上条「……巴マミ?」(344)
とある魔術の禁書目録×魔法少女まどか☆マギカのクロスSSです。
カプは上条×マミになります。
なんで書こうと思った理由は、ぽっちゃり体系の人って可愛いよねってことです!デブ専じゃないよ!!
そこで大好きな上条さん×?のSSを書いてみようかなーって思ったんですけど、とあるってぽっちゃり体系の人いなくね?となり現在にいたります。
初めてこの場で投稿しますので何かと至らぬ点があるやもしれませんが、生温かい目で見守ってください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370858523
「不幸だ……」
上条当麻は自宅への帰り道、風に消えそうな弱々しい声でそう呟いた。
歩く不幸である彼は本日も散々な一日であった。
前日に小テストの範囲変更のプリントが自分にだけ配布されず、いざテストを受けてみれば勉強してきたところが一問も出題されなかった。もともと学力のレベルが低い彼には知らない問題をその場で解く能力がなく、小テストは不合格。放課後に担任の特別補習となったのであった。
その後なんとか補習を終わらせた彼は、今晩の食事の買い出しへ行こうと道を歩いていると不良数人に絡まれている中学生らしき女の子をみつけた。否、みつけてしまった。いつも通りに「いやー連れがお世話になりましたー」なんて助けに入ったところ何故か絡まれていた女の子に雷属性の攻撃を喰らってしまった。効果はいまひとつのようだった。少女は上条に攻撃が効かなかったことに苛立ったのか、そのあと小一時間ほど彼を追いかけ回した。当然、いつものスーパーのタイムセールは終わりの時を向かえていた。
「はあ……」
今日何度目か分からない深いため息が漏れ、彼は顔を落とす。
視線の先には見慣れない生徒手帳が落ちていた。それを拾い上げ、風紀委員にでも届けようかなと考え、何気なく手帳のページを開いた。
「えーっと…見滝原中学校3年…巴マミ……?」
(そういえば最近第七学区の空き地に外の学校が入ってきたって子萌先生が言ってたような)
長年、学園都市に暮らしていた上条にも聞き覚えのない学校名だった。学校の住所を見る限りそこまで上条の学校と距離があるわけではないようだ。
(なら明日の帰りでも学校に立ち寄って届けてやろうかな)
この辺りが上条が上条当麻である所以なのだろう。普通はこの場合いくら自分の足でいける距離であろうと、風紀委員に預けて届けてもらうのが一般的であろう。しかし、間に人を通した分だけ生徒手帳が本人の手に戻るのが遅れ、巴マミという少女が困ってしまうのではないかと考えるのがこの男なのである。
まあ、全体的に禁書キャラは胸のほうに肉がいくからな……
とりあえず期待
(マミさんは別にぽっちゃりでもないと思う)
「ここが見滝原中学校か…」
ヘアワックスはいつもの二割増しです。というくらいの自己主張の激しいツンツン頭の少年は前日に拾った生徒手帳を片手にとある中学校の校門前に来ていた。
「あのー本校に何か用ですか?」
学校まで来てみたものの、どのようにして生徒手帳を届けようかと思案していた上条にショートカットに眼鏡の恐らく教師であろう人物がおそるおそる声をかけてきた。男子高校生が中学校の校門前はうろうろしていては不審がるのも当然である。
「えーっと、巴マミさんという方はいますか?」
「あ、はい確かに巴さんウチの生徒ですが……お知り合いの方ですか?」
上条の口から女学生の名前が飛び出し、さらに不信感を強める女教師は表情を歪める。
「いえ、別に知り合いではないんですが…巴さんの生徒手帳をたまたま拾ったもので…届けにきたんですけど……」
「まあ、そうですか。それはどうもありがとうございます」
中学校の校門前でうろうろする男子高校生が不審者でなかったことに安心した女教師は、「やはり男はこの子みたいに器が大きくないと…目玉焼きが半熟じゃないくらいで文句を言う男なんて……」とぶつぶつと愚痴をこぼしていた。
上条はこの先生にささっと落し物を渡して帰ろうと思っていたのだが、女教師の愚痴はなかなか終わりそうにない。
「不幸だ……」
しばらくしてやっと女教師の愚痴が鳴り止んだ。
「そろそろ3年生のクラスは帰ってくると思いますよ」
「あ、そうなんですか。でも俺、巴さんの顔知らないですよ」
「そんなの私が教えます。それにこういうのは本人が渡してあげるのが一番いいんです。お礼を言う手間が省けますから」
確かにこの先生が言うことにも一理あると思ったが、上条はそもそもお礼を言われるために人助けをしているわけではないので正直どうでもよかった。
しかしあまりにこの女教師の押しが強いため無理に反対することもできず、中学生が下校する中、校門で女子中学生を待つ男子高校生の姿がそこにはあった。
上条当麻は悩んでいた。別に先ほどから中学生に「なんでこんなところに高校生が」という冷たい視線を向けられていることではない。……いや、それも問題ではあるのだが。
彼は昨日持ち前の不幸でタイムセールを逃し、食材を購入することが叶わなかったのである。実は今日は、生徒手帳を早々に届けてからタイムセールに行き前日に買えなかった分も買っておこうと考えていたのだ。
(くそっ!今日のタイムセールは夕方5時半から。今の時間は4時55分。走ることを計算に入れても30分前にはここを出発したい)
「あ!巴さんが来ました。おーい!」
ここで女教師が巴マミを発見したらしく、上条は傍らに置いていた生徒手帳を右手に握り立ち上がる。
「どうかしましたか?早乙女先生」
落ち着いた様子で、ベテランアナウンサーのように喋る中学生。巴マミ。その雰囲気は女子高生、はたまた女子大生と言っても通じてしまうような大人びたものであった。
「こちらの方がですね。巴さんの生徒手帳を拾ったそうで、届けてくださいました」
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「いいよ、別に大したことじゃねえから」
そう言って上条は右手に持っていた生徒手帳を巴に手渡した。
巴が何か言おうと口を開きかけたとき、
「んじゃ、俺はこれで」
と、彼は言い放ちそのまま足早に去って行った。
「………」
「………」
そのあまりの退場の速さに彼女らは言葉を失っていた。
巴マミは『一人』だった。
起きるときも一人。
ごはんを食べるときも一人。
学校への登下校も一人。
休日に一緒に遊びにく友人も誰一人いない。
彼女が一人なのは今から数年前のとある事故がきっかけであった。
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『キキッーーー!!』
けたたましいクラクションか車内に鳴り響く。
その直後突然の激しい衝撃により車体が大きく揺れた。彼女は座っていた後部座席から体を投げ出されフロントガラスに頭を打ちつけた。
彼女は額から流血していた。意識はあるが、気を抜けば手放してしまいそうであった。ぼーっとする頭を必死に回転させ、現状把握を始める。
(わたし、死んじゃうのかな……)
ついさっきまで聞こえていた両親の声は一言も聞こえない。視界も次第に影がさしていく。
薄れゆく視界の中、彼女の目ははあるものを捉えた。
それはまるで幼い子供が抱きかかえているマスコットのようにみえた。
四足歩行で真っ白な胴体、大きな尻尾、クリクリな濃いピンクの瞳。少しつり上がった口角は笑っているのだろうか?
そんな生物は、死を迎えようとしている彼女に人間の言葉で語りかけた。
「ぼくと契約して魔法少女になってよ」
こうして選択肢の残されていない彼女は生きる道を選び、一人になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
本日の投稿は以上となります。
クロスSSは初めて書くので気になったところがあればどんどんレスしてください。
?
地の文がうざいかも知れませんが、プロローグなので丁寧に書いてみました。次回からはもう少しスッキリさせて投稿したいと思います。
>>4
ですよね。胸は掴めるくらいでいいんです。もっとお腹周りに
!脚に!
>>5
あれ?マミさんってぽっちゃり設定じゃなかったっけ?
痩せ設定だと俺のモチベが…。
2次創作なんだからマミさんをぽっちゃり設定にすれば済む話
>>18
うん、そうだ。それ採用!
というよりぽっちゃりは個人的な好みであって、作中ではそのような描写はないのであしからず。
でも書いてるときはぽっちゃりに脳内変換してモチベを保つことにする。
みんなもぽっちゃり好きだよな?
>>14
だいぶ二次創作に侵されてますねぇ……
体型に関する設定は特にないけど公式見る限り普通にボンキュッボンのナイスバディやで
ttp://livedoor.blogimg.jp/s807319-senazannen/imgs/d/f/dfc377dd.jpg
ぽっちゃり=ピザの意味
みたいな風潮あるけど全然違うからな?
そこ重要
そこさえ間違えなければ乳と尻ばっかでかくて後鳥ガラみたいな奇形より
ぽっちゃり体型ええやん
俺もぽっちゃり割と好きだけどマミさん別にぽっちゃりじゃないでしょ
公式イラストとかフィギュアとか、腹回り全然肉ついてないもの
マミさんがぽっちゃりってのがNGワードだったな
>>35も禁書に喧嘩売る様な事を言うなよ…ますます印象悪くなるだろ
元はといえば>>1がそのつもりがなくても誤解を招く様な言葉を書いたのが悪いんじゃないかな
それから、上の書こうと思った理由もそうだけど
>なんで書こうと思った理由は、ぽっちゃり体系の人って可愛いよねってことです![ピザ]専じゃないよ!!
>そこで大好きな上条さん×?のSSを書いてみようかなーって思ったんですけど、とあるってぽっちゃり体系の人いなくね?
これだと禁書にぽっちゃり体系の人がいないからマミさん、まどマギとクロスした様にしか思えず
まどマギに対して>>1があまり想いれがないように見える人もいるんじゃないか?
ぶっちゃけ、ぽっちゃり体系のキャラだけならマミさんやまどマギのクロスである必要性が薄いわけで
この理由や「大好きな上条さん」発言のせいで踏み台やネタ目的でss書いてる様に映ったんじゃないかな
荒れてますね。まあ、クロス作品だから予想してなかったわけではないが。
期待してくださってる方、ありがとうございます。
>>23
>>26
指摘ありがとう。そうかも知れません。どこから勘違いしてたんだろ…。
>>25
お前とは美味い酒が飲めそうだ。
>>42
>>45
不快に思った方がいるなら申し訳ありません。褒め言葉で軽い冗談のつもりでした。本当はマミさんが幸せ(主観)で完璧なハッピーエンドにしたかったんです。そこで他の作品のキャラを使おう+カプ要素もつけようと思ったんです。どちらの作品も大好きです。
一応注意書きをしときます。
作中では原作の世界観や登場人物の思考といったものが変更されることがあると思われます。
そのことに気分を害される方は回れ右でお願いします。
次の投下は今週末くらいになります。今後も基本的に週末になると思います。
はい証拠
このスレに出没する奴は外しといた
312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 16:15:11.41 ID:I6e5BT1s0
そもそもマミさんぽっちゃりとか迂闊な事を書いた>>1も悪いだろ。あのssは
314:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 16:21:23.72 ID:NfM8ftHeo
>>312
しかもガチで公式でぽっちゃり設定だと思ってたらしいからな
二次創作の設定が一人歩きしてる現場を目の当たりにしたような気がして
むしろそっちに戦慄したよ俺は
315:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 16:21:58.72 ID:6S4p 6BSo
らんまクロスは知らんけど安易なdisネタ使っておきながらシリアスに持ってくSSは嫌い
316:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 16:25:58.19 ID:9K8B4a0w0
大好きな上条さん×ぽっちゃり女子がみたい!
→でも禁書にぽっちゃりキャラが居ない(´・ω・`)
→じゃあマミさんで良いや!マミさんってぽっちゃりだよね!
これは叩かれますわ
320:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 16:38:41.61 ID:OkcGV9KWO
そげぶの時点で僕の大好きなまどマギキャラが取られるのでここで相当な評判にでもならない限り読まないのは懸命だと自分でも思ってる
344:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 18:13:50.60 ID:WspovuHr0
>>332
そりゃあキャラを持ってくるタイプのクロスだと
俺がまどマギキャラを救ってやるぜ! 的なスタンスだから不快に感じる人が多いんじゃない?
設定だけ持ってくるクロスだと、良くも悪くもまどマギキャラで完結してるからね
そもそも別作品の男が、女子中学生相手にカッコつけてる時点でお察し
346:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 18:28:29.18 ID:SiXRMIjr0
上条クロス読んだけどさ
なぁーんでせっかく禁書の世界観なのに魔法少女要素持って来ちゃうかなぁあああ?
魔法少女要素あると物語が一気に狭まるんだってば!
マミさんと上条がイチャイチャするのが目的のSSなら素直にそれだけ書いてろよ!
347:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 18:34:11.38 ID:KzxNyFCko
つまらないSSって大抵作者がうざいよね
某クロスとか
372:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2013/06/11(火) 19:30:26.52 ID:J1f2y/K20
でも悪い言い方すると、まどマヂって踏み台クロスには最適なんだよね
基本登場人物はみんな幼くて、何かしら愚かだし
場面場面でバッドエンドになる所も多いし、ワルプルギスの夜っていう原作キャラだけじゃ絶対に越えられない敵もいるし
それで踏み台にしちゃって、まどマギ勢から嫌われてるクロスってのは多そう
>>374
どれも読んだことないからなんとも言えないけども、
普通に学園都市にいるまどさやほむマミ杏が、魔法少女の時にに似た能力を持っているって設定じゃ駄目だったの?
