代行やで
鷺森灼ちゃんとボーリングしたい
結婚式。
一生に一度(まあ何度かする人もいるみたいだけど)の、大きなイベント。
純白の衣装に身を包み、バージンロードを歩く。
そして神の前で愛することを近い、二人は幸せなキスをする。
でもそれで終わりじゃない。
これからたくさん続いていくんだ。
集まってくれた友人達に笑顔で報告をして、
ブーケトスで大騒ぎをして、
披露宴で笑い、泣き、二人の思い出と、出会う前の相手の人生に思いを馳せる。
これは、今現在流れている大学時代の馴れ初めフィルムを見ながら、
泣きそうな顔で思い出しているなんてこと無い日常の記憶である。
待ってたよ支援
塞「なるほどね」
塞「私が店を吐瀉物から守るため漫ちゃんの口を塞いでお気にの洋服ゲロまみれにしてる間に……」
塞「二人は初体験を済ませたんだ」 フーン
胡桃「ちょ、いやらしい言い方しない!」
胡桃「はじめてカラオケってのに行っただけだから!!」
塞「誰かの家で徹麻じゃないのって、珍しいわよね」
胡桃「雀荘入ろうかって話にもなったけど、大阪の雀荘はヤバイお兄さんとか居そうだから」
胡桃「カラオケとやらをやってみようってなって!」
塞「都会のカラオケはやっぱ違う?」
胡桃「うん、部屋がいっぱいあった」
塞「うーん、やっぱりスナックのアレとは違うんだ……」
胡桃「すごいよ、都会のカラオケ」
塞「で、何歌ったの?」
胡桃「えっと、それなりに色々歌ったよ」
塞「……何時間くらい?」
胡桃「……」
塞「……」
胡桃「2時間くらいで飽きてずっと麻雀の話してた……」
塞「だと思った」 クス
>塞「私が店を吐瀉物から守るため漫ちゃんの口を塞いで
ナチュラルにキスで塞いでるのかと思ってしまった
塞「そういえばさ、今年年末どーする?」
胡桃「あー……」
塞「確か、皆で伊勢神宮に二年参りしに行こうとか言ってなかった?」
胡桃「流れる気がするんだよなー」
塞「まぁねえ」
塞「ちゃちゃのんはお正月番組にモブとはいえ出るみたいだし」
胡桃「セーラは千里の時の友達と予定ダブったって話ー」
塞「漫ちゃんと哩はそれどこじゃないだろうしねえ」
胡桃「さすがにそこまで余裕見せてたら如何に二浪とはいえマズイと思うもん」
塞「確かに、二浪して経験豊富とはいえ、油断は出来ないよね……」
塞「あ、すいませんコーヒーおかわり」
哩「お前らそういう話は自宅でやったらどないや。近所やろ」
胡桃「だーってコーヒー飲みたいもん」
塞「前汚しちゃったお詫びにお金落とそうかなと」
哩「ぐぎぎ」
胡桃「……」
胡桃「まあ、でも、確か、妹さんが家でパーティするんだもんね」
胡桃「今年くらい、付き合ってあげようかなあ」
塞「あれ、どういう風の吹き回し?」
胡桃「……べーつに」
胡桃「ただ、どうせ成人式で帰るんだし、帰省時期をずらそうかなって」
塞「……ふーん」
前書きという名の警告貼るのすっかり忘れてた。
このスレは
胡桃「そーゆーのいーから愛の告白!」洋榎「あ……好きです……」
の後編部分に当たります。
続き物が苦手な方はご注意下さい。
一部キャラが色々アレなことになってますのでそういうのが苦手な方もご注意下さい。
前編 → 胡桃「そーゆーのいーから愛の告白!」洋榎「あ……好きです……」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1354025977/)
洋榎「と、いうわけで!」
洋榎「伊勢神宮ーーー!!」
胡桃「人多ッ!!」
塞「動けないッ!?」
洋榎「……」
胡桃「……」
塞「帰る?」
胡桃「エビだけ食べてこう」
洋榎「諦め早いな!」
洋榎「まあもうちょい待てて」
胡桃「珍しいね、いつもなら人ごみに無駄に特攻していきそうなのに」
塞「もしくはまっさきに駄々こねて帰りそう」
洋榎「お前らウチを何だと」
胡桃「見た目はオトナ頭脳はコドモ」
塞「理性というアプリをうっかりアンインストール」
胡桃「超えちゃいけないラインの上で反復横跳び」
塞「見ている分には楽しいけど傍に置いておきたくないタイプ」
洋榎「ウチだって泣く時は泣くで?」
洋榎「まあ、とにかく、もう来るから」
ちゃちゃのん「はい、どーん!」 セナカドーン
胡桃「うわ、びっくりした」
塞「あ、きたんだ」
ちゃちゃのん「リアクションうっすう!」 ガーン
塞「いや、まあ、そりゃあ、ねえ」
胡桃「さんざっぱら来られたら来たいって言ってたし」
ちゃちゃのん「ちゃちゃのんこれでもテレビ出とるんじゃけえ、もっと驚いちょくれよお」
胡桃「でもそのわりにマスクもないのに全然注目されないよね」
ちゃちゃのん「……所詮量産型雨後の筍アイドルじゃけえ……」
塞「ぱっとしないの気にしてたんだ……」
洋榎「なんでも来年になったら伊勢神宮のテレビ中継に出るらしいで」
胡桃「ああ、それで」
ちゃちゃのん「えへへー」
ちゃちゃのん「最近あんまり会えへんかったし、久々に皆でお参りがてら楽しむけえ!」
塞「しょうがないな」 ハァ
塞「人ごみ凄いけど、ここでもうちょい楽しみますか!」
洋榎「そうこうなくっちゃ!」
胡桃「はぐれないようにね!」
洋榎「相変わらず保護者やなあ、いいんちょ」
ちゃちゃのん「見た目は一番コドモなのにのう」
胡桃「うるさいそこっ!」
洋榎「ほら、手、つないどこか」
胡桃「こ、コドモ扱いしないでよっ!」
洋榎「まあまあ」
洋榎「マジで離れられても困るしな」
胡桃「うう……」 ぎゅっ
洋榎「はっはっは」
胡桃「は、はっずかしいこれ!」
洋榎「……」
洋榎「ウチら、こうやって手ぇ繋いでたら恋人に見えたりするんやろか」
胡桃「ななっ///!?」
塞「いや、いいとこ親子じゃない?」
ちゃちゃのん「確かに、ちゃちゃのんがもう片方の手を持ったら、親子ーって感じになるのう」
塞「あ、それは拘束された宇宙人って感じになる」
胡桃「そこまで小さくないから!!!」
胡桃「……と、まあ、そんなことがあってね」
塞「結局手をつないでない私だけがはぐれるっていう……」
豊音「アハハ、なかなかエキセントリックだよー」
胡桃「エキセントリックなんて一言じゃ済まないこともいっぱいされてきたけど」
シロ「それで今年は帰省が遅かったんだ……」
豊音「いいなあ」
豊音「……胡桃は、ちゃんと、大切な友達を大学で見つけられたんだね」
胡桃「……まあ、ね」 テレテレ
胡桃「成人式、ワクワクするね」
塞「村小さいから、私達くらいだろうけどね、成人するの」
胡桃「エイちゃんは飛行機で来るんだっけ」
塞「すごよねえ」
胡桃「シロとは大間違いだね」
シロ「だる……絶対この村を出ない……」
塞「ニートめ」
胡桃「でも気持ちはわかるし、エイちゃんって凄いとおもうなあ」
胡桃「飛行機とか、しんどいからねー」
塞「さすが、沖縄の時に経験してる人がいうと重みがあるわ」
胡桃「あーあー聴こえない」
>豊音「……胡桃は、ちゃんと、大切な友達を大学で見つけられたんだね」
何か淋しい
エイスリン「皆、久しぶり!」
胡桃「ひさ~」
塞「何か日本語上手になってない?」
エイスリン「そんなことないよ」
エイスリン「はい、おみやげ」
胡桃「ひよこだーーーーー!?」
塞「時間無いからって空港で適当に選んじゃダメぇ!」
エイスリン「いやーやっぱりニュージーランドは遠いデスね」
エイスリン「ビート板で2時間かかりまシタ」
塞「近ッ!」
胡桃「エイちゃん大学時代何があったの!? そんなキャラだっけ!?」
豊音「まあ、大学は人を変えるって言うしねー」
胡桃「あー……大学デビューとか?」
胡桃(私は逆に最初は喋らないようになっちゃってたけど)
塞「あと原付で日本回ったりとか、そういう人生観変わるイベントをやれる時期でもあるしねえ」
シロ「多分、もっといっぱい変わった人がいる……」
豊音「皆どうなってるのかちょー楽しみだよー!」
胡桃「当てる自信ないなぁ」
エイスリン「Waqwaq!」
塞「そのワクワクの発音はなんかおかしい」
胡桃「エイちゃんどこに向かってるの」
申し訳ない。
突如謎の眠気に襲われたので、予定を変更して、一旦休憩をはさみます。
起きたらまた大阪に舞台を戻して進みます。
保守してくれると助かります。
おきたらこのスレでつづきやります
すまんな。再開。
洋榎「と、いうわけで、あけましておめでとーう!」 カンパーイ
セーラ「もう松の内も終わるけど、ハッピーニューイヤー!」
胡桃「もう、あんまり騒がないでよ?」
胡桃「うち結構壁ドンされるんだから!」
塞「え、そうなの?」
胡桃「塞はあんまり騒がないから大丈夫だろうけど」
胡桃「この前バカが一人で来た時二回もドンされたもん」
洋榎「はっはっは、悪かったて」
塞(いつの間にか単独で家に上げるようになったんだ……)
ちゃちゃのん「遅れてごめんじゃよー」
ちゃちゃのん「仕事が長引――――」
セーラ「」 ゲロゲロゲロゲロ
ちゃちゃのん「うっきゃー! 玄関から地獄絵図ッ!」
セーラ「ゲロが出るでー……」 ビビクン
ちゃちゃのん「ちょ、大丈夫!?」
洋榎「大丈夫大丈夫」
洋榎「セーラはサークルで吐き慣れとるし、マジのヤバいボーダーライン弁えとるから」
胡桃「床は無事でもなんでもないからね!?」
洋榎「ま、メンツも揃ったし!」
洋榎「学生らしく恋話でもするか!?」
ちゃちゃのん「うわあ、珍しい」
塞「さっきまで酒飲みながら自分たちの大学時代は色恋沙汰なさすぎるってくだまいてたのよ……」
塞「鬱陶しいなら、洋榎を"塞ぐ”けど……」
ちゃちゃのん「その手のアクエリアスは」
ちゃちゃのん「大体恋話っちゅーても、このメンバーじゃ盛り上がらんじゃろ……」
ちゃちゃのん「ヘタしたら皆恋人居ない歴=年齢じゃあ……」
胡桃「寂しいこと言わないでよ!」
洋榎「……しかし残念ながら……」 チラッ
塞「……」 チラッ
セーラ「あー吐いたらすっきりした!」
ちゃちゃのん「え」
胡桃「もう、床は自分で拭いてよね」
セーラ「はいはい」
胡桃「あと、この罰でのろけ話よろしくね」
ちゃちゃのん「ええええええええええええええええええ!?」
洋榎「千里山で、参謀っぽいメガネおったやろ」
ちゃちゃのん「うんうん」
洋榎「アレと付き合うてるらしい」
ちゃちゃのん「ええ!?」
塞「しかも高校卒業時に告白されて、ずっと続いてるんだとか」
ちゃちゃのん「うわあ」
胡桃「しかも遠距離なのに」
ちゃちゃのん「すごい!」
ちゃちゃのん「ねえねえ、なんて告白されたん!?」
ちゃちゃのん「今どのくらい会っちょるの!?」
塞「メチャクチャ食いついてる……」
胡桃「乙女だねっ」
塞「それで、その……どこまでイッたの?」
ちゃちゃのん「うわー、塞ちゃんエッチ! そこ聞くん!?」
塞「い、いいでしょ女しかいないんだから」
塞「き、きき気になるじゃない!」
ちゃちゃのん「いやでも確かに気になるのう」
セーラ「あー、ヤッたで」
ちゃちゃのん「きゃーーーー! きゃーーーー!」
塞「うわー、おっとなーー!!」
ちゃちゃのん「え、ど、どどどうやってその、したん!?」
塞「やっぱりホテルとかいくの?」
洋榎「あの食いつきっぷりが怖い……」 カタカタ
胡桃「アレがオトナになるってことなのかな……」 カタカタ
純(一流のメイドには学も必要、なんつって大学行かせてもらって2年)
純(大抵の日は騒がれてもまあ許してきたが――)
エーウッソースゴー!
