唯「ほえ?」剣心「おろ?」 (72)
神谷道場
剣心「今日も良い天気でござるな」
剣心「こんな日はついつい暖かい縁側でうたた寝してしまいそうでござる」
剣心「すぅ……」コックリコックリ
薫「あ、いたいた! 剣心ー!」タタタ
剣心「……おろ? 薫殿、何事でござるか?」
剣心「拙者、これから大事な用事があるゆえ手短にお願いしたいのでござるが」
薫「あなた、今寝ようとしてたじゃない! いい? 晩御飯のお買い物を頼みたいの」
剣心「それは構わないでござるが……弥彦にでも任せれば良かったのでは」
薫「しれっと弥彦に押し付けようとしないでよ。私と弥彦は町外れの道場にまで出稽古に行くから頼めるのは剣心しかいなかったの。暇そうだったしね」
剣心「なるほど、承知致した。明日で良いでござるか?」
ゴン!
剣心「行ってくるでござる」ジーン
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道中
剣心「薫殿は気丈な女子でござる。そうでなければ一人で道場を再興しようなどとは思わなかったでござろうが……些か短気過ぎるでござるよ」ブツブツ
剣心「麗かな日差しに包まれれば心身が緩むのは摂理でござろう。拙者も別に使いが嫌であんな態度を取った訳では無いでござるというに」ブツブツ
左之助「いよう剣心! トボトボ歩きやがってどうした?」
剣心「左之助でござるか。お主は自由気まま、気楽で良いでござるな」
左之助「なんだいそりゃ。出会い頭に嫌味ぶつけるたぁ穏やかじゃねえな」
左之助「ところでよ、今日の晩飯、俺もご馳走になりに行っていいか? 実は今朝から賭け事ですっからかんにされちまってよ。このままじゃ背中と腹がくっついちまう」
剣心「自業自得でござろう……と、言いたいところでござるが拙者も鬼では無いでござる。拙者の代わりに薫殿の使いに行ってくれるならば聞いてやらないことも無いでござる」
左之助「おう、いいぜ。じゃあ金を預かんねーとな」
剣心「うむ、確かに預け……」
薫「」ジッ
剣心「……ないでござる。拙者、やはり自分で使いを果たすゆえ」スタスタスタスタ
左之助「んだそりゃ!? 俺を見捨てるってのか! 俺を捨てないでくれ剣心! 頼む!」
ザワザワ ザワザワ
剣心「ちょっ、衆目の前で誤解を招くような言葉は慎むでござる!」
左之助「俺にはお前しかいないんだ! じゃなきゃあ俺ァ……」
剣心「分かった! 分かったでござる! 拙者から薫殿に口利きするでござる! だからもう口を噤むでござる!」
左之助「ありがてぇ。流石は俺の認めた最強の剣士だ。礼に薫の使いとやらを手伝ってやるよ」
剣心「拙者もう帰りたいでござる」
町中
魚屋「まいど! 少しオマケしておいたから薫ちゃんによろしくな」
剣心「承ったでござる。それでは」
左之助「さ、次は何を買うんだ?」
剣心「いや、これで買い物は全て終えたでござる。あとは早々に帰るだけでござるが……」
剣心「多少、釣りが余ったでござるな。茶屋で団子などでも買っていこうと思うのだが左之助」
左之助「無論、賛成するぜ」
剣心「決まりでござるな」
剣心「確かこのすぐ近くに新しい茶屋が開いたと耳に挟んだ覚えがあるでござる。そこに向かおう」
左之助「おうよ!」
~♪
剣心「……?」
左之助「どうした剣心」
剣心「いや、何処からともなく不思議な音色が……」
左之助「……そういや聴こえるな。三味線か? とはまた違うような」
剣心「気になるゆえ、音のする方へ行ってみるでござる」
唯「きーみがーいーなーいーとなんにーもーできなーいよー♪」
唯「きーみのーごはんがたべたーいよー♪」