個人的に魔法少女システムを巡ってなんやかんやするクロスは、よっぽどのものじゃない限りもうお腹いっぱいなんだけど
少し早いですが始めます。
今回はアニメ2話をマミさん目線で書いただけなので、目新しいものはないと思います。
ですので、まどマギのアニメをご覧になった方は読まなくても次回からの話についていけると思います。
魔法少女、巴マミは今日も学校が終わってから一人で歩いていた。
(あの高校生の人にお礼、言いそびれっちゃったな)
名も知らないツンツン頭の男子高校生の顔を思い出す。
彼女の動かす足は、自宅であるマンションへは向かない。左手にオレンジのソウルジェムを乗せ、魔女のいそうな場所を探す。そしてその魔女を倒す。それが彼女の仕事である。
彼女がとあるCDショップを視界に捉えたとき、
『たすけて………たすけて、マミ!』
マミの脳内に、直接響くような声が聞こえた。
聞き慣れた声。ここ数年一番聞いているであろう声。
彼女はその瞬間、CDショップの方向へと駆け出した。
マミがCDショップに入ると、彼女は真っ先に改装中のフロアへと足を進めた。
先ほどから左手にあるソウルジェムが魔女の存在をしめしている。さらに、自分と同じ魔法少女の力を感じる。しかもとても強力な。
CDショップのフロアから一歩飛び出せば、そこには見慣れた光景が広がっていた。
ひらひらと飛び回る暗い色をした蝶。
もぞもぞと動き、どこの国の言語かも分からない言葉を喋る謎の生物。
統一性のない建物と植物が不気味な背景をつくり出している。
それが魔女の結界。
その光景の奥に青髪の少女と白いマスコットのようなものを抱えたピンク髪の少女を見つけた。
マミは近くの天井から垂れていたチェーンを魔法少女の力で、今にも襲われそうになっている彼女たちの周りに円を描くように張り巡らせた。
チェーンは赤、黄、オレンジといった暖色系の光を放ち、彼女たちの周りを守るように包み込んだ。
「あぶなかったわね、でももう大丈夫」
落ち着いた声で怯えきった様子の少女たちに語りかけ、ゆっくりと歩み寄った。
「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう、その子は私の大切な“友達”なの」
「わ、わたし…呼ばれたんです。頭の中に直接、この子の声が」
そう語ったピンク髮の少女の言う「この子」、キュゥべえは少女の腕のなかで眠るように意識を失っていた。
「……ふーん、なふどね…その制服、あなた達も見滝原の生徒みたいね。2年生?」
「あ、あなたは?」
目の前の状況をできずに固まっていた青髮の少女がやっと口を開いた。
そんな彼女らに対して、マミは明るくにこやかに語りかける。
「そうそう、自己紹介しないとね……でも、その前に!」
マミは右足を軸に左足でコンパスのように円を描いて回った。
そして手にあるオレンジのソウルジェムを自分の上方へと投げ上げた。
「ちょっと、一仕事片付けちゃっていいかしら?」
軽やかなステップを刻んだ彼女は落ちてきたソウルジェムによって、黄色を基調としたカラフルな色に包み込まれた。
制服だった彼女の服装が変化する。頭の上には黒のベレー帽。黄色のスカート。リボンが映える白い清楚なブラウス。スカートと同色の靴。
彼女は大きく飛び上がると、装飾された単発式の銃火器を無数に空中に発現させた。
それらの銃火器から魔女に向かって一斉攻撃が行われた。その容赦のない弾幕攻撃は敵に一縷の反撃の余地さえ許さなかった。
「す、すごい」
突然目の前で信じられない光景を目の当たりにした傍観者である二人は、空いた口が塞がらないといった様だった。
背景が歪み本来の場所の景色へと戻ってゆく。
その直後マミと二人の少女のいる場所より高い場所に、誰かが着地したような足音が鳴った。
この場にいるもう一人の魔法少女。
黒髪ロングにカチューシャのヘアースタイル。服装は一見どこかの学校の制服のようにも見えるが、同業者であるマミには見分けられた。マミとは対象的に全体的に暗い色をした服であった。
自分以外の魔法少女の存在に気づいていたマミは冷静に話しかける。
「魔女は逃げたわ、仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」
「…私が用があるのは……」
「飲み込みが悪いわね。見逃してあげるって言ってるの」
不満そうな黒髪の魔法少女に対しマミは冷静ながらにドスのきいた声で相手を諭す。そして今度は優しい口調でさらに言葉を繋げる。
「お互い余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
しばらくの間牽制し合った後、しぶしぶといった様子で黒髪の魔法少女は踵を返し去っていた。
黒髪の魔法少女が去ったあと、マミは改めて少女たちの方へ向き直る。
「わたしの名前は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中の3年生……そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ」
その後マミは、ピンク髮と青髮の少女たちにも自己紹介をしてもらい魔法少女と魔女の説明をするために自宅へと招いた。
「どうぞ入って」
「「おじゃましまーす」」
マミはあの事故以来、遠縁の親戚と、ある一人の魔法少女以外で初めて人を自宅へ招待した。
部屋の内装をみたピンク髮と青髮の少女たち改め、まどかとさやかは感嘆の声をあげていた。そんな彼女らにマミは、
「一人暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」
と言い自嘲するように苦笑いした。しかし、お洒落なテーブルの前に座らさせられたまどかとさやかの席にはこれまた洒落たケーキと紅茶が置かれた。
「まみさん、すごいおいしいです」
「んーめっちゃウマっすよ」
女の子らしく食べるまどかに対し、言葉遣いも食べ方も男らしいさやか。そんな対照的な二人をみてマミはクスッと笑みを漏らす。
「ありがと」
マミはその後、キュゥべえに選ばれた二人に魔法少女と魔女のことを自分の知っている限り説明した。
そして黒髪の魔法少女が見滝原に転校してきた二年生であり、暁美ほむらという少女であることをまどか達から聞いた。
その後紆余曲折あって、マミの魔女退治をまどかとさやかがしばらくの間、見学することになった。
そしてその上で、キュゥべえに選ばれた二人が魔法少女になるかどうか決めるということに話がまとまった。
二人が帰ったあと、さっきまで部屋にいたキュゥべえはどこかに行ってしまった。
なぜか一人の部屋が無性に寂しく感じた。
(今日はいろんな人と話すことができて、とても楽しい一日だったわね)
指輪の状態になって左手の中指にはまっているソウルジェムを優しく反対の手の指で撫で、彼女はいつもより早く床についた。
翌日の放課後、マミ、まどか、さやかの三人は見滝原中学生ご用達の喫茶店に集まっていた。
「さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、はりきっていってみましょうか。準備はいい?」
「準備になってるかどうか分からないけど…持ってきました!!…何もないよりかはマシかと思って」
そういってさやかは黄金に輝く金属バットを天高く掲げた。
「まあ、……そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」
流石のマミも彼女の勢いに苦笑いが隠しきれなかった。
さらにさやかの勢いは隣のまどかにも飛び火する。
「まどかは何か持ってきた?」
「えっ、え…っとわたしは……」
そう言って彼女が取り出したのは一冊のノートだった。中身をみたさやかは「うわー」と声をあげていた。
「と、とりあえず衣装だけでも考えておこうかと思って…」
そう中身はまどかが考えた魔法少女の衣装のイラストであった。そんな乙女ちっくな少女をみてマミはさやかと一緒に声を出して笑った。
マミは笑いながら思った。
こんなにも他人と笑ったのはいつぶりだろう。愛想笑いではなく、本当に楽しく笑ったのは。
そしてかつてコンビであり、友達だった魔法少女の弟子の顔を思い出す。
ひとしきり笑ったあと、彼女たち三人は昨日魔女と出会った場所にきていた。
マミは左手にソウルジェムを乗せた。
「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡。基本的に魔女探しは足だのみよ…こうしてソウルジェムが捉える魔女の気配をたどっていくわけ」
「…意外と地味ですね」
光の点滅するソウルジェムをみながら目的地へと歩みを進めるマミにさやかは少し気落ちした様子で答えた。
外へと出た彼女たちはとある橋の上を歩いていた。
「光、全然変わらないっすね」
「取り逃がしてから一晩たっちゃったからね…足跡も薄くなってるわ」
「あのとき、すぐ追いかけていたら」
「仕留められたかもしれないけど、あなた達を放っておいてまで優先することではなかったわ」
心配するまどかに対してマミは優しかった。
それでもまどかは罪悪感が拭えなかったのか「ごめんなさい」と謝った。
「いいのよ」
「うーん!やっぱりマミさんは正義の味方だ。……それに引き換えあの転校生、ほんっとにムカつくなー」
さやかの意見に対して、今のマミは反対の意見はでてこなかった。
別にさやかのような明確な敵対心があるわけではないが、彼女が良い行いばかりするような魔法少女にはとても思えなかった。
少しの間歩き続け、現在彼女たちはビルが多く隣接する通りを歩いていた。
日が間もなく落ちようしていたころだった。
彼女の手の中にあるソウルジェムが急に激しく光り始めた。
「かなり強い魔力の波動だわ……近いかも」
マミの言葉がずっしりと重くなり、まどかとさやかは息を呑んだ。
そしてソウルジェムの光を頼りに彼女たちは目的地へと急いだ。
目的地に着いた。そこは廃ビルだった。
何年も放置されていたであろうビルは窓ガラスが割れ、ツタが壁へと絡みついていた。
「間違いない。ここよ」
「あ!マミさんあれ!!」
さやかが何かに気づいたらしく、声を荒げで指でビルの屋上を指した。
そこには人影があり、地面に向かって今にも落ちてこようとしていた。
マミは状況に気づくと一瞬で動き出し、悲鳴をあげるまどかの横を通り抜け魔法少女の姿になった。
そして落ちてくる人影を自分の武器の一つであるリボンで優しく受け止めた。急降下してきた人影はスピードを落とし、ゆっくりと地面へ寝かされた。
(魔女の口づけ…やっぱりね)
落ちてきた女性の首元にあるタトゥーのようなものみてマミは思いつめた顔をする。
「こ、この人は……」
「大丈夫気を失っているだけ。…行くわよ」
そんな表情に心配したのかまどかが駆け寄り尋ねた。マミは威風堂々とした態度でそれを払いのけた。
ビルの中へ入るとまだ夕方だというに、恐ろしいほどに真っ暗だった。
近くの階段の踊り場に、ついさっき落ちてきた女性の首元にあったタトゥーのようなものと同じ柄のものが浮かびあがった。
「今日こそ逃がさないわよ」
マミは隣のいる二人に「絶対に私の側を離れないでね」と言いつけた。そしてその柄の中へ入っていった。それに二人も続く。
マミは魔女の結界へ入ると、勝手知ったる我が家のように迷いなく駆けていく。まどかとさやかはその後ろを必死になってついていった。
ビルの中へ入るとまだ夕方だというに、恐ろしいほどに真っ暗だった。
近くの階段の踊り場に、ついさっき落ちてきた女性の首元にあったタトゥーのようなものと同じ柄のものが浮かびあがった。
「今日こそ逃がさないわよ」
マミは隣のいる二人に「絶対に私の側を離れないでね」と言いつけた。そしてその柄の中へ入っていった。それに二人も続く。
マミは魔女の結界へ入ると、勝手知ったる我が家のように迷いなく駆けていく。まどかとさやかはその後ろを必死になってついていった。
しばらくするとキュゥべえの言う結界の最深部へとたどり着いた。
そこには人間の言葉では説明できないような『魔女』が存在していた。
それでもあえて言葉にするなら「気持ち悪い」、普通の人間がみたらまずその感情が湧き上がってくるだろう。
「みて、あれが魔女よ」
「うぇ……グロい」
「あんなのと戦うんですか?」
「大丈夫。負けるもんですか」
マミは二人に下がるように指示して魔女のもとへ向かっていた。
マミが魔女のもとへ降り立つと、彼女はスカートの両方の裾を上品なお嬢様がお辞儀するかのようにそれぞれの手で軽くつまみ上げた。
スカートの中からは二本の銃が出てきた。
さらに頭にあるベレー帽を自分の前で振ればさらに多くの銃を出現させた。
その単発式の銃をいくつも地面に突き刺し、一発撃ったら次の
銃へと持ち替えていった。
彼女の攻撃は確実に魔女を追い詰めていく。
ふと、彼女は自分の足が思うように動かないのに気づいた。
足元をみると羽の生えた小さな生物が自分の足の周りたくさん飛び回っていた。
その生物たちは瞬く間に上半身に登ってきた。さらに生物同士が繋がって一本の黒いロープのようになりマミに巻きついた。
そのままマミは釣り上げられ、壁に叩きつけられた。
マミの顔はそれでも余裕に包まれていた。
「未来の後輩にあんまりかっこ悪いところ見せられないものね!」
逆さまに宙吊りにされたままの彼女がそう言うと、地面の小さな割れ目から長い長いリボンが飛び出てきて、魔女の体へと巻きつき魔女の動きを止めた。
「惜しかったわね」
彼女は空いた手で身についてるリボンをほどくと、それはまるで生き物のように動き、マミに巻きついていたロープを容易く切断した。
そのリボンは再びマミのもとへ帰り、その姿を銃へと変えた。今までの何倍、いや何十倍くらいのサイズに。
「ティロ、フィナーレ!!!」
直後、魔女の結界は崩れ魔女は消滅した。
同じのを連投してしまいました。すいません。
今回の投下は以上です。
次回からは問題の3話ですので上条さん登場していくのでよろしくお願いします。
あと書いているうちに設定としなけらばこの話が成り立たないと思ったものがあります。
魔女の結界に上条さんが触れても全部壊れるわけではなく、少しだけ幻想殺しの効果をうけます。
禁書をみた方は「アドリア海の女王」のときに幻想殺しでも3m立方ずつしか消せなかったときのイメージです。
あと魔女の攻撃は幻想殺しで防げますが、魔女自体を触れただけで消すことはできません。
さすがに触っただけでというのは話が膨らまないです。
魔法少女とキュゥべえの力も上条さんには効果はありません。
例をあげるとキュゥべえが周りに人はいないと思っても上条さんはいるかも……。
>>107
最後にある設定が面白そう。肉体変化で変身みたいな?まどかが第6位になるのかな?時間旅行もチートな能力になりそう。。
そろそろテストが近いので少し空いてしまうかもしれません。でも一カ月書きこまないと落ちるんですよね。それまでには…なんとかします。
>魔法少女とキュゥべえの力も上条さんには効果はありません。
マミさんのマスケット銃、さやかの剣、杏子の槍を消し去ったとしてだ
単純な肉弾戦はどうするんだ?魔法少女の身体能力が常人の何倍あると思ってるんだ?
仮に触れた時点でSGが機能が停止し無効果すると仮定するという設定ならいいが
ほむらの重火器(物理)はどう防ぐつもりなんだ?
上条は杏子は兎も角ほむらとは絶対に相入れないだろし
上条の綺麗事なんてほむらからしたら唾棄すべき理想論であり認められない価値観でしかないわけで
zeroの切継とセイバーみたいな事になるのは目に見える
そこらへんをどう処理するかでこのssの出来が決まりそうだな
…頼むから上条の説教で改心なんていう陳腐な展開はやめてくれよ
>>167
アドバイスありがとうございます。
意見を参考にして、ラストを迎えたときの疑問が少ないようにしていきたいと思います。
すいません。更新してなくてみなさんの意見無視してしまいました。
みなさんご意見ありがとうございます。
気がついたらどんどん言ってもらえるとありがたいです。
ミリ、_r,
_}}_ /´`
,,,タ .ッ`イ ̄`ヾ=、_,,,,〃__
"'\ヾ{, (_/ ̄>:::ヘ==‐`ミヽ、
ミ, __ `ヽ、ニニ>=='"´ヘ:::::::::::::::::::::::::>-、
ミi '" f \(>、_/=≡''::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヘ
{ /´ミニ='"ヽ=ミ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}
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.(__..ノ,,ィ彡:::::::三ニニ彡::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
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`./`ヽ、__ ゝ==彡{::{、,/:/ィ/::::/)::イ::::::::::::::::::::::}' /::::ヘ><ヘ:ヽ
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゚" ヘ=<__/へ::タ''{{丿イ:::::::::::::::::::/Y{::::::::/ノ}ノ .丿 }
( /〉。ソ:::::::::::::::::::::::ハリ .|∧:::/__/ィ( ノ
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r─彡ミ==イ'ニ==彡ィ´)ハ:::::::::::::::::::::::r==彡、、>、\___`ヾ>
`二,,ィ/==ァ'"´/,,,,ノ/ /.ハ::Y`Y-、:::rミミヾ:::::::r==ヾ、ミ彡
``"ノ´,,ィ´::::/,,ノY 《 ヾ::)ヾ、 ヽ、`ヾ、ヘ__>、 )
ゞ-'"´ .,,彡'"ハ ヽ `´ Y:\ ヽ ∨::::ヘ ヽ:::)ミ
ゞ'" 《》 ヾ }::) ヾ ヽ ∨)'" ソ
,;;''`, ,'';, ,、 \
.,,i'' '';;'' ''< | _l`l`i -― ― 、 / .) 消 汚
`j , 、 .,. ―'` '―'l/|/ / .) ( 毒 物
)//`i ,l/_ |.| l'^l / `/ \ ) だ は
:::::/::/,;' .| |.|.| |,、|/ _/__ ヽ 、 、 .l
V::::/`,, ..|/.|/ t-i_|// , .、 \\-:、/ !!
::::::ヽ, ` ,,''; ―'i i―' ^ l_l_ハ( \、ヽゝ、\)-、_
)::::::::ヾ ;;, |-ri'| | |`i/ l l 'l.ハ|、 .` ヒ'ア` .|l i::i.)
