阿良々木暦「時定高校?」 (524)
日常と物語シリーズのssです。
時系列は大体偽物語と傾物語の間くらいです。
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001
僕は今までにいろんな怪異を見てきた。
鬼、蟹、蝸牛、猿、蛇、猫、蜂、不死鳥、など
どれもこれもおかしいものであったが
今回、僕の出逢った怪異リストにまた一つ新しい怪異が追加されるのだ。
何故か。
それを僕は語らなければならない。
002
月火や火憐のことやらなんやらで大変だった
夏休みがあと少しで終わろうとしている。
結局海にもいくことができないまま、今年の夏休みは終わりそうだ。
そんな中、さて、何をしようかと考えていた僕は今、
書店の前にいるのだった。
あと5、6日あるので、なにか二冊くらい本が読めたらいいなと思い、
ここに来たのだった。
僕は最近の流行にはあまり目を向けていない。
しかし、今日はそんな世の流行の波に乗っかってみようと考え、
『ライトノベル』というジャンルの書物を買うことにした。
ライトノベルというものがどのようなものだというものはなんとなく把握している。
華やかな絵が入っていて、小説とは違った表現技法が多く使用されているものらしい。
本当にそんなものなのか、いまいちよく分からないが。
間違っても僕みたいに、怪異に出くわしたりする人間のことがかかれている
ライトノベルなんてものは一つもないだろう。
因みにライトノベルというのは長くて、とても言うのが面倒くさいので、
『ラノベ』と略して言われることがあるらしい。
なので、僕もその名称でこれ以降呼ぶことにする。
さて、そんなことを考えてながら僕は書店へと足を踏み込んだわけだが、
・・・・・・早速それらしきものが、ある。
恐らくそれは僕が探しているライトノベルというジャンルの書物だろう。
因みにライトノベルというのは長くて、とても言うのが面倒くさいので、
『ラノベ』と略して言われることがあるらしい。
なので、僕もその名称でこれ以降呼ぶことにする。
さて、そんなことを考えてながら僕は書店へと足を踏み込んだわけだが、
・・・・・・早速それらしきものが、ある。
恐らくそれは僕が探しているライトノベルというジャンルの書物だろう。
華やかな絵、というか萌え絵。
そんな絵が描かれている。
ーこれはブックカバーをかけないとちょっと恥ずかしいな
この絵を描いた人には申し訳ないが、
到底僕に教室でこの華やかな絵をクラスメイトに見せびらかしながら本を読む度胸はない。
決してこの本を馬鹿にしている訳ではないが、そう思う。
あともう少し指摘するならば、このイラスト。
もう少し胸を強調するといいと思う。
恐らくイラストを見る限りAかBくらいだと思うが、
もう、大げさなくらいでかく ーそう、羽川くらい
でっかく描いちゃえばいい!!
ーとりあえず僕はこの本を買うことにした。
僕は今日、千五百円しか持ってきてないわけだが、
この本は五百円(税抜)というお手頃な価格であった。
随分とお金が余ったので、もう一冊漫画か何かが買えそうだ。
某維新の某物語シリーズなんて普通に千五百円するもんなぁ。
というか、それは僕が主役の『ラノベ』であった。
カゴにそのラノベを入れた僕はそそくさとその場を離れ、
漫画コーナーへと向う。
何か目当ての漫画があるという訳じゃないが、
何か気に入ったものがあれば買おうかと思う。
『絶望先生』とか、
『進撃の巨人』とかが中古で安く売っていれば、そっちを即購入するが。
漫画コーナーにたどり着いた。
僕はいろんな漫画を片っ端から立ち読みしていった。
『日常』『生徒会役員共』『かってに改造』『トリコ』『ワンピース』
とかを読んでいった。
これらの本を購入していくつもりはさらさらない。
あくまで立ち読みするのがいいのだ。
理由はよく分からないが。
書店からしたら迷惑なのかなと思いつつ、
僕は出版社ごとに分けられた本棚に入っている漫画を一つずつ読破していく。
この行動に全く意味を感じなくなったのは30分後くらいだった。
後悔する。
無駄な時間だ。
そろそろ真剣に本を選ぼう。
しかしどうも目につくなぁ、この本。
なんで表紙もない、ブックカバーもない、なんにもない。
白い白い単行本。
なんの漫画なのかさっぱり分からない。
新手の広告なのかなんなのか凄く気になる・・・・・・。
とりあえずよんでみるか。
僕はそっとその本を手に取り、
その本を開く。
中身まで真っ白。
どうやら、何かの広告という訳でもないようだ。
僕はその本を閉じようと思ったが。
そこで意識が飛んでしまった。
003
「お前様!起きるのじゃ!お前様!」
忍ーーー忍?
忍の声が聞こえる。
「起きるのじゃ!」
「はっ」
僕が目を覚ますとそこは大型書店ーではなく、どこかの住宅街だ。
よくありがちなごくごく普通の住宅街。
ありがちな住宅街なのだが・・・。
僕たちがすんでいる町とは違う。
見覚えのある風景ではない。
「忍、ここはどこなんだ」
「儂が知りたいわい、そんなもの。お前様はいったいなにをしたのじゃ!」
「本を・・・買った?」
そういえば買ったはずのラノベも手元から消えている。
ん?何が起きたんだ?
「何で曖昧な返事なのじゃ・・・」
「じゃ、じゃあ覚えている範囲で話すよ」
と言って、ラノベを買うため、書店へと向かったこと。
漫画コーナーに言ったら白い本があって、それを開いたら意識が遠のいたことを忍に話した。
「そりゃ変な話じゃのう、怪異か?」
「忍野からそんな怪異聞いたことあるか?」
「いや、あの小僧から聞いた覚えはないのう・・・」
「そうか・・・じゃあ怪異である確率は低いな・・・」
「あっ!お前様!これ!」
「ん?何だ?」
忍は電柱に書いてある何かを背伸びで指を指していた。
正直可愛い。
なんてことを思うとペアリングしている忍に興奮がそのまま伝わってしまうので、
僕はその感情を堪える。
・・・でも可愛いな。
「これ!見るがよい」
『時定町』と書いてある。
「ん?じていまち?」
「いや、『ときさだめちょう』と呼んだ方が自然じゃろ、ここは」
「あぁ、そうか」
どっちでもいいが、『ときさだめちょう』のほうが言いやすいので
僕もそっちで呼ぶことにした。
「どうやらここは時定町と言うそうじゃのう」
「規律正しそうな名前だな」
まるで羽川のように。
「とりあえず歩いてみないことには始まらないからな・・・」
「じゃあ、あっちにいってみるかのう」
と言って、高校がある方向を指指した。
「学校じゃあないか、まさかいくのか?」
「いやいや、まさか。そんなことするわけなかろう。
いきなり金髪の幼女と黒髪のロリコンにあったら誰だってパニックなってしまうからのう」
「・・・・・・それは僕が金髪の幼女を誘拐しているように見えるからか?」
「言わなくてもわかるじゃろ」
「・・・・・・」
僕はどうやらロリコンだと、忍からあらぬ誤解を受けているようだ。
いつか解かなければならないな。
しかし、それは今ではないだろう。
「まぁ、学校に通っておる人間から情報を収集すればいいと儂はいっておるのじゃ」
「あぁ、そういうことか」
「うっかり誘拐せんように気をつけるんじゃぞ」
「しねぇよ!!」
「どうやらここは高校らしいの」
「時定高校・・・・・・か」
忍と僕は路地裏の狭い道から、その高校の校門を覗き見ながら言った。
完全に不審者である。
特に、僕が。
「ほう、案外しっかりしている学校じゃの」
「そうだなぁ」
僕は適当な返事をしながら、下校中の女子高生の絶対領域を眺めている。
なんだか、最高の気分だ。
「おい、お前様よ」
「!?」
「何をやっておるのじゃ?大分興奮しているようじゃが」
しまった。
「そ、そうか?」
「何度も何度も言うように、儂とうぬはペアリングしているのじゃ。
お前様の興奮やらなんやらはすぐ儂に伝わってくるのじゃ。
つまり、
嘘はつけぬぞ」
「すいません絶対領域眺めていました」
「ふん」
僕はいつの間にか忍に足をはらわれ、自然と土下座の体制になっていた。
「なぁ、忍」
「なんじゃ」
「そろそろ声かけないか?」
「うーむそうじゃの、そろそろそうするかのう」
「でもなぁ、警戒されちゃうよな、絶対」
「お前様のような変態なんかは通報されてしまうと思うがのう」
「声をかけただけでか!?」
「即、逮捕じゃ」
「物騒な世の中になったなぁ!!」
だとしたら、変態に優しくない国だな!!日本!!
いや、僕が変態という訳ではないが。
「じゃあ、あの娘に声をかけて逮捕されてきたらどうじゃ?」
「逮捕前提で話が進んでいる!?」
「ってどの娘だ?」
「ネジがついている娘じゃよ」
・・・ネジがついている娘。
この学校はコスプレが認可されているのか?
とりあえずそんな娘は一人しかいなくて、異様な存在感を放っていたので、
すぐに見つけることができた。
というか・・・あのネジ・・・。
「動いてないか?」
「・・・確かにのう、ロボットか?」
・・・ますます気になるなぁ。
「よし、いくぞ忍!!」
「なんか張り切っておるぞ、我が主様が」
僕と忍は数々の女子高生の間を
限りなく存在感を薄めながら通り抜けていき、
そのネジを着けた娘の後につくことに成功した。
かれこれ3分くらい尾行している。
「尾行・・・というよりストーカーかのう」
「犯罪性が増しちゃうじゃないか!」
「やってることは同じじゃろ」
「・・・まぁ」
確かにそうだ。
まぁあくまで、娘のことを狙っているわけでははないので問題はないだろう。
しかし、こんなに間近で全く知りもしない人の
絶対領域を見るのは初めてかもしれないなぁ。
絶対領域っていいよな・・・。
個人的な見解だが、絶対領域は絶対領域のままのほうが興奮するものである。
妄想が広がるからだ。
何色の下着を穿いているか、とかなんとか。
見えてしまっては意味がない。
妄想であるからこそ価値があるのだ。
妄想が妄想で無くなったときの衝撃は大きい。
例えば清純な娘が水色の下着を着用しているかと思ったが、
実は紫の下着を着用していたとしよう。
その時。その時に、その娘のイメージは一気に清純から淫らに変わってしまうのだ。
知らないほうがいいこともある。
だから妄想で済ましちゃえばいいのだ。
だが、見たいという気持ちもある。
ていうかめっちゃある。
このネジ娘の下着はなんだいったい。
イメージがブッ壊れてもいい!!
見たい!!
なんて思って歩いていたら、いつの間にか前傾姿勢になっていた。
その姿勢は明らかにスカートの中を覗くような姿勢で、
どうみても不審者っぽい。
・・・というか不審者だ。
その時、待ってました!というタイミングで、風が吹いた。
ベタなアニメの展開か!!
そのスカートの中身が明かされる。
白。
白だ。
無地の白だ!一番シンプルでいい!!
「きゃああああああああああああ!!!!」
・・・ん?なんだ?
事件か?
いや、どうやら僕に向けての叫び声のようだ。
僕は無意識に娘の尻に顔をくっつけてしまっていたようだ。
今気づいた。
僕としたことが。
「吸血鬼・・・・・・」
忍がなんかをためている。
元気玉か?
気か?
それとも・・・
「パンチ!!!!!!!!!!!!」
うおっ!?
頬に強い衝撃が走る。歯が一つ抜けたかもしれない。
やはり、忍は許してくれなかったようだ。
「うっ!」
そのまま僕はコンクリートに体全体を打ち付けてしまった。
すぐ回復するとわかっていても、痛みにはあまり慣れないものだ。
「な、なんですか!!あなたたち・・・」
「すまないの、我が主様が良くない性癖を持っているようでのう」
いきなりスカートに顔を突っ込まれてパニックだろうな・・・、この娘。
今日は終わりです。
ちなみに時定市です
>>28
失礼、噛みました。わざとじゃありません。
時定町→時定市でした。
ところで、もう僕の傷は癒えてしまった訳だけれども、
ここで起き上がるのもなんなので、僕は寝転がったままにすることにした。
別に変な思惑は一切ない。
一切な。
「なななななななんですか!」
「まぁ落ち着け、ネジ娘よ。
私は鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
今は忍野忍じゃ」
「へ?きゅ、9血鬼?」
ますますパニクってるじゃないか。
「取り敢えず、安心してくれればよい。私はお前を襲う気など一切ないからのう」
「は、はい。なんとお呼びすれば」
「そうじゃのう、忍、とでも呼んでくれればよい」
「は、はい。分かりました。忍さん」
「あぁ」
状況を飲み込むのが早いなぁ、この娘。
「と、ところで・・・」
「なんじゃ?」
「私は先ほど何をさせられたのでしょうか・・・。
何やら、あの、下着の方に人の温もりを感じたんですが・・・」
この娘!何をされたのか気づいていない!
「あぁ、それはそこでお前の下着を
今でも覗いているその男にでも聞いてみるがよい」
「ニヒヒヒヒ・・・、やぁ、お嬢ちゃん、お名前は?」
「ひぃ!!」
なんだ、なんだ、その声は。
この世で一番恐ろしい物を見たみたいな声をあげて。
・・・まぁ、第一印象は最悪だな。
その後、その娘の名前が『東雲なの』だということが判明した。
僕は名前を聞いた後起き上がった。
僕の脳裏にはしっかりこびりついた。
彼女の下着が。羽川の下着とはまた違った良さがあったなぁ。
いゃあよかった。
「何を・・・ニヤニヤしてるんですか」
「いやいや、何でもないよ
ちなみに僕は阿良々木暦だ。
阿蘇山の阿に良い良い、若木の木に西暦の暦で阿良々木暦だ」
「突然の自己紹介ですね・・」
「なんとお呼びすればいいですか?」
「ん?普通に阿良々木さんって呼べばいいさ」
「娘よ、この男に『さん』付けして呼ぶ必要はないぞ」
「あ、分かりました!お願いしますね!
阿良々木」
「遠慮なく呼んできた!?」
「ところでなのちゃん」
「はい、なんでしょう」
「君にいいことを教えてあげるよ」
「なんでしょう」
「僕の名前を『ありゃりゃ木さん』って呼んだ後に、
僕が何か突っ込みを入れるから『失礼、噛みました』って言ってくれ。
そして、『違うわざとだ』って僕が言ったらなのちゃんは『失礼、かみまみた!』
って言ってくれ」
「それをするとどんないいことが・・・?」
「肌年齢が12歳ほど若返る」
「へぇすごいですね!」
「信じた!?」
忍が鋭い突っ込みを入れた。初めて聞いたかもしれないな。
忍のキレのいい突っ込み。
「じゃあ、いくぞ」
「はい!」
なのちゃんは息を大きく吸い込んだ。
「ありゃりゃ木さん!!」
「人の名前をうっかりはちべえみたいに呼ぶな!!僕の名前は阿良々木だ!!」
「失礼、噛みました!!」
「違う!!わざとだ!!」
「失礼、、、かみまみた!!てへっ!!」
か、可愛いいいいいいい!!
完全に僕の心臓をキャッチした!!
八九寺には後でネタの使用料を払わなければならないな。
「ありがとう!なのちゃん!!
君の肌年齢はきっと今、4歳くらいになったよ!!」
「わぁあ!本当ですか!!ありがとうございます!!」
「・・・我が主様と気が会うとは、
娘、うぬもなかなかの変態なのではないのかのう?」
「はい?」
「いや、何でもないわい。
ただ・・・、
将来詐欺に騙されないようにな」
「ん、はい!」
僕はこの娘と話しているのが楽しくなってしまった。
しかし、楽しいは楽しいのだが、
かなり気になっていることが一つあって、どうも話に集中できない。
それは、彼女の最大の特徴といえる『ネジ』だ。
動いているので、ロボットなのだろうか。
ただ、こんなに人間らしいロボットがあり得るのだろうか?
笑ってるし、どうもロボットには見えない。
ということで、いつネジに関してなのちゃんに聞こうかと
考えていた。
タイミングがつかめない。
どうか、忍が質問してくれないかと
人任せにしている。
「なぁ、娘よ」
「何ですか?」
「付かぬことを伺うようじゃが・・・
うぬは『ロボット』なのか?」
さすが忍さん!!遠慮なく聞いてくれた!!
「え?いやいやいやいや!!
そそそそそそs、そ、そんな訳訳訳訳訳なななないじゃななないですかぁぁぁあ!!」
「分かりやすすぎるじゃろ・・・うぬ・・・」
「じゃ、じゃあ証拠を見せますよ!
私が人間、ヒトだという証拠を!!」
「なんじゃ?いったい」
「え、えーと・・・。
そ!そうだ!私にはちゃんと痛覚があります!!」
「痛覚か・・・。なにで証明するのじゃ?」
「うーん・・・・・・しっぺでどうですか」
「分かったそうするとしよう」
なんだか二人で何かやり始めたな。
僕は今発言するチャンスを見失っている。どうしよう。
とりあえずなのちゃんがロボがどうか見守っておこうと思う。
「よし、そうと決まればしっぺを始めようかのう」
忍が何やら張り切っている。すこし笑みを浮かべている。
「娘、腕をだせ」
「は、はい」
どうも腕とか聞くと、春休みの出来事のせいで奪われた腕そのものを
差し出すというイメージが僕にはあるが、
この場合、ただ忍の前に腕を差し出すだけであった。
「よし、では動かずにそのままでおれよ」
「はい」
なのちゃんは目を瞑りながら構えた。
忍も右腕をゆっくり挙げている。
僕はただ見守っていた。
「さん.......にい.......」
忍は何故かノリノリである。しっぺという行為が好きなのだろうか。
「いち.......ぜろ!!」
その瞬間、忍は人差し指と中指だけを突き立てた右手を降り下ろす。
なのちゃんの右腕に向けて。
「・・・うっ!」
なのちゃんの右腕に忍の人差し指と中指が当たった。
やけにスローな動きに僕には見える。
忍はいかにも爽快!という顔をしている。
ーーーーーその時、何かが落ちる音がした。
何かか硬い物、重みのあるなにかが落ちたような。
そんな音がした。
一瞬、気のせいかと思ったが、気のせいではない。
忍も僕も同じでその状況を信じることができないだろう。
通常落ちる訳ないものが転げ落ちていた。
そう、
具体的に言うと忍と僕が目を向けた先には
右腕が落ちていた。
「「「うわああああああああ」」」
もう誰が誰の悲鳴だか判別できない。皆が皆叫んでいた。
しかし、不思議なことに血は一切でていなくて、
代わりにロールケーキが出ていた。
もう、訳がわからない。
なのちゃんがロボットじゃなかったらなんなんだと思わざるをえないだった。
「こ....こ、
これは決して親指USBとか右腕がロールケーキとか頭から甘食だとか、
そんなんじゃなくて・・・あの・・・
事故です!!」
確信した。この娘、ロボだ。
そんな言い訳がかったことをいいながら
なのちゃんは右腕をはめる。
しかしびっくりしたなぁ、こんなに高性能なロボットがいるのか!
と思う。
いや、
確信したと勢いで思ったが、あくまでまだ推測だから本当にロボットかどうかは定かじゃないが。
もしかしたら特殊な骨の持ち主で腕の着け外しが可能なだけなのかもしれない。
「えへへへへ、けっさくなんだけど」
右腕が落ちたというのに平気で笑っている・・・だと!?
なんて声のする方を見ると『金髪の幼女』がいた。
『金髪の幼女』とは・・・。それだけ聞くと忍だな。
うん、そうだ。『白衣を着ている金髪の幼女』と言った方が分かりやすいだろう。
幼女なのに立派な科学者。そんな雰囲気をかもしだしていた。
「なのけっさくなんだけどー」
「はかせぇぇぇぇ!もうやめてくださいよぉぉぉぉ!!」
やっべぇ。涙目のなのちゃん可愛い。
何かに目覚めそうだ。
ん?というか今『博士』って言ったか?
・・・・・・いや、まさかな。そんなまさかな。
まさかまさか、まさかな。
・・・・・・まず名前を聞くとしよう。
「やぁ、そこの白衣のお嬢ちゃん。名前はなんていうんだい」
「ん?なの、誰?この人」
「あ・・・・・・」
なぜ言葉に詰まるんだ!!なのちゃん!!
まさか『私のパンツをめくってきた見知らぬ男』とか紹介するつもりじゃないだろうな!?
いや、事実だから言い逃れはできないが!!
「・・・・・・この人は優しい人ですよ、優しい人ですよ」
「あー優しい人かー」
「阿良々木暦さんっていいます」
「ふーん、変な名前」
なのちゃんが僕の事をすごく曖昧に紹介してくれたことにありがたさを感じるばかりだ。
しかし、僕の名前を変な名前と言った白衣の娘。さらっと酷いことを言いやがる。
意外と暦っていう名前は気に入っているんだがな・・・。
「ふーん、そうなのか、僕は変な名前か!
じゃあ白衣の君の名前を是非教えて貰いたいなぁ!」
「むっ、
はかせっていいます!
なのを作りました!」
「ふーんそうなんだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
今、何て言ったんだ?
「え?な、何だって?」
「なのをつくったのー!!はかせが!!」
「あほーーー!!なにいってるんですかはかせは!!」
やっぱ本当にロボットなのか、なのちゃんは。
てかこの幼女が作ったって・・・・・・・・・・・・。
「すげえええええええ!!!!!!!
はかせ!!!!!はかせすげぇよ!!!!!!
忍よりすげええよおおお!!!!」
「吸血鬼パンチ!!!!!!!」
僕は3mは飛んだだろうか。
なんの前触れもなくやってきた吸血鬼パンチは、意外と痛くなかった。
004
僕と忍はなのちゃんとはかせが住むという
『東雲研究所』に入らせてもらうことになった。
日本家屋って感じがして、いい感じの家だ。サイエンスとは無縁な気がするんだがなぁ・・・。
「とりあえず、忍ごめん」
「なんじゃい!!
初対面の本当の幼女を儂より崇高しおって!!儂は500歳じゃぞ!!500歳!!
どんな現代のテクノロジーを持ってしても越えられないんじゃぞ!!」
「本当にすまなかった、ちょっと興奮してた」
「マジロリコンじゃな!!お前様は!!」
僕は忍に研究所の居間で謝っていた。意外と気に触れてしまったようだ。
確かにさっきは軽率な発言をしてしまったと自分でも思う。
ただ、やっぱ8歳の幼女が女子高生ロボを作ったなんて事実を知ったら
興奮を抑えられないだろう。
人の家に入り込んで起きながら
その家の持ち主に発言する隙を与えないという状況になってしまっているが、
この際気にしないでおこう。
「すいません忍さん。どうしたら許してもらえますか」
「元の世界に戻ったら半径3000km以内のミスタードーナツを
全て買収するのじゃ!!それで儂はお前様を許すという気持ちになるじゃろう」
「そ、そんなぁ」
「儂のPRIDEを傷つけた当然の報いじゃ!!」
なんか今、やけに発音がよかった気がするが。
「はかせからていあーん!!」
なのちゃんの製作者であるはかせが手を挙げている。
よくこの状況で割り込むことができたなぁ。
「カブトムシ相撲で勝負すればいいと思うんだけど」
「!?」
とてもなのちゃんの製作者とは思えぬ発言・・・!
