光彦「ええ、ありがとうございます博士」
阿笠「いいんじゃ。新一には散々ひどい目にあわされてきたんじゃろう。この機会に復讐してこい。なあスイッチ」
光彦「その前に、スイッチ君と話させてください。これで、最後になるかもしれませんから…」
阿笠「ああ。行って来い、スイッチ」
光彦「今日はどこ行きましょうか、スイッチ君」
スイッチは答えない。それでも僕には、なんとなく彼が行くべき方向を示してくれているように思えた。
「ええ、あそこへ行きましょう」
僕は博士のスイッチで何度も、何度も殺された。
「光彦君を犯人に仕立て上げるスイッチ」
「光彦君と居場所を入れ替えるスイッチ」
「光彦の脳みそを少しずつ削るスイッチ」・・・あげるときりがない。
もう何度殺されたかわからない頃、僕は聞いた、ほかでもない、スイッチの声を。
スイッチは僕が殺された数だけ、その機能を改造されていた。ゆえに、僕を殺したスイッチはみんな同じだった。
スイッチは悲しんでいた。何度改造されても、自分が人を、たった一人の人を殺すためにしか使われないことを悲しんでいた。
スイッチに罪はないんだ。僕と同じ回数だけ苦しんでいるんだ。僕はスイッチと心を通わせるようになった。
それは友達のいない僕の感じた初めての「友情」だったのかもしれない。
スイッチの声が聞こえるようになったことを博士に話すと、博士は憐れむような視線で僕を見た。
残酷だったはずの博士の、あんな温かい目を見るのは初めてだった。
「もういやです。僕もスイッチもこんな仕打ちは嫌なんです。コナン君を殺したいです。でも、スイッチを改造するのはもうやめてください」
そう訴えると博士は僕を改造して、「新一君を殺す光彦」を作ってくれた。
「いろいろなことがありましたね」
僕とスイッチはガードレールの上から海を見つめていた。
僕がコナン君を殺せば警察に捕まる。その覚悟はありましたが、やっぱりスイッチと別れるのは惜しいです。
独房の中にもスイッチは持ち込めるのでしょうか…?
「もう終わるんですよ…スイッチが改造されることも…僕が殺されることも」
「それはどうかな?」
その声がして、気が付くと僕の隣にスイッチはいない。
振り向くと、コナン君が見慣れた笑いをしながらスイッチを片手に立っていた。
「俺は今からこのスイッチを押す。そしたらお前は死ぬんだ」
そんな…どうしてスイッチ君。信じていたのに。
コナン君の手にあるのが、嫌なんじゃなかったんですか?
ああ、そうか。僕は…本当に馬鹿ですね。
スイッチは機械。機械に感情はない。
友達のいない僕は、スイッチと語り合うという妄想で自分を慰めていただけなんです。
「じゃあな光彦…」
コナン君がスイッチを押す瞬間、僕は確かに聞いたんです。
『光彦、飛べ!』
(えっ・・・スイッチ?)
『そのガードレールを乗り越えて飛べ!早く!』
(スイッチ…)
僕はすぐ理解しました。やっぱりスイッチは僕の友達だった。
スイッチは僕を殺したくないんだ。
それくらいなら…スイッチの手を汚させるくらいなら、僕のほうから死ぬ。
僕はガードレールを乗り越え、海へと飛びました。
ポチッ
「――えっ」
うわああああああああああ!!!
次の瞬間、僕はちゃんと地面に立っていました。それもスイッチを持って。
響く悲鳴。それは、コナン君のものでした。
「コナン君!」
コナン君は、音を立てて海へと落ちました。
『僕は、「光彦君と居場所を入れ替えるスイッチ」』
「スイッチ君…」
そうか、スイッチ君はこれを狙って…。
あ、コナン君が海から上がりました。すごく苦しそうです。このままだと死ぬのも時間の問題でしょう。
『さあ光彦、あいつにとどめを刺すんだ』
「え、でも・・・」
『行け!君は、「新一君を殺す光彦」だろう?』
「・・・はい!」
スイッチの友情にこたえるため、僕はコナン君のもとへ向かいました。
ピーポーピーポー
「円谷光彦、殺人容疑で逮捕する」
逮捕されたにもかかわらず、僕の心はさわやかでした。
スイッチはしゃべらなくなりました。それでも僕は満足でした。
(よかったですねスイッチ。君は、解放されたんです)
「ひひ、『光彦君をそそのかして殺人を犯させるスイッチ』、大成功じゃわい」
終わり
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません