貴音「765らあめん 麺や貴音」(128)
貴音「……」ズズ…
貴音「風味よし。これならば期待できるでしょう」
真美「お姫ちん、何してんの→?」
貴音「おや、真美ではありませんか。まだ開店前ですよ」
P「それ以前に立ち入り禁止って札かけといたはずだが」
真美「だってなんか変な匂いするんだもん! そのボコボコいってる鍋、何やってるのさ?」
P「ん、そんなに匂うか? 慣れちまってわからなかったな」
貴音「臭みを消すための野菜を控えましたからね……これは申し訳ないことをしました」
真美「別にいいからさ→、何やってるのか教えてYo!」
貴音「これはらあめんのスープ……豚骨でスープをとっていたのですよ」
真美「え? うわ→本当だ、真っ白じゃん!」
真美「そっか→、じゃあこれってトンコツの匂いなんだ」
P「煮込んでる最中の豚骨ってクセが強いからな、苦手な人にはつらいかもしれん」
真美「でもトンコツって本当に煮ると白くなるんだね→、真美初めて見たYo!」
貴音「真美、豚骨だから白くなるというわけではないのですよ?」
真美「え、そうなの?」
貴音「ええ。都内にも豚骨醤油などの店が多くありますが、濁りの少ない透き通ったスープを出している店も多いでしょう?」
真美「えっと……真美、そんなにわかんない……」
貴音「その違いというのは火加減なのです」
真美「火?」
貴音「そうですよ、どうぞご覧なさい」
真美「おおっ!? ボコボコ言ってると思ったけど凄い強火じゃんYo!」
貴音「その通り。こうして強火で炊くことによって白く濁ったスープが出来上がるのです」
貴音「そしてそれは豚骨以外のスープでも言えることなのですよ?」
真美「え、じゃあ鳥とかでも白くなるの?」
貴音「はい、見事な白濁スープがとれますよ」
P「鶏白湯(パイタン)がそうだな」
貴音「逆に濁らせたくなければ弱火で長時間煮込むのです。昔ながらの透き通った鶏がらスープなどはそうしてとっているのですね」
貴音「強火で炊くとこくや旨みの強い濃厚なスープがとれます。ただしくせも強くなってしまいますが」
貴音「逆に弱火で煮込むとあっさりとしたスープになります。個性は弱まりますがくせがなく、他の食材とも合わせやすいですね」
真美「ふえ→、なんか難しいんだね」
貴音「そうですね……仕込みも終わることですし、真美にも本日のらあめんを振舞って差し上げましょう」
真美「マジで!? あ、でもこの間みたいなのだと……」
貴音「ご心配なく。今度のものは二十郎ほどのぼりゅうむはありませんよ」
真美「本当? んじゃ食べる!」
貴音「かしこまりました……さて、そろそろ本日の主役が来るころなのですが」
ガチャ ハイサーイ!!