本当にただの幼女じゃないか!!
「カブトムシ相撲じゃと!?
あの、罪なき昆虫同士を人間の手によって衝突させあう競技か!?」
「言い方があったろ、もっと」
「ううん、夏だけど、カブトムシもってないから紙で作ったカブトムシで相撲します」
「ほお」
「そうか、つまり紙相撲ってことかのう?
そういうことなら、やってやろうかのう」
「あぁ、僕もそれでいいと思うよ」
「じゃあ、フィールド準備してくるー」
「はかせ、待って下さい!!」
「ん?」
「もう準備できていますよ」
「おぉおお!!さすがなのなの!!」
すげぇ・・・・・・。
なのちゃん。
可愛い・・・・・・。
「じゃあ、用意、スタート!!」
というはかせの掛け声と共に僕と忍の紙相撲対決が始まった。
「うおおおおおおりゃああああああ!!!」
しかし、
忍がフィールドを投げ飛ばしたため、勝負は瞬きもしないうちに終了するのであった。
っていうかこいつ、やり方知らないな?
「ふん、どうじゃい」
「いや、威張られてもなぁ、忍。そういうもんじゃないんだぞ?紙相撲って」
「忍のかちぃーー!!」
え??なにいっているんだはかせ。
「忍さん強いですねー」
え??なのちゃんまでなにをいっているのかな?
・・・・・・どうやら僕以外、正式なルールを知る者はこの居間にはいないようで、
まるで僕がルールを知らないみたいな感じになっていた。
「じゃあ、罰ゲーム~!!」
「え?
これって忍と僕の勝敗を決める為の紙相撲であって、罰ゲームだなんて聞いてないぞ!!」
「もうそんなことどうでもよくなってきたわい。ゲームは楽しむものじゃ」
「気が変わるの早っ!」
「じゃあ、何の罰ゲームにしましょうかねぇ」
なのちゃん・・・!そんなに笑顔で言わないでくれ!!
意外と酷い罰ゲームを考えそうで怖いんだけど!!
そしたら、案の定。
「・・・・・・全身猫のコスプレっていうのはどうですか?」
・・・なのちゃん!!なんてことを!!
「いいねぇ!!カワイイと思うんだけど」
「ふ、楽しみじゃのう。我が主様の猫耳姿とは。
どんな醜態を晒してくれるのかのう・・・、楽しみじゃわい」
「ゲームは楽しむもんだけど!!
そういう楽しみ方はどうかと思うぜ!!僕!!」
「第一、そんな服あるわけないだろう!!」
「あるよ」
どっから出てきたんだその服!!
はかせ笑顔で出してきたのは、
女物の水着と、尻尾、猫耳、猫の手、等々だ。
え?
「これを着ろと?」
「罰ゲームに従わねば、もっと重い罰がまっておるぞ?」
「・・・・・・着ます」
なんだか今日の忍、ドSだなぁ。
異世界に来たせいなのかな。
さて、着替え終わった訳だが・・・・・・。
違和感しか感じない・・・。
サイズが全然あってない・・・のはしょうがないか。
しかし、あらゆる羞恥心を捨ててきたすもりだったが、
かなりはずかしい。
特に猫耳が。
人にしてもらうぶんにはいいのになぁ。
「ぷぷっ、おかしい、変なの」
「」
なのちゃんは声が出ないくらい笑っている。そんなにか!!
「・・・今までのどんな我が主様より・・・・・・最高に面白いとおもうぞ・・・儂は・・・・・・!!
「あは「あはははあはは「あはは」
「春休みの時さながらの笑い方をするな!!」
「で?僕はどれくらいこの格好でいろと?」
「うーん・・・1時間くらいでいいと思うんだけど」
「30分位でいいんじゃないんでしょうかねぇ?」
「いや・・・いっそのこと500年っていうのはどうじゃ?」
「冗談キツいぜ!!忍さん!!」
「じゃあ、30分と60分平均にして、45分でどうでしょうかね?」
「んんん・・・」
45分か・・・。
「じゃあなのちゃんも45分何かやってくれるんだな?」
「ん?は・・・はい、できることなら」
よし来た!!ならば僕も体を張るしかないな!!
「やってやるよ!!45分!!」
「お?どうした?お前様よ。ついに腹括ったか」
なのちゃんの猫耳姿・・・、是非ともお目にかかりたいものだ!
そう考えると今の罰ゲーム、あまり悪くない。
この先の褒美を考えればこの程度の苦痛、屁でもない。
耐えて見せる!!
「お前・・・・・・。誰だ」
「ん?」
そこにいたのは黒い猫。赤いスカーフを着けた、低い声の猫。
猫。
猫なのに低い声。
って
「なんでしゃべってんの!!?この猫 !!」
「なんで女装家を家に上がり込ませてんだよ!!?娘!!」
今日は終わりです。
005
理解するのに少なくとも三分もかかったが、どうやら
あの赤いスカーフのおかげで猫は話せているらしい。
しかも、あのスカーフもはかせが作ったと言う。
この家ははかせの発明品に溢れかえってそうな予感。もっと他の発明品を探したくなってきた。
ちなみにあの猫は「阪本」という名前らしい。センスがあるのかないのか・・・。
僕だったら絶対につけないだろうな、そんな名前。
ところで今、この居間はとてもカオスなことになっている。
JKロボ、8歳の科学者、喋る黒猫、鬼、人間もどき。
人間が一人しかいない。
こんな状況はなかなかないだろう。
異世界ならでは、と言ったところか。
・・・異世界と言えばすっかり本題を忘れていた。
ここがどこなのかを聞く為に尾行していたのに、なに遊んじゃってんだ。
すっかりたのしんじゃってるじゃん。僕たち。
「おい」
机の上に寝転ぶ阪本が言う。
見た目と声が一致しない。違和感を感じるのは僕だけであろうか。
「お前、何者なんだ。どっから来たんだ」
「そういえば聞いてませんでしたね、名前くらいしか」
「娘、お前正体が分からない奴らを家に入れたのか!?」
「あ、はい。今後気を付けます・・・」
「・・・ったく」
僕は悩んだ。
本当の事を言ったところで信じてもらえるだろうか。
本の中に入り込んでしまった、または吸い込まれてしまったかもしれない。
それで、ここについた。
なんてファンタジーを信じてもらえるだろうか。
しかし、信じてもらうしかないだろう。今は。
ということで僕は、ありのままを語った、包み隠さず。
あ、なのちゃんのパンツ関係の事は伏せておいたが。
それ以外は全部語ってやった。
「ってことなんだけど」
「へーそうなんですかぁ」
「・・・なんか胡散臭いなぁ」
疑心暗鬼な阪本。
「夢の話みたいなんだけどー」
遠回しに嘘だろということわ言ってくるはかせ。
どうやら信じているのはなのちゃんだけのようだ。
純粋な心の持ち主なんだろうな。
「で、どうしたいんだ、お前らは」
どうやら信じられなくてもとりあえず今は言いようだ。
「僕がいた元の世界に戻りたいんだ」
「・・・はぁ、
そりゃ俺たちにはどうしようもできねぇな」
そりゃそうだ。
「じゃあ、つまりはこの研究所に泊めろってことか?阿良々木」
この猫は僕をそう呼ぶらしい。
というよりかは、察しがよいなこの猫。まだ僕そんなこと言ってないんだがな。
とりあえず僕もそう言おうとしていたので、助かった。
「あぁ、そういうことだ、いいか?」
「いいのか?娘、この男を泊めて」
「うーん、多分大丈夫だと思いますよ?」
それは・・・
「泊まっていいってことかい・・・?なのちゃん・・・」
僕は子供のような眼差しでなのちゃんに言うのだった。
「・・・はい、そうですね。
元の世界に戻れるまで、どうぞ、ごゆっくりしていってください」
「ぃぃぃぃいいいいやっほおおおおおおおおううううう!!!!」
「心が広いのう、うぬは」
嬉しい!!嬉しいぞぉ!!これはもう僕、元の世界に帰らなくてもいい気がしてきた!
ずっとこの世界に居ようかな!うん、そうしよう!
そして一生をこの研究所で暮らす事にしよう!!
なのちゃんとイチャイチャしよう!!
はかせとイチャイチャしよう!!
新・阿良々木ハーレムを作ろう!!夏休みの宿題なんてどうでもいい!!
この生活を楽しもう!!
もう、器から零れまくった僕の嬉しさが爆発し続けている。
「・・・はしゃぎすぎじゃろ、子供じゃあるまいし」
「あ、ああ・・・すまなかった、ちょっと大人げなかったな。
・・・・・・でも嬉しいいなぁああ!!」
「・・・・・・」
その、廃棄物を見るような目はなんだ、忍!
僕は廃棄物なんかじゃないぞ!
僕の興奮がWBCで日本が優勝したときぐらい覚めやらぬ中、
阪本はふと思い出したかのように言うのだった。
「ちなみに阿良々木、お前は何歳だ?」
なんでここで年齢を聞いてくるんだと疑問に思う。
というか大体見れば高校生ってわかるだろ・・・・・・多分。
・・・僕ってそんなに老けてる?
まぁ年齢なんかを偽ることなんてする必要は今の僕にはないので、
正直に答えよう。
「18歳だ」
「ほう、そうか、
ならばお前は俺を「さん」付けで呼び、敬語で話せよ」
「ん?なんだお前、18年以上も生きているご年配の猫なのか?」
「いや・・・・俺の猫年齢は1歳だ」
「・・・1歳」
たった1年じゃねぇか。
「だが、人間の年齢に置き換えると俺は二十歳いってんだよ。
だから目上の猫だ、俺は。
目上の人だろうが猫だろうが敬意を表するのは常識だろう?」
「いやいや、人間に置き換えたところで実質人生、いや猫生か?
なんにせよ1年しか経験積んでねぇじゃねぇかよ」
「そういう問題じゃねえ!
とにかく俺の方がこの家では上なんだ!!」
猫が上だと?
むしろ飼われているんだから立場的にはこの家では下のほうじゃないのか?
でも、あれか。
今は会社でも普通に定年間近のおじさんが若い人より立場が下で、
おじさんが若い人に対して敬語を使ってるぐらいだからな。
そういうことなのか?
「あ、阪本のことは『阪本』ってよべばいいよー!
別に敬語も使わなくていいと思うんだけど」
「あ、そんなもんなの?」
意外と慕われていないようで、敬語も使われていないようだ。
「じゃあ、宜しくな、阪本」
「な、オマエ!!『阪本さん』だろ!?」
「あぁ、すまないな、『阪本』」
「からかってんのか、お前」
もうなんかコイツもコイツでタメで話してきてもいいようだ。
そこまでこだわっていないのか。
「ところで、そこの金髪」
阪本は僕のことを諦めたのか、忍の方に声をかけた。
また、年齢を訪ねるのであろう。
「お前の年齢はいくつだ?」
忍は微笑みを浮かべている。この質問を待っていたかのように。
「フフフ・・・、聞いて驚くなよ?猫」
「驚くもなにも、
お前みたいな見た目の奴なんてガキと同じぐらいの年齢だろ」
「・・・・・・・・・・・・500歳じゃ」
「すいませんでした!!」
阪本はひれ伏した。呆気なく。
忍はそれを見下しながら見ている。
猫相手に。
やっぱり今日の忍はドSだなぁ。
年内には多分終わりません。
今日はここで終わりです、少ししか更新できずすみません
「ん・・・?あ、もう5時じゃないですか」
え?もうそんな時間になっていたのか。
楽しい時間はいつでもすぐ過ぎるものだな
そんな時は。
それぐらいこの研究所にいることが楽しいということであろう。
現に、僕は楽しい。
戦場ヶ原や、八九寺と話している時と同じぐらい楽しい。
というかなのちゃんの場合は反応が見てて可愛いくて面白いんだよな。
会話を交わさなくても反応見ているだけで十分だ。
しかし、僕にはまだやり遂げていない事がある。
ここに来て結構序盤に約束した事。
もう僕の猫耳の格好は止めて、なのちゃんの猫耳姿がみたい。
45分間きっちりと。
僕は別にきっちりと時間とかは気にしない方だとは思うが、
こういうことは話が別だ。
てか、お金払ってでもいいから延長したい。
キャバクラじゃないけど。
なんだか忍が僕の気持ちを察したような表情で見てくるが、
気にしない気にしない。
「じゃあもう夕食作らなきゃ行けませんねぇ・・・」
「あぁ、そうかー!!もうそんな時間かー!!」
わざとらしく、明らかにわざとらしく、僕は言った。
「なのちゃんの作る夕食が楽しみだなぁー」
「あぁ、あまり期待しなくていいですよ?」
「いや、でも期待しちゃうなぁ。
こんなにしっかりしているなのちゃんだもん。
きっと良い料理を作るんだろうなぁ」
「いや・・・そんなに誉められても困りますよぉ」
照れた!純粋に照れた!
そうそう、僕はこういうなのちゃんの単純なリアクションが好きなのだ。
「そうそう。一つやってほしいことがあるんだが、聞いてくれるかな?」
「何ですか?
・・・冬コミに並ばせにいくとかいやですよ?大体徹夜は禁止ですし」
「いやそんなことは頼まねぇよ!!」
てか冬コミしってんのかよ!
「そんなことじゃなくてだな、さっき何かしてくれるって言ったろ?」
「はい、そうですね」
「何でもしてくれるんだろう?」
「・・・できる範囲でなら」
「うん、じゃあこれ。
今僕が着ている猫コスチュームを、着て料理してくれないかな?」
「へ?」
「いや、嫌ならいいんだ。強要はしない。
ただ、僕はやってほしいなぁと思ってね」
「んん・・・、まぁやってあげないことはないですよ?」
やったぁ!
「な、うぬ!本当にいいのか?」
「・・・はい、さっきよく分からないけど『何でもやる』って言ったのは私ですし!
やりますよ!」
「・・・ん・・・まぁ本人がいいならそれでいいのかのう・・・」
「いいんだよ、忍。本人が良ければ」
「・・・・・・本当にお前様は彼女という存在がおりながら、沢山の女子に手をだすのう。
いつか刺されるぞ」
大丈夫。
「僕には治癒スキルがあるからね」
「人間関係が崩壊してもしらんぞ?儂は・・・」
僕はどの女の子に対しても均等に、平等に接しているつもりだ。
勿論優先順位としては彼女である戦場ヶ原が一番であるべきなんだけれども、
戦場ヶ原以外の僕と関わりのある女子には等しく接しているつもりだ。
だからおそらく人間関係が崩壊するなんて事はないだろう。
・・・しかし、僕は考えた。
この世界に今、僕と元の世界で関わっていたのは忍しかいない。
つまり、この世界にいる限りそういう元の世界の人間関係やら何やらを
考える必要はないんじゃないのか?
もう二度と会えないかもしれないなのちゃんと一生分関わっていたおけば
僕はほとんどの女の子と等しく接していることになるんじゃないのか?
ということで、一切合切今は忘れ、
目の前の女の子と全力で楽しもう、関わろう、ということに決めたのだ。
「じゃあ、ちょっと待っててねなのちゃん。脱いでくるから」
「あ、はい」
てっきり『私も行っていいですか?』言うものなのだと思っていたのだが・・・。
そんな訳ないか。
僕は少し頭を冷やしたほうがいいかもしれない。
夕方5時にして深夜1時くらいのテンションになっているのではないのだろうか。
自粛しよう。
と言っても、
自分の思考の中での話なのでそうすることは別にしなくてもいいのかもしれないけれど。
まぁ口にだけは出さないように気をつけていこう。
たまに思惑がそのまま発言になっている事があるからなぁ。
危ない、危ないよ。
なんて考えながら歩いていたところ、脱衣所に到着した。
以外と広々としていてすっきりしていた。白を基調としたいい内装だ。
脱衣所のすぐ隣に扉を通じて風呂があるが、風呂もそこそこの大きさと言えよう。
そこそこというか、一般的な風呂の大きさなのだと思う。
僕の家の風呂は広すぎて何がなんだかわからないからなぁ。
無駄なスペースが多すぎる。
まぁ、落ち着いていていいな、この脱衣所は。
とにかくやっとこのコスチュームから解放されるのだ。
僕の服が戻ってくる!僕の体に合った服が返ってくる!
・・・えっとどこにあるんだろう。
このカゴの中にあるのかな?とりあえず片手で探ってみよう。
ちなみに今の僕は全裸である。涼しい。
あれ、ないなぁ。両手を駆使するか。
・・・あ、誰かの下着だ。
この大きさからするになのちゃんのとしか思えないな。
白だった。
しかし、これには兎の顔がランダムに散りばめられた模様が描かれていた。
こ・・・これは!!
プライベート用か!?
もうちょっと眺めていたかったが、
僕は全裸である状況から誰かの見られたらヤバいという危機感を感じ、
カゴに戻した。
ってあれ?
探す・・・探す・・・探す・・・探す・・・
探す探す探す探す探す探す探す・・・・・・。
あれれれれれれれれ?
ない!!!ない!!!
・・・・・・っあ!!
居間に起きっぱなしだ。
そういえば猫コスチュームに着替える時は廊下の見えないところでちゃちゃっと
着替えたから、居間に僕の服は起きっぱなしなんだった!!
しまった・・・!!
取りに行かねば。
もう一度この猫コスチュームに着替えることもできるが・・・。
面倒くさいなぁ・・・。
これ着るのにすっごい手間かかんだよね・・・。
水着のような形っつても、
足の部分に文では到底いい現せられない複雑な行動になっている装飾があるので、
その変に手間がかかる。時間を食う。
ということで、時間を優先することにした。
時間を優先したと言うよりは手間を省いたという感じかな。
再度言うように僕は全裸である。
何か隠して行かないといけない。
これは義務である。
いたいけな女子高生に対しての当然の配慮である。
で、隠すって言ったらやはりタオルであろう。
バスタオル?うん。バスタオルであろう。
僕は咄嗟にバスタオルを腰に巻いた。
006
腰のあたりの結びがかなりゆるいが、大丈夫であろう。
心配する必要はない。
僕は早くなのちゃんの猫耳姿が見たいので時間を優先・・・ではなく
着替える手間を省いたのだった。間違えた。
ということで、10秒!!10秒で取りに行く!!
なのちゃんにばれないようにな!!
よし、
・・・ダッシュ!!
と、陸上選手さながらのスタートダッシュで走り始めた。
僕は風を切って走る!!走れエロス!!
じゃなくて、走れメロス!!
中学生顔負けの下らないネタを考えてしまった。失敬。
そうすると、居間の入り口が近づいてきた。
ここまでに4秒。
あと6秒で取って脱衣所まで戻る!!
もう完璧にできるのは目に見えている。
服を取ってくる。それだけの事になんの弊害もないはずだ。
誰にでもできる至極簡単な単純作業だ。
数々の怪異と遭遇し、戦ってきた僕だ、
こんなこと、朝飯前だぜ!!
よし、ポッテンシャルは十分に上げた。
こんなことにくだらない位にポッテンシャルを上げる必要があるのかどうかはわからないが。
しかし、僕は思わぬ失敗をしてしまった。
僅か数秒、いや0.1秒足らずだろうか。
視界にキッチンの様子が入ってしまったのだ。
キッチンにはなのちゃんがいた。なのちゃんがいた。
そう・・・・・・
全裸のなのちゃんがいた。
な、ななな、なな、なな、なんななななななに、
ななな、なななな、何事だ!?
ど、どどどどどどうして!?裸なの?
僕は思わず止まってしまった。大きくタイムロス。
しかし・・・
止まるしかない。
羽川が猫に魅せられた少女なら、僕は裸を見せられた少年とでも言うのであろうか。
見せられたからには見る義務がある。
持論だが。
僕は忍び足でキッチンに近づく。
忍び足で近づく事に対して別になんの思惑もない。
僕はある程度の距離になったら声をかけようと思った。
幸い、なのちゃんは僕に対して背中を向けているので、
後ろを振り向かなければ気づくことは多分ないだろう。
しかし、後ろを向いていることによって
なのちゃんのあれやこれやが見えないのがとても残念だ。
ここでわざと足音を立てて、振り向いたところをじっくり見る。
という手もあるが、
それでは僕の信頼がなくなってしまうかもしれないので、
一応声をかけておこう。
気づかれないようにしなければ。
・・・再度いうが、忍び足で近づく事に対して別になんの思惑もない。
ようやくキッチンの入り口近くにたどり着いた。
なのちゃんは一言も発せずにただその場で座っていた。
座り方はいわゆる女の子座りだ。
そろそろ声をかけるとするか。
「ねぇ、なのちゃん、なにしているの?」
「ひゃあ!?」
なのちゃんは驚いた途端にその場にあった布で全てを隠した。
僕は隠れているとはいえ、また女の子の裸体を目にしてしまった。
しかし、戦場ヶ原、神原などの裸を見せられた僕は
多少抵抗力がついてしまったのか、恥ずかしい気持ちにはあまりならなかった。
なので、平気で直視できる。
「何してたの?」
「え、えーと・・・、ここで猫コスチュームに着替えようと思って準備してたんですよ・・・」
「あぁ、そうか」
「あ、阿良々木さんこそ何してるんですか!?バスタオル巻いて!」
「僕は居間に置き忘れた自分の服を取りにきたんだよ、なのちゃん」
「つ、ついでに猫コスチュームもってくるとか無かったんでしょうか・・・!!」
「あぁ、その手があったか!」
それだったら手間が省ける!
しかし、この方法をとったのはもしかしたら、
僕が無意識の内にこのようなハプニングを望んでしまっていたからかもしれないな。
「その手があったか・・・って!」
なのちゃんはずっと顔を赤くしている。ものすごい勢いでネジが回っている。
「とりあえず居間の服を着てから、猫コスチュームを持ってきて下さい!!」
涙目で言われた!
流石にやり過ぎたかもしれない。少し可哀想に思えた。
「ごめんごめん・・・、とってくるから。そのまま、そのまま待ってて」
「はい」
そのままというのは『動かずに』ということではなくて、『そのままの格好で』という意味だったことを
なのちゃんは気づいているにだろうか。
てめぇらもっとレスしろカスどもがぁ!!
