Tさん「破ァッ!!」
これは、ボクが小学校六年のころ、春スキーに行った時の話。
ボクは、家がスキー場の近くにあり、スキーの得意な父が教えてくれたこともあって、そこら辺の人には負けないくらいの腕になっていた。そのせいで調子に乗ってしまって、いけないとはわかっていたけれど、こっそり『立ち入り禁止』のロープが張ってある向こう側に滑り出してしまったんだ。
誰も滑っていない新雪を楽しんでいると、立ち入り禁止のはずなのに、十メートルくらい先に女の人が滑っているのが見えた。その人、すごく上手だったから、滑り方を真似しながら同じコースを辿ってみたんだ。
そしたら、その女の人、急にピタッと止まってさ。こっちを向いたんだ。
その女の人、顔が半分なかったんだよ。
気が付いてぞっとして、避けようと右に大きく曲がったら、下が崖になっているのが見えた。でも、もう止まれない。
いやだ落ちる死にたくn
「ひゃっ破ぁーい!!」
そこに、スノーボードに乗った寺生まれのTさんが、ボクの足元から現れた!
Tさんは崖の下から、青白い光をジェットエンジンのように噴射してここまで上ると、落ちそうになっているボクを崖の反対に、つまり安全な方に突き飛ばして助けてくれた。
そして、「破ァッ!」と軽く女の人の霊をぶっ飛ばすと、ボクの頬に「バチンッ」と張り手をした。
「ばっかやろー!!立ち入り禁止になるには、それなりの理由があるんだよ。死にたくないなら、勝手に入るんじゃねえ!」
痛いのと助かった安心感とで半泣きになっているボクを、Tさんは熱血教師バリに叱りつけ始めた。
しかし、直後。ゴゴゴゴゴゴッという地響きのような音が聞こえて、さっとTさんの顔色が変わった。
「し、しまったぁ!」
見ると、さっきの破ァ!の衝撃のせいで出来た、高さが八メートルほどもある雪崩がスキー場に迫ってきているではないか。
ボクは「もうだめだ、みんな一緒に死んじゃうんだ」と観念してうろ覚えのお経を唱えはじめた。
と、Tさんが、ドンッと両足を地面に踏み込んだ。そして、腕を構える。その凄まじいまでの気の流れによって、髪が逆立ち、積もっていた雪の塊がいくつも宙に浮いている。気づくと、ボクのステッキと帽子も宙に浮いていた。
「・・・渦~滅~波~滅~」
今にも大雪崩に生き埋めになろうかというそのとき、金色の光を帯びたTさんが叫んだ
「ッ破ァァアアアアアアアアア!!!!」
馬鹿でかい光の弾が飛び出した。ボクはとっさに近くの木につかまり、衝撃で後ろに飛ばされそうになるのを必死でこらえた。見渡すと、周りの地面の雪が飛び散り、地面が見えてきている。
しばらくして爆風がやんだとき、雪崩は消えていた。むき出しになった地面からは、草花が芽吹いている。・・・そうだ、春が来たんだ。
「ふう。久しぶりに、まあまあ大きいの撃ったな・・・。破ぁーくしゅんっ!」
赤い鼻をこすりながら、Tさんは華麗なスノボさばきで崖下にジャンプしていった。
スキー場に半袖短パンで来るなんて、寺生まれってすげえ。
ボクは常識的に考えて、そう思った。
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