P「……」ガタンッ
エ? ドウシタンダプロデューサー ジブンナニモワルイコトシテナイ… チョッ ナンデモチアゲ… ウギャーッ
P「はい一名様ご案内~」バサッ
響「はっ、この店は!? いぬ美が雪歩暴走させちゃったから自分が責任取らされるのか? やっぱそうなのか!?」
美希「ハニー! 響ばっかり抱っこしてずるいの! ミキも運んでくれていいって思うな!」ズリズリズリ…
P「ついでにもう一名様ついてきちまったけど……まあいいか、ご案内~」
貴音「新装開店、麺や貴音へようこそおいで下さいました」
真美「なんか無理矢理つれてこられたように見えたけど……」
響「貴音ぇ、前のお店だいなしにしちゃって悪かったよ……お願いだから許してほしいぞ……」
貴音「響。何も許すことなどありませんし、そもそも怒ってなどいませんよ」
響「ほ、本当か?」
貴音「もちろん。それどころか、新装開店の最初のお客様は響と決めておりました」
貴音「予期せぬ店休ではありましたが、その分だけあいであを詰める時間をいただけましたので……期待できるものが出来上がったかと」
響「自分のために……うう、嬉しいぞ貴音ぇ!」
真美「そっか、んじゃあのトンコツスープってひびきんのためだったんだね!」
美希「あれ? 響のペットって豚もいたような気がするの……」
響「え? あはは! まさか、貴音がそんなことするはずないさー!」
貴音「……」
P「……」
響「……え? あれ?」
真美「え、もしかして……」
美希「ナンマンダブ、なの……」
響「ぶ、ぶぶぶぶっ……ブタ太!? ブタ太ーっ!?」
ドタドタドタ…
ブタ太「ブイ」
響「よ、よかったぁ……ちゃんといてくれたぞ……」
P「さすがにブタ太で作ってたのを響に食わせたら放送禁止ものだしな」
響「だったらすぐに違うって言ってほしいぞ! 自分、心臓止まるかと思ったさー!」
貴音「ふふ、すみません。響の反応が興味深かったもので、つい」
響「うう……ひどいさー……」
貴音「そもそも、スープをとるために適した豚は成熟したものが望ましいのです」
貴音「ブタ太殿はまだ子豚。スープの材料にするはずがありませんよ」
響「あ、あはは……そうだよな。ブタ太、まだ小さいもんな!」
美希「あれ? でもそれって、大きいブタさんだったら……」
真美「……」
P「さあさっそく作ってもらおうか! 響ラーメン四つ!」
貴音「響らあめん四つ、承りました!」バサッ
響「ちょっと! ブタ太がもし大きかったらどうなってたんだ!? 貴音! プロデューサー!?」
P「はいはい、店主は調理で忙しいので大人しく待っててくれなー」
真美「でもさ→、ブタ太じゃなくてよかったけど、ひびきん豚食べちゃって平気なの?」
響「ん? どういうことだ?」
美希「うん。ミキだったら、もしブタさん飼ってたら食べらんなくなりそうって思うな」
響「家族と食べものは別物さー。自分は別に平気だぞ?」
響「それに農家の人だって、いつか食べちゃう動物にすっごく愛情込めて育ててるんだ。可愛がるのと、それで食べられなくなっちゃうのは違うと思うさー」
真美「ふ→ん……なんかひびきん、凄いね」
響「まあ自分は完璧だからな!」
響「でも、なんていうか……こうやって色んな家族がいるからかな? 食べる時は本当に、ありがとうって思うぞ」
P「そうか……うん、その気持ちを大切にな」
美希「ハニーハニー! ミキもこれから、もっとおにぎりさんありがとうって思うの!」
P「まあ間違っちゃいないが……もう少し前の段階でもありがとうでいいんじゃないか?」
響「あはは……でもさすがに、いざ食べる時はブタ太は別の所に行っててもらうさー」
貴音「お待ちどう様です」ドンッ
P「うおっ、これまた大迫力だな……!」
美希「でっかい骨付きのお肉が乗ってるの!」
真美「……あれ? これってさっきのトンコツスープじゃないよ?」
響「これってもしかして……沖縄そばなのか?」
貴音「ええ。あくまでもソーキそば風のらあめんですが」
真美「ソ→キ?」
P「豚のアバラ肉のことだな。こういうしっかりした骨の部分だとスペアリブとも言うぞ」
響「それに沖縄かまぼこまで乗ってるさー。懐かしいな!」
美希「かまぼこ? なんか茶色っぽいのしか入ってないよ?」
響「沖縄かまぼこは油で揚げて作るんだぞ。薩摩あげとかと似てるかな」
P「よし、それじゃいただきま……」
貴音「お待ちください。実はまだ仕上げが残っていまして」
真美「え? 何その大きい中華ナベ……」
ジュパアッ ジジジッ
美希「う……!? けほっ! こほっ! なんか目にきたのー!?」