ニートめぇ
http://jbbs.shitaraba.net/internet/14514/
僕は今までにいろんな怪異を見てきた。
鬼、蟹、蝸牛、猿、蛇、猫、蜂、不死鳥、など
どれもこれもおかしいものであったが
今回、僕の出逢った怪異リストにまた一つ新しい怪異が追加されるのだ。
何故か。
それを僕は語らなければならない。
すいません
同じのを投下してしまったorz
七咲「風邪、ひいちゃいますよ?」
橘「もうちょっと……だけ」
続き
七咲「ふふっ、本当にしょうがないですね」
橘「七咲の太ももがあったかくて…ね」ムニャムニャ
七咲「先輩が風邪をひいたら、私が看病してあげますからね……」
橘「ありがとう、七咲」
七咲「構いませんよ。先輩のためなら」
七咲「先輩、今度http://jbbs.shitaraba.net/internet/14514/に来ませんか?」
橘「えっ、突然だなあ。いいの?」
七咲「はい、郁男も先輩のこと結構気に入ってるみたいですし」
橘「頼れるお兄さんとして?」
七咲「同年代の友達……みたいな感じですかね?」
橘「あはは……」
七咲「冗談です」
日曜日
七咲「先輩」
橘「ああ、七咲来たね」
七咲「先輩の方が速いなんて珍しいですね」
橘「流石にいつも遅れてちゃメンツってもんがないじゃないか?」
七咲「先輩の変なところにこだわるところ、嫌いじゃないですよ」クスッ
橘「さあ、行こうか!」
七咲「あ、すみません。買いだしに行くのでついてきてもらえますか?」
橘「荷物持ちなら、任せてよ」
七咲「すみません、休日まで」ペコ
七咲「いつもならお母さんかお父さんがいるんですけど……あ、そのじゃがいも取ってください」
橘「ほいほい、これねー」
七咲「ありがとうございます。……いるんですけど、お父さんは出張でお母さんは仕事で夜まで帰ってこられないんです」
橘「なるほど、そんなの気にしないで頼んでくれていいんだよ?」
七咲「ふふ、ありがとうございます」
橘「いつも頑張る七咲の手伝いができるなら大歓迎だよ」
七咲「頑張るだなんてそんな…これが普通ですから」ニコッ
七咲「すみません。そこのなすびを取ってください」
僕は僕の服を着た。
改めて自分の服の素晴らしさ実感したところである。
そして、猫のコスチュームをなのちゃんの元へと大至急運びにいこうとした。
はや歩きでなのちゃんの元へ行く。
しかし・・・、全貌が見れなかったのがなんとも残念だったなぁ。
このまま死んだら死んでも死にきれないよなぁ。
まぁ、下着が見れただけラッキーと考えようか。
しかもプライベートと思われる。
「なのちゃん、持ってきたぜ」
「・・・廊下に置いといて下さいね」
「あ、ああ」
「あと!!見ないで下さいね!着替え!」
「あぁ、見ないよ!」
かなり警戒されているようだ。
おいてめぇら
レスしろや!!
てめぇらが早く書き込めとかいうから書き込んでんだよks
なぁ?
わかるかぁ?俺がこんな時間になるまで書き込んでんのよぉ。
ふざけんなななななんあなななぁあぁぁっぁぁぁぁぁl!!!!!!!!!!!!
俺の睡眠時間をかえせ!!
郁男「うわ、やめろよ!!」
橘「そらそらそら~!ナマコ怪人の内臓絞りだぁあぁあああ」コチョコチョ
郁男「ひゃは、ひひ、やめ、ひ、やめろ、」バタバタ
七咲「あとはルーを入れて……」コトコト
郁男「ねえちゃん!こいつがこちょばしてきた!」
七咲「こいつじゃないでしょー?橘お兄さんって」
橘「次はイカ怪人だぞー!おらああー!!」
郁男「うわあああ、にげろおおおお!!!」
七咲「…先輩、本気になってません……?」苦笑
ちょっとーやめてー。俺と同じハンドルネームの人ー。
>>98
ふむ
まぁいいだろう・・・・http://jbbs.shitaraba.net/internet/14514/
クルッ
. ハ,,ハ ミ _ ドスッ
. ( ゚ω゚ )彡―─┴┴─―
* * * \ / つ お断りし / ハ,,ハ
* * \ ~′ /´ └―─┬/ ( ゚ω゚ ) お断りします
* ハ,,ハ * \ ∪ ∪ / / \
* ( ゚ω゚ ) * .\ / ((⊂ ) ノ\つ))
* お断りします * . \∧∧∧∧/ (_⌒ヽ
* * < お > ヽ ヘ }
* * * < の し 断 > ε≡Ξ ノノ `J
. オコトワリ < 感 す り >
ハ,,ハ ハ,,ハ .ハ,,ハ <. !! > ハ,,ハ
. .( ゚ω゚ ) . ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) /∨∨∨∨\ ( ゚ω゚ )<お断り .ハ,,ハ
│ │ │ / .\ します>( ゚ω゚ )
,(\│/)(\│/)(\│ /. \
/ ♪お断りします♪ \
/ ハ,,ハ ハ,,ハ .ハ,,ハ ハ,,ハ\
. ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ )
郁男「スースー」
七咲「先輩、今日はありがとうございました」
橘「いやいや、どってことないよ」
七咲「お母さんも『とっても良い人ね』って言ってましたよ」
橘「(グッ)」
橘「いつも2人で寝てるの?」
七咲「いえ、今日は特別です。小学校の時は一緒に寝てたんですけど……」
橘「そういや僕は美也と一緒に寝たこと……あったっけ?」
橘「いや、まああったとしてもこんな話しただけできつい一撃をくらいそうだね」
七咲「美也ちゃん、あれでいて先輩のこと大好きですけどね」
七咲「先輩、本当は……郁男なしで二人っきりが良かったんですけど」
橘「……」ゴクリ
七咲「先輩がえっちなことしそうだったので郁男も巻き込みました」
橘「…って、えー!?」
七咲「ふふふ、これは冗談……」
橘「ふぅ……」
七咲「じゃないかも……」
橘「ぼ、ぼくが七咲にそんなやましいことするわけないじゃないか!」
七咲「しないんですか?」
橘「…………そ、そろそろ寝ようか明日も早いしね」ハハ
>>98
荒らしがかっこいいと思ってるガキだからほっとけ。冬休みだから増えたんだろ
すいません
そろそろ寝ます
期待しているみなさんには申し訳がぞいません(プリッ
本来ssというのはみんなのレスが重なりあってssと呼ぶのではないのかと思いました。
しかしこうもレスが少ないのでは筆者のやる気がそがれ書く気持ちがなくなります
どうかこのssを見ている読者は明日こそレスをつけてください。
おねがいしまぁっぁぁぁぁぁす!!!!!
>>102
あ?
ふざけんなよ糞がきがゴラァ
てめーなんか俺の剛拳で一発じゃボケェ
まぁ、そこまで外道な男ではないので着替えは見ない。
そこまで外道でない男っていうのは自分が勝手にそう思っているだけで
実のところはよく分からない。
だが、この場合少なくとも外道ではないんだろうな。
キッチンからガサコソする音が聞こえる。
おそらく足の装飾を装着するのに困っているのだろう。
というか、着なれている訳じゃないのか。
あれはなのちゃんの物ではないんだな。
じゃあ、はかせのものなのだろうか。
まぁ、誰のものでもいいか。思考を放棄した僕。
そこから十五分の描写は意味がないので割愛することとしよう。
特に言及するような事はやっていないからな。
まぁ、簡単に言うならばなのちゃんが着替え終わるのを待ってたな。
なのちゃんの下着を思い出して。
橘「(今日は色々あったなあ……)」
橘「(弟のお世話や家事、それに部活……全部一緒にやって七咲はえらいなあ)」
橘「(僕も見習わなくっちゃな)」
橘「(そういえば僕は美也の世話なんてしてたっけ……?)」
橘「(……なぜだろう、中学3年より前の美也を思い出せないや)」
橘「(あれ?…というか、中学3年より前の記憶がほとんどないような……ハハ)」
橘「(きっと疲れてるんだ。いつもより仕事したもんな。はやく寝よう……)」
橘「……」
橘「・・・・・・・」
橘「・・・・・・・・・・・・・・・」スヤスヤ
あれ、ここは・・・どこだろう・・・
『いつまでここで寝てるつもりですか?』
・・・七咲?
『先輩、いつまでここで寝てるつもりですか?―――』
・・・ああ、砂浜か
・・・それにしては、暗くて冷たくて七咲の太ももが硬い・・・
七咲の太ももはもっとぷにぷにででも部活で鍛えられて張りがあってぬくぬくで
・・・僕はいったい誰に力説してるんだ?
『先輩、いつまでここで寝てるつもりですか?―――』
もうちょっとだよ、七咲・・・ふぁあ
つーかてめぇら俺の掲示板にきてくれwwww
http://jbbs.shitaraba.net/internet/14514/
全く人気が出ない県についてlww
>>102
あ?
ふざけんなよ糞がきがゴラァ
てめーなんか俺の剛拳で一発じゃボケェ
やっとなのちゃんが着替え終わったようだ。
「いいですよ・・・」
と控えめな声で僕を呼んできたからすぐに分かった。
恥ずかしがっているのかそういう声であった。
僕は期待と希望と夢と妄想で胸がはち切れそうだった。
僕のイメージでは猫耳が似合いそうだったから、それほど期待もしてしまう。
期待通りじゃなかったとしてもかわいいはかわいいだろう。
というか何着てもかわいいんじゃないのかな?あの娘。
「どうですか・・・?」
なのちゃんが控えめに聞く。どうですかって・・・!!
かわいいじゃないですか!!
予想のかなり上をいったかわいさだった。
思っていたより、猫耳が似合っていて。
思っていたより、尻尾が似合っていて。
思っていたより、水着が似合っていた。
それに・・・・・・思っていたより乳があるようだ。
さっきも隠されてよく大きさが把握できなかったが、
水着を着ることで胸が強調されて、大きさが大体わかるようになっていた。
制服を着ている状態だとAくらいに見えたが、実際の大きさはCくらいであった。
僕が買ったラノベの表紙のキャラクターよりある。
・・・というかなんで見ただけで胸の大きさが分かんだろ。僕。
人として軸がブレてないか?
「あのぅ・・・そんなに凝視しないでもらえますか?恥ずかしいですから」
「あぁ!ごめんね」
しまった、じろじろみすぎた。
見『蕩』れてしまった。
「じゃ、じゃあいいよ、料理作って」
「あ!はい!じゃあ張り切って作らせていただきます!」
おぉ。
料理になるとテンション上がるな。なのちゃん。
「ちなみに今日は何を作るんだ?」
「今日は・・・オムライスですかねー。
あと、野菜とかはスーパーで買ってきた特売品の惣菜とかですかねー」
「へーオムライスかぁ」
最近関わりがなかった食べ物だな。
僕の中では懐かしいイメージのある食べ物である。
「申し訳ないんだけどさぁ・・・、僕の分も作ってくれないかな?」
「あ、はい!最初からそのつもりでしたよ!
丁度卵もいい感じに数がありますし」
「お・・・おぉ・・・!!」
なのちゃんって・・・
「女神!!」
「はい?」
「いやいや、何でもない。独り言だ」
そんな独り言をする奴がどこにいるんだ。どこにもいやしねぇよ。
「あぁ、そうですか」
「ところでなのちゃんが食材とか買いに行ってるの?」
「はい、そうですね。
おかげさまでスーパーの達人になっちゃいましたよ!」
「へぇー、そりゃあ凄いな。
ってことはもうタイムセールの時間とか、
そういうのを人より先に知っていたりしているのか?」
「そんなもんじゃないですよ!『達人』ですよ!?『達人』!」
そんなもんじゃない・・・?
「じゃあ、何を知っているんだよ」
「パートの人の顔と名前です!!」
「・・・あぁ」
微妙だなぁ。人の名前と顔を覚えているというのは凄いと素直に思うけれど、
そこに、なんの損も得もないじゃないか。
「ちなみに、来年のセールの予定は全て把握してます!」
「そりゃあすごいなぁ!!!」
それなら達人と呼ぶのに相応しい。
「じゃあ、僕に明日のスーパーの事について教えてくれよ、達人」
「おぉ、その呼び名で呼んできますか。ちょっと嬉しいですねぇ」
顔はかなり嬉しいという顔をしているが。
「確か明日は朝、開店と同時に十分間だけ全品半額というセールがあるんですよ」
「ほぉ、太っ腹だな」
「通称『主婦激突セール』って呼ばれているんですけど」
「なんだそれ」
「まぁ、文字通り主婦と主婦とが激突し合う位は激しいのですよ。
ケガ人続出です」
「ケガ人出しちゃダメじゃん!!」
「いえいえ、確か去年は・・・。
骨折した方も・・・」
「そんなぁ!それじゃあ危険すぎるだろ!」
皆が皆治癒能力が高い訳じゃないんだぞ!
「ですから明日のそのセールが最後なんです。そういうのが問題になって」
「やっぱりな、そうなるよな。
あぁ!じゃあなのちゃんはそのセールに行くのか?」
「いいえ、行きません」
「えぇ!?どうして?」
「私は主婦じゃないから・・・」
「え?」
『主婦激突』と呼ばれているとしても、主婦以外だって参戦したっていいんじゃないのか?
「実はあのセールには参加条件があって、主婦であること、が条件なんです」
「なんだそれ」
「だから私は無理です!!出来ることなら行きたいですけど!!」
心意気だけは誰よりも主婦に近いであろう。
「はい、完成でーす!」
「おぉ!」
ものすごいい出来であった。
料理店で見かけても全く違和感を感じないであろう。
卵がとろけていて、とても美味しそうだ。
これならば、オムライスが嫌いな人でも好きになってしまうのではないかと、僕は思った。
オムライスが好きになるというよりは、『なのちゃん』のオムライスが好きになるというのが適切かもしれない。
「とても、美味しそうだなぁ!
なんだか自然と腹が減ってきたよ」
僕は心の中で思ったいろんなことをこの一言で済ました。
「あ、そうですか?
改めて誉められると照れますね・・・」
「うん、もっと自信を持ったほうがいいよ」
胸にもね、と自分の中で付け加えておいた。
「ありがとうございます!
はい、そうしたいです!」
僕の発言の意図はともかく、なのちゃんの励みになったので、良かった。
「あ、そうだ、阿良々木さん」
オムライスを乗せた皿を持って、声をかけてきた。
「ちなみにですけど、私の胸を揉むのは相当難しいですよ?」
「え?そうなのか」
「いや、そんなに軽々しく揉ませてくれると思いましたか?」
「・・・まぁ思わなかったけど」
「私の胸を揉むなんて、 レベル1の勇者がデスタムーアを倒すくらい難しいですよ」
「難しいって言うよりは、絶対無理だろそりゃ!」
「まぁ、そんなに揉みたいって言うならば、それなりの条件を提示してくださいね、私が喜ぶような」
「条件が良ければ揉ませてくれるのか?」
「はい、条件によりますけど」
この瞬間、僕がこの世界にいる理由が出来た。
なのちゃんってこんな痴女みたいな事言うの?
アニメしかみてないからわかんないが
007
時間としてはそんなに経過していないのだろうが、
僕の中ではかなり長い会話を交わし終わってその後のこと。
なのちゃんが作ったシェフ顔負けのオムライスが
いよいよ食卓に並べられるのであった。
「はかせーご飯ですよー」
「わぁ!オムライスだ!!」
「ちょ・・・お前」
「ん?なんですか?阪本さん」
「・・・そのグラマラスな格好はなんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!!!着てたの忘れてた!!!
あぁぁぁぁ、急いで着替えてきますぅ!!」
どうやら着ていたのを忘れていたなのちゃんは頬を赤らめて、というか
全身が煙をあげて脱衣場に走っていったのだった。
猫コスチュームを着ているのを忘れてしまうなんて、
案外着心地が良かったんじゃないのか?と思ったがそれはないだろう。
「・・・なんであんな服来てたんだろうな。
・・・っまっさか阿良々木、お前か・・・?」
あ、そうか、阪本は僕となのちゃんがいちゃついている間ずっと寝ていたから
なにがあったかよく知らないんだ。
それで、なのちゃんがあんな服自分から着る訳ないと思い、
他人である僕を疑う訳だ・・・。
「いや、僕はあくまでも推奨しただけだ」
「推奨したのかよ」
「推奨したのは僕であって、なのちゃんは自分の意思で着たんだよ、あの服を」
「・・・本当かよ、信じがたいな」
「信じられなくていいさ」
なんて言ったが、返答に困ったのでそれっぽい事を言っておいたのだ。
まぁ、ここで僕が着させたなんて言ったら即野宿だろうからな。
寝床は確保しなければならない。
>>138
多分言いません
ただ、原作で描かれていないところでは言ってるんじゃないのかな
という私の妄想です・・・
キャラ崩壊ごめんなさい
「ねーねーあららら!」
「ん?それは僕のことなのか!?」
「え、そうなんだけど。あらららっていう名前じゃないの?」
「僕のことを首なしライダーが出てくるライトノベルみたいな名前で呼ぶな!
僕の名前は阿良々木だ」
「アララギ?
・・・変な名前」
「変な名前とかやめてくれるか?」
以外と心痛むんだけども・・・。
「ふぅー、着替え終わった・・・」
なのちゃんは猫のコスチュームの代わりに、『OBK』というパジャマを着ていた。
OBKとは何の略だろうか・・・。
そして、そのパジャマに描かれている謎の白いキャラクターは何なんだろうか。
いろいろと気になるパジャマである。
「じゃあ、夕食食べましょうか!
・・・っとその前に、ちょっと来てください阿良々木さん」
なのちゃんは手首を動かして僕を呼んでいる。
何なんだろうか。
僕は呼ばれるがままに返答もせず、廊下になのちゃんと共に出た。
照明がついていなくて妙に暗いのが怪しさを感じさせる。
「さっき胸を揉ませるだのなんだの言いましたけど、あれは冗談ですから・・・!!
あの、なんというか意地になってたんですよ、あんな格好でしたし・・・。
ですから・・・あの、本気にしないで下さいね、本当に」
なのちゃんは恥ずかしそうに小声で言ってきた。
意地になって吐くようなセリフなのだろうか?結構強烈な事言ってたぞ。
「まさか、自分でもあんなこと言うとは思わなくて・・・、すみません」
「あ、いやいや大丈夫だよ、大丈夫」
むしろ、大人しいなのちゃんだが、あんなことやこんなことやそんなことを
ひそかに考えているからあんな台詞が出てしまったのではないかと
僕は気になっているところだ。
「お願いしますよ・・・」
「あぁ、僕をかなり信用してくれ!
僕は許可なしに胸を揉んだりしないから!」
八九寺は例外だが・・・。
「その言葉が少し不安なんですけど・・・」
その言葉に対して僕はただただ笑っていた。喜怒哀楽のどの感情にも属さない妙な笑顔であった。
なのちゃんの目にはどう写ったかはしらないが、
不審には思われてはいないはずだ。
「じゃあ、食べましょうか!」
「あぁ、期待してるぜ」
「ちょっと待つのじゃ」
お、この声は。
忍がどうやら起きたようだ。
「いやぁ、仮眠がとれて良かったわい。
ここからが儂の活動時間じゃからのう。ところでネジ娘よ。
今日の晩餐であるが・・・儂の分まで用意してあるのか?」
まさか!忍の分を作ってるようには見えなかったぞ。
いくらなんでもなのちゃんだからといっても、そこまで気を効かすことは・・・。
「ありますよ、ちょっと待ってて下さいね」
なんと・・・!!
本当に・・・!
この娘は・・・!!
「女神!!」
「女神じゃの!!」
僕と忍は奇遇にも同じことを考えていたようで、
同じタイミングで同じ趣旨の事を発言した。
しっかし、凄いなぁ・・・。
本当にこの研究所でしっかりしているのはなのちゃんだけだな・・・。
いや、阪本もしっかりしてそうだけど・・・。
猫だし。
てか、なのちゃんはこの研究所の料理とか買い物とか家事とかを高校に通いながらやっているのか?
だとしたら、人生ハードすぎる!!
すごい、というか逆に心配だ。
いつか倒れてしまうのではないだろうか。
まぁ、あまり触れないほうがいいのかもしれないが、
彼女は恐らくロボットなので厳密に言うと『壊れる』のではないのだろうか・・・。
頑張ってくれるのはいいが・・・不安だ。
「はい、これが忍さんのですよ」
なのちゃんは忍のオムライスを持ってキッチンから小走りで出てきた。
僕とかはかせのオムライスと何ら変わらないオムライスだ。
忍は案外興味を示しているような目でオムライスを見ている。
オムライスというよりはなのちゃんがこのオムライスを作った事に
興味を示しているのかもしれない。
「あ、あと一つお願いしていいですか?忍さん」
「ん、なんじゃ?」
「あの・・・『ネジ娘』って呼ぶの、できればやめてもらえませんか・・・?」
「なぜじゃ?」
「察しが悪いな・・・!」
僕は忍の察しが悪いので耳元で囁く
「なのちゃんのコンプレックスなんだよ、あのネジは。
だからそう呼んで欲しくないんだよ」
「あぁ、っひゃあ!?」
そう伝えると共に、忍の耳に息を吹き掛けた。
忍は尋常じゃない反応を示している。びっくりしたのか・・・はたまた気持ち良かったのか。
それは僕の知るところではない。
「な・・・何をするのじゃあ!」
「え、いや、何にも?」
惚けた。
「んん・・・惚けよって・・・。
ん・・・まぁ、そうだな、じゃあこれからは適当に『娘』とかそんな風に呼べばいいんじゃな?」
「はいそうして下さると嬉しいです」
なのちゃんは目の前で僕が忍にちょっかいをかけた事なんかお構い無く、
平然と返答した。
「じゃあ、早く居間に入りましょう!」
「おお」
「そうじゃの」
「すみませーんお待たせしましたー」
「何を話していたんだ?」
「いえいえ、話していたのではなくて、忍さんのオムライスを取りに行っていたんですよ」
「あぁ、あの金髪の幼・・・・・・じゃなくて、忍さんだよな」
「ふっ」
阪本はさっき忍の年齢を聞いて恐れをなしたのか、ちゃんと敬語を使っている。
忍はご満悦という感じである。
しかし、この研究所は本当に落ち着くなあ。
畳の匂いとか襖とか素朴さがいい感じで・・・。
日本家屋って素晴らしいなぁ・・・。
「じゃあ、皆さん座って下さいねー」
あまり大きいとは言えないこたつをかけられそうなテーブルを囲むように
僕、忍、はかせ、なのちゃんは座った。
一人分のスペースはあまりないものの、その窮屈な感じがむしろ良かった。
そんな中、なのちゃんは並べられたオムライスや惣菜を眺めて言うのだ。
「いただきまーす!!」
「いただきます!!」
全員が声を揃えて言った。
勿論阪本も。
スタートの合図が出ると、そこからは早かった。
皆が皆、勿論僕も、食べ物を食べる為の道具を一斉に持ち始め、
オムライスを食べ始めるのだった。
なのちゃんはとても幸せそうな顔をしている。
恐らくはかせの笑顔を見てだろう。
幸せな関係だな・・・。なんていい研究所なんだろう。
僕は普通に食べていたが、忍はと言うと、驚いていたような顔をしていた。
「どうしたんだ?忍、何かあったか?」
「いゃあの、500年生きておいてなんじゃが、オムライスというものを
一度も食べたことがなくての。びっくりしたのじゃ。
見た目より美味しいのう、と」
「それはそうだ。オムライスは日本生まれだからな」
「え?そうなんですか!?」
「なのちゃん、知らなかったの?」
「はい!」
「確か西暦1900年くらいかその位にできたんだっけな」
正確じゃないがその辺だったと思う。
「へぇー、そうなんですかー」
「どうりで儂が今まで食べたことがないわけじゃ」
「アララギって物知りなんだけどー」
「ははっ、そうだろう、『people』のスペルも分かるぜ」
「阿良々木さんって何でも知ってるんですか?」
「何でもはしらないさ、知っている事だけ」
偶然にも、羽川といつもやっているやり取りがなのちゃんとすることができた。
今日はここで終わりです!
