まゆ「世にも奇妙な恋物語……ですよぉ?」 (87)


まゆ「皆さんこんばんはぁ。番組の進行を務めさせていただきます、佐久間まゆですよぉ」

まゆ「もう11月も過ぎ去ろうとしてますねぇ……早いもので、後ひと月で今年も終わりです」

まゆ「まゆは最近CDの収録や温泉ロケなんかがあってぇ、とぉ~っても忙しかったです。目が回るくらい」

まゆ「来たる12月は『師走』とも言いますし、皆さんも忙しさが頂点に達する頃合いじゃないですかぁ?」

まゆ「会社や学校、試験に納期。色んな締切が畳みかけてきますねぇ」

まゆ「そして疲れた体で家に帰りついた時、ふと思ったりしませんかぁ?『ああ、こんな時、自分に甲斐甲斐しく尽くしてくれるパートナーがいればなぁ』……って」

まゆ「今夜皆さんにお見せするのは、そんなごくありふれた願望を持った一人の青年の世にも奇妙な恋物語……うふ」

まゆ「それでは、ご覧ください。『理想の花嫁』」


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『理想の花嫁』ーー(五十嵐響子の場合)







ちひろ「プロデューサーさん!歌鈴ちゃんが衣装一式無くしてしまったそうです!このままじゃ番組に出る事が出来ないって連絡が!」

P「控室に予備用意してありますからそれ使うように言ってください!」

ちひろ「プロデューサーさん!みくちゃんが回転寿司のCMオファーを断固拒否してます!このままじゃ先方のメンツが丸つぶれです!」

P「ハンバーグ巻きを口の中に突っ込んで無理矢理撮らせてください!」

ちひろ「プロデューサーさん!奈々さんのラジオ聞いた人達から次々に年齢を問いただす電話がっ!どうしましょう!?」

P「奈々は永遠の十七歳!それ以上でも以下でもない!これで全部さばいちゃってOKです!」

幸子「プロデューサーさん!ボクってかわいいですよね!」

P「あーはいはい可愛い可愛い!可愛いからさっさとお仕事行ってきなさい!」

ちひろ「プロデューサーさん!杏ちゃんがまだぐずってます!」

P「また杏か!ああもう、くそっ!」

響子「……」


ーー女子寮・杏の部屋

杏「やーだー!仕事したくないー!」

P「いい加減に、しろっ!今日はライブだろうがっ!」

杏「嫌って言ったら嫌なのー!」

P「このっ……引きずってでも連れて行くからな!」

杏「うぼぁー!やめろぉー!離せー!」

P「しまいにゃきらりちゃん呼ぶぞこの野郎……きらりん☆ルームと仕事どっちが辛い?ん?」

杏「うっ……ぐぬぬ……でもやっぱり嫌ー!今日は寝るのー!」

P「だーまらっしゃい!ほら行って来いっ!すみません、こいつ送迎お願いします!」


ーー事務所

P「ふぅ……」

ちひろ「お疲れのところ申し訳ないんですけど、かな子ちゃんが」

P「またダイエットに失敗して、落ち込んで部屋から出たがらない」

ちひろ「愛海ちゃんも」

P「電車で痴漢紛いの行為をして警察に補導されてる、厳重注意でお迎え待ち。これで三度目」

ちひろ「……はい。一言一句違わずその通りです」


P「あー、今回はまたお説教長くなるだろうなぁ……三度目だもんなぁ。土下座しないとなぁ」

ちひろ「でもなるべく早く帰って来て貰わないと、他のお仕事が……アイドル達のアクシデントも起こるでしょうし」

P「分かってます。鋭意努力しますよ…………………………はぁ」

P(仕事が多すぎる……入社して三か月の僕一人でこの人数のアイドルを管理しろってのは無茶だろやっぱり)

P(前任はスカウトするだけして早々と辞めちゃったってちひろさん言ってたけど……この激務を僕一人に押しつけて逃げ出すなんて)