:::::::::::::l―--. |/.|/_ `l .l ハ V ヒア `-'^ /.l |::l/'^`)/\/\/
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t-、(/ .// ̄ ̄> ' ̄`ヽ /_ (__ . >-''::/ .|:,、:\
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黙れええええええええええええまど豚って馬鹿にするなあああああああああああああああ阿
>>192
まど豚[ピーーー]
>>192
まど豚死ね
まどマギつまんなすぎ
>>228の例えも極端だが要するに綺麗事が通用しない世界って事だろ?
例えば上条が「魔法少女同士で争うなんてやめろ!」と言ったとしよう
その言葉を受け入れてくれると思うか?
マミやほむらなんかは契約過程や動機から殆ど強迫観念的な責任感や使命感を抱えた結果
良くも悪くも自分が絶対正しいって思考になっちゃってるし
さやかは現実とのギャップで自暴自棄になって話を聞いてくれないし
>>234
杏子は最初は他人のために願ったさやかを馬鹿にして突っかかっていたじゃないか
同じ様に上条にも突っかかりそうだな。一方通行とかと根っこの部分が同じだからデレる可能性もなくはないけど
>>235
マミさんって「正義の味方」みたいに言われてるけど
実際の所は両親への罪悪感や寂しさを紛らわすための建前で
何処にも居場所がないから魔法少女らしくある事に努めて縋ってるだけだからなあ
そういう意味では上条と噛み合うかどうかも微妙な所なんだよな・・・
マミさんは「自分は正義の魔法少女でいないといけない」
と思ってる一方で、それが自分で必死にひねり出した建前で、
本当は一人で戦い続けるのは嫌だし逃げ出したいというのも自覚してるから、
「正義の味方である自分」に疑問や迷いのない存在を見せられたら
この人に比べて自分は・・・と卑下してどん底に沈んでいくタイプ
上条って精神的には殆ど折れなくてぶれないし
本当に何の見返りもなしの人のためにボロボロになるのを厭わず
その事に対して正義とか意識して行ってるわけではない
本心でそれを行える所謂「天然正義の味方」だからなあ
そこら辺ですれ違いがおきそうではあるなな
>>239
そら魔女になってもらうの目的だからな感情の振れ幅が大きい少女がQBに選ばれる
それに屈折してると言うけども。歪んでもしょうがない境遇や環境だからな
仲間や理解者も全くいない他は皆ライバルという孤独な環境
マミさん杏子、ほむらなんて契約する前からどん底な状況であるわけで
精神的に成長しようにも杏子の家族や3週目の仲間同士の不仲で叩き折られる
そんな挫折ばかりの彼女達からすれば正道を歩くヒーローなんて眩しすぎる存在なのかもな
数日が経ち、まどかとさやかの魔法少女研修を終えたマミは夜に一人で噴水のある大きな広場に来ていた。
「分かってるの?」
不意に背後から声をかけられた。
「あなたは無関係な一般人を危険にまきこんでいる」
声の主は暁美ほむらだった。
そんなほむらに対しマミは、
「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」
と、慌てる様子もなく応じた。
「あなたは二人を魔法少女に誘導している」
「それが面白くないわけ?」
「ええ、迷惑よ。……とくに鹿目まどか……」
「ふーん、……そうあなたも気づいていたのね。…あの子の素質に」
「彼女だけは契約させるわけにはいかない」
「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね」
見下すように、挑発するようにマミが話すと、ほむらの菫色の瞳が暗闇の中、突き刺すようにマミを睨みつける。
「……あなたとは戦いたくないのだけど……」
「なら二度と会うことのないように努力して。……話し合いだけで事が済むのはきっと今夜で最後だろうから」
低く威圧のある声で言い放ったマミはゆっくりとその場を去っていた。
数日が経ち、まどかとさやかの魔法少女研修を終えたマミは夜に一人で噴水のある大きな広場に来ていた。
「分かってるの?」
不意に背後から声をかけられた。
「あなたは無関係な一般人を危険にまきこんでいる」
声の主は暁美ほむらだった。
そんなほむらに対しマミは、
「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」
と、慌てる様子もなく応じた。
「あなたは二人を魔法少女に誘導している」
「それが面白くないわけ?」
「ええ、迷惑よ。……とくに鹿目まどか……」
「ふーん、……そうあなたも気づいていたのね。…あの子の素質に」
「彼女だけは契約させるわけにはいかない」
「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね」
見下すように、挑発するようにマミが話すと、ほむらの菫色の瞳が暗闇の中、突き刺すようにマミを睨みつける。
「……あなたとは戦いたくないのだけど……」
「なら二度と会うことのないように努力して。……話し合いだけで事が済むのはきっと今夜で最後だろうから」
低く威圧のある声で言い放ったマミはゆっくりとその場を去っていた。
連投すいません
学校帰り、さやかとまどかは病院から出てきた。第七学区にあるカエル顏の名医で有名な病院だ。
ここにはさやかの幼馴染が入院していた。まどかはその付き添いで訪れていた。まどかの肩にはキュゥべえがしがみついている。
さやかの幼馴染は天才少年と呼ばれるほどのヴァイオリン奏者だったが、事後で指が動かなくなり学園都市の外でリハビリを続けていた。しかし現代医学での回復は難しく、この病院に転院してきた。
それでもやはり指の治療は進まず、現在はエレクトロマスターの研究の応用で電気信号を強めることはできないか、という一縷の希望に縋っている状態である。
「ったく、学園都市って言っても大したことないわよねー。指の5本や6本も動かせないなんてさー」
重い病気だと分かっているからこそ冗談めかして話すさやか。
さやかはなかなか返事の返ってこない相方に振り向くと、まどかは何かを見据えて立ち止まっていた。
「ん、どうしたの?」
「あそこ……何か……」
病院の駐輪場の柱に何かが刺さっていた。その何かは拍動するように光を放っていた。
「グリーフシードだ!孵化しかかってる」
突然、まどかの肩にいるキュゥべえが声をあげた。
二人は急いでグリーフシードのもとへ駆け寄る。
「うそ、なんでこんなところに!」
「まずいよ、はやく逃げないと。もうすぐ結界が出来上がる」
「またあの迷路が……」
慌てふためくまどか。逃げるように促すキュゥべえ。初めて魔女に襲われたときのことを思い出すさやか。
さらにさやかは冷静に解決策を模索する。
「……あっ、まどか!マミさんの携帯聞いてる?」
「えっ、ううん」
まどかは首を横に振った。
「…まずったな……まどか、先行ってマミさんを呼んできて。あたしはこいつを見張ってる」
「そんな!」
「無茶だよ。中の魔女がでてくるまでにはまだ時間があるけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる……マミの助けが間に合うかどうか」
「あの迷路が出来上がったら、こいつの居所も分からなくなっちゃうんでしょ。……放っておけないよ……こんな場所で」
彼女の決心はとても強いものだった。病院が魔女に取り憑かれればどんなふうになるかは想像に難くない。
「わたし、すぐにマミさんを連れてくるから」
マミがきたときにテレパシーで位置を教えるためにキュゥべえはさやかに付き添った。
そしてまどかはマミの元へ走り出した。
「不幸だ……」
茜色の空の下、そう呟く普通の高校生上条当麻は病院の前にいた。
なぜこんなところにいるのかと言うと、最近ひょんなことから知り合った女子中学生に決闘を申し込まれ、それからやっとの思いで逃げてきたためである。
「ったくビリビリのやつ、どんだけ追い回してくるんだよ」
疲れきった足取りで自宅へ帰ろうと思った。そこに、
「ここです!マミさん」
聞き慣れぬ声で、これまたつい最近知り合った女子中学生の少女の名が呼ばれた。
その焦った声を不思議に思い、声のした方を見やる。
そこには声の主であろう少女と巴マミが病院の壁を眺めている、という一風変わった光景があった。
(なにしてるんだ?あいつら…………、は!?)
危険な目にあってるわけではなかった事に安心したのも束の間、なんと彼女たちは壁の中へと入っていってしまったではないか。
(あれはなんだ、何かの能力か?……でも一体何の?……ん?あれは……)
そんなことを考えていると先ほどマミたちのいた場に黒髪ロングの少女が現れた。
その少女はマミらと同じように壁へと進入していった。
マミたちが進入した壁の前へと上条はやってきた。
(んー、とくにこれといって変わったところはないな。……っ!?)
触って確かめようと思い上条が右手を壁にあてると壁は四角く切り取られた。それはまるで長方形のクッキーの型を抜いたようだった。
(な、なんだこれは?)
その身長二メートルの大男でもゆうにくぐれそうな箇所を上条は訝しげに眺める。
(やっぱり何かの能力……それにさっきの様子はやっぱりおかしい……よし!入るか)
こんな結論になってしまうのが「偽善使い」上条当麻なのである。
(なんだここは……?)
広く暗い空間。どう見ても先ほどまで足をつけていた世界とは違う。
(あれは!……誰だ!?)
離れた場所に誰かがいた。それは異様な光景だった。人がロープのようなものに巻かれいて、宙に浮いていた。
上条が走って近づくとそれは黒髪の少女、暁美ほむらだった。
「おい、お前どうしたんだ!」
「……っ」
彼女は口を開くが苦しそうな表情を浮かべる。言葉を発することができないようだ。
上条が遠くから見てロープだと思っていたものは、どうやらリボンのようなものらしい。
「待ってろ!今助けてやるからな!」
(これはおそらく異能の類の力……だったら)
上条は比較的地面の近くにあるリボンに右手で触れた。
するとリボンは一瞬で砕け散った。
「こ、これは……」
彼女は驚きの表情を隠せない。
「おい、これは何なんだ!……巴マミたちは一体どこにいるんだ!?」
上条はこの空間に入っていたマミたちの身柄を案じる。
「……時間がないわ」
そう言うと彼女は上条の左手を握って、時間の歯車を止めた。
巴マミは戦闘中である。いやもう、じきに終わるであろう。
彼女の敗北によって。
彼女は勝利したはずだった。彼女自身、まどかやさやかもそう信じて疑わなかった。
しかし、一度倒したと思われた魔女の口から形の異なる魔女が現れた。
その魔女は彼女の目の前で大きな口を開けている。それは大きなハンバーガーを食べるように、そして満面の笑みで。
そのとき彼女の頭には走馬灯が流れていた。
ーーーーーああ、わたしはこれで終わるんだ……あの事故以来、ただ仕方なく魔法少女をやった。あの二人ともやっと友達になれたと思ったのに……こんな人生なら…無意味だった……ーーーーー
しかし、彼女は気づかない。気づけない。自分の周りの世界の歯車が止まったことに……。
上条は走っていた。
ほむらに手を引かれたまま、そこら中にお菓子のようなものがある不気味な道を。
「あのー、どうしてさっきから手を握ったまんまなんでせう?」
「私の手を離せばあなたの時間も止まるわ」
さすがにいつまでも女の子に手を握られているのに気が引けたのか上条が質問したが、返ってきたのいまいち理解に苦しむものであった。
「それは、お前の能力のことか?……だったらたぶん俺には効かないと思うぞ……ほらさっきも見ただろ?」
「…………。」
彼女は納得できないといった表情を浮かべたが、しぶしぶ彼の手を離した。
「……ほらな?」
上条の言うとおり彼の時間は止まらなかった。
「……あなたは一体……」
「そんなことはいいから早く巴たちのところに行こうぜ。あいつらもお前と同じように危険な目にあっているんだろ?」
「……ついてきて」
そう言うと彼女は先ほどよりも速く走り出した。
そのとても女子とは思えないスピードに上条は必死に後ろを追った。
やがて上条はお菓子だらけの空間に辿り着いた。
「な、なんだあれは……巴!?」
上条は、マミが今にも得体の知れない生物に食べられそうになっているのに驚愕する。
上条とほぼ同じだが少し先に場を見たほむらは、慌てることもなく現場をくまなく見回している。それは巴マミがどうなっているかより、他の何かの心配をしているように見えた。
「くそっ!」
上条はケーキのスポンジのようなもので作られている壁を、足でブレーキをかけながら滑り降りる。
「巴っ!」
上条がマミのいる場所に辿り着き、右手でマミの肩を触れた。目の前には悪意しかない笑みを浮かべる魔女があった。
「……っ!?あ、あなたは……」
「いいから、とりあえずこっちに来い!」
マミの時間は再び動き出した。上条はそのまま手を引いて物陰まで彼女を誘導した。彼女は現状を理解できないらしく、困惑している。
それを見ていたほむらがスタッと上条の目の前に現れる。
「これから先は私が戦うわ。だからあなたは手を出さないで」
「あいつ相手にか!?いや、なら俺も」
「あなたの力がどういうものか分からないけど、あの魔女は私一人で倒せる」
そう言った瞬間、世界全体の時の歯車は再び動き出した。
そしてほむらは上条にはとても追いつけないスピードで魔女のもとへ向かった。
結果、上条の足がもう一度魔女の方へ向く前に戦いは終わった。ほむらの圧勝であった。
「て、転校生……?」
「どうしてほむらちゃんが……?」
突然、目の前に現れたように見えたほむらにさやかとまどかは戸惑う。
戦闘を終えたほむらは一歩一歩確かな足取りでまどかたちのもとへ歩みを進める。
「命拾いしたわね、あなたたち……今回は助かったけど、私がいなければ死んでいた。魔法少女になるってそういうことよ」
直後結界が歪み、もとの駐輪場へと景色は変化した。
ほむらは一瞬上条とマミのいる方に視線を向けると、すぐさま前を向き直し足元にあったグリーフシードを拾い上げ、去っていた。
「おい、巴。大丈夫か」
「はい……あなたは一体どうして……」
マミは見た目怪我こそしてないものの、どこか力が抜けているようだ。
「とりあえず説明はあとだ。休めるところに行こう。おい、お前らも行くぞ」
まどかとさやかに呼びかける。
「「は、はい」」
上条はマミの道案内にしたがってまどかとさやか、キュゥべえらと一緒にマミの住む学生寮にやってきた。
「で、さっきから気になってるんだけど……その動いてる白い人形なに?最新のロボット?」
上条はキュゥべえを指さした。
「「「え、!?」」」
「驚いたな。僕の姿が普通の人間に見れるなんて……君は一体何者だい?」
「何者と言われてもなあ……普通は見えないのか?」
「そうだね。いつも僕の力で普通の人間から目視されないようになってる……しかし、その力は君には効いてないみたいだ」
上条はその力に姿を消す能力者が存在することを思い出したが、目の前の生物はそれとは根本的に異なる。
「まあ、とりあえず自己紹介だな。俺は上条当麻。とある高校一年だ。えっと……そっちの二人は巴の友達だよな?」
「はい、美樹さやか中学二年っす」
「わ、わたしも二年生の鹿目まどかです」
「おう、美樹に鹿目な」
「それで……上条さんはどうしてあそこに?」
一通り自己紹介が終わると、マミから上条に質問がされた。
「まあ、そうなるよな。……とりあえず俺の力なんだけど……」
上条は自分の右手を見つめる。
「この右手で触ると……それが異能の力なら超電磁砲だろうが、神のシステムだって打ち消せます、はい」
「「「……………。」」」
あまりに突拍子で意味不明な能力説明に三人の少女はまさにポカーンといった様子であった。
「まあ、要するに超能力のような異能の類は俺の右手……幻想殺しには効果はないんだ」
「なるほど……それで君は僕の力に干渉されず、姿を見ることができるわけなんだね」
どうやらキュゥべえはやっと得心がいったようだ。
「能力の話はこれくらいで……俺があの場にいた理由なんだけど、偶然巴と鹿目を見かけてな。そしたら二人とも様子が変で壁の中に入ったもんだから、俺も右手で壁に触れて追っていたんだ。そしたらリボンに巻かれてる黒髪の子がいたんで幻想殺しで助けた。そこからその子に連れられてあの場に行ったんだ」
上条には分からないことがあった。
「それよりあの空間や敵は一体どんな能力者の仕業なんだ?」
上条はあんな空間をつくりだすとなると、よっぽどの高位能力者なのか。なんて的外れなことを考えている。
それに対しマミが戸惑いながら返事をする。
「え、っと……
上条はマミとキュゥべえから、魔法少女や魔女のこと、さらに黒髪の少女…暁美ほむらとの関係について説明を受けた。
「正直、学園都市の人間としては信じたくはねえけど、あんなことが目の前で起きたらな……信じるしかないよな……キュゥべえの存在もあるし……」
渋々といった様子の上条。
「その魔女ってのはこれからも出てくるんだろ。……だったら俺も戦う。幻想殺しがどこまで通用するか分からない。でも、今日みたいに誰かが危険な目にあっているのを見て黙ってられねぇ」
上条は自分の右手を強く握って言い放つ。
「無茶だ。君の右手には確かに特別な力があって、結界を破ったということは魔女の力にも効果はあるかも知れない。だけど君は普通の人間だ」
キュゥべえは上条の力を認めるが、魔女との戦闘は不可能だと踏んでいる。
実際上条当麻は人より多少は運動神経はいいが、幻想殺し以外は魔法少女のように特別な力はないし、銃弾の一発で簡単にその命を落としてしまう。
「そうだな……たしかに俺は暁美みたいな戦い方はできないし、魔女を倒せないかも知れない……だけど、目の前にいる人くらいはこの右手で守りたいんだ……」
「「「…………。」」」
そのあまりの覚悟に少女達は息を呑む。
そして上条は少女たちの戦いの場に足を踏み入れることとなった。
「んじゃ、そろそろ帰りますかね」
「あ、上条さん」
帰宅しようと腰を上げた上条にマミは声をかける。
「なんだ?」
「あ、あの今日は助けてくださってありがとうございました」
「いや、俺は別に何もしてねーよ。助けたのは暁美だよ」
「……それでも……ありがとうございました」
マミは深々とお辞儀をした。上条は本当に大したことをやったとは思っていないので、気まずそうに頬を指でかいている。
「……まあ、お互いにもう知らない仲じゃないんだ。だから変に気を使うなよ」
そう言って上条は部屋を出て、自宅への帰り道についた。
翌日、マミ、まどか、さやかの三人とキュゥべえは見滝原中学校の屋上にあるベンチに腰を据えていた。
「これからのことだけど……無理に魔法少女になることはないと思うわ。昨日の私みたいに死の危険もあるし……」
マミは重い口を開いた。
「「…………。」」
二人は昨日の生死をかけた戦いを思い出し、口を閉じたまま視線を地面に落としてしまった。
「それでも叶えたい願い事があるなら私は止めないわ……」
暗い表情のマミ。
「……分かりました。もう少し考えてみます」
まどかはその恐怖心からなのか、かつて憧れた魔法少女になることに決心がつかないようだった。
それに対しさやかは、
「…………。」
思いつめた表情のまま口を閉じたままであった。
太陽がビルの向こうに身を隠し、月が顔を出し始めた暗い道をまどかは歩いていた。
「あ、仁美ちゃん……?」
二十メートルほど離れた場所で見慣れたクラスメイトの顔を見かけた。
「仁美ちゃーん、今日はお稽古事はー?……っ!?」
小走りで仁美のもとへ向かったまどかは仁美の首筋に何かを見つけた。
(あれ、あの時の人と同じ!)