唯「よー……」
唯「……」グゥー
唯「お腹空いたぁ……ぐすん」
唯「はぁ、どうしてこんなことに……」
剣心「もし、そこの少女」
唯「ほえ?」
剣心「そなたは芸者でござるか? 先程よりそなたの奏でる音色と唄を聴いていたのでござるが、いや実に見事なものだったでござる」
剣心「さぞ、名のある芸者とお見受けしたのだが、何故こんな寂れた往来で演奏しているのだ?」
唯「あっ、あの、えっと! 私、そういうの良く分かんなくて……気がついたらこの時代にいて、そ、それで色々帰る方法を探してたんですけど途中でお腹が空いちゃって……」アセアセ
唯「でも、お金を持ってなくて……だから路上演奏してみんなが私の歌を良いなって思ってくれたらお金くれるかなーって……」アセアセ
左之助「イマイチ話が分からねぇ」
剣心「んー……とにかく困り果てているのは分かったでござる」
剣心「そなたの名を尋ねても良いでござるか? 拙者は緋村剣心と申すもの、流浪人でござる」
左之助「俺は相楽左之助、喧嘩屋よ」
唯「平沢唯ですっ!」フンスッ
剣心「唯殿、拙者達はこれから茶屋に向かう途中だったのでござるが、一緒に来る気は無いでござるか? 先程の見事な演奏への礼でござる」
唯「お茶!?」キラキラ
左之助「おう! 金が無いってんならついでに薫んトコで晩飯も食ってけよ。今更一人二人増えたところでアイツも構いやしねーだろうし」
唯「行きます! え、えと、ありがとうございます!」ペコリ
剣心「なに、遠慮は無用でござる」
左之助「旅は道連れ世は情けってな」
剣心「それはちょいと違うでござるよ、ははっ」
物陰
???「……」
茶屋
唯「はむっ、はむはむ……美味し~い♪」モグモグ
剣心・左之助「……」ポカーン
左之助「こいつぁたまげたぜ……団子を二十串も平らげやがった」
剣心「よほど、お腹が空いていたのでござるな……」
唯「もぐもぐもぐ……ごっくん」
唯「ずずず……ふぃ~熱いお茶が染みますなぁ」
左之助「俺も食う方だけどよ、そんなに甘いもん腹に詰め込んでよく気持ち悪くならねーもんだ」
唯「とっても美味しかったです! ごちそうさまでした!」
剣心「それはなによりでござった」
剣心「ところで唯殿、一つ聞いても良いでござるか?」
唯「ほえ?」
剣心「お主は先程、気がついたらこの時代に……と言っていたと思うのだがそれはどんな意味でござろうか?」
唯「えっと……私もあんまり分からないんですけど、タイムスリップしちゃったみたいなんです」
剣心「たいむすりっぷ? はて?」
唯「あ、そっか……この時代の人には通じないよね……うーん、な、なんていえば良いんだろう……」
唯「私、すーっごく遠い未来から来たんです!」フンスッ
左之助「はぁ?」
剣心「話が見えないでござるな……」
唯「う、嘘じゃないですよ! んーと……」
(回想)軽音部部室
さわ子『さぁ、ちゃっちゃとみんな片付ける! 部室を綺麗にするまで夏休みは無いものと思いなさい!』
律『うげー!』
紬『がんばりましょ!』ムギュ!
唯『がんばって!』フンスッ
澪『……唯もやるんだよ』
澪『というか、部室に置いてある私物の殆どは唯の物じゃないか。唯が率先して片付けないでどうするんだ』
唯『……てへ?』
律『てへ? じゃねーよっ! 唯のあほー! 私達の夏休みが掛かってるんだぞ!』
律『このまま夏休みお預けを食らったら私の壮大な夏休みエンジョイ計画が破綻してしまう!』
紬『律っちゃん、なあにそれ?』キラキラ
律『よくぞ聞いてくれたムギ。夏休みエンジョイ計画、それは澪に宿題を全部押し付けてごろ寝す……』
ゴン!