P「くそっ……」

ちひろ「プロデューサーさん、こずえちゃんが!」

P「今度はなんですかっ!?」

響子「……」




~~夜・プロデューサーの家

ガチャッ

P「ただいまー。って、誰が居るわけでもなんだけど……」

P(あ……飯買ってくるの忘れた)

P「うわぁ……何やってんだよ僕」

P(今から買いに行くか?いや、今日はもうそんな体力も残ってないし)

P「もう寝ちゃうかなぁ…………」


P(あ、積みゲー溜まってる……洗濯物も……そういやここ最近仕事以外ほとんど何もしてないな)

P(ボロ雑巾になるまで働いて、家に帰ったら寝るだけ……ホント何やってんだろ僕……)

P「あーあー、思う存分ゲームしたいなー!旨いもん食いたいなー!杏じゃないけど働きたくないなー!仕事辞めたいなー!」

P「僕の代わりに稼いでくれて、美味しい飯作ってくれて、そんな甲斐甲斐しい嫁さんとかどこかに落ちてないかなぁ……そしたら仕事辞めるのになぁ……」

P「ってイカンイカン、お前はプロデューサーだろ、皆をトップアイドルにするんだろ、しっかりしろ僕っ!」

P「っっっ!………………………………はぁ」

P(もう寝よう。そうしよう)


ピンポーン

P(誰だよこんな時間に……こちとら疲れてるんだよっ!)

P「はいー?」

『こんばんは、プロデューサーさんっ。私です』

P「……へ?」

『五十嵐です、五十嵐響子ですよっ。変装してるから分かりにくいのかな?伊達メガネ外せば……これで信じてくれますか?』


P「き、響子ちゃん!?ごめんすぐ開けるから!」

P(急いで着替えないとこの格好じゃマズイ!)

P(どうやってここの住所を!?いや、以前教えた事があったかな……)

P(ていうかこの時間帯にわざわざ自宅まで来るって……またなんかデカいトラブルが!?)

『あの、もしかして立て込んでますか?』

P「いや大丈夫!全然大丈夫だけどごめんちょっと待ってて!」


ガチャッ

P「おまたせ!」

響子「こんな遅くにすみません。ちょっと気になった事があって」

P「ああ、そうなのかい?まあ、とりあえず上がっててよ」

響子「はい。お邪魔しますねっ」

P(なんだトラブルじゃないのか。『ちょっと気になった』くらいなら明日事務所で話してもらった方が嬉しいんだけどなー……)




P「それで、気になる事って?」

響子「あの、プロデューサーさん。ちゃんとご飯食べてますか?」

P「ん?僕の話?」

響子「はい。最近なんだか目の下のクマが目立ってますし、時々立ったままフラフラしてるから……」

P「あー、まぁ、ちゃんと食べて……はないかな。ここんとこずっと修羅場だったし、飯抜きかコンビニ弁当のどっちかで」

響子「そうなんですか……じゃあもしかして、今夜も」

P「買うの忘れちゃってね。面倒だからそのまま寝ちゃおうかなって」

響子「それは駄目ですよっ!ちゃんと三食食べないと、プロデューサーさんが倒れたりしたら私っ」

P「ご、ごめん……?」


響子「おにぎり作ってきてよかった……。あの、これどうぞ!小さいからあんまりお腹の足しにはならないかもしれませんけど、何も食べないよりはマシだと思いますから!」

P(おお、これは思わぬラッキーが!響子ちゃんお手製のおにぎりが食べられるとは僕の運もまだ尽きてないかも!)

