佇んでいた。

デイ「…見えない足場があるみたいですね、これ」

水瀬「どういう原理なんだよ…?」

 水瀬が足下を何度も踏みつける度、重い金属音が返ってくる。

渚「てか何?あのデカい門…」

陽那「あれが、黄泉の門…」

渚「あれが…?」

 地の底で無く、空高い位置に佇む門を見て、渚はあれじゃ天国の扉だと文句を口にする。

マスター「それにしても、彼は何処に──」

黄泉永「…来る!」

 黄泉永の声と共に、纏屍が大量に現れ、一つに集合していく。そしてそれは人の姿を形取っていき…。

渚「…何じゃこりゃ」

 翼の生えた顔の無い真っ白な巨人が、街に足を踏みしめ立ち上がる。渚達の立つ位置に巨人の胸元が来る。

平盛『どうだ、最期を迎えるには相応しい神々しさだろう?』

 巨人の顔から這い出る様に現れた平盛。身体は実体を持っていたが、巨人と一体化している様だった。

渚「それで神々しい?はっ!だったら後光でも差せってのペプシマン!」

 よりにもよってペプシマン呼ばわりされた平盛は不快そうな顔をする。

平盛『減らず口を…』

 そう言って巨人の体内に平盛が消えると同時に、巨人の全身に不規則に切れ込みが入っていく。それらが開くと、中は歯と舌、そして舌先に生える眼球が覗いている。

狼少女「………クゥン」フラッ

狼娘「!!」

デイ「ひぃぃぃ…あんなの無理です…」

 そのあまりに気味の悪い姿に倒れる者や震え上がる者が現れる始末。

渚「アンタこそ、もっと口減らしてよ」

渚(マジで勘弁してこういうの…)

 内心巨人の形相にドン引きだったが、全力で平静を装う渚。

平盛『ふっ…渚、お前を取り込めば、全ては終わる…』

 巨人はその掌に開く口で、渚達を飲み込もうとする。

黄泉永「渚!眼球を狙え!纏屍の弱点だ!」

渚「そう言やあ…!」

 手に開いている口の中の眼球を狙うも、当たる直前に引っ込み、弾かれる。

渚「んな卑怯な…!こんにゃろ!」

  閉じた口に向かってアンカーを突き刺し、思い切り振りかぶって叩き付けられる掌の軌道を大きく逸らした。

 しかし、衝撃で見えない足場が崩壊する音が鳴り響く。

渚「うわっ!?」

 足下が崩壊し、全員が落下していく中、渚だけが巨人の手に捕まる。

渚「離せって!感触気持ち悪いんだよ!」

平盛『もう遅い』

 巨人は渚を放り投げて、掌の口で飲み込もうとする。

渚「舐めんじゃ……無いっての!」

 飲み込まれた瞬間に、眼球にアンカーを突き刺して、確実にダメージを与える為に捻る。

 かなり効いたのか、渚を吐き出し舌が悶え苦しむ様に暴れた後、舌が力無く垂れ下がった。

平盛『ふむ…』

 しかし平盛はそれに動揺する事無く、渚を吐き出した手を握ると、一瞬にして眼球が再生し、何事も無かった様に口が再び動き出した。

渚(そんな…!キリ無いじゃん…!)

 その再生能力に渚も戦慄する。しかも、眼は巨人の全身に大量に存在している為、勝てないかも知れない、と渚も諦めが頭を過ぎる。

平盛『もう終わりだ、渚』

渚「っ……!!」

渚(こりゃ、本当に、終わりかな…)

 渚が目を閉じて、死を覚悟した時、巨人の両手が渚を挟み潰す。

平盛『……?』

 しかし、平盛は取り込んだ筈の渚の力を感じ取る事が出来なかった。

渚「………あれ?死んでない……生きてる」

 固く目を瞑っていた渚が、ゆっくりと目を開くと…。

 巨人の居る場所から少し離れた街中に居た。すぐ気付かれそうな物だが、不思議と見つかっていない様子であった。

黄泉永「そう簡単に死なせる物か……」

渚「八叉兄…!」

 非常に披露した様子で座り込む黄泉永の元に、心配しながら駆け寄る。

黄泉永「全員を救うのは骨が折れるな…」

渚「全員って…」

 渚が後ろを振り返れば、全員無事に助かっていた。ただ…。

男「」シーン

狐娘「」キュー

 この二人だけは無事に気絶していた。

デイ「…私まで、助けなくても」

黄泉永「必死で、空を飛べた事を失念していたのでな…」

 咳き込みながらも微笑を浮かべる黄泉永をいたわって、渚は
自然に背中をさすっていた。彼は酔っ払いの世話をされている気になると嫌がったが。

渚「てか、どうやって空まで…」

黄泉永「雷の力というのは、便利でな…」

 渚には詳しく説明されても原理も理屈も良く分からなかったが、物凄いジャンプをしたという解釈で済ませた。

渚「……て、アンタの心配してる場合じゃない。陽那ちゃ~ん!」

陽那「…?(。・_・。)」

渚「あぁ良かった。全然喋んないから寝てるのかって」ナデリ

陽那「寝てないよ」

 すぐに渚は陽那を抱き抱えて幸せそうに微笑んでいる。

黄泉永「笑っている場合ではない…今は姿と気配を隠しているが…」

渚「……あぁ、地下鉄の時の奴でね」

黄泉永「そうだ…しかし、バレるのも時間の問題だ」

 実際、黄泉永の言う通り巨人は少しずつ此方を目指して歩いてきている。

黄泉永「…奴を止めるには、あの眼球を再生される前に全て破壊しなければならない」

マスター「しかし、口が閉じていると攻撃は届かない……」

水瀬「しかも数滅茶苦茶あるしよ…。どうすんだ?」

 策が浮かばず、口を閉ざす黄泉永。実際、誰にも倒す方法が分からないのだ。

黄泉永(奴を、黄泉の門に送り返す事が出来れば…)

