ディディー「ピカチュウは男の子だってわかってる。わかってるけど……」 (91)

スマブラXに登場するディディー×ピカチュウ♂のエロSSです。
ケモノ・ケモショタ・ケモホモ注意。

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「なあ、ディディー」
「んっ? なに?」
「お前ってさ、もうディクシーとはヤったのか?」

 ドンキーがそんなことを聞いてきたのは、食後のバナナジュースを飲んでくつろいでいる時だった。
 それまで冒険してた時の話とか大乱闘の話で盛り上がってたのにいきなりそんなことを言い出したものだから、オイラは危うくジュースを喉につまらせそうになった。

「な、なに、いきなり」
「んーっ、最近気になってたからさ。お前とディクシーが付き合い始めてずいぶんたつし、もうセックスしたのかなって」

 『セックス』。
 それを聞いたとたん、オイラは顔がだんだん火照っていくのを感じた。
 ドンキーとやらしいことを語るのは今に始まったことじゃないし、セックスなんて言葉はもう聞き慣れた……はずなんだけど、面とむかって言われるとどうもダメらしい。
 ドンキーは飲みかけのバナナジュースをぐびぐびと飲み干すと、オイラの隣に腰をおろした。

「なに恥ずかしがってんだよ。おれとお前の仲じゃねぇか。言っちまえよ。昨日はセックスしたのか?」

 仲がいいからこそ言いにくいことだってある。
 でもそんなことを言ったらドンキーがますます調子づくのは目に見えてるので、なにも言わずにいた。
 横目でチラッとドンキーを見ると、ネクタイがほどけていることに気がついた。

「ほどけてるよ、それ」

 胸元を指さして教えてあげるとドンキーは「おっ、ほんとだ。いけねぇいけねぇ」と言って、緩んでいるネクタイを一旦ほどき、器用な手さばきで結んでいく。
 身だしなみには人一倍気をつかうのに、オイラの前だと下品な言動は一切慎まない。
 ドンキーとは長い付き合いだけど、いまだに理解できないことは結構あったりする。

「で、ヤったのか?」

 ドンキーはネクタイをギュッとしめた直後にまた同じことを聞いてきた。
 肩に腕を回し、顔を覗きこんでくる。
 オイラは帽子のツバをさげて顔を隠した。

「なーに照れてんだよ」

 ドンキーは声をたてて笑いながらオイラの肩を乱暴な手つきでたたく。
 本人は軽くポンポンしてるつもりなんだろうけど、ぶっちゃけ痛い。
 全くドンキーったら、力加減というのを知らないんだから。

「痛いんだけど……」
「おぅ、悪ぃ悪ぃ。ところでさ、お前ってデートの時、いっつもどこ連れてってんだ?」

 ドンキーは急に質問の趣旨をかえた。ストレートな聞き方だとオイラが答えそうにないと判断したのかもしれない。

「そりゃまあ、いろいろ」
「いろいろなのはわかってるよ。お前らがどんなデートしてるのか具体的に知りてぇんだよ、おれは」

 あいまいな答え方をするとすぐ“具体的に”って言うのはドンキーの口ぐせだったりする。
 今度は少し考えたあと、答えた。

「最近はトロッコ乗ったり、紅潮した海を高台から眺めたりしてるかなぁ。あとは……そうそう、木のてっぺんで一緒にバナナを食べたりしてるよ」

 言いながらオイラは、「これってドンキーと遊んでる時とたいしてかわらないじゃんか」と心の中で思った。
 口にしてから初めてそのことに気がついた。
 相手がちがうだけでやってることはいつもとほとんど同じ。果たしてこれはデートといえるんだろうか?
 楽しめたらそれでいいのかもしれないけど、オイラはふと考えこんでしまった。

「で、親密なムードになったらお持ち帰りすんのか?」

 ドンキーは顔をにやつかせなからオイラの耳元でささやく。
 嫌らしい言い方だ。こっちはデートの定義について真剣に考えてるってのに。
 オイラは呆れた顔をしてドンキーを見やる。

「ドンキー、ただそれが言いたかっただけでしょ」
「ははっ、バレたか」

 バレバレです。
 ドンキーってディクシーの話題になったらすぐエッチな方向に話を持っていこうとするんだ。
 オイラがデートに行く時だって毎回「真っ昼間からやるのはいいけどしげみの中でやれよ」ってからかうし。
 しかも真顔で言うものだからたまに冗談で言ってるのか本気で言ってるのかわからない時があるんだよね。