響子「お台所も貸してくださいね、簡単な物作っちゃいますから」

P「いや、それは流石に悪いよ!」

響子「いえいえ、私料理大好きですからっ」

P(うっ……なんてさわやかな笑み)

響子「プロデューサーさんはどっしりと、おにぎりでも食べて待ってて下さい♪」

P「そ、それじゃあご厚意に甘えようかな……ありがとう、響子ちゃん」




響子「うわ、凄い量の栄養ドリンク。えーと……あ、キャベツがある。これと、これで」

P(響子ちゃんのエプロン姿は様になってるなぁ。わざわざ持参してるあたり響子ちゃんらしいっていうか、絶対最初から料理する気だったよね?それにしても……)

P「んぐっ……このおにぎり超美味しい!ヤバイ!金取れる!」

響子「ふふっ、ありがとうございます」

P「何コレ!?どんな輝く世界の魔法使ったの!?おかかうまっ!」

響子「特別な事はしてません。愛情ですよ、愛情っ」

P「はぁー……ホンマ響子ちゃんの愛情は五臓六腑に沁み渡るでぇ……」

響子「ふふーん、当然です!なんたって世界一カワイイボクが作ったおにぎりですからねっ♪」


P「……」

響子「……」

P「……」

響子「……」

P「……」

響子「あ、あの……?」


P「なに今の。幸子?幸子なの?もしかして響子ちゃん今幸子のモノマネしたの?」

P「にわかに信じられないくらい可愛かったけど幸子のモノマネしてみたんだね?鼻息ちょっと『むふー』ってドヤってたのも幸子リスペクトだよね?」

響子「いえ、確かにそうですけど、そんな時間差でリアクションされると……その、恥ずかしいというかっ」

P「ふふーん!ふふーん!いよっ、世界一!世界一!可愛いよ!響子ちゃん!真っ赤な顔がいじらしいよ!」

響子「ちょっ、あっ、もう、今のはナシ!ナシですから!忘れてくださいっ」

P「あははは!あークッソ可愛かった録音しておけばよかった僕の馬鹿!」


響子「もう、プロデューサーさんったら……でも、ちょっと元気になってくれたみたいでよかったです」

P(あ……僕の事、心配してくれてたのか……)

P「響子ちゃん……本当にありがとう」

響子「……」

響子「あの、プロデューサーさん。お願いがあるんです」

P「お、おう!?今の僕に出来る事ならなんだってやるよ!」


響子「その……響子、って呼んでくれませんか」

P「えええ!?そ、それはちょっと……」

響子「でもプロデューサーさん、幸子ちゃんや杏さんは呼び捨てにしてます」

P「う……でもその二人はなんというか手のかかる妹みたいに思ってるというか!」

響子「菜々さんも呼び捨てですよね?……それなのに、私だけ「ちゃん」付けで……私、嫌われてるのかなって」

P(いやそうじゃなくて!響子ちゃんから「ちゃん」を外しちゃったらそれと一緒に僕の大事なタガも外れちゃうような気がしてるからなんだよ!)


響子「……ダメ、ですか?」

P「うっ」

P(そんな潤んだ瞳で見つめられると……断れないなぁ)