皆さんあけましておめでとうございます!
「そろそろお風呂入りましょうか、はかせ」
「うん、行こうー」
ん?まだ入っていなかったのか。
そういえば僕もお風呂に入りたいな・・・。
「僕も風呂に入りてぇな・・・」
・・・はっ!しまった。
このタイミングで言ったら
僕がなのちゃんとはかせと一緒にお風呂に入りたいって言っているようなもんじゃないか!
いや、本音を言うと入りたいけど!!
「あ、じゃあ私たちが終わってから入って下さいね」
「あぁ・・・・・・おう」
僕はほんのちょっとだけ落胆した。
少しでも『入りましょうか』と言ってくれるかもしれないなんていう
期待を持たなければよかった。
が、僕は期待し続けることにした。
「あの、もしかしたらだけど一緒に入る事は出来るかい?」
「え!・・・それはちょっと・・・」
「はかせはいいと思うんだけどー」
「えぇ!?何いってるんですかはかせ」
意外。
「おい、うぬ!やめておいたほうがよいぞ!
暦×(密室+女子+裸)=超危険なんじゃから!」
「変な公式たてんな!」
「そそそそ、そうですよ!
だって・・・・・・あれがあれであれですよお!?」
「あれって?」
「んーーー!!だから、あれはあれですよ・・・」
「??」
「そ、そうだ。はかせは裸みられるの嫌でしょう?
私は嫌です!!」
え、なぜその発言の時に僕を見た。
「はかせは別に恥ずかしくないんだけど」
「えぇえええ!?何ですかそれ」
露出狂とかそういう者じゃないだろうけど、
はかせに恥じらいはあまりないようだ。
「あ、そうだ、阿良々木さんの代わりに忍さんが一緒に入りましょうよ!
ね?」
「おお、そうじゃのう!儂も風呂に入りたいと思っていたのじゃ!」
「えー何がいけないのー?」
「はかせにはまだ分からないと思いますが、あれがあれなんですよ!」
「だから、あれってなんなのー!?」
「ちょっと待て」
僕は両手を大きく横に広げて言った。
仲裁に入るようなポジションで。
そもそも僕がこの事の発端なんだけれども。
「バスタオル着用でどうだ?」
「な、なにをいっとるんじゃ?」
「だから、
バスタオルで全てをかくして入ればいいじゃないか」
008
我ながら可笑しい提案だと思った。
我ながら変な提案だと思ったが・・・。
その提案がどのような方向に動いたのかは今の僕を見れば分かる。
バスタオルを巻いて、浴室に来ているのだ。
そう、交渉成立。バスタオルありならオッケーになったのだ。
なんというか強硬突破であったが、今こうして浴室に来られているので僕的には問題はない。
あの発言の後、なのちゃんが焦って否定していたが、
はかせが駄々をこねったのでこうなったのだ。
「風呂に早く入りたいんだけどー!暑い!」と、駄々をこねた。
はかせのおかげである。はかせには百倍の感謝をしなければならないな。
はかせはいくら天才科学者とはいえ、中身は八歳だ。
恥じらいより、汗を洗い流したいという欲求を優先する。
本当に、ありがとう。
浴室は全体的に水色のイメージがあってまぁまぁ広かった。
浴槽にも四人は入れるだろう。
四人、と言ったが僕は今は浴室に一人だ。
脱衣所は一つしかないので、僕が先に着替えて先に浴室にいる。
丁度脱衣所ではなのちゃん、はかせ、忍の3人が着替えている。
脱衣所と浴室は曇っているガラスが張ってあるドアで繋がっているので、
三人が着替えているシルエットがはっきりと認識できる。
全員今は生まれたての姿なので、肌色のシルエットが見える。
僕はそれだけでも結構良かった。
忍はともかく、なのちゃんとはかせのシルエットは何かと
妄想を掻き立てられるものである。
僕は今か今かと三人が扉をあけるのを待っているが、
僕が見てることに気づかれたようで、忍にドアごしに
「こっちを見るでない!!」と言われた。
これは自分の裸を見るなという意味ではなくて、
裸をあまりみられたくないなのちゃんへの配慮なのだと僕は解釈した。
気遣うんだな、忍って。
とりあえず三人が出てくるまでじろじろ見るのはやめておこう。
「お待たせしました・・・」
「わーい」
「意外と広いの」
三人はドアをあけたと同時に言葉を発した。
ようやくやって来た!
バスタオルによって隠されている乳は見た瞬間に裸より価値があるんじゃないかと
思った。
前にも僕は言った気がする。『スカートの中身は飾りだ』みたいな事。
あれ、いってないっけ?
まぁ、いいや。
しかも、三人とも偶然、貧乳であった。
忍は幼女化した時に小さくなったので、元から貧乳ではないが、
なのちゃんとはかせは生まれながらの貧乳である。
こうして貧乳に囲まれると、
なんだか羽川の魅力が一つなくなってしまうように思えた。
ちなみに、僕は三人が来る前にちゃっちゃと体を洗い終えているので、
もう湯船に浸かることができる状態である。
湯船に浸かりながら、なのちゃんやはかせと会話したかったからだ。
「じゃあ、僕は先に湯船に浸かっておくな!」
「は、はい・・・」
なのちゃんは猫コスチュームの時より頬を赤らめている。化粧ではない。
恥ずかしさ故に赤らめているのだろう。
やはりより裸に近いほうが恥ずかしいものだからな。
僕は体を洗う準備をしている三人を横目に、
湯船に浸かった。
心臓より上まで浸かると健康に良くないという事を聞いたことがあるが、
僕はあまり気にしない。
心臓まで上に浸かって、大きな息を吐いた。
とても適温だと言える。丁度良い温度設定だ。
それに、三人が洗い終わるまでは独り占めだ!
僕は浴槽に肘をかけ気持ち良さそうに寄っ掛かりながら、
しばらく黙る事にした。
三人の会話を良く聞く為だ。
三人をふと見ると、シャワーがひとつしかないので、
はかせ、なのちゃん、忍、の順番で一列に並んでいた。
なのちゃんははかせの髪の毛を洗ってあげていた。
ついこないだ僕が忍にしてあげたような事をしていた。
「なぁ、娘よ」
「ん?なんですか?忍さん・・・」
「良ければ儂の頭も洗ってくれんのかのう」
「あ、はい、はかせの髪の毛を洗い終わったら、やりますよ」
「ああ、すまんのう。
それにしてもうぬは髪の毛を洗うのが上手いのう、ヘッドスパの専門家か?」
「いえ、違いますけど・・・」
「でも、手が頭皮マッサージみたいな動きをしているぞ?」
「あぁ、そうですね、言われれば・・・。
無意識ですね完全に・・・」
・・・あれ?
僕、忘れられてる?
今日はここで終わりです
いや、忘れられている訳ではなかろう。
話に夢中になっているだけだろう。
多分、そうだろう。
「そういえば娘よ」
「なんですか?」
「この・・・時定市だったかのう、
時定市にはミスタードーナツというドーナツ屋はあるか知っておるか?」
「んー、なんか最近出来たっていう話は聞いたことがありますね」
「おぉ!そうなのか!?」
「どこに出来たか知ってますか?はかせ」
「ん?確か大工カフェの隣にできたって聞いたんだけど」
「あー、そんなところにできたんですかぁ。今度行ってみたいですね。
というか、忍さんはドーナツがお好きなんですか?」
「あぁ!大好物じゃよ!ドーナツ以外眼中にないの!」
「へぇーそうなんですね」
「忍はいっつもいっつも僕に払わせるんだぜ、ドーナツ」
「あ、お前様、そこにおったのか」
「いや、いたよ!!」
てか・・・
やっぱり忘れられてる!!
「忍さんはどれくらいドーナツがお好きなんですか?」
「そりゃあもう、三度の飯よりなんとかって言うけどそんなもんじゃないよ。
五度の旅行より五種のドーナツって感じだからな。
その分払わされるってことだ」
「そこまで言うか、我が主様よ。
まぁ、そのぐらいは儂も自負しているがのう・・・」
「自負してるのか」
「ねえねえ忍」
「ん、なんじゃい。てか呼び捨てかい」
「なんで忍ってそんなにおばあちゃんみたいなしゃべり方なの?」
「え!!いや、そんなこと言われてもの・・・」
「あ!また言った!!」
「・・・」
忍は黙ったが、しばらくして口を開いたのだった。
「じゃあ、教えてやるわい。
儂はな、実年齢は500歳なのじゃよ。
じゃから、こんな口調になってもしょうがないのじゃ」
「じゃあ、はかせもおばあちゃんになったら最後に『じゃ』とか『のう』とかつけるのかな?」
「そりゃあ、儂に聞かれたって分からないわい。
じゃあ、儂からもひとつ言わせてもらうが
お前は何故『~だけど』という言葉を多様するのじゃ?」
「んー・・・、分からないんだけど・・・」
「そういうものじゃ、もうクセになってしまって直せないものなんじゃ。
儂の口調もうぬの口調も。
500年生きたせいなのかどうかもわからん」
「ふーん、良くわかんない」
「うぬにはまだわからんでよいわ」
「というか、今更かもしれませんが、
忍さんと阿良々木さんってどういう関係なんですか?」
「親子じゃ」
「は、何言ってるんだよ忍」
焦るじゃないか!
「まぁ、軽い冗談じゃ、今のは。
いろいろあっての、この男と儂は切手も切れない主従関係が作られたのじゃ。
ん?違う違う、切っても切れない主従関係じゃな。
要するに死を共にする関係ということじゃ」
「・・・死を共にする?」
「まぁ、深く考えなくていいよなのちゃん。
僕たちは親子でもなんでもないけども、一生を共にしなければならない。
かといって、婚約者とかそういうのじゃないけど、パートナーって感じかな」
「はぁ、そうですか。
でもなんだか夢がありますね!
死を共にする、とか。ロマンチックじゃないですか!
死を共にするってことはつまり、生涯一生一緒にいてくれるってことですよね!
いやぁ、ロマンチックですねー・・・」
「なんかなののテンションが可笑しいんだけど」
なのちゃんは恋愛のドラマを沢山見ているのかは分からないが、
相当ロマンチックな夢を持っているようである。
その後、忍が髪を洗ってもらい、なのちゃんも髪を洗い終えたところで、
三人が湯船に浸かろうとしたときだった。
「じゃあ、みんな湯船に入っていいぜ」
「ん?何を言っているのじゃお前様よ」
「は?皆ではいるんじゃないのか」
「お前様と一緒にこの二人が入る訳なかろうが。
お前様はもう十分湯船に浸かったはずじゃろ。このままではのぼせてしまうぞ!」
「いや、心配してくれるのはいいのだけれども・・・」
そもそもこれがメインイベントだと言うのに。
「儂は『生涯を共にするパートナー』としてお前様を心配しているのじゃ!
はよあがるがよいわ!」
指で刺されて、じゃなくて指されて僕は言われてしまった。
思いっきり見下されて。
僕は多分湯船を上がることを余儀なくされるだろう。
現に僕はいま滅茶苦茶のぼせてかけている。
僕的にも上がったほうが楽だ。
だが、しかし。
目の前にある財宝、というよりかはチャンスをみすみす逃す訳にはいけないだろう。
体の安全を優先するか、自分の欲求を優先するか。
迷ったあげくの答えを喉の奥から絞り出して嫌々ながら言うことにした。
「・・・分かったよ」
白旗を挙げた僕であった。
まぁ、そんな都合のいい展開があるはずないとは思っていた。
バスタオルつきで一緒に入浴できただけでも幸せだと思え、阿良々木暦。
「あぁー、暖かいのう」
「ふぅー」
なんて気持ちの良さそうな声をあげやがる!
僕だってさっきまで湯船に浸かっていたけどさ!
なんか、羨ましそうにみえるんだよなあ!
人のケーキのほうが大きく見えるみたいな、例えがあまり例えになってないけどそんな感じ!
しかし、のぼせそうになったところから解放されて、悪いことだけではない。
しかも今僕は大きな利点に気づいたのである。
上から見ると、胸元が良く見えるのである。
浴槽のある位置が若干下になっているので、
僕にはよく見えるのである。
いわばここはアリーナ席。思わぬ利点が見つかって少し喜んでいる僕なのであった。
「ちょ、ジロジロみるでない!お前様!見せ物ではないぞ!」
思惑は早くも見抜かれてしまった。しかし見ていたのは忍のではない。
まぁ、誰のだかは言わなくともわかるであろう。
三人の中では比較的大きい方である。
いくら貧乳といえど、はかせや忍に比べたらある方である。
「・・・阿良々木さん、一つ伺います」
「ん?なんだいなのちゃん」
「阿良々木って四六時中エッチなことばっかり考えているんですか?
申し訳ないですけど、今の私にはそういう人にしか見えないです・・・」
「あ、それはないない、そんなことはないぜ」
そんなことはないはずだ。八九寺と戯れることは頭の片隅にいつも置いてあるのだが。
「いや、そんなことはないぞ、娘。
こやつは小学生五年生を後ろから抱きついてから体のあらゆる部位をなめ回しては笑ったりしておるぞ」
「え!?それって犯罪・・・」
「互いに合意の上での行為だからいいんだよ!!」
なんかいけないほうの戯れの話みたいになっちゃったじゃないか!
「とりあえず、そういうトラブルはあるものの、
常々そんなことばかり考えているような人間ではないよ、僕は。
そこら辺は信じてくれていい」
「ん・・・。
何だか阿良々木さんが良く分からなくなってきました・・・」
「工工工エエエエエエェェェェェェ(´Д`)ェェェェェェエエエエエエ工工工」
009
話がだいぶ飛んでしまうが、そこは許してほしい。
その間に特になにがあったという訳じゃないし。
今の時刻は9:00。もちろん午後の。
どうやらなのちゃんたちは寝るのが早いようで、もうそろそろ寝にかかるそうだ。
なのちゃんは歯磨きも全て終えて、布団を敷いているところだ。
何故か僕の分の布団も用意されていて、少しばかり感動した。
なのちゃんは本当に気遣いがいいなと改めて感心してしまった。
一方のはかせかはというと、歯磨きをしたと言うのにスナッQを食べようとしている。
僕に見られたが運のツキ。少し怒ってやらなければならない。
と、僕はすかさずはかせの後ろに回り込んで脇の間に手を入れた。
「よおおおおお!!はかせええええ!!!」
「うわあああああ!!」
脇の間に入れた手を上に物を投げるような動きをして、はかせを上に投げた。
「うわうわ!!なに?なに?」
「だめじゃないかはかせ!歯磨きしたのにスナッQ食べちゃ!
いやぁ、僕がいなかったらどうなっていた事か!
とにかく良かった!!もう、舐めさせろ!!もう、揉ませろおおおお!!」
「う、うわあああああああ」
僕は感情の赴くままに動いた。
自由に生きるのが人生である。
するとはかせは突然、僕の指を噛んできた。
「いっってぇ!!」
「なになになんなんだけど!」
「お、落ち着いてくれはかせ、僕だ」
「ふー・・・ふー・・・
っは、なにが起こったの?」
「そんなことより早く寝ようぜ、なのちゃんと布団が待っているぜ」
「はーい」
僕は何気なくはかせを布団へと誘導できた。
ついでに胸も触ることができた。
おめでたい。
「じゃあそろそろ僕も布団にいくか、お休み阪本」
「・・・あぁ、ちゃんと寝ろよ」
親見たいな事を言うな。
しかし、今日は密度の高い1日だったなぁ。
たった夕方から夜までの数時間なのに体感時間は1日弱くらいだ。
こんなに密度の高い1日はなかなか経験する事ができないであろう。
そして、密度が高いが故に僕は疲れてしまった。
普通なら9:00になっても眠くならないのに、
今はすっかり瞼が閉じそうである。
早く寝なければ僕の体がもたないだろう。
ようやく布団へとたどり着いた。
布団ははかせ、なのちゃん、僕の順番で並んでいた。
何故この順番になったかは知らないが、同じ部屋に寝させてくれるとは随分嬉しい。
なによりなのちゃんが隣と言うのが嬉しい。
なにか少しだけ話してみたいものだ。
今日は以上です。
012
驚くほどあっという間に時間は過ぎていくものだ。
呆気なく、何もなく、平坦な時間がけが過ぎていく。
この研究所独特の空気とでも言えば良いのであろうか。
その独特の空気に流されて流されて、12:00という時間になってしまっていた。
深夜ではない、正午のほうである。
さすがに朝から深夜までをボーッと過ごせるヤツはドラえもん以外にいないだろう。
しかし正午ではあるがそれよりも前に昼食は済ませてしまった。
メニューに関しては言及する必要はないだろう。
相変わらず美味しい料理の数々であった。
戦場ヶ原に食べさせてやりたいぐらいだった。
きっと戦場ヶ原も感銘を受けて涙を流すと同時に言葉にならない感動を覚えることだろう。
涙は流さなかったとしても、
初めて食べた時は誰でも感動で体が動かなくなるだろう。
僕はその辺にある高級フレンチレストランのフルコースを食べるのより
なのちゃんの素朴で美味しい料理を食べる事を全力で推し進める。
そのくらい、美味しい昼食であった。
そんな美味しい昼食を食べ終えた僕は満腹、至福の一時を過ごしていたのだった。
昼食の後寝ると牛になるだとかいうことを噂で聞いたことをあるが、
そんなことはお構い無し。
僕は堂々と肘をついてテレビを見るのであった。
なんというグータラぶりであろうか・・・。
受験生のやる行為ではないよな・・・。
とは言っても勉強するための教材も何もないので勉強はできない。
という事を口実に僕はこうして堂々とテレビを見ているのであった。
今テレビでは何が放送されているかというと、
ジャンルで言うとバラエティー番組が放送されている。しかも再放送である。
僕はバラエティー番組にはあまり興味はない。
だが、『埼玉県貧乳問題』とかいうフレーズが聞こえたので
少し眺めているだけである。
僕に、『胸の話にしか興味がない変態』という
視線を向けられていないか不安であったが、
よく考えてみれば今この部屋にはなのちゃんもはかせもいないので
そんなことはないだろう。
「阿良々木さーん?」
なのちゃんの元気な声が聞こえた。
番組の音声に集中していても生の人の声というものは耳に自然と入ってくるものだ。
「ん?なんだい、なのちゃん」
「今から相生さんと長野原さんと水上さんと会ってくるんですけど
阿良々木さんも行きます?」
まさかのなのちゃんからのお誘いじゃあないか。
さっき僕が何をしでかしたのか覚えていないのだろうか。
僕を再び女性の前に召喚するということは、どれ程のリスクがあるかわかないのであろうか。
いや、待て。
相生さん、長野原さん、水上さん、という三人の人物が女性とは限らないじゃないか。
なのちゃんとどういう関係なんだ?
「それって誰だ?」
三人をひとまとめにして『それ』とは何とも失礼極まりないきがしてならないのだが、
言ってしまった後に考えてもしかたがない。
「あぁ、相生さんと長野原さんと水上さんは私の友達ですよ。
同級生の」
なのちゃんの友達か。
ってことは多分女性だよなぁ。
なのちゃんが男三人と遊ぶことはないだろうし。
あ、内二人が男で残り一人が女子の可能性だってあるかもしれないな。
でもそれだと僕邪魔にならないか?
・・・まぁ、わざわざ誘ってくれるぐらいなんだから迷惑ではないのであろう。
なんとなくどのような容姿なのか気になるところでもあったので、
僕は
「うん、じゃあ行くよ」
と返事を返すのだった。
「わかりました、じゃあ行きましょう」
「あぁ、そうだな」
幸い僕の今の格好はパジャマでありながら外に出ても恥ずかしくないような格好であるので
着替える手間が省けるし、それ以外に別に身支度するものは特にないので、
すぐに出発できそうだった。
「あ、その前に・・・」
「ん?なんだ?」
「寝癖、直しておいたほうがいいと思いますよ?」
「へ?」
・・・そうか、髪型が滅茶苦茶であったか。
思わぬところが乱れていたな。
そんななのちゃんの忠告を受けてからしばらくして、
僕の頑固な寝癖は元通り、いつもの髪型へと戻された。
やっぱりこの髪型が一番しっくり来るなぁ。
これでこそって感じ。
・・・まぁ、その割にはついさっきまで髪の毛があらぶっていたことを
まったく知らなかった訳なんだけれども・・・。
僕にだって忘れてしまうことはあるさ!
忘れてしまってもこの髪型がしっくり来るんだ!
「準備できたぜ」
「あ、やっとですか、それじゃあ行きましょう」
やっとですか、というのは僕が寝癖直すのが遅いということを遠回しに言っているのであろうか。
なのちゃんは女子だからな。
そりゃ髪型に関しては勝てっこないでしょう。
ちなみに僕はパジャマではなくちゃんとした私服に着替えておいた。
いくら自然と言ってもパジャマはパジャマである。
パジャマは寝るときに着るもの。
外に出るに相応しくない格好。
改めて考えた結果そう思ったのである。
僕は靴を履いてなのちゃんの後ろをついて行く。
改めて今年の夏は暑いと思った。
否・・・快適なエアコンが効いた部屋から出てきたからそう感じるだからかもしれないが。
でも、平年よりも暑いことは確かであろう。
コンクリートごと溶けてしまいそうだ・・・。
何か帽子か何かを被ってくれば良かったなと今さら公開するのだった。
とりあえず脱水症状には気をつけて歩いていこう。
幸い塩分が摂取できる飴は二、三個所持している。
水分と程よく舐めれば、脱水症状になることは恐らくないであろう。
ちなみになのちゃんは僕とは違い、用意周到。
スポーツドリンクも持っているし麦わら帽子も被っている。
汗の渇きやすい通気性の良いワンピースを着ていて、
忍に似たような格好になっていた。
忍のワンピースと違うのは、背中の露出度合が少ないところである。
忍のワンピースなんかは後ろから手を突っ込んだら胸まで到達しそうな感じなのだが、
なのちゃんのワンピースはそんな隙を一切与えない程の隙間しかなかった。
もちろん隙間から手を入れて胸まで到達することはできないであろう。
・・・その辺も用意周到だなと思った。
集合場所は公園だと言っているのは聞いたが、その公園は以外と近かった。
研究所から徒歩で数分くらいであった。
その間僕はおとなしくなのちゃんの後をついていっただけであった。
何故僕が会話を交わさなかったのかと聞かれれば特に理由もないのかもしれないけれど、
強いて言うのならばなのちゃんのお友達に会うという事で緊張しているせいかもしれない。
まぁ。そこまでガッチガチに緊張しているわけではないけれど。
ほんの少し心に余裕が無くなったというだけのことだ。
その公園は浪白公園よりもずっと狭かった。
浪白公園の四分の一くらいの大きさであろうか・・・。
それでも十分に広い公園だと僕は思う。
何より、浪白公園が大きすぎるのだ。
東京ドームで表すほどの大きさではないけれど、そのくらい大袈裟に表現してもいいくらいに
広いしな。
それに比べてなんだかこの公園は住宅街の中にひっそりと佇む、
地域住民の憩いの場であって、子供たちの遊び場であって、老人たちの休憩スポットである。
そんな感じの雰囲気を感じる公園だ。
滑り台、砂場、ジャングルジム。
遊具も申し分ない。
朝から夜まで遊び尽くせるとまではいかないが、
ちょっと寄り道するくらいなら十分であろう。
長々と説明してきたが、僕の目にはもう公園にいる三人の人影が見えている。
特になのちゃん程目立った特徴を感じることはなかった。
左から順番に、
茶髪のセミロングで半袖とジーンズを着用している女の子。
青い髪の毛で髪止めで髪を止めているワンピースの女の子。
黒髪のロングで眼鏡をかけた大きな帽子を被ってる女の子。
どれも至極普通の女子高校生であった。
ていうかやっぱりなのちゃんの友人は全員女の子だった。
「おーなのちゃん!!スラマッパギー!!」
「なのちゃん、よく来たねー」
「弥勒菩薩像」
なんということだ。
挨拶一つで常識人が青い髪の毛の娘だと分かったかもしれない。
あくまでも推測だが。
もしかしたら全員変人、又は全員凡人かもしれないし。
「はい、皆さんお待たせしましたー」
「もうかれこれ5分は待ったよー!