 とは言っても別に嫌いじゃないけどね、ドンキーのそういうところ。
 相手が誰であろうと決して気取らないし、時にはしょうもない冗談で笑わそうとする。
 それはドンキーの個性だと思うし、やらしい話題が好きなドンキーらしいっちゃらしいし。
 ただ、今日はやたら直接的な質問ばかりしてくるから返答に困っちゃうな。

「で、どうなんだよ。昨日はお泊まりデートだったんだろ? エッチしたのか?」

 ドンキーはやけにしつこく聞いてくる。
 昨日は確かにディクシーを家に泊めたけど、やらしいことはなにひとつしてない。
 それはドンキーだってほんとはわかってるはずだ。

 なのにそれをお泊まりデートと誇張するのは、オイラの口からディクシーと交尾をすませたかすませてないかをただ言わせたいだけなんだと思う。
 相棒という関係上、やっぱりそういうのって気になるものなのかな?
 そもそもそういう質問をこどものオイラにすること自体、間違ってる気がするけど。

「あのさぁ、ドンキー。オイラの年齢わかっててそんなこと聞いてるの?」
「もちろん。お前もそろそろ大人の仲間入りをしてもおかしくない年頃じゃないか。ニンゲンだったら思春期の真っ只中だぜ。精通だってとっくに終えてるだろ?」

 さらりと卑猥なことを言ってのけるドンキーに、オイラは一瞬たじろいだ。
 けれど、すぐさま言い返す。

「『おれから見ればお前なんてまだまだガキだよ』って普段から散々お子様扱いしてるのは誰だっけ」
「まあまあ。今はそんなのどうでもいいじゃないか。で、エッチしたのか?」

 ドンキーは皮肉っぽく言ったオイラの言葉を適当に受け流すと、同じ質問をまた繰り返した。
 結局聞き出すまで質問をやめるつもりはないってわけね。
 はいはい、わかったよ。言えばいいんでしょ言えば。

「なあ、教えてくれよ。昨日はエッチしたのか? したんだろ?」
「してないよ」

 オイラはあっさりと言い放った。

「えぇっ? ほんとかよ」

 素っ頓狂な声をあげるドンキーに、オイラは事実を明言した。

「うん、ほんと。まだ手をつないだことしかないって前にも言ったでしょ? っていうかオイラたち、まだチューすらしてないよ。だからエッチは……言わなくてもわかるよね?」

 ドンキーはひどく驚いた顔を浮かべていた。
 まさか、オイラとディクシーがすでに肉体的な関係にあると本気で思ってたんだろうか。
 オイラが顔を赤らめながら小さな声で「したよ」って言うのをなかば予想してたのかもしれない。

 そりゃオイラだって見栄はろうかなって最初は悩んだけど、オイラはうそをつくのがヘタだから、掘り下げて聞かれたらすぐにバレる。
 そう思ったから正直に言っただけだ。
 それにやっぱり、ドンキーにうそはつきたくない。

 きっぱりと言い切ったからか、ドンキーは疑うこともなく、すぐにオイラの言ったことを信じたようだった。

「ディクシーってそんなにガード固いのか。まあでも確かに言い寄ったら『不潔!』とか言ってビンタしそうだよな、あいつ」
「ビンタしたあと、ポニーテールで思いっきりはたくだろうね」

 オイラはバナナを彷彿させるあの強靭な髪で頬をぶたれる場面を想像し、身震いした。

「ははっ、ありうるな、それ。そういや彼女、今日はどっかにお出かけか? 朝から見かけねぇけど」
「妹と一緒に帽子を買いに行ったよ」
「帽子?」
「うん。ほら、このまえ試合を応援しに闘技場まできてくれたでしょ? そこのおみやげコーナーにかわいい帽子が売ってたんだって」
「へぇっ、帽子だけのためにわざわざあんな遠いところにねぇ」

 ドンキーは感心した様子で言った。
 この際なので、気になってたことを聞いてみることにした。

「でもさぁ、変だと思わない? あんなにあのピンク色の帽子を大事にしてたのに、新しい帽子に目移りするなんて。あれをかぶってからまだそんなに日がたってないのにね」
「よっぽどその新品の帽子が気に入ったんじゃないのか? もしくは人気があってみんなかぶってるから自分もほしくなったとか」