エッチジャー! フジュンジャー! キャー!
純(明日は智紀と海遊館行く約束してるし、快眠を取りたい)
ウワアアアア! ソ、ソコマデ!?
エ、エ、ドンナカンジナン!?
純(このままだったら、朝まで馬鹿騒ぎだろうな)
純「悪いが、この流れ――――変えさせてもらうぜ!」
__≡≡≡_____ _二ノ , , ;;;;へ ))ノ≡≡≡≡≡≡
―――――――≡≡≡=≡≡≡=≡= ー 彡 // |ハハハハ/Y...≡≡≡≡≡
――=======_______ ノフイ-、__ _, -- トイ.......≡≡≡≡≡
――――――=================______≡≡_=≡≡=_ ...|イィッ、 ィッ> |ノ|.≡≡≡≡≡≡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄≡≡≡≡≡≡≡≡= ト| , //..≡≡≡≡≡≡
 ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ _ Nト、 ‐‐- ,イ/....≡≡≡≡≡≡
__r≡≡=、 ___, -------''丶-------__≡≡ニニア  ̄  ̄√|` ー ´| ト-、_≡≡≡≡≡≡ ドンッ!
f―--_ _ ̄ ̄ ̄ ____\==== ≡≡ ≡≡===| /∧ト- -/r 〉  ̄\_...≡≡
 ̄ ̄⊂二_/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄.ヾ-━━━━━====‐テ| レ .〈.| / ハ| ト.≡≡≡
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡===\√ ̄ ̄ ̄ ̄ ≡\| N. //. | .ハ....≡≡
゜. ――――========――≡≡≡====≡==\ |∧// / |ヽ、 ≡!
洋榎「壁ドンされてもうたな……」
塞「ちょっと騒ぎすぎちゃったか……ごめんね」
セーラ「壁ドンし返してみるかー?」
胡桃「やめて!」
ちゃちゃのん「うう、すまんのう……」
洋榎「なんもかんもバイトが悪い」
胡桃「え」
セーラ「そうやな、哩が素直に店で酒盛りさせてくれたらよかったんに」 ウンウン
塞「あのお店酒場じゃないから」
洋榎「でも頼めば開けてくれたやろ、哩は無給になるけど酒飲めるし飯食えるし」
胡桃「今何月何日かわかって言ってる?」
セーラ「何もかんも浪人が悪い」
洋榎「二浪ってやっぱクソやわ」
胡桃「酷い言い草」
塞「本人聞いたらブチ切れるわよ」
ちゃちゃのん「でも、哩ちゃん来てほしかったのう」
塞「無理でしょーさすがに」
胡桃「ていうか来たら引くかな」
ちゃちゃのん「わかっちょるよお」
ちゃちゃのん「でも恋話するなら、ねえ……」
塞「あー……」
胡桃「結局付き合ってるのかなあ、あの二人」
洋榎「あー。デビ子なぁ」
セーラ「誰?」
洋榎「ほら、いいんちょの誕生日ン時おったやん」
セーラ「ああ」
胡桃「そっか、セーラ居ない時ばっかりだっけ、姫ちゃん混ざってたの」
セーラ「知らんわー。何、哩の恋人なん?」
塞「それが分かんないのよねー」
洋榎「いや、あれは付き合っとるな」
塞「まあ、洋榎ン家行った時も手繋いでたしね」
洋榎「それになぁ。沖縄旅行で、見てもーてん」
胡桃「ああ、あの悪夢でしか無い沖縄旅行……」
洋榎「悪かったって……」
ちゃちゃのん「で、何を見たの?」
洋榎「いや、風呂場でな」
洋榎「あいつ、首元にキスマークついとってん」
塞「うわあ」
セーラ「何で見とんねん」
洋榎「いや、シャンプー取ろうと横向いたら、ちょーどあいつが髪の毛洗ろててな」
洋榎「こう、ちらっと」
塞「うわぁ」
ちゃちゃのん「えっちぃのう……」
塞「でももしかしたら虫さされかもよ」
胡桃「キスマークがどんなものか知らないけどね」
洋榎「いや、その、なんや……」
洋榎「胸にもおんなじようなのがあってん」
ちゃちゃのん「うわわわわ」
胡桃「何でそんなとこまで見てるの!」
洋榎「いや、首のキスマークから思わず目をそらしたら、胸が目に入ってきて……」
洋榎「ええなーあんくらいの乳ほしいなー思って凝視しとったらキスマークが……」
ちゃちゃのん「うわあ、ヒロちゃんはヒロちゃんでえっちじゃのう」
塞「凝視はだめでしょ」
洋榎「なんでや! 大きかったらつい見てまうやろ!」
胡桃「……おっきいほうがいいんだ……」 ムゥ
洋榎「そらな」
洋榎「絹の触ったことあるけど、アレはほんま異次元やで」
塞「触るなよ……」
洋榎(あと、なんか、変なアザもあったんやけど、関係あるんかな)
セーラ「まあ、気になるなら聞いてみればええやん」
塞「え」
洋榎「せやな! 壁ドンされた恨みつらみもいいたいしな!」
胡桃「ちょ」
洋榎「と、いうわけでお電話やー!」
洋榎「……出んなあ」
セーラ「出るまで電話や!」
洋榎「おう!」
胡桃「殺されるよ……?」
後日、デスソースのたっぷり入ったコーヒーを黙って出されたらしい。
それを飲む瞬間に、私がいなかったのが残念でならない。
誰か動画でも撮っててくれたらよかったのに!
胡桃「……」
胡桃「やっちゃったなぁ……」
胡桃「だって、安かったもん……」
胡桃「それに凄い美味しそうだったし……」
胡桃「……」
胡桃「ど、どうしよう……」
胡桃「去年は当日に安売りしてた美味しそうなの持ち寄っただけだったのに……」
胡桃「変だよねえ、こんな一個だけ手作りなんて……」
胡桃「しかも、ハート型だよ……」
胡桃「……」
胡桃「ああもう!」
胡桃「何でたかだかバレンタインでこんなに悩まないといけないの!」
胡桃「……」
胡桃「……」 ソワソワ
胡桃「……」
胡桃(おかしいなあ、去年と同じだと、そろそろ呼び出しの電話が来る頃なのに……)
胡桃「……」
胡桃「……それとなーく、他の日にみっちり入れることで、カテキョも明けてあるのに」
胡桃「……」 ソワソワ
胡桃「ま、まさか、忘れてる!?」
胡桃「いや、忘れるも何も、そもそも約束してたわけじゃないけども!」
胡桃「いやでも、あのお祭り騒ぎ大好き馬鹿が、集まろうって言わないわけが……」
胡桃「……いや、別にこれ誰にあげるって決まってないけど」
胡桃「こう、勢いで作っちゃったわけだし」
胡桃「ネタにしてもらった方がいいっていうか」
胡桃「……」 ウロウロ
胡桃「ケータイ、音ついてるよね……?」
胡桃「……」 ソワソワ
ピンポーーーン
胡桃「!」
胡桃「はーい!」
胡桃「まったく、メールもよこさずにいきなり家に来るなんて礼儀がなってないね!」
胡桃「ゴディバでも奢らせないと!」 フフ
胡桃「今あけまーす」
塞「やっほ」
胡桃「……何だ、塞か」
塞「なんだとは何よ」
胡桃「あー、いや、NHKか何かかなって」
塞「わざわざチョコ持ってきてあげたっていうのに酷い言い草」
胡桃「ごめんごめん」
塞「いやー、今年は集まらないのかねー」
胡桃「さー、どっちでもいいし知らない」
塞「まあ、気まぐれだからねえ、洋榎」
塞「私ら以外に友達出来て、そっちと遊んでるのかも」
胡桃「……」
塞「……もしかしたら、カレシが――」
胡桃「そ、そんなわけないじゃん」
胡桃「あんなのにカレシなんて、そんな……」
塞「……」
塞「まあ、どうせ、まだ寝てるとかそんなオチじゃない?」
胡桃「あー……」
塞「昼の3時くらいに起きて夜8時頃呼び出しかかると予想」
胡桃「ありそう……」
塞「と、いうわけで、先にこっちに出てきたってわけ」
塞「ただ、いつものお店でまったりしようにも……」
胡桃「ああ……何か今の哩ちゃん、怖いもんね」
塞「別に普段と変わらないんだろうけど、だからこそ怖いっていうか……」
胡桃「二浪で終わるかの瀬戸際だもんねぇ……」
塞「とりあえず、先に胡桃に渡しておくわ」
塞「……はい。ハッピーバレンタイン」
胡桃「ありがとー」
胡桃「うわ、かわいっ」
塞「くま型のチョコ、おもしろくない?」
胡桃「たしかに!」
胡桃「でもこれ、皆の前で見せた方がウケいいかも」
塞「……やっぱり?」
塞「でも、胡桃は長い付き合いだし、皆よりちょっと高いチョコを単独であげようかなーって思ってたんだけど」
胡桃「え、いいの?」
塞「うん。でも、クマはやっぱり全員で食べるとして……」
塞「これでいい?」
胡桃「うわ、高そうなラッピング!」
塞「ハート型なのが、ちょっと恥ずかしいけどね」
胡桃「ありがとー! ホントにいいの?」
胡桃「……」
胡桃「ちょっと待ってて」 トテトテ
塞「?」
胡桃「はい、これ」
胡桃「ハッピーバレンタイン!」
塞「うぇえ!?」
塞「これ、まさか、手作り!?」
塞「し、しかもハートマークって……///!」 アワアワ
胡桃「いやー、勢いで買っちゃって」 アタマポリポリ
胡桃「あげる相手も、いないし……」
胡桃「皆で食べるにしては小さいからさ」
胡桃「その、親友である塞にあげるよ!」
塞「……いいの?」
胡桃「うん」
塞「……本当にいいの?」
胡桃「……いいって」
塞「……」
塞「……本当は……」
塞「あげたい人がいたとかじゃ、ないの?」
胡桃「……」
胡桃「そんなことないって!」
胡桃「深読みしすぎ!」
塞「……そう?」
塞「なら、遠慮なくいただくわ」
胡桃「どーぞ、めしあがれ」
塞(……あげたい人がいたから作ったわけじゃない、か) モグ
塞「……ちょっとビターね」
洋榎「えー、というわけで……」
洋榎「二日酔いで潰れてたわけで……」
洋榎「もうバレンタイン終わったけど、皆チョコくれへんかなーって」
ちゃちゃのん「もう、しょうがな――」
哩「死ね」
塞「ないわよ」
セーラ「もう残っとらんでー」
胡桃「ちゃちゃちゃんも、こんな奴にあげなくていいから」
ちゃちゃのん「あ、うん」
洋榎「なんでや!」
洋榎「別に約束してたわけでもないし、ええやろ!」
塞「ま、そーだけどさー」
塞「でもバレンタイン終わったし、チョコあげなくてもいいでしょって」
洋榎「うぎぎぎぎ」
胡桃「ねえ、今、試験期間だよ」 タン
