愛梨「765プロ新世代です!」 (121)
アイマスの映画を見て感極まり、勢いで書きはじめました。
グリマスはやっていませんしこれからもやるつもりはないことを断っておきます。
モバマスのメンバーが中心となり、765プロキャラとの姻戚関係を勝手に作っていますがそれでもよければ読んでいってください。
アラフォーな765プロの人々を見たくない方はそっとじ推奨。
若干のクロスオーバー要素あり。まったりやるよ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391872641
アイドル、それは全ての女の子の憧れ。
しかしその道は険しく、頂点に立てるのはほんの一握り。
過酷なトレーニングに耐え、人々に笑顔を与える彼女たちはトップアイドルと讃えられた。
そんなトップアイドルを支える者、プロデューサー。
彼らは表舞台に上がることは殆ど無い。
だが一部の内情を知る人間にとって、トップアイドルを育て上げたプロデューサーのことはアイドルたちよりも気高いものであった。
彼らはトッププロデューサーのことを、アイドルマスターと呼んだという。
序章 十時愛梨
『いちっばん大好きな、私になり~た~い~♪
はい、思い出のナンバーベスト10、第3位は765プロオールスターズで「GO MY WAY!!」でした! いや~しかしこの頃はアイドルの勢いが凄かったよね――』
「はぁー、アタシもこんな風に歌ってみたいなぁ」
盛大にため息をつく。まだ荷解きも終わっていない部屋の中、テレビだけはまっさきにセッティングを済ませた。
というのもこの番組、懐かしヒットソングショーを、もっと言うと765プロの映像を見たかったからである。
「お母さん、キラキラしてた。楽しそうだったな」
私の母、十時春香はその昔トップアイドルであった。
若干13名のアイドルで構成された事務所、765プロダクションに所属し、飛ぶ鳥を落とす勢いであったという。
この765プロのすごいところはその13人全員がトップと呼ばれるだけの実力と人気を備えていたところで、たった13名しか所属タレントがいないにもかかわらず業界でもトップクラスの収益をあげていたという。一時は。
『それぞれのす~きな、ことをしんじて~いれば~♪――』
テレビでは2位の曲が流れている。お母さんが活躍していた最後の頃に台頭してきたスクールアイドル、μ’sの代表曲『僕らは今のなかで』。
その頃765プロは社長の杜撰な金銭管理や所属アイドルとプロデューサーのスキャンダル、所属アイドルの裏方への転向など様々なネタをお茶の間とゴシップ誌に提供しまくっており、既存のファンのかなりの人数がμ’sを始めとした新しいアイドルたちに移っていってしまったという。
765プロも新曲のリリースやアリーナライブ、新世代アイドルの起用などテコ入れを試みたものの数年後にはあえなく倒産。
所属アイドルたちは私の母のように引退して「普通の女の子」に戻った者もいれば、独立して歌手活動を続けた者、他の事務所に移籍した者、海外でスターダムを駆け上った者、消息がよくわからない者と様々な道をたどったようだ。
「さて、とりあえずつかれたからお風呂お風呂っと、下着はどのダンボールだったかなあ」
引っ越しの作業の大半は業者の人がやってくれたが、荷解きだけは自分で行わなければならない(当たり前か)。
テレビの他に食器や勉強道具は取り出したのだが、服はまだ収納もないのでとりあえずダンボールのまま適宜取り出すということで脳内会議の決着は付いている。
さて、シャワーシーンをご期待の諸兄には申し訳ないが自分語りを続けさせてもらう。
ここまでの話は母から聞いたのではなく自分で調べたことだ。なぜだか母は過去のことを話したがらないのでネットの海に日々潜ってちまちまと情報を集めたのだ。
しかし動画情報のほとんどは権利者削除されており、母の動いている姿を見るにはこうしたテレビ番組に頼る他なかったりする。
『それでは今日もお楽しみいただけたでしょうか?ではまた来週もお会いしましょう!』
番組が終わる。少しの間だったが母の活躍を見れたので満足だ。
と、お風呂用品を揃えていた私の目に協力企業の中で気になる名前が飛び込んできた。
961プロダクション
母の大ファンだったという父から聞いたことのある名前。765プロのライバルで時には汚い手も使って765プロの邪魔をしていた事務所、らしい。
しかし961プロのアイドルは今回出ていなかったはずだ。これはどういうことか。
「ま、考えても仕方ないし、汗を流すかー」
ついひとりごとが多くなってしまう。一人暮らしというのはこういうことなのだろうか。まだ1日目も終わっていないのだがそんなことをふと思うのであった。
第一章 黒川千秋
環境が変わると時間がたつのが早い、というのは事実であった。
荷物を解き、クローゼットや本棚などの家具をディスカウントの量販店やリサイクルショップで揃え、近所の買い物スポットをチェック、そんなことをしていたら1週間が経過していた。
私は元来のんびり屋であるがここまで時間の流れを早く感じたことはなかった。母がわたしを送り出した日付はとても適切であったと言えよう。
というのも本日私は大学へ入学するのである。
入学までに何とか生活基盤を整えることができたが、もう少し実家でもたもたしていたら正直間に合っていなかったと思われる。
「いってきまーす」
無人の部屋に声をかけ、鍵をかける。いよいよ門出の日、さすがに高揚する。
なお、両親は仕事の関係で来られないそうだが、母の親友とそのお嬢さんがかわりに撮影などしてくれるらしい。
