京子「歳納京子です。今日からこの学校にお世話になります」(225)

京子「みなさんはじめまして。よろしくお願いします」

結衣「京子……?」

結衣「(そんな、まさか)」

結衣「(本当に、京子!?)」

 教壇に立つその姿を見て私は、

結衣「京子!」

京子「えっ!?」

 思わず立ち上がり、その名前を叫んでいた。

 でも。

京子「ええと……?」

 全ての発端は、中学の2年も終わろうという時だった。

 いつも通り、ごらく部の部室に集まった私たちに、

 本当に、何の前触れもなく、

 こう言ったのだった。

京子「そうそう。あのね、私転校するんだ」

京子「3年生からは、別の学校行くから」

京子「私がいなくなっても、ちゃんとごらく部を守るように!」

 しばらくの間、息をすることも忘れていたのを、かすかに覚えている。

結衣「な、何の冗談だよ」

 声が震えてる。

 冗談だって、またくだらない嘘を、

 そう信じたくて軽く返したつもりだったのに。

京子「これが冗談じゃないんだよねぇー」

結衣「そんな……!」

 あかりも、ちなつちゃんも、

 完全に言葉を失っていた。

京子「まあまあ、これでもう一生会えないってわけじゃな……」

 京子の言葉もそこで途切れた。

 京子の両目から溢れ出る涙が、冗談で言ってるわけじゃないってことだけは伝えてくれた。

 それからの日々は、本当にあっという間に過ぎた。

 生徒会のみんなも一緒に遊んで、

 笑って、

 みんな無理してるってわかっていたけど、

 楽しかった。

 引越し先の地名は確かにとても遠くで、気軽に会いに来る、とはいかない距離だったけれど。

結衣「なあ、京子」

京子「んー? なぁに?」

結衣「引っ越してもまた、会えるよな」

京子「とーぜんじゃん!」

 ちょっと遠いけど、また遊びにくるよ

 春休みに入ってすぐ、

 京子の引越しまであと3日に迫った日の夜、

 同じ布団の中で、京子はそういって笑ってくれた。

結衣「……どういうことだよ、これ」

 お別れパーティーなんてやらなくていいよ! もう会えないみたいじゃん!

 ……なんて

 京子が言っていた理由がわかったのは、その翌日の夕方だった。

 朝、とりあえず家に帰る、なんて言って、

 私の部屋を後にした京子から、届いた1通のメール。

結衣「なんで……なんでこんなことするんだよ、京子」

結衣「私、ちゃんと見送って」

結衣「笑顔で、また会おうって」

結衣「そう思ってたのに……!」

 既に無人となった京子の家の前で、

 私は……

 すぐにあかりとちなつちゃんにも連絡して、

 駆けつけた2人は私の部屋で、ずっと泣いていた。

 綾乃たちにもそれを伝え、

 悔しくて、悲しくて、苦しくて、寂しくて、でも、

 私が泣くわけにはいかなかった。

 電話で、メールで、問い詰めても、

 京子は「ごめん」を繰り返すばかりだった。

 電話の向こうから届く震えた声を聞いていると、

 もうそれ以上何も言えなかった。

 春休みの間に、借りていた部屋を引き払った。

 京子との思い出が詰まった部屋だったけれど、

 その分、そこに1人でいるのが耐えられなかった。

 曖昧だった1人暮らしをしていた理由も、なんとなくわかる。

 京子の前で強がりたいだけだったのかな。

 気を張る相手がいなくなったら、私なんて、こんなにダメなんだって思い知らされた。

結衣「綾乃も千歳も○○高校受かったんだ」

綾乃「ええ、まあ、やっと一息ついたわ」

結衣「やっぱりすごいよね、私には絶対無理だなぁ」

 綾乃と千歳の2人は揃って、かなりレベルの高い高校への進学を決めた。

 2人とも元々成績はすごくよかったし、受験勉強を頑張っていたから当然かもしれない。

 私はと言えば、

 ギリギリまで迷って……迷ったふりをして、ちょっと遠い女子高に進むことを決めた。

 あかりたちにも聞いてみたら、4人揃って一番近くの高校を受ける予定らしい。

結衣「私は一人ぼっち、か」

 去年の今頃思い描いていた未来には、少なくとも、

 となりに大切な大切な、幼馴染が、いたのに。

結衣「最近、京子とも連絡とってないな」

結衣「なんか、連絡するの……怖い」

 最初のうちこそ、電話したりメールしたりと連絡を取っていたけれど。

 少しずつ京子からの返事のペースが落ちてきて、

 今はもう、完全に途切れてしまっていた。

 高校に入って最初の一年間は、ただ慌しく過ぎていった。

 部活に誘われたりもしたけれど断って、ただなんとなく勉強をこなしていた。

 今の学校を選んで一番後悔したことといえば……

 通学の時、あの、1人暮らしをしていた部屋の前を通ること。

 新しい住人の気配があの部屋にあるのを見て、

 もうあの頃には戻れないんだ、って

 毎日、泣きそうになりながら、早足で通り抜けた。

 1年経っても、慣れることは出来なかった。



 そして今日から2年生が始まるという日、彼女は私の前に現れたのだった。

京子「ええと……どこかでお会いしましたでしょうか」

結衣「え、え? なんで」

 どういう状況かわからなかった。

 金色の長い髪、青い瞳。リボンのカチューシャこそないけれど。

 それは間違いなく京子なのに、

 名前も『歳納京子』って言っているのに、

 京子じゃ、ない……?