洋榎「せやなあ」 タン
セーラ「明日はないしー」 タン
絹恵「あ、それチーです」
胡桃「その分明後日まとめて試験あるんでしょ?」 タン
セーラ「なんとかなるやろー」
洋榎「余裕余裕」 タン
絹恵「あ、それポン」
洋榎「おいおい喰い断か」
セーラ「ま、麻雀特待やし、なんとかなるやろ」
洋榎「ウチは外されてもーたんがなー」 タン
胡桃「わかってるなら勉強したらいいのに」 タン
絹恵「あ、それロンです」
胡桃「うぎゃっ」
洋榎「テキスト見ながら麻雀なんてするからー」
胡桃「全く……ちゃちゃちゃんや塞は真面目に勉強してるっていうのに」 タン
洋榎「え、でもあいつ、たまにいいんちょの家来とるんやろ?」 タン
胡桃「ウチに来てもちゃんと勉強してるよ」
洋榎「うへえ、それ遊びに来る意味あるんかいな」
胡桃「一緒に御飯食べたりするし」 タン
胡桃「ていうか、妹さん引っぱり出さないとメンツ揃わないんなら、諦めたらいいのに」
絹恵「あはは……」
絹恵「まあ、私もサッカー特待やし、ちょっとくらいなら落としてもええんで……」 タン
セーラ「そう言いながらめっちゃ試験の成績ええんやろー?」
絹恵「いうても秀とかあんまないですし、可もいっぱいですよ」
洋榎「不可やなかったら凄いの部類やろ」 タン
セーラ「1回の春とか単位半分も取れへんかったしなー」
胡桃「ダメ人間二人の話は参考にしちゃだめだよ?」
セーラ「可をいっぱい刻むより――秀を一個取るほうがすきやねん!」
胡桃「卒業できないから! それだと!」
胡桃「……」 タン
洋榎「……」 タン
セーラ「……」 タン
絹恵「……」 タン
胡桃(もう3時かー) タン
洋榎「……リーチ」 チャッ
セーラ「あー……いいや、押せ押せ」 タン
セーラ「通る?」
洋榎「通る」
絹恵「私はオリるわ」 タン
胡桃(ぐだってきてるなー)
胡桃(でもついやっちゃうのが麻雀の怖いとこ……) タン
胡桃(結局途中からテキスト読んでないし……やばいなあ)
洋榎「はい一位ー」
絹恵「あかん、さすがに頭まわらんわー」
洋榎「絹は朝練ばっかやし、最近麻雀もやっとらんから、徹夜慣れしとらんもんなぁ」
胡桃「結構ミスもあったし、そろそろ寝る?」
洋榎「ウチはどっちゃでも構わんで~」
洋榎「最後ダントツで終わるんも気持ちええし」
セーラ「いやー負けっぱなしじゃ終われへんわー」
セーラ「もっかいやろうや」
洋榎「お、やるか?」
胡桃(あ、これ朝まで終わらないやつだ)
胡桃「絹ちゃん寝る?」
絹恵「んー……折角だし付き合います」
胡桃「じゃあこれでラストだよ!」
胡桃「誰が勝っても恨みっこなし!」
セーラ「うぇーい」
洋榎「うぇっほーい」 ウラゴエ
セーラ「wwwwwww」
胡桃「何そのwwwww返事wwwwwww」
絹恵「深夜に変な声出すのやめてよwwwwwww」
洋榎「wwww」
胡桃「そ、それじゃあラス半いくよっ!」
セーラ「うぇっほーい」 ウラゴエ
絹恵「ブフwwwwwwwwww」
洋榎「やめーやwwwwww騒ぐとオカンに怒られんでwwwwwwwwwwww」
胡桃「結局3局やってしまった……」
洋榎「いいんちょ、試験何限?」
胡桃「3限ー……こっからだと何時に出たら間に合う?」
洋榎「あー……12時には出んとなぁ」
セーラ「もう日登っとるでー」
胡桃「絹ちゃん大丈夫?」
絹恵「らいじょうぶ……です」
洋榎「まあウチは2限からやねんけど」
胡桃「ちょ!」
セーラ「あーこれは欠席で落とすやつやなwwwww」
洋榎「2時間で起きて準備したら間に合う」 キリッ
セーラ「無wwwww理wwwwwww」
洋榎「一応目覚ましウチに合わせてセットするでー」
セーラ「やめーや起きてまうやんけーゆっくり寝かせてー」
洋榎「いやいや起きてもうたらウチ起こせて!」
胡桃「……正直、目覚ましでも起きない気がする」
洋榎「念のため念のため」
セーラ「えーやん、もう切っとけって」
セーラ「夕方まで寝ようや」
胡桃「私は試験出るから!」
胡桃「私は私で携帯目覚ましセットしたし!」
セーラ「つーかこれどー寝るねん」
絹恵「あ、私はおねーちゃんと同じ布団でええんで……」 モゾモゾ
絹恵「おやすみなさい……」
胡桃「ちゃっかり布団キープされた!」
洋榎「ちまっこいんやし、二人で寝ろや」
胡桃「無理!」
胡桃「セーラの寝相知ってるでしょ!」
洋榎「ほら、夏用の布団出したったから」
セーラ「おおきにー」
洋榎「ほんなら電気消すでー」
胡桃「おやすみー」
セーラ「おやすみー」
パチ
洋榎「…・…」
胡桃「……」
セーラ「……何か話しとったら眠気取れてきたわ」
洋榎「寝ろや!」
胡桃「もう! 喋りかけるの禁止!」
セーラ「……」
洋榎「……」
胡桃「……」
カッチ
カッチ
カッチ
セーラ「なあ、時計の音うるさない?」
洋榎「寝ろやもーー!!」
胡桃「相手にしないからね!」
セーラ「ぶー」
カッチ
カッチ
カッチ
胡桃(確かにうるさい気がしてきた……!)
洋榎(アカン、気になってきた!)
セーラ「……」
洋榎「……」
胡桃「……」
カッチ
カッチ
セーラ「……ガスガデルデー」
ぷぅ~~~……プボッ
洋榎「……ブフッwwwwwwww」
胡桃「あーもー!! しゃべらないでって!wwwww」
洋榎「くっそwwwwwwwwwwふざけんなやwwwwwwwww」
胡桃「最ッ低!」
セーラ「生理現象生理現象wwwwww」
絹恵「……w」 プルプル
洋榎「あーもー絹まで起きてもうたやんwwwwww」
セーラ「ごーめんってwwwもうせーへんからwwwwwwwww」
胡桃「……」
胡桃「……!」 ガバッ
胡桃(目覚まし……鳴ってないのに目が覚めた……)
胡桃「あー……あー……」
胡桃(これ多分寝坊だなー)
胡桃「あー……」
胡桃(このまま寝直そうかな……あーでも一応携帯で時間見た方がいいかな……) モゾモゾ
胡桃「……」
胡桃「あー……」
胡桃(予想より早起きだし、まだ試験始まってない……)
胡桃(……でもこれ、今から出ても間に合うのかわっかんないしなー)
絹恵「んー……」
胡桃「あ、おはよ……」
絹恵「おふぁよございます……」
胡桃「これ、今から出て間に合うかな」
絹恵「うええ!?」
絹恵「もうこんな時間!?」
絹恵「お姉ちゃんここで爆睡したままやん!」
胡桃(予想はしてた)
塞「……試験、どうだった?」
胡桃「絹ちゃんがバイク免許持ってることが発覚した」
塞「は?」
胡桃「あと、やっぱり電車で無理なものはバイクでも無理だなって」
塞「???」
胡桃「……」
胡桃「もう春かぁ」
胡桃「漫ちゃん、受かってるといいなぁ」
胡桃「来年一緒に通えるといいな」
胡桃「……」
胡桃「あれ、メール?」
胡桃「あ、電話着てたんだ。音切ってて気付かなかった……」
胡桃「……哩ちゃん?」
胡桃「珍しい。なんだろう?」
胡桃「……」
カランカラン
店長「いらっしゃい」
胡桃「えっと、哩ちゃんは――」
哩「こっちばい」
胡桃「あ、ごめん、待った?」
哩「いや、大丈夫」
哩「こっちこそ悪いな、急な呼び出しで」
胡桃「大丈夫、急なのには慣れてるし」
胡桃「沖縄行こうとか北海道行こうとか言われたら殴るけど」
哩「安心しぃ、さすがにそこまで酷くはなか」
胡桃「でも、珍しいね」
胡桃「哩ちゃんから呼び出すなんて」
胡桃「はじめてのことじゃない?」
哩「今までは浪人の身だったばい」
胡桃「ああ、そっか」
哩「今なら、気軽に呼び出せて麻雀も打てる」
胡桃「今二人しかいないけどね」
哩「塞と洋榎も呼んどるばい、その内来るやろ」
胡桃「……っていうか、そう言うってことは、受かってそうなんだ?」
哩「……」
胡桃「……」
哩「……」
胡桃「……んん?」
哩「……まあ、今回は、手応えはあったばい」
哩「学んだことが自分のものになった感覚もあったし、去年より解けた」
胡桃「そっか、なら……」
哩「でもだからこそ、わかってもうてん」
哩「……今まではうろ覚えや間違いで書けてたのに、今回は、明確に“分からない”と分かってしまったから」
哩「多分、ボーダーのギリギリにいる」
哩「正答発表前に、何割取れたかわかったくらいばい」
胡桃「……」
哩「まあ、周りのでき次第ってとこか」
哩「……今年は、去年より簡単になったと思うし、6:4でマズイけど」
胡桃「……さ、三浪かあ……」
哩「さすがにマズイとは思っている」
哩「PCでも一発変換できるのは二浪までだしな」
胡桃「が、がんばってよ?」
哩「というか、三浪で入学だと、私が入った頃にはあいつは2回生だからな……」
哩「4回は就活であまり学校に来ないと考えると、1年しか一緒にいられないばい」
胡桃「うわぁ」
哩「……だから、今年で終わろうかと思っとる」
胡桃「え?」
哩「滑り止め、受けんかったが……」
哩「今年落ちたら、受験は終わりばい」
胡桃「でも、どうするの?」
胡桃「その……だめ、だったら」
哩「……この店で、当分は働かせてくれるそうだ」
哩「それに……やりたかった研究は、代わりにあいつがしてくれているばい」
哩「麻雀部の時と同じで、重荷にするのは心苦しか」
哩「けど……夢は、代わりにあいつが叶えてくれると信じとるばい」
哩「心置き無くドロップアウトできる」
胡桃「……」
哩「それに……新しい夢も出来たしな」
胡桃「え?」
哩「……幸せな家庭」
胡桃「えええええええええええええええええええええええええ!?」
胡桃「え、え?」
哩「何だ、気づいていなかったのか?」
胡桃「いや、付き合ってるのは大体察してたけど!」
哩「まあ、バレてるだろなとは思っとったばい」
胡桃「でも明言しないからてっきり隠してるのかと……」
哩「まあ、バレたらどうしようってスリルが……」
胡桃「へ?」
哩「……なんでもない」
哩「冷やかされるのが恥ずかしかっただけばい」
哩(まあ、冷やかされたらどうしよう、というのも、ちょっとした刺激だったけど)
哩「……まあ、どうとでもなるさ」
哩「お前達とつるみ初めて、ちょっとだけ世界が広がったばい」