いやいや、なんで地球って大きいのに太陽は私たちだけを照らすのかなー!」
「いや、太陽は私たちだけを照らしてるつもりはないと思うけど・・・」
茶髪の娘は天然、もしくは元気なおバカさん?
というとなんだか失礼なのでおバカさんは抜いて元気という言葉だけを残しておこう。
「ところで・・・なのちゃん」
「ん?何ですか、相生さん」
「その・・・身長低めの男の人、誰?」
「!!!」
いきなり痛いとこ突いて来やがったこの娘!!
僕の身長があまり大きくないことを、そのことを僕が少々気にかけていることを、
突いてきやがった!!
エスパーなのだろうか!
この娘は僕の心を見透かせるのか!?
「・・・身長低めで悪かったな」
とりあえず絡まった様々な感情を抑え込んで、僕はその一言で済ましておくのだった。
「あ、なんかごめんなさい・・・」
謝られてしまった。
ー否、謝らせてしまった。僕が。
なんだか申し訳ない気持ちになってこっちが謝りたくなったものだが、
とりあえずまず僕は僕が何なのかを言わなければならないだろう。
「あ、あのこの人はいろいろあっていま研究所に住んでいるお方です」
「へぇー、何か怪しいねぇなのちゃん?」
とんでもないことを言いやがる、茶髪。
男と女が同棲ってだけで怪しまれるとは。
「いやいや、何もありませんから・・・!!」
「そう?」
「あ、そうだ、自己紹介は自分でお願いしますね」
「あ、うん」
とりあえず、僕のこの後の印象がどう崩れようと、どう壊れようと、
大切なのは第一印象だ。
第一印象が最悪だと立て直すのが難しい。
ここは出来るだけ自分自身をアピールするような自己紹介をしなければ。
「えっと・・・僕の名前は阿良々木暦だ。
いろいろな事情があっていまなのちゃんの研究所にお世話になっている。
高校三年生だ。
君たちが通っている高校とは違うとこに通っているよ」
世界も違うが。
「まぁ、まさかこうしてなのちゃんのお友達に会えるとは思えなかったから、
思いのほか感動しているよ。
そう長くは研究所にはいないだろうけど、数日間宜しくな」
「ちょ、ちょっといろいろ疑わしいんですが・・・」
と、青髪の女の子。
「なのちゃんの研究所に泊まっているとか、高校生三年生に見えないと言うか・・・」
「悪かったな!身長が低くて・・・」
「あ、すいませんね」
否定するのかと思ったらやっぱり身長かよ!
そんなに背が低いか!!
・・・低いな。
「まぁ、よろしくー!
なんだっけ・・・あ、あららぎぎいさんでしたっけ」
「僕の名前をメソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語みたいな
名前で僕を呼ぶな!!僕の名前は阿良々木だ!」
「すいません、忘れてた・・・」
「いいや、わざとだ」
「数日間宜しくお願いしまーす!」
「いやそこは噛めよ!!」
「?」
「あ、いやなんでもない」
相手が噛んだら即このネタを使おうと思ったらこのざまである。
僕は
意味のないツッコミを意味のわからないタイミングで入れたかわいそうな少年になってしまった。
「とりあえず宜しくお願いします!
私の名前は長野原みおです!高1です」
「水上麻衣・・・愛と純情の高校生1年生・・・
特技は弥勒菩薩像の生成」
「私は相生裕子!!ゆっこで呼んでね」
黒い瞳の奥から何かを感じる黒髪の女の子以外は意外と普通そうであった。
なんというか、麻衣ちゃんは未知なる何かを隠していそうであった。
「あと、今更ですがいいですか?阿良々木さん」
「ん?なんだいなのちゃん」
「先程『ぎぎい』メソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語と
おっしゃっていましたけど、あれは『ぎぎい』ではなくて『イギギ』ですから」
「なのちゃんは何でも知ってるな」
「何でもは知りません、wikipediaに載ってることだけです」
「意外とネットを駆使している!?」
・・・たとえwikipediaだとしてもイギギを知ってるって何者なんだよ。
ちなみに僕もイギギはたまたま検索してたらwikipediaで見つけた程度で、
メソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語というのも全て
wikipediaに載ってることであって、大してイギギに対してなんの知識も持ち合わせていない。
「ところで、裕子ちゃんはゆっこって呼ぶけどさ、
みおちゃんと麻衣ちゃんの事は何てよべばいいんだい?」
「うーんそうだなぁ、
まぁ私のことはそのままみおちゃんって呼んでくれればいいですよ」
「分かった、ちゃんみお」
「ちゃんみお!?何故その呼び名を知っている!?」
ふざけて適当に思い付いた言葉を言ったつもりだったが、
既にその呼び名はあったらしい。
まぁちゃんみおって呼びにくいし僕はみおちゃんってよべばいいか。
「麻衣ちゃんは何て呼べばいいかな?」
「私は・・・何でもいいよ」
「そうか、じゃあマイマイっていうのはどうだ?」
「・・・それは西尾維新著『化物語』に登場する八九寺真宵のパクり」
うおっ!?
メタネタを挟んできたぞこの娘!!
かなりネタに対応してくれそうだ!!
「そ、そうかじゃあ単純に麻衣ちゃんでいっか」
「・・・うん」
なんだかこの娘の一言一言には重みがあるなぁ・・・。
深く吸い込まれそうな声というか・・・なんというか・・・。
癖になりそうと言えば癖になりそうであった。
麻衣ちゃんのドラマCDが出たらそれを聞きながらゆっくり眠れるであろう。
「ところで、ここに何しに集まったんだ皆は」
「あ、私の家で遊ぼうって事になったので皆さんに集まっていただいたんです。
阿良々木さんの自己紹介も兼ねて」
「あぁ、そうだったのか・・・
ってことは皆僕がここに来ることを知っていたのか!?」
「いや、阿良々木が来ることは知らなかったですけど、
なんだか男の人を連れてくるってことは聞いていました」
みおちゃんの他の二人もそのことを知っていたようだ。
「でもここに集合するんじゃなくて、研究所の前に集合すればよかったんじゃないか?」
「私も今思いました・・・。
私が集合場所を公園って言ったばかりにこんな炎天下の中で待たせてしまったんです・・・」
「いやいや、別に大丈夫だよなのちゃん」
「そうだよ、みおちゃんの言う通りだ
誰も責めることはないさ」
「・・・そうですよね!
じゃあ研究所に向かいましょうか!」
そんな具合で研究所へと向かうにであった。
向かうというよりは戻ると言った方が良いだろう。
研究所・・・即ち家とは、様々な世間の目をたった数人にまで減らすことが出来る。
そんな場所である。
世間の様々な目の前で目立った行動を起こすのは少々ためらいはあるものだが、
それが数人になればいとも簡単にできてしまうであろう。
そんな研究所に今僕は女子高生4人を連れていくのである。
・・・何もしないという方がおかしいだろう。
少なくとも僕はそう思う。
たった4人・・・いや、5人と一匹の視線なんて僕に対してはなんの障害でもない。
忍の視線はもう慣れているのでどうでもいい。
これで何もアクションを起こさないなんて、それはないであろう。
二日連続でこんなに堂々と女の子と戯れることが出来るのは、
この世界に来た恩恵とも言えよう。
今日は終わりです。
「じゃあ
・・・お絵かきを始めましょう」
「その言い方はなんだか・・・」
戦場ヶ原が似たような台詞を言っていたような気がするな。
「ん?なんですか?」
「いや、何でもないよ、なのちゃん。
続けてくれ」
「はーい」
「・・・というかお絵かきっていっても何を描くんだ一体」
・・・裸婦はモデルがいないとかけないんだぞ、裸婦はモデルがいないとかけないんだぞ。
僕の眼差しは彼女、なのちゃんには届いたであろうか。
「サメー!!」
「USI!!」
「漢がいいかな」
「三十三間堂」
「バラバラじゃないか!!君たち!!」
てかもうみおちゃんは腐女子確定だろ!!なんだよ口を開けば男、漢って!
腐女子以外の何者でもないじゃん!
「というか自由でいいんじゃないか?
ルールとかテーマとかそういうの設けずに、描きたいものを描けばいいと思うよ僕は」
「・・・いいこといいますね!!阿良々木さん!!」
「へ?」
「それは漫画家に対してのエールのようにも思えます!!
『描きたいものを描け』それは漫画家にとって最も簡単で最も難しいこと・・・!!
出版社側の事情とか世間の目とかそのような壁なんか気にもせずに
自由に描きたいものを描けば自然といい作品ができる!!
そういうことですね・・・!
・・・なんだか励みになる一言ですね・・・!!」
いや・・・僕の発言にそんな思惑はなかったと思うんだが・・・。
「何?みおちゃんは漫画家なの?」
「・・・あ、すいません!つい語っちゃって。
一応漫画家志望です」
「へぇー・・・」
漫画家を目指しているのか・・・。
どおりで絵が上手な訳だ。
単純に気になることは一般向けの漫画家か成人向けの漫画家になるのかというところだが、
そこまで問い詰めることはないだろう。
もしかしたら本人は一般向けと成人向けの間でさまよっている可能性もあるし。
僕の質問のせいで成人向け漫画家デビューなんてしたら大変なことだ!
できれば一般向けの漫画家でデビューしてほしいからな・・・。
「まぁ、そうですね・・・。
じゃあ自由に楽しく描きましょうか!!」
「りょーかーい!!」
皆、ペンやらボールペンやら鉛筆で描こうとしている中で、はかせだけクレヨンという
幼さが残る筆記用具をグーで持って描こうとしていた。
その辺りはまだ8歳。
グーで持っているというところが実に可愛らしい。
ということで一人一人が思い思いに自由に描きたいものを描き始めた。
皆、集中して何かを書いている。
何を描いているかがよく見えないのが残念である。
何故隠すような姿勢で描くのだろうか・・・。
と言っている僕も自然とそのような姿勢になってしまっていた。
この姿勢は絵を見られるのが恥ずかしいからではなく、
とても絵を描くのにいい姿勢であるからこの姿勢になっているのである。
世界的にはこの姿勢が絵を描きやすい姿勢なのかどうかは知らないが、
少なくとも世界中で僕たち6人には絵を描きやすい姿勢であることは間違いない。
・・・しかし案外何か描こうと思って真っ白な紙と向き合ってみると
何も描けないものなのだな。
この真っ白な紙と向き合う前までは何か描きたいものがあったかもしれない。
しかし、この真っ白な紙を見るとどうも描こうと思っていたものが思い出せなくなってしまう。
あまりにも白すぎて何を描けばいいのかと戸惑うしかない。
・・・だけどこの悩みは僕だけのようだ。
皆、何かしら描いている。
必死で筆記用具を動かし続けている。
・・・僕はあまり頻繁に絵は書かないもんな。
絵を描こうと思って描こうとすることに慣れていないから、
僕からすれば『自由』というのは『不自由』に近いのかもしれない。
『自由』が『自由』すぎて何を描けばいいのか分からなくなる。
・・・まぁ何を隠そう、先程『描きたいものを描けばいい』なんて言ったのは僕なのだが。
自分で『自由に』とか言っておいて一番『自由に』描けていないのは
僕じゃないか!
・・・やっぱ何かお題を出してほしかったものである。
僕が思っていたより何を描くのか悩んでいた時間は10秒。
たった10秒である。
僕にはこの白紙に10秒で何も描けなかったというのに。
一人の少女が
「出来たー!!」
などと大声をあげるのだった。
なんだ、サインでも書いただけかと思った。
大声をあげたのはゆっこである。
ゆっこの絵の実力がどんなものかは僕は知らないが、
流石に早すぎであろう。
それとも、
小説家に速筆がいるように画家にもそんな感じの人がいて、ゆっこはその素質を持っているということか?
いや・・・10秒で絵を描き終わるなんて画家はいないはずだ。
今日はおわりです。
亀更新ですいません
「え、もう書きおわったのか・・・?ゆっこ」
「そりゃそうよー!
『私の腕にペンを持たせれば、神速の速さで白紙に芸術が生まれる』
って言うしね!!」
「なんだそりゃ」
早いのはいいことなんだが、問題は絵だ。
上手いか下手かは別に問わないが、
いわゆる『殴り書き』で書かれたような絵であった場合。
上手いか下手かすらも分からないので困る。
まぁ、本音を言うとそこまで豪語するのならできれば上手い絵であってほしいと願っている僕であった。
「私そんなの聞いたことないけどなぁ・・・」
友人のみおちゃんが言うのだからきっと間違いない。
『私の腕にペンを持たせれば、神速の速さで白紙に芸術が生まれる』なんて言葉は
自分自身に自信があったからこそ作った、もしくは作っていた言葉だ。
「じゃあ、その絵を見せてもらおうか」
「お、おう」
その力作と呼ぶに相応しいかどうか分からないほどの製作時間で製作された
ゆっこの絵はクオリティが高いのかどうか。
それは誰にも・・・いや、みおちゃんやなのちゃんや麻衣ちゃんは知っているのかもしれないが。
僕にはわからないからな。
少し胸が踊るのであった。
「これが私が描いた絵だよう!!」
胸を張って言う彼女。
忍とは違い胸はまぁまぁあるものなので、自信を持っているという雰囲気を感じることができた。
「・・・ん?」
なんだこれは・・・。
何を描いているんだ?
芸術的すぎて逆に下手に見えるってやつか?
「んーと・・・」
良いところをあげるとするのなら、
これだけの絵をよく十秒で描けたな、という所だ。
殴り書きにもなっていないのに十秒でそこそこの絵が描けてしまっている。
また、大きく描いてあって非常に見易いという点も非常に良いところだろう。
だが、しかし。
根本的に不自然である。
絵が描かれているのに絵が絵でない。
この世に存在すべき物質が描かれているかどうかも判別できない。
ストレートに言うと、
下手だ。
しかもかなり。
作画崩壊なんてもんじゃないぞ、これ。
頭と思われる所に謎の丸い物質を被っており、
水玉の模様が散りばめられている。
そしてこの絵の最も不気味なところは、
その被っているものと四足歩行をすると思われる体が繋がっているということだ。
つまり的確に表現するのならば被っているのではなく、その物質の体の一部なのだ。
そして尻尾を持っている。
なんだこれは・・・世紀末か。
「・・・・・・も、申し訳ないけど・・・ゆっこちゃん・・・」
「ん?」
「こ・・・これは何だい?」
「えー?分かんない?
どうみてもカンガルーでしょー」
「え?」
これがカンガルーなの?
てか袋無い時点でカンガルーじゃないと思うんだけど・・・。
「え、え、え、え、
ゆっこ・・・これ本当にカンガルー?」
「そうだよ?みおちゃん」
「・・・前より酷くなってるような・・・」
みおちゃんも目の前に描かれているいるものがなんなのか
理解するのに苦しんでいる。
正常な人間の脳ならばこのものを理解するのに最低10秒は時間を費やすだろう。
そして理解したところでそれが何なのかは結局分からない。
ただの未確認物体。そうとしか言えない。
・・・しかし前より酷くなっているとはどういうことであろうか。
前は少しはマシだったという事か。
「え?そうですか・・・?
いやいや、私はそんなに上手くはないですよ・・・!」
と遠慮しつつも、「ゆっこよりは上手いけど」と小声で付け足すのだった。
そうだな・・・もう少し持ち上げてみるとしよう。
「でも・・・このくらいの画力だったら漫画家にでもなれるんじゃないかなぁ?」
「あ、そうですか?
ちなみに漫画家目指してるんですけど・・・私」
「大丈夫だよみおちゃん。
プロでももっと下手な人いるし、ストーリーさえ練れば、漫画家になれると思うよ、僕は」
「え、えへへへ・・・。そうかな?」
「ちゃんみおが今までにないほど恍惚な顔になっている・・・!?」
ゆっこが驚くのも無理はないだろう。
僕だって、みおちゃんがこんなにうっとりしているのか理解できないからだ。
なんだかよくわからないが、みおちゃんは僕に異様になついている。
なついているというか・・・なんかちょっと気を許しているような気がする。
僕の勝手な思い込みかもしれないが・・・。
「そうだよ!
あ、でも声優ってのも良さげだなぁ」
「声優・・・ですか?」
「その特徴的でどこか胸打たれる声・・・
おそらく、声優の世界でも異様な存在感を放つことができるだろう。
そういうダミ声・・・嫌いじゃないな」
僕は、わざとらしく、それらしく、所謂『イケボ』でそう言った。
僕の声は以外といい質のものだと聞いている。
なんだっけ・・・神谷とか言う声優の人の声に似ているって誰かが言ってたっけなぁ。
なので、多少、ほんとに多少ではあるが声には自信があった。
だからみおちゃんの耳には僕の声が『イケボ』に聞こえてくれたらいいのだけれど・・・。
ちなみになぜ『イケボ』で話したのかと問われれば、
その方がみおちゃんが惚れると思ったからである。
別に惚れさせる気はないが、少し反応を見てみたい。好奇心が僕をそうさせたのだ。
「え・・・そ、そんなこと言われるの・・・初めてです・・・。
う・・・え・・・本当に?」
「あぁ、僕はそういう声の方が好きだなぁ・・・」
「あ・・・・・・う・・・・・・」
かっ、可愛い!!かなり可愛い!!
なんだ、腐女子もなかなか悪くないもんだなぁ。
そういえば先ほど、僕の周りに腐女子はいない。と言ったが、
神原がいた。神原は多分、腐女子の分類だろう。
これからは神原から腐女子について学ぶように心がけよう。
まぁ、そんなことは後考えるとしよう。
「じゃあ・・・みおちゃん」
「ん?は、はい?」
さて・・・そろそろ。
僕が一番言いたかったこと・・・。僕が一番やりたいこと・・・。
僕が一番この世界に来てから考えていること・・・。
僕が、さっきなのちゃんにやろうとしたこと。
それらを言葉にして僕はみおちゃんにぶつけることにしよう。
今のみおちゃんのコンディションはこの行動をおこすのには最高と言える。
油断もスキもありまくりで、心ここにあらずという感じだ。
なのちゃんはさせてくれなかったが、みおちゃんならきっと・・・。
そんな望みをかけて僕は言う。
「・・・胸・・・揉ませてくれないかな?」
そう、僕が元の世界に帰ることよりも何よりも考えていること、したいこととは、
胸を揉むことである。
誰の胸でもいいということではない。
あくまで最終目標はなのちゃんの胸だ。
ただ、その為の予行練習というか・・・。
昨日、はかせの胸を揉みまくったのもそういうことだ。
なのちゃんの胸を揉む前に、いろんな人で練習をしておけば安心、ということだ。
ただ、練習といっても一人一人の胸をじっくり揉んでいくのが僕のモットーだ。
あくまで練習だけの為の胸ではない。
練習のための胸でもあるけど、じっくり揉むための胸でもある。
練習のためだけの胸なんて失礼じゃないか、胸に対して。
と、そんな思惑で言った言葉の返答を待っていた・・・否、待つ暇もなく返答は来た。
「・・・・・・い、いいですよ?」
まさかのイエス。了承。許可が降りたのだった。
そう、もう今のみおちゃんは褒めちぎられて理性がない。
それと、『イケボ』のおかげだろうか。
すげぇな、『イケボ』って。恐ろしいな・・・。
そ、そんなことより、僕には許可がされたのだ。
みおちゃんの胸は完全に僕に対してオープンの状態なのだ。
本人の許可があればもう大丈夫。
なにも怖がるものはない。なにも恐れるものはない。
平然と胸へと手を置くことができる。
「え、え、?ちょっとみおちゃん??」
ゆっこには見てもらうしかない・・・。
揉んでもらいたいなら言えばいいのに。
ちなみになのちゃんはいつだか分からないが、トイレに行ったらしい。
夢中になりすぎて気づかなかった。
「ど・・・どうぞ・・・」
「あ・・・いくぞ・・・」
はかせの時はノリと勢いで胸を揉んでしまったが、
こういうゆっくり焦らす方が胸が高鳴るな。
「じゃあ・・・失礼」
僕がゆっくり手をみおちゃんの胸へと近づける。
お互いの息づかい・・・いや、ゆっこの息づかいも含めて
三人の息づかいがこの居間に響き渡る。
ゆっこの息づかいはドキドキ、というよりはハラハラ、と言ったところだが。
みおちゃんは僕を真っ直ぐ見つめてくる。
僕もみおちゃんを真っ直ぐに見つめて。
僕はみおちゃんの胸へと・・・手をつけた。
「・・・っあ・・・」
・・・うわっ・・・!!
ダミ声の喘ぎ声って・・・なんかいいな・・・。
エロい。
「みおちゃん・・・どう・・・?」
「・・・とっても・・・いい・・・・・・っあ」
僕はたえまなく胸を揉み続けた。
一定のリズムで、ゆっくりと。
「・・・あ、あららぎさん・・・も・・・もう・・・」
「・・・まだだ・・・まだ」
「何やってるんですか、阿良々木さん」
あ・・・・・・
なのちゃん・・・・・・。
「わ、私の絵も負けてませんよ?」
ここまで消極的な(投げやりとはいえ、台所で『まぁ、そんなに揉みたいって言うならば、
それなりの条件を提示してくださいね、私が喜ぶような』と言ったこと以外)なのちゃんが、
急に積極的になった。
「ふーん・・・。自信があるのか?」と、僕はそれらしく、偉そうに言ってみた。
「まぁ、多少はありますよ」
「そう言えばなのちゃんの絵って見たことないなぁ・・・」
ゆっこも見たことないのか・・・。
じゃあ恐らくここにいる人間は皆見たことないんだろうな。
阪本はこっそりみてるかもしれないけど。
「じゃあ何か自由に描いてみてよ、何でもいいから」
みおちゃんがそう言うと、「はい!」となのちゃんは返す。
なのちゃんは黒いクレヨンを即座に手に持ち、描き始める。
一体何を描いてくれるのか、そしてどれ程の実力なのか。
期待しているところである。
・・・と、なのちゃんが描き始めて20秒ほど経つのだが・・・。
何を描いているのかさっぱり分からない。
黒い曲線がクロスしてうねっているだけの図形にしかみえない。
いや、図形にもなっていない。
本人には悪いが、何を描いているのか分からない。
しかも本人はこれで完成、だと言っているのだ。
さぁ、推理の時間だ。この絵がなんなのか解き明かそう。
とは言っていないが、ゆっこもみおちゃんも麻衣ちゃんもはかせも僕も、
無言で推理しているような面持ちであった。
ただ単に衝撃で体が動かないだけかもしれないが。
「こ、これは、な、なに?なのちゃん」
ゆっこが震えた声で、全員が気になっていたことをようやく言う。
「えー?見て分からないんですか?」
「いや・・・うーん、念のため確認しておこうかなぁーって思って」
出来る限りなのちゃんが気づつかないように、そういう言い方をしたのであろう。
要するに『見て分からない』と遠回しに言ったのだ。
「これは・・・阿良々木さんですよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「「え?」」」」」
その言葉が出てきた時、僕たちは凍りついたかのように体が動かなくなった。
これは人間を描いていたのかと。
これは僕であったのかと。
様々な衝撃が折り重なって体が言うことを聞かない。
何よりも僕が一番衝撃的であったのは、
なのちゃんの見た目や態度からして、芸術的センスがものすごく良いというイメージを
持っていたのに・・・この絵、というところだ。
こっちが勝手に思ってただけで、これは完全に僕自身のせいなんだけど、
ショックであった。
今日は終です
「あ、あ、そ、そそそうかー!!