女子A「歳納さんってどこから来たのー?」

京子「西の方から……といっても、昔から転校が多かったから方言は出ないですけど」

女子B「ふーん。授業の進み違うかもだから、わからなかったら聞きなよ」

京子「ええ、ありがとうございます」

 転入してきた京子は、早速周りを取り囲まれていた。

 その声も本当に、ずっと一緒に居た京子そっくりで、

 別人だなんて信じられなかった。

結衣「……」

結衣「あの、京子。 ……さん」

京子「あ、はい、何ですか?」

結衣「私、結衣。船見結衣」

結衣「知り合いに、そっくりで、名前まで同じで」

結衣「だから間違えちゃった。ごめんね」

結衣「京子、だろ、あれ」

 その日の夜、私は布団の中で、

結衣「京子じゃなきゃ誰だって言うんだよ」

 ずっと、泣いていた。

結衣「あの顔で、あの声で。なんで」

結衣「そうだ、電話」

結衣「電話で問い詰めれば早いじゃないか」

 久しぶりに、本当に久しぶりに、携帯のメモリから京子の名前を選ぶ。

結衣「京子……」

『おかけになった番号は、現在使われて……』

結衣「そんな……」

結衣「京子さん、アイスって好き?」

京子「ええ、好きですよ。特に……チョコミントが好きですね」

結衣「ラムレーズン、とかは?」

京子「あ、ごめんなさい、あれはちょっと……苦手なんです」



結衣「京子さんってあまりファーストフードとか縁なさそうだよね」

京子「え、そう見えますか? そうでもないですよ」

結衣「そっか、ピクルスとかも平気?」

京子「ええ、特別好きという訳ではないですけど」



 最初の一ヶ月くらいは、ちょっと距離をおきながら、

 『京子さん』についていろいろと探ってみた。

 京子じゃないなんて、信じられるわけがなくて。

結衣「そういえば、あいつも頭打って豹変したことがあったな」

結衣「ちょうど、京子さんみたいにおしとやかな感じだったよ」

京子「……そんなことがあったんですか、面白いですね」

京子「結衣さんのお話、いろいろあって、本当に楽しそうです」

 夏も近付く頃、私は京子さんといる時間が長くなっていた。

 最初はあまり自分のことを話さなかった京子さんも、少しずつ、話をしてくれるようになった。

 温かい風に乗って、ふわりと感じるのは、微かな香水の匂いと……

京子「それで、私っていじめられやすいタイプみたいで」

京子「その度に、例えば今回も……引っ越して転校してるんですよ」

京子「でもここでは、結衣さんが守ってくれてるから安心できます」

結衣「……そっか」

 確かにそうだった。

 この妙に澄ました態度というか、やたらと丁寧な口調というか、

 クラスの中でも、敵視するグループが出来始めていた。

 私が傍にいて、壁になっていた。

結衣「いじめられやすいって言えば、京子……うん、私の幼馴染だった方の京子もね?」

 私も、京子さんにいろいろな話をした。

 京子、あかり、ちなつちゃんと遊んだこと。

 綾乃のこと、千歳のこと、古谷さんや大室さんのこと。

 でも、「ごらく部」という単語は絶対に出さなかった。

 夏が過ぎて、秋が来た。

 休み時間は、ずっと京子さんと一緒に居るようになっていた。

 帰る時も……学校の門を出るところまで、本当に短い距離だけど、一緒だった。

京子「私の家ですか? ええと……学校を出て西にずっと行って、○○町ってところです」

結衣「やっぱり私の家とは逆方向なんだね。もしかして1人暮らし?」

京子「ええ、そうなんですけど」

結衣「今度、行ってもいい?」

京子「え、私の部屋にですか? だ、ダメです……汚くて、恥ずかしいですから」

結衣「あはは、気にしないけどね」

結衣「……ね、京子さん」

京子「なんですか?」

結衣「私と一緒に居て、楽しい?」

京子「……ええ、とても」

結衣「そっか、よかった」

 私と京子さんの間を、冷たい風が吹き抜けていく。冬も近い。

京子「結衣さん」

結衣「ん、なに?」

京子「24日。空いてますか?」

 季節は完全に冬に移り変わり、

 ずっと私から話し掛けていた、そんな関係にも変化が起きていた。

 最近は、京子さんの方から私に話しかけてくることが、多い。

結衣「クリスマスイブ? うん、空いてるけど」

京子「よかった。じゃあ、その、私と一緒に……」

結衣「……うん。一緒に遊ぼうか」

京子「ありがとうございます、楽しみにしてます!」

 そうか。

 もう2学期も終わりなんだな。

 私たち、どうなるんだろう。

 このままあと1年とちょっと一緒に居て、一緒に卒業、するのかな。

 23日の深夜。

 ずっと部屋においてあったけれど、ずっと伏せていた写真立てを起こす。

 ちょっと照れた感じの表情の私と、

 隣で、まさに満開笑顔の京子の写真。

結衣「京子、明日はデートだよ」

結衣「クリスマスデートなんて、そんなイベントお前大好きそうだよな」

結衣「楽しめるだけ、楽しむつもりだから」