澪『理由は言わなくても分かるよな』
律『押忍』ジーン
さわ子『口動かさないで手を動かす!』
唯・澪・律・紬『うい~す』
紬『このシール帳は誰のかしら?』
唯『あ、私のだ!』
澪『スクール水着だ……平沢って書いてるぞ』
唯『ご、ごめ~ん』
さわ子『このペンケースは?』
唯『それ無くしたと思ってたやつだ! 部室にあったのかぁ』
律『……じゃー、流れ的にこの趣味の悪いぬいぐるみも唯のか?』
澪『……』バシッ スタスタスタスタ
律『お前のかい!』
澪『……こほん、だ、だいぶ片付いたんじゃないか? ほら、見違えるくらい広くなったぞ』
唯『疲れたー!』ゴロン
律『私らはもっと疲れたっての!』ビシッ
唯『申し訳なかとです!』
さわ子『うんうん、みんなよくやってくれたわ』
紬『お茶にしましょー♪』
唯・律『おー!!!』
澪『やれやれ』
ゴトン
澪『……うん? なんだろう、この箱』パカッ
澪『唯ー、これも唯の私物じゃないのか?』
唯『何それ?』
澪『多分、ギターのピックだと思うけど。ほら、ひ・ら・さ・わ・ゆ・いって彫られてるぞ』
紬『これ、鉄で出来てるみたいね』
律『……ずいぶん錆びてるな。なんでそんなの持ってるんだ唯』
唯『ええ? 私知らないよ?』
澪『知らないって……名前あるのに』
唯『だって、知らないんだもん。澪ちゃん、ちょっと見せてくれる?』
澪『ん』
唯『……本当に私の名前が彫られてる』
紬『何かのお土産とかかしら? どこかで買ってきて名前を入れてもらったけど、そのまま部室に忘れて記憶も忘れちゃった……とか』
唯『さ、さすがにそういうことがあったら覚えてるよ~』
律『うーん、片付けも終わるというところで不可解な謎が現れたな』
澪『こ、怖い言い方をするなよな』
律『突如、部室に舞い込んだ謎のピック! そのピックに持ち主の名は刻まれど、当の本人は記憶なし! まさかこれが哀しくも恐ろしい連続殺人の始まりだとは誰も夢にも思わなかった……』
澪『ひぃっ!!!』ガタッ!
紬『澪ちゃーん、よしよーし』ナデナデ
唯『……』ジー
唯『確かに私の名前だ……でも全然覚えてない……買った記憶も貰った記憶も無いし』
唯『……』
キラッ
唯『ほえ? ……汚れてて見えなかったけど、他にも文字が刻まれてる』
唯『ひ……?』
グラァ……
左之助「……んで、そこで記憶が途切れて、気がついたらこの時代に来ていたと」
唯「はい!」フンスッ
剣心・左之助「……」
左之助「……く」
唯「?」
左之助「くくっ……ぶわっはっはっはっはっはっ!!! なんだそりゃ! あっはっはっはっはっ!!!」
唯「し、しどい! なんで笑うのー!?」
左之助「ひっひっ、腹がいてぇ……鼻垂れたガキでももう少しマシなホラ吹くぜ、なぁ剣心! くくっ」
剣心「……」
剣心「……」
唯「……ぐすっ」
剣心「ふむ」
剣心「唯殿、ならば元の時代とやらに戻れる日まで神谷道場に来てはどうでござるか?」
唯「えっ?」
左之助「お、おい剣心。今の話、まさか信じるってのかよ!?」
剣心「いや、正直拙者も半信半疑あちらそちらでござる」
剣心「されど唯殿の目は曇りなき真、真剣そのものでござった。拙者は唯殿は嘘は言っていないと思うでござるよ」
唯「し、信じてくれるの?」
剣心「勿論でござる」
左之助「マジかよ……」
唯「……」
唯「……ひぐっ」ポロポロ
剣心「ゆ、唯殿!? どうしたでござるか!? 拙者、何か気に障るようなことでも言ってしまったでござろうか。なにぶん、世話になっている薫殿には何故かいつも横柄な態度をとってしまうため思わずそれが唯殿に対しても現れてしまったかもしれぬやらなにやら……」ペラペラ