 やっぱり思うことは同じなんだね。

「オイラ、『今かぶってる帽子の方が絶対似合ってるよ』って何度も言ったんだけどね、ディクシーったらどうしてもおニューの帽子がほしかったみたい。新しいのってそんなに魅力的なのかなぁ……」
「流行りもんにすぐ食いつくからな、女っつー生き物は。そんなに個性をつぶしてまで自分をかわいく見せたいのかねぇ」

 ドンキーは半ば呆れ口調でそう言ったけど、まったくもって同感だった。

 女の子ってどうしてこう、揃いも揃ってミーハーなんだろうね。
 だいたい愛用するつもりがハナからないなら「どう? 似合ってる?」なんていちいち聞いてこなきゃいいのに。
 ある程度満足したらどうせまた新しいのに買い替えるんだから。

 価値観なんてみんなそれぞれちがうから否定するつもりはないけど、ディクシーのそういった考え方はオイラには正直理解できない。
 帽子にしろ服にしろ、長く大事にしているうちにだんだん愛着がわいてくるものだと思うんだけどな。

「でも、ひょっとしたらお前のためなのかもしれないな」

 ドンキーがぽつりと言ったセリフを、オイラは聞き逃さなかった。
 オイラのため? 帽子を買うのがオイラのため?
 新品の帽子がオイラと一体なんの関係があるんだろう。

「どういう意味?」

 オイラは率直にたずねた。

「きれいに着飾ってお前を振り向かせたいんじゃないのか? 雰囲気をがらりとかえてお前を魅了しようと目論んでたりしてな。買うのは帽子だけじゃないかもよ?」

 ドンキーは口元を歪めて笑う。
 その直後、「露出度の高い服も買うか悩んでるかもな」とつけ加えた。
 そんなことは考えてもなかったので、オイラは当惑した。

「まさか。それはないでしょ、さすがに」

 すぐに否定したけど、ドンキーは自分の説を曲げなかった。

「何故言い切れる? あいつにもしセックス願望があるのならお前のために自分を磨く努力くらいするだろ普通。女は好きな男のためならなんだってするんだぜ」
「そりゃそうかもしれないけど、だからってディクシーがオイラに隠れてそんなことしてるとは思えないんだよね」
「わかんねぇぞ。恋する女は時には大胆になったりするもんだぜ。清純そうに見える女が愛する異性のために自ら股を広げるのはよくある話さ」
「そうなのかなあ……」

 なんだか論破されてしまったような気がして自信がなくなってくる。
 でもいわれてみれば確かにここ最近、ディクシーはやたらと意味深なことばかり言ってオイラを誘ってた気がする。

 デートの最中に急に手をつないできて「わたし、あなたとならいいよ」と微笑んできたことがあった。
 星を眺めてる時に「夜空の下で仲良くするのも悪くないよね」って言いながら寄り添ってきたこともあった。
 昨日の夜だって「今夜は大丈夫よ」なんて言ってたし。

 「なにが大丈夫なの?」ってこともなげに聞いたら「……バカ」って言ってふて寝したんだよね、ディクシー。
 その時はなにをそんなに怒ってるのかちっともわからなかったけど、今になってようやくわかった。

 あれは「今夜こそあなたとセックスしたい」って遠回しに言ってたんだ、きっと。
 そう考えるとそのあとの彼女のそっけない発言もうなずける。
 オイラのあまりの鈍感さに呆れてたのかもしれない。

 ドンキーに言われなかったらオイラはずっと気づかないままのほほんと過ごしてたにちがいない。
 女心って難しいなぁ……。

「なにか心当たりがあるみたいだな」

 ドンキーはオイラの顔つきを見て察したようだった。

「……昨日、ちょっとね」
「話してみろよ」

 オイラはドンキーを見つめる。
 言おうかどうか悩んだ。
 からかわれるかもしれない。でも聞いてもらったらなにか得られるものがあるかもしれない。
 それに、ここ最近のディクシーの様子っぷりをドンキーは知らないんだし、相談ついでに話しておくのも悪くない。

 迷った挙げ句、オイラは話すことにした。

「ディクシーったらここんとこね……」



「――ふーん。じゃあ現状はほとんど進展なしってことか」
「うん」

 ドンキーはオイラから聞いた話の内容を頭の中で整理している様子だった。
 だいたいのことは話したので、なんでオイラが頑なに口をとざしてたのか、これでわかってくれたはずだ。
 しばらくしたあと、ドンキーは口を開いた。