ま、ま上手いね!!」
ゆっこは褒めてはいるが、誰がどう見ても嘘だというのはバレバレであった。
しかし、なのちゃんは素直に
「えー?そうですかー?」
と恥ずかしそうに照れる。
全員がなんとも言えない顔でその絵を見ているのに気づかないのであろうか。
「うーん、そう、
阿良々木さんの顔によく似せて描けていると思うよ!特に線と線が交差しているところがそれっぽい!」
「は!?」
線と線が交差している顔の人間って何者なんだよ。どんなファッションだそれは。
何を言っていいのか分からなかったがゆえに発言した言葉なのだろうが、
僕の顔が数学の図形のように交差している線のようだなんて、いくらなんでも酷すぎる、みおちゃん。
・・・と、まぁ。
思いの外なのちゃんの絵が下手で、何とも言えない空気が漂っている訳だが・・・。
自らの絵より上手いと言われ、この絵を見せられたはかせはまだ八歳。
遠慮なく、躊躇なく、言いたいことは言いたいだけ言う年頃。
僕たちは何も言えないままであったが、はかせは違かったようだ。
「なにこれ」
はかせの第一声がこれだ。
ゆっこと僕、みおちゃんはこの言葉を聞いて、はかせはこれからなのちゃんの絵を貶すぞ!
ということを察していたが、止める余地もなく、はかせはいい続ける。
「はかせの方がうまいんだけど!!
なにこれ!!髪の毛にしか見えないんだけど!」
「ガーン・・・」
「というかなんでこんな所々角ばってるの?意味が分からないんだけど!!」
「ガーン!!」
「そもそもこれ絵になってないんだけど!!」
「ガーーーーーーンッ!!!」
なのちゃんは何かに吹き飛ばされたかのように大きく吹き飛ぶ・・・ような精神的な衝撃を受けたように見えた。
心はずたぼろにされ、踏みにじられた。
はかせに悪気は一切ないんだろうけども、酷いことを言うものだ。
・・・まぁ、あながち間違ってはいないというのが本音だが・・・。
「こ、こらはかせー」
みおちゃんはやさしめに怒る。
何に怒ってるのかよく分からないような言い方ではあるが、
言っていいことと悪いことがあるだろう・・・ということを感じ取って欲しいのだろう。
「あれ、なのが固まっちゃったんだけど」
「ん、あ、本当だ」
僕が声をあげても全く動かない。
全身が石化したかのように動かない。
僕たちも先ほど陥っていた状況、『衝撃で体が言うことを聞かない』
になのちゃんも陥ってしまったのだろう。
「なのちゃんー。大丈夫ー?」
ゆっこも心配するが、全く動かない。
「・・・これは、阿良々木さんが何とかしてください」
「はっ!!何故僕が?ここは全員が力を合わせてなのちゃんを解凍しなくちゃならないだろう!」
「解凍・・・氷なの?これ」
みおちゃんの言うとおり・・・解凍という表現は相応しくないな。
「と、とりあえず、阿良々木さんがこの中で一番年上だから・・・変態だけど」
「余計な情報は添付しなくていい」
・・・でもそうか・・・、僕は高校三年生。
来年はもしかしたらキャンパスライフを送っているかもしれない。
もうほぼほぼ大人だ。
ここはらしくはないが、僕が責任をとって何とかしようか。
年上の義務として。
と、思ったが・・・。
その時、インターホンが鳴った。
「あ。来客だ!!来客!!対応対応!!」
「話そらすなー!!」
ナイスタイミング!!来客!
僕はこの話を絶ちきるように玄関へと向かった。
というかあれはどうにかしろと言うものなのか?
自然ともとに戻ると僕は思うのだが・・・。
まぁ何にせよこの来客により、振りきれたのだ。
よかったよかった。
「はい、今いきますー」
僕はこの家に昔からいたかのような、ここに昔から住んでいるような雰囲気を出して返事をした。
玄関の扉越しに来客のシルエットがうっすらと見える。
ロングヘアーであることははっきりと分かった。
ということは、ほぼ女性であることは確定しただろう。
姿勢もなかなかいい。
僕は玄関の戸にてをかけて言う。
「お待たせしました」と。
しかし、僕の夢のような一時は。僕の自由奔放なこの世界での生活は。
この瞬間に崩壊した。
こんな僕の行動を絶対に許さない。
というかそんなことが彼女の前で出来るわけがない。
文字通り"彼女"なのだから。
そう、何を隠そう来客とは。
「楽しそうじゃない、阿良々木君」
と微笑む僕の彼女、戦場ヶ原ひたぎなのであった。
今日は終わりです
「何をしているのかしら?阿良々木君?」
「い、いや何でお前がここにいるんだよ!?」
それが不思議でならない。
戦場ヶ原も僕と同じ本に触れたのであろうか・・・?
しかし、その可能性は低いと考えたほうがいいだろう。
ということは、別の方法でここに来たのだろうか・・・。
いや、偶然だろうけど。
「私もよく分からないわ、昨日の夜、書店に行ったら不思議な本があってね」
え・・・、可能性は低いの見積もったが、戦場ヶ原もあの本に触れたのか・・・。
一応、どんな本だか確認することにしよう。
「それはどんな本だ?」
「真っ白な本だったわ。真っ白ということ以外、何にもないわ」
「やっぱり・・・」
「ん?何がやっぱりなのよ。そんなことはどうでもいいのよ」
いや、どうでもよくねぇだろ。
「あなたのものすごく楽しそうな声が耳に入ったから、私はここに来たのよ?
こんな見知らぬ世界で、あなたも気楽なものね」
「・・・」
一体どの辺から聞いていたのだろうか・・・。
「こんな場所で一体何をしているのかしら?聞くからにいるのはあなただけではないわよね?」
「あ、あぁ・・・」
「ん?誰が来てるの?」
ゆっこが顔を出した。
「あら、こんにちは」
「あ、こ、こんにちわ」
戦場ヶ原は知らない高校生相手に優雅に挨拶を交わすのであった。
「ど・・・どちら様?」
「私は戦場ヶ原ひたぎ。
この男、阿良々木暦のー」
ま・・・まさか・・・ここで言うつもりか!?
僕との関係を!!
「阿良々木の・・・・・・
かーのーじょーでーすー」
なんという棒読み。どのような意図があってそのような言い方をしたのか僕には分からないが、
ともかく僕との関係が彼女たちに晒されてしまったのは確かである。
「・・・え!!?」
ゆっこは驚く。そりゃそうだ、こんな変態に彼女が・・・!?といったところか。
「みんなー!!阿良々木さんの彼女だって!!」
「お、おいゆっこ、そんなに叫ぶなって・・・」
「え!?阿良々木さんの彼女!?」
「え、なになにー?彼女ー?」
「彼女いるんですか!?」
みおちゃん、はかせ、凍りついていたはずのなのちゃん、の順番で叫んだ。
彼女、彼女、彼女と、やけに彼女を強調していた気がするが・・・。
「あら、沢山いるのね。あなたの好きな『幼女』までいるじゃない!
だから嬉しそうだったのね」
「僕をロリコンにすんな!!」
「「「「彼女いたの・・・!?」」」」
ゆっことみおちゃんとなのちゃんとはかせは息ぴったりで僕に尋ねた。
なんだよ、そんなに僕に彼女がいることが珍しいのかよ!!
「・・・あぁ、見ての通り・・・僕、阿良々木暦には・・・彼女がいる」
「「「「おおーーー」」」」
「だからなんでそんな息ぴったりなんだよ」
「なんだか、もう随分と溶け込んでるわね。
しかも女の子ばっかり。ここに何日間滞在しているのかしら?」
「二日間だ」
厳密にいえばまだ24時間も経っていないのだが・・・。
昨日と今日をまたいでいるので、二日間という表現を使った。
「まぁ、とりあえずあがってください」
なのちゃんが珍しいものを見るような目で戦場ヶ原を見ながら言う。
「お邪魔しちゃっていいのかしら?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう、優しいのね」
「いえいえ」
本音をいえば、あまり入ってきてほしくなかったにだけれども、
そんな事を言ったらいくら更正中の彼女と言っても、ホッチキスで
ボッコボコになるであろう。
それは怖い。
なので僕もここは心をオープンにして、戦場ヶ原が家に入ることを許すのであった。
まぁ、僕の家ではないので許可をだすのは僕ではないのだけれど。
014
「素敵なおうちね、住み心地が良さそうだわ」
僕らは居間に座った。戦場ヶ原はこの研究所を気に入ったようである。
「あの・・・本当に阿良々木さんの彼女なんですか・・・?」
「ええそうよ。もう私惚れまくりよ、彼に」
「へぇー!ラブラブなんですか」
なのちゃんは興味深そうな目で質問を投げ掛けていた。
「でも。なんで阿良々木君に彼女がいるのが意外なのかしら?」
「なんでって、さっきこの人私の・・・」
「あー!!待った待った!みおちゃん、そこまでだ!」
「私の胸揉んできましたからね」
「うわあああ!!」
ばれた!!僕の自業自得だけど、戦場ヶ原だけには知られたくなかった!!
「ふーん、そんなことする人に彼女がいるわけないと思ったということね」
「はい」
「まぁ、至極当然の考え方よねー。そんな人に彼女がいるとは普通考えもしないわよねー。
ねぇ?阿良々木君」
こっちを物凄い眼力で見る。
「・・・で、ですよねー」
「あなたも落ちぶれたわね、私以外の胸を揉むなんて。
揉みたいならいえばいいのに」
え!?いいの!?がはらさん!!
「何、『うわっ、僕の青春にやっと春が来ましたよ!神様!』みたいな顔してるのよ」
「どんな表情だよ」
「冗談よ、私の体はそんなに安くないわ、軽くみないでちょうだい」
「そんなチープな体だと思ってないから、安心しろ」
「あ、でも・・・」
と前置きして戦場ヶ原は僕の耳元で囁く。
「本当の本当に耐えられないんだったら、いいわよ。いつでも」
「!?」
体温は急激に急上昇し、目は一気に充血した。
僕がドキッとしてしまうようなフレーズを何事もないかのようにさらっと言ってしまう。
僕が『あら、やだ、かっこいい』と言いたい気分であった。
「な、なにを言うんだ!!僕はそんな事考えてないぞ!?」
とりあえずこの一言で落ち着くことにしよう。
「ふふっ、可愛いわね、またあなたのことがより好きになってしまいそうだわ」
どんどんと僕の心を責めてくるなぁ・・・。いい意味で心臓に悪い。
さすがです・・・。
「お二人とも、仲が『かなり』いいですねぇ」
妙な笑顔を浮かべてなのちゃんが言う。
「そうよ。私たちはニセコイでもなんでもなく、モノホンのカップルなのよ。
あなたたちも高校生なら、彼みたいな彼氏をつくりなさい」
「は、はぁ・・・」
「なんだ、その、僕みたいな彼氏はちょっと・・・みたいな反応」
「ところで・・・」
戦場ヶ原は居間のこたつテーブルを指指して言う。
「さっきまで何をしていたのかしら?」
「あぁ、お絵かきをしていたんだ。皆で仲良くな」
「お絵かきから胸を揉むことができるなんて・・・あなた天才ね」
「・・・お褒めいただき光栄です」
やや投げ出したように僕は言った。
「お絵かきね・・・私も最近絵を描いていないわね・・・。
私も何か描いていいかしら?」
今日は早く寝るので終わりです
しょうがない・・・描いてやろう、僕の顔を。
僕は僕の顔を僕の目でじっくり見たことはないのだが、
なんとなくこんな感じだろう・・・と手探りで描くしかない。
なんとなくで、本当になんとなくで僕っぽさを白紙にかきだそうと頑張った。
僕なりに頑張ったー。
「・・・できた・・・」
やっと出来た・・・というほど時間はたっていなかったようだが、
僕の中での時間の経過する速さはとても速かったようだ。
ともかく、なかなかの力作だと思う。
人間の形は保ててるし、髪の毛が目にかかっているあたりも僕っぽいだろう、多分。
僕なりに頑張ったので、多少は何か称えてほしいと僕は思ったが・・・。
「ふーん、なんというか、下手でもなく上手でもないというか・・・。
なんともいえない、実に平均的で芸術的な何かも感じることができないわね・・・。
評価し難いわ」
「・・・」
それは反応し難いな・・・。戦場ヶ原・・・。
「確かに・・・、普通ですよ・・・ね?」
「いや聞かないでくれよなのちゃん」
「ん、うんうん、普通なんだけど・・・
あ、でも普通が一番っていうこともあるんだけど!」
8歳児に同情されてしまった。
と、そんな感じで、
僕の自信作(多分)は酷評された後、お絵かきの時間は終了するのであった。
014
「さて、遅れたけれど、自己紹介をしましょう」
お絵かきが終わった数分後、戦場ヶ原は何の前振りもなくそう言い出すのであった。
「戦場ヶ原ひたぎ。高校3年生。阿良々木君の彼氏で、阿良々木君よりは賢いと自負しているわ」
僕をさりげなく僕を馬鹿みたいに言ってきたな!
「へぇー」
ただ単純に驚いただけなのか、僕より頭がいいことに納得したのか。
なのちゃんはどちらの意図でその言葉を発したのかは僕には分からなかったが・・・。
前者であってほしいと強く願う。
「私の紹介はこんなものよ・・・。さて、
あなたたちの自己紹介も良ければやっていただけないかしら?
阿良々木君とも随分仲が良いようなのだから、私がプロフィールを知っておかない訳にはいかないわ」
なんだそりゃ。戦場ヶ原は僕と関わりのある女の子のプロフィールは全部把握したいのだろうか。
「えーと、私は相生裕子。『ゆっこ』って呼ばれています。高校生1年で、
駄洒落が大好きでーす!!」
「随分と元気ね、駄洒落・・・。何か言ってみてもらえないかしら」
「谷が喜んだ、やったにー!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙。
「あ、あぁ、えー・・・素晴らしい駄洒落だと思う・・・わ。
だ、だけど私はもっと面白い駄洒落を知っているわよ」
こんなに動揺している戦場ヶ原はなかなか見られない。
レアだ。目に深く焼き付けておこう。
「もっと面白い・・・駄洒落?教えてください」
「・・・・・・『Can you show me the prize?』よ。
どう、面白いでしょう」
「・・・・・・え?え?」
ゆっこは困惑した。まさかの英語だったからだろう。
しかし・・・どの辺が駄洒落だというんだ?
「これは、日本語にすると『私に賞をみせてもらえませんか?』という意味になるのよ。
つまり、英語にしても日本語にしても『ショウ』という発音の単語が違う意味で入っている、
というところが駄洒落ってことなのよ」
「へぇー・・・なんかすごい・・・」
それはもはや駄洒落ではないのでは?
その後も自己紹介が淡々と行われたが、そこにおいては特に記述する必要はないだろう。
しかし─戦場ヶ原はなのちゃんのネジに関しては触れることはなかったが、気にならなかったのだろうか。
それ以外は別に僕は疑問を抱くようなことはなかった。
お絵かきも終わったところで、
ようやくこの世界に来て一番にやらなければならなかったことを実行するための方法を探す話し合いが始まるのであった。
「それでは、そろそろ真面目な話をしましょうか」
そんな彼女の一声から始まった。
「真面目な話ってなんだよ」
この時、愚かにもこの世界に来て一番にやらなければならなかったことを忘れてしまっていたので、こんな愚かな質問をしてしまった。
当然のごとく、「何を言ってるのよ、この世界から抜け出すための手段について話し合うのよ」と返されるのであった。
「あぁ、そうだった・・・」
「ん?元の世界?どういうこと?」
「え?」
ゆっこが何を言ってるんだかわからない──あ、そうだ。
この娘達には僕が別の世界から来たってことを言ってなかったんだった!
僕は一応近くの高校生という『設定』なのに──嘘だということがばれてしまうではないか。
いや、ばれたとて、自業自得だが。
「あら、阿良々木君、まだ話していなかったの?」
「え?いや、なんつーかまだ話してな」
「なら、説明してあげるわ」
え、ちょっと、待てよ。
しかし、僕が戦場ヶ原を制止させる一言を発するよりも前に戦場ヶ原は話してしまう。
「私と阿良々木君は、こことは全く別の世界から来たらしいの」
「来た─『らしい』?」
「ん?どうしたのかしら?相生さん」
「どうして自分のことなのに他人事のように言ってるのかなぁ、と思って・・・」
「それはね、私たちにもどうしてこうなったのか分からないからよ。気づいたらここにいた─という感じかしら」
「へぇーそうなんだ・・・。
─ということは阿良々木さんは嘘を憑いていたってことですね・・・。失望しました」
「あ、あぁ・・・」
これに関しては本当に何も言い返せない。
「私も失望したわ、私の彼氏の愚かさに・・・」
そんなに責め立てることはないだろう。
嘘を憑いていたのは悪かったが、そんな集中放火しなくてもいいだろう。
「・・・冗談よ、そんな落ち込まないでちょうだい。あなたらしくないわ」
僕の顔が落ち込んでいるように見えたのか、戦場ヶ原は僕にそっと慰めの言葉を掛けた。
「ところでさっき本だかなんだかっていっていたけれど、阿良々木君もその、白くて何にもない本を見たのよね?」
そういえば戦場ヶ原がこの研究所に来たときそんな話をしていたなぁ。
だいぶ前の過去の話のように言っているが、つい先ほどの話である。
てか、戦場ヶ原さっきこのことを『そんなことはどうでもいいわ』とか言ってなかったっけ?
・・・まぁそれは『僕が女の子と戯れていることよりはどうでもいい』ということであったのだろう。
となると今はこのこと、つまり『白い本を目にして手に取ったことによってこの世界に来てしまったこと』が最重要事項なのだろう。
「あぁ、そうだよ。見たよ、白い本」
「そう、となるとやはりその白い本とやらに原因がありそうね」
というかそれ以外に理由は考えられないだろう。
「お前はどこでその本を見たんだ?」
「大型書店よ。私たちの町で唯一と言えるほど大きい、あの書店よ」
「同じ場所だ・・・。と、いつかお前があの書店に何の用事があったんだ?」
「なによ、気になるの?」
「ん、うん、まぁちょっと」
「阿良々木君が書店に行ったっていう情報を手に入れたからよ」
「えぇっ!何で知ってたんだよ!」
「阿良々木君の家に行ったら妹さんがでてきて─月火さんのほうだったかしら。その妹さんに教えてもらったわ」
僕は書店に行くことを月火以外には言ってないのに、あろうことかその月火にばれるとは・・・。
「あ、あのー」
「なんだいなのちゃん」
「仲良くしているところに申し訳ないんですけど」
いや、そんなかしこまらなくてもいいのに。
「私、それ、聞いたことあります」
「どういうことかしら」
戦場ヶ原は問う。
「確か─『怠書物』でしたっけ」
「なまけしょもつ?なんだそりゃ」
僕にはさっぱり分からなかった。
しかし、一つ可能性があるとするなら、
それは──
「──それは、怪異か?」
「あぁ・・・そんなんだった気がします」
「それ私も聞いたことがあるよ」
なのちゃんに続きみおちゃんまで知ってるとは。
これは、恐らく怪異譚の一つなのだろう。
しかし忍野からそんな怪異譚を聞いた覚えはないが・・・。
すると、みおちゃんは僕が何もいっていないのに急に語り始めた。
「─怠書物。
昔、というよりかは四、五十年前。
とある週刊誌があった。その週刊誌に連載していた人気の漫画があった。
しかし、その作者はかなりの頻度で休載をしては、家でゲームやら何やかんやをしていた。
その間に漫画の人気はじわじわと下がりはじめ、ついには打ち切りにまで追い込まれた。
それに絶望した作者は─自殺した。
完全なる自業自得だが、その念は今でも現代をさまよい続け、締め切りを守らなかった者、もしくはそれに関係している者の近くに本となり現れる。
その本に触れたものは、別の世界へと飛ばされる・・・」
「という話ですよ」
「結構怖い話だな・・・」
寒気がするよ。
しかし、となると原因は僕たちにあるというのだろうか?
僕、もしくは戦場ヶ原が締め切りを守らなかったのだろうか。
僕に見覚えはないし、戦場ヶ原が締め切りを守らないわけがない。
「阿良々木君、何を守らなかったの」
「僕が締め切りを守らなかった前提で話を進めてんだよ、他に原因があるはずだろ」
「ちなみに、結構大きい出来事の締め切りを守らなかった場合しかこの怠書物は現れないですよ。宿題やレポートじゃ現れないと思います」
ちゃんみおは助言する。
「そうなると─なんだ?」
「あ、そうだ」
「ん?何か思い出したか?戦場ヶ原」
「かなり私たちにとって『大きめの出来事』の締め切りを守ってなかったじゃない。」
ん?
「しかも、締め切りを守らなかったのは阿良々木君じゃないわ」
─────あっ!!
「─傷物語」
そうだ、僕たちの映画である傷物語の映画公開の締め切りを堂々と、破られていたじゃないか!
2012年公開とか予告映像には書いてあったのに。
僕だって、予告で体を張って首までとばしたのに。
忘れてしまっていた。
その映画に関係しているから、僕たちのもとに怠書物が現れたのか。
なんてことだ・・・。僕にも戦場ヶ原にも否は無かったという訳だ。
しかし、となると八九寺や神原もこの世界に来ているのではないか?
「うーん、そのハチクジさんだかカンバラさんとかは知らないですけど、怠書物は人を選ぶって言いますよ」
「そうなのか!?」
「いいように言えば、阿良々木さんは『選ばれた』んですよ、怠書物に」
そりゃ、いいように言えばそうだけど。
ちゃんみお、僕から言わせれば『選ばれてしまった』というのが妥当だろう。
今日はおしまいです
くそっ!許せないぞ!この猫!
「そういえば、お前昼もはかせの白衣の中にいたよなぁ!
猫だからって、許されると思うなよ!そこは誰にも触れられることを許されない場所だって言うのに!」
「俺がすすんで尻の下に来たんじゃねぇよ!