結衣「だから京子……!」

 溢れ出す涙が、どうしても止められなかった。

 ギリギリと、胸が痛む。

結衣「……っく、う」

 大声で泣き出したかった。

 なぜかわからなかったけど、

 泣いて、暴れて、近くのものを手当たり次第に壊してしまいたい、

 そんな衝動に駆られて、それを押さえ込んで、



結衣「んう……?」

 24日の朝、気付いたら目覚ましの音に起こされていた。

結衣「ごめん、ちょっと待たせちゃったかな」

京子「いえ、大丈夫です」

結衣「そっか。じゃ、まずどうしようか……」

 どちらかというと、私が京子さんにリードされる形で、

 服を見て回ったり、簡単な食事をしたり、

 本当に2人でただ、遊びに来ただけ……そんな一日だった。 

結衣「こんな風に遊びに来るの、本当に久しぶり」

京子「そうなんですか? じゃあ、いろいろ楽しみたいですね」

 そう言った京子さんの笑顔が、痛かった。

 この街、この風景の中に、

 たくさんありすぎる京子との思い出が溢れて……

あかり「なんか久しぶりだね、結衣ちゃん」

結衣「うん……」

あかり「どうしたの?」

 翌日、私はあかりを呼び出した。

 場所は、京子と、3人でよく遊んだ公園。

結衣「あのさ、あかり」

あかり「うん?」

結衣「もし、京子がこの町に帰ってきたら、どう?」

あかり「えっ……」

あかり「京子ちゃん、帰ってくるの!?」

結衣「あ、いや、そういうわけじゃなくて」

あかり「そっかぁ……残念」

結衣「ごめん」

あかり「ううん、でも」

あかり「会いたいなぁ……会いたいよねぇ」

あかり「またみんなで遊びたいなぁ」

結衣「あかり……私は……っ」

あかり「わわっ」

 無意識に、本当に無意識で……

 私は、あかりに抱きつき、泣いていた。

あかり「結衣ちゃん……」

結衣「う、うぅ」

あかり「大丈夫だよ」

あかり「結衣ちゃんが、信じてれば」

あかり「京子ちゃんのこと信じていれば、またきっと会えるよ」

結衣「あかり……でも、でも……!」

 あかりはいつから、こんなに強くなったんだろう。

 ……違う。

 私はいつから、こんなに弱くなったんだろう。

 それとも。元から、こんなだったのかもしれない。

 あと1年以上、この状態が続いたりしたら、私がきっと、壊れてしまう……

あかり「結衣ちゃん」

 あかりは、こんな、どうしようもない私をそっと抱きしめて、

あかり「だから、がんばってね、結衣ちゃん」

 そう言って、頭をなでてくれた。

 冬休みが明けた。

 3学期……あと1月、2月、3月をすごせば、京子さんと出会ってから、1年になる。

結衣「お正月には、家に帰ったの?」

京子「いいえ、1人でゆっくりしたかったので」

結衣「そっか」

 京子さんと話すとキリキリと胸が痛む。

 それでも、離れることはできなかった。

京子「結衣さんと会えない日が続いて、ちょっと寂しかったです」

結衣「はは……」

 3学期は、とにかく体感ですごく早く過ぎていくと思う。

 気がつけばいつの間にか、期末テストも終わり、春休みを待つだけとなっていた。

 結果は、そこそこ無難な点数に落ち着いた。

 京子さんは私より結構いい点数を取っていて……

 あの顔で、授業を居眠りもせずに真面目に受けているのは、1年経っても見慣れなかったけれど。

京子「屋上は、まだちょっと涼しいですね」

結衣「そうだな、風もあるし……」

 薄曇りの空の下、

 私たちは屋上に来ていた。

京子「私、この1年間すごく楽しかったです」

京子「結衣さんに会えてよかった」

京子「本当に、ありがとうございます」

結衣「そんな大げさなものじゃないよ……きっと」

 少し湿った、涼しい風の中、

 長い髪をなびかせた京子さんは、私の目をじっと見据えていた。

京子「いつまでも隠していても仕方がないから、今日、言いますね」

京子「私、また引っ越すんです」

結衣「……っ」

 心臓が、おかしな脈を打ち始めた。逆流を始めたかのように。

結衣「そんな……京子さん」

京子「みんなには、内緒ですよ」

京子「それからもう一つ」

京子「私、結衣さんのことが好きです」

結衣「それは……」

京子「もちろん友達として、という意味ではなくて」

京子「大好きです」

京子「引っ越すまでに、もうほとんど時間はありませんけど」

京子「結衣さん、私と。お付き合いしていただけませんか?」

 寂しそうな笑顔で、そう告げる京子さん。

 私は。

結衣「京子さん」

結衣「ありがとう」

 答えは、決まっていた。

 考える必要も無かった。

 本当に自然に……私は返事をした。

結衣「でも、ごめんね。私、気付いたんだ」

結衣「私が好きなのは……」

結衣「大切な幼馴染で、ずっと一緒に居て」

結衣「弱くて泣き虫だったくせに、明るくて、楽しくて」

結衣「そうやって時間を共にしてきた京子なんだ」