「つまり、セックス願望を抱いてるのは彼女だけで、お前じゃなくて彼女がお前をお持ち帰りしようとしてたってわけか」

 その結論はちょっと、いやかなり飛躍してるけど、いちいちツッコむのもめんどくさいので「そんなとこだね」と、おざなりな返事をした。
 それがいけなかったのか、ドンキーは変なことを言い出した。

「あいつ、寂しさを紛らわすために毎晩バナオナしてそうだな」
「バナオナ?」
「バナナでオナニー、略してバナオナ。お前とセックスしてる妄想しながら毎晩バナナで性欲満たしてるかもよ」

 その言葉の意味を理解するまでしばらくかかった。
 要するに、バナナをオチンチンに見立てて自分の性器に挿れてるってこと?
 想像したら絶句ものだった。

 仮にドンキーの言うとおりだったとして、そんなむなしい行為をして心が満たされるんだろうか?
 だいたいそんなことして中でバナナが折れ、抜けなくなったらどうするんだろう?
 オイラは彼女の精神状態よりもそっちの方が心配だった。

 ドンキーはオイラの肩にぽんっと手を添えると、うれしそうに顔を綻ばせた。

「にしても、彼女の気持ちに全く気づかないなんて、お前もかなりの鈍感だなあ。彼女は今までずーっと求愛に励んできたってのにお前ときたら、それをことごとくはねのけてきたんだもんなぁ」
「……」

 なにも言い返せなかった。
 まさにそのとおりだったからだ。
 オイラってほんと、自分のことになると鈍いなぁ……。
 ドンキーから顔をそむけ、うつむいて落ちこんだ。

 それに気づいたドンキーが「冗談だよ」と肩をポンポンして微笑みかけたので、オイラはほんの少し気持ちが楽になった。
 些細なことでもすぐ気にしてしまうオイラの人となりを憂慮したのかもしれない。

今日はここまでです。続きはまた近いうちに投下します。

「そもそもお前はさ、彼女とセックスしたいって思ったことはあるのか?」

 ドンキーにそう聞かれ、オイラは少し考えてから首を横にふった。

「全くか?」
「うん」

 その答えにうそはなかった。
 付き合い始めて結構たつのに未だにそういった行為に及んでないのがなによりの証拠だ。

「実に不思議だよ。普段あんなに仲がいいのにお前にその気がこれっぽっちもないなんて」
「ほんと、なんでだろうね」

 とぼけた風に受け取られたかもしれないけど、それは実はオイラ自身も常々感じている疑問だった。

 ――オイラってどうしてディクシーに肉体的欲求を感じないんだろう。

 無論オイラだってエッチなことに全く興味がないわけじゃない。
 オナニーだってほぼ毎日するし、時にはやらしい妄想にふけることだってある。
 それに、ドンキーほどじゃないけどそれなりの性欲だってあるのも自覚してる。

 なのにディクシーと一緒にいても、どれだけ親密なムードになっても、彼女と1つになりたいという気持ちは全く湧いたことがなかった。
 それがどうしてなのかは付き合って結構たった今でもわからない。

 そもそもオイラはディクシーのことを本気で愛しているんだろうか?
 異性としてではなく、単なるガールフレンドとしか見てないんじゃないだろうか?
 根本的な問題だとしたら、ディクシーと今以上の関係を築くのは絶対に無理なんじゃないだろうか?

 考えれば考えるほど疑問はますます膨らんでいく。

「ディクシーのことはもちろん好きだけど、なんか今はまだそれ以上の関係にはなれないっていうか……。愛してるというよりただ好きってだけかな、たぶん」
「友達以上恋人未満ってとこか?」
「そんな感じかな。ヒマな時は今日みたいにドンキーと一緒にいることの方が多いしね。デートよりドンキーと遊んでる時の方が楽しいっちゃ楽しいし」
「そうか」

 ドンキーはニコニコしながらあいづちをうつ。
 ガールフレンドよりも自分を選んでくれることに悪い気はしないのかもしれない。

「だからその、なんていうか、会いたい時だけ会えれば別にそれでいいかなって。毎日デートばっかだとお互い重いだけだろうし」

 ドンキーは黙って話を聞いているのでオイラは続けた。

「それに、今は他にやりたいことがいっぱいあるんだよね。ドンキーとも遊びたいし友達とも遊びたい。それに、身体を思いきり動かしたくなった時は乱闘にも参加したい。デートばっかり優先しちゃうとそういうのもできなくなっちゃうし……」
「まあ確かに彼女と趣味を両立させるのは難しいな」
「うん。だからやっぱり、デートはまだ1番には考えられないかな」
「なるけどな。今は自分のやりたいことをやっていたいってわけか」