仁美の首筋にあったのは、魔女の口づけと呼ばれるもので、いつぞやの廃ビルにいた女性にあったものと模様は異なるが同じ類のものである。
「仁美ちゃん!…ね、仁美ちゃんってば!!」
まどかは駆け寄り、仁美の肩を揺さぶった。
すると、焦点の合わない仁美の目が彼女より背の低いまどかの顔を見下ろす。
「あらあ、鹿目さん。ごきげんよう」
その声に生気は灯っておらず、大根役者が台詞を読み上げるようだった。
時を同じくして上条は夕飯の買い出しを終え、帰路についていた。
ーーーね、どうしちゃったの!?…どこ行こうとしてたの!?ーーー
突然、少し先に女の子が言い争うような声が聞こえた。
その方向に視線を向けると、見知ったピンク頭の少女の顔が見えた。
「おい!どうした!?鹿目」
上条はそのただならぬ様子を察し、急いでまどかのもとにやってきた。
「か、上条さん!仁美ちゃんが……わたしの友達が魔女に!」
まどかは焦りから上手く言葉にならなかったが、上条はマミたちの説明のおかげもあって状況を理解することができた。
「よしっ、なら右手でさわれば…」
上条が幻想殺しで首筋にあった魔女の口づけに触れる。
すると、仁美の首筋にあった魔女の口づけは跡形もなく消え去った。
「あれ……わたくし……どうしてここに?」
仁美は正気に戻った。
「えっと、お前はとりあえず家に帰れ」
「えっ……は、はい。鹿目さんは……?」
「鹿目はこれから少し俺と用事があるから。…な?」
「あ、はい」
「……そうなんですの……ふふ、では私はお邪魔そうですので…ここで失礼させてもらいますわ」
仁美は何を思ったのか、納得いったような顔をして足早に場を去って行った。
「鹿目は急いでマミを呼んできてくれ」
「分かりました。上条さんは?」
「俺はお前の友達が向かっていた方向にとりあえず行ってみる。他にも魔女に襲われそうな奴がいるかもしれないからな」
お互いの役割を確認した上条とまどかは、それぞれが自分にできることを行うために足を動かした。
上条は寂れた路地裏にある建物にやってきた。
ここまでの道のりで何人か魔女に魅入られた学生を見つけ、その学生たちを目印にこの場所に辿り着いた。その学生たちは上条の右手に触れられ、各々が不思議そうに道を引き返していった。
建物の扉は電子ロックが掛かっていたようだが、今は無理やり解錠されているようだった。その扉を開いて上条は中に足を踏み入れた。
上条が建物内に入ると、
『そうだ俺、だめなんだ……どんだけ頑張ってもレベルは上がらないし……』
などと、多くの人が嘆きの言葉を吐いていた。
(なんだこの、人の集まりは……やっぱり魔女か……ん?あれは……)
上条が目にしたものは一人の女性であった。女性は、水色の一般的なサイズのバケツに何か液体を注ぎ入れている。
(あれは……洗剤!?)
上条は成績優秀な生徒ではない。どちらかと言えば勉強は苦手な方である。しかし、腐っても科学の街学園都市の人間。この雰囲気の人々が洗剤で何をしようとしているかなど一目瞭然だ。
案の定、奥から異なった種類の洗剤を運んできた。
「くそっ!!」
上条はバケツに向かって走り出した。
途中、何度か学生に行く手を阻まれそうになったが、上条はその度に右手で次から次へと首元に触れていき正常化させていった。
無事にバケツを掴んだ上条は、バケツを建物内にある高い窓に向かって投げ捨てた。
上条の狙い通り、バケツは窓を割って外に飛び出た。
上条がバケツを投げ捨てると、まだ魔女の口づけが消えていない人たちは一斉にその矛を上条に向けた。
「ったく!」
上条は十人ほどを相手に再び拳を握った。いつもの喧嘩なら逃げ出す人数だが、今回の戦いは触れることが勝利条件である。
魔女に魅入られた学生の伸ばす手を上条はしゃがんだり、体を横に振ったりしてよける。
そして一人ずつ確実に首筋に触り、魔女の口づけを壊す。
そして全員の魔女の口づけを破壊し終えた。
正気に戻った学生からは「どうしてこんなことを……」と、戸惑いの声や後悔の声が溢れたが、仁美と同じようにとりあえず家に帰るよう促し、現在は上条一人で建物内にいる。
「でてこいよ、魔女っ!!」
上条のその人一倍大きな声は建物内を駆け巡った。
突如、上条の視界が歪む。
上条は瞬時に理解した。これが魔女の力によるものだと。
マミ曰く、魔女はそれぞれ性質を持っておりその攻撃方法なども千差万別らしい。
(まずは……相手がどんな攻撃をしてくるか見極めて……それから……)
これが素人同士の喧嘩ならここまで慎重にならず、先手必勝の精神で先に拳を振り上げていただろう。
しかし相手は人外、魔女だ。それを相手にするにはそれ相応の能力、知識が必要だ。そのため、上条は相手の出方を窺っているのである。
そんな万全とも言える心構えの上条に対する魔女の攻撃は予想し得ない、まさに斜め上のものだった。
(なんだあれは……モニターか?)
片側だけ羽がむしり取られた天使のような使い魔が、ブラウン管テレビのようなモニターを持って、上方から飛んでくる様子を上条の目が捉えた。そのモニターからはツインテールの髪がはみ出していた。
これが今回の魔女だった。
さらに四方八方からモニターをを持った使い魔が現れる。こちらのモニターは先のものとは違いツインテールの髪はなかった。
モニターから流れるは人の心の傷、トラウマ。
それは傷口に塩を塗りたくり、心を抉っていく。
■ □ ■
「おい、おまえって『ふこー』なんだろ」
「こっちくんな『ふこー』がうつるだろ」
「こら、あの子と遊んではいけません。『不幸』になりますよ」
「ふこー!、ふこー!!、ふこーー!!!、わははははは」
「おまえのせいで『ふこー』になったんだ、死んじゃえ!この“やくびょうがみ”!!」
「ーーさん、聞きました?またですって。今度は疫病神の隣の席のお子さんが病気で入院されたそうですよ」
「またですの。この前なんか疫病神と体育のペアを組まされた子が、転んで怪我をしたとか」
「本当に早くどこかに行ってくれないかしら、疫病神」
「ほんとですわよねー。あっ、来ましたわよ疫病神が」
■ □ ■
上条のトラウマ。それは学園都市にやってくる前の記憶。上条が疫病神と呼ばれていた時代。
上条当麻は『不幸』である。それは偶然では済まされないほどに。
「犬も歩けば棒に当たる」という言葉があるが、彼の場合は「歩かなくても棒に当たる」と言う方が正しいだろう。
実際、ガムを踏んでしまうなんてのは日常茶飯事。立ち止まれば鳥のフンが落ちてくる。酷い時には、通り魔に後ろから背中を刺されるなんてこともあった。
しかし、彼の『不幸』は彼だけに降りかかる。誰かに伝染するものではないし、ましてや彼から他人を巻き込むなんてことは決してなかった。
それなのに周囲の人間は、彼の周りでたまたま起こった出来事を彼の不幸を理由にした。今考えてみれば周りであった病気や怪我なども特に多くはなく、普通に暮らしていれば誰もが遭遇するようなものだったのだ。
「それが…なんだってんだ……」
しかし、上条は屈しない。周囲の人物にどれだけ石を投げられても。自分よりも遥かに強い敵が目の前に立ち塞がっても。
「ここで何もしないで目の前の人を助けられない……その方がよっぽど『不幸』じゃねえか!!」
上条は目の前の魔女を力の限り右手で殴った。
魔女は使い魔の手から離れ、殴られた勢いのまま地面に叩きつけられた。
(幻想殺しが効かない……?)