響「うわわわっ!? 丼が真っ赤っかだぞ!?」
P「これ、ラー油か? しかしとんでもなく匂いが立つな……!」
貴音「はい、島とうがらしで作った自家製の香味油……つまりラー油ですね」
貴音「これで響らあめんの完成です。さあ、ご賞味あれ」
美希「め、目にも鼻にも染みたの……」クシュン
真美「本当に食べられるかな……」
P「まあその、無理はしなくていいぞ?」
貴音「大丈夫ですよ。さあ、わたくしを信じて」
響「よ、よーし……貴音が自分のために作ってくれたんだからな……いただきますっ!」
ズッ ズズ ズルズル ズズズーッ
響「おっ!? 辛くない……というか、濃厚で甘いくらい……!?」
P「おお、本当か!?」
響「うん、特にソーキが角煮みたいに甘くって……ん、んん?」
真美「……ひびきん?」
響「う……うぎゃーっ!? 辛い! 辛いぞおおっ!?」
P「後から来たのか……」
美希「響、顔も真っ赤になっちゃってるの……」
P「おい貴音、さすがにあれは多すぎたんじゃ……」
響「ひっ……ひいい……」
響「……」
響「おさまった」カチャ
真美「えっ!? ちょっとひびきん、なんでもう箸持ってんの!? あんなに辛そうだったのにまた食べんの!?」
響「いや自分もすっごい辛くてびっくりしたけど、すぐにおさまっちゃって……そしたらまた食べたく」ズズズ
響「うひい、辛い……! でも美味い! おいしいさー!」ズズーッ ズルルッ ハグッ
P「……」ゴクリ
P「どれどれ、俺も……」
真美「えっ……えっと、じゃあ真美も!」
美希「ハニーが食べるなら、ミキだって……!」
美希「かっ……かりゃいのーっ!」
真美「んんっ……でもこれ、本当に美味しいじゃん! 濃いんだけど、なんかあっさりしてる感じ!」
P「豚骨だけじゃない……魚介系か? 本当、ラー油以外は甘みが強くて意外と食いやすいな」
貴音「ええ、沖縄そばももともと豚と鰹のだしで作っているお店が多いんですよ」
貴音「今回はらあめんらしく濃厚な豚骨スープに、たっぷりの鰹だしのスープを直前で合わせてみたのです」
真美「ん……こっちのかまぼこ、これって何? 緑っぽいよ?」
響「フーチバーだぞ! ああー、本当に懐かしい感じがする!」
美希「ふーちばーって何なの?」
P「ヨモギのことだな。普通のとヨモギを練りこんだの、二種類のかまぼこが乗ってるらしい」
貴音「その通り。沖縄そばでは生のよもぎを乗せたフーチバーそばも人気だと聞きます」
貴音「その分くせも強く、かなり好みが分かれると聞きますが……響、どうぞ」コトッ
P「ん、これは?」
響「生のフーチバーに、コーレーグースまで……!? ううう、貴音! 愛してるさー!」
貴音「響……! 愛している、などと……!」
真美「こ→れ→ぐ→す?」
P「ああ、これがそうか……何でも島とうがらしを泡盛に漬け込んだものらしい。沖縄そばの店には付き物らしいが」
貴音「ええ、人を選ぶものですから……なので今回のらあめんではあえて間接的に使ってみたのです」
貴音「とはいえやはり、響には本来のものも味わえるようにと」
響「うおお……沖縄に帰ってきたみたいさー!」
真美「……」クンクン
真美「うええ……真美、これだけは本当に無理っぽい……」
P「ああ、無理せずやめとけ。俺もこれはちょっと苦手だったよ」
P「しかし、辛さも手伝って箸が進むとはいえ凄いボリューム感だな……」
真美「麺もモチモチしててあんまり伸びないからいいけど、もうお腹いっぱいになってきたよ→」
美希「ミキ、もう口の中ピリピリで食べられないの……」
貴音「美希」
美希「貴音……辛いの苦手だとどうしても無理って思うのな…・・・」
貴音「そんな美希には特別に、このようなものを」コトッ
美希「え……?」
美希「これ、おにぎり!? 形はちょっと違うけどおにぎりなの!」
貴音「ええ、スパムおにぎりです。焼いたスパムをご飯に乗せ、のりで巻いたものですね」
美希「あむっ……ジューシーで、辛さも気にならない……!」
美希「ミキ、これだったらラーメンもまだ食べられるの!」
P「とんでもない食欲だな……真美は無理しないでいいぞ?」
真美「……」
P「真美?」
響「自分……自分は幸せものさあっ!」ボイーン
美希「おにぎりにラーメン……この組み合わせは有りだって思うな!」ムチーン
貴音「ふふ……気に入ってもらえたようで何よりです」タプーン
真美「……」ナデリナデリ
P「真美、どうした?」
真美「兄ちゃん……真美、向こう側に行けるように頑張って食べる!」
真美「真美は成長期なんだかんね! うおおおおっ!」ズズズズズ…!!