 オイラは黙ってうなずいた。
 思いのたけを打ち明けたと同時に、オイラは自分の言動がいかに利己的であるかを思い知った。
 こんなオイラをドンキーは内心軽蔑しているんだろうか。

「……オイラの考え方っておかしいかな?」

 不安になって聞いてみる。

「いいや、全く。自分のために時間を使うなんて実に有意義で素晴らしいことじゃないか。それによ、お前のそういう愚直なところ、おれは好きだぜ」

 ドンキーは満面の笑みを浮かべながらオイラの肩を軽くたたく。
 安堵がオイラを包みこんだ。

 どんな時でもオイラの味方でいてくれるドンキー。
 親身になって真剣に話を聞いてくれるドンキー。
 ドンキーが相棒でよかったなとオイラは思った。

「よくここにディディーがいるってわかったな。誰かに教えてもらったのか?」

 正にオイラの抱いている疑問をドンキーが口にした。
 ピカチュウは手に持っている紙切れをオイラたちに差し出す。
 見てみると、それには大きな円が描かれていた。

 円のど真ん中には“バナナジャングル”と書かれており、右には『遺跡』、左には『浜辺』とそれぞれ書かれている。
 そして円の上の部分にでっかく『×』と印されていた。

 それを見てすぐに思い出した。オイラが以前この子に渡しておいた、この島の地図だ。
 地図といってもオイラがこの島の形を思い浮かべながら大雑把に書いたものだけど。
 ご丁寧に×のすぐ上に『オイラが基本的にいるのはここ』とまで書いてある。
 我ながら律儀だなぁ、とオイラは思った。

「これ、お前が書いたのか? よくこんなんでここまでこられたなぁ」

 横から覗きこんだドンキーは、地図を見るなり呆れ口調で言った。
 そう言われても仕方のないことだった。
 自分で書いた地図を改めて見てみると、字が非常に汚い。
 ピカチュウ、よくこんなんで迷子にならなかったね。

「海を渡ってきたんだよね? 誰かに乗せてもらってきたの?」
「ピカッ、ピカピッ、ピカッチュ」

 ピカチュウは答えたけれど、なにをしゃべってるのか全くわからなかった。

 オイラやドンキーの言葉はピカチュウに通じるけど、ピカチュウの言葉はなぜかオイラたちには通じないんだよね……。
 でもジェスチャーで伝えようとしてくれてるので、「そっか。大変だったね」とにこやかに返事した。
 いつもは茶々を入れるドンキーも事情を察してるのか、なにも言ってこない。

 おおかた空を飛べる生き物に乗ってきたか、船に乗せてもらったかのどっちかだろう。
 どのみちそんなことは知らなくても困らないし、さほど重大なことではないので、オイラは深く考えないことにした。


「立ち話もなんだしむこうで話そうよ。さっ、こっちこっち」

 自分の家でもないのにオイラはそう言ってピカチュウの手を握ると、部屋の奥に連れていった。
 ピカチュウを真ん中にして横に3匹並んで座る。

「ディディー、よかったな。今日はデートの日じゃなくて」
「うん」

 やっぱり今はデートしてる時より友達といる時の方が楽しい気分になるな。
 オイラは心の底からそう感じた。

 心なしかドンキーの表情も若干綻んでいるように見えた。
 ディクシーだと気を遣うだろうからほっとしてるのかもしれない。

「ピカチュウ、ここまで歩いてきたから喉かわいてるでしょ? ねぇ、ドンキー。ピカチュウにもバナナジュース作ってあげてよ」
「ああ」
「あっ、ついでにオイラもおかわりしたい」

 オイラは残っているバナナジュースを全部口に含むと、空になった容器をドンキーに差し出した。

「よしよし、 ちょっと待ってろよ」

 ドンキーはコップを受け取って立ちあがると、鼻歌を歌いながらいそいそとバナナジュースを作り始めた。
 できあがるまでしばらく時間がかかるので、オイラはその間に冒険した時の話をピカチュウに聞かせてあげようと思った。