上条の幻想殺しは魔女には効果がないようだった。しかし、彼の拳骨は確かな手応えで魔女を捉えた。
魔女は上条の足元で奇声を上げながらピクピクと小刻みに痙攣していた。
魔女に止めを刺そうと再度右手に力を込めると、モニターを持っていた使い魔たちが一斉に上条に襲いかかってきた。
その恐るべきは数。十、二十、いや三十はいようか。
一匹の使い魔の攻撃自体は、初手から物理的に襲ってこなかったことを考えれば取るに足らないものであることは予測できる。
しかし、上条当麻には弱点が存在する。それは多すぎる攻撃に対処できないこと。彼の魔女たちに対する武器は言わずもがな右手一本のみである。
そこに多角攻撃を受ければどうなるかなんて議論するまでもないだろう。
「はぁ……」
あまりの不利な状況に無意識に息が漏れた。しかし、それでも彼は拳を握った。
そんなまさに絶体絶命の上条の前に青い閃光が走った。
青い閃光は上条の目の前にいた使い魔を薙ぎ払った。
その閃光はまるで反撃の余地を与えず、次々に使い魔たちを撃ち落として行く。
上条が閃光の先に目をやると、マントを羽織った閃光と同じ色の髪をした少女がいた。
「美樹なのか?」
「…………。」
さやかは上条の問いかけに応ぜず背を向けたままであった。
ふと気がつくと地面に伏せていた魔女が息を吹き返し、その特徴的なツインテールを揺らしながら飛び上がり、さやかと対峙していた。
その魔女のモニターから現れたのは先ほどと同じ使い魔。数はさらに多かった。
「美樹っ!」
制止するように叫んだ上条だったが、さやかの足を止めることは叶わなかった。
彼女は長いマントの影からサーベル状の刀を取り出した。
さやかは高速で動き、刀で魔女から現れた使い魔を跡形もなく消し去る。彼女の剣の筋道には青い閃光が駆けていた。
使い魔を倒し終えたさやかは本命の魔女に狙いを定める。
「これで、止めだ!!」
さやかは大きく飛び上がると腕を思いっきり振り下ろし、刀を投げた。魔女は真上から投げられた刀剣を躱すことができず、床に串刺しとなり力果てた。
まどかがマミを連れてきたのはさやかが魔女を倒した直後だった。
「……一足遅かったみたいね」
マミはさやかの格好を見ながら語った。
「いやー、すいません。手柄は貰っちゃいましたー」
さやかは青を基調とした魔法少女の衣装を着て、頭の後ろに手を置きながら冗談めかして言った。
その衣装に身を包んでいるということはある一つの事実があることを、ここにいる全ての者が理解していた。
「美樹……お前魔法少女になったのか?」
声にしたのは上条だった。
「……はい。…でもあたしちゃんと何度も考えました」
さやかは質問した上条を見るのではなく、マミをしっかりと見据えて返事をした。
「そう……なら私が言えることは何もないわ」
マミは思い詰めるように瞼を閉じた。
「それにしても、初めてにしちゃ上手くやったでしょ?あたし」
さやかは重い空気を取り払うように陽気な声で自慢気に話す。
「そうだな、俺も助けてもらったしな」
「いやーほんと間に合って良かったっすよ」
「ほんとサンキューな美樹」
「いえいえ、それほどでも」
その歯に衣着せぬ性格からか、さやかはすっかり上条と息が合っていた。
そんな上条の戦いから魔法少女美樹さやかの姿、それら全て見ていた少女がいた。
暁美ほむら。魔法少女の一人。
彼女は肌寒い夜風が吹く空の下、街灯の頂上に立ち、その長くしなやかな黒髪を揺らしていた。
さやかのデビュー戦から数日が経過し、マミとさやかはペアとなり共に戦っていた。
そんな彼女らの様子を遠く離れた風力発電のプロペラのナセル部分、つまりはプロペラの当たらない場所に座って見つめる赤髪ポニーテールの少女がいた。
彼女の手には学園都市製の高性能な双眼鏡が握られており、角度の調整により手元のものから一キロ先の文字まで見えるという優れものである。
「ふーん、あれが新しい魔法少女ねー」
隣にポツンと座っているキュゥべえに話しかけた。
「ほんとうに彼女と事を構える気かい?」
「だってちょろそうじゃん、瞬殺っしょあんな奴」
「分からないな。どうして他人の縄張りに入ってまでそんなことをするのかい?」
キュゥべえには彼女の考えることが理解できなかった。
「だって当然でしょ、“兄弟子”が弟弟子の稽古をつけてやるのはさ。っても、もうアイツの弟子じゃないけどさ」
少女はそう言うと、双眼鏡のない手に持ったクレープを一口囓った。その大きな八重歯はまるで兎を狩る獣のように見えた。
そう彼女はかつて巴マミが初めて志を共にし、共に戦った魔法少女。
佐倉杏子。
「カミやーん、女の子紹介してくれにゃー」
「そうやそうや、一人くらいいいやろ。たくさんおるんやし」
放課後、下駄箱で靴を履き終歩いているときに左右からそう話しかけてきたのは上条の悪友である二人、土御門元春と青髪ピアスである。
「うるせー、上条さんにそんな幸せイベントはありませんことよ……」
はあ、と呟いた瞬間、両サイドから右頬と左頬を拳骨で殴られた。
「にゃにするんれすかーっ!?」
揺れる頭を降りながら両サイドに立つ土御門と青ピに問う。
「カミやんが言うと嫌味にしか聞こえないにゃー」
「そうやそうや、あそこにいるメッチャ僕のタイプの黒髪ロングの子も実はカミやん病の感染者だったりするんやー」
「まさか、それはないにゃー」
まさにそれはテンプレなフラグだった。
「上条当麻、ちょっといいかしら」
上条の両頬に再び拳が飛んだ。
上条は黒髪の少女…暁美ほむらに連れられ、上条の高校からそう離れていない第七学区にある喫茶店にやってきた。
喫茶店には学生が大勢いて、上条と同じ制服を着た生徒やほむらと同じ学校の生徒もいた。
「それで……暁美は俺に何か用か?」
「用がなければあなたを呼び止めたりしないわ」
「へいへい、それでお前は俺に何を話しにきたんだ?」
上条はマミやさやかほどほむらを悪い人物だと思わなかったが、彼女の思惑が読み取れなかった。そのため、何かよからぬことを考えているのではないかという疑問が生まれてしまう。
「率直に言うわ、私に協力してほしい」
「協力?……魔女退治のことか?それならもう巴たちと一緒に
「二週間後、ワルプルギスの夜がこの街にやってくるわ」
ほむらは上条の言葉に間髪いれずに返した。
「ワルプルギスの夜……?」
上条は頭にクエスチョンを浮かべ、聞き慣れない言葉を復唱した。
「最悪の魔女のことよ。その魔女が出現すれば世界中にスーパーセルが発生して、この世界の文明が滅ぶわ」
スーパーセル。上条は地学の授業で耳にしたことがあった。
雹、霧、豪雨、洪水、突風、落雷といった、おおよそ天候による自然災害の全てが起こりうる気象。
「……なぜ分かるんだ?」
「それは秘密……ともかくその魔女を倒すまで協力してもらえないかしら?」
「……どうして俺なんだ?確かに俺にはちょっと特別な力があるけど、お前ら魔法少女みたいに戦闘に特化してるとはいえないだろ」
上条は自分の非力さを知っているからこそ、マミやさやかではなく自分に協力を求めていることを疑問に思う。
「あなたのその特別な力が必要なの」
「分かった。ワルプルギスの夜には一緒に戦う。……ただ」
「ただ?」
「お前は一体何者なんだ?」
上条にはどうしても腑に落ちないことがあった。
それは彼女がどうしてマミも話さなかった、ワルプルギスの夜の詳細を知っているのかということ。
マミが上条に話さなかっただけという可能性もなくはないが、どうもマミの様子には大災害が迫っている焦りはない。
そしえ初めて会ってほむらを助けたときに彼女が言った言葉、「時間がない」。それはまるでマミがあの戦いに苦戦することを、元々知っているかのような言い草だった。
ここで上条はマミとキュゥべえの魔法少女の説明を思い出した。
魔法少女には魔女と同じく百人百様の能力があるということ。
彼女の能力は、初めてあったときに使ったものを考えると『時間』だった。
(時を止める魔法か……ん?時?……そうかそういうことか)
上条はある一つの結論にたどり着いた。
それは同じ学園都市に住まう学生に言えば、鼻で笑われるような答えだった。
「なあ、暁美。今から俺が話すのはただの推理だ。証拠なんてものはない。間違ってたら笑えばいい…………
……お前ここは何回目だ?」
「…………。」
ほむらは口を開かなかった。
「この場合の沈黙は肯定と捉えてもいいんだな?」
「………そう、確かにあなたの考える通りよ。私は未来から来た。……あのキュゥべえ…いえインキュベーターから、たった一人の大切な友達を守るために!」
上条はほむらから、彼女とまどかの関係を聞いた。
そして上条当麻という存在はこの時間軸が初めてのこと。
さらに彼女は、その不確かな存在を利用してまどかの結末を変えるため、上条に協力を求めたことも話した。
そして彼女が最後に話したこと。それは、
「魔女の正体は魔法少女。魔女は私たちの成れの果て。このソウルジェムが魔力の消費や絶望によって穢れきった時、私たち魔法少女は魔女になる」
魔法少女の真実だった。彼女は自分の指輪を見ながらそう語った。
「っ!?……なら今までの魔女は人間ってことかよ!?」
「いいえ、違うわ。私たち魔法少女はあなたたちとは全く別のもの。……もうすでに人間ではないもの」
その現実を後悔するわけでもなく、ましてやか悲観するわけでもない。ただ淡々と機械のように言葉にするほむら。
「……そんなのは幻想だ。お前が勝手に決めつけてるだけだ。そんなつまらねえ幻想は……俺がこの手で跡形も残らずぶち殺してやる!!」
上条は右手を強く、強く握った。
ほむらとの会話も終わり、上条は住んでいる学生寮のベッドで今日も眠りにつこうとしていた。
力強く握った右手の手の平には、爪が食い込んだ跡がくっきりとついてしまった。
彼は別れ際にほむらから言われた言葉を思い浮かべる。
『今日、話したことは誰にも言わないで。……とくに巴マミには絶対に……彼女は真実に耐えられるほど強くはないから……』
学校から帰宅後、マミは自宅のキッチンの前にヘラを持って立っていた。
(あとはここに湯煎したチョコレートとオレンジピールをいれて、型に流したら170度の余熱のオーブンで45分焼いてっと)
彼女は以前まどかたちに好評だったケーキに改善を加えたものを作っていた。
まどかたちは放課後、委員会の仕事があるらしく今日は一人でマミは学校から帰宅していた。
彼女たちが来るまでに完成というのは難しいだろうが、家にいる間には焼き上がるだろう。本当は冷めてからの方が味が馴染んで美味しいのだが、焼きたてのケーキというのはふわふわとしていてまた乙なものである。
まどか達の食べたときの反応を想像しては頬が緩んできて、楽しくなる気持ちが抑えきれない。
そんな彼女の家のドアを突然、激しくノックする音が聞こえた。
『マミさん、マミさん。大変なんです!さやかちゃんが!』
それは頭に直接声の届くという、よく慣れた感覚。声の主はまどかであった。
さやかは戦闘中だった。しかし、相手はいつものように魔女や使い魔ではない。同じ魔法少女であった。
「……ふーん、ルーキーにしちゃ結構やるじゃん。ご自慢の先輩とやらの指導の成果かい?」
さやかと敵対するは佐倉杏子。彼女は赤を基調としたノースリーブの上着にスカートという格好をした魔法少女である。手には多節棍となる槍を持っており、思いのままに動かしていた。
「……ふん、マミさんはお前みたいなヤツとは違うんだ。……自分の利益を優先して、そのためには他人の命がどうなろうとも構わない。そんなあんた達みたいな魔法少女に、あたし達が負けるわけにはいかないんだ!」
さやかは刀の柄に近い部分の刃で杏子の攻撃を防ぎ、壁を駆け上がると真上から杏子に向かって自分の体ごと突っ込み、刀を突きつけようとする。
それに対し杏子は一度槍を自分の手元まで引き寄せると、
「…解んねーヤツだな。他人の為に戦ったって一文の得にもなりゃしないってのに」
槍の刃の反対側の部分を外すとそれは分銅であり、多棍棒の槍は一瞬にして鎖分銅へと変化した。そしてそれをさやかの刀の刀身に巻きつかせ、引き寄せ、刀を奪い取る。
杏子の攻撃は続く。
「…ソイツに気づかねえバカだってなら、直接体に教えるしかねえよな!?」
杏子は武器を失い、丸腰のさやかに槍を構え直し今にも襲いかかろうとする。
そこにカツンと足音が響いた。
「お久しぶりね。その子は私の大事な後輩なの。妙なことを吹き込むのは辞めてもらえるかしら、佐倉さん」
まどかに呼び出され急いで駆けつけたマミだった。彼女は杏子の背後から銃口を杏子の背中に向けていた。
「……なぁんだ、てっきりくたばったもんかと思ってたよ。……“マミ先輩”?」
■ □ ■
佐倉杏子はかつて巴マミの弟子であり、『友達』であった。
「あたしをマミさんの弟子にしてくれないかな?」
「これからもよろしくお願いします!マミ先輩!」
「『みんなの幸せを守る』それがあたしの願いなんだ」
「あたしの願いは、ただ『父さんの話をみんなが聞いてくれますように』ってさ」
「今のあたし達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな」
「大袈裟かもしれないけど、あたし達だったら世界だって救えるんじゃないかなって、そう思うんだよね」
しかし、そんな純粋無垢な杏子はある日を境に徐々に変わってしまう。
それは杏子がある事件で魔法少女だと父親に知られてしまい、鬱になった父親が彼女を残して家族全員で心中してしまったときからである。
「あんたにさ行っておきたかった事があるんだよ。これからは魔女も使い魔もみんな倒すんじゃなくて、魔女一本に絞ろうよ?」
「グリーフシードを落としもしない、利益を生まない雑魚なんて倒すだけ無駄ってもんだろ?」
「街の平和だか正義のためか知らないけど、正直なとここれ以上あんたの道楽に付き合うの面倒なんだよね」
「魔女に取り憑かれようが憑かれまいが、死にたがるヤツは結局死ぬんだ。そんなヤツらを命張って助ける必要あるのかよ?放っといて使い魔に食わせてグリーフシードの餌にしちまえばいいんだよ」
「これからはあたしのやり方で戦うよ。今まで世話になったね」
■ □ ■
場面は現在に戻る。
「それにしても佐倉さん。他人の縄張りに踏み入るなんて、行儀がなっていないんじゃなくて?」
マミは杏子に銃口を向けたまま話した。
「なんだよいいだろ別に、ルーキーを可愛いがりに来てやっただけさ」
そう言いながらも杏子は、背中を向けたまま両手を上げた。さらに変身を解き、パーカーにショートパンツというラフな私服に身を包んだ。
「あら、ずいぶんと物分りがいいわね?」
「さすがに二人同時に相手にするのは分が悪りぃからな」
「…なら早くこの土地から出てってもらえるかしら?」
「ったく冷てぇな、マミ“先輩”はさあ」
そう言うと杏子はマミの方へ一度も振り返ることなく、その場を去って行った。
杏子とさやかの一件後、マミ達はマミの学生寮のテーブルを囲っていた。
当然先ほどの作りかけのケーキが短時間で完成するはずもなく、前日に作ったチーズケーキと香り豊かな紅茶が彼女たちの前には置かれていた。
「マミさん……、どうして魔法少女同士で仲良く出来ないんでしょうか…?」
まどかがマミに質問した。
「私にもね。誰とも対立しなくない…っていう気持ちはあるの。好き好んで争いたがる子なんていないもの。ね、美樹さんもそうでしょ?」
「そうっふね。争わないに越したことはないっすよ」
さやかは口の中にケーキを入れながらもごもごと喋った。
「でもね鹿目さん。信用できない人と協力するってことは、自分の周りにいる人も危険に晒すってことなのよ。だからこそ暁美さんのような子を安易に仲間として迎え入れる訳にはいかないの」
マミは紅茶のカップを両手で支えながら優しい口調で語った。
「それよりまどかはまだ魔法少女にならないのかい?」
空気を読まず、横から急に入ってきたのはキュゥべえであった。
「ふぇっ!?……えっと……」
「女の子を急かすんじゃありません」
そんなキュゥべえに一喝いれたのはマミだった。
まどかはそんなマミの様子に笑みをこぼす。
「……最初はただ魔法少女そのものに憧れてました。でもマミさんが危険な目にあったとき、わたし怖くなっちゃって……」
「鹿目さん……」
マミは、自分がまどかにトラウマを与えてしまったのではないかと自責の念にかられた。
「けど、上条さんは違ったんです。あの人は魔法少女じゃないのにわたしみたいに逃げないで、目の前の敵に立ち向かう……それを見て思ったんです。わたしもあんな風に戦いたいなって……」
まどかは上条に憧れていた。それは彼女が憧れているマミにどこか似ているところがあるからだろうか。
上条もマミも自分の正義を持ち、他人の為に戦う。そんな彼らの姿にまどかは、いつの間にか羨望の眼差しを向けていた。
「まどかはそれでいいの?」
いつの間にかケーキを食べ終え、フォークを置いたさやかはまどかに問う。
「うん……でも願い事はしっかり考えたいの……さやかちゃんのおかげでね、それはとっても大切なことなんだってことに気付けたから……」
「そうね。ゆっくり考えた方がいいわ」
マミはこのとき表にこそ出さないが喜びに打ち震えていた。
さやかや上条はもちろん、まどかまでもが自分と一緒に戦いたいと言ってくれたことに。
さやかの幼馴染の少年は、さやかの願いによって指は完治し退院した。
久しぶりの学校には松葉杖をついて登校していた。
彼は知らなかった。自分の指を治すために恐ろしい敵と戦うことを選び、普通の人間であることをやめた幼馴染の少女がいたことを。
そんな少女、美樹さやかは友達の仁美から話があると誘われ、二人でいつもの喫茶店にいた。
「それで…話ってなに?」
さやかはなにやら神妙な面持ちの仁美に恐る恐る話しかけた。
「恋の相談ですわ」
「……っ」
さやかは想像もしていなかった話題に言葉を詰まらせた。
