二等兵「しっかりしてください軍曹!」軍曹「俺はもうダメだ……」 (23)

二等兵「何言っているんですか! すぐに応急処置をして衛生兵を……」

軍曹「バカかお前は……お前も軍人ならわかるだろう……この傷じゃ手遅れだってことぐらい……」

二等兵「確かに……軍曹の左足は吹き飛び……」

二等兵「右腕は銃撃でボロボロ……」

二等兵「腹からは接近戦で負ったナイフの傷で血に塗れ……」

二等兵「よく見たら胸にナイフが突き刺さってる状態ですが……」

二等兵「それでも……それでも応急処置をすれば命は!」

軍曹「やめろ……死ぬとわかっている奴に無駄なことするんじゃねえ……」

軍曹「俺みたいな手遅れはとっとと見捨てて……早く戦場に戻れ……そう教えたはずだ……」

二等兵「そんな……俺にはできません! 軍曹を見捨てて戦場に戻るなんて!」

二等兵「それにこの傷でもそんだけ喋れるんだから多分なんとかなるような気がするんです!」

軍曹「お前はいつもそうだ……訓練の時も甘いことばかり言いやがって……」

軍曹「そんな奴は戦場じゃすぐに死んじまうぞ……なんて……今の俺が説教できるわけないがな……ゴフッ」

二等兵「ぐ、軍曹――ッ!」

軍曹「うるせぇ……ちょっと血を吐いただけで騒ぐんじゃねえ……」

二等兵「あっ、まだ生きてた! てっきり血を吐いて息絶えたかと思いましたよ! びっくりさせないでください!」

軍曹「ハハッ……長く訓練していたおかげでタフさには自信があるからな……」

軍曹「そのタフさで息があるうちに……お前に頼みたいことがある……」

二等兵「頼みたいこと……?」

軍曹「俺の帰りを待っている妻と息子に……伝えて欲しいことがあるんだ……」

二等兵「そんな……軍曹が伝えてください!」

二等兵「生き延びて……ちゃんと生きたまま家に帰って、軍曹の口から直接伝えてください!」

軍曹「それができねえとわかっているから……お前に頼んでいるんじゃねぇか……」

二等兵「やめてください……諦めないでください軍曹!」

軍曹「妻と息子に……ずっと愛していたと……そう伝えてくれ……」

二等兵「だから……それは軍曹の口から直接……」

軍曹「あと……生きて戻れなくて……本当にすまなかったと……」

二等兵「生きて戻ればいいじゃないですか……そうすればそんな言葉伝えなくていいじゃないですか!」

軍曹「あと……墓場には毎年美味いウォッカを頼むぜ……ってな……」

二等兵「軍曹……好きですもんね……ウォッカ……」

軍曹「あと……俺がいなくなったからって浮気すんじゃねーぞ……ってな……」

二等兵(言えない……実は俺が軍曹の奥さんとデキてるなんて言えない……!)