左之助「剣心、お前最低だな」
剣心「左之助だけには言われたくないでござる!」
唯「ち、違います……! わ、私、ここに来てからずっと一人ぼっちだったから……ひっく」ポロポロ
唯「な、何が起きたのかも分からないし、ふ、不安でいっぱいで……路上演奏してた時も、み、みんな変な目で私のこと見てたし……ぐすっ」ポロポロ
唯「それなのに剣心さんは私の演奏を上手だって、優しくしてくれて……うえええええん!」ポロポロ
剣心「……心細かったのでござるな」
唯「はい……えぐっ……ぐすっ」
剣心「安心するでござる。そなたはもうこの時代で一人ぼっちでは無いでござるよ。元の時代に戻れるその時まで、拙者らが唯殿の友であり家族でござる」
唯「あ、ありがどうございばず……!」
左之助「ケッ」
左之助「……剣心がそう言うなら仕方がねぇ、俺も信じてやるぜ。まっ、力になれるかまでは保証しないけどよ」
唯「さのちゃあああああん!!!」ギュー
左之助「おまっ! い、いきなり抱き着きやがるんじゃねぇ! それとさのちゃんて呼ぶなアホ!」
剣心「良いではないか。唯殿なりの親愛の証なのでござろう」
剣心「なぁ、さのちゃん」
左之助「……やめろ、ゾクッと背中に冷たいものが走るからやめろ」
唯「えへへ……」
カァー カァー
剣心「おろ? いかん、もう夕刻でござる。道場に戻らねば」
唯「……」モジモジ
剣心「どうかしたでござるか?」
唯「あの……本当に私なんかがお世話になっても……」
剣心「そんなことでござったか」
剣心「実は拙者も居候の身でござる。だが、薫殿は心の広い器量良しゆえ、居候がもう一人くらい増えたところでわけないでござろう」
唯「そ、そうなんですか……」
左之助「さ、晩飯を食らいに行くとするか! ちったぁ、薫の料理の腕前も上がってるといいがよ。亭主! 勘定!」
茶屋の亭主「はいはい、ではこれこれこれくらいで」チャリーン
剣心・左之助「!!!」
剣心・左之助「……」
左之助「……なんでこんなに高ぇ?」
剣心・左之助「……」チラッ
唯「ほえ?」キョトン
茶屋の亭主「あの……お勘定を……」
左之助「あ、あー……すまん。今、持ち合わせがだな」
剣心「すまぬ亭主。拙者、これくらいしか持ち合わせて無いでござる。足りない分はこの男をこき使ってもらうことでなんとか見逃してもらえぬだろうか?」
左之助「け、剣心!? てめぇ!!」
茶屋の亭主「はぁ」
剣心「あっ、買い忘れたものがあるのを思い出したでござる!(棒) 行こう唯殿」スタコラサッサ
唯「ま、待って~!」スタコラサッサ
左之助「けんしんんんんんんんんんん!!? このやろおおおおおおおおおお!!!」
神谷道場
剣心「ただいま帰ったでござる」
薫「お帰りなさい、やけに遅かったのね。私達の方が先に帰ってきたわよ?」
弥彦「きっと女と遊んでたに決まってるぜ。剣心だって男だからな、たまには可愛い女と一緒にいたいよなー」ニシシ
薫「どーゆー意味よ! それに剣心がそんなふしだらな真似をするはず無いでしょ!」
唯「あの、お、お邪魔します」ヒョコッ
薫・弥彦「!!!」
剣心「薫殿、弥彦、紹介するでござるよ。こちら……」
薫「けえええええんしんんんんん!!? あ、あ、あ、あなたねえええええ!!!」
剣心「おろろ~!?」グワングワン
弥彦「や、やるな剣心……!」
弥彦「……で、あんた剣心のどこに惚れたんだ?」ヒソヒソ
唯「ほえっ!?」
薫「わたっ、わたっ、わたしは!? けんしーーーん!!!」
剣心「かお、るどのっ、喉っ、閉ま」グワングワン
剣心「せつっ、めい、するゆ、え、放して、ほし、ござ」グワングワン
唯「はわわわわわ……」ガタガタ