P「おいおい、本当に無理だけは……」
クッ!!
P「ん?」
響「うはー……自分、もうお腹パンパンさー……」
美希「お腹いっぱいで眠いの……あふぅ」
真美「く……真美だって、真美だって来年の今頃は……むねん」ガクッ
P「何やってるんだか……まあとにかく、新装開店のメニューとしてはインパクト抜群でよかったんじゃないか」
貴音「ええ。ですが復帰したからには、来週に向けてすぐに準備を始めなくてはなりません」
P「えーと、春香・やよい・雪歩、それに響ラーメンがこれで完成か。次は誰だっけ?」
貴音「あなた様、お忘れですか? 次は>>60ですよ」
72
翌週
P「……」
千早「……」
P「なあ、千早? 俺何か気に障ることしたか?」
千早「……何もありません」
P「じゃあ何でそんなに不機嫌なんだ? 今回は千早ラーメンだぞ?」
P「やよいラーメンの時はあんなに夢中になってたじゃないか」
千早「ラーメンについて認識が変わったのは確かですが……何も今週にやらなくても……くっ!」
P「何を気にしてるか知らんが……ほら、腹いっぱい食べて機嫌直せよ」バサッ
貴音「お待ちしておりました、麺や貴音へようこそ」
亜美「兄ちゃん遅い! 亜美もうお腹ペコペコだYo!」
千早「亜美?」
P「おいおい、先に入ってるのは新パターンだな。どうしたんだ?」
亜美「だって先週は真美だけ食べたらしいじゃん! 亜美もラーメン食べたいもん!」
亜美「それに、真美に聞いたよ。お姫ちんにミキミキ、ひびきん……あのむっちむちぼで→の秘密はこの店にある! って……」
亜美「でも今日は千早お姉ちゃんかあ……帰ろっかな→」
千早「どっ……どういう意味よ! くぅっ……!」
P「おいおい千早……何も本当に涙目になるほどショックを受けんでも……」
貴音「案ずることはありませんよ、千早。千早には千早の魅力があるのです」
千早「四条さ……」
貴音「?」タプーン
千早「くっ……! 四条さんに私の気持ちはわからないわ!」
貴音「おや……嫌われてしまったでしょうか……」
P「まあ意地になってるから仕方ない。このまま溝を深めるよりも、早いとこ千早ラーメンを出してやってくれ」
貴音「かしこまりました……では」バサッ
P「しかしなあ亜美、真美もそうだが……正直あいつらみたいに食うのはどうかと思うぞ」
P「アイドルは体型や体調の管理も仕事のうちだからな、変に食べ過ぎて太ったり調子を崩されても……」
亜美「兄ちゃん兄ちゃん」
P「何だ?」
亜美「千早お姉ちゃん、またダメ→ジ受けちゃってるんでない?」
千早「体型の管理……くっ!」
P「千早……あのなあ、そう悪い方悪い方にとるんじゃない。お前はお前で」
千早「どうせ私は四条さんたちとは違います……そんなに食べたら、きっと私の場合ウェストがバストを超えてしまうんだわ……くうっ……!」
P「これは重症だ……」
亜美「噂に聞く千早スパイラルというやつですな→」
貴音「お待たせ致しました……あの、よろしいでしょうか?」
P「ああ、大丈夫だ……空気を温めておけなくてすまんな」
貴音「いえ……では召し上がれ」コト
P「……んん?」
亜美「ええ→!? 何これ、麺だけしかないじゃん!?」
P「汁なしのあえそば……? いや、タレすら入ってないな」
千早「……」ガタン
P「お……おい、千早?」
千早「四条さん……あなたは高みを目指そうともけして人を見下したり、侮辱したりしない人だと思っていました……」