結衣「今の京子さんじゃない」

結衣「だから、ごめん」

 その返事に、京子さんは、

京子「……わかりました」

京子「それだけ聞けたなら……満足です」

 それだけ言い残し、屋上を出て行った。

 私は1人残された屋上で、いつまでも……泣いていた。

あかり「あ、結衣ちゃんお待たせ!」

結衣「ううん」

 日曜日、私はあかりに呼び出されて、喫茶店に居た。

 あかりから呼び出すなんて珍しいと思ったけれど……

あかり「結衣ちゃん、元気出たかなって。やっぱり心配だったし」

結衣「ご、ごめん心配かけて」

あかり「えへへ」

 本当は、また泣きたかった。

 あかりの胸を借りて、涙が枯れるまで泣きたかった。

結衣「ありがとう。優しいな、あかりは」

あかり「そんなことないよぉ。折角だから、今日はゆっくり結衣ちゃんとお話したいな」

結衣「うん……」

 でも、もう情けないところは見せられない。

 残された3学期はあっという間に過ぎ去り、終業式を迎えた。

 私と京子さんに残された時間もあと少し。

京子「結衣さん」

結衣「な、何……」

京子「引越しの日程、教えておきますね」

京子「ちょっとだけ手伝ってくれたら……嬉しいです」

結衣「え……」

京子「それから……前日の夜は、一緒の部屋で過ごしたいです」

結衣「……うん、わかった」

 時間は特に決めませんから、そう言って京子さんは笑った。

 私1人だけが、ぎこちない感じだった。

結衣「引越し、引越し……か」

結衣「また、私を置いて、どこか遠くに行っちゃうのか?」

結衣「今度はどこに行くんだよ。ずっと、ずっと遠くなのかな」

結衣「……なんで」

結衣「なんでだよ……!」

 具体的な話を聞いて、引越し、それが現実だということをつきつけられた。 

 この枕は、どれだけ私の涙を吸ってきただろう。

結衣「嫌だ……嫌だよ……」

 泣き虫な私なんて私らしくない、そう自分に言い聞かせても、もう止めることはできなかった。

結衣「えっと……前教えてもらった住所だと……うん、あれか」

 引越しの日の前日。

 私はちょっと迷いながら、そのアパートを何とか発見した。

 見るからに古くて、京子さんには似つかわしくなかったけれど。

結衣「2階だったな、えーと」

 部屋番号を確認した後、携帯を見て時間を確認。

 まだ昼前というにも早いような時間だった。

 早すぎるかもしれないけど、でも、いいんだ。もうあまり時間はないんだから。

 たくさんお話して、一緒にご飯食べて、一緒に寝て。明日は笑顔で見送ろう。

結衣「京子さーん?」

 呼び鈴を鳴らして、ドア越しに声をかける。

 ……反応はない。

 まだ寝てるのかな、さすがに昼過ぎくらいにした方がよかったかな……

 と、その時。ものすごく嫌な予感が、頭の中を貫いた。

結衣「……まさか、あいつ」

結衣「なに、やってんだよ」

結衣「なにやってんだよあいつは」

結衣「なにやってんだよ、私は……!」

 嫌な予感は、見事に的中した。

 管理人室に言って確認すると、

管理人「ああ、あの金髪の子ねぇ」

管理人「今朝早く、ああ、まだ早朝だよ、お世話になりました、って挨拶してね」

管理人「荷物なんかもトラックに積み込んでね……」

 また、あの時と同じだった。

 日程をごまかして、嘘ついてまで、

 1人で、行ってしまった。

 きっと、遠く。ずっと遠くへ……

結衣「あの時と同じじゃないか……」

結衣「早く気付けばよかったんだ」

結衣「京子……」

結衣「あれが京子じゃなきゃ誰だってんだよ」

結衣「こんなに、私の心を引っ掻き回しておいて」

結衣「勝手に……」

結衣「京子ぉ……!」

 +            。。
   。     。 +   ヽヽ
゜ 。・ 。 +゜  。・゚ (;゚´дフ。

            ノ( /
              / >

結衣「……ただいま」

 あれから、あちこち走り、探し回った。

 最寄の駅、学校、クリスマスデートで一緒に歩いた道……

 でももう、どこにも、その姿を見つけることはできなかった。

 諦めて……いや、諦められるはずも無かったけれど。

 ふらふらになりながら家に帰ったときにはもう、夕方も過ぎた時間だった。

結衣母「あらおかえり。どうしたの、最近元気ないみたいだけど」

結衣「ん……」

結衣母「だからね、今日はご馳走作ったの。しっかり食べて元気出しなさい」

 とてもじゃないけれど、そんな気分になれなかった。

 部屋に閉じこもって泣き明かしたかった。

結衣母「ああ、それとね」

結衣母「お部屋に、お友達からのプレゼント? があるわよ」

結衣「……え」

結衣母「大事なお友達からだと思うわよ?」

結衣「それって……!」

 もしかして。

 もしかして、京子から何かが。

 でも。

 そんな、最後の贈り物みたいなモノ、私は欲しくないのに。

 私が欲しいのは……!