哩「見方を変えれば何でも楽しめるし、そうやって楽しんでいけば、完全な“失敗”にはならんはず」
哩「ちゃんと前を向いて次に進めるしな」
胡桃「でも……」
哩「……それに、だ」
哩「ほんっとーにライトだが、どちらかというと私はマゾだからな」
哩「逆境の方が燃えるんだよ」
胡桃「えっ」
哩「そうやって引かれるのも、悪くない」
胡桃「うええええ!?」
哩「……冗談だ」
哩「ま、とにかく、こんな感じで普通に考えたら恥ずかしいことや辛いことでも、前向きに捉えていけばなんとかなるもんだと思うようになったからな」
胡桃「単にマゾとして開発されきっただけなんじゃ……」
哩「別に開発されてはいないぞ!」
哩「……まあ、カミングアウトの時のドキドキ感と、信じられないと言ったようなあの視線は忘れがたいが」
胡桃「変態だーーーー!」
哩「し、失礼な」
哩「健全に、相手を想う気持ちの方が、蔑みより気持ちいいし、マゾではないぞ」
胡桃「あ、う、うん……」
哩「それから勉強を教えていたはずの後輩から勉強を教えられたりとか……」
哩「こう、怒られたりした時のプライドの崩れる瞬間が、だな……」
胡桃「何でほんのり顔赤らめるの」
哩「それは、あれだ」
哩「私を思って怒ってくれてることが分かってだな……」
胡桃(なんだろう、惚気なのにあふれるこの変態オーラ)
塞「おまたせ」
哩「急にすまないな」
塞「いいっていいって」
塞「胡桃も、やっほ」
胡桃「おつー」
塞「何の話してたのー?」
哩「受験時代について、だな」
胡桃「飴と鞭で鞭が飴で、みたいな」
塞「???」
胡桃「のろけってことだよ」
塞「あ、やっぱり付き合ってるんだ」
胡桃「うん……予想以上に突き合ってた」
哩「……ま、そんなわけだ」
哩「恋愛の先輩として、何かアドバイスくらいならするばい」
哩「何かあったら気軽に言うたらええ」
塞「大学生って意味ではこっちが先輩なのにね」 クス
胡桃「やめなよ、後輩にすらなれない可能性高いみたいだから」
塞「え? 受かったから呼び出したんじゃないの?」
哩「泣くぞ?」
哩「まあ、でも、まじめに、だ」
哩「お前たちには色々感謝もしている」
哩「女同士、というカップルにも、特におかしな目をしなかったしな」
塞「……愛さえあれば、性別なんて」
哩「……私もそう思っているばい」
哩「だから、相手が男でも女でも、恋愛の相談だったらまじめに乗るから」
哩「口も硬い自信がある」
哩「気軽に相談に乗ってくるといい」
胡桃「……ん」
塞「……そう、だね」
哩「二人共奥手そうだし、好きな相手がいてもろくにアプローチ出来なさそうだからな」
胡桃「あ、でも変態調教みたいなアピールのアドバイスはいらないからね」
哩「お前私のイメージ今日で変わりすぎじゃないか?」
哩「ま、特に二人は常連だったしな。サービスだ」
塞「……」
洋榎「おっまたせー!」
哩「……来たな」
哩「特別この店に入り浸ってた三人と、打ちたいと想っていたんだ」
哩「さ、やろうか」
胡桃「……ん!」
塞「そーだね」
洋榎「ようわからんけど、負けへんでー!」
哩ちゃんの言葉は、素直に嬉しかったけど、どこか心で引っかかっていた。
それの正体に気が付いたのは、塞と二人で歩く帰り道。
胡桃「ねえ、塞」
……哩ちゃんの口調は、私達に好きな人がいる前提だった。
私の知ってる哩ちゃんは、根拠もなく誤った前提を立てない。
胡桃「……好きな人、いる?」
だから、思った。
もしかして、哩ちゃんは、分かっているんじゃないかと。
“好きな人がいるかわからない友人”でなく、
“想い人のいる友人”に、あの言葉をかけたのではないかと。
塞「……さあ、ね」
胡桃「教えてよー。親友でしょ?」
塞「……じゃあ逆に聞くけど、胡桃はどうなの?」
果たしてそれは、二人にだったのか、それとも塞だけにだったのか。
多分後者だ。だって、私に好きな人なんて――――
ボッ、という音が、漫画なら出ただろうか。
自分の顔が真っ赤になったのが分かる。
塞「……胡桃?」
ああ、何故。
一体何故、私はこの話の流れで、貴女を思い浮かべたのだろう。
当時は、それがわからなくて、混乱して、
胡桃「な、なななんでもない!」
押し込めて、目をそらして。
塞とゲームして夜に布団に潜り込んで。
それから、ようやく。
多分、もしかしたら、私はあの時頭に浮かんだ愛宕洋榎という人物が、好きなのではと、布団の中で思わされた。
ああ、そうか。
いつからか、わからないけど。
私は、貴女が、好きだったんだ。
友達として。
それ以上に――――恋愛の、対象として。
一旦休憩。
保守しながら食事でもしといてくれると幸いです。
再開します。
今晩中に終わるよう頑張る。
胡桃「えー……」
胡桃「皆、お酒行ってる?」
洋榎「来とるでー」
絹恵「こっちのテーブルもオーケーや」
胡桃「それでは、漫ちゃんの合格を祝して!」
洋榎「そんでもってバイトの高卒化を祝して」
哩「出禁にするぞ」
「「「カンパーーーーーーイ!!」」」
胡桃「いやー、おめでたいね!」
漫「いやあ、なんかすんません、こんな盛大に……」
漫「先輩方の大学は落ちたんに……」
塞「それでも同格とされる大学に受かったじゃない」
漫「むしろ今年はあっちの方が難しかったみたいだし」
ちゃちゃのん「あっちの大学の入試傾向の方がマッチしとったんじゃろうねえ」
洋榎「そうそう、大学生になれへんような奴もおるんや、大学生になっただけお祝いもんやで」
セーラ「そうそう、二浪までいかんかっただけめでたいで!」
胡桃(あ、フライパン振りかぶる哩ちゃんのフォーム様になってる)
哩「ったく……大体、聞いたぞ」
哩「ゼミ決まらんかったと?」
洋榎「うぐっ!」
セーラ「まあコネもない」
洋榎「ぐさっ!」
塞「やりたいこともない」
洋榎「うぐう!」
胡桃「おまけに志望書は鉛筆書き3行」
洋榎「うぎゃっうぎゃっうぎゃーーー!!」
ちゃちゃのん「それでゼミに受かるわけないけぇ……」
洋榎「う、噂じゃあのゼミはぬるくて卒業余裕やって話やったのに……」
哩「せいぜい卒論単位分他の授業を頑張るんだな」
思っていたほど、二十歳はオトナではなかった。
思っていたほど、大学生は忙しくなかった。
漫ちゃんの受験の終わりだけが、月日の流れを感じさせる。
恋心、を自覚はしたけど、特にアクションを起こしてはいない。
なんとなく、このだらだらした日常が、続くと思っていたから。
そうして、私達は3回生になって、またちょっと、オトナになるのに近付けられた。
ふんふむ
胡桃「うーん」
胡桃「ゼミって思ったよりもやることないかも」
塞「いいわね、文系は……」
胡桃「あ、煽られた」
塞「あ、そういう意図じゃ……」
胡桃「冗談」
胡桃「でも塞は大変だね……」
胡桃「ほとんど毎日研究室なんでしょ?」
塞「ちゃちゃのんもそうだってさ」
胡桃「いいなあ、それはそれで楽しそう」
胡桃「うち、まともな研究室ないもん……」
塞「え、そうなんだ」
胡桃「ブース程度にあるだけだよ……」 ハァ
胡桃「ゴルデンウィークにも何もしなかったねえ」 タン
洋榎「麻雀は打ったやろ」 タン
胡桃「サンマばっかりだったじゃん」
漫「あはは……すんません」 タン
胡桃「いいっていいって、大学の友だち優先しなよ」 タン
ちゃちゃのん「あ、それポンじゃ」
ちゃちゃのん「ちゃちゃのんもなかなか遊びの予定作れんかったしのう」
洋榎「セーラはサークル最上回で忙しいみたいやしなあ」
胡桃「ゼミの飲み会とかも忙しいみたいだよ」
胡桃「まあうちのゼミはそーいうの一切ないけど……」 ハア
洋榎「あ、それロンな」
洋榎「つーか哩はフリーターなんやからもっと付き合えや」
哩「お前らと違ってまじめに料理やらの勉強しとんねん」
哩「ほら、レーコー」
洋榎「いやー、まさか大学生になるわけでもないのに大阪まで出て大阪弁が混ざるようになるくらい居座るなんてなー」 ケラケラ
哩「ほら、アツシボ」 グリグリ
洋榎「あちゃーーーー!?」
哩「お前ら、最近よく二人でつるんどるな」
胡桃「へ?」
洋榎「まあ、他の奴が捕まらんしなあ」
胡桃「塞も泊まりにはくるけど、忙しいみたいですぐ帰っちゃうしねえ」
洋榎「ちゃちゃは仕事が軌道載ってきとるらしいし」
胡桃「漫ちゃんや絹ちゃんは大学の友だちとよく遊ぶみたいだしねえ」
洋榎「寂しいこっちゃで」
哩「で、暇人二人で入り浸り、と」
洋榎「後輩ちゃん暇しとらんの?」
哩「あいつはあいつで真面目に勉強中ばい」
哩「それにたまの休みは一緒に過ごしとる」
洋榎「それ呼んでや」
哩「ふざけんなお前」
洋榎「ちょいトイレ」
胡桃「恥じらい0?」
洋榎「ちょっとフラワーハントいってくるわ」
胡桃「お花摘みってそーいう英訳じゃないから」
胡桃「まったく……」
哩「……」
哩「結局恋愛相談しにこなかったな」
胡桃「!」
哩「不要になった結果が、コレか?」
胡桃「?」
哩「……聞き方を変えるばい」
哩「二人は付き合っとるん?」
すばら
胡桃「べ、べべべ別にそんなんじゃ!」
哩「だろうな」
胡桃「んなっ!」
哩「見ていれば分かる」
胡桃「……っ!」
哩「まあ、別に相談がないならいいんだが」
哩「……人に話すのも、いい経験ばい」
哩「……昔、チームメイトに話を聞いてもらって、吹っ切れたこともあるしな」
胡桃「……」
洋榎「うーみーーーー!!」 イヤッホーイ
胡桃「何気にこのメンツで海来るのは初めてだね」
塞「あれ、沖縄に行ったんじゃ」
哩「その話はやめろ」
洋榎「海なんて久しぶりやから、一人で水着コーナー入り浸ってもーたわ」
絹恵「言うてくれたら付き合ったのに」
洋榎「絹はいっぱい持っとるやん」
ちゃちゃのん「ちゃちゃのんもいっぱい持っちょるよー」
漫「私も買いましたよ。去年のでいいかとか思ったけど、胸きつかったんで」
洋榎「……」 ゲシゲシ
漫「あたー!?」
漫「ちょ、小キック連発やめてくださいよ!」
胡桃「……」 ゲシゲシ
漫「先生まで!?」
胡桃「私なんてインハイ後の夏の水着普通に着れるのに!!」
洋榎「ま、何にせよ、泳ぐでー!」
「「「「「おーーーーーう!!」」」」」
ク ラ ゲ っ ! !