千早「でもこれは! これはひどすぎるでしょう!?」
貴音「というと?」
千早「馬鹿にして……! どうせ私はこのラーメン……いえ、ラーメンですらないメンと同じで足りないものだらけ! 貧相な女……そう言いたいんでしょう!?」
貴音「千早……わたくしは千早を貧相だとも、何かが足りないなどとも思ったことはありませんよ」
千早「嘘! じゃあこれは……!」
貴音「ですから千早。これは、これだけでらあめんとして完成しているのです。足りないものなど何もない」
千早「え……?」
亜美「うっそ→? 麺しかないのに?」
P「まあ確かに、白っぽいのと黒っぽいのの二色で変わってるとは思うが……」
貴音「わたくしを信じて、食してみてはもらえませんか?」
千早「……」
千早「……いただきます」ズッ…
千早「……!?」
P「な……何だこりゃ!?」
亜美「ええーっ!? うん、やっぱ麺だけだよね? 何コレ、すっごい美味しいじゃん!?」
P「ああ。それも、ちゃんとスープと搦めて食べているような味がする……」
千早「四条さん、これは……?」
貴音「千早。わたくしから見た千早という人間は、一言で言うなら求道者なのです」
貴音「何事もただひたすらに打ち込み、洗練し、磨きこむ……その姿は高みを目指すわたくしにとって憧れですらあると言えましょう」
貴音「では、その千早をらあめんで表すならどうするか……それはらあめんの、らあめんたりえる所を突き詰めることだと考えました」
貴音「らあめんとは自由なもの。味も具も形も様々で、温度やスープの有無すらも自在」
貴音「その中で唯一変わらない、らあめんたらしめているもの……それが麺」
貴音「そこで千早らあめんは『麺だけで完成しているらあめん』を目指したのです」
P「なるほど、麺自体に味をつけてたのか……!」
貴音「ええ……白い麺には丸鶏でとったスープを、黒い麺には黒酢をあわせた醤油だれを練り込んであります」
千早「それだけじゃないわ。それだけだと、こんなに香ばしい匂いは出せないはず」
貴音「さすが千早、お目が高いですね……その通り。茹で上がった麺に鶏油を搦めてあるのですよ」
亜美「チーユ? 何それ?」
P「鶏の皮なんかからとった油だな。旨みと香りが良くて、ラーメンだと仕上げの香味油によく使われてる」
亜美「へえ→……でも、本当にこれだけでラーメンっぽくなるんだね」
貴音「さて、いかがでしたでしょうか」
千早「……」
千早「四条さん、ごめんなさい!」
亜美「千早お姉ちゃん!?」
千早「四条さんがそこまで私のことを評価して、考えてくれていたなんて……何も知らずにひがんだ自分が恥ずかしい……!」
千早「食べてみてわかった……本当に、これを私をイメージして作ってくれたのなら!」
千早「誇りに思う! それくらい美味しいラーメンだったわ!」
P「……そうか?」
千早「……えっ」
千早「プロデューサー?」
P「確かに千早ラーメンはよくできてると思うが……本当にこれで完成してると言えるのか?」
亜美「なになに!? ど→ゆ→ことなのさ兄ちゃん!?」
千早「そうです! これだけ美味しいラーメンなのに、いったい何を……」
P「見た目だよ」
貴音「……」
P「確かに味は凄く良かった……二色の麺は珍しいし、興味も引かれると思う」