 お母さんがまだ何か言っていたみたいだけど、ほとんど聞こえなかった。

 とにかく自分の部屋に急いで、ドアを思い切り開け放った。

 そこには。



京子「よ、結衣ー」

結衣「きょう、」

京子「うん?」

結衣「こ?」

京子「うん、京子ちゃんだよ?」

結衣「うぁ……」

京子「ちょ、ちょっと結衣!?」

 視界が狭い、暗い、はっきりしない。

 一体何が何なのか……

京子「ちょっ、結衣、なんか変な汗でてるけど!」

 世界が、意識が、

 遠くに……

  ( ゚д゚)  京子・・・!!
  _| ⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

結衣「ん……っ」

京子「お、おぉ。よかった目覚ました」

結衣「あ、あれ」

京子「意識飛んでたよ、10秒くらい」

結衣「そうか……、って京子!」

京子「う、うん」

結衣「なんで、なんでここに」

京子「え、だからさ、言ったじゃん」

京子「引越しの前日は一緒の部屋で過ごそうね♪ って」

結衣「な、な、な」

京子「どの部屋とは言ってなかったし」

 また飛びそうになった意識をなんとか掴んで、

結衣「京子っ!」

京子「うわ、ちょ、結衣、そんなにキツく抱きしめられたら苦し……」

 ただ、目の前の京子を抱きしめていた。

京子「と、とにかく結衣」

京子「ちょっ、力、抑えて、苦し……」

結衣「だ、だって」

結衣「明日にはお前、また遠くに」

結衣「うあぁ……京子ぉ……」

京子「あ、いや、だから、うぐぐ」

京子「別に遠くに行ったりしないからとりあえず、落ち着いて!」

結衣「……へ?」

 体中から力が、ズルズルと抜けていった。

結衣「とりあえず、全部教えてもらおうか」

京子「お、怒らない?」

結衣「怒らない……と思う」

京子「う、うん」

結衣「まずお前は誰だ」

京子「歳納京子ちゃんです」

結衣「どの?」

京子「結衣の幼馴染で、リボンのカチューシャがトレードマークだった京子ちゃんです」

結衣「……去年同じクラスに転入してきた京子さんは?」

京子「あれも私です、ハイ」

結衣「……」

京子「うぐ、ちょっ無言で首に手かけないでぇ!」

結衣「それで? 引っ越すって話は?」

京子「えっと、うん」

京子「引っ越すは引っ越すんだけど」

京子「ほら、あそこ……結衣が前1人暮らししてたところ」

結衣「……はぁ!?」

京子「部屋は違うんだけど、うん」

京子「あそこに引っ越すことになりましたー……ははは」

結衣「……」

京子「首! 首!」

結衣「だから、つまり」

京子「う、うん」

結衣「もう、どこにも行かないんだな?」

京子「うん」

結衣「ずっと、一緒に……」

京子「うん、一緒に居るよ」

結衣「京子……京子!」

 いろいろ聞きたいことはあったけれど、

 今はただ、京子にすがりつくようにして、泣くしか出来なかった。

 すぐにお母さんが呼びに来て、

 京子も一緒に、いつもより豪華な夕食を食べた。

 京子とお話しながら、その間も涙が止まらなかった。

 京子も、お母さんもお父さんも、何も言わずにいてくれたのが嬉しかった。

京子「結衣ー、折角だし一緒にお風呂入ろうぜー」

結衣「え」

京子「いーじゃん。いろいろ言いたいこともあるんだ」

結衣「う、うん」

 昔の私なら絶対に断っていたお誘いだったけれど。

 京子の話も、ゆっくり聞きたかった。

京子「半分は、その可能性もあったんだ」

 一緒にお風呂に入り、体を洗って。一緒にお湯に浸かっているとき、京子がふいにそう切り出した。

京子「もっと遠くに引っ越すことになる可能性」

京子「もう、本当に会えないかもしれない、かもって」

京子「だからその前に1年だけでも結衣と一緒に居たい、そういって1人でこっちに戻ってきてたんだ」

 京子の言葉が、鎖のように心臓を締め上げていく。

京子「結衣と離れ離れになってから、気付いたんだ」

京子「自分がどれだけ結衣が好きなのかってこと」

京子「気付いちゃったらもう、どうしようもなくなって」

京子「でもほら、女の子同士じゃん」

京子「普通じゃないじゃん……」

京子「だからね、怖かった」

京子「結衣とメールなんかしてたら、電話なんてしてたら、つい言っちゃいそうで」

結衣「京子……」

京子「こっちに戻ってきてからも、1年でさよならするつもりだった。最初はね」

京子「だからまぁ、その……別人、ってことにしようと思ったけど」

京子「そしたら結衣も、不思議な体験だったな、って思い出で終わるかと思って……はは」

京子「でもやっぱり、離れたくない。そう思っちゃって」

京子「だからね、1年が終わる直前で、試してみたんだ。賭け、みたいなものだったけど」

