貴音「月下の帰り道」 (12)
貴音BirthdaySS
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ハッと目が覚めた。
机上の時計を確認する。0時12分。
「しまった─────」
慌てて充電スタンドに置いてあった携帯に手を伸ばす。その刹那、着信を知らせる電子音が鳴った。
「……………」
ディスプレイには予想通りの名前が表示されていた。
僅かに残っていた缶コーヒーで口を湿らせ、シワになったシャツを申し訳程度に伸ばし、居住まいを正してから、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
つい、恐る恐るといった感じの声音になってしまった。
回線の向こうから、透き通るような綺麗な声が聞こえてきた。
「四条と申します。この番号は……いえ、そちらは────様で間違いありませんね?」
四条貴音、俺がプロデュースを担当している765プロのアイドルだ。
「ああ、大丈夫だ。合ってるよ」
このやりとりも数回前から両手では数えられなくなった。
というのに、いまだこの切り出し方なのは、端から見ると妙なのかもしれないが、相手は電子機器に疎い貴音だし、携帯を手に入れたのだって割と最近なので仕方がない。
貴音には自分のペースでゆっくり馴れていってもらいたいと思っている。
確かこの前も律子が使い方を教えていたはずだけど……。
「よかった。先日、律子嬢にお気に入り登録というものを教えていただき、あなた様に電話をかけるのがだいぶわかりやすくなりました」
「そ、そうか」
自分の番号をお気に入りに登録したと、嬉々として報告されるのはどこか気恥ずかしい。
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