洋榎「ちょ、一面クラゲやないか!」
哩「まあ、もう9月だしな……」
セーラ「試験終わった8月頭はサークル組は合宿やらで忙しかってん、しゃーなしや」
ちゃちゃのん「ちゃちゃのん達とちごうて、まっとうなサークル所属のセーラや絹ちゃんは8月半ばは大会だからのう」
塞「下旬は私達が岩手に帰ってたもんねぇ」
洋榎「くそっ! 岩手についてきゃよかった!」
塞「いや、連れてかないから」
胡桃「恥かかされちゃう」
胡桃「ま、砂場で遊べばいいよ!」
セーラ「バレーしようや、バレー!」
塞「豊音がいたら負けないんだけどねえ」
絹恵「運動なら任せてー」
セーラ「後一人誰かー!」
塞「胡桃、組まない?」
胡桃「私にバレーを勧めるとは、塞も随分非道になったね!」 チンマリ
塞「わ、悪かったわよ……」
胡桃「哩ちゃん入ったら?」
哩「?」
胡桃「ボールびしばし当たるし、好きそうだから」
哩「ちょっとばかしイメージの修正を図ろうか」
胡桃「違うの?」
哩「違う」
哩「大体、残り一人しか入れないのに、恋人をおいていくわけないだろう」 ギュッ
胡桃「公言してから腹立つくらいいちゃつくようになったね」 シネバイイノニ
セーラ「足引っ張ったらおでこに乳の文字を」
漫「末原先輩方式!?」
セーラ「焼印するで」
漫「違う、もっと禍々しい別の何か方式だ!!」
絹恵「私のキャッチング技術、見とってや!」
塞「弾き返してね!?」
塞「キャッチしたらダメだからね!?」
洋榎「あーくっそ出遅れたわ」
胡桃「審判でもやる?」
洋榎「ルールわからん」
ちゃちゃのん「あ、じゃあちゃちゃのんやるよー」
ちゃちゃのん「これでも、アイドルビーチバレー大会で2回戦に進出した実績もあるけぇ!」
洋榎「微妙」
胡桃「ぱっとしないね」
哩(インハイじゃ宮守はそのぱっとしない成績だったような)
洋榎「しっかし、見事にクラゲまみれやなー」
胡桃「泳ぐのは無理そうだね」
洋榎「バイトとデビ子は?」
胡桃「あっちで砂風呂してる」
洋榎「お、楽しそうやな」
胡桃「……まあ、楽しそうではあったよ」
胡桃「凄い愉悦の目で、姫ちゃんがじわじわと哩ちゃんを埋めてたし」
洋榎「ふーん。ウチもどっさりかけたろかな」
胡桃「やめた方がいいんじゃないかなあ、完全に二人の世界だったし」
洋榎「とりあえず海に来たら泳がないとな!」
洋榎「クッローーーーール!」 ザババババ
胡桃「砂の上を泳いでるっ!」
洋榎「このへん柔らかいから軽く潜れるでー!」 ザババババ
バチコーーーーーン
セーラ「すまんすまん、ボールこっち飛んでこーへんかった?」
胡桃「飛んできて代わりにスイマーが吹っ飛んだ」
セーラ「は?」
洋榎「しっかし、これ、今度はシーズン中にきたいもんやな」
胡桃「そうだね」
洋榎「……恭子や由子……姫松時代の仲間とも、来たいかな」
胡桃「……私も、久々に宮守の皆と遊びたいなあ」
洋榎「最近帰ったんやろ?」
胡桃「帰ったけど、なかなか全員で出かけるっていうのは難しくて」
胡桃「トシ先生も、最近病気療養中みたいだし」
洋榎「……そういう話聞くと、どんどんオトナになったって気がしてくるな」
胡桃「インハイ見てると、会ったことある人はもうコーチ系しかいないしね」
洋榎「そのうち、コーチも歳下になってくるんやろうなぁ」
胡桃「うう、考えたくない」
洋榎「と、いうわけで、バーベキュー!」
塞「海辺のバーベキューか、素敵かも」
セーラ「温泉やないけど、風呂も気持ちよかったでー!」
洋榎「旅館の人のご好意で、焼き台借りられたでー!」
哩「ちなみに食材は持参するルールだそうだ」
胡桃「え!?」
塞「誰か何か持ってきた!?」
ちゃちゃのん「よ、酔い止めのキャンディくらいしか……」
セーラ「フリスクあるでー」
胡桃(あ、これダメなやつだ)
絹恵「バイク借りてスーパー行ってこようか?」
塞「ここ来る途中にスーパー見かけた?」
絹恵「……」
洋榎「くらげって食えるのかな」
胡桃「!?」
哩「まだ調理した経験はないな」
胡桃「食べる気!?」
ちゃちゃのん「目がマジじゃ!!」
哩「安心しろ、毒見はかってでてやる」
洋榎「当然やろ」
胡桃(それさえもプレイなのかと思えてくる……)
洋榎「結局あの後皆体調崩したけど、何があかんかったんやろ」
胡桃「クラゲでしょ」
塞「私もそう思う」
哩「いや、調理は完璧だったはずばい」
胡桃「あ、そこは自信持ってるんだ……」
洋榎「ナイトスクープでクラゲ料理でも取り上げてもらうか?」
塞「ナイトスクープ?」
洋榎「なんや、もう3年も関西人なのに見とらんのか」
洋榎「じゃあ今度皆で集まって見ようや」
洋榎「ほんで、調査依頼しよ」
胡桃「ヤフー知恵袋感覚でなんでもかんでも依頼するものじゃないと思うけどね……」
漫「……これでどうです?」
胡桃「うん、完璧」
胡桃「そろそろ、私が教えられることないなぁ」
漫「ほんまですかー?」
胡桃「大学で英語そこまで本格的にやってなかったし、漫ちゃん、そろそろ英語力私以上かも」
漫「そやったら嬉しいですわ」
胡桃「また別のバイト探さないとなあ」
胡桃「来年就活だから、難しいかな」
漫「そない寂しいこと言わんと、これからも色々教えて下さいよー」
胡桃「あはは、色々って何ー」
漫「……」
漫「こ、恋……とか?」
胡桃「あー……」
胡桃「堂林にはロマンを感じるけど、やっぱり内野守備のファイヤーフォーメーションっぷりはどうにかした方が」
漫「そうじゃなくて」
胡桃「こ、恋って……あの恋?」
胡桃「濃淡でなく?」
漫「恋愛の恋です」
胡桃「ハルよ来いでもなく?」
漫「ラブゲームの恋です」
胡桃「未必の故意のコイでなく?」
漫「だから好きとか嫌いとかそーいう話ですって!」
胡桃「……うう」
胡桃「そ、それを私に聞いちゃうかー」
胡桃「で、どしたの急に」
漫「いやー、それが、その……」
漫「大学でそーゆー話になりまして……」
漫「今までのこととか話してる内に、なんとも思ってなかったはずの人が、その……」
漫「その、実は好きだったのかなあ、なんて思って……///」 ユビクルクルー
胡桃「……」
胡桃(可愛い……)
胡桃「しょうがないなあ」
胡桃「お姉さんに任せなさい!」
漫「ホンマですか?!」
漫「ありがとうございます」
漫「いやー、他の人には相談出来なくて……」
胡桃(頼られてる……!) ウレシイッ
漫(さすがに姫松の人らに末原先輩のことで相談なんて……)
胡桃「と、いうわけで、何か恋愛のアドバイスちょうだい!」
胡桃「縛ったりが出てこないやつで!」
哩「深夜三時に電話しておいて言うことがそれか」
胡桃「あ、おはよう。寝てた?」
哩「遅いしそういうことじゃない」
漫「すんませんね、頻繁に相談に乗って貰って」
胡桃「気にしないで」
胡桃「他に私の相手してくれる人なんて、馬鹿が一人しかいないから」
漫「哩さんもすんません、わざわざ」
哩「何、気にすることはない」
哩「しかし……意外とちゃんと先輩してるんだな」
胡桃「えっへん!」
漫「これでもケッコー先生のことは慕ってるんですよ」
胡桃「一緒に御飯行ったりしてるもんねぇ」
漫「奢られるんは、申し訳なく思ってるんですけどね」
胡桃「いいっていいって」
胡桃「その分大学の後輩におごってあげなよ?」
胡桃「漫ちゃんは後輩が作れる立場なんだから」
哩「相談に巻き込んでおいてよくそがぁなことが言えるな」
洋榎「……なあ、麻雀しようや」
胡桃「メンツは?」
洋榎「……集まらんよなぁ」
胡桃「雀荘はお金ないからパスだよ」
洋榎「……じゃあいいんちょん家で駄弁ろうや」
胡桃「このまえ壁ドンで3・3・7拍子されたでしょ」
胡桃「しばらくは大人しくしておかないと……」
洋榎「ぶー」
洋榎「でもザワは泊めとるんやろ?」
胡桃「塞は大人しく課題やったり映画見たりするだけだもん」
洋榎「じゃあウチも静かに映画見るわ」
胡桃「映画見てても超叫びそう」
洋榎「失礼な、ちょっとだけやて」
胡桃「やっぱり叫ぶんじゃん」
洋榎「……てへ」
洋榎「じゃあまた夜通しデートでもするか?」
胡桃「……別に、まあ、暇だからいいけど」
洋榎「あ、ええんや」
洋榎「どうする?」
洋榎「HEPの観覧車に飽きるまで乗り続けてみる?」
胡桃「本当にただ暇なだけだった!」
胡桃「もっと何かやりたいこととかないの!?」
洋榎「石油王の養子になりたい」
胡桃「そうだね私もだよ。だけどそういうことじゃなくて」
胡桃「結局新世界で串かつかあ」
洋榎「あんま来たことないやろ?」
胡桃「ていうか初めて」
洋榎「マジで」
洋榎「そらもったいない」
胡桃「あ、おいひい」
洋榎「せやろー」
洋榎「ゆーこ達ともよう来とってんこの店」
胡桃「二度漬けはダメなんだよね」
洋榎「そうそう、よう知ってるやん」
洋榎「あと、アレや」
洋榎「合間……合間にキャベツを挟むんや」
洋榎「そうすることで胸焼けを……」
胡桃「ん?」 バリムシャバリバリ
洋榎「包野菜の勢いで一緒に食うとは思っとらんかった」
洋榎「でも……最近ほんま遊べんようになってきたなぁ」
胡桃「ゼミ組が本当に忙しいみたいだからねぇ」
洋榎「絹はゼミ選びが始まってるしなあ」
胡桃「漫ちゃんはこれから楽な時期だけど、学校県外だもんねぇ」
洋榎「バイトの奴がこの辺住んどったらなあ」
胡桃「特急乗れば割りとすぐとはいえ、隣県だもんねー」
洋榎「……なんか、寂しいわー」
洋榎「いつまでもダラダラ遊んで過ごせると思っとったんやけどなぁ」
洋榎「少なくとも、卒業するまでは」
胡桃「……卒業したらいきなりオトナになって会えなくなる、ってわけじゃなかったってことだね」
洋榎「悪い方向に、やけどな。その予想外は」
胡桃「就活も始まるし、ホント、しばらくは皆では集まれないかもね」
洋榎「嫌になるで、ほんまに」
洋榎「インターンとか行く?」
胡桃「うーん、よくわからないし多分行かないかなあ」
胡桃「塞はもう希望業界あるから行くみたいだけど」
洋榎「あー働きたくないわ」
胡桃「就職説明会の後だし、不安になるよね」
洋榎「結局もらったリクナビ登録の紙出してへんわ」
胡桃「あー……憂鬱だね」
洋榎「……就活、かあ」
洋榎「あんなに遠い未来の出来事だったんになぁ」
胡桃「先輩たちが居なかったから、勝手もわからないしねえ」
洋榎「……あー」 アタマワシャワシャ
洋榎「止めや止め!」
洋榎「この話題やめ!」
洋榎「飲むで!」
胡桃「はいはい」
塞「あー……疲れた」
胡桃「いらっしゃい」
塞「ほんっと疲れる……」
塞「あーゼミ室行きたくないー!」
塞「ねむたいー!」
胡桃「寝てもいいよー布団準備出来てるし」
胡桃「あ、お風呂もわいてるけど、はいる?」
塞「ありがとー、助かる」
塞「あ、胡桃ご飯もう食べた?」
胡桃「まだだけど……」
胡桃「疲れてそうだし、勝手に食べとくよ」
塞「ごめんね」
塞「あ、でも、はい」
塞「宿泊費として美味しそうだった弁当買ってきたから」
胡桃「わっ、ありがとー」
胡桃「でも大変そうだね」
塞「正直、すごくしんどいかな」
塞「その分やりがいはあるけどね」
胡桃「いいなあ、ちょっと憧れる」
胡桃「法学部と違って、就職もいいって聞くし」
胡桃「……皆に会ってなきゃ、今頃ロースクールに入れるくらい勉強してたかもしれないけど」
塞「そういえば、いつのまにかそっちの道やめてたね」
胡桃「まあ、皆に引きずられて成績落とした私が悪いんだけどさ」
胡桃「それに……楽しかったのは事実だし」
胡桃「ていうか、塞も、疲れてるなら無理して泊まりにこなくても大丈夫だよ?」
胡桃「掃除も洗濯もちゃんと一人でやってるし」
胡桃「暇なときに来てくれれば」
塞「……ん、ダイジョーブ」
塞「こっち来た方が、私は落ち着くし」
胡桃「なにそれ」 クス
塞「胡桃といる方が、明日からがんばろーってなれるのよ」
塞「だから、疲れてても、来たいって思って来てるのよ」
塞「別に義務感とかじゃないから」
胡桃「何か照れるね」
塞「照れろ照れろ」
塞「言ってるこっちも恥ずかしーんだから」
胡桃「あ、お湯湧いた」
胡桃「コーヒー飲むけど、塞もいる?」
塞「いいや。先お風呂入りたいし」
胡桃「了解ー」 パタパタ
塞「……」
塞「もうちょっと、照れてくれてもいいんだけどなぁ」 ハハ