式典の後落ち合って食事をする予定になっている。とても楽しみである。なぜなら、いや、今は言うまい。
「本学の学生としての誇りを持って――」
学長先生の祝辞が続いている。さすがに全国的にも有名な私立大学だけあってスピーチ内容はなかなかである。しかし、それとは全く関係ない問題が私には発生していた。
「あつい」
思わず声が出てしまい、隣の女の子は不安そうな顔で一瞥してくる。
そんなことはどうでもいいくらい暑い。完全に服装のチョイスを誤った。
スーツは仕方ないとしても中に薄手のベストを着る必要は全くもってなかった。
雪国育ちの私は汗っかきである。入試の際も手汗で解答用紙が曲がってしまったほどだ。朝少し寒かったから重ね着などしてしまったが、式典会場の人口密度は私にとっては過剰な熱量なのであった。
ハンカチで汗を拭うも焼け石に水のようなもので、早く終わるよう心のなかで祈りながら残りの時間は耐えることになった。
「ふいー、やっと終わった……」
おじさんのような声が出てしまったが、とりあえずの苦行は終わった。
都内の私大の入学式というのはキャンパスとは全く関係ないところで行うケースが多い。私が通う大学もその例にもれず、授業日やガイダンスはまた後日となる。
そのため、この後必死にアドレス集めなどをする必要はとりあえず無いのである。
「お疲れ様、愛梨ちゃん」
のろのろと歩く私に声をかけてきたのはサングラスを掛けた女性であった。
引き締まった体、スラリと伸びた脚、そして体にフィットしたパンツスーツが見事に似合っている。できる女の人、という感じ。
「もしかして、お母さんの……」
「ええ、黒川千早。あなたのお母さんとは仲良くさせてもらっているわ」
「わあ!本物の千早さん!」
この方こそが両親の代わりに来て下さった黒川、もとい旧姓如月千早さん。765プロ時代からの母の大親友であり、今も国民的歌手として精力的に活動されている。
私も会ったことがあるらしいが、幼稚園の頃の記憶など忘却の彼方である。
「ちょっとあなた、声が大きいわよ。母さん目当てに人が集まってきたらどうするの」
「こら、千秋。小さいことで目くじら立てない。あなただって昨日は愛梨ちゃんに久しぶりに会うって楽しみにしてたじゃないの」
「ちょ、母さん、それを本人の前で言う!?」
「あはは、なんかごめんなさい」
「いいのよ愛梨ちゃん。紹介が遅れちゃったけど娘の千秋。一浪したからあなたより学年は1つ上になるのかしら」
「ええそうよ、黒川千秋です。初めましてではないのだけれどあなたはきっと覚えていないと思うから、改めてよろしくね」
「あ、はい!よろしくお願いします!」
差し出された千秋さんの手は柔らかくてすべすべだった。
母親によく似たつややかな黒髪と、整った容姿。似ていないのはお胸くらいか。高校では男子にからかわれ、女友達からは揉まれたりした私といい勝負かもしれない。
それにしてもきれいな親子である。私が声を上げても上げなくても道行く人は振り返るに違いないと思った。
千早さんは夕食の時間までお仕事がはいってしまったということで、私と千秋さんの2人で行動することとなった。
とりあえずは私がかねてより行きたかった渋谷を案内してもらうことに。
私サイドの記憶はないものの千秋さんは幼いころの私を知っているとあって、すぐに打ち解けることができた。少し気難しい方かと思っていたので正直ホッとしている。
「ふおおおおお!これが、スクランブル交差点!」
「私もはじめて見た時はびっくりしたわ。地元ではこんな人波、体験したくてもできないものね」
「ええ本当に!だけどこの人口密度はちょっとクラクラ来ますねぇ」
「ふふふ、通勤ラッシュはこんなものじゃないわよ。今のうちに慣れておきなさい」
「うぅ、でもまあ電車で15分位なので。なんとか耐えられると思います……」
そんな会話をしながら渋谷の街を歩く。
千秋さんはあまり遊びそうな雰囲気のない人だったがなれた様子で私の手を引いてくれていた。
まさか最近流行りの清楚系なんちゃらなのでは!?
「クラシックのコンサートや舞台に行くとね、いろんな街に行くことになるじゃない。せっかくだから色々歩きまわらないと損かと思ってしまって」
納得である。というか大変失礼な想像をした私をグーパンチで殴りたい。
「そういえば愛梨ちゃんは765プロのあった場所って知ってるかしら?」
「え、全然知らないです!」
「そう、もし興味があったら行ってみる?」
興味があったら?無いわけがない。私は普段からは想像もつかない瞬発力を発揮して千秋さんにおじぎをするのであった。
「ここが……」
「ええ。私の母さんや、あなたのお母様が所属していたところ」
渋谷駅のほど近くにある小汚い雑居ビル。その3階にはビニールテープで765という文字が記されている。
「まだ次の入居者が見つかっていないのね。もう20年も経ってるのに、ちょっとした奇跡ね」
「なんていうか、その」
「「ボロい」」
見事にハモった。思わず笑ってしまう。
それにしても、ここから、こんなところからトップアイドルが育っていったのか。
昔の母はどんな思いでこの街を歩いたのだろう。
「少し、上ってもいいですかね」
「カラオケ屋さんは営業してるみたいだし、いいんじゃない?」
私は待ってるわ、という千秋さんを残しサビの浮いた階段を登る。なんだか大学生にもなってひどく子供っぽいことをしているような気もしたけれど、せっかくなので。
「芸能事務所、765プロダクション。本当にここなんだ……」
ノブを握り、ひねる。ガチャリ。開いた。
えっ!?