結衣「賭け……?」

京子「うん。『京子さん』のままね。結衣に告白したんだ」

木間市の土地が高騰してる

京子「もしそれで結衣がOKしたら、本当に……最後の数日を京子さんのままで恋人として過ごして」

京子「……さよなら、するつもりだった」

結衣「……」

京子「でも結衣は、この私のことを好きだって言ってくれたね」

京子「覚えてるよ、結衣の返事。『今の』京子さんじゃない、ってさ」

京子「嬉しかった……」

京子「嬉しかったよ、結衣ぃ……うぅ……ぐすっ……」

結衣「ちょ、今更……今更泣くなよ」

京子「結衣だって……結衣だってずっと泣いてるくせに」

結衣「うるせ……」

京子「ぐすっ……うぅ、あー……泣いた泣いた」

京子「これ以上はのぼせちゃうね、上がろうか」

結衣「そう、だな」

京子「じゃあ最後にお願い」

結衣「うん?」

京子「私、引っ越すんだけどね」

京子「……一緒に暮らさない?」

結衣「え? な、な、何だよいきなり」

京子「考えたんだよ、いろいろ」

京子「女の子同士だし……周りの目は厳しいと思う」

京子「いつか、引き裂かれる運命にあるのかもしれない」

京子「だから、結衣がもし、1年一緒に居ただけの新しい京子さんに流れるようだったら」

京子「無理だな、って……」

京子「ごめんね、結衣を試すみたいなことして」

結衣「いや……いいよ」

 京子の気持ちもよくわかった。

 それは、不安になるに決まってる。

 でも、私の返事は決まっていた。

結衣「一緒に暮らそう、京子」

結衣母「あ、ちょっと結衣。こっち来なさい」

結衣「え? うん」

 お風呂上り、京子に先に部屋に行ってもらい、ジュースでもないかと冷蔵庫を漁りにいくと、お母さんに捕まった。

結衣母「お話聞いたの? 京子ちゃんのところにいくのかしら」

結衣「……うん。そうしようと思う」

結衣母「そう……」

結衣母「京子ちゃんね、この間の日曜日、家に来たのよ」

結衣「え……」

結衣母「私たちの前で、ずっと頭下げてね」

結衣母「『結衣と一緒に暮らしたいんです』って」

結衣母「『普通じゃないのもわかってます、結局は悲しい結果になるかもしれないですけど』」

結衣母「『2人で幸せに過ごしますから……』って」

結衣「京子……」

結衣「2人で幸せに、か……」

結衣「随分と自信があったんだな、京子」

結衣「私がこの話をOKするってことも」

 部屋のドアを開ける。

 そこには間違いなく、愛しい想い人の姿があった。

結衣「京子」

京子「お、結衣ー……って、今日はよく抱きついてくるなー」

結衣「うん……」

結衣「京子……」



 幸せだよ……

京子「あのさ、結衣。聞きたいんだけど」

結衣「……うん?」

 2人で潜り込んだ、1つの布団の中。

 京子が唐突に、そう話しかけてきた。

京子「気付いてたよね、ってか、わかってたよね」

京子「京子さんが私だって」

京子「だから正直さ、3学期の最後のアレはどこまで意味あるのかなー……とも思ってはいたんだ……」

京子「いつから?」

結衣「それは……正直、かなり早い段階でだよ」

京子「えーそうなの? やり過ぎない程度に食べ物の好みとかもごまかしてたし」

京子「昔のことの設定もいろいろと決めておいたし」

京子「口調ももちろん変えてたし、声色もちょっと変えてたんだけどなー」

結衣「夏が始まるくらいには、なんとなくな……」

京子「早っ。そんなに?」

結衣「うん、まぁ」

京子「え、え、決め手は何だったの?」

結衣「どうでも、いいだろ」

京子「えー? 教えてよぉ。後学のために」

結衣「もうそんなこと役立てる必要ないだろ」

京子「だってー」

結衣「はぁ」

京子「もしかして、そんなに変なこと?」

結衣「いや、違っ」

京子「えー、じゃあ、教えてくれてもいいじゃん」

結衣「だから、それはその」

結衣「匂い……だよ」

京子「……へ?」

結衣「夏、さ。体育の後とか放課後とか」

結衣「香水もつけてたみたいだけど、それ以上にさ」

結衣「京子の匂いがしてさ……ほら」

結衣「前に一緒に寝た時の朝の京子の匂いとか」

結衣「体育の後、疲れたーってくっついてきた時の匂いとか」

結衣「それと全く同じだったから……」

結衣「って何か言えよ!」

京子「結衣って……体臭マニア?」

結衣「そういう反応されるのわかってたから言いたくなかったんだよ……!」

 大体、それに。

 私が、京子のことを。わからないわけ、ないだろうが。

京子「えへへ」

結衣「ん」

 京子が抱きついてきて。私からも抱きしめ返して。

 あたたかい、眠りに落ちるまで。

 翌日。