軍曹「あと……」

二等兵「まだあるんですか!? ちょっと待ってくださいメモさせてください!」

軍曹「まだあいつらには伝えたいことは山ほどあるが……伝言はそれくらいにしておこう……」

二等兵「手帳3ページ分は言い残してまだあるんですか!?」

軍曹「後は……お前にも言いたいことがあるしな……」

二等兵「お、俺に!?」

軍曹「お前は……お前が軍に入ったときから俺が面倒を見ていた奴らの一人だった……」

軍曹「あの中でも……お前は一番の出来損ないだったよ……」

二等兵「……すみません、軍曹……」

軍曹「そう……あれは二年前のことだったか……」

二等兵「結構喋れますね」

軍曹「うん」

 二年前 訓練所

軍曹「トレーニングメニューを一通り終えるのに最後に終わったのがまたお前か!」

二等兵「ハァ……ハァ……」

軍曹「他の奴らはとっくに終えて休憩に入り、今はその休憩時間さえも終わろうとしている所だ!」

二等兵「ゼェ……ゼェ……」

軍曹「……まあいい、お前には特別に5分だけ休憩時間を与える。休憩が終わったら……」

二等兵「いえ……休憩は必要ありません!」

軍曹「何だと?」

二等兵「トレーニングに時間がかかったのに、特別に休憩を頂くなんてできません!」



軍曹「その後結局体力が尽きてぶっ倒れたのを……今でも覚えているよ」

二等兵「……すみません、本当に……」

軍曹「お前は体力も何もないくせに無駄に真面目だったからな……ハハッ……」

軍曹「自分の体なんてどうでもいいと言いたいかのように……国のために戦おうと必死に頑張り続けていた……」

軍曹「成績は出来損ないでも……精神は誰よりも軍人として素晴らしかった……」

二等兵「……ありがとうございます……」

軍曹「だから……お前は国のために働け……」

軍曹「こんなところで死ぬような……ダメな軍曹は放っておけばいいじゃないか……」

二等兵「でも……!」

軍曹「見ろ……口と胸と腹からもうこんなに出血している……」

軍曹「普通ならとっくに失血死している量だ……だからもう諦めろ……」

二等兵「いやむしろそんだけ出血してペラペラ喋れるんだからまだ助かりますって!」

軍曹「いいか……俺を助けたいという優しさを持つんだったら……」

軍曹「俺をこんな目に遭わせた奴に恨みを持ち……」

軍曹「そいつを……そいつを含めた敵陣を殲滅したいと思え……」

軍曹「その思いで……国のために戦うんだ……」

二等兵「……確かに……この国のために俺は戦っています……」

二等兵「あの相手の軍人たちにも家族がいるのに……彼らを殺すべく動いています……」

二等兵「でもそれは……あくまで俺の国を守るためです!」

二等兵「軍曹を殺した奴らへの恨みなんかで戦いたくはありません!」

軍曹「……二等兵……」

二等兵「それに……そもそも……」

二等兵「軍曹の足が吹っ飛んだのは軍曹が自分で仕掛けた地雷を間違って踏んじゃったせいだし」

二等兵「腕がボロボロになったのは銃の手入れをしていて暴発したせいだし」

二等兵「接近戦で負った傷は自分のナイフで切っちゃっただけだし」

二等兵「最終的に胸に刺さったナイフってさっき転んだせいですよね!?」

二等兵「一体誰を恨めって言うんですか!」

軍曹「そうだな……俺をこんな目に会わせた……運命そのもの……かもな……」

二等兵「カッコよく言わないでください! あなた今すごくカッコ悪い状況ですからね!」

軍曹「しかし……何だろうな……急に眠くなってきちまった……」

二等兵「待ってください軍曹! 寝ちゃダメです! しっかりしてください!」

軍曹「何……ちょっとだけ……ちょっとだけ寝るだけだ……」

二等兵「今目を閉じたら……軍曹は……!」

軍曹「……」

二等兵「軍曹! 軍曹!」

軍曹「……」

二等兵「軍曹ォォォォォ!」





軍曹「あの、ごめんホント眠いからちょっとだけ寝ていい? 10分したら起きるから」

二等兵「いや死ねよ! 起きるのかよ!」

軍曹「実は昨日徹夜で麻雀打っちまってな……正直もう限界で……」

二等兵「戦場にいく前日に何やってんすか軍曹! 誰ですか麻雀やろうって言い出したバカは!」

軍曹「俺だ……」

二等兵「アンタかよ! マジで何やってんすか!」

軍曹「いや俺としてはね……ちょっとだけのつもりだったんだよ……でもその時すごい調子よくて……つい、ね? わかるだろ?」

二等兵「気持ちはわかりますけど何も戦場に行く前日とかやめてくださいよ!」

軍曹「マジごめんって……帰ったら儲けた金で一杯奢るからさ」

二等兵「もう開き直って帰る気ですかその体で! いや何かもう軍曹なら帰れる気はしますけど!」

 数日後

軍曹「いやー、あの時はホント死ぬかと思ったよ」

二等兵「よく生きてますよね本当に」

軍曹「こうして約束通り一杯奢らせてるんだから文句言うな」

二等兵「ところで軍曹、あの時どうやって帰ったか覚えてます?」

軍曹「えー、何か普通に歩いてた気がするんだけど」

二等兵「でも軍曹、あの時左足吹っ飛んでたんですよ?」

軍曹「……あれ?」

軍曹「いや待て……確かに俺は歩いた記憶があるぞ?」

軍曹「じゃあこの記憶は足が吹っ飛ぶ前の記憶と混ざっちまったのか?」

二等兵「実を言うとですね、確かに軍曹は歩いて帰ったんですよ」

軍曹「? でも足が……ん?」

左足「やあ」

軍曹「……」

軍曹「あるやん、左足」

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