「千秋さん千秋さん!なんか開いちゃいました!」
「愛梨!?すぐ行くからそのまま待ってなさい!」
血相を変えた千秋さんが階段を駆け上がってくるのを待つわけもなく。私は好奇心に背中を押されて765プロ跡地へと侵入するのだった。
とりあえずこんなところで。
なるべくまとまった量を投下したいと考えているので更新ペースは遅めになりますけど、許してください。
こんな感じで765プロの第二世代をCGととらえた作品になっています。
では今後もよしなに。
十時愛梨(18)
http://i.imgur.com/A6wMJfA.jpg
http://i.imgur.com/UkAIw26.jpg
黒川千秋(20)
http://i.imgur.com/FsI71pL.jpg
http://i.imgur.com/BufLSLt.jpg
筆が止まらず書き続けておりました。
その割に量は少ないですがひっそりと投下します。
雑談でも感想でもスレが自分の書き込み以外で伸びているとテンション上がるのでお気軽にどうぞ。
第二章 高木裕太郎
「ごめんくださーい!」
「はいはい、どちら様ですかー?」
跡地ではなかった。人がいた。
話が違うじゃないかと思いつつもコミュ力高めな私のお口はペラペラと動き出す。
「あの、私十時愛梨と申します。昔母がこちらでお世話になったと伺いまして、一度訪ねてみたかったので、来ちゃいました!」
「十時愛梨……十時、十時、ああ、春香の娘さんか!ずいぶん大きくなったなあ」
出てきたのは肌色黒めな青年、と中年の中間くらいの男性だった。
大柄で、ハキハキとした声はよく通る。
「俺は高木裕太郎。昔ここの社長だった順一朗の孫で二代目の順二朗は大叔父にあたる。ほんの少しの期間だったけど君のお母さんをプロデュースしてたこともあるんだぜ」
まあよろしく、と手を差し出してくる裕太郎さん。先ほどの千秋さんとは違って、当たり前だが男の人って感じの手である。
「まあ、来てもらったところ悪いが今のここは見ての通りでね、俺が何とか使える状態に戻そうと頑張ってるところなんだ」
見ての通りと言われてもあなたの体が大きくて視界が結構埋まっているのだが。仕方なく首を動かしてあたりを見れば書類書類、そして書類。どうやったらこんなふうに書類を溜め込めるのか不思議なくらいの書類の山である。
「愛梨!勝手に入っちゃダメじゃない!」
千秋さんが上ってきたようだ。細いパンプスとロングスカートにしてはかなりの早さである。千早さんも筋トレ魔だったというし、相当鍛えているのだろう。
「千秋さん、こちら765の社長のお孫さんだそうですよ!」
「おー、君は千早の!面影あるなあ」
「ちょっとまって、理解が追いつかないわ」
結局裕太郎さんは同じ説明を二回繰り返すことになった。それでも不審者ではないかと訝しむ千秋さんを納得させるため、私がお母さんに電話をかけて裕太郎さんが信用できる人だということを証明してもらう必要があった。
「春香の声、久々に聞いたけど昔とぜんぜん変わってないな。懐かしくて泣いちゃいそうだよ」
あははと豪快に笑う裕太郎さん。しかし私達の疑問はまだ根本的なところで解消されていない。
彼はなぜ、倒産したはずの事務所にいるのか?
「ん?まあ話すと長くなるんだが、時間は大丈夫か?」
「問題無いです」
「大丈夫です!」
「よしわかった。まあ君らにも無関係じゃないかもしれないし、今日こうやって会えたのも何かの縁だ。話しておこう」
映画よかったよなー
765プロは私達のお母さんの引退や別の道への再出発とともになくなった。
しかし1つの会社がなくなる、というのはそうそう簡単なものではなく債務だとか権利だとか、処理しなくてはならないものは山ほどある。
債務の処理は高木社長がつつがなく執り行ったのだが、問題は権利だった。
アイドルの肖像、楽曲、エッセイや詩集などの出版物、アニメや映画などのメディアミックス作品などなど。
これらの権利を765プロはまとめて面倒見ていたわけであるが、引退する社長にそれらを管理するのは事実上不可能。
そこに手を差し伸べたのがかつてのライバルであり、今も芸能界の頂点の一角を占める961プロの黒井社長であった。
「え、961プロって卑怯な手も使ってお母さんたちを邪魔したんじゃ」
「まあ、あの人は典型的なツンデレだからなー。じいちゃんたちとライバル関係のうちはちょっかい出してたけど、ほんとうに困ってる時は助けなきゃって思ったんだろうよ」
黒井社長は765プロが保有していた権利を買い取り、それを不当に使う輩が出てこないようかなり厳しく目を光らせていたらしい。もちろん、歌手になった千早さんが持ち歌を歌ったりだとか、そういう時にはきちんと手順を踏んだ上で無償で使えるようにしていたのである。なんと健気なことか。
一方裕太郎さんはかつて高木順一朗社長が体調を崩して順二朗社長に引き継ぐまでのツナギとして、高校生ながらにプロデューサーを務めたそうだ。
その時に黒井社長に喧嘩をふっかけたこともあるそうで、就活の時期になると「高木の面倒な遺産(死んでない)の整理をする奴がいなくて困っている」と半ば拉致されるような形で961プロに入社させられたのだとか。
もちろんそんなのは黒井社長一流の建前で入社した後は馬車馬のようにこき使われ、マネジメント、営業、レッスン管理などおよそプロデューサーに必要な技能のすべてを叩きこまれ今に至る。その過程でトップに近いアイドルも何人かプロデュースしてきた。