P「だが、汁なしどころかタレも具もない。そんな麺だけを出されて、それを完成したラーメンだって思えるか?」
千早「それは……」
P「現に俺たちも貴音に「信じて食べてみてくれ」と言われなければ食べなかっただろう」
P「この地味な見た目で『アイドルの千早』をモデルにしたラーメンとして、番組のコーナーを飾れるのか?」
貴音「……」
千早「プロデューサー、そんな言い方って……!」
亜美「そ→だよ! 兄ちゃんだってびっくりしてたじゃん!」
貴音「……ふふっ」
千早「し、四条さん?」
亜美「お姫ちん、どうしちゃったの? どっか具合悪くなっちゃった?」
貴音「ふふふ……あなた様には敵いませんね」
貴音「ご指摘の通り。このままでは千早らあめんはらあめんとしては成立しても、店のメニューとしては成立しないでしょう」
千早「え……ええっ!?」
亜美「あれ? じゃあもしかして」
貴音「ええ、メニューとしてのらあめんには加えるものがあるのです」
貴音「どうぞ」コトッ
亜美「あっ、今度はタレっぽいのがかかってる?」
千早「それに茶色っぽい粉が……何かしら?」
貴音「ふふ、麺によく搦めて召し上がれ」
千早「ええ……では」ズズッ
亜美「わ……!? さっきより香ばしい!」
千早「本当……それに、鶏の味もさっきよりはっきりしている……」
P「おお……これはネギ油に、それに鶏を粉にしてるのか……!?」
貴音「ええ。千早らあめんは麺だけで完成しているため、余計なものを加えては逆効果」
貴音「そこで……たれに見えるのは先ほど麺にあえていた鶏油で細かい青ネギを炒めたもの」
貴音「かかっている粉は鶏そぼろをふりーずどらいし、粉状にしたものなのです」
P「あくまで鶏の味を強めただけってことか……」
千早「プロデューサー、これなら……!」
P「ああ、ネギの色も加わって見た目も格段に良くなった。これならメニューとして通用するだろう」
亜美「自分でこうやって混ぜて食べれる方が楽しいしね→」
千早「完食してしまったわ……しかも二食も」
千早「ラーメン……本当に奥が深いものなのね」
貴音「千早、らあめんの世界はまこと広いものですよ。興味を持っていただけたのなら、今後とも麺や貴音をごひいきに」
千早「う……体型維持は大丈夫かしら……ええ、考えてみるわ」
P「千早の機嫌もすっかり直ったみたいだな。よかったよかった……って亜美、どうした?」
亜美「な→んか納得いかないんだよね」
亜美「千早ラーメンって麺だけで完成なんでしょ? でもそれだけはメニューにできないってことは」
亜美「やっぱり千早お姉ちゃんって地味で物足りないってことになっちゃうんじゃないの?」
千早「!?」
貴音「それは違いますよ、亜美」
貴音「麺だけでも千早らあめんが完成しているのは確かなのです。けれどもさらに美味に、さらに華やかになれる」
貴音「つまり、完成されていても成長の余地があるということですよ」
千早「なるほど……私も足りないとばかり思って見ているのでは駄目ね……!」
千早「私は私で完成している……そして、まだまだ成長できる!」ガタン
千早「四条さんありがとう! 私、もっと頑張れる……こうしてはいられないわ!」バサッ
貴音「またのご来店をお待ちしています」ペコ
亜美「な→んかうまいこと言われただけな気がするんだけど」
P「千早も意外と単純だよな」
貴音「ん……!」ググッ
P「おいおい貴音、一度に持ちすぎだぞ!」