 黄泉永は一人、止める方法までは思い付いていたが、誰にも言わずに黙っていた。

渚「……あのさ、あの進撃野郎、電気で止められる?」

黄泉永「……雷でも落ちない限り、無理だな」

渚「落とせ」

黄泉永「は?」

 まさかの無茶振りに、もう一度聞き直したが、答えは全く同じであった。

渚「アタシの作戦的には、電気流せば口全部開くんじゃない?って感じ」

マスター「開いて……その後は?」

渚「アタシが全部一気に狙い撃ち」

水瀬「姐さん出来んのか!?」

渚「知んない」

 その返しに水瀬も芸人の様にずっこける。

水瀬「知んないって…」

渚「やった事無いからさぁ。でも、出来るって思ったら出来るんだよ、この銃は」

陽那「…うん、なぎさなら出来るよ」

渚「ん、自信湧いた。ありがと」ナデナデ

 確実性など一切無い作戦だが、それでも黄泉永は渚を信じる気になっていた。

黄泉永「分かった……やってみせる」

水瀬「お、おい…いくらお前でも雷その物はよ…」

黄泉永「だから、手伝って貰う。マスターにな」

 急に呼ばれて少し驚いたマスターであったが、すぐに調子を戻して黄泉永の言う通りに準備を始める。

黄泉永「まず、だ…流石に雷を落とすのは無理だ」

渚「そこを何とか」

黄泉永「私を殺す気か。…今の体力では、直接流し込むのが、そして一回が限度だ…」

 先程全員を救助した事で、かなりの体力を消耗している上、身体にダメージを負っている以上、接近も出来ない。

黄泉永「だから、マスターの剣に水を纏わせ、その上で帯電させ、突き刺す」

マスター「しかし、男さんから離れると剣が消えますから、敢えて巨人を呼び寄せなければいけません」

渚「成程…でも、アタシのアンカーでもさ」

 渚としては、自分狙いだから、という気持ちで言ったのだが、黄泉永は首を横に振る。

黄泉永「この雷の力は伊耶那美の力…お前に使うと反発する」

渚「んな磁石じゃあるまいし…」

 こんな時でも喧嘩すんの?と渚は心底呆れ返る。

渚「んじゃ、アタシは引き金引きっぱなしにして待ってますよ、ええ」

水瀬「…つい力緩めて暴発とか止めてくれよ」

渚「しないって!」

 これが最期になるかも知れないと言うのに、いまいち気の引き締まってない会話を広げる事に、マスターは苦笑する。

デイ「…これ、最期かもしれないんですよね」

渚「ん?まぁ、負けたらそうかな。絶対負けないけど」

 何時も通りの口調ではあったが、そこには強い覚悟が込められていた。

デイ「…よし、明日も生きてる事を信じて、巨人と貴女達の写真でも撮ります」

渚「え、何?新聞載んの?マジで?あ、綺麗に撮ってね」

マスター「少しは自重して下さい」

 笑顔でピースサインまでやりだす渚に、流石に疲れている様子だ。

渚「良いじゃん、一枚位さ。ね、八叉兄」

黄泉永「せめてピースは止めてくれ…」

渚「あ~い」

 どうせ言っても聞かないからと、好きにやらせる黄泉永。と言うより、抑え込むと悪化するのが目に見えていたからだが。

デイ「この状況で笑顔…神経が図太いと言いますか」

渚「言い方他に何か無い?」

 無いです、と断言されてあぁ、そう…と言葉に詰まっていた。

デイ「……はい、撮りました!」

渚「はいっ、どうも!」

 調子に乗ってデイに敬礼する渚。これ以上疲れたくない黄泉永は完全無視していた。

マスター「しかし、徐々に近付いてきますね…黄泉永さん」

黄泉永「悪いが奴を止められる程だ、時間が掛かる」

 マスターを見向きもせず、剣だけに視線を注ぎ、集中する黄泉永。

渚「焦ったって意味無いって。そう、じっくり待つだけ…」

 渚は巨人から視線を逸らさない。出来るなら今すぐにも射撃をぶちかましたいと言わんばかりだ。

陽那「……( ・_・)σ」プニプニ ツンツン

狐娘「う、う~ん……男さぁん……?」

男「う……あれ…、あれ?」

 その間、二人の頬を少し楽しそうに指で突いて起こす陽那。

狐娘「あぅぅ…そ、そんな頬を突かないで下ひゃい…」ムニムニムニムニ

陽那「……( 。・_・。)σ」プニプニ

 感触が気に入ったのか、執拗に狐娘の頬をつついている。

男「あの…一体、何が」

渚「あ、今巨人倒す準備中だから。休んでて良いよ」

狐娘「休ませて下さぁい…」ムニムニ

 為す術も無く頬をつつかれまくる狐娘を助ける為に、男が陽那を抱えて狐娘と引き剥がす。陽那は少し残念そうにしていた。

水瀬「デイ、さっきから狼静かだけど大丈夫なのかよ?」

デイ「はい、じっと獲物を待つ、という感じですよ」

 座って身じろぎ一つしない狼姉妹を見習ってか、男は狐娘を膝の上に乗せて待つ事にした。

渚「………」

マスター「…睨み過ぎです」

 それを羨ましそうに眼光鋭く見つめる渚を、マスターが諌めていた。

渚「アタシだって陽那ちゃん膝に乗せたいんだよ~…」

陽那「また今度ね」

渚「また今度か~…」

 今興味が狐娘に向いている陽那から袖にされつつも、何時かはさせてくれる事に、残念さと喜びが混ざった表情をする渚だった。

水瀬「…おい、アイツ、気付いたんじゃねえか?」

マスター「…真っ直ぐ向かって来ていますね」

 確かに巨人は此方に向けて一直線に歩みを速めていた。

黄泉永「力を全て注ぎきるまであと少しだ…限界まで待ってくれ」

水瀬「終わったら我が即投げるからな」

マスター「お願いします」

 時間が次第に迫っていく度に、全員に緊張感が走っていく。

渚「ふぅ~…手が震えてきた。汗がハンパない」

水瀬「離すなよ!絶対離すなよ!」

渚「それはつまりやれって」

マスター「このタイミングでボケを披露するの止めてください」

 本当に緊張しているのか分からない渚の態度に周りも流石に苛つく。

 しかし、この時…渚が真に何を考えているのか、分かる者は誰一人として居らず──。

マスター「巨人接近まで、後十歩程です」 

 マスターの言葉に緊張感が強まり、水瀬は拳を強く握り、マスターは息を飲み、デイは恐がりながらもカメラを手放さず、狼姉妹は共に巨人に向かって唸り、男と狐娘は不安からかお互い強く抱き合い、そして──。