「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです……」
「へ?う、うん……」
「ずっと前から私……ーーくんのことお慕いしておりましたの」
仁美が語った名、秘めたる思い人はさやかの幼馴染の少年であった。
「っ!?……そ、そうなんだ…ははっ、まさか仁美がねえ。なぁんだーーのやつ隅に置けないなあ」
さやかは取り繕ってみるが、どうしようもなく動揺していた。
それでも仁美は会話を、言葉をやめない。
「さやかさんはーーくんとは幼馴染でしたわよね?」
「うん……まあ、その…腐れ縁っていうか、なんて言うか……」
「本当にそれだけ?……私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかない、って。あなたはどうですか?」
仁美の口調はいつにも増して固く、まるで初対面の人と話しているようだった。
「一日だけお待ちしますわ。私、明日の放課後にーーくんに告白します。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください……彼に気持ちを伝えるべきかどうか」
仁美はそう言うと席を立ち、出口へと向かった。
さやかの答えは決まっていた。
それは彼を諦めること。
(そうだよ。あたしは魔法少女だもん。魔女を倒してみんなを救うのが使命なんだ。マミさんだって……。それ以外のことに時間を割く暇なんてないんだ……)
彼女は改めて魔法少女として生きることを選んだ。
そんな彼女の心には、一つ一つは我慢できるものでも確実に傷がついていった。
それがいつかきっと擦れ切れてしまうものと気付かずに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さやかは闇に落ちかけていた。
マミやまどかと一緒に行動することもなくなり、まるで自分を傷つけるように一人で戦った。
魔女だけではなく使い魔とも積極的に戦った。
そんなスタイルを続けている彼女のソウルジェムは日に日に濁っていき、その輝きを鈍らせていった。
上条は学校帰り、数日ぶりにマミの学生寮へとやってきった。
ほむらの話を聞いてからの二、三日、彼はできるだけマミやさやかを戦いに参加させずに一人で魔女に対処しようと、夜中に怪しい場所をパトロールしたりしてみたものの居場所すら掴めなかった。
そのため、結局マミの下へやってきた次第である。
(巴や美樹には魔女の居場所を教えてもらうだけだ……あとは俺が魔女を倒す……)
しかし、だからと言って彼はマミたちを危険な目に遭わせることをよしとしなかった。
希望を振りまくはずの存在の彼女らが、絶望を撒き散らす魔女になっていい理由なんて彼には思いつかない。
そんな決意を固めながら彼は、マミの部屋のインターホンを押した。
上条がマミに部屋に入れてもらうとそこにはまどかとキュゥべえの先客があった。
「悪いな急に押しかけて」
「いいんですよ。どうせ今日はパトロールも終わって、こうして鹿目さんとお茶してただけですし。それで今日はどうしてここに?」
マミは笑顔で返した。
「いや、まあ魔女の近況報告を聞きに来たんだけど……美樹はいないのか?」
「「…………。」」
上条がいつもマミたちといるはずのさやかがいないことを不思議に思い質問すると、マミとまどかは表情を曇らせた。
「……美樹さんは…私とコンビを解消しました」
マミが静かに答え始めた。
「っ!?、なんでだ!?」
「詳しいことはよく分かりません。でも『今のあたしじゃ一緒に戦う資格なんてない』と、言っていました」
マミは下を向いて、涙を目頭に溜める。
「そうか……」
上条は状況をおおよそ理解した。
恐らくさやかは精神に異常をきたしている。
そしてその絶望は一歩一歩、着実に彼女を魔女へと近づけているだろうことを。
上条は部屋にある時計を見上げた。
「…うおっ!?、やっべ今日は晩飯の食材買わないといけねえんだった!特売に遅れちまう!それじゃ美樹のことをまた明日話そうな」
そう言うと彼は足早に玄関へ向かった。
その際、彼はマミの隣にいる白の悪魔、インキュベーターを激しく睨みつけた。
上条はマミの学生寮から出てきても一向に買い物へ向かわず、すっかり暗くなった近くにある公園のベンチに腰掛けていた。
「なにか僕に話があるのかい?上条当麻」
そんな彼の下へ現れたのはキュゥべえだった。上条の帰り際、彼のメッセージ性のある視線を感じ取りあとを追ってきたのだ。
「ああ、お前なら来ると思ってた……」
上条はそのピンクの瞳を再び睨みつける。
そしてマミの部屋にいる間、堪えていた怒りをぶちまける。
「なあ……お前何してんだ?」
「何とは何の事だい?」
「とぼけんじゃねえよテメェ!!何で魔法少女が魔女になるって、そんな大事な話、あいつらに黙ってやがるんだ!!」
上条の声は誰もいない夜道に響き渡った。
「…どうして魔法少女でもない君がそのことを知っているかは分からないけど、そうだね強いて言うなら『聞かれなかった』からかな」
「……、何でだよ?」
上条は怒りの表情のまま小さく呟いた。
「どうして命懸けでみんなを守ってるあいつらが、テメェみたいなやつの食いモンにされなきゃならねぇんだよ!!」
悔しかった。
このインキュベーターとの会話が、彼女ら魔法少女が人間ではないことを肯定しているようで。
悔しかった。
助けたいと一心で戦っている彼女らが、未来には人間を襲う側に回ってしまうことが。
「僕には君の言うことはよく分からないよ。これは宇宙の存続のためには必要なことなんだ。つまりは回り回って、君たちのためでもあるんだ」
上条の叫びも感情を持たないキュゥべえには届かない。
「……もういい」
「分かってくれたかい?」
「もういいっつったんだよ、人形野郎!!」
上条は拳を握りしめた。
しかし、目の前にいるものに殴りかかることはない。それはその行為が無駄なことだと知っているから。そして今、最優先すべきは別にあるから。
「美樹の居場所を教えろ……俺があいつらを守って、テメェのその腐った幻想をぶち殺してやる!!」
杏子はある学生寮の上層にいた。
「おい、いい加減にしろよ…使い魔を倒したって意味がないんだよ!魔女を狙いに行けって言ってんだ!戦えなくなっちまうぞ!」
彼女は激怒していた。目の前にペタンと座り込むさやかに。
「どうして構うのさ……あたしが使い魔ばかりを倒せば、あんたは魔女を独占できる。万々歳でしょ」
「…っ!……とにかくアンタのやってることは間違ってる」
「あんたなんかに言われる筋合いはないよ。あたしはマミさんみたいな正義の味方にはなれないけど、使い魔を野放しにして手柄を優先するような魔法少女にだけはなりたくないから」
そう言うとさやかは立ち上がり、杏子に背を向けた。
「バカ!アンタは何も分かっちゃいない!」
「分かってるよ。これからはあんたの忠告通り、魔女も探しに行くよ。それなら文句ないでしょ?」
歩き出したさやかを杏子は止めることが出来なかった。
ただその後ろ姿はかつて、他人に奇跡を捧げた自分と重なって見えた。
上条はキュゥべえからさやかの正確な位置を聞き出した。
(ここか……)
そこには何もない。いや、何もないようにしか見えない。
上条は右手を上げるとそこに押し当てようする。
その時、彼の後方から小さな足音が聞こえた。
「やっぱり、買い物なんて嘘だったんですね」
その主は手のひらにソウルジェムを乗せたマミだった。
「どうして…お前がここに?」
「上条さんは分かりやすいですからね」
「…そうか……でも、今回は俺一人でやらせてくれないか?」
上条はマミを、魔法少女たちを魔女にしたくなかった。
「ダメです。私も一緒に戦います」
「だけど…
「だけど、じゃないです。あなたにだけ重荷を背負わせるわけにはいきません。私にも背負わせてください。それに、そこにいるのは私の大事な後輩ですから」
「そうか……、よし。なら行くか」
「はい!」
上条は彼女を止めることは出来なかった。しかし、だからこそ決意する。自分がマミとさやかを守ることを。
さやかは、全身真っ黒でロングヘアーの少女の姿をした魔女と戦っている。
魔女は木の枝のような触手が背中から何本も生えており、そこに使い魔も加え、全方位からさやかを攻撃した。
さやかは得意な高速移動で回避を試みるが、全方位からの攻撃を躱しきれず体のあちこちにダメージを受ける。
魔女の枝はさやかの体のあちこちを掴み、身動きを封じた。
使い魔たちはその蜘蛛の巣に捕まった餌めがけて口を開けながら突っ込んでくる。彼女はその最後のときを前に目を伏せようとして、
「み、きーーーー美樹ィィイイいいいいいいいいいいいい!!」
聞き知った、少年の声が耳に届いた。
その絶叫とも言える声は彼女の後方から、全力疾走の足音と共にやってきた。
彼は右手を固く握ると、
ゴン!!と。使い魔の一つと拳が激突した。
使い魔は電撃を打ち消すときと同じように、水風船を殴るように四方八方へと散らされた。
しかし、使い魔は一つではない。打ち消した後方から次々に口を開けた使い魔が彼らを襲う。そこに、
ガァン!!と。今度は聞き慣れた銃声が轟いた。
その銃声は残りの魔女を的確に捉え、撃ち落としていった。
「一人で先に行かないでください。上条さん」
そこには両手に愛銃を持った黄色の魔法少女がいた。
「か…上条さ……マミさん……どうして」
「間一髪だったな。あとは俺らに任せろ」
上条はさやかの前に立って、魔女を見据えたまま後ろ向きに彼女に話した。
「美樹さん、一緒ににみんなのところに帰りましょう」
>>300
すいません、訂正。
×その銃声は残りの魔女を的確に捉え、撃ち落としていった。
○その銃声は残りの使い魔を的確に捉え、撃ち落としていった。
「……いやだよ。帰りたくない」
しかし、さやかは下を向く。
「あたしは悪者になんかなりたくないんだ……マミさんや上条さんみたいに正義の味方でいたいんだ」
彼女はどうしても幼馴染の少年を想う気持ちを忘れられなかった。
しかしその少年と仲良くする友人を見ても、魔法少女である彼女はただ嫉妬に身を焦がすことしか出来ない。
そんな醜い感情を友に抱いてしまう悪者になるくらいなら、より一層魔法少女らしくあろう。
憧れの先輩と同じように表に立たない正義の味方であろう。と、彼女は思った。
「悪い子になったっていいじゃないの。私だってずっとそうしてきたんだから」
マミは鳴り響く銃声の合間に語りかける。
「美樹さんは私を正義の味方って思っているみたいだけど……それは私が騙してたの。……私はね正義の味方でいたかったわけじゃない。誰かと一緒にいたかっただけなの」
それは彼女の願い。魔法少女の契約を終えた彼女には自力で叶えることしか出来ない願い。
「本当の私はただの寂しがりの子供なのにずっと嫌われるのが怖くて、いつもあなた達の前ではいい顔ばかりしてた……でもね、そんな嘘はもうやめるの……。お願い美樹さん。あなたのためでも他の誰かのためでもなくて私のために一緒にいて。…私の前からいなくならないで」
寂しい。
マミが魔法少女になってから何度も思ったこと。
一人で食事を取る時。家族のいない部屋で眠りにつくとき。弟子と離れ離れになったとき。
自分がさやかの憧れるような人ではないことを告白した。それでも、
「……いいの?」
その本音は確かにさやかの心を揺らした。
上条は先ほどから無言のまま、さやかを襲ってくる使い魔や魔女の攻撃を防いでいた。
「当たり前じゃない」
大きな銃声の後、優しい声でマミは述べた。
魔女の結界は割れたガラスのように砕けていく。それはまるで溶けていくさやかの心のようで幻想的であった。
「……はは、参ったな。あたしの憧れのマミさんじゃないって分かったのに。厳しく言い返さなきゃいけないところなのにな……。嬉しいんだ。こんなあたしを必要としてくれて」
さやかは笑った。
「……さあ、帰りましょう美樹さん。鹿目さんが待ってるわ。今日のケーキ自信作なんだからね!」
マミも笑った。涙を目にたくさん溜めながらつられる様に。
「それは俺も食べに行っていいんでせうか?」
「もちろん。上条さんの分もありますよ」
上条も笑った。彼はさやかを魔女化させずに済んだと思った。
「ありがとう。マミさん、上条さん……でもね、ごめん……」
しかし、もう彼女のソウルジェムの穢れは手遅れであった。
魔女は嗤った。
上条とマミの二人は新しく発生した結界の外に放り出された。外は大粒の雨が降っていた。
彼らの目には数分前の映像が焼き付いていた。
美樹さやかのソウルジェムがグリーフシードへと変わる瞬間が。
(くそっ!救えなかった。俺は……分かってたのに!!)
上条は濡れたコンクリートの地面を思いっきり殴った。
拳からは真っ赤な血が噴き出す。
それでも彼はそんなことは気にならなかった。
彼の頭には、こうなることを知っていてそれでも一人の少女を助けられなかった。その後悔ばかりが渦巻いていた。
「無事結界から抜け出せたようだね」
建設中の建物の鉄骨にちょこんと座るキュゥべえは、地面に崩れ落ちた上条とマミを見下ろした。
「上条当麻。君は美樹さやかの魔女化を止めたかったようだけど、どうやら無理だったみたいだね。でもあれはもう手遅れだった。何をやっても結果は変わらなかったよ」
キュゥべえはただ淡々と、感情の一切入っていない声色で話す。
「マミ、君にとっては美樹さやかを救出に来たつもりが、予想外の結果に驚きを隠せない。と、いったところかい?無理もない。本来なら君たち魔法少女が知るべきではない情報だからね。と、言っても普通の人間が知っててもいいわけじゃないけどね」
キュゥべえにはその驚きと呼ばれる感情は理解出来ない。ただ知っている。驚きとは予測の範囲外の事象が起こった際に発生する、人間にある多大な感情の内の一つであることを。
「……ねえ、キュゥべえ。…どうして、美樹さんは魔女になったの……?」
マミは力なく呟いた。
「そんなの決まってるじゃないか。美樹さやかは憧れていたんだ。正義の味方に。だから彼女は善人であろうとして醜い感情を発散させず、ただ戦い続けて消耗していったんだ。果たして、それは誰を見て憧れていたんだろうね」
美樹さやかは憧れていた。
願いという対価をもらったわけでもなく、魔法少女でもないのに決して挫けず、右手一本で戦う少年に。
美樹さやかは憧れていた。
同じ魔法少女の先輩で、いつも魔女から人を助け、自分の利益にならない使い魔との戦闘も正義のためには躊躇わない少女に。
そんな正義の味方達に。
そんな彼らをキュゥべえは絶望へと突き落とす。
その感情のない、透明な言葉で。
「美樹さやかは君たちに憧れてこの道を選んだんだ。つまりは君たちが彼女を魔女へと導いたんだ。…上条当麻。巴マミ」
上条の隣に膝をつくマミは、魔法少女の真実に絶望していた。
魔法少女が魔女になり人間に害を与えると分かっていて、自分の正義を貫き通せるほど彼女は強くなかった。
(ごめんね美樹さん。本当に……正義の味方じゃなくなっちゃった……。もっと早く素直な気持ちを打ち明けていたら、きっと楽しい毎日を取り戻せたかもしれないのに。……私は…大切な人の命を繋ぎ止めることができなかった)
『繋ぎ止める』。それは彼女の能力の本質である。
彼女の使うリボンは本来、誰かを縛りつけるものではない。それが命を繋ぎ止める願いを叶えた巴マミの能力であった。
(…本当にごめんね……私が守るって決めてたのに…)
彼女は自分のソウルジェムを強く握る。濡れた地面を足で掴み、立ち上がる。そして自然と足は、さやかの方に向かう。
彼女のソウルジェムにはいつもの暖かい光は消え失せ、暗い濁りが広がった。
「おい、待てよ!どうするつもりだ!」
上条はマミの進路に立ち塞がった。
「…どうするって?決まってるじゃないですか………
あの子と一緒に死ぬんですよ」
「……っ!?」
「あなたは知っていたんですよね。人々を守るために戦い続けていた魔法少女の正体が人々を殺す魔女だったってこと。なら、どうして教えてくれなかったんですか?」
「…………。」
「答えられませんか……。なら別にいいですよ。ただ、私にはもう魔法少女を続ける理由はなくなりました」
彼女にはもう救えない。たとえ魔女に魅入られた人を視界に捉えても、今の彼女は何事もなかったように素通りするだろう。
「だから…そこをどいて下さい。…巻き込まれたくないなら黙って退いてください。……あなただって私みたいな勝手に死にたがってる人間なんか、命を張って助ける義理ないでしょう?」
彼女は銃口を上条に向けた。
それでも彼は動かない。上条は、歯を食いしばる。
「どかねぇよ」
上条の言葉に、マミは心底驚いたように彼の顔を見返した。
「どうして……どうして!?分かってるんですか!私が死ななきゃ魔女になって、人を襲うんですよ!」
もちろん、上条だってわかってる。
「……、それでも、嫌なんだ」
魔法少女の気持ちなんて上条には分からない。だけど、こんな優しい少女がボロボロになって、誰も知らないところで一人、この世を去る。
そんなことを黙って許すことはできなかった。
「そうですか。あなたは私を止めるんですね……」
マミは引き金に力を込めた。
バァン!!と銃声が暗い夜の路地に鳴り響いた。
避ける、そんなことが普通の人間にできるはずがない。
上条はとっさに右手を前方へと突き出していた。
「……そう、やっぱりその右手には効かないんですね」
銃弾は上条の体には直撃しなかった。右手に触れた瞬間、煙が空に消えるが如く消滅した。
上条にできるのはそれだけだった。
マミは銃口を上条から外し、上方にある鉄骨へと向けた。
(やばっ、)
上条は慌てて地面を転がり、その場を離れる。
直後、ひしゃげた鉄骨がついさっきまで上条のいた地面に聖剣のように突き刺さった。
(くそっ、やっぱり本気か!)