P「……響子っ」

響子「…………!!」

P「こ、これでいいかな?」

響子「はいっ。私、がぜんやる気出てきました!プロデューサーさんのために、全力で美味しいものを作ります!」




響子「プロデューサーさん、出来ましたよっ。あんまり重たいものを作っても翌日に響くと思って……簡単なスープにしてみました」

P「おお……頂きます!」

響子「はい、どうぞ召し上がってください」

P「………………………………はぁぁぁぁ~」

響子「どうです?お味の方は」

P「……最っ高。もうホントなんか胸が熱くなる。生きててよかった……!」

響子「もう、大げさですよっ」


P「いや、こんな暖かい手作りスープなんて、今のプロダクションに入ってから食べた記憶がないんだよ。本当に……美味しい……」

響子「プ、プロデューサーさん!?涙が、ハンカチありますからこれでっ」

P「あ、ああ、ごめん。なんか感極まっちゃって」

響子「お仕事、そんなに大変なんですか?」

P「……」

P「……うん。正直、かなりキツイ」


響子「もしよかったら私、プロデューサーさんのお仕事のお手伝いを」

P「それは駄目だ」

響子「え……」

P「君はアイドルだ。学校だってある。僕一人の都合で君の生活を束縛するわけにはいかない」

響子「でもっ!」

P「響子、君の気持ちは本当に嬉しいよ。ありがとう。……今日はもう遅いから、寮に帰った方が良い。送っていくよ」

響子「プロデューサーさん……」

P「スープ、美味しかったよ」

響子「……」


~~数日後

ちひろ「プロデューサーさんっ!みくちゃんが脱走しました!」

P「どうせいつもの猫カフェです!住所分かってますから捕獲班動員お願いします!」

ちひろ「かな子ちゃんがヤケ食いをっ!」

P「それは……体張って止めないと大変な事になるか!」

ちひろ「待ってください!杏ちゃんがまたレッスン場に居ません!わざわざ米国から呼んだベテラントレーナーがお怒りです!」

P「……あーーーーーーーーーーっ、もう!」


響子「私が……私が杏さん連れてきます!」

ちひろ「響子ちゃん!?」

P「響子、それは」

響子「私だって杏さんと同じ事務所のアイドルです。仲間を励ますのも、アイドル活動の一環ですっ」

P「……」

ちひろ「プロデューサーさん、こう言ってくれてますし」

P「……分かった。お願いするよ、響子」

響子「はいっ!私、頑張りますっ」


~~夜・プロデューサーの家

ガチャッ

P「ただいまー……ってやっぱり誰も居ないんだけど」

P(今日は早く帰ってこれた、要所要所で助けてくれた響子のおかげだな……)

P(結局なし崩しに色々頼ってしまったけど、彼女はアイドルなんだ。雑用にこき使っていいはずがない。明日はきっちり断ろう……)

P「どれ、久々に料理でも……」


ピンポーン

P「はーい?」

ガチャッ

響子「プロデューサーさん、今日も一日お疲れ様でしたっ!」

P「響子!?どうしたんだい?」

響子「いえ、プロデューサーさんがまたご飯抜いたりしないか心配で……」

P「ああ、その事なら大丈夫だよ。響子のおかげで今日は早く帰りついたからね。ちゃんと自炊したもの食べるよ」

響子「そう、ですか……」


P「……」

響子「……」

P(なんだこの沈黙!?なんだよその寂しそうな表情はっ!まるで僕が何か悪い事したみたいじゃないか!)

響子「……」

P「あー、ごほん。でもなんか急に面倒臭くなってきたなー、誰か代わりに作ってくれる心優しい人いないかなー?」

響子「……!はい!私が作ります!作らせて下さいっ!」

P「……よろしくお願いするよ」

P(ああ……場の空気に呑まれた結果とはいえ、また響子に仕事を押しつけてしまった……)




響子「ご飯出来ましたよー」

P(うわぁ……なんだこのご飯、ツヤが違う……ホントに僕がいつも使ってるのと同じ米で出来たものなのか……?)

P「ありがとう。……じゃあ、頂きます」

響子「はい。どうぞ召し上がれっ♪」

P「………………」

響子「どうですか?味付けとか、好みに合わなかったりしませんか?一応、味見はしたんですけど……」

P「美味しい……お世辞じゃなく、僕が今まで食べてきたご飯の中で一番美味しいよ!」


響子「そ、そうですか……?えへへ……嬉しいですっ」

P(照れる響子……おかずにすればご飯3合はいける。間違いない)

P「あー、こんなご飯毎日食べられたらなぁ……」

響子「……!!」

響子「あの、でしたら私、毎日作りに来ます!」

P「えええ!?いやそれは」

響子「私、プロデューサーさんにもっと手料理いっぱい食べてもらって、いっぱい美味しいって言ってもらいたいんです!」

P「いやでも」


響子「プロデューサーさんがどうしても嫌なら……諦めます、けど……」

P「響子、君にはアイドルとしての仕事や学校生活が」

響子「ここと女子寮は学校にも近いですし、両立させます。絶対大丈夫です!」

P「うーん……でもやっぱり」

響子「プロデューサーさんっ!!!」

P「!?」

P(な、涙っ!?)