陽那「……なぎさ?」

 陽那は、何故か清々しく微笑む渚に、妙な胸騒ぎを覚えていた。

 巨人接近まで、九歩──。

渚「…八叉兄」

黄泉永「何だ」

渚「あの巨人倒した後、平盛って奴、どうやって倒す気?」

 巨人接近まで、八歩──。

黄泉永「黄泉の門に封印する。…どうして今聞く」

渚「…門、内側でしか閉めらんないって聞いたけど。どうなの?」

 巨人接近まで、七歩──。

マスター「本当ですか…!?」

水瀬「な、何で姐さん……」

黄泉永「……だから、それをどうして今聞く」

渚「止めようと思ってさ」

 巨人接近まで、六歩──。

黄泉永「どうやってだ。それ以外に方法が──!」

渚「実はあるんだよね、これが」

黄泉永「何……!?」

 巨人接近まで、五歩──。

渚「……今まで、何か色々ごめんね、皆」

マスター「渚さん…?」

渚「いやさ、結構迷惑掛けたしさ」

 巨人接近まで、四歩──。

水瀬「や、止めろよ姐さん…」

男「そ、そうですよ。そんな別れの挨拶みたいな…」

 巨人接近まで、三歩──。

狐娘「縁起が悪いですよぅ…」

デイ「まさか、この写真遺影にするつもりなんて、ありませんよね!ね…?」

 巨人接近まで、二歩──。

渚「封印したって空は戻らない……だから」

黄泉永「まさか…!死ぬぞ!」

陽那「!!駄目!なぎさ!」

 巨人接近まで、一歩──。

渚「それ、貰ってくから」

 渚は雷の力が溜まりきった剣を、アンカーで絡め取り、その力をゴールドエッジへと吸収してしまう。

渚「ぐぅぅ!……これで、全部…」

黄泉永「な、何という事を…」

 全ての力をその身に宿した渚の身体は、金色のオーラを纏っている。それは、見た者に何処か温かさを感じさせた。

 そして、巨人は──。

平盛『何処へ逃げたかと思えば…』

 再び渚達を押し潰そうと、その手を振り上げ、叩き付けた。

平盛『……!?』

 しかし、平盛には理解し難い事が起こっていた。巨人の手が消滅したからだ。

平盛『何だ…何が…!?』

渚「…見えないんだ、この光」

平盛『光だと…?そんな物が、何処に!』

 懲りずに今度は足で踏み潰そうとするも、渚に当たる前に消滅し、バランスを崩して渚達の方向へ倒れ込む。

渚「だったら見せてあげる…眩し過ぎるから、良く見なよ!」

 倒れる巨人の胴体に向けてゴールドエッジを構えると、渚が纏っていた光が銃に集い、迸っていた蒼い光が、太陽の如き真っ赤な光となる。

平盛『そ、その光は…!?』

渚「そ、アンタが欲しがってた力…あげるから、ちゃんと受け止めなよ…!!」

 真っ赤な光は、銃口の先に大きな球体となり、小さな太陽の姿と化して、撃ち放たれた──。

平盛『ば、馬鹿な、私がこんな──!!』

 その一撃を喰らい、全てを言い終わる前に、平盛は巨人ごと空へと打ち上がって厚い暗雲をぶち破る。

平盛『ひ、光…光いいぃぃぃぃィィィィィ……』

 暗雲を抜けた先で、渚の放った一撃によって、平盛は大量の光を浴びながら、巨人と共に消滅していった──。

マスター「空、が…」

黄泉永「晴れていく……」

 巨人が消滅すると、世界を覆っていた暗雲は全て晴れ上がり、同時に襲っていた纏屍と、浮かんでいた黄泉の門は消失した。そして……。

水瀬「あ、姐さんは…?」

渚「…………」

陽那「あ……なぎさ!」

 心配する声をよそに、全ての力を使い果たし、渚は力無く倒れゆく。

 全員が渚に駆け寄り体を必死に揺さぶっても、渚が目を開く事は無かった。水瀬が心臓の鼓動を確かめても、動いている様子は無い。

 皆がそれぞれ渚に言葉を掛けても、心臓マッサージを施しても、それ以上渚が動く事は、微塵も無かった──。

────
──


 目が覚めたら、真っ暗な場所に居た。何処を見たって真っ暗。光なんてありゃしない。何処までが空で、何処までが地上か……。考えてると、段々怖くなって身震いする。

「……死んじゃった、って事?」

 口に出す。怖さを隠す為に。事実を確認する為に。でも、分かったのは、この暑くも寒くも無い漆黒の世界で、アタシ一人だけっていうもっと怖い事実だった。

(一人…一人は嫌だ、一人は寂しい……)

 家族皆が殺されて、一人残った事を感じた時みたいに、その場で体育座りして、膝に顔をうずめた。

 昔は、こうした後に顔をあげたら、家族が目の前に居るんじゃないか、って思ってた事もあった。でも、そんな事は無かったし、今あげたって何にも無いだけだ。

「そうかしら♪」

「!?」ビクッ

 急に聞こえてきた声に、それはもう驚いて身体がビクンと大きく跳ね上がった。思わず顔をあげれば、そこにはこの世界にとても不釣り合いな、真っ白な狐だった。アタシは、頭に浮かんだ名前を口に出していた。

「し、白狐…さん?」

「はぁい♪」

 夢だ。これは夢だ。そう思った。きっと自分があまりの寂しさに生み出した妄想の産物なんだ。そう信じてまたさっきと同じ体制に戻──。

「ちょっともう!少し位喜んでも良いじゃないの!」プンスカ

「むぐぐ」ムニュ

 多分怒ってる─とは声を聞けば分かるけど、顔だけじゃ分かんない─白狐さんの前脚で、両頬を押さえられた。肉球がぷにぷにで気持ちいい。癒される。

「もう…こんな所に来るなんて、物好きねぇ、本当に」

「…皆、怒ってるかな」

「聞いてみる?」

 え?と聞き返したアタシの目の前にあるのは、白狐さんの可愛い満面の笑みだった。可愛い。

「じゃあ、さんはい♪」

 白狐さんが無邪気に宙返りすると、真っ暗な世界の一面が、眩しい位真っ白に変わって、そして…。

「……皆」

 真っ黒の空間に、大きな映像が映る。多分、倒れたアタシに向かって、皆が色々言ってる姿だと思う。

 このまま眠ってると風邪を引くだの、起きないと咬ませるだの、秘密を暴露するだの、まだまだ一緒に酒を呑みたいだの…。皆顔をくしゃくしゃにしてさ…。

「渚……」

 八叉兄は何も言わないで、ジッとこっちを見てた。まるで、すぐアタシが起きてくるのを信じてるみたいに。

「なぎさ…起きて。膝、乗るから……起きて……」

 陽那ちゃんの涙が、アタシの顔に零れる。凄く、冷たい。けど、暖かい……。

「……どう?」

 映像がぷっつりと消えて、暫くボーッとしていると、白狐さんの満面の笑みが視界に飛び込んできた。

「これ聞いて、どう思った?」

「どう、って……」

 悪戯っぽく微笑みながら、そう問い掛けられる。答えはすぐに出た。でも、そんなのが叶う訳が無い、そう思ったんだ。

「帰りたいならちゃんと言わないと、お姉様…」フーッ

「!?」ビクッ

 突然耳元で囁かれたと思ったら、耳に息を吹きかけられてまた身体がビクンと跳ね上がる。こそばゆいのと、白狐さんとは違うこの声も聞き覚えがあったから。

「夜那ちゃん…?」

「ふふ、お姉様があの男を倒してくれたからね」

 ちゃんと足があってふわふわ浮いてない夜那ちゃんが、凄く嬉しそうに踊ってる。

「あそこに帰りたいって言っても……良いのかな」

 今までも結構我が侭言ってきたけど、こんな時まで我が侭言うのは、気が引けるというか、変な罪悪感があった。でも…。

「良いのよ♪一応神様の私が言うから♪」

「大丈夫だよお姉様。一応神様の私が言うんだからね♪」

 一応の辺りに強い不安を感じる誘いだったけど、目の前に広がっていく光が、不安を全部消し去ってしまった。

「……皆に。皆に、また、会いたい……会えるなら、会いたいよ」

 まるで自分じゃない自分が、勝手にアタシの口を使って喋ってる様な、そんな感覚だった。でも、喋ってる事は、間違い無く、アタシの本心だ。

「……じゃあ、行きましょ♪」

「皆に会いに、ね」

 アタシは黙って頷いた。そして、真っ直ぐ、光の中に向かって──。

陽那「なぎさ、なぎさ……」グス

渚「…………」ピク

陽那「……なぎさ?」

黄泉永「…?陽那、どうした」

渚「………っ」ブルッ

黄泉永「…動いた?」

陽那「…!なぎさ!」

マスター「渚さん!」

水瀬「姐さん!」

デイ「渚さん、寝ちゃ駄目ですよ!」

男「皆待ってます!」

狐娘「起きないと油揚口に詰め込みますから!」

渚「……うぶ」

マスター「…どうして、二日酔いをした時の様な、青白い顔をしているのでしょう…?」

渚「お…お、ご……」

黄泉永「……全員、渚から全力で離れるんだ」

水瀬「え?」

渚「うご、お、あ、あ…」

マスター「はい、離れましょう全力で!」

渚「~~~っ!おっ、おごぼ──」

 ─現在嘔吐中─

渚「──げほっ、げほっ……うぇ」

男「あ、あ…」

狐娘「白狐さん!」

白狐「久し振りね♪」

男「な、何で…渚さんの口から?」

白狐「一番大きい穴だから♪別にお尻の穴でも良かったけど」

渚「こ、殺す気か…おぶ…」

夜那「大丈夫?」

渚「ぜ、全然……」

陽那「……夜那」

夜那「陽那…。えっとね、その…」

陽那「……おかえり。なぎさも」

夜那「!…ふふ、強いね、陽那は」

渚「ただいま…うぇ…ちょ、水…」

黄泉永「全く…ほら」

渚「サンキュ…」

陽那「なぎさ、なぎさ。見て…」

渚「ん…?…うん、眩しいなぁ…」

 眩い太陽の光を浴びながら、陽那の笑顔にそう呟いた──。

第10話 『陽はまた昇る』 終わり

この物語はここで一応終わりです。今まで見てくれた方々に感謝の気持ちを。

恐らく無いとは思いますがまとめないで下さい。滅茶苦茶恥ずかしいので。

そういえば新たな萌えとか書いといて別にそこまでそんな要素が無かった事、
地の文が長々としていた事をお詫び申し上げます。

あともうちょっとだけ続くんじゃ

マスター「渚さん」

渚「ん~?」

マスター「お酒、殆ど呑まなくなりましたね」

渚「いやさ、陽那ちゃんがお酒駄目!って言うから」

マスター「尻に敷かれてますね」

渚「敷かれ過ぎて起き上がれないレベルだから。勝てない」

マスター「…その、当の本人は?」

渚「ガールズトーク」

マスター「ガールズ…?」

渚「そう、アタシ抜きの、さ」

―神社の一画―

狐娘「あの~…」

陽那「何?」モフモフ

狐娘「どうして、尻尾を触っているんですか…?」

陽那「駄目?」

狐娘「う…い、良いですよ」

陽那「やった」

狐娘(あ、あんな純粋でキラキラした瞳…断れません…)