剣心「……という事情でござる」
弥彦「なーんだ、違うのか」
薫「ふうん……にわかには信じられない話ね」
唯「で、ですよねぇ」
薫「あなた、平沢唯さんって言うのね」
唯「は、はい!」
薫「いいわ、家にいらっしゃい。暫く面倒見てあげるわ」
唯「いいんですか!?」
薫「いまさら追い出せったって無理な話でしょう。それに、唐突に家に転がってくるような人は別にあなたが初めてじゃないし。但し! 住み込むからにはしっかりと自分の役目を果たしてもらうわよ!」
唯「はい! 頑張りまっす!」フンスッ
薫「いい返事ね! では改めて自己紹介、私は神谷薫。この神谷道場の師範代を務めています」
弥彦「俺は東京府士族、明神弥彦! 神谷道場の門下生だ。けど、実力は師範級だぜ!」
薫「嘘おっしゃい! そういうことは私から一度でも一本を取ってから言いなさいよ」
弥彦「薫に気を遣って取ってやらないだけだっつーの!」
薫「なんですって!?」
弥彦「やるかー!?」
剣心「まぁまぁ、二人とも。唯殿が怯えてしまうでござるよ」
唯「私は平沢唯と申します! 放課後ティータイムのギターボーカルをやってます!」
薫「ぎたー?」
弥彦「ぼーかる?」
唯「あ、つい……えっと……う、歌って弾けます!」
薫「ああ、なるほど! あなた芸者さんなのね!」
唯「うーん? そんな感じ、なのかなぁ?」
弥彦「その背中に背負ってるのが唯の三味線か? それとも琵琶か?」
唯「ううん、違うよ。これはギー太! 私の大切な相棒なんだ~」
薫「ギー太……? 確かに三味線にしてはずいぶんと大きいわね」
剣心「唯殿の『ぎいた』は今まで聴いたことの無いような、胸に届く音色を奏でるござる。また、それもさることながら唯殿の歌声もとても素晴らしいものでござった」
唯「そ、そうかな……えへへ」テレテレ
弥彦「なぁ、聴かせてみせてくれよ唯!」
薫「そうね、私も聴いてみたい! いいかしら?」
唯「うん!」
唯「……すぅ」
唯「わん、つー、わん、つー、すりー、ふぉー」
剣心「……」ニコッ
道場の外
左之助「っててて……」
左之助「肩と腰がいてぇ……それもこれも剣心のせいだぜ」
左之助「あの野郎、いったいどう落とし前つけて……」ボキボキ
saga
~♪
左之助「!」
左之助「……」
左之助「はぁ~あ……」スッ
左之助「ケッ、今日はやめだ。甘ったるくて胸焼けがしてしょうがねぇや」スタスタ
>>39修正
道場の外
左之助「っててて……」
左之助「肩と腰がいてぇ……それもこれも剣心のせいだぜ」
左之助「あの野郎、いったいどう落とし前つけて……」ボキボキ
~♪
左之助「!」
左之助「……」
左之助「はぁ~あ……」スッ
左之助「ケッ、今日はやめだ。甘ったるくて胸焼けがしてしょうがねぇや」スタスタ
翌日
薫「もしもし、朝よ唯ちゃん。おはよう」
唯「むにゅ……憂……あと五分……」
薫「憂? 誰のことかしら。って、それより早く起きなさい!」
唯「うつらうつら……」
唯「おはようございます……ぐぅ」バタッ
薫「うーん……この寝ぼすけさんぶりは剣心に匹敵するわね。甘え根性があると見たわ。でも家にいる以上、そんなことは許さないんだから!」
薫「起きなさーい!!!」バサァ
唯「ほえ~!?」
唯「うう、まだ頭がキーンってするよ……」フラフラ
弥彦「なんだ唯、やっと起きてきたのか。お前は朝弱いんだな」
唯「いつもは憂が優しく起こしてくれてたから……」
弥彦「憂? 誰だそりゃあ」
唯「私の大切な妹だよ。何でも出来る自慢の妹なんだぁ」
剣心「おはようでござる」スタスタ
唯「おはよー!」
弥彦「珍しいな、剣心が早起きしてら」