響子「プロデューサーさんは、私の事、嫌いなんですか……?」

P「いやそういう問題じゃなくて」

響子「お願いします、私を信じてください!私、プロデューサーさんに尽くしたいんです!」

P「響子……」









P(結局僕は彼女の勢いに押されて提案を受け入れてしまった)

P(それからというもの、彼女は毎日僕の家にやって来て晩御飯を作ってくれるようになった。早く帰れた日は手間をかけて美味しいものを作りたいからという彼女に根負けして、合鍵も渡した)

P(それだけじゃない。仕事場でも、他のアイドルのアクシデントの芽を事前に摘み取るように動いてくれた。おかげで、僕の仕事は以前と比べて随分楽になった)

P(やがてひと月が過ぎた頃……)

P(あんなに響子に自分の面倒事を押しつけるのを拒んでいたはずの僕は、今日も彼女の手料理を楽しみに家路に就いているのだった……)


ーープロデューサーの家

P「ただいまー!」

響子「お帰りなさーい。ご飯、出来てますよっ」

P「ありがとう。今日は何?」

響子「今日はー……プロデューサーさんが大好きな、ハンバーグですっ。腕によりをかけて作りましたから、是非是非食べてみて下さいねっ♪」

P「おお、やった!ハンバーグだ!」

響子「ふふ……喜んでもらえて何よりです」

P「いただきまーす!」






P「ごちそうさまでした!」

響子「お粗末様でしたっ。食器洗っておきますから、流しに置いておいて下さいね」

P「いつもごめんなー響子ー」

響子「もう、それは言わない約束でしょ?…………なんちゃって♪」

P「相変わらず新妻役がハマってるねー、響子マジ天使ー。幸子より天使ー」

響子「くすくす……そんなに褒めても何も出ませんよー?」

P(毎晩響子が美味しいご飯食べさせてくれて……仕事や家事の手伝いもしてくれて……)

P「ホント、僕は幸せ者だ……」


響子「じー……」

P「な、なんだい響子?僕の耳に何かついてる?」

響子「プロデューサーさん、最近耳掃除してます?」

P「?……あー、そういえばしてないかも」

響子「駄目ですよー?耳の中はいつも清潔にしておかないと」

P「うん、それはその通りだね……反省します」


響子「……じゃあ、私の太ももに頭を乗せて横になって下さい」

P「え?……まさか」

響子「はい。今、お耳掃除しちゃいましょう♪」

P「さ、流石にそれは……!」

響子「大丈夫ですよ、ただのお耳掃除です。ほら、そのまま体を横に倒して……」

P(響子が優しく僕の頭に触れると、僕の身体は糸の切れた操り人形のように易々と彼女の元へ倒れ込んだ……)

響子「ではプロデューサーさんが痛くないように、優しくお耳掃除しちゃいますねっ」

P(柔らかい太ももの感覚、上から聞こえてくる響子の優しい声……真綿で優しく首を絞められるようなこの上ない恍惚感の中、僕の理性はどこか遠くへ連れ去られていった……)



『プロデューサーさん、痛くないですか?……くすぐったい?ふふ、じゃあもーっと優しくこしゅこしゅしちゃいますよ?』


『うん、これで綺麗になりましたね。……じゃあ仕上げに、ふーっ、てしますね?』


『じゃあ顔を私のお腹の方に向けて……そうです。反対側のお耳も、きれいきれいしましょうね?』


『ん……これでこっち側のお耳も綺麗になりましたね……』


『じゃあ仕上げです。ふーっ……』


P「……」

響子「プロデューサーさん、終わりましたよ?」

P「う、あぁ……うん。ありがとう……」

響子「ふふ、眠くなっちゃいました?いいですよ、このまま寝ちゃって下さい」

P「いや、ちゃんと……布団敷かないと……」

響子「それは私がやります。プロデューサーさんはお疲れなんですから、そんな事する必要ないんですよ?」


P「必要、ない……?」

響子「そうです。嫌な事や、面倒な事はぜーんぶ私に任せて。プロデューサーさんは何も考えずに、ぐっすり眠っていいんです」

P「きょう、こ……」

P「Zzz……」

響子「……」

響子「大好きですよ、プロデューサーさん……」


~~翌朝

P(その日、僕はアイドルプロデューサーとしてあるまじき夢を見てしまった。悪夢と言ってもいい)