夜那「私も触っていい?」

水瀬「我も良いか?」

デイ「情報提供をお願いします」

狐娘「きょ、今日はそれをしに――!」

水瀬「油揚げやるから」

狐娘「好きなだけどうぞ」

水瀬(チョロい)

水瀬「うおぉ…温け~柔らけ~…」モフモフ

狐娘「今日は特別です」ムグムグ

夜那「で、何の集まりだった?」

デイ「えぇ、それはもうお互いの事を根掘り葉掘りと。お酒もある事ですし…」

水瀬「ツマミがありゃあな~、こう、クイッと」

陽那「お酒、呑みすぎ厳禁」

水瀬「分かってるって。少なくともヒナには絶対呑ませねぇから」

狐娘「…私には呑ませる気ですか?」

デイ「それはもう根掘り葉掘りと、ですからねぇ…ふっふっふ」

狐娘(い、言わないととんでもない事に…)

デイ「ではでは、狐娘さん。個人的に気になるんですがね」

狐娘「な、何ですか」

デイ「……どうしてそんなに油揚げ好きなんです?」

狐娘「へ?」

水瀬「…そんな気にする事か?」

デイ「いやいや、妖狐が全員油揚げ好きなのか、この子が好きなのか気になるでしょう?」

水瀬「そうかぁ…?」

陽那「…美味しいの?油揚げ」

狐娘「美味しいですよ。特に男さんのは愛がこもってますから!」

水瀬「うわぁ…良く人前で言えるぜそんな事。我なら恥ずかしくて無理だ」

狐娘「良いじゃないですか!」

夜那「男って人、そんなに好き?」

狐娘「別に良いんですよ、一日中男さんの魅力を語っても」

デイ「独り身にキツいんで止めて貰えます?」

陽那「おとこの何処が好きなの?お姉ちゃん」

狐娘「……あの、最後の所をもう一度」

陽那「……お姉ちゃん」

狐娘「はぅ…!お、お姉ちゃん…!」

陽那「?(。・_・。)」

狐娘「可愛い!」ムギュ

陽那「あう」

狐娘「お姉ちゃんに何が聞きたいんですか!答えられる事は何でも答えますよ!」ナデナデ

陽那「え、あ、う…」

水瀬「…何かスイッチ入っちまったな」

夜那「…お姉ちゃんスイッチ?」

陽那「だ、だから…おとこの何処が好きかって…」

狐娘「全部です!」

デイ「わぁ即答」

狐娘「男さんはですね~、それはもう優しいんですよ~?えへへ」バタバタバフバフ

夜那「尻尾の動きがどれだけ好きか分かるね」

水瀬「ベタ惚れだな」

デイ「所謂リア充ですねリア充」

陽那「何処が一番好き?」

狐娘「一番、ですか。う~ん…多すぎて、すぐ出てきません」

水瀬「こんな惚気良く言えるぜ…」

デイ「聞いてると、恋人が欲しくなってきますよ…」

狐娘「居ないんですか?綺麗なのに」

デイ「世界中を飛び回ってますから、忙しくてそんな暇が、ちょっと」

水瀬「こういうタイプ程私生活だらしねぇんだよ」

デイ「それ貴女が言います?」

水瀬「…………う、うるせぇ」

夜那「お姉様もだらしなくて…」

陽那「誰か居ないと駄目駄目だから」

狐娘「渚さんは…まぁ、その…」

夜那「でも、そこが母性を…ふふ」

~~~~
渚「…う」ブルッ

マスター「どうしました?」

渚「いや、何か、寒気が…夜那ちゃんかな…」

マスター「どうしてそう思うのです?」

渚「いや、最近狙われてる気がするんだよ……性的に」

マスター「……気の所為…だと、信じたいですね」
~~~~

夜那「あぁ、お姉様だって、男さんと負けじ劣らずの素敵な人……」ウットリ

陽那「……(・_・;)」

狐娘「ちょっとヒナちゃんには毒なので離れておきましょうね」

夜那「毒…」

狐娘「え~っと、ヒナちゃんは、誰が一番好きですか?渚さん?」

陽那「……あと、お姉ちゃん」

狐娘「はぅ…そんなぁ…えへへ…♥」ピコピコ

水瀬(…案外、姐さんと気ぃ合いそうだな)