俺が先にここに居て、後から忍が来たんだろう!」
─居たのか?こいつ。
僕が気づいて居なかっただけか─あるいは、阪本の嘘か。
今の僕はどうしても阪本が嘘を憑いているようにしか思えないのだけれど・・・。
「まあまあよいじゃろ、お前様よ。許してやるがよい。
─にしても可愛いのお!一生撫で回したいわ!」
と言って忍は阪本を抱きしめて撫で回した。
あるようでないような胸に押し付けて撫で回した。
何というか、阪本が忍の胸に顔を押し付けてられていることより、
女子の胸に顔を押し付けられているというその行為そのものが羨ましい。
僕だってそんなことされたことないというのに、
まさか1年くらいしか生きていない猫に先を越されるとは、全く思ってもいなかった。
「─さすが猫だ」
猫であることを最大限まで活用していろんな人と触れ合っている。
─と、考えると世界中の猫は全て(障り猫以外)、可愛いということを生かし、
女子と触れ合うことを生きがいといているのではないかと思う。
要するに変態。
─いっそ猫になりたかった。
「ん”ぬぁ!息苦しいわ!!」
阪本は忍の胸から顔を離した。
自ら離した。
「あぁ、すまんのう」
「てか何で下着姿何だよ!」
阪本は疑問に思ったろう。
でも、むしろ下着姿で良かったとも思っていたんじゃないか?あるようでないような胸だとしても、胸は胸だ。
下着姿で押し付けられたらひとたまりもないだろう。
─というか、昨日こいつ忍に対して敬語だったけど、その設定はなくなったのかよ。
「それは少し暑かったからじゃ。
でも、やっぱり若干寒くなってきたのう。そろそろ服を着るとするかの─それとも、下着姿の方がよいか?」
薄ら笑いで言う忍─それは阪本と僕、どちらに対して発した言葉なのだろうか。
「─下着姿の方が興奮するのかのう?ロリコンじゃもんなぁ・・・。
子供の下着姿に興味津々じゃろ」
─明らかに僕に向けて発した言葉だ。しかもかなり悪意を感じることができる言葉である。
「いや・・・いいから服着ろ、服」
「なんじゃ、つまんないのぉ・・・。我が主さまは。
まぁ、うぬがそういうのなら着がえるわい。じゃ、ちょっと影の中に一旦戻ることにするかのー」
つまんないとはなんだ、つまんないとは。一体何を期待してたんだ。
「あ、そう言えば」
「なんじゃ?儂の着がえでも覗く気か!?」
「いやいや、そうじゃなくて─ドーナツはもう食べたのか?」
僕のお金で買ったものなのだから、せめて2つくらい分けてほしいものだ。
贅沢を言うなれば、ポンデリングが食べたいな。
「そんなのとっくに食べ終わったわ」
「えぇ!?」
「早い者勝ちじゃ!食ったもん勝ちじゃ!」
と言って忍は再び影の中へと入っていった。逃げるように。
その顔はどこか勝ち誇ったようにも見えたが─勝ってねぇだろ。
もっと言えば負けてもいないからな!
「そういえば・・・」
「ん?どうした?阪本」
「ガキはどこ行った?」
「ガキ?─あぁ、はかせのことか?それならさっきなのちゃんと台所に行っただろ」
「阿良々木。お前見ていなかったのか?
あいつは娘のいる方向に歩いてはいったものの、玄関から外に出ていったぞ?」
「─あ、そうなの!?」
「まぁ、気づかないのも無理はない。
きっと娘も気づいていないはずだ。勿論、お前のパートナーもな」
「どこいったんだろうな」
「─さぁな。まぁ、ガキだし、すぐ帰ってくるだろ」
その時、微妙な静寂を突き破るかのような轟音
─否、轟音というほどではないが、大きな音が鳴り響いた。
玄関の方向からだった─
ということはこの音はきっと玄関の戸を勢いよく開けた音なのだろう。
突然来客が訪れたのかもしくは・・・
「なのー!!」
はかせが帰ってきたか。
その明るくて通った声は研究所の壁や床を伝って響いた。
おそらく、全員がその声に気づき、動くことをやめて玄関の方向を見た。
「あれ!?はかせ!外に行っていたんですか!?」
阪本の言うとおり、なのちゃんははかせが外に行っていたことに気づいていなかったようだ。
僕と阪本も早歩きで玄関へと向かう。
いや、僕は早歩きだったが、阪本は早歩きではなかったが。
なのちゃんと戦場ヶ原も台所から出てきていた。
はかせはなのちゃんだけを呼んだのに、
この研究所にいる人間( 猫)が全員集まるとは思わなかっただろう。
─あ、ビスケット2号君は・・・来ていないけど。
「あ、あのね」
案の定、はかせは驚いた表情でこちらを見ている。
しかし、その反面、なにか嬉しいことがあったかのような喋り方である。
「な、なんですか?はかせ」
「あのね、中村捕まえた!」
「へ?」
─中村?中村って誰だ?
もしかして、もう一匹の猫か!?
猫に『阪本』と名付けるくらいだ。
はかせが名付け親ならば『中村』という猫がいても全く可笑しくない。
「中村・・・先生!?」
しかし、なのちゃんの反応を見るに、猫ではなさそうだ。
先生ってことは時定高校の教師か?それともはかせの師匠かなんかなのか?
─それを『捕まえた』ってどういうことだよ。
「うん」
平然と返事をしたはかせ─その時、はかせは誰かの手を引っ張った。
そして、
その『中村先生』は全貌を表した。
「く・・・」
ショートの青い髪の毛に白衣を着用しており、結構若く見られた。
─20代だろうな、きっと。
「中村先生!!」
なのちゃんの反応からして、そこにいる中村先生が時定高校の教師であることは間違いないだろう。
「やべ!」
と、中村先生が姿を表した瞬間に阪本は僕の後ろに隠れた。
「どうした?阪本」
僕は小声で尋ねた。
「どうして隠れるんだ?」
「いろいろあるんだ!俺のことは黙っておいてくれ!」
「ああ、そうか・・・」
どんな事情があるかは知らないが、とりあえず黙っておこう。
「か、数が増えている・・・!?」
中村先生は目を見開いて言った。
増えている、というのはきっと僕と戦場ヶ原を見て言ったのだろう。
ただ、『数が増えている』という表現から察するに、
僕と戦場ヶ原をロボットかなんかだと思ってるな?この人。
「あぁ、ええと、この人たちはですね・・・」
「ふぅー・・・」
なのちゃんが説明しようとしているところに、遮るかのように忍が声を出した。
ペアリングしているから、僕の心の動きを察して、
何かあったということを理解してくれていると思っていたが、そんなことはなかった。
全く状況を知らないまま、忍は華麗に僕の影から出てきた。
「─ひ、ひぃぃぃぃ・・・」
中村先生はその場に倒れ込んでしまった。
恐らく、この世で二度と見ることがないのではないかと思われる、
『影から少女が出てくる』というものを見て、気絶してしまったのだろう。
なんというバットタイミングでの登場。
否、忍にとってはグットタイミングのつもりだったのかもしれないが。
「ん?どうしたのじゃ?何故そこの女は気絶しているのじゃ?」
全く状況が飲み込めていないようだ。
でも、それは僕も同じなので、残念ながらこの状況を忍に説明することはできない。
「あれ、気絶しちゃったんだけど」
「中村先生ー!」
なのちゃんは駆け寄る。
─まぁ、死んではいないはずだ、大丈夫だろう。
「その、影から出てくるのってどういう構造になってんだよ。説明してくれ」
阪本は今更ながらそんな問いを投げかけてきた。
─そう言えば僕はここにきて僕が人間もどきの吸血鬼であるということを言っていなかったな。
忍が吸血鬼であるということも。
なのに、忍が500歳だと言うことを平気で受け入れることができるのは凄いと思う。
ただ、ここで僕たちがそのようなものであるということを言うのも何なので、
ここでは軽く誤魔化すとしよう。
「ま、まぁ。ここの世界とは違うことが僕たちの世界にはあってだな、
忍は僕の影の中に住んでいるんだよ」
「そうなのか?」
「あ、あぁ!そうだ。ヤドカリが住処を借りるように、忍も僕の影を借りているんだ!」
また、この世界と僕たちの世界は違うという設定を上手く使うことができた。本当に便利だ。
「それより、今は中村さんの救出が先だ!先!」
僕はその話をこれ以上続けさせない為に、話を切り替えた。
「あ、それと忍!」
「なんじゃ?」
「頼むから、中村さんの前では影の出入りは止めてくれよ?
影の中にずっといるか、影の外にずっといるか。どっちかにしてくれ」
「下着不着用じゃが、良いのか?」
「えっ!もう脱いでんの!?」
「早めに越したことはないじゃろ?」
「ま、まぁ・・・」
「何も着用せずに直接床に座るのはやや抵抗があるが、
過去の儂は廃墟に直で座っていたからのう。今更どうこう言うこともないわい」
と、とりあえず、影の出入りをしなければいいや。
「阿良々木さん!中村先生運ぶの手伝ってください!」
「お、おう」
─にしても何故、はかせはこの中村先生とやらを捕まえたのだろうか。
無理矢理連れてこられた感じは全くなかったし、
むしろ中村先生は研究所の中を興味津々そうな目で見ていて、捕まえられたらというよりかは捕まりにきた感じがするが・・・。
まぁ、そのあたりは本人に直接聞いてみることにしよう。
016
「聞こえますかー」
数分後、居間へと運び込まれた。
中村先生を起こそうと、なのちゃんは必死に声を出した。
といっても、大声で叫ぶような感じではなく、優しく語りかけるような声を出していた。
中村先生の体を揺すりながら。
「─ん、んんっ?」
「あら、お目覚めのようね」
戦場ヶ原がそういうのを見て、中村先生は不思議そうな顔をしていた。
「─わ、私は、超常現象をこの目で確かに見た気が─気のせいか?」
「ゆ、夢ですよ、夢」
「─そ、そうかぁ・・・ってうおっ!?」
「ど、どうしました!?」
「わ、私が東雲と話しているということは、は、つ、つまり!ここは・・・」
「え、東雲研究所ですけど...」
「うわぁーー!!はまったー!!まんまと罠にかかったー!!」
「え?は、はい?」
僕はなのちゃんのように直接口には出さなかったが、混乱していた。
─罠にかかった、ってどういうこと?
そこでなのちゃんは、はかせを真っ先に疑い、「はかせ、どんな罠を仕掛けたんですか!?」と言う。
「え、はかせは、中村が研究所の周りうろうろしてたから中に入れようと思っただけなんだけど!」
「そうなんですか?中村先生」
「─まぁ、概ねそんな、感じだな」
それ、罠にかかったっていうより罠がそのものがないじゃん。
ただ家に入れさせてもらっただけじゃん。
「なんだ、そうなんですか。なにか用でもあったんですか?」
「え、いやいやいやいや!別に別に!ただ、いい家だと見とれていただけだ!」
「へー・・・そうですかー」
明らかに嘘ついているでしょ、この人。
「んー、じゃあせっかくですから、夕食たべていけれますか?」
「いやいや、それは申し訳ない!」
すると僕の後ろに隠れていた阪本が口を開く。
「どうせ、家に帰ってもカップラーメンしか食べねぇんだから、食っていけよ」
「ん!?誰の声だ!?今の」
中村先生は姿なき人の声に驚愕した。
「そういうことですから、食べていって下さいよ」
「─ま、まぁそうだな、確かにカップラーメンしか食べていないもんな。
たまには美味しいものを頂くとしよう」
「はい!そうしましょう!」
「─しかし、私がカップラーメンばっかり食べていることは、私と大将くらいしか知らないと思うが・・・」
「ん?何か言いましたか?」
「あ、いやいや!何でもない。気にしないでくれ」
「じゃあ、もうできてるんで夕食運んできますねー」
え?あの短時間でオムライスを。
5人分─中村先生もいれて6人分のオムライスを作ったというのか?
しかも中村先生は急な来客。
そんな急な来客を見越して一つ余分にオムライスを作っていたとは思えない。
がしかし、
「一つ余分に作っておいて良かったわね」
と戦場ヶ原は言うのだった。
なんと、彼女達は一つ余分に作っておいていたらしい。
ということで、今日の夕食は昨日より人数の二人多い、賑やかな夕食になりそうな予感がする。
─否、なるな。
「はーい!じゃあ、一つ目!」
はかせはなんの前触れもなく、突然発明品を持って現れた。
手に持っている『発明品』は、細長い形のもので、はかせの手でも握れるほどの大きさだ。
「これー!その名も、『カンキリーダー』!!」
「おぉー!」
歓声を上げたのは勿論中村先生である。今後もはかせの発明品に対して歓声を上げるのは中村先生だけと考えてもらっていい。
というか、名前から安易に使用方法が想像出来てしまうのだが─一応、聞いておこう。
「これはー!缶詰めの蓋を開けるときに使いまーす!だから、カンキリーダー!」
思っていたとおり、缶切りだった。
「只の缶切りと思ったら大間違いなんだけど!これは、缶詰めの蓋にカンキリーダーをくっつけるだけで、缶詰めの蓋が開いちゃーう!」
─あのちょっと平たくなっている部分にくっつけるのか。
「すごいな!手間がかからないじゃないか!」
─とまぁ、こんな具合で。
はかせの発明品の発表は続いた。
30分も。
発表した発明品はというと、『クサヌキスト』、『ヒヤシンスメーカー』、『サメチョコ入荷状況チェックフォン』などなど、
日常生活で割と役立ちそうなものから、はかせの願望を満たすものまで、幅広い発明品の数々であった。
その一つ一つに中村先生は過剰な反応をしていた─否、本人は過剰な反応をしているつもりはないのだろうけど。
相当はかせの発明品に興味があったようである。
中村先生以外はがはかせの発明品の発表を見るよりもオムライスを食べる方に集中していたことは、言うまでもない。
別に僕は発明品に興味が無かったわけではないけれど、それよりもオムライスを食べたいという気持ちが大きすぎて、
そういうことになってしまっていたのだ。
そして、夕食の時に談笑しようとしていた僕であったが、はかせの発明品発表が思いのほか長かったので、
談笑あまりする事ができず、夕食は終わりを告げてしまった。
もちろん全員で「ごちそうさま」と言って。
「うまかったぞ、東雲。なかなかのオムライスであった」
「あ、ありがとうごさいます!中村先生!」
「お前を深く調べたい...!」
「え!?え、ちょ、困ります」
「あ、なんでもない!ひ、独り言だ!」
─中村先生は神原と同じく、百合なのか?それとも、ロボマニアか?
科学者としての探求心からの発言か?
なににしろ、なのちゃんを欲しがっていることに間違いはないだろう。
「そ、それではお暇させてもらうぞっ!」
「え、もう帰るんですか、先生!」
「お前のオムライスが食えて良かった!ありがとう!感謝しよう!では、失礼する!」
中村先生は超早口で台詞を吐き捨てて、疾風のごとく玄関へと走っていく。
「あ、ちょ」
なのちゃんもあまりの撤退の早さに驚くしかない。さっきまでいたのに、
さっきまでいなかったかのように、姿を消した。
何故にそんなに早く撤退する必要があるのか...。
そもそも研究所の前で張り込みをしていた時点で可笑しいかったんだ。あの人は何者だったんだ。
これじゃあ、お金がないから人の家にお邪魔して勝手に飯を食べて逃げたみたいじゃないか─
いや、それとは違うか...。
そういえば、全くもって謎の登場、謎の退場をした、
目的が謎の中村先生が居なくなったことで、楽になった奴がこの部屋にいる。
姿を隠し続けていたものだから、すっかりその存在を忘れてしまっていた。
僕は彼に声をかける。
「阪本。もう中村先生って人帰ったらしいから、もう隠れるのは止めていいぞ」
「おぉ、そうか」
阪本は全身の力を抜いて、床に張り付くようにぐったりとした。
「お前、なんでそんな隠れてたんだ?訳が分からないんだが...
もしかして以前あの人に飼われていたとか?」
「!? いや、んなぁわけないだろ!」
「あ、そうか」
─だよな。そんなことあるわけないよな。どんな事情があるかは知らないが、
やはり触れないほうが良いだろう。
ところで今、東雲家の居間には僕となのちゃんとはかせと忍と戦場ヶ原と阪本がいるわけだ─つまり、
人間もどきとロボットと天才幼女と元怪異殺しと蟹がいるわけだが・・・。
まぁ、昨日と同じく。
ごく普通の家庭では有り得ない空間が広がっているわけだが...。
一番重要なのは忍と戦場ヶ原とが一緒の空間に居るというところだ。
一回この二人に喋ってほしいものだ。
少し興味深い。
しかし、忍といえば、僕以外の人間とはあまり話したがらない。だから戦場ヶ原とも自ら話そうとはしないだろうな...
戦場ヶ原もそれを察してかなんなのか、忍とは一言も言葉を交わしていない。
しょうがない、ここは僕の脳内で補うか。
今こそ、僕の妄想力が問われる時である。
でも頼まれてしまってはしょうがない。
5分で洗いきってやろう。
─と思ってから5分が経ったところである。
ちょっと洗いきれてない感じがするが、これは女の子たちがいなくなってからまた洗えばいいから気にすることはないだろう。
「もういいぞ、入って」
僕はちゃっかり湯船に浸かってそう言う。
「ふぅ、ようやく風呂に入れるわね」
「いいだろ、お前の言うとおり5分以内に洗い終わったんだから」
「バスタオル一枚で寒かったのよ」
「悪かったな」
「そうだ、誰から洗うのかしら?」
昨日はなのちゃんとはかせと忍が互いを洗いっこしていたが、戦場ヶ原がその輪に加わるとは思えないな...。
「洗いっことかどうかしら?」
自分から提案した!?
結構スキンシップとりたがりか!
「昨日もそうでしたからねー、今日もやっぱりそれで行きますか」
「あら、なのちゃんはもしかして阿良々木君を洗ってたのかしら?」
「いや、なにをいうんですか!違いますよ、阿良々木さんだけ最初に洗わせていましたよ!」
「異世界に来てもそんな感じなのね、阿良々木君」
「どんな感じだよ!僕の元の世界での評判を落とそうとするな!」
「じゃあ、順番を決めましょうか」
─華麗にスルーされた...。
「あ、おねーちゃん」
「何かしら、『はかせちゃん』」
「─『はかせ』でいいよ」
「何かしら、『はかせ』」
「はかせは絶対なのに洗ってほしいんだけど!」
「ふーん、ですってなのちゃん」
なんかもっといい接し方はないのか─まぁ、子供が苦手だと自分で言うくらいだから、しょうがないか。
「なのちゃんははかせを洗うってことでいいわね?」
「はい、いいですよ、それがスタンダードですし」
「なのちゃんは誰に洗ってもらうのかしら?」
「昨日は─忍さんに洗ってもらいましたね」
「忍ちゃんにね、それでいいかしら、忍ちゃん」
と言っても忍は返答しなかった、というか頷いただけであった。
「─忍ちゃんってこんなに静かだったっけ、こよみん」
「─そう、じゃないか?」
嘘だ。
本来はおしゃべりだと─忍の口から言っていた。
この場合、僕以外の人間とあまり話そうとしない忍だから、ただ単に戦場ヶ原と話したくない─もしくはどう話して良いか分からないだけだろう。
─というかこいつちゃっかり『こよみん』って呼んだよな。
「ふーん、そうかしら。じゃあ、なのちゃんは忍ちゃんに洗ってもらうってことね─なら、残るは忍ちゃんが誰に洗ってもらうかということと、
私が誰に洗ってもらうかということね」
そういや、昨日は自分で洗っていたもんな、忍。
「じゃ、私が忍ちゃんを洗いましょう」
なんか戦場ヶ原積極的だな。異世界から何か影響を受けているのか?
まぁ、でもまさかの戦場ヶ原からの発言に忍が反応しないわけがなく─
「なんじゃと!?」
と、久しぶりに大きな声を挙げる。
「どうしたのかしら?忍ちゃん」
「言っておくがツンデレ娘。儂の髪はサラサラじゃぞ!?何故サラサラかって、儂が毎日欠かさずに行っている洗髪の効果なんじゃ!儂には儂の洗髪方があるのじゃ!それをあろうことか─」
「おしゃべりじゃないの、やっぱり」
「ぐぬぬ、と、とにかくのう、このサラサラは一日でも独自の洗髪方法をサボると保てないのじゃ─保てないはずじゃ!」
「何を言うのよ、私もあなたと同じ『髪の毛サラサラ系女子』よ」
なんだそのジャンルは。
「私だって髪の毛には人一倍気を使っているのよ、安心して、あなたの髪の毛を駄目にするような洗髪はしない」
「─分かった。うぬに任せるわい...」
─関係のないことではあるが、今の会話のおかげで僕が思い描いていた、『戦場ヶ原と忍の会話』が現実のものとなった。元の世界にいても見れるようなものではなかったろう。
「じゃ、決定ね。なのちゃんははかせを洗って、忍ちゃんはなのちゃんを洗って、私は忍ちゃんを洗って、阿良々木君は私を洗う。
体に関しては個人個人で洗ってもらうわ」
「え!?お前は僕が洗うのか?僕、人の髪の毛洗うの得意じゃないぞ」
「阿良々木君は私の体も洗うのよ」
「いや、本当積極的ですね、ガハラさん」
─さすがにはかせのいる目の前でそんな事はできまい。
ということで、洗いっこが始まった。
全員バスタオル着用が前提の洗いっこ。
僕は湯船に浸かった後なので若干寒いが、他の4人はそんなことはないだろう。
しかし改めて幸運に恵まれていると実感するなぁ。
女の子4人に囲まれる、男子高校生。
場所はお風呂、行為は洗いっこ。
まぁなんというか、妄想をそのまま現実に映し出したような光景が目の前には広がっていた。
そんな中で僕が一番気になっているのはもちろん戦場ヶ原と忍である。
おそらく洗いっこという親密になりそうな行為を行う際において、会話というのは欠かせない─というか、必然的にしてしまうだろう。
戦場ヶ原と忍の会話─それは非常に不思議で、なかなかお目にかかれない光景。
それが楽しみである。
「ほら、早く行くわよ」
そうして、僕と戦場ヶ原は居間へと向かった。
「あれ?戦場ヶ原さん。『ウイッグ』取ったんですか?」
「え、なのちゃん気づいてたの!?」
「えぇ、最初から。逆に阿良々木さんは気づかなかったんですか?あの髪の毛がウイッグだっていうことに」
「いゃあ...気づけなかったなぁ...」
「駄目ですねぇ、彼女さんの変化に気づけないようでは...。阿良々木さん以外は皆さん気づいていますよ、ね?はかせ」
「うん、だって違和感あったもん」
─僕が鈍いのか?僕が鈍くあってほしいが...。
「俺も気づいていたぜ、初っ端からな」
「阪本まで!?」
そもそも何故にウイッグなどを着用していたんだよ、戦場ヶ原は。
まるで、戦場ヶ原が作中で夏休み中に髪を切っていたことを後から思い出した筆者が、後からつけた強引な設定みたいじゃないか。
「まぁ、そんな『阿良々木君以外は当然の如く気づいていたこと』は置いといて、大声で呼んでいたのは一体何故かしら?」
─そりゃ僕が気づかなかったことは悪いとは思うけれども、そんなにはっきり言われると少し傷つくな。
吸血鬼は回復するのが早いだけであって、痛み(物理的にも精神的にも)に強いわけではないんだ...。
「あのねー、お風呂上がりの定番と言えば、何だと思う?」
「んー、なんだろうな。僕の経験上コー」
「コーヒー牛乳でーす!アララギ、残念!」
「て、てめぇ」
いや、大人気ない。大人気ないぞ、阿良々木暦!