P(内容は……僕が響子に劣情を催して、性交してしまっているというものだった。しかも響子は嫌がっておらず、むしろ……)

P「……っ!」

響子「プロデューサーさん、おはようございますっ」

P(き、響子っ!?ここどこっ、僕の家っ!?……布団、敷いてくれてたのか)

響子「朝ご飯の準備出来てますから、一緒に食べましょうね」


P「今何時、って朝!?学校は!?」

響子「今日は土曜日ですよ?」

P「え……あ……ホントだ」

響子「ふふ、寝ぼけちゃってるんですか?」

P「その恰好……響子、今日どこか行くの?」

響子「はいっ。ちょっと事務所へ皆のスケジュールの確認をしに行こうと思ってます」

P「な、なら僕も行くよ!ちょっと待ってて、すぐ着替える」

響子「プロデューサーさん。まずは朝ご飯です。しっかり30回噛んで食べなきゃ駄目なんですよ?」

P「うぅ……」

響子「私も一緒に食べますし、お仕事も出来る限りお手伝いしますから。……ね?」

P「わ、わかったよ……」


ーー事務所

杏「プロデューサー、次の予定なんだっけー?」

P「ん?えーと……」

響子「5日後にレッスンがありますけど、それまではフリーですよ」

P「あ……」

杏「そうなの?あーよかった。こーいう適度な間隔でレッスン入れてくれると休みが多くとれて、たまの本気も出しがいがあるってもんだよね。響子の提案だっけ?サンキュー」

響子「ふふ、ちゃんと然るべきところで頑張ってくれればいいですからっ」

杏「さっすが響子、プロデューサーと違って話が分かるぅー。んじゃ、おやすみぃー」


みく「にゃんにゃんっ。響子チャン、次の予定はー?」

響子「料理番組のゲスト枠ですよっ」

みく「料理……それってまさか」

響子「お魚料理は、みくちゃんの分だけこっそり別のお料理に変えてもらうようにしてありますから大丈夫です。でも、猫だけはしっかり被って下さいね?……なんて」

みく「にゃにゃ!ありがたいにゃ!任せておくにゃー!……それにしても響子チャン、Pチャンより頼りになるにゃー。凄いにゃ!」

P「……」


P(最近響子の仕事ぶりは目覚ましい。ありとあらゆる事を僕以上に上手にこなしている)

P(スケジュール管理、アイドル達のやる気の引き出し方……完璧だ。あの杏でさえ彼女の元ではしっかりと働くのだから、本当に才能があるのだろう)

P(事務所の皆もそれを感じているのか、何かを相談する時は僕ではなく響子へ聞きに行っている)

P(つまり、今の僕はほとんどプロデューサーとしての責務を果たせていないという事だ)

ちひろ「響子ちゃん、来週のドリームライブなんだけど」

響子「ドリームユニットの選出でしたらこの前皆で話し合って仮決定してます。……このメンバーなんですけど、どうでしょうか?」

ちひろ「なるほど、魅力的なメンバーですね。これなら社長のOKもとれるでしょうし、後はプロデューサーさんの認印があれば」


P「……」

P(ちひろさんまで響子に…………僕は)





P(……僕は、この事務所に必要な人間なのだろうか?)


ちひろ「……プロデューサーさん?」

響子「プロデューサーさん、呼ばれてますよっ」

P「……ぅいいあっはい!何でしょうか!?」

ちひろ「ですから、このドリームライブのメンバーについて」

P「え、ええ!いいと思います!最高です!」

ちひろ「……紙、逆さまですよ」

P「うわっ!?す、すみません」


ちひろ「はぁ……もう、しっかりして下さいよ?」

響子「ちひろさん、プロデューサーさんずっと激務でお疲れですから」

ちひろ「激務ですか……ここ最近はずっと響子ちゃんに丸投げしてばかりのようにも見えますけどね」

P「……っ!」

P(ちひろさんの言うとおりだ。僕は、僕は……ただプロデューサーという地位にいるだけで、何の役にも立っていない……!)