夜那「水瀬は黄泉永が好きなの?」

水瀬「ングッ!?ゲフッゴフッ…な、な訳ねえだろ」

狐娘「え、でも酔っ払ったら黄泉永さんにべったりじゃないですか」

水瀬「…は?マジで?」

デイ「証拠写真ありますけど、見ます?」

水瀬「何時撮ったてめぇ!」

デイ「黄泉永さんからこれ見て懲りたら酒呑みすぎるなと言っておけ、と」

水瀬「あ、あの野郎…!」

狐娘「…ところで」ナデナデ

陽那「何?」

狐娘「狼の二人は何処に?」

水瀬「あ?…男と三人で何かやってんじゃ」

狐娘「ちょっと男さん探してきます」スクッ

白狐「その必要は無いわよ♪」

デイ「!?」

狐娘「あ、白狐さん」

水瀬「相変わらずの神出鬼没だな、おい…」

白狐「ちょっと、あの姉妹に言葉を教えてたの♪」

夜那「言葉?」

白狐「そうよ~♪じゃあ…はい♪」

狼娘「こんにちは」

狼少女「こんにちわ」

デイ「ちゃ、ちゃんと喋ってる…これは貴重です。写真写真」

水瀬「はあ~、こんな短期間で喋れる様になんのか」

男「この子達の物覚えが早かったんです」

白狐「まだちょっとたどたどしいけど、ね♪」

狼娘「はい」

狼少女「うん」

夜那「じゃあ…名前は?」

狼娘「おおかみむすめです」

狼少女「しょうじょ」

夜那「ふふ、偉い偉い」ナデナデ

狼娘「わふ」

狼少女「クゥン…」

狼少女「ごしゅじんごしゅじん」

狼娘「ほめられたよ」

男「よしよし」ナデナデ

狼娘「~♪」フリフリ

狼少女「♪」スリスリ

狐娘「……む」

陽那「……( ・_・)σ」プニ

狐娘「ふぁ、な、何ですか、ヒナちゃん」

陽那「拗ねてる?」

狐娘「……ちょっとは」

陽那「…よしよし」ナデナデ

狐娘「ひ、ヒナちゃん…?」

陽那「おとこの代わり」

狐娘「ひ、ヒナちゃん…!あぁ、私は今幸せです…!」ムギュ

陽那「あう」

水瀬「良いねぇ、こういうの」

デイ「何年寄り臭い事を言うんですか」

水瀬「もっと言い方あるだろ」

デイ「それより」

水瀬「無視かおい」

デイ「狼姉妹…モフモフしても怒られませんかね」

水瀬「知らねえよ」

夜那「もちもちしてるもんね」

デイ「そうですよ。それに、若々しいプルプルの肌…触りたくなりません?」

水瀬「お前だって充分若々しいだろ」

デイ「あの子達のは段違いの柔らかさですよ、あれは」

夜那「あぁ、あの子達の膝枕で眠りたい…」

水瀬「……好きにしてくれよ」

男「あぁ、狐娘」

狐娘「は、はい」

男「ちょっと、構ってあげられなかったから」ナデナデ

狐娘「お、男さぁん…///」ピコピコ

水瀬「…成程、ありゃ好かれるわ」

デイ「ああいうタイプってハーレム体質って情報があるんですが」

水瀬「何処からの情報だよ…」

夜那「もうその兆候あるよ、ほら」

狼娘「こっちも」クイクイ

狼少女「ん~ん~」グイッ

白狐「良いお父さんになりそうよね~♪」

水瀬「黄泉永より若いのになぁ…」

 バタバタ

陽那「…?」

渚「ちょっと!」

陽那「なぎさ?」

水瀬「姐さん、どうしたんだよ」

渚「はぁ、はぁ…あ、あのさ…鈴音ちゃん……知らない?」

デイ「え?……あれ、そういえば、ずっと……」

水瀬「神出鬼没だったし、多分どっかの社に居んじゃねぇの?」

夜那「……そうかな?」

水瀬「ん?何だよ、他に何かあんのか?」

夜那「狐に化かされたとか…なんちゃって」

男「狐に」

狐娘「化かされた…?」

白狐「……え?何でこっち見るの?」

渚「八叉兄なら場所分かるかなぁ……電話してみる」

陽那「何処行ったのかな…」

デイ「流石に今回は狼ちゃん達に任せるのは厳しいですよねぇ…」

狼娘「わからない…」

狼少女「どこかな~…」

白狐「……ふぅん?」

水瀬「……ん?」

男「どうしたんですか?」

水瀬「いや、何だかな…変な空気、って言うか…」

渚「…駄目だ、何か電話繋がんない」

狐娘「ここだから繋がらない、とか…」

デイ「それは…無いですね」

男「じゃあ、何か起こってるって事じゃ…」

白狐「…みたいね♪」

水瀬「明るく言ってる場合か!」

 チリン

男「…?鈴の音?」

狐娘「な、何でしょう…?」

水瀬「何言ってんだ…?何の音も聞こえなかったぜ。なぁ?」

狼娘「うん」

狼少女「ぜんぜん」

渚「鈴の音…まだ聞こえる?」

狐娘「えぇ、はい…」

渚「ちょっとさ、追ってみてくんない?」

男「はい、分かりました」

デイ「いやいやちょっと!罠かも知れませんよ!」

白狐「皆付いていった方が良いと思うわよ♪」

デイ「どうしてです?」

白狐「だって、そこら中に怨念が…」

渚「うわっ、止めてってそういう冗談!」

水瀬「……い、いや、何か息苦しい……居る!」

渚「急いで鈴の音が鳴る方へレッツゴー!ハリーハリー!」

狐娘「お、大きな声出したら聴こえませんよぅ…」

白狐「いや~、すっごくおっきい怨念ね♪何時の間にか神社一つ淀んでるわね♪」

デイ「え、えぇ!?危険ですよ!」

夜那「でも、狙ってるのは男と狐娘だけみたいだね」

狼娘「グルルルル…!」

狼少女「ガウウウ…!」

渚「ちょ、本当に止めてよ…!何処見て吠えてんの…!」

男「い、行きましょう、本当に危なそうです」

渚「ちょ、あのさ、どんどん神社の奥に行ってるんだけど、合ってんの…!?」

狐娘「でも、此方ですよ…呼ばれてますから、間違い無いです…」

水瀬「呼ばれてる、って…おいまさか」

狐娘「…………」フラ フラ

デイ「め、目が虚ろですけど!」

陽那「お、お姉ちゃん…?」

男「き、狐娘…?」

狐娘「男さん、行きましょう…」

渚「…待って、居ないんだけど…白狐さんと狼ちゃん達」

デイ「あ、あれ…!?」

夜那「邪魔になるからはぐれさせたのかもね」

水瀬「て言うか、後ろ…真っ暗で何にも見えねえ…こりゃ引き返せねえな…」

渚「帰りたい…ホント無理…」

男「…ここから、聴こえます」

水瀬「随分仰々しい扉だな…」

夜那「護符、一杯張ってるね…」

デイ「こんな所、無かったと思うんですけど…」ブルブル

狐娘「……」ベリベリ

男「…狐娘!勝手に剥がしたら…!」

狐娘「っ!え、え?」

 メリメリメリメリ

陽那「扉…勝手に開く…」

渚「……これってさ、何かに取り付かれてた系?」

陽那「…みたい」

渚「勘弁して下さいよぉぉぉぉ!」

 ヴーーーー

渚「うぉわ!」ビクッ

デイ「ひぃ!?な、何ですか!」

渚「ちょ、ちょっとゴメン、電話…もしもし!」

黄泉永『渚!今何処だ!』

渚「な、何?」

黄泉永『神社から禍々しい気を感じる…!早く神社から全員を』

渚「うん言うの遅すぎ」

黄泉永『……今すぐそっちに向かう!念の為に通話中にしておけ、良いな!』

渚「了解…」

デイ「よ、黄泉永さん来てくれるまで待つのは…」

男「…駄目、みたいです」

狐娘「で、出てきます…!」

「……はじめまして、の方が良いかしら?」

夜那「狐の美少女……」

水瀬「金色の毛に、朱色のメッシュ……変わってんな」

「あら、ありがとう」チリン

陽那「尻尾に、鈴……」

デイ「…もしかして」

渚「鈴音ちゃん…?」

鈴音「何かしら?」

男「え!?だって、猫だったのに…!」

鈴音「分身よ、あれは」

狐娘「そ、そんな事が……」

鈴音「貴女と同じなのよ?何かの能力があるのは当然でしょう?」

男「同じ、って……まさか」

鈴音「うふふ、ええ、そうよ」

渚「ちょっとちょっと、何の話?」

鈴音「聞かせてあげるわ…だから、座ってちょうだい?」

水瀬「うぉ!?」ガクン

デイ「か、体が動かない…」

陽那「…!」

夜那「す、凄い力…」