哩「ああ、いいところに来た」
胡桃「?」
哩「とりあえず注文をどうぞ」
胡桃「ケーキセット、コーヒーで」
哩「ホットでいいか?」
胡桃「うん」
胡桃「それで、いいところって?」
哩「ああ、それなんだが……」
哩「クリスマス、予定開いてるか?」
胡桃「え?」
胡桃「あいてるけど……」
胡桃「その、見られるプレイの見る人要員のバイトならお断りしていいかな」
哩「発想が年々下品になってきてるぞ」
哩「たまにはパーティでもしようかと思ってな」
哩「今まで、ロクにクリスマスはパーティしてなかったと?」
胡桃「確かに」
哩「まあ当日は厳しいとしても、前後で集まろうと思ってな」
胡桃「楽しそうかも」
哩「料理は腕を振るうぞ」
哩「材料費と会場代だけだから、費用もさほどかからんばい」
胡桃「いいねー!」
哩「ちょうどセーラも冬の大会が終わって引退するくらいの時期やしな」
哩「騒ぐにはちょうどよか」
胡桃「……」
胡桃「読書の秋っていうのに、本、あんまり読まなかったなあ」
胡桃「うう、就活本とか読んでおけばよかったかな」
胡桃「……」
胡桃「あ、日付変わった」
胡桃「もう12月……今年1年も早かったなぁ」
胡桃「いろいろ、やったなぁ」
胡桃「特に何って言うほど大きなイベントばかりじゃなかったけど」
胡桃「楽しかったなあ……」
胡桃「映画とか焼肉とか……」
胡桃「……」
胡桃「センチになってる場合じゃないよね……」
胡桃「マイナビやリクナビ登録しなくちゃ……」 カチカチ
胡桃「……」
胡桃「重たくてつながらないし、明日でいいか」
胡桃「わあ、凄い人」
洋榎「そら、関西リーグ優勝かかった大一番やからなぁ」
塞「優勝か準優勝で東西頂上決戦だっけ」
ちゃちゃのん「今年勝ったら12年ぶりなんじゃって~」
漫「詳しいですね」
ちゃちゃのん「もらったパンフに書いてあった~」
漫「いいなあ、皆さんはバス付きの応援ツアーですもんねぇ」
哩「こっちは自費で応援だからな」
絹恵「はは……まあ、学校ちゃいますしね」
漫「ていうか、ウチのとこはそもそも今日まで残れなかったし」
漫「ヒメちゃんのとこも今日出てるものの多分勝てないくらい差がついてますけど……」
洋榎「絹ンとこ、まだ十分圏内やろ」
絹恵「ええよー、どうせガッコじゃ麻雀してへんし、知り合いも麻雀部におらんし」
絹恵「こっち側にいるのもバレへんやろうし、こっちで応援するわ」
絹恵「知らない同じ大学の人より、セーラさん応援したいしな!」
洋榎「お」
胡桃「あ」
絹恵「!」
漫「これっ……!」
ちゃちゃのん「おおおおおおお!!」
哩「……ふっ」
洋榎「か、勝ったああああああああああああああ!!」
胡桃「す、すごい! 関西リーグ優勝!!」
塞「これ、東西戦でもいけるかもね!」
洋榎「お、セーラの奴、インタビューあるで!」
塞「部長じゃないみたいだけど、エースではあるしね」
胡桃「デジカメデジカメ」
ちゃちゃのん「あ、ちゃちゃのん動画撮っとくから、写真頼んでええ?」
胡桃「オッケー、後で交換しようね!」
セーラ「えー……高校時代からの悲願で、一度も成せへんかった優勝」
セーラ「それをついになすことができました!」
胡桃「思ったよりまともに受け答えできてる……」
セーラ「見とるか、浩子ー! やったでー!」
塞「うわ、はっずー」
洋榎「でもええなあ、ああやって叫べる相手がおるって」
胡桃「……ほんとにね」
哩「……」 ニヤニヤ
胡桃「うわぁ渾身の羨ましいだろって顔」
洋榎「殴りたいわー」
洋榎「しっかしあれやな、セーラがガッツリ削ったから、今日試合ないゆーこんとこが総合3位か」
洋榎「ちょっくら祝辞述べてくるわー」
漫「あ、私も!」
胡桃「そーいえば、姫松の他の人と、卒業してから会ってないなあ」
塞「まあ、どこまで行っても友達の友達って感じだろうしねえ」
胡桃「友達の友達でも、頻繁に会えたら友達になるんだけどね」
哩「じゃあクリスマスに連れてきてもらうか」
哩「結構大きな会場取れたし、友人連れて皆で集まって交流を広げればいい」
胡桃「おお、まともな提案」
哩「人脈は広げておきたいばいね」
洋榎「ただいまーっと」
漫「遅くなってすんません」
絹恵「お姉ちゃんが荒川さんを煽りに行ったら遅くなって……」
漫「素直に4年連続東西戦おめでとうって言えばええのに、2位を連呼するもんだから、他の部員さんにめちゃ睨まれまして……」
胡桃「馬鹿みたい」
セーラ「まあなんにせよ、これでプロになれんでも、どっかの実業団に行けるわー」
哩「ああ、就活終了一番ノリか、おめでとう」
洋榎「始まる前にゴールしてた高卒フリーターもおるけどな」
哩「お前だけクリスマスケーキ泡立てたハンドソープ付きのスポンジな」
塞「……そういえば、ちゃんと就活サイト登録した?」
洋榎「よっしゃ、祝勝会や!」
胡桃「付き合うよー!」
塞「……ちゃんと月末までにはやりなさいよ!?」
そして、クリスマスイブがやってくる。
「むしろイブこそサークル単位のイベントはない」とのことで、結局イブの日になった。
デートしたかっただろう人には申し訳ないと思ってる。
だから、朝から集合で、夜11時に解散としていた。
セーラは船Qさんを連れてきてたし、他にもいっぱい“友達の友達”が来ている。
ちょっとした社交パーティみたいだ。
未来のプロ雀士もいっぱいいることだろう。
でも、そこはどうでもよかった。
なにせ、この日は、私の人生で最も印象に残る日となるのだから。
いろんなことが、印象に残ってる。
多分知らない人に言っても、何が面白いのかさっぱりだと思う。
それでも、私にとってはとても楽しい思い出だ。
内輪ネタに過ぎなくても、本当に、楽しい一日だったと思う。
料理も、美味しかったしね。
哩ちゃんは本当にいいお嫁さん兼料理人になれると思う。
お酒もとっても美味しくて、何人かは居眠りするレベルで飲んでしまっていた。
私はそこまで飲んでなかったけど、なんとなく、気分が良くて。
軽く外に出て、風を浴びていた。
ひんやりとした風が酔いと眠気をつれていき、頭を再起動させる。
洋榎「よう大将、飲んどる?」
ケラケラ笑いながら、貴女が声をかけてきた。
胡桃「そういうセリフ、自分がたくさん飲んでから言うべきじゃない?」
貴女はいつでもハイテンションで、普段通り振る舞うだけで、誰もが飲んでいると思い込む。
ましてや貴女はあまり顔が赤くならないので、親しい者ほど飲んでるものと勘違いする。
洋榎「なんや、気付いとったん?」
けれども私は、貴女のことを目で追ってたから。
無意識に、ずっと見ていたから。
各自好き放題コップにお酒を注ぐ中、貴女はずっとソフトドリンクをついでいた。
まるでカクテルかチューハイですと言わんばかりに、必要もないマドラーをプラ製コップに突き刺して。
胡桃「気付くよ、これでも観察眼には自信があるし」
それで、貴女がお酒を飲む気がないことに気が付いた。
でも――その理由までは、分からない。
普段はあんなに率先して飲んでいるのに。
飲むようになっていたのに。
洋榎「……ちょっと、な」
洋榎「冷静に、話したいこととかあったから」
貴女は、頭を掻いて。
視線をあちこち泳がせて。
言い難いこと――それも多分、照れくさいことなんだろうと思わされて。
洋榎「まあ、なんや」
洋榎「ちょっと、時間とかあるかな」
こちらを向いて、頭を掻くのをやめて。
それでも視線は私でなく、やや上空――岩手に比べて星の見えない夜空を向いてて。
洋榎「ちょっと、歩かへん?」
視線というスコープは確かに上を向いてズレていたのに、
その言葉はまっすぐに私の心を撃ちぬいた。
胡桃「……ちょ、ちょっとだけならっ!」
夜空を見ながら他愛のない話をして。
そよ風のなか、クスクスと笑い合って。
公園で、一休みして。
洋榎「……最近、漫とよう遊んどるな」
急に貴女が、そんなことを切り出した。
胡桃「へ?」
漫ちゃんの恋の話は、秘密のことだ。
そう思ったから大分話をはぐらかしたのに、
どうやら漫ちゃんは酔ってそのことを教えてしまっていたらしい。
結局、こっそり恋の相談に乗っていたとカミングアウトしてしまう。
洋榎「ふうん……」
洋榎「せ、せやったら、その……」
貴女の顔が、みるみる内に赤くなっていく。
洋榎「う、ウチの恋愛相談にも乗ってくれへんかな~~~……なんて」
胡桃「……へ?」
恋愛相談。
それは、貴女が誰かに恋しているということを意味していて。
その相手が誰なのか、その時はまだ分かっていなかったけど。
落ち込むというより、ちょっとだけ、嬉しくて。
少なくとも自分が、恋愛相談をする相手に選べるくらいの仲なのだと思うと、
胡桃「しょうがないなぁ」
としか言えなくて。
思わず笑みを零しながら、貴女の隣に改めて腰掛けた。
胡桃「それにしても……好きな人なんて、居たんだね」
洋榎「う……まあ、な」
洋榎「最初は……そんなんじゃなかってん」
洋榎「ただ、昔の知り合い。その程度やったんや」
洋榎「でも……」
洋榎「久しぶりに会ったら、すっごい話すんが楽しくて」
洋榎「ついつい、一緒に居てもうて」
洋榎「……最初は、ただの友情やと思っとったんやけどな」
洋榎「セーラの奴……一回、彼女と別れかけとんねん」
洋榎「遠距離で、いろいろあったらしくてな」
洋榎「そん時、復縁するまで色々話聞いとって――自覚、した」
洋榎「ああ、それじゃあウチのあの気持ちも、恋なのかもしれん――って」
洋榎「……そんで、な」
洋榎「その……」
洋榎「い、いいんちょは、えと……」
洋榎「な、なんて告白されると……嬉しい?」
胡桃「えっ」
言葉に、詰まる。
なんと答えたらいいのか。
ここに来て、哩ちゃんでカンニングしたツケが来た。
胡桃「あ、あの、その、えと」
貴女に告白されるシーンを試しに思い描いて見る。
顔が爆発するだけで、どれもこれも「すごくいい」以外の感想が出なかった。
役に立たないな、我ながら。
胡桃「……わ、私なら……」
胡桃「好きって気持ちを、ぶつけられるだけで、すごく嬉しいよ」
だから、言った。
素直な言葉を。
私なら、どうかって聞き方をされたから。
私なら、貴女の紡いだ言葉なら、何だって嬉しいから。
洋榎「そ、そう……?」
洋榎「あの、えと……」
洋榎「じゃ、じゃあ、ロールプレイングっちゅーかなんっちゅーか……」
洋榎「こ、告白のセリフ今考えて言ってみるから、その、添削してほしいなあ、なんて///」
珍しく、乙女チックに指とお指とでツンツンなんてするもんだから。
顔の赤みが増しているのをごまかすように、後ろを向いた。
胡桃「しょうがないねっ!」
胡桃「私が特別、聞いてあげるよっ!」
胡桃「だから、さあ。早く告白してよね!」
洋榎「あー、その、なんや」
洋榎「初めて会ったときはなんやねんこいつって思ったし」
洋榎「別にその、運命の出会いをびびっと感じたわけでもないねん」
洋榎「でも再会してみたら不思議とビビッと来たっちゅーかなんちゅーか……」
洋榎「一緒におるとめっちゃ楽しいし……」
洋榎「なんだか胸が高鳴っとってん」
洋榎「あ、見た目は別に好みってわけちゃうで!」
洋榎「最近まで自分はノーマルやと思っとったし」
洋榎「でもそーいうのをぶっ壊すっちゅーかなんちゅーか」
洋榎「まさにあの出会いはベルリンの壁をも乗り越えるっちゅーか」
洋榎「まあ、ベルリンの壁崩壊とかリアルタイム世代ちゃうし、教科書でちょろっと読んだだけやけd」
胡桃「そーゆーのいーから愛の告白!」
洋榎「あ……好きです……」
胡桃「ネタとか言わないから、素直な言葉でわかりやすく!」
洋榎「……ホンマに、好きです。ウチと付き合って下さい」
洋榎「……って、結局突っ込まれてもーたな」 ハハ
胡桃「もう」
胡桃「でも……その方が、らしいかもね」
洋榎「……そう、かな」
洋榎「伝わるかな」
胡桃「……きっとね」
洋榎「……」
胡桃「……」
洋榎「……」
胡桃「……あの、さ」
洋榎「ん?」
胡桃「その告白したい人って――――私、だったりする……?」
思わず、言ってしまった。
それから、急速に顔が真っ赤になるのを感じる。
次いで、顔が赤から青へと変色した。
胡桃(わ、わわ私何を言って――――!?)