P(僕は……何のためにここにいるんだ……?)

P「……う、ぐっ…………くそっ……畜生……っ」


~~夜・プロデューサーの家

ガチャッ

P「……ただいま」

響子「おかえりなさい、プロデューサーさんっ。今日は一口ステーキですよっ♪」

P「響子」

響子「きゃっ……き、急に抱きつかれるのは、あの、決して嫌というわけじゃないんですけどっ!」

P「僕は、最低だ……!」

響子「……プロデューサー、さん?泣いて……?」


P「君に仕事を押しつけておいて、君の仕事ぶりに嫉妬してる!」

P「こんなに、こんなにも君に助けてもらっているのにっ!」

P「プロデューサーという仕事を僕以上に完璧にこなす君の事が、それなのに僕のために毎日美味しいご飯を作って笑顔で出迎えてくれる君の事が!」

P「憎い!憎い!憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎いっ!憎くて憎くて仕方ないんだっ!」

P「お願いだよ響子……僕を罵ってくれ……僕を見捨ててくれ……こんな最低な男が、君の傍にいちゃいけないんだ……!」

響子「……」


響子「……見捨てたりなんか、しませんよ」

P「響、子……」

響子「プロデューサーさんの気持ち、打ち明けてくれて……ありがとうございます。私のせいで、辛かったですよね。ごめんなさい」

P「違う、違うんだ響子っ!僕が、僕が駄目なせいで……!」

響子「駄目なんかじゃありません。プロデューサーさんは私の、最高のパートナーですよっ」

P「う、あ……響子ぉ……響子ぉ……」

響子「大丈夫。あなたがどんなに変わっても、私は絶対に、ずっと傍に居ますから……」

P「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」





響子「大丈夫、大丈夫……私は傍に居ますから、何も怖がらなくていいんですよ……」

P「……」

響子「……そろそろ、ご飯、食べられますか?」

P「う、うん……」

響子「じゃあ……ちょっと待ってて下さいね。お皿持ってきますから」

P「え?でもソファーの上じゃ……」

響子「よっ……お待たせしました。はい、あーん♪」


P「え……」

響子「泣き疲れちゃったでしょう?……今日くらい、いっぱい甘えてくださいっ」

P「で、でも……」

響子「プロデューサーさん。……ね?」

P「うっ……あ、あーん……」

響子「はい、召し上がれ♪よーく噛んでから、ごっくんしましょうね?」

P「うん……噛むよ……」






P「あー……」

響子「はい、どうぞ」

P「美味しい……」

響子「思ったより時間かかっちゃいましたけど、全部食べられましたね。作った甲斐がありましたっ」


P「響子ぉ……」

響子「何ですか?」

P「ありがとう……」

響子「ふふ、いいんですよ。プロデューサーさんの幸せが私の幸せですからっ」

P「もう、11時か……布団敷いて寝ないと……」

響子「お布団なら敷いてありますよ」

P「本当に、何から何まで……すまない」

響子「プロデューサーさんのために尽くせるだけで、私幸せですからっ」

響子「……それじゃあ、今日はもうお暇しますね?」

P「うん……また明日」

響子「はいっ。それではおやすみなさい、プロデューサーさんっ」


~~深夜二時

『さっすが響子、プロデューサーと違って話が分かるぅー』

『響子チャン、Pチャンより頼りになるにゃー。凄いにゃ!』

『最近はずっと響子ちゃんに丸投げしてばかりのようにも見えますけどね」』

P「……ッ!」

P(眠れない……心臓が締め付けられるような、はっきりとした痛みを胸に感じる)

P(ふと身体に目をやると、冷や汗をどっと噴き出した僕の手足が無意識に『いつもそこにあるはずの安心』を求めてもがいている事に気づいた)

P(枕元のスマートフォンに腕が伸びる。駄目だ。これだけは駄目だ。裏切りだ。信頼関係の破壊だ。絶対に取り返しがつかなくなる)

P(僕はプロデューサーだ、僕はプロデューサーだ、僕は、僕は、僕は…………)


『大丈夫』

P(勝手に動こうとする腕を必死に押さえつけていると、ふと頭の中に声が聞こえた。暖かい、安心する声)

P(この声は駄目だ、この声に従っては駄目だ、この声は……)




P(………………なんでだめなんだ?)