「それで昨日、『もうお前の面倒を見てやる義理もないから高木の遺産(だから死んでない)と一緒に寂れた事務所の再興でもするがいい』って言われてね。こんなとこより立派な事務所が建てられるような額のお金と一緒に追い出されてきちゃったわけ」
「そ、それはまた……」
「壮絶ですね!あ、ってことは765プロ復活ですか!?」
「そういうことになる。君らのお母さんたちにも知らせなくちゃならないんだけど、なにぶん急な話だったからね。まあ765プロ再建は俺の夢でもあったし、やっとそれが始まると思うと充足感でいっぱいだよ」
「おおおお、憧れの765プロが、復活!」
「母さんたちの事務所が……って愛梨、もう結構いい時間よ」
「ああ、そうでした。すみません裕太郎さん、この後千早さ、千秋さんのお母さんと夕御飯の約束があるので」
「謝ることはないよ、こちらこそ呼び止めてしまって済まなかったね……ああ、そうだ!よかったら、これ」
雑然とした机の上に置かれた真新しい書類ホルダー、裕太郎さんはそこからプリントを二枚引き抜いて私と千秋さんに一枚ずつ手渡した。
「これは……」
「オーディション、ですか?」
「ああ、新しい事務所には新しいアイドルが必要だからね。君たち2人はトップアイドルの血縁者ということを差っ引いてもティンと来た。
春香や千早それにお父さんともよく話し合って、できたら応募してほしい。
審査内容は書いてあるとおりだからしっかりと準備をしてね。知り合いの娘だからって審査の手を抜くつもりはないよ」
じゃあまた、と言って裕太郎さんは私達を見送ってくれた。
千早さんとの待ち合わせは新宿駅、独特のテラスのある側に立つホテルのレストラン。
「愛梨、どうしたの?気分悪い?」
「いやぁ、アタシには新宿は早かったみたいです……ここは最上階ですか?」
「19階。だいぶ高いけれど客室がさらにこの上に15フロアくらいあると思うわ」
うへえ、目が回りそう……しまった、思わず素に戻ってアタシと言ってしまっている。まあ千秋さんとはだいぶ仲良くなれたし問題はないのであるが。
「それにしても、あなた普段はアタシっていうのね。そっちのほうが気さくな感じがしていいと思うわよ」
気づかれていた。恥ずかしいったらない。それにしても美人がうふふと笑うと本当に破壊力があるもので、私はノーマルなはずなのだが何かに目覚めそうになる。鎮まれ、我が右腕(?)。
ディナー(この表現が適切な気がしたので)は鉄板焼きのコースであった。鉄板焼きと言っても私が地元で友人たちと食べていたお好み焼き系統のものではなく、フィレやらサーロインという目も眩みそうな単語が飛び交う世界のお食事である。
母の親友とはいえ他人にごちそうになるのだから一番安いコースを頼もうと思ったのだが、私の腹の虫が空気を読まずに鳴きまくった結果お二人と同じ最上級のコースを食べることになってしまった。むしろ女性が食べられる量なのか至極不安である。
「お待たせいたしました――」
鮮やかな手さばきでシェフが前菜を作り、盛り付けていく。
目の前で料理ができていくのは圧巻である。こりゃアートだ。爆発だ。
「それで二人とも、ずいぶん仲良くなったみたいだけど、なにか話すことがあるんじゃないの?」
千早さんが悪い顔だ。大人のこういう笑みはすべてを知った上で問いかけているに決まっているのだ。まあ私のお母さんからも連絡はあっただろうし、裕太郎さんも急いでメールくらいはしたのだろう。
「母さん、はじめに断っておくけど母さんは夕食まで仕事だと言っていたから、私達は連絡をしなかったのよ」
「ええ、千秋らしい、大人な判断だわ」
「でも大人な判断が正しいとは限らない、かしら?」
「そうねえ。実の娘が春香に連絡しておいて母親の私には音沙汰なしっていうのは少し寂しいかしらね」
にやにや、なんだか嫌な感じ……あ、これは違う。この親子のコミュニケーションなのであろう。言葉遊び、ではないけれど少しとんがった言葉のやりとり。よく見れば千秋さんもずいぶんと楽しそうなお顔である。
「あ、あの!多分私のお母さんや高木裕太郎さんから連絡が行っているとは思うのですけど、私達渋谷の765プロを訪ねまして、そこでたまたま掃除をしていた裕太郎さんと会いました」
それで765プロが倒産後どういう経緯をたどったかということ、裕太郎さんが961プロから独立して765プロを再び立ち上げることなどを聞いた、ということを千秋さんと2人で楽しく語った。
その間に出てきたスープやら肉やらは本当に極上の味で、私にとっては未体験ゾーンだったためいまいち記憶に無いのが悔しいところだ。
それにしても千早さんはなんだかお母さんに雰囲気が似ている。
もちろん見た目はぜんぜん違う。うちの母は私と同じでぽわぽわ系だ。現役の頃と比べて少し髪が伸びたくらいで(あと体型もおそらく崩れていると推測されるが)大した違いは見られない。
千早さんは昔のようなロングヘアーではないが、むしろ肩口までのシャギーが入った髪型や鋭い目からは鋭利な刃物のような知性を感じる。
それでもなんだか、こうしてお話していると懐かしいような、安心できるような、そんな感じがするのだ。
「それで、裕太郎くんったらあなた達をアイドルにスカウトしたわけね」
「スカウトじゃなくて、オーディションのお誘いよ、母さん」
「ちっちっち、甘い、甘すぎるわよ千秋、あの人『ティンときた』って言ってたでしょう?」
「ええ、言ってたけど、それがどうかしたのかしら」
「ティンときた、は高木一族の伝家の宝刀なの。それを言われた段階でロックオン。あなた達は見出されちゃったのよ」
まさか実の娘が私と同じ道を歩むとは、およよ~なんてふざけている千早さん。いやちょっとまて、聞き捨てならない言葉が聞こえたような。あなた「達」?