貴女は、ちゃんと覚悟をしていたのに。
お酒もやめて、真面目に考え、相談してくれたのに。
私は、勢いなんてものだけで、聞いてしまった。
その告白対象は、私なのかと。
洋榎「……」
まさかそう言われるとは思っていなかっただろう貴女は目を丸くする。
でも、言った。
こんな私のそんな言葉にも、貴女は真摯に応えてくれた。
洋榎「――――――――――――違う」
それは、チクリと胸を刺して。
それでも、なんとなく、分かっていたことで。
恋愛感情がなくても、一緒に遊んできたことや、
想ってくれたことは、嘘じゃないってことだから。
胡桃「……そう」
下心抜きで、一番の親友になれたのかもしれない。
そう、自分に言い聞かせて。
胡桃「なら、ほっとした、かな」
笑って、みせた。
それは、少し寂しいものだったかもしれないけど。
達観めいたものだったかもしれないけど。
でも嘘偽りのない、本当の笑顔。
胡桃「素直に、応援できるし」
よっこらせ、とややオーバーなリアクションで立ち上がる。
歩み寄って、座ったままの貴女の頭にそっと手を置く。
胡桃「……頑張ってよ」
胡桃「今日は、イブなんだから」
洋榎「……ああ」
胡桃「応援、してるからね」
洋榎「ありがとな」
胡桃「……ほんとだよ」
胡桃「でも、特別許してあげよう!」
胡桃「普段は煽り合ったりするけど、私は、大切な友達だって思ってるから」
洋榎「……ウチもやで」
本当は、友達以上になりたかったけど。
胡桃「ホント、フラれたりしないでよ」
胡桃「……誰よりも、幸せになってほしいと思ってるんだから」
――ねえ、この意味わかる?
洋榎「……照れるわ、そこまで言われると」
多分、一生、わかってもらえないままだろうね。
胡桃「……あの、さ」
洋榎「ん?」
胡桃「……一個、聞いてもいい?」
洋榎「……スリーサイズなら秘密やで」
胡桃「きょーみない」
洋榎「ああお、即答」
胡桃「……好きな人ってさ」
洋榎「ん?」
胡桃「……誰……・なのかなって」
洋榎「……」
胡桃「わかってたらさ」
胡桃「アドバイス、できるかもしれないじゃん」
洋榎「……」
洋榎「そうやな……」
洋榎「いいんちょには、ちゃんと言うとくか」
洋榎「……ウチ、な」
洋榎「ちゃちゃのことが、気になってん」
胡桃「……ああー」
勘違いが、あるかもしれない。
悲観的になっているだけかもしれない。
だけども、少なくとも私の中では、色々と腑に落ちてしまった。
会える頻度が下がっていたことや、授業は毎週固定なのに週によって会える会えないがあること。
正月に、何故か一人だけラテ欄にすら載らないレベルであるちゃちゃちゃんのスケジュールを把握していたこと。
他にも細かい所で色々。
「あれはきっと、ちゃちゃちゃんが好きだったから、ああなったのだ」と考えようと思えば考えられることばかりで。
事実はどうあれ、私を納得させるには、十分すぎる状況だった。
本当なら、今すぐ貴女を奪い去ってしまいたくて。
手を引いて、体格差だって気力でカバーし、どこかへ連れ去りたくって。
宛もないのに、どこか知り合いのいないところで、二人っきりになりたいくらいで。
――おーい、そこのオチビ。
だけど、手はこれっぽちも動かなくて。
動けないのは、怖いからとか、そういうのとはちょっと違って。
――ウチラも、いつまでもコドモのままじゃおられへんのかもな。
貴女と過ごした3年間が、グルグルと頭を駆け巡って。
笑顔も、悲しそうな顔も、真剣な顔も、間抜けな顔も。
たくさんたくさん見てきたけど。
その顔を、完全に曇らせることだけはしたくないと想ってしまったから。
――じゃあちゃちゃのんのことも、気軽に好きに呼んでよー。
それに、私は、友人としてだけど、ちゃちゃちゃんのことも大好きだから。
例え警察に捕まらずに確実に貴女を連れ去る方法があったとしても。
きっとこうして、貴女の告白が上手くいくことを願い、アドバイスを送るのだろう。
洋榎「……ホンマに、ありがとーな」
胡桃「いいって」
胡桃「……頑張ってね、洋榎」
洋榎「」
胡桃「……なに?」
洋榎「いや……何か違和感が」
胡桃「なにそれ」
洋榎「……何気に、ちゃんと呼ばれたん初めてかもな」
胡桃「ああ、うん」
胡桃「呼ぶタイミング、のがしてたし」
胡桃「ヒロって呼んでもよかったけど、シロとかぶるしねえ」
洋榎「誰やねん」
胡桃「そんなわけで、呼んでみたわけだけど」
洋榎「このタイミングでかー」
胡桃「……このタイミングだから、だよ」
胡桃「リスタートってことで」
洋榎「?」
胡桃「……ほら、洋榎は今からちゃちゃちゃんと第二の人生歩みに行くわけでしょ」
胡桃「その節目に名前呼ばないと、仲人で呼ぶ時困っちゃうじゃん」
洋榎「仲人になる前提か」
胡桃「こんだけアドバイス貰っておいて、しないつもり?」
洋榎「喜んで任命させてもらいます」
胡桃「あ、でも、ちゃんと告白してこないと、これからずっとヘタレって呼び続けるから」
洋榎「うぐっ!」
胡桃「わかったら、ほら、行く!」
胡桃「……早めにした方が、イブを長くすごせるでしょ」
洋榎「……」
胡桃「協力してるって悟られてもカッコつかないだろうし、私は時間潰してから帰るからさ」
洋榎「いや、悪いて」
洋榎「寒いし風邪引かれても困るから、遅く戻るんなら付きあわせたウチが……」
胡桃「いいから行く!」
胡桃「風に当たりたい気分だし」
胡桃「それに、戻ったら結果が分かるって状況の方が私好みだし」
洋榎「せやけど……」
胡桃「いーから!」
胡桃「今は何より、好きな人を優先してあげなよ」
胡桃「……だから、ほら。さっさと行く!」
洋榎「わ、わかった」
洋榎「頑張ってくる!」 タッタッタッタッタッ
胡桃「ふぁいとー!」
胡桃「洋榎なら行けるぞー!」
胡桃「……だって……」
胡桃「あんなに素敵な人なんだもん……」
胡桃「いけないわけ、ないよ」
タッタッタッタッタッ
胡桃「うわっ、戻ってきた!?」
洋榎「これ!」
胡桃「これ……缶コーヒー?」
洋榎「ホットコーヒー、好きやろ」
洋榎「確か、ファイア派やったよな」
胡桃「何を……」
洋榎「すまん、好意に甘えて、先戻るわ」
洋榎「これは心ばかりのお礼だ、とっておきたまえってやつ?」
洋榎「……ソレ飲んで、体冷さんようにな」
胡桃「……」
洋榎「ほんじゃ、頑張ってくるわ!」 タッタッタッタッタッ
洋榎「応援しとってやー!」 テェブンブン
胡桃「おー、ふぁいとー」 テェヒラヒラ
胡桃「……今度こそ行った、かぁ」
胡桃「……馬鹿だなあ」
胡桃「こっちが勝手にやってるだけだし、お礼なんていらないのに」
胡桃「……」
胡桃「本当に欲しいのは、こんなものじゃいのに」
胡桃「……」 カシュッ
胡桃「……」 ゴクッ
胡桃「あつっ……」
胡桃「手で触ってるだけならあったかかったのに、飲むとこんなに熱いんだ……」
胡桃「びっくりしたなー……」
胡桃「不意をついてすっごく熱い想いしたせいで……」
胡桃「何かちょっと……涙出そうになっちゃった……」
塞「胡桃」
胡桃「!」
胡桃「……っ」 ゴシゴシ
胡桃「さ、塞!?」
胡桃「なんでここに……」
塞「……散歩」
塞「それに、胡桃と洋榎が居なかったのには、私は気付いてたから」
胡桃「そ、そう……」
塞「……」
塞(気付くわよ、そりゃ)
塞(多分、私と、ちゃちゃのんは)
胡桃「あ、もしかして、心配かけちゃった?」
塞「……そうね」
塞「今は、すっごく心配してる」
塞「胡桃、結構抱え込むし」
塞「一人じゃ、満足に吐き出せないだろうから」
胡桃「な、なにを……」
塞「……私、さ」
塞「誰よりも、胡桃の理解者だったつもりだよ」
胡桃「……」
塞「あと、哩から伝言」
塞「私に相談出来ないことでも、抱え込まず、信頼出来る親友にくらい話しておけ――ってさ」
塞「……私じゃ、その資格はないかな?」
胡桃「そんなことは……」
塞「……」 ギュッ
胡桃「わっ!?」
胡桃「さ、塞……?」
塞「……私じゃ力不足だからさ」
塞「涙を止めて、それでも貯めこませないなんて真似は出来ないけれど……」
塞「こうして抱きしめて、涙を受け止めることくらいならできるから」
胡桃「……わ、私は別に……」
塞「大丈夫」
塞「私がこうして塞いでるから」
塞「誰も見ないし、誰にも聴こえない」
塞「私だって望みとあらば空を見てるし、風の音だけ聞いてるから」
塞「だから――――」
塞「本当に辛かったら、我慢しなくてもいいんだからね?」
胡桃「塞……」
塞の胸は、ふにふにしてて。
コートの感触で、もふもふともしていて。
厚着なだけあってあったかくて。
でも、きっと、コートの暖かさ以上にあったかくて。
胡桃「わた……し……」
貴女に貰った缶コーヒーと同じように、心のダムを壊しにきて。
コーヒーほど熱くもないのに、下手をしたらそれ以上に心に来て。
胡桃「うわああああああああああああああああああっ!」
子供のように、塞の胸に顔を押し付け、泣きじゃくった。
泣きつかれて落ち着いた頃には、少し心がすっとしていて。
対照的に、塞のコートは涙と鼻水でテカテカしていて。
胡桃「……ごめん」
塞「え?」
胡桃「コート……」
胡桃「弁償するから……」
塞「ああ、いいって、このくらい」
胡桃「でも……」
きっと塞は、この服を気に入っている。