マミは帽子を自分の前で振り、十以上の銃を出現させた。
一つを掴み取り、その銃口を確実に上条へと向けた。
上条は右手を突き出したまま、銃口へと視線を向ける。
その視線の意味はマミの銃撃の方向、角度、それらを見極めること。
上条は放たれた後の銃弾を視認してから右手を持っていく、そんな人間離れした動体視力とスピードなんて当然、持ち合わせていない。
だからこそ予測する。次の攻撃がどこを狙ってくるのかを。
もし右手の届かない範囲、例えば膝あたりを狙われていたなら躱すことだけを考えればいい。
上条の勝利条件は至極簡単、「触れる」こと。
この十メートルばかりの距離から接近して、マミの体のどこかに右手で少しでも触れられば彼女は魔法少女の能力が使えなくなる。
再度、銃声が鳴り響く。それは一度で終わらず、二発、三発と続いた。
上条は右手をマミに向けたまま、路地裏の曲がり角へと体を投げ入れた。
マミの止まることを知らない銃撃の前に上条は、曲がり角の壁を盾にして立ち止まることしかできなかった。
(……これ以上、魔力を使わせたらあいつが持たない)
マミは両手で銃を持ち替えながら、絶えず上条のいる曲がり角へと乱射する。
直撃はしないが上条に突撃する猶予を与えない。次第に壁はその威力に欠け始めていた。
上条は近くにエアコンの室外機の鉄板を見つけた。
それはとても人を隠せるほどの大きさは持っていなかったが、厚さは一センチほどあり、銃弾を止めるには事足りるものであった。
上条は鉄板を自分の前に突きたて、クラウチングスタートのように低く前傾姿勢をとった。
そしてその姿勢のまま路地裏の曲がり角を飛び出した。
ガン!!と鉄板に弾があたり、跳弾して上条の後ろへと弾道を変えていく。
残り五メートルほどまで来たときだった。
上条の走る地面から黄色のリボンが飛び出した。
一本ではなく、何十本も。それらは蛇のように縦横無尽に動き回り上条の体へと巻きついていき、さらに鉄板を下から弾いた。
上条の体は右手の肘から先と首から上以外、余すところなく縛りつけられてしまった。
「勝負ありですね」
マミは落ち着いた声で話しかける。
「……やめろよ。アイツを元に戻す方法だってまだあるかもしれないだろ。そもそも美樹が魔女になったのだってお前のせいじゃなくて俺の……」
「……そうね、だったら全部上条さんのせいね」
マミは再び銃を上条へと向けた。
「上条さん。あなた、私達と会ってから何度か使い魔を倒していますよね?それってつまり美樹さんが倒すはずだった魔女の元を潰してるってことですよね。だから美樹さんは必要なグリーフシードを得ることができなかった」
「っ!?お前、何言って…?」
「…ほら最低でしょ私。誰かのせいにすることも他人を恨むことも本当はしたくないのに、私達魔法少女は誰かの幸せを祈った分、誰かを呪わずにはいられない。……きっと私が魔女になるのも、もう時間の問題だと思います」
「…………っ」
しばらくの沈黙の後、
「……私はあなたみたいに絶望に負けず生きていけるほど強くないんです。…だけど、こんな弱い私でも美樹さんならきっと受け入れてくれると思うんです。だからあの子と一緒にいるって決めんたんです………
あなたになんか邪魔はさせないわ」
マミが上条に再び引き金を引くことはなかった。彼女は銃を降ろすと、さやかのいる方に足を向け直した。
「……うる、せえよ。うるせぇんだよ、お前は。そんなもん、関係ねぇんだよ。強いだとか、弱いだとか。魔女だとか。そんなもん知った事じゃねえ!そんなのはどうだっていいんだよ!」
少年は吠えるように叫んだ。それは憐れみからくるものではない、ただ純粋な怒りだった。
それでも少年のその怒りは、なぜかとても痛々しかった。
「俺は、お前は助けるためにここで拳を握ってるんだ!他の誰でもない、お前のために!だから、そんな小せえ事どうだっていいんだよ!!」
マミには上条の言う事が分からなかった。
嘘は言っていない。自分が魔女になって人々を襲うことになることを彼には伝えたはずだった。それでも彼はそんな自分を助ける。確かにそう言ったのだ。
上条の右腕の肘から先にはリボンが巻きついてない。それは、マミが幻想殺しの力を理解していたため。
「今からお前を助けてやる……、美樹はその後だ」
上条は右腕に力を込めた。当然、どこかリボンの一部に届くようにはなっていなかった。
それでも上条は手首をギリギリまで曲げ、自分の太ももの付け根あたりに指を伸ばす。
肘、手首の関節がそれぞれ悲鳴を上げる。
それでも少年はただの少年で、縛りつくリボンは微動だにさせることはなかった。
それを眺めていたマミは首元のリボンを解き、いつぞやの身の丈ほどある巨大な銃を出現させ、
「……やっぱりあなたはそうなんですね。でも、ダメなんです。私は魔法少女。もうあなたみたいに生きられない。だってあなたはただの人間で…………、
正義の味方だから」
銃口を上条へと向けた……ように見えた。
暗い夜の路地裏で放たれた一つの弾丸は上条の体の左腕側、それよりもさらに横を通り抜けた。
その風圧は凄まじいものだった。上条の体はリボンごと右側の壁へと叩きつけられた。
「がっ…、は……ッ!」
上条は意識を手放した。
巴マミは勝利した。
それでも彼女は上条当麻の息の根を止めることはしなかった。
上条に撃った銃弾も、全て防げることもしくは当たらないことを計算していた。
それは彼が魔法少女ではなくて人間だったから。
マミがさやかの結界の前に来ると、魔力を込め、結界に侵入しようとして、
「……待ってて」
力を込めた瞬間、急に全身の関節を抜いたかのように体が砕け落ちた。
変身は解け、ソウルジェムは地面に転がった。
「ずいぶんと手間取ったみたいだね、マミ」
「キュゥ……べえ…」
キュゥべえはどこから現れたのか、倒れてうつ伏せのマミの近くに降り立った。
「さやかを倒す前に魔力が尽きてしまったようだね。君のソウルジェムはもう限界だ。魔女が孵るまでにはまだ時間がありそうだけど……ここで見届けさせてもらうよ。それもまた僕の役目だからね」
キュゥべえが見つめるのはマミではなく、ソウルジェム。魂の居場所。
(……そっか私、魔女になっちゃうんだ。…美樹さん、側にいてあげられなくえごめんね。上条さん、痛くさせてすいません。やっぱり私って駄目だなぁ。私にもっと強い意思さえあれば……。こんな私だから、いつも独りぼっちで終わっちゃうんだ)
マミは思う。魔女のいない世界でみんなに会えていたなら、それはどんなに素晴らしいことだろう。
仲良くみんなでお茶することができただろうか。
(……私が魔女になっちゃえば…ずっとみんな私のそばに…)
マミが静かに瞼を閉じようとすると、目の前の地面に赤い槍が刺さった。
「びっくりした?目、覚めたかい」
そう言って建設中の建物の鉄骨の上から笑みを浮かべるのはマミのかつての弟子、佐倉杏子だった。
杏子はマミの横に降りる。そして十メートルほど離れた場所にいる上条を見た。
「ったく、仮にも仲間なんだろ。躊躇なくぶっ飛ばすか、フツー?しかも魔法少女でもないやつに。まあ、アイツのお陰でアンタが死ぬ前にここに来れたわけだけどさ」
「…………。」
「さすがのマミ先輩もグリーフシードがなけりゃお手上げだな……残念ながらあたしも持ってないんだけど……さ………、怒ってんのかよ?」
杏子はいつまで経っても目を合わせようとしないマミの顔を、不安気に覗き込むんだ。
「違うの。最後に佐倉さんに謝らなくちゃいけない事があるの」
「…はあ?」
「……勝手に話すから聞いて欲しいの」
マミは地面を見つめながらゆっくりと語り始めた。
「私はね、ずっとあなたと友達になりたいと思ってた。先輩とか師匠とかじゃなくて友達みたいに仲良くなりたかったの……
だけど私にはその勇気がなかった。家族もいない孤独な魔法少女同士だったのに、結局私達を繋ぎ止めていたのは戦いや争いでしかなかった。
あの時の私に勇気があれば、あなたと友達になれたかもしれない……それが心残りなの、本当にごめんね」
「…違う……アンタのせいじゃない!全部…全部、私のせいなんだ!
マミはあたしを信じてくれていた。それなのにあたしがいつも自分のことばっかで、アンタに甘えてわがまま言って、何度も傷つけた。アンタを裏切った。……だから……、ごめんマミさん」
杏子はマミの手を握って、押し潰されそうな表情を浮かべた。
それでもマミの笑顔は優しかった。
「……佐倉さん。私達はね、きっと独りぼっちじゃ駄目だったのよ。互いの弱さを認め合ってみんなで補い合えば私達にはもっと素敵な未来があったはずなの。一人でカッコよくならなくちゃとか…見せかけの自分で幸せを逃しては駄目よ……そんな嘘は寂しいだけだから」
マミは杏子の顔を見上げて、一つ一つの言葉を朗読するように丁寧に話した。
「……佐倉さん、最後に私へ止めを刺して、美樹さんを迎えに行ってあげて。きっとあなたなら救ってあげられるから」
「……なにを、言ってんのさ……」
「あなたは私のように後悔しないように、お互いに認め合える魔法少女の友達をつくるのよ。これからは協力してみんなを守るのよ。この街をあなた達に任せるから……」
「どうしてマミが死ななきゃならねぇんだよ!」
「だって魔女になるなら死ぬしかないじゃない!」
「……っ」
「もういいの……お願いだから死なせてよ!誰も救えない。友達一人も救えない。そんな私なんかに生きている意味なんかないんだから!」
「そんなことできるわけないじゃんか!」
杏子にはマミの願いを聞くことはできない理由があった。
「救われてるヤツならここにいるんだよ!…だってアンタは……あたしにとっての巴マミってヤツは………
最後の家族なんだ」
杏子にとって巴マミという存在は友達ではなく家族だった。
杏子が何もかも失って絶望に飲み込まれそうになった時、思い出したのはマミのことだった。
本当の家族とは異なるが、本当の姉みたいに優しくしてくれた。
だから彼女は独りぼっちになったわけじゃないと思えた。
「アンタがあたしにしてくれた当たり前があたしに強さと希望をくれた。アンタが生きててくれたこと。そいつにあたしの命は『繋ぎ止められた』んだ」
マミは家族という大切なものを繋ぎ止めていた。
そのことが嬉しくて、目からは大粒の涙が零れ地面を濡らした。
「……さて、あたしはさやかのヤツを……迎えに行ってくる」
杏子はマミが入ろうとしていた結界へと体を向け、マミに背を向けた。
「……約束して。家族はお互いを不安にさせたりしないものよ。もう二度と私の前からいなくなったりしないって…約束して」
マミは顔を上げるが、起き上がることはできない。
「分かった……。その変わりアンタもまだ希望を捨てたりするなよ?もし帰ることができたら、あの上手いケーキ、よろしくな」
「…うん、約束よ」
マミの意識はそこで途切れた。
そして杏子はさやかの下へ向かう。
さやかの魔女からグリーフシードを手に入れ、マミを救うために。
杏子はさやかが魔女化した結界にやってきた。
「結界アンタとは最後まで解り合えないままだったね。……いや、美樹さやかが魔女になったかどうかなんて、あたしは見ちゃいないんだ。だからアンタが本当にさやかなのかどうかって事も、解りゃしないのさ」
杏子は槍の刃を魔女へと向け、飛び上がった。
(ごめんな、さやか)
魔女は消えた。地面に刺さるグリーフシードには雨と一緒に赤い槍を持った少女の涙が降った。
上条は目を覚ました。
(……どれくらい倒れてたんだ)
ズキズキと痛む後頭部を撫でながら、上条は辺りを見回した。
「……っ、巴!?」
十メートルほど先に、横たわるマミを見つけた。
(どうして、巴が倒れてんだ)
上条は揺れる頭、ふらつく体に鞭を打って立ち上がる。
転ばないように一足一足地面を足裏でしっかりと掴みながら進み、マミの下へたどり着いた。
「おい、どうしたんだ!巴!」
上条は必死にマミの肩を掴み呼びかけたが返事はない。彼女の手の中にあるソウルジェムは濁りきっていた。
「ソイツは大丈夫だから、安心しな」
突然声が聞こえ、上条は声の方向に振り向く。
そこには赤髪の魔法少女がいた。
「お前……誰だ?」
「自己紹介は後だ……とりあえずソイツを助けるのが先だ」
少女は変身を解いた。彼女の右手にはグリーフシードがあった。
少女がマミの近く、上条の反対側に腰を降ろすと、グリーフシードをマミのソウルジェムにコツンと当てた。
ソウルジェムの濁りは瞬く間に取り除かれた。
「……とりあえずこれで、コイツは大丈夫だ」
「お前いったい……?」
「あたしは佐倉杏子だ。とりあえずコイツ、しばらくは目を覚まさねえだろうから、寮まで運んでやってくれねえか?」
上条は杏子に言われた通りマミを運ぶため、背中に背負った。
「なあ、佐倉」
「なんだ?」
「お前がグリーフシードを持ってあそこから出てきたってことはさあ……」
上条は言い淀む。
「……魔女はあたしが倒した」
「そうか……」
多くは語らずとも上条は理解できた。できてしまった。さやかの存在が消えてしまったことを。しかし、杏子を責めることなんて、救えなかった上条にはできるはずがなかった。
上条と杏子が路地裏を出てマミの学生寮に向かう途中、
「どうやら巴マミは無事みたいね」
暁美ほむらが姿を現した。
「お前が、キュゥべえのヤツが言ってたイレギュラーってやつか?」
杏子はこの縄張りを調べている時に、キュゥべえから聞いた魔法少女の話を思い出した。
「少なくとも今はあなたの敵ではないわ。安心して」
「って言われてもなぁ」
「いや、たぶん大丈夫だぞ」
上条は納得いかない様子の杏子を宥める。
「お前、知り合いなのかよ」
杏子は上条がほむらと知り合いだったことに驚いた。一般人がこれほどまでに魔法少女と関わっていることなんて、今まで聞いたことすらなかったからだ。
「…まあな。……なあ、暁美。そろそろ、全員にワルプルギスの夜のことを話すべきじゃないか?」
「ええ、分かってるわ。私も…今日はそのつもりで来たもの」
杏子はワルプルギスの夜という不穏な単語に驚くが、二人が何を言いたいのか全く理解できなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
窓から差し込む朝日にマミが目を覚ますと、そこは自宅のベッドの上だった。
(ここは……私の家?)