「そうよ愛梨ちゃん。あなたもこの紙を渡されたなら、それはアイドルとしてやっていける天賦の才があるってこと。もちろんあなたは大学生活がこれから始まるわけで、両立は難しいかもしれないけれど」
それでもね、と小さくウィンク。
私の母と同い年でこの破壊力だ。全盛期はどれだけの男を食い物にしてきたのか(表現が悪いとは正直思います)。
「春香から聞いてるわ。あなたが765プロのことをすごく知りたがって大変だって。テレビに少しでも765の映像が流れるときは欠かさず見ていたそうじゃない。春香は過去のことを子供に知らせるべきじゃない、普通に育ってもらいたいって思ってた。それはとても大人な考え方」
あ、これは。そうか、千早さん、あなたって人はかっこよすぎる。
「けど、大人な考え方が正しいとは限らない?」
「そういうこと。愛梨ちゃんがアイドルになりたい、歌を歌いたい、ダンスを頑張りたい、そう思っているならこの話は受けるべきよ。春香の説得なら私も手伝うから」
だからその笑みは反則なのだ。千秋さんも大概美人だがさすがに重ねた年齢が違うからか千早さんの一挙一動から目が離せなくなってしまう、抗えない魅力がある。
「お待たせいたしました、こちら、デザートの――」
いつの間にか食事も終わりに近づいていた。
お母さん、今日初めてお会いしたあなたの親友はとっっっても素敵な人でした。
そしてそのお嬢さんとは親友になれそうな、そんな気がします!
以上です。勢いに任せて書いた結果はちゃめちゃかも……
少し補足説明入れます。
・台本形式があまり好きじゃないので、愛梨視点の地の文が入ります。この時愛梨の発言と地の文での人称や文末表現などが変わっている場合がありますが、人間頭で考えていることと言葉に出すことが完全に一致しているわけ無いじゃねーかという私の信念によるものです。
つまりこのSSの仕様です。
・高木裕太郎って誰だよ、という方も多いとは思います。化物語とのコラボ楽曲などで一躍話題になった藤真拓哉先生の漫画「アイドルマスターブレイク」の主人公を務めた高校生です。
年齢は春香千早と同い年という設定でしたので流用。なお、アイマスブレイクの設定はセカンドビジョン以前のものなので高木順一朗という名前が登場します。コラボCDを差っ引いても名作なのでぜひ読んでみてください(ダイレクトマーケティング)
・千早は17歳の段階=アイマス2終了一年後に結婚、出産。春香はその二年後に出産。現在は4月を想定していますので春香が38歳、千早が37歳。まー若い母親ですね。でも若くてきれいな方がええじゃろ!
これからも続々CGのアイドルが第二世代として登場しますが、配役は殆ど決まっていませんのでこの子が誰の娘だとハマる!とかそういう意見ありましたらぜひぜひお寄せください。
使うかはわからないけどね!
ではまた。
>>28
レス気づいてませんでした。ありがとうございます。
映画は本当に感動しました。
しかし同時に伊織たちの(ここ重要)物語が終わってしまい、輝きの向こう側=次世代のアイマスへとつながっていってしまうのだなという一抹の寂しさも覚えました。
私はアーケード終盤からのPでモバマスはサービス開始日からプレイしていますが、ミリマスに割く時間が捻出できなかったのでミリマスはやっていないのですね。
だから次世代のアイドルがモバマスでなくミリマスから選ばれるのだと思った時、なんだかやるせなくなったのです。
それがこのSSを書きだした最大の理由です。ミリマスPのかたにはなんだか申し訳ない限りですが、そこんとこはよろしくお願いします。
飯食って風呂入ったら少し更新します
第三章 関裕美
黒川母子との夕食会から数週間後、私はオーディション会場へ来ていた。
さすがにあの雑居ビルではなく、区民会館(ビル仕立ての公民館のようなものだ)のワンフロアを貸しきって行う。とはいえワンフロアが3部屋なのでお察しというかなんというか。
裕太郎さんは黒井社長からお金を十分もらったと言っていたが、やはり無駄遣いできない程度にはカツカツなのであろう。
そうそう、私の両親の件であるが思いの外あっさりと決着が着いた。
こういうのは直接顔を合わせて話した方がいいだろうということで、上京して間もない私は直近の土曜日にチケットを握らされ秋田の実家へ即Uターンと相成った。(それにつけても千早さんには感謝感謝である。)
事前に千早さんが話を通してくれたのかは分からないが、元765プロのファンである父は全面的に賛成の意を示し、母もその勢いに押されたのか特に反対するということはなかった。条件としては留年しないことだそうで。それと
「誰のために自分は歌を歌うのか、踊りを踊るのか、それをしっかり考えるんだよ」
となんだか含蓄のある言葉を頂いた。
特筆すべき事として、父のコレクションである765プロのCDを宅配便で送ってもらえることになった。これはありがたい。
また、母のクッキーと肉じゃがを食べられたのは一人暮らしの学生にとって大きな収穫であったことは言うまでもない。
さて、オーディションである。
審査項目は簡単な質疑応答、課題曲の歌唱、1分間の自由アピール、とある。
課題曲は「ready!!」。
765プロを代表する楽曲であり、ソロ曲というよりは全体合唱曲というイメージが強い。