貴音「あなた様……早く食材を運び込んでしまいたかったもので」
P「ラーメン好きなのはいいが、お前は料理人じゃなくてアイドルなんだからな。その辺りには気を遣ってもらわないと困るぞ」
貴音「はい……肝に銘じておきましょう」
P「にしても、今回も大量に仕入れたな……次は誰の番だっけか?」
貴音「>>100ですよ」
真
貴音「……おや?」
P「お……」
真「へへっ、おはようございまーす!」
貴音「開店前に並ばれているとは……麺や貴音も有名になったものですね」
P「というか真、次はお前だって誰に聞いた?」
真「え? 次ってボクだったんですか!? やっりぃ!」
P「お前……知らないのに開店前から並んでたのか!?」
真「いやー、だって春香の時以来じゃないですか! みんなから話聞いてたらもう一度食べたくなっちゃって!」
貴音「ふふ、そこまで賞賛されるとわたくしも意気が高まるというものです」
貴音「真らあめん、期待していただきましょう」
P「……ん?」
P「真、誰か一緒に並んでたのか?」
真「え? いえ……ボクはずっと一人で待ってましたけど……」
P「ふーん……」
P「よーし、それじゃあ一名様ごあんなーい! 今日は開店前から並んでくれたサービスで、貸切にするかあ!」
P「内側から鍵かけちゃうからもう誰も入れないなー! 真だけの特別メニューだもんなー!」
真「すごい待遇ですね……でもプロデューサー、なんでそんな大声で」
「待って! 閉めるの待ってくださぁい!」
P「というわけで、本日は二名様ご案内です」
雪歩「お、お邪魔しますぅ……」
真「どうしたのさ雪歩、そんなに縮こまっちゃって」
雪歩「あの……その……」
貴音「雪歩」
雪歩「ひゃいっ! ごめんなさいごめんなさい! ダメダメでごめんなさい!」
真「雪歩、ちょっと落ち着いて! カウンターの下に潜らないで!」
貴音「雪歩……謝ることなどありませんし、怒ってもいません」
貴音「前の店のことなら、雪歩の犬嫌いは重々承知ですし」
貴音「伝えたはずですよ? 雪歩には芯のある強さがあるのですから……もっと自信を持つようにと」
雪歩「四条さん……はい、ありがとうございます!」
貴音「はっ!」ジャーッ!!
真「うわ、中華鍋とおたまの使い方かっこいいなあ……」
雪歩「うん、本当に中華の料理人みたいだね」
P「ああ、二人とも中華鍋使ってる時にはいなかったか。他の週だと結構使ってるんだが」
P「練習の甲斐あってもう手馴れたもんだな。後姿が様になってるよ」
真「うん……なんていうか、女の子っぽい料理上手とはまた違った感じで憧れるよね!」
雪歩「料理人っていうか、職人さんって感じかな?」
P「貴音もすっかり気に入ったようでなー、本人に言ってやってくれ。相当喜ぶぞ」
真「はい! でもいい匂いがしてきたなー、ゴマの匂いかな? 香ばしくって」
雪歩「ん……あれ? でも何か、鼻にしみるような匂いも……」
ジャーッ ガコッ ガコッ
貴音「お待ちどう様です」ドンッ
P「おおっ! これはド迫力の坦々麺だな!」
真「え、これ坦々麺なんですか? 真っ黒で全然赤っぽくないですよ?」
雪歩「んっ……でも、しみるくらい匂いが……! 辛そうです……!」
貴音「黒ごま坦々麺というものですね。もちろん真らあめんというからには、それで終わるつもりはありませんが。さ、ご賞味あれ」
真「よーし! いっただっきまーす!」ズズズーッ!!