「ピカチュウ、オイラがクレムリンたちからバナナを奪還した話、聞きたくない?」
「ピカッ!」

 ピカチュウは興味ありげな様子でうなずいてくれたので、オイラはゆっくりと話し始めた。

 ピカチュウと出会ってからずいぶんたつけど、この子がこのドンキーコングアイランドにやってきたのは今回が初めてのことだ。
 ドンキーはピカチュウのことを昔から知ってたのに一度もこの島に連れてきたことがなかったから、オイラは乱闘に参加するまでピカチュウのことはモニター画面でしか見たことがなかった。

 ただ、画面に映ったピカチュウのチャーミングな笑顔や愛らしい仕草に釘づけになったことは多々あったので、いつか実際に会ってみたいなとはそのころからずっと思っていた。
 だから闘技場でピカチュウの愛くるしい動きを実際に見た時、この世界にはこんなにかわいい生き物がいたんだと本気で感動したものだ。

 「お前も出ようぜ」とドンキーに誘われて参戦することになった大乱闘は思ってた以上にエキサイティングで手強いファイターばかりだけど、冒険してた時とは一味ちがった新鮮さがあるので結構面白い。
 とはいえ、オイラはドンキーやピカチュウとちがってまだ全然バトル慣れしてないからチーム戦の時は味方の足を引っぱっちゃうことがほとんどだし、1対1の勝負だと負けちゃうことの方がはるかに多い。

 けれど、それなりに楽しめてるからつらいと感じたことはない。
 むしろ参戦してよかったなって思ってる。
 “憧れのピカチュウに会う”という念願の夢を叶えることができただけでなく、友達にもなれたから。



「――でね、クレムリンたちにさらわれたドンキーをオイラとガールフレンドで助けに行ったんだよ。コースターでレースに挑んだり、時にはともだちアニマルに変身したり。いろいろ大変だったけどすごく楽しかったなぁ」

 オイラがしみじみと語る思い出話を、ピカチュウは楽しそうに聞いてくれている。
 話してるうちにオイラはだんだん気分が高翌揚していた。

「またあんなスリリングな冒険したいなぁ。ピカチュウだって一度はそういう冒険したいよね?」
「ピカッ!」

 ほんとにそう思ってるからか、ピカチュウは即座に返事した。

「ねぇ、ドンキー。そういうわけだからまたクルールたちにさらわれてよ。今度はピカチュウと一緒に助けに行くからさ」
「おいおい、勘弁してくれよ。もう縛られるのはごめんだぜ」

 ドンキーはオイラを見て苦笑いを浮かべる。

「ちょっとの辛抱だよ。ピカチュウが電撃でドンキーもろともクルールを黒こげにするってさ」
「ピカピカッ」
「それじゃ助けにきた意味ねえじゃんか」

 ドンキーがすかさずツッコんだので、オイラとピカチュウは声をたてて笑った。
 ドンキーは「やれやれ……」とため息をついていた。

 今思えば、ポケモンという種族とただのサルであるオイラがこうして親しくしてるのって稀有なパターンなのかもしれない。
 ポケモンはポケモン同士で行動するのが一般的だというのを耳にしたことがあるから。

 とはいっても、オイラはどんなポケモンとでも仲がいいってわけじゃないけどね。
 一応この子の他にゼニガメやルカリオっていうポケモンのファイターもいるっちゃいるけど、前者はニンゲンに忠実なシモベって感じだし、後者は近寄りがたいっていうか、なんか苦手。
 あと頭に赤いリボンをつけた、ピンク色のまんまるなポケモンもいた気がするけど、ちょっと名前が思い出せない。

 ピカチュウは彼(彼女?)らと同じ種族だから全く関わりがないということはないと思うけど、普段試合とかで見てても特に親しい間柄というわけでもなさそうなので、紹介してもらったことはなかった。
 まあどのみちそのポケモンたちといまさら仲良くしようとは思わないし、親しくなりたいとも思わない。
 ドンキーとピカチュウがいてくれれば休憩中も退屈しないですむし、このままでいいやって思ってる。



「できたぞ、ほいよ」

 話にちょうど区切りがついた時、ドンキーはタイミングよく2つのコップをもってオイラたちの元へとやってきた。
 よっ、待ってました。

 ピカチュウは「ピカピッ」と短く鳴いてドンキーからジュースを受け取った。
 今のは「ありがとう」って言ったのかな?
 幼いのに礼儀正しいな。見習わないと。

>>29

×高翌翌翌揚
〇高翌揚

誤字すみません。

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