ウィットとライムに富んだ歌詞が王道のポップチューンに乗せて流れてくる、聴いていて元気の出る曲だ。
一応聴きこみ、歌い込みともにそれなりにはしてきた(カラオケボックスとポータブルオーディオだが)。しかしながら、どうにも私は早い曲だと音程がうまく取れないので不安で仕方がない。
「よし、行こう」
そんな迷いは放っておいて、私は会場へと足を踏み入れた。
ホワイトボードに張り紙がしてある。なんだか受験を思い出す。
3階の1番大きな部屋が審査室、あとの2つを控室として使用するようだ。
私のエントリーナンバーは33番。ゾロ目とはなかなか幸先が良い。
25番までが控室1なので、私は控室2ということになる。千秋さんは来ているのだろうか?知り合いがいなくても別に平気だが、いたほうが心強いには違いない。
「こんにちは~」
無機質な扉を開けると会議でもするかのように(本来は会議室である)長机が真四角に並べられており、その周りにはパイプ椅子。
「――にちは」
結構早めに着いたつもりだったが先客が一人いた。声は小さかったが多分挨拶を返してくれたのだろう。
「隣、いいかな?」
少しの間の後コクリ、と肯定のジェスチャー。小動物系、というのだろうか。アイドルに応募するだけありかなり可愛らしい子だ。
ウェーブのかかった髪は良く手入れされていることが伺えるし、吊り気味の目とおでこを大胆に出したスタイルは絶妙にマッチしている。
熱心に読んでいる雑誌はずいぶんヨレヨレで、日付もちょっと、いや、かなり古い。
というかこれって
「765プロのインタビューかぁ!ずいぶん古いもの持ってるんだね」
「え、あ、その、はい。私の宝物というか、お守りみたいなものなんです」
見ますか?と私の方へ雑誌を少し傾けてくれる。
私としても母の、いやトップアイドルのインタビューというのは大変興味があるので見せていただくことにした。
とはいえ、オーディションの会場で実は母がプロダクションの元アイドルで、なんて言おうものならいい思いはされないだろうし、ヘタしたらいちゃもんを付けられる可能性もあるわけで。「天海春香」の文字が出てくるたびにお母さんと言いたくなってしまうのをこらえる必要はあった。
「それでこれが私の母の、若い頃です」
「ふーん、水瀬伊織さん……へ?」
「はい、伊織は私の母です。あ、えっと私の記憶違いじゃなかったら、十時さん、ですよね?」
私の気遣いは何だったのであろうか。私だったからいいものの一般の候補者が相手でもこの子はカミングアウトしてしまうのか。気弱そうなのに存外豪胆な娘であるな、などと考えていたが、どうやらきちんとした理由があったようである。
「うん、そうだけど、どこかで私達会ったっけ?」
「会ったのは今日が初めて、です」
曰く年賀状が毎年届いていたと。そういえばうちは家族写真を年賀状にしているし、一人一人デザインを変えるということもしていない。なるほど人の顔を覚えてしまうには十分な理由である。まあ、私だったら年賀状の、しかも母親にきたもののその家族の顔を覚えていられそうにないが。
「そっかぁ、じゃあ改めて、十時愛梨です。母がお世話になってます」
「こちらこそ、です。関裕美といいます」
よろしくお願いします、とぺこり。
そうそう、これが普通。最近握手を求められることが多かったが、ここは日本なのだ。こっちのほうがしっくり来る。
裕美ちゃんと色々話していたら他の受験生(表現が思いつかなかった)も続々と入ってきたので、私達は会話をやめて集中を高めることにした。
裕美ちゃんは母親のインタビューを読んで心を落ち着けるようだ。周囲を見渡すとイヤホンを耳に突っ込んで目を閉じている人や荷物を置くなり控室を出て行った人、鏡でメイクのチェックをする人と様々だ。
暇つぶしなんて漫画(妙に描写の卑猥な料理漫画、今月発売の最新刊)くらいしか持っていないので読むことにした。カバンから取り出すと何人かから刺すような目線を頂いたが、気にしてもしょうがない。
……まあ、ブックカバーくらいかけてもらうべきだったかとは思う。
こんにちは
明け方からひどい雨漏り(雪解け)に襲われまして、その復旧やら何やらで筆が遅れてしまいました。
夕方は厳しいかもですが、日付が変わるまでには第四章を投下する予定です。
では、今しばらく待ち下さい。
とても面白そうなSS発見。関ちゃんが伊織の娘なのは不意討ちでしたわ。どういう経緯だろう
デコ……(小声)
第四章 双海真美
「ふぅ、今日はここまでにしとくか」
だいぶ事務所は片付いた。首を回すとゴキリゴキリと音が鳴る。
俺もだいぶ年をとった。もうあれから22年も経っている。時の流れは早く、残酷だ。
しかし、時が流れて悪いことばかりではない。俺自身経験を積んで物事をいろいろな面から捉えられるようになった自信はあるし
「あいつらの娘たちが、アイドルになるんだ」
かつて、短い期間ではあったがともに夢を追いかけた仲間たち。彼女たちの夢は不本意な形で終わってしまったが、それを次の世代が受け継ぐ。俺好みの素晴らしい展開じゃないか。
「って、まだあの子達がアイドルになると決まったわけじゃないか」
社長室のPCを立ち上げ、メールで各所に連絡。電話や実踏が必要な営業先はリストアップ。