ふと、お腹のあたりに何かがのし掛かっているような重みを感じた。
そこには規則的な寝息を立てる杏子が頭を乗せていた。
「佐倉…さん……?」
その時、杏子の目から一筋の涙が流れた。
マミは人差し指で涙を拾い上げるように拭いた。
「……んっ」
杏子は目を覚ました。
「おはよう、佐倉さん」
「…………、おう」
杏子は寝ぼけ眼を擦りながら、少し照れくさそうに挨拶を交わした。
「ねえ佐倉さん。どうして私は魔女になってないの?」
マミは疑問を感じていた。
あの時、キュゥべえは確かに自分のソウルジェムは限界で魔女になる。そう言っていたはずだ。
「…………、とりあえず他のヤツらのところにも顔を見せて来いよ」
杏子は、はぐらかすように目線を合わせなかった。
マミと杏子が寝室を出ると、リビングにはまどかと上条、そしてほむらがいた。
彼らの顔はどこか暗く、陰りが差していた。
まどかはマミの顔を見ると、
「マミさん……?」
目を見開き、次第に涙を浮かべる。
「鹿目さ……わっ!?」
まどかは立ち上がり、マミの胸に勢いよく飛びついた。その衝撃にマミは足元がぐらついたが、なんとか堪える。
「良かった……マミさん…」
「?どうして、鹿目さんがここに……」
マミの疑問に奥に座っていたほむらが口を開く。
「あなたは丸一日眠っていたの」
「暁美さん…」
まどかはマミから体を離すと、制服の袖口で涙を拭った。
「マミさんが倒れていたのを、上条さんと佐倉さんと一緒に助けてくれたんですよ」
(倒れていた……そうだ、私あれから気を失って……)
記憶の無い時間。マミにはただ一つ気になることがあった。
「ねえ、美樹さんは?私と一緒にいなかったの?」
「「「「…………。」」」」
マミ以外の四人は押し黙った。上条は強く右手の拳を握って、座っている床に押し付けていた。
「……マミさんだけでも助かってくれて良かったです…」
まどかは寂しそうに呟いた。
「美樹さやかは魔女に殺されたわ。私達が駆けつけたころには手遅れだったの」
ほむらは目線を誰とも合わせずに語った。上条は俯き暗い表情を浮かべた。そして杏子にはさらに暗く、寂し気な表情が浮かんでいた。
(どういうこと…?美樹さんが魔女に殺されるはず……)
理解できなかった。
さやかが魔女に殺されるはずはなかった。
なぜならば美樹さやかこそが魔女へと姿を変えてしまったから。
「…ねえ、暁美さん。今の話…本当なの?美樹さんは本当に魔女に……
『まどかには知られたくない』
不意に頭の中に直接声が聞こえた。それはほむらのものだった。
『一度、話し合いの場を設けましょう』
ほむらは上条に一瞬、目を配ると合図を受けとった上条は頷いた。
「なあ、鹿目。俺らは寮で一人暮らしだけど、お前は家族と一緒に住んでるだろ。そろそろ家に帰らないと親が心配するんじゃねぇか?」
「……。」
まどかは親の仕事の関係で学園都市では珍しく、家族と一緒に生活を送っていた。
「……分かりました。それじゃあ、すいませんけどお先に失礼します」
まどかは渋々、自宅の帰路についた。
まどかが部屋を出たあと、マミは再びほむらに向き直った。
「…それで話っていうのは……」
「まず、アタシの話を聞いてくれ……」
それは隣にいた杏子からの願い出だった。
「……さやかは、…さやかはアタシが殺した」
「っ!?…どうして!」
「アンタのソウルジェムは……さやかのグリーフシードで浄化させたんだ」
「……っ」
マミはやっと得心がいった。
自分が魔女になっていないこと。さやかがこの場にいないこと。
「佐倉は悪くねえ。俺が全部悪かったんだ。分かってたのに…俺は知っていたのに……、美樹を助けられなかった…」
『幻想殺し』。力があるのに、魔女に対抗する手段を持ち合わせていたのに。ただ目の前の一人を助けられなかった。
マミはそんな上条を見て、声を聞き、彼との戦いを思い出した。
「か、上条さん……」
別に忘れていたわけではない。ただ、さやかのことが気になっていつの間にか頭の片隅に追いやられていた。
「私……、私はあなたを……」
上条を傷つけた。自分の我儘で銃を向けた。
時計の針が進むごとに、自責の念が降り積もる。
それでも彼はいつまで経っても正義の味方だった。
「……あの事はもういいんだ」
「よくない!私はあなたを撃った。上条さんを撃ったんです!」
「…でも俺は生きてる。ここにいる。それが全てじゃねぇか」
どんなに蔑んでも、どれだけの言葉を重ねようとも、少年の正義の心が折れる事は決してなかった。
暫くの沈黙のあと、
「もういいかしら?」
場の重い空気を全く気にせず、口を挟んだのはほむらであった。
「私の話は一つだけ……あなた達に私の協力をしてほしいの」
「協力……?」
マミにはほむらの意図が掴めなかった。
今まで敵対してばかりの人物から、「協力」なんて言葉が飛び出せば当然である。
「もうすぐこの街にワルプルギスの夜がやって来るわ」
「「っ!?」」
マミと杏子の二人は絶句した。
「上条当麻にはすでに協力の了承を得ているわ」
「え……、上条さんが?」
マミは上条とほむらの関係性に驚く。
「…実はお前らと知り合った後に、暁美から話を持ち出されたんだ……黙ってて悪かった」
上条は悪びれるように話した。
「なるほど、そういうことかい」
どこから現れたのか、いつから居たのか。その白の悪魔は抑揚のない平べったい声で語り出した。
「君は魔法少女なのに僕には君と契約した記憶がない。ワルプルギスの夜のことも知っている。そして、僕の正体を知っているようだった」
「…………。」
ほむらは鋭い眼光でキュゥべえを睨みつけた。
「あまりに突飛で考えにくいことだからね。僕の中でも半信半疑だったんだけど、何しろ君は魔法少女だ。魔法少女は常に条理を覆す存在。何が起きても不思議じゃない」
「おい、テメェ。何が言いてぇんだ」
杏子が根幹が見えない話の内容に苛立ちを覚える。
「……時間遡行者、暁美ほむら。過去の可能性を切り替えることで幾多の並行世界を横断し、君が望む結果を追い求めて、この一ヶ月間を繰り返してきたんだね」
繰り返してきた。
何度も何度も何度も。
同じ時間、同じ場所、同じ会話。
それでも結果はいつも一緒だった。たった一人のかけがえのない人を救うことできない。
だからと言って、諦めることなんてできるはずがなかった。
「……ええ、そうよ。私は全部知っているわ。あなたの正体も、陰謀も。魔法少女の真実のことだって」
失敗したなら、また繰り返せばいい。
あのベッドの上から。
この時間など捨てて、また戻ればいい。
だから正体が見破られても、そんなことはどうでもよかった。。
そんなやり取りを見ていたマミはゆっくりと口を開く。
「…要するに暁美さんは分かっていたと言うの……、美樹さんが魔女になることも。私のしてきたことも……」
マミには想像することすら叶わない。ほむらがどんな思いでこの時間を繰り返しているのか。
だけれども一つだけ確実に分かることがある。それは彼女が辛かったこと。
この時間を一度しか経験していない自分ですらこんなにも辛い。ならば何度も経験したはずのほむらが、もっと辛苦な思いを味わったことだけはこの場にいたマミと上条、杏子も理解していた。
「……ええ。正直、今日まであなたが生き延びたのは意外だった。運がいいわ」
「……別に、運なんかじゃないわ。仲間が支えてくれたからこそここにいられるの……」
マミは自分を囲むように座る上条たちを見回す。
「……本題に入りましょうか…ワルプルギスの夜、本当に近いのね?」
「……そう。奴は確実に来る。私と上条当麻はそいつを倒すために協力関係を組んでいたの。…そしてあなた達にも討伐に加勢してもらいたい。こちらの要求はそれだけよ」
ほむらは改めてマミと杏子に協力を求めた。
「言いてぇことは分かるけどよ、どうしてそんな大事なこと今まで話さなかったんだよ」
杏子は不満を漏らした。
「あらかじめ伝えたとして、あなた達は私の言葉を鵜呑みにしたかしら」
「…それは……」
ほむらの言う通りだった。
出会って間もない、見ず知らずの魔法少女に言われて「はいそうですか」と納得できるような内容ではない。
「機会を待ってあなた達を引き入れる。それが私の望んでいたこと。…協力してくれるかしら?」
「……、無理よ。私にはできない。…私はみんなみたいに強くないし、正義の味方にもなれない……」
どれだけソウルジェムの穢れを取り除いても、マミの心から絶望が取り払われることはなかった。
「……ねぇ、どうしてなのかな。どうして自分勝手な私が生き残って、美樹さんが死ななければならないの。どうして私じゃないの……
「いい加減にしろよマミ!!」
パチン、と頬を叩いた音が静かな部屋に響いた。
杏子は激昂した。
「……なあ、マミ。昔、約束したよな。一緒にワルプルギスの夜を倒そう、この街を守ろうって。……、あの時の約束は嘘だったのかよ!」
「佐倉さん……」
杏子にもマミの気持ちは痛いほど解った。
それは彼女自身も魔法少女であって、さやかに直接手を下したのは杏子だったからだ。
それでもこれ以上、マミが傷つくのを黙って見ていることなんてできなかった。
場の空気はより一層重くなり、またしてもしばらくの沈黙があった。
沈黙を破ったのは上条だった。
「…なあ、巴。……、確かに俺たちは無力だ。そのせいで美樹を救うことができなかった。…けどな、お前が今まで救ってきたことがなくなるわけじゃねえだろ。お前が普通の生活を諦めてまで、助けてきた人、繋ぎ止めた命があるだろうが」
上条はマミについて多くを知らない。つい最近知り合ったばかりだ。
それでも知っていることがある。
彼女が優しいこと。
彼女が脆いこと。
「それにたとえ、もう会えないとしても互いの気持ちが消えるわけじゃねえ。……美樹を救えなかった。それはお前一人の問題じゃねえ。俺も抱える。だから、簡単に死ぬなんて言うな」
「上条さん……」
マミは少しだけ肩の荷が下りた気がした。
一緒の道を進んでくれる人がいた。
一緒に重荷を背負ってくれる人がいた。
それだけで心が軽くなった。
上条の会話が終わると、ほむらは腰を上げた。
「私はあなた達に命を無駄に散らせてほしくない。美樹さやかの気持ちに応えるつもりがあるなら、どうか一緒に戦って」
「……。」
マミは即答することができなかった。
「それと、この話は鹿目まどかには伝えないで欲しい。彼女を巻き込むわけにはいかない」
「……そうね、分かったわ」
「明日もう一度、あなた達に尋ねるから協力するかどうか決めておいてほしい。…いい返事を待っているから」
ほむらはそう言うと、踵を返し部屋を出ていった。
上条の会話が終わると、ほむらは腰を上げた。
「私はあなた達に命を無駄に散らせてほしくない。美樹さやかの気持ちに応えるつもりがあるなら、どうか一緒に戦って」
「……。」
マミは即答することができなかった。
「それと、この話は鹿目まどかには伝えないで欲しい。彼女を巻き込むわけにはいかない」
「……そうね、分かったわ」
「明日もう一度、あなた達に尋ねるから協力するかどうか決めておいてほしい。…いい返事を待っているから」
ほむらはそう言うと、踵を返し部屋を出ていった。
ほむらが帰った後、上条と杏子も自宅へと帰った。
マミは一人リビングにいた。
日は落ち、窓の外には人工の明かりが自然の月明かりを感じさせないほどに煌めいてた。
ピンポーンと、突然部屋の呼び鈴が鳴り響いた。
マミは玄関へと向かう。
そこにいたのは、
「!?……鹿目さん?」
まどかだった。
「…すいません、少しだけ上がらせてもらっていいですか」
まどかの桃色の瞳は、しっかりとマミを見据えていた。
「鹿目さん、帰っていなかったの?」
「いえ、一度は帰ったんですけど…マミさんにどうしても聞いてもらいたい話があるから……」
「話……?」
「わたし、さやかちゃんとは小学生からの友達だったんです。何かあるたびに守ってくれて、わたしにとって身近で憧れな存在でした。でもそれとは反対に、さやかちゃんや周りに迷惑ばかりかけているわたしがずっと嫌いでした……」
憧れ。
きっと誰しも一度は感じたことがある感情。
まどかの場合の憧れはさやかであって、上条であって、そしてマミだった。
「何かの、誰かの役に立ちたい。ただ漠然とそう思っていました。そんな時に出会ったのがマミさんでした。わたしも魔法少女になればマミさんみたいにカッコよくなれんだって…、さやかちゃんみたいに誰かを守ることができるんだって……」
魔法少女になれば誰かの役に立てる。
憧れの人のようになれる。そう思っていた。
「……だけど、わたしより先に魔法少女になったさやかちゃんは、元々頼もしかったのがこれまで以上に頼もしくなりました。……それを見て、今のわたしが仲間になったところでみんなの足を引っ張るだけなんじゃないかって、怖くなったんです」
怖かった。逃げていた。
しかし、今は違う。
まどかの瞳には覚悟の色が灯っていた。
「みんなが仲良くなればいいって言っておきながら、仲良くする勇気がなくて逃げていたのはわたしの方だったんです。……でも今は違います。…わたしはさやかちゃんのために……、
大切な友達のために魔法少女になりたい」
「今更遅いっていうのは分かっています。でもわたしがもっと早く魔法少女になっていれば、さやかちゃんも魔女に殺されずに済んだんじゃないかなって思ったら……、だからわたし
「私は反対よ」
マミは唇を噛んだ。
「あなたが美樹さんを助けたいって気持ちとても分かるわ……けど魔法少女になるってことは美樹さんと同じ目に遭う危険を孕んでいるの……、私はあなたまで失うなんて絶対に嫌……」
もう失いたくない。
大切な人がこれ以上離れて行くなんて考えたくなかった。
「……やっぱり。そう言われるかなって思っていました。でもわたしが魔法少女になりたいのは、さやかちゃんのためだけじゃないんです。
……わたしはマミさんと一緒に戦いたい。…魔法少女になったら辛くて苦しいことばかりだってことは二人を見てたから分かります。だけどマミさんはそんなものをずっと一人で抱え込んでいたんですよね」
まどか達と出会うずっと前からマミは戦っていた。一人で。
朝起きて、「おはよう」と言っても返って来る返事はなくて、「ただいま」と言っても「お帰りなさい」はない。
「わたしがもしマミさんの立場だったら…きっと耐えられないと思うんです。一人で寂しくてもきっと誰にも言えなくて……でも、もうマミさんは一人ぼっちなんかじゃないです。…わたしがマミさんの家族になることはできなけど……マミさんの側にいることはできるから」
まどかはテーブルから身を乗り出し、マミの手を握った。
「……、本当にこれから私と一緒に戦ってくれるの?………、側にいてくれるの?」
マミはまどかの手を両手で強く握った。
目からは滝のように涙が流れ続けた。
「はい、わたしなんかで良かったら」
まどかはその夜、キュゥべえと契約した。
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えっ?