剣心「……拙者の部屋まで薫殿の雄叫びが響いて安眠が阻害されたでござる。それに、今日の飯炊きは拙者が当番ゆえ。至極めんどくさいでござる」
弥彦「ふーん」
剣心「唯殿も気持ちが落ち着かずに大変ではござろうが、一日も早くここの生活に慣れてほしいでござるよ」
唯「はい!」
弥彦「本音は?」
剣心「働きたくないでござる。拙者の分まで唯殿には頑張ってほしいでござる」
あやめ・つばめ「剣兄~!」タッタッタッ
剣心「おろ?」
剣心「あやめ、つばめ、二人とも来ていたでござるか」
唯「か、かわゆい女の子……!」
つばめ「剣兄、こっちのお姉ちゃんは誰?」
剣心「平沢唯殿でござる。とある事情により、暫くここで世話になることになったのでござるよ」
あやめ「平沢唯お姉ちゃん……唯姉だね!」
つばめ「唯姉、こんにちは!」
唯「ゆ、唯姉! なんか新鮮!」
あやめ「一緒に遊ぼう唯姉!」
つばめ「剣兄も~!」
剣心「や、拙者は朝飯の準備をせねばならぬのだ。唯殿、どうか二人の面倒を見てはもらえぬだろうか?」
唯「うん! じゃあ、お姉ちゃんと遊ぼうか!」
あやめ・つばめ「やったー!」
弥彦「俺は朝稽古してくるぜ。飯出来たら呼んでくれよな」スタスタ
つばめ「何して遊ぶ?」
唯「よーし、歌を歌おう! 手拍子に合わせて『うん・たん うん・たん』だよ!」
あやめ「あはは! 変なのー!」
つばめ「うんたーん!」
剣心「元気でござるなぁ……ふわぁ」
剣心「さて、薫殿に説教もらう前に支度を済ませるでござる」
昼時
薫「私は今日も出稽古に行ってくるから、留守をよろしくね」
剣心「承ったでござるよ」
唯「出稽古?」
薫「今の時代、剣術道場はどこも厳しいの。だからこうして出稽古でもしてお金を稼がなきゃうちもやっていけないのよ。誰かさんも働いてくれたら少しは楽になるのにね」ジッ
薫「っと、遅れてしまうわ。それじゃあね」スタスタ
剣心「……ズキッと心に刺さる言い方でござった」
唯「薫さん、大変そう……」
唯「剣ちゃん、私にも何か出来ることないかな? どれくらいお世話になるのかは分からないけど、その間、何もしないってのは薫さんに悪いよね」
剣心「そうでござるなぁ……(眩しいでござる)」
剣心「思いついたでござるよ。確か『赤べこ』が人手が足らずに苦労していたはず。そこで働き、お給金を得て薫殿を助けるというのはいかがでござろう」
唯「赤べこ?」
剣心「町人に人気の牛鍋屋でござる」
唯「なるほど、アルバイトだね! よし、そこに行ってみることにしよう!」
剣心「いってらっしゃいでござるよ」
唯「ほえ? 剣ちゃんは何してるの?」
剣心「おろ? 拙者は……ほら、日々の鍛錬があるでござる」
唯「出来れば道案内してほしいなぁ……私、ここら辺のことは何も分からないし……」モジモジ
剣心「ござるかぁ」
唯「ござるなぁ」
短いけどここらで。
ニート剣心にはちょっと理由あるから、まぁ暖かい目で。
赤べこ
妙「いらっしゃいー。あっ、剣心はん」
剣心「やぁ、妙殿」
妙「一人で来はったん? 珍しいやないの。ちょっと待っててな。今、空いてる所に……」
剣心「や、今日は牛鍋を食べに来た訳ではござらんのだ。唯殿」
唯「あ、あの……初めましてっ。平沢唯です」ペコリ
妙「まぁ、可愛らしい女子どすなぁ」
剣心「実は唯殿は今訳あって、拙者と同じく神谷道場に世話になっている身。そこで、何か薫殿の手助けは出来ぬものかと拙者に相談されたところ、ここで働き手を募集していたことを思い出したのでござるよ」
妙「健気やねぇ……うちらとしては人手が増えるのはありがたいわ。最近はここらも貿易が活発になってきたさかいに、色んなお客さんが増えてきて猫の手も借りたいんよ」