ここでキレるなんて大人気ないぞ!
「ということはコーヒー牛乳をここで飲もうということかのう?」
「ん、まぁそゆこと。だから人数分のコーヒー牛乳を用意しましたー!」
と言ってはかせは冷蔵庫からコーヒー牛乳を出した。
一、二、三、四、五、六。
良かった!全員分ちゃんと揃っているぞ!
「今日のためにリッチなコーヒー牛乳を用意しましたー!」
「リッチと言いましても、120円くらいなんですけどね...」
コーヒー牛乳の相場が分からないからなんとも言えない値段だな。
「ちゃんと阪本の分もあるからね」
「あ、あぁ、すまないな」
僕達、要するに阪本以外は瓶にコーヒー牛乳が入っているのだが。
阪本はあれほど人間らしいが猫なので、よく犬や猫が水を飲む際に使用するような皿にコーヒー牛乳が注がれるのであった。
「これを一気飲みするのがまた良いんだけどー!」
「一気飲みか─」
─まぁ内容量は100ml程度なので、一気飲みできなくもないな。
「儂はこのようなことは経験したことはないが、これは日本で風呂上がりに行う当たり前のものなのかの?」
「当たり前じゃないと思うけど。どっちかというとやってみたいけどなかなかする機会がないって類のものだと思うぜ」
「ほぉ、そういうものなのかの」
取り敢えず儂はコーヒー牛乳が早く飲みたいのう─と、なんだか忍はうきうきしている様子であった。
「じゃあ、皆さん。用意はよろしいでしょうか?コーヒー牛乳を持った手とは反対の手で腰を押さえてぐっと飲むんですよ」
「作法まで決まっているのか!なんじゃ?怪異を退治する為の儀式か何かか!これは!」
いや、それはないだろう。
「じゃあ、はかせが『せーの』って言ったら飲んでね」
「はかせ、早く早くしてください!」
「もうそんな急かさないでよー」
今思ったが、なのちゃんもはかせと同じくらいのテンションで楽しんでいるよな。というか、むしろはかせよりも楽しんでいるような。
しっかりしているとはいえ、子供らしい一面もあるのか...。
ゴクリ─いやゴクリじゃねぇよ!
何かに目覚めかけてるよ、僕...。
「じゃあいくよー!
『せーの』」
はかせが合図を出した瞬間、全員が言われた通りの動作をきちんと行っていた。
阪本でさえも完璧とは言わずとも、なんとか一気飲みしようとしていた。
一気飲みということなので、数秒の静寂が流れた。全員コーヒー牛乳を喉に流し込んでいるので、その間は会話を交わすことが不可能であるからだ。
コーヒー牛乳の味は、はかせが言うにリッチというだけあって、結構濃い味で僕の好きな感じのコーヒー牛乳だ。
100mlと言わず、200mlくらい飲みたかったところだ。
「ぷはぁー!美味しいー!」
その静寂を最初に破ったのはなのちゃんだ。
しかもなのちゃんらしからぬ、ビールを飲んだおじさんみたいな声を出して。
なのちゃんに続くように、他の人も次々と飲み終える。
「コーヒー牛乳はやはり美味しいのう!理由はよくわからないが、風呂上がりのコーヒー牛乳は爽快感が増すのう!」
「おお、分かりますか忍さん!それです!理由はよくわからないけど、爽快感があるんですよ!気持ちいいですよね!」
なんだかなのちゃん、テンションMAXって感じがビンビン伝わってくる...。
「さて─」
と、戦場ヶ原。
「コーヒー牛乳も飲み終わったところで、ちょっと時計をみてもらえるかしら」
「ん?」
僕含め、全員が戦場ヶ原の指差す方向にある掛け時計を見た。
「見ての通り、午後9時15分よ。そろそろ寝ましょう」
「あぁ、そうだなぁ...。もうそんな時間なのか」
「私が寝るスペースは果たしてあるのかしら?」
「まぁあると思うぜ、そんなに狭い家じゃねぇし」
「─何を言っているのよ、そこは『僕と一緒の布団に寝ないか?』って誘うのが彼氏としての役目でしょう?」
「は!?何故にそんなこと!」
「私の口から一体なんて言葉を言わせようとしているのかしら、この男は。─もしかしてそういうプレイに発展させようと」
「してねぇよ!」
どんなプレイだ!
「あ、でも。この研究所には布団が三つしかありませんよ?」
「え、そうなのか?なのちゃん」
「はい」
内二つはなのちゃんとはかせが寝るとして、忍は僕の影の中に寝るとして、あと一つは僕の分。
だがしかし戦場ヶ原を畳に何もかけずに寝かせるというわけにはいかないな...。
ということはやはり─
「─戦場ヶ原と同じ布団で寝るしかないか」
「つまり、今日私と阿良々木君が一緒の布団で寝ることは、神によって運命づけられた出来事だったというわけね。生きていくうえで、避けては通れないイベントってことね」
「─そんな重大な、壮大なイベントなのか?」
まぁ戦場ヶ原と同じ布団に寝るということ自体、僕的にかなり怖いんだけど。
襲われそうで。
そういう意味では重大なイベントなのかも。
「そうと決まればさっさと布団を敷いちゃいましょ、布団はどこにあるのかしら、そして布団はどこに敷けばいいのかしら、なのちゃん」
「あ、はい。布団はですね─」
早速行動に移しだしたな...。
今思うとこの家にある布団、高校生二人が入れるほど大きいとは思えないのだけれども。
どうすんの。
「なぁおまえ様」
「ん?」
「まさか、まさかとは思うがのう。布団の上で行為に及ぶなんてことはなかろうな?」
「な、なななな、それはない!」
─と思う。
「いや、場所が場所じゃろ。ここがいかがわしいホテルじゃとか阿良々木家とかじゃったら別に良いが...」
「いかがわしいホテルと阿良々木家を一緒にすんなよ」
「この研究所は音が筒抜けなうえに、純粋な幼女までおる。そんな場所で行為に及んでしまったら、あのはかせとやらに変な影響を与えかねんぞ」
「大丈夫だよ。僕も戦場ヶ原もそこまで非常識じゃねぇよ。他人の家で行為に及ぶとか、ちょっと頭おかしい奴のやることだと思うぜ?」
「─だから聞いたんじゃがのう」
「ん?」
いまさらっと酷いこと言いやがったな?こいつ。
「─ちょっと常軌を逸しているような人間じゃから、聞いたんじゃがのう?」
「より悪く言い換えなくていいよ」
「カッカッ」
お、久しぶりに聞いたな。その笑い。
「─ところで、忍」
「? なんじゃ?儂は布団には入らんぞ!」
「いや、誘わねぇよ。
─そのパジャマどこで手に入れたのこと思って」
薄い黄色をベースに不規則に並べられたかわいい兎の柄。
上下共に半袖。
(パンツは未着用。)
僕が知らないだけかもしれないが、見たことのないパジャマだった。
ファイヤーシスターズから盗んだものでもなさそうだしな。
「これをどこで手に入れたか聞いてなんの特になる?」
「別に得にも損にもならないけど...」
「もしかして欲しいのか?これが」
「いや、そんな気は一ミリもない」
「じゃあ脱いでやるわい。全裸寝るというのも、たまにはいいかのう」
といって忍は上のパジャマを半分まで脱ぎかけた。
僕の指示により下着を着用していないので、下乳が露わになりかけだが、僕は冷静に「いや、大丈夫!いらないから」と静止するのであった。
「なんじゃ、つまらんの」
「逆にどうなっていたら面白かったんだ」
「─あのツンデレ娘と儂とおまえ様とで入り混じり」
「そんな同人誌みたいな展開はやめろ!!」
「オールカラーじゃ」
「その補足情報いらないし!」
そんなくだらない雑談の後、布団も敷き終わり、歯磨きも終えて、それぞれの寝床に就く。
「さぁ、いらっしゃい」
「なんかお前、酔ってんのか?今日風呂上がってからなんか可笑しいぞ?」
「あなたに酔いしれているのよ」
なのちゃんもはかせも寝ている部屋でなんてことを言うんだよ、コイツ...。
「まぁ、寝なさい」
「ああ」
僕は昨日この布団に一人で寝ていたので、やはり大きさをきちんと把握していなかったようで。
高校生が二人寝るには十分な大きさがあったようだ。
戦場ヶ原と僕が一緒に寝るのは酷ではないようだ...物理的には。
「阿良々木君、この研究所にいるのも十分楽しいけれど、早く帰らなくちゃいけないわね」
「あぁ、そうだな」
「でも方法が掴めないのではいけないわね...」
「怠書物、そいつを見つけない限りはダメだろうな」
「そうね...」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「なぁ、戦場ヶ原」
─っあ!寝てるし!ちょっとの間に寝ちゃってるし!
「─く、ん」
「ん、どうした?戦場ヶ原」
「く、ん」
「?」
「阿良々木君、好きよ」
─こ、こいつ。寝言だよな。
なんだかんだ言って可愛いな、戦場ヶ原は。
寝ていようと起きていようと、髪型がロングであろうとセミロングであろうとショートであろうと、笑っていようと怒っていようと。
どの戦場ヶ原も僕は好きだ。
「─僕も好きだよ」
「─ありがとう」
さて、僕も寝るとするか。
今日も昨日ほどじゃないけど、疲れちゃったし。
今日はおしまいです
「忍ちゃんを使うことないじゃない、阿良々木君。そんなに私が信用ならないのかしら」
「いやいや、手間が省けると思っただけだ・・・」
忍にはとてもとても悪い気持ちだ・・・。
が、そんなことを微塵にも顔にださないのが阿良々木暦だ。
「なぁお前様よ。儂はもう戻ってよいかの?」
「あぁ、もういいよ」
このまま忍がここにいてもやることはないだろうしな。戻るのがいいだろう。
「いや、待て」
「ん?なんだよ」
「まぁ、とりあえず、礼はいっておこう。ありがとな」
律儀にも怠書物はお礼を言ってのけた。以外だな。
「ん?儂に言っておるのか?なら礼はもらっておくわい。…でもわが主様の指示とは言え、このような自己陶酔しているナルシストのド外道怪異をどうして儂は助けてしまったのかのう?自分が情けないわ」
「あぁ!?なに言ってるんだこの幼女の癖して!幼女なら許されるとでも思ってやがるのか!まずな、俺にお礼を言われることなんて滅多にないんだからな!?まだヒヨっこのお前に教えてやるがな、これは今後人生において一切経験しない出来事なんだからな!?」
確かにこんなにナルシストで感情的な怪異も珍しいだろうなぁ…。
「なにぬかしとるんじゃ。このたわけ」
「て、てめぇ…」
「『ヒヨっこ』のうぬに教えてやるわい。儂は幼女などではない。500年以上生きている、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。怪異の王にして最強の怪異。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ」
「なんだその中二臭い名前」
「うぬも大概じゃろうが・・・。お前はまだ若い怪異なんじゃろう。だから儂のことも知らんのじゃろ。以後覚えておくとよい。儂はうぬのような『ヒヨっこ』なんかよりも偉大な怪異じゃからな?うぬなんて片手で握りつぶせるぞ?よいのか」
「ならやってみろよ」
「あぁ、やってやるわい。血の色に染め上げてやろう」
いやいや。忍から吹っかけた喧嘩だが、最終的に怠書物に挑発された結果忍の実力行使とでたか。
忍ならこんな怪異くらい本当に握りつぶしそうだな・・・。
「ふんっ」
ってもう構えてるし!!!
「やめろやめろやめろ、忍!たぶんあいつがいなくなったら僕たち帰れなくなってしまう!」
うざったいのは充分に理解、共感できるが…。
「止めるな!儂を止めるでない!この感情のやり場がみつからんのじゃ!」
「何がイヤだったんだ、お前のことを知らなかったところがイヤか?」
「そんな小さな女ではないわい…。もう影の中で聴いていた時からウズウズしておったわ!こいつの性格、ナルシストなあたりにの!それだけじゃない。もうなんかイライラするんじゃあ!」
「分かる!すげー分かるけども!とりあえず僕を殴れ!」
って反射的に言ってしまったけど、後々後悔した。
なんなら死なない程度に。さながらサンドバッグのようにぼこぼこに怠書物を殴ってくれたほうが良かったのかもしれない。
というか今更、僕は忍のパンチ力は半端じゃないっていうことを改めて思い出した。
一昨日、身を以って痛みを知ったというのに…。
なんてマヌケな男、阿良々木暦。
「吸血鬼パーーーンチ!!!」
「うおっ!」
顔面を抉るような鈍痛に声も手も足も出なかった。体の割りに力が強すぎる。さすが、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。怪異の王にして最強の怪異。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだ。分かっている、僕は吸血鬼としての治癒スキルを持っているからこんな衝撃なんかじゃ死なないし怪我も残らないこと。分かっている。
けど、痛いものは痛いのだ。
「う、うぅ・・・」
僕は更に気付いたことがあった。
女子高生たちと僕の彼女に幼女に殴られてあっけなく倒れるという醜態を晒してしまったのだ。
ここまで辛うじて、多少のセクハラ行為があったが、彼女もちのクールな高校生という印象は一ミリメートルくらいは残されていただろう。
だがしかし、もう一ミリメートルも残っていないだろう。
クールな『阿良々木暦』消去され、最低最弱の男『阿良々木暦』が形成されたことだろう。
言葉では「大丈夫ですか!」などとは言うが、評価はがた落ちだろう。
あってなかったかのような評価はがた落ちだろう。
とりあえずぼくは「大丈夫だ…」とだけ返事しておくのだった。
大丈夫ですかと言われて一瞬、ほんの一瞬だけ。
僕の精神状態のほうを言っているのかと思ってビックリしたが、そうではなかったようで、一安心だ。
「ほんと今日はなにかしら、厄日?髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないの」
忍が僕を殴った際に相当な風が吹いたようで、戦場ヶ原の髪の毛は崩れてしまったようだった。
「戦闘はこんな穏やかで平凡な場所でやるべきではないでしょ?」
「まぁ、そうだなぁ」
かと言って今更移動するのもどうかと思うなぁ。
移動中不意を突かれて逃げ出されてしまうかもしれないし。
「おい!茶番は終わりだぞ!」
忍とのやりとりからの一連の流れを『茶番』の一言で纏めやがった、こいつ。
何もしていないこいつからしたら茶番なんだろうな、きっと。
でも茶番が終わりというのならば終わりなのだろう。
茶番だったつもりはないが…なにか動きを見せるのだろうか、怠書物は。
まぁあまり期待はしないでおこう。
ということで紆余曲折というほどでもなかろうが、かなり無駄な雑談や展開を踏んだうえで、ようやく交渉へと踏み出せる状況まできたようだ。
起床してから結構時間が経っているの思いきや、不思議なことに時計は僕が起床した25分後を指している。
なんというか、とても起床して25分後の状況とは思えないのは僕だけなのだろうか。
まぁ。僕がその辺りをどう思おうとどう考えようと全く今は関係の無いことで、最優先すべき『元の世界へと帰る』為の交渉の手順を、一つずつ、着実に進めていくべきだ。
―だがしかし。そう言われても僕にはこの自己愛の塊を説得できるような自信は無い。話術も持ち合わせていない。
もし八九寺だったのなら交渉どころかすぐ強行突破という残忍かつ最悪の手段を利用してその場を丸く収めることができるのだが・・・。
そうはいかないだろう。男に堂々とセクハラ行為をするほど僕は寂しい人間ではない。
となるとどうすると良いのだろうか…。まず開口一番に何を言えば交渉を有利に進めることができるのだろうか…。
交渉などというものをする機会が僕には殆どといっていいほど無いので、困ったものである。
嗚呼、交渉術でもきちんと学んでおくべきだったな、僕。
―書店に行ったら見知らぬ世界に飛ばされた挙句、怪異と交渉することを想定していれば…。
僕はあっさりこいつを説得出来たのかもしれない。
否、過去形というのはなんだかおかしいな。まだ両者ともに発言をしていないし、交渉はまだ始まったことにはなっていないだろう。
ただ―過去形にしろ現在形にしろ未来形にしろ、僕はこいつを説得できなさそうだ。
言い換えるのならば、『僕ひとりだけ』ではこいつを説得できなさそうだ。
そう、戦場ヶ原やなのちゃんやはかせや阪本やゆっこやみおちゃんやマイマイ(麻衣麻衣)が僕にはついている。
戦力になるかどうかは分からないが、人数が多ければ多いほどその数に比例して多くの考えが出てくるはずだ。
要するに『赤信号 みんなでわたれば こわくない』みたいな。
集団で策を練ってしまえば相手を説得できるのではないだろうか。
あの怠書物がそこまで頭がキレてそうな感じはしないし、仮にそうだとしても七人(+一匹)の策に勝つことは出来ないであろう。
あくまで推測だが、僕は強い自信を持ってそう考えた。
―じゃあ、心の整理ができたところで…
「交渉をはじめようか、怠書物」
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「ふふっ、さっきまでいちゃいちゃやっていた割にはやる気充分って感じだな」
「あぁ、切り替えは早いほうだからな」
「交渉始まって早々で悪いが、質問してもいいか」
「ん?なんだよ」
「お前―戦闘の経験ってあるか?」
何でそんな質問をする?
交渉と関連してくるからその質問をしてきたのかあるいは、どうでもいい怠書物自体が気になっていることをただ単に緊張感を和らげる為に質問してきたのか。
この雰囲気からして、この流れからして、このタイミングで後者のような質問をしてくるとは到底思えないが、だとしてもこの質問の意図がさっぱり分からない。
斧乃木ちゃんのような筋肉フェチなのだろうか。真顔で無表情で僕の筋肉をそっと触ってくるのだろうか。
―ちょっと想像したくもない話である。斧乃木ちゃんならともかく。
どんな意図を含んだどのような意味をもった質問なのか。それが謎だから正直に答えるのも気がひけるが…。
下手に嘘を憑いてしまうのも問題があるのかもしれないのでここは正直に答えることとしようか。
「あぁ。あるよ。それも結構な」
―キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと、ブラック羽川と、レイニーデビルと、火憐と、影縫さんと。僕は戦った。
「ほう、そうなのかぁ。ひょろく見えるけどな」
「言うほど僕はひょろくはないぞ」
ひょろくはないけども、勝数は少ない。
―てか勝ったって自信をもって言えるのなくね?
「俺もお前の思っているよりひょろくはないぜ?お前よりは筋肉はあるだろうよ」
「なんで筋肉自慢に話が逸れそうになってるんだよ。話を戻そうぜ、話を本筋に」
「本筋ってどこの筋肉だよ」
「本筋は筋肉じゃねぇよ!?」
怪異相手に―思わずツッコんでしまった。
「え!そうなのか!知らなかったぜ…」
「いや、だから話を―元に戻すぞ!」
「―交渉、交渉ね」
「……」
なんか話し方がいちいちむかつくなこいつ…。
「ってかさぁ、お前」
「なんだ」
「もう一つ質問していいか?」
「なんだよ…」
交渉する気あるのかよこいつ…。
―と、僕が思考を巡らした瞬間。
「俺が―本当に交渉するとでも思ってるの?」
―なかったようだ。
「―何言ってんだよ、交渉したいしたいって言っていたのは他の何者でもないお前だろうが」
「僕は最初から交渉する気なんてさらさらない。全ては縄を解き―俺を解き放つための嘘だ」
―嘘。嘘か。あの詐欺師が無意識に頭をよぎる。
「『俺を解き放つ』って―?」
「そんな疑念はもたなくてもいい、なぜならお前は、解き放たれた俺に殺されるからだ」
僕を殺す―?何を言っているんだこいつは。
JKに縄で縛られるくらい弱いのに?僕を殺すだと?
僕どころか戦場ヶ原も殺せないと思うが、こいつ。
「俺の本気を見るがいい!!」
やけに自信ありげな、策ありげな、優越感ありげな、そんな表情で怠書物は笑う。
そしてその一言で、世界は凍り付いていった─氷河期が訪れたかのように。
時が静止したわけではない。僕達以外が静止したのだ。僕や戦場ヶ原の中では、時はきっちりかっちり動いている。ただ、それ以外のものは全くもって動くことはない。動いてはいない。ただその状態を保ったまま存在しているだけである。
勿論なにが起きてしまったのか、僕には文字に書き起こす事は出来ても、脳で判断できてはいない。
と、言うのは全て虚実の妄想で僕の想像である。
実際はどうなったのかと言うと、なにも起こらなかった。否、なにも起こせなかったのだろうか。
実際、怠書物は茫然とした表情で何が起きてしまったのか理解していない感じである。僕達よりも理解しえていない感じだ。
「あ!あ、あれ?」
「なんじゃ。何も起こらんではないか。場をわざわざ引き立ててやったというのに」
あの『強い気を感じるぜ!』的な忍の発言はあえて、というかわざと意識して発言したものだったらしい。場の雰囲気作りとして。
忍としては盛り上げようと思っていたのかもしれないが、その盛り上がりが起こらなかった今、怠書物にとってはただただ恥じるしかないだろう。
「─だ、だめだ!今回も成功しなかった」
「今回も!?」
僕は思わず声を荒げて叫んでしまった。
今日はたまたま、胃が痛いからとか風邪気味だとかそんな理由で運良く失敗してくれたものだろうと思っていたが、そんなわけでもなさそうである。
こいつは今回『も』失敗したらしい。
ん?ちょっと待って。
こいつにとっての『本気』というか最終手段も使い物にないってことは、こいつには今なんの威力もないってことか。
そんなことを考えていたのか、なのちゃんを始め、女子が、
責めよる。
「怠書物さん。本気だとかはなんだか知らないですけど!ちゃんと!元の世界に戻してあげてください!」
歩み寄る。
「そうじゃ!そうじゃ!」
歩み寄る。
「早く戻してくれないと私が安心して阿良々木君とベロチューができないじゃないの」
歩み寄る。
その理由はちょっと今の状況には似つかわしくないとは思うが...
なにより。戦場ヶ原に忍になのちゃんに歩み歩み歩み寄られた怠書物はたまったものではないだろう。
女子に囲まれているから嬉しいとかそんな感情ではない。この三人に囲まれて、何をされるか分からないという不安感で心臓が満ちあふれているのである。
戦場ヶ原、忍は言わずもがな。なのちゃんも以外と怖いことやりそう言いそうな感じである。その視線は恐ろしいことだろう。
「─ご」
怠書物は何か言いかけた。僕にはこいつがなんていうかなんて大抵予想出来てはしまったが...。
「─ごめんなさい」
異世界へと移動させるというハイスペックな怪異ではあるが、実力が伴ってなかったのである。そもそも怪異に習ってつくような実力があるのか分からないけれど。
人間に謝罪した。降伏した。
こいつもまた、ヘタレだったのだろうか。声質からそんな雰囲気を感じさせる。
僕のように、ヘタレか。
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