資金だけはそれなりにあるが、一国一城の主はすることがとにかく多い。
アイドルが所属したものの仕事が無い、なんて事になっては給料を払うのもままならなくなるため現段階から先取りで仕事を入れておく。
前座の仕事や地方巡業、老人ホームの慰問など、あまり大きな仕事ではないがきっちりとファンを作っていける、そんな観点で最初のうちは進めていく予定だ。
「大体の目処はついた。あとはオーディションとスタッフだな」
レッスンなどをたくさん入れていくことを考えるとオーディションに金はかけられない。
場所は公民館を借りるとして、審査員は身内と言えるレベルの知り合いで固めるのがベターだろう。「相応の見返り」を用意すればただで引き受けてくれそうな奴。
「一人思い浮かぶが、あいつに借りを作るのはなんだか嫌なんだよな」
オールバックの童顔が頭に浮かぶ。奴の外見は20の頃から変わっておらず、とても俺と同い年とは思えない。
また、事務方が社長一人でプロダクションを回すなんてのはどだい無理な話だ。
最低でもプロデューサーを一人と事務員を一人、それも信頼できる人物で。
「今くすぶってそうな奴といえば、双子の片割れか」
作業を終えた俺は施錠と消灯を確認し、事務所を出る。あたりはすっかり暗く、繁華街の明かりが目に痛い。
明日昼飯でもどうだ、などとメールをポチポチ打ちながら俺は一人家路についた。
翌日、都内某大学の学生食堂に俺は来ていた。
ちょうど昼休みの時間なので2席確保するのもなかなか大変だ。待ち人が来るまでの間スマホを片手に軽いタスクをこなす。
「高木さんお久しぶり。わざわざこちらまで来て頂いて、悪いわね」
「いやいや、こちらこそ急に誘ったんだ。予定を合わせてくれただけでも感謝してるよ。
学食で昼飯ってのも、学生気分に戻れて悪くないもんだな」
現れたのは黒縁メガネをかけた妙齢の女性。セーターの上に白衣、化粧っ気は全くないが目鼻立ちは整っておりさわやかな美しさを放つ。大きく、よく動く目は抑えきれない知的好奇心でいっぱいのようだった。
「ここは味もなかなかよ。とりあえず食券を買いに行きましょう」
「そうだな、でさー真美」
「どうしたの?」
「いや、昔と比べてずいぶん大人なしゃべり方をするようになったなあと。兄ちゃんって呼んでくれても構わないんだぜ」
「ば、馬鹿じゃないの!ほんと、やめてよねそ→ゆ→の!……はっ」
「はっはっは、昔のよしみだ、話し方なんてどうでもいいが、楽にしてくれ」
「わ、わかったよ。でもさすがに兄ちゃんとは言わないかんね!」
ぷくーっと膨らんだほっぺたを突きたい衝動に駆られるが抑える。セクハラとか言われるのも嫌だしな……こいつが言うとも思えないけど。
俺は久しぶりの給食カレー。真美は鯖味噌定食(ライス小)とサラダの小鉢。
男子学生用にメニューが調整されているので大体はSサイズとか小で十分らしい。
昔はもっと脂っこいもの食ってたじゃん、と言うとさすがにカロリーが気になる年齢なの、と返事が返ってきた。
「それで、裕太郎くんがわざわざ来るなんて、どんな大事な用事なのかな―ん?」
「ああ、気を悪くしないで聞いてもらいたいんだが、お前が今どんな状況かってのは少し調べさせてもらった。
某大学院をドクターコースで卒業したもののポストがなく、元いた研究室の助教をしながら中学の非常勤講師のバイトで食いつないでいる、合ってるか?」
「うう、ずいぶんとストレートだね。でもまあ、合ってるよ」
リケジョの末路ってやつですなー、などと笑ってはいるが、明らかに作り笑いだ。
お前もそんな顔をするような、大人になったんだな。
「で、俺はそんな双海博士をヘッドハンティングしに来たんだ。
単刀直入に言う。俺の下でプロデューサーとして働いてくれ!」
誠意を込めて頭を下げる。一つの人生を全く違う方向へ動かしてしまおうとしているという自覚はある。
「裕太郎くん、顔を上げてよ。周りみんな見てるから!」
「あ、ああすまん」
何かしらアレ、双海センセのカレシ?ヤダ喧嘩?などなどうわさ話が耳に入ってくる。
真美すまん、これは恥ずかしい。
「ごほん、それで、プロデューサーってアイドルの? 確か裕太郎くん、961プロで働いてるんじゃなかった?」
「すまん、そこから説明すっぽかしてたな」
だいぶ気がはやっていたみたいだ、と言い訳して中年説明中。
真美は大きな目をくりくりさせて、ふむふむほうほうと俺の話をじっと聞いてくれた。
職業柄外見の水準が高めな女性と話すことは多いが、元トップアイドルというのは、こんな歳になった俺でも少しドキドキしてしまうような魅力を持っているのだと再認識。
久々に、顔面を直視し続けられないという童貞のような状況に陥ってしまった(名誉のために言っておくが俺だって女性と付き合ったことくらいある。念のため)。
「へー、相変わらず黒井社長ってばツンデレだね。でも765プロ再建とはねー」
「もともとじいちゃんの会社を継ぐのが夢だったからな。俺が社会人になる頃にはもう潰れちゃってたけどさ」
「でも裕太郎くんはその夢をあきらめないで961プロでのいじめに耐え抜いてきたわけじゃん。ソレってやっぱすごいと思う」
確かに961プロではしごかれたけど別にいじめってわけじゃ……ない、よな? 若干私怨入ってたか?