 京子と一緒に、あのマンションまでの道を歩く。

 春の気配が強まってきた日差し以上に、どちらからともなく絡ませた腕が温かかった。

京子「とうちゃーく」

結衣「鍵は?」

京子「多分開いてる」

結衣「え、なんで?」

 京子がドアノブに手をかけると、確かに簡単にドアが開いた。

 ということは、もう、中に誰かいるってことだけど……

あかり「あ、来た来た。待ってたよぉ」

ちなつ「……まったく」

結衣「……え? あかり? ちなつちゃん?」

京子「タネあかしするとね、あかりは最初から知ってたんだ」

結衣「え?」

京子「だからさ、私がこっちに戻ってくる前から」

結衣「え?」

京子「誰がどの学校に行ったとか、そういう情報をもらってたんだ」

結衣「えぇ、そんな!」

あかり「えへへ、ごめんねぇ」

結衣「い、いや」

 まさかあかりにまでやられるとは。

 あぁ……

結衣「じゃあこの間私を呼び出したのも作戦だったのか」

あかり「うん、実はそうなんだ……」

結衣「じゃあ、ちなつちゃんも?」

あかり「あ、ううん、ちなつちゃんはね」

あかり「ほら、ちなつちゃん」

ちなつ「いや、その、うぅ」

ちなつ「う、うえぇ……先輩……京子せんぱぁい……」

京子「わ、わ、ちなつちゃん……!」

ちなつ「バカ! 京子先輩のバカ! 嘘ついて1人で行っちゃうなんて!」

ちなつ「それで私たちに気を使ったつもりですか!? バカバカバカ!」

ちなつ「う、うぅ、ぐすっ……京子先輩なんて死んじゃえぇ……!」

京子「ちょ、ちなつちゃん怖っ」

 何か、かなり感じは違ってるけど。

 またこうやってごらく部の4人が集まれたことは、とても、とても嬉しかった。

 運び込まれていた荷物は一通り開け終わった。

 元々、意外なほど荷物は少なめだったこともあり、

 あかりとちなつちゃんの協力もおかげでもあり、

 予想よりずっと早く片付いてしまった。

 私からも京子からも、折角だから一緒に遊ぼうか、と言ったけれど。

あかり「ううん、それはまた今度でいいよぉ。またねー」

 と、あかりがちなつちゃんを引きずるように連れて帰ってしまった。

結衣「しかしまぁ、あかりに根回ししてたとは」

京子「へへ」

京子「でもまぁ一番の誤算は、結衣と同じクラスになっちゃったことだよ」

結衣「まあ、な」

京子「違うクラスでそれなりの距離を取れることを想定してたのにぃ」

結衣「もういいだろ、その話は」

京子「うん、まーねぇ」

結衣「で? どうする?」

京子「ん? 何が?」

結衣「3年生の間も『京子さん』演じるつもりか?」

京子「あ゛」

結衣「考えてなかったのかよ」

京子「う、うん、そうだね」

京子「まあ、ほら、あれだよあれ」

京子「高3デビューしちゃう?」

結衣「訳わからん」

結衣「でも、そっか。これから京子と同棲か」

京子「おぉ、結衣がそんな表現を使うとは」

結衣「いいだろ別に」

 これからは京子との共同生活。

 私の荷物も、少しずつでも運んでこないとな。

 そしたら、やっぱり私が頑張って、しっかりしないと。

京子「せいやー」 ズビシ

結衣「痛!? な、なにすんだ!」

京子「結衣ー、また『私がしっかりしないと』とか考えてたでしょ」

結衣「え」

京子「表情でわかるよ」

結衣「う、それは、ほら」

京子「結衣1人が無理しなくてもいいじゃん」

京子「昔は、ずっと結衣が私を守っててくれたけどさ」

京子「今更強がっても遅いよん、結衣の泣き顔もたっぷり堪能した後だし」

結衣「いやっ、それは」

京子「これからは2人、一緒なんだよ?」

結衣「京子……」

京子「私たちってさ、ずっと一緒に居たけど。なんかこう、背中合わせだった気がするんだよね」

京子「1回、離れてさ。やっと今、向き合って……仕切りなおせた気がする」

結衣「……な、なにちょっといいカンジに言ってるんだよ」

京子「もう、顔そむけないでよ」

京子「もっと見せて。結衣の泣き顔」

結衣「……ううっ」

 そして始まった京子との生活は、とても幸せだった。

 学校のみんなは、豹変した京子に戸惑っていたみたいだったけれど。

 私と二人だけの世界を作り始めてたから……まあ、いいのかもしれない。



 ……一緒に暮らし始めてからすぐ、ちなつちゃんからメールも来た。

 言いたいことをいろいろと押さえつけたのがわかる文面に少し胸が痛んだけれど……

結衣「京子」

京子「ん? なーにー?」

結衣「……ううん」

 この選択を後悔なんて、無責任なことはできない。

結衣「あ、あのさ、京子。そういえばまだ、私たちさ」

京子「どしたの?」

結衣「その、まだしてない、な、って」

京子「……あー」

京子「そうだねーたしかにねー」