剣心「どうりでこんなに盛況でござったか」
妙「ほんまにね……そのぶん、変な人も多いんやけど」
唯「ほえ~……」
妙「唯ちゃん、いきなりやけど今からでも手伝ってもらえる?」
唯「はい! やります!」フンス
妙「元気でよろしおす、それじゃこっちにいらっしゃい」
剣心「頑張るでござるよ、唯殿」
唯「うん、ありがとう、剣ちゃん!」
妙「剣心はんも手伝ってくれてもええんよ?」ニコッ
剣心「拙者のような男が働くにはこの場は似合わぬでござろう。それではまた来るでござる」スタスタ
妙「うーん……薫ちゃんも苦労するわ」
ギュウナベヒトツー
妙「はいな、少し待っておくれやすー!」
妙「これから一緒に頑張ろな、唯ちゃん」
唯「はい!」
唯「(なんだか、軽音部のみんなとやった初めてのアルバイトの時を思い出すなぁ。あの時は私のためにみんな一緒になって頑張ってくれたんだよね)」
唯「(……よしっ!)」グッ
酒場
左之助「見世物小屋? 何を見せてくれるってんだ」
男「なんだ、左之さん知らないのか」
男「今、東京で人気の見世物ったら『修学後茶会団』の演奏よ。それ聴きたさに幕を開ければ客はいつも満員、入れなかった奴は外で立ち聴きしてでも聴くってんだから、さぞ素晴らしいものなんだろうぜ」
左之助「ほお、そいつぁすげぇ」
男「実はその『修学後茶会団』が今度近くに来るらしいんだ。どうだい、左之さんも行ってみないか?」
左之助「……俺ぁ、見世物小屋には良い思い出がねーんだ。悪いがよ」
男「まぁ、そう言わずともよぉ」
男「何でも、好きあった男女同士で『修学後茶会団』の演奏を聴くとその二人は未来永劫結ばれるって話もあるんだ。左之さん、そういう相手はいないのか? 誘う良い機会だぜ」
左之助「……」
左之助「いねぇな」
男「ホントかい?」
左之助「いねぇよ」
男「またまた、恵さんとはどうなったんだよ」
左之助「るせぇ! が、ガキみたいなこと言ってからかうんじゃねーよ! 俺は帰るぜ」ガタッ
町外れ
弥彦「たあっ!!!」ブンッ
弥彦「せいっ!!!」ヒュンッ
弥彦「とおっ!!!」ダンッ
弥彦「はぁ~……飛天御剣流……」
弥彦「龍・追・閃ッ!!!」バッ
ゴーンッ!!!
弥彦「あいたっ!」
弥彦「いってぇ~……まだ、剣心みたいにはいかないぜ」
女の子「なぁなぁ、そこの少年!」
弥彦「あん?」クルッ
女の子「私ら町に出たいんだけどさ、どう行けばいいのかな? ここの道よく知らなくてさ~まいったまいった」
弥彦「別に迷うような場所じゃないぜ、この道を真っ直ぐ進めばいいんだ」
女の子「おお、ありがとう!」
女の子「『れい』! この道で合ってるってよ」
『れい』と呼ばれた女の子「そっか、じゃあ急がないとな。みんなを呼んでくるよ」
女の子「おう、先に行ってて」
女の子「いやぁ~助かったよ。お礼にこれを受け取ってくれ」
弥彦「なんだ、この券? し、しゅうが……」
女の子「『修学後茶会団』! 私達はその団員なんだ。近々に町で演奏するからよかったら聴きに来てくれ。特別に融通するからさ」
弥彦「ふーん。まっ、覚えてたら行ってやってもいいぜ」
女の子「是非、来てくれよ! それじゃな!」スタスタ
弥彦「……」
弥彦「今の子、可愛かったな……」
弥彦「って、何言ってんだ俺は! 俺には燕ちゃんが……って、それも違う!」
弥彦「と、特訓の続きだ続き! うおおおーっ!!!」
ゴーンッ!!!
これから二日に一回くらいの投下間隔でやってきますね。
文章量は乗ってる時と乗ってない時で差はあるけれど……では。
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