雪歩「ひっ……ぴひゃあーーっ!? からいでふぅ……!」
P「うお、最初から舌にビリビリくる辛さだな、これは……!」
真「でも辛いだけじゃないですよ、これ! ゴマの味が濃くって、スープも美味しくって!」
貴音「ふふ……辛味は黒こしょう、コチュジャン、とうがらしと三方向から攻めてみました。最初も後からも、飽きない辛さが味わえるはずですよ」
雪歩「し……舌が休まりまひぇぇんっ……」
P「ベースは豚骨スープで、黒ゴマもたっぷり使ってるな。でも、まだ他にもこう、ガツンとくるようなものが……」
貴音「ええ。香味油も黒くなるよう、マー油をあわせてありますので」
真「マー油?」
P「焦がしニンニクで作る香味油のことだな。豚骨ラーメンとの相性が抜群なんだ」
真「へえ……! なんていうか、箸が止まらないですね!」
真「でも……やっぱりなあ」
P「ん、どうした? 真」
真「いえ……自分でも納得はいってるんですけど、やっぱりボクをイメージすると男っぽくなるんだなあって」
P「ん……」
真「イメージカラーが黒っていうのもあるんですけどね、完全に男向けガッツリラーメンじゃないですか」
真「悔しいことに、美味しくてしょうがないんですけどね……ああ、可愛いイメージになりたいなあ」
雪歩「……あれ?」
真「ん、どうしたの? 雪歩」
雪歩「えっと……食べ慣れてきたのかな? なんだか食べやすくなってきて」
雪歩「それに……甘くなってきた?」
真「え? そういえば……!」
P「ああ、間違いないな。味が変わってきてる……!」
貴音「ご名答です」
貴音「実はスープを注ぐ前にテンメンジャンをベースにした甘味噌を丼の底に塗って、火であぶっておきまして」
真「食べてるうちにだんだん甘くなってくるってことか!」
雪歩「凄いです! あんなに辛かったのに食べやすくて、それにもっと美味しく……!」
P「ゴマのペーストもさらに仕込んであったな? だから溶け出すとゴマ自体の香りと甘みも増してるんだ」
貴音「ええ。一見ぼーいっしゅながら、中身は繊細で甘い女性……そんな真を表したらあめんですから」
真「え……」
真「あはっ……やだな、貴音、そんなふうに見てくれてたなんて……」
真「何だろ、嬉しくって……ちょっと泣けてきちゃうじゃないか」グス
雪歩「真ちゃん……」
真「ごちそうさま!」ドンッ
貴音「これはまた……綺麗に完食してくれたのですね」
真「へへっ、美味しかったし……貴音の気持ちが嬉しかったからね!」
貴音「そういえば開店当初……春香らあめんもスープも残さず完食してくれていましたね」
真「あはは……美味しくってついね。アイドルらしくないけどさ」
貴音「いえ……らあめんを作る者にとって、綺麗に空になった丼は幾千の言葉よりも心に響くのです」
貴音「真……わたくしのらあめんを食してくれて、ありがとう」
真「や、やだなあ! そんなに深々と頭下げられたら困っちゃうよ!」
真「こっちこそ、美味しくて素敵なラーメンをありがとう……貴音!」
雪歩「……」
P「ん……おい、雪歩? お前、何か目が……」
雪歩「真ちゃんっ!」ガタンッ
真「うわっ!? 何、どうしたのさ雪歩?」
雪歩「真ちゃんが可愛いこともかっこいいことも、私が一番知ってるんです……四条さんよりも、ずっと……!」ズイ
真「ゆ、雪歩……?」
雪歩「だから私、真ちゃんに合う服! たくさん用意してきたんです!」ズズイ バサッ
雪歩「前の放送の時はかっこいいのメインだったから! 真ちゃんのかっこよさを生かした可愛いのもいっぱい!」ズズズイ バササッ
真「ちょ、雪歩!? そんなのどこに今まで……」
P「まさか……あの時隠れてたのは店に入りたかったんじゃなくて、真を狙ってたのか……?」
真「雪歩、ほらそれはまた仕事でさ……」
雪歩「そんなの関係ありません! ほらほら真ちゃん、このブラウスどうですか!?」
真「ちょっと、雪歩やめ……うわっ!? どこ触って、やめ! 脱がすな引っ張るなぁ!?」
雪歩「メイド服とかも意外といけるんじゃないですか!? 私自分で作ったんですぅ!」
真「う、うわああ!? 誰か止めて! 助けてーっ!?」
ドスン バタン ガッチャーン!! パリーン
貴音「……さて、来週の開店は」
P「……諦めろ」
≪おしまい≫
一旦終了です。
ちょっと長くしすぎたか……
これで6人、まだ半分もいってないな。
ありがとうございました。
他はまたいずれ。
このSSまとめへのコメント
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