ここぞ、というイベントの日はいつもこの格好だし、
今日なんて特に、香水までつけて、まるで「イブの日に大切な思い出を作りにきた」とでも言わんばかりだった。
なのに、その格好を……
塞「本当にいいのよ」
塞「……アンタの涙、塞ぐことが出来たんだもん」
塞「このくらい、安いものよ」
塞(……ほんとに、安いものだって思えるわ)
塞(きっと、涙を出なくさせたり、笑顔に出来たりするのは私以外の人だから)
塞(私には、こんなことしかできないけど)
塞(……満足とまではいかなくても、胡桃の涙を少しでも塞げることが嬉しいから)
塞(だから――ごめんね、哩)
塞(あれだけアドバイス貰ったのに、結局、活かせそうにないや)
塞(……)
塞(これでも自分じゃ器用で素直な方だと思ってたんだけどなあ……)
塞(結局私も、オトナになりきれない、ただの無知な子供だったってことかあ……)
塞(……)
塞(ごめんね、あいつの代わりに絶対幸せにする、なんて言えるほどの女じゃなくてさ)
一本の缶コーヒーを塞と二人で飲み干して、ゆっくりと会場へと戻った。
他愛のないことを話して。
はじめて会った人の話や、懐かしい顔の話をして。
スローペースで歩いてきて、ようやく戻った頃には撤収作業が始まろうとしていた。
貴女が笑みをたたえながらウインクをしてきたので、貴女の恋の結末を知る。
まだ胸はちょっと痛んだけど、それでも、さっきよりは、いい笑顔をできたと思う。
あれが最後の輝きだったかのように、私達の青春時代は徐々に弱まっていった。
塞はゼミの研究に関する一流企業の内定をすぐ貰ったけど、その後卒業するまで研究室に入り浸るはめになっていた。
それでも暇を見つけては、ウチに泊まりに来ていたけど。
漫ちゃんは後輩が出来て、恋愛にも区切りがついて、あまり会う機会がなくなった。
私自身が、冬まで内定決まらなかったのが大きいけど。
22歳で就職できない人間として哩ちゃんと同列に語られかけたが、回避した。
その哩ちゃんは、真面目に料理の勉強に打ち込んでいる。
浪人時代の癖か、もう本気で受験をするわけでもないのに、合間を見つけては参考書を読んでいた。
すっかり『趣味:受験』である。
何年も受けるだけ受けて不合格になってるらしい。
絹ちゃんはサークルで後輩が出来て忙しくなったようだし、
ちゃちゃちゃんは仕事が元から忙しかったのに、たまの休日を恋人との時間にあてるようになったため、
結局滅多に集まることが出来ずにいた。
セーラはセーラで東西戦で好成績を叩きだ出し、ドラフト入りを確実視され、
私の理解の及ばない世界で色々やっているらしい。
ちなみに東の代表もなかなかオールスターだったが、ここでは割愛する。
それと、私の就活は冬に終わったわけだけども、洋榎は――
哩「それでは、クリスマスと、胡桃の内定祝い」
哩「そして洋榎の5回生を祝って、かんぱーーーーい!」
洋榎「うっぎゃーー! ココロに大ダメージっ!」
最終学期の途中で、卒業できないことが確定した。
あの時の哩ちゃんのいじめっこな顔は絶対忘れられない。
そうして私達は、あのイブの日にちょっとだけオトナになって、
仕事というオトナへの片道切符を受け取って、
漫然と日々を過ごし、
卒業という、区切りを迎えた。
卒業式に、貴女はいない。
ゼミの仲間とは飲み会すらなかったから、早めに切り上げて帰ろうとする。
すると、いつもの場所で声をかけられた。
洋榎「いいんちょ!」
卒業できないはずの人が、そこに居た。
洋榎「よ、暇?」
胡桃「何してるの?」
洋榎「いや、いちごを待っとったんやけどな」
二人の呼び名はいつしか親しげなものになり、
その関係は仲間内では知らぬ者が居ない域に達していた。
洋榎「どうやらゼミの仲間と飲み会みたいで……」
胡桃「塞もだよ」
洋榎「セーラはサークルメンバーとらしいしなあ」
結局、貴女と夜まで談笑した。
本当に、無駄な時間だと思う。
何の益もない、中身のないくだらない話。
1時間前の話題すら思い出せないような会話。
洋榎「……メールや」
でも、それが、今はとても愛おしくて。
洋榎「悪い、いちご迎えに行くわ」
一生会えなくなるわけではないのに。
急にオトナになるというわけでもないのに。
胡桃「うん……それじゃあね」
洋榎「……またな」
何故だか、去っていく貴女の背中が、とても遠くに見えた。
結婚式は、披露宴も含めて、問題なく終わった。
いや、洋榎と披露宴を引っ掛けた面白くもないギャグが一部テーブル(私のところだ、恥ずかしいことに)で瞬間的にブームになったのは、
ちょっとした問題ではあったのだが。
とにかく、終わった。
何度も泣きそうになったけど、堪えられた。
貴女と奥さんの誓いのキスを見ても。
懐かしいVTRを見ても。
無事に耐えぬくことができた。
仲人の言葉も、ちゃんと笑って言えたと思う。
――多少塞に相談したけど、ちゃんと、自分の言葉で伝えたよ。
あの時貴女が、奥さんにそうしたように。
私も、ちゃんと、思いを言葉に乗せたよ。
大分不恰好なうえ、一番伝えたかった言葉は、とうとう言わずじまいだけどね。
洋榎「今日は、ありがとうな」
貴女とも、久しぶりに話した。
お互いあれから色々なことがありすぎて。
伝えたいことが多すぎて。
昔と違い、中身のある話を少しすることだけしかできない。
そんなことに、ちょっぴりオトナになった事実を教えられる。
胡桃「感謝するなら、原村和にじゃない?」
冗談めかして笑ってみせる。
アイドルにしてiPS細胞研究の第一人者である原村和。
彼女が同棲との電撃結婚をし国民の注目を浴びたおかげで、
紆余曲折の末女同士でこうして国内で式をあげられるようになったのだ。
洋榎「はは、まあな」
洋榎「でもま、あれや」
洋榎「いいんちょは特別枠や」
洋榎「……すまんな、いいんちょ」
洋榎「ホントはあん時、いいんちょの気持ちに――」
胡桃「いいよ」
胡桃「……今洋榎が幸せなら、それでいい」
洋榎「……」
胡桃「……胡桃って、呼ばせることが出来なかったのは、心残りではあるけどね」 フフ
洋榎「何や、それが望みなん?」
洋榎「そんなでよきゃ何遍でも呼んだろか?」
胡桃「いいよ、別に」
胡桃「どっちかっていうと、今は、いいんちょってあだ名の方が、気に入ってるし」
胡桃「……私と洋榎を結ぶ、絆みたいなものだしね」
洋榎「またえらい恥ずかしいことを言ったな」
胡桃「こーいうことをしれっと言えるのもオトナの証拠だよ」
洋榎「そんなもん?」
胡桃「……二次会、盛り上がってるね」
洋榎「バイトの料理は美味いからな」
胡桃「もうバイトじゃないけどね」
洋榎「……ありがとな、ホンマ」
洋榎「二次会、恭子と一緒に仕切ってくれたんやろ」
洋榎「ほんまに、色々としてくれて感謝を――」
胡桃「柄じゃないこと言わなくていいよ」
胡桃「欲しいのは、感謝の言葉じゃないもん。だから」
胡桃「そーゆーのいーから幸せにする!」
洋榎「ああ……絶対……!」
胡桃「ちゃちゃちゃん泣かせたら、ブン殴りに行くからね!」
洋榎「さっきも言うたやろ、言われんでも幸せにしたるわ!」
胡桃「嘘ついたら針千本おしりから飲ませるからね」
洋榎「バイトやないんや、されたら死ぬで!」
胡桃「いや、哩ちゃんでもそれはさすがに死ぬんじゃないかなぁ……多分」
洋榎「あ、そうや」 コソ
洋榎「このあと、恭子企画でブーケあるやろ」
胡桃「ああ、ヒモ引っ張ってブーケに繋がってた人が~ってやつ?」
洋榎「そうそう」
洋榎「アレの正解教えたろか」
胡桃「へ?」
洋榎「教会でのブーケは、無駄体力のセーラが持っていったからな」
胡桃「一人だけ飛距離おかしかったよね」
洋榎「絹かいいんちょにって思ったんやけどなあ」
胡桃「はは……」
胡桃(絹ちゃんのキャッチングスキルは塞が塞いでたんだよね……)
洋榎「まあなんにせよ、ウチはいいんちょに幸せになってほしいからな」
洋榎「こっそり当たり教えたるで」
胡桃「……いいよ」
胡桃「ダイジョーブ」
洋榎「そうか?」
胡桃「そーゆーのいーから、ホント、奥さん幸せにしてあげなよ」
貴女には、たくさんの幸せを貰ったから。
これからはそれを、奥さんに注いであげて下さい。
胡桃「私は私で、勝手に幸せになるからさ」
結婚して貴女はオトナになっていくけど、私はオトナにはなれない。
本当は、一人で歩いていけるだけの力なんて無い。
だけど――貴女がくれた、思い出があるから。
それを杖代わりにして、幸せを探し歩いていこう。
急にはオトナになれないけど。
少しずつオトナになって、やがて一人で歩ける立派なオトナになるために。
そして貴女に胸を張って報告することができるような幸せを得るために。
一歩だけ、オトナになろうと思う。
胡桃「洋榎」
洋榎「ん?」
心の底から、祝福だけを詰め込んで。
無理矢理でない自然な笑顔で、ちゃんと貴女に伝えよう。
胡桃「結婚おめでとう、親友」
カン!
投下終了です。
構成力の無さと遅筆のせいで遅くなったうえに分割にまでなり申し訳ありませんでした。
お付き合い下さりありがとうございました。
終盤相当巻いたので書いてないエピソードとか多々ありますが、各自脳内補完していただけたらなと思います。
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