結衣「……しみじみ言うな」

京子「えーと、健やかなるときも、病めるときも……なんだっけ? 」

結衣「いいよ別に。……言うまでもない」

京子「うん」

 京子が、そっと目を閉じる。

 私の視界も、少しずつ狭くなっていった。

 そう。

 これからは2人で支えあって歩いていくんだから。

本編 完。

ありがとうございましたー

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

おまけ書いてるよー
ってもうID変わる時間じゃないですかー

本人ってことにしておいて!

京子「結衣ー! やったぜー!」

結衣「え? なんだよいきなり」

 京子が部屋に戻るなりそうはしゃぎ始めたのは、大学2年目の冬だった。

 もともと変なテンションなやつだけど、今日は特におかしい。

京子「いやー……ははは」

結衣「だからなんだよ」

京子「連載を! いただきましたー!」

結衣「……え?」

 揃って大学合格を決めた、その日。

京子「私は漫画家を目指すぜ!」

 ……なんて京子が言い出したときは、さすがに、素で突っ込みを入れてしまった。

 なんでも、高校の頃からガリガリと描いていたらしいんだけども……

京子「まあ、その。結衣のこと忘れられるかと思って……」

 なんて言われたら、それ以上は何も言えなかった私。

 賞に応募したり持込みをしたり、確かに本気ではありそうだった。

結衣「……ん、そっか。よかったな」

京子「なんだよーもっと喜べよー」

結衣「い、いきなりすぎて驚くほうが先だろ!」

京子「ふむ、まぁいいだろう」

 確かに絵は上手かったけど。

 まさかなぁ……

京子「ま、大学もあるけど。なんとかなるっしょ」

結衣「いいかげんな……」

京子「この2年間。ギッチリ詰め込んできりきり舞った甲斐があるというもの」

結衣「はぁ」

 京子が、漫画家、かぁ。

 どうなるんだろう。

 売れるといいな。

 ……大丈夫、京子なら。

 でも私は……

京子「ふふん、ペンネームも決まってるしサインもカンペキ!」

結衣「いろいろなものを前提にしすぎだ、お前」

京子「皮算用してから、それに見合った狸を捕まえればいいのです」

結衣「お前なぁ……っていうかあのペンネームは……どうなんだ? 他の作家の名前もじっただけだろ」

京子「へへ、大丈夫大丈夫!」

 私は……

結衣「今日、発売なんだよな」

 京子の連載に先駆けて、持込した読みきり作品が掲載される……

 そんな話を聞いた私は、その掲載誌を買ってみようかとも思ったけれど。

結衣「ま、京子が持ってくるだろう」

 これからどうなるんだろう。

 人気、出るのかな。有名になったり、したら。

 そしたら、その後は……

結衣「京子……」

 やっぱり、遠くに行っちゃうのか?

 近くに居るはずなのに、遠い存在になっちゃうのか?

 京子……

京子「買ってきたぜ!」

結衣「う、うん」

 思った通り、京子はその雑誌を抱えてきた。

京子「表紙にも載ってたりするんだぜ」

結衣「……そっか」

京子「もー、結衣ノリわるーい」

京子「まあ、これからの連載作品は変身ヒロインたちが繰り広げる熱くも悲しい物語……」

京子「絶対にテンション上がるよ!」

結衣「ああ……京子らしい話だな」

 ぐいっ、と押し付けられた雑誌の表紙。

 確かにそこには京子の絵、が?

結衣「ってなんだよこれえええぇ!?」

 思わず叫んでしまった。

 いや、それは仕方ない……と思う。

 そこに書かれていたのは……

結衣「なんだよ! このペンネーム『船見京子』って!」

京子「ふへへ」

結衣「ふへへ」

結衣「じゃない!」

 ……いろいろな理由で顔が真っ赤になっているのが想像できて嫌だった。

京子「結衣の考えてることなんでお見通しなのです」

結衣「はぁ……?」

京子「これは絶対に離れない、遠くに行ったりしない」

京子「そのための約束! とおまじない!」

結衣「京子、お前なぁ……」

京子「ほらほら泣かない泣かないー」

結衣「な、泣かねーよ!」

 いろいろと大変な相手だけど、

京子「これで、見る度にわかるでしょ?」

京子「私は結衣のもの、だってことがさ!」

 私は、最高のパートナーに巡り合えたと、あらためて思った。

 だから。

結衣「……ありがとう、京子」

本当に完


長々とありがとうございましたー

というかスレ立てSS初体験で緊張しすぎて胃腸の調子がヤバすぎ死ねる

また何かある程度書けたら投下するかもなのです
おつかれでした

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