渚「な、何でこんな子がこんな所に…」

狐娘「うぅ…あ、貴女は…」

男「九尾…!」

鈴音「皆座ったわね。じゃあ、お話してあげる…」

鈴音「簡単な話よ。大昔に退治された九尾の狐が九つの狐に分かれた…」

渚「その内の二人が狐娘ちゃんと鈴音ちゃんって訳…?」

鈴音「そうよ」

男「ここに呼んだのは…」

鈴音「当然封印を解いて貰う為よ。それと、私が九尾として、完全復活する為…」

狐娘「か、完全復活…!?」

鈴音「その為にはかなり苦労したわ…。永い封印が、私から力を奪っていったから」

デイ「苦労…?」

鈴音「ええ…黄泉の門を開かせて、そこから怨念の力を吸収し、力を全盛期まで戻したわ」

夜那「開かせた…それって…!」

水瀬「今回の黒幕…本当はテメエか!」

鈴音「黒幕?私だってあんな風になるとは思わなかったわ」

水瀬「言い訳かよ!」

鈴音「私が望んだのは完全復活。亡者だらけの世界になったら目的が果たせなくなるわ」

渚「だから、分身寄越しては、色々言ってくれたって事ね…」

鈴音「その通りよ。貴女には期待してたわ…思い通りに動いてくれる駒として」

渚「言ってくれちゃってさ…!」

狐娘「完全復活なんてして、何する気なんですか…!」

鈴音「完全復活…“なんて”?」ギロッ

狐娘「っ!」ビクッ

鈴音「ふざけているのかしら…。人間が私達にどんな事をしてきたか…忘れたとでも?」

狐娘「…………」

鈴音「はぁ……その人間と一緒に居て、とことん腑抜けになった様ね」

男「君は…!」

鈴音「皆そうよ。過去を洗い流して、人間と幸せそうに振る舞って……」

デイ「皆…?他の別れた子達の事ですか…」

鈴音「……だから、元に戻してあげるのよ。人間を弄んだ、あの時にね」

陽那「……どうして、悲しそうなの」

鈴音「…何?」ギロッ

陽那「……だって、そう見えたから」

鈴音「…えぇ、悲しいわ。人間達の怨みを忘れた様でね!」

狐娘「……忘れた訳じゃありません」

男「狐娘…」

鈴音「…へぇ?」

狐娘「でも…本心から、私を支えてくれる人が居るんです。その人が居てくれるから、私は――」

鈴音「――うるさい…!」

狐娘「……!」

鈴音「なら、奪ってあげる……!」

男「う…!?」

狐娘「男さん!?」

男「う、ぐ…い、息が…!」

狐娘「そ、そんな…!止めて下さい!」

鈴音「嫌よ」

水瀬「テメエ…!体が動きゃテメエなんざ…!」

鈴音「あら、怖い怖い」

渚「止める気無しって訳だ…!」

鈴音「あるわよ?その子が私と一体化すれば、ね」

狐娘「……分かりました」

陽那「お、お姉ちゃん……」

男「だ、駄目だ…!」

鈴音「愛しの相手がそう言ってるわよ?」

狐娘「……ごめんなさい」

男「き、狐娘…!」

渚「狐娘ちゃん、ストップ」

狐娘「え…?」

渚「鈴音ちゃん。その鈴、大切な物なんでしょ?」

鈴音「…それが何?」

渚「それ、人から貰ったんじゃないの?」

鈴音「…………」チリン

渚「そんなに睨むなんて、図星なんだ」

鈴音「…!」キッ

渚「うげぇ…!」ドゴン

陽那「なぎさ!」

夜那「お姉様!」

渚「い、痛った…壁にぶつけるとか…」

鈴音「次に喋ればもう一度…!」

渚「狐娘ちゃんみたいに好きな人が居たんじゃないの!?」

鈴音「…!」

渚「やっぱり…嫉妬してんだ!自分だけこんな所で不幸だから!狐娘ちゃんが凄く幸せそうだから!」

鈴音「黙れ…黙れ!」

渚「ぐ、いぎ…!」ガン ガン

デイ「な、渚さんが…!」

水瀬「止めろ!」

鈴音「うるさい…!…良いわ、渚。最初に死にたいならそうさせてあげる…!」

狐娘「止めて下さい!私を取り込めば――!」

鈴音「どうせ私の手で殺すのよ!遅いか早いかの違いだわ!」

陽那「そんな…」

夜那「うぅぅ…!」

 メキッ ミシッ ベキベキ

鈴音「……!?」

 バキバキバキッ バキィ!

黄泉永「――待たせた!」スタッ

デイ「あ…!」

水瀬「黄泉永!」

夜那「ぶち破って来た……」

鈴音「邪魔して…!」

黄泉永「残念だが、効かんな」

鈴音「ちっ…!」

狐娘「あ……?」カクン

陽那「お姉ちゃん!」

男「ゲホッゲホッ!…き、狐娘…!」

渚「痛…つぅ……」

鈴音「良いわ…そのつもりなら、強制的に……!」

黄泉永「待て…!」

狐娘「……」バッ

黄泉永「何…!?」

鈴音「全員動いたら…この子、死ぬわよ」

水瀬「テメエ何処まで…!」

デイ「そんな事したら…!」

鈴音「死んだって、傍に居れば力だってね!」

渚「鈴音ちゃん…!」

鈴音「私は真剣よ!!私はね、私は……!」チリン

男「……それで良いのか」

鈴音「何ですって……?」

男「君に鈴を付けてくれた人は、君の事を想って付けた筈だ…!」

鈴音「何が分かるの…!」

男「君が今でもずっと身に付けてるんだ、君だって分かってるんだろ!本当は――!」

鈴音「うるさい、うるさいうるさい!人間が、人間が!」

男「こんな事したら、その人が悲しむって!」

鈴音「……っ!」

黄泉永(隙が出来た…!)グッ

黄泉永「……?」

狐娘「……」ギュウ

鈴音「……!?ち、力が…!?は、離しなさい…!」

狐娘「……もう、良いんです。自分を傷付けなくても」

鈴音「何を、言って…!」

狐娘「私、心が読めるんです。だから…」

鈴音「ぐ……」

鈴音「…だから何よ!私は許さない…!許せない…!」

水瀬「!離れろ!」

狐娘「…!」

デイ「な、何だか寒気が…!」

夜那「鈴音の周りに邪気が一杯…」

黄泉永「周りの怨念を取り込んでいるのか…!」

渚「こら、コーヒーバカ…!止まってないで止めろって…!」

黄泉永「分かって……!?」

男「…………」

黄泉永「男君!何をしている!今奴に近付くな!」

鈴音「皆、皆!私から幸せを奪うだけ奪っていった人間が!」

男「……………」

狐娘「お、男さん!危ないです!」

 スパァン!

鈴音「……え?」

男「……今、俺は怒ってるんだよ。分かるだろ」

渚「び、ビンタした…」

狐娘「………っ!!」ガクガク

陽那「……お、お姉ちゃん…?」

夜那「何でそんな震えて……?」

狐娘「お、おお、男さんが、ほ、本気で、本気で怒ってます……っ!!」ガクガク

デイ「そ、そんな怖がる事なんです……?」

鈴音「……痛いわね、何す――!」スパァン!

男「――ごめんなさい、は?」

鈴音「……は?」

男「だから、ごめんなさいは」

鈴音「ふ…ふざけ」スパァン!

鈴音「~~っ!」

男「ごめんなさい、は?」

狐娘「あ、あわわ……男さんがあんなに怒る所、初めてみました……」ガクガク

デイ「み、見てるこっちが恐ろしく思うんですけど…!」ガタガタ

鈴音「……良い加減に!」キッ

黄泉永「ぐっ!」

水瀬「あ、アイツ!全員遠くにブッ飛ばす気かよ!」

渚「……あれ?……男に効いてなくない……?」

鈴音「な、何で……」

男「それよりさ、ごめんなさいは?」

鈴音「な、何、何なのよ…!」

黄泉永「……分かった」

デイ「な、何がですか?」ガタガタ

黄泉永「今、男君はそれはもう大変怒っているな」

渚「それが何なの?早く言えって!」

黄泉永「男君にはかなりの妖力があるが……怒りで非常に増幅している……」

水瀬「ま、まさか……」

黄泉永「どうやら…それによって、彼女の妖力を圧倒的に上回って、完全に無効化した様だ……」

渚「マジで?何それ、そんなの有り?」

陽那「凄いけど、怖い……」フルフル

夜那「怒らせない様にしよう……」ブルブル

鈴音「こ、来ないでよ…!」

男「何度も言うけど、ごめんなさいは?」

鈴音「う、うるさい、私は」スパァン!