『大丈夫』

P(そう。大丈夫だ。こんな時間に起きてる訳がない。僕は今から0%の賭けに挑むだけなんだ。履歴について聞かれたら寝ぼけたとでも言っておけばいい)

P(一度だけ……一度だけかけて、僕自身に諦めをつけさせて寝る。それだけだ……)

ピッ、ピッ、ピッ……

P(暗がりの中タッチパネルを操作し、電話帳から一つの電話番号を選択する)

P(液晶に薄く灯る緑色の通話ボタンを押すと同時に、僕はスマートフォンを耳に強く押し当てた)


ピリリリリリリッ……

P(出るな、出るなよ……)

ピリリリリリリッ……

P(お願いだ、出るな……)

ピリリリリリリッ……


P(よし……出ない。大丈夫だ。大丈夫だった……)

ピリリリリリリッ……

P(これで諦めがつくんだ……これで……)

ピリリリリリリッ……

ピリリリリリリッ……

ピリリリリリリッ……




P(……なのに、僕はなんで電話を切ろうとしないんだろう?)

ピッ

『もしもし、響子です。プロデューサーさん、何かありましたか?』


~~深夜三時・プロデューサーの家

響子「そうですか……どこからか悪口が聞こえてきて、眠れなかったんですね」

P「そうなんだ……一人だと、不安で……」

響子「怖かったんですね……大丈夫、私はここに居ますよ。あなたと一緒のお布団の中に、ちゃんといますから。怖くないですよ……」

P「響子……」

響子「ん……もっといっぱい、ぎゅーってしていいですよ?私もぎゅーってしちゃいますから」


P「ありがとう……響子……」

響子「これからは、あなたが怖い思いをしたりしないように……ずっと、ずーっと私が傍に居ますから」

響子「だからもう嫌な事も、苦しい事も、何も考えなくていいんですよ……」

P「うん……」

響子「大好き……私、あなたの事、愛してます……」

P「ぼくも、きょうこのこと、あいしてるよ……」







響子「あなたっ。はい、あーん」

響子「美味しいですか?よかった……」

響子「それじゃあ今日は何します?ん、分かりました。じゃあ今日はずっと一緒に、お昼寝しちゃいましょう♪」

響子「事務所?……そんな事気にしなくてもいいんですよ。私に任せておいて下さい」

響子「あなたはいつまでもいつまでも、あなたがやりたい事だけをしていていいんです。面倒な事なんて何にもする必要ないんですよ……」

響子「あ、おしっこですか?それじゃあお布団汚れちゃう前に、尿瓶の中に全部びゅーってしちゃいましょうねー?」

響子「ふふっ……ずっとずっと、大好きですよ。ア・ナ・タ♪」







まゆ「……」

まゆ「自分のためだけに尽くし、全てを与えてくれる『理想の花嫁』……いかがでしたかぁ?」

まゆ「青年の希望は全て叶いました。幸せそうで何よりですねぇ」

まゆ「もっとも……全てを与えられるという事は、全てを奪われる事と同じなのかもしれませんけどねぇ」

まゆ「まゆとしては、素敵なお話だったと思いますよぉ?」

まゆ「それでは本日の世にも奇妙な恋物語はここで閉幕となります」

まゆ「番組へのご意見・ご感想はいつでもお待ちしてますので、どしどし送って下さいねぇ。プレゼントもあるみたいですよぉ」

まゆ「それでは、機会があればまたいつか。お相手は佐久間まゆでお送りしましたぁ」

まゆ「うふふ……」

終わりです

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