「まあ今日結論を出さなくてもいいから考えてみてくれ。できるだけ早いほうが嬉しいけどな」
「わかった……いや、やっぱやらせてもらう」
予想外の返事だった。真美は聡明な女性だ、ただの思いつきで言っているのではないとわかる。
「一応、理由を聞かせてもらおうか」
「うん、実は真美ね――」
大学の研究者のポスト、特に助教というのは本来若手から若手へと受け継がれていくもの。真美はそこに長くとどまりすぎたらしい。面と向かって言われることは無いが学科のお偉いさん達からはやめるように圧力をかけられているそうだ。
「ま、学生からの授業評価が高いから表立ってやめさせる訳にはいかないっぽいけどね」
にしし、と自嘲気味な笑い。
「研究の方もさ、博士号とった段階で一応のケリはついてるし。正直悔いはないんだ。
亜美と比べて勝ってるところって勉強しかなかったから、しがみついていたかっただけなのかもしんない」
さて、とおもむろに立ち上がる。時計を見るとずいぶん話し込んでしまっていたようだ。
「じゃー早速、真美は大学やめる手続きとか色々するからさ、ちゃんとお給料の出る居場所を用意してよね」
「もちろんだ。ちゃんと給料は出るぞ」
「オーケー。それとね」
真美は食器を下げるとこういった。
「三十女の人生を変えるんだから、きちんと責任取ってよね。『兄ちゃん』!」
ニカッと笑うと手を振りながら去って行ってしまう。
その笑顔はさっきまでの作り笑いとは違って、とても魅力的だった。
……てか、責任って、変な意味じゃないよな。うん、経営は頑張らせていただきます。
真美と別れた俺は古巣(と言っても先月まで在籍していた)961プロダクションに来ていた。
アポ無しでも顔パスできるとは思うが、一応面会の話はつけてある。
「おっすー、裕太郎くん!」
「おせーぞ翔太。20秒遅刻だ」
「君の時計って1分ほど進んでた気がするけどなー」
「ふふっ、違いない」
目的の人物は御手洗翔太。元アイドルグループJUPITERのメンバーで今は961プロのチーフプロデューサーを務めている。俺とは同期で、ともにしのぎを削った仲だ。
「で、独立してライバルになる裕太郎くんが何の御用?」
「なに、簡単な話でな。合同オーディションをやらないかというお誘いだ」
「ふーん、その話、961(ボク)側にメリットは?」
さすが翔太、話が早い。余計なことを説明しないでいいのは色々と助かる。
「961のスカウト部門でトップだった俺が書類の段階で厳選した候補生を見れること、だな。
ついでに言うと街で見かけてティンときた子には直接オーディションの誘いをかけてる」
無論、直接口説いた子をみすみす譲るつもりはないけどな、と言外のプレッシャーを掛ける。十時愛梨に黒川千秋、その他にも何人か声をかけたがこの二人は絶対に獲得したい。
「そっちに有利な条件色々つけるのは目に見えてるけど……ま、裕太郎くんの眼力は認めざるをえないし、いいよ。その話乗った。君が選んだ子ならおこぼれでも一流の原石だろうからね」
「助かるよ」
「じゃあ早速広告の手配をするから、詳しい情報教えて」
「ああ、ここに全部入ってる」
真っ白なCD-Rを渡す。こっちの伝えたいことがコンマゼロで伝わるのは付き合いの長さってやつなんだろう。翔太から俺もまた然り。
「確かに受け取ったよ。時間あったら新人のレッスンでも見てく?」
「いや、まだ行くところがあるんでな。今日は遠慮しとく」
「了解。じゃ、またねー」
翔太に見送られ、961の本社を後にする。次が本日最後のアポイントメント、だが正直一番気楽な相手だ。
一旦中断です。もう少しで第四章書き終わるのです。
真美は不憫。
彼女は裕太郎の前でだけ一人称が「真美」になります。四捨五入すると30歳。かわいい。
20歳以上のアイドルの扱いですが、姻戚関係はなくとも登場することはあります。とりあえず楓さんが登場予定です。
>>71
自分は生物学をかじっているので、遺伝というのは基本的に身体的特徴に現れると考えています。
親子で性格が似るというのは育った環境によって人格が形成されるからで、親と正反対の性格になる子供も結構いると思います。
なので>>72さんの言うようにデコ、つり目の一致から伊織の娘ということになりました。ちなみにレイナサマと最後まで悩んだ配役です。
>>87
現行の春香、千早、伊織に加えて貴音、美希、小鳥まで決定しました。
残っているのは
亜美
響
やよい
真
雪歩
律子
です。意見ありましたらお寄せください。参考にさせていただきます。
ではもう少し書いて投下しますのでお待ちください。
村松さくら(15)
http://i.imgur.com/f3zbZeQ.jpg
大石泉(15)
http://i.imgur.com/nooeIaT.jpg
土屋亜子(15)
http://i.imgur.com/dQMjTuo.jpg
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