男「…後、何回して欲しい?」

鈴音「……っ!」

渚「何か…見てらんないって言うか…」

デイ「端から見れば、虐待を疑る程ですよあれは…」ガタガタ

水瀬「アイツのやった事考えたら、同情出来ねぇけどな…」

男「……」スッ

鈴音「う、うぐ……ご、ごめんなさい……」

夜那「あ、謝らせた……」

男「誰に謝ったのかな」

鈴音「み、皆に…」

男「一番謝らないといけない人が居る筈だけど」

鈴音「…ごめん、なさい…………!」

男「……よろしい」

黄泉永「……まさか、説教で終わらせるとは」

水瀬「恐ろしい人材だぜ、あれ……」

渚「何か…見てらんないって言うか…」

デイ「端から見れば、虐待を疑る程ですよあれは…」ガタガタ

水瀬「アイツのやった事考えたら、同情出来ねぇけどな…」

男「……」スッ

鈴音「う、うぐ……ご、ごめんなさい……」

夜那「あ、謝らせた……」

男「誰に謝ったのかな」

鈴音「み、皆に…」

男「一番謝らないといけない人が居る筈だけど」

鈴音「…ごめん、なさい…………!」

男「……よろしい」

黄泉永「……まさか、説教で終わらせるとは」

水瀬「恐ろしい人材だぜ、あれ……」

――――
――


渚「――って事があってさ」

新入り「マジッすか」

マスター「それはまた…恐ろしい限りで」

新入り「世の中不思議ばっかッすね…」

渚「……アタシはアンタの方が不思議なんだけど」

新入り「はい?」

渚「アンタ、本当に何でも無いんだ…」

マスター「ただ巻き込まれただけの人の様ですね」

新入り「巻き込まれ?」

マスター「あぁ、いえ、何でも」

新入り「で、その後、その子どうなったんすか?」

渚「ん?あぁ…えっと…」

狐娘「怖かったですよね、よしよし」ナデナデ

鈴音「うぅ……」グスグス

男「…流石に怒り過ぎたかな」

狐娘「私も怖かったんですからね!」

男「ご、ごめん…」

狐娘「男さんが鬼神に見えましたよ…」

男「い、いやぁ……ははは」

狐娘「……鈴音さん、で良いんでしょうか」

鈴音「……」コクン

狐娘「あの……その、昔、何があったんですか?」

鈴音「昔……」

狐娘「あ!言いたくなかったら、その…」

鈴音「……良いわ。話してあげる」

鈴音「……」チリン

男「鈴…随分、汚れてるよね」

鈴音「ずっと、彼処に居たから……拭く物なんて、この着物だけだもの」

男(着物も随分汚れてるみたいだけど……裾が一番汚れてる。拭いてきたんだろうな…ずっと)

狐娘「……先にお風呂に入りましょう!女の子なんですから、綺麗にしないと!」

鈴音「え、ちょっと…!」

男「行ってらっしゃい」

狐娘「え、男さんは?」

男「え。いや、入らないけど」

狐娘「どうしてですか!」

男「えぇ~…だって、鈴音ちゃんが気を使うだろうし。全力で」

狐娘「いやいや、ここは仲直りとして」

男「今日初対面で怒った相手と仲直りする為に一緒に風呂は気まずいにも程があるよ」

狐娘「鈴音さん…」チラッ

鈴音「そもそも一緒に入る気なんて……」

狐娘「え……」

鈴音「な、何よ、その顔は。……仲良くする気は無いから」

男「へぇ」

鈴音「す、する気なんて無いんだから……」ガタガタ

狐娘「男さん!トラウマになってるじゃないですか!」

男「やっぱりやり過ぎた……」

鈴音「い、良いわ、一緒に入ってあげても。私は寛大だから」ブルブル

狐娘「完全に脅した形なんですけど…」

男「良いのかなぁ…」

男「えっと、タオルはある。石鹸とシャンプーもある、と」

狐娘「何だか久し振りに入る気がします」

男「それはもう怒涛だったし……」

鈴音「……」チリン

男「あ、人の姿のまま入るなら、タオル巻いてね」

狐娘「えぇ~私は良いじゃないですかぁ」

男「駄目」

狐娘「厳しい…」

男「後でいなり寿司あげるから」

狐娘「約束ですよ!」

鈴音「……」チラッ

男「欲しい?」

鈴音「!べ、別に……」

男「良し、じゃあ食べてもらおう」

鈴音「な、何でよ!」

 チャプン

男「ふぅ……」

狐娘「はふぅ……温もります……」

鈴音「…………温かい」

狐娘「鈴音さん、精一杯洗ってあげますから!」

鈴音「必要無いわ」

男「ずっとあそこに居て、自分でも思ってる以上に力が無くなってるかも知れないんだから、さ」

鈴音「自分の身体位洗えるわ」

狐娘「流したいんです」

鈴音「……そう。なら、好きにすれば」

狐娘「はい!好きにさせて貰います!…あ、男さん、私を洗ってくれますか」

男「何時もしてるじゃないか」

狐娘「今日は駄目かと」

男「そんな事無いよ」

鈴音「……本当に、仲が良いのね」

狐娘「ええ!それはもう!」

鈴音「……私も昔、仲の良い人が居たわ」

男「……鈴をくれた人?」

鈴音「……ええ。優しかったわ……初めは鬱陶しい子供としか思ってなかったけど」

狐娘「鬱陶しい、って…」

鈴音「だって、毎日毎日会いに来るもの。脅かしたってね」

男「君が好きだったのかも知れないよ」

鈴音「……そうかもね。こんな鈴、くれる位だもの」

狐娘「どうして渡してくれたんですか?」

鈴音「遠くに行くから、って…ね」

男「遠く…」

鈴音「……本当、遠くに行ってしまったわ」

鈴音「本当飽きもせず毎日会いに来てたのが居なくなると、ね……気付いたら、その子供の村まで駆けてたわ」

狐娘「でも、昔なら、人前に姿を現したら……」

鈴音「退治されていた……それでも、最後に一目位、会いたくなったの」

男「それで、会えたのかな」

鈴音「……会えたわ。死体にね」

男「……え?」

狐娘「そ、それ、どういう…!」

鈴音「私に会った事が分かって、化け物の仲間だから、って……」

男「そんな……」

鈴音「その後私も見つかって……此処に、封印されたわ」

狐娘「……鈴音さん」

鈴音「それはもう怨んだわ。全部、全部……そうして、負の感情を糧に今まで生きてきた……」

鈴音「でも、封印は解けないし、解く人を探しても、居ない……気付けば、怨んでいた人間も既に居なかったわ」

狐娘「それで、どうして生きていけば良いか、分からなくなったんですよね…」

鈴音「……だから、本当に全部怨む事にしたわ。九尾に戻って、人間を弄んでやろう、ってね」

男「それで、力を?」

鈴音「……でも、まさかこんな形で台無しになるとは思ってなかったわ」

狐娘「酷い事するからです!」

鈴音「……そうね。初めて怒られたわ。初めて頬を叩かれたわ。初めて謝ったわ。初めて恐怖したわ。初めて──」

狐娘「ま、待って下さい」

鈴音「何よ」

狐娘「初めてだらけじゃないですか」

鈴音「そうね。今まで孤高だったもの。屈辱よ……」

男「……何か、ごめんなさい」

鈴音「……変わってるわ、貴方」

男「俺が?」

鈴音「怒ったかと思えば謝って…変わってるわよ」

狐娘「男さんは変じゃなくて優しいんです!」

鈴音「…そんなに好きなの?」

狐娘「はい!…愛してますから///」

男「俺もだよ」ナデナデ

狐娘「えへへへ……///」ピコピコ

鈴音「あ、そう……」

鈴音(怨むのも馬鹿らしいわ……これは)ハァ

狐娘「あ、何ですかその溜め息は」

鈴音「余りに素晴らしい愛だから、つい」

狐娘「そ、そうですか。えへへ」

鈴音(心読める癖に、純真な子…)

狐娘「あ!そう言えば、他の皆の居場所、分かるんですか?」

鈴音「他の?…あぁ、分かるわよ。怒られたって言う気は無いけど」

男「どうして」

鈴音「逆に聞くわ。居場所を探してどうする気?」

狐娘「ただ、会いたいんです。会った事の無い皆に」

鈴音「ふぅん…」

男「頼むよ、鈴音ちゃん。教えてくれ」

鈴音「嫌よ」

男「じゃあ連れて行こうかな」

鈴音「ちょっと!」

男「じゃあどうして嫌なんだ」

鈴音「嫌な物は嫌」

男「うぅん…」

鈴音「それより、洗ってくれないのかしら?」

狐娘「あ、はい、ただいま!」

鈴音「……手で洗うの…?」

狐娘「男さんはそうしてくれますから」

男「狐娘がそうしてくれって頼んだんじゃないか」

狐娘「何の事でしょう?」

男「しらばっくれるんじゃない」モフモフ

狐娘「尻尾は優しくして下さいよぅ」

鈴音「……良く飽きないわね」

狐娘「ご、ごめんなさい。すぐに洗います!」

鈴音「……妙に手慣れた動きね」

狐娘「え?そうですか?」

鈴音「ええ。普段から慣れてる手付きよ」

狐娘「一人でお風呂に入る時は確かに手で洗ってますけど……」

鈴音「常にその人と入ってるかと思ったけど、違うのね」

狐娘「男さんも時には忙しい事もありますから。代わりにその時は目一杯甘えます」

鈴音「…今より…?」

男「…そう、凄く甘えてくるんだ。目一杯」

鈴音「…何か含みのある言い方ね」

男「…ちょっと、言えない」

狐娘「……///」

鈴音「……まさかとは思うけど……交わっては、いないわよね」

狐娘「ふぇ!?え、えっと…そのぅ…///」

鈴音「…嘘、でしょ…?人と妖怪が交われば、お互いがお互いの血に染まるのよ?分かってる?」

男「…実は最近まで分かって無かったけど、だからって離れたりしないよ」

鈴音「そう…本当に幸せなのね。……羨ましいわ、とても」

狐娘「鈴音さん…」

鈴音「そう、なんだ…。人と妖怪が、そこまで、ね…。昔とは大違いだわ」

狐娘「今は本当に昔と違いますよ。今ではこうして耳と尻尾が生えてる事が萌えですから!」

鈴音「もえ?」

狐娘「そう、草冠に明かりと書いて萌えです!」

鈴音「…意味が分からないわ」

狐娘「現代の使い方ですからね。この意味は…どう言えば良いでしょうか、男さん」

男「言葉で説明するとなると難しいなぁ…」

鈴音「じゃあ行動でなら分かりやすいのかしら?」

男「渚さん」

鈴音「あぁ、もう分かったわ」

狐娘「確かに渚さんは可愛い物に萌えまくりですけど…」

男「渚さんと言えば、みたいなイメージが出来てるからなぁ…」

――――
――


渚「ぶぇっくしょい!…何?誰か噂してる?」

男「…鈴音って名前、気に入ってる?」

鈴音「…そうね。この名前、嫌いになれなかったわ」チリン

狐娘「私達には名前なんてありませんからね…」

男「あ…い、今からでも!」

狐娘「あっ!その、男さんを責めてる訳じゃありませんから!」

男「い、いやでもさ…」

狐娘「…ありがとうございます。そうやって考えてくれて、狐娘は幸せ者です」

男「狐娘…」

鈴音「……」

鈴音(少し話せばすぐお熱くなって…面倒臭い子達ね)

鈴音「手が止まってるわよ」

狐娘「ごめんなさい!」

狐娘「どうでしょうか」ワシャワシャ

鈴音「……まあまあ、かしら」

狐娘「む。こうやって洗って貰うのも初めてなんじゃないんですか?」

鈴音「ええ。だから、まあまあ」

狐娘「なら、もっと精一杯洗ってあげます!」

鈴音「どうぞ、頑張ってね」

男(うん、もう仲良いなぁこの二人)

狐娘「男さんも洗って下さいね?」

男「分かってるからさ」ワシワシ

狐娘「~♪」ブンブン パチャパチャ

男「ちょ、ちょっと尻尾振ったら水飛沫が」

狐娘「あぁ!尻尾が勝手に!」

鈴音(……何時まで続けるつもりなのかしら)

狐娘「流しますよ。目を閉じてて下さいね」

鈴音「……」バシャ

男「こっちも流すよ」

狐娘「はい……」バシャ フルフル

男「わ、首振ったら水飛沫が」

狐娘「あ、つい」

鈴音「私にも飛んだわ。私はしなかったのに」

狐娘「うぅ…すみません」

鈴音「長く生きてきた筈でしょ?思ったより幼いのね」

狐娘「お、幼い…」ペタペタ

鈴音「…胸の話はしてないわよ」

男(やっぱり気にしてるのか…)

狐娘「…はいっ、乾きましたよ。モフモフです」

鈴音「そうね」フリフリ チリンチリン

男「…これから、どうしようか」

狐娘「う~ん……気ままに、旅行でしょうか」

男「そうなるかなぁ」

鈴音「……仲間探しの旅?」

狐娘「はい!」

鈴音「そんなに探したいの?」

狐娘「……一度だけでも良いんです。会って、顔を見たいんですよぅ……」

男「…狐娘も、俺と会うまで一人ぼっちだったから、さ…」

鈴音「……そう」

狐娘「ですから、探したいんです。何年掛かっても…。男さんには、迷惑を掛けてしまいますね」

男「良いんだ。一緒にいられるなら」

狐娘「ありがとうございます…///」

鈴音「……久しく物を食べていなかったから、お腹が空いたわ」

狐娘「あ、では…男さん」

男「ん、あるよ。いなり寿司……あれ、一個無い」

狐娘「……」フイッ

男「こっち見ようか狐娘」ムニッ

狐娘「ひょ、ひょおをひっはらはいへふらはい…」

鈴音「頂くわ」

男「どうぞ」

鈴音「…んぐ…むぐ……はぐ、もぐ……」ピコピコ

男「…気に入った?」

鈴音「ん……。……美味しい、わね」

狐娘「ですよね!男さんの料理には愛が籠められてますから!」

鈴音「愛、ね。……ふっ」

狐娘「む。何ですかその笑いは」

鈴音「いえ、ちょっと、ね」

鈴音「……そんなに教えて欲しいなら、教えてあげる」

狐娘「!本当ですか!」

男「急に意見変えて、どうしたんだ」

鈴音「気まぐれよ、ただの」

狐娘「それで!何処に居るんでしょうか!」

鈴音「言ってあげない」

狐娘「えぇ!?」

鈴音「ただ、その方面に進んであげるわ。会いたければ、付いてきなさい」

狐娘「あ…、ありがとうございます!」

鈴音「礼なんて要らないわ。代わりに…」

男「か、代わりに…?」

鈴音「貴方、私に捧げ物をしなさい。そうすれば案内してあげる」

男「…分かったよ。食べ過ぎる位捧げるからさ」

鈴音「うふふ…期待しておくわ」

――――
――


渚「……行くんだ」

男「はい。色々とお世話になりました」

マスター「いえ、それは私が言わなくてはなりません」

男「そんな…!…じゃあ、お互い、という事で」

マスター「…そうですね」

渚「あぁ~、モフモフも見納めかぁ~…」

陽那「……お姉ちゃん、バイバイ」

夜那「ふふ、またね」

狐娘「はい!ヒナちゃん、お姉ちゃんは頑張ります!」

渚「……鈴音ちゃん。元気でね」

鈴音「……ええ。貴女もね、何時も元気でしょうけど」

男「それでは、黄泉永さん達に伝えておいて下さい」

マスター「ええ、必ずお伝えしますよ」

渚「神社の子達が待ってるし、普通にここに戻ってきなよ」

狐娘「はいっ、戻ってきます!」

渚「男はともかく、二人は楽しみに待ってるからさ」

男「最後まで相変わらずで…」

鈴音「そろそろ私は行くわよ。あまり待ったりしてあげないから」

男「あっと…じゃあ、また何時か!」

渚「ん、行ってら。頑張りなよ」

狐娘「はい、また会いましょう!」

陽那「うん、会おうね。また……(。・∇・。)ノシ」



 おわり

これは九匹揃うまで書いた方が良い感じですかね…?

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